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天秤破壊画集

 ( 書き捨て!小説 )
- アクセス(497) - いいね!(28)

青煙 @bluehaze ★60VVrU193v_SMQ


「天秤破壊画集」

此処だけの話、
画集じゃないけど。右側じゃないけど。左側じゃないけど。本音じゃないけど。建前じゃないけど。愛用じゃないけど。不要じゃないけど。性癖じゃないけど。模倣じゃないけど。優雅じゃないけど。醜悪じゃないけど。優秀じゃないけど。劣等じゃないけど。精錬じゃないけど。猥雑じゃないけど。尋常じゃないけど。異常じゃないけど。無謀じゃないけど。精密じゃないけど。電波じゃないけど。水道じゃないけど。無駄じゃないけど。経験じゃないけど。理性じゃないけど。本能じゃないけど。恋慕じゃないけど。復讐じゃないけど。愉快じゃないけど。鬱憤じゃないけど。犯罪じゃないけど。模範じゃないけど。区別じゃないけど。隔離じゃないけど。愚痴じゃないけど。告白じゃないけど。毒物じゃないけど。薬物じゃないけど。鮮明じゃないけど。透明じゃないけど。破滅じゃないけど。創造じゃないけど。事実じゃないけど。空想じゃないけど。義務じゃないけど。権利じゃないけど。放蕩じゃないけど。節制じゃないけど。繁華じゃないけど。閑散じゃないけど。雷雲じゃないけど。快晴じゃないけど。気にしないで頂戴*

<< category : erotic and grotesque nonsense >>

4年前 No.0
メモ2018/08/11 12:06 : 青煙☆dew2swC2MwM @bluehaze★EMITWkaITf_gaI

 

 ・更新不定期

 ・曖昧描写/羅列/詳細説明ナシ


 ( いいね28 ありがとう!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! /2018.08.11)

 ( アクセス50突破記念>>11 /2014.08.29)(100突破記念>>20 /2014.09.21)(200突破記念>>37 /2015.06.07)

 ( 300突破記念>>39 /2015.12.16)(400突破記念>>47 /2016.8.24)

いつも有難うございます。

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青煙 @bluehaze☆dew2swC2MwM ★YUiywvlO0a_SMQ

もしも血液が、薔薇や花のように素晴らしい香りだったらどうだろう。人間に限らず、あの嫌な蛙の解剖も面倒な鱒の三枚卸しもきっと楽しくなるに違いない。俗に言う月に一度のお客さんも歓迎されるかも知れない。あるいは、バナナジュースの匂いがしたらどうだろう。殺人現場はいつも果実の香りがして、甘ったるい匂いが満ちているに違いない。味はどうだろう。これもバナナジュースの味だとしたら、吸血鬼の真似事をする人がいても可笑しくない。輸血パックを飲み干したくなっちゃうかも知れない。怪我したら舐めるのが常識になるんだろうな。そもそも魚の血抜きはしなくなるかもしれない。魚の可食部の味を楽しみたいときは血を抜けば良いんだ。バナナジュースの味がついてても良いなら、そのままで良いんだ。すごい。一匹で二通りの味が楽しめる。バナナジュース万歳。好きじゃないけど万歳。

4年前 No.2

青煙 @bluehaze☆dew2swC2MwM ★YUiywvlO0a_SMQ

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4年前 No.3

青煙 @bluehaze☆dew2swC2MwM ★YUiywvlO0a_SMQ

奥深い山の中、二瘤サラダのレシピを聞きに山に棲むという俳人を訪ねました。彼はちょうど石蛙を岩で叩き潰しているところで、真剣な眼差しで石蛙を握り締め、必死に手を動かしていました。私に気が付くと彼は、そっと岩の窪みを示して御覧なさいと言いました。岩に染み入る蝉の体液が蛙の脳味噌と混ざり合って不思議な鈍い光を放ち、なんとも言えない怪しさ、美しさ……。これがアアトなのだと彼はしみじみ呟き、そっと薬指でその不思議な液を掬うと私に差し出したのです。どうぞお舐めなさい――。ええ、かの南国の幻の果実の味がしました。甘い香が口いっぱいに広がり、涼やかな風がすぅと私の脳内を通り抜けていったのです。素晴らしい味でした。私は本来の目的など忘れてどうかその液を下さいとお願いしました。なんでも差し上げます、金も名誉も、命だって差し上げます――と。しかし彼はとうとう首を縦には振りませんでした。私は隠し持っていた火縄銃で彼の首を穿ち、そのままじゅるりと啜りました。そうです。この味です。せっかくの知識が流れ出るのを横目に、私はただひたすらに本場ものの味を堪能しました。再現は出来ません。その技術は彼と共に失われてしまいましたから。えぇ、石蛙もあれが最後の一匹だったようです。岩にはまだ多少液溜まりがありますが、じきに乾いて消えてしまうでしょう。蛇口を引いておきます。丁度幼い姉弟に出会ったところです。彼らなら再現できるかも知れない。代替案でいきましょう。他に私達の出来る事はないのですから。旬の味を堪能するには生物多様性が何よりも大切なのです。百年前から事実は未来永劫変わりません。愛するものは等しく氏を迎えます。あの御方。私達の終焉を見守るあの御方。彼こそが偉大な――嗚呼、嗚嗚嗚、アアドロクソニマミレテハテテシマイタイヨヲ。(鳴,eki)

4年前 No.4

青煙 @bluehaze☆dew2swC2MwM ★YUiywvlO0a_SMQ

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4年前 No.5

青煙 @bluehaze☆dew2swC2MwM ★YUiywvlO0a_SMQ

窓の外から静かに振動するヘリコプターの音にそっと目を閉じる。この音は好き。徐々に近づいてくるヘリコプターを一目見ようと窓を開いて外へ乗り出してみたけれど夜空の向こうには何も見つからなかった。星が綺麗。今日が三日月なのを確認してまた部屋の中に戻る。外の空気がふわりと横をすり抜けて行った。心地が良い夏の夜。明日までにやらなきゃいけない事が五つある。一つはレポート。もう一つもレポート。そしてレポートとレポートとレポート。生物のレポートたちが列を成してやってくる。ごめんね、まだやる気出ないんだ。優先席の上で寝るようにそっと知らない振りをした。音楽プレーヤーを取り出して昔流行った南国の映画音楽をかける。踊る踊る陽気な人達。この国の人はきっとみんな辛いものが好きで踊りを愛しているんだ。楽しそうだな。そこにバナナはあるだろうか。朝起きてバナナジュースを飲むのだろうか。自分は知らない。一つも言葉の理解できない歌詞が流れていく。独特のリズムと高揚感が自分を無理やり起こしてくれるような気がして、少しやる気がでるかと思ったけれど。駄目だった。気が向くことはもうしばらくなさそうだ。時間を確かめる。大丈夫。まだ今日が終わるまであと四時間ある。それまでにちょっと冷やしておいた水を飲もう。この時間の水道水がとても好き。朝の水道水はあんまり好きじゃない。ヘリコプターの音はとっくに通り過ぎ去っていた。今はどこを飛んでいるのだろう。その時。ふいに窓の外から何かが飛んできた。白い円盤の様なもの。慌てて避ける。窓が割れる。破片が部屋中に飛び散る。突き刺さるような鋭い破壊音。恐る恐る見てみると、それは古いディスクだった。パソコンのドライブで見てみようか。いや。まて。これがウイルスだったら大変だ。でも気になる。親が来る前に見ちゃおうか。早く早く。ブランクディスクじゃないと良いんだけど。中身を開くとフォルダが一つ入っていた。カチカチ。さらに中身を開く。大量のテキストデータがある。何だこれは。題名の無い番号だけのテキスト。一つ見てみると中には奇怪な文がずらずらと書かれていた。訳が分からない。ぞわっと不気味になって、慌ててパソコンを閉じた。ディスクを取り出して改めて外見を確かめる。ただの白いディスクだ。裏も表も何も書いてない。傷はほとんどついてなくて、不思議な感じがする。少し暖かい。一体ドコから飛んできたんだろう。ヘリコプターの音が耳から離れない。また、僕の上を飛んでくれるだろうか……。まるで夢の中みたいだ。現実感を取り戻そうと、僕はサイトにアクセスする。不安を取り除け。日常に戻れ。パレードに遅れるな。

4年前 No.6

青煙 @bluehaze☆dew2swC2MwM ★YUiywvlO0a_SMQ

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4年前 No.7

青煙 @bluehaze☆dew2swC2MwM ★YUiywvlO0a_SMQ

道端で缶詰を拾った。その日はクーラーの効いた暑い夏の日で、時刻はちょうどお菓子の時間を過ぎた頃だった。背中を照り付ける夕日が眩しく、目も開けられないような眩しい光の中を、家へ向かって独り歩いているときだった。アスファルトの熱が高い下駄を通して伝わってきそうで、熱気を避けるように白線の上を歩いていたら、その最中に缶詰が落ちていたのだ。それは鯖の味噌煮のイラストの描かれた、小さな缶詰だった。表面には目だった傷も無く、ほんの僅か、端が捲れて融けてしまっているくらいだった。そっと拾い上げてみると、ほんのり冷たい気がする。自分の体温がすこぅしだけ吸収されていくような気がした。それをポッケに入れて家へ持ち帰っていったのだが、自分の部屋へ入ってさあさっき手に入れたばかりの、あの宝物を見てみようとズボンを漁ったら、中から青い魚が飛び出してきたのだ。これはどうやら大変な事になったらしい。パッケージから水がどうどうと溢れ出して、ついに家中が水浸しになった。缶詰の中身が出ているのではない、缶詰の外見が外へ外へとエクスプロージョンを起こしているのだ。これはイカンと思って慌てて家の外に出れば、もう既に警報機が鳴り響いていて、はす向かいの小母さんがなにやらわめきながら大通りへと跳ね飛ばされていった。どうしたものかと立ち尽くす私の眼前で、あれよあれよと言う間に警察や消防隊がやってきて、缶切りを手に私の家へと入っていった。玄関にあったドアは既に缶詰のパッケージから出た海水で押し流されていたので、進入に書類も印鑑も必要なかったのだろう。そして、ふいに洪水が止まった。どうやら警察官か消防隊かの誰かが、缶を開けたらしい。それからは一瞬の出来事で、気付けば私はクーラーの室外機に座って、ぼんやりと空を見上げているのであった。真夏の昼の夢というのは、いかにも恐ろしく、いかにも愚かしい。そんな洒落めいたことを呟くのも、最近の私のトレンドである。未だ、夏の終わりには遠い。

4年前 No.8

青煙 @bluehaze☆dew2swC2MwM ★YUiywvlO0a_CBR

窓の外を白い光が流れていく。等間隔に並んだ街灯を目で追いながら、私はそっと後部座席のシートにもたれた。隣では見知らぬ男が、先ほどからTDのパンフレットを真剣な目で熱心に読んでいる。運転手さんの話だと、どうやらこの男は「迷子」らしい。こんな大きな大人なのにね。ちょっと笑いたくなっちゃうけど、おまけに記憶まですっぽり抜けちゃってるっていうから、さすがに私もどう接すれば良いのかと考えあぐねる。だって、普通いないでしょ。記憶喪失とか。そういうの、身近にいる存在じゃない。だから私は、窓に反射している彼の表情を、こうしてそっと伺っているのだ。彼はパンフレットの迷子の欄を三回読みなおして、それからドラッグカタログに手を伸ばした。ラミネート加工され、プリントに印刷された商品の写真を、ひとつひとつじっくりと眺めている。まるで小さい子みたいな彼の一挙一動が、見ていて飽きない。私はポケットからピルケースを取り出すと、彼の肩を叩いた。「ねぇ、一つあげよっか?」彼の目が遠慮がちにこちらへ向けられる。やや目を伏せて、私の差し出したケースを眺めると、良いんですか。みたいなことをぼそぼそと呟いた。なんだ、聞こえないぞ。ケースを軽く振って、中からカプセル錠を三つほど、彼の掌に出してあげる。彼は慎重な手つきでひとつ摘み上げると、どうしたらいいのか、と問うようにこちらを見た。「水無し一錠、だよ」私も一つ出して、お手本にパリッと噛んでみせる。口内でユメデンプンのかすかな甘味が広がった。彼は目を丸くして、口をぽかっと開けている。飲み込まないのか、だって。彼の掌からカプセルを取って、口に突っ込んだ。「噛んで」見れば、泣きそうな顔で超高速に顎を動かしている。私は今度こそ笑った。「面白いよ、君」真っ暗闇の中を、切り裂くように進むタクシー。旧東京市努努町商店街まで、あと10kmだと運転手が言った。楽しみだ。なぜか、とてもわくわくする。クリスマスの朝みたいに、私の心は浮き足立っていた。

