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虫籠と心臓

 ( 書き捨て!小説 )
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品田 ★joq6wOGSCE_nD9






 折らなかった羽のこと。食い破った心臓のこと。

 こんばんは、品田です。拍手、コメント、あるいは単位が欲しい拍手コメント乞食です。




5年前 No.0
メモ2013/04/20 14:45 : 品田★cV0vbKQ7IM_gHA

 見るからにそんな感じでやってます。


 どうやら書き捨てからコミュニケーションツールがなくなったようなので、作品へのコメントだとかなんだとかその他すべて記事の本文にどうぞ。

 だって気になって仕方がないんです。どちら様ですか。

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品田 @addict ★B0DCcGr2Ze_J6L

 かささぎさん

 こんにちは、お久し振りです。忘れるはずがありません。もちろん覚えていますとも!
 そしてご心配をおかけして申し訳ないです。なんだかんだ頻繁にメビには来ているのですが、なかなか更新できずほったらかしていました。忘れられていないだけでもうれしいのに、更新を待っていてくださるなんてちょううれしいです。本当にありがとうございます。

 あとSNSの日記の方にも拍手ありがとうございました。オリなりがしたいのに管理能力がないのでどうなるかわかりませんが、もし建てることができたらぜひ遊びに来てください(土下座)


 また書き込みに来ていただけたらとてもうれしいです。何度も繰り返すようですがありがとうございました! ぜひ気軽に声をかけてください。

4年前 No.76

品田 @addict ★B0DCcGr2Ze_QOE

 鷺沼はあたしの部屋にやって来るとき、必ず花束を抱えている。なんにもない平日に、喪服みたいな格好で、両手いっぱいの花を持って来る。
 だからあたしの部屋は花の匂いに満ちていた。もうなんの花がどんな匂いかわかるほどだ。鷺沼はあたしのことを花の匂いのする女だと言うけれど、そうさせているのが自分だと言うことには本当の本当に本気でまったく気づいていない。
 鷺沼が来る日は決まって雨が降っている。帰る頃には止んでいることが多く、あたしの家の傘立てには鷺沼の傘が何本もある。鷺沼は雨男なのだった。

4年前 No.77

品田 @addict ★B0DCcGr2Ze_QOE

>>77



「食パン焦がした?」

 鷺沼のために玄関はいつも空けてあった。それを知っていながらチャイムを鳴らして、あたしが出る前に入って来るのだから、鷺沼は変な男だ。花束をあたしに預けながらトースターを開けて、やっぱり、と小さな声をあげて笑う。

「洗濯物を取り込んでいたら焦げたんだ」
「あー。トースト作るの下手なんだから見てなきゃって、俺こないだも言ったじゃん」
「今日は大丈夫かなって」
「その根拠のない自信どこから来てるの」

 鷺沼が笑うと、空気がやわらかく歪む。あたしはその様子を春に似ているな、とたびたび思う。誰に言っても伝わらないだろうけれど、鷺沼は春に似ていた。
 あたしは雨の匂いが少しずつ薄れていくのを感じながら、花束の中身を確認する。チューリップ、スイートピー、フリージア。新しい花瓶に移そうと立ち上がると、横から鷺沼に取られた。だからあたしはまたベランダの側の揺り椅子に座る。

「……これは? エニシダ?」

 水が花瓶に注がれる音を背中で聞く。
 問いかけると鷺沼が、おおと声をあげて笑った。よく気づいたね、って花瓶をテーブルに飾ってから、あたしの頭を撫でる。

「似てるけどね。ラナンキュラスって言うんだ」





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 「ひとつ前のレスと非常に似ているか、文章がそのまま使われています」というエラー表示が出ます。というわけでここで余計な話を並べて解除しようと思う。いや、思ったけれど何度チャレンジしてもできなかったのでこのまま投稿する。


 花のことはなにもわかりません。うちに花はないです。近所の藤棚がうつくしくってやんなっちゃうぐらいで、花のことはよく知りません。金木犀の香りが強くて好きだとか、まぁ、それぐらい。
 嘘を書かないようにしようと思うと詳しいことを避けるようになるのでこのザマです。これとは別にエニシダの話を書こうとしているので、たびたびそのワードが入っていますが、自覚はあります。


 ところで、どこかでサンドウィッチをつくる描写がいれたいです。食事の描写が一等すきだということはもうバレていると思う。文でも絵でも食事の描写が心底すきなんですよ。食事描写のあるおすすめの小説とかあったら教えてください。あるいは食事の描写がある小説とか恵んでください。頼むから! 土下座でもなんでもするから!

 いっそのことお食事企画したい。食事の描写があればどんなジャンルでもオールオッケー。誰かこの指止まってくれませんかね。食事描写についてのこだわりはいずれどこかでしたいと思います。

4年前 No.78

品田 @addict ★B0DCcGr2Ze_QOE

 田邉は雨が降ると決まって煙草を吸いたがる。禁煙したというくせにしょうがないやつだ。俺は、ビニール傘を持って駅前の喫煙スペースまでわざわざ歩いて行く田邉の背中を、ベランダから見下ろしている。



 田邉と出会ったのは冬の明け方だった。寒さに赤くなった鼻やかじかむ指先をこすり合わせることもなく、ただ静かに煙草を吸っていた。穴の空いたビニール傘を飾りのように差して、いつからふかしているのか、肩なんてずぶ濡れだ。ライトグレーのパーカーが染み込んだ雨で黒くなっている。

