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ことだまのもり

 ( 書き捨て!小説 )
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ふわり@mogumogu ★UNb4Cv5YoDU

思いつくことがおおすぎて、それをちゃんとした詩やおはなしに育てあげられることができないこともおおすぎて。でもあたまのなかに置いておいたままにするのもちょっともったいない。
ということでここにたくさんのことのはを植えていこうとおもいます。
つまらないですよ。

2009/06/30 16:17 No.0
ページ: 1 2


 
 
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ひろり ★UNb4Cv5YoDU



 その少年は、ものごころがついたときから、毎夜夢のなかで苦しみを訴えてきた。
 ずっと、目が覚めたら忘れてしまったふりをしていた。だけど最近は、少年の声はあんまりにも苦しげで、目が覚めても、逃れることのできぬような気持ちから放れられないようになってきたのだ……



「がお君、大丈夫? 最近、どこか調子が悪いの? 病院にいこっか」

 少年の言葉だけに心を埋め尽くされて、がおは母さん、……と呼ぶべき女性の言葉に答える気力さえ失っていた。
 固いパンを紙を噛むような気持ちで口に詰め込みながら、かばんを片手に机の上の弁当に手を伸ばす。と彼女が口を開いた。

「今日は、そのお弁当の中身、楽しみにしていてね」

 がお君の好きなものだから、と言う彼女を見やると、微笑んでいた。がおは小さくうなづいて、弁当をゆっくりとかばんに閉まった。

2009/11/21 16:11 No.10

ひろり ★UNb4Cv5YoDU

グロテスク注意


「ともは、死んだ。逃げちゃいけないんだ。ともは、もういない」

 そらが、ゆっくりと自分に言い聞かせるようにそうつぶやきかえす傍で、ゆらとほらはゆっくりとうなづいた。身の震えを、必死におさえながら……

「死んだ瞬間を見たわけじゃないだろう?」


ここからの描写が思いつかないので省略


 ――刹那、遠い闇の底から、なにかを破壊するような音が響いてきた。そしてまた、ぴんと静かになったと思うと、粉々になったなにかを踏みつける音がした。

「……どうやら、再会の時間が来たようだな」

 カイの声は、落ち着いていた。

 かしゃり、かしゃり、かしゃり。一歩、一歩、大きくなってゆく。三人は、息を飲み込むのも、まばたきをするのも忘れて、音の聞こえる暗闇を見つめる。
 足音が目の前にまで近づいた、と思うと、暗闇から、うっすらとはだしが見えた。思わず、ほらが声を上げる。肌の色は、赤に染まり切っていた。ぽたぽた、とその足元に、赤いしみが落ちる。
 かまわず、その赤い足は近づいてきて、やがて足から上も浮かびあがってくる。
 三人とも、冷や汗を感じた。そらはきゅっ、と握った手の平が、どくんどくんと音を立てて、震えているのがわかった。

 紅い水を浴びたように、ともは血まみれだった。足元にはとめどなく、赤いしずくがこぼれ落ちている。
 片腕がちぎれており、もう片方の腕で、その腕を握りしめていた。目は前を向いていながら、どこも見ておらず、口元からは、ぐふう、ぐふう、とかすかに息が聞こえた。

2009/11/22 21:38 No.11

ひろり ★UNb4Cv5YoDU



 たくさんの足が、土を蹴る音で、ゆたかの瞳にはやっと、色が戻ってきた。
 土を蹴っていたのは、子供たちだった。頬をほんのりと赤く染めて、白い息を切らせながら、寒いなかを走り回っている。
 ここは公園か。ぼんやり、ゆたかはそう悟った。

 どうしてここへ足を運んだのか、自分でもよくわからないのに、ゆたかの足はうごかなかった。目の前をボールや犬が通ってゆくのを、電柱になったようなつもりで、突き立ちながら見つめていた。
 ああ、どうして子供たちを幼い自分と重ねているのだろう。おれはおれを追いつめているのか。おれは死ぬつもりなのか……


「返してよ!」

 ふと、幼い声が耳に飛び込んできた。


カット。

2009/12/03 18:49 No.12

ひろり ★UNb4Cv5YoDU

続き


 振り向くと、女の子が一人、なみだを必死に抑えこんだ顔で立っていた。その視線の先には、その女の子よりは少し年上に見える男の子が、三人。その真ん中にいる、一番大柄な男の子の片手には、茶色くてぶあついノートがあった。


省略



 ゆたかは、足元に落ちた、すなぼこりを浴びたノートを拾った。思ったよりも、少し重たい。
 ふと、このノートのなかに、なにが書いてあるのかが気になった。視線を落とすと、女の子がお尻をついて、ずっと泣いている。
 ごめんなさい、と念じるように思いながら、そっと開こうとしたとき、突然と、あたまにしびれるような痛みのような、母親の声が響いてきた。

 ――ゆたか、開いてはだめ。人が見せたがってはいないものを、勝手に見てはいけないのよ――

 思わず、空をみあげた。変わらず、太陽は月のように儚く、空はやわらかい色をしている。辺りを見渡しても、なにも変わったものはない。ゆたかは、そうだよな、と、そっと白い息を吐いた。

 もう一度、さっきまで開こうとしていたノートを見つめる。きゅっ、と手のひらに力が入る。
 小さく打つ胸の鼓動を割るように、ゆたかは片手で女の子にノートを差し出した。女の子は顔をあげると、なみだを拭って、両手でうけとる。

「ありがとう……ございます」

 くしゃり、と微笑んだ女の子の頬に、ちいさな白いひかりが落ちてきた。
 なにかと思い、ふたりで空を見あげると、それはしあわせのかけらのように、たくさん降ってくる。
 ふたりはなにを話すでもなく、音のない白いせかいが広がってゆくのを、しずかに見つめていた。





――






 ああ、そうか。
 あのときに、もう、出会っていたんだ。おれと、あいつは。


 おれは、あいつを覚えていたんだ。

2009/12/04 18:46 No.13

ひろり ★UNb4Cv5YoDU



「あいつ、ちょっと、な」
「んー、ちょっとな……ウザい」
「ちょっと、ぶりってるよな」
「ぶりってるってなんだよ」

 少し、表情に苦さを滲ませながらも、ふたりは笑う。も、かおるがなにかを見てかたまっているのに気づいて振り向くと、そんな表情もすぐに顔から抜けた。

 視線の先では、きゆが突き立っていた。三人と目が合っているのに気づいて、きゆの顔もみるみると青ざめていく。周りもだんだんとしずかになり、重たい空気が教室をただよった。

 沈黙のなかで、きゆの足が、そっと後ずさりをする。

「ごめんなさ……」

 青ざめたままのきゆのくちびるから、その言葉だけが抜けた。
 謝らなくても、とかおるが言いかけるも、きゆのまばたきのない目から頬へは、なみだが光っていた。
 教室中の視線に押されるように、一歩、一歩と前を向いたままその場を退こうとすると、背後の扉にぶつかる。
 と、その扉を向こう側から開いたゆうが、教室の雰囲気に気づき、なにも言わずに目の前のきゆとみんなを交互に見やった。

 きゆはゆうが開きかけたままの扉を開き切って、教室に背を向けるが、ゆうとぶつかってしまう。ゆうは顔をあげたきゆと目が合ったが、それも一瞬だけで、きゆは走り去ってしまった。

「……なにかあった?」

 きゆの立ち去った方を指差して問うが、だれひとり答えず、教室にはただただ重たい空気が残っていた。





――





 人の通りがめずらしい廊下に、座り込んだ。ずっと、ふたりの会話だけがあたまのなかに響いている。
 胸が痛くて、思わず咳き込む。息がひゅうひゅうと、喉を抜けてゆく。もう一度、大きく咳き込んだとき、口から、足元のコンクリートに、紅いなにかが打ちつけられた。




カット

 

2009/12/05 02:51 No.14

ひろり ★UNb4Cv5YoDU

SSが書きたい…




「うるせえな!」

 そうどなっても絶えない笑い声に押しつぶされるように感じたゆたか(名前使いまわし)はとうとう、顔を赤くしたままこたつから立ち上がった。
 床に放られたままのマフラーをつかみ、首に巻きながら玄関へ向かう。

「え、どこに行くの?」
「外!」
「それはわかってるけど」
「散歩!」

 ちょっと待ちなさい、と言う母親の声も聞かず、玄関のとびらは大きな音を立てて閉まってしまった。

「本当に、照れやさんですね」
「ゆたか? そうよね、あの子絶対に素直に笑ってくれないのよ。小さい頃から。笑いそうになるといつも咳き込んだり、足元を蹴ったりして、ごまかそうとするの」

 母親の言葉で、とみはゆたかが自分へ初めてやさしい笑顔を見せてくれたときのことを思いだした。

 世界が、真っ白に変わった日。ゆたかに見せたくて、痛いほど赤く染めあげた手でつくったゆきだるまが、一秒を走った風で崩されてしまったとき。
 ゆたかは、いたずらな、なにも隠したもののない笑顔をとみに見せてくれた。

