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私(推古)の妄想メモ帳

 ( 書き捨て!小説 )
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推古 @iwing ★txAmEMOULw_cwj

暗く、昏く、冥く、闇く
墨黒の空、漆黒の闇
千尋の空、千仞の虚
私は際限ない深みに飛び込んで行く

至るところはいざ知らず
それでも意識を拡げて、拡げて
身も心も溶かして、解かして、融かして
私の苦痛を鎮めてくれる

そこは広大なる宇宙
放蕩なる煩悩を鎮める
ただ一つだけの私の理想郷

ここに在って、ここに無い
まるで胡蝶の夢の如し
ここは私の、私だけの安息の世界

3年前 No.0
メモ2015/06/03 23:13 : 推古 @iwing★08FpFOVYGK_u6T

閲覧は自由ですが推奨はしません。

ページ: 1


 
 

推古 @iwing ★txAmEMOULw_cwj

走れ、奔れ、趨れ
大道へ挑む、君は孤高の疾走者だ

花に風
好事魔多し
途上に障害多けれど、それでも君が疾れば、どんな道をも切り開いてゆけるんだ

誰だって辛い時はあるし、苦しい時もある
逃げたり、諦めたりすることだって当然ありうる
責め苦に耐えかねて、疾るのを止めたければ、君は足を止めるだけでいい
それでも右足と左足を前へ出せば、君が望むならどこまでも、遠くへ走り続けられるよ

君は君自身の成長を感じることが出来ないだろう
どれだけ疾っていても、今自分がどれ位進んでいるかなんて、判らないはずだ
しかし断言できる、君は確実に前へ進んでいる、と
君の前途は明るい、これは私が保証する

私が君の味方だ、理解者だ
私だけが君を識っている
いつでも君の背中を見守ってあげるから、独りで不安がる君は何一つ心配する必要がないんだよ?

孤独は寂しい
しかし、誰かが見てくれているという、ただこれっぽっちのことが勇気を与えてくれる

3年前 No.1

推古 @iwing ★txAmEMOULw_cwj

地平線に陽が沈んだ
群青色の空に夜の帳が下りる
一人の影法師が、冷えた街中を過ぎていく

商店街のアーケードの中へ、澄み切った風が吹き込んできた
乾いた空気と、肌を刺すような風
コートの襟を立てながら、人気のない通路を歩く、人影が一人

シャッターの閉め切った店が軒を並べる路
陰鬱、寂寞、荒涼、荒廃
うらぶれた様が嘗て栄えてた頃の影も形も感じさせない

過疎化が進行したこの街はすっかり様変わりしていた
昔の住人は皆、もう隣町に移ってしまっていた
この街に残されたのは、かつての住人の残していった足跡と、街を愛するただ一人の男だけ

この街には過去の遺産しか残されていない
では、既に男は過去の人間になったということだろうか
いや、しかし現に男は生きている
死んだ街と同等の価値を、この男に与えることはできない

男が生きている人間足らしめるもの
それは「過去」を「視ている」ということだ
「過去」を過ぎ去ったものとして視認出来るからこそ、男は生きているのだ

3年前 No.2

推古 @iwing ★txAmEMOULw_cwj

ぼくの頬に青白い手が触れる。

そっと、優しく、涙の跡を拭いでくれた手は、ぼくの優しいお姉さんのもの。
それはとても小さくて、魚の骨みたいな、細い指をしている。
掌が柔らかくて、いつだってぼくの心を包み込んでくれる。

お姉さんは、とても冷たい手をしている。
それでも、温かな気持ちになって、ぼくの心は満たされる。

伽藍堂のように空っぽとなった心を満たしてくれるのは、いつだってお姉さんだ。
冷え切ったぼくの心を温めてくれる。
だから、ぼくの中ではお姉さんが大切な存在になっている。
ぼくの空いた心に、お姉さんが入ってくるのを嬉しく思う。

お姉さんは、ぼくの本当の姉ではない。
しかし、ぼくはお姉さんを、ぼくの身内よりも大切に想っている。

今では家族以上に大切な存在だ。

ぼくとお姉さんが初めて出会ったのは、今から○×年前のことになる。
家族とスキーに行って、ぼくが雪山で遭難した時の話。

寒くて怖くて、独りで震えているぼくに手を差し伸べてくれたのが、お姉さんだった。

その時、お姉さんは、着物を着ていた。
それが異様なほど目に付いたのは、ぼくたちが洋服を着るように、それが普段着のように様になっていたからだ。

まるで昔話の住人が、絵本から飛び出してきたかのようだった。
それがお伽話のような、童話チックなものでなかたのは全て、お姉さんの雰囲気から物語っていた。

髪も、肌も、服も、全部が白だった。
当然、ぼくがお姉さんに抱いた最初の印象は、「雪女」だった。

だけど、お姉さんは、「雪女」と呼ばれることを嫌っている。
何故だかしらないけれど、嫌っている。
だから、お姉さんを呼ぶ時、ぼくは、彼女を「白雪姫さん」なんて呼んでいるのだけれど。
もちろん、童話の「白雪姫」とは何の関係もない。

3年前 No.3

推古 @iwing ★txAmEMOULw_cwj

ぼくが何者かなんて、誰も分かるはずはない。
だって、ぼくの体は、ぼくだけのものだから。

ぼくのことを見てくれる人なんて、居やしない。
みんな自分のことで必死なんだ。他の人を見る余裕なんてないのだろう。

誰も彼もがぼくのことを見ようとしないから、大人は皆、ぼくを子ども扱いする。
その上、自分たちの物差しで、何でもかんでも決め付けてくるんだ。

「年長者ならそれらしく振る舞いなさい」「年下の面倒をみるのが年上の勉めよ」と大人がぼくに言う。
ぼくはぼくなのに、ぼくじゃない誰かを、押し付けようとしてくるんだ。

大人は、それがさも当然であるかのように、今日も今日とて、別の誰かを、ぼくに押し付けようとする。
そうしなければ、ぼくを縛り付けておけないからだろうけれど。

ともすると、子どもを放置すれば、自分たちの手の届かないところに行ってしまう、と考えているかもしれない。

だから嫌なんだ。ぼくが大人の所有物なんかじゃないって事くらい、ぼくだって判っている。
だっていうのに、大人が判っていないんじゃ話にならないよ。

だから、ぼくは決めたんだ。絶対に大人の決めることには従わない、って。

ぼくこと「安倍凰華」は、今後一切、大人のいうことには従いません。
「安倍凰華」という人間は、自分が決めたことに一切の責任を持ち、自分が決めた道を進んでいきます。

はい、これでお終い。
大人との関係は、今日を以て幕を下ろしたんだ。

でも、ぼく自身が何をしたいかなんて、どうしても思いつかないんだ。
大人が用意してくれたレールの上を歩いていけば順風満帆なのだろうけど、それに乗っかりたくないことだけがハッキリしているだけで……。

必ずしも明確な将来像というものを、描いているというわけではないのだけれど。
ぼくが何者かなんて、誰も分かるはずがない、それと同じで、本当はぼく自身も、ぼくのことを分かってなんかいない。

更に悪いことに、大人のことなんて信用しないと決めたのだから、もう、「神さま」に縋るしかなくなっちゃったよ。

3年前 No.4

推古 @iwing ★txAmEMOULw_cwj

「安倍凰華」という人間は、既にぼくのモノではなくなった。
“あの人”に、命を救ってもらえたから、この体は、他の誰かの為に使わなければならない。
「安倍凰華」が、まだぼくの所有物であったならば、ぼくは、ぼく自身の意思に任せ、この「体」を自由に使えたはずだ。
しかし、“あの人”に命を救われて以来、当然、その恩に報いなければいけないのだから、ぼくは、“彼”のために尽くそうと考えたんだ。
それが、ぼくの進んでいく「道」なんだと信じて。

ぼくは“彼”のことが好きだった。
だから、“彼”のために全てを投げ出すことになろうが、苦痛ではなかった。
寧ろ、それがぼくにとっての「幸せ」なのだろうと、幸福感と浮遊感とが支配する頭の中で、朧げながらも考えていたんだ。

“彼”がぼくに望んでいることなら全て、実現してきた。
厳しい修行にも耐えてきたし、体の中のものも全部作り替えてきた。
そうすることでしか、恩に報いる方法が見つからなかったのだから、とにかく必死だった。
“彼”に認められようと、出来る限りの努力をしたんだ。

だっていうのに、“彼”は、ぼくを残して逝ってしまったんだ。
やっとのことで見つけた「幸せ」を、ぼくは失い、そしてまた、独りぼっちになった。
しかし、それなら“彼”自身が遣り残したことを、受け継げばいいんだ、とぼくは思いつく。
「安倍凰華」は一生を“彼”のために尽すと決めたのだから、それは当然の帰結であるはずだ。
大丈夫だ、大丈夫。
ぼくはまだ「世界」から取り残されてなんかいない、と己を鼓舞するように呟いてみたけれど、正直に言えば、まだまだ不安だった。

毎朝、ぼくは寝起き時に、自分自身が「世界」にしがみ付いていられているかどうかを確認している。
そうしなければ、「心」と「体」がバラバラな「ぼく」という存在が、何れ内側から崩壊してしまうような気がするからだ。
目を覚ました時、既に、ぼくがぼく自身でなくなっていることを、時々想像する。
その度に、ゾッ、と背筋が凍るような思いをさせられる。

3年前 No.5

推古 @iwing ★txAmEMOULw_cwj

 かくのごとし。

 コイツが、ああいう性質の悪い性格の持ち主だってことが解っているから、俺の中では、既に織り込み済みだから、今さら歯牙にも掛けないけれども。それにしても、どうしてああも、何かと理由をつけてクレームをつけてくれるのだろう。
 一体何がお気に召さないというのか。不平不満を口に出す癖に、願望の一つすら言葉にしてもらえない。それどころか、眉間に皺を寄せながら、いかにも不機嫌な態度を露ほども隠そうとせず、アヒルの真似事でもしているのだろうか、敵意丸出しで口を尖らせてさえいる。
 もっと楽観的に構えればいいと、個人的に俺は思う。そうすればきっと、見える世界が変わって、少しはその心持ちも変わってくるだろうに。

