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泡沫のイリュジオン

 ( 書き捨て!小説 )
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妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★ldpWy4Uvko_EP8








――願ったのは"死"と言う自由だった。


――望んだのは、"死"という終焉だった。



でも、神様は自分にそれすらも与えてくれない。

自分の望みは何も叶えてくれない。

夜空を見上げれば、紺碧の空には砂を振りまいたかのように数多の星々が輝き、少女は虚ろな瞳で手を伸ばして星を掴むふりをする。

この手は、何も掴むことは出来ない。

幸せも、望みも。己の人生の終焉でさえ。

彼女の人生は全て人の手の中に。それは、商品のように値段をつけられ、売買されて、数多の人の手に渡って行く。

少女が生きるも死ぬも、その時の"主"次第。

彼女が選択する権利は、これっぽっちもない。

少女はおもむろに一歩を踏み出すと、今まで茶色のタイルしか見えなかった景色が一変する。

いつもかけずり回っている庭の地面は遥か下方に。

真夜中だと言うのに、庭を行き交う使用人たちは普段は自分よりも背の高い者たちばかりなのに、今では蟻のように小さく見える。

少女は再び一歩踏み出すと、満面の笑みを浮かべた。

今までずっと、待ってきた。

神が自分に、"死"と言う贈り物をくれることを。

けれど、我らが主は自分にそれを与えてはくれなかった。

面倒なお祈りもして、いつかは来るべきその日だけを糧に、醜い者どもに仕えて来たのに。

だから、彼女は思ったのだ。

神が与えてくれぬのならば、自分で掴みに行こうと。

今まで何も掴むことのできなかったこの手で、己の望みを掴みに行こうと。

強風が吹く。彼女は正面から吹く風を両手を広げて受けとめ、空中に向けて足を踏み出した。



「さようなら。醜く狂った世界よ。私はあなたのことが――……反吐が出るほど大嫌いだったわ」









/私の妄想のはき溜めです←
無いだろうけど、盗作、パクリ(アレ。一緒?)はやめてくださいね。泣いちゃうわよ。


/下手なのは分かってます。
どうか生ぬるい目で見守ってやってください。










2年前 No.0
メモ2016/12/17 17:07 : 妃翠☆dszkmgEaqwdD @azalea★iPhone-hFGOHIYfdv

17いいね、ありがとうございます!!(´;ω;`)

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妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=DcTTeU31EB

朝が来る度に別れを感じては、傷を埋めるようにあなたを探した。
新しいあなたを見つけては、束の間の幸福を得るけれど、それでも朝になると同じことの繰り返し。
私は何がしたいのだろう。どんなにあなたを知っても、どんなにあなたの温もりに触れても、私の心は満たされない。朝になると、昨日のことが嘘のように、言いようのない寂しさが私の心を傷つけていく。どんなに泣いても、どんなに血を流しても、足りない。
真っ白なシーツを真っ赤に染めて、握りしめた百合の花には涙を。
あなたが開けてくれた窓の外から吹き込む風にレースカーテンが揺れて、眩しいほどの青空が私の目を射る。
日の光に浮かび上がる傷だらけの私の姿。何もかもがわからなくて、ただただ無意味な血を流す日々。


「 誰か 、 助けて…… 」



掠れるようなその声は、もう誰の耳にも届かない。




5ヶ月前 No.134

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=DcTTeU31EB

 夏の生温い風が頬を掠め、少女はスイッと目を細める。本日の予想最高気温は38度。ここは南国なのだろうかと錯覚しそうな暑さは今週いっぱい続くらしく、朝の番組ではアナウンサーが熱中症への注意を呼びかけていた。たまにはクーラーを切って換気しようと窓を開けたのだが、あまりにも間が悪すぎた。普段太陽の光と外界の気温とはシャットアウトされた場所にいる彼女は、激しい夏の日差しと暑さに眩暈を覚える。



「ストップ。地球温暖化……」



 温暖湿潤気候の日本で、真夏の気温が40度を超えるかもしれないなんて、一体誰が予想しただろうか。これは確実に地球温暖化のせいだ。こんなことが起きるから、あと1年で地球は滅亡するだのなんだのと言われてしまうに違いない。マイスペースのベッドの上に腰掛け、少女は手持ち無沙汰に近くにあったうさぎの抱き枕を抱きしめる。ピンク色の愛らしいそれは、祖母が生前、私の誕生日プレゼントにと買ってくれたものだ。残念ながら、本人から直接手渡しては貰えなかったけれど、少女――舞雪にとっては、祖母の形見とも言える大事な代物である。懐かしさと少しの寂寥感に駆られて、舞雪はうさぎの背に顔を埋める。父の顔を知らず、母親も早くに亡くし、祖父も彼女が中学1年生の時に病死した。残った祖母もお世辞にも若いとは言い難く、舞雪が一人ぼっちになるのは時間の問題だったように思う。祖父母は、幼い頃から他人の機微に敏感で、人とコミュニケーションを取ることを苦手とする彼女のことを常に心配しており、自分たちが死んだ後、悲しまないようにとあらゆる手を尽くしてくれていたらしいということを知ったのは、彼らが亡くなった後だった。自分に残された祖母の遺書には、舞雪が独りで生きていくのは不可能と感じたので、雰囲気のいいアパートの一室を借りたことと、くれぐれも餓死して一年もたたずに自分たちと母親には会いにこないようにという、彼女としてはなんとも情けないことこの上ないことが書かれていた。舞雪としては、餓死する可能性がないとはっきり言いきれないことがとても辛い。
 沢山の思い出の詰まった家を出る事は辛かったけれど、祖母の遺言に従い、うさぎの抱き枕とともにここに来た舞雪は、餓死寸前のところで踏みとどまり何とか生きている。学校は……あまり得意ではないので行けてはいないけれど、どうせあと1年で何もかもが終わってしまうのだから、留年したところで何の問題もないだろう。抱き枕に回した腕にぎゅっと力を込め、舞雪は清々しいほどの青空を見上げる。




「私はあと1年で死んじゃうけど、おばあちゃんと……お母さんは、どんな顔をするのかな」




 8歳の時に死別した母。その姿は、今も若いまま舞雪の記憶にはっきりと残っている。母は少し祖母に性格が似ていたので、もしかしたら「世界が滅亡しても生きなきゃ私の娘とはいえないわ!」なんて怒られるかもしれない。祖父母に怒られるのは確実なので、考えるだけ無駄というものだ。懐かしい記憶の数々に思いを馳せ、舞雪の口元は自然と笑の形へと変わる。自分の人生はたしかに幸せだった。そう胸を張って言える。――嗚呼。そうだ。またみんなに会えたら、お礼を言わなきゃいけない。




「私を愛してくれてありがとう」




 彼女にしては珍しい、明るい声は、果たして母親たちに届いただろうか。

5ヶ月前 No.135

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=DcTTeU31EB

「ねぇ。人をやりたい放題傷つけてきた気分はどーお? ほんっとに、予想はしてたけど、あなたってなんにも変わってないのね。自己中で、傲慢で、自分が誰よりもかわいい。好きな人が傷つけられてる時に何もせずに保身に走ったような馬鹿に、この子を傷つける資格なんてこれっぽっちもないのよ。……ねぇ。何であなたまだ生きてるの? 死ねばいいのに」



 忌々しい過去が走馬灯のように脳内を駆け巡る。吐き捨てるように呟いた言葉は紛れもない本心で、私は彼女を睨みつけた。

5ヶ月前 No.136

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=DcTTeU31EB

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5ヶ月前 No.137

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=DcTTeU31EB

「君の笑った顔が一番好きだよ」



 そう言って笑った君はもういないから。私は何を救いにして生きていけばいいの。シトラスの香りときみの体温に包まれて眠りたい。そんな願いすら、もう叶わない。

5ヶ月前 No.138

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=DcTTeU31EB

 泣き虫なところも、寂しがり屋のところも、いざという時にはちゃんとかっこいいところも、全部ひっくるめてあなたのことを愛してる。だから、サヨナラなんて言わないで。音にしようとしたその言葉は、今にも泣きそうな君の顔を見て喉につっかえる。



