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そこにあるだけ。

 ( 書き捨て!小説 )
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神波 @thousand00☆hyqkMkn9Rthi ★iPad=BENrHRNU7h

いつか筆は折れ、字は擦れ、紙は腐る。
作者の名前は忘れ去られ、物語だけが生きていく。
形すら残らず伝える各々が好きなように削り、書き足していく。
それでも、どこかで、誰かの人生に関わる物語を記せたのであれば。

怒りながら、苦しみながら、足掻きながら、もがきながら、やめられなかった、止まらなかった。
私の人生に意味があったと言えるのではないだろうか。




だらだらと不定期に好き勝手に書きます。
書き込みはご遠慮ください。

ページ: 1

 
 

神波 @thousand00☆hyqkMkn9Rthi ★iPad=BENrHRNU7h

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12日前 No.1

神波 @thousand00☆hyqkMkn9Rthi ★iPad=BENrHRNU7h

 八重咲はそれから注文した雑誌の発売日になると毎回違う男性と共に本屋を訪れた。本当に毎回違うのでたまに見覚えのある男性だと続いているのだと思ってしまうほどだった。天地が八重咲の凄さを知ったのはこの頃である。本屋で見かけた男性は病院勤務だったり、高層マンションから出てくるような人だった。新築の一軒家でお腹が大きい女性に見送られ会社へ向かう人だった時は天地は自分の目を疑った。

「その人が私に気づいた時の顔ときたら最高でしたよ」

「それは見たかったわね。貴方も華の女子高生なんだからさっとスマホで撮りなさいよ」

 天地は無茶言わないでくださいと生クリームやチョコチップが入った甘ったるい飲み物をストローを鳴らしながら吸った。丸いテーブルで向かい合うように座っていた八重咲は足を組み直すとブラックコーヒーに少し口を付けた。
 その動作一つの取っても大人の女性であることを見せる八重咲を見つめていると彼女も天地へと視線を動かした。

「にしてもびしょ濡れ不登校ガールもう高校を卒業するなんてね。卒業したらどうするの?」

 八重咲はブレザーに身を包んでいる天地を頭から爪先まで見てからカップを置いた。天地も飲み物をテーブルに置くとスカートの端を摘んで持ち上げた。片腕は頬杖を付き、気怠げに息を吐いた。

「通信制でしたけどね。八重咲さんが『高校くらい出ておけ』って言ってたからですし。結局三年生二回やって十九で卒業ですけどね。卒業しても別に変わりませんよ、本屋務めですよ」

「愁子あんたね、女子高生がどれだけすごい人種か分かってないからそう言えるの」

 人種って、と年相応の顔で笑う天地は結露したカップを軽く拭いて再び飲み始めた。口から胸へと甘さが広がっていくようだった。それも含めて自然と頬が緩んでしまう。
 初めて八重咲と会ってから五年が経過していた。ほとんど毎週雑誌の発売日になると別の男と本を受け取りに来るうちに言葉を交わす回数も増えた。このようの二人で出掛けるようになったのはここ三年ほどであった。渋々、高校進学を決めた天地から最低限の人付き合いを教えてほしいと頭を下げたのだった。最初は拒否した八重咲だったが、天地から「集団リンチキャットファイトされるのは面倒だと思いますが」という言葉に折れる形となった。
 天地は学校で生きていく術の見返りとして官脳小説の相手をその気にさせる一節や知能が垣間見えるような小説の簡単な内容を話したりしていた。


「またのご来店お待ちしております」

 カフェを後にした二人は天地の本屋へ足を向けた。その間もどうということはない話をした。すべてではないがお互いの過去の話もしたこともあった。昔はあまり動かなかった表情も種類が増えてきた。人付き合いも中学生からすれば大分出来るようになった。二十代後半から三十代前半の男性の相手が得意なのは八重咲が教えてくれたからだろう。おかげで学校の先生相手は楽だったらしい。
 本屋に着くと天地はレジの裏にある棚からいつもの雑誌を取り出した。週刊誌とファッション誌を受け取った八重咲は少し考える仕草を取った。

