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Re:Re:Re:Re:おやすみ

 ( 書き捨て!小説 )
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入口 @soofar☆vDjvdwlItTM ★iPhone=EiqahOBmV1

おやすみ、おやすみ、おやすみ

空が白くなるまで
離さないで、僕を
離さないで、
それはまるで深い海へ沈むようでおそろしい
暗い虚穴に吸い込まれるようで、
それらは僕を殺してしまう

おやすみ、おやすみ、おやすみ、おやすみ



適当にべべべっと。好きに。勝手に。
書き込みはご遠慮ください。
グロいの多いかもしれない

メモ2017/01/19 00:57 : メロ ☆vDjvdwlItTM @soofar★iPhone-EiqahOBmV1

以前の書捨てのお気に入りをぼちぼち移して私が楽しいだけのページにするんだ


いいね7つありがとうございます!嬉しいです

関連リンク: 夜の底 
ページ: 1

 
 

メロ @soofar☆vDjvdwlItTM ★WARScuJ0lm_qxX

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8ヶ月前 No.1

メロ @soofar☆vDjvdwlItTM ★WARScuJ0lm_qxX

「別れがあまりにも身を裂くから僕はもう君に会いたくない。
別れが辛すぎるから、会うのはもっともっと辛いんだ」

電話口の声はずっとずっと震えていた。
鋼鉄の電車が線路を駆ける音がして、風がけたたましく音声として入り込む。まるで邪魔をしているように、そして二度と会わないと言う君の意志を揺るがすように。

ねえ、想像できるんだ。

君がどんな顔で今じゃすっかり珍しい携帯を握っているかが。その哀しみに潰されまいとして丸まった背中や豪風に晒され露になった額が。

8ヶ月前 No.2

メロ @soofar☆vDjvdwlItTM ★WARScuJ0lm_qxX

OBmV1


都会から田舎に越してきて数日が経っていた。
祖父母が寄越した空き家は一戸建て庭付きで一人暮らしの高校生にはどう考えても余してしまうほどの広さである。
一番安いため粗雑でちょっと怖い引っ越し業者のお兄さんが移動の車中でシケモクのタバコを噛みながら町の名前を少し都合の悪そうな声で反復していたのを思い出す。

「何か……?」
「永寝町が悪いんじゃなくて地域がな」

それまでは奇策に話し込んでいたのに、引っ越し先の名前を告げた途端に冷え込んだ顔をするから思わず生唾を飲み込んでしまった。
随分とお喋りだった彼はそれを呟いて以降押し黙るタバコをもう何日も取替えていないだろう吸殻の墓に埋めた。

彼は黙々と引越し道具であるダンボール7箱を部屋の隅々に持っていくと引越し代金を貰い受け「ちょっといいか」と玄関口で話しかけられる。
そして同時に現在時刻を確かめると「時間がねえな」と金色の短髪をガシガシと乱暴に書くと仕事道具が詰まったウエストポーチから地図を取り出した。
その地図はもう使い古されており、折り目折り目は白く色が抜けて所々穴が空いている。
彼の大きくて荒れた人差し指はこの街のど真ん中に通っている太い川を指差し北から南へと指は下がり撫でていく。
この街は小さいながらも北から南にかけて大河が街を分断しており、主に東西で居住地区が別れている。

「いいか、お前がいるのはここ。西区だ。んで、こっちが東区。
東区は何も問題ないが、西区は昔から霊界と人界の狭間が曖昧になっている。特に夕方17時から20時の間は何があっても外に出るな」

レイカイ?ジンカイ?と頭の上に疑問符を散らばし放題にしていると彼はカエルの背中のような湿度を持ってじっとりとした目で私を見下ろした。
そんなファンタジー社会学。何を言っているのだろうか。
ぽかんとする私に対して「とりあえず!17時から20時の3時間限りだ。必ず屋内にいること。奴らから身を隠すことだ。車の中でも家の中でも見つかりゃ即死ゲー。学校が終わって家に着くのが17時過ぎるかもって場合になったら必ず20時過ぎるまで東区にいろ。分かったな」

ビッと指をさされてから何度も波のように押しては引いてを繰り返すからコクコクと慌てて頷くほか無かった。何よりお兄さんが怖い。

確かに川を渡る橋の端端には大仰なほど大きな鳥居があったし、橋自体も朱塗りになっていた。何処かの時代村にでも繋がっているのかを想起させる。
西区の橋の入口にはお地蔵様がたくさん連ねてあったし街でも同じような警告を書いた看板があった。ドッキリでは無さそうで、お兄さんは私の頷きを見てから戸締りをしっかりすることだけを確認し時計を見て慌ただしく出ていった。
現在時刻は16時30分。橋を越えるには車で20分だから彼は焦って出ていったのであろう。
私はドアの鍵を締めるとまだまだ明るい日差しの入る居間を抜けて二階に続く急勾配な階段を一段一段登っていく。全部で13段。せめてあと一段でも増やすことは出来なかったのだろうか。
2階は二部屋に別れていて、一つは壁面本棚で埋まっている。ちょっとかび臭くて換気しようとしたがお兄さんの顔が脳裏を過ぎり止める。20時過ぎたらにしよう……。
もう一つはロフトのようになっている天井の高い部屋だ。
実家にはロフトなんて豪華なものはなかったので興奮のあまりロフトに登りほんのり暖かい空気が溜まっている空間で微睡み気が付けば意識を手放していた。



息苦しさで目が覚めた。
肺の上から直接手で押されているような息苦しさを覚えながら腕時計に目をやると18時半。いつもの気持ちでよっこいしょと身体を起こしたところ、ちょうど出窓になっているところから顔を覗かせてしまった。
外はまだ18時半なのに随分と暗くて、暗い天候の上から黒いスプレーを吹きかけたようにモヤがかっている。そのモヤの隙間を縫うように鬼灯の光がぼんやりと浮き出て不気味に地面を照らしている。
その明かりの中で歩く影は当初想像していたミラクルファンタジーな容姿とはかけ離れたリアルでおどろおどろしい出で立ちの、ナニかだった。

「うわぁ…」
「うわぁとは何です」
「だっておどろおどろしいっていうか」
「早く頭を引っ込めなさい。見つかりますよ」

そこまで返答が着てはぁいと気だるげに答えると出窓のシャッターを下ろした。
そしてここで疑問に思うことが一つ。私は誰と会話したのだろう。祖父母にしては声が若いし、両親は来ていない。戸締りもキチンとしたし、兄弟なんていない。友人もこの土地ではまだ1人もいない。

「いえ、訂正すると見つかってますよ、ですね。私に。」

8ヶ月前 No.3

メロ @soofar☆vDjvdwlItTM ★WARScuJ0lm_qxX

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8ヶ月前 No.4

メロ @soofar☆vDjvdwlItTM ★WARScuJ0lm_qxX

「いやー、美味いね。臭みが綺麗に取れてるよ。これはハーブ?食べれるの?まあいいや。僕草はハイになるやつしか分からないんだけどなぁ。それにしても人肉は初めて食べるよ。意外とイケるもんだね。まぁ嫌いな人はいそうだけど。はははは」
「……君のタンは肉厚で美味そうだ。」

あれから花川戸は敵意は無いといけしゃあしゃあと述べると両手を上げてヒラヒラと指を泳がせた。作り物のような両目はガラス細工のようであまり食欲はそそられない。
敵意が無いならと僕は勝手に浴室の扉を開け作業に入る。その間彼は面白そうに、まるで幼い子供がチョコレート工場へ見学に来たように周りをべったり着いて回る。そう、回る。駒のように回って見せたり、手を叩いて喜んだり。
死体の目玉をくり貫いて口に放り込み飴玉のように転がしていればずっと俺の顔を見続けるのでもう一つの目玉をくり貫いて奴の口に放れば瞬時に吐き出された。腹が立つ。
それは料理の最中も変わらず、一つ一つ捌き部分的に保存している間も止め処なく、そして何の実りも無い話を延々と垂れ流し続けた。こちらの様子を窺っているようにも思えるその話題の振りよりも、筋肉の微細な動きすらも見逃さんとする穴の深い目が印象だった。

「ずっと思っていたんだけど、骨とか髪はどうするの?それに、切り取るときとか力がいるだろ?顔とか。食べるとこあるの?」

あまりにも応じないからか、花川戸はナイフに着いたソースをペロリと舌で舐めとる。
突然の話題のシフトに少々驚き、また彼の上品そうな見目立ちに反した行動に思わず肉を無理に飲み込んだ。

「髪は鬘売りに、骨は骨食器に。肥料にもなるからね。使えない所はない」
「そうは言うけどさ。不気味じゃない?」
「そう思うならば君は精肉売り場に行けば失禁してしまうのかな。お使いは部下に頼むべきだ」

