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遍く星をひとつに束ねて

 ( 書き捨て!小説 )
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とめべに @konronka ★iPhone=ivgXpLogF0

別々の人生が、とある地点で交わって
別々の輝きが、とある地点で連なって
いっそう眩い光を生み出す
そんなお話を書き捨てたいです

例えばとある強豪の吹奏楽部にて
悩み、焦り、傷つき、気づく
少年少女の物語

メモ2017/03/06 14:16 : とめべに @konronka★iPhone-ivgXpLogF0

SS倉庫です

やったねミヤハル!


吹部カレンダー

4月 怪人討伐

7月 辞柄

8月 朝ごはん

9月 文化祭

10月 おまじない

一週 龍炎1、龍炎2の前半

二週 買い出し

三週 龍炎2ラスト、決壊

11月 淡い想い

12月 小春の日

2月 semprepastoso、ウァレンティヌスに心願を

関連リンク:  アネモネ 
ページ: 1


 
 

とめべに @konronka ★iPhone=ivgXpLogF0

怪人討伐大作戦

たんとんたんとん。楽しげに、床を蹴る音。まどろむ視界の隅で何かが跳ねる。
「ドーは土偶のド! レーは煉瓦のレー! 」
軽やかな歌声に、大吾ははっと背を伸ばす。どうやら、うつらうつらしていたようだ。この時期音楽室の窓からは暖かな陽光が射し込むから、1人静かに座っていると睡魔に立ち向かえない。眠気覚ましに、弾みをつけて勢いよく立ち上がった。
「ほたるん、何? その土臭い歌」
いつものからかうような笑みで、目の前の少女に問いかける。居眠りを見られた気恥ずかしさを、それとなく隠すように。
「大吾くんお昼寝してたから、ほたるも一緒に寝ようかなーって。だから子守唄です! ごめんね、起こしちゃいました? 」
同じくいつも通りの微笑みを浮かべ、ほたるは言った。その内容に反し、表情から申し訳なさそうな様子が少しも伺えない。少なくとも最後の一言は、気心知れた友人への冗談のつもりなんだろう。いや、この子の支離滅裂な言動は、本来ならまるっと全て冗談であるべきなんだけど。
「自分で子守唄歌っても眠れないと思うけどなー。声出すと目が覚めるものだし。……いや、でも歌うだけで春の陽射しに勝てるほど人間のまぶたは強くない気も……」
ほたるの表情は、首を縦に打つたびころころと変わる。気の抜けた相槌が聞こえてくるみたいだ。なるほど、とか、そうかも、とか、むむむ、とか。愛らしいという形容詞はこういうものに使うんだろう。それで、きっと次に出る言葉は。
「じゃあ、やってみましょうか」
「おお、ビンゴ! 」
なんだか嬉しくて、つい声に出してしまった。
「ビンゴ? ビンゴで退治するんですか? 春の陽射しって不思議な生き物だね」
彼女の中では、この遊びのテーマは怪獣退治に決まったみたいだ。
「いやいや、ビンゴごときでは悪しき怪人・ハル=ノヒザシーに太刀打ちできない。やはりここは歌おう! 」
変身ヒーローみたいなポーズを要所でキメながら、できるだけ大袈裟な口ぶりで。寝起きでふわふわしていた意識が本調子に戻ってきた。物語の方向性が確定したことで、ほたるの顔も目に見えて明るくなる。
「おお、その通りです隊長! 2人で協力して、邪悪の権化ハルノ=ヒーザシをやっつけましょう! 」
初めて聞く名前が登場したが、まあ些細な設定の違いはご愛嬌。正直な話、大吾自身も先ほどの自分の発言をよく覚えていないし。
「その意気だ、ほたるん隊員。俺についてこーい! 」
ぱたぱたと室内履きを鳴らして歩くほたるの癖が、楽しい想像があれば行進曲の打楽器みたいに思える。新歓で吹いたマーチのメロディをそれぞれに口ずさみながら、2人は部屋で一番日の当たる場所に陣取った。今朝念入りに床を磨いたというほたるの主張で、椅子を除け、壁際に腰掛ける。
馴染み深い合奏曲をいくつか歌うものの、パートごとのメロディの違いが何となく気になる。ホルンとオーボエ。双方主旋律に近い音を担うので、重なると綺麗ではあるけど……。ハーモニーを響かせるのが目的って訳じゃない。ちらりと隣の戦友に目を向けると、彼女もまた同じことを考えていたようで。
「隊長。息を合わせて、ユニゾンで歌いましょう! 2人の心を1つにせねば、魔王ハリルホジッチには到底かないませんぞ! 」
ふふん、と得意げな笑顔を見せる盟友。以心伝心とか、一心同体とか、そこまで大それたことではないけど。次の演目に2人同じ曲を思い浮かべていることは、2人とも当たり前のように分かっていた。