4年前 No.9

青煙 @bluehaze☆dew2swC2MwM ★YUiywvlO0a_CBR

何も考えずに気持ちよく文を書きたい。何も考えずに思うまま筆を運びたい。気になる人を気にしないで通り過ぎたい。昨日解いたテストの内容を忘れたい。これらの欲望を一瞬で満たしたい。君と誰かの縁をぶち壊したい。感情のない世界に飛びたい。寄り道しながら旅に出てみたい。お隣の家の子供に罵詈雑言を浴びせたい。たい焼きを焼きたい。たこ焼きを投げたい。焼きそばになりたい。それでも地球は回ってるとか言いたい。俺の家は四階建てで犬小屋にジャグジーが付いてるんだぜとか言ってみたい。お前のことがアイラブユーとか言わせてみたい。間違ってる文法を無視したい。車内での通話を撲滅したい。なにこの文章馬鹿みたい。面白みの欠片もないみたい。知らない人に書かせたみたい。自分の物じゃないみたい。そういう言い訳でお茶を濁したい。これを送信したら後悔しそうなのにキーボードを操作する手が止まらなくて脳内で思い浮かんだ言葉はそのまま蛇口から出る水のようにじゃばじゃばと目の前で渦巻いていてきっとこの後自分はそのままマウスを持ってクリックしてこの内容で送信するとかやっちゃってどうしようもない達成感で美味しい気持ちになってしまうに違いないけれど、思考停止という言葉が好きになれないのは、自分の脳味噌が錆び付きたくないからなのでしょう。停止したくない。まだ続けたい。どこまでいけるのか試したい。けど帰って来られる距離が良い。あんまり遠くに行きたくない。家の外には出たくない。画面の向こうを見たくない。でも表面だけじゃつまらない。相反って言葉は便利だけどそんな綺麗でもないと思うから、あえて言葉を選ぶならそれは、(矛盾)。矛よりも盾よりも、自分が握り締めているのはもっと手軽で安価な木の棒なのだと思う。キーボードのタッチも良い感じに軽いから、たぶん軽い軽い色の薄くて価格の安い木材だろう。悪くない。悪くない。大事なのはきっと、この後どうなるかなのだから。薪にでもなれば、それで満足できるから。そしてきっと、明日はなれば別のことを考えているのだから。記憶は続かない。意志薄弱で曖昧な確信に一票を投じて、この文章もここで書き捨ててしまおう。使い捨ての言葉は油みたいによく浮かぶ。

4年前 No.10

青煙 @bluehaze☆dew2swC2MwM ★YUiywvlO0a_CBR

路地裏には、いつでも甘い香が漂っている。合成酒薬飲料とカプセルドラッグの色が入り混じったこの地区では、色彩は常に土留色だ。窓から身を乗り出して、眼下に広がる路地を眺める。仄暗い夜明け前。辺りが一夜の騒ぎから身を引き、次の夜に備え、ひとときの夢を見る時間だ。物音ひとつしないまま、展開する景色。まるで昔に見た無声映画のようで、この時間にこうしていることが、自分には何よりも楽しみだった。袋小路では、酒瓶に埋もれて人の手足が見える。ここからでは、それが生物なのか物体なのかは分からない。その手前では黒いスーツの男数人が、じっと立ち尽くして、お互いに手を振り回していた。まるで風車みたいだ。ラジオ体操なのだろうか。本人達は真面目にやっているつもりだろうが、こちらから見ると微笑ましい。大通りに目を移すと、若い男女が、通りの向こうから身を寄せ合って歩いてきた。女性の首の後ろで、キラリと何かが銀色に光る。なんだろうか。よくよく目を凝らして、それが彼女の首にあてられたナイフだと気付く。彼女の表情は見えない。男の方が一瞬こちらを伺うような素振りを見せたが、二人は建物の前を通り過ぎると、そのまま向こうへ去っていった。しばらくして、空気が微かに震える。その後を追うようにして、複数の足音が聞こえてきた。見れば、先ほどのスーツの男達が袋小路から立ち去るところだ。酒瓶の山で助けを求める声がこだましている。ぐるりと首を回して、空を見上げる。今日は曇りだ。空一面に薄い灰色の雲が隙間なく広がっている。高低差のない空。この部屋の天井と大差ない。少しずつ喧騒になっていく世界に溜息を吐いて、窓から身を起こした。部屋がすっかり冷え切っているのに気付き、そっと窓を閉める。ガラスの板がガタガタと音を立てて下りる。軽く伸びをして深呼吸。まだ残りはあるだろうかと、少し考える。冷蔵庫を開け、中から青い液体の入ったガラス瓶を出した。瓶に直接口をつけて飲むと、舌に妙な苦味が広がる。以前、この味をどう表現すべきかと考えたことがあるが、他の色々な食べ物と比べた結果、一番近いのはホウレン草だった。すっきりとした飲みごたえとは言い難いが、大事なのはこの効用だ。これを飲むと音が消える。命乞いも、言い争いも、断末魔も。あらゆる醜い音が、砂漠へ吸い込まれるように消えるのだ。中身を飲み干して、冷蔵庫に瓶を戻す。仕事前に、すこし休息する必要があった。部屋に備え付けられた、薄っぺらいベッドに横たわる。スプリングが軋んだが、辺りは水中のような静寂を保っている。物音ひとつしない世界に、良い夢が見られそうだと呟いた、その声すら自分の耳に届かない。喧騒のない世界で眠りにつこう。どこまでも沈んでいく感覚に、そっと目を閉じた。【50記念,蟒蛇の夢】

4年前 No.11

青煙 @bluehaze☆dew2swC2MwM ★YUiywvlO0a_CBR

猫が歌を歌い犬が暴言を吐くとしたら、人の口は何を生み出すのか?彼女の問はただ一つ。これに答えられた者には求めるものがなんでも与えられるという。小さく笑みを浮かべた彼女の向ける、視線の先には何があるのか。歌と暴言を生み出すと答えた者は燃える塵になった。何も生み出さないと言った者は燃えない塵になった。彼女は呟く。答はもう既に出ているのだ。忘れたのか?私の口から出たものは果たして何であったのか。答は問、問は答になるのだから、すなわち蛇の咥えた尻尾の、その先を見て欲しいのです。輪廻。回るという字を二つ重ねて、そのまま城の中に消えていった、彼女の輪舞が忘れられない。あの日とは何だったのだろう。あの人は男だったのだろう。私は周りの者に問う。猫が歌を歌い犬が暴言を吐くとしたら、人の口は何を生み出すのか?あの人が遠くからこちらを見ている。後で交代しましょうと、小さく笑みを浮かべて、私は愚かな回答者に火を投げた。*下記は過去の些細な右往左往。余分散文。もう既に過ぎた。//空想が現実に近づきつつある予感。日常のことから離れられなくて文面にすら侵食してきているこの空気。不気味というか不思議な感じ。別に取り立てて面白いことでもないけれど。偶然の一致で済ませれば良い。朝食べたチョコレートスティックパンで体力が回復できていない罠。夜寝る前に飲んだアルコールに分解されそうになる夢。私はアルデヒドじゃない。朝だと思って目を開いたら既に太陽が真上に来ていた。時間が早い。加速しているのか。いいや自分が止まりかけているかもしれない。少しずつ後ろ向きの力が加わっていて、気付かない間に速度が減少していって、そのまま停止しかけているのかもしれない。こんなのただの空想に過ぎないけど。ちょっと想像で言ってみてるだけだけど。空想が現実に近づきつつある予感。それとも、現実が空想に飲み込まれていく実感?自分の好きになれない文章をどうしてこうもヒケラカスになってしまうのか?上手くなりたい上手くなりたいと呪詛の言葉みたいに呟いているのはきっと惨めです。そんなことより初心に帰ろう。お手手を繋いで夕日に手を振って、そのまま風景の向こうに消えてしまおう。見えないものには蓋をしよう。要らないものは分解しよう。お腹が空いたら水道水で膨れさせてしまえ。願いもきっと叶うはず。それより今日は何をしようかしら。時間はまだ十分にあるわ。//無理に気分を向上させるには、ここまでの文字数が必要でした。少しずつ思いついている世界をどうしようかと持て余す。作りかけた積み木の城のどこに王様を配置しようか?兵隊の陣形は菱形がセオリー?抜け道の数を数えながら大広間に食器を並べてワインを注ぐ。零れた分は犬が舐め取ってくれるかな。駄目だやはり好きになれない。無理に出しても仕方のない事。それでも書くと言うのなら、きっとこれは惰性でしょう。中毒は大袈裟。言うならば暇人。そんなに何が気に喰わないって、品質保証の対象外であることでしょう。自分の頭の形が気になって仕方ない。

4年前 No.12

青煙 @bluehaze☆dew2swC2MwM ★YUiywvlO0a_CBR

茶色く錆びた水道管の先から、綺麗な水がしとしとと地面に滴っている。蝶がそれにおびき寄せられて、ひらりひらりと辺りを舞う。朝の光が剥き出しの窓枠から、静かに降り注いでいた。廃墟の中には神秘的な光景が溢れている。僕は息も出来ずに、その中に立ち尽くしたまま、毎日、ただこの風景を眺めている。次第に日が昇りきると、猫が遊びにやって来た。僕の方をちらりと見て、尻尾をかぎ状にくるりと曲げてみせる。僕の心は音も無くときめいた。あの猫がやってくるといつも、彼女がここに遊びに来る。きっと、猫が連れてきてくれるのだ。尻尾はその合図。ほら、もう足音が聞こえてきた。とんとんと彼女の細い両足が、この崩れそうな廃墟を踏んで、頂上にある僕の部屋へとやって来る。程なくして、彼女は現れる。手にはシロツメクサの花束。長い黒髪を風にゆらして、彼女はゆっくりと此方へ歩み寄る。そして、ゆっくりと僕の隣に腰掛ける。言葉は要らない。ただ、二人で並んでそこに座っているだけ。まるで古い映画か、舞台のようだ。少しずつ落ちていく陽に照らされて、彼女の手元から、花びらがひらりと落ちる。夕日が荒廃した地上を照らしている。真っ赤に染まった空の向こうへ消えた人達。母さん、父さん、妹、友達、先生……。みんなどこへ行ってしまったのだろう。彼女は何も言わない。ただ、静かに夕日を見つめている。唇を固く結び、その瞳には夕日よりも赤い復讐の炎が宿る。そうしてすっかり日が落ちてしまうと、辺りは一気に冷たい空気に包まれる。今夜は満月だ。半分に割れた月の間では、未だにあの日の残響が見える。白く黄色く濁った空は、どこか割れてしまった卵のようだ。中の子供はきっと、あの夜、地上に降り注いだ彼らなのだろう。誰の目にも留まらぬ速さで、津波のように僕らを攫っていったあの巨大な何か。彼女は花束を僕の傍らに置いて、そっと立ち上がった。静謐な月を睨み上げ、滑稽ともいえる憎悪の念に突き動かされ、ゆっくりと窓枠へ歩き出す。月の光が白く彼女を照らし出し、まるで舞台のようだ。彼女は身を乗り出し、廃墟の外壁に立つ。彼女と空と地上が、隔てなく並ぶ。そうして、こう呟くのだ。「――復讐を、必ず」彼女が視界からさっと消える。飛び降りる先には、黒い地上が広がっている。しかし、彼女がそこへ辿り付くことは無い。月が沈み、夕日が昇りはじめていた。僕は無力だ。また今日になって、猫が来て、彼女がここへ現れる、そんなことしか僕には出来ない。彼女が何千何万と落ちていく先は、きっと僕の知らない未来だ。だけど、大丈夫。もし失敗しても、僕が掬い上げる。この廃墟が最後の砦。どんな存在も、僕をこの場から退くことは出来ない。僕は彼女のために、いつまでもここで待つつもりだ。彼女が正しい未来を導けるまで。夕日が落ちても、冷たい月に空が侵されず、夜空に、輝かしい星の光が満ちるまで。言葉も無く、身動ぎもせず、呪詛の言葉が地を這うように、僕はこの場に留まろう。幽かな存在と、一つの魂。僕らの見ている世界は、きっとどこまでも綺麗なのだ。廃墟の中には神秘的な光景が溢れている。残酷なほどに、美しく完璧な形。僕はその景色の中、息をすることも出来ない。止まった鼓動の代わりに、ただ、しとしとと、水の滴る音が響いていた。

4年前 No.13

青煙 @bluehaze☆dew2swC2MwM ★YUiywvlO0a_ClB

窓の外を流れる景色が、此方に手を振ってくる。振り返すのが面倒で、僕はガツンと右足で窓枠を蹴り飛ばした。拍子に、外へと零れ落ちていく印字が黒い雫となって、点点と地面に跡を残す。あぁ、これは油性みたいだな。降りしきる雨の中でも、染みは少しも滲まなかった。窓枠から足を下ろして、ルームミラーに目を移す。後ろから来ている車は一台もない。前方にはただひたすら真っ直ぐな道路が広がっている。辺りは未曾有の豪雨。ざあざあと叩きつける様に降る雨の所為で、視界が白いカーテンのようにうっすらと遮られている。前照灯を点けてみるも、雨粒が反射して余計悪化するばかりだった。路面がきらきら光って、まるでガラス片の上を走っているみたいだ。タイヤがぷつぷつと変な音を立てている。まるで虫を踏み潰すような音が鬱陶しくて、カーラジオのつまみを捻った。途端に、90年代の洋楽が流れ出す。おや、これは僕の好きな曲じゃないか。とんとんとつま先でリズムをとりながら、ジグザグと道路を滑走する。目の前に大きなカーブ。それを突っ切れば、車はもう、空の中だった。遥か下に見える斜面が、ゆっくりと近づいてくる。車体が少しずつ前に傾き始めている。おや、おかしいな?ルームミラーに雨空が写っている。ヴォリュームを弄っていないのに、音楽が急にぐわんぐわんと大きくなった。雨音が煩い。何かにぶつかる衝撃。ライトが消える。視界が真っ暗になる。…………。しばらくして、不思議な浮遊感を感じ、目を醒ます。窓の外を流れる景色が、此方に手を振ってくる。振り返すのが面倒で、僕はガツンと右足で窓枠を蹴り飛ばし――いや、足がない。ああ、今気が付いた。そうか、そういうことか。これは失敬、気が付かなかったよ。苦笑いで、僕は手を振り返す。向こうから虹色の馬車が、ぷかりぷかりと近づいてきていた。日の光が眩しい。もう、雨は止んだようだ。