「あっ、大変!」

 母親の声が、とみを我に返らせる。
 母親は机の上に置いていかれた、紺色の携帯をつつくように指差す。

「ゆたかの携帯ですか?」
「なにかあったら大変! 届けに行かなくちゃ」

 そう言いつつも、こたつから上がろうとすると腰を痛める母親を見て、とみは立ち上がった。

「良いですよ、ゆたかのお母さん。わたしがいきます」




――


「ゆたかー! ゆたかー! 携帯ー!」

 震えながらも、声をあげるが、返ってきたのは、目の前のすすきの海を揺らがせる、やみの風だけだ。痛むような夜の冬の寒さに凍える。自分でも気づかないようなちいさな息さえ、白く口から広がっていった。

「ゆたか、どこに行ったかな……」


 ぼんやりと探しつづけているうちに、広い草原についた。
 だが、空気と草たちがささやきあっているようなしずけさにあふれている。

 広くて、暗いところにひとり、とりのこされたようなきもちに、突然と、不安がこころを挿む。
 また、どこかへ消えてしまったのではないだろうか。また、もう、戻ってこないのではないだろうか。
 かじかみはじめた手の片方にある携帯を、きゅっと握りしめた。その手のひらから、だんだんと震えが広がる。

「ゆたか……勝手に出て行かないでよ……」

 そっとしゃがみ込んだ。寒くてかたまっていた頬に、熱いなみだがながれて、ゆたか、ゆたか、と声が漏れる。
 もう、消えないで。傍にいて。黙ってやみのなかに立ち去っていかないで。ゆたか。ゆたか。ゆたか。

「とみ……?」

 背後に、かさり、と草を踏む音を聞いた。聞き覚えのある声に、なみだを忘れて振り向いて、その陰に目を凝らす。

「なに勝手にいなくなって泣いてんだよ!」

 とみは立ち上がり、ゆたかの首に腕をまわした。すぐには離せないまま、鼻をすする。
 ずいぶんと、時間が経っていたらしい。どのぐらい、泣いていたのだろう。

「おま、離せよ。どうしたんだよ」
「ゆたか、もう、どこかに行かないで。ずっと、ここにいて……」

 ゆたかは、大きくためいきをついた。片手でとみの背中をたんたんと叩き、はいはい、とちいさな声で返す。

2009/12/10 05:54 No.15

ひろり ★UNb4Cv5YoDU



 名のわからない熱さが、胸の底から込みあげてくるままにすると、それは頬に流れていた。思わず、片手の指先で触れてみる。
 また、目から零れおちるので、もう片方の手で触り、ふしぎそうに濡れた指先を見つめる。何度も、頬に伝うのを確かめるように触っては手を見るまるを見て、がおは微笑んだ。

「涙だよ」

 まるは濡れた手をがおに突き出して、訊きかえした。

「なみだ?」
「そう、涙」

 涙にまみれた手を嗅ぐと、舌先で薄く舐めとって、しょっぱい、とつぶやきながらがおを見やり、まるは目を開いた。

「あ。がおにも、出てる」
「……ん?」
「なにがか、わかる?」
「……うん」

 袖で拭い取って、がおは笑う。絶対に涙は流さないと決めていたのに。この子が初めて見せた顔が。

「涙はな」
「うん?」
「まるが今、思っているようなきもちの時に出るんだ」

 そっかあ、とまるは微笑んだ。また、その細められた目から、涙は零れ落ちる。

「がおも、同じきもちなんだね。よかった。ずっと笑ってるから、嬉しいのかと思った」

 そっと、抱きしめあった。まるのあたたかさに、また涙が止まらなくなる。まるもそう感じているらしく、腕のなかですすり泣く声が聞こえた。

2009/12/17 04:21 No.16

ひろり ★UNb4Cv5YoDU



「とまら、ない」
「ん?」
「なみだ、とまらない……」

 痛々しげなほど顔をこするまるの手を、がおはそっとつかんだ。

「むりに、止めなくていい」
「いいの……?」
「いいんだよ。いつかは、止まるものだから。……今だけは」

 辺りにたたずんでいたみどりが、なにかのすがたを感じて揺らぎはじめる。ああ、大地がまわる。まわっている。
 がおはそれが頬をかすめてゆくのを感じられなくなっているのに気づいて、あたたかさを忘れかけた指で、まるの手を握りしめた。

「まる」
「……うん」

 口に出す言葉はなかった。まるも、それを知っていた。
 もう一度、まるを胸に寄せる。ちいさなあたまに手を置いて、ひとみを閉じた。自分のあたたかさもつめたさも感じられなくなった身体で、微かに伝わってくるまるのぬるみを確かめる。


略します

2009/12/17 21:43 No.17

ひろり ★UNb4Cv5YoDU



「かえりたい」

 浜は、ひざのなかに顔をうずめこんだ。

「ぼく、かえりたい……」

 からだをまるめつづける浜のすがたは、なみだを流すこともできない苦しみを滲ませているように見えた。
 ぼくは浜の苔の色に染まった背を、撫でることしかできなかった。

2009/12/21 03:28 No.18

ひろり ★UNb4Cv5YoDU



「ゆき君、お外に行こう」

 両手で、布団から垂れるようにはみ出ているゆきの片手を握りしめた。ゆきの目は、たしかにとみの方を見ているのに、とみはゆきの手をなんども揉むように握りなおしながら、あたたかさを感じえずにいられなかった。

「今日は、ゆき君の誕生日だよ。すごくきれいなところに、連れて行ってあげたいの」

 ゆきは、ゆっくりと目をまたたかせてから、天井を見つめた。

「おれ、何歳になったの?」
「ゆき君は、十五歳になったのよ」
「今日、何月?」
「五月よ。五月、十四日。ゆき君が、このせかいに生まれてきた日」

 ああ、そうか、とゆきは目をとじて、やわらかくほほえんだ。白い指先で、そうっととみの両手を握りかえす。

「おれ、五月十四日に生まれたんだっけ」





「着いた! ゆき君、目をあけて」

 ゆきは、そうっと目をひらいた。途端にまばゆさが飛び込んできて、顔をしかめる。

「だいじょうぶ?」
「うん。だいじょうぶ」

 もう一度、まばゆさを堪えながら、目をひらいた。

 ひとみにやさしく広がったのは、深いみどりのなかに咲く花々だった。
 枯れた色なんてひとつもない、ひかりに愛されたあかしのように、ひとつ、ひとつがかがやき、ゆきのひとみをやわらかくいろどる。

「森のなかよ。ゆき君は、きっとこんな場所を一番愛する人だと思うから」

 ゆきは、とみに微笑んでから、そらをあおいだ。
 木々の手が空のまばゆさを覆い、そこからもれるひかりが、影とあそんでいる。
 すう、とゆきは息を吸いこみ、そうっと吐いた。

「ありがとう。あんな密室にいるときよりも、肺に、たくさん空気が入ってくるよ」



 

2010/01/01 04:37 No.19

ひろり@honobono ★UNb4Cv5YoDU

「つちびとさま」から



「とみ」
「なあに」
「なにか、あった?」

 心臓が、つき、と痛んだ。
 どうして、見抜かれたのだろう。いつものとおりで、明るくいたつもりなのに。

 ゆき君は、元気だったときも、わたしの心の波にすぐに気づいてくれていた。どんなにちいさくても、いつも。
 と、ふと、足の動いていた頃のゆき君を思い出して、思わずさっきまで保ちつづけていた表情がくずれてしまう。

「あのね」

 もう、隠し切れなかった。

「うん」

 ゆきのひとみが、ずっととみを見つめている。
 心の奥底から、沸きあがってくるなにかを抑えながら、とみは言葉のひとつ、ひとつを確かめるかのようにつぶやきはじめた。

「わたしね」
「うん」
「ゆき君をね」
「うん?」
「たすけたいの」

 ひざに置いていた手のひらに、力がこもる。

「だから」
「うん」
「わたし、ゆき君の、みがわりになる」


 ゆきがどんな顔をしているのか、見ることができなくて、とみはうつむいた。
 重たい静けさのなか、ゆきが口を開く。

「とみ」

 とみは、なにも返すことができなかった。だけど、はっ、として、顔をあげる。

 ゆきの目に、しずくが浮かんで、頬に落ちた。
 声も、音もなかった。とみを見つめながら、まばたきもなく、ゆきの頬にはひとすじに、ひかりが輝きつづけていた。

 とみは、また、顔をふせた。ゆき君がこんな反応をするのはわかっていた。だから、なにも言わずにそっと消えるつもりだった。なのに。
 なにも口に出す言葉を失って、とみはゆきの顔を見ないまま、病室を出た。


2010/01/05 18:44 No.20

ひろり@honobono ★UNb4Cv5YoDU



 ――たん、と、しずけさのなかで、とびらを開く音がした。
 落ちかけたまま、ゆめを映していたまぶたが、その音に、ゆっくりとひらかされる。
 やみにひたされた少年のひとみに、白い素足が映った。そして、その足と溶けあうような足元の床の白さに、細かな紅いしずくが落ちた。

「……殺すのなら、早く、殺せ」

 ふるえて動くくちびるの端には、血の跡がついていた。
 未練のすべては重なりあって、心の奥底でかたまったままのことを知っていながら、少年はただ黙って、目のまえの人間が自分を床に叩きつける瞬間を待つ。

