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朝のつぶやき

 ( 書き捨て!小説 )
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山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_ayU

 この頃、コーヒーを多飲するようになって、いや、その実、アルコールをやめてから、それに代わるものが欲しくなり、それからコーヒーをという具合だった。
仕事前のアルコールを幾度と繰り返し、勤務先の同僚にも感ずかれてはいたと思う。ただ、それでもクビになることは無く、言ってみればその程度の勤め先だった。
 アルコールは薬物だ。麻薬と同じだし、狂ってしまう。というか、人間の底をさらけ出してしまう水であり、それが真実と言えば真実なのだ。しかし、そこを覆っているのが理性であり、本音だけをさらけ出していたら、社会が成り立っていかない。
 面白くないことがあると、父は必ず戸棚から日本酒をや焼酎を引っ張り出して時間に関わらず、飲み始める。饒舌になり、過去の何十年前の恨みつらみ、母の事やら子供の事、人の批判。これを夜中まで十時間以上一人で怒鳴るように話している。そんな行為を何十年も見てきた私であり、あんな酒飲みには絶対なりたくないと思っていたが、結婚を機に次第に晩酌を飲むようになり、気づいたらアルコール無しではいられなくなってしまっていた。

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山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_ayU

面白い名前で、鴉村博と言う名が私の名だ。
この姓の由来を祖父から聞いたことがあった。幕末のころの代からであったが、次第に血が薄れ、いまではうちだけなのだと聞いたことがあった。親戚縁者にそう言った姓は無かった。その分、人から名を覚えられてはいたが、特別な知識や能力もない鴉村に人は好んで寄ってくることは無かった。ただ、作業の部署がとある事務的な仕事を任されており、有資格者であったことから社内での存在はある程度は確立されていたのが救いだった。しかし、その職種を鴉村が必死に全うしなくても業務は回り、会社は進んでいくというスタンスにやる気を失っていたことな事実ではあった。
 子供が幼稚園に行き始めるころ、このままこの仕事を続けていっていいのだろうかと悩む日々が続いた。張り合いの無い、存在するだけの職務にうんざりし、何かをすることによって結果が得られる仕事が欲しかった。

5ヶ月前 No.1

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_ayU

「ほら、飲めや」
飲酒運転は緩い時代でもあったころか、会社の中で飲酒することが許されてはいない時代ではもちろんあったが、さほど気にも留められない時代でもあった。それだけあらゆることに隙だらけの時代であり、頭や要領さえよければうまい飯を食えた時代背景でもあった。
 事務所には作業場長と鴉村だけが居残りをし、残務を処理することが多くなる時期があった。作業場長の祓川は鴉村より一回り年上のいかつい顔の上司だったが、隠れた部分で業者から賄賂を受け取っていたのであろうと思われた。昔はそんなことであっても、暗黙の了解という領域があり、まさにそういう環境があったからこそ世の中が回ってきたという背景があった。
 業者から贈られた日本酒の封を切り、祓川はすでに赤ら顔になっていたし、従業員が帰る前からもう狂い水を飲み始めていたのだった。
白い陶器カップの中に注がれた液体はまさにそれであった。断ることもできず、礼を言い飲み始めるのであるが、まったく書類整理は捗ることは無かった。まさに祓川にしてみれば、共犯者を作り、自分は先に帰ると事務所を後にするというのがいつものパターンであった。
 当時鴉村の両親は民宿を営み、まだ繁盛していた時期でもあり、家に戻っても鴉村の居場所はなかった。言いつけられるのは子供たちの入浴と、後片付けくらいのもので、父は饒舌に客と酒を飲み、あることない事を吹いていたのだった。
会社が休みの日であっても、なにかと理由をつけ出勤し、雑務をこなし出面と残業代を稼ぐ日々であった。

5ヶ月前 No.2

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_ayU

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1ヶ月前 No.3

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_ayU

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11日前 No.4

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_ayU

在庫品
「新田さん、そろそろ新しい機種に変えますか?トミタ社の製品で良いのが出ておりますが・・」
「・・もう、もちませんか?」
新田正義は残念そうに言った。
「いえ、まだなんとも言えませんが、あと一年は保障できかねます」
医師は穏やかではあるが、事務的に言った。
 昨年は三度目の家を新築し、三十年ローンを始めたばかりなのに・・、今度は心臓か。
新田は断腸の思いで、新機種を入れることにした。

 西暦二千百年、人類の寿命は百五十歳となっていた。新田はまだ七十五歳、やっと人生の半分を経過したばかりだった。
百五十才になると、人間というより、人造人間と言った方が良かった。新田ほどの年齢になると、そろそろ脳細胞活性剤をつかい、脳の衰えを抑えるのだ。脳の販売はされていないが、他の臓器などのパーツはすべて病院指定の薬局で販売されていた。
 新田の心臓も、狭心症などのためバイパス手術を施していたのだが、五年前に人工心臓に切り替えた。数年は調子が良かったが、ここに来てどうも不具合が生じ、精神的にも参っていた。

