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掬うな

 ( 書き捨て!小説 )
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萌香 ★iPhone=ogeD4aa6Jh






だいすきなあなたが ここで息をしていた
それだけよ、ただそれだけの理由で
わたし ここまで来てしまいました




1年前 No.0
メモ2018/12/21 14:24 : 萌香 @welcome★iPhone-ogeD4aa6Jh

はじめまして!萌香といいます。早速いいねありがとうございます。こっちにはサブ記事とかはないんですね。なにかの方法でコメント残してくれると嬉しいです。(http://sns.mb2.jp/welcome/d-58 )にだいたいいます。

書捨てといえど小説書くのは初めてなので見苦しいところもあると思うんですけど、誰かの暇つぶしになれば嬉しいです!宜しくお願いします。

萌香

ページ: 1


 
 

萌香 ★iPhone=ogeD4aa6Jh

001

「俺に甘えたいだけだろ、おまえ」
ちがうよ、断じてちがう。こんな態度、あなたにしかとらない。
「別にいいけど、誰にでもそうなのかと思う」
そんなわけないでしょ。あなただから、私の弱いところを見せたのに。

声が、出ない。
目の前で彼が話す私への気持ちに対して、なにか返さないといけないのに。このままでは、おわってしまう。

彼はため息を一つ吐くと、「もういい」とこの場を去ろうとする。

行かないで、私まだ、言ってないことがある。

「なに?」

風と、遠くで電車が走る音が聞こえるだけなのに、彼はそう言った。
「何も言い返せないんだろ、図星じゃないか」
彼の心地のいい声は、残酷さを連れている。

「私、カケルにしか、こんな、」
「俺が簡単に釣れそうだから?」
「ちが、」
「違わないだろ」

「おまえ、そういうのを含めて、子供なんだよ」

スラッとした高身長。黒髪。運動神経抜群で、賢くて。
そんなあなたが、寂しそうに見えたから、寂しい私たち、寄り添えると思って、だから、

「俺はね、好きでこうしてるんだ、だからいらない」
「私、いらない?」
「寂しさを埋める道具なんて、虚しいだろ」

ああ、私は、彼の寂しさ埋めたいんじゃなくて、彼の寂しさを利用しようとして、私のさみしさを利用してほしくて、近づいたのか
それは彼も同じで、だからどんどんみじめになったのか、彼が先にみじめになっただけだ。

「おまえは俺みたいだから、何考えてるかよく分かるよ。だから俺みたいにならないで」

「名前を呼ばれるとこの世に自分が自分として存在してる気がするんだろ。だから俺はおまえの名前を呼ばない。家に帰ると抱きしめて欲しくなるのは、自分の身体がちゃんとここにあるって認めてもらえる気がするからだろ。だから俺は、お前を抱きしめない」

「今度こそ図星だろ。じゃあ、俺行くから」

こうやって言われるのが大嫌いだから、彼はそうしたんだろう。
彼は、私が好きだとおもうことは一切せずに、こうされると嫌われると分かっていることだけをするのだ。
私にしか使えないエスパー。ああ、やはり愛しい。

1年前 No.1

萌香 ★iPhone=ogeD4aa6Jh

002

あの人は、今日も歌う。
私の大好きな曲だ。まあ、あの人が歌う曲なら何でも好きだけど。

「マヤ、」

声をかけたが、あの人の周りにはすぐに人が群がって、私の声はなかったことになった。女が多いな。

「みんなありがとうね。今日からまたしばらく会えなくなるけど、俺はみんなのことを無条件で愛しているよ」
こんな甘いことを平気で言える人なのだ。黄色い声が湧く。
「マヤ、なんでまたしばらく活動しないの?」
「生きていけないよ」
「はは、だいじょーぶ。すぐ戻ってくるから」
ステージの上の王子様は、まだ王子様であった。

「マヤ、」
「なんでその名前なの?佳菜子」
「あ、えっと、、啓介」
「えらいえらい」

マヤ、もとい山中啓介は私の恋人である。マヤは名字の「山」を逆さにしただけ。単純な人だ。
私ももともとマヤのファンだった。まだライブハウスがマヤのファンで埋まる前に、私はマヤを見つけた。仲良くなった。自然なことだった。私は最前列でマヤだけを見つめ、マヤも私だけを見つめていたから。