 だけど……そんなこと、口が裂けても言えない。

 言えるわけないだろ? だって、コイツの作る渋面を、俺は可愛いと思うのだから。それに、ああして繰り言を言えている内はまだまだ平気だという証拠にもなる。
 そういう時は、だから、気に掛けるような心づかいをするのが、むしろ、間違っているのだと思っているわけで。よって、俺は今日も、コイツの愚痴を聞き流しつつ、右から捲くし立てられるそれを左に受け流しつつも、相手をしているのだ。

 だってそうだろ? いくら性格がひん曲がっていようが、捻くれていようが、コイツは、俺が産んだ子どもじゃないんだ。
 いくらコイツが対人関係で損をするような性格をしているとはいえ、わざわざ俺が矯正してあげる謂れはないのだ。それに、実は、俺はコイツのそういうところが好きだったりするのだから。寧ろ、あのまま我を貫いて欲しいとさえ思っている。
 傍から見ていて、いっそ清々しさを覚えるよ。俺が生返事で返そうが、適当に話を合わせていようが、コイツは、気にも掛けないだろう。

 口が悪いと言っても、素行まで悪いというわけではない。
 流石に、結構変わっている奴だな、とは思ったりもするのだが、ああも付き合いが長くなると、愛らしく思えてしまうものだから不思議に思えた。

 物事の判断基準がハッキリしているらしく、コイツは白か黒しか認めない。好きな人なら当然好きだと言うし、逆に嫌いな人には、面と向かって嫌いと言えるような奴だ。好かれる時はとことん好かれるのだが、嫌われる時もまた同じで、とことん嫌われるのだ。
 人によっては我が強いと評価を下し、また、我が侭だと非難したりもするのだが、そして、コイツと接して受ける心証が、普通は両極端に分かれる傾向にあるのだが、俺の場合で言えば、そのどちらでもなく、割と、コイツの善いところも悪いところも全部受け容れていたりする。

3年前 No.6

推古 @iwing ★txAmEMOULw_cwj

「ごめん待った?」

 背後から声がした。
 デートの待ち合わせだろうか。
 振り返ると、待ち惚けをくらっていた若い男性に近付く、彼と同世代であろう若い女性の姿があった。

「それじゃあ行こうか」

 それから暫く経ち、男が切り出すと、女が寄り添うようにして、カップルと思わしき二人組みは去って行った。
 その様子を、私は視線で追いながら、彼らが人混みにまぎれてその姿を見失うまで見送った。
 その後、所在無さ気に視線を漂わせながら、真正面に向き直った。

 時計台の方を見遣るが、既に待ち合わせの時間を十分もオーバーしている。
 相手はまだ来ない。
 私は予め示し合わせておいた時間より20分も早くついたのだから、かれこれ30分も待たされたことになる。

 乾燥した空気。
 肌を刺すような風。
 未だに姿を現さない相手に怒りを覚えながら。
 私は身体を小刻みに、一度だけ、ブルっと振るわせた。

 ――ごめん待った?
 などと先程の女性のように、遅れてきたことに対しての非礼を詫びようが、私はそれを許さないだろう。

「よぉ」

 私の傍からいかにも呑気そうな声が掛かってくる。間違いなく彼の声だ。
 噂をすれば影とはこのことを言うのだろうか、私が到着を待っていた相手がやって来ていた。
 それにしても、待ち人をさんざん待たせた挙げ句の第一声がこれか。これでは許す許さないの問題を取り上げるまでもなかろう。

 ――喝ッ

 大沢親分に倣って放たれた一声(実際には心の中でだけど)。
 それと共に放たれたのは、堅く握り締められた拳。
 それが相手の顔面に深々とめり込んでいく!
 我ながら少しやり過ぎたと思ったが、こうでもしない限り私の腹の虫が治まることはなかった。

「痛てーないきなり何するんだよ!?」

 涙目になりながら、鼻っ面を手で抑え付けながら、彼は抗議の声を荒げる。
 当然であろう、誰だって顔面に拳骨を喰らわされれば憤りたくもなるだろう。だが、私は一歩も退く気なんてなかった。

 ……なかったはずなのに。
 彼の指と指の間から流れ落ちてくる一筋の鮮血を見て、私は一気に後悔の念に駆られた。

 ――嘘、鼻血が出るほど強く殴った覚えはないのに

「そ、その程度で文句言うなー! いいじゃん、どうせ病院行くんだからついでに診てもらえばそれでいいじゃん」

 動揺が表に出ないように繕いながらも、平然とした面持ちで言ってのける。

「それに、遅れてきたアンタが悪いんじゃない。そうされて当然のことをしたまでよ」

 最後に止めとばかりに嗤ってやった。
 仮に私に非があったとしてもなかったとしても、これを友達にしようものなら、それは明らかに絶縁ものだろう。

 だというのに、彼はそれで納得がいったらしく。

「はいはい分かった分かった、遅れてきた俺が悪ぅーございました」

 先ほどまでの激昂が嘘のように、何の執着も感じさせない屈託ない笑みで返してきていた。

「詫びたんだから許せよな?」

 ――撤回、やっぱり怒ってる。目が怖いんだけど

「あぁ、鼻血のことは気にすんな、さすがに医者に診せるほどのものじゃないしよ。こんなところで駄弁ってても仕方がないからさっさと行くぞ」

 彼は私の返事も聞かずに、口を挟ませる気もなかったらしく、私から距離を置くように歩いていってしまう。
 私はそれを慌てて追った。

3年前 No.7

推古 @iwing ★txAmEMOULw_cwj

「別に……」

 当人に直接関係のある問題のはずだが歯牙にも掛けない。
 本人が気にしていないのだから仕様がなく、拍子抜けするように両肩を竦める。
 もしかしたら何も考えていないのだろうか?
 しかしそれを指摘する以前の問題として、当事者に自覚がない現時点で俎上に載せるわけにはいかなくなる。

「いいでしょう、この件は次回に繰り越しということにして差し上げます」
「あぁ……そうしてくれると助かる」
「それではいつものようにアナタの自由にしてもらっても構いません」
「うん」

 前回と似たり寄ったりの、素っ気ない返事を寄越してくる。
 いつもと相変わらずの態度だったため特に気にする素振りも見せず、対話を強制的に切り上げた。
 本来なら、出来ることならば白か黒かをハッキリとさせたかったのだが、これ以上追求するとしても先程の無味乾燥な言葉が返ってくるだろうことは分かっていた。
 それならば、今は経過を見守るしか手段はなく。それでも、その時になって事が顕在化した暁には手厳しく糾弾するつもりでいた。

「何か……良くないことでも考えてはないだろうな? 私は別に構わないが……」
「確かに、でも私はただ個人的な見地から思索したに過ぎませんのよ? それをどう思うかはあなたの勝手ではなくって?」
「……」

 クスリと意味深な微笑を投げ掛けてみたのだが、それでも問題にしていないようで、気にしているような気配さえ見せない。
 鈍感なのか肝が据わっているのか時々分からなくなる時がある。
 こちらが提供する話題に、相手が興味を示したり反応をすれば、まだ弄りがいがあるというものだが、いかんせんそれをこの先方様に求めるのは酷というものだ。
 付き合いが長いとはいえ、まだまだ解らないことの方が多い。この手合いが相手ならばあの娘の方がもっと上手に扱えられると思った。

「……確かに、違いない」

 暫くの間、相手の言葉の意味を吟味した後に答える。
 その時の表情が、冗談抜きに真剣そのものだったからなのだろう、思わず吹いてしまった。
 が、それが相手にとって間違いなく意にそぐわない反応であったはずなのだが、何故だろうそれでも意に介する様子を見せなかった。
 こちらの方を見遣って、首を僅かに傾げるだけで終ってしまったのだ。

3年前 No.8

推古 @iwing ★txAmEMOULw_cwj

優しさは猛毒。甘い言葉に、身体と心は溶かされ、最後には、私という存在が消えてしまう

――お願いだから。楔のように尖った言葉で、私の心臓を打ち込んで欲しい。必要なのは快さよりも、痛みだ。

鉄のように冷たい、楔の言葉で、私を、夢見がちの状態から醒まして下さい。熱く火照った心の中に、それとは真逆の冷たい楔を打ち付けられるまで、私の夢想は続く。

やはり、私は現実の中でしか生きられないようだ。――幻想とは水中のようなものだ。潜っている内は平静を保つことができる、しかし、いつまでもそこに居続けることはできない。地上で息をする必要があるからだ。地上とは言うまでもなく現実のことである。――もしかすれば、私は幻想とは縁遠い人間なのかもしれない。

現実を生きることは限りなく辛い。人は運命の奴隷のようなものだ。生き続ける限り、リアルに翻弄され続ける。

けれども、私は茨の道を選ぶ。生きている実感を得たいために、快さよりも痛みを選ぶ。

苦痛――痛みこそがただ唯一の本物――が伴う現実の世界を生きていたい。その方が、幻想の中に埋没し、そこで仮初の安楽を得るよりもずっといい。

3年前 No.9

推古 @iwing ★txAmEMOULw_cwj

理想や幻想に埋没した結末が溺死なら、現実の責め苦に身を委ねれば、恐らく、待っているものは自滅だろう。

矛盾しているのは自分自身か、それとも世界の方か。もし世界が間違っているなら、私たち人間は、さぞかし生き難いに違いない。

理想と現実の乖離。例えば、幸福を望めば望むほど、人間は理想から遠ざかってしまう。

幻想と現実の乖離。例えば、望みを掛ければ掛けるほど、人間は現実という名の大海に溺れてしまう。

現実を苦もなく生きるために、私たち人間が為しえることは、世界と妥協することかもしれない。人間が成長する道理とはそういうことだろう。もちろん、事と次第によるが。それは私たちの与り知れないところで行われているはずだ。つまり、意識せずしてそれを、私たちが実行しているのだ。

理想と現実、または、幻想と現実、そのどちらにも偏ることなく、調和を以て中庸を成す。これこそが、この生き難い世を生き抜くヒントであるはずだ。

多ければ、私は煩わしく感じるし、少なければ侘しさを覚える。

多過ぎず、少な過ぎず。どうすればそれらの中間を得ることができるのか? 多分、凡人が解決できないような問題かもしれない。

そこで、

――過多か過小か、どちらか一方を妥協し、双方の一致点を見出す。

これを、仮に一つの解決法としよう。

片方を諦めるのではなく、大か小か、どちらに重きを置けば良いかを考える。双方をバランス好く保てるように、よく考えるのだ。

3年前 No.10

推古 @iwing ★txAmEMOULw_cwj

『自分』というものがなければ、大抵の人は、周りに流されて、振り回される。

理想が高ければ高過ぎるほど、現実から遠ざかり、世界から取り残されてしまう。そして、幻想が強過ぎれば強過ぎるほど、現実を見た時に、あまりのギャップに幻滅してしまう。

