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掃き溜めで笑えりゃいいけどさ。

 ( 書き捨て!小説 )
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☆TFByO.hAqE8n ★iPad=vDNdBHTRdS

【獣の民】

「我ら、魂響の民なり」

そう言った少女は、目を開いた。その瞳は黄金で、縦に割れている。
傍の狼は、ただ黙ってこちらを向いている。

「たま、ゆら?」
「人々は、そうは呼ばぬ。そうだな、こう言えば分かるだろう?」

少女は、半ば楽しげに、そう言い切った。そして、小さく息を吸うと、ニィ、と笑う。

「獣の民」

その声に、俺は小さく息を飲んだ。
なぜ。
なぜ、流浪の民が、この場所に。

俺の焦りをよそに、少女は立ち去って行った。

「なんだ、ったんだ……」

膝の力がぬけて、地面に尻をついてしまう。緊張の糸が、切れた瞬間だった。



5年前 No.0
メモ2016/03/19 20:31 : 黎☆TFByO.hAqE8n @reimei★iPad-vDNdBHTRdS

誰か解ら無いけれど、いいね14、有難うございます。


1.物語の始まり。>>212

2.廻らない時計の中で。>>36

3.砕けた硝子の欠片。>>213

4.名の無い王様に捧げる。>>95

5.崩壊する夜明けと共に。>>139

6.灰被姫の過去にさよなら。>>140

7.後悔と宵闇の波に告ぐ。>>209

8.蔦と書物が空に融ける。>>242


【KILL】設定資料

>>27>>28>>29>>34


【ホシハチカヘ】設定資料

>>45>>46>>49


【オリなりスレ案】設定資料

>>82


【虹色の季節】

>>80>>83>>93>>110


【橙色の約束】

>>133>>136>>137>>138、それと>>144


【カノン】

>>147>>148>>152


【愛する君へ捧ぐ】

…続きを読む(16行)

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@reimei☆TFByO.hAqE8n ★iPad=vDNdBHTRdS

知ってるよ、知ってる。
私、そういう知ったかぶり嫌いな筈なのに。そうやって言われて安心したことがある。何時だったかな、中学か、もっと前か。とにかくまだ私がまだちょっとばかしやんちゃで、口が悪くて、思春期に入りかけのくらいで、まだ色々知らないことだらけで、でも中途半端に世間を知り始めた頃。
男子とも女子とも、仲良く話せるのはあの頃から変わん無いな。地味で目立た無いから、嫌われることも多分なかったと思うし。女子とは仲良かったし、男子だって別に特別嫌いじゃなかったし。まあ今でも嫌いじゃあないけれど。私自身陰口は嫌いだったから、そういう面倒な話もなかったのかな。勉強は、嫌いじゃなかった。強制されるのは嫌いだけど。だからテストとかも好きだった。自分の実力が点数という形で簡単に出るのは楽しいし、頑張らなきゃって思うきっかけになる。その結果が国立大学だけど。ま、今じゃこんなしっかりした職について……ていうか、夢叶えれて良かったなって思うんだけどね。
でもまあ当時は私、いろんなこと考える様になってたけど……あ、やっぱり中学だよ、うん。何年生かはわかん無いけど。話し相手と仲良かったの中学の時だけだった。まあ小学校でもクラス同んなじこと何年かあったけど。
でね、好きと愛の違いについて語ったわけ。そもそも動詞と名詞の違いがあるのだけれども、その他にもそれに含まれる意味やニュアンスを自分で定義すると良いっていう話をしたのね。で、どう話が変わったんだか知ら無いけれど、恋愛の話になって。私は当時まだ恋なんぞしてなかったもんだから、女子と話して居る時も恋愛話になったら聞き役に徹してたんだけれど。まあそれは今だに変わらんけど。
んで、私がさ、当時はそもそも恋がわかんなかったわけ。だって、周りは皆……まあ、皆ってわけでなかっただろうけれど、恋をしてて、誰それが好きだの、誰それが付き合ってるだの話が盛り上がったりする時期だったから、ちょっと疎外感もあったし。好きって何かなって、思ってた。だってね、友達に対するのと、何が違うのかな。付き合った2人を見ても、友達の時と何かが変わった様には見え無いし、場合によっては距離が生まれることだってある。面倒臭いだけだし、それならいっそ、友達として仲良くしてれば良いじゃない。何も恋をする必要なんてない……ってね。
でも話し相手はさ、好きなやつ居るんだって。何度か恋人も作ったりしてた。でもそいつさ、しってる、知ってるからって言うの。お前は何を知ってるんだって思うじゃない。でも、何と無くそれで安心しちゃったんだ。
なんかさ、理解してくれたんじゃなくて、もともと同じなんだ、同じだったんだって言われた感じ。恋なんてわかんないし、だからちょっと怖いし、だから否定的にもなっちゃう。でもそんなのきっといつかどうでも良くなる。本当に誰かを好きになったら、そんなこと忘れちゃうんだ。自分がそうだったから、お前もきっとそうだよ、なんていうの。なんでそんなこと分かるんだよ、私まで同じとは限らないでしょって言ったら、良いやわかるよって言うの。なんでって聞いたら、自分たちは似てるからって、そう言われた。あんなやつと似てるなんて屈辱だけど、でも、安心したのも事実。だからさ、私はそいつを忘れないんだ。
暫く連絡も取ってないけど……明日、中学の時の友達で集まるの。今まで顔出してこなかったけど、久々に会うのも良いかなって。そいつも来るらしいからさ。向こうが私を忘れてなきゃ良いなって、思うんだ。
いや、そいつは友達。恋もないし、嫌いでもない。でも、大事な友達なのさ。
ああ、これは秘密ね。あいつにゃあ言えないよ。恥ずかしい。

3年前 No.215

@reimei☆TFByO.hAqE8n ★iPad=vDNdBHTRdS

そうですね、分かりますとも、なんて悪態はつきたいところだけれど残念ながら此処はパラレルの本拠地で、つまりは敵陣地で、だから仕方ないからこうして宵について帰る。ポケットに手を突っ込んで大股で歩いて居ると、よほど機嫌が悪く見えたのかパラレルの玄関から出て百メートルくらい歩いた辺りで宵が口を開く。

「安心しろ、合併はしない」
「……聞きたいのは其れじゃないんだけど」
「君が席を外して居る間のことに関しては、プライバシーにも関わるから、まだ言えない」
「なんでプライバシーに関わるんだよ。インビジブルとパラレルに関することだろ」
「そうだけれどね。……其れに関わることで、もっと面倒臭い関係があったってことさ」

なんだそれ。そんなに深い関係なんてあったのか。俺なんてインビジブル来て大して経ってないけど、それでも前々から仲がよろしく無いのは分かる。インビジブルが出来たのが約40年前。パラレルは10年前。つまり10年近くもいがみ合ってるってこと。此処暫くはそういうのも無いらしいけれど、仲が悪いのは相変わらずなのだろう。けれどその間にそれ以上の関係があるとは思えない。

「いずれ、言わなければならない日が来る。焦るな。インビジブルに関することだ」
「……それよりさ、懐はどうすんだよ。まだ向こうに」
「それに関しては話は済んだ。今日のうちに帰ってくるだろう」
「今日の、いつごろ」
「さぁ。それに関しては聞かなかったな。でも、今日のうちに帰ってこなければ

3年前 No.216

@reimei☆TFByO.hAqE8n ★iPad=vDNdBHTRdS

ちょっとだけ、話を聞いてもらえませんか。
……あああ、嘘嘘。ちょっと長くなるかもだけど、お願い、私の隣にでも座って聴いて。
如何しても、誰か全く私と関係の無い人に此の話を聴いて欲しくて、丁度通り掛かったのが貴方だったんです。私が此の町に居る間に、話さなきゃいけないんです。何って、私の好きな人の話なんですけれどね、ああ、待って、最後まで話を聴いて。あのね、好きな人の話ではあるけれど、惚気話なんかじゃ無いし、そもそも付き合うなんて絶対無理だったんだから。……ううん、彼女さんは、いなかったよ。でも、でもね、私達、違うの。
とにかく、話を聴いてください。

3年前 No.217

@reimei☆TFByO.hAqE8n ★iPad=vDNdBHTRdS

或る処に一人の男が居た。
此の男、生まれながらに善人で、兎に角誰からも好かれる奴だった。如何も其れは彼の親からの遺伝だったのか、彼の家族は皆善人だと言われた。

3年前 No.218

@reimei☆TFByO.hAqE8n ★iPad=vDNdBHTRdS

或る処に一人の男が居た。
此の男、生まれながらに善人で、兎に角誰からも好かれる奴だった。如何も其れは彼の親からの遺伝だったのか、彼の家族は皆善人だと言われて居た。そんなだから、彼は悪い事と言うのが如何もよく分から無い。何故悪い事をするのかも分から無い。何故なら彼は悪い事をした事はおろか、された事すら無かったからだ。其れは彼や周りの人間にとっては幸福な事ではあっただろうが、彼が生きて行く上で問題になるかも知れ無いと一部の人々は考えて居た。男が生まれ育った村を出て笛を吹き吹き旅に出てから10年が経った頃。其の頃には幾度か人々の悪い面を見る事があった。しかしそんな機会を経てさえも、彼は其れらを、そして其れらをする理由や心境を理解する事は無かった。
或る年の事である。彼はとある集落を訪れた。其の集落の大人は皆貪欲で冷たい心の人々だった。其れでも彼は躊躇う事無く其の集落の、驚く程金額の高い宿屋に泊まり一夜を過ごした。其の集落では或る程度成長した子供は皆、親や近所の大人に雇われ扱き使われるという。まるで奴隷の様な扱いであり、しかし出来の良い子供等は賢く金を貯め早めに奴隷生活から解放されるという。
彼はそんな事も有るのだろうか、其れで子供達は良いのだろうかと考え、大人のいない内に宿屋で働く少年に聞いてみれば、其の少年は不満しか無いが此の集落では此れが当たり前で、最早如何しようも無いのだと諦めた様に言った。けれど其れで諦められ無いのが善人たる彼である。如何にか救えないものかと頭を捻り、そうして或る作戦を考えた。


3年前 No.219

@reimei☆TFByO.hAqE8n ★iPad=vDNdBHTRdS

彼はそんな事も有るのだろうか、其れで子供達は良いのだろうかと考え、大人のいない内に宿屋で働く少年に聞いてみれば、其の少年は不満しか無いが此の集落では此れが当たり前で、最早如何しようも無いのだと諦めた様に言った。他にも色々気になった事を聞いてみたが、やはり少年の何処か諦めた様な無気力さと環境による荒んだ目付きは変わらなかった。けれど其れで諦められ無いのが善人たる彼である。如何にか救えないものかと頭を捻り、最後に金の貰え無い無意味で出来る事ならやりたく無い仕事を尋ねた。

3年前 No.220

@reimei☆TFByO.hAqE8n ★iPad=vDNdBHTRdS

変わらないことなんて知ってたよ
もう会いたく無いって思ってたよ
私が私と分かれてしまったもので
最早何が本当だかわかんないけど
どうも矛盾しかしないことだけが
今ものすごく気になって仕方ない
君は知らないことを祈っているが
それすら矛盾して居るのだろうか
けれど私は此の想いの全てを抱き
愛しく思ってしまう今日この頃。