「何。その顔……」



 君がバイバイって言ったくせに。君が私を捨てたくせに。どうして君が、捨てられたような顔をしているの。私が君を離すはずなんてないのに。



「そういうとこ、嫌い。変なところでかっこつけないで。何か言いたいなら言えばいいじゃない。何でいつも……いつもそうやって、泣きそうになるまで頑張るのよ!!」



 目頭が熱くなったと気づく暇もなく、私の両目からポロポロと涙が溢れだす。自分でも驚くほどの悲鳴じみた叫び声に、君は驚いたように目を見張る。いつもなら愛おしいその表情も、今日は無性にイラついて。私はギリっと唇を噛んで彼を睨みつけると、苛立ちに任せて彼の方へと駆け出した。



5ヶ月前 No.139

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=DcTTeU31EB

 愛されたことがないから、愛し方がわからない。だから、間違えてしまうの。この腕の痣も、切れて鉄の味のする口内も、見えなくなった片目も。全部全部あなたなりの愛し方。そうでしょう? 私を傷つけた後、涙を流す優しい君を知っているから。私以上に、君が傷ついていることを知っているから。だから私は、あなたから離れられないの。



「大丈夫。大丈夫よ。何も怖くない。私はずっと、あなたの味方だから」



 宝石のような涙をこぼす君を傷だらけの腕で抱きしめて、赤子をあやすように一定のリズムを取りながら優しく背中を叩く。愛を知らない可哀想なあなた。この命をかけてあなたのことを愛し抜くから、どうか最期は幸せだった笑って欲しい。




「あなたは、愛されちゃいけない子なんかじゃないのよ」




(( それは歪んだ愛か、それとも―― ))

4ヶ月前 No.140

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=DcTTeU31EB

 現実はいつも厳しくて、物語のようにうまくはいかない。どんなに頑張ったところで、弱い者は強い者には勝てず、どんなに強がったところで強い物から嘲笑われるのは変わらない。幼い彼女はそれを知っているからこそ、無力な自分の力では覆らない現実に全力で抗う。例えそれが、自身の寿命を縮めることになっても構わない。大切な誰かのためならば、自分は悪人になって地獄にも落ちてみせる。――そう、思っていたのだ。




「…………」




 日の当たらない質素な部屋の中。数人の侍女たちのすすり泣く声だけが響く。幼い少女の小さな方に回された侍女の腕は小刻みに震えており、いつもの彼女なら言葉の一つでも掛けてやるのだが、生憎今はそんな余裕などこれっぽっちもなかった。純白の天蓋付きのベッドの上。いつも自分の母が眠っているはずのそこには、点々と赤黒いシミがつき、知らない誰かが目を見開いて絶命していた。苦しみもがいたのだろう。片手はシーツをしっかりと掴み、首にはかきむしった痕が痛々しく残っている。ベッドの横に立ち竦み、呆然とそれを見つめていた彼女は、強ばった表情を無理やり動かし、無意識に歪な笑の形を作って振り返った。




「……ねぇ。アーニャ? このお方はだぁれ? お母様のお知り合いか誰かなのかしら。何か、悪い病にでも侵されていて、それに気づいたお母様が、ベッドをお貸しになったのかしら」

「姫様。その方は……」

「そうよね。きっとそうよ。お優しいお母様のことだから、ご自分の体の事は考えずにお貸しになったに違いないわ。ねぇ。アーニャ。お母様はどこ? 早く探しに行かなきゃ。また倒れられたりしたら――」

「姫様。落ち着いてお聞きください。その方は……」

「ああ。でも、探しに行く前に。せっかくご自分で歩けるようになったのだから、お母様の大好きなアップルパイを焼きましょう。それで、みんなでお茶会をするの。お母様喜んでくれるかしら」

「姫様! 話を聞いてください。その方は……――!」

「嫌よ! 何も聞きたくない!!」




 アーニャに力強く肩を掴まれた少女は、唐突に悲鳴じみた声を上げると、両耳を塞いでその場に蹲る。何も聞きたくない。何も知りたくない。こんなのが現実なんてあんまりだ。すべて拒絶するようにぎゅっと閉じた目からはポロポロと涙がこぼれ、申し訳程度のカーペットに吸い込まれて消えていく。今までに感じたことのないほどの悲しみは、小さな彼女が受け止めるにはあまりにも大きすぎて。自分の身を守るために。自分が幸せでいるために。すべての音をかき消すように、少女は大声で泣き叫ぶ。

4ヶ月前 No.141

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=DcTTeU31EB

 ――夏の暑さは大嫌いだ。肌にまとわりつくようなそれは、いつも私の生気を極限まで吸い取っていく。強い吐き気と、眩む視界。新しく来た校長の話が、まるで紗がかかったように遠く聞こえる。判然としない意識の中、確かに自分の身体がかしいでいくのを感じながら、私は静かに目を閉じた。葵まり。華のセブンティーン。私の学校生活は貧血から始まる。


4ヶ月前 No.142

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=DcTTeU31EB

「……ねぇ。どうしてあなたは私を選んだの。中途半端に神に選ばれた、"可哀想な姫君(ポーヴルプレンセス)"なんてあなたには足枷になるだけでしょう? それとも、なぁに。あなたは頭の硬いおじさま方と同じように、誰かを嘲ることを生き甲斐になさっているのかしら」


 王に選ばれた少年を見つめる冷たい瞳。どこか自嘲的に歪められた唇と光のない彼と同じ色の瞳は、ここでの生活がどれだけ荒んだものだったのかを想像するには十分だった。白銀の髪に翡翠の瞳。それこそが神に選ばれた"月の御子"の証。同じ時代に月の御子が二人いる事は許されず、新たな御子が王位を継げる年齢になったと同時に、古き御子は神によって命を奪われる。その内容の如何は人によって様々で、特に少女の母は酷いと言われていた。父親譲りのハチミツ色の見事な髪は腰までを覆い、母親譲りの――"月の御子"たる証のぱっちりとした翡翠の瞳。本来、月の御子は銀髪緑眼でなければならない。彼女のその姿は異端であり、彼女が生まれたばかりの頃は天変地異の前触れだの、神の怒りを買っただの、散々な噂が飛び交ったらしい。一時は少女の処刑すら考えられたと言われるのだから、当時の騒ぎは相当の物だったのだろう。少年は少女の光のない瞳を覗き込み、安心させるようににこりと微笑む。
翡翠の瞳を持つ"月の御子"の娘。人々は、哀れみを込めて彼女をこう呼ぶ。
――一時は神に選ばれた者の、役不足として手放された"可哀想な姫君"と。

4ヶ月前 No.143

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=DcTTeU31EB

「――嗚呼! またアリス様が行方不明に……!!」


 煌びやかな王宮中に響き渡る侍女の悲鳴。廊下を歩く使用人たちが、城を守る騎士たちが、その声を聞いて皆一様に苦笑をこぼす。……ああ。またか、と――。

 双頭の獅子に交わされる二つの剣。それがこの国、アリエスタ王家の紋章だ。魔法大国として各国に名を轟かすこの国は、北方に山を、南に港を有し、食べ物には事欠かない。その高度な魔法技術は、少しでも生活が豊かになるようにと日々研究が重ねられている。「アリエスタには誰もかなわない」という世界の暗黙の了解により、他国はアリエスタには戦を仕掛けず、またアリエスタも他国に攻め込むような真似はしない。戦争というものは奪うだけで何も生み出さない。勝利の末に何かを得られるのは上流階級の者達ばかりで、国民たちには悲しみや憎しみしか残らない。


「それは、私が一番よくわかってるもの」



3ヶ月前 No.144

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=DcTTeU31EB

「ねぇ。教えてよ。私一体、誰……?」



 廻る記憶。夜の色。星空の下、自分を見つめるその瞳。おもむろに伸ばされた手は、まるで壊れ物でも扱うように少女に触れて、お互いの顔が近づいていく。



「……っ!」



 頭が割れそうな程の頭痛に、少女は顔をしかめた。頬を伝う冷や汗を拭う余裕もなく、荒い呼吸の中、歪む視界に唇の端を釣り上げる彼に助けを乞うような視線を向ける。物心ついた時から見ていた、自分ではない誰かの記憶。最初は眠っている時にしか見ることが出来なかったため、ただの夢だと片付けられたが、目覚めていてもなお見えるそれは、流石に夢だと片付けるには鮮明すぎた。銃で腹部を撃たれた焼けるような痛み。身体を焼かれるような激しい怒り、憎悪。嫉妬。愛する人を失った時の喪失感。体に触れられた時の暖かな体温。自分の意思に反して脳裏に浮かぶそれらを見る度に、自分の存在があやふやになっていった。自分が誰で、今までどんな世界で、どうやって生きてきたのか。あまりにも多い記憶は整理しきれず、少女自身の記憶を巻き込んで、ぐちゃぐちゃに混ざりあい、ツギハギだらけの歪な記憶が出来上がった。焦点の定まらない彼女を愉快そうに見つめ、男はことりと首をかしげる。その愛らしい行動とは裏腹に、嘲るような瞳を少女に向けて、男は軽く握った右手を口元に当てた。




