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消え散るメモ

 ( 書き捨て!小説 )
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ひとつき @tutunuke ★iPhone=VlNS9DTUXS





 消えてしまえば一緒。
 みんな地獄に落ちて行く。




 *

 春になると新しいことを始めたくなります。ゆっくりのんびり書いて行きますのでよろしくお願いします。

1年前 No.0
関連リンク: ハッピーホワイトデー 
ページ: 1

 
 

ひとつき @tutunuke ★iPhone=VlNS9DTUXS



 春になってもまだ逡巡していた。
 早く決めてしまえばいいのに、バカみたいにずっと悩んでいたのだ。

 好き、嫌い、好き、花占いくらい単純に答えが出たらどんなに楽だっただろう。
 でもそんなこと、緑(みどり)は許してくれないと思う。

 ほとんどの桜が散って、今は牡丹桜が満開になっている。
 次から次へとあちこちに春が訪れているのを感じながらいつもの道を歩く。
 駅から真っ直ぐに続く道を五分程歩いて郵便局の角を曲がれば目的地はすぐそこだ。
 緑の家に行くのは久しぶりだった。

 というより、答えが出るまで来るなと言われていた。
 緑は中途半端なのをひどく嫌う。ゼロかイチか、はっきりした人だ。
 それで周りを傷つけようとお構いなしなところがたまに怖かった。
 けれど、その潔さが好きでもあった。

 緑の家につく。白い壁のアパートの二階。
 階段を上がって、右から二つ目の部屋が緑の部屋だ。
 お土産のショートケーキが傾かないように、慎重に階段を上がる。
 部屋番号を確認してからインターホンを押した。


 さよなら緑、昨日練習したから大丈夫。



 **

 別れを選んだ春

1年前 No.1

ひとつき @tutunuke ★iPhone=VlNS9DTUXS





 君と星まみれ




 ころり、と世界は閉ざされる。


 「私の国では本当に心を盗まれたりするの」
 ミズキがそれを教えてくれたのは、初めて出会った時のことだった。
 心を取られるとみんな眠りにつくらしい。
 悠久の時を生きる彼らは、その状態を身体が生きていても死とみなしている。

 心を戻せば目覚めるのだが、ほとんどの場合、一度盗まれた心は返ってこないからだ。
 すぐその場で食べられてしまうのである。
 ミズキの国には、心を食べて生きる種族がいる。名前も教えてもらったけど、難しすぎて全然聴き取れなかった。

 その種族によって取り出された心の姿が、金平糖にそっくりなのだとミズキは言う。
 だからミズキは初めて俺に会った時、金平糖を見て腰を抜かしていた。
 手のひらと変わらないくらいの大きさの女の子が机に座り込んでいて、思わず目を疑ったのを今でも覚えている。

 本人から聞く話によると、ミズキは小人の国からやって来たお姫様らしい。
 父親が国王でミズキは一人娘。まだ本当に幼かった頃に兄を亡くしている。
 ミズキの兄は心を盗まれてしまったのだ。
 結局三年ほど心を探したが、見つからなかった為にそのまま葬儀が行われたという。
 眠ったまま火葬してしまうなんて残酷に思うが、ミズキの国ではそれが普通なんだそうだ。
 むしろ三年も待つのは異例だと言っていた。

 こうしてミズキは王位継承順位一位となった。そのため日々、帝王学を学んでいる。
 けれどそれがどうにも面白くないようで、時たま人間の世界に抜け出して来るのだと苦笑した。

 ミズキと出会ったのは春休みが始まってすぐの頃。
 春休みの間はずっと家にいたから、毎日のようにやって来るミズキといろんな話をした。
 新学期が始まってからは、もうかれこれ一ヶ月経つのに、二回しか会っていない。
 昼間しか来れないみたいで、学校に行く日は会えないのだ。
 けれども、もうすぐ五月の大型連休。休みになれば昼間家にいれるし、ミズキと会える。



 また三日ほどの休みがあること、ミズキともっと話したいことを伝えようと思っていた。
 四月最後の金曜日。



 学校が終わって家に帰ると、リビングの机の上に金平糖が転がっていた。
 母さんのパート先で売っている金平糖だ。俺が好きだからよく買ってきてくれる。
 その金平糖が机の上に散らばっているのだ。
 パッケージに貼られたシールの通り、まさに「星まみれ」だった。

 こんなのミズキが見たら卒倒するだろうな、なんて思いながら袋に戻していく。
 最後の一つを口に含んでリビングを出た。
 二階の自分の部屋で部屋着に着替えたら、どっと疲れが押し寄せてくる。