「今日、どうだった?」
「良かったよ。すごく」
「佳菜子は嘘つけないからなあ。本当なんだね」
「普通に信じてほしいのに」

まあ怒るなって、そうあの人は笑う。怒ってないし。そのことに関しては。
「ファンの人、増えたね」
「妬いてる?」
「妬いてない」
「妬いてるんだ」
この人は自分の都合のいい解釈をするのがうまい。

1年前 No.2

萌香 ★iPhone=ogeD4aa6Jh

003

「あのさ、啓介」
「ん?」
私の髪を愛おしそうに撫でるこの人に声を掛ける。
「私の他に、あと何人いるの」
声が震えてしまう。この人にバレないように、また、見透かされちゃわないようにしないと。
「え?」
この人は髪を撫でるのをやめない。
「あと何人、あなたに抱きしめられているの」
「なんの話?」
「とぼけないで」

今日は別れの日なのだ。私とこの人の、この関係との。
「今日は、たまたま私」
だんだん会えない日が増えた。ライブのあと、会いたいと言われることが減った。これだって、自然なことだった。あの人を最前列から眺めてうっとりする人は、あの人が人気になればなるほど増えるのだ。

「あー……そういうこと」
この人はさっきと打って変わって、もう表情に明るさはない。ああ、なんでこうなってしまっても好きな人は好きなままなんだろう。

「佳菜子は何もわかってないね」
この人は、私のことを見ていない。
「でも、もうそれでいいかな、面倒だし」
私は、この人を失望させてしまったのだろうか。
私だって、好きで別れたいわけじゃ、ないのに。

「佳菜子、きみはもっと賢いと思ってた。買いかぶりすぎたかな。悪いけど、頭の悪い人はタイプじゃない。こうやってすれ違うだろ」この人は続ける。
「きみは無口で熱い眼差しだけを俺に向けていた。俺はそんなきみがすきだった。猫みたいで、良かった。無口な君が口を開いて伝えるこころはそんなのだったのか、と思うとショックでならない。もういい?今日で会うのはやめよう」

「誰に向かって話しているの?」

啓介の瞳は明るくなかった。この人は、台本を読み上げるようにつらつらと話した。

「じゃあね。合鍵、ここにおいておく」

パタンとドアの閉じる音が聞こえる。なによ。啓介だって私になんの一つも話さなかったじゃない。
無言でいられる関係なのがよかった。お互いの求めてるものが自然にわかるような気がするのも、良かった。
言葉は後付けでいいと思ってた。あのとき、じつはね、ふふ、私もね、ほんとはね。これでいいと思ってた。だめだったのか。どこで、どう、間違えたのか。

啓介と別れて、1ヶ月が経った。

「マヤ、急逝」

あれから何においてもやる気がなくなった私は、夕飯を適当に済ませ、ぼうっとテレビを見ていた。

「え……?」

持っていたマグカップを落としそうになる。ニュースのテロップは、変わらない。

マヤは、数年前から大病を患い、余命幾ばくも無かったという。誰にも言わずに、そっとというのがマヤの願いで、公表することなく、音楽の世界を離れたこと。そのあとはひとりで余生を生き抜いたこと。アナウンサーは淡々と告げる。私には、何も届かなかった。

啓介、あなたが猫だったのね。
死に際を見せなかったのは、あなたが、猫だったからだよね。
私、あなたのこと、何もわかってなかった。後付けの言葉なんて、なんの意味もなかった。
あのとき、じつは、なに?啓介、答えて。
泣き声だけがこだまする部屋で、私は、私を殺しそうになっていた。

1年前 No.3

萌香 ★iPhone=ogeD4aa6Jh

004

この人だ、と、彼女に出会ったとき、真っ先に思った。
「宮川春陽です」と緊張した面持ちで名乗る彼女は、名前の通り春の陽だまりのような人だった。
優しくて、笑顔が良い。俺が何か失敗しても俺の大好きな笑顔を見せて「大丈夫」と言う。

小さな町の小さな書店で、店員は店長と、俺と、彼女だけだったから、仲良くなるのに時間はかからなかった。
働き始めて3ヶ月ほど経った日に、俺は彼女に告白した。最初は驚いていたけど、そのあと「そろそろかなと思った」とあの笑顔で言った。

いろんな場所へ行った。提案するのは大体俺で、そのたびに彼女は「そろそろかなと思った」と言っていた。

大学4年の春。就職について考えなくてはいけなくなった。俺は彼女に言えていないことがあった。
「あのさ、俺」
意を決して言おうとしたときも彼女は、「そろそろかなと思った」と言った。これはどういう意味なのだろうかと考えなかったわけではないが、彼女は俺の思考が手に取るように分かるのかもしれないと思うきり、深くは考えていなかった。
「東京に出たいんだよね」
驚いた。そうだ。俺は東京に行って、夢を、小さい頃からの夢を、叶えてみたかった。
「うん、春陽は?ここに残る?」
「東京に行って、出来心で浮気して、私を捨てちゃうんだよね?」
「…は?」

彼女が何を言っているか分からなかった。
俺が浮気?誰よりも彼女を、彼女しか愛してこなかったというのに?