「……どちら様?」
「よかったら使ってください」

 喫煙スペースのすぐ近くに俺が乗るべきバスが停車していて、だから差していた傘を男に渡した。俺はバスに乗るから濡れないので、と男の質問には答えず、半ば押しつけるようにしてビニール傘を持つ男の腕にかける。突然傘を使えと言われて不審がりもしない男に、俺はもう一度、使ってくださいとお願いした。わかったと男がにっこりするので、それにつられて微笑んでみせる。
 俺は、まもなく発車いたしますというアナウンスに呼ばれてその場を離れた。バスに乗り込んで後部座席から男を振り返ると、彼は短くなった煙草を挟みつつ、器用に俺の傘を差している最中だった。





「能都(のと)、なんかいいことでもあった?」

 あれから家に帰って気を失ったように眠った。起きたら先月から始めたコンビニの深夜バイトに行く時間だったので、俺は支度もそこそこにチャリンコを漕いでバイト先に向かう。そうして息を切らせながら遅刻三十秒前で自動ドアをくぐったとき、珍しくレジに居た店長から言われたのだった。

「いきなりなんスか」
「いやあ、だってご機嫌に見えたからさぁ。クソビッチの彼女とヨリ戻したの?」
「ハ、冗談を!」

 だよねぇ。帰ってきたらお風呂で知らない男とキャッキャッしてた挙句、友達だって言い張る彼女だもんねぇ。
 人を見る目がないなんてかわいそう、とのんびり言う店長に、そんなことよりお金くださいと笑っておいた。安達祐実の雑な真似、やめてよと笑う店長にハーゲンダッツを寄越して奢って貰う。





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 テキストサイトつくったけれど実際書き捨てで十分だよね。わかってるんだよ。
 こんな突然男が男に傘寄こしてきたらまず一番に不審者だって思います。品田なら黙ってその場を立ち去る。

4年前 No.79

品田 @addict ★B0DCcGr2Ze_IeS

 キャンパス内の図書館の裏でひとしきり吐いた。胃液の中に鮮やかな色が混ざっている。なにを食べたか覚えていない。ひどくカラフルなことが恐ろしかった。
 口の中の味にもう一度吐きかけて、けれど始めからほとんどなにも胃に入っていないから吐けずに気持ち悪さだけを飲み込む。壁についた手で無意識に爪を立てていたのか、気づいたときには先がボロボロになっていた。
 そうして俺がそんなふうにぼうっと立っていると、二階の窓が開いて、千鶴、と声がかかる。顔をあげなくても誰が声を発したのかわかった。こんな時間に新聞閲覧室に居るのは、そもそも、大学に入ってから俺のことを名前を呼ぶのは、科野ぐらいしかいないのだ。

「千鶴、どうしたの。気分が悪い? 帰ったら?」
「授業が」
「ふ、馬鹿ねぇ」

 単位なんて落としちゃえよ、要らないだろ。
 科野は微笑むだけだが、見上げるとそう言っているような目をしている。俺は足元にこんな鮮やかなゲロを吐きながら、科野の背景に青空は似合わねえなあと思う。
 俺は科野が投げたペットボトルを受け取って、キャップを外す。自分が飲むためではなく、俺がいつでも吐いて良いように持っているんだって、酔った科野がこぼしたのを覚えている。憎たらしい親切を睨みつけながら、俺はその水で口をゆすいだ。

「……お前とは違うんだよ、留年ヤロウ」
「やだなあ。あたしだってお前とおんなし学年になるとは思わなかったよ」
「科野」
「授業なんてつまんないよ。あたしと話してるほうがよっぽど楽しいだろ? 千鶴、ぶっちぎれよ。明日頑張ったら良いんだ」
「お前も次授業だろ。教授から科野のことは無理にでも引っ張って来いって言われてんだ」
「ふ、それでお前はなんて?」
「努力しますって」
「できないこと、わかっているくせに」
「科野」

 ニタリと笑うのを見て、めまいを覚えた。どうしてこんな笑い方をするようになったのか。出会った頃は青空も似合ったし、声を立てて笑い転げるようなやつだったのに。
 ペットボトルの中身を飲み干して、その辺に投げ捨てる。エコロジーのことは気にしなくて良いと言っていた科野に習っての行動だ。口を拭って踵を返す。

「笑うなよ」
「わかった。あと一緒に帰ろうぜ、後ろ乗せてやるから」
「…………おう」

 窓を乗り越えてそのまま飛ぶだろう科野のことを、昔のようになんでも理解できなくなってしまったのは、一体いつからだろう。





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 いいね11個目と12個目ありがとうございます! 11個目のときから気づいていたのに毎度毎度お礼を忘れていました。すみません。でもとても励みになります! 良かったらコメントも残していってね。
 それから特に理由はないはずだけれど、5月、文章書くことが心底楽しい。夏前だから浮かれてるのかもしれない。夏が好き。

4年前 No.80

品田 @addict ★MPkpcyttB7_IeS

 グルダーニャのことを待つと決めた。氷点下6.8度の五月のことだ。





 中央を通る駅と、外れにある駅と、この町には二つの線路がある。中央は北の首都へ、外れは国境を越えて西南へ向かう。国境を越えるには国家からの許可が必要で、それをなくして出るのは重罪とされているから、ほとんどの人間は中央の駅しか使わない。けれどグルダーニャはそうではなかった。彼はこの地を去って、南下した。
 恐らく許可は得ていない。重罪だ。国外逃亡は死罪とされていたから、連れ戻されたら彼は必ず殺される。それを理解していてなお、グルダーニャは国外に出ることを選んだのだった。