 ながれる沈黙に、その人間が口をひらいた。

「わたしは、あなたを殺さない」

2010/01/19 13:03 No.21

ひろり@honobono ★UNb4Cv5YoDU



 なわにやさしさのない手つきで縛りつけられる、目のまえの女性。ただただおそろしいままに青ざめたまま、男たちの一人の手に首根っこをつかまれる、自分。

「わたしの子を返してください!」

 なわで縛られた女性は、動けなくなっただけ、叫んだ。
 すると、一番身体のおおきな男が、彼女を見くだし、つめたい口でいう。

「これがお前の定め。よい実験台を用意してくれたことに感謝する」

 男のおおきな手で、宙に浮かせられたまま、何度もその女性に手をのばした。だが、なわに縛られたそのすがたは、みるみる遠ざかっていった……

2010/01/23 19:23 No.22

ひろり@honobono ★UNb4Cv5YoDU



 空がほほえんでいるかのような、やさしい日。
 花やつるのこぼれ落ちたふじだなに、ふたりはいた。




「わたしのことで、悩んでたの?」


 たしかさで出来たようなそいつの声に、おどろきの色を感じた。
 あげた顔をうなづかせながら、そいつへ向けると、そいつの目はかたまっていた。

「どうして? わたし、なにかした?」
「なんか。嫌われてるんじゃないかなって」

 しずけさのなかに、風がながれこんで来た。そっと、白いはなびらが、ふたりのすきまを舞う。
 ふたりの足元へ落ちたとき、そいつが口をひらいた。

「わたし、ぜん君のこと、好きだよ」

 思わず、今度はおれの目がかたまった。
 その顔色を読んだのか、そいつもあわてて、言いなおす。

「もちろん、春野さんや、下田君も好きだよ。……ぜん君も、友達になってくれたから。ね、元気出してよ」

 その「好き」が、もっとちがう、「好き」だったらどんなに良いだろう。
 おれがそんなことを思っていることも知らないこいつに、少し、腹が立った。

 なのに、おれの顔は気づくとほころびている。悔しくて、たまらない。
 見られたくなくて、思わず顔を逸らした。

「……うん」


 だって、無邪気さのにおうこいつの笑顔が、本当に白いひかりのように見えたから。











 おどろいた。
 最近、ぜん君がなんだか元気がないから、力になってあげたいなと思ったら、まさかわたしのことで悩んでるなんて。

「どうして? わたし、なにかした?」
「なんか。嫌われてるんじゃないかなって」

 ちがう。ちがう。胸のなかで、はげしく首を振った。
 だって、一緒にいたら、本当にもっともっと好きになってしまいそうだったから。思わず避けつづけてきてしまったらしい。

 そんなきもちでいると、風が吹いた。
 白いはなびらが舞って、足元に落ちたとき、言っちゃえ、と心のなかのわたしがさけんだ。

「わたし、ぜん君のこと、好きだよ」

 ぜん君の目が、かたまったのがわかった。ああ、どうして言ってしまったのだろう。

「もちろん、春野さんや、下田君も好きだよ。……ぜん君も、友達になってくれたから。ね、元気出してよ」

 そう言うと、ぜん君の目がやわらぐのが見えた。ほっ、とする。
 本当は、そんな「好き」じゃない。ぜん君への「好き」は。もっと、もっと……

 笑顔をむけると、顔を逸らされた。ああ、きもちわるかっただろうか。
 だけど、逸らしたそこから、声が聞こえた。


「……うん」


2010/01/30 08:16 No.23

ひろり@honobono ★UNb4Cv5YoDU



 ――レオ。

 その声が、ひかりのなかのそのほほえみを、割った。瞬間、ひとみがつめたくかたまる。

 ――レオ。

 ひかりが、薄れてゆく。消えてしまう。だけど、動くことができない。

 ――レオ。目をさませ。

 はっ、としたとき、ひかりは音なく散らばって、霧のように、やぶれてしまった。




 ――ひかりのやぶれたところにあったのは、見知らぬ人間のすがただった。自分を見おろしている。自分は、眠っていたらしい。

「やっと、夢から戻ってきたか」

 目のまえがこまかいところまで見えるようになっても、その人間のかおに覚えはなかったのに、なぜか、警戒すべきだ、と心の奥底がささやいた。
 お前は誰だ。そう問おうとすると、突然、のどの奥がすぼまるように痛む。おどろいて、手でのどをおさえようとすると、次は肩が痛みに声をあげて、顔だけをゆがませた。

2010/02/02 06:29 No.24

ひろり@honobono ★UNb4Cv5YoDU



 水のなかに沈められているようにもがく、さえを取りおさえて、鼻をにぎり、ふと開いてしまった口に、ビンを押し込んだ。

 一瞬だけ、じかんが、とまった。
 褪せたさえの目が、みるみる、おだやかにゆるんでゆく。おさえられても力のこもっていた手足が、そっと、床についた。

「……効いた?」

 セナが、うごかなくなったさえを見てつぶやく。
 しばらくすると、さえの口元が、とつぜんと、笑みにそまった。

「ふふふ……」

 ひとみが、ゆっくりと、かがやきだす。

「ふふっ、きれい……」


 さえの目は、もう、目のまえのものが見えなくなっていた。

2010/02/10 14:30 No.25

ひろり@honobono ★UNb4Cv5YoDU



 灰色のやみと、静けさが溶けあったような、ふしぎな空気がただよう。それは、カラの心を、少しずつ追いつめていた。

 背後から、木の陰から、葉のすきまから、いつ、なにがおそってくるのだろうか、おそろしくてたまらない。できれば、やみが晴れるまで木のそばでうずくまっていたい。
 だけれど、わたしはあの人のすがたを見るためにここへ来た。あの人にもういちど会えるなら、朝陽なんて待っていられない。

 こぶしを、胸に握りしめながら、カラは目のまえを見せてくれているやみのやわらかさだけに支えられて、進みつづけた。

2010/02/12 18:14 No.26

ひろり@honobono ★UNb4Cv5YoDU



 最後の人にお茶をいれながら、カラはふと、机の向こうがわに座っているおばあさんを見て、口をひらいた。

「おばあさん、ユタの帰りが遅いわ」
「ユタは今、牛の心を取り押さえているよ。もうすぐしたらこちらへ来るだろう」

 おかずを口のなかで噛みしめながら、そうこたえるおばあさんに、カラはおどろく。

「まあ、興奮した牛と向き合うなんて。どんなにユタでも死んでしまうわ」

 蒼く引きかけているカラの顔を見て、周りの人たちが、笑い声をあげた。
 そのひとりのおばさんが、ふくよかさのある声で言う。

「あの子が動物に突き殺されるわけがないよ。心配する必要はない」
「でも……」
「ユタは人のものでもあるが、自然界のものでもあるんだよ」

 となりのおじさんのおだやかな声で、心がゆるみつつ、カラの顔からは不安の色が抜けなかった。
 ユタに動物や自然とこころを開きあう才能があるからって、いつ、なにが起こるかわからないというのに。
 ユタを探しにいって良いですか、と立ちあがろうとしたとき、おばあさんのとなりに居る若い女の人がいった。

「ところで、おばあさん、この子がユタの恋人なのかしら」
「ああ。あの子によく似合っているだろう」

 周りの目が、カラに差しこんで、カラは正座をしたまま動くことができなくなってしまった。

「ユタの恋人だって」
「へえ、この子が! 聞いていたけれど、本当にべっぴんさんねえ」
「まあー、お名前を教えてくれる?」

 その女の人にきかれて、カラはユタに会いたいきもちをおさえて、あたまをさげた。

「カラです。よろしくおねがいします」

 あたまを上げようとしたとき、向こうでだれかが床を踏むおとがした。
 ひとり、ひとりが、その足音のぬしに気づいて、おお、と声をあげる。

「ユタ。ちょうどお前の恋人の話をしていたんだよ」

 カラがあたまを上げきると、たしかに、そこにはユタが居た。
 まあ座れよ、と一人のおじさんに言われて、ユタはカラのとなりにすわる。
 呆然と見ていると、ユタの衣服のふところが、おおきくやぶれていることに気付いた。


2010/02/21 00:41 No.27

ひろり@honobono ★UNb4Cv5YoDU



 ユタは草原に寝転び、ながれる風になでられながら、あおぞらを見つめていた。食べてしまえそうな、しろさの濃い雲がうごくのを見て、ふと、あめが食べたいと思う。
 そんな空にまもられているような心地よさで、ユタはそっとひとみをとじた。

 そのとき、耳元で、草を踏む音がした。そして、その音を接ぐように、草がのびる音をきいた。
 土を踏むたびに、そこからみどりがちいさく湧きだし、土から離すと、ふと、とまる。その音は少しずつ、近づいてくる。

「ユタ?」

 やさしい声がした。ユタはその声を待っていたかのようにからだを起こして、振りかえった。
 黒いかみのけをやわらかく風にゆらがせた、カラが立っている。カラの手元には、ユタがたったさっき食べたいと思ったものがあった。

「あめを食べないかな……」

 ほほえんで手をのばしてくるユタに、カラは顔をゆるませて、むらさき色のあめを渡した。
 どこか遠くを見つめながらあめをなめているユタのとなりに座ると、手元や足元からは、もう、なにも浮かびあがってはこなかった。
 そんなカラを見て、ユタは笑う。