「ドーはdolceのド! レーはlegatoのレー! 」
「ミーはミンクのミ! ファーはファーのファー! ……紛らわしいなこれ」
始まったドレミの歌の替え歌合戦は、やり取りを重ねるごとに大喜利の様相を呈していく。合いの手みたいに耳元で響く、鈴を転がすような笑い声が快い。頭の中がだんだんふわふわしてきて、まぶたが開かなくなってきて。ほたるの上半身がゆっくりもたれかかってきたのは、寝る寸前に感じたのか、その後夢で見たのか、それとももしかして、大吾の隠れた願望なのか。
気づけば部屋は薄暗くて、目の前数センチに先ほどまでなかった椅子が出現していた。それから、右肩が妙に寒く感じる。
「あ、大吾くん! 起きました? 」
ゆめうつつといった様子で声の主を探していると、天井の蛍光灯がいっぺんについた。そういえば、まだ明るいからって部室の電気をつけていなかった。壁掛け時計は最終下校時刻の30分前を示している。
「……今日、部活休みだったね」
通りで、いつまでも他の部員が来なかった訳だ。ふらふらと立ち上がると、淡い色のブランケットが一瞬空で舞って、ゆっくり落ちた。
「あれ? 間違えてここにいたんです? ふふっ。うっかりさんですね」
そういうからには、彼女は定休日を知りながら部室に来た訳だ。自主練か何かだろうか。ブランケットを拾って、ぱんぱんと叩く。床は直に座っても問題ないくらい清潔だけど、念のため 。きっと、先に目を覚ましたほたるがかけてくれたのだろう。だから右肩が寒かった、もとい、左肩が暖かかった。お礼とともに、駆け寄ってきた少女に手渡した。
「ほたるはこれ、忘れちゃったから来たんですよ。ほたるもうっかりさんです! 」
ふわふわのブランケットを嬉しそうに抱きしめ、彼女は微笑む。その後何かに気づいたような素振りを見せ、きりりと眉を吊り上げた。
「そうだ。見てください、隊長! 」
指差す先には開いた窓。その向こうには、グラウンドで声を張り上げるサッカー部。いや、手の角度から考えると、彼女が見せようとしているものは。
「夜空? 」
「そうなの! 怪人・ハル=ノヒザシー、これにて退治完了! ですね」
強敵に負けて寝入ってしまったことは、どうやら認めない方針らしい。2人で顔を見合わせてくすくすと笑った。怪人の名前が初期設定に戻ったことには、後から気がついた。
すっかり闇夜に飲まれた帰り道。寝ぼけて歌ったドレミの歌の歌詞は、2人とももうほとんど覚えていないけど。今日この日、音楽室にて小さな冒険があったことは、きっとずっと、忘れないでいたい。死線をともに乗り越えた戦友の、優しい鼻歌を聴きながら、思った。