4年前 No.14

青煙 @bluehaze☆dew2swC2MwM ★YUiywvlO0a_U2d

ぐちゃっと何かの潰れる音がする。あぁ、ほら、また。べちゃっ、ぐちゃっ。液体と固体の混ざった音。なんだか妙な匂いがする。まるで古いインクの
ようだ。なんだろう。左右を見渡しても何も無い。ただ真っ白い空間が広がっているだけ。ふと上を見上げて、少しずつ天井が下がっていることに気が
付いた。な、なんだ……これ。天井から黒い塊がごぼごぼと産まれ出している。又、それと同時に潰れる音。あ、あぁ、どんどん近づいてくる。怖い。
恐怖して逃げようとするも、天井は静かに下がっていく。速くなったり、遅くなったりしながら、黒い塊が消えて、やり直すようにまた産まれだしたり
しながら。左から右へと順番に塗り潰すように、黒い塊は産まれていた。塊とは言っても、その形はばらばらだ。天井から目を離し再び左右を見渡す。
こんなことしてちゃいけない。とりあえ早くここから逃げないと。でも右にも左にも脱出口はなくて、ここが密室というか、一つの箱になっていること
が分かる。絶望。いや、大丈夫。きっと大丈夫……。天井はまだ遥かに上だ。少しずつ下がっているも、まだ十分な余裕がある。あぁ、でもこうしてい
る間にも下がってきているのは、見て気分のいいものではないな。どきどきどき。鼓動が早い。泣きそうだ。誰か――……。それでも黒い塊は、相変わ
らずごぼごぼと産まれ出している。どうしたら止められるのだろう。この最下部からでは、ただ茫然と見ることしか出来ない。天井は最初に比べ随分と
低くなってきていた。でも、まだ…大丈夫。深呼吸をして、落ち着こう。冷静に思考しよう。まず黒い塊を観察してみる。重なり合ってしまってよく分
からないが、その多くはゆるりとした線状になっているらしい。大きさは大体同じで、時々粕の様な小さい円状のものや、点状のものが混ざる。やたら
ごちゃごちゃと複雑な形になっているものもあった。……それに、同じ形のものも割と多いようだ。どうやら、黒い塊は幾つかの種類があるらしかった
。産まれて来る速度は不安定で、消えてまたやり直すこともあった。産まれるのは、消えたものとは違う形?ごちゃごちゃと積み重なっている、その一
番手前の塊を観察する。でも、そのあいだにも上から新しいのがまたつくように産まれ出す。あ、これは…「でも、そ」……左に移る。「のあいだにも
」……「上から」?…「でも、そのあいだにも上から」?これは、まさか文章になっているのか?気付いた途端、突然速度が速くなる。続きは見る見る
うちに隠されてしまった。あぁ、天井が随分と低いな。これはまずいのかもしれない。ふたたび焦燥感が募る。このまま、潰されてしまうのだろうか。
ぐちゃぐちゃと、ごぼごぼと、音が随分と近づいてきている。それに混じって、小さなカタカタという音も聞こえてきた。雨音にも似た、不思議な音。
塊が産まれる度に鳴っているようだ。ふたたび気を取り直して、黒い塊を読み取ろうとする。「り*して、*い*を*み*ろうとする。」……駄目だ、
分からないところが多すぎる。もう少し下がってくれば、もっと読みやすくなるのかもしれない。一段近づいたところで、再び目を凝らす。「っと」…
なんだろう?「読」?「みやすくなるのかもしれない」!もっと読みやすくなるのかもしれない!これは、まさに思考じゃないか。続きを見る。あぁ、
やっぱり。「これは、まさに思考じゃないか」そうだ。この黒い塊はついさっき考えていたことだ。つまり、自分は自分自身の思考に塗り潰されようと
しているのか?まずい。どうすればいい。心を無にしようとしても、焦っている思考は加速して次々に黒い塊を作り出してしまう。だいぶ天井が低い。
この積み重なった黒い塊が、自分の今までの思考のログなのだろうか。考えないようにしないと…。駄目だ、考えないように……。…………………む、
難しい。!?思考を再開してしまうと、途端に謎の点が現れる。さっきまではなかったのに。どうやらずっと無でいないといけないらしい。……駄目だ
。……………あぁ、天井が……!……どうしよう。怖い。怖い怖い怖い。「怖い」と思った、その自分の思考が、はっきりと見えている。あと一段で、
床につく。つまり、潰される。もう音は目の前だった。じりじりと右側に逃げる。あぁ、一段降りてきた。こちらに来る。嫌だ。来ないで。こっちに来
ないで。止まって。お願い。止まってくれ。頼む。それでも目の前に黒い塊が近づいてきて、もうそれはどうしようもなくて。あ、いやだ、嫌だッ!!
ふと、床ががくんと下がる。嘘だろ。天井がすこし遠ざかる。これは、まだ、続くのか。[この内容でプレビューする]?急に文章が浮かぶ。ぐちゃっ。

4年前 No.15

青煙 @bluehaze☆dew2swC2MwM ★YUiywvlO0a_U2d

青い夕焼けの日。路地裏で猫の鳴き声がする。めーぅめーぅと変わった調子で鳴いている。うわ不気味。でも気になる。そーっと足を向けて見れば、ゴミ捨て場の所に、一匹の白に茶斑の猫がいた。どこか上のほうを見上げて、めーぅめーぅと鳴いている。こいつ、もう少し可愛く鳴けないのかよ。見に行って損した。なんて思わず呟いたら、そいつはぐいんと首を回して私を振り向いた。顔の真ん中。黒い穴が二つ。並んで。――目が無い!ぎょっとして、息を呑む。相手はくらりと尻尾を揺らして、じっと私を『見ている』。気味が悪い。吐き気と震えが身体の底からわき上がってきて、私は思わずその場を逃げるように駆け出した。背後でめーぅめーぅと声が聞こえる。路地裏を抜けてシャッター通りに出る。めーぅめーぅ。まだ耳にこびりついている。めーぅめーぅ。いや、後ろに付いて来ている……!めーぅめーぅ。振り返ると、後ろからそいつが飛ぶように走ってきていた。めーぅめーぅ。頭が扇風機みたいにぐるぐる回転している。めーぅめーぅ。怖い怖い泣きたい怖い。めーぅめーぅ。必死で通りを走りぬけ、細い路地に入る。めーぅめーぅ。まだ後ろにいる。めーぅめーぅ。横にあったガラクタを後ろに投げ飛ばす。めーぅぅぅぅぁぁぁぁ。あたった!ぅぅぅぅぁぁぁぁ、ぁ、ぎゃあああああ!!驚いて振り返ると、猫の額からわらわらと黒い芋虫みたいなのが出てきていた。うわキモい!私はまた走り出す。今度は追ってこないようだ。心臓がバクバクと激しく鼓動している。何、なんだったの今のアレ。いや、考えないようにしよう。見なかったことにしよう。家に帰る。やだ、家の鍵が見つからない。どこかで落としちゃったのかな。仕方なくインターフォンを押す。ピンポーン……ーーぅ。(寄,neko)

4年前 No.16

青煙 @bluehaze☆dew2swC2MwM ★YUiywvlO0a_U2d

ジェニファーが言うんだ。僕の脳味噌が零れ出てるよって、何ともだらしない子だねって、ジェニファーが馬鹿にするんだ。酷いよ。僕だって好きでこうじゃないのに。そしたらね、あいつはかかかかって笑って僕を指差すんだよ。いけない嘘つきだね。身から出た錆なのにねって。ねぇ、どういう事?よく分からないよ。たぶん、僕の中身が出ちゃってるせいもあるんだろうけど、身から出た錆ってなあに?だって、ねぇ、僕の中身は錆じゃないし、錆って金属に出来るものでしょう?僕は機械じゃないよ。おかしいよ。だけどジェニファーが言うんだ。そんなことも分からないなんて、やっぱり馬鹿じゃないかって。そんなの知らないよ。僕に聞いたって、うんっていったら馬鹿になっちゃうし、違うって言っても馬鹿みたいじゃないか。もう、本当に嫌なんだよ。ジェニファーに会いたくないのに、あいつ、鏡越しにいっつも僕を見てるんだ。ほんと、頭にくるんだよ。だからおじいさん、お願いだから、僕の頭をケーブルごとぶっちぎってよ。そんなことしたら僕が死ぬ?ううん、大丈夫だよ。だって、消えるのは僕じゃなくてジェニファーでしょ?

4年前 No.17

青煙 @bluehaze☆dew2swC2MwM ★YUiywvlO0a_U2d

カエルのお姫様が神輿に乗ってえんやえんやと担がれる。その列の後ろを黒髪の少年少女がてとてととついて行く。目指すはきっとユートピア。こどもの国に行くのだろう。空高くをイナゴがたくさん飛び回っている。この不思議な行列を見物しているのだ。はぐれた子供がいれば、あっというまに彼らの餌食だ。幼い子供は稲か小麦で出来ている。とりわけ、彼らの好物は子供の頭だ。そこには藁が詰まっている。だがイナゴにとって、それは最も危険な食事でもある。子供の頭に詰まっているのは藁だけではない。たった一本の針が、イナゴの喉を突き刺し、破裂させることもあるのだ。だからイナゴたちは一人の子供に対して何匹もの数で食事にあたる。逃がさないのはもちろん、こうしてそのうちの誰かが針にあたっても、むしろ他の仲間たちは安心して食事ができるという利点があった。これぞ生きる知恵。壮大な種の歴史。一寸の虫にも五部の増刷とはよく言ったものだ。ところで諸君。こんな話、きっとどこかの貧しい国か辺鄙な村の話だと思ってはいないだろうか。いいやそれは恐ろしい勘違いだ。よくよく覚えておくと良い。どうぞよく耳を澄ませておけよ。諸君の五感こそが唯一にして絶対の武器。これらを鈍らせておくなどというのは非常に危険。よもやすると命取りにも等しい行為だよ。もしも夜道で其れが聞こえたら、それこそ神輿の掛け声なのだ。もしも雑踏で其れを感じたら、それが行列の足音なのだ。ふとした瞬間――「ゆめやゆめや」と聞こえたら、それが悪夢の始まりなのだ。

4年前 No.18

青煙 @bluehaze☆dew2swC2MwM ★YUiywvlO0a_U2d

室内の温度は22℃。薄手のパジャマでは肌寒い。全ては大して暑くもないのにフル稼働している扇風機の所為だった。冷ややかな風がぐるぐると室内を循環している。不必要な冷気が室内の温度を減少させているのだ。どうして僕は扇風機を稼動させたのだろう。今はもう秋の初め。残暑もとうとう終わった頃。この歪な左右対称の羽ばたく機械は、すでに地下の倉庫に仕舞われて然るべきだった。なぜ僕はこれを野放しにして、あろうことか尚も使用しているのか?机に向かい原稿用紙の升目を埋めながらそんなことを考える。しかし作業を中断し扇風機のボタンを操作することは叶わない。というのも、卓上の砂時計が僕を机に拘束しているからだ。一度文字を並べ文章を綴る手を止めてしまえば、再びこのペースで作業するまでにロスする時間は果てしない。それでは期限に到底間に合わないのだ。期限に遅れれば今までの苦労が水の泡になってしまう。それはとても困ることだった。だから僕はこうして寒さに耐え忍びながら作業を続行する。どのみち原稿を埋め尽くせばいくらでも暇はでる予定だった。それから扇風機に取り掛かれば良い。今は目の前の事に集中しよう。そう決めてまた気持ち新たに隙間を埋めた。ふいに電話が鳴る。物語の中断はいつも電話のベルだと決まっている。仕方なく受話器を片手で取り上げると、先方は知らない声だった。「御宅の扇風機を止めていただきたいのですが」彼は至極丁寧な口調でそう言った。どこか臆病そうな声でもあった。「手を煩わせてしまい申し訳ありません。しかし扇風機を止めていただきたいのです」まるで誰かにそう仕向けられているように、彼はぽつぽつと謝罪の言葉を重ねた。「作業が終われば直ぐにでもそうしましょう」彼に返事を返し受話器を置く。今の会話でロスした升目は全部で720個だ。原稿用紙1枚と0・8枚分。それを取り戻すには二倍速で2530秒動く必要がある。僕は上着のボタンに手をかけた。『風速』のところの摘みを捻る。『中』から『強』に切り替わって、扇風機の羽がごうごうと音を立てた。先ほどよりも風速ニ倍速で進む風に煽られ、原稿用紙がばたばたと飛んでいく。これで、良し。僕は再び摘みを捻った。風が元通り穏やかになる。あぁ、少し寒いな。つぶつぶと気持ちの悪い鳥肌をそっと撫でて、僕は作業を再開した。まだ砂時計の粒は落ちきっていない。残りの時間は20と0・73グラムであった。それも原稿用紙へと具に記載する。記入漏れは許されない。やり直すような時間は無いのだ。限られた隙間を埋めるのに定まったペース配分が必要だった。僕は作業している。扇風機の傍らで君の亡骸が笑っていた。冷房は故障中。この酷く歪な四畳間で何の幻想を抱くのだろう。少年少女に夢を見せる、その舞台の裏の裏。きっと、意味は無いのだろう。僕もそうだと頷いた。