 五日学校に行ったら二日休みで、また五日学校。俺が教えたから、ミズキはそれを知っている。
 春休みが終わってから二回ほど来たのも、学校が休みの土曜日だった。
 だからもしかすると明日あたり来るかもしれない。
 来たならゆっくり話したい。なら今のうちに英語の課題をやっておこう。
 そう思い立って、鞄からクリアファイルを取り出す。単語の意味調べだけだからすぐ終わるはずだ。
 これさえやってしまえば、あとは課題もないし自由に過ごせる。

 そしてその日のうちに課題はやり終えた。
 けれど次の日、ミズキは来なかった。


 それから何ヶ月、何年と待ったけれど、とうとうミズキがやって来ることはなかった。
 ミズキと初めて出会った日から六年経って、俺はもう学生ではなく社会人だ。
 今でも春になるとミズキのことを思い出す。


 それにあの日、机の上に散らばっていた金平糖のこともーー。


 *

 手直しするかな、しないかな。


1年前 No.2

ひとつき @tutunuke ★iPhone=VlNS9DTUXS





 虫入り琥珀の虫の蘇生法




 春が来ると結婚した日のことを思い出す。交際期間なし。いきなりの結婚だった。
 そんな話をよく了承したなぁ……と未だに過去の自分を不思議に思う。

 その日は桜が咲いて春めいて来たというのに、花冷えの雨だった。


 私は書斎で仕事をしていた。千年分の書類整理。それが私の仕事だ。
 保存状態が悪い上に解読の手間がかかる古典魔導に関する書類ばかりで作業は難航していた。
 大変な仕事だけど、知識ばかりで魔力のない准魔導士の私にはちょうど良い仕事である。

 私の両親は私が六歳の時に離婚した。
 私は母に引き取られて、母の実家である大きな屋敷に一人で住んでいた。


 母はというと、私が二十歳の時に他界。
 病気だった。


 一人では広すぎる屋敷だが、母との思い出がたくさんあって離れられずにいたのだ。
 けれど何かと維持費がかかるので生活は正直言って苦しかった。
 父はすでに新しい家庭を持っている上に、まだ学校に通うような子どもが二人もいるから資金援助は期待できそうにもない。
 だから私は真面目に働かざるを得なかった。

 その日は朝から「魔導による虫入り琥珀の虫の蘇生法」という報告書の解読作業をしていた。
 今では倫理に反するとして禁止されている蘇生魔導がまかり通っていた時のものだ。
 禁止されたのは今から三百年程前だから、ほとんどアンティークと言ってもよい。

 こういった書類に要約をつけた上で必要と不必要に分けるのが私の仕事である。
 膨大な書類は毎月のように私のような魔力を持たない准魔導士で、書類整理の担当についた者のところに届けられる。
 届いた分はその月にやってしまわないとまた次が来るからみんな必死だ。
 私も月末だというのに、その月の分がまだ半分くらい残っていて少し焦っていた。


 それもこれもある男のせいである。



 *

 続きます……。
 いつのまにかいいねが! ありがとうございます。

1年前 No.3

ひとつき @tutunuke ★iPhone=VlNS9DTUXS


 夕陽が目を焼いた。街は茜色だというのに、私は真っ黒だ。

1年前 No.4

ひとつき @tutunuke ★iPhone=VlNS9DTUXS




 続 虫入り琥珀の虫の蘇生法



 思わずメモ用紙を持つ手に力が入る。クシャっと音を立ててシワシワになってしまった。
 自然とため息が出る。
 その間もインターホンは鳴り響く。決まって開けるまで連打するのだ。質が悪い。

「はいはい! わかりました!」

 書類を重ねてから玄関に向かう。書斎を出ればすぐ玄関に続く廊下だ。
 急いでサンダルを引っかけて、扉を開ける。
 そこには案の定、毎日来る男―――― 師匠の七星源氏(ななほしげんじ)がいた。
 相変わらず容姿端麗だ。整い過ぎて胡散臭い。
 「やぁ」となんだか楽しげに片手を上げて挨拶をしてから、なんのためらいもなく中へ入り込んでくる。

「すごい雨だ。桜も散ってしまうだろうな」

 そういう割りに源氏は全くというほど濡れていなかった。
 車で来たのもあるだろうけど、傘から何から、おそらく自分自身にも超撥水の魔導式を施していたのだと思う。
 わざわざ魔導式なんか使わなくても、撥水スプレーが売っているのに。
 源氏は基本的に何でも魔導で解決しようとする。

「花見には行った?」
「行くわけないでしょ、ただでさえ毎日あなたが来るせいで仕事が溜まってるんだから」

 それは残念、と言って少しも悪びれる様子もなく靴を脱ぎかける。
 鎖骨あたりまで伸ばされた金髪が顔にかかって見るからに鬱陶しい。
 私だったらこれくらいの中途半端な長さだと肩について跳ねてしまうのに、源氏の髪はこの湿気にも関わらず少しのうねりもなく真っすぐだ。