そこで、世界と折り合いをつけるために妥協するが、それは『自分』を殺すことに等しい。何故ならば世界は非情だ。こちらに融通を利かすことなく、無情にもあなたに現実を突き付けてくる。故に、あなたは否応無く、世界に順応することを強いられる。つまり、周囲に流されて、振り回されるのだ。事と次第によるが、『自分』がないと、とかくそういう状況に陥り易い。

もちろん、例外はあるだろう。一例として挙げれば、いわゆる『自分』のない、運命の奴隷に選択枠など与えられないが、現実から逃避すればいくらでも責任を逃れられる。しかし、逃げ続けて、たとえその場をやり過ごせたとしても、後々になってツケを払わなければいけなくなるのはその人自身だ。あまつさえ、直接の繋がりがあるか、もしくは、ないにしても、逃げた張本人のみならず、他人にツケが回ることもある。そういう人は決まって意志の弱い人間だ。

以上に述べた、無情な世界と無責任な放蕩者によって、運命の奴隷は常に苦痛を強いられている。

だからこそ、彼ら彼女らは、確固たる『自分』を持って敵たちと戦う必要があるのだ。

3年前 No.11

推古☆IRdDPoYGscBs ★08FpFOVYGK_scx

(世界観を創った)創造主の記憶を記した書物を納めていたとされる地下書庫。通称"原初の穴倉"。
 此処に書物を書き記した作家が眠り書物は須く消失している。ただ一人の修道女が居てこの穴倉の主に祈りを捧げている。
 少女は篤く祈りを捧げる、心を閉ざして誰も信じず、ただ一人だけを絶対の神だと信じて。

3年前 No.12

推古☆IRdDPoYGscBs ★08FpFOVYGK_scx

  /2015年04月09日(木)

 実を言うと雨は好きだ。
 今日は、バケツをひっくり返したような、豪雨だった。
 絵の具を塗りたくったような、赤い傘を私は広げていた。
 ダダダダダ、と雨粒の釣瓶打ち。激しい雨音が耳を打つ。
 空気が軽い。雨が街中を侵していた汚染ガスを洗い流していた。霞がかっていたけれど景色が澄んで見えていた。

3年前 No.13

推古☆IRdDPoYGscBs ★08FpFOVYGK_scx

  /同上

 消えない落書き。
 心に残ったあの頃の思い出を私は追想する。
 水平線に沈む夕陽を眺めながら何時間後の暗夜を想う。
 子どもたちが家路に就く、長い影法師を引き連れて。
 今を以てなお消えることがない君たちとの思い出がそこにはあった。
 忘れ物がないようにしっかり手を繋ぎ、ただ思い出だけを其処に残していった。
 言葉と言葉で紡ぐ僕たちだけの異空間(ワンダーランド)。それは僕や君にとっての遊び場だった。
 喧嘩をしてまた仲直りをして、だからそれは平坦で淡白なものだったわけではなかった。嘲り、時にはふざけ合ったりして過ごしたりもしていた。
 あぁ。其処が僕と君の唯一の居場所なんだと思う。此処にいて良かった。君たちと出会えて、私は良かったと思う。

3年前 No.14

推古☆IRdDPoYGscBs ★08FpFOVYGK_scx

  /2015年04月11日(土)

 創作の心得。
 心から出たものだけが真実。
 見た事や聞いた事を反映させて、自らの裡から出たものだけが真実。
 見るのではなくて視る。聞くのではなくて聴く。
 そうした上で周囲にある事象を受け容れられるなら、次に己に問いかけてみる。
 林檎を視て赤いと思ったなら何故それは赤いのだろうかと訊く。
 鳥の囀りを聞いて心地良いと思ったなら、何故それを心地よいものだと思うのかを問うてみる。
 そうして出た答えは己のものであり何物にも変えがたいアイデンティティであるはずで、その答えが正しいか間違っているかは、この時点で問題ではない。
 それを評価するのは自分ではない他人。創作は哲学ではないから必ず周囲に理解を求める。だから必要なのは共感。
 だが、間違ってはいけないのが、決して媚びてはならないということ。
 何故なら創作は他人に共感を得る必然がありつつも、先ず第一に自分のために行わなければいけないものだからだ。

3年前 No.15

推古☆IRdDPoYGscBs ★08FpFOVYGK_scx

  /2015年04月12(日)

 孤独を謳う一匹の狼。月下に映える砂漠で何を思う。
 全てを失い、全てを無くした憐れな狼はこの世界に希望を見出すか、それとも絶望に堕ちていくだろうか。
 狼は異物として世界に彷徨い込んで来たが、この世界から拒絶されることもなければ、同時に受け容れられることもない。
 異物であるが故に、世界との繋がりが狼には無い。他者の助力は望むべくもなく、狼は自らの力でこの世界を生きていかなければいけない。
 狼は常に孤独だった。全てを失い全てを無くした憐れな狼は、誰からも理解されることがない。次第に狼も他者に理解を求めようは思わなくなった。
「私とあなたは違う」。それに気付いたのは一体いつだったのか。結果として狼は世界に希望を見出すこともなければ、絶望に堕ちることもなかった。
 話は単純で、世界に関心を持たなければ希望も絶望もありはしなかったのだ。当然その心が外側へ向かうことはなく、畢竟狼は心を閉ざしていった。

3年前 No.16

推古☆IRdDPoYGscBs ★08FpFOVYGK_scx

  /2015年04月14日(火)

 否定し、否定される惰性。上辺だけの見栄を振りかざす暴力。張りぼての虚像に目眩すら覚える。
 人の足元ばかりを見ていないで。言葉尻を捉えて何になる。本当に言いたい事は口に出して言えることではない。
 頭ごなしに否定するだけなら稚児でもできる。否定は停滞。否定している限り、前へ進むことは叶うべくもない。
 人との違いを認めた上で肯定するのが大人の流儀。だが誰しも相手を否定する。間違いを批判する。正しくあろうと強要する。強制する。独り善がりの正義を押し付けようとする。人との違いを認めないで何が正義か。
 できないのではなく、しないだけ。本来なら誰もが他人を許容できる器を持っていたはずだ。問題は相手を認める余裕がないだけ。自分の事で精一杯だから、他人を受け容れようとする気持ちへシフトできない。そういう心持ちでは視野を狭めてしまう。
 自分の殻に閉じ篭ってしまっては、見える世界が自分本位になる。それでも相手のことを肯定することはできるはずだ。自分以外の誰かを認めようとする気持ちが欠片でもあれば、他人を理解することができる。分かり合うことができないのは、認めようとしないだけだ。

3年前 No.17

推古☆IRdDPoYGscBs ★08FpFOVYGK_scx

  /2015年04月17日(金)

 本当に大事なことは誰も教えてくれない。
 自分にとって大事なことは自分自身で気付かないといけない。
 十人十色。人によって大事なことが違う。
 その人が抱えている問題はその人自身にしか解けられない。第三者が相手の問題に手を差し伸べ、その問題を解決に導くことは極希である。けれども助言やアドバイスを送って解決の手助けになることならできる。大事なこととはその人が抱えている問題、そして、解決しなければいけない問題とどう向き合うか。例えばその人が抱えている自己嫌悪や劣等感とどうやって付き合っていくかが、ここで言う大事なことである。
 表裏一体。この言葉があるように、表と裏とは切っても切り離させられない。
 人にも表と裏とがある。例えば、誰もがプラスやマイナス面を持っており、それらを同時に抱えている。
 けれども人はマイナス面だけを捨てようとする。あるいは他人事のように見えない振りをする、同じ言葉で言い換えれば、自分自身の問題であるはずなのに意識しないように努める。
 意識しないでおけば一時の安楽を手に入れられるだろう。
 マイナス面を抱えていれば生き辛い。対人関係が冷え込んでしまうこともある。できることなら自分から切り離したいと考えるのが普通だ。
 しかし、切っ掛けさえあれば意識下に無かったものが、サーチライトで照らされるみたいに、突然パッと現れてくる。意識していなくても、また心の奥底にある暗い部分に押し込んでいさえしても、在るものは無くすことができない。
 その人自身が此処に在る限り、この抑圧された負の面を無くすことができない。なら、自分から切り離そうとするのではなく、他人事のように見えない振りをするのでもなく、やはり自分自身の問題であるはずなのに意識しないように努めるのでもなくて、自分自身の問題とキチンと向き合い、いかに上手く付き合っていくかが大事なのである。

3年前 No.18

推古☆IRdDPoYGscBs ★08FpFOVYGK_scx

  /2015年04月18日(土)

 記録がある。森羅万象を内包させた記しが。
 異世界・平行世界のありとあらゆる事象を総括するそれは、一人の書き手が作り上げたもの。
 書き手は、過去にあった事象を書物に書き写し、また、現実に生み出されようとする事象を記録として書き残し、それらを永遠に失われることのないようにした。それらは全て、地下書庫『"原初の穴倉"』に納められている。
 書棚が連なる、ランプで照らされた仄暗い空洞――通称"原初の穴倉"――には、ありとあらゆる世界観を創った創造主の記憶、それら全てが記してある書物が眠っている。誰一人として訪れることのない異界だった。そこに納められている書物は誰の手に触れることはなく、ただ一人の人間の手によって守られている。
 黒衣を纏った少女――この穴倉の守主は穴倉に納められている書物、その全てを管理している。そしてこの場所に永眠する書き手のために祈りを捧げる。心を閉ざして誰も信じず、ただ一人だけを絶対の神だと信じて。その在り様はどこか修道女に似ていた。

3年前 No.19

推古☆IRdDPoYGscBs ★08FpFOVYGK_scx

  /2015年04月25日(土)

