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THE SOUP OF VISIONS

 ( 書き捨て!小説 )
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ホギ ★IgKl278B7Z_yoD


・性的表現(異性愛、同性愛、その他含む)、暴力的表現、なんでもありな記事です
・模索中の文章が交錯しているので、作品としての一貫性は基本的にございません

1年前 No.0
メモ2017/10/01 02:12 : ホギ @kotohogi★iPad-AA5o4WXPWG


・この記事は18禁です。

多様な性(同性愛、男女の性役割交代劇など)を題材にしているものを含め、刺激の強い性的表現をしている文章を上げているので。


・15禁でもあります。

暴力的表現が含まれることもあるので(こちらは少なめと思われますが)


※性的表現、暴力的表現など注意が必要とされる文章が含まれる場合、その記事は注意書きを冒頭に置いた上で、文字色を「黒」に致します。


普通の文章においては、使用する文字色は筆者の気分によって変わることがありますが特に意味はありません。



>>5

>>6

性的表現入れてないのに黒文字を使用してしまいました。。

ややこしくしてしまい申し訳ございません。

関連リンク: Untitled 
ページ: 1

 
 

ホギ ★iPad=AA5o4WXPWG

からくり


激しく揺れる波。絶えずひしめく泡。ぐつぐつと煮え滾る音。原始時代の海とも呼ばれる、生命のスープ。僕は厚い雲が張り巡らされている空のした、限りなく広がっているそんなスープを見下ろしている。
あの中には生命の材料がたくさん入っていて、波に揺られて混ぜられている。やがて材料同士が組み合わさって、一つの個体として構成されて、自分の意思で動くようになる。そんな全てが始まるまでの、気の遠くなるような時間。

僕の足元には、タイルが一枚。一歩も動くことはない。スープがまるで雷のように恐ろしく感じるほどの大きな音を立てながら煮え滾るのを、聞いて見ている、ただそれだけ。
恐らくほんの百年ぐらいは、なんの苦も感じない。だけど少しずつ、タイルがもう一枚あれば、もう十枚あれば、この世界の果てと果てをつないで一つの円にしてくれたら、と頭の中で思い描き始める。しかし煮え滾るスープの音に引き戻されて、やっぱりタイルは僕の足元にしかないと知る。それをやがては一瞬一瞬に繰り返すようになって、金切り声をあげて、全てかき消されて、やがてタイルのずっと下にある生命のスープを、また見下ろす。そして、こんなことを思い描く。

ーー僕という生命を成り立たせている、たった一枚のタイル。そこから踏み外した時、僕は真っ直ぐあのスープの中へ落ちてゆく。激しく滾った海に受け入れられて、僕を構成していた全てはばらばらに散ってゆく。


増えることのないタイル。そこから遂に一度も動かなかった僕の足。未だおさまることなく煮えたぎり続ける生命のスープ。
僕はなにが最初に始まるのかを待ち続けるだろう。タイルが割れるのが先か、僕の足が身を投げるのが先か、そしてその前にあのスープから生命が誕生してしまうのか。いつまでも、いつまでも、からくり人形のように。

1年前 No.1

ホギ ★iPad=AA5o4WXPWG

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1年前 No.2

ホギ @kotohogi ★iPad=AA5o4WXPWG


例えば人間をやめたい時。誰にも会わずに何週間もまどろむ。お風呂にも入らないし、生まれたままの姿で、何度も涙を流しては眠りにつく。そのうち身体中が痒くなるけれど、そんなの知らない。それでも起き上がれないほど、全てが辛い時。
そんな時でも、待ってるよって、私の閉ざした扉の向こうに居てくれるあなたが居ればいい。

例えば朝を迎えたくない時。朝食を口にするのも億劫だけれど、お腹が空いたから仕方なく起き上がる。一晩中頭を掻きむしっていたので、髪もボサボサだし、服も適当。それでも人の目を気にする視野も持てない時。
そんな時でも、いつもと同じように、一日の始まりに姿を見れたことを喜び合えるあなたが居ればいい。