「今日は早く帰ってくださいね」
「それがせっかく来た師匠に言う言葉かね」

 どうせ何を言っても聞かない。
 それは分かっているのだけれど、今日は本当に早くお引き取り願いたかった。
 もはや勝手知ったる私の家。遠慮なく普通に上がって来て、いつものようにリビングへ向かうと思いきや、その日は書斎の方へ入っていった。
 時たま書斎に入って書類を見ていくことがあったので、特に引き止めるでもなく源氏の好きなようにさせた。

 源氏は国家魔導士なので書類を見られても問題ない。
 というか、私が見れないような極秘文書に至るまで魔導に関する全ての資料を閲覧する権利を持っている。

「ちょうど良い書類だな」

 そう言いながら、机の上に重ねてあった「魔導による虫入り琥珀の虫の蘇生法」の書類を手に取って読んでいる。
 源氏ほどの知識と経験があれば、ミミズがのたくったみたいな字で書かれた書類もさほど難しい内容ではないのだろうか。

「源氏はそれの意味、わかる?」
「なんとなく分かる」
「じゃあ訳して。メモ取るから」

 書類に向けられていた目線がこちらを向いた。色素の薄い瞳が綺麗だ。思わずメモの用意をしようとした手が止まる。
 見惚れていると、源氏は流れるような仕草でジャケットのポケットから小さな巾着袋を取り出した。

「ここに丁度いいものがある」

 言いながら巾着袋を開ける。
 それから小気味いい音とともに机に置かれたのは、琥珀だった。しかもよく見れば中に何やら入っているようだ。

「虫入り琥珀?」
「そうだ。これは人造だが、きれいだろ」
「まぁ……確かにそうだけど」

 手に取って明かりに透かして見る。
 中にいるのはアリだ。キラキラと、なんとも甘やかで源氏の言う通り綺麗だった。
 けれど源氏がこういうものを綺麗だと褒めるのはなんだか意外だ。

「ついさっきサナにもらった」
「サナちゃんから?」

 なるほど、だから褒めるのか。
 溺愛している姪っ子のサナちゃんから貰ったものだから。
 一度だけ源氏の家族と会ったことがあるが、皆ことごとく美形で七星家の遺伝子恐るべし……! と驚愕した覚えがある。
 サナちゃんも例外なく天使のように愛らしい少女だった。

「家族で新しい水族館に行ってきたんだとさ。その、おみやげ」

 最近の水族館はすごいらしいよ、と再び書類を読みながら続ける。
 けれどしばらく読み込んでから机の上にバサリと放り投げてしまった。
 古い資料だから大切にしてほしい。

「さて、弟子よ。最近何か変わったことは?」
「それいつも聞くけど一体何なの」

 毎日来るくせに決まって何か変わったことはないか聞いてくる。
 一晩でそう変わったことが起こるはずもなく、いつも特にないと答えるのだけれど。
 それでもしつこくそう聞いてくるのだ。

「例えば、不思議なこと。こうなればいいなと思っていたことが、本当に起こったとか」
「特にないよ。今日だって来なければいいと思ってた誰かさんが来たし。願っても叶ってない」
「そうかい。ならいいんだ。今日は君になくても、俺に変わったことがあったから」

 いつもだけれど、源氏の言うこと、考えていることは基本的によくわからない。


 *

 もう少し続く……。

1年前 No.5

ひとつき @tutunuke ★iPhone=VlNS9DTUXS


 ここのところ毎日のようにやって来て、よくわからない難しい話を二時間ほどして帰るのだ。
 相手をしないと仕事の邪魔をしてくるから仕方なく相手をしていた。
 だけどそれが間違いだった。もっと冷たくあしらっておけばよかったんだろう、多分。
 春の嵐で雷雨になると言っていた天気予報通り、外は土砂降りの雨。
 さすがにこんな日は来ないだろうと高を括っていた矢先にインターホンが鳴る。

「なんなの、本当にもう!」


 *

 なんか前のと話が繋がらないと思ったら、ちょっと抜けてた。
 よそで書いて保存してあるのをコピペしているのです……!
 どうでもいいか。

1年前 No.6

ひとつき @tutunuke ★iPhone=VlNS9DTUXS



 続 虫入り琥珀の虫の蘇生法


 やたらとまわりくどい言い方ばかりするし、肝心なことは何も言わないのが源氏という人間だ。
 魔導士としては誰もが認める天才だし、五歳しか離れていないけれど師匠として尊敬もしている。
 けれど人間としては信用性に欠けるというか。別に嫌いではない。見目麗しいし、見た目はむしろ好き。
 でもなんだか手の届かない人のような感じがするのだ。
 人当たりは良いし、他人を愛する心もあるけれど、誰も入れない自分だけの世界で生きている。