叶えられない願いがある。届かない思いがある。実現できない希がある。到達できない目標がある。諦め切れない執念がある。負けたくない強さがある。決して折れることのない強い心がある。何ごとにも屈することのない強い意志がある。熱い血潮を滾らせ。弱気を吐きそうになる心に鞭打って。後ろを振り返ることはなく、ただただ前だけを見据えて。願いが実現できるように。思いを伝えられるように。希が形になるまで。目標に近付くため。断じて諦めてはならない。一度でも諦めてしまえば、折れた心には折れ目が付いてしまう。挫折とは心に傷を抱えること。傷を負うと、心はもちろん体まで病んでしまう。病んだ体ではまともに動くことができないし、前へ進むこともできやしない。痛んだ心を治す薬。病んだ体を癒す方法。それらは求めても得られないもの。得られないならば自らの手で補うしかない。自らの芯を見つける。自らを支える柱を探す。頼れる友を求めるのも一つの手段だし、小説や映画、又は音楽からヒントを得るのも手段の一つとして考えられる。その他に、著名な人物に心の中で師事をして、その思想を自分と重ね合わせてみるか。

2年前 No.20

推古 @iwing ★08FpFOVYGK_u6T

「……百螺さん……」

 來安は、百螺に向けてかける言葉が見つからず、しかし何か言葉を発しようと思い立ち、戸惑いがちに彼の名を呼ぶ。相手に対して負い目があった。しかし、百螺は、そんな來安を叱るでもなく、励ますでもなく

2年前 No.21

推古 @iwing ★08FpFOVYGK_u6T

 ↑誤投稿orz

 そして励ますでもなく、ただただ穏やかに語り掛ける。どうやら彼女自身の自由意志に賭けたようであった。そして、これが最後のチャンスと言わんばかりに、自らの意志で堕ちていこうとする彼女に告げた。來安は、その時になって漸く理解した。目の前の現実から目を逸らし、逃げているだけなのだと。

2年前 No.22

推古 @iwing ★08FpFOVYGK_u6T

 諦めるか、再び立ち上がるか。來安は自らに問い掛けようと試みたが、それでも己の心の裡を知ることはできなかった。湖底に沈んだ澱を掬い上げるのとは勝手が違う。彼女は、無意識下にあるものを、意識の表面に乗せる方法を知らなかった。ただし、ハッキリしていることがあるとすれば、それは漆蓮に対する思慕であろうか。來安は、彼女が望むべくして望むのであれば、できうる限りそれを叶えさせてあげたいと願っていた。どんなに非道なことだと自覚していても実現させてあげようと思っていた。しかし、來安にはそれ以上のことを考えることができなかったのだ。

2年前 No.23

推古 @iwing ★08FpFOVYGK_u6T

 それはある意味で正しいかもしれない。しかし、彼女には、薊が指摘した通り、それを実行しうるだけの度量がないのだ。そして、誰かの想いを叶えさせることができなければ、どうしてその人の想いを背負うことができようか。また、これも薊が指摘したことだが、彼女では世界を変えることができないし、自分自身でさえ変革させることができないのだが、來安自身もそれを正しいことだと思っていた。「悔いなんて起るはずがないわ……。あれらは全部、身勝手な私が夢想した産物なのよね。私は、それで両親や漆蓮の名誉を傷付けることになるとしても、自分自身を納得させたかったし安心したかったから、あんな世迷言を並べ立ててしまった。もし悔いることがあるとすれば、それはあんな愚考に至った自分自身に対してのみなのよ……」

2年前 No.24

推古 @iwing ★08FpFOVYGK_u6T

「何にもなれやしない……、私はだって、本来そういう性質のものだから。人でもなければアヤカシでもない、それが私の正体なのよね。撫子の言ったことは全て正しいのよ。私は誇大妄想に陥って、出来もしない事をさも出来るかのように嘯く。しかもそれが間違っていると分かっていながら、ね。当然、自分だけのことしか考えられない身勝手な私には、皆の想いを背負うことができないばかりか、漆蓮の命をこの手で終らせる覚悟もない。だから、あれは全部、私の妄言。空っぽの自分に意味を与えたくて、そして、弱い自分を少しでも強く見せたくて、でまかせに口に出したものに過ぎなかったのよ」

2年前 No.25

推古 @iwing ★08FpFOVYGK_u6T

 表情には僅かに口元を綻ばせてはいたものの、瞳は不安で揺れ動いていた。何を隠そう、この対面がお互いにとっての最後となる。それを自覚しているからこそ、悲痛な想いが湧き上がってきたのだ。それを掻き消すために、來安は、百螺の左手を掴み取ると、そっと両の手で包み込んだ。それを指で触れ、落ち着きなく弄びながら、消えて欲しくないという想いで彼を見上げる。だが、それが叶うはずもないことは彼女も承知なのであった。來安は、片手で彼の手を掴んだまま離そうとはせず、彼の懐へ一歩分、歩み寄り、自身の体を預けるようにして空いた片方の手で彼の体に触れた。両目を閉じ、その感触に浸る。そうして、亡くしてはいけないものをずっと留められるのだと信じながら、さながら神仏に対する礼拝のように――百螺に絶対的な信頼を寄せていたから――ただ直向に彼の存在を感じていた。

2年前 No.26

推古 @iwing ★08FpFOVYGK_u6T

 天空広場へ上がり、來安は真っ先に、百螺の元へ駆け寄っていた。両眼を涙で腫れさせながら。そして、今にも泣き出してしまいそうなのを何とかして留めつつ、百螺に心配を掛けさせまいとして僅かに口元を綻ばせる。來安は、百螺が今直ぐにでも消滅してしまうだろうということを承知していた。その事実は何より彼女を悲しませるものだったに違いないが、それでも彼女には、彼に何かをしてあげられる方策がなかったのだ。それでも、彼に傍にいて欲しくて。ただそれだけが、心の裡にあって。でも、彼女にはそれだけで十分なのであった。來安は、百螺が消滅するその瞬間まで傍にい続けようと思った。

2年前 No.27

推古 @iwing ★08FpFOVYGK_u6T

「私は、いつだって自分勝手で自己中心的な人間なのよ。当然、身勝手で、ほかの人の事を顧みないんだから、仮に他人の想いや願いを背負えるんだとしても、私はきっと、その重みに耐え切れないでしょうね。口先では強そうな事を言っても、実態としてはそうなのよ。だから、撫子の言っている事は正しいわ。私はただ、安心したいだけ。弱いままでは嫌だから、分不相応な事を言ってみて、たとえそれが虚構のモノだとしてもそれで当座の不安は拭い去れるのだし、もしそれで両親や漆蓮の名誉を傷付けるのだとしても、身勝手で自己中心的な私には必要なことなの。我が侭で、他の人間を陥れなければ強くなれない私にはね」

2年前 No.28

推古 @iwing ★zme9TvaGqL_kyb

献身的な支えが功を奏したようだ。
心に掛かった深い靄が晴れ、彼女は再び生きる希望を得た。
信頼が親愛へと移り変わって、やがてそれが情愛へと変ずるのも、もはや時間の問題。
二人は結ばれた。そうなるのが運命だった。
二つの命が一つになり生命の息吹きが芽生える。

産声が院内に響く...
産後の疲労から面窶れてはいたものの母親の容態は至って安定しているといえよう。大事を成し遂げ、無事に双子の赤子を出産した。
母――來安――は、医師らの腕の中で大事そうに抱え込まれた二人、その顔をそれぞれ見遣ると、ホッとしたように表情が緩んだ。
この世に産まれ出でてくれたことに対する感謝。そして、これからの未来を背負うことになる、いや未来を託せられる可能性に満ちた子らに対する安堵感とで胸が溢れそうになる。
來安は女の子の方を...「希」。そして男の子の方を...「主計」と呼んだ。これは予め、彼女の夫となる人と相談して決めていたことだった。

それから幾年か経ち...
人間とアヤカシの共生を願う父親と母親の願いを受け継いだ可能性の申し子たち。
長女・安倍希と長兄・安倍主計は、二人の両親――主税と來安――の愛情に恵まれて立派な少女と少年に育った。
たとい願いが途切れたとしてもそれを受け継ぐ者がいる。そうしてサーガは続ていく...どこまでも...どこまでも

2年前 No.29

推古 @iwing ★zme9TvaGqL_kyb

 良くも悪くも世界は変わりつつある。そして、死闘を潜り抜け、また、自らの命を犠牲にしてまでも戦士たちを決闘の地へと送り込んだ凰華にも変化がおとずれていた。
 全ての霊力を失い、生死の境を彷徨っていたところを一人の陰陽師に救われた。凰華は、"千年京事変"への貢献から過去の過ちを許され再び安倍家の陰陽師として復帰していたのだった。陰陽省基安倍家との確執を完全に払拭できたわけではないものの、メガネだったのをコンタクトに替え和装から洋装に改めたことから察するに、影の輩に属していた頃とは打って変わって現代の生活を謳歌しているようだ。
 そして、現在。先の大戦による知名度の高さから、また人間とアヤカシとの未来を考える時代の潮流もあり、凰華を陰陽省のスポークスマンに据えようとする、「人間とアヤカシの共存」に好意的な意見を持つ省の一派による、自分達の勢力へ引き入れんと欲する数々の計略を掻い潜り、彼女は今、京都府中にある、とある山中の古い屋敷を訪れていた。そこは彼女自身の運命を決定付けた場所であった。
 己の運命と決別を付けるために、凰華は屋敷に火を投じた。轟々と燃え盛る建物を前にしてその全てが灰に帰する時まで見守った。真っ赤な炎がかつての思い出と一緒にかつて拠所としていた場所を消し去っていく。居た堪れなくなって最期を看取ることなく去ってしまった。

2年前 No.30

推古 @iwing ★1hguPJXUDx_NBk

 交喙は気が付けば知らない場所にいた。
 ビルとビルの間に挟まれた侘しい路地だった。人の気配はなく、まるで人間から忘れ去られてしまったかのようだ。
 日が沈み、辺りが静寂に満たされている。ビルの壁に凭れ掛かり、こうしてじっとしていると、まるで自分が世界と溶け合ったかのような気持ちに陥るのだが、今はもう内なる声が聞こえないせいか平穏を保てている。本来なら来た道を戻り、來安たちと合流を果たさなければいけないはずなのだが、交喙は反対側の方向へ歩き出していた。

―――――……

 交喙が地下坑道を通り抜け、開けた場所に出ると、そこに探していた人物が待ち構えていたのを目にした。
 静かな佇まいで交喙を迎える一人の麗人。漆黒のドレスに純白のエプロン、頭上には白のカチューシャが飾られていた。そのメイド姿は二年前の『千年京事変』の時と変わらない。その人物は『千年京事変』の折に、咎女や翡翠、そして芦屋漆蓮とはまた別の思惑で暗躍していたのだ。交喙と非常によく似た相貌を利用して咎女陣営に深く入り込み、大戦の行方を傍観していたのである。

