Google
    
<< TOPページ 掲示板TOP 記事データ お知らせメール ▼レス(44) >>
★この記事には「性的な内容」「ショッキングな内容」が含まれます。もし記事に問題がある場合は違反報告してください。

  ぺろっとたいらげてしまいたい。

 ( 書き捨て!小説 )
- アクセス(197) - いいね!(4)

三築 ★9nhTubX7oI_m9i









   全部食べてしまいませう。













   //








   こちら、私の妄想の最終着駅となっております。エログロBLGLなんでもござれの世界でございます。
   苦手な方は、お戻りくださりますよう。閲覧は勝手にしていただいていいですが、自己責任で。











    ――――――→  ごちそーさまっ











ページ: 1

 
 

三築 ★9nhTubX7oI_m9i









「…亜伊織ィ、あたしになんかかくしてる事あるでしょ?」
 「なんの事でございましょう、宵さん」



 にこり、と形のいい唇が計算されつくした三日月状を描く。小さく舌打ちをすれば、「女の子が舌打ちしてはだめですよ。めっ」なんて
 ふざけた返しがきたもんだ。なにが、めっ、だ。いい年こいた大人が言うセリフではない。鳥肌ものだ。

 はあ、とわざとらしく息をついてみれば、目の前の男は、その胡散臭いさわやかスマイルを顔面に張り付けたまま、
 高い背を屈めて、顔を覗き込んでくる。無駄に顔面偏差値の高いツラが視界いっぱいに広がって、ああ、憂鬱。


 「また、何人か、病院送りにしたなお前この馬鹿」
 「だって、彼ら、宵さんに近づこうとするんですもん」
 「もんっ、じゃない!いい年こいた大人が語尾にそんなもんつけないでよ!きもい!」
 「っ宵さんにきもいと言っていただけるなんて……ご褒美です」
 「きもいきもいきもいきもい!」
 「ああっ、そんなにご褒美いただいていいんですか?……あ゛あ゛宵さんマジ俺の天使、愛してる俺だけのお姫様」

 「もうちょい心の声隠す努力ってのしてくんないかな?」









  / 香雅吏 宵 ( かがり よい )


  ザーヤク的なおうちの一人娘。ザーヤクにしようか、めっちゃ金持ちか、そのへんの設定はぐだぐだだけど、とりあえず
  やんごとなきおうちの人。名前に似合わず、男気溢れる高校3年。男だらけの家で育ったからか、口調がたまに荒くガサツ。
  根は真面目で、情に厚いいい子だが、たまに、冷酷な一面も垣間見える。自分の家の人間が自分を溺愛しすぎている事には呆れている。
  本人はあまり自覚がないが、香雅吏家の人外的に狂暴でオカシイ人間たちをコントロールできるのは彼女だけ。
  よく危険事に自ら首を突っ込んでいく好奇心旺盛な一面もあり、そのたびに狂犬たちが暴れ狂うので、育ての親である祖父に
  めちゃめちゃ怒られている。小さい頃から、好きになった人が悉く自分の前から消えるという現象がおき、
  途中で自分の事をおかしいくらいに愛している家の番犬たちの仕業だと知って、普通の恋愛を半ば諦めている。
  だが、香雅吏家の人間のことは、みんな大好きであり、大切な存在。





  / 宰染 亜伊織 ( ざいぜん あいおり )


  ザーヤク的なおうちに住む一人で、宵のお世話役。病的に宵の事を愛しており、傍から見れば「異常」。
  恋愛云々の次元ではないレベルであり、宵のためならば、喜んで自分の首を掻き切り、その辺の通行人も躊躇なく殺す。
  栗色のサラサラとした髪にヘーゼル色の瞳をしており、高身長で眉目秀麗なので、外見は爽やか王子というあだ名がつけられる程
  整っている。が、内面はどす黒く歪んだただのイカレ野郎。宵にされる事ならなんでも嬉しいので、貶されても
  息を荒くして喜ぶ変態。たまに心の声が漏れまくって、本人の前でもヤンデレメンヘラ思考がでちゃってる。
  喧嘩や殺しがオカシイほどに強い。人間ではない、と揶揄されることもあるほど。
  感情の欠落が激しく、冷酷。いつもにこにこと胡散臭い笑みを浮かべているが、宵に何かあると表情筋が死滅する。
  ただその死滅した無表情が彼の素顔。ただし、宵の前では忠犬のごとく甘える。香雅吏家には、宵が4歳の頃から住んでいる。
  香雅吏家の人間からは「アイ」と呼ばれている。







  ( 頭のオカシイ、ヤンデレメンヘラ化け物男たちから愛される(恋愛的アレを越えてる)やつかきたかったのだ )








2ヶ月前 No.1

三築 ★9nhTubX7oI_m9i











  「……宵さん」
  「うわっ、びっくりした!何やってんの、雛壱」
  「…宵さんこそ」



  相変わらず気配を殺すのが得意なこの男。あたしが深夜にコンビニにアイスを買いに行こうとこそこそと屋敷を
  出ようとした矢先、入り口付近の闇の中で紫煙を漂わせていたもんだから、本気で驚いた。


  「あ、あたしは、ちょっと、」
  「…口ごもるん怪しいですね。逢引ですか?」
  「あっ、あいびっ!?」
  「………そうなんですか?」


  ぐっと、雛壱の声色が低くなったのを察知し、あたしは急いで首を振る。その慌てようを逆に怪しいと感じたのか、
  今だ紫煙を漂わせる煙草を口に咥えたまま、雛壱がザッザッと近づいてくる。


  「…俺に内緒で男と会うんですか、宵さん」
  「いや、誰も男とか言ってないじゃん」
  「…その慌てっぷりが怪しいですね。どこの男です?殺してきてあげます」
  「っ自分ら、ほんとにすぐに殺す殺す言うのよくないからねっ!?そんでもってたまにほんとに殺すし!」
  「…宵さんのためですから」
  「何が宵さんのためだっ!あんたらのためでしょ!」


  けっ、と口をひん曲げてみれば、終始無気力そうに眼を伏せ、煙草を吸っていた雛壱が、小さく笑う。
  雛壱が笑う事は珍しい故、どうしても顔を凝視してしまう事は許してほしい。
  ふーっ、と口から煙を吐き出し、だるそうに小さく笑う彼は、あたしの頭に腕を伸ばし、優しくなでた。



  「…まあ、否めないっすね」








   / 汀 雛壱 ( みぎわ ひないち )


   常に気だるそうにしている男。大学3年で21歳。無気力低燃費がモットーゆえ、てきぱきと行動している事はほぼない。
   こちらも香雅吏家に住んでいる男で、年も近いことから、宵との親交も深い。よって、この人のおかしな愛情も異常で(以下略)
   無造作にセット(否、おそらく寝癖)された黒髪の隙間から見える瞳は、大抵眼の光を失っている。
   宵と話すときは少し眼の光が宿っているのだが、それに気付ける人間は少ない。何を考えているのか読めない男で、
   無口かと思いきや、たまに突拍子もない事や大胆な事を言い出す。意外と短気で「…お前喧嘩売ってんのか」が口癖。
   亜伊織のように、直接ドストレートに「愛してる」だの「可愛い」だのを宵には言わないかわりに、行動で示すことが多い。
   (頭を撫でたり、ハグをしたり、すりすりとすり寄ったり)香雅吏家イチのヘビースモーカーであり、一日二箱吸う事も。
   ひとつ言っておくと、この人も十分狂っており、人を殺める事になんの抵抗もない宵信者。
   香雅吏家の人間からは、「ヒナ」と呼ばれている。









2ヶ月前 No.2

三築 ★9nhTubX7oI_m9i





  / 寳月 雪占 ( ほうづき ゆきじ )



  / 絃萌 蝋色 ( いとめ ろいろ )



  / 三神 依終 ( みかみ いお )







   とりあえず名前だけっ!






2ヶ月前 No.3

三築 ★9nhTubX7oI_m9i

この投稿はフィルタされています。表示するにはアカウントにログインして下さい。

2ヶ月前 No.4

三築 @blacksnow2 ★9nhTubX7oI_m9i








  / 三神 依終 ( みかみ いお )





  香雅吏家に住む一人。高校一年生の16歳。思ったことをすぐ口に出す、よく言えば素直、悪く言えば単純馬鹿。
  喧嘩っ早く、遊び感覚で人を嬲る。雪占によくいじられている。宵の父親の愛人の子供なので、宵とは異母兄弟。
  故に、宵のことは「宵姉」と呼んでおり、慕っている。だが、その慕い方がまた通常の範囲を超えており、
  雪占とともに、隙あらば自分のものにしようと虎視眈々と狙っている。また、お姉ちゃんのように見ているようで、
  一人の女として認識しており、下心はいつでも満載。考えるよりまず先に行動しちゃうタイプなので、組の中では特攻の
  役割を受け持っている。明るく人懐っこいように見えるが、罪悪感というものが欠如しているため、こいつも中々に異常。
  宵が7歳の頃に、母親に連れてこられ、住む様になる。




  / 寳月 雪占 ( ほうづき ゆきじ )




  香雅吏家に住む一人。高校一年生の15歳。早生まれ。あどけない可愛らしい顔立ちをしているため、よく依終から「ロリ顔」と
  からかわれている。だが、本人はその幼い顔立ちをフルで活かし、上手に生きている。一人称は「僕」。
  依終の母親とはまた別の宵の父親の愛人の子供で、宵と依終とは異母兄弟。だが、宵のことを姉として全く見ておらず、
  隙あらば襲って既成事実をつくってやろうと考えている。こいつも安定に愛情が歪んでいる。依終のことは馬鹿にしつつも、
  同じ年齢で同じ境遇という事もあって、行動を共にする事が多い。だが、その分よくケンカもする。
  顔に合わせた、かわいらしい言動をするが、心の中はど汚く冷酷非情。宵の前では、特に猫かぶっている。
  すぐに飛び出す依終を諌める役割をしているが、たまに一緒になって暴れて、怒られる。依終の一年後に、
  母親に連れてこられ、香雅吏家に住むようになる。








2ヶ月前 No.5

三築 @blacksnow2 ★9nhTubX7oI_m9i

この投稿はフィルタされています。表示するにはアカウントにログインして下さい。

2ヶ月前 No.6

三築 @blacksnow2 ★9nhTubX7oI_m9i

この投稿はフィルタされています。表示するにはアカウントにログインして下さい。

2ヶ月前 No.7

三築 @blacksnow2 ★9nhTubX7oI_m9i

この投稿はフィルタされています。表示するにはアカウントにログインして下さい。

2ヶ月前 No.8

三築 @blacksnow2 ★9nhTubX7oI_m9i

この投稿はフィルタされています。表示するにはアカウントにログインして下さい。

2ヶ月前 No.9

三築 @blacksnow2 ★9nhTubX7oI_m9i








「お、やっとケイきたー!」
「ちょっと遅刻ギリギリじゃーん!」

「寝坊しちゃってさ!みんなおはよ!」





 朝の教室が、あいつ―――市条啓の登場によって、急に騒がしくなる。
 走ってきたのか、若干乱れている髪に上気した頬。うっすら汗をかいているのに、溢れる爽やかキラキラオーラに、
 反吐が出そうだ。10秒前くらいに教室に来たというのに、あいつの周りはすっかり人であふれていた。

 それに対して、おれは、朝一番に教室につき、窓側一番後ろの席でひたすらそういったクラスの様子を見ないように
 俯いて本を読む。イヤフォンを耳につけ、大きめに音を流してはクラスの雑音をシャットダウン。
 おれに挨拶をしてくる奴なんて勿論誰もいないし、近づいてくる奴すらいない。完全にいないものとしてみなされている。
 まあ、いじめられるよりはいい。おれは、空気になっていれば、何も害を与えられないんだから。







 「………っ日比谷も、おはよ!」





 そんなおれのルーティーンが、今日いままさにこの瞬間、ぶっ壊された。

 ヘッドフォンをしていても、何故かクリアに聞こえるその声に、反射的に顔を上げてしまう。
 そして、眉間にしわを寄せたまま、挨拶をしてきた主を見れば、少し離れた教室の中心あたりで人に囲まれているあいつが
 こちらをしっかりと見つめて、笑いながら手を振っている。………ふざけた事を、してくれるものだ。
 これだから、人に嫌われた事のないようなニンキモノは嫌いなんだ。自己中的な言動をしてくるから。
 自分の存在価値と影響力がどれほどのものか、わかっていないから。

 案の定、急に教室の隅で俯いて読書をするような陰気な奴に、学校の人気者が挨拶をしたとして、
 クラスからどよめきがあがる。どよめきたいのは、おれのほうだ。

 コソコソ。クスクス。あいつの周りの取り巻き陽キャラ共が、おれを馬鹿にしたように見ては笑うのが視界に入る。
 また、そのグループに入っていなくても、教室で談笑していた中間層の奴らですら、見下したようにおれを見ては、
 鼻で笑う。

 おれは何もしていないのに、急に惨めな気持ちになった。
 何が悲しくて、こんな公開処刑のようなことをされないといけないのか。
 なんでおれに挨拶なんぞしてくるんだ。昨日までしてなかったくせに。

 なんだかむかついてきて、おれはそのままそっぽを向いて、挨拶を無視した。
 途端、クラスがおれに対する非難と罵倒の嵐。おれはそんな中イヤフォンをつけ、必死にその誹謗中傷が聞こえないようにした。
 だって、おれは悪くない。




 「なにあの根暗陰キャ!ケイの挨拶無視するとかありえなくね!?」
 「あーもうほんと、あーゆーやつ無理!きもい!」






 ( ねむいからいったんきる )





2ヶ月前 No.10

三築 @blacksnow2 ★9nhTubX7oI_m9i









 「アイくん……それ頂戴」
 「嫌です。貴方は阿呆なんですか?あげるわけないでしょう」
 「なんで!いいじゃん!俺知ってんだよ!アイくん他にもたっくさん収集してるって!」
 「だからってなぜ依終にあげなくてはいけないんですか?」
 「くそー!けち!ドケチ!」
 「はっ、負け惜しみが」




 ………なんだか究極に面倒くさそうな会話をしているな。


 夜、寝付けなくて台所にお水を飲みに行こうとしていた矢先。階段を下り、台所にさしかかった所で、リビングから
 亜伊織と依終の声が聞こえて、反射的にあたしは陰に隠れた。一応このような家柄の女という事もあり、気配を消すことも
 苦手ではない。あたしは、そっと二人の会話の続きを盗み聞く。




 「くっそ……このスーパーヤンデレメンヘラ鬼畜変態ヤロウ!」
 「ふ、貴方の語彙力は小学生並みですね。それに、鬼畜変態なんて依終には言われたくないです」
 「んだと!」


 「―――――知ってるんですよ?この間、雪占と結託して宵さんに睡眠薬を飲ませようとしていたでしょう?」




 ―――――――は?



 思わず目を剥いてしまう。睡眠薬?は?なにそれ、いつ?なんだその物騒極まりない話は?
 急な衝撃カミングアウトに、あたしは廊下で一人頭を抱える。

 幼少のころから、この家の住人たちがあたしに異常に執着しているのはわかっていたし、別にだからといって
 大切な存在であることには変わりなかったけど。……けど!!!