 それが、私の思う七星源氏だった。

「紙と鉛筆を用意して。できるだけ大きい紙の方がいい」

 源氏はそういうと、散らばった書類と私のメモをどけて机の上にスペースをつくる。

「鉛筆はこれでいいや」

 机の上のペン立てから鉛筆を見繕って、一本引き抜く。
 私はというと、どこかにあったはずの画用紙を探していた。大きい紙といえばそれくらいしかない。
 部屋の中を探し回っていると、源氏がカレンダーを指さして「あれでいいよ」と言う。まだ四月は終わっていない。
 だけどすぐには画用紙が見つかりそうになかったから、泣く泣くカレンダーを破って差し出した。

「せっかく虫入り琥珀があるんだ。この書類に書いてある通りにやってみよう」

 何でもないことのように言うが、蘇生魔導は禁忌だ。

「魔導法違反で捕まっても知らないよ」
「大丈夫だ。俺じゃなくてアズサがするんだから」
「え、私……? できるわけないでしょ」
「魔導なんてイマジネーションさ。正しく思い浮かべれば問題ない」

 源氏はそう言いながら、カレンダーの紙の裏に円形を二つ書く。書類を見ずとも、手は淀みなく動いている。
 みるみるうちに二つの魔導式が書きあがった。その片方に虫入り琥珀を置く。

「まずは虫の取り出し。さぁ、こっちへ来て」

 ふいに引き寄せられ、魔導式の前に立つ。源氏が後ろから抱き込むようにして背後に立ち、私の手を取った。

「魔導式に手をかざして」

 耳元でしゃべるもんだから、やたら鮮明に源氏の声が聞こえる。掴まれるがまま魔導式に手をかざす。
 肩口に、本当に私の顔のすぐ近くに、源氏の顔がある。
 横目でちらりとみれば、男のわりに長いまつげにすっと通った鼻筋。それにさっきから首筋をくすぐる金髪。意識するなというほうが無理な話だ。


「アズサ」


 私がそんな状態なのを知ってか知らずか、さらに身体をくっつけてくる。

「想像して。中のアリを取り出す。つまり、これを琥珀とアリの二つに分けるんだ。今から力を魔導式に通すと、虫は琥珀の中を上がってくる。そしてそのまま外に出る。想像してみて」

 まずはアリが上がってくるよ、源氏がそう言うと魔導式が青い光を放つ。私の手は源氏に掴まれて魔導式にかざしたまま。
 だからまるで私が魔力を通しているみたいだ。

「ちょっと! 源氏!」
「集中して」

 手を退けようにも、源氏がしっかり掴んでいるから叶わない。
 私はただ手をかざしているだけ。実際には源氏の魔力、源氏のイマジネーションによって魔導式が発動している。
 きっとそうだ。私が何を想像しようと、関係ないのだ。

「アリが上がってくる。アズサ、君がそう思わないと何もはじまらない」

 源氏はそう言う。もうやけくそで、源氏の言う通り想像しようと思っても、頭がぐちゃぐちゃで集中できない。

「無理だよ、全然、思い浮かばない」
「じゃあ目を閉じて」

 早く、と急かされて目を閉じる。心臓がバクバクしているのが聞こえそうだ。
 源氏が掴んでいる手首のあたりが熱い。目を閉じたまま少しの沈黙。
 ひとつ息を吐く気配がして、なんだか優しい声で源氏は言う。

「はちみつに沈んでいると思えばいい。想像してみな。はちみつに沈んだアリがゆっくりと少しずつ、浮かんでくる。スプーンで底からすくい出すみたいに、下から押し上げられてアリが上がってくるんだ。そうそう、上手。その調子」

 源氏の言葉で私の思考は瞬く間にはちみつの中。暗示にかけられたみたいにするする引きずりこまれる。

「さぁ、もうすぐアリが取り出せる。最後はアリと琥珀とになるんだ。別々になるんだよ」

 それからしばらくして、張り詰めていた空気がふっとほころぶ。源氏が笑った気がした。耳元で声がする。

「よくできました。目を開けて」

 そっと目を開けて魔導式を見ると、琥珀の上にアリが乗っていた。中には何もいない。
 取り出せたみたいだ。

「できただろ」
「源氏の力でしょ。私には魔力がないもの」
「俺の魔力でも、アズサの手を介せば、アズサのイマジネーションが必要だ。だからこれはアズサの力。教えただろ」