例えば、一日を過ごすのに手一杯で、会えないことが多い時。遠く離れた場所に行ってしまった時。
そんな時でも、いつも大事に思っているよと、気持ちを届け続けてくれるあなたが居ればいい。


服を着れない時、食べられない時、眠れない時、起き上がれない時、
想えば何でも出来そうになる、そんなあなたが居れば、何も要らない。

1年前 No.3

ホギ @kotohogi ★iPad=AA5o4WXPWG




「セネ、君に話さなければいけないことがある」
「……なあに?」

昨今までとは全く様子の違うミオに、セネはまるで俺を心配するように覗き込む。セネはこうして、いつも俺の顔色を見ながら、俺の身体を気遣った。本当に休まなければならないのは、君だったのに。…ごめん、ごめん、セネ……ごめん。
ごめん、そればかりが込み上げてくる喉のうちをごく、と呑み込むと、ミオはいつもの声色を装って口を開いた。

「君に明日、迎えが来る」
「え、私に? なんの?」
「ディー・トーテニンゼルからだ」

一瞬の沈黙を置いて、セネの瞳が、ゆっくりと見開く。
ずっと何も知らずに俺と暮らしてきたセネが、それを聞いてどう思うのか、それを知るには十分だった。唖然としながら、うそ、と言葉をもらそうとしたなり、ミオはセネの勢いよく肩を掴んだ。

「ごめん、ごめんセネ。俺が君が死ぬことを受け入れられなかった。君が外に出られなくて、友達にも家族にも会えなくて、どんなに寂しいか知りながら、俺は君を喪うのが怖かった。どうか俺を赦してくれ。君を行かせず、ずっとこの家に閉じ込めてきた俺を」

頭をうなだれてそう叫ぶミオの手に揺られながら、開いたままのセネの瞳に、ゆっくりと記憶が手繰り出される。
めくっても、めくっても3月5日のページに戻るカレンダー。いつも優しいミオが、外に出ようとする時のみ、血相を変えて怒鳴り禁止した数々の出来事。訪れなかった朝……
やがてミオが嗚咽を漏らしながら、強く噛み締めた口元からぱたぱたと涙を落とすようになっても、セネはその華奢な肩を掴まれながら、静かに一筋、二筋と涙をこぼすのだった。

1年前 No.4

ホギ ★iPad=AA5o4WXPWG


「ミオ。こんな話を知ってる?
ディー・トーテニンゼルはね、太古のひとびとが岩を削って造った、霊園の島なの。

その昔、この世界には生きることと死ぬことの厳格な境界線がなかった。だから人々は、愛する人がその島へゆくことを悲しむことがなかったの。
穏やかに休むことを赦された人々の眠りにつく島で、寂しさに目覚めればいつでも帰ることができたし、残された人々も善く働けばやがてそこへゆける。
ディー・トーテニンゼルは、残された人との永遠の別れの場所ではなく、再会の約束の場所だったの。

だからミオ、どうか悲しまないで。
あなたが世界のために尽くしたその時に、私たちはまた会える。
遠い場所に行っても、あなたのことを大事に思っているわ。
あなたを想い、ずっと待ってる」

1年前 No.5

ホギ ★iPad=AA5o4WXPWG



舟が漕ぎ出される。彼女の俺の両手を握りしめていた手が、やがて外れて、遠ざかってゆく。彼女はそれでも俺に向かってその手をのばしたまま。
ずっと触れていたはずの手が遠ざかってゆくにつれて、無理やり引き千切られるような痛みを発する、胸の奥にあるものはなんなのだろう。彼女と過ごした時間は長い年月だった。その時間の中で彼女と手を握り合い、触れ合うたびに、それは俺の脈をつたって心臓に宿り、育って、今は小さくとも立派に俺の器官の一部となったのだ、と気付き、そして悟る。

