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独壇場No.2 だけを表示しています。

水葬 @lita ★jjZ8s1GBr0_yFt

「ねえ、香乃ちゃん?今日もほら、いい天気だ」

お生憎様、雨がしとしと降っていて、通り過ぎる誰もが傘を差している、そんな今日。
隣を歩くこの男、快は、僅か二ヶ月で「法螺吹き快」というあだ名がつく程の、嘘吐き男である。
私とは幼馴染という間柄で、小さいころからよく面倒を見させられてきた。
小さい頃の私はというと、とても素直な子供で、「そんなことを言うと、何時か狼に襲われるんだよ」なんて、可愛らしく諭していたが、
今となってはどうでもいい。寧ろ噛み殺されろと思っている。

「ほら見て?空は真っ青だ!」

彼がこうも嘘吐きになってしまったのには、どうやら訳があるとか無いとか、母が言っていた気がしたが、もう覚えていない。

「快、今日は凄まじいほどの雨天よ。傘を差しなさい」

幾ら馬鹿な貴方でも風邪をひくと、諭してやろうと思ったその時、びしょ濡れになった彼が、

「嗚呼!これはね?あそこの川に飛び込んだのさ。だってほら、魚が泳いでいたから」

高校生になったというのに、何故こんなにも幼稚なのか。溜息を吐かずにはいられない毎日である。

彼は容姿も端麗で、性格だって悪くないと、私は思う。
だからこそ、彼が法螺吹きだと言いふらされる前までは、女共が寄って集っていたのだろう。
だが、今となってはどうだろう?「嗚呼、ほら今日もまた法螺吹きが来たぞ」と後ろ指をさされ、挙句隣を歩いている私までが、後ろ指を指される毎日である。

彼はよく、手の甲を掻く癖がある。小さい頃は、虫が出てきたとよく言っていたが、嗚呼また法螺が始まったと、私は何時もだんまりを決め込んでいた。
事ある事に掻き毟るものだから、その場所は引っ掻き傷だらけで、血が流れていることだってある。
だから幼馴染として律儀な私は、毎日クリームを持ち歩いているのだ。

今日は、彼が私の家で食事をとると言い出した。彼の家は片親で、その唯一の親である母が、近ごろ姿を現さないのだという。
昔から何かしら訳ありの家庭だったようだが、嗚呼いよいよか、と嘘かも本当かも分からない話を、私の両親は信じ、親切に飯を食わせてやるのだ。

「また掻いている」

私はそう言って、クリームを彼に渡してやる。彼は素直にそのクリームを手に取り、手の甲へと塗り付ける。

「綺麗になったよ。有難う」

彼は律儀に頭まで下げてきたが、何が綺麗になったのか。ただ痒みが少し消えただけじゃないのだろうか。私は不思議でならない。

私の家は、今日は父が出張で泊りに出ていて、母も夜勤だと言い、家を出ていく。
全く迷惑な話だと思いながら、「貴方も早く帰ったら」と快に言ってやれば、
「香乃ちゃんは素直じゃないんだね」と、言われたくない一言が返ってきた。
私は、「もう良い」と言い、部屋へと籠ろうと二階への階段を上る。すると彼もまたついてくるのだ。
全くどういう風の吹き回しなんだと思い、何度目かのため息を吐く。すると、部屋に入り、扉を閉めて彼は言うのだ。

「僕ね、お父さんを殺したんだ」

「何を言っているの。いい加減にして」
「貴方のおかげでいい迷惑なの。私まで法螺吹きだと後ろ指を指される」

そう言ってやると、

「本当なんだよ、香乃ちゃん」

彼は私の目をまっすぐに見てそういうのだ。
だから私は嗚呼、面倒くさいな。と思いながら、黙って話に耳を傾けることにした。すると、

「僕の手の甲には、ずっと血がついてる。幾ら流しても、落ちないんだ。掻いても掻いてもなくならないし。だけど香乃ちゃんが渡してくれる薬を塗ると、少しだけ綺麗になるんだ。だからね、何時も有難う」

彼は目を細めてそういう。そして、

「僕はね、嘘吐きになったんだ。お父さんを殺した事を、無かった事にする為に。なんで殺したんだろう、もう忘れてしまったのか、思い出せないんだ。嘘を吐いている時だけは、少しだけ心臓の所が痛くなくなるんだ」

「でもね、香乃ちゃんと居る時は、もう少しだけ痛くなくなる」

彼はそう言って、私の前へとしゃがみ込む。

「ねえ、知ってる?嘘吐きの舌って、冷たいんだよ」

彼はそう言って、べろっと舌を出して見せる。

「どうせそれも嘘でしょう」

私はそう言って、彼の舌へと自分の舌を絡ませた。

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./嘘吐きの舌は冷たい

2017/03/20 22:11 No.2

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