「必ず帰るよ。シェノ」

 彼が逃亡したのは五月の始めだった。ずっと一緒に、まるで兄弟のように育ってきたのに、僕には一言も告げずに町を出て行って、同じ月の終わりに手紙が届いた。誰に頼んだのか、その頃にはもうグルダーニャがいなくなったことで彼の家にあったものはすべて取り押さえられていたし、僕はもちろん言葉を交わしたことのある人間はみんな調べられていた。だから手紙が届いたとき、僕は夢かもしれないと半ば本気で思ったのだ。
 手紙にはたった一文、いつかは帰ること、それだけが書いてあった。





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  >>73 に似ている気しかしません。

 それよりも、拍手13個目ありがとうございます! 最早自分で押してしまっているのではないかと思いそうなレベルになってきました。読んでくださる方がいるなんてうれしい。毎度毎度終わりまで書けなくてすみません。誰かやる気と根気をください、もしくは続きを書いてください。

4年前 No.81

品田 @addict ★7wbxQOZMrs_ZUy

 生きて欲しかった。未来を選んで欲しかった。
 エゾノラは震える唇でここを離れないと言う。ベッドの傍で、横たわる人の手をずっと握っていた。生き返りはしないのだと、知っていてなおそれでも、エゾノラはそこを離れようとしない。
 心臓はひとつだと言わんばかりに、ずっとともに生きてきたのだ。エゾノラは未来を選んではくれない。わたしはひきつる喉を鳴らしてエゾノラを抱き締める。
 生きて欲しかった。未来を選んで欲しかった。これからだって、エゾノラの笑う顔が見たかった。

「ティティ、お別れだ」

 エゾノラ。





 町を抜け出した最初の人間はわたしだった。
 微かに黄色い空の、空気があまりに清浄な朝、誰にも会わないようにして始発列車で西へと向かう。一刻も早く、この東の果ての町から出なければならなかった。
 わたしは夜明けを待って静かに抜け出し、音を殺して公道を歩く。焦りばかりが足を動かし、今にも走り出しそうだった。それでも、見つかればまた病院に戻されると知っていたから、懸命に堪えて駅までの長い道のりを行く。正常さは失われ、なにもかもがおかしかった。
 町を抜けるまでに、わたしは赤や黄色や緑といった、鮮やかな色を何度となく目にする。





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 拍手14個目と15個目ありがとうございます! カウンター1000越えありがとうございます! 最近町から逃亡する話ししか書いていないので「またかよ! これで何度目だよ!」と嘆かわしく思われていることでしょう。発想が貧困。
 いい加減こんな逃げてばっかりの話しじゃなくて「すきすきだいすきー! ダーリンまじあいしてるー!」みたいな話が書きたいです。ウルトラスーパーラブラブカップル。明るく楽しいお話を書いたのはいつ以来だよ……本当に!

 そういえばTwitterで話しかけてくださる方がいてうれしいです。調子に乗って話しかけてヒかせるのが得意なので自重したいところ。取り敢えず創作の話しましょう! 品田がちょう楽しくなるので! 自己本位な人間でごめんなさい!

4年前 No.82

品田 @addict ★qAVYRvTVCj_rWF

「君の不幸はそれほど大したことじゃない」



 君をベッドから蹴落とした彼女がシーツを剥ぎながらに言う。それなら一体どんなことが彼女にとって不幸なのだと言うのだろう。君は寝ぼけまなこで彼女のことを見た。まぶたのグラデーションに含まれる色彩を数える。






 月曜日だというのに君は10時過ぎに起きて、彼女の完璧なナチュラルメイクの工程を眺めている。すっぴんみたいだね、と言うと、それが一番イイ褒め言葉なのだと教えてくれた。
 それから彼女は君のことを蹴落として、シーツを洗濯機に入れてしまう。君のまだ寝ていたいという主張はまるきり無視だ。彼女は洗濯機を回して君のためにフランスパンを焼いてくれる。

「バターを塗ってね、少し塩をかけると美味しいんだ」

 慣れた様子で彼女は君にとっての朝食をテーブルに出す。君はありがとうと言ってフランスパンにかじりつく。ボロボロとパンの欠片を皿にこぼしていることに気づいて、君はその切れはしを置く。食べ方が汚いので食事が下手だと両親や友だちから散々言われてきたのを思い出した。顔を上げると向かいに座った彼女がいいから食べなさいと言うので食事を再開する。

「あたしが片づけるから、シャワーを浴びておいで。午後はお前と出掛けるよ」





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 たまには甘やかす話しでも。

4年前 No.83

品田 @addict ★0htdju2dlK_Pg9

「色が見え過ぎるらしい」
「どうりで」

 お前と見えるものが違うことぐらいとっくに気づいていたよ。1ミリだってずれずにそっくり同じ場所に立っても、お前の見るものは俺にも、俺じゃなくても誰にだって見えない。
 そもそもひとりひとりが違うのだから見えるものは等しくない、視界を共有することはできないと、誰かはそう言っていたけれど、お前に限って言えばそういうことではないのだ。俺は知っている。お前が、お前だけが特別だった。

「ずっと私の目や脳がおかしかったんだね。文字だって色づいて見えるのに」

 愛、という文字がお前の後ろにあるワード画面の改行された一番上に来ている。何色なの、と訊けば、心臓みたいに赤黒い、でもどこか透明だ、と返ってくる。俺はテーブルに飲みかけのコーヒーを置いて、お前の座る仕事用のデスクに近寄る。見下ろすとなぜかお前は顔を歪めて笑った。それが泣く寸前の表情だとわかっていたから、俺はその頭を抱いてなにも見えないように自分の腹に押しつける。