 「…………今の話、どういう事?」



 「っひ!宵、姉…!」
 「…宵さん!?」




 さすがにその話は、聞き捨てならない。隠れて会話が終わって二人がいなくなるまで待とうと思っていたが、
 あたしはリビングで話す二人の前に、ドン、と仁王立ちをする。

 突然のあたしの登場に、いつもは余裕な態度の二人も少なからず驚いたようで、依終に至っては動揺しすぎて
 椅子から転げ落ちていた。このポンコツ。亜伊織も、少しびっくりしたように目を大きく開けてあたしを見つめる。
 少し同様の色が瞳に滲んだが、流石はこの家を御祖父ちゃんと共にまとめているだけあって、すぐにニコリと
 胡散臭い笑みを浮かべると、椅子から立ち上がってあたしに近づいてきた。




 「宵さん、こんな夜更けにどうしたんですか?眠れないんですか?ホットミルクでもおつくりしましょうか」
 「んなご機嫌取りなんかどうでもいいのよ。二人の会話の続き聞かせなさいよ」
 「……ずっと聞いてらっしゃったんですか?」
 「そんなに聞かれたくない事だったの?」



 あたしが、冷ややかな目線を送ると、亜伊織はなぜか頬を若干紅潮させてぞくぞくしている。
 そうだ、こいつには、罵詈雑言もすべてご褒美だった。もうこいつは無視。はい、次。



 「…依終。さっきの話の続き、聞かせてくれる?」
 「宵さん。俺がお話ししますよ」
 「ち、ちがうんだよ、宵姉。俺はやめようっていったんだ!でも雪占が!」
 「き、か、せ、て、く、れ、る?」
 「……宵姉ぇ」
 「宵さん、俺の事ガン無視…。はは、なんだこの放置プレイ最高…」




 もうぶつぶつ言って、息を荒くしている亜伊織は放っておくとして。
 あたしは、依終に向き合うと、無表情で話をするよう目で促す。



 「…出来心だったんだよ。雪占が、そろそろ宵ちゃん襲いたいねって。みだらな恰好させて、喘がせて、
  思いっきり中にぶちまけて、既成事実つくっちゃいたいねって。もうそんなこと想像するだけで、俺めっちゃ興奮しちゃって。
  だって、宵姉を好きにできるってことだろ?ああ、やべ、今も想像したら反応してきた…。
  でも、普通にしてたらそんなのできるわけないじゃん?うっとうしいアイくんとかヒナくんとかもいるし!
  だから、宵姉のスキをついて、飲み物に睡眠薬と媚薬入れちゃおうって…。でも入れてないよ!思いとどまった!
  えらくね!?俺、偉いよね、宵姉!!」

 「いや何個ツッコませるつもりだよ偉くないわ、しばきたおすぞ」




 はあ。この異母兄弟たちが頭のネジほぼ外れてるのは薄々わかっていたけど、ここまでとは。
 しれっと犯罪的なことを言っているのに気づいてないのかこいつは。



 「もうしねーから、俺!正々堂々と宵姉、襲うから!だから、許して…?」
 「いやもう、ツッコむ気力もない……」


 あたしがため息をついて、頭を抱えても、馬鹿で素直な依終は犬の如くあたしにすり寄ってくる。
 もうあたしが半ばあきらめて、さっさと自室に帰って寝ようと踵を返した時だった。




 「っつーか!俺の罪が暴かれるなら、アイくんの罪も暴かれるべき!」
 「は、?亜伊織もなんかしてんの?」
 「まさか」
 「まさかじゃねーよ、変態ヤロウ!さっきまで自分がなにしてたか宵姉にちゃんと言えよ!」




 もう頭が痛い。亜伊織の方を訝しげに見れば、殺したくなるほどの爽やか笑顔で見つめ返される。
 そんな自信満々な顔をされても、何も信用できない。なぜなら、こいつらの「普通」は「異常」なのだから。



 「何やったか、言って亜伊織」
 「変な事はしてませんよ」
 「言いなさい」



 「宵姉の使用済みの歯ブラシと、穴が開いたから捨てようとしてた靴下と、さっき宵姉が飲んでたジュースのストローを
  収集して、自分の部屋にコレクションしてるって言えよ!!!」




 ………部屋に、静寂が訪れる。あたしは完全にフリーズ。だが、当の本人はニコニコとした笑みを浮かべたまま、余裕の表情だ。
 いやなんで余裕の表情なのか意味が分からなすぎるし、ぶん殴りたい。
 そんなあたしの意図がわかっているのか否か、亜伊織は、他の女ならコロッと悩殺できそうな甘い笑みを浮かべてあたしを見つめた。



 「俺、宵さんの事本当に愛してるんです。好きで好きでたまらないんです。だから、宵さんのものなら、なんでも
  欲しくなってしまうんですよ。収集したものだって、舐める用と保存用と観賞用に分けていますよ?
  宵さんが使ったもの、宵さんの匂いが少しでもするもの、宵さんの体に触れたもの、全てが欲しいんです。
  わかりますよね?愛ゆえの行為です」




 ……いやわかんないし、やだもうこいつら。














1ヶ月前 No.11

三築 @blacksnow2 ★9nhTubX7oI_m9i

この投稿はフィルタされています。表示するにはアカウントにログインして下さい。

1ヶ月前 No.12

三築 @blacksnow2 ★9nhTubX7oI_m9i

この投稿はフィルタされています。表示するにはアカウントにログインして下さい。

1ヶ月前 No.13

三築 @blacksnow2 ★9nhTubX7oI_m9i

この投稿はフィルタされています。表示するにはアカウントにログインして下さい。

1ヶ月前 No.14

三築 @blacksnow2 ★9nhTubX7oI_m9i







 「依終くんも、雪占くんも、雛壱くんも、亜伊織くんも、お元気そうで安心しましたわ」





 うふふ、と目を細めて笑う女――――標祠玉響(しるしじ たまゆら)は、ふと、4人の後ろで
 虫の息の男二人を見つけ、口の端を歪に吊り上げた。



 「あら、この方達は、?」
 「…しらばっくれんなよクソ女。きもちわりぃ笑み浮かべやがって」
 「ふふ、雛壱くん、こわぁい」


 ふわり、とワンピースを揺らしてクスクス笑う玉響に、雛壱は珍しくイライラとした様子で舌打ちをした。




 「ヒナくんは、ほんとに昔から玉響のこと嫌いだよなあ」
 「まあ、あんなコトがあったしね」



 そんな二人を、やれやれといった様子で依終と雪占が見つめる。
 雛壱の嫌悪感丸出しの視線を感じながら、愉快と言わんばかりに微笑む玉響は、4人の間を縫って血の海に
 横たわる二人の前に立った。そして、にっこり。虫も殺さぬような優雅な笑みを浮かべて――――。








 「しーねっ□」













   *














 「―――玉響!!あんた、帰ってきてたの!?」
 「まあ、宵ちゃん!また可愛くなって…!この卑しい犬たちに食べられちゃやですよ」
 「かえって早々、なんちゅー発言かましてくれてんの、あんた」




 時刻はあの倉庫の一件から3時間後。午後9時を廻っていた。

 だだっ広い居間には、香雅吏家のトップ、宵の祖父である、香雅吏柳三(かがり りゅうぞう)、
 そして、宵、亜伊織、雛壱、依終、雪占、そして黒スーツの男達。
 加えて、玉響が集まっていた。突然大所帯がわらわらと帰ってきたと思えば、数年ぶりに会う家族的存在の
 玉響がにこにこしながら一緒に敷居をまたいでくるものだから、宵は仰天した。



 「卑しい犬っていう点でいうと、おめーも一緒だろ」
 「まあ、依終くんたら。私、猫派なので、それなら卑しい猫にしてほしいです。にゃんにゃん♪」
 「あいっかわらず、そういうコトするのに躊躇ないよね、玉響は」



 依終と雪占が嫌味たっぷりに絡むも、玉響は華麗にその嫌味をかわす。
 昔から食えない奴だ、と、二人は心の中で通じ合った。依終と雪占が香雅吏家に来たころには、
 もう玉響はここに住んでいた。宵とは何の血のつながりもないが、香雅吏家に忠誠を誓う、立派な香雅吏家の住人。
 そして、昔から、くすくす、うふふ、と笑っては、何もかもを華麗にかわし、人を煽るのが大好きな性悪。

 そして、何より4人が玉響を気に食わないのは、宵に対する思いが4人と同じだからである。




 「宵ちゃん。ほんとにまた可愛くなって。ああ、ほんとに、性別、性別さえ違えば……」
 「ちょっと、玉響。目が濁ってる。目が」



 そう。玉響も、宵を病的に愛している一人なのである。年齢が近い、そして同性という特権をもつ玉響は、
 幼いころから宵と行動を共にする事が多かった。ゆえに、宵も玉響への信頼は厚く、それもまた4人は気に食わない。



 「……玉響。久々に宵さんに会えてうれしい気持ちはわかりますが、少し真面目なお話をしても?」
 「あらやだ、私ったら。柳三さんまでいるのに、気が利かなくてごめんなさい。お話しなさって?」

 「では。……今日、宵さんの誘拐の手引きを手伝ったとして、この家にいた裏切者を二人処分しました」


 「え、?」




 香雅吏家の二人を除けば、実質屋敷で権力をもつ亜伊織が、すっと立ち上がり静かにはなった言葉に、
 宵だけが驚愕の表情を浮かべた。他の者たちはほとんどあの倉庫の場にいたし、家に残った人たちも事情は勿論
 知っていた。宵は、眉間にしわをよせたまま、口を開く。




 「……まってよ、ウチからあたしの誘拐に手を貸したやつがいるっていうの、?」
 「…宵さん、黙っていて申し訳ありません。貴方が傷つく顔が見たくなくて」
 「………うそだ」


 しん、とその場が静まり返る。誰よりも香雅吏家に住むみなを大事に思っている宵だからこそ、精神的ダメージが大きかった。
 俯いて肩を震わせる宵を、いつもの4人が心配そうに見つめる。そんな中、宵の隣に座っていた玉響が
 そっと、宵の事を抱きしめた。鼻を掠めるフローラルな甘い香りに、宵は少しだけ心が落ち着いた気がした。

 だが、心が落ち着かなくなった連中もまた然り。





 「あんのやろ…!宵姉と近いからって抱き着きやがって!」
 「見てあの触り方。ちょっとやらしくない?絶対狙ってるあの泥棒猫」
 「……ちっ」
 「はあ、宵さんを抱きしめていいのは俺だけなのに、俺が抱きしめて宵さんの全てを癒してあげたいのに」




 シリアスな場面でもこんなことを言ってしまうから、残念な連中である。
 だがそんな4人にふっと視線を寄越した玉響は、勝ち誇ったように目を細めた。



 「宵ちゃん。落ち着いて。大丈夫、もう宵ちゃんが苦しむことはないですわ。殺 し た か ら」
 「、え?」

 「宵ちゃんがみんなのためを思って傷ついているのはわかってるわ。裏切られてつらかったよね…。
  でも安心なさって。もうそんな事が起きないように、みーんなの前で殺しておいたから。その二人」

 「殺した、の?家族、だったのに」
 「まあ宵ちゃん。何をおっしゃるの。宵ちゃんを裏切った時点で、あんな方々勘当ですわ。
  まあ、私が行った時点では生きてたのだけれど…。許せなくて、私が殺しちゃいました、うふふ」












   *










  標祠 玉響 ( しるしじ たまゆら )




  22歳。香雅吏家に昔から住んでいる女。大学にはいっていない。香雅吏家でのハニートラップ要員。また、戦闘員。
  ゆるゆるとしたパーマでキャラメル色に染めている。たれ目であり、右目の下に泣きボクロがある。
  いつも「ザ・女子」という恰好をしており、香雅吏家の中にいると割と浮く。口調は丁寧で穏やか。
  すぐに微笑む癖があり、その笑いで本音をごまかしている節もある。口調はゆるゆるとしているが、人を煽って
  怒らせるのが大好きな性悪。また、こいつも4人と同じく頭のネジがぶっ飛んでいるため、宵と柳三のためならば
  躊躇なく人を騙すし、殺す。ハニートラップ要員ということもあって、見事なスタイル。今はいろんなところで
  香雅吏家のために情報収集や、香雅吏にとって不利益である者の抹消のため、全国を転々としているため、
  本家にはいない。だが、たまに予定が空くと帰ってきては、宵にべったり。4人ともよく衝突しているが、
  なんだかんだで仲間意識はあるよう。雛壱と過去になにかあったようで、雛壱からだけは本気で嫌われている。
  男と寝た数が星の数かってくらいの清楚系ビッチ。ハニートラップ関係ないとこでも、男を食い荒らしている。

1ヶ月前 No.15

三築 @blacksnow2 ★9nhTubX7oI_m9i

この投稿はフィルタされています。表示するにはアカウントにログインして下さい。

1ヶ月前 No.16

三築 @blacksnow2 ★9nhTubX7oI_m9i











 「よぉ、梧桐」
 「こんにちは、御堂くん」
 「ああ、こんにちは………じゃねえよ!何お前、まだ屈服する気にならねんだ?」
 「屈服しましたよ。はい。してます」
 「違う!俺の求めてるのはそういうんじゃねえ!」
 「そうですか」
 「…あ゛あ゛ッ、お前まじでうぜぇなオイ。じゃあいっちょ、今日の分といこうぜ?」




 下校のチャイムが鳴ったと同時に、珠璃は、京華の机をガン、と蹴る。
 相当なご挨拶だが、京華は特に何の感情もこもっていない瞳で、目の前に仁王立ちする珠璃を見つめた。
 これから、またいつものいじめが始まる。誰もが悟ってはいるが、誰も止めやしない。
 この王様のいうことは、この学校では絶対なのだ。万が一にでも、このいじめを止めようとしたならば次の日
 自分の席はなくなっているだろう。だから、誰も止めない。京華の味方は、この学校には一人もいなかった。

 ガゴン!と激しい音を立てながら、京華は椅子から落とされる。地べたに這いつくばるようにして倒れこむ京華に、
 珠璃が目で合図すると、男たちが鉄パイプを片手に京華のもとに群がった。
 なぜ鉄パイプなぞ持っているのか、という疑問に対しては、王様の命だとこの学校では何でも許されると
 答えざるを得ない。

 ガキン、と鈍い音がする。京華の体のどこか骨の部分に、鉄パイプが直撃したらしい。
 いじめている側ですら、目をそらしている者もいるほど、圧倒的な集団リンチ。
 だが、暴行を受けている本人は、少し体をよじらせた後、はあ、とため息をついて、そのまま横たわった。
 瞳には、完全なるあきらめの色。そう、彼女はすぐに諦めてしまうのである。

 彼女の体には、どんどん赤黒いアザや滲んだ血が刻まれていく。一応頭には当たらないようにしているのか、
 首から下にどんどん傷が増えていくが、それでも彼女は特に抵抗もせずに虚空を見つめていた。
 早く終わらないかな、といわんばかりのその態度に、男たちもムキになって暴行をエスカレートさせる。


 ―――彼女への暴行が終わったのは、一時間後だった。





  *






 「……ああ、もうこんな時間か」




 意識を飛ばしていたらしい。京華がゆっくりと教室の床から起き上がると、教室は夕暮れに包まれ、
 校内スピーカーから、最終下刻を告げるチャイムが鳴り響いていた。
 意識を飛ばしている間に、いじめっ子集団は帰ったらしく、教室には京華しかいなかった。

 節々痛む体に、いう事を聞かない足。血だらけでボロボロの京華は、また、はあ、と小さく息をつくと、
 携帯を取り出した。人に頼るということは、特にしないのだが、今回は足が完全に使い物にならなくなっているので致し方ない。

 普段全く使用しない携帯を開くと、フォルダにあるたった一人の名前。

 京華は、静かにそのボタンを押し、電話の相手に迎えを頼んだ。










  *







 「京華、派手にやられたね。酷い怪我だ」
 「今日も今日とて。わざわざごめん」
 「ううん。京華、普段全然メールも電話もしてくれないし、頼ってくれてすごく嬉しい」




  目の前でにっこりと微笑む男に、京華は特に表情を変化させることなく、「おんぶ」とだけ呟く。
  普段お願いなどを全くしない京華の催促に、甘いマスクの男は、蕩けそうな笑みを浮かべて彼女をおんぶした。