「どうして笑うの」

 そう言いながらも、カラも、えがおだった。

「なんでもない」

 ユタの顔を見ると、からだが風になびいてどこかへ消えてゆきそうになりそうな、おだやかなきもちになる。
 わたしがそう言うと、ユタはどう答えるだろう。どう思うのだろう。
 そう思いながらも、陽に慈しまれているように、やさしい顔をして、晴れわたった空を見つめているユタを見ると、なにも言わなくても、しあわせになった。

2010/02/25 23:09 No.28

ひろり ★UNb4Cv5YoDU



 少年のおおきな手が、少女の手をおおうように、ちいさないのちをつつむ。ふたりの手のひらのあたたかさが、土をそめてゆく。

 そっと、少年が、少女のひたいに、自分のひたいをよせた。少年は少女のひたいのあたたかさを、少女は少年のひたいのあたたかさを感じとると、やさしくひとみをとじる。
 そして、そのままで、いくどの風がながれた。


 やがて雲がきれて、よあけのような白いひかりがふたりのすきまにひろがったとき。
 ふたりの手のひらのなかで、そのつぼみははずみ、そのひかりに溶けてしまいそうな、やさしい花の白さを咲かせた。

2010/03/01 08:36 No.29

ひろり ★UNb4Cv5YoDU

 
 そこは、とてもさみしいところでした。


 朝陽のような白いひかりだけが、どこへ行ってもまばゆくひろがっていました。
 ながいながいまるたのうえでは、こどもたちがすがたを現せては、はしゃぎごえをのこして消えてゆき、ちいさなみどりの丘では、ちいさな芽がみどりを見せては消えてゆき、そして、葉をふやしながら、すがたを現せます。
 やわらかな白さの奥底には、今もたくさんの声が、ささやくように、とおのいては、近づいてくるにぎやかさが、絶えません。だけれど、そのひかりは、ずっと、しずけさを守りつづけているのです。





 少年のおおきな手が、少女の手をおおうように、ちいさないのちをつつみます。ふたりの手のひらのあたたかさが、土をそめてゆきます。

 そっと、少年が、少女のひたいに、自分のひたいをよせます。少年は少女のひたいのあたたかさを、少女は少年のひたいのあたたかさを感じとると、やさしくひとみをとじました。そして、ふたりのすきまに、白いひかりがあふれました。


 やがて、ふたりの手のひらのなかで、そのつぼみははずみ、ひかりに溶けてしまいそうな、花のしろさを咲かせました。

2010/03/10 01:50 No.30

ひろり ★UNb4Cv5YoDU

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2010/03/24 17:53 No.31

ひろり@hikali ★UNb4Cv5YoDU

題名未決定



 樹に背をあずけて、のびあう枝からこぼれる光を見つめている、その生きものをおおっている靄に、そうっと手をのばした。手のひらに、その靄のやわらかさを感じた。
 その生きものは、それでもなにも気づかないので、靄の奥のほうに手を入れてみる。そして、やがてなにか、固いものにふれた、と思ったとき、その生きものがうなりごえをあげた。まおはおどろいて、手を靄から出した。
 そのうなりごえは、まおの頭を割ろうとしているかのようだった。銃にうたれた怪物のような、いたましさが訴えつけられるようで、まおは思わず、耳をふさぐ。だけれど、その悲鳴はやもうとはしなかった。

 

2010/04/11 07:12 No.32

ひろり@hikali ★UNb4Cv5YoDU

 メールを返してくれるなら、もっとうれしくなる言葉がほしいと思った。
 うれしくなる言葉をもらえたなら、会いたいと思った。
 となりに居てくれるなら、ふれてしまいたいと思った。
 手にもふれられないなら、せめて、想いがあの人のこころにふれたら良いのに、と思った。

 すべて、わたしだけが思っていたことでした。


 頬にこんなにながれているのは、雨のしずくなのでしょうか。
 わからないまま、胸の底からあふれるきもちを堪えることができず、どこまでもひびく雨音に、おえつをいだかれました。





「ありがとう」

 そうつぶやくと、あふれた涙には、希望のひかりが輝いていました。

2010/04/29 20:54 No.33

ひろり@hikali ★UNb4Cv5YoDU_S8

 黒いゆかに太ももをつけたまま、カラは遠くで、なにかの扉が重たい音をたてて開くおとと、そして、その音につぐ、誰かの足音を聞いた……







 わらの宿で、ゆっくりと時をすごしていたみんなは、足元のちいさな地響きに気付いて、ざわめき始めていた。

「遺跡でなにかが起こったんだ」
「カラだよ。あの子がなにかしたんだよ」

 ひとり、口をむすんでいたユタは、そのざわめきと地響きのなかで立ちあがった。辺りにしずけさが広がる。

「ユタ、いかない方が良い。なにが起こっているのか分からない。カラの身が気になるのは分かるけれど……せめて、地響きがおさまるまでは待って」

 おばさんがそう止めようとするも、ユタの眼は変わらなかった。

「なにが起こっているのか、わからないから行くんだ」

 誰かが口を開こうとしているのも振り切って、ユタは宿を出て行ってしまった。








 カラは痛むあたまを抑えて、うずくまっていた。
 足音は、カラの目の前の壁の向こう側にまで、カラに近付いてきている。
 ――逃げなくてはいけない。早く、逃げなくては……でも、身体が……

 もしも、この壁の向こうにある足音の主が、恐ろしい存在であったら……そのことを考えて、せめて姿をみて、恐ろしさのあまりに狂ってしまわないように、カラはひざに顔を埋めこんだ。







 その少年は、低いこえで、カラのすがたを、『ラヌ』と呼んだ。

「ラヌ……?」

 それが人の名前だと理解した瞬間に、カラは、少年の胸に抱き込まれた。
 なんて強い力だろう。息が苦しい。言葉もしぼりだせない。体をねじり動かすこともできない。
 だけど、少年の大きな腕のなかには、ふしぎな匂いがこもっていた。なんだかここちよい匂いで、押し潰されそうな苦しさを、ゆっくりと忘れてしまった。

2010/07/20 18:59 No.34

ひろり@hikali ★UNb4Cv5YoDU_S8




 壁に背を押し付けて、震えながら自分が睨みつける村人の中から、見知らぬちいさな少女が出てきた。
 少女の茶色い瞳が、自分の瞳の奥深くを刺し込んできて、動けなくなる。
 少女はかたまっている自分に近付くと、ちいさな手で、自分のからだを抱きこんだ。

 その少女のぬくもりを脈打つものが、自分の体温を脈打つものに溶け込もうとする。だけど少女のその鼓動はとてもしずかで、おだやかで、荒んだ自分の鼓動には、なかなかに伝わらない。
 だけど、ぬくもりと突き放したくない、という感情が自分の中に生まれたのを、少年は知った。だから、ただただ、自分の鼓動が、少女の鼓動とひとつになることを、少年は待った……


「ユタ!」

 目をさまして振り返ると、そこには、あの頃のちいさな女の子が立っていた。手には黄金の葉をにぎって、自分におひさまの光に消えてしまいそうな、強くて儚いえがおを向ける。
 ユタが目をこらすと、その女の子は、温雅な雰囲気をまとった少女になった。白い手には、なにかが握られている。

「あめを食べないかな……」

 ユタは微笑んで、手をのばした。

 もう、彼女のすがたが太陽の光と溶けあって消えてしまいそうな不安は無い。
 彼女は、太陽、そのものだから。


 動物の心をひらくことしか知らなかった自分に、自分の心を人間にひらくことを、初めて教えてくれた女の子。

2010/07/30 18:23 No.35

ひろり@hikali ★UNb4Cv5YoDU_S8

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2010/08/01 07:34 No.36

ひろり@hikali ★UNb4Cv5YoDU_S8


 カラはひろい草原に出ると、立ちどまった。
 しばらくすると、草原がしずかになって、長い草のなかから、カラと同い年ぐらいの少女がすがたを現した。
 焦げ茶色のながい髪を風にながしながら、カラに駆け寄る。

「昼食はおいしかった?」

 カラよりも少し高いこえで、カヨとよばれた少女はそうカラに問いかける。

「ええ、おいしかった。カヨも今度、一緒に食事しない? みんなにもカヨを紹介したいわ。わたし、おいしいものを作ってみせるから」

 しかし、カヨは少し苦そうな顔をして、ちいさく首を振って、話を逸らす。

「……カラはいつも村人の食事をつくっているの?」

 カラも、話を逸らされるのをためらえない。

「うん……おばさんたちと一緒にね。でも、下ごしらえと後片付けは全部わたしがするの」
「村でいちばん若いと大変そうね」


 そう会話をする二人のなかに、なんとなく入る気になれない。二人の居る草原と、自分の居る木陰は、違った世界であるように感じて、ソマは木のうしろでじっとしたまま、迷った。

 だけど、このままそっと帰ってきても、おばあさんに何と言えば良いのだろう。「カヨ」とカラに呼ばれているあの女の子は、村に自分の存在が知られることを、なんとなく避けているようだ……


「カラ!」

 気が付くと、口がひらいていた。カラがこちらへふり向く。

「ソマお兄さん……」
「おばあさんが心配してるよ。その子はだれ?」

 そう言ってカラのとなりを見やると、カラのそばには誰も居なくなっていた。カラは自分の横を見て、少しかなしげな顔を浮かばせる。
 しかし、ソマが目の前にいるのを思い出して、すぐにその表情を隠そうとしたが、ソマは見逃さなかった。

