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泡沫のイリュジオン

 ( 書き捨て!小説 )
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妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★ldpWy4Uvko_EP8








――願ったのは"死"と言う自由だった。


――望んだのは、"死"という終焉だった。



でも、神様は自分にそれすらも与えてくれない。

自分の望みは何も叶えてくれない。

夜空を見上げれば、紺碧の空には砂を振りまいたかのように数多の星々が輝き、少女は虚ろな瞳で手を伸ばして星を掴むふりをする。

この手は、何も掴むことは出来ない。

幸せも、望みも。己の人生の終焉でさえ。

彼女の人生は全て人の手の中に。それは、商品のように値段をつけられ、売買されて、数多の人の手に渡って行く。

少女が生きるも死ぬも、その時の"主"次第。

彼女が選択する権利は、これっぽっちもない。

少女はおもむろに一歩を踏み出すと、今まで茶色のタイルしか見えなかった景色が一変する。

いつもかけずり回っている庭の地面は遥か下方に。

真夜中だと言うのに、庭を行き交う使用人たちは普段は自分よりも背の高い者たちばかりなのに、今では蟻のように小さく見える。

少女は再び一歩踏み出すと、満面の笑みを浮かべた。

今までずっと、待ってきた。

神が自分に、"死"と言う贈り物をくれることを。

けれど、我らが主は自分にそれを与えてはくれなかった。

面倒なお祈りもして、いつかは来るべきその日だけを糧に、醜い者どもに仕えて来たのに。

だから、彼女は思ったのだ。

神が与えてくれぬのならば、自分で掴みに行こうと。

今まで何も掴むことのできなかったこの手で、己の望みを掴みに行こうと。

強風が吹く。彼女は正面から吹く風を両手を広げて受けとめ、空中に向けて足を踏み出した。



「さようなら。醜く狂った世界よ。私はあなたのことが――……反吐が出るほど大嫌いだったわ」









/私の妄想のはき溜めです←
無いだろうけど、盗作、パクリ(アレ。一緒?)はやめてくださいね。泣いちゃうわよ。


/下手なのは分かってます。
どうか生ぬるい目で見守ってやってください。










2年前 No.0
メモ2016/12/17 17:07 : 妃翠☆dszkmgEaqwdD @azalea★iPhone-hFGOHIYfdv

17いいね、ありがとうございます!!(´;ω;`)

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妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=GW0xu8cXMA

「……わっちは、"お姉ちゃん"でありんすから」
「風花(かざはな)?」



 風花が"風花でないとき"からずっとそう言い聞かされて育ってきた。あなたはお姉ちゃんだから。あなたは、先に生まれたのだからと、たくさんのことを我慢してきた。それが兄弟達のためなら、両親が喜んでくれるのならと、幼心に言い聞かせながら。風花は、梅雨の時期にしては珍しい晴れた空を眩しげに見やり、自嘲的な笑をこぼす。心配そうに彼女の顔を覗き込む龍に、心配するなという意味を込めて微笑むと、彼女は誰に語るでもなくポツポツと話し出す。



「――わっち の生まれ育ったところは、ここからずっと遠くの何も無い小さな村でありんした」




 これから語るは、風花が風花になる前の話。彼女が普通の少女だった頃の、もう取り戻すことは出来ない遠い記憶。梅雨独特の絡みつくような風に乗って、鈴の音が微かに聞こえた、

5ヶ月前 No.162

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★BxEfezLEi0_EP8









 互いの顔が見えるかどうかと言うほどの薄暗い部屋の中。一本のランプの灯りが、真っ白な壁に二人の男女の姿を映し出す。部屋に響く甘い嬌声。ベッドの軋む音。時折聞こえる濡れたような音は、真かそれとも偽りか。乱れたシーツを握りしめ、少女はトロリとした瞳で男を見やる。美しい金髪に、引き締まった体。自分を見つめるその面は、通りすがりの者たちが足を止めて振り返るほどに美しい。
(……こんなに美人なら、引く手数多だと思うんだけれど)
 無感動な目で、快楽に身をゆだねる彼を映し、少女は気づかれないようにため息を零す。彼女は、娼婦に身を堕とす前はとある貴族の令嬢だった。世間では知らぬ者はいないと言われる大貴族、と言うほどではなかったが、それでも今よりは豊かな暮らしをしていたと自身を持って言える。それが何故、今は娼婦となって身体を売っているのか。簡単なことだ。恥知らずで道徳心など欠片もない、少女の人生の中で恐らく最も屑な実の父親が、娼婦に貢いで大量の借金をした自身の身を守るために、娘である少女と妻を、何のためらいもなしに娼館に売り飛ばしたからである。兄の怨みを買ったと言う自覚があるせいか、それとも、大量の貢物をした娼婦と駆け落ちでもしたのか。父は現在行方知れず。元々身体の弱い母は、激しい環境の変化と、夫の裏切りに絶望して精神を病み、数日前に自身の命を絶った。兄は、少女を買い戻そうと死に物狂いで働いているらしいが、父の借金の金額からするに、恐らく自分は一生娼婦のままだろう。……皮肉なものだ。父が肩入れした娼婦のせいで、自身も同じ職に就くだなんて。快楽に呑まれたフリをしながら、少女は遠い目をして天井を見上げる。初めは見知らぬ相手に触れられるだけで吐き気がした。触られている部分が腐って行くような、酷い恐怖と嫌悪感。いっそ狂ってしまった方が楽だと思えるそれに、しかし少女は必死に耐えた。彼女の得意な"別人格"を作って――。




「リュシー……」

「主様……、私、もう――っ!」




 視線が交差する。男の背に腕を回したジゼルの頬に、一筋の涙が零れ落ちる。幸せでたまらないと言うオーラを前面に出しながら、リュシーは"目の前の男を一途に愛する女"を演じ続ける。そこに気持ちなど欠片程もない。リュシーの役目は、ただただそのキャラを演じきることだけ。内心では顔をしかめながらも、彼女は笑顔を浮かべ続ける。呼吸の荒い彼を愛おし気に見つめ、リュシーはふわりと微笑んだ。その瞳に、涙を浮かべながら。





「愛しています。主様」





 上っ面だけのその言葉は、酷く乾いて聞こえた。

4ヶ月前 No.163

削除済み @azalea ★iPhone=kXDfLCUx7e

【記事主より削除】 ( 2016/12/04 04:06 )

4ヶ月前 No.164

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=kXDfLCUx7e

[ 結城 恵美/ ゆうき えみ ]

 幼い頃に大病を患った少女。何とか病を克服し、17歳現在。病院の小児科病棟で絵本の読み聞かせや、イベント等をするボランティアに参加している。学校の成績は中の上ほど。苦手科目は理数系。得意科目の文系では、余裕で平均を超えているのに対し、理数系科目は赤点ギリギリ。将来の夢は看護師。



[ 如月 優斗 / きさらぎ ゆうと ]

 物静かな一匹狼。いわゆるイケメン。メイクバッチリなイケイケ女子に常に狙われているものの、本人は全く気づいていない。運動神経抜群。成績は入学以来学年一位をキープ。苦手科目も得意科目も特になし。妹がいるため、面倒見がいい。



[ 如月 千羽 / きさらぎ ちわ ](千鶴と悩み中)

 優斗の歳の離れた妹。6歳。生まれつき体が弱く、家にいるより病院にいる時間の方が長い。人見知りが激しく、馴染むまでにかなりの時間を要するが、慣れるとべったり懐いてくる。
ポジティブで底抜けに明るい。年齢にそぐわない大人っぽさを垣間見せる。可愛いものと、もふもふしたものが好き。点滴と注射と薬が嫌い。昔は人の目を盗んで自分で点滴を抜いたり、薬を窓から捨てたりしていたらしい。



4ヶ月前 No.165

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=kXDfLCUx7e

 「……あなたはどこまで、私を愚弄すれば気が済むのですか」


 地をはうような低い声が、静寂を破る。聞いたことのない声に男が目を見開いて顔をあげると、そこには掌が白くなるほど両の拳を握りしめ、こちらを鋭くにらみ据える椿の姿があった。彼女の大きな瞳からは大粒の涙が流れ、咄嗟に手を伸ばしかけた彼だったが、彼女の触れる前にぴしゃりと手を払いのけられる。