「なんだよそれ」
「私全部知ってるよ、ここより少し遠くから来た」

「あなたは東京に行って夢を叶えようとする。それが上手くいくかは置いといて、素敵な人に出会うの。浮気して、私はショックで自ら命を断った。だから、復讐しに来た」

だから彼女はいつも、「そろそろかなと思った」と言っていたのか?いつかの、記憶を、辿るように。

「付き合わないよ。ばいばい」

こうして、俺と彼女の付き合いは終わった。



その後、俺は東京に出て、仕事を転々としながら夢を追った。
春のある日、仕事に向かう途中、横で車が何かとぶつかった。
悲鳴が聞こえた。人がはねられたのかもしれない。
「大丈夫ですか!?」「すごい血の量…救急車呼んでください!」人がざわざわと集まる。
俺も近寄る。そこにはずっと愛しくてたまらなかった人がいた。
「春陽……………?」
大量の血を纏って。

即死だった。打ちどころが悪かったという。
あのあと連絡が途絶え、彼女はバイトも辞めていた。どこに就職したかなんて知る由もなかった。

「春陽……どうして」
病院で眠る彼女のもとで、俺は静かに泣いた。

「坂口洸さんですか?」
看護師に声をかけられる。「はい、そうですけど…」と返すと、
「春陽さんの手帳から、これが」
看護師が持っていたのは手紙だ。少し日焼けている。

「坂口洸さま」

大好きな字だ。これだけで泣きそうになる。
「洸くん、びっくりしたよね 目の前で私がはねられるなんてね。でも、じゃないと、あなたがこうなっていたから。
あのあと、あなたは浮気なんかしていない。私も一緒に東京に付いていったよ。でもあの日私がはねられそうになるところを、あなたに助けられたの。私は無傷だったけど、あなたはぼろぼろ。二度と会話ができなくなった。
ずっと泣いちゃった。洸くんて、名前呼んでも、返事してくれないから。
そしたら、不思議な人が来て、私わけわかんなくなってたから、その人に頼んだ。「もういちど洸くんにあわせて」って。そしたらあのバイト先にいた。泣きそうになったよ。愛しい人にもう一度会えるって、あんなに嬉しかったんだ
だから、あなたの行動は予想がついた。まさか私が少し先の未来から来たなんて思わないだろうから、本当に新鮮で。たのしかったよ
洸くん、ひどい言いがかりつけてごめんね。何も言わずにどっか言っちゃってごめんね。ずっと見てたよ、小さなライブハウスで懸命に歌う姿も、夜な夜な働きにいくときも。洸くんはどこまでも、私の大好きな洸くんだ。
幸せになってね。わたしはもう一度会えて幸せでした。今まで本当にありがとう。
宮川春陽」

「春陽……………」

彼女は春の陽だまりのような人だ。春の陽だまりをずっと浴びていると、人は、俺は、彼女に会いたくてたまらなくなる。

俺はずっと、あなたに会いたい。

1年前 No.4

萌香 @welcome ★iPhone=ogeD4aa6Jh

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1年前 No.5

萌香 @welcome ★iPhone=ogeD4aa6Jh

006

ふと、人生について考える。
天気を人間が決められるこのご時世、選択肢なんてほとんどない。
生まれたときから、自分が何になるのか見当がつく。

わたしは、XXになるのだ。

「明日は雨にするって」
「ああ、最近晴れてばかりだったものね」

知らない人の会話を小耳に挟みながら、わたしは自宅へと足をすすめる。
今日も疲れた。科学が進んで、殆どの仕事はロボットがするようになった。「便利になったなあ」とばあ様は度々呟いていた。

「おかえり、メノ」
優しそうな青年。これが私の同居人。
「ただいま、ベオ」

「今日の夜は何にするの?」
淡い色の寝間着を着たベオが私に問いかける。
体調は?と訊くと、だいぶマシ、と壊れそうに笑う彼に対して、
「うーん。野菜のスープは作ろうかな」
と言うと、「メノ、君はまたそうやって」と、すべてを察したベオははにかむ。
私はこのとき、こころが暖かくなるのだ。