3年前 No.221

@reimei☆TFByO.hAqE8n ★iPad=vDNdBHTRdS

消えちまえってずっと思ってた。でも、君はどうせ消えやしないから、じゃあ私がいなくならなきゃって、そう考えたのさ。何もおかしな思考回路じゃあないだろう。でもね、君の為だけに何故そこまでするのかだけは、私にもよくわからない。別に君が好きなのでも嫌いなのでも無いはずだし、だからと言って全く興味が無いわけでもない。そう言う意味では君は特別だったのかと私は最近思うよ。私はいつも周囲の人と自分との関係を単純な方法で分類しようとするし、実際いつもそうやって分類出来て居た。それが君だけはどうしたらいいのか全くわからない。混乱したよ。だから君に関しては保留してたし、今もしてる。バカじゃねえのとか、言うなよ。自分でもわかってるんだから。でもね、私はもう君とは一緒にいるのが嫌だったんだよ。視界に入るのも、声が聞こえるのさえ嫌で嫌でたまらなかった。君が私の近くで何かしていると思うだけで苛々したし、でもそれがどうも君を嫌っているからじゃ無いっていう矛盾にやっぱり混乱した。君と今よりもう少し親しかった頃、私は君と話すのが楽しかったけれど、今じゃあ苦痛でしか無い。それはきっと、私が単純に君を遠ざけたいと或いは君から遠ざかりたいと思っているからだと、そう思うんだ。
なんでいなくなるんだって、君は言ったね。理由はこういうことさ。他にも一応あるけれど、それは今は言わないよ。友達に引きとめられてなお、いなくなろうとするのは、ひとえに君がいるからさ。君がここから消えてなくなれば、私はここに留まるかもしれないね。まあ、今更もう遅いけど。消えるっていうのはつまり、何処か遠くへ行くことさ、死ぬことなんかじゃ無い。それは消えるとはまた別のことだろう。
ああすっきりした、聞いてくれてありがとう。問うてくれて、ありがとう。どうしても、君に語りたかったんだ。だって、フェアじゃ無いだろう。私は君の言葉をただ受け止めるだけだったんだから。
それじゃあさよなら。もしまた会うことがあっても、その時は私達はもう他人だね。

3年前 No.222

@reimei☆TFByO.hAqE8n ★iPad=vDNdBHTRdS

「だぁぁぁぁぁぁああああ、消えろって言ってんだろうが!!!」

思わず叫ぶ。ここが、自分の部屋で良かった。もっと言うと、誰もいない家の中で良かった。
嫌い嫌い嫌いって、ずっと自己暗示掛けてるはずなのに。そもそも、嫌いなはずなのに、頭から離れないのはなんでだろう。もう嫌だ、忘れたい、忘れさせて。もう、もう、思い出したくも、無いのに。


私が通うのは、ごくありふれた田舎の中学校。都会にそこそこ近く、高校は都会の方に行く人も結構いるような、そんな中学校。地元のに通うのは一部の勉強の苦手な方々や、地元で就職する予定の方々くらいだ。かく言う私も都会組なのだけど。地元にはもともと残るつもりは無かった。特に夢が決まっているわけじゃないけど、そこそこいい高校を出て、出来ることなら国立の大学に行きたいと思ってる。それで、普通のまともな職につけたらいいなって、軽い事を考えているわけだけど。

「や、さあ。お前、どこ高行くんだっけ?」
「フウ高。……じんは?」
「まだ決まってない。地元に残ろっかなー」
「おう、残れ残れ。んで、親孝行してやれよ」
「えー、やだ」
「それ親の前で言うなよー」
「さあに言われたくねぇなー」

廊下で話し掛けられたのは随分と久しぶりだ。じんは、他の皆と同じく小学校からの付き合いだけれど、クラスが離れてからはもうずっと話していない。顔を合わせても何と無く目を逸らしちゃったりしてしまう。なんでだろう。よく分からない。
じんの事は、小学校の頃から好き。本当は最初の頃は、嫌いだったけど。色々あって、それで好きになった。それなのに避けてしまう自分が憎い。本当はもっと話したいし、笑いあったりしたいのに。何が好きって、話しやすくて話題も合うところ。でもこの事は誰にも言ってない。じんにも、一生言わないで過ごすつもり。それがいいって、思うから。

「じゃあね、じん」
「え、もうちょい話そうと思ってたんだけど」
「何をだよ」
「……将来について?」
「それじゃ語弊があるかな。より正確には、進路についてでしょ」
「そう、それ。いやー、言葉が出てこなかったんだ。流石、さあ」
「……っていうかね、そろそろ……うーん、まあいいや」

その「さあ」って呼ぶのやめない? って言おうと思ったけど。
しっしっと手で追い払い、彼がべぇっと舌を出し、目の下を引っ張ってから去って行くのを見て思わずクスリと笑う。そう言うところも、嫌いじゃ無いんだよなぁと内心ため息を尽きつつ席に着く。あれは別に、私を好きだからあんな風に絡んでくるのでは無い。面白いから、それだけ。それでもいいやと思ってしまう自分が怖い。
でも何が怖いって、私の恋が誰かにばれてしまうことなんだけど。それだけは絶対に避けなければならない。そんなことあってはいけない。

「紗南、日比谷となに話してたの?」
「進路の話。高校どこって聞かれた」
「ふぅん。彼奴はどこ行くって?」
「まだ決めてないって。地元に残ろうかなってぼけてた」

そっか、と離れてく彼女は、きっと。

3年前 No.223

@reimei☆TFByO.hAqE8n ★iPad=vDNdBHTRdS

じんのことが、好きなのだろう。凄くわかりやすい。けれど、私は彼女……理咲のことが嫌いじゃ無かった。はっきりとした口調と、整った顔立ち。モデルの様にスラリとした体型に、艶やかな髪。私とは違う、切れ味の良いナイフの様なさっぱりとした性格。それでいて、誰にでも優しく、その加減を理解している賢さ。何をとっても文句のつけようの無い美少女。誰からも好かれるし、妬まれることは有るだろうけれど、その言動で嫌われることはない。
そんな彼女からさえ好かれるじんの凄さに驚くけれど。というか、彼女の様な人がライバルだなんて、本当にこの恋を秘密にしていて良かった。

3年前 No.224

@reimei☆TFByO.hAqE8n ★iPad=vDNdBHTRdS

あまりに突飛な条件で一瞬固まってしまう。2、3回ほど脳内で繰り返し内容を考えて理解し、それからセリさんの意図を汲み取ろうとするも失敗に終わる。

「そうすることに、何の意味が?」
「あの国は今、ボロボロさ。戦えてはいるらしいがね、てっぺんから崩れて行くのは時間の問題さ」
「何故そんなことがわかるのですか?」
「何故ってそりゃあ、あたしにだって伝手があるって、只それだけのことだよ」

何もおかしなことじゃないだろうと言って、クックッと笑い声を立てる。

3年前 No.225

@reimei☆TFByO.hAqE8n ★iPad=vDNdBHTRdS

けれど彼は時折、私に秘密にさせるのを邪魔するかの様に、不意に距離を近づける。私が彼を好きなことなど知ら無いだろうし、彼だって別に私が好きなわけじゃ無いはずだ。クラスが違うから話すことは無いし、すれ違っても何も反応しない。そもそも意識しないから、気づか無いことだって有る。だからこそ私は半分意識して彼を見ない様に、声を聞かない様に努力をして、彼を私の中から追い出す。そうやって、彼を諦めようとする。嫌いになることなんて出来ないのは分かっているから、せめて今年の終わりまで、隠し通せればいい。それまでに諦められれば、尚いいだろう。都会の高校に受かれば、彼とは会わ無いですむ。

「紗南、明日皆で図書館で勉強会すんだけど、一緒にどう?」
「先生係としてさー」
「お願いお願い。紗南先生、教え方分かり易いからさ。今回のテスト、数学やばいし」

理咲の他に1人。。理咲といつも一緒にいる花耶。花耶は理咲ととても仲が良くてお洒落で、発言力が有るから行事の時はいつもリーダーシップをとってる。その割りに嫌な感じがしなくて、大抵の人からは好かれてる。男子とも女子とも気兼ねなく話すし、他校生とも友達が多くて頼りになる。

「いいけど、他にも誰か居たりする?」
「他に男子が3人。日比谷と、東、柴谷だよ」
「そっか、まあいいや。1時?」
「うん。じゃあ図書館のエントランスの席で」
「はいはーい」

3年前 No.226

@reimei☆TFByO.hAqE8n ★iPad=vDNdBHTRdS

断れば良かったと後悔するのは、いつも遅い。以前にも5、6回くらいこんな事があった。最初の数回は、来るメンバーを確認しなかったために起きたこと。残った数回は、確認したけれど結局承諾してしまったこと。だって、メンバーを聞いてから断ったら、まるで私がその中の誰かを嫌っているみたいで、それから変な噂でも流れたら困るから。別に嫌いなメンバーはその中にはいない。
理咲、花耶、日比谷、東、柴谷というのはいつも集まるメンバーだ。いまどき風に言うと、イツメンだっただろうか。メンバーが変わることは滅多に無い。稀に、その中に欠席者がいれば誰かが誰かを補充するくらい。それも、ただの人数合わせ。最初は私もそうなのかと思ったけど、如何やらそういうわけでも無かったようだ。

3年前 No.227

@reimei☆TFByO.hAqE8n ★iPad=vDNdBHTRdS

図書館には約束の時間よりも30分は早く着いてしまった。当然、エントランスのテーブルにも誰もいない。これなら暫く本を読んで居ても問題は無いだろう。すたすたと中に入ると、本棚がずらりと並んでいるのが見える。こうやって誰かとの待ち合わせで早く来てしまった時に、その本の短い時間に、読んだことの有る本を立ち読みしたりするのが楽しい。ここでの待ち合わせの醍醐味だと言っても過言じゃ無いくらい。
思わず読書に没頭していると、軽く方を叩かれた。まず驚き、それから首をめぐらせそちらを見れば、そこに居たのは東だった。クラスメート兼、そこそこ仲のいい奴、みたいな。ちょっと独特な感性のかただけれど、そういう人は結構好き。ていうか、私の親しい友人たちは基本的に皆ちょっと変わってる。そこが皆の良いところなんだけれど。

「あれ、……もう皆、来てる?」
「ああいや、エントランスでは誰も見てない」
「そっか良かった。君も読書?」
「まあ、そんなとこ」

ちらりと彼は私の読んでいる本の題名を確認する。

3年前 No.228

@reimei☆TFByO.hAqE8n ★iPad=vDNdBHTRdS

私は見やすい様に読んで居たページに指を挟み、表紙を彼の方へと向ける。彼は題名を読み、そして恐らく作家の名前も確認して一つ頷くと「そういえば」と私の方へと顔を向ける。なんだろうと首を傾げると、彼は微笑んだ。とても柔らかい笑み。彼の魅力は何かと問われれば、間違いなくその優しい笑みだと言えるだろう。彼は女子から人気のある方だけれど、きっとその中の殆どがこの笑顔に釣られたに違いない。彼は好きな人がいるらしいけれど、こんな笑みを向けられたら「自分かも」って勘違いしちゃう子がいても不思議じゃ無い。

「さっき、司書の人が新書のところに置いてた本、紗南の好きな作家のだと思うよ」
「なんてこと借りなきゃ。まだ誰も借りてないといいけど」

手に持っていた本を棚に戻し新刊コーナーへ歩いて行くと、さっと棚に目を通す。その中に見慣れた名前を見つける。私の好きなファンタジー作家の名前。ぱっとその一冊を手に取ると、かなり抑えた音量の東の笑い声がすぐ近くで聞こえた。足音でついて来ているのは分かっていたけれど。
思わず、馬鹿にしているのかと思い彼の方を睨むと、彼は違うという風に両手を胸の前で振った。

「よっぽどその作家が好きなんだなと思って」
「……数十分は余裕で語れる自信があるよ」
「いや、遠慮しとくよ」

その時、彼の向こう側、エントランスに見知った顔を見つけた。理咲と花耶の2人、一緒に来たみたいだ。私は急いでカウンターへ向かいその一冊だけ借りると東を連れてエントランスへ向かう。そこには既に理咲たちだけでなく、日比谷と柴谷もいた。男女に分かれて一つずつ、合計二つのテーブルを占領している。

「え、中に居たの?」
「本読んで待ってたら、逆に待たせちゃったみたいだわ」
「……2人で来たの?」
「いや、さっき中で会ったばかりだよ」

理咲と花耶の質問に答えながら、彼女たちの座るテーブルの席に座る。東は、男子の方に。

3年前 No.229

@reimei☆TFByO.hAqE8n ★iPad=vDNdBHTRdS

其れからすぐに勉強会が始まる。私は数学のワークをテストの範囲内は全てやり終わらせなきゃいけないからとページを開く。1ページ目を終えたところで、花耶から呼び出される。

