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泡沫のイリュジオン

 ( 書き捨て!小説 )
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妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★ldpWy4Uvko_EP8








――願ったのは"死"と言う自由だった。


――望んだのは、"死"という終焉だった。



でも、神様は自分にそれすらも与えてくれない。

自分の望みは何も叶えてくれない。

夜空を見上げれば、紺碧の空には砂を振りまいたかのように数多の星々が輝き、少女は虚ろな瞳で手を伸ばして星を掴むふりをする。

この手は、何も掴むことは出来ない。

幸せも、望みも。己の人生の終焉でさえ。

彼女の人生は全て人の手の中に。それは、商品のように値段をつけられ、売買されて、数多の人の手に渡って行く。

少女が生きるも死ぬも、その時の"主"次第。

彼女が選択する権利は、これっぽっちもない。

少女はおもむろに一歩を踏み出すと、今まで茶色のタイルしか見えなかった景色が一変する。

いつもかけずり回っている庭の地面は遥か下方に。

真夜中だと言うのに、庭を行き交う使用人たちは普段は自分よりも背の高い者たちばかりなのに、今では蟻のように小さく見える。

少女は再び一歩踏み出すと、満面の笑みを浮かべた。

今までずっと、待ってきた。

神が自分に、"死"と言う贈り物をくれることを。

けれど、我らが主は自分にそれを与えてはくれなかった。

面倒なお祈りもして、いつかは来るべきその日だけを糧に、醜い者どもに仕えて来たのに。

だから、彼女は思ったのだ。

神が与えてくれぬのならば、自分で掴みに行こうと。

今まで何も掴むことのできなかったこの手で、己の望みを掴みに行こうと。

強風が吹く。彼女は正面から吹く風を両手を広げて受けとめ、空中に向けて足を踏み出した。



「さようなら。醜く狂った世界よ。私はあなたのことが――……反吐が出るほど大嫌いだったわ」









/私の妄想のはき溜めです←
無いだろうけど、盗作、パクリ(アレ。一緒?)はやめてくださいね。泣いちゃうわよ。


/下手なのは分かってます。
どうか生ぬるい目で見守ってやってください。










2年前 No.0
メモ2017/08/24 03:17 : 妃翠☆dszkmgEaqwdD @azalea★iPhone-NO9hTgQzLk

――


いいね 20 ありがとうございます!


――

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妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=ajAFJyo3KB

 ――好きだった。姉として。そして、一人の女性として。でも、"オレ達"は姉弟だから、オレが思いを告げてしまえば彼女はきっと困ってしまう。彼女を困らせるのは避けたいから、この思いは墓場まで持っていくつもりだった。好きな人ができれば応援し、彼女が結婚しても手放しで祝福してやるつもりだったのに。……オレの決心は自分でも失望する程に軽いものだった。


「幸い命を取り留めましたが、もしかすると、このままずっと目覚めないことを覚悟していてください。例え目覚めたとしても、酷く脳を損傷しておりますので、何かしらの障害が残ってしまうと考えられます」



 淡々とした医者の言葉は、オレの胸を抉るには十分で。様々な管に繋がれてベッドに横たわる姉を見下ろし、オレは"弟"になって初めて号泣した。オレはなんてことをしてしまったんだろう。オレが思いを告げなければ、姉がこんな風になることは無かった。きっとあのまま純白のドレスに身を包んで、彼と一緒に笑い合うはずだったのに。



「ごめんなさい……」



 彼女の手を握る資格は、オレにはなくて。ベッドの側に立ち、彼女を見下ろしていたオレは、無機質な白い壁を力任せに殴りつけた。



「ごめん……」



7ヶ月前 No.185

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=ajAFJyo3KB

「――っ!」


 頭に血が上る。全身の血がマグマのように沸騰して、噛み締めた唇に血が滲んだ。パンっと響いた鋭い音をかき消すように、少女は悲鳴にも似た声を上げる。



「お前のせいだ! お前のせいであの子は死んだ。お前のせいで無実なあの子は死んだんだ!! どうして信じてやらなかった? どうして彼女の言葉に耳を傾けてやらなかった? 何も言えるはずないだろう。あの子は嵌められただけなのに!!! お前だって知っているはずだ。ここはそういうところだと――!」


 自分よりも頭二つ分ほど高い彼の胸ぐらを掴みあげ、昨日から泣き続けていたのだろう。痛々しく腫れ上がった目で彼を睨みつける。いつも身綺麗にしている彼女では考えられないボサボサの髪。乱れた寝巻きはギリギリ彼女の身体を隠して入るものの、少しでも動けばたちまちのうちに脱げてしまいそうだった。その姿に、嫌でも突きつけられる。自分は、取り返しのつかないことをしてしまったのだと。自分も辛いだなんて言葉は、彼女には通じない。そんなことを言おうものなら、再び平手打ちが飛んでくるだろう。いや、もしかしたら今度こそ刺されてしまうかもしれない。痛々しい彼女の姿を、彼は何も言わずに見下ろす。

7ヶ月前 No.186

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=ajAFJyo3KB

 命を懸けて守りたい人が死んだ。無実の罪で捕えられた彼女は、愛しい目の前で命を落とした。拷問によるショック死だったという。今でも覚えている。あの男の腕に抱かれて運ばれてきた彼女の無残な姿を。白い衣服は血だらけで、少しはだけた胸元は痛々しい痣と傷ばかり。真っ赤に染まった指先を見れば、なんという事か。爪は全て剥がされており、彼女は痛みを想像して思わず目を眇めた。



「どうして……」



 無実の彼女がここまでされなければならない。ただこの男を愛し、人のためになるようにと生きていただけなのに。どうしてこんなにも早く、酷い死に方をしなければならなかったのだ。彼女の頬に、涙が伝う。震える唇を噛み締めて、少女は必死に嗚咽を堪えた。脳裏に浮かぶのは、今までの思い出。どんな宝石よりも価値のある、幸せな記憶。両親に捨てられ、食べるものもなく死を覚悟した自分を拾ってくれた少女。ろくに読み書きのできない彼女に、文字を教えてくれたのも彼女だった。学校に連れていかれそうになった時は流石に焦ったけれど、今ではいい思い出だ。この男が好きだと打ち明けられた時から、彼女のこれからは波乱に満ちているのだろうということはなんとなく分かっていた。けれど、まさか死んでしまうなんてそんなこと、誰も思わないじゃないか。まるで眠っているような少女の頬を撫でる。指先に感じた体温はまだ彼女が生きているのではないかと錯覚しそうで、彼女はぎゅっと拳を握りしめた。

7ヶ月前 No.187

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=O2H3j8KUVU

 時々無性に誰かの体温が恋しくなる。側にいてくれた人なんて一人もいないくせに、誰かに「大丈夫だよ」って優しい言葉を掛けて欲しくて。ベッドの上に横たわり、ケータイを放り投げた私は、シンッと静まり返った室内を見渡して自嘲気味に笑う。……慰めなんて、同情なんて求めていないと、拒絶していたは誰だったのか。強がりで生きていたあの頃が懐かしい。人の前では涙を流さず、むしろ余裕のある笑みを浮かべていたいと夢見ていたあの頃。自分はきっと強気な女性になるのだと信じて疑わなかった。けれど――……。私はごろりと寝返りをうち、電源の落とされたケータイの画面を見つめる。蓋を開ければどうだ。憧れていたものになれなかった私は、その仮面を被ってひたすらに自分を偽る日々。本当の私は、一体どんな人間だったのか。それすらも時々分からなくなる。ベッドにころがったケータイを手に取り、電源を入れると、満たされない心を少しでも補おうとして入れた大量の乙女ゲームが姿を現す。ゲームの中の男性たちは、選択さえ間違わなければ絶対に私のことを愛してくれる。私を求めてくれる。でも、現実では? そんなに甘いものじゃなあ。自分の選択が間違っているのかどうかもわからず、最悪のことが起こるまで自分が間違いをおかしてしまったことに気づかない時もある。今まで周囲に強く当たっていた私を求めてくれる人なんていなくて、きっといたとしてもすぐにこの性格に嫌気がさしてしまうだろう。



「疲れた……」



7ヶ月前 No.188

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=juAEVzAM54

 誰よりも美しくありたいと願った女の死に方は酷いものだった。その美しい容姿故に男には苦労しなかった彼女は、根も葉もない噂を間に受けた女に左胸を一突きされ即死。彼女のことを相当憎んでいた女は、殺しただけではまだ気が収まらなかったのか、彼女の顔を何度も何度も刃物で刺し、友人に発見された時には誰かも分からないほど滅多刺しにされていたとか。彼女を殺した女は、間抜けなことに自身の指紋がベッタリとついた刃物を彼女の顔面に突き立てたまま帰宅していたため、すぐに警察に捕まることとなったらしい。一人の女の一生の書かれた資料に静かに目を落としていた女性は、一度足を組み直すと自身の頬にその長くしなやかな指を這わせる。陶器のような滑らかな肌は努力の証。日焼け知らずの白い肌は、今でこそ血色があるが、メイクを落としてしまえば死人のそれと大差ない。自身の顔が刃物で滅多刺しにされていることを想像した彼女の表情は心なしか引きつっており、ついでに言うなれば身体も小刻みに震えていた。