「触らないで。顔を見ないで。その汚れた声で、私の名前を呼ばないで!!」

「……っ」




4ヶ月前 No.166

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★BxEfezLEi0_EP8

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4ヶ月前 No.167

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★BxEfezLEi0_EP8

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4ヶ月前 No.168

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=hFGOHIYfdv

「――恋愛ってよくわかんない」

「ほぉ。それはまたどうして?」

「昨日まで仲良かったカップルが今日になったら別れてたり、2組の荒井くんが好きって言ってたトモちゃんが何故か3組の生垣くんと付き合い始めたり――」

「おいこら」

「そういえばこの前、間宮さんと由良さんがキスしてた」

「…………え?」

「恋愛ってよくわかんない」

「私は百合現場に遭遇したことを、買い物行ったら担任と鉢合わせしたくらいのノリで言うあんたが一番分からないわ」



4ヶ月前 No.169

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=jNgXnZ6t8d

 昔から、私とあの子は何かしらのことで競い合っていた。といっても、それは私と彼女の意思ではなかったけれど。


 ――私とあの子は、ほんの数時間違いでこの世に生を受けた。生まれた時間は、確かあの子の方が一時間早かったと記憶している。私の母はたった1人で、あの子の母は私とあの子の父親に見守られてそれぞれの子供を産んだ。今思えば、この時点で私の母の勝ち目はもうなかったように思える。父の心はきっと、私が生まれる前からあの子の母親の方に向いていたのだろう。彼とあの子が手を繋いで仲睦まじく帰っていく後ろ姿を眺めながら、私は窓にそっと触れる。……私とあの子の関係は、所謂父親の不倫相手の娘と捨てられた女の娘。何故かあちらの母親と私の母親はお互いがお互いを妙に敵視し、まるでチェスの駒か何かのように、何かにつけては私達を競わせてきた。あの子がピアノを習ったなら私もピアノを。私がバレエを習ったならあの子もバレエを。一週間びっしりと詰め込まれた習い事で、あの子の顔を見ない日はなかったように思う。あの子は何でも卒なく一番をとる一方で、私はいつも二番手で。母は負けてばかりの私を見る度に、深い深いため息をついた。唇をぎゅっと噛み締める。頬を伝う冷たい何かに気づかないふりをして、私は彼らから視線をそらさない。分かっていた。私があの子に勝てない事ぐらい。私のそばに居た人は、最終的にはみんなあの子を選ぶ。



「ずるい……」




 ずるい。みんなに選ばれて、みんなに愛されて。どうしてあの子ばかりなの。どうしてみんな私を見てはくれないの。唯一私のことを見てくれたあの人でさえ、他のみんなと同じだった。視界がぼやける。零れる嗚咽を抑えきれなくて、私はたまらず口元を両手で覆ってその場に座り込んだ。




「……っ」




 私は一体なんのために生まれてきたのだろう。産まれる前に母と共に父に捨てられ、期待に応えられなかったがために唯一の肉親である母親にさえ見捨てられた。この世に私を必要としてくれる存在なんているのだろうか。私を見てくれる人はいるのだろうか、

4ヶ月前 No.170

削除済み @azalea ★iPhone=jNgXnZ6t8d

【記事主より削除】 ( 2016/12/18 12:00 )

4ヶ月前 No.171

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=NZNTONnIgF

 ――もう、限界だったのだ。
張り合うように浮気をする両親も。まるで犯罪者でも見るような視線をよこしてくるクラスメイトも。……母の目を盗んで自分を汚す母の浮気相手も。彼女の周りは全て歪だった。優しさや愛情なんて欠片もない。あるのは悪意と身勝手な欲望だけ。朧気な意識の中、湯船の中に並々と注がれた真っ赤なお湯を一瞥する。あの人はこれを見てどう思うだろうか。一瞬、涙を流す姿が彼女の脳裏を過ぎったが、すぐにそんなはずはないと思考を打ち消した。自分が死んだくらいで泣いてくれるような人ならば、自分は自殺なんてしようとは思わなかった。きっと、あの人は、肩の荷が降りたと、喜ぶに違いない。自嘲めいた笑を零し、少女は浴槽の淵に頭を乗せる。視界が明滅する。恐らく自分はもうすぐ死ぬのだろう。彼女としては早く死にたくて仕方がなかったが、しょうがない。なるべく綺麗に死にたかったのだから。ぐったりと湯船にもたれかかった彼女は、ゆっくりと瞼を閉じる。
(嗚呼。やっと、死ねるんだ……。長かったなぁ)
沢山の苦しみからやっと開放される。そう考えると、なぜか無性に嬉しくて。少女は最期に、何十年かぶりの笑顔を浮かべた。

3ヶ月前 No.172

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=1fxt9eom70

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3ヶ月前 No.173

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=1fxt9eom70

「ねーえ。ゴミはゴミらしく静かにしててくれない? 僕は今最高に機嫌が悪いんだ」



 満面の笑みを浮かべた彼女の額に、確かに青筋が浮かぶ。首を傾げる仕草は可愛らしさには程遠く、そのあまりにも威圧的な雰囲気に相手の男達がたじろいだのが分かった。たまたま手にしていた竹刀で肩を叩きながら、薫はゆっくりと彼らと距離を縮めていく。




「僕、言ったよね? 嫌がらせをするなら僕にどうぞって。僕はそれを受け入れるって。ちゃんと、君たちに、言ったよね?」




 彼女の怒りに比例するように、周囲の温度がどんどん下がっていく。先程まで半袖すらも鬱陶しく感じるほどに暑かった廊下はまるで冬のように寒く、外気との差に窓がくもりはじめる。揃いも揃ってひぃっと情けない悲鳴をあげた彼らは、まるでバケモノでも見るかのような視線を薫によこす。対する薫は慣れたもので、ちらりとそれを一瞥すると偶然手にしていた竹刀を男達の目の前に突きつけた。




「卑怯な男は大嫌いだ。今すぐにその息の根を止めてやりたいぐらいに」




 彼女が微笑む。刹那。廊下の窓ガラスが、轟音とともに一斉に割れた。散らばったガラス片は一人でに浮き上がり、腰を抜かせて呆然としている男達の元に凄まじい速さで飛んでいく。

3ヶ月前 No.174

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=1fxt9eom70

 自分は、とても恵まれた家庭で育ったと思う。二段ベッドの下側に寝転んでいた彼女は、ぱっちりと目を開けて視線をさ迷わせる。暗闇の中光るデジタル時計は真夜中の2時を示しており、小さな彼女は深いため息をついた。……おばらしい人物と両親の会話を偶然聞いてしまったあの日から、紫翠は眠れない夜を過ごしていた。――今まで家族だと信じて疑わなかった者達が、実は本物ではなかったということ。彼女の実の両親は、彼女が生まれてすぐ不慮の事故に遭い、もうこの世には存在しないこと。そして、今現在家計が苦しいのは、養父母が自分を引き取ってしまったせいだということ。幼い彼女の前に意図せず突きつけられた現実は、当然ながらすぐには呑み込めるはずもなく。かといって、どういうことだと家族に詰め寄るのも違う気がして、紫翠は未だに誰にもこの事実を聞くことが出来ないまま、毎夜一人で考え続けている。紫翠は静かに瞳を閉じると、あの時の会話の内容を思い返す。おばが何度も口にした"研究所"という言葉。両親はそれに激昂していたけれど、そこにいけば家族を助けられるのだろうか。ころりと寝返りをうち、彼女は再び目を開ける。紫翠には、難しいことはわからない。けれど、自分のせいで迷惑を掛けてしまっているのならば、何となくここから出ていかなければいけないような、そんな気がするのだ。大好きな家族と離れるのはかなり辛いけれど、自分がそこに行くことで家族が少しでも楽に過ごせるならば……。