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「お前の形容は誰にも理解されない」

 仮題として。しかし絶対変わるだろうに。ウルトラスーパーラブラブカップルの明るく楽しいお話を書くといって結局このあり様です。
 それからいいね16個目と17個目ありがとうございました! うれしいです。どうぞご贔屓に! 良かったらいいねだけじゃなくてコメントとかね、していってね。どうか品田と文章の話をしてくれよ。頼むよ。あ、雑談も得意なんですけれども。とにもかくにもよろしくお願いします(切実)お待ちしております(切実)
 もし、こんな大勢のひとに見られるような書き捨てじゃあ……って感じでしたら日記やらアカウントやらTwitterに突撃してください。まぁ、品田と関わりを持ちたいとか思うUMAみたいなひとはそうそういないと思うんですけどね、一応ね。よろしくね。

 最近やたらフランクです。コミュニケーション能力の向上だったらうれしいぞ。

3年前 No.84

品田 @addict ★eSsQ3XV17e_Pg9

 キャンパスの外れにあるJ101の教室でチューニングAの音がする。
 13時からの特別講義に弦楽四重奏をやるのだと、今朝乗ったバスの中で聞いた。
 J棟でエレベーターを待つ僕の耳に、下の階からAの音が響く。少しばかりひずんでいると思った。

3年前 No.85

品田 @addict ★wBM0BObB3P_Pg9

 脈打つ数が決められているのだとしたら。






「寝てた?」
「……ちょっと。いつ来たの?」
「さっき」

 目が冷めると隣に彼がいて、おはようと言いながら歯を見せて笑う。今日の最高気温は36度だっていうのに首筋が汗ばんでいないから、さっき来たというのは嘘だと思った。私は一体どれぐらい寝ていたのだろう。
 窓の向こうで雲が流れていくのを、不思議な気持ちで見ていた。上と下で流れる早さが違うのだ。なにか、よく似たことがあった気がするのに、思い出せない。

「いま何時?」
「6時前」
「仕事は? 終わったの?」
「まだだけど、ちょっとぐらい許してよ。また帰ってやるから」

 拗ねたような口振りに思わず笑うと、彼も顔をくしゃくしゃに歪めて笑う。私がその頬に手を伸ばそうとすると、その手を彼が両手で包みこむ。

「どうかした?」
「いい加減心配性治してよ」
「なにそれ」

 肋骨がひきつったような笑い方をすると、私の腕に刺さる点滴のチューブが揺れた。笑いすぎて心臓が痛いと言えば、冗談でもおろおろしてしまうんだろうなあ。
 苦笑した彼の手のひらを爪でひっかいて逃れる。





 ▼





「髪、結って」
「なんで俺が。やだよ。不器用だもん」
「いいから」





 ▼





 脈打つ数が決められているのだとしたら、私はひとより少しだけ早く打ち終わるらしい。





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 チエコ。

3年前 No.86

品田 @addict ★G9b7tEHI8X_1AZ

「誰にも言うな。助かりたいのであれば」

 噛みつくような近さで必死に響いた声に、あたしはなにも言えず頷いた。アサオに掴まれた腕は妙に生ぬるい。離してくれとは言えなかった。それより、死んだっていいと考えていた。





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 アサオとトモノ。「」内を言わせたいがために。そのうちもうちょっとマシな文章を書きたいと思っています。
 遅くなりましたが、いいね18個目ありがとうございました。励みになります。

3年前 No.87

品田 @addict ★BYWcYs8kA9_1AZ

毎朝マンションの14階からエレベーターを使うときに考えることといったら:





 死後の世界を想像したことはないけれど、自分の死んだあとの世界についてなら想像する。あるいはすれ違う見ず知らずの他人やクラスメート、会ったこともない誰かを殺すというシミュレーション。完全犯罪をどうやったら成立させることができるのか、など。あたしは「死」について半ば異常なまでに興味がある。
 しかしこれがおかしいことだと気づいたのはつい最近だった。大学に入ってそこそこで知り合った先輩に、「好きなお菓子はなに? 暇なときはなにを考える?」と気になる風でもなく聞かれたときに答えたら発覚したのだ。先輩はぎょっとした顔をして、それからようやくあたしという個人を認識したようだった。あたしは、先輩が他人に関心を持つときというのはちょっと頭のいかれてる人間に会ったときだと後で知る。

「死にたいと思ったことはある?」
「ない人間がいるとは思えませんが」
「じゃあどんなときに死にたくなるの」
「口内炎を噛んだときとか」
「なにそれ面白い!」

 先輩は文学部の四年生で、趣味は理科の実験。常時白衣を着ているのでときどき医大生と間違われるが、医大生でも白衣をずっと着ていることはないと思う。本を読むのはそこそこ好きだけれど、純文学は「まじで嫌い」と言っていた。じゃあなにがお好きですかと訊けば、「はらぺこあおむし!」と返ってきたのであたしはそれきり本の話をしないことにした。

3年前 No.88

品田 @addict ★akr28f9mPo_FwK

 歌を聴かせて。もう一度会いたい。





 通りで明るい銃声がする。玉は込められていない。出てきたのは花だった。抜き取った花びらに一度キスをして、私の髪に挿す。触れた指先は硬かった。きっと長く弦を弾いているからだ。輪郭が光に縁取られてかすかに透けているのを、まるでなにか神聖な、危うい生き物のようだと思って見ていた。

「ビビアン」

 名前を呼ぶと、応える代わりにギターを弾いた。言葉よりも豊かに響く。花のにおい。泥に沈む感触。すきだとわらう顔。
 ビビアンは指でうたう。ラララも言わない。



 ビビアンがこの町へ来たのは先月の初め、あたたかい陽光の降る真昼だった。
 もしかするとその数日前には着いていたのかも知れないが、人々がビビアンに気付いたのはその日が最初だ。
 花壇で一周された噴水の前。ちいさな椅子を置いて、そこでビビアンはうたった。ギター弾きの旅人ビビアン。すぐにみんな彼を好きになった。





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 イメージソングがありますが、書けそうだったらどこかで発表します。
 それよりもお久し振り。お元気でした?