「さっきの子は? 最近、様子がおかしかったのはあの子のせいか?」
「……スープの材料が見つからなくて……いらいらしていて……」
「お前はどんなにいらいらしていても、約束は守り、人のことは思いやる子だろう」

 黙ったと思えば、言い逃れることばを探している表情をしているカラを見て、ソマはおどろいた。カラは一体どうしてしまったのだろう。

「どうして隠すんだ。友達ができるのは悪いことじゃないんだよ。ただ、みんなはお前が心配なんだよ」

 いつものカラなら、ごめんなさいと言って、わけを話してくれるはずだ。
 しかし、カラは風が吹いても、やんでも、口をひらかなかった。足元を見つめたまま、瞳をかたまらせている。

「カラ? なにか、悩みがあるのか? ……とにかく、あの子はもう居ないみたいだし、村へ帰ろう」

 そう言ってカラの肩を抱いて、歩いてみると、カラは顔はかたいままだが、足は動いてくれた。それだけでもソマは、ほっとして村へ心を焦らせた。


2010/08/04 14:01 No.37

ひろり@hikali ★UNb4Cv5YoDU_S8


 木のえだが踏まれる音がした。

「お前がキオか?」

 背後にそう語りかけられる。
 振り向くと、くらやみにあいた穴からは、海賊たちのすがたが見えた。
 キオは首をよこに振るが、海賊たちは近付いてくる。

 力をつかったら、正体がばれてしまう。逃げても、きっと怪しいと思われる。
 迷っているうちに、海賊たちの大きな腕は、キオをとらえてしまった。

「怪しいな。みどりの香のにおいがする」

 一番からだの大きい海賊の手が、キオの仮面をつかもうとしたとき。
 キオは自分をとらえている海賊の足のすねを蹴って、腕を自由にすると、自分の目の前をさえぎる海賊たちを突き飛ばして、走り出した。

「待て!」

 海賊たちは、まだつやめきの残る葉を踏みつけて、キオの背後に叫んだ。キオは今にも転げ落ちそうないきおいで、走り続けた。
 辺りにはだれもいない。熊も、鹿も、神様たちさえもみんな、海賊の気配をとうに感じ取って、どこかに隠れてしまった。

 キオのかぼそい足は、すぐに疲れてしまい、海賊たちはすぐにキオのすがたを見つけてしまう。

「誰だお前は!」

 海賊のひとりが、キオの胸倉をつかんで自分に引き寄せると、お面をキオから引き離してしまった。紐が、ぶちり、切れる音がした……


 海賊たちは、そこにお面に取り残された顔を見て、瞳をかがやかせた。

「見つけた……!」

 人に傷付けられることを知らない、傷付けることも知らない、ちいさなけものの目。たくさんの血液をみてきた海賊たちの目を見つめたままで、動けない。

2010/08/06 22:08 No.38

ひろり@hikali ★UNb4Cv5YoDU_S8


 とみは、みどりのきらめく草原のなかに、からだを置いた。大空のひろさと風にいだかれながら、瞳をとじる。
 こうして立っていれば、少女の方なのか、少年の方なのかはわからないけれど、足元の草を、鼻のたかさまでのばすことが出来たのだろうか……

 かさ、とちかくで草をふむ音がした。ゆき君だろうか、瞳をひらいてそばを見やると、とみは目を見開かせた。
 みしらぬ少女が、こちらを向いて立っている。焦げ茶色のながい髪が、風のゆくところへなびいている。
 その少女は、まぶたに隠されているひとみで、しばらくとみを見つめると、つぶやいた。

「カラ……」

 その声はたかくてやわらかくて、くちびるからこぼれたかと思うと、すぐに風にとけてしまった。

「……?」

 なんの事かわからず、ちいさく首をかしげたとみを見て、その少女は続ける。

「カラにそっくり……どうしてここへ来たの?」
「カラ?」

 なんの名前だろう、と思いながら、とみは答えた。

「わたし、とみ。ゆき君と一緒に、お盆で、おじいちゃん達の家に来たの」
「そうなの……わたしは、カヨ。よろしくね」

 カヨと言った少女は、目をひらかない。だけど、周りのものはすべて見えているようだった。
 とみよりも、一つか二つ上のように見える。

「カヨはここに住んでるの?」
「ええ。ずっと前から」

 なんだか、いままで話したことのないような雰囲気をまとっている女の子だ……
 似合っているから気付かなかったけれど、うすいだいだい色の着物なんて、どこの家で着させてもらうのだろう。近くのお寺の子なのかな。

「わたし、この前、13才になったんだ。カヨは何才なの?」
「……わからない。かぞえていないから」

 え、と声がもれた。
 わからないということは、お誕生日もだれにも祝ってもらえないのだろうか。

「そうなんだ……ねえ、カラって誰なの? おともだち?」

 そうきいたとき、カヨのおだやかに瞳のとじられたまぶたが、ぴくりと動いた。
 それを見て、「カラ」に対して興味の出たとみは、もう一度問いかける。

「わたしにそっくりなの? どんなところが?」

 その時。

「とみ!」

 自分のなまえを呼ぶ声と、駆け寄ってくる音が聞こえた。足音は近付いてきて、すがたを見せる。

「ゆき君!」

 とみの顔に、あかるい笑顔がぱっと灯った。

「ご飯が出来たよ」

 ゆきは立ちどまってそう言うと、とみを連れようとして、またゆっくりと歩き出した。カヨの方には目も向けない。

「まって、ゆき君。ともだちができたんだ。カヨって言うの!」

 そう言ってとみはとなりを見やったけれど、そばには誰も居なくなっていた。
 ゆきはまばたきをすると、行くよ、ととみの手を引いた。



2010/08/15 23:42 No.39

ひろり ★UNb4Cv5YoDU_S8


わたしは
今でも 詩をかいている

大切だった人や
大切な人のこと

こころのなかにひろがる
ふしぎな世界を

すべて
言葉に えがいて・・


わたしの言葉が
だれの心にも とどかなくなっても

ずっと
うたうよ

乾いたこころを
なでられるのは

音と ことばだけだから

2010/08/21 08:03 No.40

ひろり@hikali ★UNb4Cv5YoDU_S8


 いままで、どこに居たの?
 こんなところに居たの……


 あなたが、うなっている。どろどろになった姿で、泣いている。
 どんなに醜くても、あの頃のあなただって。

「もう、くるしまないで」

 わたしは、腕をのばして、だきしめた。ほのおよりも熱い、あなたのぬくもりを、だきしめた。
 あなたの体が、わたしの体を包み込むのを感じた。
 もう、なんにも感じなくて良い。だから、もう、この痛みをうばわないで。

 どろどろのあなたのからだに包まれて、体中がとけてゆくのを感じていた。ついに溶けなかったのは、心だけ……
 そして、あなたを抱きしめていた腕が、人間のものではなくなってしまったことを、知った。



 抱きしめ合った二つのいのちが、深いやみの底で、たったひとつに、輝いていました。


2010/08/28 19:32 No.41

ひろり ★UNb4Cv5YoDU_S8



 独りじゃない中で

 ひとりになるのが

 好きだったの

2010/09/03 17:56 No.42

ひろり ★UNb4Cv5YoDU_S8


 わたしが生きていて
 何になるって言うの


 かがやくことも出来ない
 時間に歩いて

 足がひびわれてゆくのを
 感じていた


 わたし 今日も
 泣いている

2010/09/03 18:02 No.43

ひろり ★UNb4Cv5YoDU_S8


 まどの向こうで、海が波をうっている。
 静寂の砂浜にかぶさっては去ってゆく、やさしい音。
 その孤独のすがたを、わたしは此処から、ずっと見つめている。
 いつから此処に居るのかも、いつまで此処に居るのかも、わからない。出口をもとめる方法もわからずに、ひろい青空のあかるさに包まれて、時間のしずかさのなかで生きている……

 覚えているのは、あの人を失ったことだけ。
 どのような人だったかは覚えてない。どのような時間をすごしたのかも、覚えていない。
 ただ、愛していた、あの人とは一つだった。だけどあの人はわたしのどこにも居ない。だからか、ひだりがわの隣が酷くさむい。きっとあの人は、ふたたび独りになったのでしょう。そして、わたしを独りにした。





 わたしを見た者は、誰もがばけものだと、言った。犬も、猫も、怖がって、わたしを拒絶した。
 だから、わたしと一つであったあの人も、きっとばけものだったのだろう。どれだけわたしたちが、他の生き物にとって恐れられるすがたをしているのかは、ここには鏡が無いからわからない……





 あの人はどこへ行ったの?
 なんども探した。風も感じられない暗闇のなかを。
 海には出られない。出口が見えない。出口よりも、あの人を求めているから。

 あの人は何処にも居なかった。なんど探しても。
 たびたび、暗闇の底からは水の落ちる音がした。あの人がそこに居るのではないかと、その度に思った。だけどいつもそこにあったのは冷たいしずくや、なまあたたかい滴だけだった。
 わたしはそれに気づくたびに、そのしずくを舐めとって、うめくように泣いた。その咽び声で、自分のすがたの醜さを知った。