「いかなきゃ。けんきゅうじょに」




 幼い彼女の、あまりにも大きすぎる決意は夜の静寂に吸い込まれて消えていく。考えすぎて疲れてしまったのか、静かに寝息を立て始めた彼女は知らない。その覚悟を二段ベッドの上にいる姉が聞いていたことも。彼女が姿を眩ませた後、真実を告げられた家族が涙したことも。


3ヶ月前 No.175

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=rOCFRWF9CQ

 得るものよりも失う方が多い人生だった。あの子がいる限り、これからもきっとそんな人生を歩んでいくのだろう。双子でもないのに、双子のような私達。同じ父親を持ち、同じ日に生まれて、一卵性双生児のように容姿は瓜二つ。違うところといえば、髪と瞳の色と性格ぐらいだろうか。全体的に色素が薄く、そこはかとなく儚い印象を漂わせる彼女。対して私は、黒髪に黒い瞳。儚い印象など欠片もなく、人見知りも相まって根暗な印象しか持たれない。容姿はほとんど同じなのに、性格が違えば印象も変わるとはまさにこの事。方や学校一の美女。方や教室の隅がお似合いの私。これほどまでに差が出てしまうと、笑いするこみ上げてくる。橙色に染まる教室。窓側の後ろから二番目の席。頬杖をついて窓の外を見つめていた私は、あまりの夕日の眩しさに目を細める。
 ――高校は、あの子がいない所に行こうと思っていた。母親からあの子が県随一の進学校に行くと聞いたから、わざとランクを下げてここを受験したのに。入学式の日。あの子の姿を見つけた瞬間、足元がガラガラと音を立てて崩壊した。なす術もなく真っ暗な闇の中に放り出された私は、瞬時に悟った。私はきっと彼女から逃げられないのだと。私の人生は、きっと何もかもを彼女に与えるためにある。ならばいっその事、私は全てを彼女に差し出そう。期待もしない。何も欲しない。最初から諦めていれば、私は辛い思いをしなくてすむ。幼稚な保身だということは分かっていた。けれどもう、ボロボロだったのだ。あの子に何一つとして勝てない私に失望した母は、月に1度しか帰ってこず、親友だと思っていた者は、いつの間にかあの子の取り巻きになっていて。初めてできた彼氏にとって、私はあの子の代わりに過ぎなかった。希望はすべてあの子に踏み躙られて、その度に私は何度も何度も涙を流した。どうしてあの子なの。どうしてみんな私を見てくれないの。何度となく自問したそれは、結局答えが出ないまま、私の心に傷だけを残して消えていく。既に取り巻きができつつある彼女を冷たく一瞥したあの日から。私は"私"であることを諦めた。彼女に何をされても致し方ない。そう、思っていたのに……。




「何でアンタも、あの子のところに行っちゃうの……」




 声が震える。鼻の奥がツンっと痛くなり、夕日がじわじわと滲んでいく。私を見てくれるって言った癖に。好きだって言った癖に。結構その言葉は全部嘘で、初めての彼のように、私越しにあの子を見ていたの? 私に向けた言葉は全部あの子のもの? 唇を強くかんで、嗚咽が漏れるのを必死に堪える。馬鹿みたい。あの人の言葉に一喜一憂した自分が。馬鹿みたいだ。嗚咽の代わりに、自嘲的な乾いた笑い声が零れる。


「もう、嫌だなぁ……」



 自分を取り巻く全てが。自分自身が。大嫌いだ。強引に涙を拭った、その時。誰かが私の腕を強く掴む。驚いて目を見開いた私が後ろを振り向くより早く、息を切らした誰かは、明らかな怒りを滲ませる。




「ねぇ。先に帰ったんじゃなかったの。ケータイの電源まで切って、こんなところで何してるの?」

「なんで……」

「何でじゃないよ。好きな子がいなくなって、探さない彼氏がいると思う?」




 好きな子? 誰が? 1度荒んだ心はすぐには戻らない。いつもなら嬉しい言葉も、今は神経を逆なでするものでしか無くて。体の奥底からドロドロとした黒い何かがふつふつと湧き上がる。




「……くせに」

「一椛?」

「本当は、まりあのことが好きなくせに――!!」






( 劣等感で周りが見えなくなった女の子の話。若干人間不信気味。 )

3ヶ月前 No.176

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=rOCFRWF9CQ

 間宮 一椛 / まみや いちか(※一花と悩み中)
→数多の劣等感を抱える女子高生。両親は彼女が生まれてすぐに離婚。現在は母ひとり子ひとりの生活をしている。離婚原因は父親の不倫。母が産気づいた時、父は不倫相手の出産に立ち会っていた。母は不倫相手(現在は父と結婚している)を妙に敵視し、物心ついた時から一椛とその娘――まりあを何かと競わせてきた。しかし、1度として彼女に勝てなかった一椛に母は失望し、今現在月に1回帰ってくればいいぐらい。顔立ちは可愛らしいというよりかは美人系。劣等感と周囲の人間よりまりあに全てを奪われていると思っている。人間不信気味




 木場 まりあ / きば まりあ
→名前負けしない綺麗な顔立ち。母親譲りの色素の薄い髪と瞳は彼女を儚い印象に見せる。一椛との関係は全て理解しており、彼女に話しかけるのは違うだろうと距離を置いている。年を重ねる事に荒んでいく彼女を心配しているとかいないとか。両親のことがあまり好きではなく、家庭内ではあまり会話をしない。母親がいわゆるお嬢様のため、裕福な暮らしをしている。
(※性格を悪くしようか、よくしようか悩み中)





( まりあと一椛は同じ年の同じ日に生まれた。まりあの方が一椛より数分早く産まれたらしい。母が違うにも関わらず、まるで一卵性双生児のように瓜二つ。好みや趣味も同じのため、普通に出会ったなら気が合う友達になれた可能性が大 )




【 自分で言うのもなんだけどめっちゃドロドロしてる 】

3ヶ月前 No.177

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=6APyE4tMjB

「その脳裏に焼き付けろ! 愚王に仕えし者たちよ。この国の王女たる私の最期を。この国に呪いが刻まれる瞬間を! 我が命を代価として、私は悪魔と契約しよう。望みはただ一つ。私の両親を、二度も殺したこの国に終焉を――!!」


 5年前に死んだはずの王女は、育ての親たる女の死体をかき抱き、鋭い視線を周囲に投げかける。溢れる涙を止めようともせず、少女は手にしていた短剣を躊躇うことなく己の喉へと突き立てる。――それは、見るに耐えない凄惨な光景だった。ある者は悲鳴をあげ、ある者は吐き気を催して駆け出していく者。耐えられずその場で嘔吐してしまう者。多くの者が視線を逸らす中、その覚悟と憎しみから彼女を食い入るように見つめ続ける者。様々な反応をする中で、気の陰に隠れたソレは二ィッと口を三日月型に歪めると、静かに身を翻す。




「――良いだろう。貴様の望み、確かに聞き届けた」




 終焉の悪魔は嗤う。

3ヶ月前 No.178

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=fHDYBzZPCa

「お前さぁ、才能ないって逃げてんじゃねぇよ」

「……は?」

「自分は才能がないから練習しても無駄。自分は才能がないからみんなの足引っ張る。……違うだろ? お前、才能がないって痛感するほど必死こいて練習したのかよ。ちょっとはそのない頭で考えたのかよ」

「それは……っ」



 言い返そうとして、言葉につまる。俺は、練習したか? 才能がないから、みんなの足を引っ張らないように、誰よりも沢山練習したか? どうしたら上手くなれるのか、頭が痛くなるくらい考えたか? 静かな怒りを称える先輩を見つめ、ごくりと生唾を呑み込む。……いや、してない。俺は何もしてない。みんなみたいに才能がないから。だから、練習しても無駄だって。考えても無駄だって諦めて、足を引っ張るのは仕方が無いと諦めていた。目を見開いたまま固まる俺を見下ろし、先輩はついっと目を細める。