4年前 No.19

青煙 @bluehaze☆dew2swC2MwM ★dAxNLEsSVl_U2d

路地裏の古ぼけたダンボール箱の下に何があるか知ってるか?路地裏の、って時点でお察しだけどな。アレだよ。死体。それも女の死体さ。チェ、なんだよつまんなそうな顔すんなよ。あーあー分かってるよ。どうせそんなの見飽きたって言いたいんだろ?そりゃそうだけどさ、実物も確かめないでそう投げ出すのも考え物だぜ?(笑い声)ほら、見てみろよ。これ、この背中のやつ。ほら。な?羽だろ。どうみたってこれ、天使の羽じゃねえか。だからこれはエンゼルの死体っつー訳だよ。なあ凄いだろ。コヨーテとかヤローや女の死体なんてあっちこっちごろごろしってけどな、さすがにエンゼル様のは見たことねぇよ。ま、今こうして見つけた訳だけど。それでさ、これ、どうする?とりあえず羽んとこ切り取ってみる?お前確かこの前ブランケット燃やしたろ。ほら、代わりに良さそうじゃねぇか。カッターは適当にそこの割れた瓶使ってさ、俺こっちからハサミでじょきじょきやるから、お前そっちからざくっと切っちゃってよ。そうそう、ニ倍速な。ニ倍速。んじゃ、始めるぞ。せーのっ。(破裂音)僕の目の前で肉片が飛び散った。誰の?紛れもない僕の。或いは先ほどまで話していた彼の。僕は茫然として瞬きもせずに(っていうか目蓋自体もう吹っ飛んじゃってたけど)目の前の死体を見ていた。いや、それはまだ死んでいなかった。むくりと起き上がってばらばらになった僕らを見下ろす。彼女は青い眼をしていた。とても綺麗。彼女はぱかっと口を開いた。口の中は空っぽだ。歯がない。舌もない。ただ黒い闇が広がっている。ぱくぱく。彼女は口を動かした。(死、ん、で)僕は再び弾けた。ばーん。木っ端微塵。賛美歌は聞こえないけれど、僕の行き先は地獄じゃないと思う。だってここ、路地裏だし。そんな事を考えながら、僕(破片)はずぶずぶと地面に埋もれていった。あーあ、泥沼。またここから這い出さなきゃ。面倒だなぁ。心の中でため息を吐く。そうこうしている間に、僕の沈む速度は少しずつ加速し始めた。沼の粘性が減少していく現象。そろそろ終わりの合図だ。最後に僕の眼球が上を向いた。天使が頭上を舞っていた。アシタアサッテシアサッテ。アシタアサッテシアサッテ。アシタアサッテシアサッテ。声はもう届かない。耳はもう先に沼に落ちていってしまった。これも少しずつ沈んでいく。視界がずぶりずぶりと埋め尽くされた。もしも、と僕は最期に思う。もしも羽が生えてたら、僕もきっと沈まなかった。【100記念、if】

4年前 No.20

青煙 @bluehaze☆dew2swC2MwM ★AcJqBjdjbb_U2d

『ここはもともと公園だったらしい。らしい、というのは僕たちがその当時まだ生きていなかったから、伝聞=言い伝え=推測であるからにして。』「お前の話は訳分かんねーよ」彼はそう言って藁半紙をくしゃくしゃに丸め、外に放り投げた。そこには僕の考えた小説が書かれていた。僕は彼の行動に、少なからず衝撃を受ける。「あっ」「気にすんな、落書きだろ?」それはそうだ。これは落書きだ。そう言ったのは僕だ。僕は以前、彼にこの世の全ての言葉は壁の落書き程度のものだ、という話をした。それ以来、僕の作品が随分とぞんざいに扱われるようになってしまったのは、まさに口が呼んだ災いなのだろう。ちなみに、僕の口からはよく災いが産まれる。彼が僕の目の前で僕の作品を捨てたのも、今目の前でたくさんの卵が不安定な運命を辿らされているのも、全ては僕が元凶だ。卵、というのは、彼が作り上げようとしているエッグタワーのことである。この界隈で鶏卵はとても安い。小石なみに安い。だけど、それを積み上げて塔にするのは別だ。楕円形のそれを積み重ねるのは、とてもとても難しい。現に、僕が先ほどまで小説を書いている間、目の前でいくつもの卵が犠牲になった。お陰でそこら中、黄身と白身でべちゃべちゃだ。しかし、彼はそれで諦めるような人間ではない。彼は非常に執念深く、また、かなり単純なところがあった。「そういや、眼鏡はどうした?」ふいに話しかけられて、僕は思考を中断する。「眼鏡なら、また蒐集しにいったよ」眼鏡、というのはあの頭に装着するやつではなくて、僕らのメンバーだった。僕らというのは、彼と、僕と、眼鏡で成り立っている。僕が小説を書くのが趣味で、彼が卵を積み上げるのが趣味なら、眼鏡はガラクタを拾い集めるのが趣味だった。眼鏡は殆ど毎日かかさず、何かを拾ってくる。それは例えば短くなった鉛筆や、空っぽのワインボトル、あるいはとてつもなく色っぽい雑誌の色褪せた1ページとか、そんな類の物だ。僕と彼は、眼鏡のコレクションを単にガラクタと呼んでいたが、眼鏡は違った。眼鏡は、眼鏡のコレクションをマテリアルと呼ぶのをやたら気に入っていた。ちなみにこの言葉も、僕の口から出たものだ。眼鏡が将来、錬金術師か機械技師か科学者になるのだと語ったとき、ならば今しがた君の手に持っているそれ(その時、眼鏡は眼鏡を持っていた)は実験の材料=マテリアル=針金なのだな、と僕が言ったのだ。彼がその言葉を気に入って、今も使っているという次第だ。僕は時々考える。僕らの中に僕はどれだけ含まれているのだろう。50%?30%?いいや、きっともっと少ないはずだ。僕は思う。故に僕あり。だから僕の占有率はたったの25%。「腹減ったー!!」彼が叫ぶ。彼はよく叫ぶ。

4年前 No.21

青煙 @bluehaze☆dew2swC2MwM ★AcJqBjdjbb_MGX

大馬鹿者め!というのか私の父の口癖だった。例えば何か親のサインが必要な提出物を出し忘れたり、宿題を溜め込んだりしていると、いつも決まって説教の始めにそう叫んだのだ。小学生の頃はもちろんその父の怒号が恐くて間違えを起こすまいと必死に努力していたのだが、中学に上がる頃にはちょうど自分が第二自立期すなわち反抗期ということもあって、次第に大馬鹿者め!というその言葉をへいへいそうですかと聞き流すようになっていた。そんな父とは大学で地方へ一人暮らしを始めてからは年末の数日間くらいしか顔を合わせないようになり、今ではむしろ大馬鹿者め!というその言葉が懐かしく感じられるほどだ。それにもう60に差し掛かった父のその元気な(というと語弊があるかもしれないがあるいは気持ち良いほどの威勢のある)言葉をひさびさに聞いてみたいとすら思っていた。そして今年の冬、また私はこの父のいる家へと舞い戻った。親戚一同で溢れかえる我が家は、もはや非日常と化していたが、その真ん中にどうどうと座し日本酒を旨そうに呑む父を見て、その風格に参ったなぁと今更ながらに尊敬の念を覚えた。そして、そこで私は初めて父のその大馬鹿者め!の由来を知ることになる。それはかつて父が憧れていたとある日本映画のワンシーンから来ていたのだった。しかし大馬鹿者め!というその台詞は決して長老や水戸黄門のようなお偉い人物の口から出たものではなく、まして主人公格の登場人物から出たものでもない。その台詞は物語の中盤、たくさんいる脇役の中のとある青年から発せられたそうだ。主人公達が町に到着し今後の度に必要な物資を調達している折、ふと大の男二人が喧嘩しているのに出くわす。その喧嘩している二人をいさめるでもなくただ後ろで傍観していた、その青年がふいに口を開くのだ。この、大馬鹿者め!どうにもわけの分からない話と思われるかもしれないが、つまりはこういうことなのだ。青年というモブは、確かに大馬鹿者め!と叫んでいた。しかし彼の声は、映画には入っていないのだ。主人公達が喧嘩をいさめ取り成すところで、その背景に映りこんでいる彼が、大口を開けてぱくぱくと叫んでいる。それはほんの一瞬の出来事で、おそらく観客のうちでもそれに気付いた人は少ないだろう。そもそもそこまで有名な映画でもない。だがそれが自分にはひどく印象に残っていたのだと、父はそう語った。ここからは私の想像だが、もしかしてそのモブの男というのが父そのものなのではないかと、私は睨んでいる。映画のエキストラは案外広く募集されていることもあるという。それにそこまで有名な映画でもないと何度も言っていたのだから、ひょっとするとアマチュアの作品かもしれない。大学で友人の作る自主制作映画に参加した折、その舞台の向こうにいる誰か――あるいは友人である監督自身に、父は大馬鹿者め!と叫んだのではないだろうか。撮影中であり、その声は届かず、気付いたのか気付かなかったのか、結局それがそのままシーンとして使われてしまった。それを見て、きっと父は驚いたのだろう。それと同時に、こうも思ったに違いない。あぁ、自分の風格の良さ!なんと威厳のあることだろう!うぬぼれとは恐ろしいが、案外この説は正しいんじゃないだろうかと思う。蛙の子は蛙。私はこの冬、友人の映画でひとこと出演したばかりだ。

4年前 No.22

青煙 @bluehaze☆dew2swC2MwM ★AcJqBjdjbb_MGX

右から左に一定のリズムで流れる時間。ラインの前に立ってそれを切ったり貼ったりするのが僕の仕事だ。ねじれた時間があればパチっと切ってねじれを戻しまた繋げ、ちぎれた時間があれば端っこをパチっと切って新しいのと取り替える。ときどき時間の表面にタイムパラドックスとかタイムスリップとか不純物が付着しているときがある。そういうときは、その時間ごとパチッと切って前の繋げなきゃいけない。時間を切るのはハサミひとつあれば十分だけど、時間を繋げるのはけっこう面倒だ。それに時間はいつだって右から左に一定のリズムで流れているから、それに沿ってやっていかないといけない。まぁ、失敗したことなんて一度もないんだけどね。僕はこの工場で毎日決められた分だけ、こうやって時間を切ったり貼ったりしている。それ以外の時間はずっと食堂にいる。食堂には色んなひとがいて、例えば僕みたいな工場の職員以外にも、工場を設計した人とか、ただの観光客とか。そういう諸々の人がみんな食堂に集まるから、食堂はいつもロックコンサートホールみたいな騒ぎだ。でも、僕はそういうところも嫌いじゃない。僕の同僚で空間をやってるひとがいるけど、彼は食堂が大嫌いだった。だからいつもブルールールを飲んで、部屋の隅っこに突っ立っているんだ。まるで影みたいにね。話を戻そう。僕はある日、こう思ったんだ。僕がこうやって食堂にいる間、きっと僕たちの誰かは仕事をしているはずだ。だけど、もし誰もいなかったらどうなるんだろう。時間は何もしなくても右から左に一定のリズムで流れる。だけど、中に紛れてる不適格な時間をそのまま流したら、そしたらどうなるんだろう。気になって僕は、次の日の仕事をサボタージュした。食堂でみんなの間に紛れながら、誰かに名前を呼ばれるんじゃないかとどきどきしたけど、結局何事もなく僕のシフトは終わった。そして次のひとが仕事へ向かう。それを遠めに眺めながら、僕は彼が工場でどんなものを見つけるのかと待っていたけど、結局彼も何事もなく帰ってきた。なにも問題はなかった?僕は安心して、毎日サボタージュすることにした。そもそもこの仕事はあまり好きじゃない。食堂が僕のお気に入りの場所だ。気が向いたときだけ、僕は働くことにした。もしバレたら怒られちゃうだろうけど、気をつけてやれば大丈夫。誰かの時間なんてどうせ大したものでもないしね。

4年前 No.23

青煙 @bluehaze☆dew2swC2MwM ★AcJqBjdjbb_eAQ

2・2・3で青・青・白の光が点滅したらそれは平和の合図。1・1・1で青・白・青の光が点滅したらそれは日常の合図。2・2・2・1で青・青・青・青の光が点滅したら――それは崩壊の合図。逃げ場はない。ただ全てのものが元の場所へと返される。どこへ隠れようとも逃れられない。その光を目にした瞬間、貴方に許された時間はごく僅かだ。次の瞬きまでに、最後の行動を決定しよう。手遅れという事はない。ただ何もしなかったという、無防備で従順なログが残されるだけなのだから。貴方が恐れる必要は無い。貴方が悩む必要も無い。ただ光の指す方向へ従い、その運命に沿って曲がりくねったルートを進んでいけば良い。訓練生にだって出来る簡単な仕事です。学習しながら特訓すれば、貴方はより早く目標を達成することが出来るでしょう。大事な事はたった一つだけ。光の点滅と色から目を離さないで。明るい視界の中では、あらゆるものが眩く見えるのです。どうかお気をつけて。一番遠くまで辿りついた人は、今日のMVPを差し上げましょう。実用最小限の製品は、貴方の人生に彩りを与えてくれるはず。さあ、頑張って!最小存続可能個体数にはまだ多すぎますよ!