23日前 No.1

とめべに @konronka ★iPhone=ivgXpLogF0

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23日前 No.2

とめべに @konronka ★iPhone=ivgXpLogF0

朝ごはん

今日の朝ごはんは、ほたるがつくりますよ! うふふ、みんななんだか心配そうな顔をしてますね。大丈夫だよ、怪我しないようにめいっぱい気をつけるからね! 何にしようかな。おお、サテちゃんの目が炒飯を食べたいって言ってます! これは美味しい炒飯を振舞ってあげるしかないですねー。
炒飯といえば中華鍋かな? うーん、大吾くんちのキッチンには無いですね。昔はあったけど売っちゃった? 扱えない道具はすぐに売ってしまうのは、大吾くんの賢いところだと思いますよ。そんな申し訳なさそうにしなくていいんです。代わりに普通のお鍋を使おうね!
さあ、火をつけて、油を敷いて、別のお皿で卵を溶いて……どうです? ほたる、コックさんみたいでしょうか! あ、サリーちゃん写真? ぴーす、いえい! わわわ、目を離すなって柳介くんに怒られちゃいました……。よし、卵を投入! ちょっと炒めてご飯を……いや、まずは卵に味をつけましょう! 何がいいかな? お酒とか、風味がでていいって聞きますね。大吾くーん、お酒ってある? ないかー。え、サテちゃんあるの!? おうちから発泡酒を四人分くすねてきた? ブラボー! でもほたるたちまだ子どもだから、飲むのはダメですよ。全部使っちゃうね! ……? 大吾くんがハラハラしてます……。まあいっか! 入れちゃうねー。わあああ、炎が!! フランベ! フランベです! 本格的ですねー! あて、柳介くん! 叩くのは嫌ですー! ごめんなさい代わります! 代わりますよ柳介くん! あっ天井焦げそう! 許して大吾くん!!
はあー。なんとか鎮火して、天井もみんなも無事で済みました。なんと大吾くんがちゃかちゃかっと炒飯してくれましたので、それをいただきましょう! うん、おーいしい! さすが大吾くんですねー。いいお嫁さんになるよきっと! ところでなんで2人は正座してるんですか大吾くん? ふむふむ、サテちゃんはそもそもお酒を持ってきたから、柳介くんはお鍋を振ったら中身が全部溢れたから? なるほど、だから大吾くんが一から作り直したんですねー。ご飯を無駄にしちゃいけないよ、柳介くん! ……あ、あの、怒ってますか柳介くん? ごめんなさい、ごめんなさい! きゃー! 助けてサテちゃん! ああサテちゃんも怒ってますか! 大吾く……大吾くんもですか! 上手にできなくてごめんなさい! 次は頑張ってつくります!! 次はない? そんなあ、今度は絶対美味しい料理で、みんなを喜ばせるからね! えーと、現場からは以上です! そちらにお返ししまーす。
ふつりと声が途切れ、部室のテレビは一面の暗闇。昨年の夏合宿ーーと銘打たれた柳介と仲間たちの自主特訓ーーの記録映像を集まって見ていた部員たちは、お腹を抱えながらゆるやかに解散を始めた。少し離れた椅子に座る柳介はやれやれとため息を吐いて、それでもこの部が好きだと思った。

23日前 No.3

とめべに @konronka ★iPhone=ivgXpLogF0

ウァレンティヌスに心願を

ピンク色の紙袋をぎゅっと抱えて、私、船崎千冬は悩んでいた。音楽室の至る所から、比喩としても実際にも甘い匂いがする。なぜって今日は、バレンタインデーだから。セントウァレンティヌスが生まれた日とか、処刑された日とか、起源はよく覚えていないけどそんなのはとにかくどうでもよくって、大切なのはこの日に起こるとあるイベントの方で、言ってしまうと、好きな人にチョコレートを贈るってやつだ。好きな人。親友の町ちゃん。クラスの友達。部活の、同じパートのみんなにも。だけどそれだけじゃない。好きな人。私の好きな人は、卯野先ぱ……あああああどうしよう。実は私は、大胆にも卯野先輩宛のものを用意しているのです。他の人に配るのとおんなじ、手作りのチョコタルト。正直な話、私は今すごく後悔している。先輩用のチョコを作ったことではなく、部活の人全員分のチョコを作ってこなかったこと。仲良しの女子たち+パートメンバー+男子の先輩一人。この並びが意味するところを分からない高校生はまずいない。手作りのチョコなんてあげたら、先輩はきっと他の男子部員に聞くだろう。船崎千冬からチョコをもらったか。そうしたら、何もかもがバレてしまう。ああなんで、なんで私は。すぐ目と鼻の先に先輩がいるのに、告白する勇気なんて無いし、だから渡す勇気も無い。やっぱり、持ち帰って自分で食べよう。情けなくて悲しくて、チョコの詰まった紙袋をもう一度強く抱きしめる。がさり、とビニールの音がした。……これだ。
「卯野先輩、あの。……は、ハッピーバレンタイン、です」
もしも甘いものが苦手な人がいたら、別の人の手に渡るであろうチョコタルトを押し付けるより、せめて気分だけでも味わってほしい。そう思って持ってきた、既製品のキャンディ。一人一つなら部員全員にまわりきる数だった。先輩は微笑んで、ありがとうって言ってくれた。ありがとうって。ありがとうって。私は胸が弾んで、誰かに何かをしてあげたくなって、先輩のために作ったチョコは、部長さんに受け取ってもらうことにした。
結局卯野先輩にしかキャンディをあげなかったことは、私だけの秘密にするつもり。