そう言えば花川戸は目を丸く見開いてから声を上げて笑った。今まで食器にぶつかる銀食器の音のみが響いていたのに、アルトテナーの透き通った声が高い天井に木霊する。
すっかり完食した彼は口元を紙ナプキンで拭い、椅子に深く靠れるように座ると指を組んだ。

「もっといい場所を提供しよう。僕らの私有地に持ちビルがある。
一棟丸ごと君にあげるよ。電動ノコギリもあげるし、厨房もあげる。下処理の業者も提供するし、警察が来れない家もあげよう。
潔癖な癖がありそうだから勿論丸ごと除菌消毒してから提供する。その代わり、店を出そうよ。勿体無い。補助もしよう。その代わり売り上げは僕らに四割出す事が条件だ。そして死体は僕らが持ってくるのを処理してくれればいい。安い話だろ?」

悪くは無い話だと、感じた。しかし、最悪の欠点と言えば海を跨ぐ海賊にも似たギャングの妖怪に常に首根っこを掴まれている状況であるということ。
静かに息を吐いて、静かに瞼を上げる。動揺を見破られないように取り繕う為に、静かに動いた。音を上げれば押し潰さんとする静謐な空間に呼吸が静かに浅くなる。天井が高く、何時もなら音を飲み込んでしまう円錐状の天井に吸い込まれてしまいそうだ。
吸い込まれて、まるで紙屑のように丸めて押し潰されてしまいそうだった。

「そこまでする理由は?君たちのメリットが見当たらない」
「理由?」

理由について暫く考える素振りをした。わざとらしく人差し指をこめかみに当てて唇を尖らせる。自分が可愛いと分かっている動きに思わず失笑してしまった。
与越田は二度手を軽く叩き、音が自分を殺さないことを確認してから立ち上がった。食器を重ねて全て纏めてシンクに置き、飛び散った水滴を台拭きで拭いてから冷蔵庫に入れてある炭酸水を開けながら重厚なシンクに腰を預ける。
乾いた喉を誤魔化すように炭酸水を仰ぐと下唇を緩く噛むと、花川戸は唸ると口を開いた。

「慈善活動だよ。君たち能力者に媚を売って悪い事は無い。それは後々僕らの補完計画にも役立つことだし、今君たちが捕まるのは僕らにとってもマイナスなんだよ」

ヒタヒタと、裸足の足が大理石の床の上を這う音がする。蛇のような足音が鼓膜を震わせ、その上からまるで赤子に子守唄を聴かせるような甘い声が自分の心臓を押さえつける。優しく手を重ねてはいるがゆっくりと圧をかけているような力加減でだ。
足音は目の前で止まると炭酸水を握る手に優しく覆いかぶさる。
同じ男なのに女のような柔らかい手だった。酷く冷たく、手袋越しなのに痛みを感じる。奴の吐く息が氷のように冷たく、室内だと言うのに自分の吐いた息が白い。
炭酸水が床に硬い音を立てて落ちる。中身が飛び散ることはない。凍ってしまった炭酸水が重みを増して転がり去った。

「……施設の提供は受けよう、しかし死体は後日リストアップした質の良いものに限る。それから、銃は使わないでくれ。金属の匂いは好きじゃない。」

彼は一度満足気に笑うと背伸びをして俺の頭を撫ぜて「いい子は好きだ」と笑った。

8ヶ月前 No.5

メロ @soofar☆vDjvdwlItTM ★WARScuJ0lm_qxX

顔面を撫でる熱風を浴びながら重たい軍靴を引き摺り官舎へと帰った。
負傷者12名、死者は200名にのぼる。撃墜された戦闘機は油の海に落ちた衣の如く煙を立て藻掻くように鉄塊を空城に散らしながら太平洋の海に散った。
永塚が武勲を挙げる度に才も運もない部下の死骸は積み重なっていく。武勲の旗も塔のように連なった死骸の重圧に折れそうになりながら疼痛の喘ぎにも耐えているように見える。

官舎に帰り着替えた永塚は今直ぐにでも軍靴を脱ぎ散らかし詰め襟の留め具を解いてさっさと床に伏したい衝動に駆られていた。狭苦しく常に喉を締められている錯覚に陥る洋装は好きではない。
眉間に寄るシワが深くなるのを抑えることなく永塚は目の前で踏ん反り返る上司に任務報告を抑揚の無い声で事務的に告げた。どうせ後々報告書として文字に起こすのだから重点的には報告しなかった。
相変わらず険しい顔をしながらの報告を聞いた上司は休日出勤への不満かと誤った観測をした後、永塚を一言ねぎらった。その言葉に韜晦しない声で、主命ですから、と応えると正しく一礼し執務室を出た。

休日も休日、世間では春の始めを祝い咲き狂う桜と同様に街も騒がしくざわついている。その騒がしさに比例して官舎の中は人間どころか猫も虫も永塚一人を残して花見にでも出てしまったようだった。
白黒の戦闘機内から見た本土は滑稽な程桃色に染まり、着陸後の地上も血と汗とオイルの匂いではなく女の香水にも似た甘い花の匂いで満たされている。
空気がもしも無色透明でないのなら、間違いなく萌黄や樺桜の色がところどころに漂っているのだろう。まるで眩しい物でも見つめるようにそっと眼を細めて、ようやく眉間のシワを解いた。後で慰霊碑に線香でもあげに行こう。
芽吹きの季節に命の緒すらも断った彼等の横顔を見た気がして静かに眼を伏せる。そう急かさずともきっと直ぐにそっちに行くさ。そう応えると煙のように影は湯らめき少しの微笑みの後に霧散した。

官舎にあるシャワールームで一汗流し、新しいシャツと制服の袖を通した頃だった。春先といえどもまだ肌寒く、歩いて自分の執務室に帰る頃には肌は冷たくなっていた。古傷が内側からチリチリと肌を燻す感覚はようやく慣れてきた時分である。
気が抜け待合で猫背になっていた時、廊下側からダンダンと子どもの地団駄のような激しい足音が聞こえた。呆れか安堵か静寂との別離を惜しむように、腹を押された時のような吐息が洩れた。

「いたいた!探したんだぞおいー」
「随分と賑やかだなお前は。」

まるで若い町娘のように歯を見せて笑う恰幅のいい男が軍服を崩して目の前の安っぽい合皮が敗れたソファに腰を落とした。すでにスポンジが潰れスプリングが押し返してくる快適さとは程遠い家具を物ともせずに眼を光らせている男に半目になる。こういう時あまり良い事がないのは確かである。だがわざわざ走ってきたのに用を聞かないのも失礼な気がして、煙草箱をトントンと叩きながら要件を尋ねるように上目に睨んだ。

「花街に行」
「お一人でどうぞ」
「食い気味で言うなよ……」

片眉を上げながら深くまで紫煙を吸い込んでから、呆れの溜息と重ねるように随分と薄くなった煙を吐き出し、ジッポライターをカチンと金属と叩く音と共に閉めた。
男は不満を隠すこと無く永塚に訴えれば永塚は口を開かんとばかりに煙草をくわえ込んだ。
頼むよー、といい大人が長い足を延ばして永塚の両膝をガッツリと踵で挟み込むので、拳で払い落とす。

「花街なんか行っても良い事ありゃあせん」
「いいやあるね!チヤホヤされに行くだけでも価値は十二分にあるね!」

一向に引き下がらない男に永塚は眉間にシワを寄せて胸元を探ると人差し指と中指で器用に焼け焦げて黒く変色した炭にも似た硬貨を引っ張りだし親指で弾いて天高く打ち上げた。花火ほどに打ち上げられたコインに二人揃って視線を張付け、筋張った手の甲に抑え込められたコインにしばし黙考。

「表」
「んー……いや、裏しか残されてねえじゃん!」
「ようござんすね」

焦らすように開かれた手を覗き込む。長くなってしまった煙草の灰がボタリと雫のように床に落ちた。

8ヶ月前 No.6

メロ @soofar☆vDjvdwlItTM ★WARScuJ0lm_qxX

「いやー!花街はいいねぇ!」
「……。」

豪気に笑う男と隣に永塚、そして取り巻きに女。
人混みに溢れかえる中で遊女や芸者に囲まれるとどうにも歩きにくい。その上制服を掴む女の細く痩せた指がスルスルと蛇のように体に周るのを見てみぬフリをするように隣にいる男――蜂田を小突いた。
春の市場が連なる夕方の郭はまだ店が開いていない。街全体が藤色に染まり、ちょんちょんと道標程度に付けられた提灯では素性がバレないと思っていた時分の浅慮が憎い。

買い物帰りなのか、準備がまだなのか。髪結いが終わらぬ女の甘い声は、夜具の隙間で男を喜ばせるのには十分だろうけれど、あまり気乗りはしない。
パッパと手を優しく振り女の白い指を解くと優しく掴み一度優しく口付けをする。