俺の胸のうちに宿り、生えたものは糸杉という名の樹。彼女と共に居ただけ、触れた数だけ育った樹。そんな立派な樹が、彼女を追い求めて根こそぎ引っ張り取られそうになっていて、心臓に張った根が悲鳴をあげているんだ。ーお前がいなくては枯れてしまう、朽ち果ててしまう。痛い、痛いよ。
ああ、俺は、永遠とも思える長い時間の中、当たり前のように彼女と共にいること、それが愛だと思っていた。でもそんな日々を守りきることができなかった! 俺は永遠の愛を証明できなかったのか?
いいや、形こそ失った今、俺は確信する。歪でも、不安定でも、 この痛みに悲鳴をあげ続ける俺の中の糸杉こそ、彼女への愛だったのだ。

今まで俺の中の糸杉が蓄えこんでいた水分が、流れ落ちる感覚がした。目が熱い。もう暫く、彼女の姿を見れないのだから、しっかり見たいのに目が霞む。もう決して届くことのない水平線を曖昧にした霧のなかへ、彼女を乗せた舟は入っていこうとしている。彼女はまだ、立って俺を見ている。白いワンピースが、どこまで行っても見失わないのではないかと思うほど、この淀んだ色合いのなかではっきりしていた。でも、やがて見えなくなってしまう。
糸杉がまるで、母親を失った小さな子どものように、彼女を探し求める感覚を強めていく。千切れる、千切れてしまう。

彼女を乗せた舟が、やがて霧のなかへ紛れ、消えた。

1年前 No.6

ホギ @kotohogi ★iPad=AA5o4WXPWG

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1年前 No.7

ホギ @kotohogi ★iPad=AA5o4WXPWG

※過激な性的表現含。






その屋敷に来たばかりの時、彼女は年端もいかぬ"少年"だった。
身寄りをなくしたその少年は、森をさまよった果てに見つけた古びたその屋敷で、猫のように丸まって眠っていた。

男爵はひどく困った。彼は美しいが、男色家でもなければバイセクシュアルでもない。
それどころか気に入った娘を屋敷に招き入れては虜にし、囲って暮らしているほどの娘好きであったのだ。

男爵はその少年の魂を抜き取ってシャンデリアの灯りにし、共に住む娘たちを喜ばそうと考えた。
残った体は外で飢えている狼どもの餌にでもくれてやろうと。

しかし目を覚ました少年は意外にも男爵を恐れるどころか、その美しさに恋に落ちた。
まだ幼かった少年は、男として、女として、なんて自我に目覚めておらずただひたすらに男爵の美貌に魅かれたのだった。

そして男爵に無垢に言い放った。
「男だから要らないというのなら、どうぞ女にしてください」



彼女は今となっては、どうやら自分にはそんな時があったらしいというほどの認識しかしていなかった。
男爵も今となっては、囲っている娘たちの一人として、いやそれ以上に彼女を愛している。
彼女の体に魔法をかけた魔女に願った通り、彼女は美しく、男爵の好みのままの女性に成長したのだ。
幼い頃から愛している男爵に愛されて暮らす毎日を、彼女は幸せだと感じていた。

しかし、彼女は違和感を抱いてしまった。
自分と同じ、男爵に愛される娘たちと、無邪気に裸を見せ合ったり、寝室で二人きりで話し合うことに拒否感を持ち始めたのである。

最初は彼女自身にもなぜだかわからずにいた。
自分と同じ体、同じ肌の柔からさ、そして同じかたちの、女である証……何一つみんなと違わないはずなのに、なぜ。

そしてある日、彼女は気付いてしまった。
男爵に抱かれる晩の話を皆で語り合っていたその日、自分は皆にはない願望を秘めているのだと。
「男爵と 同じように 娘を抱いてみたい」


そして彼女は、遂に一人の娘と行為を犯してしまった。
それまで抑え込んでいた怒涛が流れ出るように、まるで男爵だけが持つ役割を自分が担ったかのように、彼女はその娘を踊らせることに没頭した。
この屋敷の中で、娘を抱ける形状を持つ者は男爵しかいない。その穴を埋めるように、やがて二人の娘の体は濃密に絡み合って小刻みに動き、……やがて二人で果てた。