23日前 No.4

とめべに @konronka ★iPhone=ivgXpLogF0

小春の日

悴む指先をマフラーに埋めて、船崎千冬は通学路を急いでいた。千冬の家から学校までは、歩いて40分ほどの距離がある。家族と住まう一軒家の周りには、電車やバスどころか自転車も通れない狭い道ばかり。だから登校の最初半分と下校の最後半分の過程を、歩くか走るか早歩きかでこなさなければならない。入学から8ヶ月、徒歩時間の長さにはもう慣れっ子だが、こうも寒いと気が滅入る。今日何度目かの溜息を吐いた。回数を重ねるごとに、その白は濃さを増していく。12月初頭にしてこの寒さなら、初雪はかなり早くなるかもしれない。
「フルートが結露しちゃうかも……」
眉根を寄せて独り呟いた。今年も、千冬の季節がやって来る。千冬の大嫌いな季節が。
寒いのは嫌い。空気が張り詰めて、なんだか息苦しくなるから。声を出すにも、音を出すにも一苦労だ。自分の名前も好きではない。季節に関連した名前なら、冬より春がいい。暖かくて優しくて、時間がゆったり進む気がする。春……そう、小春さんとか、春香さんなんていいかもしれない。言ってもどうしようもないことだけれど、そんな名前が良かった。
やっとの思いで音楽室に辿り着く。やはりというべきか、扉を開けると殆どの部員が既に定位置に座っていた。その中には、もちろん卯野先輩の姿もある。それとなく見つめながら真横を通り過ぎる……瞬間、目が合った気がした。恋をすると鼓動が高鳴ると言うけれど、千冬の場合、その全ては緊張でできていると思う。照れて顔が熱くなるより先に、嫌われるのが怖くて青ざめてしまうんだから。ぱっと顔を背けて、小走りで譜面台を取って、フルートパートのみんなと合流した。つかの間視線が重なったのも、挙動不審な千冬を訝しむような視線が背に刺さってくるのも、どうか気のせいでありますように。何も起きず、何も知られず、このままでいたい。でも、それじゃ何も変わらない。臆病な自分が嫌だった。
ようやく昼休憩になった。結局胸にもやもやを残したまま、抜け殻のように午前練習を終えた。
「千冬。どうしたの、千冬? ウインナー落っこちるよ? 」
すぐ耳元で少女の声。ひゃあ、と細い悲鳴をあげて振り向くと、いつの間にやら町ちゃんが隣にいた。呆れたような可笑しいような表情が向く先は、床。目で追うと、箸で掴んでいるはずのウインナーが無残に横たわっていた。
「あ……。せっかくタコさんに切れたのに……」
肩を落とす千冬に、離れて見ていたくるみ先輩が唐揚げをくれた。やっぱり冬はダメだ。せっかくのタコさんウインナーを食べ損なったのも、寒くて手の動きが悪かったせいだ。きっと。もぐもぐと口を動かしつつ、町ちゃんと話すのは名前についてのこと。
「私……千冬って名前、その、嫌かも知れないな。冬は冷たくて怖そうだし……。小春とか、春香とか、あったかそうな名前が良かったよ」
もぐもぐしながら聞いていた町ちゃんが、空っぽになった口で言った。
「小春って冬の季語だよ」
「うん。……えっ」
当たり前のように言うものだから、危うく聞き逃してしまいそうになった。
「え? え? だ、だって春って……」
本当だとすれば、今日一日の思考がまるで意味の無いものだったことになる。うろたえつつも弱々しく異議を唱えたが、
「常識じゃないかな。ええと、ほらあったよ」
町ちゃんは、特別なこともないだろう、といった様子で電子辞書の画面をつきつけた。「小春日和」の見出しが表示されている。
「『晩秋から初冬にかけての、暖かく穏やかな晴天である』……ほんとだ」
千冬の愚痴は、無知の戯言だったらしい。恥ずかしくって俯いた頭に、町ちゃんの手が置かれた。
「千冬国語苦手だったっけ」
無愛想にも棘があるようにも取れるその言葉は、私を傷つけることなく染み込んだ。
「町ちゃん、あったかいね」
問いかけにも答えず私が呟くと、不思議そうに傾いた顔が答える。
「暖房効いてるから。楽器が結露したら大変だからね」
町ちゃんはあったかい子。冷たく見えるけど、本当は熱い子。それに優しい子だ。千冬はなんだか嬉しくて、笑みを零した。
午後の練習は、いつもよりすこし手応えがあった。みんなで歩く帰り道、すっかり暗くなった空を見上げて、海老沢先輩が言う。
「さっき天気予報見た。明日は小春日和だとよ」
難しい言葉知ってんな、意味わかってるのかって七戸先輩が笑い飛ばして、その話題はすぐに消えたけれど。私と町ちゃんは、こっそり顔を見合わせて微笑んだ。
寒い冬にも暖かい日はある。冷たい物にも温かい部分はある。私の中にも春があるんだ。小さな小さな春が。あたたかくて、やわらかくて、1人じゃない。冬の優しいところが知れて良かった。いつか本当の春に向かって、一歩ずつ一歩ずつ、進んで……。
「千冬ちゃん、朝どーした? なんかあったん? 」
「ぴいっ!? う……卯野先輩、あの、あの……!ごめんなさい……ごめんなさい! 」
……いけるかな。