3年前 No.24

青煙 @bluehaze☆dew2swC2MwM ★AcJqBjdjbb_nUa

知りもしない時間がいつのまにか僕の前をすり抜けて、遥か遠くの異国のノーザラの丘へと旅立っていった。在りもしない確信がいつのまにか僕の内に染み付いて、気付けば半径γmmの宇宙を展開していた。僕は考える。失った時間を取り戻す方法はあるかと。きっとないだろうという心が、どうしようもなく響いている。空虚だ。まるで棄てられた教会の鐘のようだ。目覚まし時計のベルはとうの昔から毀れていたのだろう。昔に読んだ自国の小説の冒頭が、まざまざと蘇る。あれは確か海の上の話だった。いや、花畑の話だった。それとも誰も居ない、古びた礼拝堂だったか。物語は主人公の独白から始まった。彼は贈る相手のいない花束を片手に、空を見上げて立っている。読者は彼の視線を文章でなぞり、それから彼の過去へとスライドしていく。彼の失われた時間は、読者に充てられている。花束を持つまでの空白が、紙面にさも始めから無くなっていなかったかのように並ばされている。しかし、僕は考えていた。彼の空白は確実にあるのだ。たとえ他の次元の読者がそれを体感し、目撃していたとしても、彼の空白が埋められることはない。不可能。そして同じように、僕は意見を擦りあわせウr。僕のこの知りもしない時間は、きっとあるのだ。消えはしない。充填することは叶わない。読者はいない。筆者はいない。誰も文章を書かない。僕の脳味噌だけがさっきから延々と何かを呟いている。しかし、これも遅い。過去へ遡るには光よりも速く走る必要がある。時を止めるのも同じだ。留まるには走り続けなければいけないと、童話にすら書かれていた。僕は考える。この空白はどこへいくのか。その先はあるのだろうか。

3年前 No.25

青煙 @bluehaze☆dew2swC2MwM ★AcJqBjdjbb_Eca

不思議な夜を思い出した。あれは確か、そう、大晦日の前日。台所でお煮付けを作ろうと支度をしていたら、突然A子が電話をかけてきたのだ。無機質なベルの音にびっくりして、取り落とした包丁が足の指と指の間にすとんとまっすぐに突き立った。奇跡的な幸運。ほっとしながらも、綺麗に真夜中に一体何用だろうと思いながら受話器を取ると、彼女は小さな声でこう云った。――明日がくるよ、と。私は今度こそ驚いた。もう随分と長いこと時間は止まったままで、この数千光年、ずっと夜が続いていたのだから。――本当なの? 勢い込んで聞き返した私に、彼女はもう一度繰り返す。――えぇ、明日がくるのよ。 そして、突如物事が起こったのだ。最初に床にささった包丁が、ぴん、と天井へ飛び上がった。振り返ると、台所でまな板が煙を出して融けている。窓の外が、虹色に輝いた。クリスマスのイルミネーションのように、赤・青・黄・白、と色を変えながらゆっくりと点滅している。私はA子の名前を呼んだ。受話器の向こうで、彼女はうわごとのようになにやら、ひどく、絶え間なく、恒久的に呟いていた。何者かに祈りを捧げているようだった。子機に切り替えて、私は家を飛び出した。始まった。明日が始まった。着の身着のまま、夜道を駆け出す。逃げなくちゃ。今日から抜け出さないと――早く。薄い寝巻きでは夜風が冷たくて、吐く息は白い。前へ前へ、とただ闇雲に駆けていると、電話の向こうでA子の泣き出す声が聞こえた。ああああああ。子供のように泣きじゃくる。前方では、目覚ましの針が次々に聳え立ち、それはまるで、そう、ホールケーキにささったロウソクのようだった。不思議な夜ね。私は心の中で呟く。受話器の向こうでは、もう明日が来ているのが分かる。押し当てている耳に朝日が差し込む。私は子機を捨てた。角を曲がると、三年前に別れた彼氏がシケモクをかき集めているのが見えた。いつも肌身離さずつけている、安物の腕時計を確かめる。あぁ、良かった。2011年。明日が来るのは三年後。ほっとして地面に座り込んだ私を、まだ出会う前の彼が暖かい眼差しで見ている。懐かしい感傷にひたって、また今日を過ごそう。そう決めた私は、ふと、お煮付けよりもハンバーガーが食べたいな、と思った。

3年前 No.26

青煙 @bluehaze☆dew2swC2MwM ★AcJqBjdjbb_Wsk

小さい頃から彼は笛の音が嫌いだった。無機質な筒から出される単調な音色に、ひどく嫌悪を覚えるのだ。彼は波の音を好んだ。無数の泡と砂粒とが交ざり合って立てるその複雑な残響に、心まで洗われるような気がしたのだ。彼は今、遠くの海の上にいる。荒れ狂う波の上につま先で立って、どこからともなく響いてくる、七つの笛の音に耳を傾けている。ざざんと高波が押し寄せる。しかし彼の足には届かない。そこだけまるで硝子の板で遮られているかのように、水が押し退けられ、押し留められている。彼は水平線の彼方に目をやった。灰色の雲の切れ間から、虹色の馬車がやってくる。今日は独りか―…。それだけ確認すると、彼はきびすをかえして、再び彼の住処へと帰っていく。笛の音が止み、水が轟いた。波が一気に押し寄せ彼を飲み込んでしまう。彼の居場所は海の底。笛の音の届かない深海で、彼はわずかな休息を得る。灯台の明かりが頭上を照らし、そのまま通り過ぎていった。あとは、暗闇。陸では大嵐が吹き荒れていた。虹色の馬車に踏み潰された家畜が、粉々になって砕け散る。幾つもの雷鳴が轟く中、かすかに波の音がした。また明くる日。少女は海の上に浮かぶ、小さなボートの上で目を醒ました。周りには果てしなく海が広がっている。少女は驚き、目を疑った。しかし夢でもない。困惑しながらも、彼女はボートを漕ぎ始める。オールの変わりに、彼女は二本の杖を持っていた。しばらく進んでいくと、遠くに島影が見えた。彼女は大喜びでその方へと進路を変える。近づいていくと、それは非常にこじんまりとした、小さな島だった。人影は無い。海岸に着きボートを降りると、少女は地面に杖を突き立てた。砂にずぶりと埋もれた杖の先から、七色の光があふれ出す。頭上で雷鳴が轟いた。はるか空高くから、虹色の馬車がやってくる。少女はぱっとその場から駆け出した。あとは逃げるだけ。役目を終えた彼女は、舞台を後にした。笛の音が響く。ざぶり――。彼が波の間から顔を出した。笛の音は嫌いだと顔をしかめて、立ち上がる。さて、今日は何人だろうか。

3年前 No.27

青煙 @bluehaze☆dew2swC2MwM ★AcJqBjdjbb_Wsk

最近、妙な夢を見る。どこか見知らぬ神社でお祭り見物をする夢だ。金魚すくいに綿菓子なんてノスタルジックなのは構わないのだが、組み合わせがとにかく妙なのだ。まず神社の内装が混沌としている。鳥居の代わりに聳え立つのはバラとチューリップのフラワーアーチ。通りを練り歩く神輿には、にこやかに微笑むカエルのお姫様が乗っかっている。屋台の出し物も奇ッ怪で、金魚すくいと聞いて覗けば、代わりに美女が水着で泳ぎまわっている始末。もしかしてこれは、己の欲望やら鬱憤やらの生み出した世界のなのだろうか。それはとても恥ずかしい。だがそう疑う一方で、いいやそうじゃないという、一種の確信があった。それは夢の中に出てくる、と或る少女の言葉だ。「お前は迷子だな」その子は、確かに私にそう言った。どこか寂しそうな顔で、まるで同情しているような口調で。えぇ、実はそうなのですと夢の中の私が頷く。彼女はそれを見て、やはりそうかと呟く。それからこう言うのだ。「あまり寄り道なされるな。道に迷うては帰れなくなるぞ」――そこで目が覚める。辺りは見慣れた自室。時刻は朝、だ。そうやって毎度毎度その少女に注意されるのだが、それでも尚同じ夢を見てしまうのが、なんとも心苦しい。夢を見るごとに、しだいに少女の口調も苦々しくなっていった。「また迷われたのか」そう言っては溜息を吐く。すみませんと私も思わず項垂れる。「まあ良い。お前の所為でもないのだから」そうして今朝もまた現実に帰ってきた。私の所為ではない?一体どういう事なのだろう。知らず知らずの内に何者かによって、私はこの夢を見るように仕向けられているのだろうか。しかしどうやって?私はさほど伝奇や怪奇といった類のものは信じていない。しかしさすがに、こんな夢では気味が悪い。そんな訳で、今晩眠るのに枕元へ君を呼んだのだ。もし何か悪い夢を見させられているのであれば、きっと原因は現実にあるだろう。つまり寝ている私の周りで、何者かが悪さをしているのだ。君には、是非ともその現場を差し押さえてもらいたい――。ああいや、心配は要らない。君にはどうせ危害の及ぶことはないだろう。だって君、君の身体はもう既に、現実にはないじゃないか。そうそう、君は幽霊なのだからね。さ、そろそろ寝るとしよう。それじゃ、私の寝ている間しっかりと見張りを頼んだよ。おやすみ。――――最近、妙な夢を見る。なぜか見知らぬ男に頼みごとをされる夢だ。(現,yume)

3年前 No.28

青煙 @bluehaze☆dew2swC2MwM ★AcJqBjdjbb_MfF

目がかさついている。まぶたが眼球に貼りついてまつげがぱさぱさと不快な音を立てる。耳元で頭足類チックな格好をした彼が囁いている。少し休んだら?でもまだこれをやめるつもりはない。私はまだまだ働きたいのだ。分厚い書物を開いて付箋を貼る作業。不届きの封筒を切って手紙を抜く作業。鍵のついた引き出しを開けて中を覗く作業。何かを探しているわけでもないのに、なぜか焦燥感がこみあげてきて、いてもたってもいられない。見たい見たい。ああ、気になる――。電子ロックのパスワードを頭から総当りで解いてしまう熱中。中身がくだらないものだって構わない。ただ確認せずにはいられない。そんなの変だよ。磯巾着を履いたあの子が嘯いている。あなたにどう思われたって構わない。それに、みんなしてるもの。私は内心で言い返して、意識をまた水の底へと沈めていく。息継ぎほどのわずかな合間。口から小さな泡が出てはゆらゆらと上にのぼっていく。苔むした宝箱が海底に横たわっている。両足で蹴って沈んでいく私に、タコが金色の目を向けている。彼にはまぶたがない。従って無関心。心底羨ましい。手を伸ばして、宝箱の蓋を開いた。中からたくさんの稚ダコが出てくる。あたりが黒い煙に覆われて、思わず咳き込んだ。ごぼごぼと大きな泡が逃げていく。わらわらと出てきたたくさんの稚ダコは、長い間卵を守っていた母ダコの亡骸を蹴ってあたりに散らばっていく。私を天敵だと思っているのだ。蜘蛛の子よりも速い。細かい喧騒に包まれて、まだ柔らかい手足がいくつもぶつかった。そうして視界が戻る頃には、私の体は海面に浮かんでいる。あぁ失敗。ほうらねと言う人たちの顔が浮かぶ。雲のない青空。太陽が眩しい。溜息をついて、しばらく漂う。少しずつ表面から渇いていく。まぶたの上に塩田ができそうだ。下で舐めとってみると、やはりしょっぱかった。ジェラートとレモネードが恋しい。冬の海上で、そんなことを考える。はやく夏がこないかな。遠くに雲が浮かんでいる。いつのまにかできたらしい。――いや、違う!あれは飛行船だ。謎の浮遊物体Xだ。私はがばと起き上がった。水面を蹴って上に昇る。これは探しにいかなくちゃ。秘密の予感。どきどき。

3年前 No.29

青煙 @bluehaze☆dew2swC2MwM ★AcJqBjdjbb_pvM

ずってーん落!絡み合う大量のたらこパスタ!光り輝く丘の向こうに見えるは誰なん?我が胸の内に隠された最終期末試験の結果は鋭舞茄子であり隣のあいつよりも遥かに聳え立つこの栄光!どうだと胸を貼り見せびらかす張紙に皺をアイロンでかけては出かけ先のイン無に囚われてどこぞの姫とファミレスで乾杯!そのうち将来に見据えた四角検定試験もあるよ!受かるかしら?勉強せねば!(短いな!)