「逆に聞こう。君は誰なの?」

「私、は……」




 名を紡ごうとした瞬間、少女はふと目を見開くと、頭を抱えてその場に蹲る。溢れ出す記憶。まるで自分はここにいると言わんばかりに、実態を持たない意思が主張を始める。




「私は……、シェンメイ、リージヤ、アルフレート、グレース、鏡花――」



 名前を浮かぶ度に取り乱す少女を見て、男は嗤う。

3ヶ月前 No.145

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=DcTTeU31EB

 地上に雪の降り積もる澄んだ夜。闇夜に浮かび上がる白はあまりにも幻想的で、思わず少女は足を止める。膝丈ほどの雪の色と同じ薄手のワンピース。申し訳程度に巻かれたピンクのマフラーは、服の切れ端のように薄っぺらく、明らかに役目を果たしていない。雪を踏みしめる足元は、信じられないことに何を履いておらず、指先が霜焼けで赤くなってしまっていた。おおよそ真冬の夜を出歩くには相応しくない格好をした少女は、空を見上げてはぁっの白い吐息を吐き出す。上流階級の貴族たちの屋敷が建ち並ぶ1角。屋敷の温かな光が外に漏れ出し、時折住人達の楽しそうな笑い声が聞こえる。なんて幸せそうなんだろう。寒さを凌げる家があって、大切にしてくれる家族がいて。美味しいご飯に、ふかふかのベッド。綺麗なお洋服。約束された明日。どれも自分にないものばかりだ。寒さで感覚を失った指先に気休め程度に自分の息を吹きかけ、少女は悲しそうに目を伏せる。




「私、どこに行ったらいいのかな」




 行く場所もなく、ただ宛もなく街をさまよう日々。それなりに綺麗だった洋服は今ではこんなにボロボロで、履いていたブーツは騙されて盗られてしまった。眠る場所を探してこんなところに来てしまったけれど、失敗した。ここは、自分が来るにはあまりにも恵まれ過ぎている。暖かい光を見る度に、自分があまりにも惨めで泣きたくなる。脳裏にチラつくのは幸せだったあの頃。

3ヶ月前 No.146

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=DcTTeU31EB

「人は一人じゃ生きていけないっていうけとまね、それは人生の経過で見ての話でしょう? 大人になれば、案外1人で生きていけるものよ。……まぁ、間接的に人と関わることをカウントしなければの話しだけれど。もしも、あなたが心から独りで静かに生きたいと願うなら、あと5年待ちなさい。ちゃんと学校を卒業して、自分で働いて、家賃も自分で払うのよ。間違っても親に払ってもらっちゃダメ……って、それは心配なさそうね。あなた、死んでも親にお金は借りなさそうな顔してるもの。真面目なことはいいことだわ。ギャンブル好きなんかの男より100倍ね。……あら。何か言いたそうな顔してるわね。もしかして、今すぐ一人になりたいの? 馬鹿ね。何もそんなに急ぐことないじゃない。あなたまだ人生の半分も生きていないのよ? あと数年ぐらい、大勢の人と関わって、心をぐちゃぐちゃに掻き乱されればいいじゃない。あなたが誰かに振り回されてやきもきしてる顔、見てみたいわ」


 人の気も知らないで、いつも通りの弾丸トークを繰り出す彼女に溜息がこぼれる。この場所で彼女にあって早1年。第一印象は、今にも消えてしまいそうな、そんな女性だった。美人でスタイルも良くて、決して派手とは言えない容姿をしているのにどこか目を引く。日常とはあまりにもミスマッチな彼女は、1年前の雨の降る夜。傘もささずにこの場所に突っ立っていた彼女は、間違いなく泣いていた。自分が今声をかけなければ死んでしまうんじゃないかと心配になるほど血の気の引いた顔をした彼女に話しかけたのは、偶然か必然か。

3ヶ月前 No.147

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=DcTTeU31EB

 全ては私が悪いのだ。どちらを選ぶかなんて最初から決まってた癖に、自分へ向けられた愛情を無下にすることが怖くて。逃げた。願わくば、彼の心から私へと向けられる気持ちが消えますように、と。でも、それじゃあダメだったんだ。あの夜に見た彼の瞳は、最初に出会った頃のキラキラとした輝きを失っていた。あの時の私はそれが恐怖でしかなく、どうしてここまで変わってしまったのかと、疑問に思うばかりだったけれど、冷静に考えたら分かることじゃないか。私が奪ったんだ。彼の全てを。



「……最っ低」




 癇癪に任せて前髪を掴み、私はベッドの上で膝を抱える。そのことに気づいたのは、私が海に沈む直前。意識を失う数分前のこと。申し訳なさと、自分への嫌悪感で胸がいっぱいになったことを、今では鮮明に思い出すことが出来る。叶うことなら、もう1度最初からやり直して、誰も傷つけない選択を。そう強く願ってしまったから、私は全てを忘れてしまったのだろうか。だとしたら、それはあまりにも……。



「――……身勝手だ」




 誰も傷つけない選択を。そう口にしながら、あの時の私が一番救いたかったのは"自分自身"だ。だからこそ私はすべての記憶を消した。結局はまた、逃げたんだ。……あの時彼女に言われた言葉が脳裏をよぎる。「ズル賢い女」。彼女の言葉は的を射ている。









3ヶ月前 No.148

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=DcTTeU31EB

「あっ。どーも初めまして。落ちこぼれの死神、ルーシアと申します。今回あなたの元へ訪れたのは他でもありません。あなた、今から約2週刊以内に、死にます」



 突然空から降ってきたゴスロリ少女は、可愛らしくこてんと首をかしげてとんでもないことを言い放つ。腰までを覆う眩いほどのブロンドヘアは綺麗にウェーブがかかり、人よりも1回り小さい私の手を広げたほどの小さな顔に零れそうな紅色の瞳。ふっくらとした小さな唇は真っ赤なリップが塗られており、幼い顔立ちから少し浮いて見える。日差しの強い真夏にも関わらず、まるで白雪のように白い肌には殺意しか覚えない。今時の女の子らしい、少し力を入れて握れば折れてしまいそうな華奢な手足に対して、つくべきところには憎らしいほどついている女性らしい体つき。人形と見紛うほどに整った顔立ちをした彼女の片手に収まるのは、黒い革表紙の見るからに怪しげな辞書のようなもの。彼女はそれに何かしらを書く素振りを見せ、こちらを一瞥する。




「あなた、さっきから何も喋らないけどだいじょーぶ? 生きてますかー? それとも、びっくりしすぎて声の出し方を忘れちゃったの? だったら私が伝授してあげる。まずは深呼吸をするのよ」

3ヶ月前 No.149

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=DcTTeU31EB

 ハイブランド新作のお洋服。模したものではなく、本物のダイヤやパールのアクセサリー。使用人の数は把握しきれないほどで、朝は毎日違う顔の人が私を起こしに来る。無駄にでかい豪奢な家は、父親の自己顕示欲を具現化したものに違いない。鏡の前に座り、整えられていく自分の長い髪を見つめながら、私はゆっくりと瞬きをする。その気になれば欲しい物は何でも手に入るし、湯水のようにお金を使って遊び呆けても、きっと誰も私を咎めない。人はきっとこれを自由と呼ぶんだろう。くるくると器用に巻かれていく私の髪。あまり派手なものにしないで欲しと頼んだのだけれど、彼女は人の話を聞いていたのだろうか。ああ。それとも……。鏡越しに映る緊張した面持ちの彼女を、私はじっと見つめる。綺麗に染められた明るい茶色の髪はポニーテールにされ、早朝だというのに誰よりもしっかりとしたメイクは少し派手だが、彼女にはよく似合っている。見るからに今時の女性といった彼女からすれば、巻き髪なんて普通なのかな。