3年前 No.89

品田 @addict ★kJVsqf1Bba_FwK

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3年前 No.90

品田 @addict ★Aj7bo306xG_iBL

 朝起きたとき、隣に温い生き物がいなくて息が止まりそうになる。抱き締めようと伸ばした腕がなににも触れなくて、もう、どうしたら良いのかわからない。起き上がって座り込むと、レースに遮られた朝日が背中を焼く。
 日が当たっているのに、冷たいと思ったのは指先の感覚が一向に戻って来ないからかもしれない。手を握ってくれる人は、どこかへ消えて戻らなかった。かろうじて出るかすれた声でいくら名前を呼んだって、もう、応えてくれやしないのだ。

「……フジ」

 キッチンから紅茶の香りがしているのに気がついて心臓がギシギシ言う。フジが好んだのは馬鹿みたいに甘いコーヒーだ。





「玄関。俺が鍵を閉めて出てくのに、わざわざ開けに来てるな、お前。今日もまた開いてたよ」
「だって、フジが帰ってきたとき閉まっていたら、かわいそうだろう」
「馬鹿、危ないだろうが。兄貴だって鍵ぐらい持ってるよ。家にないって自分で言ってたの、忘れたの」
「でも」

 着替えてキッチンへ行くと、フジの弟が紅茶とフレンチトーストを出してくれた。フジの弟はフジと同じように花の名前を持つけれど、私はそれをいまだに呼んだことがない。フジの弟はフジと違って自分の名前を嫌っていた。だから決して私になんか呼ばせない。

「腹が減っているから同じことばかり考えるんだよ。馬鹿」
「……だけど、お腹は」
「空いてないって? じゃあ俺の飯は食えないってのか」

 フジの弟がわざとらしくにっこりする。いつも仏頂面のくせに、こうゆうときだけそんな顔をする。
 三日月型に歪んだ目元が、フジによく似ていた。もともと顔やからだの造形は、本当によく似ているのだ。私は、兄弟だなあ、と思って、口をつぐむ。
 そろそろとフォークを手にして、ミルクをひたひたに吸ったフレンチトーストにその爪を入れた。私はどうしてもナイフが器用に使えないから、いつもこうだ。こうしてフォークだけで食べる。
 お腹は空いていないけれど、運んだひとかけは美味しいと思った。いつだって、もう一口、と手を動かせるほどにはそう思う。だのに幸福だとは思えない。

「フジ、痩せちゃってないかな」
「さあ? その前にお前は自分のことを気遣え」
「私はどうだっていいよ。フジがお腹が空かせていたら、かわいそうだなあ」

 半分食べたところで、胃が痛む。お腹が空いて動けなくなってやしないかな。フジはお腹が空くと子どもみたいになってしまうから心配だ。フォークを置いた私の皿に、フジの弟がいつものように言葉を否定しながらラップをかける。
 こうして、来るたびにフレンチトーストをつくるのは、私が痩せていくのを心配してくれてるのだろうと、わかっていた。





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 イメージと違うので打ち止め。

 それよりもいいね22個ありがとうございます! お礼も言えずにいたことに気付いたので、いまさらですが。更新率が下がっているのに覗いてくださっている方がいるようでうれしいです。
 もうしばらくしたらきちんとひとつ話しを書きたいです。こんな打ち止めはやめにするんだ。

3年前 No.91

品田 @addict ★t4XJHLfHMA_jtD

 世良田の声はときどき消える。どうしてそうするのかと尋ねても教えてはくれない。考えてごらん、と言って音もなくうっそりと笑う。世良田のこころは見えない。






 春になって世良田は進級した。2年生だ。1年前の入学式で出会ってから、ずいぶん髪が伸びた。世良田のショートボブは、いつの間にか肩を越すまでになっている。
 世良田は、夕方頃にやって来ては、食べ物をねだる女だった。料理が得意ではないと言って、自分では食パンを焼くぐらいしかしない。それどころかむしろ焼けば良い方で、与えなければほとんど断食のような生活をしている。見兼ねて食べ物をやると美味しい美味しいと言いながら満足げに食べるから、こころのどこかで、俺が世良田のことを生かしているような気がしていた。

「世良田。最近どうなの」

 4月なのに、もう7月のような暑さの日だった。世良田は夏になったと訴えながら昼飯をつくってくれとそうめんを持ってきた。

「どうってなにが?」
「……なにがって学校生活とか」

 つ、と箸からすべった一本をすすって、首を傾げられる。そういえば世良田はどうかと聞かれると答えにつまる癖があったな、と思い出す。ときどきこの女は会話が下手だ。

「うん、まぁ、あまり変わらないよ」

 いやにゆっくりまばたきをしてから、世良田が口を開く。世良田とはキャンパスが同じでもその姿をほとんど見かけたことがないから、世良田が直接話さなければ俺は知らないままなのだ。

「単位は大丈夫なの」
「申請したの数はみんな取ったよ。でもみんなにおかしいって言われるな」
「そりゃあな。授業に出てた覚えがないし」
「そう? 結構まじめですよ」