「あの女。まさか私の顔を蜂の巣状態にしてくれていたなんて……! こんなことをされるって分かってたなら、あんな女に大人しく殺されてなんかやらなかった!」




7ヶ月前 No.189

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=juAEVzAM54

 昔話をしよう。それはまだ、僕が"僕"でなかった時。普通の女の子とはやっぱりどこか違ったけれど、とても幸せだった頃の話。"私"は、この異質でいて心地よい幸せがずっと続くと信じて疑わなかった。私はあの街で歳を取り、いずれは誰かと恋に落ちて、急速に高齢化の進む村に僅かばかりの貢献をするはずだった。けれど――……。それはあくまで過去の話。私が描いた未来は、もう二度と還ってはこない。衣服の上から脇腹をそっと抑えた私は、不器用に片方の口角を上げると自嘲気味に微笑んだ。


「――ボクはね、もう滅びてしまった……ボクが消してしまった、閉鎖的な小さな村に生まれたんだ」



 君にだけ話そう。まだ誰にも話したことのないボクが犯してしまった罪を。

7ヶ月前 No.190

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=juAEVzAM54

 僕と君は決して相容れない関係ではなかった。むしろ、かなり気の合う友人のなりそこないで、知り合いと片付けるには到底できない、そこそこ深い間柄だったと記憶している。曖昧な記憶を掘り起こし、僕は目の前の彼女を静かに見据える。しかし、これだけはっきりと言えるのは、僕たちは決して刀を交えるような、殺し合いをするような間柄ではなかった。少なくとも僕は、自身のことよりも他人のことを優先する彼女のことを、いつか死んでしまうんじゃないかと心配はすれど、間違っても殺したいだなんて思ったことは一度もない。僕は心が読める人間じゃないから、彼女の気持ちは分からないけれど、刀を握っている手が震えているところを見るに、彼女にもその気はないのだろう。先程から自身に向けられた刀の切っ先が小刻みに震えていることに気づいていた僕は、青を通り越して紙のように真っ白な顔色をした彼女から視線をそらす。不思議なものだ。まだ彼女と会って1年も経っていなのに、彼女の考えていることがよくわかる。きっと彼女は、こう考えているのだろう。どちらかが死ぬまで戦わねばならないのなら、自身の生を終わらせようと。ゆっくりと僕から刀の切っ先が離れていくのを一瞥して、僕はふっと笑をこぼす。本当に。君はどれだけお人好しなんだろうね?



「――僕を殺すくらいなら自分が死ぬ、だなんて。僕の人生の中で君は間違いなく一番に輝くほどのお人好しだよ。馬鹿な子だ」



7ヶ月前 No.191

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=juAEVzAM54

 返り血だらけの僕と、まっさらな君。一瞬、彼女が初めて殺した人間になれるのならば、と考えもしたがすぐに愚かな考えだと首を横に振る。誰かを殺めてしまったという現実は、例え自身に課せられた使命だとしても、永遠に引きずることになる。周囲から図太い人間だと言われる僕でさえ、たまに悪夢に見るほどに。別に僕は彼女の恋人なんかじゃないけれど、この子にはいつも笑っていて欲しい。彼女が泣いてしまうと、どういう訳か僕も悲しくなってしまうから。図星をさされた彼女は、びくりと身をすくませると、なぜ分かったのだというように僕を凝視する。それがなんだか可笑しくて。僕はクスクスと微笑むと、おもむろに誰かの血で汚れた刀を手放した。カランと、刀が地面に落ちる音がやけに鮮明に響く。



「おや。そんなに熱烈な視線を向けられると流石の僕も照れてしまいそうだよ。マドモアゼル」

「どうして、剣を……」

「君はコレが気になるの? これはね、極東の国の刀というものなんだって。剣とは似て非なるものだけれど、なかなかに美しいだろう?」

「そうじゃ、なくて……」




 地面に落ちた刀を指さしていつも通り求められてもない説明をする僕に、彼女は弱々しく首を降る。それに僕は僅かに口角を上げると、静かに瞳を伏せた。知っているとも。君が知りたいのはそんな事じゃないことだなんて。でも、久しぶりに会ったんだ。他愛ない話の一つや二つしたいじゃないか。やけに悲しげに見つめてくる彼女の翡翠の瞳が僕を映す。彼女の瞳の中の僕は自分でも驚く程に優しく微笑んでいて、彼女もそれに驚いたのか微かに目を見開くのが分かった。僕は君を前にして、いつもこんなに穏やかに笑っていたのだろうか。


「一つ、いいことを教えてあげよう」

「……何を、」

「君が殺さなくても、僕は近うちに命落とす。勘違いしないでほしいけど、それは自殺だとか誰かに殺されてやるわけじゃない」

「どういうこと?」



 押し殺された彼女の声に、僕は自身の左胸に手を当てる。僕の体はもう、限界だ。



「僕は元々体が強くなくてね。ちょっとした気温の変化でもすぐに体調を崩してしまう。そんな脆いこの体が、この環境下に耐えられるわけがない」



7ヶ月前 No.192

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=juAEVzAM54

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7ヶ月前 No.193

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=n1DWKRNl9r

「何も知らない子羊ちゃんにいいこと教えてあげる」

「え……」

「この部屋。あと十秒もしたら天井が落ちてくるわ。早く抜け出さないと、私達間違いなく圧死しちゃうわね。やだー。こんなことになるなら、男漁りでもしてれば良かった」

「…………は?」



( 何も知らない少女と見えすぎる彼女の話 )

7ヶ月前 No.194

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=n1DWKRNl9r

「君は弱いよ」

「知ってる」

「僕なしじゃ生きてきけないよ」

「うん」

「僕がいなくなったら、君は誰に縋るっていうの?」

「んー。どうしようかなぁ」

「君はきっと後悔する」

「それはないよ。だって、私は――」



 彼女の唇が動く。音になるはずだった言葉は大気に溶け、代わりのように彼女の口から真っ赤な血が吐き出された。彼女の唇の動きから言葉を読み取った彼は、大きく見開いた瞳を揺らすと、感情を押し殺すようにぐっと唇を噛んだ。泣いてはいけない。泣くものか。彼女が微笑んでいるのに、自分が泣いてどうする。笑え。彼女のために。自分にそう言い聞かせ、彼は不器用な笑を浮かべる。昔から不器用だった彼は、結局最後まで中途半端に彼女を繋ぎ止めていただけだった。素直な心を口にするのは恥ずかしいとずっと思っていたけれど、こんなことになって初めてそれを後悔する。すっかり血の気を失った彼女の頬に指を滑らせ、彼女の耳元に唇を寄せる。


「ねぇ。僕は君のことを――」




" 愛している。 "



 二人の言葉が重なる。驚いて目を見張る彼に、彼女はいたずらっぽく微笑んだ。




「知ってたよ。ずっと。君は不器用で、わかりやすい人だから」

6ヶ月前 No.195

削除済み @azalea ★iPhone=lpEI48OhCL

【記事主より削除】 ( 2017/02/28 00:35 )

6ヶ月前 No.196

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=lpEI48OhCL

「んふふ。秘密は女を飾り立てる最高のアクセサリーよ。あなたも、素敵なレディになりたいというのならば、まずはそのバカ正直に何でも話す癖をどうにかしなくっちゃ。――いい? ここは、あなたが今まで暮らしてきた安全な場所とは違う。この伏魔殿で生きていきたいのならば、全てのものを疑ってかかりなさい。誰も信じてはいけない。もちろん、私も」



 真っ赤な唇の両端がゆっくりと上がり、彼女は艶やかに微笑む。

6ヶ月前 No.197

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=lpEI48OhCL

「 生きて 」



 口からこぼれ落ちた吐息のような言葉と共に、私の両目からポロポロと涙がこぼれ落ちる。泣くつもりじゃなかった。少し顔を見れば、帰るつもりだったのに。目の前のベッドに横たわる彼女を見下ろして、私は震える唇を噛み締める。苦しそうな呼吸。見るからにやつれた顔は眉間にしわがよっていて、いつもの穏やかな笑を浮かべる彼女とは別人のようだ。点滴の繋がれた腕は相変わらず細く、私が少し力を入れて握れば簡単に折れてしまいそう。よく働きすぎで倒れる子だから、きっと今回もそうだと思っていた。血相を変えて病室に駆け込む私を見て、馬鹿みたいに無邪気に笑うのだろうと、信じて疑わなかったのに。