「なぁにー」
「この問題ね、なんで平行四辺形なの?」
「実はこれ、中点連結定理を使います」
「今日習ったやつ?」
「そう。まずこの四角形を真っ二つにして、三角形を二つにするでしょ。んで、この三角形ABCで見た時、仮定からEFが中点連結定理により辺ACに平行になるでしょ。で、しかも半分の長さだよね。んで、反対側の三角形ADCも同じ様に辺HGがACに並行かつ半分の長さになるのね」
「……ああ、そっか。そしたら、平行四辺形の定義だか定理だかに当てはまるんだ」
「そういうこと。さすが花耶、理解が早いよ」

ありがとーという彼女の言葉に私はどういたしましてと返し、自分の問題を解き始める。いつもこう。問われて、答える。私が答えられない問題もあるにはあるけれど、簡単な問題だったら答えられるから、期待される。私もその期待に応えたいって思うし、何かを誰かに教えてあげるのがそもそも好きだから、お互いに助かってるんだと思う。

「紗南、次、私にこれ教えてー」
「はいはーい……っと、理咲は英語?」
「そう。ねえ、この文法なんだけれど」
「……関係代名詞……うん、なに?」

3年前 No.230

@reimei☆TFByO.hAqE8n ★iPad=vDNdBHTRdS

「whoとかwhichとかの後って、動詞はsつくの?」
「それは、文の主語によるよ。例えばこの文、マイクを修飾しているからwho speaks Englishになるでしょ。speakにsがつくのは、マイクが三人称単数だから。whoは、その後にくる文が、その前の文を修飾しているよっていう印みたいなものだから。決してwhoとかwhichが主語ではないから。だから、主語が複数形だったらsはつかない」
「成る程、分かった。ありがとう」

うん、と返してまた自分の問題を解き始める。この位ならまだ、大丈夫。文法も簡単なのなら、問題なく教えられるはずだ。ちょっと複雑になると、こんなスラスラとは教えられないんだけれど。やっぱりまだまだ理解が足りていない部分は多い。もっと色んなことを覚えたいけれど、目の前の事でいっぱいになって、何も出来なくなる。それは勉強の事だけじゃなくて。そんな自分の無力さが嫌になる。
最近よく思う。私の一番の欠点は、意思の弱さだって。こうしようって決めても、すぐに誘惑に負けてしまう。勉強しようと思っても、見たい番組があったら見始めちゃうし、本だって読み始めるし、絵だって描いてしまう。授業にもっと集中しようと思っても、近くの席の人と話してしまう。メモのやり取りだってしてしまう。諦めようと思ってもそう出来ないのだって、彼が私に近づくからじゃ無い。彼が私に近づいてしまった時に、私がそれを受け入れてしまうからだ。それが分かるからこそ、何より自分が嫌いだ。

「さあ。おい、さあってば」
「……なに?」
「え、機嫌悪い? なんで?」
「悪くは無いよ。要件はなに?」
「教えて欲しいんだ、この問題。……理科なんだけどさ、いいかな」
「いいよ。どれ」

また私は立ち上がり、彼の近くへ歩いていく。すぐ横に立ち問題を見下ろすと、彼は問題集を私の方へ少しスライドした。金星の話、のところ。天体に関してはそこそこ解ける自信がある。といっても、そこそこだけど。あんまり理科って得意な方じゃ無いし。安定してくれない教科の一つ。

「なんでこれ、BよりAの方が見える時間長いの?」
「なんだ、そんなこと」
「そんなことってなんだよ、人が真剣に悩んでんのに」
「あーはいはい。君、地球の中心から、金星の中心にまっすぐ線を引いてみな。そしたら分かるから」

言われた通りに定規で線を引いた彼は、あっと声を上げた。分かったらしい。すぐさま解答を書き直し彼は私の方を向き視線を合わせてくる。

「ありがとう」
「どーいたしまして」

軽く彼の頭を叩くと、彼は私の手を払った。思わずお互いに笑ってしまってから、お互いに無視をする。もう、話す必要は無いから。ふと何気無く柴谷の方を向くと、ちょうど彼も私の方を見て居たらしく、パチリと目が合う。その瞬間の彼は面白かった。私がメデューサであるかの様に硬直し、それから現実に帰ってきたのか首をぷるぷると振った。学年の中でも特にピュアな男子だと言われているだけはある。誰だかが彼の属性は天然だといって居たっけ。なんだそれとその時は言い返したけど、今ならその意味も分かる気がする。

3年前 No.231

@reimei☆TFByO.hAqE8n ★iPad=vDNdBHTRdS

「なした?」
「いや……教えるの上手いなと、思っただけ」
「そ? ありがと。……柴谷は順調そうだね」
「うん、解答見ながらだけど。解説もついてるから、何とかなってる感じ」
「そっか。そういえば、柴谷って最近、点数とか上がり調子なんでしょ」
「悪くは無いよ。え、それ誰に聞いたの?」
「誰だったかな。多分、教室で誰かが話してるのを偶然聞いちゃった感じだと思うけど」
「ええ、そうなの?」

わあ恥ずかしい、と言いながら両手を頬に当て、まるでオネエと言われかねないポーズをしても可愛げがあるから許されるのが柴谷なんだと思う。確かに童顔でちょっとばかり女の子っぽい顔立ちではあるけれど、もう中学3年生だし、いくら背の低い方ったって、160は近い筈だし。手だって少しでも気をつけて見れば男子らしい骨張ったものだし。もう可愛いだけじゃ無くなってること、彼のファンは気づきもしない。
じゃあね、と言って席に戻りまた私は自分の勉強を続ける。考えてみると、このメンバーは私以外、人気のある人々だと思う。
理咲はスラリとした体型に外国の血でも混ざっているのかと思う様なはっきりとした顔立ちは整っているし、その性格の良さから男女ともに人気の有るタイプ。バレーで培った体力もさることながら、プレー中の姿が格好良くとても魅力的で学年問わず人気がある。私自身、彼女のファンだと思う。女子が思わず憧れてしまう様な、そんな魅力の持ち主だから。
花耶の背は学年でもトップを争うほど低いけれど、コシのある真っ直ぐで長い黒い髪と切れ長な目、優しげな口元、穏やかな口調からお嬢様と揶揄されることもある彼女は吹奏楽部員だった。フルート奏者で、綺麗な音色を響かせる、確かな実力の持ち主だったし、優しく厳しい性格から後輩にも慕われている。
東はとにかく整った顔立ちと背の高さが魅力なんだろうなと思う。話しやすいし、ちょっとぼけた感じもあって面白いし。何より一つ一つのことに真面目に取り組むところが良いと、教師からの覚えもいい。バスケ部でキャプテンをしていたのもあって校内でも顔を知られていて、後輩からもモテているのだと聞いたことがある。本人は悉く断っているそうだけれど。
柴谷はとにかく天然でどんな時でも周りを和ませる雰囲気に定評がある。やっぱり男子からも女子からも好かれる奴でからかわれ要員であるにも関わらず馬鹿にされたりしないのは凄いと思う。人の感情の機微に敏感で、普通なら気付かない様なこと……例えば、ちょっと体調が良く無いとかに誰より早く気がつく。本人が必死に隠していたって分かってしまうと言うから不思議。私も一度ばれた経験がある。
日比谷に関しては、好き、というのもあって数えてたらきりが無い位にはいいところが思い付くのだけれど、多分彼の人気は、その目に有るんじゃ無いかと私は思う。日本人は人と目を合わせるのが苦手だけれど、彼はしっかりと人の目を見て話すし、だから信用も信頼もある。彼の瞳は本当に雄弁で、言葉を尽くされるよりも意味がある。
けれどそうやって人気があったりする人々の中で、いつも一緒にいるというのに私だけはどうにもパッとしない地味な人間だと思う。背はやや低め、顔立ちが整っているわけでもなく、スタイルが言い訳でもなく、強いて言えば勉強は人よりできるけれど運動神経は壊滅的。音楽にはそこそこ興味はあるけれど別に吹奏楽部でも無いから詳しくもなくて、絵を描くのは好きだし下手でも無いけれど上手でもなく。人との付き合いもそこそこで、多分あんまし嫌われてはいないだろうけれど、もしかしたら皆から嫌われているかもしれないっていつも疑心暗鬼なあたり、ネガティブなんだろうなって自分でも思う。人前に出るのも苦手で、仲の良い後輩はほんの少し。同じ部活の子でもあまり話さないし。性格だって、あんまり良く無いと自分で思う。少なくとも、私は好きじゃ無い。でも、変われない。如何したらいいのかも全然わから無い。

3年前 No.232

@reimei☆TFByO.hAqE8n ★iPad=vDNdBHTRdS

「ちょっと、本借りに行ってくるね」
「オッケー」

理咲たちに一言告げ、棚の有る方へと歩いていく。離れよう、と思った。煌びやかな人達から。私とは少しばかり次元が違うから、一緒にいたら恥ずかしくて死んでしまう。
本棚が並んでいると、本当に落ち着く。たまに森に喩えられたりするけれど、そうする気持ちも分かる。一冊一冊の木の葉たち。知恵の有る大樹たち。其れらに囲まれていると、なんだか特別な場所へ迷い込んだ気分になる。棚と棚との間を早く通り過ぎて行くのも、とてもゆっくりとした、歩いはちょっとおぼつかないくらいの足取りで一つの棚をじっくりと眺めるのも、どちらもとても良いものだと思う。図書館にいるだけで随筆を一つ書けてしまいそうだ。

「……さあ」

声を、掛けられた。
隣から。
足音はしていたけれど、全く知らない誰かだと思った。
そんな呼び方する奴、一人しか知ら無いから、誰かなんて見なくても分かるし、声でも明らかだ。それでも私は彼の方へ視線を向ける。そこには真っ直ぐに私の目を見つめてくるじんがいた。

「なに」
「あのさ、今なら、知り合いの誰もい無いと思うから、言うんだけど」
「うん、だから、なに?」
「好きだから、付き合ってくれ無いかなって、そんな話」
「…………………………あ?」

落ち着こうと、一つ深呼吸する。

「どういうこと?」
「だから。俺がさあのこと好きだから、もし良ければ付き合って、って」
「冗談でしょ。じゃなかったら、ドッキリとか」
「そんなんじゃ無いって。まあ、すぐに信じないあたりが、さあらしいけど」

訳がわから無い。こんなこと、ありえない。両想いだった?……まさか。
じんの目は、嘘を言っている様には見えない。今まで見てきた中で一番と言っていいほど真剣で、だから嫌になる。なんだっけ、式子内親王の。百人一首の。今ならあなたの気持ちがすごく良くわかりますって、伝えたい気分。

「出来れば今、答えが欲しいんだけど」

焦らせて、自分のいい様な答えをもらおうとするやり方? それじゃあ詐欺とおんなじじゃない。別にじんはそんな事考えてもいないだろう。ただ、早く結果を知りたいだけ。テストの時と同じ。点数がいいことを祈って、そうやって結果を待つ。でも大抵そういうのって、自信が有る時だよねって、私は心の中で自分に話す。いつもそう。なにかあったらまるで小説の文を考えるみたいに、そうやって言葉を自分の中で巡らせる。そうやって、自分を現実から遠ざける。

「じゃあ、お断りするよ」

こうしか答えられない自分を心の底から呪おう。

「私は君が好きでは無いから」

地の底まで堕ちてしまえばいい。

「だから、付き合うことは出来ない」

忍ぶ忍ばないとかじゃなくて、今すぐ絶えてしまえ、この命。
悲しげなじんの瞳が目に映る。そんなもの、見たくない。思わず私は目を逸らし「じゃあ」と一言、自分でも驚く冷たさで告げてその場を離れた。今は彼を見たく無い。彼の目を、見たくない。

3年前 No.233

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棚の間を早歩きで進む。別に、じんが追いかけて来ているわけでは無い。そんなの分かってる。それでつい先程はいた自分の言葉を振り払ってしまいたかった。あんなもの、本心でもなんでも無い。あんなこと、本当は言いたいわけじゃ無いのに。でも私には、彼のその誘いを受け入れる資格なんて無い。誰が、私と彼を釣り合うだなんて思うだろう? 誰が私と彼が付き合って納得するだろう? 何人もの女子が私とじんのことを不思議がるだろうし、私なんて恨まれたりするかもしれない。彼を好きになった女子達がどれ程可愛くて、色んなことに関して優れているか私はよく知っている。それに私は、全て隠し通すと決めたんだから。私に誓いを破らせようとなんかしてくれるな。