3年前 No.30

青煙 @bluehaze☆dew2swC2MwM ★AcJqBjdjbb_2SX

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3年前 No.31

青煙 @bluehaze☆dew2swC2MwM ★2HGCYPNNxl_6r2

蝉の声が電子音のように遠くから鳴り響いて、目を閉じれば体が揺れているような気もして。締め切ったカーテンの裏でこそこそと誰かが話しているのを聞きながら、ぱっと立ち上がって床に頭を打ち付ける。いっひひひひひひ。口からよだれが出てフローリングに垂れた。袖でぬぐう。左腕を伸ばして起動しっぱなしのノートPCに手をかける。マウス…まうす……。あった。ひひ。昔はまってた曲のリフレイン。やまないなぁ。手を伸ばすのにいい加減疲れたので、画期的な事かんがえます。世界征服、とか。全知全能になったらとりあえず梅雨消すわ。夏は夜だけ切り取って、冬の朝と春の昼間と、秋の夕暮れをつなげたい。あと月に可愛い女の子生やして、武道館ぶっ建てて、天体観測でアイドルライブ。ユニット名は属名種小名をラテン語で。植物なんでね。エコーでしょ?でも汎用的凡庸な人類は何もできないのでここで床に頭ぶつけてます。トンカチの真似。釘は無いけど頭の中のどっかには針くらい入ってるんじゃない?案山子にもあるくらいだし。頭揺するとたまにチカチカ音がするからたぶんあると思うの。ああああ。そろって六本足に見えてきた。クマムシみたいに図太いな。愛玩。これ手で触っても大丈夫ー?視界が妙に青みがかってます。そろそろ夜になるのかしら。え、あぁ朝ね。そうそう。朝。恋人欲しいとかぼやいてた友人はデジカメのフィルムにキスするようになったよ。親なんて要らないとか吐き捨てた少女は鶏がらスープに巻き込まれて粉砕されてしまったよ。チキンコンソメ。友情は力とか言ってた英雄は地価が下がった物件の隅でゴキブリと同居してるよ。八本足嫌い!触角はどう見ても一対の足でしょ。逆さまになって足ばたついてるんでしょ今の私みたいに(爆笑)自分がゴキブリだと知ってしまったときのこの気持ち。どう表したら良いかな?そう思ってあなたのために歌を作ったよ。恥ずかしいけど、聞いてください。sanies mortuusで「蝉」です。どうぞ。

3年前 No.32

青煙 @bluehaze☆dew2swC2MwM ★Ov07YoUE1Z_6V0

二か月前に捨てた紙袋がまだ僕のことを覚えているようで、そろそろ迎えにおいでよってドイツ土産のグミベアと一緒に家までやってきた。今はビニール袋にぞっこんなので、お引き取り願いたいんです。そういって追い返したらグミが弾けてうるさくなった。衛星テレビでsanies mortuusが歌ってるっていうのに!!初登場だって分からないのか!!やかましいから蠅叩きで五階から振り落とします。跳ね返ってばいばい。キーボードの右矢印がまともに動かないのは、奥歯に挟まっていたナッツをあそこに詰め込んだからだ。彼は僕の奥歯の代わりをしてくれる。やさしい右矢印。左は軽い。軽い。まぶたの上にごくごく小さなほくろができていて、気付いた頃には僕の一部となっていた。ハローニューフェイス。彼はシャイだからそっとしておきな。どうせ前の彼女に振られたんだろう。それよりどうして最近前髪が長いんだろう。足の爪と前髪が競い合って背伸びしてるみたいで、やたらに伸びる。襟足はやや遅れをとっている。新しいマウスを買おうと外に出たけれど近くの電気屋はいつの間にか潰れて大手洋服ブランドになっていると誰かが呟いていた。じゃあ栽培でもしますか。明後日にはまた新しい月が出てくるそうで、今僕が首ったけのビニール袋だってそのうちリサイクルの円環に吸い込まれて気付けば公園の遊具になっているんだ。彼らの家はいつも汚い。蜘蛛を飼わないのがいけないんだ。ゴキブリの幼虫は彼らの餌になるというのに。無知って怖い。何をしなくとも退屈な時間は忍耐力を促進します。ここまでこの文章に目を通せたあなたは素晴らしい精神の持ち主です!紙袋が電話番号教えてだってさ。せっかくだから付き合ってやってくれない?頼むよ親友。後で使い古しのビニール袋もやるからさ。

3年前 No.33

青煙 @bluehaze☆dew2swC2MwM ★2HGCYPNNxl_Ieh

モーテルの寂れた窓から曇り空を見上げると、遠くに小さく赤いものが漂っていた。地上ではぴたりと風がやんでいたが、どうやら向こうはよく吹いているようで、丸い風船がふらふらと飛んでいる。それを目で追いながら、ブラッフは手に持っていたコーラ瓶を開けた。金属のふたを親指ではね飛ばし、ラッパ奏者の様な格好でごくごくと一気に飲む。強炭酸が喉をかけて、胃までまっすぐに流れ落ちた。赤い風船はちらちらと雲間を抜けながら、やがて高層ビルの向こうへと消えていく。さよならレディと口ずさんで、彼女の後姿から目を離した。窓に背を向けると、視界の正面に開け放たれたドアが映る。その先の廊下に、うつぶせになった死体がひとつ、ふたつ。ブラッフは踊るような足取りで廊下に出ると、左手と足でドアを閉めた。右手には飲みかけのコーラ。まだ中身は残っているようで、動くたびにちゃぷんと水音がする。足元の死体はぴくりとも動かず、ただ行儀良くうつぶせになっていた。子供みたいだ、とブラッフは思う。俺のことを夜回りに来た父親だと思ってるんだな。「息子よ、起きてるのは分かってるぞ!」笑いかけて、コーラ瓶を枕元に置いた。俺は時限付きサンタクロースなんだ。通りすがりの亡霊にそう言って片目をつむる。ちゃんと煙突から入ってきたさ。疑うなよ、お前だってまだ夢を見たいんだろう?サンタクロースなんていないって言われたら、誰だってへこむよな。じゃあ、自分が良い子だって証明するにはどうすればいい?プレゼントがなければ基準を見失うんだ。分かるよな?お前も、そう思うよな?亡霊はうんとも言わずにそのまま横を通り過ぎていく。きっとこいつもシャイなんだろう。身体が無くなってだいぶ経つのに、見せる顔がないってまだくよくよしてるのさ。ブラッフは気にしない。人生において寛容こそが大切だと知っているからだ。廊下は左右にのびていて、その先は夜の闇に呑まれている。まるで蛇の腹の中か、ブランケットの内側のようだ。どちらに行こうかと迷いながら右往左往して、死体を七回跨いだところで、ブラッフは行き先を決めた。「レフトだ」自分に言い聞かせながら、廊下を進む。死体が後ろに遠ざかる。コーラ瓶が背中を見つめている。窓辺から離れて、離れて、そうして誰もいなくなった。静かな廊下。深夜のモーテル。どのドアの向こうにも人の気配はない。……きっかり2603秒経ったところで、駆け足でブラッフが帰ってくる。彼はトレンチコートに身を包み、頭にドレッサーを被っていた。「誰だ!こんなことをしたやつは!」死体を見るや大声をあげて、あたりを隙なく見渡す。誰もいない。そう、ブラッフを除いては。「こいつは…」死体の前に屈みこみ、傍らのコーラ瓶を拾い上げた。中を確かめ、おそるおそる匂いを嗅ぐ。コーラだ。見紛うことなき炭酸飲料。意を決して一口飲めば、まだ抜け切っていない炭酸が喉を潤す。「犯人のものなのか?」気難しい顔で、ブラッフは考え込む。瓶の中でコーラがゆらゆらと揺れている……。視界の正面には閉ざされたドア。そっとノブに手を伸ばせば、「…鍵が、かかっていない?」慎重に、用心深く、注意して、ドアを押して開く。ああ、その向こうには見慣れた窓。モーテルの寂れた窓に広がる、この曇り空!そこで堪らず、ブレッフは腹を抱えた。弾けるように笑い出し、窓から身を乗り出す。「はははははははははははは!!!!」誰もいない夜明け。目覚めることのない子供。俺は自由だ。俺は、誰にも、縛られない。誰も、俺を――。

3年前 No.34

青煙 @bluehaze☆dew2swC2MwM ★2HGCYPNNxl_Ieh

秋風が吹き始める頃だった。夜中の散歩を日課としていた「」が、ふと玄関のドアを開けたとき、ぐらりと頭の中の何かが揺れる感覚がした。ドアの取っ手に手をかけたまま、小さく首を傾げる。ジェットコースターで落ちるときの様な、奇妙な浮遊感であった。しかし、いったいどうしたんだろうと考える間もなく、その感覚はすぐに消える。「」はあっさりと疑問を消し去り、普段どおり戸締りをして自宅を後にした。「行ってきます」と誰に言うでもなく呟く。染み付いた習慣というのは、なかなか消えないものだ。・・・夜の町は、静かに風の音だけを鳴らしていた。薄く広がる雲が、ただでさえ少ない星星をさえぎっている。人気のない商店街。固く閉ざされたシャッターが、風に揺れてガタゴトと音を立てた。夜の風は、秋らしい冷気とすこしの湿り気を帯びていた。ジャンパーのポケットに両手をつっこんだまま、ただぶらぶらと歩く。昼間のことや、ずっと昔の記憶、いつか見た夢の繰り返しが、脳裏にかわるがわる蘇った。・・・今朝の朝食はハムエッグとトーストであったが、そろそろブルーベリージャムが切れそうなので明日の朝はクロワッサンにしようか、そういえばジャムを食べると目が良くなるという特集を昔ラジオで聞いたことがあったな、あれはどうせ納豆とかネギとかその系統のいわば一種の流行なのだろうが、はたして根拠は何だったかもう覚えていない、あのラジオを聞いたのはまだあいつと同棲していたときのことだった気がするが、そういえばあいつは今どこで何をしているのだろう、つい先日も夢に出てきたがそこでは実家の農家を継ぐといっていた、まあ彼の実家は本当は農家ではないのでその夢は正夢になりそうにもないな、農家といえばいつか観光牧場にいこうと思っていたのに今年の夏も行かずじまいになってしまった、今から行くにしても一緒に行く相手がいないのだからやはり来年まで先延ばしにするしかないだろう、そもそも紅葉狩りだって行かなかったのだからもう季節の行事など馬鹿馬鹿しい、いっそのこと今年はこのまま季節感のない一年として締めくくってやろうか、ああでも、年賀状だけは書かないと心配されてしまうから少なくとも葉書を書くのはやめないでおこう・・・云々。と、そこでまたぐらりとした。貧血なのだろうか。しかしこれまで貧血になったことがないので分からない。ひょっとすればこういうものなのかと考えるが、目の前が暗くなったりするようなこともないので、いささか怪しい。先程とは違い、ふわふわとしたその奇妙な感覚はしばらく続いた。ぐらぐらと身体が前後に揺れる。視界を水平に保とうと頭の後ろに手をやったが、依然として感覚は消えることなく、まるでこの世界そのものが揺れているような感じがした。その場にしゃがみこみ、地面に手の平をあてる。遠くから電車の通る音がかすかに聞こえてきて、自分が少しずつ冷静さを取り戻していくのが分かった。揺れは次第に小さくなり、数分ほどですっきりと消えた。今日はもう帰ろうか。ふと夜風に寒さを感じて、こっそりと胸のうちで思う。そうしようときびすを返し、そのまま家のある方角へと歩き出す。ほどなくして自宅の前に到着すると、なにやら辺りが騒がしかった。近隣の人々が集まりなにごとかを盛んに騒いでいる。パトカーのランプが赤く断続的に家々を照らし、野次馬の面々に好奇心と不安を浮かび上がらせていた。ああ、あれは見まがうことなき我が家ではないか。人ごみを掻き分け、玄関へと向かう。きちんと閉めたはずなのに、ドアは大きく開かれていた。青いシートをくぐると、目の前に人が倒れ伏していた。なんということだ。これは――「私」ではないか。ああ、まったく。道理で安定しないはずである。これはいけない。慌てて元に戻ろうとするも、いまや遅し。「私」を失ったこの「」は、通り過ぎる秋の風に吹かれて、ふっと揺らめき、・・・。