3ヶ月前 No.150

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★BxEfezLEi0_EP8

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3ヶ月前 No.151

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=uklqf3ZAMb

名前:御堂 優和

読み:みどう ゆうわ

性別:男

誕生日:8月7日

血液型:A

性格:天真爛漫で人当たりが良く、彼の周りには常に人がいる。困っている人には迷わず手を差し伸べ、誰かのために行動することにこそ生き甲斐を感じている。人間関係は広く深くがモットー。人見知りはしないたちなので基本的に気になった人には片っ端から声をかけていく。鋼の精神の持ち主なので少しのことではへこたれないが、小さなことでも子供のように喜ぶ純粋な部分もある。姫華のように雰囲気で察するのではなく、相手のことをしっかり見ているために人の変化にはすぐに気づく。天然が入っているせいか恥ずかしい言葉を普通に言うくせに、いざ意識すると顔を真っ赤にして恥ずかしがる意外に照れ屋な一面を持つ。人を大切にするくせに自身を蔑ろにする節があり、誰かが傷つくぐらいなら自身が苦しむ道を歩く。自身が茨の道を歩くことに一種の救いのようなものを感じている。

容姿:綺麗に染められた金色の髪は男子にしては長めな方。普通にしていれば目にかかるほど長い前髪はいつも横に流してカラフルなヘアピンで止めている。色素の薄い茶色の猫目。くっきりとした二重に、男子とは思えない長いまつげ。右目尻には泣きぼくろがあり、クラスの女子曰く、ふとした瞬間に色気を感じるらしい。日に焼けにくいため、肌は年中白い。177cmの長身。細身でありながらしっかりと筋肉はついているためひょろさは感じられない。

備考:一人称「俺」 二人称「――ちゃん」
謎が多い姫華のクラスメート。その容姿と性格から男女教師共に好かれている。いつまでも髪を染め直さないため毎日のように生徒指導部の先生と鬼ごっこを繰り広げている。本人は楽しそうだが、見ているこちらがヒヤヒヤするらしい。姫華の言動には入学当初から違和感を覚えており、それが演技であることは薄々感づいている。成績優秀。運動神経抜群。テストの順位は姫華と僅差で2位。しかし、順位に興味が無いため姫華に特別敵意を抱いてはいない。

3ヶ月前 No.152

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=uklqf3ZAMb

「――あなたまた死のうとしてるの?」


 屋上のフェンスの向こう側にいる見知った後ろ姿を見つめ、私は1歩踏み出す。コートもマフラーもつけていないこの格好で外に繰り出すには中々厳しいが、目の前で飛び降りられるのも、明日彼女の死を教師からは知らされるのも寝覚めが悪いというもの。いくら他人に興味の無い私でも、もしかしたら助けられたかもしれない命を見逃してしまったなんて胸が痛む。……多分。彼女も私のことを覚えていたらしい。私が声をかけるや否やにびくりと体をすくませると、信じられないというような目をしてこちらを振り返る。



「随分髪が伸びたのね。前のもあなたに似合っていたけど、今の髪型もすごく素敵よ。緩く巻いてみたらどうかしら。きっとよっぽどのバカ男じゃなけらばあなたに骨抜きよ」

「……ちょっと待って。バカ男のところでなんで俺一瞥したの。ひめ」

「気のせいでしょ」




 表情をひきつらせる御堂に黙れという意味も込めてニッコリと微笑み、先程から私と御堂をチラチラと交互に見ている少女に向き直る。浅葱佳穂。確か去年の今頃、彼女はそう名乗っていた。学年は私と同じ2年生。家柄は中の上ほどの、ここに通う人間からすれば限りなく一般人に近いと聞いた。冬の冷たい風になびくサラサラとした黒髪に、節目がちな瞳はいつも物憂げで、男子生徒に密かに人気らしい。私よりも頭一つ分高い身長にすらりと長い手足。華奢な体つきのくせにつくところはきちんとついているその容姿は、まるで人形のよう。他人にあまり興味の無い私でも美しいと感じるのだから、世間一般でいえばかなりの美少女の部類に入るだろう。そんな彼女が何故死のうとするのか。それは女特有の嫉妬のせいだ。ほほ笑みかけたままの私と、呆れたような目を寄越していた御堂をしばらく交互に見ていた浅葱さんは、へらりとした笑みを浮かべるとおもむろにフェンスを掴んだ。





「また、会いましたね。有栖川さん……。御堂くんは、初めまして」




 御堂に挨拶するあたり、彼女はすごく優しい子なのだろう。御堂はひらりと手を挙げるだけで一言も発しない。普段は底抜けに明るい馬鹿だけれど、人並み以上に空気の読める人間なので、自分が話すべきではないと察してくれたのだろう。




「ええ。ちょうど一年ぶりね。あなたとは冬に屋上で会う運命なのかしら。普段は全くと言っていいほど出会わないのにね」

「そうですね。うちの学校、すごく広いから……」





 普通の人間でもわかる。痛々しい作り笑い。去年は私の姿を見るなり号泣してわめき散らしてたのに。今回は凄く大人しいのね。諦めてるのか、それともここで死ねなくても別のところで死ねばいいと思っているのか。笑の形に彼女の真意を見定めるために、私は静かに彼女を見つめる。無理やり上げられた口角。目の奥に宿る暗い光。寒さのせいか震えるフェンスを握る手に私はそっと自分の手を重ねた。




「もしかして、また何かされたの? それとも、され続けてきたの?」




 彼女の肩がピクリと揺れる。なるほど。彼女が飛び降りようとしているのは去年と同じ理由か。女というものは、普段は飽きっぽい癖に誰かを傷つける行為はどれほどしてもやり足りない。彼女は高校入学当初から嫌がらせを受けていたから、そろそろ2年が経つのか。浅葱さんには悪いけど、そのしつこさは尊敬に値する。もっと別のことに使えばいいものを。

3ヶ月前 No.153

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=uklqf3ZAMb

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3ヶ月前 No.154

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=uklqf3ZAMb

 君が私の笑顔を望むなら、無理矢理にでも笑って見せよう。なんて。漫画やドラマみたいにうまくはいかなくて。私の瞳から次々とこぼれ落ちる雫は一向に止まってはくれない。笑えない。笑えないよ、こんなの。君がいなくなったのに、笑えるわけがないじゃないか。


「……っ……、」



 零れる嗚咽を唇をかんで堪えて、まるで眠っているような君の顔を見下ろす。もしも私が今あなたに口付けたなら、あなたは白雪姫の如く目を覚ましてくれるかしら。夢物語だと分かっていながらも、考えずにはいられない。私が王子であなたがお姫様。立場は逆になってしまったけれど、君が目を覚ましてくれるのなら何でもいい。今ならどんなに胡散臭い言葉だって信じられる気がする。あなたがもう一度目を覚ます。その言葉だけで、私は何だってできる。

3ヶ月前 No.155

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=uklqf3ZAMb

「志望動機を教えてください」

「バイトOKだったから」

「……あなたの長所を教えてください」

「時間とお金は大切にします」

「…………、好きな言葉は?」

「時は金なり」

「…………………将来の夢は?」

「お金持ちと結婚して一生遊んで暮らすこと」



刹那、何かが切れる音がした。瞬きをしてゆるりと音のした方を見やれば、背後に修羅を背負った満面の笑みの友人が視界に移り、静音は反射的に後ずさりした。びたんっと壁を突き破る勢いで張り付いた彼女を、額に青筋を浮かべた友人はわざとヒールの音を鳴らしてゆっくりと近づいてくる。死の足音だ。静音の元まで辿りついた彼女は、無表情ながらカタカと震える静音を無言で見下ろす。静音の身長145cm。友人の身長170cm。おおよそ中3とは思えない彼女達の身長の差、約25cm。自分より頭一つ分高いだけでも怖いのに、25cm上から笑顔で凄まれると2割増で怖い。人間に迫られる野良猫の気持ちはこんな感じだろうか。いつも通学路で見る野良猫を思い出していると、微かな風が頬を掠めた。窓なんか開いていただろうかと視線を上げた静音は、まるで彼女を囲むようにして勢いよく壁に付かれた手に「ひぃッ!」と短い悲鳴をあげる。ただでさえ小さな体を縮こまらせて硬直する静音に構わず、友人は綺麗な顔を怒りに歪ませてぐいっと近づけた。どちらかが身じろぎをすれば唇が触れてしまいそうだ。




「あんたねぇっ! 人がせっかく貴重な休みを返上して面接練習してやってんだから真面目にしなさいよ! それとも何? アンタ、受験落ちる練習でもしてるの? 高校生になりたくないの!?」

「……真面目にやってるし」

「何時から?」

「初めから……――ッ痛!!」



 半眼になった友人に容赦なくデコピンを食らわされ、静音は額を抑えて涙目で彼女を睨む。対する彼女は涼しいもので、静音にデコピンを食らわせた手をひらひらと振ってベッと舌を出した。