「してないよな? お前は何もしてない。才能がないって言うのを言い訳にして逃げていた。……なぁ。俺らは別に天才の集まりじゃないんだ。もしそうだったら、俺らはこんなに必死になって、貴重な夏休みまで返上して練習なんてしてない。遅くに残ってまで練習なんてしてない。俺の言いたいこと、わかる?」

「は、い……」




 俺は才能がないどうこういう前に、練習量が足りない。強くなろうとする努力が足りない。彼はそう言っているのだろう。呆然とする俺に苦笑を浮かべた先輩は、乱暴に俺の頭に手を置いてわしゃわしゃと掻き回す。驚いて目を見開く俺に、先輩はいつも通りの弾けるような笑顔を浮かべた。


「お前は別に才能がないわけじゃない……と、断言することは出来ないが、少なくともまだそうと決めつけるには早すぎる。お前が本当に強くなりたいんだったら、俺はいくらでも練習に付き合ってやるから、いつでも声かけて。じゃっ」

 ひらりと手を振って練習に戻る先輩を、俺はただただ見つめることしか出来なかった。去っていく先輩の背中を見送りながら、俺はぎゅっと拳を握る。最悪だ。俺。カッコ悪い。俺の抱いていた劣等感は、全部全部自分のせいだった。


【あからさまな青春系を書いてみたかったんだ!! 許して!!】


3ヶ月前 No.179

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=fHDYBzZPCa

「高校の3年間って凄い早いの。あっという間。だからさぁ、やりたいことあるなら今のうちにやっておけよ。後悔する前に」


 苦笑いを浮かべる先輩に、私は目を見開く。嗚呼。この目。あの時の私と同じ目だ。過ぎ去った過去を昇華できずに、ただただ自分を責めることしか出来なかったあの時の……。どことなく自嘲的に見えるそれは、きっと私の勘違い何かじゃないんだろう。お世話になった先輩を励ましたくて開きかけた口を、私は慌てて閉じる。ダメだ。巧妙に隠しているそれを勝手に暴き、私は一体先輩に何を言うつもりだ? 適当な言葉を言ったところで、お前に何がわかると言われるだけだ。いや、言葉にしてくれるだけまだマシだろう。優しい先輩は、傷ついた心を笑顔で隠し、きっと何を言わないに違いない。両手で口を抑える私を、先輩は不思議そうに見下ろす。その瞳に先ほどの寂しさのような光はなく、私は取り繕うように下手な笑顔を浮かべた。


3ヶ月前 No.180

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=fHDYBzZPCa

 圧倒的な存在感に肌がひりつく。誰もが彼女に跪き、崇拝するのは、その人間離れした美貌だけではないのだと瞬時に察することが出来た。呆然と彼女を見つめていた少女は、ギリッと唇をかみしめる。
(最悪。雰囲気だけで殺されそうだわ)
 少女の思う通り、能力の弱い者達は彼女の隠しきれていないそれに耐えられず、次々と担架に運ばれていく。それをちらりと一瞥した少女は、気を紛らわせるために一つ息をついた。正直、彼女とて立っているだけで限界だった。額には汗の玉が浮かび、何もしていないのに自然と息が上がる。まるで重力に押しつぶされているような感覚は、少しでも気を抜いてしまえば内臓を吐き出してしまいそうだ。雑魚のことなど興味が無いのか。それとも慣れているのか。悠然と椅子に腰掛ける彼女に、少女はチッと舌打ちをする。彼女の力は、彼女の意思を無視して弱いものを淘汰しようとする。それが彼女が崇拝される所以であり、神と呼ばれる理由だった。弱い者には害でしかないけれど、それは敵にとっても例外ではないということだ。
(こんなもんに耐えられるヤツなんて、きっとアイツしかいないだろうなぁ)
 彼女と並ぶほどの力とカリスマ性を持ち、この狭い箱庭で神と崇められる男。――少女にとっては"オリジナル"。次から次へと生徒が倒れていく中、彼は悠然と少女の元まで歩みを進めると、周囲の人間がするように跪かず、にこりと微笑を浮かべる。



「お久しぶりです。ミス冷泉。相変わらずお美しいようで何より」

「ご機嫌よう。茅様。私にここまで近づいて平気でいられるのは貴方だけだわ」

3ヶ月前 No.181

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=9BM99oVBBT

 ――私たちには代わりはいない。
それは、自分が上手いからとかそういう驕りではなくて、入部したての1年生を加えて私たちはやっと一つの楽譜を奏でることが出来る。拙い部分は先輩が全力でカバーして。足りない音は他パートで補う。私たちパーカッションは、少しでも多く楽器が使えるように、音源を聴き込み、何枚もの楽譜を広げて曲にとって大切な部分を抜き取る。休みはほぼ移動時間のためにあるようなもので、それ以外はとにかく必死に音を聞き、指揮を見続ける。シンバルの時に鋭く時に華やかな音。スネアが刻むリズム。ティンパニーの低音。曲のリズムを一定に刻み、要所要所に花を添えるのが私たちの仕事。一見地味に見えるパートだけれど、やってみると奥が深くて、楽しくて。気づけば夢中になっていた。



「別に間違えてもいいんだよ。こんなこと言うとあれだけど、お客さんはスコアを見ながら聞いてるわけじゃないんだ。間違えたところで誰も気づかない。でもね。雪ちゃんが今みたいにやっちゃった!って顔してると、子供でも分かっちゃうよ。間違えても"え? 私間違えてないけど?"って堂々としてなきゃ。見て? 優月のあの反省の色が欠片も見えない顔を」

「うるさいそこー!! たまたまミスっただけだし。間違えなんて誰にでもある! でも、次は間違えない」


3ヶ月前 No.182

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=9BM99oVBBT

「なぁなぁ! ゆーまに伶斗! 夏休み海に遊びに行かへん?」

「海? 川の間違いなんじゃねぇの?」

「そうだなぁ。見渡す限り山に囲まれたこんなド田舎のどこに行ったら海があるんだよ。電車とか乗り方知らねぇぞ」

「それはほら。俺が教えたるやん。せっかくの夏やのに海行かんなんて勿体ないわ! な? どうせ二人共暇なんやろ?」

「生憎だけど俺、彼女いるから忙し――……」

「それ昨日別れたって言ってたじゃん。さっきまで俺のどこが悪かったのかなってジメジメしてたじゃん。何自分から掘り返してんの。馬鹿なの?」

「何言うとるん伶斗。ゆーまは少なくとも俺が引っ越してきた時にはもうアホやったやんか」

「てんめェ! 樹! ぶん殴るぞボケェ!」

「ゆーまはホンマに口悪いなぁ。そんなんやから彼女と長く続かへんねん。なぁ? 伶斗」

「……僕もう知らないから」



3ヶ月前 No.183

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=9BM99oVBBT

 正論と綺麗事を振りかざし、君はどんどん他人を傷つけていくのだろう。その立場に立ったこともない君の空っぽな相槌は、鈍感と言われる僕でさえ、中身のないものだということに気づいたのだから。


「一つ、忠告をしてあげる」


 涙で濡れた顔をあげた君に、僕の胸はツキリと傷む。君の言葉は、綿菓子のようにふわふわとしていたけれど、でもだからといって僕は君が嫌いだったわけじゃない。むしろ、大好きだった。少なくとも、今までの人生の中で一番。だからこそ、僕は君から離れないといけない。僕と君のこれからのために。


「君の理想論が、必ずしも誰かを救うことにはならないよ」


 さようなら。愛しい人。僕と君の間に「また」はない。僕達が出会うのはこれで最後だ。





3ヶ月前 No.184

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=ajAFJyo3KB

 ――好きだった。姉として。そして、一人の女性として。でも、"オレ達"は姉弟だから、オレが思いを告げてしまえば彼女はきっと困ってしまう。彼女を困らせるのは避けたいから、この思いは墓場まで持っていくつもりだった。好きな人ができれば応援し、彼女が結婚しても手放しで祝福してやるつもりだったのに。……オレの決心は自分でも失望する程に軽いものだった。


「幸い命を取り留めましたが、もしかすると、このままずっと目覚めないことを覚悟していてください。例え目覚めたとしても、酷く脳を損傷しておりますので、何かしらの障害が残ってしまうと考えられます」