23日前 No.5

削除済み @konronka ★iPhone=ivgXpLogF0

【記事主より削除】 ( 2017/03/05 16:31 )

23日前 No.6

とめべに @konronka ★iPhone=ivgXpLogF0

買い出し

学校の最寄りから電車で20分。部活の備品の買い出しに、大吾は街に出ていた。
「なんつーか、都会だな。こんなでかいビル久しく見てなかった」
隣では、同い年のはずの柳介がなんとも枯れた感想を述べる。そういえば、こいつが楽器とスポーツに全く関わらない話を自ら切り出すところは見たことがない。華の男子高校生がそんな体たらくで良いのだろうか。
「いやいやなにをおっしゃいますか。先月見たろ? 先月の買い出しもお前だったんだから……やっぱり当番の決め方変えてもらうか? 」
じゃんけんが滅法弱い柳介は、人より多く使いっ走り業務を請け負うことになる。こんな奴でも、次期エースとして期待されているようないないような有望な奏者。こんな奴でも。月一で部活を欠席するのは、少々問題では無かろうか。実は大吾は、買い出し当番を交代制にしようと兼ねてから進言しているのだが、
「大反対だ。負けっぱなしで終われるか。同じ手を出し続ければ確率は三分の一なんだから、偏って負けるなんてありえない。現に楽器決めのときはお前に勝ってるだろ。次こそは……! 」
どうしようもなくバカなんだ、この男は。同じ手を出し続けさえしなければ三分の一で勝てるのに。呆れて笑うと、ふと、誰かに呼ばれた気がした。周りを見渡しても、悔しげな様子で考え込む友人くらいしか、見知った顔は見えない。
「七戸くん! 七戸くんでしょう! 久しぶり! 」
後ろから肩を叩かれて、ようやく小さな影に気がついた。眼鏡をかけて髪をひっつめた、いかにも真面目そうな少女。見覚えしかないセーラー服に身を包み、穏やかな笑みを湛えている。
「みんな心配してるのよ、急に来なくなっちゃったから。外部に進学してたのね。……元気そうでよかった」
中等部の時の同級生。特別仲がいいわけでもなかったこの子がこれだけの反応を見せるのだから、行動を共にしていた友人たちにはどれだけ迷惑をかけたことだろうか。彼女は、こっちの連れに気を使ったのか、何か用事でもあったのか、短い世間話を済ませると手を振って駅に向かっていった。さて、残ったのは、訝しげにこちらを見つめる男だけ。これが可愛い女の子なら、見つめ返してフォーリンラブだったんだけどなー。
「なんでお前があんな頭よさげな子と知り合いなんだ」
とんでもないこと言うなこいつ。バカのくせに。
「あれだ、えーと、元カノだよ! いやあ、どうしてもって言うから付き合ったはいいけどさ、1人だけ特別扱いするなんて不公平だーって周囲からの不満が爆発してですね、致し方なく破談にしたんだよ! 心が痛んだけどさ! 」
できるだけ胡散臭く、愉快そうに語る。相手が柳介だから出来ることだ。バカだけど、不確定要素で人を嫌うような奴ではない。嘘をつくリスクが無いってことだ。あからさまな嘘でかわしていれば、バカなりに気を使って手を引くだろう。思いやることと知ろうとすることは反対のこと。いい奴ほど前者を選び、後者を諦める。悪いけど、真面目に拒絶するのは好みじゃないんだ。
「……まあいい。死ぬ間際になったら教えろ」
ほら、引っ込んだ。ありがとよ。我が親友は大層いい奴だから、急をなさない用事の時は、相手を傷つけてまで踏み込むことはできない。こいつがもしも本当にただのバカなら、ここで好奇心のままに突き進んでいただろう。そうしたらーー
どんなに俺は、救われただろうか。
「ほら次行こうぜ! 待たせた詫びにクレープおごってやるよ!」
「許す」
すっかり軽くなった空気を確認して、ガサガサと鞄を漁る。備品用の部費が入って……ない。
「部費消えた! 」
二人の顔から急速に血の気が引いていく。陽祐くんに怒られるのもいつも通りキツイが、くるみちゃんに侮蔑の目を向けられるのなんて考えたくもない。親心や慈愛が欠片も感じられない声であの人に怒鳴られたら、プレパラート並に脆いマイハートは粉みじんと化すだろう。
「待て待て待て! どうやってここに来た!? いや、まず駅だ。駅員さんに連絡入れるのが先だ! 」
街中駆けずり回ってやっとこさ部費入りの封筒を拾った時には、先程のゴタゴタなんてすっかり忘れてしまっていた。
「俺も大概バカだ。悪かったな」
「本当だよ! おかげで明日も買い出しだぞ。……いや、明日またじゃんけんで決め直しか。次こそは……!」
居ない人を恨み続ける苦しさ。過去を呪う者の生きづらさ。誰に打ち明けることもできないならいっそ、自分の名前ごとさっぱり忘れて、バカになってみたかった。背負うべきものを投げ捨てて、自由になってみたかった。逃げも甘えも、クレープ一つで許されたらいいのにな。