男爵はその事実を見逃すことはなかった。
ひどく怒り、悲しみ、日々愛し大切にしていたはずの娘たちを穢らわしいと罵って無惨に殺してしまった。

八つ裂きにされた二人の魂は、一方は女であり、一方は男であった。
もう咎められることはない、と二つの魂は寄り添い合おうとした……のも束の間、男爵は二つの魂を引き離した。
男爵は女の魂を広く薄暗く寂しい廊下の灯りに、そして、かつて男爵を愛し、女であることを望んだ男の魂は、もう二度と屋敷に戻って来れないように、瓶に詰められて森の奥深くに投げ捨てられてしまった。

限りなく闇の広がる森のなか、ぽつんと光る魂は、男爵を本当に愛していたこと、そしてあの娘には欲情だけをしてしまったことを、一人いつまでも嘆き続けるのだった……

1年前 No.8

ホギ ★FKqHmQJ7Tn_mgE



 もしも、二度と会えないひとを送り出すことばがあるなら、そのひとの後ろ姿が見えなくなるころ、ゆっくりと唱えたい。
 そのひとの前では、これまでと変わらない日常のなか、ちょっとした遠出をするのを見送るようにふるまって、静まり返った一瞬のこころに、そっとそれを収めるのだ。

 そして願わくば、そのひとにも、ていねいに紡がれた日常の最期も、つづきがあるように穏やかに越えてほしい。
 すがたが見えなくとも、そのひとは帰ってきて、私はそのひとの幻に抱かれてねむる。いつまでも気配をかんじている。すれちがう見知らぬ人にも、遺された物にも。静まり返ったこの毎日にも、ずっと。

10ヶ月前 No.9

ホギ ★Wf3lVF52M3_mgE



 あなたの引き出しの中で わたしは眠ってる。

 あなたが呼ぶなら目を覚ます。

 だんだんちいさくなって 見えなくなっても

 奥をのぞけば いつかの思い出がながれてる。


 いつか 引き出しが色とりどりになって

 なにもきこえなくなっても

 しまわれたまま 忘れ去られても。


 ずっとあなたの引き出しのなかに わたしはいる。

9ヶ月前 No.10

ホギ ★Wf3lVF52M3_mgE





 あなたの故郷に 灯りが絶えても

 どんなにあなたが移ろっても

 わたしが どこにも居なくても


 あなたは抱きしめられて立っている。

 冷たいとおもえる背中にも

 ぴったりと寄り添われている。


 耳にきこえなくても 目に見えなくても

 あなたを守りつづける。



 愛しているのことば。

9ヶ月前 No.11

ホギ ★zRnvSH9eA4_mgE



『とどけ』
『とどけ』
『あなたのもとへ』

『いつか』
『あなたのもとへ』



 時の流れが川のように横へ流れてゆくとしたら、
 私たちは絶えずその怒涛に飲まれ、姿や様子を儚く変えながら掻き消えてゆくのみだ。
 一瞬を煌めかせる 根強い意思に満ちただけの、うたかた。



 僕の時の概念は少し変わっていて、
 時間は引っ張りバネのようにして「見える」。


 「現在」は引っ張りバネの軸であり、先端である。
 そしてそれに連なるのが「歴史」。

 例えばこの川を目にした瞬間、長い長い引っ張りバネが伸ばされて、そしてぱちん、と現在に押し寄せる景色が見える。
 現在に連なる過去の歴史が、凄まじい速さで現在にまで到達してゆくのだ。僕がその場を見た一瞬の中で。

 そしてこの瞬間も、バネの軸、すなわち先端は未完成である。「先端」を追い求めて、過去と現在は凄まじい速さで進んでゆくのだ。
 時というのはそういう、未完成の引っ張りバネのようなものなのだと、僕は思っている。


 何千年も前から変わることなくながるるこの川をそばに、景色は常に更新されてゆく。
 もう、証明できるものは何もないけれど、確かにここには人が人となった瞬間があった。
 数多の人々の汗、涙、血を飲み込んできたのだ。