「またいつか」
「えーいつかっていつよう」

すっかり女を囲い喜ぶ蜂田を横目に、いじらしく唇をとんがらせる女を一度ポンと撫で一笑するとフラリと市場へ続く雑踏の中に姿を消した。
郭の中に暮れ六つの鐘の音が低く深く響くと、街は思い出したように朱色に染まった。

借金に塗れた女郎が多い花街では、海軍や空軍の男はよく持て囃される。
商人や農民が多い客の中で、給与が多く階級も高い軍人はいいカモなのである。更に言えば、陸軍とは違い、普段から町中を拠点に生活しておらず滅多に娯楽に触れない為、空海軍人の懐は滝壺も同然。
町中に降りてくることも滅多にないからか、他の遊郭に女郎を持っているわけでもない。それどころか、女とは無縁の生活の中を生きている。更に毎日来る訳でもない為精神的な苦痛にもならない。ここでは色男かどうかや、ルックスなんて微塵も関係ない。ここは女の街で金の街。

鴨が鍵のない金庫を背負ってやってきたように、金の権化が郭内をフラフラしているもんだから、誰もが我先にと搾り取ろうとすがってくる。それを快感に蜂田のように郭に誘ってくる男もいるもんだから、永塚はここをあまり好きになれない。

三味線の音を遠くに聴きながら、慌てて見世へ帰る禿が通り過ぎていく。
春の若草の香りが蒸せた香の香りに上塗りされていくのを感じた。

「シケた面してるね」
「ん?」

あたりを二度見回しても人の群れがあるばかり。しかし、気がつかない様子に焦れたのか、永塚のズボンを掴みながら片足で女がスッと立ちあがった。まるで竹が生えてくるような直線的な動きに驚きつつも、体幹がしっかりしている事に関心する。
変に関心する永塚に女はブツブツと管を巻くが永塚はさても気にせず。
香の匂いが溢れる中で女からは石鹸の香りがした。化粧も施しておらず、髪も結っていないがメス猫のような靭やかな手つきに「あぁ、こいつも遊女なのだな」なんて少しだけ侘びしく感じた。

「そんな所で座っていてどうしたのかね。腹が痛いわけでもなかろうよ」
「草履の鼻緒が切れちまったのさ」

そう言うと朱色の空気の中で浮いている白い片足を着物の裾を気にすることなく挙げた。惜しげも無く晒される足に、永塚はギョッとして眼を向くが女は羞恥よりも草履を悼んでいる様子で小さく、気に入ってたんだ、とこぼした。すでに成人しているように見える大人びた顔から似つかない大層幼い声だった。
小さいリンゴのようなつるんと丸い額と象牙のような、程々に日焼けした肌色の中でぐりぐりとした両目が赤い提灯の影を写す。揺れる雑踏に合わせて目の中の影も惜しげなく変わり、その目の中に永塚の影が入り込む。
永塚は女の両脇に両手を差し込むとまるで子猫を持ち上げるようにしてそのまま持ち上げた。女は一度嬌声にも悲鳴にも似た声を挙げると、溺れたように足をバタバタと泳がせる。足が何度か軍靴に当たり、更にそれも痛いと苦情を着けた。随分とやかましい女である。
そのまま道の脇に離れ、茶屋の長椅子に座らせると永塚は女の前で傅いた。
女の素足をまるで壊れ物を扱うように優しく掬いあげると膝に乗せ、自分は草履の鼻緒へと視線を落とした。
青生地に金糸で薔薇の花が描かれているそれは、美しくもありどこか風変わりな様は女に似ていた。

「あんた軍人さんでしょう。下っ端なの?」
「いや、俺は大佐だよ」

大佐の言葉に女はえっ、と小さく漏らしてまるで怪奇なものを見る目で永塚の伏せられた長いまつげを見やる。

「この年で大佐になったのは俺で二人目だったかな。周りが死んでいくんでね」
「……そう、そりゃ悪いこと聞いた」
「構わんよ。慣れてる」

そう、と返してから終始無言のまま黙々と器用に修理していくので気まずさにやられ女は左右にゆっくり瞳孔を動かしてから漸く永塚の為に口を開く。

「男で、しかも軍人で女郎に傅く人は初めての経験だ」
「そもそも俺は女子供護る仕事だからね。粗雑にゃせんよ」
「あっはは!あんた名前は。私は玉菊」

野郎は知らん、と吐き捨てた永塚に晴れやかな笑い声を上げた。吹き抜けのように高く貫く声は見世や市の商人の視線を惹きつける。
甘ったるい声とはかけ離れた田舎の町娘のような笑い声に永塚の顔はやや引きつる。食べただけで虫歯になってしまいそうな女ではなく、さながら沢庵のような女である。

「俺は永塚。下の名は教えてやらんよ」
「何でさ」
「俺はまだ鬼だからね」

鼻緒から上目にあげられた目に玉菊は思わず体を震わせた。冷たい手で背中を撫でられたように肌が粟立ちヌラヌラと血のように艶めかしく光る眼光が深い闇を思わせる。美しい殺意というものを体現するならば、このことを言うのだろうと感じた。
逃げられない研ぎ澄まされた氷柱のような殺意は冷たく触れるだけで切れてしまいそうなのに、三度触れれば溶け出して居なくなってしまうような儚ささえ見えた。
玉菊は自身の中で燻った情愛だとか憧憬だとか、一緒くたに全て火柱となり燃え上がったのを感じた。ゴクリと自分の喉が上下に動くのも顔が火照るのも全て夜のせいにした。

「一人殺せば犯罪者だが百万人殺せば英雄だ。百人死ねばそれは悲劇だけど百万人死ねばそれは統計でしかない。僕らが鬼でなくなるには殺し続けるほか無い。鬼である以上、人間に深入りしてはいけない。何故なら迷いが生じてしまうから。人間に戻れたあかつきには下の名も教えるよ」

情などいらぬ。一瞬の迷いでさえも命を取る。鬼のままで死にたくないと、人間だった時の自分が叫ぶ声に押されて殺す。殺さなければならぬ。

「……いつになったら人間になれるの」
「この世に軍が必要なくなれば」

ほら、終わり。と優しく玉菊の飴細工のような足に草履を履かせた。その手があまりに優しく暖かくて、見世へ帰ることが嫌になった。連れて行ってと袖を引き、すぐにでも溶け出してしまいそうな永塚をこの世に引っ張り留めて置きたかった。
人間に戻ると言いながら死場を捜しているようで唇を噛むも、永塚は静かに「不細工になってるぞ」と優しく柔い肌を撫でた。
草履の命が繋ぎ止められたのを確認したあと、まるで子どもをあやすように撫でると何かを思い出したように永塚は軍服のポケットを弄った。

「玉菊、ほれ」
「わっ何何」

ポーン、と放物線を描きながら投げられた物を慌てて落とさないように掴みとるのを確認すると穏やかな声で「簪にでも付けてもらいな」と笑った。
それは柔らかい女の手の中で鈍く光るのは蜻蛉玉だった。傷もなく磨がれた丸石のような優しい質感のガラス玉の中に菊の花がプカプカと浮かんでいた。美しく咲いた瞬間を凍結したような蜻蛉玉を物珍しげに遊郭の光に照らす。

「南蛮土産だよ。玉菊にちなんでね」
「あんた、死んじまうのかい」
「人間生まれたら死まで転がるだけさね。それが早いか遅いかで」

照らされた蜻蛉玉を視線の道から退かすと永塚は静かに笑っていた。鬼だなんて思えない、人も殺したことがないような顔だった。

三味線の音が聞こえる。女の唄と男の笑い声があちこちから飛び出てくる中で「戻ってきてね」と小さく相手にぶつけた。声は萎んだ朝顔のように頼りなく雑音にもみ消されるも、永塚はしばらく考えてから「できることなら」と答えた。

「アタシ、神とか仏なんて信じないたち何だ。でも、アンタの為なら祈ってあげる」

男は困ったように笑ってから一度手を挙げて応えると、仕事柄なのか紅茶の中に入れた角砂糖のように器用に人混みの中に解けて消えた。


-----------------------------------------------
君のためなら祈ってあげる(永塚春臣)

8ヶ月前 No.7

メロ @soofar☆vDjvdwlItTM ★WARScuJ0lm_qxX

「優、聞いて欲しいことがあるんだ」
「何そんな改まって」

水曜日の午後三時頃、二人はスイーツバイキングに来ていた。
入社してまだ日が浅い芝田は着々と仕事を成功させて昇進して忙しく、また操も現場主任の席に付いたばかりで多忙を極めていたがお互い休暇が重なったこともあり近場のホテルの1階で行われているスイーツバイキングに行こうという話しになったからである。雑誌で取り上げられた秋のスイーツ特集を興味深げに見つめていた芝田に操が声をかけたことが切っ掛けだ。
幼いころも一般的な家庭では無く、寧ろ極貧を極めその辺にある草でも食べていたような子供だったからか雑貨やアクセサリーの様に綺羅びやかに飾られたスイーツを食べたことも見たこともないのだと言う。初めて晩ごはんを囲んだ時も、食材を見て素っ頓狂な声をあげていた。