2010/09/05 23:13 No.44

ひろり ★UNb4Cv5YoDU_S8


 つめたいふとんの中で
 涙を ながした

 泣けない苦しみに
 紅いなみだを流そうとして
 きずだらけになった腕で
 たくさんに 拭った

 どうしても輝けぬ
 自分のよわさが
 こぼれてゆくようで

 胃を燃やし
 のどを枯らしていたものは
 すぐに 溶けていったけれど

 みじめさだけは
 今も 残っている

2010/09/08 19:31 No.45

ひろり ★UNb4Cv5YoDU_S8

 わたしが見たもの
 何もかもが わたしを攻める

 攻めて
 ちいさくしようとする

 わたしが
 抱きしめてあげなくては

 守らなくては
 いけないから

 この手は
 紅く 腫れ上がる


 なんど
 この手首が傷付いても

 精神が
 混乱して こわれてしまうのだけは
 止めなければ

2010/09/22 18:51 No.46

ひろり ★UNb4Cv5YoDU_S8

「心が混乱した時に、気が付いたら切ってた」

 キオの顔は、笑っていなかった。

「止められなかった、こうでもしないと正常で居られなかった。心が壊れてしまうよりも、腕がぼろぼろになる方が、ずっと良かった」

 どこも白いままの右手には、うでどけいが握りしめられている。

「傷は、今でも痛む。……もう、治ったはずなのに……何故か、どうしても痛くなる」

 サラの目になみだが浮かんだ。

「傷は治ったけど、傷痕はいつまでもきえない。ずっと、いつまでも。……でも、後悔はしてないよ」

 キオは、「消せない」とは言わなかった。

「自分のやった事に、後悔はしない。自分が極限の状態まで生きた証、消したくない。もう、二度としないけど、この傷痕、好きだよ。この傷痕に、今も元気をもらうの」

 そう言って、キオは微笑んだ。
 サラの開きかけた口元に、涙がながれた。目からあふれて、止まらない。

 サラは、涙のあまりに言葉を失った。



2010/09/23 21:00 No.47

ひろり ★UNb4Cv5YoDU_S8


 その壁をまがった瞬間に、リュウは、自分のみどりいろの瞳に映ったものがなにか分かった。
 リュウは、黒い血液でからだじゅうを隠し、ころがったキオの姿に飛びついた。

「キオ!!」

 キオは、しおれてしまった花のように、ぐにゃりとして動かない。だけど、からだは焼かれた後のように熱い。
 リュウはその熱にすがるように、キオのからだを、真っ黒になった両腕できつく抱き締めると、立ち上がった。






 もう、話すことなど無いだろうと、人形のようなキオを抱いて、こちらを睨みつけるリュウにせまろうとした時。
 突然、目の前の空気が、波になって見えた。そして、その波にからだを圧された。思わず大きく後ずさりをさせられる。
 男は、ふとリュウに抱き締められているキオへ目をやった。キオの背は、相変わらず、まるで生きた人のすがたではないかのように見える。
 しかし、男はキオの背を見つめながらつぶやいた。

「まだ死んでいなかったのか。しぶといな」

 男は近付く。その鳥の目は、リュウのからだを締め付けて、離さない。
 また、目の前の空気が波になった。しかし、その波はよわく、男の足音をおそくする事しか出来なくなっていた。
 しかし、男は立ち止まった。自分を睨みつけているようなキオの黒い背に語り掛ける。

「何故抵抗する? わかるだろう、お前はここに居てはいけないのだ。お前のわがままが、いまお前を守ろうとしているもののけも、お前が守り抜いたあの神の子供も、すべて殺す事になるのだぞ」

 男が立ち止まったままでいると、リュウの腕のなかで居たキオが、少しずつ震えだした。
 リュウは男の目に締め付けられて視線がかたまったまま、腕のなかが震えているのを感じた。

 突然、キオの手がリュウを突き飛ばした。リュウは背中から壁に飛び込む。
 キオの姿が風のようになり、男を横切って、男の仮面を引き剥がしたと思うと、部屋から出ていってしまった。
 男のからだが、どさりと床へ落ちた。


 部屋に、突風に荒らされた後と、黒い血と、横たわった男が残った。

 リュウの姿が、壁にからだじゅうを打ち付けられた痛みで、人のかたちから、黒いもののけの形へ、黒いもののけの形から、人のかたちへ、ゆっくりと点滅し出した。
 キオ、キオ、と、ぐらついた心のなかでキオを呼ぶ。誰も答えてくれないのを分かっていながら、人になっても、もののけになっても、なんども、あのすべてがやさしかった日々のなかの、キオを思いうかべた。

 たちまち点滅しながら人の姿から移り変わろうとしているもののけの姿に、屋敷に満ちた力はとうとう反応してしまった。

 目のまえのすべてがゆがんで、曲がりくねって行って、今にも自分を呑み込もうとする。まっすぐであったものが曲がって、曲がっていたものがまっすぐになる。
 とても呼吸が詰まり、どこに空気があるのかわからなくなって、探しても見つからない苦しさと苛立ちが、うなりごえを上げる。

 この屋敷で見てきた。苦しみながら浄化されて消えてゆくもののけ達。
 大切なものを奪われ、怨みを持ってやって来ていた者。人間と触れあおうとしてやって来ていたもの。おのれが何処に迷い込んだのかもわからぬままであった者。みんな、人間に存在を気付かれる事もなく、消えていった。こんな、自分が何処に居るのかもわからないような感覚で、ねじ伏せられて行ったのか。

 リュウはもがいた。人の姿にもどらねば。浄化され切ってしまったら、もう戻れない。何処にも。あの森にも、あの遺跡にも、すがたが無ければ帰れない。
 みんなを、連れて帰らなければいけない。俺は、みんなといっしょに、たくさんのふるさとへ……


 なににもとどかないリュウの黒い手は、そうっと、空気のなかへ溶けて、消えていった。


2010/10/11 01:02 No.48

ひろり ★UNb4Cv5YoDU_S8

「俺、ずっと人間に憧れてた。お前とおなじ、人間」

 リュウが初めてほほえんだ。その温かなえがおには、もののけの面影はもうなかった。

 リュウのことばが、心に熱くひろがってゆくのを感じた。
 キオは、初めて涙をながした。ぬぐうことも忘れて、どこを見れば良いのかもわからず、見つめていたリュウの胸が、近付いてくる。
 リュウの腕につつまれた。リュウからは、獣のにおいと、獣の息づかいを感じた。だけれど、そのにおいや息づかい、温もりにつつまれて、感じていると、眠りに落ちたら溶けてしまいそうな、そんな心地よさがからだじゅうに沁みた。

「……ありがとう」

 なみだにこもった感情をこらえた口から出せたことばは、それだけだった。

2010/10/11 01:53 No.49

ひろり ★UNb4Cv5YoDU_S8


「おや、お前は珍獣じゃないか。まだ死んでいなかったのかい?」

 大きな真珠の目の光は、たしかにリュウへ向けられていた。
 黙ってノルナを見つめているリュウの、みどりいろの瞳とは、なにか通じるものがある。

「姿を化かせているようだが、それはなんのつもりでかい?」

 その口調は、リュウを追い詰めているようだった。
 しかし、リュウは押されながらも引かずに、言う。

「キオが何処にも閉じ込められずに生きていても、みんなが生きていられる方法、お前なら知っていると聞いた」

 それを聞くと、ノルナは、縫われた口で笑う。つづいて、周りにいたすべての生きものたちが笑った。

「森の奥を棲みかにする者は、みな人間に懐いてしまうものだねえ。おろかな種族たちだ。あんな生物如きにてなづけられて、お前は本当に幸せなのかい?」
「お前こそ、そこにただ座って、自分とおなじ種族のものとしか話さないで、幸せなのか」

 リュウのその言葉で、辺りはしずかになった。縫われた糸に押さえられたノルナの口が、閉じられる。

「……お前は癪にさわるほど賢いな。何故、あの人間の娘を助けたい? 何故、助ける必要がある?」

 そうノルナに問われて、リュウは少しだまると、答えた。

「キオに生きてほしいから」

 ほお、とノルナは口元に、見下すような笑みを、ふたたび浮かべると、問いかけた。

2010/10/13 14:21 No.50

ひろり ★UNb4Cv5YoDU_S8

「お前は人間に惹かれたか。分かっているな、たとえあの娘が人間として生きてゆく事となっても、お前とは相容れぬ。結ばれる事は出来ないと、覚悟はしているのであろうな?」

 ノルナの真珠の目が、リュウを嘲笑う。
 リュウはこたえた。

「俺、人間として生きていく。もう、元の姿にはもどらない」
「……全く愚かな生き物だねえ。人間に化け続けてさえいれば本物の人間になれるとでも思っているのだろう?」

 思わず、リュウの目が見開く。それを見て、ノルナの口はまたつり上がる。

「たとえば、その目だ。それは化け物の目だ。いくら獣の理性を抑えるすべを学んでも、お前の目はいつまでも人間の恐れを呼ぶ」

 なにも言わなくなったリュウを見て、ノルナは木肌のうでで、おのれの口を指差した。

「私の口を見ろ。ものごころついた時から、この口は縫われていた。口を開けば恐れられるからだと言われた」

 口を抑え付ける糸のなかには、よく見ると切れ目が見えた。

「幾らなまあたたかい言葉を発しても、恐れられるものは恐れられるものなのだ」

 ノルナの言葉は、リュウを攻めて、今にもここから追い出そうとしているようだった。おろかな化け物には、おのれのおろかさを思い知る知恵しかあたえぬと、その口が笑っている。