 「とりあえず、病院にいこっか」
 「致し方ない。よろしく、密」
 「姫の仰せのままに」



 背中から香る甘い匂いと柔らかな感触に、顔を綻ばせながら、男――――条仙寺密は廊下を歩く。
 京華といえば、激痛の走るからだながらも、学校を出るころには、密の背中でぐーすかと眠りについていた。











1ヶ月前 No.17

三築 @blacksnow2 ★9nhTubX7oI_m9i

この投稿はフィルタされています。表示するにはアカウントにログインして下さい。

※警告に同意して書きこまれました (性的な表現)
1ヶ月前 No.18

三築 @blacksnow2 ★9nhTubX7oI_m9i








 「あっ、京華!」




 弾んだ声音が後方から聞こえ、ゆっくり振り返ると、男女に囲まれた密がにっこりと笑い、手を振っている。
 京華は、特に表情に変化をもたらさず、ただ進んでいた歩をとめた。



 「珍しいね、いつも家の近くまでこないと会わないのに」
 「今日、帰り道かえてみたの」
 「そっか。会えてうれしいよ、一緒に帰ろう?」


 嬉しそうに微笑んで小走りで京華の元まできた密に、京華は小さく首を振った。


 「いや。騒がしいの苦手だからいい」
 「ああ、そんなこと。……ごめんね?今日、この子と帰るからもう帰ってもらっていいかな?」



 意地でも京華と帰りたい密は、くるりと振り返ると、少し遠巻きで様子を窺っている男女に笑いかけた。
 隣の高校で「王子様」と呼ばれ、もてはやされ、崇められている密のいう事をきかない者などいない。
 京華のことを気になりつつも、特に話しかけてくることもなく、男女グループは踵を返して去っていった。




 「よかったの?わたし、一人でもいいんだけど」
 「そんな悲しいこと言わないで?僕が京華と帰りたかったからこうしただけだよ」
 「ふうん」


 特に興味なさそうに返答する京華に、密は小さく笑う。感情の起伏がなく、何を考えているのかよくわからない京華であるが、
 幼いころからずっと接してきた密は、このような京華の態度に慣れているので何も思わない。



 「今日は学校どうだった?大丈夫だった?」
 「大丈夫ではなかったよ」
 「…なにされたの?」
 「犯されたかな」


 「―――――え?」



 密のにこやかな微笑みが、ぴくりと歪む。だが、京華は特に密の顔をみるわけでもなく、至極普通に今日起こった事を
 話し出した。



 「主犯格の男に、なぜかキレられて、空き教室で。ボタンはちぎられるし、キスマークはつけられるし、
  最後までしっかりされたから、困った」


 淡々と話す京華に、さすがの密も黙りこくってしまう。なんでこの子は昔から、自分の事にこんなに無関心で無頓着なのだろう。
 どうして、自分が傷ついて、汚されて、としていくことに抵抗がないのだろう。
 密は、苦し気に眉をひそめた後、努めて笑顔で京華の顔をのぞきこんだ。



 「キスはされちゃった?」
 「うん、なんか最後のあたりで」
 「京華。ちょっときて」
 「うん」


 密は、自分の胸の奥にふつふつと湧き上がる怒りと憎悪の念を押し殺して、人気のない路地裏に京華を誘導した。
 ほいほいとついてくる京華に、苦笑いしながらも、密はぐっと京華の腕をつかむと、壁に押し付けた。



 「なに?」
 「キスマーク。みせて?」
 「いいよ、はい」


 こんな状況下でも、まったく表情の変わらない京華に、密は複雑な気持ちになりながらも、京華が捲し上げた
 セーラー服の下の白い素肌に目を移す。そして、ぴくぴく、と片目が痙攣した。これは、怒りからくるものだ。



 「………その主犯格クンは、ずいぶん独占欲が強いんだね?」
 「どくせんよく?」
 「――――真っ赤な花だらけ。中々の喧嘩の売り方だ」



 密の言っている意味がよくわからないのか、無表情ながらもこてんと首をかしげる京華に、密はふっと微笑むと
 クイ、と京華の顎を持ち自身の整った顔を近づけた。



 「消毒させてよ、京華」
 「消毒?」
 「その主犯格クンにキスされたの、僕で上書きして?」
 「ああ、うん。どうぞ」


 完全無欠の爽やか王子、と言われる密に迫られて、こんな超絶塩対応をするのは京華だけだろう。
 だが、密はその答えに満足げに小さく笑うと、そのまま京華の唇に自身の唇を重ねた。
 ちゅ、ちゅ、と最初は小鳥が啄むようなフレンチキスであったが、徐々に角度を変えて、激しくなっていく。


 「んっ、きょうかっ、」
 「…っぁ」


 舌を割り込ませ、無抵抗の京華の舌に強引に絡ませると、濃厚なディープキスをし続ける。
 夢中で京華の口を味わう密と、小さく吐息をもらす京華。そんな小さな吐息に、密はぞくぞくと高揚感が支配する。


 「っはぁ」


 名残惜しそうに離れた唇からは、銀の糸が垂れていた。酸欠からか、頬を上気させ、息を少し荒げる京華を
 見下ろす密の瞳は情欲に濡れていた。だが、ここでコトに及ぶほど、獣じみていない密は、そのままゆっくり京華を抱きしめた。



 「こんな乱れた京華を見ちゃったら、その主犯格クンの気持ちもわかっちゃうなあ。でも、僕の大事な京華の
  こんな顔を拝んだってだけで、そいつのこと許せないや」



 京華から特に返事はない。だが、密はそのまま京華を抱きしめ続け、頭の中ではその主犯格クンに対する報復と
 嫌がらせの考えを練っていた。











( 京華はきっと、なんかさせろというと、それを諦めて抵抗するのだるがって全部了承するから、密のきもち考えると
  ちょっとせつねえな!!きっと、今のキスも、密が幼馴染で特別だったからとかではないのが悲しい )










1ヶ月前 No.19

三築 @blacksnow2 ★9nhTubX7oI_m9i

この投稿はフィルタされています。表示するにはアカウントにログインして下さい。

1ヶ月前 No.20

三築 @blacksnow2 ★9nhTubX7oI_m9i








 「落ちましたよ、おにーさん」
 「……あ」





 あどけない声に、ぱっと振り返ると、入学したてなのか、ぱきっとしたセーラー服に身を包んだ少女が
 自分の紺色のハンカチを差し出している。スーツに身を包んだ男は、それに慌てて、その少女に駆け寄った。



 「ありがとう」
 「どういたしまして」
 「………?」


 ハンカチを差し出しているものだから、そのまま受け取ろうとハンカチを手に取り、自分のもとに引き寄せる。
 だが、少女はなぜか、ハンカチをぐっと掴んだまま離さない。


 「どうした?」
 「………この。このハンカチ、手作り、ですか?」


 なぜか、何かを躊躇うように口を開く少女に、男は首をかしげる。なんでそんなことが気になるんだろう。
 あ、手芸部かなにかか。…男は、心の中で勝手に結論付けて、じっとこちらを見つめてくる少女に小さく笑いかけた。



 「そう。俺の大事なヤツからもらった、手作り。へったくそだろ?でもお守りみたいなもん」



 男が言い終わったのと、少女の手がハンカチからするりと離れ、踵を返して走り出したのはほぼ同じタイミングだった。
 姿が遠のいていく少女に、男は困惑した表情で立ち尽くす。
 何か気に障るようなことをいってしまったか。それとも、ただからかわれたのか。
 最近のガキの考える事はわかんね、と、男は頭をぽりぽりかいて、手に握りしめたハンカチを開く。


 「もう13年たつのか、」



 紺色の正方形の左隅に、下手くそなウサギのイラストの刺繍が刻まれているソレを、男は懐古するように見つめる。
 今でも、目を閉じれば、「かわいいでしょ!」と自慢げにこの刺繍を見せてくる少女の声が聞こえてきそうだった。






 「………っ圓羽」











   *








   貴生川 浅葱 ( きぶかわ あさぎ )


  13年前、当時14歳の頃に、幼馴染で恋人であった波瀬圓羽を失った悲劇の過去をもつ。
  冷静で落ち着いているが、たまにぬけている所があるお兄さん。現在27歳。大手企業の会社員をしている。
  13年たった今でも、圓羽のことが忘れられず、容姿端麗ゆえにモテるが、恋人はつくらない。
  最近出会った女子中学生に、たまに圓羽の面影を見る。





  波瀬圓羽(はぜ みつば) / 栗原 美邦 (くりはら みくに)


  同一人物であり、圓羽が転生した姿が美邦。つまり、美邦は前世の記憶をもった人間。
  圓羽は天真爛漫であり、好奇心旺盛な性格だった。が、14歳の時下校途中で信号無視の車にはねられ死亡。
  浅葱とは恋人であり幼馴染という特別な存在であった。そして、美邦へ転生をする。
  圓羽の記憶を持っているが、あくまで美邦という少女であるため、性格も若干異なり、美邦の方が落ち着いている。
  だが、たまに取り乱したりすると年相応な少女になる。偶然浅葱と出会ってしまい、前世の記憶もちということを
  言いたいが言えずに苦しんでいる。冒頭のシーンでは、あの後ハンカチを未だに大切にしている浅葱を想いめちゃめちゃ号泣してた。
  浅葱と美邦として仲良くなっていくが、たまに前世を彷彿とさせるような態度や言動をするので浅葱も何か感じている。







 ( 急に転生ものがかきたくなったぜ )








1ヶ月前 No.21

三築 @blacksnow2 ★9nhTubX7oI_m9i









 泣きじゃくる美邦に、浅葱は困惑した表情で近寄った。




 「どうした?美邦。俺、なにかまずいこと言った?」
 「…っいいえ、いいえ…!貴生川さんの、せいじゃないです!ただ、思い出しちゃって…」
 「思い出す?」
 「わたしも、約束を、守れなかったから、」



 ぼろぼろと大粒の涙をこぼしながら、美邦は座り込んだ。




 「来年も、一緒に、ここに、こようって、」
 「っ」



 ぼそり、と美邦が呟いた言葉に、浅葱はぴくりと反応して、美邦を見つめた。
 その言葉を忘れた事など、浅葱は一度もなかった。
 だって、その言葉を残して、いなくなってしまったのは――――。




 「み、つば、?」




 気づけば、ぽろりと口から零れ落ちていた言霊。それに、今度は美邦がびくっと反応をする。
 だが、座り込んで俯いたままの美邦は、唇をかみしめて、眉をきゅっとあげると、そのまま勢いよく立ち上がった。



 「っ仲のいい友達と約束をしてたんですよ!でも、わたしが遠いところに引っ越しちゃって!いけなかったの!その事思い出しちゃった!」



 涙目のまま、にこりと笑って浅葱の方を見る美邦に、浅葱は一瞬瞳を揺らして―――そして、ゆっくりと瞳を閉じて
 うなずいた。何かに気づかないふりをするように。なかったことにするように。




 「………そっか。そりゃあ、つらかったな、美邦。でも、大丈夫だよ」
 「きっと、その子はまだ怒ってる。私が約束を破ったから」
 「怒ってないさ。その子はきっと、美邦が行きたくてもいけなかったこと、わかってる」
 「うそ。その子は、絶対いこう、って言ってたんです。でも、わたしが何の前触れもなく遠くに引っ越しちゃったから。
  っもう、約束の場所へは、っいけないって、言えないまま、会えないような距離にいっちゃったから、」
 「美邦」


 また声が震えだした美邦を優しい瞳で見つめる浅葱は、ゆっくりと美邦を抱きしめた。




 「その子は、もちろん美邦が何も言わず急にいなくなってしまって、悲しんでると思う。もう会えないっていうのは、
  本当につらいことだからな。でも、その約束を破ってしまったことは、絶対怒ってないよ。だってきっと、その子は
  美邦のことを本当によくわかってくれてて、美邦のこと、大好きだと思うから」




 その言葉に隠された暖かい真意を、美邦はゆっくりとかみしめながら、浅葱の胸の中で泣いた。







  大丈夫だよ、俺は怒ってたりしない。だから泣くなよ―――――圓羽。







 ( わけがわからんくなった )








1ヶ月前 No.22

三築 @blacksnow2 ★9nhTubX7oI_m9i







路地裏に、悲鳴がこだまする。






 「ゆっ、許して下さっ」
 「誰かたすけてっ」
 「くるってる…っ」



 「ああああああああ!!うっせえよ!!許すわけねえだろ死ねよ死ね死ね死ね!!!!お前ら、なに俺の宵に手ェだそうとしてんだよ、
  そんなに殺されたいのかよ!!ぜってえ殺す!!宵は、俺のなんだよ、俺だけ見てればいいんだよ、俺に依存して俺だけのために
  笑って、泣いて、怒って、絶望して、狂って、生きてくれればいいんだよ!!それをなんでお前らみたいなクソどもに邪魔されねえと
  いけねんだよ!!しね。しねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしね!!俺と宵の世界を壊すなんて、ああああああああ
  意味わかんねえ、なんでそんなことすんだよ、二度と日の目をみれねえようにしないと。はあ、宵、宵かわいいよ、愛してる、
  宵、すき、すきだすきだよすきすぎて頭おかしくなりそう。だから、さっさと害虫駆除しないと。俺と宵の世界に、お前らみたいな
  のはいらないんだよ。ああああああ無理だ無理、こいつらだけじゃやっぱ無理だ!!!
  学校の奴ら、全員殺したい!!全員殺して、俺と宵だけの世界にしたい!!」




 「…………騒がしいですね」





 さらさらの銀髪を頭皮から血がにじむほどかきむしりながら、狂乱状態に陥っている蝋色の前に、すっと人影ができる。
 そして、蝋色がゆっくりと顔をあげると同時に、その顔面に鈍い衝撃がはしり、蝋色はそのまま2メートルほど吹っ飛んだ。





 「ってめえ……」
 「何やら宵さんの名前が聞こえましたので、ここに来てみれば、やはり貴方でしたか。一番の不要因子。
  宵さんに近づいた男を駆除して下さるのは助かりますけど、我々からすればあなたもその害虫のうちの一人ですよ」




 にっこりと黒い笑みを浮かべながら、倒れこむ蝋色にゆっくりと近づくスーツ姿の優男。
 その背後には、先程助けを求めていた男三人が瀕死の状態で倒れこんでいた。









 ( よくわからんけど、亜伊織と蝋色の絡みと、蝋色くんの情緒不安定マックスな叫びをかきたかっただけ )








1ヶ月前 No.23

三築 @blacksnow2 ★9nhTubX7oI_m9i

この投稿はフィルタされています。表示するにはアカウントにログインして下さい。

1ヶ月前 No.24

三築 @blacksnow2 ★9nhTubX7oI_m9i








 「宵姉ものんでみなよっ!」






 そういって依終から渡されたのは、ビール。正直飲んだことはなかったが、皆がいつもおいしそうに飲んでいる光景を見ていたため
 興味津々の宵は、いつもは飲ませまいと邪魔をしてくる亜伊織や雛壱がいないのをいいことに、依終からコップを受け取ると、
 そのまま、ぐいっと一気にあおった。そして、その後顔を思いっきり顰めさせる。


 「なにこれっ、にがっ!苦い!何か甘いものちょーだい!」
 「え、甘いものっていまこれくらいしか…」
 「それでいいから!かして!」


 依終が持っていたのは、甘いわりに度数も意外とあり一気飲みをすると酔いやすいカルーアミルク。
 それをばっと奪い取ると、宵はそのまま一気にそれを喉に流し込んだ。

 そして、ビールとカルーアミルクをイッキした宵は、途端に頭がぐわんと回るような感覚に襲われる。
 そのまま、酩酊状態に陥った宵は、ふわふわとした感覚のなか、目をとろんとさせて、依終の方を向く。