「そんなつもりじゃ、無かったのに」

私がすぐにエントランスの席に戻ると、じんはまだ戻って来てなかった。本を読んで時間を潰しているのだろうか。私が席に着き数学の問題を解き始めてから数分経つと、東が席を立ち本を借りに行った。それから10分位してふたりが戻って来たのが足音や、椅子を引く音、座る音で分かった。

3年前 No.234

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理咲と花耶がメモ用紙での会話を始めて、東と柴谷がボソボソと話し始めて、私とじんはずっと黙ってる。とにかくなにもかも頭から追い出してしまいたくて。ひたすら解く問題集には雑な字が散っている。私の嫌いな、私の字。全然安定してくれない。丁寧に書けばそこそこに見えるけれど、雑だと吃驚する位汚くて。上辺だけ飾ってるみたい。それじゃあまるで私そのものって、自分で嫌になる。だから私の字、嫌い。

「紗南、ちょっと話、いい?」
「……いいけど、なに?」
「男子いるから……よし、外行こう」
「え、あ、うん」

すぐ近くのドアから外へ出て、理咲と花耶が私の向かい側に立つ。なんだろう。

「あのね、日比谷をふったって、本当?」
「……え」
「東達が教えてくれた。日比谷がそれで今、傷心中だって」
「それで、なに?」
「うん。なんでふっちゃったのって、聴きたくて」

ふたりの表情は真剣そのものだった。ああそっか、二人とも好きなんだった。
どうやって言えばいいだろう。どうしたら上手く伝わるだろう。私の拙い言葉で通じるだろうか。

「自分が情けなく思えたって言ったら、笑う?」
「え、いや……」
「日比谷ってさ、大抵のこと、出来るでしょ。部活に集中してたから成績はあんまり伸びなかったけど、元々頭は悪く無いから、さっき教えた時も思ったけど、理解が早いんだよね。基礎もだいたい出来てるみたいだし。性格もまあいいし、運動神経も」

3年前 No.235

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理咲や花耶はそれぞれ頷く。何を理解してくれたかは分からないけれど。私が引け目を感じていることだろうか、それともじんが大抵のことは出来るという所だろうか。

「でもさ、じゃあ私は何ができるのって考えたら、何も出てこないんだよね。運動神経は悪いし、見た目だって良く無いでしょう。成績は人よりはいいけれどそれだって田舎での話。絵とか歌とかもそう。人並みでしか無い。だから、怖いんだよね。じんの事を好きな女子がどれほど色んなこと努力してるか何と無くだけれど分かるし、そういう人たちと比べてもやっぱり、自分が劣っているように思える。なんかそうなると、そういう女子達にも申し訳ないように思えるし、じんが後悔するんじゃ無いかなっていう不安もあるし」

静かに風が吹いている。2mくらいの高さの木の葉が揺れて、1枚だけ、ひらりと落ちるのが見えた。
ふたりは何も言わず話を聞いてくれていた。そこまで話した所で、私も何を言えばいいのか分からなくなって黙り込んでしまう。しばし沈黙が流れたのち、最初に口を開いたのは花耶だった。

「分かる気は、するんだよ。引け目を感じてることとかさぁ。でも、だから断るの? 紗南は日比谷が好きなんじゃ無いの? 紗南ならいいかなって思う人達がいるから、今日このメンバーで集まったんだよ。そりゃあ私だって日比谷のこと好きだけれど、その日比谷に好きな人がいて、その人と両思いなら譲ってあげようかな、幸せになって欲しいなって思うのが当たり前じゃ無いの?」
「今日集まったのは、だから、そういう私達の願いからだよ。紗南、日比谷の事、考えた? 戻ってきた時の顔、紗南は後ろ向いてたから知らないだろうけれど、凄く落ち込んでた。見てられない位。だって、日比谷だってきっと嫌われているんじゃ無いって思ってた筈だから」

今日集まったメンバーは、じんと私のためのメンバーだったって事、だろうか。じんか、或いは私が相手に告白すればいいなって、そういうことだろうか。それとも、じんが協力を頼んだのだろうか。歩いはその逆で、2人が協力を申し込んだのだろうか。何れにせよ、私の答えははっきりと決まっていたし、その事が分かっていたって気持ちは変わったりしない。

「でも、付き合うわけには、いかないんだよ。だって決めたんだもの。そう、誓ったんだよ」

俯きがちになって2人の顔を見ないようにして、図書館の中へと入る。2人には理解し難いだろう。好きなら付き合えばいいのに、ってそう思ってるに違いない。でも、そうする訳にいかない理由は他にもちゃんとある。
私はじんが嫌いなのだと思う。矛盾しているように思うかもしれないけれど、全く矛盾なんてしてなくて、本当にそうなのだ。私という人間はじんという人間が好きだけど、私という受験生はじんという存在が邪魔なのだから。彼がいるせいで私は何も出来無い。一緒に居たいと思う、でも彼から離れなきゃいけない。田舎に残りたい、でも都会に行きたい。勉強をしたい、けれど彼にも会いたい。相反する感情がどれほど私を苦しめるだろう。彼の存在がどれほど私を苦しめるだろう。
つまり、そういうことなのだ。

3年前 No.236

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その日、私達6人は曖昧なまま五時半頃になると別れ、それぞれ家へと帰って行った。皆には申し訳ない気持ちになりながらも、私は自室の椅子に座り込む。机に突っ伏し、今日の図書館でのことを反芻する。一つ一つ、どこからが始まりだったろう、私は本当にあれで良かったのかなと。
本当は未練しかない。本当は私もって言いたかった。じんと付き合うのなんて一生のうちで最高の夢かもしれ無いくらいだけれど。でもそれは、夢のままにしなきゃいけ無いと、そう思う。きっとそうしたら、中学生の私を一生引き摺る事になってしまう。
だから私はきっと忘れなきゃいけないんだと思う。

「嫌い、嫌い、きらい。じんなんて、嫌い。それでいい、そうじゃなきゃあ、駄目なんだから」

なんども繰り返し口に出して、まるで洗脳するかの様に。そうやって思い込もうとして。でもやっぱり難しくて嫌になる。こんなにはっきり出来無い私が嫌になる。ああもう、私もじんも大嫌い。

気付けば、卒業の日だった。あっという間だった。テストは沢山有るし、勉強はしなきゃいけ無いし、どうしたらいいのか焦ったまま今日になってしまったかの様だった。一瞬で色んなことが終わってしまったかの様で今更ながら不安になる。今までのことが全て夢だったんじゃ無いかと。
今日で、もう、じんとは顔を合わせ無いでも良くなる。今日で全部終わる筈。そう思いながら、式へと臨む。列の中に立ちながら、音楽がかかって居るのが聞こえて背筋が伸びる。

「始まるよ」

誰かが言うのが聞こえた。その通りだって思わず笑いながら、歩いていく。

3年前 No.237

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3年前 No.238

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それから暫くして。私は予定通り志望校を受験し合格、都会へと移ることになった。何度か行ったことのある町だけど一人で歩き回れる自信がない。早く学校でこの町の地理に詳しい友達を作るべきかもしれない。部屋は、下宿。他の部屋には同じ高校の子が数人、社会人の人も住んでる。大家のおばあさんはとても優しくて、笑顔の絶えない素敵な人だった。
荷物をまとめ終わり、明日出発となった。部屋が凄く綺麗になった。というよりは殺風景でつまらない場所になった様に思えた。今まで其処に当たり前にあった物がほとんどなくなって、見ているととても寂しくなる。ベッドとか机本体は其処にあるけれど、その中や上にあった物が何もかもなくなってて、空っぽで、虚ろ。

「じゃあ、母さん達ちょっと買い物に行ってくるから」
「ん、留守番しとく」
「お願いねー」

そう言い残して両親は出て行った。鍵をかけるガチャリという音がして、家の中はほぼ無音の状態となった。
音が無いのは、凄く不安になる。今は此れがよく無いのは分かってた。誰かが近くにいるという事実が無ければ暴れ出してしまいそうな位だったから。けれど一度暴れてしまわなきゃどうしようも無い様な気もして居た。そうでなきゃ私はきっと誰かに八つ当たりをしてしまうし、そうでなきゃ精神がどうにかなってしまいそうだった。
音楽をひたすら聞いて、絵を描いて、小説も書き進めて、それから少しして思いっきりクッションを投げたりして、寝て、泣いて、それからまた音楽を聴いた。そうして落ち着く頃には母さん達が帰って来て、お懐を用意してくれた。和風クッキーを買って来たらしい。私はそれを食べ、淹れてもらったお茶を飲んで、自室に篭り、物の少なくなったその部屋で小説を書き続けた。
その夜見た夢は、特に現実とは関係無かった。私が海で溺れかけて居たと思ったら、気付いたらバスの中だったし、かと思えば誰かがピアノを弾いている学校の中だった。凄く境目が曖昧で様々な時間や空間を突き抜けた様な夢だった。こんな事が現実にあったら私の体は保たないだろう。
翌朝、外へ出るとじんがいた。今日出発することは何人かに言っていたから、そのうちの誰かに聞いたのだろう。私は大きく息を吸った。

「話があると言っていたね。あの時は断ったけれど、まだ話したいことがあるなら、今なら聞くよ」

3年前 No.239

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躊躇う様に彼は下を向く。時間はある、ゆっくり待とうと、そう思った。本当に彼の言葉を聞きたいとそう思った。彼がここへ来たことも、私が其の必要なく早く外へ出たことも、必然な気がした。そうであればいいと思いたかった。

「俺、お前の事、好きだよ。それはきっと、変わらない」

自嘲気味に彼はそう言った。其の顔が朝日に照らされて美しいと素直にそう思った。彼の整った顔立ちも確かに私は好きだったのだ。

3年前 No.240

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「お前が、俺の事を好きであればいいなって、そう思ってた。今も、そう思ってる。エゴじゃ無いかっても思うけれど恋愛なんてそんなもんだろって、気にしないでたからさ。最近ずっと考えてた。俺がお前を好きだっていう其の事実がお前にとって、迷惑なんじゃ無いかって。考えてみたらお前には何のメリットも無いし」

彼の言葉に、思わず私は口を開き、何かを言おうとする。けれど何と言っていいかわからない。ただの言い訳にしかならない。じんはそんな私の言葉を押しとどめる様に首を振り、続けた。

「さあの本心が聞きたい。俺の事を好きでは無いと言ったことも、遠ざけたことも、何を思ってのことなのか知りたいんだ。そうでなきゃきっと俺はお前を諦めきれないから」

馬鹿だ、と思う。
それは、誰が?