3年前 No.35

青煙 @bluehaze☆dew2swC2MwM ★2HGCYPNNxl_pDw

なんでもかんでも罪に結びつけるのはお前の悪い癖ですよ。なにも原罪だけが動力じゃないでしょうに。もっと世界を広い目で見なさい。いいこと?私の知っている小母にもお前のような娘がいたけれど、彼女はもっとずっと器量が良くて、葬式には必ず下着まで黒一色でやってくると言いますわ。それに比べて!お前ときたら年から年中よくわからない仲間たちと享楽にふけって!数学が何ですか!熱力学?馬鹿馬鹿しいったらありゃしない!いいですか、そういう学問とかいうものの類は、この世に生を受けて、耕すべき畑とキャベツの種を受け取りそこねた人たちがするものですよ!そりゃ……お前はたしかに器量は悪いしたいして賢い子じゃないけれど、畑とキャベツの種なら、私とお前のお父さんがたっくさんもっているからね。お前はそれをありがたく受け取って、ただ育てればいいのですよ。…それが、なにをまあ!どうしてこうなってしまったのかしら?ねぇ、私、お前には絶対に見せないようにって、あらゆる初等教育の教科書を暖炉に投げ込んだはずなのに。…え、何。火が入ってなかった?だから何だというのです!暖炉なのだから火があってもなくても同じでしょう!あぁ、やだやだ。どうしてお前はそんなに口答えする子に育ってしまったのかしらね。暖炉に火がないですって!それでも燃えないなんてことがありますか!だって、そうしたら、暖炉の絵を御覧なさいよ!あの絵に描いてある火がぱちぱち爆ぜているのだって、嘘という事になるじゃありませんか!あぁ!馬鹿馬鹿しい!!ほんとうに、まったく!……いいこと。これはお前のためを言っているのですよ。明後日にはデヴュタントになるのですから、少しは年相応の行動をしていただかないと困ります。お願いだから、これ以上私を困らせないで頂戴。いいですか?……そう。そう。そうよ。私だって、なにもお前の全部が全部悪いだなんて言ってないのよ。身体はしなやかだし、その髪型さえなんとかすれば、小母の娘さんにも負けないくらい黒い下着だって似合うでしょうに!お前がちゃんとしようと思えば、貰い手なんて1億千万でもくるものです。……あぁ、またそういうことを言って!お前はどうしてそう頑なにこの家に留まろうとするのかしら。まるでこびりついた胡椒みたいに、いつまで経ってもこの家を出ないおつもりなの?…違う?なにが違うというの?だって、誰のお嫁さんにもならずにこの先どうやって家を出るというの?自立?まぁ、まぁ!なんてこと!お前、またその話を持ち出そうっていうのね!それはもう何度も駄目だとお話したでしょう!聞く耳も持ちやしない……!いいこと?一人でお家をでるだなんてね、ネズミかハエのすることですよ。人間はみな二人で一緒になっているの。貴方も家をでるときはきちんと男の人と一緒にいてもらわないと。一人で出歩くなんてね、そんなの風に吹き飛ばされる紙くずのようじゃありませんか!あっ、待ちなさい!まだお話は終わってないわ!ちょっと、どこへ行くの!ねえ!!!痛いっ!噛みつくのはおよし!!このっ!!……お待ちなさいったら!!……何。かえってきたのね。そう。お手洗いに?いいわ。どこへでも行きなさい。ほら。……お前はどうしてこんな風に育ってしまったのかねぇ。まるで顔は犬のようだし、四足で歩くは吠えるわ、おまけに尻尾まで生やして!お願いだからせめて服だけでも身に着けてくれないかしら?お前を後ろから見ると……その、ねぇ。ああ、もう、私はお前が心配でならないよ。この先どうやって生きていくつもりなの?私やお前のお父さんだって、お前より早く死ぬかもしれないというのに。…いいわ。もうこの話はおしまいにしましょう。お腹が空いたのね?今骨付き肉を持ってきますから。……お座り!

2年前 No.36

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2年前 No.37

青煙 @bluehaze☆dew2swC2MwM ★2HGCYPNNxl_2tE

私のこと、もっと好きになってヨ。黒猫のように甘い声でしな垂れる鰹節。削った。どうもももみいなさまままこんにちはああああ。私はああああ白猫にいいいございますうううう!!煩い。物音×2。大変ですマスター。私の下腹部がもう洪水なの。愛して(はぁと)。無視した。窓から外へ!回転寿司のイクラを蟹がはさみで取ろうとするものだから、ぷちぷち、ぶちゅう。汚いですね。おなかが空いたあなたにはアイスバーと蒲鉾をどうぞ。頭からもりもりもり。デリシャスルー。ミルクチョコレートでコーディングしたカプセルを開くと、中からぱか!同じ顔のヒヨコが次々に出てくるの。美味しいけど喉が渇くね。死亡と塔でできている。食欲の春秋冬。夏は来ない。明後日は生物化学の中間試験だけど誰も認識してないからたぶん嘘!先生の顔を忘れればこの世から存在しないのと一緒だよね?実存?そろそろ遊びにも飽きたでしょって言ってみるのがマイブーム。飽きてないよほうら。ところでみなさまシートベルトの装着をお忘れなきよう。これから裂き地獄まで急攻下いた死鱒。さようなら生物化学教授(年齢不詳)。私の中身を台所に置いておいたので、食べるときにチンしてね。母より。こんな愛の込められた手紙を受け取ったのは何年ぶりでしょう。私は感動して涙が張り裂けそうになりました。それからベランダへと母の肋骨を抱えてかけ上がり、そのまま窓からお隣さんの庭へと放り込んだのです。ばらばらと散らばった母の亡骸は、まるで嵐の野山に落ちる枝のようでした。私は猿の真似をしてケタタマシク鳴きながら、その場を後にします。押入れには去年作ったままの弟の骨格標本がございましたから、それをこの機会にお披露目しようと思ったのです。それはもう自信作の中でも自信作、私のような素人が作ったとは思えないような、素晴らしい作品でございました。自分で言うのもなんでしょうが、白い骨に耳を当てますと、海辺の音が聞こえてくるのです。素敵でしょう?まるで夜の海岸を歩いているような気持ちがして、私はなにかこの世の不条理で心を強く揺さぶられたときには、ひとり押し入れに入って、弟の骨に耳を澄ましたものです。しかし生憎お隣さんは留守にしておりましたので、私のこの素晴らしい標本をお見せすることはできませんでした。私はそれから階下へおりまして、かつて父の書斎があったコンビニエンスストアーへ入りました。コンビニとはいっても、実際に店員がいて監視カメラがあるような立派なつくりの店ではありません。腐りかけのおにぎりと読み古した成人雑誌が無造作に置かれているだけの、ただの薄汚い小部屋です。そこで私はいつぞやに買ったか貰ったかして手に入れた自由帳を手に取り、こうして手記を書き始めたという訳です。自由帳には妹の名前が書いてありまして、どうやら彼女が作った詩らしき文字列が、数行ばかり記されておりました。それを消してしまうのも勿体無いので、新たにまたここに書き付けた次第です。それではそろそろ夕飯の準備を致しましょう。犬が吠えてうるさいもので、はやくご飯をやらないと。では、また。

2年前 No.38

青煙 @bluehaze☆dew2swC2MwM ★2HGCYPNNxl_uyQ

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2年前 No.39

青煙 @bluehaze☆dew2swC2MwM ★2HGCYPNNxl_uyQ

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2年前 No.40

青煙 @bluehaze☆dew2swC2MwM ★2HGCYPNNxl_0Ml

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2年前 No.41

青煙 @bluehaze☆dew2swC2MwM ★2HGCYPNNxl_cPe

椅子が1つ、部屋にある。あなたはそれに腰掛けている。座り心地はけして良くないが、体勢を変えることは難しい。あなたの身体は頑丈なロープで椅子に固定されているのだから。猿轡を噛まされているが、さいわい目は隠されていない。周囲を見るかぎり、部屋にはあなたひとりのようだ。あなたは3〜7分ほどもがき、疲労した。それから再び身の回りを観察し、自分の足元を見ようと首を伸ばした。つま先に何か触れるものがある。苦労して下を見ると、小さな鍵が落ちている。この部屋の中に鍵のかかっていそうなものといえば、1つしかない。あなたは目を上げて、ちょうど真正面にある扉を見つめた。あなたが縛り付けられている椅子は、四方のどの壁とも遠く、扉には届きそうにもない。それ以前に、あなたは足元の鍵に触れることすらかなわない。あなたはもごもごと何ギアしかを呟き、目を閉じる。誰か……。10〜14分が経過する。あなたはふと、遠くから足音が近づいてくることに気付く。耳を澄ませば、その足音は次第に扉の向こうからこちらへとやって来て、まさにこの部屋の前で止まる。あなたは無意識に息を殺す。一体誰だろうか。犯人に違いない。どきどきと鼓動が耳を打つ。そうして待つこと2〜3秒、とうとう扉の開く音がする。かちゃりと軽い音がして、扉にかかっていたらいし鍵が開けられ、部屋になにかが入ってくる……。あなたは目を丸くした。それは大きなシロクマである。しかしあの動物園にいる、ほんもののホッキョクグマではない。白いおおきなぬいぐるみが、あなたの目の前に立っている。背中を少し丸めて、シロクマはじっとあなたを見下ろしている。あなたはもごもごと、相手に助けを訴えた。シロクマは頼もしくも、おおきく頷きかけ、あなたを固定する椅子に手をかける。しかし、きぐるみのやわらかい不自由な手では、縄を解くのは容易ではない。シロクマは悪戦苦闘して、ついにそれを諦める。代わりにあなたごと椅子を持ち上げて、肩に担いでもっていこうとする。あなたは驚いて抗議するが、シロクマは動じない。そのままずんずんと扉の前へ進み、晴れてあなたは部屋のそとに脱出する。そこで目が覚める。起きた場所はいつもの場所だ。ようするにあなたの寝床……自分の部屋であり、会社のデスクであり、部室や、親と共同の部屋の片隅だ。あなたは目をこすり、近くに放ってある携帯で時刻を確認する。午前1字。あなたはあくびをして、ふたたび夢の中に落ちる。――未だ、椅子の上に縛られたまま。

2年前 No.42

青煙 @bluehaze☆dew2swC2MwM ★KtLm8oc50H_vN9

夢を見た。/ホテルの一室。/朝起きると、頭に幽霊ヤドカリがついている。/通りすがりの神父がタロットカードをくれた。/おそらく良いほうなのだと、自分で結論付ける。/ホテルの支配人は、ヤドカリを許容する。/でも……どうしよう。/夏休み。母親からの仕送り。/配達すら受け取れない。家に送り返される小包。/どうすればいい?/免許合宿。2週間。もう始まってるのに……。//バスタブに水を張って、中に入る。/水面にうつる影。/ヤドカリの中身は空っぽだ。/ガラスのように透けている。/幽霊だ、と思った。//「母さんへ/ ***を送ります/ 心臓はきれいでした」//実家。/干からびた鉛色の心臓。/よく見ると青みがかっていて、大きな貝殻みたいな。/「……綺麗じゃないわね」/母親の呟き。/そうだね、と弟はあわびを剥きながら頷く。/従順な家庭は、裏がありそうな。/兄のヤドカリに、家族は、まだ気付かない。

2年前 No.43

青煙 @bluehaze☆dew2swC2MwM ★g1xrWHheST_iCW

少しずつ嘘が上手くなる薬を飲んだ。わたしは正直者だから、少しでも本心を隠そうとすると、顔に出てしまう。それがあまりに不便で、また大人げないと感じていたのだ。薬は一日一錠服用するだけでよい。副作用など気にならないほどに、値段も効果も良心的であった。わたしがまず第一に騙そうとしたのは、自分の母であった。彼女はいつもわたしを見ている。わたしが仕事でなにかつまらない失態をして、給料をもらえなくなるのではと危惧している。わたしは働いてなどいない。ただ息をして、この部屋のなかで住まっている。なのに母親は、わたしを働き者だといい、またその一方で正直者で騙されやすいという。わたしは母に仕事の話をした。今日これこれの書類をつくり、同僚のだれそれとこんな話をしたのだよ、と。そんな作り話をしてみせた。母はわたしの話を信じた。次にわたしが騙そうと考えたのは、わたしの姉だった。わたしの姉は変わった女性で、いつも庭先に植えた西瓜と話をしている。彼女にとって、あの西瓜は「旦那さま」だそうだ。荷風もこんな女性がいるとは、世にも思わなかっただろう。ある日の折、わたしは姉に話をした。自分に想う人ができたのだよと。職場の同僚で、名前はせつこ。料理がとても上手で、とくに南瓜の煮付けがうまい。それにわたしは惚れたのです。姉はたいそう喜んで、うちの旦那もあなたのこと心配していたのよ、と優しく笑いながら話した。姉はわたしの嘘には気が付かなかった。次にわたしが騙そうと考えたのは、わたしの飼い犬であった。犬にごはんをやるのが唯一のわたしの楽しみだったか、ある朝、わたしは犬にこう云った。もうお前は人間になったから、お外で働いてきなさいと。犬はわたしの言葉を疑うそぶりもなく、おとなしくこの家を去って言った。夜になって帰ってきたところ、玄関口で出迎えてみれば、犬が口になにかを咥えている。わたしはそれを見て、ははあとうなずいた。それはわたしの本心であった。よくやった、と頭をなでてやってから、わたしはわたしの本心を元通りにしまっておくこととした。それより、わたしはまた正直者として生きている。