 「よ、宵姉、だいじょうぶ、?ごめん、宵姉ぜったい弱いのにいっぱい飲ませちゃって…」
 「いおぉ……」
 「っ!?宵姉っ!?」


 はあ、と熱っぽい息をはいた宵は、ふらふらとした足取りで依終に近づき、そのまま抱き着いた。
 普段では絶対ありえない行動に、依終も目を見開いてあたふたする。だが、そんな依終をしり目に、宵は依終の背中にしっかりと
 腕を回し、ふにゃふにゃとした笑顔で依終にすりすりと頬ずりした。


 「いおのうでのなか、きもちいー」
 「っっ、よ、宵姉、ちょ、まって、俺やばい、」


 いつものつんけんとした態度からは想像できない甘えっぷりに、依終はノックアウト寸前だった。また、彼のモノもまた、
 はちきれんばかりにズボンの中で主張している。このままだと確実に襲ってしまうと考えた依終は、宵を離そうと、
 宵の肩に手をかける。


 「よ、宵姉、ちょっと一旦はなれよ、?」
 「やっ!いおは、よいとぎゅーしたくないの?」
 「したいです。」


 舌足らずで甘え口調、そして上目遣いで柔らかな体を摺り寄せてくる宵に、依終が抗うすべも理性を保つすべもなかった。
 何かがぷつん、ときれた依終は、宵を畳へ押し倒す。いつもならものすごい抵抗されるのに、素直に床に倒れ、赤い肌を晒す宵が
 なんとも扇情的であった。依終は、宵に跨る。それだけで、喉がごくりとなった。宵は抵抗するわけでもなく、はあ、と
 艶めかしい吐息をもらしながら、依終をしたから見つめる。そんな姿をみて、正気を保てるほど、依終は大人ではない。
 はあはあ、と息を荒げながら、宵のその赤い唇に自身の顔を近づけていった―――――。







 「―――――――なにしてるんですか?」
 「お前ってつくずく殺されたがりだな…?」
 「ふーん。僕にだまって、そんなことしちゃうなんて、依終は死刑決定だね〜?」





 3つの声が聞こえると同時に、依終の甘い夢は粉々に砕け散ることになるのだが。











 ( いったんきり )




1ヶ月前 No.25

三築 @blacksnow2 ★9nhTubX7oI_m9i












 「んっ、やだ、密くんっ、はげしっ」
 「センセイ、ここがいいんですか?」
 「あんっ、やっ、だめえ!!」




 ぎしぎしと軋むベッド。中学2年生であるこの少年は、中学生とは思えない甘いマスクと妖艶な雰囲気で
 自分の下でよがる女に微笑む。センセイ、と呼ばれた女は、密の家庭教師であった。
 両親が忙しく、家に一人でいることも多い密にとって、このような事はよくあることであった。

 密自身、このような行為に何の感情も持ち合わせていないため、何かの条件を提示してその見返りとして
 行為をしているのだが、女の方は大抵密に本気になり、ずぶずぶとはまっていく。

 そして、今回のこの女が密とヤれる条件は「中学2年の範囲の全教科要点ノートをつくること」。
 だが、密は実際問題、家庭教師などいらないほど優秀であった。

 では、なぜそんな条件を提示したか。すべては、彼の愛しい愛しい幼馴染のためであった。



 「あっ、そこおっ!」
 「ここですか。いっぱい突いてあげますね」
 「やあっ、ひそかくんっ、すきぃっ、すきぃ!!」


 にっこりと笑いながら、女のイイトコロを激しく責め立てる彼は、根っからのドSである。
 女の熱烈な告白も、甘い笑顔でさらりとかわし、そのまま絶頂へ導いて―――――





 「…この疫病神が!!!しね!!しね!!」



 そんな激しい律動は、窓の外から聞こえてくる絶叫にも近い怒鳴り声によって、ぴたりと止まった。
 女は蕩けた顔のまま、「やあ、じらさないでよぉ」と甘え声をだすが、密は窓の方をじっと見据えて、
 すっと女の上から降りた。突然の事に女は、え?え?と困惑の声を出す。
 だが、女には見向きもせずに、密は窓の方へ近寄って行った。そして、じっと窓の外の光景を見つめる。



 「ねえ、ひそかくん…はやくつづきぃ……やだ、なにあれ」



 そんな謎の行動に混乱しつつも、密に後ろからすり寄って甘える女が、ふと密の視線の先の光景をみて、
 うわ、と顔をゆがめた。それは嫌悪感にまみれた表情で。ちらり、とそんな彼女を横目で見る密の表情が
 恐ろしいほどに冷めていたことを、女は知らないようだった。




 「…やだー、あれって虐待〜?はじめてみたんだけど!」




 窓の外に見える光景。それは、密の隣の家の玄関の外に放り出されたセーラー服の女のコが、母親らしき人物に
 馬乗りされ、何度も何度も体を殴られている光景であった。
 そんな凄惨な光景にも関わらず、早く密と続きがしたい女は、密の腕に豊満な胸を押し付け、つづきをせがむ。
 だが、密はじっとその光景を見た後、くるりと踵を返し、部屋のドアの方へ向かっていく。
 急な行動に、女はぽかんとその場へ立ち止まっていた。






 *







 「―――――京華」




 密が声をかけると、玄関の外に倒れていた女の子がゆっくりと体を起こした。その顔面は赤く腫れあがっており、
 セーラー服は砂と血で汚れていた。だが、女の子は無表情のまま、自分を見下ろす美少年に目を向けた。



 「ああ、密。どうしたの?」
 「………おばさん、帰ってきてたんだ?」
 「うん、昨日ね」
 「……いたい?」
 「うん、まあ。でもいいよ。諦めてるから」


 淡々とした口調で話す女の子に、密は普段の完璧な王子様な表情から見られないような険しい表情をつくった。




 「家には、入れてもらえないの?」
 「らしいね。鍵かかってたし」
 「…晩御飯はもう食べた?」
 「まだだよ」
 「…そういえば、お昼も何も食べてなかったね?」
 「ああ、そうだったね」
 「――――いつから、食べてないの?」
 「さあ。昨日の朝くらいじゃない?」
 「……っ京華」



 いつもの甘いマスクではなく、苦々しい表情を浮かべる密に、京華は首をかしげる。
 そして、密がそんな京華に手をのばしかけた時だった。



 「っひそかくん!!!」



 部屋に残してきた家庭教師の女が、服を着て追いかけてきたのか、密の背後から抱き着く。
 その瞬間、すっと密の表情が冷めていくのを、女は気づいていないようで、口を開いて甘えた声をだした。



 「もうっ、いきなりでてっちゃうんだから…!いじわるなのね。早く戻って続きしましょ――――あれ?何この子」



 密の奥に体育すわりをしている薄汚い恰好の京華を目に留めた女は、じろじろと京華を見た後、瞳に蔑みの色をもって
 小さく笑った。それが密の逆鱗にふれるともしらず。



 「ああ、あなただったの?さっき虐待されてたの――――」
 「センセイ」
 「あっ、なあに密くん!」


 「あなたは、クビです。今すぐ僕たちの前から消えて下さい」







  *









 「さっきの人よかったの?」
 「ん?京華が心配するようなことはなにもないよ」
 「別に心配はしてないけど」
 「ははっ、京華は手厳しいなあ」



 あの後、女を完膚なきまでに言葉で叩きのめした密は、またにっこりと笑って、京華の横に座った。



 「服、汚れるよ」
 「構わないよ。京華とお揃いだね」
 「変なの」


 京華が首をかしげると、先程の表情とはうってかわって、嬉しそうに密は京華の頭を撫でる。



 「そろそろ帰りなよ、密」
 「んー、僕も今日家に一人だし、京華がずっとここにいるなら、僕も一緒にいようかな」



 ふふ、と笑って、京華を見つめる密に、京華はしばらく黙ったあと―――――





 「やっぱり密って、へんなの」





 小さく、笑った。












1ヶ月前 No.26

三築 @blacksnow2 ★9nhTubX7oI_m9i

この投稿はフィルタされています。表示するにはアカウントにログインして下さい。

※警告に同意して書きこまれました (性的な表現)
1ヶ月前 No.27

三築 @blacksnow2 ★9nhTubX7oI_m9i








 「ひぐっひぐっ」




 玄関の扉を開けるとともに、聞こえてくる幼い泣き声。それにすぐさま玄関にすっ飛んでいった影がいた。




 「宵さんっ!!!どうしたんですか?誰かに何かされたんですか?どこか痛いですか?」



 甘いマスクを心配で歪めた少年が、ランドセルを背負った小さな少女に跪いてオロオロとしている。
 そして、ランドセルを背負った少女は、泣きすぎて赤く腫れあがった瞳でそんな少年を見つめた。



 「よい、がっこいきたくない」
 「誰かに何かされたんですね?全部言ってください。明日には全て解決させますから」
 「ふえ、ふええええん!」
 「あっ、泣いてる宵さん萌える…。ではなくて。大広間にいきましょう?」


 ぽろりと本音がこぼれる少年だったが、ぼろぼろと大粒の涙をこぼし続ける宵を心配そうに見つめると、
 ひょい、とその小さな体を抱っこして、大広間まで運んだ。
 ちなみに、宵のことをどんな年齢でもばりばり性的対象としてみているこの少年―――当時15歳の亜伊織が、
 抱っこの際に感じる宵の柔らかくてもちもちとした体の感触にいちいち興奮していることは、ここでは省略する。





  *





 「宵さん、お帰りなさいまし!!」
 「っおい待て!宵さん泣いてないか!?」
 「誰だ泣かせたやつはあああ!!」


 「みなさん落ち着いてください。宵さんが大きな声でびっくりしてしまわれますよ」




 大広間に集まっていたクロスーツの男たちが、宵の泣き顔に騒いでいるのを諌めるように笑う亜伊織。
 まだ中学3年の彼であったが、風格はもはや社会に立つ者のソレであった。
 そんな彼の一喝に、ぴたりと静まる大広間。そして、亜伊織から名残惜しそうに降ろされた宵は、大粒の涙を
 ぽろぽろと落としながら、ランドセルを下した。



 「ねえ、あいおり」
 「はい、なんでしょう」

 「よいは、いきてちゃだめなこだった?」

 「――――はい?」



 「きょうね、クラスの子にいわれたの。おまえのせいで、おまえのおかあさんとおとうさんはしんだんだって。
  おまえはいきてちゃだめだったって。おまえがしねばよかったって」


 「………」



 「よいは、しねばよかったの?」
 「――――宵さん」




 胸の中に煮えたぎるような憤怒の念をたぎらせながら、目の前で悲しそうに呟く少女を怖がらせないように、至極やさしめに
 亜伊織は口を開いた。



 「俺たちにとって、宵さんは宝物です。宵さんが生まれてこなければ、宵さんがここにいてくれなければ、
  俺たちはとってもかなしいです。俺たちにとって、宵さんは生きる源ですよ」

 「みなもと?」

 「宵さんと俺たちは、家族なんです。宵さんがいてくれるから、俺たちも生きてられるんです」




 宵にしか見せないような慈愛に満ちた瞳で宵の頭を撫でる亜伊織。
 だが、脳内には、至高の存在である宵にとんでもない発言をした者たちへの復讐で満ちていた。









  *










 「ただいまあ」
 「おかえりなさい、宵さん。学校はどうでしたか?」
 「うん、あのね。よいに、へんなこといってきた子たち、皆いなくなってた!なんでだろう?」
 「ふふふ、不思議ですね。―――――――宵さんに仇なすから……」







 ( 亜伊織くんは、一番まともそうで一番頭のねじぶっ飛んでるから、たぶん全員子供でも関係なく殺したか、両親殺して
   「君のせいでしんじゃったね?君がしねばよかったのにね?」とか子供に言い聞かせてトラウマ植え付けてる )









28日前 No.28

三築 @blacksnow2 ★9nhTubX7oI_m9i

この投稿はフィルタされています。表示するにはアカウントにログインして下さい。

22日前 No.29

三築 @blacksnow2 ★9nhTubX7oI_m9i












 「……ただいま戻りました」





 ぼそり、と呟きながら玄関の引き戸を開ける。だが、返ってくるのは静寂。
 おかしいな、今日は宵さんが家に残ってるはずなのに。

 今日は男達総出の仕事で宵だけが留守番であった。そして、一人早く仕事が終わった者が安全のため早めに帰宅するという
 ことだったのだが、ぶーぶーとヤンデレお世話係とうるさいツインズに言われながらも、雛壱が一番早く終わったため、
 帰宅したのだ、が。

 ミーンミンミン、とアブラゼミの鳴く音が響く。
 妙な静寂に、雛壱は眉をひそめて広間に歩を進めた。



 「…宵さん?」



 そして、広間の戸を開けて、心の底から安堵の息を漏らす。広い畳の空間で、宵が薄着のまま寝っ転がっていた。
 すう、すう、と小さく寝息が聞こえる。雛壱はいつもは死滅している表情筋をゆるりとあげ、宵に近づいた。


 「…そんな恰好で寝てたら、風邪ひきますし、」



 襲いますよ。


 最後の一言はほぼ吐息に近いようなボリュームだった。だが、何かを感じたのか、宵が、んん、と唸りながらうっすらと
 目を開ける。
 ぼうっと焦点のあってない瞳で見つめられ、雛壱はまた小さく笑った。



 「…宵さん」
 「…ひないち?ひないちだあー」
 「…っ!?」



 まさに青天の霹靂。焦点のあっていない瞳が雛壱を捉えた瞬間、宵はふにゃりと笑い、そのまま宵の傍に膝をついていた
 雛壱の胸の中にダイブしたのだ。咄嗟の事に、雛壱も宵を支えながらも自身は畳に打ち付けられる。
 そして、珍しく焦ったように宵を見つめた。



 「…宵さん?どうしたんですか」
 「ひないちー。ふふふ、ひないちのしんぞう、うるさーい」
 「………っち、酔ってる…」


 明らかにいつもと違う言動。そしてこの舌足らずでたどたどしい喋り方。おまけによく見ると、顔も体も赤いし、
 目はうるんでいる。そして、ほのかに宵からはお酒の香りがした。

 その現実に、雛壱は、はあ、と深い深いため息をついた。
 以前、依終のバカが宵にお酒を飲ませた際、それはそれは大変だったのである。
 あの時は、依終を半殺しにしたものの、いざ同じ状況になってみると、耐えられるのか一概には言えないというのが本音だ。

 というのも、宵は元々、この家のみんなを家族だと思っているので、家の中でも堂々と薄着であるきまわるのだが、
 従者たちからすると、たまったものではない。宵のことは勿論家族として想っているが、それ以前にばりばり性的対象として
 見ているからである。おまけに、宵は綺麗なスタイルをしており、キャミソールと短パンから覗く手足や、キャミの隙間から
 垣間見える胸に、何人の男達が悩殺されているか、本人は知らないのである。

 そして、今、そんな薄着の宵が目の前にいて、しかも自分を押し倒している。
 いつもは極力触れすぎないようにセーブしているのに、今は体のどこもかしこも密着していて、
 熱くて柔らかい宵の肢体に、普段無表情の雛壱も、「っ」と息を詰まらせた。


 「……確かにこれはやべえな」
 「なにがやばいのー?ねえ、ひないちー!ぎゅーってしてー」
 「……大方、ジュースと間違えて酒飲んだってオチか…」
 「ひないちー!ぎゅー!」
 「……いいんですか宵さん。俺が今あなたを抱きしめると、それだけじゃ終わらないですよ」
 「いいよぉ、ひないちとだったら、なんでもゆるしてあげる!」
 「……はあ、なにその殺し文句…。どこで覚えてきたんですかそんなモン」