 ▼





 眠そうな目をしていた。月の初めに授業を組んで、忙しいと嘆いていたから、あまり眠れていないのかも知れなかった。





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 途中。

3年前 No.92

品田 @addict ★skNtkZHqvs_jtD

 起こそうと思ってベッドの脇に立てば、布団の中から伸びてきた腕に絡めとられる。あっという間にシーツの上に引きずりこまれて抱き締められた。つつましい胸に埋まって、いっしょにねむろうという甘い声を聞く。
 窒息しそうな春。この世のやさしいところだけを集めたような幸福に、目を焼かれる。なかないで、と眠りに落ちる寸前の声で、どうにか堪えていた。





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 雰囲気が違うような気がしないでもないけれど、世良田の話と繋げたい。

 いいね23個目と24個目ありがとうございます。まだまだ見捨てないで貰えているようでうれしいです。

3年前 No.93

品田 @addict ★skNtkZHqvs_Xzd

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3年前 No.94

品田 @addict ★H9K3Seb7qp_9uI

 ママよ、微笑んで。





 側にいてくれと言うから髪を撫でた。眠りについた段階で裸足のままそっと部屋を出る。玄関に鍵もかけず、13階からエレベーターで下ってエントランスホールでヒールを履いた。

「シイ」

 マンションを出て駅へ向かった。終電はないからずっと線路沿いに歩いて帰ることになる。1時間ほど歩いたところで、聴き慣れた声に呼び止められた。振り向くと黒いスーツに身を包んだ男が立っている。

「また逃げてきたんだ」
「……溝呂木」
「いい加減、俺のところへ来たら良いのに。そんな風に痣だらけにしないよ」
「どうしてこんな真夜中にこんなところにいるの」

 私の顔を見て、唇を歪めて溝呂木が笑う。まるで不格好な表情だった。眉が下がって目が悲愴な色を映すから、顔の上半分だけは悲しんでいるようで、けれど、下半分は嘲笑に満ちている。
 私の顔は、頬だけではなく、目にも口端にも、ぶたれた痕があった。いつだってそうなのだ。私と暮らす男たちはみんな私の肌を変色させては喜ぶ。世の中の大半頭がおかしいと思っているけれど、こうやって同じような男ばかり相手にしてしまう私もおかしいんだろうと、薄々気づいていた。
 息を吐くと、春だというのに白くなる。この間は5月だというのに雪が降った。溝呂木の口がいやにゆっくり動くのを、私は見ている。

「待っていたんだよ」

 目が離せないのは、溝呂木の口元にある赤いリップのせいか。女を口説くときに、別の女の匂いを残したままで良いと、本当に思っているのか。

「迎えに来た。まだ随分歩かなくちゃあ、家には戻れないだろう? ……あァ、そうだったね。戻る家だってもうないはずだ」
「どうして」
「なんでも知ってるよ。シイ、お前に関すること、みんな。だって俺たち仲良しだったじゃない」

 溝呂木はにっこりする。それからリップを拭った指先で私に触れて、手を引いた。なんでも、と私が反芻するのをなぜかうれしそうに見つめて、側に停めてあった車に押し込む。
 私はこころの中で数を数えながら、助手席のシートベルトを締めた。遠くで歩行者用の信号が点滅している。猫が行儀よく左右を見てから横断歩道を渡ってゆく。懐かしい曲が車の中を流れていて、そのタイトルを思い出していた。

 溝呂木。これで99回目の逃避行だ。





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 Carpenters / Rainy Days and Mondays
 お久し振りです。お元気? 相変わらず書き捨てはこんな感じですけど、日記は更新してます。

3年前 No.95

かささぎ @september9☆uyelQK1O.slr ★Android=aHyTdSsRo3



どうも、お久しぶりです。かささぎです。
久しぶりの更新わくわくしながら拝見させて頂きました。相変わらず読みやすく、それでいて内容がぎゅっと詰まっている品田さんの書く文章、本当に素敵です!
更新の方は気長に待っておりますので、また目を通したらコメントさせて頂きたいな、と←
それでは、スペース失礼いたしました。応援しております。

3年前 No.96

品田 @addict ★H9K3Seb7qp_uy9

 かささぎさん

 お久し振りです、かささぎさん。お元気ですか。かささぎさんの記事が1ページ目にないので気にしてました。
 最近は思うように時間が取れないのでなかなかパソコン自体触らないのですが、久々になにか書いたときにこうして反応をいただけるのが一番の励みになります。ありがとうございます!
 よろしければまた遊びに来てください。お待ちしております。

3年前 No.97

品田 @addict ★CdkjLHpGi5_8cw

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3年前 No.98

品田 @addict ★mjzlQ8Xr1p_NAs

「花束を」

 キコリがそっと口にする。手には花束なんて大層なものは存在しなかった。それでも花の匂いが強い。
 早朝4時に、決まって花を投げ入れる。いつからか腐葉土になって、自然に芽が発生するようになった。花の群れ。この世にあるすべての明るい色を織り交ぜた景色。

 でも、本当にこれでしあわせなんだろうか。潮井。








 目が覚めてまずすることは、カーテンを開けること。下の階にある花屋に顔を出すこと。キコリがそこで今日も働いているか確認すること。この3つ。

「おはよう。マドカ」
「おはよう」
「いつも来る黄色いスニーカーのお兄ちゃんが、今日はあの子いないのか、って、気もそぞろだったよ」
「気もそぞろって初めて聞いた。響き面白いね」
「そこじゃないでしょ」
「また来るって?」
「うん。配達屋さんも大変だね」