「何、してんのよ……」




 たくさんの管に繋がれて眠る彼女を見て、全身の血の気が一気に引いていくのを感じた。手足がだんだん冷たくなって、ともすればその場に膝をついてしまいそうで。何とか握りしめた彼女の手はあまりにも冷たく、嫌でも最悪を考えざるをえなかった。刹那、走馬灯のように駆け巡る今までの記憶。びっくりする程鮮明に思い浮かぶ彼女の笑顔と、優しい声に、私は嗚咽をこらえることが出来なかった。嫌だ。死なないで。私はまだ、あなたに何も返せていないの。貰うばかりで、迷惑をかけるばかりで……。そこまで考えて、フルフルと私は首を降る。違う。私の考えていることはもっと単純だ。強引に涙を拭った私は、握る手に力を込める。



「私はまだ、あなたと一緒にいたい……っ」




6ヶ月前 No.198

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=lpEI48OhCL

 紫の甘い雲。金平糖の星々。早朝にけぶる霧は、密会する恋人達を柔らかに包み込む。青白く輝く満月に照らされた一本道に浮かび上がる白い足跡。その先で赤い唇をした魔女は嗤う。



『 さァ。お前の願いを聞かせておくれ? 』



 幻想の街に迷い込んでしまったら、決して魔女とは口を聞いてはいけないよ。願いを口にしてしまったら最後。お前はもう二度とこちら側には戻ってこられない――……。








 紫の甘い雲。金平糖の星々。早朝にけぶる霧は、悲しみにくれる少女の泣き顔を優しく隠してくれる。青白く輝く三日月が照らす曲がりくねった道。そこに散らばった白い羽。その先で、青い瞳をした少女は宝石の涙を零す。



『 私を返して…… 』





6ヶ月前 No.199

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=6QEvNhoz2X

「ねぇ。これあげる。さっきそこで見つけたヤツ」


 夕日の射す教室で、もううんだりだと泣いていたあの日。何故かバレーボールを持った彼は、抑揚のない声音で言い放つとおもむろにそれを差し出した。反射的に差し出した私の掌の上に乗せられたのは、綺麗な形をした四葉のクローバーで。目を見開く私を見て、彼はふっと淡く微笑む。



「アンタが幸せになりますように」

「――っ、」




 オレンジ色の光が差し込む教室の中で、私は初めて見知らぬ人の前で涙を流した。クローバーを手にしたまま泣く私に、彼は鬱陶しげな表情もせず、ただ静かに傍にいてくれた。



( 出会い……印象的な出会いってなんだ…… )

6ヶ月前 No.200

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=U01eHFHAKp

「ああ! 会いたかったよ。ボクの愛しのハニーたち!! レイとママのいない1年間はまるで地獄のようだったよ……。家族写真を眺めては涙する日々……。きっと2人もボクがいない間夜な夜な枕を濡らしていたんだろうね。でも、もう大丈夫だよ! ボク達を引き離さんとする忌々しい海外出張は期限を迎えた。これからはボク達家族3人はずっと一緒さ!!!!」



 勢いよく玄関の扉が開くなり飛び込んできた男性は、硬直する私の横を光の速さで通り過ぎ、靴を脱ぎかけていたレイちゃんを力強く抱きしめる。驚きか、それとも単に腕の力が強かったのか。一瞬息を詰めたレイちゃんは、自分に縋るようにして頬ずりをしている男性をぎこちない動きで見下ろし、ひくっと頬を引き攣らせた。頭が追いつかず、2人を凝視する私に乾いた笑をこぼした後、彼女は力づくで彼を引きはがすと、なおもおい縋ろうとする男性の頬と頭に手を置き、片足を彼の腹部に突き出し、どうにかしてレイちゃんを抱きしめようともがく男性と何とか隙間を作った。


「あはは。もー、やだなぁ。お父さんったら。友達の前で恥ずかしー。…………くっつくな。離れろ。クソジジイ」



 ………ん?
気のせいだろうか。いつも綺麗な言葉使いをするレイちゃんの口から罵倒めいた言葉が聞こえた気がする。子首を傾げる私をよそに、相変わらずジタバタとしていた男性は、突如としてガバリと身を起こしてこちらを振り向くと、私の両手をガッシリと掴んだ。唐突すぎて声すら挙げられない。




「君が噂の雪菜ちゃんかい? レイと妻から話は聞いているよ。うちの娘と仲良くしてくれてありがとう。本当にありがとうね……!」

「えっ!? いや、あの……こ、こちらこそっ」



 感極まって涙を流す男性――もとい、レイちゃんのお父さんのは迫力に、私は思わず体を後ろに逸らす。なんていうか、レイちゃんとは正反対の人だなぁ……。

6ヶ月前 No.201

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=U01eHFHAKp

 ――私は恵まれた環境で育ったけれど、両親には恵まれなかった。
立っているのもやっとな程寿司詰め状態のバスの中。何とか座れた――というか、同じ学校の生徒達が譲ってくれた――私は、窓の外の流れる景色を見つめてため息をつく。世間では名の知れた企業グループの社長を務める父を持つ私の母は、ゾッとするほど甘やかされて育ったせいか娘の私が言うのもなんだけれど、かなり自己中心的で我儘な人間だ。おまけに、頭も悪い。一度欲しいと決めたものは例え人だろうと必ず手に入れる質の母は、略奪愛を見事成功させて私の父親を手に入れた。当然、馬鹿な母が好きになる男がろくな人間であるはずがなく、父親は当時結婚していた女性の間に子供まで作っていた上に、産気づいていた女性を放って、同じく産気づいていた母を優先していたというのだから救いようがない。母と不倫するまでに3度、母と結婚してからは2度同じことを繰り返している父は、控えめにいて最低の男だと思う。自分にあの人と同じ血が流れていると想像しただけで吐き気がする。父親の顔を思い浮かべてしまった私は眉を潜めると、胸の中に溜まった不快な何かを吐き出すようにゆっくりと息をつく。……私にあの人の血が流れているということはつまり、あの子と半分血が繋がっているということ。




「私があの子に恨まれるのも当然よね……」




 涙に濡れた鋭い眼光を思い出し、胸が微かに痛む。それに気付かないふりをして、私は何度目かわからないため息をこぼした。

6ヶ月前 No.202

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=U01eHFHAKp

「んふふ。人間とは本当に無知で愚かな生物だな」


 無造作に下ろされた腰までの銀色の髪は陽光を反射して眩く輝き、目にかかるほどの長い前髪から除くエメラルドの大きな猫目は、見た目にそぐわない理知的な光を宿している。面白そうに弧をえがく形の良い唇は、春に咲く薄紅の東洋の花を連想させる。幼子にしては肉付きの悪い――良くいえばスレンダーな体型をしており、身長は130手前程だろうか。髪に大量の葉っぱをつけ、妙に大人びた微笑みを浮かべる彼女を見下ろしていた彼は、不意に眉を下げると彼女と目線を合わせるためにその場にしゃがみこむ。




「お前、そんな難しい言葉どこで覚えてきたんだ? 急に背伸びしなくてもいいんだぞ? お前みたいな年頃の子供はな、外で友達と駆けずり回っているのが一番いい」

「…………」




 弟か妹か出来て背伸びせざるおえなかったのだろう。自分も弟ができた時は、もうお兄ちゃんなのだからとかなり無理をしたものだ。幼少期を思い出しながら青年はポンポンと彼女の頭を優しく叩く。対する彼女は半眼で彼を見上げると、無言で自分の頭を撫でる手を払い除け、ジリジリと後ずさり一定の距離をとる。

5ヶ月前 No.203

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=U01eHFHAKp

 細く長い指が少年の顎を掴むと、頑なに目を合わせようとしない彼の顔を強引に上向かせる。強制的に少女と目を合わせる形となった彼は、せめてもの抵抗とばかりに彼女をきつく睨み据えた。ともすれば人1人殺せそうな視線をものともせず悠然と彼を見下ろしていた少女は、不意にニヤリと口端を釣り上げたかと思うとグイッと勢いよく自身の顔を近づけた。額と額がふれあいそうな程の至近距離で、彼女は切れて血が滲む彼の頬に艶めかしく手を這わせる。



「随分と威勢のいい坊やね。気に入ったわ。うちのお屋敷にいらっしゃい。フットマンとしてではなく、貴族の坊やとして育ててあげる」

「はっ。ふざけんなよ。誰がテメェみたいなガキの世話になるかよ。舐めてんのか?」




 彼女の手を払い除け、彼は本気でおかしくて仕方が無いというように肩を震わせる。しかし、それでもなおこちらをじっと見据える目は笑っておらず、その目の奥には貴族に対する憎悪の炎がくすぶっていた。それを静かに見つめていた彼女は、くすりと笑みをこぼすと彼の額に容赦ないデコピンを食らわせた。




「馬鹿な子ね。坊やの意見なんて聞いていないわ。私、一度こうと決めたことは何が何でも遂行しないと気が済まないの。例え国王陛下が首を横に振ってもね」

「……」





 なんて奴だ。と、少年は心の中で呟いた。




5ヶ月前 No.204

削除済み @azalea ★iPhone=U01eHFHAKp

【記事主より削除】 ( 2017/03/31 00:34 )