 淡々とした医者の言葉は、オレの胸を抉るには十分で。様々な管に繋がれてベッドに横たわる姉を見下ろし、オレは"弟"になって初めて号泣した。オレはなんてことをしてしまったんだろう。オレが思いを告げなければ、姉がこんな風になることは無かった。きっとあのまま純白のドレスに身を包んで、彼と一緒に笑い合うはずだったのに。



「ごめんなさい……」



 彼女の手を握る資格は、オレにはなくて。ベッドの側に立ち、彼女を見下ろしていたオレは、無機質な白い壁を力任せに殴りつけた。



「ごめん……」



2ヶ月前 No.185

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=ajAFJyo3KB

「――っ!」


 頭に血が上る。全身の血がマグマのように沸騰して、噛み締めた唇に血が滲んだ。パンっと響いた鋭い音をかき消すように、少女は悲鳴にも似た声を上げる。



「お前のせいだ! お前のせいであの子は死んだ。お前のせいで無実なあの子は死んだんだ!! どうして信じてやらなかった? どうして彼女の言葉に耳を傾けてやらなかった? 何も言えるはずないだろう。あの子は嵌められただけなのに!!! お前だって知っているはずだ。ここはそういうところだと――!」


 自分よりも頭二つ分ほど高い彼の胸ぐらを掴みあげ、昨日から泣き続けていたのだろう。痛々しく腫れ上がった目で彼を睨みつける。いつも身綺麗にしている彼女では考えられないボサボサの髪。乱れた寝巻きはギリギリ彼女の身体を隠して入るものの、少しでも動けばたちまちのうちに脱げてしまいそうだった。その姿に、嫌でも突きつけられる。自分は、取り返しのつかないことをしてしまったのだと。自分も辛いだなんて言葉は、彼女には通じない。そんなことを言おうものなら、再び平手打ちが飛んでくるだろう。いや、もしかしたら今度こそ刺されてしまうかもしれない。痛々しい彼女の姿を、彼は何も言わずに見下ろす。

2ヶ月前 No.186

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=ajAFJyo3KB

 命を懸けて守りたい人が死んだ。無実の罪で捕えられた彼女は、愛しい目の前で命を落とした。拷問によるショック死だったという。今でも覚えている。あの男の腕に抱かれて運ばれてきた彼女の無残な姿を。白い衣服は血だらけで、少しはだけた胸元は痛々しい痣と傷ばかり。真っ赤に染まった指先を見れば、なんという事か。爪は全て剥がされており、彼女は痛みを想像して思わず目を眇めた。



「どうして……」



 無実の彼女がここまでされなければならない。ただこの男を愛し、人のためになるようにと生きていただけなのに。どうしてこんなにも早く、酷い死に方をしなければならなかったのだ。彼女の頬に、涙が伝う。震える唇を噛み締めて、少女は必死に嗚咽を堪えた。脳裏に浮かぶのは、今までの思い出。どんな宝石よりも価値のある、幸せな記憶。両親に捨てられ、食べるものもなく死を覚悟した自分を拾ってくれた少女。ろくに読み書きのできない彼女に、文字を教えてくれたのも彼女だった。学校に連れていかれそうになった時は流石に焦ったけれど、今ではいい思い出だ。この男が好きだと打ち明けられた時から、彼女のこれからは波乱に満ちているのだろうということはなんとなく分かっていた。けれど、まさか死んでしまうなんてそんなこと、誰も思わないじゃないか。まるで眠っているような少女の頬を撫でる。指先に感じた体温はまだ彼女が生きているのではないかと錯覚しそうで、彼女はぎゅっと拳を握りしめた。

2ヶ月前 No.187

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=O2H3j8KUVU

 時々無性に誰かの体温が恋しくなる。側にいてくれた人なんて一人もいないくせに、誰かに「大丈夫だよ」って優しい言葉を掛けて欲しくて。ベッドの上に横たわり、ケータイを放り投げた私は、シンッと静まり返った室内を見渡して自嘲気味に笑う。……慰めなんて、同情なんて求めていないと、拒絶していたは誰だったのか。強がりで生きていたあの頃が懐かしい。人の前では涙を流さず、むしろ余裕のある笑みを浮かべていたいと夢見ていたあの頃。自分はきっと強気な女性になるのだと信じて疑わなかった。けれど――……。私はごろりと寝返りをうち、電源の落とされたケータイの画面を見つめる。蓋を開ければどうだ。憧れていたものになれなかった私は、その仮面を被ってひたすらに自分を偽る日々。本当の私は、一体どんな人間だったのか。それすらも時々分からなくなる。ベッドにころがったケータイを手に取り、電源を入れると、満たされない心を少しでも補おうとして入れた大量の乙女ゲームが姿を現す。ゲームの中の男性たちは、選択さえ間違わなければ絶対に私のことを愛してくれる。私を求めてくれる。でも、現実では? そんなに甘いものじゃなあ。自分の選択が間違っているのかどうかもわからず、最悪のことが起こるまで自分が間違いをおかしてしまったことに気づかない時もある。今まで周囲に強く当たっていた私を求めてくれる人なんていなくて、きっといたとしてもすぐにこの性格に嫌気がさしてしまうだろう。



「疲れた……」



2ヶ月前 No.188

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=juAEVzAM54

 誰よりも美しくありたいと願った女の死に方は酷いものだった。その美しい容姿故に男には苦労しなかった彼女は、根も葉もない噂を間に受けた女に左胸を一突きされ即死。彼女のことを相当憎んでいた女は、殺しただけではまだ気が収まらなかったのか、彼女の顔を何度も何度も刃物で刺し、友人に発見された時には誰かも分からないほど滅多刺しにされていたとか。彼女を殺した女は、間抜けなことに自身の指紋がベッタリとついた刃物を彼女の顔面に突き立てたまま帰宅していたため、すぐに警察に捕まることとなったらしい。一人の女の一生の書かれた資料に静かに目を落としていた女性は、一度足を組み直すと自身の頬にその長くしなやかな指を這わせる。陶器のような滑らかな肌は努力の証。日焼け知らずの白い肌は、今でこそ血色があるが、メイクを落としてしまえば死人のそれと大差ない。自身の顔が刃物で滅多刺しにされていることを想像した彼女の表情は心なしか引きつっており、ついでに言うなれば身体も小刻みに震えていた。



「あの女。まさか私の顔を蜂の巣状態にしてくれていたなんて……! こんなことをされるって分かってたなら、あんな女に大人しく殺されてなんかやらなかった!」




2ヶ月前 No.189

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=juAEVzAM54

 昔話をしよう。それはまだ、僕が"僕"でなかった時。普通の女の子とはやっぱりどこか違ったけれど、とても幸せだった頃の話。"私"は、この異質でいて心地よい幸せがずっと続くと信じて疑わなかった。私はあの街で歳を取り、いずれは誰かと恋に落ちて、急速に高齢化の進む村に僅かばかりの貢献をするはずだった。けれど――……。それはあくまで過去の話。私が描いた未来は、もう二度と還ってはこない。衣服の上から脇腹をそっと抑えた私は、不器用に片方の口角を上げると自嘲気味に微笑んだ。


「――ボクはね、もう滅びてしまった……ボクが消してしまった、閉鎖的な小さな村に生まれたんだ」



 君にだけ話そう。まだ誰にも話したことのないボクが犯してしまった罪を。

2ヶ月前 No.190

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=juAEVzAM54

 僕と君は決して相容れない関係ではなかった。むしろ、かなり気の合う友人のなりそこないで、知り合いと片付けるには到底できない、そこそこ深い間柄だったと記憶している。曖昧な記憶を掘り起こし、僕は目の前の彼女を静かに見据える。しかし、これだけはっきりと言えるのは、僕たちは決して刀を交えるような、殺し合いをするような間柄ではなかった。少なくとも僕は、自身のことよりも他人のことを優先する彼女のことを、いつか死んでしまうんじゃないかと心配はすれど、間違っても殺したいだなんて思ったことは一度もない。僕は心が読める人間じゃないから、彼女の気持ちは分からないけれど、刀を握っている手が震えているところを見るに、彼女にもその気はないのだろう。先程から自身に向けられた刀の切っ先が小刻みに震えていることに気づいていた僕は、青を通り越して紙のように真っ白な顔色をした彼女から視線をそらす。不思議なものだ。まだ彼女と会って1年も経っていなのに、彼女の考えていることがよくわかる。きっと彼女は、こう考えているのだろう。どちらかが死ぬまで戦わねばならないのなら、自身の生を終わらせようと。ゆっくりと僕から刀の切っ先が離れていくのを一瞥して、僕はふっと笑をこぼす。本当に。君はどれだけお人好しなんだろうね?