もともと好奇心旺盛で知らないことはどんな手を使っても知りたい血を持つ芝田は初めてのスイーツを前にして普段は濁っている金眼を此れでもかと言わんばかりに輝かせている。生まれて初めて好物に出会った子供のような、初めてカブトムシを捕まえた少年のような。兎に角未知の物を目の前に高鳴る鼓動が抑えきれないようで、その大きくて無骨な手でスッカリ小さく見える銀のトングを二回カチカチと音を鳴らした。

筋骨隆々で背が高くガタイの良い操と見た目は細長いのに腕や偶に見える背中の影から筋肉が無駄なく締まっている体の芝田の組み合わせは、唯でさえ変人が集まる研究所の中でも目立つのに現在のマダムやOLが多く犇めき合う空間の中で更に浮いている。

元来芝田は左利きだが、列は右利きが取りやすいように右手側にケーキがある状況で進んでいるが芝田は慣れているのか右手で器用に根付のようなケーキをヒョイヒョイと皿の上に乗せていた。
冒頭の会話を投げた操だったが、そのあまりの器用さにしばらくぼんやりと「力加減間違えないのかしら」と不思議に思っていた。
人の事を言えないが、自分の更にも多くのケーキが乗っている。女性の体躯では3口でようやく食べられるサイズも二人の体躯であれば一口で済むお手頃サイズに思わずカロリー計算を忘れてしまいそうになる。

この形がよくて可愛く飾られているケースはランジェリーケースと雰囲気がきっと似ている。見たことも触ったこともないけれど、多分そうだ。
どんな女の子もお姫様になれる力を秘めているそれに、操は羨ましげにうっとりと目を溶かした。


「で?なんだったの」
「あ、あぁ。そうだったな」


4人席に戻った二人は対角線上に座っていた。別に仲が悪いとかではなくて、向き合って座っていたらお互いの足が打つかって、終いが悪く居心地が悪いからだ。
芝田は品も雅もかけらも分からんと言いたげにフォークを上からザクりと刺すとそのまま普段は閉じられた小さな口を獣の如く開いて放り込んだ。姿勢が良いからか顔が良いからか、無礼も何もかも容認出来そうなその食べっぷりに操は出てきたコーヒーを一口含む。話してしまうのには勇気が必要で、何日も前から機を伺っていた操にとっては今日がチャンスの日。しかし緊張から口の中の乾きは冗談にはならず、掌も足の裏もヒンヤリと温度をなくしていくのが分かる。
芝田は特に急かしもしなければ、操のタイミングを待っているようだった。無残にもその鋭い犬歯に砕かれたティアラを象った砂糖菓子は今頃原型もわからぬ程になっている。飾り立てたものも一気に素材に戻ってしまう。
想像異常の味だったのか、ゆっくりと甘噛するように噛みしめると喉仏を上下させながら嚥下して店員に勧められた紅茶を飲む姿に肝を座らせた。


「俺、いや私……その、ゲイなの。女の子になりたいって思う時があるの」


何て言われるのだろう。拒絶か恐怖かそれとも同情か。
芝田は三橋と好い仲になっているから、そっちの人間ではない。そのことを分かっていながらの発言だった。


「えっ知ってるけど……前座は良いよ。本題は?」


キョトンと。目を真ん丸にしながら芝田は小さなモンブランを更に串刺しにして口に放り込んだ。別に蔑ろにしているわけではない反応に思わずこちらも目を丸々と開くと馬鹿みたいに瞬きを数回繰り返した。
モグモグと齧歯類が頬袋にケーキを詰めるように小さく頬を膨らませながら咀嚼している芝田は、操の反応に対して意味が分からないといったような顔をして見返した。しばらくモサモサと食べてモンブランを飲み干した後、手に持っていたフォークの柄を煙草を揺らす時と同じ様にプラプラと揺らしながら何かを考えている。
眉間にしわを寄せながら目を上目にして唇を結ぶ姿は良く誰かに対して言葉を選んでいる時の表情のソレだ。


「出会った時に女になってたし。操、頑張って男言葉使ってても寝言はまんま女言葉だし。
 ……良いんじゃないの? 俺は人に何やかんや言えるほど偉くもないけりゃ、軽蔑したり同情したり拒絶できるような高貴な人間でもない。
 そもそも、性別なんて関係あるのかね。人を好きになったんなら、それが愛ってもんなんじゃねーの? 男とか女とかの縛りって必要かな。
 『魂の入れ物を間違えた』なんて言うなよ。間違えてねえから。人を愛せるって自体で胸張って何が悪い、引け目を感じなくていいんだよ。操は操で俺は俺。そこには何も間違いはない。正解なんて無いんだから間違いなんて言うのは可笑しいぜ」


キッパリと迷いなく言われた言葉は真っ直ぐに自分の耳から入ってきて、そのまま心臓にストンと落ちた。
不器用なりに投げられたその安心感や暖かさに地に足が着いておらず、常に自分自身を否定し続けていたことを否定し、そして同時に受け止められた。何と無く、芝田はどうして人を殺めたりしたのだろうと考える。
きっと彼には彼なりの何かがあったに違いない。彼はそこには踏み込ませてくれないし、きっと踏み込ませる人間もこれからは中々見当たらないのだろう。もしも見つけた時は、それは彼が救われる瞬間でもあり、同時に私が救われる瞬間でもある。


「あと、ついでに言うと人は『自分がそうなる可能性を秘めているものを嫌う傾向』があるんだよ。
 だからゲイだからと拒絶した奴らは皆等しく境界線のギリギリに立ってるっつーこと。」


ま、気にすんなとは言えないけど。なんて言いながら着々とケーキは彼の胃袋の中に収容されていく。
銀色紙が生クリームの一片も無く綺麗に重ねられているのが目に眩しい。
自分も負けじと両手を合わせると、今度は男っぽさを意識せずにありのままの自分のままナイフとフォークで可愛らしくケーキを切り分けた。


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嫌い、嫌い、大好き(芝田優山・福原操)

8ヶ月前 No.8

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8ヶ月前 No.9

メロ @soofar☆vDjvdwlItTM ★WARScuJ0lm_qxX

【芝田と食堂で働くJKの話】

随分と綺麗な人が居るんだなと思っていた。
私が芝田さんを初めて見たのは13歳の、中学1年生の頃だった。日常生活が全く予期できない見目立ちで、それ故に現実味のない人だった。人形劇の世界からポンと弾き出されたような顔は恋愛感情とは離れ、国宝指定を受けた芸術品を見て息を漏らすのと同じ感覚だった。

その二年後に彼は、春の雪崩に巻き込まれたような顔で操さんに結婚報告に来ていた。随分と幸せそうな顔で、隣には気は強そうだが可愛らしい女性が立っていた。芝田さんは他の人を見る時とお嫁さんを見る時では全く態度が違う。一目で理解できるまでにお嫁さんは大切にされていた。
まるで別人のように、人形のような彼はお嫁さんの前では人間の血液を取り戻していた。

「……おかえりなさい。ご飯出来てますよ。」

そしてその彼は、結婚報告の5ヶ月後に寮に戻ってきた。

二ヶ月前に起きた実験棟の大火災は知っている。そして、目の前の彼は両手やあちこちを火傷し、首からはお嫁さんに渡していた自分のペアリングが1セットに纏められてぶら下がっていた。お嫁さんが持っていた芝田さんの指輪は元の色を無くし、黒く焼けている。
真っ赤な目の芝田さんに私は掛ける言葉を失い震える声を絞り出すことしか出来なかった。まるで彼は消えかけの蝋燭の火のように不安定で、私はなるべく毎日声を掛けて毎日彼が消えてしまわぬようにその姿を見つめた。

「おはようございます!芝田さん!」
「おはよう」

芝田さんを観察して話すことが増え親密な関係になった。話せば嬉しくなるし、それでも緊張して彼が列に並べば何を話すかを考えては結局頓珍漢な話題をぶつけてしまうこともある。
出戻りして間もないので先輩から理不尽な怒りをぶつけられている最中に「はい。はい。」とメモを取っているフリをしながらメモ帳に猫を書き殴っているのは私しか知らない。彼の意外な一面は私とお嫁さんしか知らない。それだけでも私にとっては、原因を知らない優越感に浸れるポイントだった。

でも私はこの感情が良く分からない。
初恋もまだの私にはこの胸が焦げ付く気持ちも、見ただけで元気になれる気持ちもは分からない。

ある日の夜。食堂も暖簾を下ろし、いざ厨房に鍵を掛けようとした所鍵が無いことに気が付いた私は焦って厨房内を探し回っていた。
暫く探しても見つからず、スペアキーを探しに半泣きでフロントへ。そこには、誰かが拾ってくれたのか忘れ物を入れる瓶の中に厨房の鍵がポツンと入っていた。