 僕は「今」に連なる歴史の怒涛の中に、声を聴く。
 僕には「過去」しか見れないが、遠いいつかの人々は「いつか訪れる現在」が見えていたのかもしれない。


 中でも、ある一人の女性は、僕を知っていた。
 遠いいつかの「現在」に僕がこの川に立つことを知っていたのだ。


 彼女は僕の前に流れる川の向こう側に立っていた。
 少女の頃から僕を知っていたようだった。まるで掠れたテープのような歴史の怒涛に掻き消えそうになりながら、成人女性となり、老女となりながら、僕を見つめていた。


『とどけ』
『いつかあなたのもとへ』


 と呟きながら。


 すぐに消え行った存在だった。
 その後も歴史の怒涛は「現在」を追って凄まじい速さで流れ続ける。

 僕が彼女を知ることを、彼女が知っていたかどうかはわからない。
 だけど僕はこの場に訪れるたび答えるだろう。

『とどいているよ』
『みつけてくれて ありがとう』

 と。

7ヶ月前 No.12

ホギ ★UQbqZj7kV3_mgE




――どうして忘れていたのだろう!


 瞳孔が開き、どく、どく、と彼女の全身を脈が渡っていく。冷や汗が頬を伝い、息が乱れる。やがて、彼女の乾いた頬に、一筋の涙が伝う。


 彼女はこの世に一人きりの少女。傍らにはスーツを着た紳士の真似事を完璧に装った、あひる顔の異世界人が立っている。彼女が孤独になってしまった理由は、全て彼にあった。
 宇宙は何個もあって、その数だけ地球がある。時折、時空が停止し、それらのメンテナンスが行われることがある。その過程で、時間が動き出し通常通り動き出す地球、生態や環境が全く変えられて動き出す地球と、大まかに二通りに分かれるのだそうだ。

 彼女が生まれた地球は後者だった。彼女以外の人間は全て、最初から存在しなかったことになったのだ。そんなことってあるのかといつかに彼女が聞いたら、無限にある地球の中で有り得ない可能性などないのだと、男は平然と答えた。

 世界は誰もいないこと以外、全て彼女の希望通りのものだった。彼女が空を飛びたいと思えば空を飛べるし、彼女の聴きたい曲を思い浮かべれば世界中に流れる。彼女一人のために存在する世界だ。
 そういうわけで、世界は彼女の好きなピンク色の砂でできている。空はオレンジ色で、決して雷はおろか雨も降らない。


 実のところ、彼女は数分前まで、彼女の家族、友達、そして恋人に囲まれていた。
 遠いいつか彼女が暮らしていたままの家で、母親と共に腕を振るった暖かい食事を、皆で談笑しながら食卓を囲んでいた。

 しかし、彼女は当たり前のように過ごしていたその光景に違和感を抱いた。何度か、同じような光景を目にしたことがある。それと同時に、永い間、自分は口を閉ざしていたような気がする。
 ある瞬間、彼女の身が強張って、停止する。彼女は考えるのだ。



 この世界は、私が望んだものが全て実現する世界だったはずだ。それは、私以外に誰も存在しないことが前提。それなら、目の前にいるこの人たちは。
 考えられることは一つ。彼らは、彼女の記憶の中にしか存在せず、彼女が望んだままの形質だけが具現化されただけの「光景」でしかないのだ。彼らはもう、「この世界に最初から存在しなかった」ことになってしまった人たちなのだから。


 目の前の光景がひび割れてゆき、やがて割れて飛び散っていった。


――どうして忘れていたのだろう。


 彼女はこのたびに、何度も、何度もそう呟くのだった。

6ヶ月前 No.13

ホギ ★uIzFwBhUMA_mgE




 幾つも存在する地球たち。それらは決して交わることはない。しかし、互いに影響はし合っているのだという。それは丁度、一人の人間を構成している微細たる染色体の一つでも欠ければ、たちまちその人間の生体に異常をきたすのと同じようなものなのだそうだ。