2年前 No.44

青煙 @bluehaze☆dew2swC2MwM ★g1xrWHheST_iCW

朝、洗面所へ行くと、ちっぽけな黒い蜘蛛が石鹸のうえにいた。「ああ、これは私だ」。私は咄嗟にそう思った。鏡で自分の顔をみて自分だと分かるように、私は目の前のちいさな蜘蛛を見て、それが己であると瞬時に理解した。私はすかさずフェイスタオルを広げ、彼をつぶさないよう細心の注意を払いながら、そっと包んだ。やわらかな生地の上で、蜘蛛は這い回ることもなく、飛んで逃げるそぶりもなく、ただじっと動かないでいた。私は顔を洗って、パジャマの袖で拭うと、ふたたびタオルを手に取った。そして蜘蛛をのせたまま、洗面所を後にした。パジャマから着替え、身支度をすませて、アパートの扉を開く。蜘蛛は、空いていたジャムの小瓶に移しかえた。中に少々の塩を入れて、私はゆるく蓋をした。蜘蛛はあいかわらず、身動ぎもしなかった。空はよく晴れていた。朝の空気はみずみずしく、緑の街路樹からは夏の薫りがした。私は帽子を目深に被り、そのまま通りに沿って歩き出した。この時間帯にしては、人通りは少ない。おだやかな気持ちで、私はぶらぶらと散歩することにした。しばらくして、公園についた。ここを訪れるのは数週間ぶりである。私はみごとなトネリコの木の下で、ベンチに腰掛け、上着のポケットから小瓶を取り出した。蜘蛛はまだそこにいた。細い八本の手で、数粒の塩を抱きかかえ、こちらを見上げていた。私は蓋をあけると、ゆっくりと瓶をさかさまにした。手のひらに蜘蛛が落ちる。黒い目が、じっと私を見上げている。私はしばらく眺めたあと、静かに握りつぶし、手のひらに息を吹きかけた。彼と私の亡骸を、風が運び去っていった。塩を払い落とし、私は立ち上がった。押しつぶされそうな重責にかられて、アパートへ帰る。瓶をもとどおり戸棚にしまうと、もうやることはなかった。ベッドに腰をおろし、窓の外を眺める。ガラスの向こう側では、退屈な夏が、ゆっくりと過ぎるばかりであった。

2年前 No.45

青煙 @bluehaze☆dew2swC2MwM ★g1xrWHheST_iCW

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2年前 No.46

青煙 @bluehaze☆dew2swC2MwM ★g1xrWHheST_iCW

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2年前 No.47

青煙 @bluehaze☆dew2swC2MwM ★5rzELrAZYt_G29

小指の骨を痛めたとき、わたしは引き寄せの法則を察知した。しかしそれはこれから起こる吉兆ではなく、既に起きたことの結果に過ぎないことも、また分かっていた。したがってわたしは何もせず、ただ薄いテープで左手の小指を固定した。その夜、湯船からあがったわたしの小指は紫色に腫れあがっていたので、この数日間がいかに幸福であったか、わたしは再度確認することができた。わたしの朝食は一つの法則に基づいて信仰される。デスクの上で南向きに置かれたペンギンの置き物(彼は明らかに私を崇拝している狂信者だった)がわたしの起床を見守り、その隣で斜め65度(これはわたしの運命数ではない)に傾いた骸骨のフィギュアが、わたしの召し変える様子を畏敬の眼差しで鑑賞した。それからわたしは静かにベッドから降り立ち、洋ナシ柄のカーテンを引いて朝の光を迎え入れる。外ではまだ日の光がおぼつかない足取りで、真新しいポルカを踏んでいる。やがて卵焼きの気配を感じると、わたしは自らの胃袋に征服されるべく、朝食の待つ階下へとさらに歩を進めるのだ。さながら騎兵のように威厳を保ちながら、脳裏に昨晩か今朝みた夢景色を思い返す。それは例えば巨人になって野原を踏みならす体験であったり、お隣の犬が婿入りしてくるといったささいな非日常のダイアリであった。朝食のメニューは決まって砂糖をふんだんにつかった果物が組み込まれている。砂糖漬けの果物はわたしの心臓、胃、そして右脚を刺激し、それを素早い手つきで持って口に放り込むことが、朝食の合図である。銀のトレイとして用いられるのは、その時々によって異なる。ある時はじゃがいもの入っていた麻袋であったり、またある時は数学の試験問題が書かれた紙であった。わたしはこれらを吟味し、今日の朝食にふさわしい器を注意深く選出した。これらの儀式を終えると、わたしは再び階段を上がり、自室へと帰還する。その凱旋を楽しむのに必要な時間はほんのわずかで、階段の中ほどにある小窓が、わたしの横顔をまばゆく彩った。その後は決まって昼すぎまで、高等数学や量子力学に思いを馳せ、机上に置かれた群衆(彼らは皆リスボン土産のスノードームに住んでいる)へ本日の議題について朗々と講義するのであった。小指の怪我はやがて捻挫であることが判明し、七日間ののちに復活した。

1年前 No.48

青煙 @bluehaze☆dew2swC2MwM ★5rzELrAZYt_mwG

机の上はしんと静まり返り、手のひらをあてて見ると無機質な冷たさが伝わってきた。これは冬将軍の座卓であるとかの麗人が私に告げる。私はそれを否定せずに入られなかった。しかし、権力の均衡は北国に大きく傾けられており、その情勢を鑑みれば私が極刑に値するというのもまたひとつの道理であった。私はそれに従うことで大きな鷲となり、夜空を舞う雲に紛れてかの国へはせ参じた。そこにはかつて愛した女の持っていたぬいぐるみが住んでおり、私の到着を迎えるやいなや、私に彼女を捨てたことの謝罪と懺悔を迫った。私はそれを拒まずに入られなかった。しかし、この冥府での均衡は無機物にのみ認められていたから、もはや魂ほどの重さももたない私が極刑に値するというのも、またひとつの道理であった。そうして私はふたたび現世へと舞い戻り、小川をおりる小さな笹船めがけて着地した。笹船はこの奇妙な無銭乗客を拒むことなく、代わりに虹色の馬車がおとす影のもとまで連れて行ってくれた。私は岸にたつと、笹を千切ってあたらしいメイドエプロンをこしらえた。馬車に乗るのにみすぼらしい格好ではいられなかったのだ。いわば灰かぶりと同じ、自分を美しく見せたいという欲求である。そんな私の努力もむなしく、長いこと影を地上へおとしていた虹色の馬車は、そのままY軸に沿って上昇し、やがて影は小さくなっていき……残ったのは机ほどの大きさの、私の未練であった。

1年前 No.49

青煙 @bluehaze☆dew2swC2MwM ★xumzjp6Tt4_c1Z

あれから八か月経っても現状は変わらず、干上がった河川のように停滞した景色が横たわっているばかりであった。私は窓から吹く風の寒さに身を震わせ、四角い画面の向こう側を覗きながら、そのさらに奥へ広がっている無限大の宇宙へ思いをはせていた。あぁしかしすべて幻なのだ。私は胸の内に嘆息する。誰も抱いてくれないこの痛みを抱えるのは、ただ薄っぺらい胸板でしかなかったのだから。しかし、多少甘い菓子でも一口かじればたちまち私の憂鬱は晴れやか、跡形もなく晴天となるのだろう。分かっているのは二つの事柄と有象無象の言い訳とそれらに対峙するように、ずぅんと頭上に重くのしかかっている明日への渇望だった。生きることはたとえ人生100年足らずといっても難しく、まだその半周も終えていない身としては、この先はほぼ無限といっても差し支えない。私は様々なことを思い返した。寒さを紛らわすため、マッチをするために。思い出した事柄をここに書き連ねるのはあまりに不躾なので(社会勉強の途中であるゆえ私はマナーに敏感である)代わりに今手のどとく範囲にあるものについて書こうと思う。ひとつ付き合ったその日に別れた彼氏から貰った文庫本。題名省略。ひとつ充電が終わったというだけで電源から無残にも引き抜かれ、まるで取り出された臓物のようにイヤホンを絡めている音楽プレーヤー(生産中止中年男)。ひとつ速攻口腔内清涼10分持続という文句の書かれたタブレット菓子の入ったアルミケース(私はこれをダイエットサプリを入れるためだけに購入したが、中身を食べきるに至らず今に至る)。ひとつチラシとちり紙数枚束。(新宿駅ではさかんに配布されている不動産のもの。私には到底関係のない事柄について写真付きの解説が簡潔に記されている)。ひとっつごみ袋。(中には昨日飲んだ酒の空き缶とつまみの空袋)。ひとつ怠惰な心(心という言葉すらもおこがましい、葛だ屑)。ひとーつ働かない頭(錆びついているご様子。いえーい)。ひとっつー虚無感。(何も成し遂げていないのだから達成感皆無。やることやってから死ね!)。これ以上のレシート用紙がないので今日はここまで。ちなみにあと20文字続ければ900字に到達するらしいのでこの文章を付け足す。全920文字![EOD]

10ヶ月前 No.50

青煙 @bluehaze☆dew2swC2MwM ★EMITWkaITf_gaI

そうしてまた八か月が経過した。私の左手は既に腱鞘炎にかかっていたし、右手も打鍵するたびに金属音を奏でているような錯覚。そういえば明日は日曜日だ。絶望的に少ない休日が私はどうしても好きにはなれなかった。零ではないことの鬱陶しさと煩わしさがある。私はどこかで自分の空腹について考えながらこれを書いている。季節は夏。台風が過ぎ去ってから気温は再び真夏日を取り戻し、窓の外から見る青空は雲一つない。暑い。気づけば私はまた他のことを考え始めている。頭の中ではリンキン・パークの何かが流れていた。彼の曲はどれも映画のエンドクレジットを連想させ、つまりは似通っているので、アルバムの始まりから終わりまで聞いてもどれがどれだか判別つかない、と私は常々思っている。今日何をすべきかということは一度も考えたことがなかった。なぜなら今日が土曜日でまだ零に等しいながらも零とはいえない休日の第一日目だからだ。例えば信心深い人を装って教会に行くにしても今日は主日礼拝ではないのだから、やはり何かすべきことというのは私に課せられてはいないのだ。だからどうという話でもない。これはただ垂れ流すだけの文章で、垂れ流すだけの人生だった。私は小説を書きたいと思いながらも、こうした駄文を書いてばかりの人生だった。目下私の目標はこの文章を少なくとも1000文字以上書くことである。これが私のライフログの代わりになるのだ。出会った人、見た景色、行った仕事、どれについても一切記載がないが、今この瞬間考えている私の思考をそっくりそのまま切り取ることで、私はいつかこの文章を読み返したとき、ここにありありと今感じているものを復活させることができるだろう。とはいえ、それに何の意義があるのかと問われれば、私は無であると答える。そもそも現代日本いや、現代は地球ごと記録に溢れかえっている。インターネットを介して私たちはいくらでも無限の記録を見ることができる。理解できなくとも、そこにあることを知っている。そのいくらかは時間とともにサーバーとともに、消え去っていくだろう。しかしそれを上回る恐ろしいほどのスピードで、今日もまたおびただしいほどの記録が吐き出されているのだ。そう、これもその一つ。どこかの誰かが見つけるかもしれない、無限に存在する記録・記憶の一つだ。だから何とも思わないけれど、こうして外に発信することが楽しいと思うのは、誰だって顕示したい何かを持っているからなのかもしれない。いや、何かが存在していなくても、顕示するという行為そのものに意味があるのだ。いや意味はないけれど、快感があるのかもしれない。(鮮やかな感覚とは程遠いから、この言葉はあまり適切ではない)。左記の句点までで私は1099文字を費やした。生み出した。並べ立てた。これで私の顕示欲はだいぶ満たされていることだろう。私はまた別のことに向かって思考を走らせる。そろそろ昼ご飯の時間だった。外は相変わらず猛暑日で、セミの声がノイズのように遠く響いていて、うだるような夏の景色が広がっている。だからこそ、私はこの中に文章を書かなければならない。夏は80回ないしは100回しか来ないのだから。平成の夏は今年で終わるのだから。何かが終了するというのは、どうしてこんなに切ないんだろう。二度と手にすることのできない事実が、どうしてこんなに悲しいんだろう。私が思うに、厳密には繰り返しなど存在しない。今日食べたものと昨日食べたものが同じでも、そこに存在した時間は異なる。分子レベルに同じ現象とはありえないのだから、やはり、時は一方にしか流れないのだ。すなわちいつだってこれが最後の瞬間で、どんなものも今回で終了なのだ。2回目など存在しない。2度あることも、3度あることも何一つない。そんな一度きりを大量に積み重ねて束ねたものが、時間なのだと私は思う。そう考えると、少しだけマシな気がした。何がどうと説明することはできないけれど、寂しい気持ちを多少は和らげることができる。一度きりしかないものを私は悲しいと思うけれど、二度あるものなどそもそもないのだから、やっぱりいつまでもそれについて考えるだけ無駄なのかもしれない。ゆえに、私はこの文章を吐き出し続けることを「終了」し、次の行為について取り掛かろうと思う。

2ヶ月前 No.51
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