5ヶ月前 No.205

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=U01eHFHAKp

 いつもと変わらない灰色の空。流れる空気は汚れに汚れ、呼吸をするだけで肺を黒く蝕む。僅かに残る自然はカラカラに枯れて、かつては瑞々しい緑の葉を持っていたとは到底思えない。経年劣化で崩壊した過去の遺物たちが集まるこの場所は、かつては首都として様々なものが入り乱れていたとか。恐らく建物の一部であっただろうコンクリートの塊に腰掛け、少女は空と同じく濁った川に足をつける。様々な化学物質の溶け込んだこれは、少し肌に跳ねただけで通常の人間では死に至る劇物と成り下がり、今では川には誰も近づかない。……彼女を除いては。小さな彼女は上機嫌に鼻歌を歌い、川につけた足を交互にパタパタと動かず。彼女の動きに合わせて水面はゆらぎ、時折何かが指にぶつかった。誰かが捨てたゴミか、はたまた――……。




「ねぇ。主。みこはどうしてしねなかったのかしら。おかあさまは、このかわなげすてられてすぐにいきをしなくなったのに」




 天を仰ぎ、彼女は誰ともなく問いかける。応答を待つように暫くじっと空を見つめたあと、彼女は諦めたように息をつく。分かっているとも。神が愚かな人間の問いかけなどには応えてくれない。少女は見た目にそぐわない妙に大人びた微笑みを浮かべると、パシャリと徐に片足で水面を叩いた。




「でも、いいの。ふふ。可哀想なおかあさま。みこにいじわるするから、きっと天罰がくだったのだわ」

5ヶ月前 No.206

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=U01eHFHAKp

「――アルベルト。あなたって本当に自分勝手な人間よね」



 ダンっと鈍い音がしたかと思うと、少女に覆いかぶさっていたアルベルトの体が壁に叩きつけられる。唐突のことに受け身を撮り損なったのか、カエルが潰れたような声を上げた彼は、少女を守るように立ちはだかる女を呆然と見つめた。




「し、シドーニア!? どうして……」

「どうして? それは愚問というものよ。アルベルト。あなた如きの能力を、私が打ち破れないとでも?」




 彼女の容赦ない物言いに、アルベルトはぐっと言葉につまり下を向く。握りしめた拳は震えていたが、彼を気にかける余裕は少女にはなかった。つい先ほどのことが何度も何度も脳内で再生される。押し倒され、キツく抑えられた腕。どんなに足掻いてもびくともしない身体。闇夜にあってもなお異様な存在感を放つ刃物の切っ先は、確かに自分の左胸を狙っていた。シドーニアが来るのがあと数秒遅ければ、自分は確実に死んでいただろう。全身の血がザッと音を立てて引いていく。恐怖で体温が下がり、夏だというのにガタガタと体が震える。その様を一瞥したシドーニアは、すっと静かに片手を後ろに回すとそのまま少女の頭を優しく撫でた。



「一人にするなと、付いてきたのはあなたでしょう? なのにあまつさえこの子を殺そうとするなんて……。軽蔑したわ」

「な……っ! だってソイツは俺を殺そうと――!!」

「それが自分勝手だって言ってるのよ。あの時のシュテラは、シュテラでありシュテラじゃなかった。それはあなたもわかっているはずよ。第一、この子に着いてくると決めた時点で、命を狙われるぐらいの覚悟は決めてくるべきだわ」




 何を甘えたことを言っているのと、彼女はピシャリと言い放つ。


5ヶ月前 No.207

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=g9SL9EujHv

「ねえ、」

「……」

「ねぇってば」

「…………」

「…………」

「…………」

「――ねぇって、呼んでんだろうがコラアアアア!!!!」

「ひい! すいません!! なんの御用でございましょうか!?」




 天使の顔をした悪魔は今日も御機嫌斜め

5ヶ月前 No.208

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=g9SL9EujHv

「ねぇ。アーニャ。人というものは、本当に愚かね」


 泉に映し出される光景を、行儀悪く寝そべって頬杖をついて眺めていた少女は背後に控える女性に視線を向ける。アーニャと呼ばれた少し灰がかった桃色の髪を持つ女性は、少女が脱ぎ捨てただろう衣服を丁寧に片付けながら苦笑を零す。



「そうですね。時折私も辟易してしまいます」

「あら? てっきり否定されると思ったのだけれど。お前が私の意見に賛同するなんて珍しい……」

「私は争いごとが嫌いなんですよ。エテルネル様」




 無意識に胸よりも少し長い髪を掴んで、アーニャは目を丸くする少女――エテルネルに微笑みかける。アーニャは、先の聖戦で犠牲になった1人だった。敬虔な彼女は聖職者よりも聖人になる素質を持った人間であり、自身の幸福よりも他人の幸福を願う彼女にエテルネルはかなりの興味を持った。偽善などではない本心からの願い。まだ何色にも染まっていない真っ白な心を、果たして彼女はこれからも保つことが出来るのだろうかと。きっといつか人を憎むに違いないと思っていた。優しすぎる彼女にとって、同じ種族である彼らはあまりにも酷い。

5ヶ月前 No.209

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=g9SL9EujHv

「バッドエンドもメリーバッドエンドも、あんまり好きじゃないの」


 苦笑を浮かべて、彼女はポツリと呟く。その後何かを言っていたような気がするけれど、残念ながら僕には聞き取ることが出来なかった。橙と藍色が混じり合う空を見上げて、もうすっかり馴染んだ学校から家までの道のりを歩く。吐く息は白く凍り、時折吹く風は容赦なく僕から体温を奪っていった。真冬の夕方。あともう少しすれば、オリオン座が見える頃じゃないだろうか。空を指でなぞる振りをして、僕はふっと視線を地面に落とす。……彼女が最後に呟いていた言葉。アレが一体何なのかあの時の僕には分からなかったけれど、今ではわかる。彼女はきっとこう言っていたのだろう。



「物語の中でくらい幸せになりたいから」




 彼女と会った数日後。彼女は行方不明となり、更に数日たったある日。学校近くの河原で水死体として発見された。家族とも友人ともあまり上手くいってなかったことから自殺ではないかと噂されているが、本当かどうかは定かではない。けれど、彼女が壮絶な人生を送ってきたことは今では周知の事実だ。

5ヶ月前 No.210

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=g9SL9EujHv

4歳まで実の両親から虐待を受け、施設で生活。それから17歳までのあいだ、彼女は何度か施設を出ているが、数年と立たずに舞い戻ってきている。家族と反りが合わなかったという可愛らしい理由から養父からの性的虐待など。様々な憶測が飛び交っているが、果たしてその中に真実はあるのだろうか。彼女が2度目に施設に帰ってきた時は、酷い人間不信に陥っていたらしい。誰も信じられず、自暴自棄になった彼女は時折自分自身を傷つけていたとか。その証拠に、彼女の体には無数の傷跡が残っていたらしい。もうすっかり藍色に染まった空から視線を外し、僕はついっと目を細める。



「ねぇ。君はどうして大嫌いなバッドエンドを選んだの?」




 僕の先を歩く彼女は、視線だけをこちらに向けるとあの時と同じ笑顔を浮かべた。




「私は十分幸せだったわ。私にとっては、これがハッピーエンドなの。悔いはない」

「そう。てっきり恨み言の一つや二つ言われると思った」



 小首をかしげる僕を見て、彼女は唐突に半眼になると徐にツカツカとこちらに歩み寄り、僕の胸ぐらを掴んで自身の方に引き寄せた。額と額がふれあいそうな距離。前を見れば間近に彼女の竜胆の瞳があり、僕はほんの一瞬息を詰める。表情の変化は、本当にわずかだったと思う。長年付き合っている者でも気づくか気づかないかのギリギリの変化に目ざとく気づいた彼女は、片眉をあげると、それはそれは美しい――意地の悪い笑みを浮かべた。



「お望みならいくつだって言ってあげるけど?」

「いや……、遠慮しとくよ」

「そう。残念ね」




 満面の笑みを浮かべる彼女に、僕は降参だと言わんばかりに両手をあげる。全く……。彼女には叶わない。出会った当初は、彼女にこんな一面があるだなんて思いもしなかった。いつの間にか僕の隣を歩く彼女を一瞥して、ずり落ちたスクール鞄を肩に掛け直す。僕は今は高校生だ。