「――僕を殺すくらいなら自分が死ぬ、だなんて。僕の人生の中で君は間違いなく一番に輝くほどのお人好しだよ。馬鹿な子だ」



2ヶ月前 No.191

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=juAEVzAM54

 返り血だらけの僕と、まっさらな君。一瞬、彼女が初めて殺した人間になれるのならば、と考えもしたがすぐに愚かな考えだと首を横に振る。誰かを殺めてしまったという現実は、例え自身に課せられた使命だとしても、永遠に引きずることになる。周囲から図太い人間だと言われる僕でさえ、たまに悪夢に見るほどに。別に僕は彼女の恋人なんかじゃないけれど、この子にはいつも笑っていて欲しい。彼女が泣いてしまうと、どういう訳か僕も悲しくなってしまうから。図星をさされた彼女は、びくりと身をすくませると、なぜ分かったのだというように僕を凝視する。それがなんだか可笑しくて。僕はクスクスと微笑むと、おもむろに誰かの血で汚れた刀を手放した。カランと、刀が地面に落ちる音がやけに鮮明に響く。



「おや。そんなに熱烈な視線を向けられると流石の僕も照れてしまいそうだよ。マドモアゼル」

「どうして、剣を……」

「君はコレが気になるの? これはね、極東の国の刀というものなんだって。剣とは似て非なるものだけれど、なかなかに美しいだろう?」

「そうじゃ、なくて……」




 地面に落ちた刀を指さしていつも通り求められてもない説明をする僕に、彼女は弱々しく首を降る。それに僕は僅かに口角を上げると、静かに瞳を伏せた。知っているとも。君が知りたいのはそんな事じゃないことだなんて。でも、久しぶりに会ったんだ。他愛ない話の一つや二つしたいじゃないか。やけに悲しげに見つめてくる彼女の翡翠の瞳が僕を映す。彼女の瞳の中の僕は自分でも驚く程に優しく微笑んでいて、彼女もそれに驚いたのか微かに目を見開くのが分かった。僕は君を前にして、いつもこんなに穏やかに笑っていたのだろうか。


「一つ、いいことを教えてあげよう」

「……何を、」

「君が殺さなくても、僕は近うちに命落とす。勘違いしないでほしいけど、それは自殺だとか誰かに殺されてやるわけじゃない」

「どういうこと?」



 押し殺された彼女の声に、僕は自身の左胸に手を当てる。僕の体はもう、限界だ。



「僕は元々体が強くなくてね。ちょっとした気温の変化でもすぐに体調を崩してしまう。そんな脆いこの体が、この環境下に耐えられるわけがない」



2ヶ月前 No.192

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=juAEVzAM54

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2ヶ月前 No.193

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「何も知らない子羊ちゃんにいいこと教えてあげる」

「え……」

「この部屋。あと十秒もしたら天井が落ちてくるわ。早く抜け出さないと、私達間違いなく圧死しちゃうわね。やだー。こんなことになるなら、男漁りでもしてれば良かった」

「…………は?」



( 何も知らない少女と見えすぎる彼女の話 )

2ヶ月前 No.194

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=n1DWKRNl9r

「君は弱いよ」

「知ってる」

「僕なしじゃ生きてきけないよ」

「うん」

「僕がいなくなったら、君は誰に縋るっていうの?」

「んー。どうしようかなぁ」

「君はきっと後悔する」

「それはないよ。だって、私は――」



 彼女の唇が動く。音になるはずだった言葉は大気に溶け、代わりのように彼女の口から真っ赤な血が吐き出された。彼女の唇の動きから言葉を読み取った彼は、大きく見開いた瞳を揺らすと、感情を押し殺すようにぐっと唇を噛んだ。泣いてはいけない。泣くものか。彼女が微笑んでいるのに、自分が泣いてどうする。笑え。彼女のために。自分にそう言い聞かせ、彼は不器用な笑を浮かべる。昔から不器用だった彼は、結局最後まで中途半端に彼女を繋ぎ止めていただけだった。素直な心を口にするのは恥ずかしいとずっと思っていたけれど、こんなことになって初めてそれを後悔する。すっかり血の気を失った彼女の頬に指を滑らせ、彼女の耳元に唇を寄せる。


「ねぇ。僕は君のことを――」




" 愛している。 "



 二人の言葉が重なる。驚いて目を見張る彼に、彼女はいたずらっぽく微笑んだ。




「知ってたよ。ずっと。君は不器用で、わかりやすい人だから」

1ヶ月前 No.195

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【記事主より削除】 ( 2017/02/28 00:35 )

1ヶ月前 No.196

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=lpEI48OhCL

「んふふ。秘密は女を飾り立てる最高のアクセサリーよ。あなたも、素敵なレディになりたいというのならば、まずはそのバカ正直に何でも話す癖をどうにかしなくっちゃ。――いい? ここは、あなたが今まで暮らしてきた安全な場所とは違う。この伏魔殿で生きていきたいのならば、全てのものを疑ってかかりなさい。誰も信じてはいけない。もちろん、私も」



 真っ赤な唇の両端がゆっくりと上がり、彼女は艶やかに微笑む。

1ヶ月前 No.197

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=lpEI48OhCL

「 生きて 」



 口からこぼれ落ちた吐息のような言葉と共に、私の両目からポロポロと涙がこぼれ落ちる。泣くつもりじゃなかった。少し顔を見れば、帰るつもりだったのに。目の前のベッドに横たわる彼女を見下ろして、私は震える唇を噛み締める。苦しそうな呼吸。見るからにやつれた顔は眉間にしわがよっていて、いつもの穏やかな笑を浮かべる彼女とは別人のようだ。点滴の繋がれた腕は相変わらず細く、私が少し力を入れて握れば簡単に折れてしまいそう。よく働きすぎで倒れる子だから、きっと今回もそうだと思っていた。血相を変えて病室に駆け込む私を見て、馬鹿みたいに無邪気に笑うのだろうと、信じて疑わなかったのに。




「何、してんのよ……」




 たくさんの管に繋がれて眠る彼女を見て、全身の血の気が一気に引いていくのを感じた。手足がだんだん冷たくなって、ともすればその場に膝をついてしまいそうで。何とか握りしめた彼女の手はあまりにも冷たく、嫌でも最悪を考えざるをえなかった。刹那、走馬灯のように駆け巡る今までの記憶。びっくりする程鮮明に思い浮かぶ彼女の笑顔と、優しい声に、私は嗚咽をこらえることが出来なかった。嫌だ。死なないで。私はまだ、あなたに何も返せていないの。貰うばかりで、迷惑をかけるばかりで……。そこまで考えて、フルフルと私は首を降る。違う。私の考えていることはもっと単純だ。強引に涙を拭った私は、握る手に力を込める。



「私はまだ、あなたと一緒にいたい……っ」




1ヶ月前 No.198

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=lpEI48OhCL

 紫の甘い雲。金平糖の星々。早朝にけぶる霧は、密会する恋人達を柔らかに包み込む。青白く輝く満月に照らされた一本道に浮かび上がる白い足跡。その先で赤い唇をした魔女は嗤う。