 キコリが柔和に微笑む。私はそれになんともいえない表情を返したように、思う。
 配達のお兄さんは佐藤さんと言って、素っ気ないところもあるがやさしい人だ。郵便屋さんだが、なんの縁か病院から頼まれて、ここで買った花を届けている。まだ私たちとそう変わらないぐらいの年齢で、25か6か……患者さんから孫のように可愛がられている姿をよく見かける。





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 キコリとシオイとマドカ。少女漫画みたいな要素を取り入れて書きたいけれども、恋愛要素は佐藤さんぐらいにしかない。ゴメン。
 そしてちょっとしたメモ:テナント/カオル/隣の家

 遅くなりましたが、いいね28個目と29個目ありがとうございます! お元気ですか?
 近頃の品田といえばオリジナルなりきりがやりたいので誰か面白いスレッドがあったら誘ってください。もしくは私のスレッド構想案のお手伝いでもしてください。どうぞよしなに!

2年前 No.99

品田 @addict ★WsLjnd4MDY_YZE

「……これが恋だとすれば」

 仮定した言葉の続きになにを言おうとしていたのだろう。きっと瀕死の顔をしていた。俺は顔もあげずに声音だけで察して、可哀想に、と思っていた。

2年前 No.100

品田 @addict ★WsLjnd4MDY_zTF

 帰りたい、と言葉を吐くことは許されるのだろうか。古びた家、青いくさはら、会えないひと、窓から落ちるギターの音。

「……トーキィ!」

 俺の名前を呼ぶ、お前の。思い出せない顔。それでも笑っているのだけは覚えている。もう一度、歌って。声だけが確かに蘇る。



 どうしてこうなってしまったんだろう?






 明け方に馬車がガタガタ音を立てて大通りを走るのに気付いて起きた。耳が良くてずっと先の音まで聞こえてしまうから、こんな風に鶏(とり)が鳴くより先に起きることは多い。
 裸足のままブーツを履いてコートを着たら中庭に出る。井戸の水を汲んで顔を洗うと、痛みで悲鳴をあげそうだった。この町は常に異常なほどに寒い。草木はどれもこれも枯れていた。
 凍りそうな顔を外に出る前に手に取った固いタオルで拭いて、それをそのまままた欄干にかける。朝食を取るには早いから、キッチンへ行くのはやめておいた。代わりにベッドへ座って、思い出していた。
 古びた家、青いくさはら、会えないひと、窓から落ちるギターの音。

 毎朝、起きるたびに思うことがある。




「トーキィ、まだ寝ているの?」
「起きているよ」
「それならいいんだ。だけど、収穫祭前に、すべての仕事を終わらせないといけないよ」
「わかってる」

 ドアがノックされて、閉ざされたままに会話をする。念を押すように言われて、毎度のことに適当に返事をしておいた。






 毎朝、起きるたびに思うことがある。どうして目が覚めたのか、どうして永く眠ることはできないのか。どうしてこうなってしまったのか。



「死にたい」



 逃げなければならなかった。帰りたいと言葉を吐いたところで、決して帰れやしないのだ。だって、俺は。

2年前 No.101

品田 @addict ★WsLjnd4MDY_zTF

 アパートの隣に住むパン職人の女のひとが住んでいた。俺はそのひとを知っていたけれど、向こうは俺のことを知らない。2階のベランダから煙草を吸っていると、ストリップ階段の下で猫に餌をやっている姿を時々見かけた。女のひとは、椿田さんという。

2年前 No.102

品田 @addict ★WsLjnd4MDY_FDP

「おれはねえ、詩人になりたいって言うやつが、大ッ嫌いなんだよねえ」

 麻美は目を細めていやらしく笑う。






 東花麻美という名前でもってそいつはよれよれのシャツを着た小汚い成人男性だった。みな名前を見て美女を想像するのだが、登場するのは汚いおっさんだ。その顔が見たくてファミレスではフルネームを書くと言う。

「アサミさーん」
「はーい」

 低い声で返事をして「おれがそのアサミさんですが?」とでも言いたげに寄るものだから、バイトらしき店員さんは引きつった笑顔を浮かべていた。右手にあった小さな紙を握りつぶしたのを決して見逃さない。

「やめろよ」
「おれの生きる楽しみはこれぐらいなのだよ」
「……くだらねえ」

 にやにやしながら通された席に座って、グラタンとイチゴのパフェなるものを頼むおっさんを見る。これで女の子なら満点なのになあ、と思うのを見透かしたようにまたいやらしく笑っていた。

「かわいいでしょう」

 男の名前は、トウカアサヨシ、と読む。





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 主人公は男。アサヨシという名の小汚いおっさんとの話。この後、詩人をうたう女子高生か女子大生かが現れて冒頭へと続く。
 詩人や絵描きに恨みはないですし、むしろ詩集投稿城とか好きでまれに見てます。基本的には書き捨てか日記2にいます。てゆうか久々の投稿なんですけど、みんな元気ー?