 病院の隣棟の薬局は比較的空いていた。今は春であり、気候は落ち着いていたからだ。季節の変わり目には体の変調も多く、臓器を求めて来る客でごった返すのである。
 ショーケースの中には、ノーマル心臓やスポーツ心臓など、種類も豊富である。
新田はあごに手をやり、静かに物色するポーズをとっていた。
「お客様、どのような機種がお望みでしょうか?」
若い、新田の孫のような若者の店員が揉み手をしながら近づいてきた。
「あぁ、実は医師からの助言で、トミタ社の機種を薦められているんですが・・」
若い店員は、揉み手をそのまま胸の位置まで押し上げ、弁舌よく語り始めた。
「お客様のお求めの機種は、トミタ社スピリンタートリノですね。・・ですが、あいにくこちら今在庫切れとなっております。ですので、入荷まで一ヶ月以上お待ちいただくことになりますが・・」
「一ヶ月!?」
最近、動悸や不整脈が著しく、夜も眠れない日が続いている。ましてや、仕事も多忙を極めており、悠長に一ヶ月を費やすことなど出来ようもなかった。
「・・それまでに停止したらどうなるんだ?」
新田は店員を威圧するように、あえて低い声で問いただした。
若い店員は、ふと思いついたかのように拳を手の平で打ち、はつらつとしゃべり始めた。
「あっ、お客様。それでしたら今ちょうど良い物件があるんですよ」
「ほう?」
新田は訝しげな態度はとり続けていたが、一筋の光明を見るような目になっていた。
「残念ながら今現在は生産されていないのですが、ニッシン社のオールボディセルジオという機種が在庫であるんですよ」
「内容は?」
新田は聞いた。
「はい、全機能すべて人工で出来ておりまして、メンテナンスも月一回私どもの薬局に来ていただくだけで結構でございます。きちんとしたメンテナンスをお受けいただければ、半永久的に稼動するものとなっております」
若い店員は、新田が決めかねているのを見かねて電卓で値段をはじき出し、特別価格ということで差し出した。
液晶にはほぼ半額の値段が提示されていた。
「かなりお買い得と思いますが、如何でしょう・・・」
店員はかなり手ごたえを感じたようで、揉み手を解き、淡々と説明していた。
「よし、それに決めよう」
「そうですか、ありがとうございます。それではあと数日後に、こちらにお越しいただいて、新機種との交換手術に入りたいと思います」
 家のほかに、今度は自分の体まで買ってしまった。まったく想定外の買い物だった。ただ、これでまた健康な肉体でもりもり働くことが出来る。そう考えると新田は多少気持ちが軽くなった。

 ニッシン社のオールボディセルジオは実に具合が良かった。まず、体が疲れるということがない。それに空腹を感ずることもなく、尿意や便意もない。決まったペースト燃料を口に運び、咀嚼するだけで燃料が補給される。あらゆる煩悩から開放された新田は労働することが快楽であった。
 季節のうつろいを微妙に感じる頃、機種変更してそろそろ一ヶ月が経とうとしていた。最近少しづつだが、疲れがとれない日が数日続いた。なにやら体が重く、倦怠感が強い。ただ、燃料ペーストを摂った後には比較的疲れが解消されることが多かった。
ついつい仕事に熱中し、メンテナンス時期を一週ほど過ぎてしまってあわてて薬局を訪問した新田だった。
 薬局に着き、受付をすると店員は対応に苦慮しているようだった。
「この間の店員さんはいないんですか?」
奥のほうから店長らしき男が現れ、別室へ案内された。
店長は、覚悟を決めたように話し始めた。
「お客様に応対した店員は既に解雇されております。お客様がお使いになっております機種は既に生産がされておらず、パーツ部品が存在しないのです」
新田は怒りを抑えるように言った。
「それじゃ、私はどうなるんです?支払いしたお金は?私の今後の体は?すべてどうなってしまうんですか?」
金銭的な部分は、薬局のほうで金融機関に直接対応するとの事で話がついた。

 店長が呼んでくれたタクシーに乗り込み、住所を伝えるとしばらく新田は疲れて眠くなっていた。店長はそれでも誠意をもって対応してくれた。ここで完全なる対応をしてくれるだろうと地図を渡され、永久に楽な体で居られるとも言ってくれた。体の代金支払いはなくなったし、まぁ、よしとしなければならないだろう。ふと気分が落ち着き、しばらく眠ってしまった。
 車体がごとんと傾くと運転手の声がした。
「お客様、つきましたよ。料金は先ほどの店長さんからいただいておりますので結構です。それにしても、ご愁傷様です・・」
運転手のわけの分からない言葉が少し気になったが、外に出た。
巨大な灰色の建物があり、窓一つない要塞のように高くそびえている。天空に行き着くような煙突から、漆黒の煙がオレンジ色の太陽に向かって伸びている。
新田は歩き出す、地面はそこはすでにベルトコンベアーとなっており、目の前に広大なパネルがあった。そこには『不燃物処理場』と大きく書かれた文字があった。

11日前 No.5
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