 自身の手のひらをおでこに乗せ、はあ、と大きく息をつく雛壱。そんな雛壱に抱き着き、頬をすりすりと雛壱の胸元に
 寄せる宵。流石に我慢の限界だった。


 「……依終のこと言えねえわ」


 ぼそり、と呟くと、雛壱は自身の腕のなかに収まっている宵の腕をつかみ、そのまま反転させる。
 そして、見事に畳に宵を組み敷くと、スマートに覆い被さった。そして、うるんだ瞳と紅潮した頬で自身を見つめる宵に、
 無表情の中に情欲を燃え上がらせ、そのまま宵に顔を近づける。
 そして、赤い頬に軽く口づけた。小気味よいリップ音が響く。宵が、くすぐったそうにふにゃっと笑うと、
 雛壱は珍しく嬉しそうに口角を上げた。そして、頬、額、鼻、まぶた、首、宵の色々な所に口づけを落としていく。
 そのたびに、笑ったりくすぐったそうに身をよじらせる宵に、雛壱は至福の表情を浮かべた。


 「…たまんね」







 ( いったんきる )






21日前 No.30

三築 @blacksnow2 ★9nhTubX7oI_m9i









 「……んん」





 小さく身をよじる京華を見下ろす影。すうすうと綺麗な寝顔で無防備に自分のベッドで眠る彼女に、その影は
 少しだけ困ったように笑い、そしてベッドの淵に腰掛けた。



 「京華、京華。おきて」
 「……ん、ひそ、か、?」
 「うん、おはよう」
 「……ん、」


 昔から、朝に弱い彼女は、ぼんやりとした瞳のまま目をこすると、自分を見下ろす端正な顔立ちの影を見つめる。
 ぼーっとしたまま、京華が全く動かないので、密はしょうがないなあ、と嬉しそうに笑い、京華の膝裏と背中に腕をまわし、
 そのまま京華をお姫様抱っこでかかえあげた。


 「ご飯はどうする?和食か、洋食か」
 「……ごはん…」
 「和食だね。デザートはどうしよっか?」
 「……よーぐると?」
 「ふふ、ヨーグルトね、わかった。寝ぼけてる京華、最高にかわいいね」



 お姫様だっこされ、階段を下りている間も、半ば夢の中状態の京華に密はるんるんと効果音がつきそうなほど、
 上機嫌に京華に話しかける。いつもの淡々とした口調ではなく、どこか柔らかくあどけない口調の京華に、密は
 頬をゆるゆると緩ませた。



 「僕が食べさせてあげるね。はい、京華。あーん」
 「ん」
 「ふふ、おいしい?」
 「おいひぃ…」
 「かわい。ほら、次いくよ。あーん」



 ぼーっとしたまま、椅子に座った京華に、密は甲斐甲斐しく口元まで朝ご飯をもっていく。それに、
 口を開けてはもぐもぐと咀嚼する京華を、密は頬杖をつきながら、ニコニコと笑い見つめる。
 朝ご飯の時間は、それのルーティーンであった。そして、朝ご飯を食べ終わる頃、徐々に頭が覚醒してきたのか、
 京華はもぐもぐとご飯を頬張りながら、目の前で上機嫌な笑みを浮かべ、自分を見つめる密に問いかけた。




 「…なんで私、密の家にいるの?」
 「ふふ、昨日京華が家の前で倒れてたから、僕の家まで連れてきたんだよ」
 「倒れてた?……ああ、家までもたなかったんだ。それはごめんね」
 「ううん。家の前で倒れてる京華を見た時は、血の気が引いたけど…。無事でよかったよ。痛いところはない?」
 「うん」
 「また、やられたの?あの主犯格クンに」
 「まあ。最近キレてるんだよね。よくわかんないけど」



 どうやら、学校での暴力に体が悲鳴をあげ、家の前でバタンキューしてしまっていたらしい。
 自宅の前で倒れている京華を発見した密は、顔面蒼白で急いで自分の家に連れて帰った。
 というのも、京華の家の事情も中々複雑で、とてもあの状態の京華を家に帰すことはできなかったのである。



 「ああ、それたぶん僕のせいだよ」
 「密の?なんで」
 「京華に八つ当たりしてるんだよ、彼。ほんとにガキっぽいね」
 「よくわかんないけど、どうでもいいや」


 心底興味なさそうな京華に、密は愉快そうに口元をゆがめる。かわいそうに、主犯格クン。
 京華の中で君の存在は、とってもちっぽけなものみたいだよ。



 「それより、京華。今日は僕がお世話するから、京華はじっとしててね」
 「密も大概変わってるよね。人の世話がしたいの?」
 「ふふ、京華のお世話がしたいんだ。だから、今日は全部僕に委ねてね?」


 にっこりと蕩けそうな甘い笑みを浮かべる密。


 僕の可愛い可愛い京華。ご飯もお風呂も着替えも歯磨きも寝るときも、全部奉仕して、どろどろに甘やかしてあげる。

20日前 No.31

三築 @blacksnow2 ★9nhTubX7oI_m9i









 「會津野様がご到着されたようですよ」
 「亜伊織。もうちょっと顔どうにかしなさいよ」
 「申し訳ございません。忌々し……失礼いたしました、會津野様は少々、変わられているので」




  今朝からバタついていた本家。というのも、今日は香雅吏家と同盟関係である會津野(あいづの)一家が
  此処に来るというのだ。そして、今しがた到着したという連絡を受け、宵は、んーと腕を伸ばすと、ソファから立ち上がった。



 「じゃあ、お出迎えするかあ」
 「……そうですね」



  どこか含みのある笑顔をする亜伊織を横目で呆れたように見つつ、宵は玄関へと向かう。そこにはすでに大量の革靴と、
  屈強そうな男がぎっしりと居たものだから、宵も苦笑いする。



 「會津野家の皆さま、ようこそお越しくださいました。広間へご案内いたします」



  亜伊織がきびきびとみなを誘導する中、一家の一番後方でいまだに靴すら脱がずにぼけっとしている一つの影を見つけ、
  宵は、呆れたように息をつくと、その影に近寄った。




 「――――――――スイ」




  声をかけると、ぼけっとしていたその影が、ゆっくりと宵の方を向き、そしてへらりと笑う。




 「あ、宵。ひさしぶり」
 「また、ぼさっとしてるから、皆においてかれてるじゃない!ほら、はやく靴脱いで!」
 「んー」
 「あ、あんた、踵踏んでるじゃない!こんなにいい靴なんだからちゃんと履きなさい!」
 「宵、俺のおかあさんみたぁい」



 のんびりとした間延びする口調に、宵ははあ、と息をつくと無理やり靴を脱がせる。
 そして、「あ、家の中にちょうちょ入ってるよ〜ちょうちょー」なんて、幼稚園児かとつっこみたくなるような事を
 言っているスイと呼ばれた少年を宵はぐいぐいと大広間に強引に引っ張っていった。




 「ちょっとスイさん!まーた、宵姉さんに迷惑かけてんじゃないすか!」
 「かけてないよ。宵は俺のおかあさんになりたいみたい」
 「何馬鹿な事言ってんのあんた」



 ふにゃっとした口調で、部下にへらへらと笑いかけるスイに、宵はイラついたように軽くスイをどつく。
 それに、「いたぁ」と言いつつ、スイは會津家の面々の輪の中に入っていった。





 「―――――ああ、やっと戻ってきてくださいましたね宵さん」
 「いちいち大袈裟なのよあんた」
 「宵さんがあの男と二人きりなんて考えただけで、俺は気が狂いそうでしたよ…」
 「あーもう、スイが来るたびにメンヘラ発動すんのやめなさい!」









 ( いったん切り )








  會津野 彗 ( あいづの すい )



 香雅吏家と同盟関係である會津野家の嫡男で、跡取り。宵と同い年だが、別の高校。
 基本的にぼけーっとうわの空でいることが多く、ぼさっとしているためよく何かにつまづいたり転んだりしてる。
 言動もゆるゆるふにゃふにゃと間延びしたものが多く、せっかちな人にはたまに苛々とされることも。
 他人の事にも自分の事にも無頓着であり、普段の様子から、よく跡取り失格だとか、弱そうだとか言われているが、
 本人はまったく気にしていない。しかも、會津野家の中で一番ひょろく弱そうであるが、実は一番強い。
 覚醒すると、とんでもない瞬発力と身体能力を発揮するが、喋り方などはそのまま。
 宵の許嫁とされているが、香雅吏家の面々の猛烈な反対により、家同士の口約束のもので効力はないものとされている。
 だが、本人は「別に宵となら結婚してもいいよ」と発言しており、香雅吏家の番犬たちからは嫌われている。
 声に抑揚がなく、表情もそんなに変わらないので、本心が読めない。だが、だいぶ天然が入っており、
 素で色々とハラハラするような言動をする事が多い天然小悪魔。変わっているが、本作の中では意外と常識人かもしれない。

18日前 No.32

三築 @blacksnow2 ★9nhTubX7oI_m9i









  六ノ災厄






  第一災厄 焔 ( ホムラ )

  第二災厄 霤 ( アマダレ )

  第三災厄 陸 ( ミチ )

  第四災厄 疾 ( ヤミ )

  第五災厄 導 ( シルベ )

  第六災厄 空蝉 ( ウツセミ )







  焔


  火にまつわる災厄の権化。荒々しく短気で、喧嘩っ早い。霤とは犬猿の仲。体からいつでもどこでも発火させることが可能。
  真っ赤な短髪で、ムキムキの体をしている。若干釣り目で、それが目つきの悪さを助長させている。
  気に食わないと、すぐに災厄を起こすため、霤にいつも注意されている。




  霤



  水にまつわる災厄の権化。冷静沈着で、常に敬語。焔がつっかかってくるのを軽くあしらうのが日課。
  体からいつでもどこでも水を出現させることが可能。その規模は、水一滴から、30mの津波にまで及ぶ。
  いつも無表情か軽く微笑んでおり、手をきちんと前で揃えて立っている事が多い。前髪ぱっつんのストレートロングで、
  腰位まで長さがある。




  陸



  土地にまつわる災厄の権化。いわゆる地震や干ばつである。ぼーっとしている事が多く、よく皆に世話を焼かれている。
  地震、地割れ、といった地関係の災厄であるからか、顔半分が干からびたようにぱきぱきにひび割れている。
  ぼやっとしているが、他人に興味がないため、災厄を起こすときにも全く躊躇はない。ダークブラウンのさらさらとした髪をいている。




  疾



  病気、疫病などにまつわる災厄の権化。名前の通り、陰気でいつもフードを深くまでかぶっている。身長が低く、
  男性というよりは少年という表記が適する。癇癪もちで、普段はおとなしいがたまに爆発するときがある。
  深紫のアシンメトリーな髪で、右目はすっぽりと隠れている。その右目に災厄の源が宿っているが、疾に触れるだけでも
  疾が意図すればその人間は病気になり死ぬ。いつも真っ黒なフード付きコートに身を包んでいる。





  導



  事故にまつわる災厄の権化。全ての事故にまつわる災厄であり、彼自身はへらへらとしたお調子者にみえるが、
  瞳の奥は笑っておらず、本心は見えない。根っからのパリピとコミュ力おばけであり、誰にでもフランクに話しかけるが、
  一度逆鱗に触れるととても冷酷。明るい金髪のツーブロで、耳にはあまたのピアスが光る。女たらしでもあり、霤をよく
  口説こうとしているが、相手にもされていない。口癖は「しょうがないよ!事故だもん」。





 空蝉




 この世における災厄全ての権化。つまりチートヤロウ。喋り方は穏やかで、落ち着いている。
 襟足の部分だけ三つ編みを伸ばしている不思議な髪形。いつも優しそうな笑顔を浮かべているが、全ての災厄を統べる者なので
 実際は冷酷非道。圧倒的なカリスマ性と統率力を持っており、くせ者ぞろいの災厄たちをまとめている。










  ( 厨二でしかない )




17日前 No.33

三築 @blacksnow2 ★9nhTubX7oI_m9i








 「うわ、うっざ。宵のまわりにいる害虫どもや」
 「その台詞、そっくりそのまま返してやるよクソメンヘラ銀髪猫!」




 出会った瞬間、ここまで嫌悪感をお互い滲ませる関係というのもある意味珍しいのかもしれない。
 偶然街で、ぶらぶらしていた蝋色と、香雅吏家の番犬たちが出会ってしまって、何も起きないはずがない。
 ただ、今日はいつものメンツにプラスして、異色な人間が一人混じっていることに、蝋色は眉をひそめた。



 「誰や、その地面に座り込んで蟻んこ数えとる間抜けは」
 「ああ、こいt……この方は、俺たちの家と同盟関係にある家柄の跡取りですよ」
 「はあ?こないな間抜けが跡取り?」
 「おい、言われてんぞー、彗」



 みんなが臨戦態勢の中、一人のんきにぼやぼやしながら地面に座り込み、蟻を指さして数えていた彗は、
 それは傍から見れば、そういった家の跡取りとは程遠いだろう。幼稚園児の方がまだしゃんとしているかもしれない。
 だが、蝋色が嘲るように言った言葉は、昔から散々言われている事なので、特に気にする様子もなく、彗はこてんと
 首をかしげて、立ち上がる。



 「え、だれ?」



 そして、どうでもよさそうに、呟いた言葉に蝋色がぴくりと片眉をあげる。雪占が傍らから「あおるのうまいじゃん」と
 嫌味を垂れても、彗はただただ不思議そうに首をかしげるだけ。
 そんな状況に、口の端を歪にゆがめた亜伊織が、こほん、と軽く咳払いをすると蝋色と彗の合間に立った。



 「お互い、自己紹介をしてはいかがでしょう?」



 そして、にっこりと、「素性の知らない男が宵さんと同盟関係を結んでるなんて、嫌でしょう?」と挑発するように微笑めば、
 蝋色は、ぴき、と小さく額に青筋を浮かべつつも上っ面だけ笑顔を張り付け、ぼーっとしている男に向かって口を開く。




 「絃萌蝋色。高3。宵と同じ学校に通ってんねん。そんでもって、宵の唯一の親友。宵は俺の世界なんや。いつか、俺と宵が共依存して、
  そこの犬ども全員殺して二人きりの世界つくろう思っとるんや。あんたも邪魔するなら殺すからな」



 挑発的な自己紹介に、番犬たちはわかりやすく殺気を滲ませるが、彗は、ふうん、とただ小さく呟いて、
 自身も口を開く。




 「蝋色って変わった名前だね。あ、馬鹿にしてるわけじゃなくて。俺はね、會津野彗っていいます。えっとー、
  あ、俺も高3だよー。一緒だね。宵とは違うガッコだけど。宵とは、幼馴染みたいなもんだよー。

  ……―――あ。宵は君の世界らしいけど、俺は宵の婚約者だから、そしたら俺も君の世界に入るのかなあ?」





  最後の言葉に、その場の時が止まる。何を言っちゃってんだと言わんばかりに顔を手で覆う依終と雪占、
  アホ、と呆れたように息をつく雛壱、そして、計画通りだと言わんばかりにほくそ笑む亜伊織。

  そして、今まで余裕そうに構えていた蝋色の顔色が一瞬にして変わった。纏う空気も禍々しく変化する。
  今まで何度も見てきて、宵の前では絶対発動しない「癇癪」がでた、と番犬たちは瞬時に理解したが、
  初対面である彗は、いまだに不思議そうに首をかしげているだけ。

  そんな彗の様子が更に気に食わないのか、蝋色は、「は、はは、」と乾いた笑みをこぼしながら、
  ヨロヨロと後ずさる。そして、銀髪のさらさらとした自身の髪を両手でぐわし、と掴むと、そのまま激しくかきむしった。