「君が死んだ理由。家族とお友達のせいになってたけどいいの?」

「良くないわ。あの人たちには本当に助けられたんだから。しっかり訂正してね」

「了解」







5ヶ月前 No.211

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=muOdp3X0hk

「第一ボタンはちゃんと閉めろってどれだけ注意したらいいんだ。このボケ!」


 それは突然のことだった。
数学の授業開始とほぼ同時。私と目が合うなり急に不機嫌そうな顔をした担任兼数学教師は、言葉より先に私の頭を思いっきり叩いた。隣の男子の「ヤベェ。笑う」という呟きはもちろん聞き逃していない。殺すぞ。隣の男子への怒りを少し混ぜて担任をにらみあげた私は、第一ボタンを締めながらベーっと思いっきり舌を出す。我ながら子供っぽい思わなくもない。




「ただ単に忘れてただけなのに叩かなくてもいいじゃないですか!」

「忘れた? お前、これまで先生がどれだけ注意してきたと思ってるの? むしろ、今まで手を上げなかったことに感謝してほしいわ」

「ぐ……っ!」




 小さな校則違反を散々犯してきた自覚のある私は、言葉も出ずそのまま押し黙る。第一ボタンも故意に開けていた時があったにはある。肩より長い髪はくくるのが面倒でだいたい下ろしており、ブレザーはいつも全開。流石にスカートはおる勇気が無かったけれど、日頃の行いのせいで疑われたことは数しれず。正直、今日のこれは自業自得だというのは何となく理解していた。先生達も人間であり、腹立つことの一つや二つはある……多分。


4ヶ月前 No.212

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=muOdp3X0hk

 親不孝だと罵られたことは何度もあった。どうしてそんなふうに育ったのだと。そんなふうに育てた覚えはないと。ヒステリーになった母は金切り声をあげ、父は好きなだけ怒鳴り散らしては軽蔑した目で私を見た。真夜中の自室。窓を開ければ夏特有の湿気を含んだ生ぬるい風が吹き、私はツイッと目を細めるとベッドの上に放り投げていたタバコとライターに手を伸ばす。火をつけたタバコを口にくわえて、ゆっくりと煙を肺に取り込む。



「……不味い」




 煙と共に吐き出した言葉が静かな部屋にやけに響いた。

4ヶ月前 No.213

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=muOdp3X0hk

 ぼんやりと空を見上げる。綺麗な青空に浮かぶ白い雲。飛行機が青空に白い線を描くのを眺めながら、私は一つ息をつく。ヤケに現実味のないそれを、頭では理解しているつもりなのにひどく曖昧で、この目で確かに見たはずなのにまるで夢の中の話のように判然としない。それは現実ではなかったのだろうかと首を傾げる一方で、もう一人の私が首を横に振って夢ではないことを断言する。


「……泣けないなぁ」



 確かに悲しくて辛いはずなのに。私の瞳は乾いたままで、心にぽっかりと空いた穴はどういうわけか私の体にしっくりと馴染んだ。

4ヶ月前 No.214

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=muOdp3X0hk

 実の両親の記憶はほとんど無く、彼女の幼少期の記憶のほとんどは養父母に詰られていた記憶で埋まっている。両親が生きていたならばそれなりの家柄の令嬢だったと聞いたが、物心ついた時には使用人並みの扱いを受けていた彼女にはいまいちピンとこない。綺麗なドレスなんて烏滸がましい。自分には安物のワンピースで十分だし、給料だって欲しいとは思わない。養父母に育ててもらっている身でお金をねだろうだなんて図々しいにも程がある。人はよく、彼女のことを可哀想だと言うけれど、何だかんだと言いながら養父母は自分をここまで育ててくれた。使用人並みの扱いを受けていると言ってもそれだけで、決して人間以下の扱いを受けている訳では無い。暖かい食事だって貰えるし、ベッドだってある。失敗したら怒られるけれどそれは当然のことで、それ以外は特に難癖をつけてくるわけでもない。今まで辛くなかったといえば嘘になるけれど、だからと言って死にたいと思ったこともない。彼女は今の生活に満足していた。……――満足しようとしていた。
けれど……。
 パリンっと金属が砕ける甲高い音があたりに響く。何かを持っていただろう体制で固まった彼女は、ゆっくりと床に視線を落とし、ひくりと息を飲んだ。青を通り越して紙のように白くなった顔は恐怖で引き攣り、青くなった唇は心なしか少し震えている。ゆっくりとしゃがみ込んだ少女は、震える手を割れた陶器の破片に手を伸ばすとのろのろと周囲を見回した。足音は聞こえない。まだ養父母たちは帰ってきていないと言うことだろう。それを確かめ、彼女は再び粉々に割れた白磁のティーカップの成れの果てに視線を落とし、ぐっと唇をかんだ。
(……どうしよう。)
このティーカップは、養母がとても大切にしていたものだ。親友に頂いたとても高価な大切なものだと、誕生日やクリスマスなど特別な日にしか使用してはいなかった。そのため、彼女も扱いには慎重になっていたのだが……。この頃叱られていなかったせいか、すっかり気を抜いてしまっていた。まさかこんな大切なものを割ってしまうなんて。静かに陶器を拾い集めていた彼女は、指にチリっとした痛みを感じて目を眇める。破片から手を離しそうになったのを何とか耐え、白磁のそれに赤い血が伝い落ちるのを眺めながら、彼女はふっと息を詰める。もし。もし、このことが養父母に知られてしまったら……。叱られるだけでは済まないだろう。もしかしたら酷い折檻を受けるかもしれない。それとも、ここを追い出される……? 何にせよただで済まないのは必須。無意識に腕にある痣の場所を掴み、震える息を一つ零す。昔ひどい失敗をした時は、酷い暴力を受け、3日間食事を与えては貰えなかった。自分が失敗したのだから、その仕打ちを受けるのは当然だ。しかし。
(怖い)
罰を受けて当然だと思う一方で体がそれを拒絶する。痛いのは怖い。養父母の自分を見る、見下すようなあの瞳が怖い。自分は抜を受けるべきだと必死に自分に言い聞かせるのに、それに反して呼吸はどんどん荒くなる。どんなに怒鳴られてもいい。どんなに貶されたって、仕方が無い。でも、暴力が、何よりも養父母のあの目が、どうしようもなく恐ろしい
(だって。だってあの目は……)


「――っ!」


 気づけば彼女は、家を飛び出していた。脇目も振らず駆け出し、出鱈目に道を選択する。あまり走ることのない彼女の息は既に乱れていたけれど、そんなことはどうでもよかった。……自分は、とても弱い人間だ。真実を知っているくせに、現実を直視することを避けている。あえて知らないフリをして、私は幸せだと自分自身に言い聞かせて。



「……っ」



 喉が焼けるように痛い。今すぐ足を止めてしまいたい。けれども止められないのは、脳裏に幾重にも響く声があるからだ。最初は不明瞭だっそれは、やがて徐々に徐々に鮮明になり、嫌でも彼女に現実を突きつける。



『レティシア。お前も義姉さんたちと一緒に、死んでしまえばよかったのにね』



 ハッと足を止めた時、そこは見知らぬ森の中だった。



【大分最初の方に作ったレティシアの話。文章力…………】

4ヶ月前 No.215

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=muOdp3X0hk

「大層な忠誠心ね。頭が下がるわ」


 言葉とは裏腹に小馬鹿にしたように鼻で笑った彼女は、ゆっくりと少年に歩み寄る。自分たちの行動は正義だと信じて疑わず、それに歯向かう者達は悪だと弾圧し、花を摘み取るが如く簡単に人を殺してしまえるその残虐さに、ここにいる者達は誰ひとりとして疑問を持たない。いや、もしかしたら自分のようにおかしいと思っている人間がいるかもしれないけれど、それは極少数だろう。コツコツと、ヒールがタイルを叩く硬い音があたりに響く。あからさまに人を見下したような目から視線を逸らさずにいた彼女は、艶かしい手つきで彼の頬に手を滑らせ顔を近づけた。




「だけど、哀れね。その純粋な忠誠心は貴方を盲目にさせている一番の原因よ。頭ごなしに反逆だと怒鳴るのではなく、たまには冷静に周りを見渡してみなさい。そうしたら、自分の行動がいかに愚かだったか、気づけるんじゃないかしら」


 突き放すように彼から距離を取り、彼女は嫌悪を隠そうともせず彼を睨み据えた。

3ヶ月前 No.216

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=muOdp3X0hk

 目の前に広がるどこまでも深い黒は、ねっとりと私の体に纏わり付き、呑み込む。どれだけ必死に手を伸ばしても。喉が裂けるほど叫んだって。私のことなんて誰も助けちゃくれない。そうでしょ? だって私はイラナイ子なんだもの――。