「もう一人の私。アナタがあの神父を操っていたことは分かっています。そして、私の意識を操ってあのような非道な行いをさせたことも。二年前は芦屋漆蓮の企みにより有耶無耶にはなってしまいましたが、アナタとはいずれ決着をつけなければいけないと思ってました。今でもその気持ちに変わりはありません」

 純黒の麗人はそれを聞き、交喙の決意などどこ吹く風と言わんばかりに嗤った。
「本当にそうなのかしら。本当にそれがアナタの望んでいることなのかしら、アハハハハハ」
 笑い声が部屋中に響き渡る。室内が暗過ぎて部屋の広さや天井の奥行きが判然としていなかったのだが、あれだけ声の反響するのを察するにこの部屋が存外に広い場所であることが分かる。しかし、室内が暗くてもなお、部屋の中央に立つ純黒の麗人の姿だけはハッキリと目に映っているのだった。

「アナタは間違っていた。そして、そんなアナタに創り出された私自身も。だから全てを終わらせてしまいましょう」
 冷たい光沢を放つサーベルを己の錬金術により精製する。それを見ても麗人は落ち着いた態度で――それこそ本当に、主人に仕える気品を備えた召使いのような振る舞いで――交喙の一挙手一投足を観察していた。
「交喙、それは子供の屁理屈よ。アナタは本当に肝心なことに気が付いていない。いや、それから目を逸らしていると言った方が好かったかしら」
「これは屁理屈などではあり得ません。私はアナタのことは理解できているつもりでしたが。何故ならアナタは私と同じく創られた側の存在。なれば私自身の手で終わらせるのが道理のはず。これは私たちの問題なのですから」

 交喙はカイロの市街地での一件で、自暴自棄になっていて冷静さを欠いている。もう一人の交喙はそこに付け入る隙があると見てほくそ笑んでいたのだった。今の今まで交喙の反応をどこか楽しんでいる風だった純黒の麗人だったが、ここから彼女は反攻の態度をとり始めた。

1年前 No.31

推古 @iwing ★1hguPJXUDx_NBk

 真っ暗な室内の中で、ただ一人だけが、舞台上の役者にスポットライトが当てられたかのように、映えていた。ただ、一般的な舞台と違うのは、ここにはただの一人も観客がいないという事実のみ。
 純黒の麗人は交喙と瓜二つの容貌をしていながら、どこかその気質だけが相違していた。二人とも底が見えないのには変わりないのだが、もう一人の交喙の場合は違っていた。彼女には交喙と違って喜怒哀楽の感情を有するのである。
 交喙はこれから対決を果たそうとする相手に対して己の決意を述べた。

「イスリート、それは子供の屁理屈よ。アナタは本当に肝心なことに気が付いていない。いや、それから目を逸らしていると言った方が好かったかしら」
「これは屁理屈などではあり得ません。私はアナタのことは理解できているつもりでしたが。何故ならアナタは私と同じく創られた側の存在。なればこそ私自身の手で終わらせるのが道理のはず。これは私たちの問題なのですから」

1年前 No.32

推古 @iwing ★X0DdMsaLuN_Gxb

 一同はスラム街へと足を踏み入れた。
 赤煉瓦造りのアパートが軒を連ねていた。建物はどれも退廃し切っていて、実際に建物が崩れ落ち死人まで出ているという有り様だ。この一区ではそう珍しい事象ではないらしい。そして、今でも崩落の時を刻一刻と刻みつつある。
 ここ一帯は違法建築が横行しており――もちろん政府はこれを厳しく取り締まっている――二階以上の建物が建て増しされる等といったような事案が増えていた。建築基準を満たさない法外なそれはとても脆弱で、地震が起きたわけでもないのに独りでに崩れ落ちてしまうという。瓦礫の犠牲になった住民の数は枚挙に暇がない。
 かてて加えて、この街には衛生面における問題をも抱え込んでいたのである。街中の至る所にゴミ袋が散乱し、そこから強い異臭を漂わせていた。問題は異臭だけに留まらず、ゴミ目当てに寄ってきた害虫や害獣が繁殖し、それらが人々に疫病をもたらしてもいた。

 この街には、古都京都に及ばずとも、霊気が満ち満ちていた。來安と交喙がこの場所を訪れたのには理由がある。エジプトに着いた二人が、來安の姉の行方を捜していると、彼女がとある事件に首を突っ込んでおり、エジプトで起きている神隠しの真相を追っているという情報を手に入れた。エジプトでは、例の『千年京事変』後、アヤカシらが姿を眩ますという事象が相次いで発生していていた。といっても、殆どのアヤカシがこの一件に対して危機感を覚えていないのが現状で、その多くが、閉ざされた異界に存在する『影の京都』へ隠遁したという見解だった。
 この一件については、現地のアヤカシらと同じく、來安たちも同じ意見を持っているのだが、実姉――來夢――の足取りを追う手掛かりが見つからないままであったため、エジプトで起きているとされている神隠しの事件を調べることで、自ずと來夢の行動も見えてくるだろうという希望的観測の元、行動していたのだ。來安がこの土地に並々ならぬ霊気を感じ取ったため、当座はこの街の事を調べることに決めていた。
 來安は当初、この土地に、キリスト教会やモスク(イスラム教の礼拝堂)、もしくはそれに準ずる宗教施設があるものと推測していた。しかし、そこには古びた煉瓦造りの建築物があるのみであった。ただ、この建物を中心に強い霊気が発生しているのは事実だ。小さな建物であったが、教会や礼拝堂のような趣は感じられない。いたって普通の民家のようだ。家人が留守をしているのか、中に人の気配は感じられない。

 もしアヤカシが拐かされて一箇所に集められたとするならば、その場所の霊気の密度が高くなるはずであった。
 例外として一つ挙げるとすれば、人々の信仰が一手に集まる教会やモスクといったものが考えられる。彼ら人間の持つ尊敬、畏敬といったイメージが、対象に霊的なエネルギーとして神性を付与させるのだが、つまり、より多くの人に崇め奉られるほど神性が高くなるのであり、それだけ霊力も高められるのである。教会やモスクはそんな霊的エネルギーを集めるのには最適の場所とも言える。
 だが、どうやらこの家に関してはどちらも当て嵌まらないようだった。一体この家の何が惹きつけられるというのだろうか。思えばこの家の周辺にだけ人気が消えてしまっている。今の今まで鼻を劈くような悪臭を放ってきていたゴミの数々もどうやら、この建物の周辺には打ち捨てられていないみたいだ。
 何かがおかしい。陰陽師としての勘が為せる業か。既に異変には気付いているはずなのに、未だにその正体を掴めないでいた。まるで雲を掴むみたいに影も形もないものと闘っているような気分に陥っていた。

「來安様、どうやら当てが外れたみたいですね。來夢様から連絡が取れない以上、闇雲に探し回らなければいけないのは承知しているのですが」
 交喙の言うように、來夢がロシアを発って以来、彼女からの音信が途絶えたままであった。そのことを來安は今でも気に病んでいる。ロシアにいるレナータが何度か試みてみたものの未だに連絡が取れないままだ。昴もこれには面を食らっているようで、現地に滞在しているアヤカシの同胞に頼んで二人の行方を捜させている。來安たちは、アヤカシからの目撃情報、そして來夢らがエジプトで何をしているかについての話を詳しく聞きながら彼女達の行方を独自に探っていたのだった。
「こうなっては埒が明きません。私の知り合いに一人、頼りになれる者がいますが。彼女に頼んで來夢様の居場所を教えてもらいましょう」
 來安が聞くところによると、その人物とは交喙が欧州へ渡る前に過した村落で魔術を習い、また寝食を共にした仲であるという。とある理由で村落が崩壊し村人たちが散り散りなる中、二人もまた袂を分かつかのように別々の道を歩むことになってしまったのだ。それ以来、交喙は彼女とは一度も顔を合わせていないという。とても気まずい別れ方だったというが、詳しいことまで聞くのは憚った。
 その者の名をエンドラといい、かの高名な降霊術師【エンドルの魔女】に因んで名乗ったのだそうだ。彼女もまた降霊術を得手とするシャーマンだ。神霊や悪鬼の類を現世に招き入れる、降霊術は人々に智慧と知性を齎してくれるが、反面、破壊と破滅さえ産み出すこともある。多くは、霊的な存在に対して助言を求めたり、知識を請うために使うものだ。"あちら側"の世界には人間やアヤカシが計り知れないような深遠なる『慧』があるとされている。
 エンドラの居場所は容易に知ることができた。レナータの組織はエジプト方面とネットワークに繋がっており、現地にいるアヤカシに協力を仰いでエンドラと名乗るシャーマンの女性の行方を捜してもらっていたのだった。

9ヶ月前 No.33

推古 @iwing ★X0DdMsaLuN_Gxb

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9ヶ月前 No.34

推古 @iwing ★X0DdMsaLuN_Gxb

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9ヶ月前 No.35

推古 @iwing ★X0DdMsaLuN_Gxb

 夢を見ていた。
 遠い過去の記憶の断片であったにも関わらず、まるで昨日のことのように思えた。
 外部から遮断された無菌室が唯一、私に与えられた居場所だった。外に出られない代わりに何一つ不自由のない生活が保障される。求めるがままに与えられて、それでも私の心が満たされることはなかった。欲しい。欲しい。欲しい。この世のありとあらゆるものを我が手中に収められたのならどんなによかったことだろう。あぁ。あの人が憎い。彼女は私に無いものを持っている。私が求めようとしても得られないものを沢山持っている。