23日前 No.7

とめべに @konronka ★iPhone=ivgXpLogF0

龍炎

「じゃあ次、ペットのソロ。柳介のパートね」
小さな少女は、指揮台から部屋を見渡し、よく通る澄んだ声でそう告げる。音楽室の中には、半円状に並んだ椅子に腰掛ける部員たち。皆真っ直ぐに彼女を見つめ、その右手のタクトが空を切って振り上がる瞬間を、今か今かと待っていた。柳介は張り詰めた空気を腹に詰め込み、指揮者の合図とともに、それをトランペット越しに吐き出した。完璧な一音目。我が校伝統の曲の、我が校伝統のトランペットソロ。聞き慣れた旋律を奏でながら柳介の目が捉えるのは、楽譜でも指揮者でも、指越しに見えるトランペットのラッパ部分でもない。昨年の定期演奏会で見た景色だ。懐かしい先輩の背中は小刻みに揺れ、全身を使って、魂と音とを重ね吐き出す。皆峰日向。先代の部長にして、類い稀なる才能と膨大な経験値を持つ奏者。スポットライトを照り返す彼のトランペットは、生ぬるい暖房の風に煽られて、燃えさかるような活力を放っていた。その炎は柳介の瞳を焦がし、未だに熱をはらんでいる。
先輩のソロパートも中盤に差し掛かろうというとき。先輩の美しい音色は、落雷の様な大声にぶつかり、割れた。
「やめなさいって言ってるでしょ!柳介! 」
気がつけば、部員全員がこちらに目を向けている。指揮台の少女こと小菜橋先輩は、ほたる、と小さく呟いた。光る虫を茫然と思い浮かべる柳介の前を、日和佐ほたるが軽やかに横切る。日和佐は慣れた手つきでピアノのカバーを取り払うと、先ほどまで先輩と柳介が奏でていたメロディを滑らかに弾いてみせる。伊達にピアノ出来そうな見た目してないな、とのんきに感心した。それでやっと、小菜橋先輩が彼女の名前を呼んだこと、ソロの音程を確認したかったことに気づいた。
「やっぱり。楽譜と音がずれてるわよあんた。どこっていうか、全体的にさ」
音が違う? おかしい。そんなことが起こり得る時期じゃない。予期せぬ言葉に、考えが纏まらない。
「そ、そんなはずはありません。暗譜してるうえに楽譜開いてるんです。何十回何百回と吹いたとこだし、間違えるわけが……」
とはいえ、苦々しい顔でこちらを見つめる少女は、確信も無しに相手を責める様な人では無い。
「間違えてるなんて言ってないわよ。全体的にずれてるって言ってんの! 何を見てんの、あんたは。外出て頭冷やしてきなさい」
は、と短い息をつく。ちょっとつまづきかけた一年生がうちの部を辞めるきっかけ第一位と評判の、小菜橋くるみの常套句。外に出ろ。この言葉が自分に向けられる日が来るなんて、思ったことも無かった。青ざめているであろう顔を隠す様に、小菜橋先輩に背を向ける。考えてみれば、柳介の後ろには前にいるよりずっと多くの部員たちが並んで座っている訳だけど。それに気づいたのは、後ろを完全に向いてからのことだった。あるいは、多くの部員に情けない顔を見られてでも失望させたくない相手が、前方に居たんだろうか。そのまま手探りで楽譜をひっつかんで、とぼとぼ出口へ向かった。握ったままの相棒は、左手の汗が引くのを追って冷たくなっていく。
「これで良いのかしらね」
呆れ気味に吐き棄てられた小さな声が痛くて、寒くて、溢れそうな涙だけが熱かった。
熱を失ったトランペット。未だ止む気配を見せない大粒の落涙。昇降口に座り込んで長いこと泣いていたら、ズボンの膝の部分が濡れてしまった。左端にシワが寄った楽譜は、問題のページで開きっぱなしになっている。ごしごしと力強く目元を擦り、前を見据える。3秒ももたずにまた涙が滲んで、堪えきれず俯いた。
「先輩、ごめんなさい……。先輩のパートなのに……。あんなに教えて貰ったのに……」
悔しくて情けなくて、何より申し訳なかった。先輩にも、柳介をパートリーダーに選んでくれた2年の奴らにも、信じてついてきてくれている後輩たちにも。考えれば考えるほど自分が嫌になって、負の気持ちは全部嗚咽に変わる。だけどそれは、響く前にかき消された。
背中越しに飛んでくる、件のソロパートの旋律。先輩のものとは比べものにならない完成度だけど、音程は全部合ってて、一応形にはなっている。姿を見ずとも、誰が吹いているのかは予想がついた。バカで面倒でうるさい後輩。全体練習を抜け出してまでわざわざ俺の失敗を笑いに来たのか。いつもの調子で言い返す気力は無いので、無視を決め込む。柳介が黙って涙を落とす間、涼と思しき奴は繰り返し同じパートを吹き続けていた。
「海老ちゃん先輩。情けなくて可哀想なんで、練習付き合ってあげてもいいですよ」
流石に息を切らしたんだろう、譜面台を持った涼が柳介に寄ってくる。ほざけ下手くそが、お前に教わることなど無いわ、と言ってやりたくて振り向いたが、今にも泣き出しそうな涼の顔を見て、その気は失せてしまった。本当に情けない。涼は涼で、思うところが無いわけが無いのに。柳介が指針にならなければ、パートごと迷ってしまうのに。
「……ああ、頼む。絶対上手くなる。お前らの期待に絶対応えてみせる」
立ち止まるわけにはいかない。走り続ける柳介の背中が、仲間たちの行くべき道を示すんだから。間もなく、確かめるようにゆっくりと、2人分の音色が辺りに響き始めた。

