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水葬 @lita ★jjZ8s1GBr0_yFt

一品料理を求めた美食家で知られるジェリーヌが、どうやら「喉が渇いて渇いて仕方がない」病にかかってしまったらしい。
あんなに毎日国々を飛び回っていて、空家かと疑われていた彼女の家に、彼女は今も引きこもったままの様だというから驚きだ。
ただ一つ気がかりなことと言えば、彼女の家へと毎日黒服を着た怪しい連中が数人、出入りしていると言う事だろうか。
その都度大きな麻袋を運び入れるものだから、好奇心旺盛な私は遂に彼女の家の裏の茂みで、息を潜めて様子を伺う事にした。

するとどうだろう。あの美しい声のジェリーヌとは思えない程の、絶叫が聞こえてくるではないか。
喉が渇いてしまっているのだろうか?水を飲めばいい物を、すぐそばには井戸もあるのだし、困らないだろうと首を傾げる。
今度は、半分程隙間が空いているカーテンの合間に、ジェリーヌの姿が見えた。
決して見目麗しいと言う訳ではないが、どういう事か、細身だった彼女が今は肥え太り、肌も見て取れる程の荒れようだ。
もうあれは皮膚の病かなにかではないだろうか?と見紛う程のである。

そうこうしているうちに、怪しい連中が彼女の家へと足蹴もなくまた麻袋を背負ってやってきた。
袋が動いている様に見えるのだが、何か動物でも入っているのだろうか?美食家の彼女の事だから、見た事も無い様な美味な食材が、運ばれてきているのかもしれない。
そんな事を想像していると、その想像を打ち破るかのような悲鳴とも絶叫ともつかない声がまた聞こえてくる。今度は彼女のものでは無い様だ。
子供の泣き声のようなもので、私はその声に背筋を凍らせる。何故、彼女の家に、子供が運ばれてきているのだろうか。
「今回は貴族の家のガキを連れて参りました。お口に合うとよろしいのですが」なんて声がはっきりと聞こえてくる。
この時私は余りの事態に気を取られ、声がはっきり聞こえてくるという異常事態に気づく事が出来なかった。
カーテンの合間からは、彼女が札の束を渡しているのだ見て取れる。毎日家に籠っているというのに、何処から金が出てくるのか。私は首を傾げる。

「さて、今日はどうやって食べようかしら……」

か細い彼女の声は、部屋中に響き渡る少年の声にかき消され、手に握られる包丁が怪しげに光を帯びている。
私は早く逃げなければ、とその場でじたばたと身動きをとる。そして気づいたのだ。自分が、ジェリーヌの家の中に居るという事に。

「あら気づいたの?というか、久しぶりねリリアンナ。酷いわ……聞き耳を立てるなんて………」
「でも安心して。今、この子を食べ終わったら、次は貴女を美味しく食べてあげるから。本当は子供のほうが美味しいから、今はもう子供しか食べていないのだけど。貴女だけは特別よ、だって大切な友人ですもの。ね?」

私は余りの恐怖に震え、涙を流す。その目の前では、子供の解体作業が行われ始めていた。
私は自分の命惜しさに、必死に言葉を紡ぐ。

「ねえジェリーヌ。美食家として名前を馳せていたあなたが、何故今人間を食べているの?」
「それはねリリアンナ。私が美食家だからよ。もう沢山のものを食べて、飽きてしまったの。まだ食べていないのは人間だけだと気づいてしまったわ。だから一口食べてみたのだけれど……するとこれがまたすごく美味しいのよ!でもほら、喉が渇いてしまってね……」
「ジェリーヌ。まだ食べていないものがあるじゃない。あなた程の人が、その美味しそうな食材に気づかないなんて、わたしは吃驚だわ」
「どう言う事?リリアンナ」

彼女は口の周りを、先程まで泣き喚いていた子供の血で濡らしながら、こちらを振り向いてそう問う。
余りの恐ろしいその形相に、嗚呼もうこの人は人間ではなくなってしまったんだわ、と嘆かざる負えない。

「落ち着いて、ジェリーヌ。今話すわ。その前にこの縄、解いて貰えない?」
「それは無理。私は今、この子を食べるので精一杯なの」

そう言って、ジェリーヌは自分の懐にしまっていたのであろう、果物ナイフを投げてよこした。

「早く話して、リリアンナ」
「世界各地の美食を食べつくし、そして更にそれ以上の美食を発見した。そうでしょう?ジェリーヌ」
「ええ、そうよ」
「そんなものを食べつくした貴女は、どれ程美味しいのかしらね?」

ジェリーヌは目を見開き、固まる。失敗だったか?そう思い自分の命の終わりを悟った束の間、

「そうね!その手があったわ、リリアンナ。有難う!本当に有難う!これでまた私は、美味しい物を食べられるわ!!!何故気づかなかったのかしら………」

ジェリーヌはその後もぶつくさと何かを呟いていたが、次の時には、

「本当に有難うね、リリアンナ。こういう言い方はよくないけれど、もう帰ったほうが良いわ。ほら、外も暗いし」
「ええ、そうするわ。此方こそ有難う、ジェリーヌ。そして、」

さようなら。小さい声でそう呟いて、彼女の家を後にしようと、表の扉に手をかける。
その最中にも彼女は、
「どこがいいかしら……、まずは手?そうね、手にしましょう。きっと美味しいわ。うふふ………」
そんなことを呟いて、自分の左手に包丁を当てている。
わたしは余りの出来事に笑みを浮かべた。死ななくて済む。どれ程嬉しい事だろうか!そしてあんな危険な化け物になってしまった、ジェリーヌを滅ぼすことができるのだ。

わたしは家路につきながら、今日の夕飯について頭を回す。
あんなに美食を食べ回っていたジェリーヌが言う事なのだから、あれはとても美味しい物なんだろう。わたしは胸を躍らせる。
そういえば、今我が家には、死にかけの母が居たっけ。もう死ぬだけだし、死体の処理にもお金がかかってしまう……。子供が美味しいらしいけど、取り敢えず最初にあの母から処理させてもらおうか。綺麗になって一石二鳥だわ。

嗚呼、やっと一品料理が食べられる!

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./a la carte

2017/03/20 22:20 No.3

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