『 さァ。お前の願いを聞かせておくれ? 』



 幻想の街に迷い込んでしまったら、決して魔女とは口を聞いてはいけないよ。願いを口にしてしまったら最後。お前はもう二度とこちら側には戻ってこられない――……。








 紫の甘い雲。金平糖の星々。早朝にけぶる霧は、悲しみにくれる少女の泣き顔を優しく隠してくれる。青白く輝く三日月が照らす曲がりくねった道。そこに散らばった白い羽。その先で、青い瞳をした少女は宝石の涙を零す。



『 私を返して…… 』





1ヶ月前 No.199

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=6QEvNhoz2X

「ねぇ。これあげる。さっきそこで見つけたヤツ」


 夕日の射す教室で、もううんだりだと泣いていたあの日。何故かバレーボールを持った彼は、抑揚のない声音で言い放つとおもむろにそれを差し出した。反射的に差し出した私の掌の上に乗せられたのは、綺麗な形をした四葉のクローバーで。目を見開く私を見て、彼はふっと淡く微笑む。



「アンタが幸せになりますように」

「――っ、」




 オレンジ色の光が差し込む教室の中で、私は初めて見知らぬ人の前で涙を流した。クローバーを手にしたまま泣く私に、彼は鬱陶しげな表情もせず、ただ静かに傍にいてくれた。



( 出会い……印象的な出会いってなんだ…… )

1ヶ月前 No.200

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=U01eHFHAKp

「ああ! 会いたかったよ。ボクの愛しのハニーたち!! レイとママのいない1年間はまるで地獄のようだったよ……。家族写真を眺めては涙する日々……。きっと2人もボクがいない間夜な夜な枕を濡らしていたんだろうね。でも、もう大丈夫だよ! ボク達を引き離さんとする忌々しい海外出張は期限を迎えた。これからはボク達家族3人はずっと一緒さ!!!!」



 勢いよく玄関の扉が開くなり飛び込んできた男性は、硬直する私の横を光の速さで通り過ぎ、靴を脱ぎかけていたレイちゃんを力強く抱きしめる。驚きか、それとも単に腕の力が強かったのか。一瞬息を詰めたレイちゃんは、自分に縋るようにして頬ずりをしている男性をぎこちない動きで見下ろし、ひくっと頬を引き攣らせた。頭が追いつかず、2人を凝視する私に乾いた笑をこぼした後、彼女は力づくで彼を引きはがすと、なおもおい縋ろうとする男性の頬と頭に手を置き、片足を彼の腹部に突き出し、どうにかしてレイちゃんを抱きしめようともがく男性と何とか隙間を作った。


「あはは。もー、やだなぁ。お父さんったら。友達の前で恥ずかしー。…………くっつくな。離れろ。クソジジイ」



 ………ん?
気のせいだろうか。いつも綺麗な言葉使いをするレイちゃんの口から罵倒めいた言葉が聞こえた気がする。子首を傾げる私をよそに、相変わらずジタバタとしていた男性は、突如としてガバリと身を起こしてこちらを振り向くと、私の両手をガッシリと掴んだ。唐突すぎて声すら挙げられない。




「君が噂の雪菜ちゃんかい? レイと妻から話は聞いているよ。うちの娘と仲良くしてくれてありがとう。本当にありがとうね……!」

「えっ!? いや、あの……こ、こちらこそっ」



 感極まって涙を流す男性――もとい、レイちゃんのお父さんのは迫力に、私は思わず体を後ろに逸らす。なんていうか、レイちゃんとは正反対の人だなぁ……。

1ヶ月前 No.201

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=U01eHFHAKp

 ――私は恵まれた環境で育ったけれど、両親には恵まれなかった。
立っているのもやっとな程寿司詰め状態のバスの中。何とか座れた――というか、同じ学校の生徒達が譲ってくれた――私は、窓の外の流れる景色を見つめてため息をつく。世間では名の知れた企業グループの社長を務める父を持つ私の母は、ゾッとするほど甘やかされて育ったせいか娘の私が言うのもなんだけれど、かなり自己中心的で我儘な人間だ。おまけに、頭も悪い。一度欲しいと決めたものは例え人だろうと必ず手に入れる質の母は、略奪愛を見事成功させて私の父親を手に入れた。当然、馬鹿な母が好きになる男がろくな人間であるはずがなく、父親は当時結婚していた女性の間に子供まで作っていた上に、産気づいていた女性を放って、同じく産気づいていた母を優先していたというのだから救いようがない。母と不倫するまでに3度、母と結婚してからは2度同じことを繰り返している父は、控えめにいて最低の男だと思う。自分にあの人と同じ血が流れていると想像しただけで吐き気がする。父親の顔を思い浮かべてしまった私は眉を潜めると、胸の中に溜まった不快な何かを吐き出すようにゆっくりと息をつく。……私にあの人の血が流れているということはつまり、あの子と半分血が繋がっているということ。




「私があの子に恨まれるのも当然よね……」




 涙に濡れた鋭い眼光を思い出し、胸が微かに痛む。それに気付かないふりをして、私は何度目かわからないため息をこぼした。

1ヶ月前 No.202

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「んふふ。人間とは本当に無知で愚かな生物だな」


 無造作に下ろされた腰までの銀色の髪は陽光を反射して眩く輝き、目にかかるほどの長い前髪から除くエメラルドの大きな猫目は、見た目にそぐわない理知的な光を宿している。面白そうに弧をえがく形の良い唇は、春に咲く薄紅の東洋の花を連想させる。幼子にしては肉付きの悪い――良くいえばスレンダーな体型をしており、身長は130手前程だろうか。髪に大量の葉っぱをつけ、妙に大人びた微笑みを浮かべる彼女を見下ろしていた彼は、不意に眉を下げると彼女と目線を合わせるためにその場にしゃがみこむ。




「お前、そんな難しい言葉どこで覚えてきたんだ? 急に背伸びしなくてもいいんだぞ? お前みたいな年頃の子供はな、外で友達と駆けずり回っているのが一番いい」

「…………」




 弟か妹か出来て背伸びせざるおえなかったのだろう。自分も弟ができた時は、もうお兄ちゃんなのだからとかなり無理をしたものだ。幼少期を思い出しながら青年はポンポンと彼女の頭を優しく叩く。対する彼女は半眼で彼を見上げると、無言で自分の頭を撫でる手を払い除け、ジリジリと後ずさり一定の距離をとる。

1ヶ月前 No.203

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 細く長い指が少年の顎を掴むと、頑なに目を合わせようとしない彼の顔を強引に上向かせる。強制的に少女と目を合わせる形となった彼は、せめてもの抵抗とばかりに彼女をきつく睨み据えた。ともすれば人1人殺せそうな視線をものともせず悠然と彼を見下ろしていた少女は、不意にニヤリと口端を釣り上げたかと思うとグイッと勢いよく自身の顔を近づけた。額と額がふれあいそうな程の至近距離で、彼女は切れて血が滲む彼の頬に艶めかしく手を這わせる。



「随分と威勢のいい坊やね。気に入ったわ。うちのお屋敷にいらっしゃい。フットマンとしてではなく、貴族の坊やとして育ててあげる」

「はっ。ふざけんなよ。誰がテメェみたいなガキの世話になるかよ。舐めてんのか?」




 彼女の手を払い除け、彼は本気でおかしくて仕方が無いというように肩を震わせる。しかし、それでもなおこちらをじっと見据える目は笑っておらず、その目の奥には貴族に対する憎悪の炎がくすぶっていた。それを静かに見つめていた彼女は、くすりと笑みをこぼすと彼の額に容赦ないデコピンを食らわせた。




「馬鹿な子ね。坊やの意見なんて聞いていないわ。私、一度こうと決めたことは何が何でも遂行しないと気が済まないの。例え国王陛下が首を横に振ってもね」

「……」





 なんて奴だ。と、少年は心の中で呟いた。




30日前 No.204

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【記事主より削除】 ( 2017/03/31 00:34 )