 誰かが言った。私はとても価値のある人間だと。誰かは言った。私は呪われた娘だと。誰かは、叫んだ。お前なんて死んでしまえと、傷だらけの手首から血を流しながら私に向かって刀を振り上げた。眠らない街。吉原。新月の夜でも明るいそこで女たちは命懸けで色を売る。知らない男に手を引かれながら、私はキョロキョロとあたりを見回す。一見華やかで優雅に見えるけれど、ここはまさに生き地獄。"外"の人たちは遊女を馬鹿にしているけれど、私は彼女たちを尊敬している。華やかで残酷なこの世界で、それでも彼女たちは蝶の如く美しく舞う。逆境の中生き抜く女性達は美しい。以前の主はそんなことを言っていたっけ。苛虐の趣味のある最悪な男だったが、この意見ばかりは私も賛同せざすをえなかった。蝶よ花よと大切に育てられたお姫様よりも、私は遊女たちの方が遥かに好きだ。……もっともそれは、妬みのようなものなのだけれど。私の手を引いていた男がある店の前で立ち止まる。名前は確認しなかった。どうせ長居はしないのだから。中から愛想のよさそうな男が現れ、私を見るなり大きく目を見開いて男と私を交互に見やる。二言三言何やら交わしているようだったが、興味がなかったので聞いていない。ふと思いついて見上げた空に月はなく、嗚呼。そう言えば今日は新月だったと肩を落とすと、男が急に強く私の手を引いた。まろびそうになるのを何とか堪え、私は彼に手を引かれるまま店の中へと足を踏み入れた。ある部屋に導かれてしばらく、神経質そうなつり目の女性が私たちの前に腰を下ろし、あからさまに私を値踏みする。たっぷり数分掛けて上から下まで舐めまわすようにしていた彼女は、私と視線が合うなりゆっくりと口を開いた。




「……アンタ、名前は?」

「ありません」

「は……?」

「名前は、ありません」












3ヶ月前 No.217

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=f6FWrjKrKr

 つまらない人生だった。他人の顔色を伺い、誰かのために行動することで自分の存在価値を見出し、自分の時間はすべて誰かに褒められることに費やした。現実から逃避して、ただ認められたいだけの人生は、本当に……――本当に息苦しい毎日だった。まるで水中の中にいるように、どれほど息を吸ったって苦しいままで。泣きながら喉を掻き毟るなんてことは日常茶飯事だった。今思えばこの時点で、私は既におかしくなっていたんだと思う。だけど、その時は気づかなかった。他人の目を気にすることに必死で、自分のことなんか見ようともしなかったから。

3ヶ月前 No.218

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=f6FWrjKrKr

『嗚呼。私の可愛いコーデリア。愛してるわ。世界中で誰よりも』


 視界を埋め尽くす橙色。それが炎であるということを理解するのに、数分の時間を要した。無音だった世界が徐々に音を取り戻し、人々の悲鳴と断末魔が耳に突き刺さる。ぼんやりと地面に座り込んでいた彼女は、ゆるりと周囲を見回し、まるで何も知らない幼子のようにこてんと首をかしげた。

――これはどういうこと?

 炎に包まれた街。逃げ惑う人々。色とりどりのタイルの敷かれた道につまづいた少年は、焼け落ちた建物の下敷きとなり死んでいった。母親を必死に呼ぶ幼い少女の近くには、彼女を庇ったのだろう。母親の骸が炎に包まれ、燃えている。

――何が起こっているの?

 凄惨な現実は、まるで夢のようで。胃がムカムカとする一方で、情報を処理しきれていないせいか彼女は酷く冷静だった。

3ヶ月前 No.219

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=f6FWrjKrKr

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3ヶ月前 No.220

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=f6FWrjKrKr

 人でごった返す交差点。喧騒は止むことを知らず、私のすぐ隣を焦燥を滲ませたサラリーマンが駆け足で通り過ぎていく。いつもと変わらない朝。いつもと変わらな日常。だけど、いつもより虚しいのは、何故? いつもよりスマホの音量をあげて、お気に入りのアーティストの新曲を流す。少し高めの――それでも、他人から見ればリーズナブルな価格に入る――イヤホンは、低音をよく拾ってくれるのに主張しすぎないところがすごく気に入っている。我ながらいい買い物をした。厚みが少々難点な手帳型ケースを一瞥してスマホをポケットに押し込み、人の流れに乗って歩みを進める。ベースの小気味良いリズム、シンバルの目の覚めるような音と絶対的なリズムを刻むバスドラム。エレキギターの胸に響くようなハーモニクスは、昔からたまらなく好きだった。ぼんやりと見上げた空は灰色で、嗚呼、と私はひとつ瞬きをする。



「傘、忘れてきちゃった」



 ポツリと呟いた言葉はもちろん誰にも届かない。たまたま通り過ぎた学生が奇妙な目でこちらを見るのを感じながら、私はハァとため息をつく。おかしいな。確か、朝の天気予報では晴だったはずなのに。まぁ……いいか。いざとなればコンビニで買えばいいし、いっそのこと濡れて帰るのもいいかもしれない。今はなんだかそんな気分。肩からずり落ちたスクールバックを肩にかけ直し、私は僅かに眉を顰める。火曜日の時間割はやたらと重い。というのも、やたらと分厚い教科書が3冊も入っているからだ。私よ通っている学校は置き勉が禁止な上にバレたら反省文とやたらと面倒なために毎週こんなに重たい鞄を持っていかなければいけない。何を考えているのか、下手をすればプリント1枚忘れただけで反省文を書かされるのだから、うちの学校は本気で頭おかしいと思う。あれ。でも、おかしいな。



「いつもこんなに重たかったっけ……?」




 ズッシリとした教科書やら参考書の重み。いつもはこんなに必死になっていたっけ。もっと軽かった気がする。……気のせいかな。イヤホンから流れる曲が変わる。突き抜けるようなハイトーンが印象的なそれは、昔ことある事に聞いていた気がする。曇り空の元。切り替わる音楽を感じながら、学校への道を歩く。丁度曲がり角を曲がろうとした時、急に肩を勢いよく引かれて私は息を詰める。無理やり体を半回転させられ、相手と向き合う形になった私の両肩をがっしりと掴んだ某かは、必死に息を整えながら私の体を揺さぶった。




「しっかりしろ。理子!!! 今日は水曜日じゃないし、学校も休みだろ!?」

「え……。何言ってるの? 翔太」




 高校デビューで染めた金髪が印象的な彼は、彫りが深いせいか昔からよくハーフに間違われている。幼なじみの翔太の言葉が理解出来ずに首を傾げると、彼は途端に泣き出しそうな顔をする。




「理子。お前の行くべき場所はここじゃないだろ?」

「え。何。さっきから何いってんの?」


2ヶ月前 No.221

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=ciuNLXOO3A

「君が幸せになるのなら、僕はどんなことも耐えられるよ」


 春の暖かい光を背負った彼は、そう言って儚く笑った。幼い少女にはその言葉の真意が分からなかったけれど、今ならわかる。彼はこの時から、自分の身代わりとして生きることを決意していたのだと――。



 絢爛な部屋の中に不自然にぽつんとある大きな鳥籠。人1人ほど入れそうな大きさのそれには、鎖に繋がれた少女が1人、ぐったりと格子にもたれ掛かって座っていた。彼女が身じろぎする度にカチャカチャと鎖がこすれる音が静かな部屋に響き、少女は深々とため息をついた。



「……っのやろう。オレはテメェのペットじゃねぇっつーの」






2ヶ月前 No.222

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=ciuNLXOO3A

「ねえ。何でアンタは本当の事を嘘って言って、嘘のことを本当っていうの?」


 悪意や揶揄いの混じらない純粋な瞳が私を捉えた瞬間、私は彼に対して感じていた違和感の正体にハッと思い至り、ぎこちない動作で小首をかしげる彼に視線をよこす。――嗚呼。そうか。私は無意識に恐れていたんだ。この、何もかもを見透かしたような綺麗な瞳が自分に向けられることを。だから私は、自分でも気づかないうちに彼を倦厭して避けていた。内海聖という人間が、嘘で塗り固めた人形であることを見破られるのを恐れて。けれどもその行動は、どうやら無駄でしかなかったようだ。二人の間に、重苦しい沈黙が流れる。最初にそれを破ったのは他の誰でもない彼自身だった。私を見つめていた視線をふいと窓の外にやった彼は、壁偽をもたせ掛けると静かに目を閉じる。




「オレ、人の嘘を見破るのが昔から得意なの。なんて言うんだろう。この人はこういう行動をしているから嘘をついている! とか、そんな心理学的な事じゃなくてさ、どういうわけが感覚でわかっちゃうんだよね。あ、この人は嘘ついてるなって」




 パチリと目を開いた彼は、手持ち無沙汰に本棚にある本の表紙を指でなぞりながら、適当な本を一冊選ぶと特に読むわけでもなく、パラパラとページをめくっていく。特に興味の引かれる内容ではなかったのか、パンっと勢いよく本を閉じた彼は、ちらりとこちらを見やると煮え切らない表情を浮かべて頭をかいた。