 そういえば、教わったような気がする。

1年前 No.7

ひとつき @tutunuke ★iPhone=VlNS9DTUXS



 続 虫入り琥珀の虫の蘇生法


 魔力さえあれば、他人の想像力を借りて魔導式を発動させることができる、と。
 すっかり失念していた。そうだ。確かに、教わった。
 あえて魔力の供給源になる魔導士もいるくらいだという話も聞いた。それは頭のいい相棒と出会えた人に限られるけれど。
 魔導士にはそういう生き方もある、と源氏が言っていた。なんだっけか。
 教わったはずなのに記憶が蘇らない。思い出すから、ちょっと待ってと言ったら源氏は黙って私の後ろから離れた。
 隣に立って、動いた拍子に流れてきた長い金髪を掻き上げる。ヒントいる? とニヨニヨしてくるから、首を振って断った。本当にのど元まで出かかっているのだ。

「魔力タンク……?」
「そう、正解。今は俺がアズサの魔力タンクだ」
「何それ。そういうの嫌いだって言ってなかったけ?」

 魔力タンクについて教わった時に、考えることを他人に丸投げするなんて、魔導士としてどうかと思う的なことを言っていた気がする。
 いや、絶対に言っていたはずだ。なんだか源氏らしいな、と思って感心した覚えがある。

「嫌いだね。でもアズサがどこまで想像できるか、興味があるんだ」

 そう言って、源氏は琥珀をそっと持ち上げると、もう片方の魔導式の上にアリだけを振り落とした。
 もちろんアリはぽとりと落ちて動かない。琥珀をまた巾着に入れて机の隅に置く。
 それから私の左手を取って、真っすぐに見つめてくる。綺麗な目に見つめられると気恥ずかしくて思わず目を逸らしてしまう。
 ただでさえ沈黙が気まずいというのに、源氏はわざともったいぶる様にしてから口を開いた。


「アズサ、もしこのアリを蘇生することができたら―――― 結婚しよう」


 なんでもないことのように言うが、蘇生魔導は禁忌だし、結婚するには急すぎる。
 というか、いきなりそんなことを言われたら、頭がパンクしてしまう。

「緊張してる? とりあえず息しないと死ぬから」
「あ、え、えっと……」
「はい。鼻から息吸って、口から出す」

 何が何だか分からなくて源氏の言われた通りにする。飛び出そうだった心臓はなんとか静まった。
 けれど源氏に握られたままの左手は冷や汗たっぷりな上に、まだ少し震えている。

「少し落ち着いたか。さて、結婚する? しない?」
「そんなこと、急に決められるわけないでしょうが!」
「決めてくれないと困る。というか、この先、俺より条件の良い男と出会えると思う?」
「それは……」

 確かに出会わないかもしれない。
 源氏より容姿端麗で、才能があって、収入がある人はなかなかいないだろう。
 でもそれを自分で言うあたりなんというか。

「なんでそんな自意識過剰なの、むかつく」
「じゃあ、アズサが好きだと言えば結婚してくれる?」
「すっ、すき? 源氏が私を? え、ちょっと……!」

 ふいに握ったままの左手を引かれて、源氏に抱きすくめられる。肩口に顔を埋めて、覆いかぶさって来られると、全く身動きがとれない。

「源氏?」
「結婚すると言え」

 抱擁する腕に力がこもる。結婚すると言わないとこのまま絞め殺されそうだ。すでに背骨がちょっと痛い。

「源氏! 痛いってば!」
「結婚する?」

 さらに強く抱き締められる。力技もいいとこだ。結局、こういうやり方でなんでも自分の思い通りにする。
 いつだってそう。だから週刊誌に「七星源氏に手に入れられないものはない!?」なんて特集を組まれるんだ。

「もうっ……する! するって言えばいいんでしょ!」

 私がそう叫ぶとすぐに腕が緩んだ。

「さて、そうと決まればさっそくアリを蘇生しよう」

 この変わり身の速さである。呆気にとられる私をよそに、源氏は魔導式に最後の書き込みをした。
 それからあれよあれよと、魔導式の上に手を引かれて言葉巧みに想像させられる。
 源氏の言葉を聞いていると、自然にイメージが湧いてくるのだ。
 いつも言葉に出さないだけで、普段から物事をこんな風に考えているのだとしたら、源氏の頭の中は複雑なようで単純だと思う。

「ほら、できた」

 魔導式の上をアリが歩いている。信じられないけれど、成功したらしい。
 なんだか拍子抜けするほど簡単だった。

「これ蘇生法と書いてあったけど、実は蘇生ではなくて、死体に生前の動きを再現させる魔導なんだ。当時はこれを蘇生法と言っていた」
「待って、メモ取るから」
「アリが動くのは魔導式の上でだけ。だからアリは魔導式の上からは出ない。動く時間もせいぜい半日程度」