「これ、来週からいいわ」

「……え?」

 ポカンとした顔をする天地の脳が整理されるより早く八重咲は言葉を続けた。

「あたしね、しばらく遠いとこに行くの」

 今思えば、いつも通りのハスキーボイスで、表情で、眼前に写る世界をただ見ているだけのその姿に違和感を覚えるべきだったのだ。
 この時天地はおそらく不倫相手の正妻から見つからないようにどこかに身を隠すのか、海外にでも不倫旅行に行くのだろうとタカをくくっていた。天地の人生で最も大きな後悔である。
 分かりましたと返し、頭を整理した天地は次いつ頃会えるかを聞かなかった。五年間で当たり前になっていた八重咲との関係に甘えきっていたのだ。彼女のこの世への執着心のなさをすっかり忘れていた。

「寂しくなるわ、達者でね」

「ええ、お元気で」

 短いこの言葉が八重咲と交わした最後の会話だった。








 冷たい夜風が天地の白い髪をなびかせた。顔を掛かるそれを指で払い橋の欄干へと登った。下を見下ろすも、川の流れる音が聞こえるだけでそれ以外は一切の暗闇だった。
 一ヶ月前にワイドショーの話題をすべて奪った入水自殺。不倫していた人との無理心中だったらしい。結果、女性だけ亡くなり、男性は病院だそうだ。亡くなった女性は八重咲 小菊。この街でスナックを経営していた。何度も何度もテレビやインターネットで見た情報。         
 天地はこの一ヶ月間、魂が抜けたように生活していた。何もせず、ただ流されるように時間の経過を眺めていた。
 一ヶ月経ってもニュースの話題からは消えないがこんな夜中まで来る野次馬はいなくなった。

「八重咲さん。何でこの川を選んだのですか」

『こんな季節に水遊び?』

 色があるのに無色なあの視線を今でも思い出す。今は、天地が見下ろす側にいる。

 もしかしたら、自身のことを思い出してかと自惚れてしまう。思考がそこまで動いたところで自らの手で止めてしまう。
 そんなはずはないだろうと天地は思った。これから共に死のうとする二人がお互いのこと以外を考えることはありえないだろうと自身に言い聞かせる。
 物語に多く触れて知識をつけることは時に世界を残酷に写し、知りたくない真実へと導く。

「八重咲さん。貴方の言う通り、女子高生はすごい人種でした」

 暗闇に語りかけた天地はスクールバッグから大きめの封筒を取り出した。中からは分厚く束になった原稿用紙が顔を出した。

「希死念慮が強い女性の不倫を中心に動くドロドロの愛憎劇を現役女子高生が書いたら出版社が飛び付いてきました。再来月には書籍化するみたいです」

 ほんの少し前に進み、爪先が中に浮いた。一ヶ月前のあの日から体はもう震えなかった。

「でも、この物語の六割が実際の出来事なんて言っても誰も信じないと思います。貴方は物語より、物語に生きていました。今思えば貴方は私が作った登場人物だったのかとも考えてしまいます」

 女子高生がすごい人種と言うのであれば、八重咲という人間は末恐ろしい人種なのだろう。

「一つの貴方に聞きたいのですが……私も共に死にたいと思う人に会えると思いますか」

 この橋から飛び降りた時、あの人は何を考えていたのだろう。
 生に興味がなかったあの人は、橋の上で何を見ただろう。
 視線を下に落として、川で文庫本を探している人がいないか見ただろうか。

「知らなかったと思いますが、実は私にもいたんですよ。……その人はもう、この世にいないんですけど」

 いつの間にか流れ出した涙が次々に闇へと落ちていく。堕ちていく。


「小菊さん。愛しています」


 涙が顔を全体を濡らしていく。いっそ共に死ねたらどれだけ幸せだっただろうか。
 天地はようやく涙を拭い、鼻水を乱暴にすするとカバンから週刊誌とファッション誌を取り出すと原稿用紙と共に封筒へ詰めて閉じた。

「来週また届けに来ます。小説も続きが出来たら届けに来ます。貴方は死んでいません。私が無理矢理でも八重咲 小菊を生かせます」

 封筒を川へと落とす。
 暫くの沈黙後にドボンと音が鳴った。

 天地は静かに欄干から降りるともう一度、闇を見下ろした。

「言い忘れましたが、ペンネームは『二号さん』です」

 もういない相手を嘲笑すると天地は走り出した。
 誰も知らない物語を忘れないように書かなくてはいけない。

 もう、死ねない




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[八重咲 小菊様→メロさん]
[舞台→プッチン不倫]

12日前 No.2
ページ: 1

 
 
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