「あんたがふざけるのがわるいんでしょ」

「だから、真面目にやってるって――」

「志望理由にバイトが出来るからって言うことが?」

「だって、里緒が思うままに書けって言ったんじゃん」





 だから嘘はつかずに素直に書いたのに。なぜそんなに怒っているのか。不思議で堪らず首を傾げる静音を信じられないように見つめた里緒は、自身の額を片手で抑えると盛大なため息をついた。





「そうね。そうだったわ。アンタは人の言葉を丸のみにするバ……いや、素直な子だっていうのを忘れてた。私が悪いわ。ごめんなさい」

「ねぇ、さっきバカって言った?」





3ヶ月前 No.156

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=GW0xu8cXMA

 ――『眠り姫』。
彼女に触れた者は、彼女の意思関係なくいつ目覚めるとも知れない眠りに落ちていく。眠っている間、成長は愚か死ぬこともないことから、囁かれ始めたその呼び名は、いつしか彼女の名前と共に周囲の人間へと広がっていった。



「――その力の強さ故に特別棟の最上階に閉じ込められた眠り姫。彼女と目を合わせたものはたちまちのうちに永遠の眠りに落ちてしまう。だから、絶対に特別棟の周囲には近づいてはならない……。らしいんだけどさ、これ本当なの? "眠り姫"」

「なわけないでしょ。目を合わせたぐらいで他人眠らすなら、アンタはもう永遠の眠りとやらについてるわよ。……まぁ、その他はだいたいあってるんだけど」

「でも姫様。オレ姫様にこうやってベタベタ触っても何ともないんだけど」


 学生寮や一般校舎から離れた場所に特別棟は存在する。昔は授業などで使われていたここは、今では誰も薄気味悪がって近づかない。たまに度胸試しや、噂の真相を確かめに来る傍迷惑な生徒がいるが、彼女のいる最上階には特別な結界が施されているため誰1人として彼女の姿を見たことがない。……この男以外は。ため息をついて瞼を伏せる彼女の腕を無遠慮にペタペタと触る彼に、姫様と呼ばれた少女は表情を引き攣らせる。ひと月前に保護されたという彼の正体は一切不明。分かっていることといえば、「グリム・リーパー」という本名かあだ名が分からない呼び名と、彼の前では強力と言われるこの結界も意味をなさないということ。少女は未だにしつこく自分の体を触る彼の手を掴む。




「私の意思に関係なく力が暴走してたのは昔のこと。今は、自分の力をある程度は抑えられるようになったから素肌に触れない限りは平気なの」

「肌に触れると?」

「2、3日は夢の中ね」



3ヶ月前 No.157

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=GW0xu8cXMA

「ケイちゃん」

「なぁに。いちか」

「私、強くなるから。お兄ちゃんより、ずっとずっと強くなってケイちゃんを守るから、だからずっと一緒にいてくれる?」

「……、うん。僕達はずっと一緒だよ」




 やけに赤い夕焼けがまるで血のようだとぼんやりと思いながら。幼い私たちは、どちらともなく繋いだ手に力を込める。自分に力があると信じて疑わなかったあの頃。現実の前で私はあまりにも無力で、ただただことの成り行きを呆然と見つめるしかなかった。傷だらけになりながらも私を安心させるために向けられた笑顔を、きっと私は一生忘れない。



 眠らせる能力と、目覚めさせる能力。私たち双子は二人で一つ。どちらかが欠ければ、もうその力は成立しない。けれど最悪なことに、私たちは片割れを失ってしまった。特別棟の掃き出し窓から見える毒々しいまでの夕焼けを見つめ、私は誰に話しかけるでもなくポツリとつぶやく。




「私は学園(ここ)に。あの子は、頭の悪い科学者の元に……。守るどころか、守られちゃったのよ」





 本当は、あいつらの元に行くのは私だったはずなのに。

3ヶ月前 No.158

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=GW0xu8cXMA

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2ヶ月前 No.159

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=GW0xu8cXMA

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2ヶ月前 No.160

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=GW0xu8cXMA

 物心がついてから泣いたことがなかった。それは決して、悲しいことや辛いことがなかったからではなく、ただ単に泣けなかったのだ。普通の子供ならここで泣くはず。そう頭の中で分かってはいても、普通の子供であるはずの私の涙はまるで枯れ果ててしまったかのように一粒も出ない。……両親が死んだ時も、そうだった。胸が張り裂けそうなほど苦しく、脳裏には今までの思い出が何度も何度も浮かんでくるのに。どうして自分だけが生き残ってしまったのかと。いっそ自分だけが死んでしまえばよかったのにと、何度も何度も悔いたのに。私の瞳から涙が流れることは無かった。当時は、大好きな両親が死んでしまったのになぜ涙一つこぼせないのかと、自分の目を抉りとりたくなったこともある。泣けないことは、私にとってコンプレックスの一つだったのに。



「……泣くなよ。レティ」

「……っ」




 ――彼が死ぬ。そう思った瞬間、目頭が一気に熱くなった。鼻の奥がツンっと痛んで、胸から熱い何かが込み上げてくる。嗚咽とともに頬を伝ったそれに、最初は雨でも降ってきたのかと空を見上げたけれど、快晴の空は誰がどう見ても雨が降りそうだとは思えない。聞いたこともない弱々しいその声に指摘されて、初めて自分が泣いているのだと理解した時、自分の中で何かが外れる音がした。

2ヶ月前 No.161

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=GW0xu8cXMA

「……わっちは、"お姉ちゃん"でありんすから」
「風花(かざはな)?」



 風花が"風花でないとき"からずっとそう言い聞かされて育ってきた。あなたはお姉ちゃんだから。あなたは、先に生まれたのだからと、たくさんのことを我慢してきた。それが兄弟達のためなら、両親が喜んでくれるのならと、幼心に言い聞かせながら。風花は、梅雨の時期にしては珍しい晴れた空を眩しげに見やり、自嘲的な笑をこぼす。心配そうに彼女の顔を覗き込む龍に、心配するなという意味を込めて微笑むと、彼女は誰に語るでもなくポツポツと話し出す。



「――わっち の生まれ育ったところは、ここからずっと遠くの何も無い小さな村でありんした」




 これから語るは、風花が風花になる前の話。彼女が普通の少女だった頃の、もう取り戻すことは出来ない遠い記憶。梅雨独特の絡みつくような風に乗って、鈴の音が微かに聞こえた、

2ヶ月前 No.162

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★BxEfezLEi0_EP8









 互いの顔が見えるかどうかと言うほどの薄暗い部屋の中。一本のランプの灯りが、真っ白な壁に二人の男女の姿を映し出す。部屋に響く甘い嬌声。ベッドの軋む音。時折聞こえる濡れたような音は、真かそれとも偽りか。乱れたシーツを握りしめ、少女はトロリとした瞳で男を見やる。美しい金髪に、引き締まった体。自分を見つめるその面は、通りすがりの者たちが足を止めて振り返るほどに美しい。
(……こんなに美人なら、引く手数多だと思うんだけれど)
 無感動な目で、快楽に身をゆだねる彼を映し、少女は気づかれないようにため息を零す。彼女は、娼婦に身を堕とす前はとある貴族の令嬢だった。世間では知らぬ者はいないと言われる大貴族、と言うほどではなかったが、それでも今よりは豊かな暮らしをしていたと自身を持って言える。それが何故、今は娼婦となって身体を売っているのか。簡単なことだ。恥知らずで道徳心など欠片もない、少女の人生の中で恐らく最も屑な実の父親が、娼婦に貢いで大量の借金をした自身の身を守るために、娘である少女と妻を、何のためらいもなしに娼館に売り飛ばしたからである。兄の怨みを買ったと言う自覚があるせいか、それとも、大量の貢物をした娼婦と駆け落ちでもしたのか。父は現在行方知れず。元々身体の弱い母は、激しい環境の変化と、夫の裏切りに絶望して精神を病み、数日前に自身の命を絶った。兄は、少女を買い戻そうと死に物狂いで働いているらしいが、父の借金の金額からするに、恐らく自分は一生娼婦のままだろう。……皮肉なものだ。父が肩入れした娼婦のせいで、自身も同じ職に就くだなんて。快楽に呑まれたフリをしながら、少女は遠い目をして天井を見上げる。初めは見知らぬ相手に触れられるだけで吐き気がした。触られている部分が腐って行くような、酷い恐怖と嫌悪感。いっそ狂ってしまった方が楽だと思えるそれに、しかし少女は必死に耐えた。彼女の得意な"別人格"を作って――。