 少しも待ってくれない源氏の説明を、必死でメモする。
 これをそのまま要約として貼り付けて分類すれば、「魔導による虫入り琥珀の虫の蘇生法」の書類は片づく。

「魔導で命を蘇らすことは出来ない。死んだら、それきりだ」
「だったら、この書類は不必要ね」
「さすが、俺の弟子は物分りがいいな」

 源氏はうんうんと頷いてみせた。それから私が書類を処理する間、黙ってソファで待っていた。

「終わったよ」
「じゃあ、結婚してくれる?」

 色素の薄い瞳が、なんだか琥珀みたいで綺麗だ。源氏の目に私は弱い。
 だから見つめられると、おかしくなってしまう。

「仕方ないから、よろこんで」

 そう言って私は結婚を了承した。だけど相手が源氏じゃなかったらこんなプロポーズではお断りである。
 結局、私は源氏が好きだった。だからいきなりでも強引でも、源氏と結婚したんだ。


 *
 かなり急いた上に尻切れトンボだけど、これでひとまず終わり。


1年前 No.8

ひとつき @tutunuke ★iPhone=VlNS9DTUXS


 どこにでもある絶望を嘆いても仕方がないことはわかっていた。
 出会った以上、いつかはこんな日が来ることもわかっていた。
 それでも涙が出てくるのは、やっぱり私が芦沢のことを好きだったからだと思う。

1年前 No.9

ひとつき @tutunuke ★iPhone=VlNS9DTUXS


 キョンシーメモ

 足が上がりにくいからよくつまずく
 運動音痴で身体がかたい
 感情の起伏が乏しい、顔に感情がでにくい
 鈴の音に身体が反応してしまう
 夜になると凶暴、血肉を貪りたい衝動に駆られる
 でも一人でいる分には大丈夫
 おでこを触られるのは苦手

 *

芦沢処理中で今は書けないけど、いつか書きたい。
七星源氏の友達が実はキョンシーな話。

1年前 No.10

ひとつき @tutunuke ★iPhone=VlNS9DTUXS




 いま死にそうだ。目を閉じても、何も浮かんでこない。しあわせだ、いまに死ぬ。



 ここらもとうとう梅雨入りしたらしい。朝から日がな一日、雨が降り続いていた。
 鬱陶しいお天気はどうにも好きになれない。職場まで自転車で行かなければならないから、雨が降ると面倒なのだ。
 歩いて行けばいいのだけれど、私の職場は歩いて行くには遠すぎる。かといって車の免許も持っていないから、自転車で行くしかなかった。

「お先に失礼します」

 残っている主任に声をかけて、裏口から外に出る。雨は止むどころか、さらに強まっていた。けれど仕事が終わった今、そんなことはどうでも良い。明日から二連休だ。私のところは定休日が日曜日だけのシフト制でやっている。このところ巡りが悪くて連休がなかったので、例え二連休でも私は嬉しかった。

 レインコートを着て、カバンをビニール袋に入れる。それからフードをかぶり、ポツポツと大粒の雨が打ちつける中を自転車置き場から出て、街へ漕ぎ出した。人通りの少ない住宅地を行く。レインコートを着て、前髪や顔をびしょ濡れにしているところなど本当なら誰にも見られたくない。だから雨の日は人通りの少ない道を通って行き帰りをするのがいつもの決まりだ。

 雨は止む気配がない。

 どんよりしている。明日から休みで心は晴れやかなはずなのに、なんだか身体が重たかった。疲れているのだろうか。
 しばらく住宅地を行って、おとずれ坂を下れば湖(うみ)沿いの道に出られる。

 私の家は湖岸にぽつんと一軒建っている。両親が湖から見える夕日を気に入って、湖のほとりに家を建てたのだ。その両親はもういない。二人で旅行に行った帰りに交通事故で帰らぬ人になった。それきり私は両親の選んだ小さな家で一人、暮らしている。

 おとずれ坂を下りきって、湖岸の自転車道を進む。湖を見ながら十分ほど自転車を漕いだら家に着く。道なりにひたすらまっすぐ進んで行くのだ。
 湖からの風で、フードが飛ばされそうになるのを手で抑えながら行く。顔に雨が当たるせいで視界が悪い。こんなのはなんというか、嵐だ。梅雨がどうこうの問題ではない。

 一心不乱に自転車を漕ぐ。湖は黒く、波も荒い。六時を過ぎているから、辺りはすでに薄暗かった。時折、車が通っては水しぶきを飛ばしてくる。それがまともにかかってイライラしながら車道を睨んでしまった。車はもう行ってしまって、そこにはいない。
 けれど遠くに何かが落ちているのが見えた。遠目にはタオルがくしゃくしゃに丸まっているように見える。しかし近づくにつれて、タオルではないことが分かった。