 だから、ね。

 奪ったの。

 彼女から色んなものを、この手で。

9ヶ月前 No.36

推古 @iwing ★X0DdMsaLuN_Gxb

 それは音もなく現れた。
 人々が普段の日常を謳歌している只中に異形の者共が姿を見せたのだ。
 エジプトの繁華街は休日のため、現地の人間や観光客でごった返しになっている。それにも関わらず、誰一人として奴等が何処からやってきたのかを見た者はいない。奴等はほぼ同一のタイミングで市街に出現して繁華街を侵食し始めた。
 それを初めに発見した者が誰なのかは言うには及ばず、繁華街は一気に騒乱の渦中と相成る。
 奴等は基本的に人型で白濁色の肌をしている。しかし、胴体が異様に膨らんでいたり、手足が異様に伸びていたりと、それらが明らかに異質な存在であることは誰が見ても明らかであった。
 奴等が繁華街に発生してから、人々を手当たり次第に"呑み込んで"いくのにはそう時間が掛からなかった。人々の阿鼻叫喚が響き渡る。それを悉く無視して、彼ら彼女らの慈悲を乞う声や他の誰かに助けを喚ぶ声などを、まるで意に介していないかのように襲い掛かっていた。
 人間の中にも勿論、奴等に反撃を試みる者らはいた。しかし、刃物で手足を切断しようが銃弾で身体に風穴を開けようが瞬く間に、負傷した部分や部位が自己再生していくのである。傷を負わず、果てには死さえも克服してしまう。とことん常識が通用しないバケモノなのだ。
 では、俗識が通用しないのならばそれにも勝るイレギュラーで対抗すればいい。
 今まさに、一人の少女が無謀にも奴等の一人に対して、反撃の一手を加えようとしていた。少女の手にはサバイバルナイフが握られており、それが異形の者の腹部を切り裂いたのだった。いつもなら瞬時に再生して傷口が塞がるはずだが、しかし、自己再生が為されることはなく、そうであるばかりか傷口から徐々に腐敗していき、最後には肉体が塵となって絶命してしまったのである。その後、三人の異形に取り囲まれるも、少女は獣じみた体術でそれを乗り切り、ほぼ同時に奴等を屠っていった。それでも、異形の者共らはそこら中にごまんといる。少女がいくら奴等に対抗しうる能力を有していたとしても、全員を相手に大立ち回りをしていても切りがないはずだ。だからこそ、奴等を陰で操っていると思われる主を探す必要があった。

 その頃、待ち合わせの喫茶店で來夢と落ち合ったばかりの、來安と交喙の元にも異形の者共が顕現した。致命傷を与えても再び甦ってくる相手に苦戦し、彼女たちは奴等に壁際へと追い込まれていってしまっていた。
「ここは我慢のしどころよ、耐え続けることができるのならばきっと活路は見えてくるはずだわ」
「いけません。來安様。あなたは後ろへ下がっていて下さい。あなたにもしものことがあれば、ボスに申し訳が立たなくなります」
「もう、まどろっこしいのは我慢がならない……ッ!! いっそのこと私の力で全部まとめて吹っ飛ばしちゃわない?」
「來夢様、それでは一般の方々にも被害が出てしまいます。今は來安様の言う通りに、防御に徹するのです。それとお願いですから、あなたも下がっていて下さい」
 その時、異形の者共らが二手に分かれた。間には人一人分が十分に通れる道ができている。その途上に、褐色の肌をした大男が、來安たちの方へ歩み寄ってきていた。キャソックを身に纏った神父風の男である。その表情は穏やかに微笑んでみせているが、この状況には似つかわしくなく、やはりどことなく怪しげな雰囲気が漂っている。その手には歪な形をした宝石入れのような箱を携えている。そこから禍々しいほどの霊力が漏れ出ていた。
「人間の生け贄は十分に揃った。後は貴様の心臓を捧げればそれで儀式は完遂する。さあ、観念して私の下に降るのだ、交喙よ」

9ヶ月前 No.37

推古 @iwing ★X0DdMsaLuN_Gxb

「なるほど、やはり狙いは私でしたか」

 交喙は得心を得たようだったが、残された二人にとってはまさにキツネにつままれるような思いであった。來安は特に不安を覚えていた。交喙が二人の助けを請う代わりに男の要求を呑むような気がしたからだった。

「ですが、あなたは何者ですか。その目的は何です。人の身でありながら、人智を超える力を得て何を為そうと言うのです。いえ、いいでしょう。分かりました。この二人を見逃して下さるのならば、あなたの元に降りましょう。ですが、彼女たちには指一本も触れないように」

「駄目です、交喙さん」

 來安は声を張り上げる。予想していた最悪の事態に強い焦りを覚えていた。
 交喙は彼女に一瞥をくれただけで行ってしまったが、視線を交わすその刹那に、來安は交喙の思惑を読み取っていたのだった。交喙には何か考えがある。來安は彼女を信じることにした。

「物分りがいいのは良いことだ」

 神父はそう言って交喙を迎え入れる態度を取った。

「しかし、下手なことは考えるなよ? 忘れていたがこちらには人質がある」

 神父が指で合図を送ると、奥に控えていた異形の者が現れ、自身の体の中に封じていた或る者の姿を露にしたのだ。その少女の姿に、交喙は思わず立ち止まってしまう。彼女以上に動揺を隠せないのが來夢であった。何せ先ほどまで旅を共にしていた友達だったのだから。居ても立っても居られず彼女の名前を叫んでしまう。『アイシャ!!』。その名を聞き、どうやら交喙の疑念は確信へと変わっていったようである。

「やはり、あなただったのですね。アイシャ」

 アイシャは気を失っているらしく、どちらの呼び掛けにも反応しない。

「アイシャ、覚えていますか。私があなたに教えたこと。敵に囚われた者の命まで考慮に入れない、ただその目的を遂行するのみ」

「……!! し……しまった、その女を殺せ!!」

「やめてーー!!」

「交喙さんッ!!」

「油断しましたね、名前も知らない御仁」

 交喙が創り出した剣が一瞬で、神父の宝石箱を一刀両断にしたのだ。すると、街中を蹂躙していた異形の者共の姿が一斉に、塵となって消え失せたのだった。それと共に囚われていた人々が解放された。神父は正気を失ったようにその場に跪く。まるで抜け殻にでもなったかのようである。交喙はそんな男の首に己の得手物を当てるが、彼の首を落とそうとする彼女の手を、駆けつけてきた來安によって阻まれてしまった。そのすぐ隣では、真っ赤に血で染まったアイシャの上半身を、抱きかかえるようにして起き上げる來夢の姿があった。アイシャは胸に大きな穴が開き、更に心臓を潰されており既に息がない。來夢は血で服が汚れてしまうのもおかまなしに彼女を強く抱き締めていた。友達の死に慟哭しているのであった。

「も……申し訳……ありません……」

 交喙も漸く状況を理解したのか、手にしていた剣を引っ込めた。來安は小さく首を横に振ると、今度は泣き続ける來夢の元へ彼女を慰めるために駆け寄って行った。

「どうして……私はこんな非道な真似を……」

(アハハハハハ……最高よ、アナタ)自らの内なる声が聞こえてくる。

 交喙は自らの行いに恐怖し、その声に恐怖し、手にしていた剣を思わず投げ捨ててしまった。それでも両手の震えが治まらない。目の前の現実を認めることができず、その震える手で両目を覆い隠してしまう。しかし、頭の中に響いてくる酷く愉快そうな笑い声から逃れることはできない。そうしている内にその場に留まっておられることもできず、その恐怖から逃れたい一心で駆け出して行った。どこか遠くの方へ逃れさえすれば楽になれるとでも言うように。どこまでも。

9ヶ月前 No.38

推古 @iwing ★X0DdMsaLuN_Gxb

 時間は遡る。


 否応無しに新しい時流の到来を迎えざるを得なくなった。
 全世界に不穏な空気が漂う中、人類は可及的速やかな対応を求められていた。

 大戦が明けて間もない頃、陰陽師たちもまたアヤカシに対する態度のあり様を模索していたのであった。


【芦屋氏所有,秘密の資料庫/ 塚守來安】


 來安は地図を片手に悪戦苦闘した末に、ようやく目的の場所までたどり着くことができた。
 そこは歴代の芦屋氏頭首や漆蓮の父などが集めた、陰陽師やアヤカシに関する膨大な書物が保管された芦屋氏の秘密の資料庫だ。
 彼女が手にしている地図には倉庫の在り処が示されており、同時に彼女の懐中には、半永久的に封じられるはずであった、閉ざされて久しく経つ強固で重厚な扉を施錠するための鍵があった。これらは全て芦屋漆蓮から託されたものだ。彼女からそれらを託された理由を來安は知らない。

 彼女は思索の糸をプツリと断ち切り、今、長らく閉鎖されて空気が重苦しい倉庫内を歩いていた。中は暗く、懐中電灯を手にしての探索だった。細長い一条の光を頼りに、漆蓮が自分に託そうとしている何かを探そうと躍起になっていると、やがて表題が英字で書かれた幾つものノートを見つけるに至る。その他の書物が古い書体で書かれた漢字が目立つなか否応にも目に付いたのである。
 英文を解読するとどうやらそれは日記であるらしいことが分かった。そして驚いたことに、日記の傍らには一冊のアルバム――表題にある英字で判断した――が。來安が驚きと期待で震える手を何とか鎮めつつアルバムを拾い上げ、覚束無い手つきで開くとそこには、彼女自身の両親が幸せそうな笑顔をこちらに向けている数枚の写真が収められていた。ページを捲る毎に違った表情を見せる両親の姿に両瞳を濡らしながらも來安の手は止まらなかった。

 そして、やがて知ることになる驚愕の真実。
 來安がアルバムを見進めていくと、やがて産まれたばかりの來安の姿を写す写真が収められているページにまで至った。しかしそこには別の誰かの姿も確認できるのである。
 それは、両親と死別したった一人だけ残された来安の唯一の家族。アヤカシとしての血を受け継いでしまった不運の赤子がそこには確かに写されていた。名を塚守來夢。來安の双子の姉であり、産後、神隠しに遭い終ぞ表の世界に現れることのなかった。日記には少なくともそう記されてあるだけであった。ただし、來安は確信した。自分には姉がいてしかも彼女はアヤカシとして今世を生きているということに。

9ヶ月前 No.39

推古 @iwing ★X0DdMsaLuN_Gxb

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9ヶ月前 No.40

推古 @iwing ★X0DdMsaLuN_Gxb

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9ヶ月前 No.41

推古 @iwing ★X0DdMsaLuN_Gxb

「レナお義姉様から閨にお誘い頂ける何て、ソフィア感激ですの!!」

 昴ことソフィアが、レナータから直に彼女自身の寝室に呼び出され、嬉々とした様子で扉を開いて中へと入って行く。
 一面が白い大理石張りの床を一歩踏み入れると、この部屋の主が顔を上げてソフィアを出迎えたのだがその頬はどこか上気してほんのりと赤く染まっているようにみえる、というのも片手にはウォッカの入ったグラスがあり、テーブルの上には既にボトルを何本も開けられた状態であったからだ。
 椅子に座ったままソフィアを出迎えたレナータが手招きして、呆れ気味に表情を歪ませる彼女にこっちに来るように促したのも束の間、彼女から、寝酒はいけないと叱責を喰らうがどこ吹く風。椅子が一人分しか用意してなかったのだが、しかし背の高さが頭二つ分低いソフィアを自身の両太腿に座らせ酒を勧めるのであった。


...
......
.........