「リュシー……」

「主様……、私、もう――っ!」




 視線が交差する。男の背に腕を回したジゼルの頬に、一筋の涙が零れ落ちる。幸せでたまらないと言うオーラを前面に出しながら、リュシーは"目の前の男を一途に愛する女"を演じ続ける。そこに気持ちなど欠片程もない。リュシーの役目は、ただただそのキャラを演じきることだけ。内心では顔をしかめながらも、彼女は笑顔を浮かべ続ける。呼吸の荒い彼を愛おし気に見つめ、リュシーはふわりと微笑んだ。その瞳に、涙を浮かべながら。





「愛しています。主様」





 上っ面だけのその言葉は、酷く乾いて聞こえた。

1ヶ月前 No.163

削除済み @azalea ★iPhone=kXDfLCUx7e

【記事主より削除】 ( 2016/12/04 04:06 )

1ヶ月前 No.164

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=kXDfLCUx7e

[ 結城 恵美/ ゆうき えみ ]

 幼い頃に大病を患った少女。何とか病を克服し、17歳現在。病院の小児科病棟で絵本の読み聞かせや、イベント等をするボランティアに参加している。学校の成績は中の上ほど。苦手科目は理数系。得意科目の文系では、余裕で平均を超えているのに対し、理数系科目は赤点ギリギリ。将来の夢は看護師。



[ 如月 優斗 / きさらぎ ゆうと ]

 物静かな一匹狼。いわゆるイケメン。メイクバッチリなイケイケ女子に常に狙われているものの、本人は全く気づいていない。運動神経抜群。成績は入学以来学年一位をキープ。苦手科目も得意科目も特になし。妹がいるため、面倒見がいい。



[ 如月 千羽 / きさらぎ ちわ ](千鶴と悩み中)

 優斗の歳の離れた妹。6歳。生まれつき体が弱く、家にいるより病院にいる時間の方が長い。人見知りが激しく、馴染むまでにかなりの時間を要するが、慣れるとべったり懐いてくる。
ポジティブで底抜けに明るい。年齢にそぐわない大人っぽさを垣間見せる。可愛いものと、もふもふしたものが好き。点滴と注射と薬が嫌い。昔は人の目を盗んで自分で点滴を抜いたり、薬を窓から捨てたりしていたらしい。



1ヶ月前 No.165

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=kXDfLCUx7e

 「……あなたはどこまで、私を愚弄すれば気が済むのですか」


 地をはうような低い声が、静寂を破る。聞いたことのない声に男が目を見開いて顔をあげると、そこには掌が白くなるほど両の拳を握りしめ、こちらを鋭くにらみ据える椿の姿があった。彼女の大きな瞳からは大粒の涙が流れ、咄嗟に手を伸ばしかけた彼だったが、彼女の触れる前にぴしゃりと手を払いのけられる。



「触らないで。顔を見ないで。その汚れた声で、私の名前を呼ばないで!!」

「……っ」




1ヶ月前 No.166

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★BxEfezLEi0_EP8

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1ヶ月前 No.167

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★BxEfezLEi0_EP8

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1ヶ月前 No.168

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=hFGOHIYfdv

「――恋愛ってよくわかんない」

「ほぉ。それはまたどうして?」

「昨日まで仲良かったカップルが今日になったら別れてたり、2組の荒井くんが好きって言ってたトモちゃんが何故か3組の生垣くんと付き合い始めたり――」

「おいこら」

「そういえばこの前、間宮さんと由良さんがキスしてた」

「…………え?」

「恋愛ってよくわかんない」

「私は百合現場に遭遇したことを、買い物行ったら担任と鉢合わせしたくらいのノリで言うあんたが一番分からないわ」



1ヶ月前 No.169

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=jNgXnZ6t8d

 昔から、私とあの子は何かしらのことで競い合っていた。といっても、それは私と彼女の意思ではなかったけれど。


 ――私とあの子は、ほんの数時間違いでこの世に生を受けた。生まれた時間は、確かあの子の方が一時間早かったと記憶している。私の母はたった1人で、あの子の母は私とあの子の父親に見守られてそれぞれの子供を産んだ。今思えば、この時点で私の母の勝ち目はもうなかったように思える。父の心はきっと、私が生まれる前からあの子の母親の方に向いていたのだろう。彼とあの子が手を繋いで仲睦まじく帰っていく後ろ姿を眺めながら、私は窓にそっと触れる。……私とあの子の関係は、所謂父親の不倫相手の娘と捨てられた女の娘。何故かあちらの母親と私の母親はお互いがお互いを妙に敵視し、まるでチェスの駒か何かのように、何かにつけては私達を競わせてきた。あの子がピアノを習ったなら私もピアノを。私がバレエを習ったならあの子もバレエを。一週間びっしりと詰め込まれた習い事で、あの子の顔を見ない日はなかったように思う。あの子は何でも卒なく一番をとる一方で、私はいつも二番手で。母は負けてばかりの私を見る度に、深い深いため息をついた。唇をぎゅっと噛み締める。頬を伝う冷たい何かに気づかないふりをして、私は彼らから視線をそらさない。分かっていた。私があの子に勝てない事ぐらい。私のそばに居た人は、最終的にはみんなあの子を選ぶ。



「ずるい……」




 ずるい。みんなに選ばれて、みんなに愛されて。どうしてあの子ばかりなの。どうしてみんな私を見てはくれないの。唯一私のことを見てくれたあの人でさえ、他のみんなと同じだった。視界がぼやける。零れる嗚咽を抑えきれなくて、私はたまらず口元を両手で覆ってその場に座り込んだ。




「……っ」




 私は一体なんのために生まれてきたのだろう。産まれる前に母と共に父に捨てられ、期待に応えられなかったがために唯一の肉親である母親にさえ見捨てられた。この世に私を必要としてくれる存在なんているのだろうか。私を見てくれる人はいるのだろうか、

1ヶ月前 No.170

削除済み @azalea ★iPhone=jNgXnZ6t8d

【記事主より削除】 ( 2016/12/18 12:00 )

1ヶ月前 No.171

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=NZNTONnIgF

 ――もう、限界だったのだ。
張り合うように浮気をする両親も。まるで犯罪者でも見るような視線をよこしてくるクラスメイトも。……母の目を盗んで自分を汚す母の浮気相手も。彼女の周りは全て歪だった。優しさや愛情なんて欠片もない。あるのは悪意と身勝手な欲望だけ。朧気な意識の中、湯船の中に並々と注がれた真っ赤なお湯を一瞥する。あの人はこれを見てどう思うだろうか。一瞬、涙を流す姿が彼女の脳裏を過ぎったが、すぐにそんなはずはないと思考を打ち消した。自分が死んだくらいで泣いてくれるような人ならば、自分は自殺なんてしようとは思わなかった。きっと、あの人は、肩の荷が降りたと、喜ぶに違いない。自嘲めいた笑を零し、少女は浴槽の淵に頭を乗せる。視界が明滅する。恐らく自分はもうすぐ死ぬのだろう。彼女としては早く死にたくて仕方がなかったが、しょうがない。なるべく綺麗に死にたかったのだから。ぐったりと湯船にもたれかかった彼女は、ゆっくりと瞼を閉じる。
(嗚呼。やっと、死ねるんだ……。長かったなぁ)
沢山の苦しみからやっと開放される。そう考えると、なぜか無性に嬉しくて。少女は最期に、何十年かぶりの笑顔を浮かべた。

19日前 No.172

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=1fxt9eom70

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19日前 No.173

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=1fxt9eom70

「ねーえ。ゴミはゴミらしく静かにしててくれない? 僕は今最高に機嫌が悪いんだ」



 満面の笑みを浮かべた彼女の額に、確かに青筋が浮かぶ。首を傾げる仕草は可愛らしさには程遠く、そのあまりにも威圧的な雰囲気に相手の男達がたじろいだのが分かった。たまたま手にしていた竹刀で肩を叩きながら、薫はゆっくりと彼らと距離を縮めていく。