コンコン、と扉をノックする。
「ばあ様、メノです。お夕飯ができました」
「メノ」
キイイイ、と扉が開く。古くなってきたな。
「はい」
ばあ様は微笑みながら私に語りかける。
「ベオは?」
「先程お休みになりました」
「そうか、今日もなんともなかったんだね」
「はい」
「メノ、今日もありがとう」
「いいえ」
ばあ様が私の頭を撫でてくれた。このときも私のこころは暖かくなる。

外での仕事と、ベオの健康管理がわたしの主なライフワークだ。ベオは小さい頃に死にかけた。夢魔だ。医療は随分発達した。なのにそれでは対処できない夢魔と呪いによる死者が跡を絶たなくなった。
ベオは昔から夢を見る力があったという。夢魔の好物である、夢を。
それ以来ベオはねむるのが怖くなった。そして睡眠不足、体調不良、である。

私はいろんな場所へ赴いて唄っている。子守唄だ。
ベオのように夢魔に恐怖して眠れなくなる子どもたちに唄を届けているのだ。現代医療では太刀打ちできないこの病を解決できるのが唄だというのがなんとも皮肉だなと思った。

「メノ?」ばあ様の声でこちらの世界に引き戻される。
「はいっ」
「眠たそうにしているね。メノももうお休み」
「いや、でも食器をまだ、」
「それくらい私にできるよ。お休み」
ばあ様が微笑む。気を遣わせてしまった。
「ではお言葉に甘えて………、お休みなさいませ」
私はばあ様の部屋を出た。

1年前 No.6

萌香 @welcome ★iPhone=ogeD4aa6Jh

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1年前 No.7

削除済み @welcome ★iPhone=ogeD4aa6Jh

【記事主より削除】 ( 2020/04/10 03:52 )

1ヶ月前 No.8

萌香 @welcome ★iPhone=ogeD4aa6Jh

008(009)

“なかったこと”にしようとしているのが分かった。

「あさり」と、あたしのあだ名を呼ぶ人に対してあたしは戸惑っていた。
「ひいらぎ?」と返すと、「今日も暑いな」と彼はいつもよくする笑い方をした。
ひいらぎ、というのもあだ名で あたしたちはみんなで会うときはみんなにあわせてあだ名で呼ぶのだ。
本当は二人で会ってたり、出かけたりもしているけど。そのときは、名前で呼んでくれるのになあと思いつつ、あたしはひいらぎの隣に座った。

隣で大きなあくびをしている。ひいらぎはとても眠そうだった。もしかして、昨日夜遅くまで起きてたのかな。
そう思い、「課題終わった?」と尋ねると、少し涙を浮かべた目で此方を見て、「うーん………」と返答らしくないものが返ってきたので、「終わってないなら見る?」と聞いた。ひいらぎは途端ににこやかになって、「あさり!ありがとう!!」と言った。
甘やかし過ぎなのかなあ、と思うが、これがあたしたちの“普通”なのだ。

過ちは、おかしちゃいけない。

一週間前の夜、あたしはひいらぎの家にいた。お酒を飲んで、ゲームをして、終電が近づいた。
「そろそろ帰る」と立とうとするとひいらぎにぐっ、と引き寄せられてた。
「帰るの?」
眠たそうな目。いつもはひいらぎのほうが視線が上なのに、立ちかけているあたしに対してひいらぎは座っているから、いつもと違くて、別人みたいだった。あたしは「泊まっていいの?だめでしょ」と笑った。“普通”を壊さないように。
「だめじゃない、泊まってって」その言葉にあたしは耳を疑った。

ひいらぎは、誰にでも優しかった。でもそれは同時に誰にも興味がないということ。薄々気づいてはいた。
あたしがなにか困っていると「どうしたの?」と真っ先に声をかけてくれるけど、他の人にもそうしているし、髪を短く切った日にはなんの躊躇いもなく「可愛い」と褒めてくれるけど、それが正解だとわかっているような言い方だった。

だから、そんなひいらぎから、「泊まって」と言われることが来るとは思いもしてなかったのだ。ということは、誰にでもこうしているの?と考えそうになったけど堪えた。
「やだよ、着替えないもん」再び立ち上がろうとすると「俺の貸すし」と少し強めの口調で返される。力が、つよいな。
その晩、あたしは自分の家には帰らなかった。