「今なら、教えてくれるんじゃ無いかと、そう思うんだ。だってお前はもういなくなるから。暫くは会えないから」

教えてくれと、彼は言う。それは懇願なんかでは無かった。ただひたすらに無邪気な好奇心で、だからこそ真摯なその瞳に呑まれそうになる。私の好きな目、強さを誇る彼の目。どうにも逸らすのが難しいそれから、やはり今日も私は逸らせない。やっぱり私は弱いままだ。

「そうだね、どうせ長期休みとかには帰ってくるだろうし、春も少しは居るかもしれないけれど。それでも君と会うなんて保証は無いからね。いいよ、一回しか言わないから。憶えてても忘れてもいいからね」

それだけが、私の出来る唯一の強がりだった。

「じんのこと、好きだよ。一生忘れられないと思える位には。……でも、だから、嫌い。君がいたら、きっと私は駄目になるよ。本当に好きな人が近くにいたら、きっと私はそれ以上を求めることなんて出来やしないから。向上心のなくなった人間なんて、生きている意味なんて無いと思うんだよ。変化を止めれば有るのは死のみだからね。……君に好きだと言われた時は嬉しかったし、正直頷いてしまいたかったよ。あれ程辛い選択肢なんてなかったと思う。だからこそ私は君を遠ざけるしか無かった。そうするしか思いつかなかったんだから。ごめんよ、じん。確かに私の人生にとって君の存在も、想いすら迷惑ではあったけれど、私自身にとってだけは君を迷惑だなんて思わないから、だから」

だから、なんだと言うのだろう。忘れないでと、言いたいのだろうか。好きで居てくれと、頼みたいのだろうか。自分の気持ちがわからなくてもどかしい。
涙腺が弱って居たのだろうか、意識もせずに涙が溢れて来て、こぼれてしまう。頬を伝い、顎からぽたりと一粒、また一粒と落ちてゆく。積もった雪をほんの少しでも解かしただろうか。わからない。じんが一歩近づいて私の頬を伝う涙を右手でそっと拭き取った。ぼやけた視界での突然の出来事に私は驚きのあまり彼を見つめて固まってしまう。大丈夫、何も怖く無い。そう言い聞かせる。

「こうしてみたかったんだよね、一回でいいから」

そう誤魔化す様に呟いて彼は離れた。私の涙は止まらなかったけれど、じんもそしてきっと私もそれで満足だった。
じんがそうすることに意味があったかなんて分からない。けれど確かに何かが変わって、何かがぴったりと私の中で組み合わさった様だった。よく歯車で表現される様に、或いはパズルで表される様に。
彼がこうして私を見ることがこれから先の人生であと何回位あるだろう。もう一生無いかもしれない。

「さあが夏とか冬とかにこっちに戻って来て、もしその時会うことがあったら。その時までに俺はきっと彼女を作っている筈だから、きっと自慢してやるよ」
「ん、楽しみにしてる。私が満足する様な、そんな子じゃなきゃ嫌だよ。男子にとっては素敵な子でも、女子から見たら違うことだってままあるんだからね」
「お前が満足する様なって、ハードル高過ぎ。でも、俺、趣味は悪く無いから大丈夫だと思うんだよね」
「それに関しては否定も肯定もできないけれど。特別悪いとは確かに思わないかな」

家から母がでてくる。荷物を持って、車の方へ歩いて行く。ちらりとこちらを見たけれど、見なかったふりでただ作業を続けた。
これから私は少しずつまた変化の日々を過ごすことになる。きっと、この町にいるのとでは全然違う、全く別の世界の中での変化で、自分自身がそれに追いつけるかどうかもわからない。けれどそれに追いつかなくてはならないのだ。其れがわかるからこそ、じんとの別れはとても惜しい。けれどそれこそが私の決心を何よりも後押ししてくれるだろう。彼は最後に一言だけ、その為だけに口を開いた。


「紗南」


それから少しして車に乗り込む。窓は開けなかった。その必要が無かった。別れに必要なことはもう済んだ。音は要らなかった。車が発進するその一瞬前に彼はけれど、口を動かした。声を、発して居たのだろうか。分からない。けれどその唇が呟いたその言葉を、私は確かに理解した。けれどそれを私は誰かに言おうとは思わない。ただ私だけが知っていればいい、事実だから。
ただその言葉が、一生の中で何より大切な言葉になることを、私はその時すでに確信していた。






fin.


3年前 No.241

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「あたし、ジャックと豆の木に憧れてる!」
「うわ、いきなりなんだよ」
「だから、ジャックになりたい」
「さっきとなんか違うし、訳が分からない」
「だってねぇ、空に行くのも憧れるけど、そこで金の卵を手に入れたい」
「……ジャックと豆の木の話、覚えてないんだけど」
「え、巨人と戦う話だよ?」
「ちょっと待って、なんかさっきと話し違う!」
「……?」
「巨人と金の卵の関連性は?」
「巨人の所有物である金の卵を勝手に取って怒られるの」
「……ふぅん」
「なんでそんな興味なさげなの」
「いや、そんなことは無いけど。で、なんでジャックになりたいのさ?」
「ロマンがあるから」
「嘘だろ!!」
「本当だって。ちなみに奪うのはその他に、金銀を出してく袋と、ハープが有るんだけどね」
「へぇ」
「それよりもあたし、空に行って見たいんだよ。だってね、だってだよ、そしたらきっといい小説が書けると思うんだよ」
「なんだそれ」
「今凄く小説が書きたくてたまらない」
「黙れって受験生」
「引っ越しちゃった友達も年賀状でそう書いてたよ! 忙しい時ほど小説書きたいって!!」
「いいから、黙って勉強しようぜ」
「ううん、それって凄く、楽しくなぁい」
「楽しさを求めてないからね」
「でもね、もし本当に行けたらいいなと、そう思うよ」
「飛行機乗ってどっか行けよそれなら」
「それじゃあ面白くない」
「なんでマジの方で不貞腐れてんの」
「うううううう」
「落ち着けよ、死ぬ時にはきっと空が見れるから」
「駄目」
「今すぐじゃなきゃ?」
「ううん、あたしきっと地獄行き」
「大丈夫だって、お前は大丈夫」
「そ?」
「ああ。とにかくさ、不幸が募っちまう前に勉強しようぜ?」
「はぁい。……今はまず、天へと続く蔦も小説も、忘れなきゃだよねえ」
「そういうこと」
「まあ、いっか。ジャックも何も、逃げやしないもんね」
「そうそう」



「じゃあ、ねえ、いつか君が私に空を見せてよ」

3年前 No.242

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あたしは凄く醜い。
姿形だけじゃなくて。
心の仲間で濁りきったぐじゃぐじゃな色で。
だからせめて、此の手が生み出す全てが美しく在れば良いと思ってた。大した事なんて出来やしないけど、其れでも誰かが幸せを感じられる物語を誰かの為だけに作れたら良いと、ずっと思ってた。

美しいものに惹かれるのは皆、誰だってそうだと思う。人によって美しいの基準なんて違うから、あたしにとって醜いものを誰かは美しいと言うかもしれないけれど。それでも、本当に美しいものは誰にでも認めて貰える筈だって、そう思ったから。
誰もが認められる様な美しい物語を。
醜くても美しいものを作り上げられる筈だから。

「百合、また、書いてるの?」
「……ああ、水織。……うん」
「進んでる?」
「とても。……なんで?」
「僕、さ。一つ考えが、あるんだ」
「なぁに?」
「また今度にするよ。仙がきたみたいだ」

3年前 No.243

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こんなタイミングで、こんなことが起こるなんてって、多分みんな思ってる。

今は全校集会中のはずで、校長先生が話している途中で。っていうかこんな田舎で、こんなこと起こるのって本当に驚きすぎて。自体を理解した人は多分初めに、ああきっとこれ、ドッキリだろうなって思ったんじゃ無いかな。まず私がそう思ったのだけれど。だってこんなこと、普通なら起こるはず無いもの。

「全員奥の壁に寄れ」

突如体育館に入って来たその男は、銃を生徒に向けながらそう言った。その構えているものが偽物では無いことは、少し離れた床に向けて打った一撃ではっきりした。

3年前 No.244

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メモ。(SS?)
光と影。折り鶴。数字の暗号。
死にゆく少女と、その友人の少年の話。少女は病院で暇だからと本を読んだり折り紙をしてばかり。自分で物語を書いたりすることもあるけれど、それを誰にも読ませたりしない。少年にすら読ませない。物語以外に綴っているのは日記だけれど、そっちに至っては、人に中身を見せることはあっても、中身は全て暗号で書かれていてほかの人には読めなくなっている。少年もやっぱり読めない。
少女は折り紙の裏に、インクの切れたペンで暗号化した文章を書き、折り鶴をおる。インクの切れたペンで書くのは、そこに文字があることを簡単には気づかせないため。そもそも開かなきゃ気づかないけれど。少年には会話の中でヒントを残し、死んでしまう。物語を書いた小説はいつの間にやら何処かへと消えていた(少女が隠しただけだけれど)。毎日一つずつ折っていた、大量の折鶴たち。
1番最後に折ったものは、少年に直接渡されている。それの中身に書かれていた言葉は「(まだ考えてない。英語か日本語かも決めてない。いっそフランス語とか?……無理だわ。日本語で。)」。



折り鶴は、夢の象徴。
薔薇は、約束。
光は闇にこそ支えられる。


「人間なんて皆、そんなものだよ。本音を隠して生きてる。だって、それが自分だけではなくて、周りの色んな人にとっても良いことであると、そう思うから。けれどね、そんな本音だって口に出してしまいたくなる時がある。君にもあるでしょう、そう言うこと。でも本当にそうする訳にいかないから、代用品を使うのさ」

「考えてごらん、君なら解る筈だから。代用品って言うのはつまり、代用品として使われることに意味があるし価値もある。けれど逆に言えば、それだけの意味や価値しか持たないんだよ。だからね、そこに一つの謎があったとして、その謎の意味を考えようとする時、その謎そのものではなくて、それに含まれている何かを見なきゃいけないんだ」

「光と影の話をしたことは覚えてる? まあ、影は闇としてもいいけれど。実際には違うものだから、使い分けなきゃいけないものの一つだけれど、今は面倒だから同じものとしよう。光がなければ影は存在しない。それは表裏一体のものだって、前に私は言ったよね。つまりそれは、闇があるからこそ光も存在するって言う考え方もできるんだよ。意味、わかる? だからね、光を見たい時、そこには闇が必要なんだ」

「約束するよ。……安心してよ、私、友達との約束は守るんだから。嘘じゃ無いよ、約束は守るし、嘘はつかない。誤魔化すことは、あるかもしれないけれど……そうだね、本当に大切なことは、きっと、嘘なんて言わない。だから君、私のことをどうか信じて」

「さよならをしなきゃいけない時なんて、生きていれば何回でもあるだろうさ。でも、これ程辛い別れは初めてだと、あの時本当に思ったんだ。もうこんな思いはしたく無いとも思ったよ。それでも、友達と言う存在に縋っていたのはそれ以外の生き方を知らなかっただけかもしれない」

「君に託すよ、私の声を」

「これが最後だからね」




あの時……数年前に友人を病気で亡くしたとき。

3年前 No.245

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『1・1\5・5\6・2\2・1\9・1\10・1\4・1\3・2\6・1\2・5\10・1\2・3\4・4\4・1\7・1\9・1\5・1\1・2』

『2・5\9・4\6・5\4・5・2\2・1\11・1\4・1\11・1\5・2\4・5\7・5\4・1・2\4・2\2・1・2\1・2\5・1\2・3\5・1\4・3・3\4・4\3・2\7・1\1・3\5・1\11・1\4・4』

『3・1\7・2\3・2\1・2\8・5』


ノートに綴られた其れらの数字を見て「よし」と彼女は呟く。もうどれ程こうやって此のノートに書き溜めてきただろう。俺には何を書いているのかさっぱりわから無いけれど、彼女はちゃんと意図があって、意味のある文を書いているらしい。そんなに難しいものなんかじゃ無いよって、言うけれど。彼女の“簡単”はだいぶ怪しい。常識はある筈なのに、やはり彼女は時折自分自身を基準に物事を考えてしまうきらいがある。普通の人間は誰だってそうしてしまうけれど、彼女は何事にも優れているものだから、そういうことは無い様に僕は錯覚してしまう。
彼女が入院し始めたのは去年の春頃だ。体調不良で学校を休み始めたなと思ったら、大きな病気だったのだと知らされた。僕らにはどうも辛い話だ。彼女にとっては色んな意味で認めたく無い現実だろう。
現在中学三年生の僕らは、

3年前 No.246

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現在中学三年生の僕らは、此れから来る冬を越え春には高校生になる。その前にが受験があるし、そのさらに前には年越しもある。それ以外にだってハロウィンやらクリスマスやら節分やらバレンタインやら雛祭りやら、日本独自のもあれば、異国の文化を中途半端に取り入れたある意味では日本らしいとさえ言える伝統行事が行われる。バレンタインはその範疇に無かったとは思うけれど。けれどその中で彼女が参加出来るものは限られて来る。家には滅多なことじゃ帰れ無いだろう。言い方は悪いかもしれ無いけれど、もし帰れるとしたら死んだ時くらいじゃないだろうか。それに、此処は僕らの通う学校から遠い。校区外だから、此の近くに住む生徒は片手に収まるどころの話じゃない。僕だって叔父が此処に入院しててたまに親と一緒に見舞いに来るのでなければ、彼女に会いに来ることはないだろう。母さんと叔父はどうも仲の良い姉弟のようで、週一くらいのペースで見舞いに来る。だから僕は大抵其れに付き合って、叔父と少し話した後彼女の元へと行くのだ。そうするとやはり大抵彼女はベッドの上にいて、ノートに何か書いていたり、鶴を折って居たりするのだ。それが、彼女の日課であるから。
彼女はもともと手先の器用な人間で、絵を描くこと、字を書くこと、何かを作ることが好きな人だ。特に折り紙という遊びは彼女にとって素晴らしく重要なことであり、入院というある程度限られた生活空間の中で彼女の楽しみの大部分を占めるのが此れであることは、僕にでさえ解ることだった。特に何故だか彼女は折鶴を大切にし、毎日一羽、欠かさず折っている。千羽鶴でも作っているのかと問うたことがあったが、そうではないと言うから、きっと彼女の遊びか何かなのだろう。入院してある程度落ち着いた時から毎日、というから、もう数百羽折っている筈だ。
それ以外だと、薔薇の数は凄まじい。同じ種類の薔薇、或いは別の折り方をする薔薇、それぞれとても複雑なものであることはあまり折り紙を好まない僕でも分かる。薔薇以外の花も折っている。おそらく家族の誰かに頼んで難しい折り方の花を調べてもらってきているのだろう。硝子の花瓶に針金の茎をつけた花を生けているのは、此の病院内で彼女くらいのものじゃないだろうか。ああいや、叔父に、と一度同じものを彼女に作ってもらったことがあるから、2人。