「僕、言ったよね? 嫌がらせをするなら僕にどうぞって。僕はそれを受け入れるって。ちゃんと、君たちに、言ったよね?」




 彼女の怒りに比例するように、周囲の温度がどんどん下がっていく。先程まで半袖すらも鬱陶しく感じるほどに暑かった廊下はまるで冬のように寒く、外気との差に窓がくもりはじめる。揃いも揃ってひぃっと情けない悲鳴をあげた彼らは、まるでバケモノでも見るかのような視線を薫によこす。対する薫は慣れたもので、ちらりとそれを一瞥すると偶然手にしていた竹刀を男達の目の前に突きつけた。




「卑怯な男は大嫌いだ。今すぐにその息の根を止めてやりたいぐらいに」




 彼女が微笑む。刹那。廊下の窓ガラスが、轟音とともに一斉に割れた。散らばったガラス片は一人でに浮き上がり、腰を抜かせて呆然としている男達の元に凄まじい速さで飛んでいく。

18日前 No.174

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=1fxt9eom70

 自分は、とても恵まれた家庭で育ったと思う。二段ベッドの下側に寝転んでいた彼女は、ぱっちりと目を開けて視線をさ迷わせる。暗闇の中光るデジタル時計は真夜中の2時を示しており、小さな彼女は深いため息をついた。……おばらしい人物と両親の会話を偶然聞いてしまったあの日から、紫翠は眠れない夜を過ごしていた。――今まで家族だと信じて疑わなかった者達が、実は本物ではなかったということ。彼女の実の両親は、彼女が生まれてすぐ不慮の事故に遭い、もうこの世には存在しないこと。そして、今現在家計が苦しいのは、養父母が自分を引き取ってしまったせいだということ。幼い彼女の前に意図せず突きつけられた現実は、当然ながらすぐには呑み込めるはずもなく。かといって、どういうことだと家族に詰め寄るのも違う気がして、紫翠は未だに誰にもこの事実を聞くことが出来ないまま、毎夜一人で考え続けている。紫翠は静かに瞳を閉じると、あの時の会話の内容を思い返す。おばが何度も口にした"研究所"という言葉。両親はそれに激昂していたけれど、そこにいけば家族を助けられるのだろうか。ころりと寝返りをうち、彼女は再び目を開ける。紫翠には、難しいことはわからない。けれど、自分のせいで迷惑を掛けてしまっているのならば、何となくここから出ていかなければいけないような、そんな気がするのだ。大好きな家族と離れるのはかなり辛いけれど、自分がそこに行くことで家族が少しでも楽に過ごせるならば……。




「いかなきゃ。けんきゅうじょに」




 幼い彼女の、あまりにも大きすぎる決意は夜の静寂に吸い込まれて消えていく。考えすぎて疲れてしまったのか、静かに寝息を立て始めた彼女は知らない。その覚悟を二段ベッドの上にいる姉が聞いていたことも。彼女が姿を眩ませた後、真実を告げられた家族が涙したことも。


15日前 No.175

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=rOCFRWF9CQ

 得るものよりも失う方が多い人生だった。あの子がいる限り、これからもきっとそんな人生を歩んでいくのだろう。双子でもないのに、双子のような私達。同じ父親を持ち、同じ日に生まれて、一卵性双生児のように容姿は瓜二つ。違うところといえば、髪と瞳の色と性格ぐらいだろうか。全体的に色素が薄く、そこはかとなく儚い印象を漂わせる彼女。対して私は、黒髪に黒い瞳。儚い印象など欠片もなく、人見知りも相まって根暗な印象しか持たれない。容姿はほとんど同じなのに、性格が違えば印象も変わるとはまさにこの事。方や学校一の美女。方や教室の隅がお似合いの私。これほどまでに差が出てしまうと、笑いするこみ上げてくる。橙色に染まる教室。窓側の後ろから二番目の席。頬杖をついて窓の外を見つめていた私は、あまりの夕日の眩しさに目を細める。
 ――高校は、あの子がいない所に行こうと思っていた。母親からあの子が県随一の進学校に行くと聞いたから、わざとランクを下げてここを受験したのに。入学式の日。あの子の姿を見つけた瞬間、足元がガラガラと音を立てて崩壊した。なす術もなく真っ暗な闇の中に放り出された私は、瞬時に悟った。私はきっと彼女から逃げられないのだと。私の人生は、きっと何もかもを彼女に与えるためにある。ならばいっその事、私は全てを彼女に差し出そう。期待もしない。何も欲しない。最初から諦めていれば、私は辛い思いをしなくてすむ。幼稚な保身だということは分かっていた。けれどもう、ボロボロだったのだ。あの子に何一つとして勝てない私に失望した母は、月に1度しか帰ってこず、親友だと思っていた者は、いつの間にかあの子の取り巻きになっていて。初めてできた彼氏にとって、私はあの子の代わりに過ぎなかった。希望はすべてあの子に踏み躙られて、その度に私は何度も何度も涙を流した。どうしてあの子なの。どうしてみんな私を見てくれないの。何度となく自問したそれは、結局答えが出ないまま、私の心に傷だけを残して消えていく。既に取り巻きができつつある彼女を冷たく一瞥したあの日から。私は"私"であることを諦めた。彼女に何をされても致し方ない。そう、思っていたのに……。




「何でアンタも、あの子のところに行っちゃうの……」




 声が震える。鼻の奥がツンっと痛くなり、夕日がじわじわと滲んでいく。私を見てくれるって言った癖に。好きだって言った癖に。結構その言葉は全部嘘で、初めての彼のように、私越しにあの子を見ていたの? 私に向けた言葉は全部あの子のもの? 唇を強くかんで、嗚咽が漏れるのを必死に堪える。馬鹿みたい。あの人の言葉に一喜一憂した自分が。馬鹿みたいだ。嗚咽の代わりに、自嘲的な乾いた笑い声が零れる。


「もう、嫌だなぁ……」



 自分を取り巻く全てが。自分自身が。大嫌いだ。強引に涙を拭った、その時。誰かが私の腕を強く掴む。驚いて目を見開いた私が後ろを振り向くより早く、息を切らした誰かは、明らかな怒りを滲ませる。




「ねぇ。先に帰ったんじゃなかったの。ケータイの電源まで切って、こんなところで何してるの?」

「なんで……」

「何でじゃないよ。好きな子がいなくなって、探さない彼氏がいると思う?」




 好きな子? 誰が? 1度荒んだ心はすぐには戻らない。いつもなら嬉しい言葉も、今は神経を逆なでするものでしか無くて。体の奥底からドロドロとした黒い何かがふつふつと湧き上がる。




「……くせに」

「一椛?」

「本当は、まりあのことが好きなくせに――!!」






( 劣等感で周りが見えなくなった女の子の話。若干人間不信気味。 )

14日前 No.176

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=rOCFRWF9CQ

 間宮 一椛 / まみや いちか(※一花と悩み中)
→数多の劣等感を抱える女子高生。両親は彼女が生まれてすぐに離婚。現在は母ひとり子ひとりの生活をしている。離婚原因は父親の不倫。母が産気づいた時、父は不倫相手の出産に立ち会っていた。母は不倫相手(現在は父と結婚している)を妙に敵視し、物心ついた時から一椛とその娘――まりあを何かと競わせてきた。しかし、1度として彼女に勝てなかった一椛に母は失望し、今現在月に1回帰ってくればいいぐらい。顔立ちは可愛らしいというよりかは美人系。劣等感と周囲の人間よりまりあに全てを奪われていると思っている。人間不信気味




 木場 まりあ / きば まりあ
→名前負けしない綺麗な顔立ち。母親譲りの色素の薄い髪と瞳は彼女を儚い印象に見せる。一椛との関係は全て理解しており、彼女に話しかけるのは違うだろうと距離を置いている。年を重ねる事に荒んでいく彼女を心配しているとかいないとか。両親のことがあまり好きではなく、家庭内ではあまり会話をしない。母親がいわゆるお嬢様のため、裕福な暮らしをしている。
(※性格を悪くしようか、よくしようか悩み中)





( まりあと一椛は同じ年の同じ日に生まれた。まりあの方が一椛より数分早く産まれたらしい。母が違うにも関わらず、まるで一卵性双生児のように瓜二つ。好みや趣味も同じのため、普通に出会ったなら気が合う友達になれた可能性が大 )




【 自分で言うのもなんだけどめっちゃドロドロしてる 】

14日前 No.177

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=6APyE4tMjB

「その脳裏に焼き付けろ! 愚王に仕えし者たちよ。この国の王女たる私の最期を。この国に呪いが刻まれる瞬間を! 我が命を代価として、私は悪魔と契約しよう。望みはただ一つ。私の両親を、二度も殺したこの国に終焉を――!!」