最初に切り出したのはやはりレナータの方からであった。

「やっぱり今でも後悔してる? 義姉様を日本へ行かせてしまったことに」
「当然ですわ。私は今でも、お義姉様はロシアに留まっておくべきだと思っていますのよ。そうすればみんなが幸せになれましたのに……」
「うん、それは私も思ってるよ。だけどね、あの子――來夢――を束縛をするのはちょっと違うんじゃないかって思うんだ。もちろん、ソフィーが同じ過ちを繰り返したくないって気持ちは分かっているんだけどね。
 前に來夢が言ってたこと覚えてる? ソフィーがあの子に何でも欲しい物を与えるって言った時に、確かこう言い返したよね。『世界中を見て回りたい』って。ねえ? 本当はエジプトには行かせてないんじゃないの?」

 神妙な面持ちでレナータは眼下のソフィアを見下ろした。しかし、何を思ったのかソフィアが楽しげに忍び笑いをし始める。

「まあ、レナお義姉様ったら。探りを入れるような真似は止してくださらない? 私がそんなに意地の悪い女に見られていたとしたら心外ですの。心配なさらなくても、來夢はエジプトへ行かせましたわ。でも、少し語弊があるようですから言い直しますけれど。彼女は自発的にロシアを発ったんですのよ? あの娘との約束を果たすために。私が予め呼び出しておいたんですの」
「…………だからあの子は私との約束を破っちまったのかい……。奔放過ぎるとこだけ義姉様に似て……全く。
 でも、なんでまた? ソフィー、あなたはあの娘を來夢に会わせるのを、今の今まで渋っていたじゃない」
「確かにそうでしたけれど、あの人間に会わせるよりかはまだマシだと思ったからですのよ」
「あの人間……ああ來安さんのことね。でも、彼女も歴とした義姉様の娘なんだよ? 向こう見ずで無鉄砲なところとか義姉様にそっくりだからね」
「あ〜もう〜!! レナお義姉様、からかわないで下さらないかしら?! あの女のことはこれ以上考えたくありませんの!!」
「あははは、これは珍しい。ソフィーがこんなに取り乱してるのを見るのは義姉様が一緒だった時以来だ」


 二人の笑い声が室内に木霊する……


――――


【移動中/ 塚守來安】


「來安様。あなたは極力他人の力を借りずに物事を処理なさろうとしているようですが、困ったことがあれば助力を求めても構わないのですよ。ボスはあなたの前では仰っていませんでしたが、実の姉との失われた時間を取り戻して欲しいという思いから、今回の協力を申し出ているのです」
「失われた時間を取り戻す……そんな。私には贅沢過ぎるものだわ。だって、私はただ、姉にこれまでのことを謝罪すればいいだけなんだもの」
「そうですか……なら、そのためのお手伝いをさせて頂けませんか」
「……手伝ってくれるのは嬉しいのだけれど。でも、私の個人的な問題であなたたちの迷惑を掛けるのは何だか申し訳がないわ」
「いいえ、そんなことはありません。――ここだけの話ですが――。ボスはご姉妹が離れ離れになった遠因を作ってしまったことに責任を感じているからこそ、あなたのためになりたいと望んでいるのです。どうか彼女の気持ちを汲んで頂けませんか。何卒、再考のほどよろしくお願い致します」
「レナータさんが悪いなんて……私はそうは思わないわ。姉がロシアに渡ったことは、結果としては良かったと思うの。陰陽師とアヤカシの戦いに巻き込まれずに済んだから、私は姉が日本を離れていて良かったと思う。……本当に悪いのは姉の存在に気が付けなかった私の方なんだから」
「そうですか――それならば仕方がありませんね。私はボスから命を受けてここにいます。來安様。あなたが無事に日本へ帰国できるように見届けるのが私の任務です。あなたが拒絶したとしても、私は私の仕事を務めさせて頂きますのでそのつもりで。それに――……」

 交喙を連れて行くことに抵抗のあった來安であったが、実姉の行き先や旅費のことなどを考慮に入れなかったために結局は彼女の助力を受けることに決めたようであった。二人は今、機内に乗り込んでいた。二人を乗せた飛行機が現在、エジプトへ向かうためカイロ国際空港を目指して飛行していた。

「そういえば、交喙さん。前にどこかで会ったことがあるかしら? 私、あなたの顔に少し見覚えがあるのよね」
「…………私もあなたの顔に見覚えがあると思っていましたが。どうも記憶が曖昧で。ハッキリしない答えで申し訳ありませんが、どうもここ最近記憶が混濁しておりまして、ハッキリしたことを思い出せないでいるのです」
「えっと、あの、ごめんなさい。きっと私の記憶違いだと思うの」

 落ち込んだ様子を見せる交喙。それを見て來安は慌てたような調子で自身の言葉を訂正するのであった。
 何とも噛み合わない二人であった。

9ヶ月前 No.42

推古 @iwing ★gBSwv0JJyH_3Nj

【エピローグ・前】

この世で最も地獄に近い場所。
其処は最早、陽の光など届きようもない。
地の底に沈む大空洞の中で、相反する二人が対峙する。
神の血を分けた半妖のアヤカシ――雫――に対するは、人でありながらアヤカシに堕ちた者――乖環――。
相克する矛盾を抱えたまま存在する者同士。二つの妖気が激しくぶつかり合うと内壁が音を立て崩れ、天井が崩落を始め――。

――その闘争の果てに此度の争いは終結を迎える。


―――――


【プロローグ・序】

……――それから数時間前。

「弱きものを強きものが挫き、或いは多数が少数を削ぐアヤカシの、前時代的な流儀に飽くまでも倣うというのならば我らは徹底的に抗うまでよ……」
 陰陽師と交戦ののち彼らを始末した乖環が冷ややかな視線をあちらに――戦場に残されたただ一つの式神の方に向けた、その式神を通して離れたところから戦況を見守っていた陰陽師代表――安倍聖明は口を噤んだ。その傍らにいた犬神派アヤカシ代表は神妙な面付きで目を伏せたままだ。
「……」
 洞穴近くに設立された作戦本部。その指揮を犬神派アヤカシ代表と協同で任されていた。しかし傲慢な聖明はアヤカシ側の意見に耳を貸さず、独断で先遣隊の派遣を敢行。この大捕物を成せば自身の栄進に繋がると、ただその一点のみに腐心していた。
 敵は手負いのアヤカシが一人、幾度もの戦いを経て体力を消耗させていた。対するは、彼女と対立関係にある一部の犬神派アヤカシらと、有志により集まった陰陽師の面々。数的にも有利に立っていた。しかし、その油断があの悲劇を生んだ。
 先遣隊の全滅という結果に終わって怪訝な表情を隠そうともせず、おまけに式神から送られてくる惨憺たる映像に動揺を隠せないでいた。
「……何ということだ、これはなにかの間違いだ……ッ!! いや、私に手落ちがあろうはずがない……むしろ間違っているのはお前の方だ……ッ!!」
 目の前の画面内に映るのは――黒い煙を上げ続ける旧い木造家屋が並んだ、あの京都の街並とそっくりに模された、しかし辺り一帯は黒煙が立ち上り、炎上した家々を囲うように、炎の橙色を背に受けながら立ち去ろうとする乖環の後ろ姿と、その傍らに寄り添うように立つ一人の少女――だがしかし、画面外から突如として現れた黒い影に覆われ、そこで映像が途絶えてっしまった。
 戦いが終り無惨にも敗北を喫した余韻が漂う中、恐れとも怒りともつかぬ感情の猛りに体を震わせ聖明が勢いよく立ち上がった。
「これから全戦力を以てあの鬼女めを捕えに掛かるッ!! 無論、生死は問わんッ!!」

 アヤカシ側の代表者は後悔していた。
 始めこそ自らの正しさを自負していたものの、ここに来て初めて疑問を覚えたのである。
 彼はアヤカシと人間の共生を夢見てきた若いアヤカシの一人だ。今でもそれは正しいと主張できる。
 それでも一つだけ心残りがあった。だがしかし、ここは迷いを振り切って覚悟を決めなければならない時であろう。
「落ち着け、聖明。何度も言うが急いては事を仕損じるぞ。相手はとうとう最後の切り札を切ったようだが、これが本当の正念場であろう。俺たちアヤカシも力を貸す。だが一つだけ条件がある、彼女は必ず生かして捕縛しなければならない」
 ようやく重い腰を上げて決意を示した彼であったがどことなく歯切れが悪い。
(喧嘩を仕掛けたのは此方の方ではなかったか。今更、法の下の平等を説いたところで説得力も何もありはしないだろう。そのことは十二分に理解しているつもりだ)
 彼は内心で自嘲気味に笑った。
(これじゃあどちらが正義か悪かわかったものではない)
 一人静かに毒づいた。


―――――


【プロローグ・破】

 洞穴内は乖環によって半ば強引に異界化され、RPGに出てくるようなダンジョンの様相を呈している。
 最奥の大空洞に続く道筋は途中からいくつにも枝分かれになっており、内部はまるで迷宮のよう。かてて加えて、侵入者の行く手を阻まんと無数の蟲型のクリーチャー――蜘蛛、蜈蚣、蜂、蛾、蟻、蛍等――が配置されている始末だ。
 奥に差し掛かると中は更に混沌としており――乖環の趣向だろうか、炎に包まれた旧い京都の街並が再現されている。内側にはさらに強力なクリーチャーが配置され侵入者を返り討ちにせんと待ち構えていた。それらは何れも異形の形態をしており、体の各々パーツには人と思しき部位が形作られている――。例えば背中から羽が生えた人間のような蝶々だったり、大きな鎌を両手に引っ提げた人間に似た蟷螂であったり――……。
 最奥部には何の仕掛けもない、ただただ大きな空洞が広がっているだけだ。そこに乖環がアヤカシと陰陽師たちを待ち構えている……ッ!!