 「婚約者!?何言ってんのお前!?馬鹿か!?なんでお前みたいなのが宵の婚約者なんだよ、そんなの許すわけないだろ
  認知するわけないだろ、馬鹿かよ死ねよしねしねしねしねしねしねしねしね!!!!ああああああああああああ!
  なんだよ婚約者って、そんなの聞いてない、宵の一番は俺だろ!?全部全部全部俺だろおおおあああ!!
  ぜったい、殺す。殺す殺す殺す殺す殺す!!!宵と俺の世界を邪魔する一番の因子はお前だったのかよ絶対殺してやる!!」




  突然髪を振り乱して、狂乱状態になった蝋色に、少なからず驚いたのか、珍しく眠そうな目をぱちくりと開けた彗は、
  くるりと香雅吏家の番犬たちの方を向いて、ぼそりと呟いた。




 「え、何あの人……こわ。俺やだあ」












  ( カオス )





12日前 No.34

三築 @blacksnow2 ★9nhTubX7oI_m9i











  「では、この戦略で次の戦争は臨みましょう」
  「大丈夫、この国は必ず勝ちます」
  「我々、中央庁がいるのですから」





  黒く縁取られた眼鏡をくい、とあげれば、軍人たちから喝采が湧き上がる。俺は自身の両脇に立つ4人に視線を
  寄越し、満足げなうなずきが全員から返ってくると、ふっと小さく笑った。

  俺の天下だ。こいつらは全員俺の支配下。何においても、俺にかなう奴らなど誰もいない。誰も――――。








  「おっじゃまぁ〜」




  バン、と突然開けられた機密会議室の扉とふざけた声。誰だ!?ここは秘密漏えい防止のため、厳重に鍵をかけ、
  護衛をたくさんつけていたというのに。俺は、扉が開き、その奥に立つ6人の影を目を細めてみる。
  そして、全員が同じシルエットであることに気づいた瞬間、さあっと血の気が引いていく。





  「――――…六ノ災厄…なぜここにっ…!?」




  全員が同じ黒いマントに身を包み、全員同じ小面の面をつけていて、誰が誰だかわからない。
  だが、音もなく階段を下りてくる様は、どこか異様だった。




  「何者だ貴様らっ!!」




  軍人たちが急に入ってきた乱入者に、錯乱して戦闘態勢に入る。そして、俺が慌ててやめろと声を発する前に、
  若い軍人一人が、手持ちの銃でお面の一人を撃った。パン、と耳に鋭い音が入る。室内が一気に静まった。



  「………撃たれてんぞ、アマダレェ?」
  「………ええ。斬新なご挨拶ですこと」



  誰でもが一人殺したと思ったが、肝心の撃たれた小面の一人は、ケロッとしたようにマントを小さく払う。
  そして、小面の面をぐるりとまわし、室内を詮索した後、ぴたりと、一人の軍人に目を留めて、ふわりと体を浮かせた。
  そして、我々が瞬きをするその合間に、その軍人の目の前に黒いマントの小面が立つ。
  若い軍人は、ピストルを構えたまま、ぶるぶると震えていた。周りも、呆気にとられたのか、恐怖からか、
  体を動かせずに、ただその現状を見つめているだけだ。

  小面は、こてんと首を傾げ、黒いマントから細く白い指が伸びたかと思うと、その軍人の頬にそっと手を置く。



  「……貴方がわたくしを撃ったお方かしら。いけない子」



  静かな声が室内に響く。そして次の瞬間、軍人がいきなり「がぼっ」と苦しみだした。
  その音はまるで、水を沢山飲んでしまってもがくかのような音であったが、ここは陸でありそんな状況はあり得ない。

  だが、俺は知っている。こいつらがどんな存在か。どれほど規格外で恐ろしい存在か。

  がぼ、がぼがぼがぼ、とまるで口から水が延々と湧き出ているように苦しみ続ける軍人に、周りは息をするのも忘れ、
  立ち尽くす。そして、その軍人が少しずつ力が抜けてきた瞬間。




 「……霤。彼を解放してあげて」




  階段の中腹で佇んでいた五人のうち、一人が声を発する。その声に、「アマダレ」は、面をついているので
  表情などはなにも読み取れないが、了承したようにその軍人から手を離した。その瞬間、軍人が「げほっげほっ」と
  苦しそうに咳き込む。もう水のような音はしなかった。

  相変わらず、バケモノどもめ……。



  俺が壇上から、6人をにらめば、先程声を発した男の面がすう、とこちらに向き、そして次の瞬間には、
  俺の後ろにそいつは立っていた。あまりの速さの出来事に、俺の両サイドの4人も唖然としており、軍人たちも
  目を見開いて驚愕している。

  俺は、額に冷や汗を滲ませながらも、至極普通に口を開いた。




 「―――――……人間の政には興味がなかったんじゃないのか、空蝉」





  これは自慢でもなんでもなく、こいつらとまだ普通に会話ができるのは俺くらいなのではないか、と思う。
  きわめて普通に接しようとしている俺を見て、空蝉は面の奥で小さく笑った気がした。




 「ごめんね、鳳(オオトリ)。少し、興味が湧いたんだ」












  ( 殴り書きしてしまったから、また別な感じでも書きたい。六ノ災厄のみんなが裏ラスボス的シチュをかきたい )











 、

12日前 No.35

三築 @blacksnow2 ★9nhTubX7oI_m9i







  「…っあの!明日もここにいますか!?」






   これは、今から10年も前のお話。まだ、無知で愚かで純粋で、何からも君を守れると驕っていたあの頃のお話。
   当時17歳、お金持ちの進学校に通い、決められたレールの上をただただ進んでいた久遠院 総悟(くおんいん そうご)と、
   当時17歳、底辺不良校に通い、家庭環境も最悪で素行不良で荒れ、一匹狼を貫いていた溝井 千鶴(みぞい ちづる)の、
   短く淡い思い出。






   *









   思えば、一目見た時から俺は、彼女に惹かれていたのかもしれない。







  「明日の予習ってどこだったっけ〜」
  「数学と古典と…あ、英語もあるじゃん、だっりー」
  「お前ら、絶対明日見せてやんないからな」
  「えー、総悟サマー!」




  俺は、幼いころから両親の方針で、いわゆるお坊ちゃま校に通っていた。エスカレーター式ではあるが、
  偏差値も一流ではないと気が済まない厳格な親の影響により、一般的に進学校と言われる所に小学校から通っている。
  だが、そんな学校でも友達たちは割と自由で、気の合う仲間も多いのが、今の学校生活が苦痛ではないと感じない大きな理由だと思う。
  でもやはり、今までも、そしてこれからも、ずっと親に決められた道を操り人形のように進んでいくだけの人生に、
  俺は疑問と不満を抱いていた。

  友達たちと別れ、一人川沿いの土手を歩く。丁度夕暮れ時だからか、山へ還ろうとする太陽の光が、
  俺の影を色濃く映す。ぼうっとしながら土手を歩いていると、ふと視界の隅に何かが移った。
  反射的に其方を見れば、土手の斜面の草原に足を組んで寝っ転がっている制服姿の女子が目に入った。

  普通であれば、一人でいるのが好きな女子高生なのかな、だけで通り過ぎていたと思う。
  だが、その女子の後ろ姿から紫煙がゆらゆらと立ち上っているのを見て、俺はぎょっとした。

  もしかして、煙草を吸っているのか?

  周りが、なんだかんだいいながらも育ちがいい環境で育ってきたため、友達に未成年で煙草を吸う人がいないため、
  俺は、ただただ驚いた。少し引いていたかもしれない。だが、妙な正義感と、少しの興味が湧き、
  気づけば俺は土手の斜面を歩き出した。

  さく、さく、と草を踏む音とともに、近くなっていくその女子の姿。
  ある意味、未知との遭遇であった俺は、少し緊張しながらその女子の横に立った。

  いきなり、自分の体に影がかかって、その女子は怪訝そうな顔をして寝っ転がったまま、俺を見上げた。



  少し猫目ながらも黒曜石のように黒く大きな瞳、すっと通った微量に血色のいい唇。透き通るような白い肌。
  俺は、その女子を見下ろしまともに顔を見た瞬間、その綺麗さに体が固まってしまう。

  そんな俺をしり目に、その女子は、ふう、と特に隠す気もないように口からまた紫煙を吹き出すと、ゆっくり口を開いた。



  「なに?あたしになんか用?」



  当たり前のことだが、警戒を滲ませた少しきつめの口調だった。俺は情けなくも少しそれにびびりながら、
  びし、と彼女の指に挟まれている煙草を指さす。



  「あ、あの!あなた未成年ですよね?煙草すっちゃだめです!」
  「は?なんであんたにそんな事言われなきゃなんないの?」
  「え、いや、だって、身体に悪いし…」
  「そんなの知ってるけど。あたしの体なんだから、あたしの自由でしょ?口寂しいから吸ってるだけ」
  「…それって、おなかすいてるってことですか?」
  「は?え、なんでそういう解釈に」
  「待っててください!何か買ってきますから!」


   今考えれば、何を見当違いなことをしたんだと思う。だが、あの時は、彼女の美しさと、自分にはできない奔放さに
   あてられてテンパっていた。そして、俺は、彼女を残して最寄りのスーパーに駆け込み、普段あまり使わない財布を
   出すと、これでもかというくらいお菓子やらジュースやらを詰め込んでお店から飛び出す。

   そして、土手に戻ると、もしかしたらいないかもと不安になっていた俺を、土手の斜面から呆れたように見つめる
   彼女が寝ころんだ体勢のまま、口を開いた。



  「マジで買ってきたの?」
  「は、はい!これで口寂しくなくなりますよっ」



   全力疾走したからか、息が上がり頬が上気した俺を彼女はしばらく見つめて――――そして、耐えきれないという風に
   ぷは、と口から息を吐いた。


  「っはははは!!何あんた、馬鹿じゃん!!変わってるね、おもしろい!!」



   先程の警戒を滲ませた低い声とは裏腹に、不快のない愉快そうな笑い声だった。
   何で笑っているのか、このときの俺はテンパっててよくわかっていなかったけど、彼女が笑顔になってくれたことが
   なぜか嬉しくて、煙草をやめさせるという本来の目的はどこかへいっていた。



  「最初はただのおせっかい男かと思ってたけど、ただの変人男の間違いだったみたいね」
  「なっ!変人なんて、俺言われたことないですよ!むしろ真面目って」
  「あー、真面目なんだろうね。まじめすぎておかしいのかも。はは、ここ座んなよ」


  愉快そうに笑いながら、自分の横の草原をぽんぽんと手でたたく彼女に、俺は少しどぎまぎしながら
  横に座った。昔から、自分の容姿が女子の好みであるようで、女子が集まってくることは多々あったが、
  このようなタイプの女子は初めてで、なんだか緊張した。


  「何買ってきたの?」
  「あ、えと、コレとコレと――――」


  そういいながら、馬鹿みたいにつめこんだお菓子やジュースをぽんぽんと草原の上に広げていくと、
  彼女はまた面白そうにおなかを抱えて笑う。その豪快な笑い方が、素直に素敵だと思った。


  「で?食べていいの?実はふつーにおなか減ってる」
  「もちろんです!では、煙草回収しますよ」
  「あー、はいはい。まさか同年代の初対面の男子にお説教されて没収されると思わなかったわ」



  そんなにヘビースモーカーではないのか、没収した煙草のケースには、先程吸ったであろう一本以外は
  まだ全部未使用のままであった。俺が少し珍しそうに煙草を見ていると、にやにや笑う彼女が「一本すってみたら?」
  なんて、煽ってくるから、俺は少し恥ずかしくなって急いで煙草をカバンの中にしまった。



  「そんな事より、食べましょう。せっかく買ってきたから」
  「あんた、ほんとに変わってるね?初対面のこんな下品な女とお菓子パーティ?」
  「え、すみません、嫌でした!?」
  「いや、嫌っていうか……。その制服、あのお金持ちガッコーのとこでしょ?あたしみたいなのと居て大丈夫なの?」
  「そんなこと……考えた事ないです。なんか、今楽しくて、」
  「っはは、やっぱあんた面白い。あたしも今、久々に楽しいよ」



  心なしか、少し嬉しそうな彼女を見て、不思議と俺も頬が緩む。
  初対面同士でなにをやっているのか、今考えても意味不明であるし、いい笑い話ではあるが、このときはただ楽しかった。
  二人でお菓子を食べながら、ぐだぐだと過ごすだけの時間。
  さっきであったとは思えないような感じで、俺は不思議とリラックスできた。




   *





  「………すみません、結構暗くなってきちゃったからそろそろ帰りましょうか」
  「……あー、そうだね、帰ろ帰ろ」
  「俺のせいで色々付き合わせちゃったし、送りますよ」
  「いい。初対面の男にほいほい家教えるほど、安い女じゃないから」



  そういって、にこりと気高い笑みを浮かべる彼女に、俺は柄にもなく見とれてしまった。
  今思えば、あれはきっと彼女なりの気遣いで、俺を守ってくれたんだろう。
  帰ると言った時、表情が曇っていたことも、俺はこのときなにも分かっていなかった。

  そして、俺とは逆方向だという彼女に、せめて姿見えなくなるまで見送らせてほしい、と罪悪感から告げれば、
  紳士だねえ、とからかわれるように笑われる。彼女が、「お菓子美味しかったよ、じゃあね〜」と、
  軽やかに踵を返し、俺に背を向けて進んでいく姿に、このままで終わってしまうのか?と俺は急に焦燥感にかられた。

  ただ、煙草を注意して、なぜかお菓子を一緒に食べただけの関係。

  それでも、俺はこのとき、今日だけでもう彼女に会えないのは嫌だという強く感じていて、気づいたら遠くなる背中に
  叫んでいた。



  「っあの!!明日もここにいますか!?」




  俺の問いに、彼女はくるりと振り返って、少し驚いたような顔をした後、ぶんぶんと手を振りながら、
  「大抵いるよー」と叫び返してくれる。その返事に、俺は自分の顔がぱあっと輝いていくのを感じた。




  「俺!!明日もここにきます!!よかったら、またお話ししませんかっ!!」




  ガキっぽい台詞だな、といった後思ったが、少し遠くから俺の言葉を拾った彼女は、またあの愉快そうな笑い声をあげて、
  両手をあげ、頭の上で大きく丸印をつくった。それに、心の中でガッツポーズしながら、俺は更に口を開く。




  「あの!!俺、久遠院総悟っていいます!!あなたの名前も知りたいです!!」



  こんなに大きな自己紹介は人生で初めてだ。だが、恥ずかしさとはそんなものは一切なく、もう彼女の姿しか
  目に映っていなかった。彼女は俺の自己紹介に、いつまで叫ぶんだよ、といわんばかりの呆れたように笑いを浮かべつつも、
  口でメガホンの形を作り、すうっと息を吸うと、思いっきり叫んだ。




  「溝井!!千鶴!!あたしのなまえー!!」




  そして、その後急に恥ずかしくなったのか、彼女はくるりと踵を返し、振り返ることなく猛スピードで土手を走り抜け、
  橋を渡って俺の視界から消えていった。残された俺は、先程の彼女の言葉をしばらく胸の中で反芻していた。





  「みぞい、ちづる……」








   *








8日前 No.36

三築 @blacksnow2 ★9nhTubX7oI_m9i


  久遠院 総悟 ( くおんいん そうご )