23日前 No.8

とめべに @konronka ★iPhone=ivgXpLogF0

龍炎2

結局大した手応えもないまま、最終下校のチャイムが鳴った。駆け足で譜面台を返しに行った涼は、柳介の荷物と楽器ケースを持ってきてくれた。普段なら想像もできない気遣いが虚しくて、別れ際、衝動的に涼の頭をくしゃくしゃと撫でた。彼女は一瞬何か言いたげな顔をして、でも何も言わずに手を振って、柳介とは反対の道に歩いて行った。
大きなため息を一つついたら、見計らったように大吾が走ってきた。
「練習中断させて悪かったな。絶対完璧に吹けるようになって戻るから、それまで待っててくれ」
真っ直ぐ顔を見つめて告げる。大吾は苦笑した。
「そうじゃないんだなー。なんて言えばいいのか……」
大吾が言葉を探すのを、何も言わずに待った。
「えっとさ、お前そんなにすごい奴じゃないよ! 天性の才能とか次期主力とか言われてるけど、バカだし脳筋だしズレてるし喧嘩っ早いしバカだし。上手くなって戻るとか無理じゃないかな」
返す言葉もない。天才だなんだと持て囃されて良い気になっていた。先輩の足元にも及ばないのに。図星を突かれて顔が曇るのは、今までの自意識過剰を認めるみたいで、恥ずかしくて誤魔化すように下を向いた。
「1人でこれ以上技術をあげるのは無理だよ。高二になって伸び悩んでたのは、日向さんっていう先生が居なくなったからだ。お前より上手い奴なんていくらでもいるぞ! 俺はその中に入ってないけどな! 」
捲したてるように次々と、でも伝わるように一言一言区切って、大吾は言葉を紡いでいく。
「変に意地張らずに教えを乞えば良いだろ。柳介は先代じゃない。みんなが知らない内にどんどん上手くなってくところまで真似する必要ない! 柳介は柳介で、バカなりに仲間を頼りながらやってけばいいよ。俺だって力になるから」
最後の二文にはうんと力がこもっていた。無意識に心の底から欲しがっていた言葉を、ようやく貰えたような気がした。先程の涼もこんなことが言いたかったんだろうか。
「……2回も言われるほどバカじゃない」
本心を見透かされたようで嬉しくて、それが悔しくて、つい毒を吐く。
「3回だ! 」
胸を張って自慢げに言うから、やけに可笑しかった。破顔する柳介を見て、大吾は嬉しそうに問いかける。
「どうだ、元気になったか? 」
また気を使わせてしまったようだ。けれど今は、申し訳ないどころか清々しい気持ちでいっぱいだった。貰った恩は、良い演奏で返せばいい。返してみせる。一人じゃないとわかって、自信があとからあとから湧いてくる。
「そうだ、部長ちゃんから伝言。『柳介はよく頑張っています。音程もぴったり合ってるよ』だってさ。柳介十分上手かったのにどこが悪かったんだってみんなで聞きに行ったら言われたんだ」
予想だにしなかった言葉に、声を荒げる。
「はあ!? じゃあなんで追い出されたんだよ! 」
落ち着け落ち着け、と肩を掴まれ、一旦深呼吸する。
「そこまでは知らない。でも技術面じゃないなら精神的なことなんだろ? この大事な時期にそんな理由で練習に穴開けさせるとか、あの人はほんと度胸が違うわ」