 洞穴内に潜入したアヤカシと陰陽師たちを返り討ちにした乖環であったが彼女もまた先の戦いで手負いの状態にあった。仄暗い――けれども蛍紛いの蟲等から発せられる発光によりほんのりと明るく照らされた――洞穴の中を通って最奥の大空洞まで行き着くと、前のめりに倒れるように腰を下ろした。衣服は所どころ破れかぶれであちこちに赤黒い血痕を残す。表情からはなおも疲弊の色が残っていた。

「後悔と仰りますか。――これもわっちらの千年の都を取り戻すための闘いとなればこそ。そのためなら例えこの身が滅びようとも――」
 言葉が途切れる。息が続かない。気付けば少女の手刀が自らの腹部を突いていた。
「何――を……ッ。貞篤様……ッ!!」
「ここから先は儂が引き継ぐ。其方は其処で眠っておれ」
 上半身から倒れ伏し意識を失った乖環を後に残して不穏な笑みを張りつけたまま少女は炎に包まれた古都の方へと戻って行った。

3ヶ月前 No.43

推古 @iwing ★gBSwv0JJyH_3Nj

【エピローグ・前】

この世で最も地獄に近い場所。
其処は最早、陽の光など届きようもない。
地の底に沈む大空洞の中で、相反する二人が対峙する。
神の血を分けた半妖のアヤカシ――雫――に対するは、人でありながらアヤカシに堕ちた者――乖環――。
相克する矛盾を抱えたまま存在する者同士。二つの妖気が激しくぶつかり合うと内壁が音を立て崩れ、天井が崩落を始め――。

――闘争の果てに此度の争いは終結を迎える。


―――――


【プロローグ・序】

……――それから数時間前。

「弱きものを強きものが挫き、或いは多数が少数を削ぐアヤカシの、前時代的な流儀に飽くまでも倣うというのならば我らは徹底的に抗うまでよ……」
 陰陽師と交戦の後、彼らを始末したばかりの乖環が、冷ややかな視線をあちらに――戦場に残されたただ一つの式神の方に向けた。
 その式神を通して離れたところから戦況を見守っていた陰陽師代表――安倍聖明は口を噤んだ。その傍らにいた犬神派アヤカシ代表は神妙な面付きで目を伏せたままだ。
「……」
 洞穴近くに設立された作戦本部。その指揮を犬神派アヤカシ代表と協同で任されていた。
 しかし傲慢な聖明はアヤカシ側の意見に耳を貸さず、独断で先遣隊の派遣を敢行する。この大捕物を成せば自身の栄進に繋がると、ただその一点のみに腐心していた。
 敵は手負いのアヤカシが一人、彼女は幾度もの戦いを経て体力を消耗させつつあった。対するは、彼女と対立関係にある一部の犬神派アヤカシらと、有志により集まった陰陽師の面々。数的にも有利に立っていた。だが――……。
「……何ということだ、これはなにかの間違いだ……ッ!! いや、私に手落ちがあろうはずがない……むしろ間違っているのはお前の方だ……ッ!!」
 先遣隊の全滅という結果に終わり怪訝な表情を隠そうともしない。おまけに式神から送られてくる惨憺たる映像に動揺を隠せないでいた。
 目の前の画面内に映るのは――黒い煙を上げ続ける、旧い木造家屋が並んでいる。あの京都の街並とそっくりに模された。辺り一帯は黒煙が立ち上り、炎上した家々を囲うように、炎の橙色を背に受けながら立ち去ろうとする乖環の後ろ姿と、その傍らに寄り添うように立つ一人の少女――だがしかし、画面外から突如として現れた黒い影に覆われ、そこで映像が途絶えてっしまった。
 戦いが終って無惨にも敗北を喫し、脱力感の漂う余韻が漂う中、恐れとも怒りともつかぬ感情の猛りに、体を震わせつつ聖明が勢いよく立ち上がった。
「これから全戦力を以てあの鬼女めを捕えに掛かるッ!! 無論、生死は問わんッ!!」
「落ち着け、聖明。何度も言うが急いては事を仕損じるぞ。相手はとうとう最後の切り札を切ったようだが、これが本当の正念場であろう。俺たちアヤカシも力を貸す。だが一つだけ条件がある、彼女は必ず生かして捕縛しなければならない」
 アヤカシ側の代表者は後悔していた。
 始めこそ自らの正しさを自負していたものの、ここに来て初めて疑問を覚えたのである。
 彼はアヤカシと人間の共生を夢見てきた若いアヤカシの一人だ。今でもそれは正しいと主張できる。
 それでも一つだけ心残りがあった。だがしかし、ここは迷いを振り切って覚悟を決めなければならない時であろう。ようやく重い腰を上げて決意を示した彼であったがどことなく歯切れが悪い。
「待て、どこへ行くつもりだ」
「俺はもとより現場主義なんでね。聖明、悪いがお前のつまらん机上の空論に付き合う気もない」
「何だと……ッ」
「最後に謝っておくことがある。元よりお前たち――陰陽師を巻き込むつもりはなかった。だがこうして一時的にも互いが互いの手を取り合い、背中を預け合うことができたのは素直に光栄だと思う」
「貴様、抜け駆けは許さんぞ……ッ」
「そう怒るな、聖明。それと、俺は"貴様"などという名ではない。俺は魁。叔父貴の後を継ぎ"百鬼夜行"総大将になった男だ」


―――――


【プロローグ・破】

 洞穴内は乖環によって半ば強引に異界化され、RPGに出てくるようなダンジョンの様相を呈している。
 最奥の大空洞に続く道筋は途中からいくつにも枝分かれになっており、内部はまるで迷宮のよう。かてて加えて、侵入者の行く手を阻まんと無数の蟲型のクリーチャー――蜘蛛、蜈蚣、蜂、蛾、蟻、蛍等――が配置されている始末だ。
 奥に差し掛かると中は更に混沌としており――乖環の趣向だろうか、炎に包まれた旧い京都の街並が再現されている。内側にはさらに強力なクリーチャーが配置され侵入者を返り討ちにせんと待ち構えていた。それらは何れも異形の形態をしており、体の各々パーツには人と思しき部位が形作られている――。例えば背中から羽が生えた人間のような蝶々だったり、大きな鎌を両手に引っ提げた人間に似た蟷螂であったり――……。
 最奥部には何の仕掛けもない、ただただ大きな空洞が広がっているだけだ。そこに乖環がアヤカシと陰陽師たちを待ち構えていることだろう……。

 犬神派アヤカシ代表"魁"を筆頭にアヤカシと陰陽師たちが洞穴内へと侵攻を開始した……ッ!!

2ヶ月前 No.44

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2ヶ月前 No.45

推古 @iwing ★gBSwv0JJyH_gi9

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2ヶ月前 No.46

推古 @iwing ★gBSwv0JJyH_gi9

 安倍小珠の例に漏れず、俺の事務所には大抵、少々変わった人間またはアヤカシが訪れる傾向にあるらしい。
 だがしかし、職掌柄、例えば人に他言できないモノ――つまりは胸の内に闇を抱え込んだ者たちが依頼人として、その問題を解決するために事務所を訪れるのは当然と言えばそうだろう。

 それでも、誰もが必ずしも客として依頼を運び込んでくるとは限らない。
 中には、フラりと現れては事務所に転がり込んできたり、半ば強引に部屋を占拠したと思ったら、この俺を雑用係みたいに扱う奴もいたりで、ここは結構フリーダムな居場所と化してしまっている。俺が師と仰ぐとある霊媒師が言うには、この事務所には、その家主の気質に近いものを感じるんだとか。
 これまた難しい話で、俺は半分も理解できなかったのだが、わかりやすく言えば、あらゆる衆生には宿業というものが埋め込まれており、そのために運命や因果に導かれるままに、良いも悪いも含めて結果がもたらされるという。例えば俺の場合は――実に情けないことだが――どうやら人から利用されやすい業があるらしく、有り体に言えば、どうあっても他人の踏み台にされるのがオチなのだそうだ。

 いや、そんなこと、他人に言われる前から薄々とは感じていたよ……?
 でも、改まって指摘されると、結構傷付くじゃん……? だってほら、今も小珠や雫なんかも既に俺のことを利用する気でいるし。

 しかし、それでも、小珠の方はまだカワイイもんだ。問題があるのは寧ろ雫の方だろう。

 少しだけ話を脱線させる。
 例の皮肉屋さんが言うには、俺には家柄や金、そして運だけはあるとしても、政争には致命的に向いてないらしい。ゆえに安本家において、俺はただ食い潰されるだけの存在だという。
 少しだけ癪に障ったけど……確かに俺も間違っちゃいないと踏んだからこそ、安倍家から逐電したのだが。運のいいことに、あのまま安倍家に残っていたら今ごろ、二年前の革命の折に高官らに混じって粛清されていたことだろう。

 だからこそ、せっかく拾ったこの命、このようなところでむざむざと落としてなるものか。
 あちらがこちらを利用する腹積もりならば、逆にこちらがあちらを利用してやろうではないか。

 ここで陰陽師と守手における現在の力関係について言及しておこう。
 陰陽師と守手の関係はここ数年で劇的な変化を見せた。二年前に起きた革命により、守手の優位性が上がったのだ。
 今ではアヤカシと契約を交わすメリットは少なく、新たに契約を結んだり、守手との関係性を保ち続ける陰陽師の数は減少傾向にある。
 守手の権利は昔に比べて格段に向上し、彼ら彼女らのプライベートは徹底的にまで守られ、真名による束縛も比較的緩くなっている。それもこれも全ては影の輩による功績の賜物と呼んでも過言ではなかろう。守手は今や陰陽師の使い魔などではなくなった。彼ら彼女らは例外こそあれ、今や陰陽師の相棒――パートナー――として協力関係にあるのである。

 古来より守手を御していた塚守家の権威は失墜したも同然だが、当分はこの協力関係が続くものと思われる。

 ともあれ俺が雫の手綱をちゃんと握れ切れていないのは、そういった事情があるのだった。

1ヶ月前 No.47

推古 @iwing ★gBSwv0JJyH_APy

──新しい朝が来た 希望の朝だ

──喜びに胸を開け 大空あおげ

──ラジオの声に 健やかなる胸を

──この香る風に 開けよ

──それ 一 二 三
(ラジオ体操の歌より抜粋)

終わらない夏。
繰り返される8月31日。
永劫とも思えるような1日。
僕たち(私たち)に与えられたのは、たった一つの夏休みの宿題。

それは、この狂った世界を終わらせること。

今日よりこの一日を、僕たち(私たち)の革命の日と名付けよう。

9日前 No.48
ページ: 1

 
 
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