「今までは、気づくだけでなんも感じなかったのにね、何ていうか……アンタの嘘は、気持ち悪い」

1ヶ月前 No.223

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=NO9hTgQzLk

 ――ずっと後悔している。
自分が死んだあの日、彼女は静かにけれど確実におかしくなっていった。自身の中で眠っている彼女に意識をやり、少女は小さくため息をつく。"彼女"はこの肉体の宿主にあらず。この体の持ち主は呑気に眠っている少女のものであり、彼女の肉体はとうの昔に土に還っている。慣れた手つきで眼帯を左目に付け替えた彼女は、炯々と輝く大きな満月を見つめて眩しそうに露になった赤い瞳を細めた。
 体の持ち主と少女は双子としてこの世に生を受けた。一卵性双生児の彼女達は見た目や好みこそ同じだったが、性格は真逆も真逆。何でもかんでも完璧にこなすハッキリとした正確であるのに姉のミレーユに対し、妹のロザリーはとにかくマイペースでおっとりとしており、物心ついた時にはミレーユがロザリーの世話を焼くのが当たり前になっていた。

1ヶ月前 No.224

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1ヶ月前 No.225

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 いつも心には不安と恐怖を抱えている。未来への希望なんて少しもなくて、夢があるはずなのに先が見えない。何か一つのことにがむしゃらに走ることが出来ない私の前には、進むべき道なんて一本もなくて。毎日が手探り状態で、自分が正しい道を進んでいるのか誤った道を進んでいるのかさえわからない。ただ分かるのは……。



「――私が置いていかれてることだけ」




 他社とは決定的に違う私の欠点。何かのために一生懸命になることができず、いつもギリギリになって後悔する。未来の幸せより目先の楽。馬鹿な私はそれが行けないとわかっていながらも直せない。ズルズルと、いつまでも無為な日々も引きずっている。本満たされない心を抱えて、何かを得ようと努力すらしない。嗚呼。本当に私はダメな人間だ。自分自身にレッテルを貼り付け、今日も私は諦める。

1ヶ月前 No.226

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1ヶ月前 No.227

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男は慌てて自らのマントを脱いで赤児に巻き付け、熱出していまいかと額に触れる。幸いにも熱はなかったものの、氷のように冷たいそれに彼はゾッとした。今は泣いているからまだいい。けれどもしまた、泣くことをやめてしまったら。きっとこの子供は……。赤児を見つめたまま固まっていたのも束の間、彼はギリッと唇を噛み締めると片手で赤児を抱き直し、懐から白い紙を取り出して呪文のようなものを小さく唱え始めた。彼が口を閉じるより早く、白い紙は瞬く間に白い鳥へと姿を変え男の周りを旋回した後、彼の左肩に止まり、今だ泣き続ける赤児を見やり不思議そうに首をかしげた。



『坊やがコレを使うなんて珍しいと思ったら、なんだいこの子供は。まさか坊やの隠し子? 冷めた顔をしてやることだけはやってるんだね。私はてっきり君が男――』

「ごちゃごちゃとうるさいな! 話はあとだ。今すぐ俺たちをお前の元へ送ってくれ!!」


『俺"たち"ー? 私は子供が嫌いなんだけれど』


 男の頼みに明らかに嫌悪感を示した鳥は、心なしか少し眉をひそめた気がする。


「お前の趣向なんて知ったことか!! 報酬ならいくらでもくれてやる。だから早く。せめてこいつだけでも……っ」



 まるで自身の命を乞うように。今にも泣き出しそうな彼を一瞥した鳥は、長い沈黙の後に深々とため息をつくとバサりと翼を広げて冬の寒空を上昇する。



『聞いてなかったの? 私は子供が嫌いなんだよ。この子供だけ私のところに連れていったら、一体誰がコレの面倒を見るっていうの? 一つ貸しだからね』

「ああ……」




 上昇した鳥が鳴き声をあげるや否や、柔らかい光が二人を包む。あの男は一癖も二癖もある厄介なやつだが、腕だけは確かだ。これでこの赤子も死なずにすむ。安堵したのも束の間、この雪の中長時間外にいたのは彼とて変わらない。暖かな光に誘われ、男は静かに瞳を閉じた。

1ヶ月前 No.228

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=NO9hTgQzLk

「……いや、瞳を閉じたじゃないんだよねー。何してるの君? 世話係の君が熱出してどうするの? ほんっと君って肝心な時に役に立たないよねー。私が予言してあげるよ。君に恋人ができたら"役に立たないから"っていう理由で捨てられるよ」

「……」




 ――何も言い返すことが出来ない。
ベッドから半身を起こした男は、やれやれと大げさに肩を竦めて首を左右に降る長髪の男を見上げて表情を引きつらせる。やはりこの男を頼るべきでは無かった。ムカつく。よく回る舌で未だにペラペラと嫌味を吐き出す男を睨め付け、彼はぐるりと部屋を見回した。木造建築の柔らかな雰囲気の建物は町外れにあった小屋を改装したものらしい。外とは違い暖炉がたかれた暖かな部屋に、シューシューというやかんの音が妙に心地よい。住んでいる者が物腰柔らかな老年夫婦だったならば、どれだけここが居心地の良かったことだろう。本当に惜しい。何度か部屋の中を見渡した彼は、しかし一向に探し物が見つからずに彼女に振られることが予言からどんな飛躍の仕方をしたのか毒薬の話をしていた男に視線を戻し首をかしげた。



「なぁ。赤ん坊は……?」

「嗚呼。アレなら奴隷が面倒見てるよ。全く。隣国から奴を引っ張ってくるのには苦労したんだからね」

「……シャノには悪いことしたな」



 男が面倒くさそうに顎で示した方に視線をやった彼は、そちらに視線をやり申し訳なさそうに呟く。シャノことシャノワールはひょんなことからここに転がり込んできた黒髪の少女のことである。ここに来た当初は纏っていた衣服もボロボロで体中傷だらけで、当初は誰にも心を開こうとしなかったのだが、今ではかなりフリーダムになったように思える。頑なに自分の名前を明かさない彼女に苛立ち彼が"シャノワール"と適当に呼び始めただけのそれを彼女が意外にも気に入ったらしく、今ではシャノワールという名前が定着してしまっている。嫌がらせのつもりで呼んだ名前を気に入られたのが気に食わなかったのか名付け親の彼は彼女のことを奴隷呼びだが、彼女には全く応えていない。隣国にいたということは遊びに出かけていたのだろうか。それとも、この男の使いっ走りか。どちらにせよ申し訳ないことをしたのに変わりはない。よっこらせと床に足をついた彼は、腕を組んでこちらを見下ろす男を見上げる。



「あの子、どうだった? どこも悪いところは無かったか?」

「いや、今は君と同じで風邪をひいて寝込んでいるよ。体がやけに冷えていたけれど、もしかしてアレ、捨てられてたの?」

「ああ……」




 ちらりとこちらを見下ろされ、居心地悪そうに視線を逸らす。







1ヶ月前 No.229

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=NO9hTgQzLk

「フィル。俺たち王族はどうして裕福な生活を与えられていると思う? それはな、何不自由ない生活と引換に王族は国の為に"義務"を果たさないといけないからなんだよ」

「ぎむ……?」



 大きな青い瞳を一度パチリと瞬いて、未だ幼い彼女はコトンと首を傾げる。その姿があまりにも愛おしくて、彼はクスリと口元を緩めると彼女の頬を優しく撫でた。




「そう。義務だよ。国の為に一生を尽くし、国の為に命を捧げる義務」



 だけど、とキョトンとするフィルに視線を落とすと彼は彼女と目線を合わせるようにストンとその場にしゃがみ込み、フッと微笑んだ。




「お前は俺の娘だけれど、そんなことは気にしなくていい。父様はな、お前には幸せになって欲しいんだ。……余計な苦労を掛けてしまって、本当にすまない」

「ぱぱ?」




 目の前の父親の顔が、悲しそうに細められる。それを敏感に察したフィルは、何とかして父親を励まそうとワタワタと彼の前で慌て始めると、自らの両頬を人差し指で指しニッコリと可愛らしい笑みを見せた。




「ぱぱー。わらって?」

「フィル?」

「フィルはねー、ぱぱのわらったかおがすきなの! ぱぱのえがおをみるとねー、ここがポカポカする」

「は……」





1ヶ月前 No.230

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=NO9hTgQzLk

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1ヶ月前 No.231

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=NO9hTgQzLk

 町外れに存在する隔離病棟には奇病患者が収容される。美しい病から思わず眉をひそめてしまう病まで。ここには多種多様な患者たちが存在し、常人は病院の周辺には決して近寄らない。開け放たれた窓の淵に頬杖をつき、炯々と輝く満月を静かに見つめていた少年は、ふと後ろを振り返るとニコリと少年のような笑みを浮かべた。

「今日は満月は綺麗だね。クロ」

ベッドから体を起こし少年と同じように窓の外を見つめていた彼は、ゆっくりと少年に視線をやり、ふわりと微笑んで首肯する。それを、どこか切なそうに目を細めた少年は、よっこらせと随分と年寄りじみた声を上げると、中腰になって椅子ごとベッドの近くに移動した。不思議そうにこちらを見つめる男性――クロを一瞥した彼は、どこか人の悪そうな笑を浮かべるとおもむろに彼のベッドに容赦なくダイブした。