  久遠院家の長男であり、日本有数の企業である久遠院グループの跡取り。このシリーズでは、17歳verと現在(27歳)verがある。
  17歳verでは、現在よりも初心で、真面目で素直な爽やか好青年。幼少のころから、お金持ちたちが通う偏差値高めの進学校に通っており、
  勉強のできるおぼっちゃま。行き帰りは普通に友達と徒歩通学だが、家が馬鹿でかかったり、財布にブラックカードが入っていたりと
  やはり常識外れのお金持ちであることがうかがえる。千鶴に出会って、毎日が楽しく、お互いに惹かれ合っていくが、
  両親や周りに反対される。それでも、千鶴の苦しみを救い出そうと駆け落ちして二人で逃げようと提案するが、千鶴に拒否され、
  最終的に千鶴が姿を消したことで、結ばれずに終わる。そこからは、どこか胸にぽっかり穴が開いたかのような虚無感に襲われつつも
  高校生活を送る。友達も多く、皆からイジられるし頼れられる人気者。また、顔と性格もいいため、とてもモテていた。
  現在verは、昔より少しクールで落ち着いているが、根は変わらず真面目で一途。あの時、千鶴を助けてやれなかった後悔と
  未だに千鶴への想いを募らせている、ちょっとヘビー級の愛。だが、もう一生会えないと思っていたので、親から決められた
  婚約者との政略結婚にも特に抵抗もしなかった。今は、久遠院グループの次期跡取りとして、様々な事業を統括しており、
  そのうちの一つであるホテルの代表取締役を受け持っている。昔より何かを諦めたような表情をすることが多くなり、昔なら
  絶対しなかった冷めた言動もある。大人な考えができるようになったからかもしれない。だが、ホテルで、千鶴を見つけたことにより
  昔とは違い、会社を背負っている身ゆえに、好き勝手できないながらも、千鶴への想いがどんどん深くなっていくことに
  一人葛藤し続けている。今も昔も焼きもちやきで、独占欲が強め。



  溝井 千鶴 ( みぞい ちづる )



  このシリーズのヒロインであり、こちらも17歳verと27歳verがある。
  17歳verでは、現在よりも尖っており、やんちゃをしている。肩にぎりぎりかからないくらいのショートボブで、明るい茶髪に
  染め上げている。県内でも最下位を争うくらい治安の悪い不良校に通っており、そこでも周りと一線をおいて、一匹狼を
  貫いていた。顔はとても綺麗だが、いつも豪快な笑い方をするのでギャップがすごい。昔は喧嘩っ早く短気だったので、
  よく生傷ができていた。学校にも家にも居場所がなく、ストレスからたまに煙草を吸っていたりした。家に帰りたくないので、
  土手の斜面でよく寝転がってぼーっとしていたのだが、そこに総悟が現れた事により、千鶴の人生もまた変わってくる。
  千鶴もまた、総悟に惹かれていくが、総悟の親から誹謗中傷を浴び、自尊心を傷つけられたことや、家庭環境が最悪で、
  父親から虐待を、義理の母からもいじめられているような自分が、総悟の隣に似合うはずないと身を引く。だが、親に殺されかけた
  ところを総悟に見つかり、一緒にどこか遠くへ逃げようと提案されるも、その手を握ってしまいそうなのをこらえ、
  自分が苦しむ道を歩むことで、総悟を道連れにしないように拒否した。その後も、たびたび自分を助けようと奮起する総悟に
  心が揺れながらも、これ以上邪魔をしてはいけない、と総悟の前から姿を消した。
  黙っていれば、綺麗な美人だが、明るくさばさばしており、はっきりとした物言い強気な性格。だが、その裏は、もろく繊細で
  寂しがりや。
  現在Verでは、昔より落ち着いて大人の女性という感じになっている。胸のあたりまである黒髪ストレートロング。
  美人に拍車がかかっているが、本人は特に自覚なし。大学に入るころに、父親と義理の母を乗せた飛行機が墜落し、
  二人が死亡したことにより、天涯孤独の身となる。そのころに、そんな寂しさを埋めてくれた一人の男と付き合う。
  そして、そのまま現在まで付き合い続けている。総悟の事は、過去の事として見てはいるが、ホテルで社長が総悟だと知ったときは
  さすがに動揺していた。あくまでも、社長と従業員という立場で接しようとはしているが、たまに素が出てしまう。
  昔よりやんちゃはしていないものの、根底の性格は変わっておらず、さばさばとしていて笑うと幼い。
  恋愛事に関しては、かなり鈍感だが、人の気持ちには敏感。色々あって、退職をし、たまたま中途で入ったホテルの社長が
  総悟だった。










8日前 No.37

三築 @blacksnow2 ★9nhTubX7oI_m9i











  「いじめられっ子かばって、正義のヒーロー気取り?この偽善者」
  「どこにも居場所がないあんたなんて、ヒーローになれるわけないじゃない」
  「クソみたいな親に育てられると、あんたみたいなクソに育つのね―――きゃあ!」



  「……クソみたいなあたしだからさあ、クソみたいなことしかできないわ」




  ばき、と鈍い音がして、女子生徒が崩れ落ちる。千鶴は、容赦なく続けてもう2人の女にも殴り掛かる。
  その瞳には光がなく、ただその奥には憤怒の念がメラメラと立ち込めていた。

  繁華街の隅っこで起きたその騒動に、やがて人々が集まってきて、その様子に警察を呼ぶ人が出てくる。
  女子生徒が複数呻きながら転がっている状況に、そしてそれを引き起こしたのが一人の女であるということに、
  皆が軽く衝撃を受けているころ、警察が到着し、千鶴は取り押さえられた。

  人を散々殴り、自分の手も傷だらけの千鶴は、項垂れるように警察に誘導されパトカーへと歩を進める。
  後ろから、先程複数の女子生徒に暴行を受けていた一人の男子生徒が「あの、ありがとう…」と小さく呟く。
  だが、その声は、倒れている女子生徒たちの罵詈雑言でかき消された。



  「あんたの味方なんて誰もいねーんだよ!」
  「親が親なら子も子だわ!さっさと暴力おとーさんに殺されちまえ!」
  「あんたの居場所なんてどこにもない!」



  そんな女子生徒の罵詈雑言を背中に受けながら、無表情で千鶴はパトカーに乗り込む。
  そして、ふ、と何気なく先程からできている人だかりに目を向けて、目を見開いた。




  「そう、ご…」





   こちらを驚いたように困惑したように、人だかりの中から見つめている総悟の姿があったのだ。
   いたたまれなくなって、千鶴はふっと顔をそらす。何か言いたそうに人込みをかき分けて、パトカーに
   近づこうとする総悟の姿を見えないように、俯いて完全にシャットアウトした。パトカーが発進する。

   俯く千鶴の瞳には、うっすらと涙が滲んでいた。









7日前 No.38

三築 @blacksnow2 ★9nhTubX7oI_m9i











  「―――――――貴方が、溝井千鶴サン?」







  ぞわりと背筋が粟立つような、そんな声だった。いつものように、土手の斜面で寝転がって、総悟を待っていれば、
  頭上から降りてきた声。恐る恐る体を起こして振り返れば、土手の道路に白塗りの高級車が停まっており、そこの後部座席から
  漆黒の黒髪を纏った女の人がこちらを見下ろしていた。



  「……何かあたしに御用ですか」
  「ええ。私、久遠院亜理沙と申します。総悟の母ですの。少しお話できないかしら?」



  総悟の母、と言われて思わず瞠目してしまった。確かに、言われてみれば似ているかもしれない。だが、総悟のあの
  愛嬌などは一切この人物にはなく、ただただ読めない瞳がこちらをじっと見つめているだけだった。

  少し躊躇はしたものの、仲良くしている人物の親にお話しようと言われて断るのは失礼に値する。
  千鶴はゆっくりと立ち上がり、白塗りの高級車に近づいた。



  「……わかりました」









    *







  「――――――――なん、ですか、これ、」
  「あら、何かって、小切手ですわ。好きな額を書いて頂戴。そして、そちら差し上げるから、もう二度と総悟と関わらないでほしいの」
  「……は、」
  「当り前ですわよね?見た目も中身も頭の悪そうな子。非行もするんですって?おまけに親はろくでもないゴミクズ。
   どうして、今まで総悟と普通に接せれていたのか不思議でしょうがないわ。こんな汚らわしくて卑しい子。
   うちの総悟は、大事な久遠院家の跡取り。格式高い由緒ある家なの。それが、こんな女と関わっていたら、あの子にまで
   悪影響を及ぼすじゃないの。いい?これは、総悟のためなのよ。わかるでしょう?」




   目の前が真っ暗になる。ふざけんな、とか、掴みかかってやろうか、と思ったけども、何もできなかった。
   総悟の母親が言った言葉が、図星だったからだ。自分と総悟では、環境も背負うものも、愛されているか否かも、
   なにも違う。なんにも。総悟があたしに関わっていいことなんて、一つもない。
   悔しい。悔しい。くやしい―――――っ
   差し出された小切手をくしゃりと握りつぶして、精いっぱいの凛とした顔で総悟の母親に向かい合った。



   「こんなものもらわなくても、関わらないでくれと仰るなら、もう関わりません。馬鹿にしないでください」
   「あらあら、怒らせてしまったかしら?それはごめんなさい。あなたのおうち、生計がたてられていないようでしたから」



   このっ…!と本気で手が出そうになるが、ぷるぷると寸での所で抑えて、立ち上がった。




   「お金なんて、あたし一人でなんとかできます。これ以上侮辱しないでください」
   「ふふ、ごめんなさいね?じゃあ、もう総悟には関わらないと誓って下さる?」
   「誓いますよ。それが総悟のためならば」
   「ああ、よかった。じゃあ、出口はあちらね?すぐに出て行ってちょうだい」



   まるでドブネズミをはらうかのような仕草をするアリサさんに、あたしは歯をぎり、と食いしばって、
   くるりと踵を返した。








   ごめん、総悟。でも、あんたとあたしじゃ、やっぱ住む世界が違ったみたいだ。









    *










   ―――――――最近、千鶴を見ない。






   いつものように、土手を通って帰り、いつものように千鶴を探して斜面を覗いても、寝転がって欠伸をする
   可愛らしい彼女の姿は、どこにもいなかった。一日なら、なにも思わなかっただろう。
   だが、それは、一日、二日、三日、と重なっていき、ついには二週間も、千鶴に会えないトキが経過していた。


   千鶴が携帯を持っていないから、という理由で、俺たちは連絡先も何も知らない。
   だから、この土手でしか会えない関係だったのだと、そこで初めて俺は痛感する。

   まさか引っ越したのだろうか。いや、それなら俺に一言何か言うだろう。
   何か気に障ることを言ってしまっただろうか?だが、いなくなる前日まで、いつものあの屈託のない笑顔で
   笑っていた。何故千鶴がいなくなったのか、皆目見当がつかない俺はぐるぐると悩む。

   そして、途端に、もう千鶴に一生会えないんじゃないかという不安が芽生えた。
   そんなの、絶対に嫌だ。俺が初めて好きだと、愛おしいと思った相手。手放したくない。

   俺は、ばっと立ち上がると、河川敷の土手まであがる。
   そして、そのまま土手を走り出した。もうなんでもいい。なんでもいいから、彼女に会わせてくれ、という一心で。









7日前 No.39

三築 @blacksnow2 ★9nhTubX7oI_m9i








   「千鶴のためなら、全部捨てたっていい。二人で一緒にどこか遠くへいこう」









   そういってくれた時、ほんとに、心の底から嬉しかったんだよ。
   でも、だからこそ、あんたの人生をあたしのせいで壊すわけにはいかなかった。
   あんたが、親のレールをそのまま歩くことに窮屈してたのも知ってる。
   でも、それはきっと、あんたにとって安全な道。
   あたしとあてもなく駆け落ちすれば、それはあんたにとって最悪の悪夢の始まりになる。

   総悟、あたしたちは、まだ子供なんだよ。

   ほんとに、ほんとに、嬉しい。ほんとは、今すぐその手を取って、抱き合って、イエスと答えたい。
   それでも、これ以上、総悟の人生をあたしのせいで狂わせるわけにはいかない。
   だから、だから……………






  「いかない」
  「え、?」


  「あたしは、ここに残る。あんなんでも、あたしの家族なの。居場所がなくても、あそこがあたしの家なの。
   総悟には、総悟の人生、あたしには、あたしの人生がある。

   ――――――――身分違いの馴れ合いは、もう終わりにしよっか」





  最後は、涙で声が震えていたかのように思う。それでもあたしは、ぼろぼろと瞳から涙をこぼしながらも、
  唖然としているような、絶望しているような、そんな表情を浮かべている総悟に泣きながら笑いかけた。






  「じゃあね、総悟」






  まって、と、総悟が泣きそうな顔であたしに手を伸ばしてる。ああ、その手に触れたいなあ。

  ――――――触れれるような、女の子でありたかった。





  あたしはひらりとその手をかわすと、踵を返して走り出す。
  もう総悟があたしに追いつけないように。


  楽しい思い出を全部、振り払うように。








  総悟、こんなあほで暴力的で馬鹿な女にたくさん付き合ってくれてありがとう。
  あなたに会えて、あたしは人を好きになるという気持ちを知りました。

  だいすき。だいすきだよ。ごめんね。











7日前 No.40

三築 @blacksnow2 ★9nhTubX7oI_m9i









  亡艶(なつや)  八尋(やひろ) 霙(みぞれ) 神威(かむい) 神楽(かぐら)
  有栖川(ありすがわ) 龍興(たつおき) 百鬼(なきり) 宮應(みやおう) 魁(さきがけ)
  司波(しば) 國枝(くにえだ) 聖(ひじり) 鏑木(かぶらぎ) 神白(かみしろ)
  暁(あかつき) 圷(あくつ) 丁嵐(あたらし) 近嵐(ちからし) 小桜(こざくら)
  星宮(ほしみや) 姫宮(ひめみや) 天羽(あもう) 花ヶ迫(はながさこ)
  小花衣(こはない) 呉羽(くれは) 音羽(おとわ) 一葉(いつは) 香月(かづき・こうげつ)
  宝生(ほうしょう) 紅葉谷(もみじや) 何首烏(かしゅう) 明空(みよく) 百合園(ゆりぞの)
  築町(つきまち) 小町(こまち) 京(かなぐり) 飛鳥(あすか) 神楽坂(かぐらざか)
  雅楽代(うたしろ) 桜堂(さくらどう) 牡丹(ぼたん) 織部(おりべ) 桜小路(さくらこうじ)
  傳田(つたえだ) 命(みこと) 黒氏(くろうじ) 信楽(しがらき・しがら) 松風(まつかぜ)
  梁次(むねつぐ) 紅子谷(べにこや) 御子神(みこがみ) 江波戸(えばと) 廿楽(つづら)
  羽柴(はしば) 長宝院(ちょうほういん) 耶雲(やくも) 安曇(あずみ) 菖蒲(あやめ)
  文月(ふづき) 遊馬(あすま) 泡沫(うたかた) 弓波(ゆみなみ) 永露(えいろ・ながつゆ)
  出雲路(いずもじ) 桜ヶ平(さくらがひら) 三鼓(みつづみ) 御子柴(みこしば) 祇園寺(ぎおんじ)
  水留(つづみ) 秋風(あきかぜ) 槐(えんじゅ・えんじ) 凪(なぎ) 楪(ゆずりは)
  時雨(しぐれ) 涼風(すずかぜ) 月輪(つきわ) 雪輪(ゆきわ) 柊(ひいらぎ)
  楠(くすのき) 朝雲(あさぐも) 朝霞(あさか) 鷹司(たかつかさ) 四条(しじょう)
  冷泉(れいぜい) 東久世(ひがしくぜ) 壬生(みぶ) 烏丸(からすま) 坊城(ぼうじょう)
  錦小路(にしきこうじ) 円城寺(えんじょうじ) 九重(ここのえ) 雲雀(ひばり) 李(すもも)
  梅ヶ枝(うめがえ) 栗花落(つゆり) 一二(つまびら) 蘭(あららぎ) 御縁(みえにし)
  雲母(きらら) 月見里(やまなし) 皇(すめらぎ) 纐纈(こうけつ) 的(いくわ)
  東雲(しののめ) 都筑(つづき) 稍々(やや) 綴(つづり) 一(にのまえ) 千垣(ちがき)
  薬袋(みない) 轟(とどろき) 戸叶(とかない) 斑鳩(いかるが) 與曾井(よそい)
  巫(かんなぎ) 水菓子(みずかし) 筒香(つつごう) 梵(そよぎ) 楽々浦(ささうら)
  蓼丸(たでまる) 神々廻(ししば) 英(はなぶさ) 巽(たつみ) 蓮(はちす) 来栖(くるす)
  有真(ありま) 八重樫(やえがし) 桐ケ谷(きりがや) 新戸部(にとべ) 蜂須賀(はちすか)
  飛知和(ひちわ) 八朔(ほづみ) 一尺八寸(かまつか) 十一月二十九日(つめづめ)
  天花寺(てんげいじ) 三十尾(みそお) 五百森(いおもり) 八十島(やそしま)
  八鳥(やとり) 九十九(つくも) 九九港(くくみなと) 十六女(いろつき) 百足(ももたり)
  百合草(ゆりくさ) 千金楽(ちぎら) 千登勢(ちとせ)