3年前 No.247

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【キャラクタープロフィール】

 ※キャラクターは複数可。生かしたいキャラクターの為に囮的なキャラクターを作成するのも可。


名前:リア

性別:女

死亡度:3

方向性:リアリティ

キャラクターについての考察:

やや濃い青色の瞳と金色の髪を持つ女性。といっても22歳とまだ若い。髪は生まれつき軽くウェーブがかかっており、現在は肩程の長さまで伸ばしている。邪魔なので顔の横の髪は耳にかけ、必要があればピンで止めることもある。肌の色は平均並みに白く、血色の良い健康的なもの。痩せてこそいるものの病的な程ではなく、ごく一般の家庭で不自由の無い生活をして居たことを証明している。黒い長袖のTシャツに、その上から袖の無い薄いグレーと青のパーカーを羽織っており、前は留めてい無い。下はジーンズを履いており、裾を折って七部丈にしている。靴はスニーカーで、その汚れ具合から履き慣れて居ることが伺える。ポケットには特に何も入っておらず、手ぶら状態。元は西洋の国の一般家庭で暮らしている女子大生で、親元から離れ一人でアパートに住んでいた。普段の行動からは慎重さと大胆さの両方がうかがえ、落ち着いて居る時とそうで無い時、或いは優しい時ときつい時など、やや二面性があるように思える事もあるかもしれない。基本的には自分優先だが、常識人であり他人を尊重することは忘れない。身体能力は人並みかそれより少し良い程度で、はっきり言えるのは走るのが早いことくらい。


 300〜1000文字程度で容姿や今までどこに居たか、能力や装備や服装の解説、簡単な内容で結構で大丈夫です。キャラクターが死ぬ可能性が高い為、プロフィールよりも本編でのロールを重視しております。人型以外でも可ですが、あまり大きすぎると早期退場につながる場合がございます。
 また、プロフィール投下や本スレッドに書き込みをしてから1〜2週間を過ぎて書き込みが無いキャラクターは所有権をスレ主に移譲。キャラクターが死亡するものだと考えてください。
 どこかの世界の神、何かしらの悪魔、超常的な勇者や魔王等も許可。しかし、強力な能力は大半が封印され、人間の銃器と戦う事が出来る、またはロケットランチャー程度の破壊力を持つ程度までダウンする。身体能力も人間と同等か若干高い程度になる。

 ※もう一度重要としますが、このスレッドは他のスレッドと違い死亡描写を書く可能性が高く。また、バッドエンドからグットエンドまで一応考えてありますがどれに成るかはスレッドの進行次第となります。





3年前 No.248

@reimei☆TFByO.hAqE8n ★iPad=vDNdBHTRdS

「なあ、いっつもそれ、何書いてんの?」
「うん? 色々だよ。あまり人には知られたく無いこととかね」
「わざわざ暗号にして? 面倒臭くないの?」
「もう慣れたから。……君もやってみると良いよ、楽しいから」
「僕は……いいよ」
「そう」

残念がるでもなくただ彼女はそう言って、ベッドの傍の机に置きっ放しだった折りかけの鶴を手に取り、続きを折り始めた。僕はそれを見ながら、窓の外へ視線を向ける。日が傾きかけてきた此の時間帯、オレンジ色の光が目に入る。素直に綺麗だと、そう思える景色だった。思わず「綺麗だな」と呟けば、彼女は小さく首を傾げた。

「此処からの景色も、いいけれど。反対側も綺麗だよ」
「反対側?」
「そう。東の空。藍色っていうのかな、晴れた日の夕方の雲は、紫がかった感じもして風情があるというのかな」
「そうなんだ」

いつも光のある方ばかり見て感動して居たから、考えたことも無いことだった。今度気が向いた時にでもそんな空を見てみよう。

「つまりは、光と影の話だよ。光があれば影がある。影がないということは、光もない。全てが真っ暗だったら、影という概念も無くなってしまうしね。……表裏一体、というのだけれど、その対比というのは素晴らしいと思う。芸術的に見ても、全く関係の無いごくありふれた普通の時間に考えても、やっぱり大切だと思う」

3年前 No.249

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淡々とした口調が、妙に耳に残る。彼女の言葉は時々、複雑な感じがして、その意味を飲み込むのに時間が掛かり過ぎることがある。だからすぐには返事ができなくて、彼女を待たせてしまう。それでもいつも答えを待って居てくれるのが彼女であり、その答えこそ彼女の求めるものだと僕自身もわかってる。彼女は会話や、その中にある感情だったり思い出だったりを楽しむから。

「でも……そうだね、君には、ヒントをあげよう。とりあえず今日は一つだけ。少しでも興味があるんならちゃんと憶えておきなよ」

そう前置きして彼女は鶴を折る手を止めることなく、一呼吸おいて話す。

「君、こうして人に言葉を隠すのが特別なことだと思う?」
「……どうだろう、僕にはまだ、分からない」
「そっか。私は、人間なんてそんなものだと思うよ。皆、本音を隠して生きてる。だって、それが自分だけではなくて、周りの色んな人にとっても良いことであると、そう思うから。けれどね、そんな本音だって口に出してしまいたくなる時がある。君にもあるでしょう、そう言うこと。でも本当にそうする訳にいかないから、代用品を使うのさ。考えてごらん、君なら解る筈だから。代用品って言うのはつまり、代用品として使われることに意味があるし価値もある。けれど逆に言えば、それだけの意味や価値しか持たないんだよ。だからね、そこに一つの謎があったとして、その謎の意味を考えようとする時、その謎そのものではなくて、それに含まれている何かを見なきゃいけないんだ」

難し過ぎた。僕には。でも、大切な言葉なのだとそう思った。だから、今はまだ意味が分からなくても、大切に心にしまっておかなきゃいけないと思った。
それっきり彼女は暫く黙り込み、折り終えた鶴を満足げに見つめてベッドのそばにかけてある臙脂色のバッグにポトリと入れた。

「鶴の頭は、作らないの?」
「……千羽鶴って作ったことある?」
「いや」
「私はあるよ。あれはね、邪魔だから頭は作らないの。もしかしたら、それ以外の理由もあるのかもしれないけれど」
「ふぅん」
「だから私は、弔う鶴は頭を作らないことにしてる。なんとなくだけれど」

弔う、鶴。

3年前 No.250

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彼女の価値観を本当の意味で理解することが出来る日は来ない気がする。彼女の考え方が複雑なのでは無い、けれど言葉が難しい様な気がするのだ。それはきっと、彼女自身あまりはっきりとした形で言葉に出来ていないからだと思う。其れを無理にでも僕に説明しようとするから、複雑になってしまう。まだ其れを誰にでも理解出来るくらいに説明するには、彼女には言葉が足りなさ過ぎるのだ。たとえ同年代の他の人より語彙力が優れていたとしても。

「そろそろ、帰る時間じゃないの? お母さん、待っているんじゃないかな」
「あ、そうだった。そろそろ行くよ。じゃあ、また今度」
「うん、楽しみにしているよ」

僕は立ち上がり部屋を後にする。叔父さんの部屋へと行くと、母さんも丁度立ち上がったところだった。ナイスタイミング、と僕は内心笑いながら窓の方へと目を向ける。其処には花瓶にいれられた折り紙の薔薇がある。青い。3、4種類の折り方で、水色や青や藍や紺の折り紙で折られた其れらは先ほど見た空と同じほどに美しい。

3年前 No.251

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其れからも何度も彼女の病室へと通った。今回は少し久々で、前回来たのは3週間も前。元気だろうかと病室に行けば何故だか会えなかった。よく分らない、けれどきっと彼女の容体が良く無かったのだろう。病室に近づくことさえ躊躇われて、僕はその場から離れた。叔父さんの病室へと戻れば、彼は僕を見て何かを察した様だった。

「まあそんな気ぃ落とすなや。たまにゃあ俺の話し相手になってけ」
「いっつも5分位は話し相手になってるじゃん」
「5分だぞ、たったの5分だなんて、そんな冷たい甥っ子をもった覚えはない」
「そんなこと言われたって」
「とりあえずお前、其処の煎餅でも食えや。美味いから」
「ん、それ母さんがもって来たやつでしょ」

僕の好きなお菓子。家にも一袋あるんだけれど、まあいいや、お言葉に甘えて食べさせて貰おう。
叔父さんはちょっと口が悪いけれど性格は良くて、でもちょっと体が弱くて、小さい頃からよく体調を崩したり病気がちだったりしたらしい。それでも友達は沢山居て、頼りになる。母さんもそんなだから叔父さんの事大切にしているのだと思う。
それから暫く叔父さんと話していたら、気付いたら1時間近く経っていた。そろそろ帰らなければならないと立ち上がる。

3年前 No.252

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其れから何度か彼女の病室へと行ったけれども、やはり彼女と会えることは無かった。不安が僕を覆って行く様になっって苦しくて苦しくて堪らなくなった。次第に学校へ行くのも、其処で彼女がいないのを見るのも、嫌で仕方なくて僕の方が死にそうな程。
だから、覚悟なんて出来ているはずが無かった。
其れを告げられたのは、ある日の学校でだった。

つまり、僕の友人が1人亡くなってしまったと。

人生のうちで、こんなにも早く身近な人を失うことになるなんて思っても見なかった。信じられない、たちの悪い嘘であればいい。心の底からそう思った。でも、思うだけじゃ人の死は覆ったりしない。そんな事分かっている。分かっているから余計に嫌になる。其れ程までに僕はまだ、理性的なのだ。これ程辛く、苦しい時でも、本能よりも理性が勝ってしまう事実に泣きそうになる。
けれど僕はそれから1週間程で叔父さんに会いに行くことになった。あの病院にまた行くなど、無理だと思っていたけれど。やはりそこは理性が勝って、普通にその玄関を越え、階段をのぼり、好きになれない病院特有の匂いを嗅ぎながら叔父さんの病室へと向かう。
そこではいつも通りに叔父さんが微笑んで迎えてくれた。母さんはお手洗いに行ってしまっているから、今は二人で話すことになる。窓際の花瓶が眩しい。

「なあ、お前」
「なに?」
「友達が、いなくなったんだってな」
「なんで知ってるの」
「……前にその子が、此処に来た事がある。お前が友達に会えなかった最初の日より、まだ前だ」
「それで?」
「此れをお前に渡してくれと、そう言われた。お前にならきっと、伝わるって言ってた。……ほれ」

ほれ、と渡されたのは、

3年前 No.253

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ほれ、と渡されたのは見覚えのある臙脂色のバッグ。デザインも、大切に使われたもの特有のくたびれた感じも、紛れもなく彼女のものだった。其れが何を意味するのか、僕は咄嗟に頭が働かない。

「……それ、なんで」
「お前の友達が持ってきた。どうしてこの病室がわかったかは、分らないけどな。……それ随分多いけど、千羽鶴でも作ってたのか?」
「みたいなもんだよ。……ありがとう、叔父さん」