「どうしたの? レイ。ビックリするじゃないか」

「んー、何となく?」

「何だよそれ。変な奴だなぁ」


驚いた、という割には普通に見えるクロに、少年の瞳が微かに揺れる。クロは、少年――レイがここに来るずっと前からこの041号室で生活していた。彼が病を発症したのは僅か4歳の時らしく、友達についた優しい嘘が彼を苦しませる原因となった。嘘をつく度に体に小さな黒い花が咲き、感情が欠落していく彼は、それでも誰かのために優しい嘘をつく。レイがここに来た当初はとても感情表現が豊かだったのだが、今ではいつも微笑んでいるばかり。びっくりしたという割に驚いていないのも恐らく"驚く"という感情も欠落してしまったのだろう。だけど彼は、レイを心配させないようにと重ねて嘘をつく。
(ねえ。クロ。僕は君に何をしてあげられるの?)
ここに来た当初、レイはクロに救われた。だから今度は自分がクロを助けようと、クロのために何かがしたいと行動を起こす度にそれは空回って結果的にクロの体の花を増やす形となる。自分が彼にしてあげられることなんて何も無いのだろうか。


「レイ」

知らず俯いていたレイは、クロに名前を呼ばれてゆっくりと顔を上げる……より早く、クロがレイの両頬を両手で包み込むと、強引に顔をあげて彼の瞳を真っ直ぐに見つめた。クロの赤と黒の瞳に、なんとも情けない表情をする自分が映り、気恥ずかしくなってレイは視線をそらそうとする。けれど、それをクロが許すわけもなく、レイの視線をおって顔を傾けたクロの表情は、月光も手伝ってどことなく神秘的に見える。


「ベッドに飛び込んで来たり落ち込んだり、レイは相変わらず忙しいね」

「わ、悪かったね。忙しくて。それより、顔が近いんだけど……」

「レイの気のせいじゃない?」

「嘘つけ!」


クロの手から何とか逃れようとするレイと、満面の笑みでレイを逃がすまいと手に力を入れるクロ。しばらくの間攻防が続いた後、諦めたのはレイの方だった。優しく包み込まれていた頬は今では力任せに潰され、モザイクをかけられるレベルの酷い顔になっているのは容易に想像がつく。怒りに任せてギロリとクロを睨んだレイだったが、視界に入った彼の肩が明らかに震えていることに気づいて口を開いた。


「……何だよ」


発された声音は余りにもふてぶてしく、さらにクロの笑いを誘う。堪らず吹き出すクロに、レイはぴしりと額に青筋を立てた。静かに怒りの炎を滾らせる彼を宥めるように頬から手を離してポンポンと優しく肩を叩き、次いでとばかりに乱暴に彼の頭を撫で回したクロは、口を尖らせて明らかに拗ねている彼の顔をのぞき込む。


「ごめんごめん。冗談だよ。レイがまた難しそうな表情してるから励ましてあげようと思って」

「……それはどうもありがとう」



誰のこと考えてたと思ってるんだと視線を逸らすレイに、クロは一つ息をつくと徐に彼の額に容赦ないデコピンを食らわせた。静かな院内にレイの叫び声が響き渡る。



「いってええええ!! 急に何すんだよ!?」

「あのさぁ、レイ」


額を抑えて涙目になるレイを見つめたクロは、不意に片方の口角だけあげてそこ意地の悪い笑を浮かべるとレイのTシャツを引っ張り徐に顔を近づけた。額と額が触れそうなほどの距離に、軽くパニックになっているレイに気付かないふりをして、クロはとてつもないほど綺麗な笑みを浮かべた。


「俺、お前のこと好きだよ」

「…………なんて?」

「レイのこと、好きだよ」

「………………それ、どういう意味?」

「もちろんloveの方」



 今までに見たことのない神々しい笑顔を浮かべるクロに、レイは言葉が出ずに金魚のように口をパクパクと動かす。それを可笑しそうに眺めていたクロは、追い打ちをかけんばかりにレイの顎を中指でクイッと上向かせるとツイッと目を細めた。


「そういう訳で、俺はお前をどうこうする気満々なんだけど、どうする?」

「……き、今日はお部屋に帰ります」


ギシギシとぎこちない動きで立ち上がったレイは、右手と右足を同時に出して歩き始める。それに吹き出しそうになったクロはなんとかそれを堪えると、部屋を出る彼にヒラヒラと手を振った。彼の顕になった腕に、小さな黒い花が花開く。


「嘘だよ。ばーか」


ただお前が、余りにも俺のことで悩んでいるから。これで当分はこの事しか考えりないだろうな、と炯々と輝く満月を眩しそうに見上げた。


【 この長さで途中から訳分からなくなるから長編絶対書けないだろうなって 】

1ヶ月前 No.232

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=NO9hTgQzLk

「未来が見えないの」
彼女はとても苦しそうにそう呟いた。自分の未来が真っ暗だと。目標は確かにあるはずなのに、自分が正しい道を走れているのか分からないのだと。何となく人生を送ってきた僕が彼女に何かを言うにはあまりにも無責任な気がして。僕はただ、彼女に寄り添うことしか出来なかった。それを、今ではとても後悔している。夕焼け色に染まった世界で、踏切の前に立ち尽くす僕を通行人は不思議そうな視線をよこす。普段の僕なら恥ずかしくて直ぐにその場を去っただろうけれど、今日はそんなことを気にする余裕は僕にはなかった。踏切の脇に置かれた不自然な大量の花の山。色とりどりのそれはまだ瑞々しく、僕が来る前に沢山の人がここを訪れただろうことは想像に難くない。だって、彼女は愛されていた。花の山に近づいた僕は、そこに手にしていた百合の花束を加える。彼女が好きだった白い百合の花。込み上げてくる何かを堪えようとして、僕はぐっと奥歯を噛み締める。数日前。僕は彼女に会った。けれどそれっきり彼女が学校に来ることはなく、3日前、彼女の母親と交流のあった母から彼女が死んだという話を聞かされた。曰く、彼女は僕とあったあの日から行方知れずになっていたらしい。やっと連絡が来たのは3日前。彼女が死んだ日に、「ありがとう」という言葉だけが送られきたのだとか。話を聞くと、どうやらそれは彼女の母親だけではなく、友人にも送られていたそうだ。そしてその夜。彼女はここで、自らの命を絶った。遺書はなく、彼女がどうして自殺を図ったのかは誰にもわからない。けれど、もしかしたら……。彼女の言葉を思い出し、僕は耐えきれずに地面に膝をつく。僕は、彼女のSOSに気づけなかった。どうしてあの時僕は、大丈夫だの一言も言ってやれなかったのだろう。何か声をかけてさえいれば、今日は変わったかもしれないのに。彼女はまだ、生きていたかもしれないのに。ぽたり、とアスファルトに出来たシミは僕の後悔と同じ数だけ増えていく。
「ごめんなさい……」
僕が、君を殺してしまった。

22日前 No.233

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=NO9hTgQzLk

 この国は、未婚の若き国王によって治められている。5年前。前国王の治めるこの国は、貧富の差が激しく、貧しいものは金に出来るものは子供でさえ売り飛ばすほどだった。当時の国王には王子が3人おり、当代の国王はその3番目の王子にあたる。一番継承権から遠かった彼は、しかし力づくで王位をもぎ取り、たったの5年で国を豊かにしたということもあり、国民からの信頼は厚い。その髪色も相まって太陽王と呼ばれる彼には、不思議なことに一人の王女がいる。黄金の髪を持つ彼に対し、腰まで伸びる髪は月光を思わせる白銀。夕闇を溶かしこんだような不思議な瞳は伏し目がちで、くっきりとした二重であり長いまつげはいつも頬に影を落としている。女性らしい体つきでありながら、ウエストはワルツを踊ろうとすれば折れてしまいそうなほどに細い。フィル=ド=ディルヴァンクール。才女として名高い彼女は、国王が16歳の時に突然城に連れ帰った娘である。しかし、それは城でも数人が知る真実であり、ほとんどの者は国王の娘だと信じて疑わない。



「――ねぇ。フィル。お前はどうしてここにいるの」

「……」

「へぇー?? 私を無視するなんて反抗期? いい度胸だね小娘ごときが」

「あああああ。ごめんなさい! 申しませ……――痛い痛い!! ギブ!!!」



 びしりと額に青筋を立てた黒髪長髪の男は、王女である彼女に臆することなく拳でこめかみをぐりぐりと容赦ない。才女とてたかが12歳。行儀悪く机をバンバンと叩き降参の意を伝えた彼女は、涙目になりながら男をギロりと恨みがましく睨んだ。



「んふふ。なぁに? その目は。何か言いたいなら言ってごらん?」

「な、何でもないです。ごめんなさい」




7日前 No.234
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