「あったー!良かったぁ……あれっ」

開かない。ビクともしない蓋は接着剤で接着されたのかと思ってしまう程頑なに口を閉めている。奮闘すること10分。振っても引っ張っても蓋が開かない。その時だった。
真後ろから突然にゅっと大きな手が伸びて、自分の後頭部に鍛えられた筋肉が優しくぶつかる。この時点で「まさか」とバクバク心臓が動き、息が止まる。見慣れた火傷や傷の多い大きな両手はそのまま私の両手を包むと、意図も簡単に瓶の蓋を開けた。何も力がいらず、痛くもない。寧ろ暖かくてゴツゴツした腕は壊れ物を扱うように優しく、その手から貰った心地よい温度は、私の中で火柱のように熱いものに変わった。

カコン、という景気の良い音で蓋が開いて、同時に私の心も景気よく芝田さんに落ちる。
芝田さんは瓶が開いたことを確認すると私から離れた。ポンポンと二度頭を撫でられた際に頭上にいる芝田さんから水滴が落ちて頬を濡らし、鼻孔を駆けた石鹸の匂いは彼が風呂あがりだと言う事を主張しており、私を更にフリーズさせる原因の一つになった。
そんな私のことは気にせずロビー近くに戻った彼は自販機でジュースを買うと戻ろうとしたので途切れ途切れに名を呼べば、芝田さんは少しだけ振り返るとただニコリと笑い右手をパラパラと振るとロビー奥へ消え、私はその場にへたり込んだ。

自分が芝田さんに恋慕していることを認知してから1ヶ月経った。
丁度夏休みも終盤に入り、私は家に帰る暇を惜しみいつも食堂の四人がけのテーブルに座り溜まりに溜まった課題の、特に苦手な数学に苦戦中だ。時計は深夜の2時を回り、私の座るテーブル以外に電気が無い室内は幽霊が出てきそうなほど静まり返っている。

「あれ、何やってんの」

そんな食堂に一人現れた芝田さんは栄養を10秒チャージしながらノートパソコンと書類とボールペンを手に現れた。雑に纏められたバッテリーや書類が落ちるか落ちないか、腕に挟まり微妙なバランスを保っている。その腕に一度ドキリと心臓が大きく脈打った。

「しゅ、か、かだ、宿題をやっているんですな!?」
「そっか。俺も仕事していい?」
「どうぞ!どうぞご自由に!」

パニックに陥り語尾が可笑しくなったことを皮切りに私は更に我を忘れて慌てて自分の右隣りに散らかした課題の山を集めて左に寄った。別に隣に行くとも言っていなければ同じ机で仕事をするとも言っていないが、隣に来て欲しい欲が溢れ、席を指定してしまった。
芝田さんはそんな私を見て伏し目がちに笑うと「ではお言葉に甘えて」と、隣に座ってくれた。お母さん、芝田さんは今日も石鹸の良い匂いがします。
感無量になりながら、全然集中できないまま時間だけが過ぎる。長文問題の字面を眼で追うことも辞めた時、左利きの芝田さんの腕がトンと私の右腕と打つかった。

「あ、ごめん」
「大丈夫ですよ」

集中が途切れたのか、驚いた顔で謝罪の言葉を挟む彼に打つかった右手の感触を思い出していた。しかし、その腕はすぐにパッと退けられてしまい、私はまた距離が空いたことに胸が締め付けられる。

「あんまり進んでないけど、分からないところでもあった?」
「えっあ、はい。証明の問題が」
「どれ?」

一度手を止めて距離を詰めた芝田さんは長文をパット見ると、プリントを一枚取り出すと裏面にひっくり返して赤子の手をひねるようにサラサラとあっという間に問題を解いてしまった。
そして、数学の先生のあまり理解をしていないが故の良く分からない説明よりも分かりやすく、一層近くなった為に何時もより知能が下がった頭でも理解できた。惜しくも証明問題を解き終わり、夏休みの分の課題は終了してしまった。
この時間も終わりかと残念に思いながら渋々筆記用具と荷物を纏めていると、準備が終わったことを確認して「送るよ」と笑った。

「いっいです!大丈夫です!ご迷惑になっちゃうし」

ブンブンと両手を振りながら答える。本音は送って行って欲しい。まだ二人きりの時間の中に身を埋めていたい。そう思う気持ちが表情に出ていたのか、彼は困ったように笑いながら「……コンビニに行きたいんだ」と考えた末に声を出した。
そして道中コンビニをスルーし、変な男の人や酔っ払いや車から庇いながら歩いて家の前まで送ってくれた。彼は驚くほどあっさりと「おやすみ」と笑うと、コンビニなど見向きもせずに真っ直ぐ寮への道を帰っていった。遠くなっていく彼の後ろ姿を見守りながら、道中ずっと熱かった頬を両手で包み玄関先で力なく腰を抜かす。

明日どういう顔をすれば良いのか、私には分からない。


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8ヶ月前 No.10

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8ヶ月前 No.11

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【花川戸くんが枕営業をする話】


豪華なシャンデリア、世界の果てへと続くクルージング、ダンスホールにドレスにタキシード。白くシミのない、触れば眠気を誘う上質な布地に包まれたテーブルの上には常に美しい生花と芸術品のように精巧に作られた一級品の料理が並んでいる。
オペラハウスのように高い天井はご高尚なオーケストラ音楽を奏でている。豪華な旅行の最終日をくくるに相応しい華やかなパーティ。まばらに薄く響く拍手の隙間に上流階級の人間が様々な会話を馳せていた。

「御機嫌ようミセス。相変わらずお美しいな。まったく彼が羨ましいよ」

美しいものか。俺の方が数千倍は美しいわ。そう心の中で毒づいた言葉は見事に喉の中で薔薇の棘が絡めとり、口から出てくるのは美しく飾られた言葉のみ。
一見すれば美しく絵画の世界に出てきそうな幻想世界で、日本に残してきた僕の思い人が見れば何と言うのだろう。きっと両目を輝かせて慣れない10センチヒールのパンプスに足を痛めながらお伽話の世界に身を浸すのだろうか。
あいにく今日の会食はやんごとない業種の人間が中心に集められ、おおよそ一般人に教えることができない商業話に華を咲かせている。まるで初恋の人を想起しながら友人に語り掛けるように、ここに乗船している人間は大方ロクな話をしていない。大体は気を抜けばあくびが出てしまうような無用な会話だ。これも外交の仕事だから仕方がないが、自分に必要な人間のほとんどに話し本日分のノルマを達成してしまえば、あくびを出さないように隙を見せないように振る舞うゲームくらいしか膨大な時間を消化できない。
 オーケストラの舞台から何人か楽器ごと引き下がり、なんのシミもない剥き卵のような膝小僧を持つ少年聖歌隊がゾロゾロと入ってくる。初々しいのからどっしりと構えているのまでピンキリだったが、一度全員が喉を開けばその不安は吹き飛んだ。天まで届きそうな美しいハーモニーを奏でるボーイソプラノの声は天まで届き、続くアルトの声はその雲間を裂いて天国の足を引き摺り下してきそうに力強い。
 すっかりその歌声に感心しながらシャンパンを一度クルリと回し、そして自分の両目も人々を透視するように雑多に混み合う人々に埋もれるターゲットを探す。恐らく今は聖歌隊の曲でも聞いているのだろうか、人々は前方に意識も体勢も集中している。
 『ルクス・エルテナ』の曲より第四曲目の「Veni, Sancte Spiritus」は主催のお気に入りだ。もう何度と聞き飽きたはずの曲なのに、この汚物社会の中に落とされた洗剤のように空気が晴れてしまうのだから少年聖歌隊の力は馬鹿にはならないのかもしれない。

前回見たときはボーイソプラノで独唱していた少年はいつの間にかアルトパートに顔を入れていた。年をまたぐ程昔では無かった筈だが、少年たちにとっては美しい声は一瞬の瞬きに近いのだろう。それなのに毎回しつこく『ルクス・エルテナ(永遠の光)』なんてものを歌わせているのだから趣味が悪い。

そろそろ曲も終盤に掛かるので、僕は寄り掛かっていた銀枠から背中を離して、適当に女が序盤からチラ見していたスイーツの机の前まで来た。美しいボディラインに整った綺麗な肌。普段から躾役に甘いものなど与えて貰っていないのだろう。18歳もそこそこの女は父親に連れられて、似合わぬ赤いドレスとダイヤのネックレスを着けていた。それはあまりにも不似合いで、不憫さを感じるものだった。着飾っているのに華々しいパーティ自体好ましくないのか、父に連れられて来てもこのテーブル以外に関心を寄せた様子がない。せっかく父親が若い男に愛娘を紹介して回っているのに何一つ楽しそうな顔もしない。
今回僕に課せられた任務はこの子煩悩である父親が娘の引き取り手が無いことを悔やんでいることに漬け込んだ外交だ。つまりは娘を落としてこの父親の会社と友好な関係を築く必要がある。それも早急に、隠密に。