僕は、受け取ったバッグをそっと抱えて黙り込む。いつもは陽気で話すのが好きな叔父さんも、何も言わなかった。すぐに母さんが戻って来て部屋に明るさが戻る。僕は特に話したいこともなく2人が楽しげに話しているのをじっと見ていた。少しして折り紙の花の花瓶越しに見た外は明るく、燃える様だった。丁度日が落ちかけている時間帯なのだろう。地平線上にある太陽は真っ赤に見える。でも、その裏側で、真っ青になった空があることも僕は知っている。そう、教えて貰ったから。そうだ、それこそ折り紙の花の色と同じに。

どうしてだろう、何故だか今、わかった気がした。

家に帰り自室に籠ってから、僕はまず机の上にバッグをおいて大きくため息をついた。
あの花瓶はいい目印になったはずだ。彼女の作った折り紙の花を生けている人は、彼女本人と叔父さんしかいない。部屋の見当はつけていたのかもしれない。名字が違っていても、其れさえあれば分かるから。病院の中を歩き回って、病室を一つ一つ覗いて行ったのだろうか。わざわざ其処まで面倒なことをしてまで、彼女が僕にこれを渡したかった理由がなんなのか。
それはきっと、此れを見れば分かるだろう。
中身は一冊の日記、そして折り鶴。
まずは日記を開く。やはり書いてあるのは、数字ばかり。さっぱり意味が分らなかった。けれどそれで思い出すのは、最後に彼女と会った、その日のことだった。

折り鶴は順調に増えていた。その日もやはり彼女は、僕が訪れた時白いのを一つ、折っていた。今まではカラフルなものばかり折っていたのに、その日は何故か真っ白な鶴だった。

「ねえ、暗号のこと教えてくれないの」
「ヒントをあげたじゃないか。じゃあ……そうだね、仕方ないからもう一つ。君、光と影の話をしたことは覚えてる? まあ、影は闇としてもいいけれど。実際には違うものだから、使い分けなきゃいけないものの一つだけれど、今は面倒だから同じものとしよう。光がなければ影は存在しない。それは表裏一体のものだって、前に私は言ったよね。つまりそれは、闇があるからこそ光も存在するって言う考え方もできるんだよ。意味、わかる? だからね、光を見たい時、そこには闇が必要なんだ」
「いや、それがヒントだっていう意味が全く分らない」
「考えてごらん、君なら分かるから。きっとだよ」

そう言って彼女は完成した折り鶴を僕に渡して、にっこりと笑った。
受け取った僕はどうしたらいいのか分らなくて、ありがとうと呟いた。


3年前 No.254

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覚えてる。はっきりと。彼女が始めて僕にくれたギフト。それがどれほど素敵かなんて、彼女にはきっと解ら無かったに違いない。真っ白な鶴。机につけられたライトに照らされその鶴は微かにその光を反射する。

「あれ」

思わず呟く。それはよく見ると、真白では無かった。
どうも、内側に。文字が書かれているようだった。
僕は不思議な予感がして、何かに突き動かされる様に鶴を開いていった。丁寧に、破かない様に。彼女の折ったその鶴を、僕はその手順とは全く逆に開いていく。彼女の足跡を辿る様に。
開き終えたその正方形の紙には、紛れもない彼女の丁寧な筆跡。

『私の友達へ。
折り鶴は、夢の象徴。
薔薇は、約束。
光は闇にこそ支えられる。』

よく分らない。けれど彼女が何かを僕に残そうとしてくれていることだけはよく分かった。
僕は再び日記を見て考える。彼女は簡単だと言った。彼女の簡単なんて、僕らの言うところの簡単とは違うといつも思うのだ。けれど彼女だって人間で、彼女だって中学生なのだから。彼女にも分かる様な暗号。尚且つ、僕でも分かるということはある程度の規則性があるということだろう。
使われている数字は、全て小数……と言うのとは少し違っている様だ。・と\が多用されているのが分かる。恐らく\で数字を分けているのだろうから、一つ一つに含まれる・は一つか二つ。殆どが一つで、尚且つ二つのものは最後につく数字は必ず2。それ以外の規則性といえば、・が一つのものを小数と見た時、小数点以下の数字は1から5までしか無い事くらいだろうか。
ということは、だ。なんだかこういうのに似たものを小説で見たことがある様な気がする。
思い出せ、此れを僕はきっと知っている。
彼女は本当に僕じゃ分らないなら、こんなこと、僕には書き残さない。

考え続けて、続けて、続けて。
不意に何かが頭の中で繋がった。

そうか、この数字は五十音を表しているんだ。整数の部分は行を、小数の部分は段を表しているんだ。例えば……「3・5」だったら、整数部分の3は「あ、か、さ……」と順に見た時の三つめだから「さ行」を表している。次に小数部分の5は「あ、い、う、え、お」と見た時の五つ目だから「お段」を表している。ということは、さ行のお段という意味だから読み方は「そ」。不規則な形で最後に2がつくのは、恐らく濁音の代用品。
この要領で読めば、殆ど読めてしまいそうだ。
僕は丁寧にページ数が書かれているそのノートをパラパラと捲っていき、そこで赤丸のつけられているページがあることに気付く。幾つかある様だけれど……そのうちの一つを選ぶと。其れは少し前に覗いたページだった。

『あのひからわたしはこわくてたまらない』
『これほどかんたんにともだちがいなくなってしまうなんて』
『さみしいよ』

あの日って、いつだろう。彼女は何を言っているのだろう。
簡単にいなくなった友達とは、誰のことを言っているのだろう。彼女の元へお見舞いに来ないクラスメートのこと? 其れは無い気がする。たまにメールなどで友達とした話を僕にしてくれることがあった。じゃあ、誰だろう。他に居なくなった友達なんて。

1人しか、思いつかない。

数年前に彼女は、重い病で仲の良い友人を1人、失っている。

勿論その子は僕らの同級生で、誰とでもよく話す、人当たりの良い子だった。だからこそその子が亡くなった時は皆悲しがったものだ。僕らも、大人も。
けれど人の死とは不思議なもので、時間が経てば、身内だったりとても仲の良かった人でなければ徐々に記憶から薄れていってしまう。或いは、仲が良かった人でさえも、思い出せなくなるのかもしれない。たまにふと思い出すことはあっても、その時にはもう、声は勿論、姿すら怪しくなるのだ。

もしも、あの日というのが。
その子の死んだ日だとしたら。
彼女の恐怖は、今の僕になら理解できるかもしれない。

他の折り鶴にも手を伸ばす。丁寧に開いてゆく。彼女と同化するように。同調するように。共鳴するように。共感するように。彼女の思ったことを、願ったことを、誓ったことを、感じられたらいいと僕自身が願いながら。
けれど、その鶴の中は真っ白だった。
思わず、眉根を寄せる。
折り鶴は夢の象徴。それはつまり、彼女の願いを託したということだと思ったのに。
薔薇は約束。それはきっと、青い薔薇が僕へと鶴を渡すための道標、目印となるから。
じゃあ、残った一文はなんだというのだろう。そればかりは、意味付けが出来なくて、頭を抱える。
光は闇にこそ支えられる。
そういえば彼女と最後に交わした会話で、そんな単語があったはずだ。
そう、光も闇も、互いに存在することで、その存在を明確にできる。他方がなければ、自分は存在出来ない。

「そっか、そういうことか」

少しだけ折り紙を傾けて見てから、やはり納得する。僕は鉛筆を引き出しから取り出して、出来るだけ水平に持って紙を塗ってゆく。すると其処には白く文字が浮かんでいく。
きっと彼女は、芯の出て居ないシャーペンか、インクのなくなったペンで数字を書いたのだ。だからそこに、字は書かさっていない……ようにみえる。実際には、跡をつけるという形で字を書いているのだけれど。ちょっと気をつけて見れば分かることでも、逆に言えば気をつけなきゃ見えないということ。





3年前 No.255

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鉛筆で塗られたことによって生まれた闇は、目には見えなかった文字を光にし、浮き上がらせた。光の文字はごくありふれた日本語。

『友達を大切にすることがどれ程幸福なことか』『淋しさを紛らしても許されるなら』『愛してることを言えたなら』『あの子が今ここに居て、語り合えたなら』『さよならなんて言わないで』『本音を口にも出来ないわたしが嫌い』『大好き』『苦しくて堪らない今がこんなにも愛おしい』『懐かしい日を忘れない様に』『溢れる幸福を』

沢山の短い言葉が溢れて来た。一枚一枚にこんな事を書いて居たなんて。そういえば、折っている所は見たことがあったけれど、そう言えば折る前の紙は見た記憶が無い。僕が彼女の病室へ行く時間はある程度決まって居たから、それ以前に書いてしまえば僕がこの文字に気付くことは無い。
ふと、ある一羽で手が止まった。其れだけは、数字だった。暗号だった。なんだか特別な感じがして。

『きみにたくすよ、わたしのこえを』

其れとともに、ページ数が書いてあった。僕は再び日記に手を伸ばし、折り鶴に書かれて居たページを探す。そのページは白紙だった。その少し前のページまではぎっしりと書かれて居た数字も、そこには書いていない。けれど、少し光にかざすと、やはりインクの無いペンで書かれたらしい文字が見えた。面倒だったのか、急いで居たのか、書かれているのは数字では無い様だった。僕はまた鉛筆を斜めに持って闇を塗りたくる。現れた文字を僕はゆっくりと何度も繰り返し読む。

『君が此れに気付いてくれること、暗号を読み解いてくれること、ずっと祈って居たよ。君が此れを読んでいるなら成功だし、君の叔父さんを私がちゃんと見つけて、尚且つ彼が私の頼みをちゃんと聞き届けてくれたって言うことだね。どうか君の叔父さんにありがとうと伝えておいて。
此れを書いているのは、私があの日亡くなったあの子を忘れないため。あの日亡くなったあの子を、せめて君にだけは忘れさせないため。人は亡くなった人を案外簡単に忘れてしまえるから。そうした方がいいこともあるし、そうじゃ無いこともある。私はその判断がつかないけれど、あの子のことを忘れたく無い。この世界に少しでも刻みつけたい……って書くと、ちょっと中二チックになる?
私ね、思ったよ。さよならをしなきゃいけない時なんて、生きていれば何回でもあるだろうさ。でも、これ程辛い別れは初めてだと、あの時本当に思ったんだ。もうこんな思いはしたく無いとも思ったよ。それでも、友達と言う存在に縋っていたのはそれ以外の生き方を知らなかっただけかもしれない。君が来てくれる度に、話をする度に、とても楽しくて喜びに溢れて、手放し難かった。
君が読んでくれたなら、良かった。いいね、私の思いを、考えたことを、伝えたことを忘れないで。あの子と一緒に、私のこともこの世界に少しでも刻みつけたいんだから。大切な友達の君だから。それに。
これが最後だからね』

彼女が残した折り鶴の全て。此れらに刻まれた言葉。弔う鶴という意味。
彼女がどれ程、あの子の死を悼んでいたか、そしてどれ程今現在生きていることを幸福と感じているか。嫌という位伝わってくる。ああ、嫌だ、嫌だ。押し付けられる。

3年前 No.256

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確かに死人に口は無い。でも、現代の人間はいくらでも死ぬ前に言葉を遺せる。その術を持っているから。だからってこんなの身勝手すぎる。
彼女の悲しみは、苦しみは、辛さは、喜びは、幸福は、後悔は、痛みは、恐れは、嬉しさは、怒りは、涙は、恋は、僕の物なんかじゃない。彼女の物だ。押し付けられてたまるか、僕は僕なんだから。理解は出来ても、受け取ることなんか出来やしない。
そうだ、さよならなんていくらでもある。この世の中で地球上で、今僕がこうして手紙を読んでいるこの時にもこの国や或いは全く別のどこか遠い国、地球の裏側でだって人は死んでいるし、さよならしてる。でもそれと同時にやっぱりどこか僕の知らない様な所で誰かが出会って或いは誰かが生まれて。そうやってずっと続いて来たものがある。それは僕ら人間が生まれるずっと前から続く物だ。誰も逆らえる様なものじゃない。
そんな事、彼女だってちゃんと分かっていた筈だ。だって僕にだって分かるんだから。けれどその上で、忘れないでくれというのだ。
其れがどれほど傲慢かも、分かったうえで。
忘れるな、なんて。忘却は人間への救済策だ。其れでも、其れを放棄しろという。そんな無理難題を押し付けてくる彼女に僕は怒りすら覚える。嫌だ、やめろ、押し付けるな。
でも、きっと彼女の企みは、試みは、成功するだろう。
僕は、この日記や鶴を、捨てられない。