 5年前に死んだはずの王女は、育ての親たる女の死体をかき抱き、鋭い視線を周囲に投げかける。溢れる涙を止めようともせず、少女は手にしていた短剣を躊躇うことなく己の喉へと突き立てる。――それは、見るに耐えない凄惨な光景だった。ある者は悲鳴をあげ、ある者は吐き気を催して駆け出していく者。耐えられずその場で嘔吐してしまう者。多くの者が視線を逸らす中、その覚悟と憎しみから彼女を食い入るように見つめ続ける者。様々な反応をする中で、気の陰に隠れたソレは二ィッと口を三日月型に歪めると、静かに身を翻す。




「――良いだろう。貴様の望み、確かに聞き届けた」




 終焉の悪魔は嗤う。

11日前 No.178

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=fHDYBzZPCa

「お前さぁ、才能ないって逃げてんじゃねぇよ」

「……は?」

「自分は才能がないから練習しても無駄。自分は才能がないからみんなの足引っ張る。……違うだろ? お前、才能がないって痛感するほど必死こいて練習したのかよ。ちょっとはそのない頭で考えたのかよ」

「それは……っ」



 言い返そうとして、言葉につまる。俺は、練習したか? 才能がないから、みんなの足を引っ張らないように、誰よりも沢山練習したか? どうしたら上手くなれるのか、頭が痛くなるくらい考えたか? 静かな怒りを称える先輩を見つめ、ごくりと生唾を呑み込む。……いや、してない。俺は何もしてない。みんなみたいに才能がないから。だから、練習しても無駄だって。考えても無駄だって諦めて、足を引っ張るのは仕方が無いと諦めていた。目を見開いたまま固まる俺を見下ろし、先輩はついっと目を細める。



「してないよな? お前は何もしてない。才能がないって言うのを言い訳にして逃げていた。……なぁ。俺らは別に天才の集まりじゃないんだ。もしそうだったら、俺らはこんなに必死になって、貴重な夏休みまで返上して練習なんてしてない。遅くに残ってまで練習なんてしてない。俺の言いたいこと、わかる?」

「は、い……」




 俺は才能がないどうこういう前に、練習量が足りない。強くなろうとする努力が足りない。彼はそう言っているのだろう。呆然とする俺に苦笑を浮かべた先輩は、乱暴に俺の頭に手を置いてわしゃわしゃと掻き回す。驚いて目を見開く俺に、先輩はいつも通りの弾けるような笑顔を浮かべた。


「お前は別に才能がないわけじゃない……と、断言することは出来ないが、少なくともまだそうと決めつけるには早すぎる。お前が本当に強くなりたいんだったら、俺はいくらでも練習に付き合ってやるから、いつでも声かけて。じゃっ」

 ひらりと手を振って練習に戻る先輩を、俺はただただ見つめることしか出来なかった。去っていく先輩の背中を見送りながら、俺はぎゅっと拳を握る。最悪だ。俺。カッコ悪い。俺の抱いていた劣等感は、全部全部自分のせいだった。


【あからさまな青春系を書いてみたかったんだ!! 許して!!】


9日前 No.179

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=fHDYBzZPCa

「高校の3年間って凄い早いの。あっという間。だからさぁ、やりたいことあるなら今のうちにやっておけよ。後悔する前に」


 苦笑いを浮かべる先輩に、私は目を見開く。嗚呼。この目。あの時の私と同じ目だ。過ぎ去った過去を昇華できずに、ただただ自分を責めることしか出来なかったあの時の……。どことなく自嘲的に見えるそれは、きっと私の勘違い何かじゃないんだろう。お世話になった先輩を励ましたくて開きかけた口を、私は慌てて閉じる。ダメだ。巧妙に隠しているそれを勝手に暴き、私は一体先輩に何を言うつもりだ? 適当な言葉を言ったところで、お前に何がわかると言われるだけだ。いや、言葉にしてくれるだけまだマシだろう。優しい先輩は、傷ついた心を笑顔で隠し、きっと何を言わないに違いない。両手で口を抑える私を、先輩は不思議そうに見下ろす。その瞳に先ほどの寂しさのような光はなく、私は取り繕うように下手な笑顔を浮かべた。


9日前 No.180

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=fHDYBzZPCa

 圧倒的な存在感に肌がひりつく。誰もが彼女に跪き、崇拝するのは、その人間離れした美貌だけではないのだと瞬時に察することが出来た。呆然と彼女を見つめていた少女は、ギリッと唇をかみしめる。
(最悪。雰囲気だけで殺されそうだわ)
 少女の思う通り、能力の弱い者達は彼女の隠しきれていないそれに耐えられず、次々と担架に運ばれていく。それをちらりと一瞥した少女は、気を紛らわせるために一つ息をついた。正直、彼女とて立っているだけで限界だった。額には汗の玉が浮かび、何もしていないのに自然と息が上がる。まるで重力に押しつぶされているような感覚は、少しでも気を抜いてしまえば内臓を吐き出してしまいそうだ。雑魚のことなど興味が無いのか。それとも慣れているのか。悠然と椅子に腰掛ける彼女に、少女はチッと舌打ちをする。彼女の力は、彼女の意思を無視して弱いものを淘汰しようとする。それが彼女が崇拝される所以であり、神と呼ばれる理由だった。弱い者には害でしかないけれど、それは敵にとっても例外ではないということだ。
(こんなもんに耐えられるヤツなんて、きっとアイツしかいないだろうなぁ)
 彼女と並ぶほどの力とカリスマ性を持ち、この狭い箱庭で神と崇められる男。――少女にとっては"オリジナル"。次から次へと生徒が倒れていく中、彼は悠然と少女の元まで歩みを進めると、周囲の人間がするように跪かず、にこりと微笑を浮かべる。



「お久しぶりです。ミス冷泉。相変わらずお美しいようで何より」

「ご機嫌よう。茅様。私にここまで近づいて平気でいられるのは貴方だけだわ」

9日前 No.181

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=9BM99oVBBT

 ――私たちには代わりはいない。
それは、自分が上手いからとかそういう驕りではなくて、入部したての1年生を加えて私たちはやっと一つの楽譜を奏でることが出来る。拙い部分は先輩が全力でカバーして。足りない音は他パートで補う。私たちパーカッションは、少しでも多く楽器が使えるように、音源を聴き込み、何枚もの楽譜を広げて曲にとって大切な部分を抜き取る。休みはほぼ移動時間のためにあるようなもので、それ以外はとにかく必死に音を聞き、指揮を見続ける。シンバルの時に鋭く時に華やかな音。スネアが刻むリズム。ティンパニーの低音。曲のリズムを一定に刻み、要所要所に花を添えるのが私たちの仕事。一見地味に見えるパートだけれど、やってみると奥が深くて、楽しくて。気づけば夢中になっていた。



「別に間違えてもいいんだよ。こんなこと言うとあれだけど、お客さんはスコアを見ながら聞いてるわけじゃないんだ。間違えたところで誰も気づかない。でもね。雪ちゃんが今みたいにやっちゃった!って顔してると、子供でも分かっちゃうよ。間違えても"え? 私間違えてないけど?"って堂々としてなきゃ。見て? 優月のあの反省の色が欠片も見えない顔を」

「うるさいそこー!! たまたまミスっただけだし。間違えなんて誰にでもある! でも、次は間違えない」


6日前 No.182

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=9BM99oVBBT

「なぁなぁ! ゆーまに伶斗! 夏休み海に遊びに行かへん?」

「海? 川の間違いなんじゃねぇの?」

「そうだなぁ。見渡す限り山に囲まれたこんなド田舎のどこに行ったら海があるんだよ。電車とか乗り方知らねぇぞ」

「それはほら。俺が教えたるやん。せっかくの夏やのに海行かんなんて勿体ないわ! な? どうせ二人共暇なんやろ?」

「生憎だけど俺、彼女いるから忙し――……」

「それ昨日別れたって言ってたじゃん。さっきまで俺のどこが悪かったのかなってジメジメしてたじゃん。何自分から掘り返してんの。馬鹿なの?」

「何言うとるん伶斗。ゆーまは少なくとも俺が引っ越してきた時にはもうアホやったやんか」

「てんめェ! 樹! ぶん殴るぞボケェ!」

「ゆーまはホンマに口悪いなぁ。そんなんやから彼女と長く続かへんねん。なぁ? 伶斗」

「……僕もう知らないから」



3日前 No.183
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