 例えば私、―ナスミはこの地球でたった一人の人間である。それは丁度お隣さんぐらいの地球に、あまりにも多くの人間が存在しているから、「均衡維持」のためにそうなったという。理不尽な話なのだが、その代わり、私の住むこの地球は私の望んだままにカスタマイズできる。私以外の生命を創り出せないこと以外は。そして諸悪の根源であるお隣さんの地球では、生命に溢れているだけ、誰もが賛同できない物事が蔓延っているのだそうだ。

 私はこの地球でたった一人の人間ではあるが、話し相手は居ないわけではない。私の傍らには、「業者」が立っている。革の靴。上質なスーツ。完全な紳士の装いをしていながら、その顔はまるでアヒルのような、形容しがたいこの世のものではない造形をしている。
 簡潔に何者であるか表すならば「幾つもある宇宙を管理している大いなる存在の下請け人」だそうだ。彼によると、下請け人たる存在は無限にあって、それぞれ一つの地球の管理を任されている。つまり、この地球が私一人が存在する地球にメンテナンスされてしまったのは、彼が上役にそのデザインを指令されやって来たからなのだ。

 彼が私に上記のような大いなる秩序についてのことを教えてくれたのだが、彼自身もその全てを知っているわけではないのだそうだ。自分はあくまでも量産型の下請け人であり、全ての宇宙を管理している存在に会うことはできないという。それがどのようなものなのか、組織によるネットワークなのか唯一神のようなものなのか、それすらもわからないのだそうだ。

6ヶ月前 No.14

ホギ ★0Def6diQYH_mgE





 霧の濃い海がある。その水平線はその白に完全に紛れており、生きたる者はその向こうにゆこうものなら、いつのまにやら方向を失い、やがて出発の岸まで戻ってしまう。波はまるでゆっくりと波打つ脈のように膨らんでは流れうねる。その色は淀んだように暗い。

 音も無いその波に乗って、霧の向こうから死者を乗せる舟がやってくる。死者は愛する者と共に、それを待っている。
 舟が到達すると、死者はその舟へ向かう。生きたる者は見送り人として、これを追ってはならない。
 死者を乗せた舟がゆっくりと漕ぎ出し、霧の向こうへ向かってゆく。見送り人たちはこれを呼んではならず、霧に紛れて消えゆくまで口を閉ざさなければならない。


 見送り人たちはその夜、遥か遠い霧の水平線の向こうにある“島”へ到着した死者を夢想し、再会を想う。“島”へ到着した死者もまた、残された見送り人たちを夢想し、再会を想う。


 “島”――死者の島。永久に休むことを赦された者の眠る島。再会の約束を果たす場所。これ以上に、美しい園はあるだろうか?

 何故、いつしか死者たちは、迎えを拒むようになったのか……?

5ヶ月前 No.15

ホギ ★0Def6diQYH_mgE






「独りぼっちが、怖いのですか」
「怖いよ」
「全ての苦悩から解き放たれて、眠ることが赦されても、ですか」
「……怖いよ」


 ひとは孤独が怖いから、生きてゆけるんだ

 誰もがそう、孤独の運命を背負って、それを振り払うために生きているんだ。

 最初から自分は孤独だなんていう事実に抗いたくて、もがいて、もがいて。

5ヶ月前 No.16

ホギ ★qQfzZLnQaw_mgE





 私たちの生まれ育った島はリーゼン・インベルと呼ばれていた。
 リーゼン・インベルとは、「生者の島」と意味することば。遥か古代の技術を継承し、その島にしか生きない植物と共存し、人々は生きる喜びに満ち溢れた日々を送っていた。



――



 リーベン・インゼルには遥か古代からの言い伝えがある。リーベン・インゼルは『死者の島』に最も近い位置にある島であり、年に一度、死者が還ってくる島である、という言い伝え。