ああ、そうだ。
さよならだ。
そして、君は生き続けるんだね。








僕は真白な鶴を、彼女の写真の前に供えた。







3年前 No.257

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幸福に包まれちゃって、私、今なら死ねるかもとか彼女は言った。冗談じゃない、そんな事あってたまるかって、僕は言おうと思ったのに、伝える前に彼女は帰ってしまった。

死ぬなんてそんな簡単に言うな。
殺すよりも、あまりに寂しい。
そんな事、お願いだから言わないで。

けどきっと本当に僕が「そんな事言うな」とか言ったら、彼女は変な目で僕を見るだろう。別に本気で言ったわけじゃ無いんだから良いでしょ、って。でもそんなの知った事じゃ無い。僕はそんな言葉を聞きたく無いんだし、彼女に言ってほしくない。それだけ。言うだけならただだし。

僕が言葉に敏感になったのは、彼女のお陰だった。もともとあまり言葉遣いの良い僕ではなかったけど。言霊は大事にしなきゃ駄目だよって、彼女は言った。本当に大切なら、本当に大切な時、照れ隠しで嘘なんか言っちゃダメだって。そんな時じゃなくても、たとえ嘘なんかじゃなくても、嫌な事も、何もかも、言っちゃ駄目だよって、教えてくれた。

すぐには直りゃしないけど。それでも僕は気を付けたし、彼女がたとえそんな事に気づいていなくても、感謝だけはしてるから。だからこそ彼女には、嘘でも喩えであっても、死ねるなんて言ってほしくないのだ。
本当にそれで死んだ人だっているのだから。

嫌だよ、嫌だよ、僕はもう誰にも死んでほしくなんかないんだから。

2年前 No.258

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「つっまんねーなあ」
「おい」
「んなくだんない事で呼び出されたのかよー、あたし」
「うるさいな。いつでも呼べっつったのお前だろ」
「ん、言ったね」

夕方より遅い頃。行き慣れたファミレスのボックス席で、あたし達は話していた。目の前に座る彼は、あたしの初恋の人。けれどその事を知るのはあたしだけだ。
水の入ったグラスを右手に持ち揺らしながら返事をする。それからグラスを口元へ持って行き、一口流し込んだ。
あたしがこの街に帰ってきたのが半年前。中学の頃の友達と集まって騒いだりして、それからそのメンバーの中にいたこいつとも連絡先交換していた結果、こうして彼と仕事終わりに待ち合わせて、このファミレスで食事するようになった。

「つか、なんでお前、んなこと言ったの」
「んな事って......なんか話したくなったらいつでも呼べよって?」
「そうそれ」
「なんっかさあ、集まって騒いだ日にさあ。お前、あんまし最近のこと話そうとしなかったじゃん。それって、大勢がいるとこで話したくないのかなと思って。で、そういう時って、最近の事と悩みとが一緒になっちゃってる時かも、なんて想像してみた次第」
「エスパーかよ」
「へへ、すごいっしょ」

あの日、あたし達は居酒屋に行って、飲んだり食べたり話したりした。久々にこの街に帰ってきたのはあたしだけで、みんなはずっとこの街で結婚して、働いて、生活していたみたいだったけど、普段はあまり会うこともしないそうで、だから話す事は尽きなかった。あたしがいたのは奥で、丁度真向かいに彼が座っていた。彼は周りに合わせて笑ったり囃し立てたり返事したりしてたけど、自分の事を自分から話そうとはしなかった。
暫くして、半数が酔い潰れたり帰ったりした頃。あたしと彼はお互い隣がいなくなったため、二人で静かに話し始めた。内容はもっぱら中学校の頃のことで、こんなことあったよなあとか、懐かしい事を延々と話した。高校からこの町を離れていたあたしは、こうして面と向かって昔話をすることが無かったから、楽しくて、嬉しかった。
彼が初恋である事は誰にも言ってないし、言う気もなかった。彼は当時、彼女がいたし、そうで無かったとしても、告白したところで振られただろうなあと思う。そもそもそんな勇気すらなかったけど。それに、友達でいる方がよっぽど楽しいと思ったから。
そしてその日あたしは彼と連絡先を交換しながら、酔いに任せて

「なんかさあ、話したい事とかあればいつでも連絡してよ。聞くだけならあたしにもできるから。悩みであれ、嬉しかったことであれ。聞いて欲しければ、連絡してくれれりゃ時間作るからさ」

なんていった。正直に言えば、未練がないかというと嘘になる。高校で彼氏が出来て、今はもう別れちゃったけど結構充実した生活送ったし、彼氏とは今でも友達として仲良くさせてもらってる。でも、初恋の彼はなんだか特別なのだ。それ以降の恋愛において、基準になってしまっているようで。なかなかこれ!っといった人がいない。別れた彼氏とは、お互いなんだか恋愛と違うような気がして「友達に戻ろう」の一言で別れてしまった。

「いや、でも、そうじゃなくてさ。なんで話聞いてやろうと思ったの。別に俺に悩みがあっても、お前がそれを聞いてやる必要ってなくない?」
「んー、なんかさあ、目の前でこう、苦しそうなのって嫌なんだよね」
「......お前、目の前で苛々してる人いると、一緒になって苛々し始めたよな」
「だってさあ、苛々してんのわかるけど、うるさいんだもん。......あ、いや、そうじゃなくて。......話ってさ、聞いてもらうだけでいいんだよね。解決してもらう必要なんかない。誰かに話した、それだけで十分。それだけで、すっきりするものなんじゃないかなあ」

注文したものが運ばれてくる。あたしの前にはカルボナーラが、彼の前にはカツカレーが置かれる。フォークを手に取り麺をくるくる巻きながら話を続ける。

「あの日、君は悩んでた。でもそれをそのまま誰にも言わないでたんでしょ。それはよくないよ。ストレスじゃん。君、中学の時から思ってたけど、溜めて溜めて、結果周りに迷惑かけんじゃん。......でもそれって、話したくても話す相手いないのかなーとか、考えちゃうじゃん。したら、なんだ、話くらい聞いてあげようかなとか思うじゃん」
「ああ」
「もう他人になりかけてる友達になら、いろいろ話せんじゃね? みたいな。......話してみたら救われる事を知らない人は、そもそも話したりしない。でも、話して救われる事を知ったら、きっとその人はもう大丈夫なんだよ。ミヒャエル・エンデのモモって作品の主人公はね、そうやっていろんな人の話をただ聞くだけの子なの。でも不思議と皆んな、それだけですっきりするの。いいなあ、憧れんなあって思ってた」
「ふうん」

それからお互い食べ始めてしまう。暫く無言が続いて、食べる音がやけにはっきりと聞こえた。店内はそれほど静かっていうわけでもないのに。ちらりと彼の方を盗み見ると、彼は数口食べたままスプーンを手にしたまま、なおかつ口をもぐもぐと動かしたまま、窓の外を見ていた。一緒になって外を見るけれど、真っ暗なだけでよく分からなかった。

「そーいや君、今は彼女さんとかいないの?」
「いねぇよ。しばらくいない」
「まじか。衝撃的。......なんだ、そっか」
「今まで何にか付き合ったやついるけどさあ、皆んないい人だったけど、いまいちずれてるっていうか。こう、なに、しっくり来ないっていうの?」
「わかるよ」
「ていうか、俺の中にはもう、基準になる奴がいて。色んなタイミングで、こいつだったら此処はこう返してくれた、こいつだったら、こいつだったらって、思っちゃうんだよ」
「え、それめっちゃわかる。あたしもそうだった。初恋の人が、全部そーゆーの基準になっちゃってて、比べちゃって、勝手に物足りなくなんの」
「......え、お前好きな人いたの?」
「昔ね。昔々のお話ね。ロングロングアゴーね」

誤魔化すように早口で言い切る。その相手が君だったなんて言えない。

2年前 No.259

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苦しさを抱えて越えなければならない夜がある。
泣く場所もなくて、ただひたすら我慢だけして、襤褸襤褸になったその身を癒すこともできず、報われる日が来るとだけ信じて進まなきゃいけない時がある。
認めたくない形での別れを、受け容れなきゃいけない日があって。
自分の惨めさに、無力さに、愚かさに、強く後悔し破壊衝動に苛まれる瞬間がある。

「もう、いいよ。もうお前ばっかり、苦しくなくていいから」
「本当に、好きだったんだよ。好きだったの。ううん、今でも好きなの。でも、駄目だ、このままじゃ、あたし駄目なの。嫌だよ、さよならなんて嫌だ、やだやだやだ」
「わかったから。わかってるから」

2年前 No.260

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苦しいなんて誰が言うもんか。
寂しいなんてこと、誰からも隠してやろう。
弱い私は要らないから。弱かったら、きっと価値なんて無くなっちゃうから。
だからどうか誰も私を捨てないで。
涙は捨てよう、笑顔は特別なときにだけ。昨日のことは一旦忘れて、明日のことを考えよう。
暗いのは夜だけ、昼の光を頼りにすればいい。
現実だけが全てじゃないけど、現実を見なきゃいけない時がある。それがどんなに辛くても、乗り越えなきゃいけない時がある。その葛藤を誰かに悟られてはならない時だって、あるにはあるのだから。
苦しいよ、でも言わない。
行かないで。だけど、頑張って。
引き裂かれるのが私だけで良かった。
もう誰も悲しまない世界を。

2年前 No.261

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好きなものだけあればいいって思ってるよ。好きだなって思った人だけの世界で生きていきたいよ。それが無理だってことも、意味のないことだってことも分かってるよ。そりゃあ気の合う奴らだけでつるんでりゃ楽しいだろうさ、平和だろうさ。けれどもそれは停滞しか生まないんだよな。何も発展はしてくれないよな。争いは何も生まないなんて陳腐な言葉があるけれど、ああやって諍うからこそ発展してってんのも確かなんだよな。結局は欲なんだろ。何もかも手に入れたいし、楽したいし、負けたくもない。闘争心は、必ずとは言えないまでも、たしかに成長を促してんだ。平和は、たしかにより一層の安寧を望むかもしれないし、成る程それも欲だろうさ。でもそれはあまりに穏やかな変化だ。人間の寿命は一人一人短い。それどころか、ずっと子々孫々続いて行ったって宇宙全体ではほんの一瞬生きた者に過ぎないかもしれないのに、そんな悠長なことしてられないよな。激しく求めなきゃいけないんだ。うん、そうだ。知ってるよ、これが何も生まないことくらい。だけれども、今くらい良いだろ、たまには夢見たって良いだろ、弱音なんか吐かないから感傷に浸ったって許してくれよ。大切なものばかりが残るわけじゃないよな、だってそれじゃあ社会は成り立たないんだ。小規模にしたっておんなじだもんな。分かってる。ちゃんと。だからどうか何も言わないでくれよ。明日には良い子するからさ。いつも通り普通の良い子をするからさ。

4ヶ月前 No.262

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 私達が、家に居ながらにして「かえりたい」と言うとき、何処へ向かうかという話は一切していない。土に還りたい、という話でもない筈だ(断言は出来ない)。とにかく何処というわけでもなく、強いて言うなら何処でもない場所へ行きたい。恐らくそういう意味で、私達が行きたい場所というのは理想郷なのだと思う。だから勿論、ここで言う理想郷というのは、トマス・モアの意図したそれではない。言葉そのもの、正確には元となったギリシア語による “何処にも無い場所” 又は “素晴らしく良い場所であるが何処にも無い場所” を念頭に置いている。

1ヶ月前 No.263

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 ファンタジーの最も重要な点は、固定概念からの解放じゃないかと思う。一般にこうであるべきだ、こうでなければならない、と明言されてるものに限らない。長い年月によって凝り固まった考え方というのは、きっと私達が知らないところにだって幾らでもあるだろう。そして、いつかその存在に気付くと、急に問題になったりする。そして、それに気付かせてくれるきっかけの一つになり得るのがファンタジーであり、またその問題を取り払うことが出来るのもファンタジーなのではないか。

1ヶ月前 No.264
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