  しばらくこれで名前には困らない()







5日前 No.41

三築 @blacksnow2 ★9nhTubX7oI_m9i





   一月一日(あお)

   四月一日(わたぬき)

   五月七日(つゆり)

   六月一日(くさか)

   八月一日(ほずみ)

   八月十五日(あきなか)

   十一月二十九日(つめづめ)

   十二月三十一日(ひなし)




   月日にまつわる苗字たちのなんかを書きたい。












5日前 No.42

三築 @blacksnow2 ★9nhTubX7oI_m9i






   (千鶴はホテルで働いているって設定だったけど、やっぱこの経歴でそこで働けるとは思えないので
    とある会社の清掃員に変更。そのとある会社の代表取締役が総悟ってことにする)









  「今日は社長がお見えになるらしいわよ!」
  「え、やだ、メイク直ししなきゃ!!」




  今日は妙に会社内がざわついている。何やら、色々各地を飛び回っていた敏腕社長とやらが会社に出勤してくるらしい。
  そして、1フロアずつ、会社の全フロアを巡回して、皆に顔見せしつつ最近の仕事状況を聞いたりするだとか。
  社員たちに慕われているのだろうなあ、というのが、その細やかな仕事ぶりからうかがえる。
  そして、きゃっきゃとはしゃぎながら、トイレに駆け込んでいくOLたちを、楽しそうだな、なんて横目で見つつ、
  あたしはマスクをし、頭にはださい帽子を深々とかぶり、後ろで一つに束ねた長い髪を帽子の後ろからとおす。

  色々あって、前の会社を辞めたあたしは、今、とある会社の清掃員をやっている。
  地味で大変で、みんなには邪険にされやすい仕事だが、個人作業なので特に苦も無くそつなくやっている。

  最近は、会社の人達の会話を盗み聞き、人間観察をする事が趣味だ。
  昔から、両親に怯え、学校の奴らを警戒しながら生きてきたからか、他人の変化に敏感になった。
  なので、色々人間観察の中からドラマが見えてきて、結構楽しいのである。



  今日は、これはその社長とやらの話で持ち切りだな。みんなの話だけで、社長像がすっごく詳しく
  想像できそうで楽しみだ、なんてワクワクしながら掃除をしていると。




  「きゃあー!社長がいらっしゃったわよ!」
  「え、はやくない!?まだリップぬってないー」



  廊下を掃除していた手が停まる。どうやら、このフロアに社長がきなすったらしい。
  床を掃除機でモップ掛けしながら、ちらりと黄色い歓声の方へ顔を向ければ、遠くではあるが
  社長と思われる男の横顔がちらりと見えた。パッと見ただけでも、何かオーラがでている気がする。
  そして、きゃーきゃー言われる社長、なんだから、さぞダンディなおじさまがくるのだろうと思っていたあたしの予想は
  大きく外れた。その横顔は、あたしと同年代くらいの若い男だったからだ。
  遠目からでもわかる、その整った顔立ちとスマートなたたずまいに、そりゃOLたちも騒ぐわけだ、とマスクの下で
  苦笑いした。

  そして、数十分たち、あたしが次のフロアに行こうとエレベーターに乗った時だった。






  「……失礼します。ご一緒に乗っても?」
  「…っあ、はい、勿論です…」



  あたしが扉を閉めようとしたまさにその時に、するりと入ってきた人物に、帽子とマスクの間の狭い視界の中で
  あたしは瞠目した。なぜなら、入ってきたのが、先程皆にきゃーきゃー言われていた噂の社長だったからである。
  心地の良い低音ボイスに、少し緊張してしまいながらも、なんとか言葉を返し、エレベーターの扉を閉めた。



  「…何階でしょうか?」
  「ああ、25階でお願いします」
  「はい」
  「……新しい清掃員の方ですか?」
  「え、まあ、4月に入ったばかりです」


  狭い室内に二人きりの状況が気まずすぎて、とりあえず階数を聞いてみたら、社長の方が会話を続けるスタイルで
  きたので、少しびびる。というか、


  「…清掃員のことも、認知してらっしゃるんですね?」
  「もちろんですよ。清掃員の方々も、私の会社の大事な仲間の一人ですから。全員の名前と顔を一致させています」
  「すごいですね。貴方が、皆から慕われている理由が分かった気がします」
  「光栄です。いつも、会社を綺麗にしてくださってありがとうございます」
  「い、いえ、そんな…」


  従業員のみならず、清掃員にまで気遣いと敬意を持ち合わせている社長に、あたしは思わず拍手を送りたくなった。
  なんて人ができてる社長なんだろう。こりゃ皆から尊敬されて慕われるわけだなあ。
  うんうん、と一人で納得しているあたしを、じっと社長が見つめていたのには気付かず。エレベーターはぐんぐんと
  上へ登っていく。

  そして、あたしのフロアに到着したので、あたしは深々とかぶっていた帽子を少しあげ、社長の顔を控えめに拝んで
  お辞儀をする。
  その時、社長があたしが社長の顔見た瞬間からずっとあたしを見下ろしていたので、少々びっくりしたが、
  顔には出さずに目元を緩ませて微笑んだ。



  「それじゃあ失礼いたします」




  そして、掃除道具一式入ったワゴンを押しながら、エレベーターから出ようとした――――その瞬間。







  「………―――――溝井、さん」






  ぱし、と腕を掴まれる。チン、という音とともに、背後でエレベーターがしまり、上昇していく音がした。
  あたしは呆気にとられたまま、ゆっくりと後ろを振り返った。




 「しゃ、ちょー?どうしたんですか?」
 「――――……俺の事、覚えてないですか?」



  一緒にエレベーターを降りちゃった社長は、あたしの腕を掴んだまま、何かに焦がれるようにじりじりと熱い瞳で
  こちらを見つめていて、あたしはたじろぐ。覚えてない、だって?あたしは、いきなりの発言に困惑しつつも、
  社長の顔をじっと見つめてみた。――――――そして気づく違和感。





  「……どこかで、お会いして、ますよね、?」





   見覚えがある。この端正な顔立ち。少し霞がかった昔の思い出を探る。あたしの思い出の中には、
   そんなにたくさんの人々は登場していない。なぜなら、孤高の存在をあたしは貫いていたから。

   社長の顔をじっと、じっと見つめて、そして、頭の中である言葉がはじけた。








   “ 千鶴のためなら、全部捨てたっていい。二人一緒にどこか遠くへいこう ”








   その瞬間、あたしの瞳からは、ぽろり、と一筋の涙が垂れていた。











   「………………そう、ご?」
   「やっと、思い出してくれた。―――――――――会いたかった、千鶴」







   あたしと、総悟の運命の歯車が、ぎぎぎ、とさび付いた音を立ててゆっくりと動き出した。











5日前 No.43

三築 @blacksnow2 ★9nhTubX7oI_m9i








  人間どもを、決して許さない。









   *






  むかしむかし、人々と妖が共存していた頃のお話。

  ある街の貴族の娘が、一匹の妖狐と恋に落ちました。
  娘は、全てのものの傷をいやす不思議な力を持っていたため、その力を利用しようと金に溺れた両親に
  屋敷に閉じ込められていました。そんな娘に、妖狐は、いつも自由と愛を与えていました。
  娘は優しく、血気盛んでいつも怪我だらけで忍び込んでくる妖狐の傷を癒してあげたり、妖狐とともにお忍びで
  城下に行った際は、けがや病気の人々を見つけては、不思議な力で治してあげていました。




  誰にも知られてはいけない、人と妖の禁忌の恋。

  ある日、いつものように、娘の所へ忍び込んだ妖狐を待っていたのは、愛する娘ではなく、
  弓と札を構えた、屈強な男達でした。

  娘の両親に、存在がバレてしまっていたのです。

  まだ未熟な妖狐だった彼は、大人数の人間たちにボロボロにやられ、半べそをかきながら、貴族たちにお願いをしました。
  彼女に会わせてほしい、なんでもするから、と。


  その願いが、悲劇の始まりでした。






   *






  「ほう……そんなに貴京に会いたいか、バケモノ」
  「ならば、わしらと敵対するあの貴族たちを皆殺しにして来い」
  「そうしたら、貴京に会わせてやろう」
  「お前らの交際を認めてやろう」



   にやにやと下卑た笑いをうかべる男達に、妖狐はその交渉をすぐに受け入れました。
   どんな方法でも、彼女に会えるなら、と、彼も正常な判断が下せない状態に陥っていたのです。

   妖狐は、すぐに踵を返し、屋敷から飛び出しました。
   彼女は殺生が大嫌いでした。それでも、彼女と会えるなら、彼女とまた添い遂げられるなら、妖狐は
   人を殺すことも厭いませんでした。

   満月の下に、巨大な3つの尾を揺らす化け狐の姿が映し出されました。

   そして、言われた通り、妖狐は敵対する貴族たちを全て皆殺しにしたのです。


   ああ、これで、貴京と共に生きていける―――――妖狐が安堵しきった時でした。


   どかん、と大きな破裂音が遠くで聞こえました。その方角は、愛しい彼女がいる屋敷の方からでした。
   妖狐は、負傷した足を引きずりながら、狐の姿のまま走りました。

   走って、走って、走って。たどり着いた先に見えたものは、真っ赤な真っ赤な炎でした。



   炎は、屋敷全てをすでに包み込んでいました。妖狐は、言葉を失いました。
   そこへ、にやにやと下卑た笑いを浮かべながら、数時間前に自分と約束をした貴族たちが姿を現しました。

   妖狐は、人型になると、その貴族たちにつかみかかりました。



   「おい!!!話が違う!!!貴京はどこだ!!!!」



   あまりの剣幕に、貴族たちも少したじろぎましたが、負傷した妖狐は痛みから貴族の胸倉を離し、
   足から崩れ落ちます。そんな妖狐を冷たく見下ろした貴族は、たった一言、呟きました。





    ころした、と。




    妖狐は、目の前が真っ暗になりました。そして、その場から立ち去ろうとする貴族たちの足首を
    這いつくばったまま、気力だけで掴みました。



   「なんでだよ!!!約束が違うだろ!!!貴京を返せ!!!かえせっ、返せ!!!」
   「ああ、まこと汚いキツネだの。返せもなにも、アレは元々儂の娘なんだから、儂のものだ。
    最近、あの力が弱まって使い物にならなくなったから、どっちみち殺そうと思っていたのだ。まったく、
    あの力は、自分の命を分け与えているものなのだから、大事に使えと散々言ったのにのお」



   足をぶん、とふられ、べちゃり、と無様に泥の中に顔を突っ伏す妖狐の上から降ってきた言葉に、
   妖狐はまた、目を見開きました。あの力は、無償のものではなかったのです。

   じゃあ、毎日自分を治してくれていたあの時も、城下に出て、手あたり次第に人々を治していたあの時も、
   彼女は、自分の命を少しずつ削っていたということだったのか――――?


   妖狐は、何もかもに、愕然として、固まります。そんな彼の上から、貴族たちの非常な言葉が降ってきました。




   「馬鹿なキツネだ。お前は、ただわし等に力を貸しただけなんだよ。皆殺しにしてくれてありがとうなあ?」
   「貴京、最後まであついあついってうるさかったぞ。最上階の檻の中に閉じ込めてやったから、さぞ苦しかっただろうなあ」
   「自分の事は癒せないからなあ。まったく、子は親のいう事だけを聞いていればよかったものを…」



   妖狐の頭の中に、檻から手を伸ばして、泣きながら「あつい、あつい、たすけて」と叫んでいる彼女の姿が浮かびます。
   そして、頭上から下卑た笑い声を響かせる貴族たちに、何かが、妖狐の中で弾けました。
   自分の中で、どこかで抑制していた妖怪としてのタガが、がちゃ、と外れる音が聞こえた気がしました。





   「――――――許さない」





   よろよろと立ち上がり、殺してやる、と小さく低く呟いた彼の瞳には、もう光は宿っていませんでした。







   そしてこの後、このあたり一帯の街が全て全滅し、都の陰陽師に封印されるまで、妖狐は暴れ狂い続けました。
   真っ黒な闇を纏ったその瞳からは、延々と血の涙が流れていたと言います。









   これは、むかしむかしのお話。一匹の妖狐と、心優しい娘の、悲恋の物語。
   そして、この物語は時を超えて、また動き始めるのです。













   *











   蘭丸(らんまる)



   齢1000年を超える妖狐。その尻尾の数は、3本⇒9本になった。大昔、恋仲にあった娘を裏切り行為で殺され、そこから
   大量虐殺を繰り返し、暴れつくした後に、陰陽師によって封印された。根は素直で優しい甘えん坊なキツネだが、
   この事件を機に心を閉ざし、人間への憎悪だけを胸に刻みながら、時を過ごしていた。
   ある時、自分が封印されているお社に来た少女に、封印を解かれる。その少女こそ、貴京の生まれ変わりであった。
   だが、貴京としての人格はなく、蘭丸のことも覚えていない。以後、この少女にだけ、懐く。
   今度こそは、少女を守ると誓ってやまない。普段は、淡白で口が悪く不愛想だが、少女のことになると熱くなる。
   炎を見ると、昔をフラッシュバックして、暴れるとともに、不安が襲ってきて、少女が近くにいないと発狂する。
   白狐であり、狐の姿の際は尾まで綺麗な白色に包まれており、目は黒金。目の下に紅い波のような文様が入っている。
   人間時は、白髪の美青年であり、このときも目の下に紅い波のような文様が入っている。
   昔は未熟だったが、今は大妖になっており、何にでも変化できるため、縁の家族にも気付かれず、縁の家に入り浸っている。





   縁(ゆかり) / 貴京 (ききょう)



   貴京の生まれ変わりである少女。蘭丸の封印を解いたときは、12歳であり、現在は17歳の高3。
   なぜ封印をとけたのかはわからないが、頭の中で誰かの声がしたという。両親が再婚して
   新しい母親に嫌われており、家庭内の関係はあまりよろしくない。急に出てきた化け狐にも割とすぐに順応して
   対応するような天然な子。自分の中に、たまに誰かいるような気がしてやまない。
   貴京は、落ち着いていて凛とした少女という感じだったが、縁はいつもへらへらとしており、能天気で楽観的。
   だが、その笑顔の仮面の下には、孤独と悲愴が隠れている。好奇心旺盛で、よく怪我をする。
   貴京のように不思議な力はないが、どこか妖怪を引き付けるような魅力をもつ。
   ダークブラウンの髪のボブで、オン眉。元気っ子なイメージの髪型。蘭丸をもふもふするのが大好き。













4日前 No.44
ページ: 1

 
 
<< TOPページ 掲示板TOP 記事データ お知らせメール ▲ページ上 >>
★必ず ローカルルールメビウスリングのルール をご覧ください。
 ▼スタンプ▲スタンプ
※スタンプはいちどに 3個 まで使えます  ×閉じる