 それは白い猫だった。

 車に轢かれてしまったのだろうか、猫は道に横たわったまま動かない。私は近くに自転車を止めてそっと様子を伺った。母が猫が好きだったので、我が家でも猫を飼っていたことがある。だから私は犬より猫が好きだった。怪我をした猫だとか、野良猫を見ているとついついなんとかしてやりたい気持ちになる。

 猫は轢かれてしまったのだとばかり思っていたが、血が流れている訳でもなく、どこも怪我はなさそうだ。私が上から覗き込むと、重たそうに頭を上げて私の顔をじっと見てくる。しかしその間も四肢と長い尻尾は脱力したように投げ出されたままだ。生きてはいるけれど、どこか悪いのかもしれない。

「そこにいたら死んじゃうよ」

 私がそう言うと、答えるようにひと鳴きする。雨音にかき消されてしまいそうなか細い声だった。猫は鳴いたきりまた、こてんと頭をもたげる。それきり何もかも諦めきったみたいに遠くを見つめていた。それがここで死ぬと言いたげで、無性に助けてやりたくなった。
 自分の荷物を自転車のカゴから出して、カバンに入っていたタオルをカゴの中に敷いた。それから猫を両手でそっとすくいあげる。脱力した身体は重たくて、両手からこぼれてしまいそうだった。落とさないよう胸に抱えて、自転車のカゴに乗せる。猫は途中、短く鳴いただけであとはされるがままだった。

 カゴに猫を乗せ、肩にカバンをかけて、ふらふらしながら漕ぎ出す。家までの道のりはあと少し。

1年前 No.11

ひとつき @tutunuke ★iPhone=VlNS9DTUXS

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1年前 No.12

ひとつき @tutunuke ★iPhone=VlNS9DTUXS

 君がいなくなったら、この感情をどうするの。

1年前 No.13

ひとつき @tutunuke ★TBkj6ZQaY4_UHY

許して



 顔を見なくなったところで、根本的な解決にはなり得ない。こんなのは傷つけられるという恐怖からの一時的な避難だ。
 また顔を見ればすべてが蘇る。憎めば憎むほど、あの子たちの顔が鮮明に浮かぶから、これきりにして忘れようと思う。
 学校も卒業したし、同窓会なんて行かなくていい。その辺でばったり出会っても無視しよう。それでもたまに思い出してまた傷つくかもしれない。

 だけどすべて許すのだ。頭の中にいるあの子たちはみんな殺して、卑屈と思われてもそうやって清算する。
 長い年月をかけてでもいい。確実に殺して、消し去ってしまおう。

 そう心に決めた頃、庭に真っ青の紫陽花が咲いた。
 毎年、青い花を咲かせるうちの紫陽花は綺麗だけど泣いてるみたいで寂しそうだ。特にこの時期、雨が降れば余計にそう見える。
 紫陽花の花の色は土の酸度によって変わるらしいから、私の気持ちを映しているわけでも何でもないけど、とにかく見てると切なくなる。
 ハサミを持って庭に出た。今日は梅雨の晴れ間で雨は降っていない。紫陽花は相変わらず爛漫と咲いている。しばらくは見頃だろう。
 一番いい時、これからという時を、私は摘みに来た。二つ三つと花を摘んで新聞に包む。それから茎の先を黒くなるまで焼いた。
 こうすれば長持ちする。水揚げをよくするために焼くなんてなんだか皮肉だ。
 花瓶に挿して玄関に飾れば、青い紫陽花はなんとも涼しげで庭に咲いているよりよっぽど良かった。だけどやっぱり寂しげで。
 紫陽花を眺めながら考える。すべて許すなんていうのはただの降参だ。勝ち目がないから白旗をあげるだけのこと。
 許してくださいと言われたわけではない。でも私はすべて許すことにした。あの子たちのためではなく、弱い自分を守るために。
 何も言わないで、ただ許して。紫陽花みたいに沈黙して雨に咲く。泣いたところで救われない。

 *

 どうしたって憎いものは憎いけれど、それでも許して生きて行く。
 とはいえ前後の話はない。

1年前 No.14

ひとつき @tutunuke ★iPhone=VlNS9DTUXS




 どこへ行くの、夕星はひとつだから寂しい。

 丸きり隠してしまおう。ひとつしかないのだから、どこかへ行ったら終いだ。歓晴ならそれを受け入れてくれる。何も言わずにいてくれる。いつだってそうだ。悲しいくらいに優しくて、壊したくないのにとても脆い。