26日前 No.205

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 いつもと変わらない灰色の空。流れる空気は汚れに汚れ、呼吸をするだけで肺を黒く蝕む。僅かに残る自然はカラカラに枯れて、かつては瑞々しい緑の葉を持っていたとは到底思えない。経年劣化で崩壊した過去の遺物たちが集まるこの場所は、かつては首都として様々なものが入り乱れていたとか。恐らく建物の一部であっただろうコンクリートの塊に腰掛け、少女は空と同じく濁った川に足をつける。様々な化学物質の溶け込んだこれは、少し肌に跳ねただけで通常の人間では死に至る劇物と成り下がり、今では川には誰も近づかない。……彼女を除いては。小さな彼女は上機嫌に鼻歌を歌い、川につけた足を交互にパタパタと動かず。彼女の動きに合わせて水面はゆらぎ、時折何かが指にぶつかった。誰かが捨てたゴミか、はたまた――……。




「ねぇ。主。みこはどうしてしねなかったのかしら。おかあさまは、このかわなげすてられてすぐにいきをしなくなったのに」




 天を仰ぎ、彼女は誰ともなく問いかける。応答を待つように暫くじっと空を見つめたあと、彼女は諦めたように息をつく。分かっているとも。神が愚かな人間の問いかけなどには応えてくれない。少女は見た目にそぐわない妙に大人びた微笑みを浮かべると、パシャリと徐に片足で水面を叩いた。




「でも、いいの。ふふ。可哀想なおかあさま。みこにいじわるするから、きっと天罰がくだったのだわ」

26日前 No.206

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=U01eHFHAKp

「――アルベルト。あなたって本当に自分勝手な人間よね」



 ダンっと鈍い音がしたかと思うと、少女に覆いかぶさっていたアルベルトの体が壁に叩きつけられる。唐突のことに受け身を撮り損なったのか、カエルが潰れたような声を上げた彼は、少女を守るように立ちはだかる女を呆然と見つめた。




「し、シドーニア!? どうして……」

「どうして? それは愚問というものよ。アルベルト。あなた如きの能力を、私が打ち破れないとでも?」




 彼女の容赦ない物言いに、アルベルトはぐっと言葉につまり下を向く。握りしめた拳は震えていたが、彼を気にかける余裕は少女にはなかった。つい先ほどのことが何度も何度も脳内で再生される。押し倒され、キツく抑えられた腕。どんなに足掻いてもびくともしない身体。闇夜にあってもなお異様な存在感を放つ刃物の切っ先は、確かに自分の左胸を狙っていた。シドーニアが来るのがあと数秒遅ければ、自分は確実に死んでいただろう。全身の血がザッと音を立てて引いていく。恐怖で体温が下がり、夏だというのにガタガタと体が震える。その様を一瞥したシドーニアは、すっと静かに片手を後ろに回すとそのまま少女の頭を優しく撫でた。



「一人にするなと、付いてきたのはあなたでしょう? なのにあまつさえこの子を殺そうとするなんて……。軽蔑したわ」

「な……っ! だってソイツは俺を殺そうと――!!」

「それが自分勝手だって言ってるのよ。あの時のシュテラは、シュテラでありシュテラじゃなかった。それはあなたもわかっているはずよ。第一、この子に着いてくると決めた時点で、命を狙われるぐらいの覚悟は決めてくるべきだわ」




 何を甘えたことを言っているのと、彼女はピシャリと言い放つ。


20日前 No.207

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「ねえ、」

「……」

「ねぇってば」

「…………」

「…………」

「…………」

「――ねぇって、呼んでんだろうがコラアアアア!!!!」

「ひい! すいません!! なんの御用でございましょうか!?」




 天使の顔をした悪魔は今日も御機嫌斜め

13日前 No.208

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「ねぇ。アーニャ。人というものは、本当に愚かね」


 泉に映し出される光景を、行儀悪く寝そべって頬杖をついて眺めていた少女は背後に控える女性に視線を向ける。アーニャと呼ばれた少し灰がかった桃色の髪を持つ女性は、少女が脱ぎ捨てただろう衣服を丁寧に片付けながら苦笑を零す。



「そうですね。時折私も辟易してしまいます」

「あら? てっきり否定されると思ったのだけれど。お前が私の意見に賛同するなんて珍しい……」

「私は争いごとが嫌いなんですよ。エテルネル様」




 無意識に胸よりも少し長い髪を掴んで、アーニャは目を丸くする少女――エテルネルに微笑みかける。アーニャは、先の聖戦で犠牲になった1人だった。敬虔な彼女は聖職者よりも聖人になる素質を持った人間であり、自身の幸福よりも他人の幸福を願う彼女にエテルネルはかなりの興味を持った。偽善などではない本心からの願い。まだ何色にも染まっていない真っ白な心を、果たして彼女はこれからも保つことが出来るのだろうかと。きっといつか人を憎むに違いないと思っていた。優しすぎる彼女にとって、同じ種族である彼らはあまりにも酷い。

10日前 No.209

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「バッドエンドもメリーバッドエンドも、あんまり好きじゃないの」


 苦笑を浮かべて、彼女はポツリと呟く。その後何かを言っていたような気がするけれど、残念ながら僕には聞き取ることが出来なかった。橙と藍色が混じり合う空を見上げて、もうすっかり馴染んだ学校から家までの道のりを歩く。吐く息は白く凍り、時折吹く風は容赦なく僕から体温を奪っていった。真冬の夕方。あともう少しすれば、オリオン座が見える頃じゃないだろうか。空を指でなぞる振りをして、僕はふっと視線を地面に落とす。……彼女が最後に呟いていた言葉。アレが一体何なのかあの時の僕には分からなかったけれど、今ではわかる。彼女はきっとこう言っていたのだろう。



「物語の中でくらい幸せになりたいから」




 彼女と会った数日後。彼女は行方不明となり、更に数日たったある日。学校近くの河原で水死体として発見された。家族とも友人ともあまり上手くいってなかったことから自殺ではないかと噂されているが、本当かどうかは定かではない。けれど、彼女が壮絶な人生を送ってきたことは今では周知の事実だ。

4日前 No.210

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=g9SL9EujHv

4歳まで実の両親から虐待を受け、施設で生活。それから17歳までのあいだ、彼女は何度か施設を出ているが、数年と立たずに舞い戻ってきている。家族と反りが合わなかったという可愛らしい理由から養父からの性的虐待など。様々な憶測が飛び交っているが、果たしてその中に真実はあるのだろうか。彼女が2度目に施設に帰ってきた時は、酷い人間不信に陥っていたらしい。誰も信じられず、自暴自棄になった彼女は時折自分自身を傷つけていたとか。その証拠に、彼女の体には無数の傷跡が残っていたらしい。もうすっかり藍色に染まった空から視線を外し、僕はついっと目を細める。



「ねぇ。君はどうして大嫌いなバッドエンドを選んだの?」




 僕の先を歩く彼女は、視線だけをこちらに向けるとあの時と同じ笑顔を浮かべた。




「私は十分幸せだったわ。私にとっては、これがハッピーエンドなの。悔いはない」

「そう。てっきり恨み言の一つや二つ言われると思った」



 小首をかしげる僕を見て、彼女は唐突に半眼になると徐にツカツカとこちらに歩み寄り、僕の胸ぐらを掴んで自身の方に引き寄せた。額と額がふれあいそうな距離。前を見れば間近に彼女の竜胆の瞳があり、僕はほんの一瞬息を詰める。表情の変化は、本当にわずかだったと思う。長年付き合っている者でも気づくか気づかないかのギリギリの変化に目ざとく気づいた彼女は、片眉をあげると、それはそれは美しい――意地の悪い笑みを浮かべた。



「お望みならいくつだって言ってあげるけど?」

「いや……、遠慮しとくよ」

「そう。残念ね」




 満面の笑みを浮かべる彼女に、僕は降参だと言わんばかりに両手をあげる。全く……。彼女には叶わない。出会った当初は、彼女にこんな一面があるだなんて思いもしなかった。いつの間にか僕の隣を歩く彼女を一瞥して、ずり落ちたスクール鞄を肩に掛け直す。僕は今は高校生だ。



「君が死んだ理由。家族とお友達のせいになってたけどいいの?」

「良くないわ。あの人たちには本当に助けられたんだから。しっかり訂正してね」

「了解」







3日前 No.211
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