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崩落

 ( 書き捨て!小説 )
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Sarashina ★iPhone=kMDQ9OhWbX

例えば、永らく途絶えた彼女の言の葉。
例えば、仰いだ空の濁った紫。
例えば、崩れた牡丹の落とした影。

書き付けた音に救いなどなかった。
音が先で、意味はあまりに無力だった。
後付けの、薄っぺらな、僕の人生。

「お酒を、何か飲みませんか。お時間が許すなら」

震えた。
握り締めた携帯電話は、やめてくれと僕を咎めた。
どうして僕は。
どうして僕は、醜いのだろうか。

「もうあなたとは、お会いしたくありませんので」

彼女は、慈愛に満ちて、痛いほどに優しい。
どうして僕は、醜いのだろうか。

滑らかな肌と柔らかい髪。
弛みなく結われた彼らは、束縛を解かれるやいなや、甘く香った。

ビールもウイスキーもやめた。
彼女がそうしたように、僕はウオッカを舐める。
僕は、彼女が好きだった。
彼女も、僕が好きなのに。

喉を灼く水。
涙も僕に愛想を尽かした。
僕を形作る全ての物質が、細胞が、世界が、僕の醜さを嘲た。

時が戻るならば、僕は、あの日に戻ろう。
今度は怯んだりしない。
屋上六階、
柔らかなコンクリート、
一歩踏み出す。

例えば、真っ赤な薔薇の茎を這う蟻。

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