 何食わぬ顔で家を出る。歓晴は何も知らずにまだ眠っていた。

 彼には友達どころか両親や親戚といった身寄りがいない。私の知る限りひとりぼっちだ。今は私がいるけれど、私以外は誰もいない。それにまるで違う星から来たみたいに無知である。みんなが当たり前に知っていることを知らなかったりする。今私が歓晴を閉じ込めていること、その不当性にもきっと気付かないだろう。

 憂鬱な仕事を終えて家に帰ったら、歓晴はそこにいる。鍵なんてかけなくても出て行きはしない。だって帰る場所がないから。本当に今までどうやって生きてきたのか不思議なほど何も持っていないのだ。服から何からほとんど全て私が与えたと言ってもいい。
 駅から歩いてすぐの職場に着く頃、携帯が鳴った。歓晴からのメッセージが表示される。歓晴は携帯を持っていないから、うちに置いてあるタブレットを使って連絡してくる。なんの絵文字もなくただ一言、おはようとだけ書かれていた。これを送って二度寝している姿がありありと思い浮かんでくる。


夕星/よしはる




1年前 No.15

ひとつき @tutunuke ★iPhone=QmP8iXfhl7



 駅舎を出るとそこは地獄だった。ひどい日差しにまとわりつく熱気。耳をつんざく蝉の声。海まで歩く人の波に着いて行くだけなのに、ぐっと気が滅入る。夏は嫌いかもしれない。なんだか身が腐ってしまいそうでぞわぞわする。
 海を見に行こうと言ってきたのはアラタのほうだ。夏休みが始まってすぐに連絡が来た。ママには適当に嘘をついて家を出てきたから、後ろめたい気持ちもある。それも相まって夏らしい陽気の中へ踏み出すことは、とても勇気がいることに思えた。それはもう「本当に行くの」なんて無粋な言葉が出かかるほどに。二人で決めたことだ。今さら水を差してはいけない。サックスブルーのシャツから覗くアラタの白い腕がすっと伸びてくる。瞬く間に手をとられて、海への一歩を踏み出した。二人でいればなんでも簡単に思える。けれど二人でいるのに、どうしようもなくて虚しくなる。私たちがキョンシーであること。それはどうやっても変えられない。


7ヶ月前 No.16

ひとつき @tutunuke ★iPhone=L82vO7T62R



 海に向かって歩き出すとだんだん二人して無口になった。そのせいで後ろめたさと、身を滅ぼされそうな得体の知れない不安感が心を覆う。いっそ夏の日差しで目が眩んでしまえば良いのだけれど、妙に冷たいアラタの手がそれを許してくれない。はっとする程、生々しい。色白痩身のお世辞にも健康的とは言えない姿に低い体温。アラタはキョンシーの特徴の全てをその身に落とし込まれているようだった。私だって同じキョンシーだけれど、これほどまで顕著に性質を持っているわけではない。だからこの夏の日差しも、私よりアラタの方が耐え難いだろう。それでも何も言わずに真っ直ぐ前を見て歩いている。走り抜けていく子どもの姿も、若い人の楽しげな声も、私たちの知らない幸せがそこにあるようでうるさかった。

「海についたら、どうすればいいかな?」

 少し先を歩いていたアラタが、私の隣に並ぶ。顔を見上げてみてもやっぱり汗はかいていない。

「僕にもわからない」
「じゃあ、ビーチバレーでもしよっか」

 見えてきた露店を指差して聞いてみる。いろんな浮き輪やらビーチボールやらがぶら下がってにぎやかな店だ。その先にちらちらと海が見える。

「できるの?」
「絶対ムリ」
「だよね。気が狂ったのかと思った」

 冗談だって、と笑うとアラタもわずかに笑って見せた。多分、誰にも分からない程の変化だ。昔はよく笑ってたし、泣き虫だったし、うらやましいくらい表情豊かだったのに最近は半ばのっぺらぼうになってしまった。涼しげな目元に控えめの鼻、すっと薄い唇、おまけに病的な色白で無表情とくれば正直生きている感じがしない。周りは口を揃えてアラタは綺麗だと言うばかりで、その異様さはどうでもいいみたいだった。現にアラタはのっぺらぼうでもみんなに受け入れられている。そんな姿のアラタと手を繋いで歩けば、周りの視線が気になるところだ。信号待ちで立ち止まると、何だかとても目立つような気がするけれど誰も私たちのことなど気にとめていないようだった。横断歩道を渡れば、海。そのせいで周りの人がみんな浮き足立っているのだ。夏はいろんなものを見えなくする。ただ目先のものがキラキラ輝いて見えるだけで、気分が高揚するのだから普通の人には良い季節だ。

7ヶ月前 No.17
ページ: 1

 
 
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