――



 死者の島。それは遠くの陸地では、誰もが耳にしただけで震え上がる名の島だという。







 死を迎えた人間は必ずその島へゆく。けれど生きている間は決して知ることのできない場所。どうやら容易に知れないものほど想像力を働かせ、知りたくなるのが人間の本能のようで、人々は『死者の島』についてありとあらゆる噂をした。
 いわく、善をどれだけ多く行ったかを審判し、基準を満たさない者は海に投げ捨てられる。いわく、永久に孤独の檻に閉じ込められ、出ることが赦されない。誰もかの島に行ったことなどないのに、やがて噂に尾ひれがつき、人々はその島の名を恐れた。



5ヶ月前 No.17

ホギ @kotohogi ★Okgp3IQEXi_mgE






 人造人間。
 彼女は自己紹介のおり、初めにそう言った。


 俺は酷く驚いた。この街には人間と似て非なる存在が紛れ込んでいるという噂が蔓延っているということは言うまでもないが、それがまさか人造人間。幽霊や物の怪といった超自然的存在の一味ではなく、人工の生命体であったとは、と。
 そう、超自然的な存在がいるのだと当然のように考えていたのは、その存在意義の不明確さにあった。超自然的存在であるならば、多少の理不尽はそれらのせいにしてまかり通っていた歴史を振り返っても、その存在目的が不透明であるのは今更おかしいことでもないのだ。どうやら政府や極秘組織がこういった目的でこんな人造人間を製造しているらしいなどという噂を耳にしたこともなかった。いや、耳にしたことはあるのかもしれないが、都市伝説の類として対して重要ではないと忘れ去っていた。そう、とにかく発展が急速に進んで目まぐるしい日常のなか、奇妙なことは超自然的存在のせいにして、思考停止させたかった。人間は太古から変わらないようだ。

「誰が、なんの目的で、君らをこの街に」

 とりあえず、僕はそう尋ねてみる他になかった。しかし彼女の回答はまたしても僕の予想を上回る。

「わからないの」

 彼女は当然のようにそう言って静止した。極秘情報が漏れないようにプログラムされているのだろうと思ったが、どうやら本当にわからないようだとわかるのは翌日のことだ。



5ヶ月前 No.18

ホギ ★Okgp3IQEXi_mgE


 『彼』は大いなる宇宙秩序の『下儲け人』であり、ある一つの地球の『業者』である。


 明確な名は無い。何故なら彼と同じ『下儲け人』なる者は数多おり、いわゆる量産型の存在であるからだ。しかし、彼らは一つひとつ違った地球の『業者』を任されているため、その地球の特徴を簡略化しただけの仮の呼び名がある。
 たとえば『彼』が遣わされた地球は、生命がたった一個体だけとなった。その生命とは、人間であり、自我同一性が確立している程度に発達した少女である。彼女の名はナスカといったため、『彼』は上役たる存在である宇宙秩序から『ナスカ』と呼ばれている。全くそれほどに粗略なものだ。





「皮肉な話。もう、私を呼んでくれる存在など居ないのに」

 少女ナスカは乏しく微笑む。




 『ナスカ』は業者としてこの地球へやって来た。その業務内容は「少女ナスカ以外の生命が全て存在しない環境に調節する」というものだった。その理由は、『ナスカ』が知っている範囲では、丁度お隣ぐらいの地球に余りにも多くの生命が繁殖しすぎたための「均衡維持」、が妥当であるが、その全ては知らない。

 大いなる秩序の都合で、突然に自分以外の存在を全て最初から無かったことにされてしまった、この地球でたった一人ぼっちの少女ナスカ。それでいて彼女が寿命を迎えるまでに死んでしまうと、再び均衡が崩れてしまうことが決定づけられているほど、この地球の生態系の因果は全て彼女一人にある。
 そういうわけで、通常『業者』は仕事が終われば帰るのだが、『ナスカ』は彼女が定められた寿命を全うするまで彼女と共にいることを指令されている。彼女のお話相手になる、ただそれだけのために。