「かまわない」

 しかし、その言葉で、その口は嘲笑いをとぎれさせた。
 今までノルナとリュウの声しかひびかなかったこの場所が、時間をとめたように、静寂をつまらせる。

 その中で、リュウは続ける。

「完全な人間じゃなくても、かまわない。……キオを、たすけたい」

 ふたたび、ノルナの口は笑った。その顔は、もう、嘲笑ってはいなかった。

「むだな知恵を身に付けたものだな。良いだろう。……ただし、あの娘はかなり凶暴になっている。救うまでには命を失うほどの危険が要る。そんな試練に耐えられるか?」

2010/10/14 02:46 No.51

ひろり ★UNb4Cv5YoDU_S8

「おばあちゃん。わたしのクラスに、わたしじゃない、いじめられている子が居るの」

 さらはタオルや衣服をいっしょにたたんでいるおばあちゃんに、そうっと語りかけてみた。

「でもその子、わたしとは違う。どんなにひどい事をされても、学校を休まないの。堂々としてる。相手にもしていない感じなの」

 おばあちゃんは、変わらずタオルをたたんでいるけれど、さらの言葉に耳を澄ませていた。

「どうして、あんなに強くあれるのだろう……わたしは、わたしには友達に囲まれる価値もないんだって、独りぼっちなんだって、すごく苦しくなるだけなのに。いつも」

 すこし間が開いたあと、おばあちゃんは、ももいろのタオルをたたんでいる手を止めて、さらを見止めた。そして、温かなほほえみをうかべる。

「やっと話してくれたね」

 おばあちゃんのうれしげな顔を見ていると、さらは気付いた。

 自分の声を出した、のどもとにあるものが、さらの身体の中の、奥深くにある、何カ月も動いていなかったなにかを動かしている事。
 自分の瞳に、まだ薄くではあるけれど、ひかりが点っていること。

「あんた、もう、三ヶ月も話さなかったんだよ」

 さらは、指先で頬にふれた。ずっと凍っていた感覚が、ぬるさを感じられるぐらいにまで溶けているのがわかった。
 わたし、もう、三ヶ月も……

「その子にとって、学校は、人と関わるところじゃないから、なのかもしれないね」

 おばあちゃんの声で、さらは指先を頬からはなさないままで、おばあちゃんの顔を見た。

「……学校に来ると、友達とつくろうとしたり、あるいは、特別な異性をつくろうとする人は多い。だけど、その子にとっては、それはどうでも良い事なのかもしれない。それよりも大切なものがあるのかもしれないね」

 ゆっくりと言い終わると、おばあちゃんはさらのパジャマに手を伸ばして、たたみ始めた。







 月曜日。
 さらは、お腹から込み上げてくる吐き気をこらえながら、教室に入った。
 一番最初に目に入ったのは、なみたちだった。四人はポテトチップスを分け合いながら、大声でわらっている。
 大月きおはまだ来ていなかった。

 しかし、きおの席はきれいなままだった。なみたちはきおの席には目も向けない。他の席とおなじように。

 やめたのかな……?

 少しだけこころがやわらぐの感じながら、自分の席に近付いた時、かなり強烈な臭いがした。思わず後ずさりをすると、背後に来ていた、さなえとぶつかる。

「ちょ、なに!? なんかお化けがぶつかって来たんですけど」

 さなえに押されて、自分の机に両手をついた時、さらはその臭いの正体を理解した。
 机に、たくさんのカメムシが固められてテープで貼り付けられている。

 さらは、その場に崩れ込んだ。胃から込み上げてきたものを、堪え切れずに吐き出してしまう。
 苦しいなかで、周囲のこえが耳に飛び込んでくるのを感じた。よくは聞こえないけれど、自分を救いあげてくれるような言葉は、無い。

2010/10/18 16:40 No.52

ひろり ★UNb4Cv5YoDU_S8

 きおは、ふらついているさらの手を引いて、街のすみにあるちいさなレストランへ連れてきた。
 店員に、二名です、とだけおだやかに言うと、奥にあるガラス戸を開いて、よく外の景色のみえるテラス席に座らせる。

「こんなお店、知らなかった」

 さらは笑いながら、メニューを開く。自分がいまなにを言ったかもわからないままで浮かべる笑みには、頬の重たさも感じなかった。

「おすすめはありますか?」

 さらはきおに問う。だけど、さらの目は、きおを見ていなかった。どこも、見ていなかった。
 きおはそんなさらに、

「好きなものを食べてね」

 とだけ、返した。



 すぐに来た料理は、さらの前に置かれる。きおにはジュースだけが置かれた。
 さらは、ハンバーグを頼んでいた。だけれど、さらは驚いた。なぜ、こんなものを頼んだのだろう。生まれて一度も、食べたことが無いものを。
 だけど、さらは目を輝かせたつもりで、笑う。

「わー、ハンバーグだ! わたし、ハンバーグ食べたこと、ないんだ! うれしいな」

 おかしなことを言っているな、とさらは思った。自分でたのんだのに、どうして感動しているのだろう?
 だけど、わたしは身体のなかの闇に閉じこもっている。自分の口さえ、見えない。なにを言っているのか、わからない。

 きおは、なにも言わずに微笑みながら、フォークとナイフを机のすみに置かれている箱から取り出すと、さらに手渡した。






「だいじょうぶ?」

 さらが食べ終わってはじめて、きおはさらに話しかける。
 さらの心は、その言葉を、すっと受け止めてしまった。涙が込み上げてきて、こぶしでぬぐいながら、一言つぶやく。

「わたし、おかしいよね……」

 きおは、そうっと、ほほえんだ。
 少しだけ黙ったあとに、きおは言った。

「いままで、辛いきもちを押し殺しながら頑張ってきたんだね」

 一瞬だけ、きおの言葉が、さらの身体のなかの時間を止めた。
 もういちど、時間が動き出したときには、さらは両手で顔をおおいながら、堪え切れぬ涙をながしていた。

「ずっと、そうせずには居られなかったんでしょう」

 のどが締まってしまったような苦しみも、涙の熱さにかわってゆく。

「それぐらいに、苦しかったんだね……」

 店員は、両手で顔をおおいながら泣いている、さらを一目だけ見ると、平らげられたお皿を持って行った。
 きおは自分のなかにうずくまって、しばらく戻ってきそうに無いサラを見て、そっとからだをサラから逸らし、横へ向けた。
 目のまえにひろがっている景色を見たあと、目をとじて、サラの泣き声をずっと聞いていた。

2010/10/19 01:41 No.53

ひろり ★UNb4Cv5YoDU_S8


 だれもが歩むべきしあわせ

 やがて 自分で見つけにゆけるようになるまで

 誰かに 教えてもらう頃に


 ずっと 傍でついていてくれた人を

 わたしは 失った


 だから


 しあわせを見つけにゆく頃になっても

 この足は 不完全で

 上手に 歩めなくて……


 それをたくさんの人に笑われる

 かなしみも 苦しみも

 そうっと 殺してゆくことが


 わたしのしあわせだって

 そう 思っていたの



2010/10/24 16:18 No.54

ひろり ★JJo4hfULUC_Whb

※暴力的表現あり






 夕方の色にやけた廊下のなかを歩いていると、向かっている教室から、誰かが出てくるのが見えた。こちらに歩いてくる。
 自分のこころの中のどこかにとどめていた姿だった。

 ――加藤さん。

 彼女はふらついていた。
 きおが微笑みかけようとするも、気付かずによたよたと歩いて行ってしまう。
 きおは彼女の姿がうしろすがたになって、遠くなってゆくのを見つめていた。とても暗い目。海の底を見つめているかのような、つめたい目……

 きおはつまさきを、彼女が歩いて行った方向から離して、歩み出した。
 教室のとびらを開き、自分の席へ向かおうとした、その時。

「加藤!!」

 教室の外から、聞き覚えのある声がきこえて、ふたたび立ち止まった。



 さらの身体が、びくりと止まる。
 さらの肩に、強く手のひらがおしつけられた。

「頼みたいことがあるんだけど」

 さらは振り向けなかった。だけど、目のまえにさなえとあみが回ってくる。
 あみの強い目が、さらを見つめて、ふん、と鼻で笑う。

「ブサイク」

 あみの声は、五人しか居ない廊下にひびいた。継いで、わらいごえがひびきわたる。
 さなえがさらを見下しながら、言った。

「これなーんだ」

 さなえの右手には、なにかちいさくて四角い箱と、ライターが握られている。左手には、粉のはいったビニール袋が握られていた。

 さらの肩を背後でおさえている、なおが爪先でふくらはぎを軽く蹴った。
 なにも話さないさらを見ながら、さなえは片手に握っているビニール袋をあみに手渡すと、ちいさな箱を開いて、さらに見せた。中には、たばこが敷きつめられている。
 さなえはたばこを一本取り出して、ライターで火をつけた。そして、ゆびではさむと、さらの口に近付けた。