適当にビスキュイと女の口紅の色と同じジェラートを滑らかな手触りのボーンチャイの上に盛るようにボーイに指示をしている間にも合唱は終わったらしい。まばらに人波が、引き潮から戻ってくる。ジワジワと穏やかに戻ってくるので、彼女が何処かへ消えぬように視線を貼り付ける。
年嵩のある女たちが彼女の若さと富を妬んで遠巻きに汚いものをなじるように毒を吐くので、こちらとしては大歓迎の気持ちでいっぱいだ。彼女が孤立すればするほど仕事は増して楽になる。
上機嫌な僕と目が合ったからか彼女たちはパッと醜悪に歪んだ顔をまた整えて若い燕を見つめるジットりと焦げ付く眼差しを向ける。年も増した旦那とはレスなのだろうか。男は若い女へ、女は若い男へ。それが例え既婚者であっても無くても、まるでそれが自然の摂理と言いたげに道理がまかり通る。
ボーイから皿を受け取ると飾ってあった白と赤の薔薇をいくつか皿に盛り、磨き上げられた銀食器を二つ持ってその場を離れた。

彼女は全ての人間の目から逃れるように穏やかに揺れる甲板の上に居た。風は無く、昼間は透き通る青さの海が今は泥のように黒々と墨の様に光っている。人が一人や二人落ちたくらいでは判別も付きそうにない分厚い海水に底が覆われて不安を煽るように、魔物の心臓の様に波打っている。

「今晩は素敵な夜だね、ご令嬢。風邪を引くよ」
「あなたは、その」

 突然後ろから声をかけるほど無粋ではない。彼女は少しだけ一人になって落ち着いたのか先ほど挨拶を軽く交わした時には無い打ち解けた笑顔を向けた。
 空の色を映さない海面に代わって星の色を映したようにダイヤのネックレスが月の光に反射して遠慮がちに光った。

「君の好きなものが分からなかったんだ。ビスキュイ? ジェラート? それとも薔薇の花?」

元気がなさそうだったから、と好青年よろしく人が良い柔和な笑みを浮かべた。
 彼女は驚いたのか、目を丸々と開いた。しかし僕に対しての警戒心は解けたのかクスクスと口元を隠しておかしそうに笑う。

「薔薇の花は食べられないのよ」
「そうかな? 食べてみないと分からない」

 いろいろな人間が来るからね、と一言断ると赤い薔薇を一嵩摘まむと自分の口に放り込んだ。パキパキと薄氷をゆっくりと踏みしだくような音と共に砂糖の甘味とラズベリーの甘酸っぱい酸味が口の中を支配する。見事にすべてを咀嚼した僕を見て彼女は恐る恐る同じく赤い薔薇に手を伸ばして周囲を見渡す。

「僕の背に隠れているからお食べ。誰も見ていないよ」

 考えを見通されたことに声を上げそうになった彼女の柔らかな唇に人差し指を置いて、小さく先ほどの聖歌隊の歌声のような純白の笑顔で言葉を塞ぐ。僕は彼女が恐る恐る匂いを嗅いだりしながら食べるか悩んでいる姿を見つめながら、今度は白い薔薇に口を着ける。こちらはただの食用の薔薇というだけで甘味はない。だからこそ、顎を切り取って丸々洗浄したい気分の今口直しには丁度いい。
 赤の薔薇に口を着けた彼女は驚喜に近い笑顔を浮かべた。

「お菓子なのね、素敵……!」
「食用の薔薇に砂糖とラズベリーの甘味を乗算させたものだよ。気に入った?」
「とっても!」

僕は「そう」と薄く笑って白い薔薇の花弁を数枚重ねて彼女と同じ口紅の色のジェラートを乗せて食べると彼女もまたヒヨコが親鳥を真似るように白薔薇にジェラートを乗せて食べる。本当に食べたことが無かったのだろう、彼女の陥落は朝日を待つより早かった。

それから僕らは多くの話をした。家のこと、家族のこと、最近のはまりのこと、学校のこと。僕には全く微塵も興味が無かったが、同情して欲しそうなら同情し、笑って欲しそうなら笑った。慰めて欲しそうであれば自然と抱き寄せて慰めた。家族や家を聞かれれば、彼女にしか話せなかったと言いたげに苦渋と泣き出しそうな表情で身寄りを無くし天涯孤独であることを告白した。そして彼女は、すべてが演技だと知らぬまま僕を「可哀想」と言って泣きながらその小振りな胸に抱きしめた。口では「でも君と会えたから」なんて甘ったるいことを呟きながら弱ったふりをして、頭の中ではさっさと寝てさっさと終わりたい気持ちに思考の葦が刈られている。
海上で生まれ家族も知らぬままに育った自分にとって、家族という存在そのものが邪道であり邪推の存在。それに同情されたところで僕の心は揺れることを知らない古木のように微動だにしない。できない。

徐々に僕に焦がれるように誘導していった。そしてそれは、彼女は息苦しいパーティや自分の父よりも上の男に性的対象と見られる不安や、美貌と若さを妬まれ追い遣られた年嵩の女たちからの恐怖で通常よりも異常に展開が早く、僕を見つめる目はゆっくりと溶けていくのが分かった。

パーティ会場から響くスローテンポの曲が穏やかに漏れ出してくるので、僕は皿をデッキのテーブルに置いて彼女の手を取ると傅いた。美しく滑らかな指先は静かに熱を灯すのを確認するとリップ音を立てて口づけた。
タイミングを見計らってか月が雲間から顔を出し、黒く泥の様に重たい海を鮮やかな紺に染め、ライトアップするように水面はキラキラと美しく光りだす。

「僕と踊ってくれませんか?」
「私、ダンスってしたことがないの、その、男性と……」
「大丈夫、僕に任せて」

スローテンポな曲ほど踊りやすいものはない。彼女の手を優しく握ると僕の肩に乗せ、僕は彼女の細腰になぞるように手を添えた。嫌がる顔をしないのを確認すると、グッと距離が詰められる。先ほどまでは拳二つ分だったのに、今は拳一つもない。
トロリとした彼女の視線に気づかぬ振りをしてキスをするでもなく額と額を合わせ、まるで恋人の男が最愛の女に呟くように、これが初恋だと言いたいように「ね? 簡単」と囁いた。遠慮がちにうなずく彼女の頬や耳が赤いのは美しい月夜の見せる夢ではない。
一度彼女をクルリと回して、メリーゴーランドを初めて見た子供のように喜ぶ彼女の瞳を真っすぐ見つめながらそっと指を絡めて触れるだけのキスをすると、パッと離れた。
顔に熱を集めるのなんて、枕営業を多くやっている自分にとっては赤子の手をひねるよりも容易いことだ。そっと自分の口元を隠して、初心な青年を装って「ごめん」と謝辞を重ねる。彼女は目に涙を溜めると、赤い顔のまま僕の胸に手を回した。先ほど食べたり触れ合っていたからか、薔薇の淡い香りが鼻孔を抜ける。
頭上での僕は彼女の気持ちに恐る恐る答える青年の演技をしながらも、もうすぐで幕を下ろしそうな茶番の先を考えていた。
僕ら二人の間にある空間を埋めるように曲は締めくくられ、穏やかにお開きムードの曲が流れているので、僕はそっと離して持っていた白い薔薇を手に取った。

「夢みたい、こんなの」
「これ、僕の部屋の鍵。……一夜の夢に留めておきたくない。僕は君を忘れられそうにない。……その、君は?」

レースの様に美しく誇る花弁の奥に、親指姫のように小さな鍵が一つ紛れ込んでいるそれを優しく手渡すと彼女は花に顔を埋めるようにして紅潮した顔を隠した。彼女はしばらく考えると意を決した用に、僕の手ごと花を握りしめて震える小さな唇に声を乗せる。

「お願い、私を連れて行って。知らない人に嫁いでしまう前に」

交渉は成立したようだ。僕は感極まったと言わんばかりの表情を浮かべて彼女の瞼と首にキスをすると金魚すくいのように彼女を姫抱きして自室へと続く階段を下りていく。
部屋の鍵を開けると同時に僕らは、映画での美しくて優しいキスを嘲るように荒々しく貪るようにキスをして部屋の中に雪崩れ込んだ。まるで双方愛し合っているように。
柔らかなベッドに部屋を出る前にベッドの上に散らしていた花びらが埋まる彼女の白い肌を装飾していく。
彼女は僕の名を愛おしく何度も呼びながら、そして僕は頭の奥で日本に残した最愛を思い出しながら彼女の気の済むまで彼女を愛した。

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嘘の反対の反対(さあ? どっちだろうね/花川戸)