ふと、去り際のくるみさんの呟きを思い出した。「これでいいのかしらね」あれは、こんなやり方でいいのか、という、彼女にしては珍しい葛藤だったのではないだろうか。
「そういえばくるみさんには、パート内の仲はどうだとか困ってることはないかとか、日に一回は聞かれる。パトリで一人だけ2年だから心配されてんだと思って聞き流してたけど……ちゃんと原因があって、それを解決させたかったんだな」
しみじみ語ると、大吾が思い出したように付け足してきた。
「もひとつ伝言。『気が向いたら部長って呼んでほしい』だってさ。気が向いたらでいいのかね」
あの人にも多大な恩がある。より一層、美しい音を奏でなければいけなくなった。
「……明日は自主練だな」
「自主練って言葉をそんなに楽しそうに言う奴初めて見たわ。遊ぼうぜ! 貴重な休みなんだし! 」
「じゃあ一緒に自主練だな」
えー、とも、あー、ともつかない不満げな大吾の声。どこか吹っ切れたような柳介の笑い声。真っ暗な帰り道に、光るように明るい音が響き渡った。

あれから練習を重ねて、記憶の中の先輩を何度も繰り返し見て、わかったことがある。先輩は誰より身軽に、自由に演奏していた。恩返しでも追走でもなく、トランペットを吹くためにトランペットを吹いていた。言うまでもなく格好良くて今でも憧れるけど、その部分は先輩のようにはなれないし、なろうとも思わない。柳介は、仲間たちがくれたもの全部を背負って走りたい。
舞台の端、一番客席に近い場所に立つ。あの頼もしい背中はもう見えない。だけど、耳に焼き付いた美しい旋律は。瞳に灯る炎は。変わらずここにある。柳介はタクトを見つめ、それが振り上げられる瞬間を、今か今かと待っていた。

23日前 No.9

とめべに @konronka ★iPhone=ivgXpLogF0

淡い想い

駅前のベンチにもたれて40分。指先に吹きかけた息が、雲みたいに解けて散っていく。高い高い青空の下、一人でじっとしているのは寂しいけれど、今日これからのことを思い浮かべれば気は紛れた。
「くるちゃんくるちゃーん! おはよう! お待たせしましたか! 」
駆けてきた彼が笑って言う。私はなんでもないように、
「いや、今来たところよ。行きましょうか」
さらりと嘘をついた。律儀に待ち合わせ5分前に来てくれた彼に気を使わせたくないとか、落ち着かなくて早起きしちゃったのが恥ずかしいとか、理由はいくつもある。けれど一つ選ぶとしたら、言いたかったから。ドラマに出てくる恋人同士みたいなやりとりをしてみたかったから。それ以外にどう繕っても、ふさわしくないと思った。
「ああ、そうだ」
言ってみたいことがもう一つあった。ふわり、舞うように振り向いて、上目遣いに精一杯女の子らしい笑顔で。
「おはよう、エストレージャ。来てくれてありがとう」
ぽかんとした彼にきっと、私の想いは届いていないんだろうけど。これが言えただけで、今日は自分を褒めてあげたかった。

22日前 No.10
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