「ほら、吸えよ」

 しかし、さらは、けむりのあがった煙草を見ていなかった。さなえの顔も見ていない。自分の体のなかを見つめているような目をしている。

「聞いてんの?」

 あみがさらの額を、ひとさしゆびで突っつく。しかし、さらはじっとりとした目を変えない。

 さなえが煙草をさらの口へ近付ける。
 結びもしなければ開きもしない唇に押し付ける。

「吸えよ」

 煙草はさらの口のなかに入ってしまった。
 あみたちが瞳をかがやかせて、はしゃぎ声をあげる。

「入れたよ!! コイツ、煙草吸ったよ!!」
「明日先生にチクろうよ! コレ犯罪だよつかまっちゃうよ!」

 黄色いこえのなか、煙草のけむりが喉に入ってきて、さらは咳き込んだ。煙草が足元に落ちる。
 さらはその場にひざまずくと、声を吸いこんでは吐き出すように息をした。胸が苦しい。

「んだよ、もっと吸えよ! ちゃんと人差し指と中指で持ってさ」

 なおがさらの胴体を蹴る。さらは倒れ込んだ。さらの手を持つと、落ちた煙草を持たせた。しかし、さらの手には力がなく、すぐにこぼれおちる。

「なにコイツ……」
「ねえねえ、口開いてるし、タバコ入れてやろうよ」

 さなえの発言に、それいいね、と二人が笑う。あみが煙草を拾い、さらの口に入れようとした時。
 向こうから足音がした。
 すよが振り向く。続いて、二人も振り向いて固まった。さらの口から煙草を遠ざける。
 そこには見たくない姿があった。

 大月きおが、息をきらせて五人を見つめていた。
 普段よりも強い光を込めた目で、五人をみつめる。

 さらの胴体に爪先をいれている、なお。片手に、いかにも怪しいものの入ったビニール袋、もう片方の手には、ちいさな箱を握っている、さなえ。突っ立って青ざめている、すよ。何よりも、呼吸を荒げてたおれているさらに乗っかかり、口に煙のあがった白いものを入れようとしている、あみ。

 加藤さらが自分がここに居なければさせられていたであろう事を理解する。
 きおは、何度も息をきらせながら、四人に向かってつぶやいた。

「なにしてるの……」

 その声は、廊下にしっかりとひびいた。

 きおはさらに飛びついた。四人は思わず、二人からのけぞる。さらの腕を自分の肩にかけて、立ちあがったきおは、四人に囲まれている中から歩き出そうとした時、さらの頭から落ちたものを見つけた。

 白くてほそながいそれは、まだ、けむりが消えていない。

 なおの顔が、ぱっと青ざめた。――あれを誰かに見せられたら、あたしたちが疑われる。
 きおがそれが何かを理解する前に――と、それをきおとさらの足元から掴み出そうとするも、きおの手がさっと奪いあげた。
 なおは、煙草を握っているきおの足元で、きおを睨みつける。

「ヒーロー気取りですかあ? ウッザ」

 なおが立ち上がり、きおと同じ視線になる。なおはただただきおを睨んでいる。きおも、なおを強い目で見つめている。

「あたし知ーらない!!」

 突然、となりで高い声がしたかと思うと、きおの肩に、なにかが投げ付けられた。ぱさり、と落ちたそれは、箱からこぼれおちたたくさんの煙草だった。
 投げ付けたのは、あみだった。

「明日にでも自白すればぁ?」

 あみは笑っているが、手が、焦りを隠せないでいる。

 きおはあみから目線を外すと、正面で、きおを睨んでいるなおを他所に、歩き出した。しかし、なおはきおの肩を、自分の肩で強くぶつけて止める。
 なおはきおの耳元で、ささやいた。

「ムカつくんだよ。お高く止まってんじゃねえよ。お前も痛い目に遭わせてやる」

 しかし、きおは聞こえていないかのように歩き出して行った。なおは恨みにしずんだ顔を浮かべた。


7年前 No.55

ひろり ★JJo4hfULUC_Whb

 からから、と、遠くから近付いてくる軽い音が、ゆきを乗せている。ちゃんと、生きている、ゆき君を。
 そう思うと、とみは椅子から立ち上がった。身体がふらつくのも構わずに、姿を現したベッドに横たわっている姿に飛び付く。

「ゆき君……!!」

 ゆきは、眠っていたように重たいまぶたをおしあげて、とみだと悟る。
 とみの片手に、ぬくもりが触れた。気付いて目を落とすと、ゆきのギプスを巻かれた手が、とみの手を握っていた。

「ありがとう……」

 ゆきの声は酷くかすれていた。ゆきは笑っていなかった。笑おうとしているのかは、とみには分からなかった。
 とみの目から、何度も涙があふれた。ゆきの身体に顔を伏せると、ゆきの手が、とみの頭をなでる。ギプスから感じるあたたかさは、確かにゆき君だったから、とみは声を失ったように泣いた。





 ――とみの頭に、衝撃がぶつかって、跳ねたような感触がした。
 医師の重たい顔は、嘘をついていない。とみは首を振った。

「どうして……?」

 医師は黙ったままで、とみから目を逸らした。

 とみは、何度も首を振った。そうして衝撃から逃れようとするけれど、衝撃はふりおとせない。
 見開いたままの目から、おおつぶの涙がこぼれ落ちた。

 とみは、椅子を立って、診察室から走り去った。


 気が付くと、ゆきの病室の前に居た。501、霜月ゆき、という文字をみつめる目には、もう涙はなかった。けれど、ひどく腫れていた。
 ノックをして、入る。しろいひかりが、ふわりと差し込む。そこに包まれていたのは、まぎれもなくゆきだった。ゆきは横たわったまま、とみに目を向ける。

「ゆき君、寝てた?」
「ううん。起きてた」

 本を読んでいてほしかった。窓を見ていてほしかった。だけどゆき君は、もう……
 そんな思いが、熱くとみの胸にひろがって、また泣きそうになる。けれど、とみは笑った。

「あのね! 折り紙、買ってきたの。ゆき君、色んなものを作ってくれたよね。有ちゃんも一緒に、一緒に色んなもの作ったよね。すごく懐かしくなったの」

 そう言って、とみは袋のなかから折り紙を取り出した。
 ゆきはそんなとみを見つめながら、そっと言葉をくちびるからこぼす。

「とみ」

 とみは折り紙から、ゆきへ目を向けた。ゆきの顔は、もう、真っ白になっていて、しろい光のなかに溶けてしまいそうだった。

「なあに?」
「なにか、あった?」

 心臓が、つき、と痛んだ。
 どうして、見抜かれたのだろう。いつものとおりで、明るくいたつもりなのに。

 ゆき君は、元気だったときも、わたしの心の波にすぐに気づいてくれていた。どんなにちいさくても、いつも。
 と、ふと、足の動いていた頃のゆき君を思い出して、思わずさっきまで保ちつづけていた表情がくずれてしまう。

「あのね」

 もう、隠し切れなかった。

「うん」

 ゆきのひとみが、ずっととみを見つめている。
 心の奥底から、沸きあがってくるなにかを抑えながら、とみは言葉のひとつ、ひとつを確かめるかのようにつぶやきはじめた。

「わたしね」
「うん」
「ゆき君をね」
「うん?」
「たすけたいの」

 ひざに置いていた手のひらに、力がこもる。

「だから」
「うん」
「わたし、ゆき君の、みがわりになる」

 ゆきのくちびるが、閉じた。




 けれど、ゆきは笑わなかった。そっと、ふたたびくちびるを開く。
 とみの心臓が、どきりと音をたてた。波紋が、表情にひろがる。

「とみ。おれ、もう、だめかもしれない」

 ゆきの顔は、すこしだけ、かなしみを浮かべていた。
 とみの顔が、はっとする。

「おれは、日に日に、弱っていってる。おれ、本当に治るの?」

 ゆきの目が、とみの手を見ていないことをたしかめながら、そっとこぶしを握りしめる。

 治るよって言おうとした時、のどが詰まった。
 涙が溢れ出て、呼吸ができなくなる。
 ゆきはそんなとみを見て、目をひらいた。

7年前 No.56

ひろり ★JJo4hfULUC_iIn

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7年前 No.57

NIE ★JJo4hfULUC_iIn

Title "Welcome to us world"


kneel in front of me
Say "I love you"
Swear that life is dedicated for me
You can not come to return to your world

You become mine.

Now your eyes is sad
But not become it sometime
You become happy
in my arm

Now,froat the smile at face
Make submession to me happy
Not possible to try to go out of here
Your world is here


You drop the knee
You put your hand to the floor
You smile...

You are mine

7年前 No.58

NIE ★JJo4hfULUC_iIn

三つもミスが見つかったので修正



Title "Welcome to our world"


kneel in front of me
Say "I love you"
Swear that life is dedicated for me
You can not come to return to your world

You become mine.

Now your eyes is sad
But not become it sometime
You become happy
in my arm

Now,float the smile at face
Make submission to me happy
Not possible to try to go out of here
Your world is here


You drop the knee
You put your hand to the floor
You smile...

You are mine

7年前 No.59
ページ: 1 2

 
 
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