8ヶ月前 No.12

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8ヶ月前 No.13

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8ヶ月前 No.14

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8ヶ月前 No.15

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8ヶ月前 No.16

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私の友人に、神楽京という女の子がいる。

昔から、この世ならざる物が見えてしまう私を、京は「そうなのかい」と一言何でもないような声を出した。否定はしない、受け入れてくれるような穏やかな声に私は目の奥が熱くなったことを覚えている。
カミングアウトをしても距離を置かない人なんて初めてで、その話を聞いた後でも聞く前と変わらぬ態度を取る彼女が何よりも優しい。

指先が縮み上がる程の寒さの中で口にするミルクスープのように、彼女と共にいることで癒やされていくのを感じた。
私はそんな彼女に何を返してあげることができるのだろうか。もしもできるとするのなら、彼女の傍らに立っている、黒い異形の者の存在。

体の所々を火傷の傷が蛇のように這い回っていることを覗けば見た目は人間と変わらない。
むしろ、シワのない高そうなスーツと嫌味なほど磨かれた黒い革靴。晴れの日でも持っている重たそうな蝙蝠傘。すらっと伸びた背と鍛えられた体を想起させる厚みのある体。蠱惑的な見た目に反して、冷たいレモネードの匂いがする香水。イケメンというよりも、美丈夫。ただ、雰囲気はカタギのものではない。
ただ、彼に近寄れば強い殺気のような、何色もクレヨンで塗りつぶした黒に飲み込まれそうになる。底のない井戸を覗き込むときのような気味の悪さを放っており、可愛い京に目を付けた先輩方は彼が一睨みした途端体調不良を訴えて学校に来なくなった。
ただ、京に悪意を向けなければその被害に遭うこともない。

ある日、彼に勇気を持って声をかけたことがあった。
お泊まり会に行った時、寝ている京を見つめる目が湖畔に浮かぶ月のように優しかったから。
貴方は誰と聞いたら、彼は腰に響くような低い艶のある声で一言「死神だった」と告げた。片足を上げた胡座のまま、上げている膝に肩肘を乗せて、その上に顎を乗せていた。喋った後、彼の唇はまた黒い革手袋の中に埋もれ、海を砕いて入れたような双眼はまた京の寝顔へ戻る。
今、彼が何なのかは分からない。

「死神」について色々と調べていた。彼の目的は何なのか、聞いても教えてはくれないから調べるしか無かった。
京は彼が見えないようだった。だけど、彼はたまに遠巻きに強請ろうと見つめてくる不良の元へ行くと傘を一振り不良の元へ軽くぶつけている所を見たことが在る。
ぶつけられた不良は彼が見えるようになったのか、腰を抜かすと這うようにして逃げていった。そりゃあ、目の前にカタギじゃない風貌の男が突然現れて、殺気を自分に向けているのだから逃げたくもなるだろう。
町中でその不良が私達を見つけても急いで逃げてしまうので、彼を視認できるようになったのは一過性ではないようだった。

そんな彼に、どうして京に自分を見えるようにしないのかと訪ねた。

触れれば、そうやって隠れながら京を守るなんてしなくて済む。京はきっと貴方を受け入れてくれるはずだ。そう伝えた。
その日も京は寝ていて、真の意味で私と彼が二人きりになった瞬間だった。

夏の夜風が穏やかに吹く窓際で、彼は緩やかに風に当てられていた。
その目は優しいまま京から動くことはない。また無視かー、なんて気にも止めないまま布団の中に潜り込んで、瞼を閉じたときだった。


「愛しいんだ。きっともっと触れたいと思ってしまう」


静かな空間の中で、響いた声は苦しそうで、その声は響いたはずなのに宙に落ちる牡丹の花のように散り散りになって記憶の中から音だけが消えた。

8ヶ月前 No.17

削除済み @soofar ★iPhone=EiqahOBmV1

【記事主より削除】 ( 2017/08/06 01:13 )

1ヶ月前 No.18

メロ @soofar☆vDjvdwlItTM ★iPhone=EiqahOBmV1

鶏ガラのような腕だと思った。

男の割に細く、骨が痛々しいまでに浮き出た様相をいつも目の端で捉えていた。シャツにできた服の空白が薄いポリエステルの下に隠れている背骨の凹凸を想像させるので、僕は彼が苦手で怖い。
長い前髪に隠れた両目は一方的にこちらを覗き見ているようで、見られていない事実はさておいていつもその痩身から落ち窪んだこの世の淵のような両目を思ってしまう。深淵に近付きたくもないのに深淵に覗かれていそうな、前髪をハラリと避けた先には何もないかのような。得体の知れないものへの恐怖を感じていた。
少なくとも僕は彼に対して好印象とは真逆のものを腹の底に据えていたのである。

なだらかな田舎道から降りて行くと山の麓に一本のバス停が突っ立っている。赤錆に塗れ、時刻表の印字は既に削れ去っている。その上から申し訳程度に貼られた紙はラミネート加工もされていない粗末なもので、土埃の茶色と雨水で時刻表としての仕事をも放棄していた。
御察しの通り、利用者は僕と彼、それから
二人きりで2時間に一本くる怠慢を極めたバスはいつも数分遅れてやってくる。
バス停には腐食で既に柔らかくなった泥だらけの木の長椅子が二人の無言の空間を埋めるようにそこに存在していた。


ボツ供養@

15日前 No.19

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15日前 No.20

メロ @soofar☆vDjvdwlItTM ★WARScuJ0lm_Y9V

【風呂上がりのチョコミントアイス美味しい】

 湯船が小さいころから苦手だ。
自分の肌に色が着いてゆき、それを面白そうに見つめていたら意識が暗転したことがあった。気がついたら病院にいて、疲れて窶れた面持ちの中年の医者に座薬を打ち込まれたし、水分補給にと点滴もされていた。
 以来長湯をしないようにしようとしても直ぐに鼻血が出やがるし、タオルを血で汚した俺は従姉妹の姉ちゃんに「生理でも来た?」と言われた。それらが生じて俺は例外なく湯船が嫌いだ。
汗が気持ち悪いし一日入らねぇと髪の居心地も悪いので寝起きと就寝前の二回は必ず風呂には入るが湯船には浸からない。この歳で、しかも寮生がいる大浴場で鼻血を出してぶっ倒れたくはないからだ。
 洗うだけ洗ってシャワーを浴びてでる。ざっと換算して浴場には十五分もいない。だから体温の上昇などはあまり見込めず、むしろ扉を開けた瞬間のムワッとした熱を孕んだスチーム濃度の湿気にじっとりと汗をかいている。
 新入生のうち必ず一人は「誰かが入った後のお湯に浸かりたくない」と潔癖を発動して泣いている生徒を見つける。何故寮生活のある春瀬を選んだのかはいささか謎だが、お湯に浸かりたくないといった面では全面同意だった。

「やっぱ誰もいねーな」

 共用キッチンの電気を付ける。
 夕飯の時間が終わり、入浴時間になった今生徒のほとんどは共用キッチンには用がない為いつもは数人見かける生徒の影が無い。真っ白ではないクリーム色に黄ばんだ年季入りのキッチンタイルが白色灯の下で穏やかに息づいている。
 誰かが使ったキッチンシンクに残る水滴がキラキラと光るのを横目にまっすぐ共用冷凍庫を開けた。
 マンモス校に在籍する生徒全員を抱える春瀬療で生徒を支える共用キッチンの冷凍庫付き冷蔵庫は業務用かと勘違いするほどに大きい。180センチを越える身長の自分も見上げる大きさだ。
個室一つ一つに簡易冷蔵庫があるから使用率は低いが、いかんせん共用なもので私物に名前を書いておかなくては一日経つ頃には消息を断っているのである。
 冷凍庫の引き出しを開けると思わず顔を避けたくなる程の冷気が溢れ出し、花厳は思わず緩む顔を引き締めた。冷凍庫の奥の奥、生徒たちの私物の奥。白く大きなタッパーが鎮座している。剥がれないように何重にも貼られた「かざり」の字が見える。
 今度はアイスを作ってみた。作り方は簡単だったが、簡単だったが故に腕のなる調理となった。じっくりじっくり時間を掛けて作ってきたものは二種類。バニラ味とそれからチョコミント味だ。バニラは特に張り切って作った。自分だけのバニラアイスだ。
花厳は自分の部屋から持ってきたスープスプーンを人差し指と中指で器用に挟めながら試作品であるチョコミントのタッパーを開けた。ガコンという硬い音がして、綺麗に緑に染められた完成品に両目をしならせた。
皿に移すか否かを考えるよりも先にスプーンをアイスに刺そうとした瞬間――――

「花厳か、どうした? もうすぐ学習時間になるぞ」
「――ッ!」

 思わずアイスのタッパーとスプーンを落としそうになり、姿勢を崩しかけてから落とさないように全てをキャッチする。慌てて振り返ると、キッチンの入り口ドアにもたれかかっている太刀川先生がいた。
 驚いたように目を見開いて「す、すまない……驚かせるつもりは」と言っているが花厳当本人は何も耳に入ってこない。ラフな服装の太刀川先生がこちらをまっすぐと見つめている。
 白色灯の下で光る白銀の髪が色素の薄い肌にかかり、切れ長の両目がまっすぐとこちらを見つめている。その美しさといったら。花厳は少々吃りながらも不明瞭な声ばかりが喉の奥から溢れていく。
花厳を尻目に太刀川先生は花厳の顔が赤く染まるのを心配してか共用キッチンに足を踏み入れる。