「ねえ、死んでもいいかな?」
「いけません」


「あなたが必要だなんて、言ってくれる人はいないのに、死んではいけないなんておかしな話」
「この地球はあなた一人の生命の存在で成り立っている世界なのです」





 『ナスカ』はこの地球にナスカ以外の生命が生まれる可能性を徹底的に根絶していた。彼女以外の生命が生まれることは均衡が崩れる脅威であったのだ。





「ねえ、宇宙秩序って、どんなものなの。やっぱり、誰か一人が全てをつかさどっているの」
「私にそれを知ることは許されていません。私は単なる量産型の下儲け人の一人に過ぎないのですから」





 幾つも存在する地球たち。決して交わることはない。
 しかし、確かにそれらは互いに影響し合っている。まるで、一人の人間を構成している微細な染色体の一つでも欠ければ、たちまちその人間の生体に異常をきたすのと同じように。






 遥か遠く、どこかの地球で、今も存在し生きている弟へ。
 あなたは私を知らないだろうけど、私はあなたのことをよく知っているよ。
 あなたの姉として存在できなかったけど、あなたがどこかで生まれて、生きていることが、とても嬉しいです。
 私という存在の代わりに、かたちを変えた愛情が届きつづけていますように。



5ヶ月前 No.19

ホギ ★V6lWAnirwi_mgE





 本来定められていた寿命はとうに過ぎた。生命としての摂理を狂わせるほどのイニシアチブのもとで、彼はもう何千年も彼女に仕えている。肉は剥がれ落ち、目は剥き出し、土に還りたがる躰を引きずって。
 今では、彼に残るのは彼女への愛憎だけ。それ以外に、何もない。生への渇望も、欲望も、何も。

 彼女は美しき月の魔女王。彼女に仕える者のイニシアチブを握るのは、万物が屈するその美貌の月明かりである。

4ヶ月前 No.20

ホギ ★EQNKpO21wr_mgE





 苦しさも怖がりも全部、無くなればいいって思った。
 そうしたら、どんなに痛みを伴おうと、いつかは前に進めるかもしれない、って。

 私はいつか、何の傷もないように笑って、それを『ナスカ』に伝えたかった。でも無理だった。もう、私が笑う意味なんか、どこにも無くなった。なくなったんだ。



 ねえ、『ナスカ』。
 本来、人は孤独じゃ生きられない生き物だったんでしょう。だったらそれが演技だったとしても、人は誰かに向けた顔が、やっぱり本当のその人の顔だったのかな。だったら今の私は? 誰の目にも通して見られることのない私の姿は?


 彼女の記憶のなかで、未だ鮮明なままの、夢が流れる。操れない日差し。雑踏。笑い声。流れて、流れて、そして途切れる。
 その途切れを人々は予感することはなかった。まるで映像テープの一部が流れたかのように、強制終了させられた、ただそれだけの光景が、そこにあった。今はもう映像の中の誰も、初めから存在すらしていない。
 そのさまを生と死で分けるとすれば、人々はみな死者の側であるのに、まるで私だけが死者のようだ。ここにいるのに、ここにいなくて。


4ヶ月前 No.21

ホギ ★elN1vjbbOS_mgE




 音も無く、ただ広がる暗闇のなか、あちこちで真っ赤に茂る紅葉が映えていた。
 私はこの紅く暗い世界に、ただ一人立ち尽くしている。


(私は生きていた。今はもう、とっくにそうではないけれど)



 私は自害した姫であるらしい。
 この世界で目を凝らすと、向こう岸の見えない赤い橋や、石垣が目に入ることがある。それが私の生きていた頃に暮らしていた城の一部なのだと、ただ懐かしいという情動が私に呼びかける。遠くなってしまった記憶のうたかたの匂い。

 そう、今では、もう何も思い出せない。ここがどこなのかも、何故ここに居るのかもわからない。誰かを待つ場所だったならば、もうとっくに来ていても良い頃だろう。しかし、私は未だにここに独りきりだ。
 でも、どうしてだか、この世界は。たびたび懐かしい情動を呼び起こす。紅葉の闇に映えた紅が、私をかたちのない懐かしさのなかに閉じ込めてしまったのか。


1ヶ月前 No.22
ページ: 1

 
 
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