「沙織」と、あたしの名前を呼ぶ人に対してあたしは戸惑っていた。
「柊人」と返すと、「沙織、可愛いね」と彼はいつもは絶対にしない笑い方をした。
ただ寝るだけ。柊人の方を向かないで寝るだけ。人生で初めてと言っていいほどに緊張した。この大学の入試よりもずっと。
どきどきした。いつも優しいけど、それ以上に優しい柊人にどきどきした。けれど恋だと自覚したのはもっとずっと前だった。ずっと前から、あたしは柊人のことが好きだった。

「あさり〜ありがとう」はっと気づく。横を見るとひいらぎがあたしに向かってノートを差し出していた。
「ううん」とノートを受け取る。あの日からひいらぎはずっとひいらぎだ。あたしたちのだいすきな、ひいらぎのままだ。この世には、壊しちゃいけないものが、いくつもある。

1ヶ月前 No.9

萌香 @welcome ★iPhone=ogeD4aa6Jh

010

ダン、ダン、ダン
銃声が響く。ここはどこだろう。
必死に逃げてきた。ここまで来ればもう大丈夫だろうと思うが、ここがどこなのか、なぜ俺が狙われているのか分からなかった。銃を避けて奥へ進もうとしたとき、女の声が聞こえた。

「動かないで」
女は俺を護るように目の前に立って銃を構えた。「死にたいの?」声は後ろの俺に問いかける。視線は前にあった。
「殺してくれるのか?」自然とそう口にしていた。こんな生活もううんざりだった。この銃弾だって、天国への入り口なのかもしれない思いかけてきたところだった。
「死にたがりは一番嫌いだからな。殺してやる」女はそう言いながらも俺を護る姿勢のままだ。
「名前は?」
「ラキ」
「ラキ、俺を殺してくれ」

これが俺とラキの出会いだった。

俺は生まれてからずっと組織にいた。小さい頃は、ちょっとした計算や難しい問題をひたすら解いていた。それからだんだん薬を飲まされたり、手術で体をいじられたりした。あれがなんの実験なのか見当もつかないが、銃弾にかすりもしていなかったり、裸足で傷だらけのはずの足がもうぴんぴんしていたりするところから、そういう“人離れ”した人を作るための実験だったのではないかとこの歳になってようやく気づいた。

自分のことは何も分からなかった。年齢も名前も。ラキが言うには18歳から20歳ごろの体格に見えるとのことだった。ラキに名前を聞かれたとき、組織で「9番」と呼ばれていたことしか分からないと答えると、ラキはそこから俺のことをナインと呼ぶようになった。

「それで、いつ殺してくれるのだ」銃を持った集団から一旦逃げた。俺はあれに当たって死ぬのも悪くないと思っていたけど、体がそれを良しとはしなかった。変な実験のせいだと直感した。勝手に避けるようにプログラミングされているようだった。逃げると言う意味ではひとりでもやっていけるが、ラキは俺に食べ物や寝床を与えてくれた。
ラキは肉を頬張りながら答えた。「お前が死にたいと思ったらな」
「俺はもう死んでもいいと思っているが」そう答えるとラキは俺の目を見た。
「死んでもいいと死にたいは全く別なんだよ」

ラキのことはよく分からなかった。東の国の出身、女、20歳。身長は低くはないが、すらりと細かった。四肢が長く、高い位置でひとつに結われている髪が綺麗だった。なんのために俺と一緒にいるのか、どうして俺を殺すと約束しているのかは、何も教えてくれなかった。

「私はこれから西へ向かう。ナインも来るか?」
当たり前だが俺には西も東もわからない。死に場所を探しているだけだし、ラキに殺して貰うしかないんだから、付いていくことしか選択肢はなかった。
「ああ」と答えるとラキは笑った。「決まり」ラキが笑ったのは初めてだった。

行く先々で俺は狙われた。けれどやはり銃弾に当たることはなかったし、ラキの腕前は確かなものだった。一度どうしてこんなに狙われるのかきいたことがある。ラキは魚を頬張りながら「知らん。その金色の髪が周りからは好かれないのではないか」と適当なことを言っていた。

「西って、あとどれくらいなんだ」数日経った頃に俺はラキに尋ねた。当たり前だがこんなに歩いたことはないし、日差しも強かった。ラキは答えなかった。まだかかるのか。



1ヶ月前 No.10
ページ: 1

 
 
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