「うん? アイス作ったのか? ふふ、花厳は相変わらず面白いことをするな」
「……ッス」
「私も一口いいか?」

 この女性に微笑まれて断れる者がいるのだろうか。美しきものから織りなされるものは完璧さのにじむ造形美があった。口では面白いとからかいながらも、一人一人を肯定する優しい声色に花厳は断ることも考えずにあわてて自分用に持ってきた皿に慌ててアイスをよそう。
大粒に削ったチョコチップが削られながら丸まるアイスに巻き込まれて良い色彩を織りなしていく。自分でもまだ食べたことのない試作品にゴクリと生唾を飲み込んだ。

「はい。……あっでもまだ試作だから口に合うかは」

 小皿に移して渡し終えた後から気がついて、慌てて口を開くも既に遅し。鮮やかな色を持つチョコミントアイスは雪肌の太刀川先生の口の中に吸い込まれていく。
 しばらしの沈黙のあと、「ん、美味いな」と解けるように笑った先生の顔が網膜に張り付いて解けなかった。


―――――――

風呂上がりのチョコミントアイス美味しい

(お題提供は鈴ノ介さんから!
 太刀川先生は神波さん
 舞台は【ハイティーン・スパークリング】)

15日前 No.21

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14日前 No.22

削除済み @soofar ★WARScuJ0lm_Y9V

【記事主より削除】 ( 2017/09/09 01:07 )

13日前 No.23

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【ニコラシカ】

 久しぶりに日中のうちに目が覚めて、出勤までの間どうしても寝付けなかった。何度も寝返りをうち、埃の積もったブラインドカーテンの昇降コードを手繰り寄せて捻る。こんなに眠れないのなら、いっそ起きていた方が有意義だ。
 いつもの書店へ、何か好みの本が入っていないかを確かめる為に洗濯したまま畳まれていない紺のワンピースを引っ張って袖を通した。お気に入りだったはずだが、洗剤の匂いと煙草の匂いが混ざっていて気分の良いものではないので、床に散らかした仕事着である着物の隙間を縫うように歩き玄関で消臭スプレーをかけた。
 湿気で色が変わることは気にならないが、袖を通した際の肌に触れた時の張り付きが気持ち悪い。乾くまでの間、せめて皺にならない程度にと着物を陰干しするため菊の咲く淡いオレンジ色の名古屋帯を拾い上げたときだった。
 帯の下から出てきたのは文庫本だった。青い紙のブックカバーには贔屓にしている書店の名前が書いてある。その文庫本から雑に破られた紙が挟められているようで、白い尾っぽがチラチラと顔を出している。いつもは気にせず本棚に戻すところだが小菊はどうにも思い出せないのが悔しくて、着物を着物ハンガーに掛けるとゆっくりとした足取りで戻り文庫本を拾い上げた。
 生白いシミひとつない滑らかなふくらはぎをもう片足の爪でボリボリと掻き本棚に寄り掛かりながら紙の挟まったページを開く。そこには大切そうにティッシュに包まれた四葉のクローバーの押し花が挟まっており、小菊は思わずそっと目を細めた。

「――と、いうわけ」
「いや、わからないんだけどね、おひいさん。それとこれじゃあ話が繋がっていないんじゃないかい」
「繋がってるわよ。そのクローバー、あげるってんの」

 パチャン。脚を曲げて湯船から膝を出した水温が静まった浴室に響く。
 巴に持ち帰られてそのままホテルで流れるように致した後、入室時に使った浴室に再度湯を張り共に浴槽に浸かっている最中だ。ガラス張りになっている浴室は小菊のお気に入り。
8階の角部屋、事後は一緒に湯船に浸かりながら浴室を暗くして夜景を観るのが常となっている。
 浴室照明が消えた中で、備え付けの湯船を照らすライトはグラーデーションに薄い青からオレンジへと色を変えていく。湯船だけが色を変えユラユラと揺れる中、反射する二人の顔色もそれに比例して照らされていく。あくまで真剣な二人の顔色は平素とは変わらず、夜のネオン街のような偽物の光ばかりが二人の顔は照らしている。
 丸渕の浴槽の中で巴の膝の上に座っている小菊は足を絡めるようにして方向転換をして巴に向き直ると慣れた腰つきで跨った。
目の前には煩わし気にオールバックにされた顔には泣きぼくろが一つ。小菊は右頬にゆっくりと手を延ばして水滴の乾いた男の硬い肌に触れた。女の柔肌とは違う感触はいつ触っても不思議に思ってしまう。自分が子を産んだ時でさえ、赤子の肌でさえ男女で柔らかさもさわり心地も違うのだったから。

「何か知らないけど、大事なもんなんだろう? 俺には受け取れないがなぁ」
「私が持つよりかはコレクターさんが持ってた方が喜ぶでしょう」

 巴が口を開き言葉を発するより前に「貰われて幸福な方に貰われるのがベストなの」と言い聞かせるように告げて一方的に巴の、男らしい固い唇を吸った。チュ、と艶めかしい音がして、唇をそのままペロリと舐めた小菊は甘えるようにそのまま巴の首筋に顔を埋める。

 産んだ時は確か男の子だったと思う。お腹を痛めて産んだけれど実母や周りの言う「母親の実感」というものを結局、引き剥がされるまで実感しないまま終わった。私は動けるようになれば退院し、あとのことは不倫相手の男が引き取っていった。
 あれから二年経って、雨が上がった日だった。何てこと無い通勤途中で、私は商店街の目抜き通りである男の子を見つけた。二歳児くらいだったろうか、歩けることを喜んで走り回り疲れた様子で道路端に座っていた。
『僕、何してんの』そう声をかけ、パッと男の子がこちらを見た時思わず息を飲んだ。耳の形や面影があの人にそっくりで、そして目の色や髪の色、顔の形が私にそっくりなこどもだった。幼いころの自分にも似た出で立ちの子どもは擦りむいた膝と私を交互に見つめて困ったように眉尻を下げた。
 どう声をかけるべきかも分からずに、小菊は膝を着いてミネラルウォーターで患部を流してから絆創膏を貼ってあげた。子供らしさのかけらもない、大人用の可愛くもない絆創膏。剥き卵のような白くつるりとした膝小僧で居心地の悪そうだったのが記憶に染み付いてる。
そこまでして、ようやく背後から昔によく聞いた声が子どもを探していた。子どもは一転『パパ』と明るく笑って立ち上がり私の横を擦り抜けて通り去る。春の風のように風だけを残して通り過ぎた子どもと、それからその父親。
 振り返ると父親は私の顔を見て小さく私の名前を呼び、しばらくの沈黙のうち『お姉さんにお礼を言いなさい』と子どもを催促した。
おそらく私の子どもであろう彼はポケットから葉っぱや虫、石などを零しながら四葉のクローバーを取り出すと『あいがと』と言いながら生えかけの乳歯を見せて笑った。屈託のない、穢れのない笑みだった。

「……事情はわからないけど、そういうなら貰ってあげるよ。おひいさん」
「おひいさんって呼び方、好きじゃないの。どうせなら小菊って呼んで」

 お願い。そう頼むと巴は珍しく困ったような顔をして、誤魔化しついでに背中に回していた手で肌を柔く遊びながら腰をなぞり、脚の間へと滑らせた。小菊は一度ビクリと肩を震わせ、両目を閉じて熱い息を吐く。
 もう一度キスをした後、巴は小菊を抱えて湯船から上がると脚でドアを蹴り開けて小菊をそのままベッドへと放る。ガラス細工が投げられるように緩く放射状に空を滑り、入念に手入れされた黒髪は皺になったシーツの上で湖面に響く波紋のように綺麗に流れた。
 蒸気した白い肌の内側から滲むように桃の浮かぶ肌を焼き付けるように見つめたあと、ベッドは軋む。

 自分の両脚の間を割って入る彼の龍の背中にそっとしがみついて、もう少しだけ忘れていよう。なんて、淡い期待を込めながら彼の名を呼んだ。


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ニコラシカ

お題提供::矢印
巴 信楽::なかのさん
舞 台::プッチン不倫

このニコラシカっていうのはお酒で、砂糖とレモンを予め口の中に入れておいてキツめのブランデーを飲み口の中で完成するお酒です
好きなお酒でもあるので、甘くて酸っぱくてキツイお話がかけたらななんて思いました(作文)
私、巴さんがとても好き…………

13日前 No.24

メロ @soofar☆vDjvdwlItTM ★WARScuJ0lm_Y9V

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12日前 No.25
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