2年前 No.103

品田 @addict ★gKDmqW97u6_ubZ

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2年前 No.104

品田 @addict ★gKDmqW97u6_ubZ

>>104






 道を違えたのはなぜか、おとなになってもわからなかった。タイミングが悪かったとしか言えないのかも知れない。不幸は長く続いた。

「嬢か」

 当時、溝呂木のことを綾乃と呼んでいた。ネグレクト気味だった私の両親の代わりに面倒を見てくれていたのが綾乃の母親で、家へ帰っておいでと鍵も持たされていた。

「覚えてなくても無理はない。最後に会ったのはお前たちが話せるようになったばかりだったから」
「…………どちらさまですか」
「ハ、綾乃の父親だよ。ここは俺の家でもある」

 誰もいない家に綾乃を帰らせないようにしていた。放課後に私が綾乃の家へ向かうと知らない靴が揃えて脱いであって、知らない男がリビングのソファに沈んでいた。私の姿を見るなり、聞きなれない声で呼ぶ。

「志弦、綺麗になったなあ」

 ニタリと笑った綾乃の父親に、そのとき、生まれて初めて恐怖心を覚えた。いままで感じていたものなどは比べ物にならない。伸びてきた腕から逃げることもできず、立ちすくんだまま動けなかった。声もあげられない。
 逃げなよ、と言うだけなら簡単だと、どこか冷めた頭で考えていた。私の体は小指の爪の先まで支配されて、綾乃の父親に服従する。

「嬢、ママやパパにそれぞれ別の恋人がいるのは知っているだろう」
「……」
「可哀想に、ママもパパも恋人たちも揃って頭が悪いから……借金まみれだよ。俺のとこから金を借りているんだ。膨れ上がって戻れないところまで連れてかれる」
「……」
「でも、お前は聡いから、わかるね」
「……」
「売り飛ばされてんだよ。お前の臓器でもなんでも使って返済しますって。欲しくもなんともねえのに」
「……」
「……泣くなよ、辛気臭い」

 鼻を啜った音を聞いて不愉快そうに顔を歪めた。だらりと垂れ下がった私の腕を綾乃の父親が持ち上げて、左手にはまっている指輪を外す。

「なあんにも知らないの」

 綾乃のことを言っているのだとすぐに気がついた。なにか言おうにも喉が震えて上手く声が出せない。見開いた目から涙が落ちないようにするだけで必死だった。

「ははははは」

 寄り添っているだけで幸福だった。それでも、触れるなら綾乃が良かった。髪を撫でる指は綾乃のものであって欲しかった。
 けれどもう、叶わない。






「ずっとこうしていようよ。シイ、ここで、一緒に……」

 壊れてしまったものを抱き寄せて溝呂木が懸命に言葉を紡ぐのを、夢に落ちる寸前のような心地良さを覚えながら聞いている。溝呂木が私とクズな父親との関係を知るのには、それほど時間がかからなかった。発狂した溝呂木が父親を殺そうとした寸前で、あのクズは私を攫って姿をくらませた。私と溝呂木が再び出会うことになったのは偶然だったとしか言いようがない。いまだに溝呂木はあの男の行方を知らない。私があの男の部屋で暮らしているのを知っていてもだ。あれが本当の住まいでないということは誰が見ても明白だった。
 溝呂木の父親はあの部屋にほとんど近寄らない。それでも時々はやってきて、私におかえりと言われるのを待っている。どんな相手をあの部屋に連れ込んでも決して怒らないのは、私が手元から離れないという自信があるからだろう。私が大人しくあの部屋で飼われているのは、自分で望んでいることだ。溝呂木もそれをわかっている。

「誰のことも恨んでない。こうなる運命だった。それでもう良いんだよ、私は。溝呂木だって……」
「俺は!」

 違う、シイ、違うんだって。
 自分で出した声に驚いて、消え入りそうな声で溝呂木がつぶやく。俺はただ……。
 口の中で発した声は誰にも届かない。耳はその胸に触れているのに、聞き取ることはできなかった。どうしたってこんな風にしかなれなかったんだろうと思って、それに気づいたら、あらゆるものを手放そうと思えた。

「戻れないんだよ。ずっとわかっていたでしょう?」

 何度逃げたって、最後は帰って来た。私には私の居場所があって、溝呂木には溝呂木の居場所があった。一緒に過ごした日々はいつだって楽しかった、それを否定することはできない。それでも。
 いまさら言葉にすることは許されなかった。お互いそうだとわかっていたから、もう、ふたりでいたって幸せにはなれないのだ。
 溝呂木はしばらく押し黙って、結局なにも言わずに目を閉じる。これがいつも合図だった。明日にはあの街へ帰る。

「百度はない。これで本当におしまいだ。でもこの日々の記憶だけで、これからずっと生きていかれるよ」

 死ぬまでひとりで大丈夫。逃げ出した日々を思い出して、生きていかれると思った。こんなままごとみたいな生活に救われていたんだ。
 溝呂木は一度目を開けて、わずかに口をすぼめる。けれどやはり声を出さずに再び目を閉じた。


 言わなくてもわかる。口にしたい言葉は昔から同じだった。後生大事に抱えて棺に入る。そんなのが似合いの言葉だ。

※警告に同意して書きこまれました (性的な表現)
2年前 No.105

品田 @addict ★gKDmqW97u6_ubZ

「escape from」 >>104-105



 まとまらなかったので、もうこのままで良いと許すことにしました。あまり読み手にやさしくない話です。
 読み方は溝呂木(みぞろぎ)と志弦(しづる)です。途中で絢乃の字が綾になっているけれど面倒臭いから直しません。
 気になるひとがいたら補足的なものを書きますが、そもそも読んで貰えるのかという感じなので取り敢えずは放置します。

 なによりそういう性的な描写は入れてないつもりなのになぜ警告が出たのか不思議でなりません。まあ間違ってないんで良いんですけど。不思議だなあ……?

 久し振りに文章を書いたからか、思うようにいきませんね。多分元々なんですけど。とにかく語彙力がない。
 タイトルは響きで決めました。エスケープ・フロム。

2年前 No.106

詠琉 @clock☆VeghuuvPddk ★ZoYtgKvDiN_kyb

「みぞろぎ」という響きがとてつもなく好きだったので続きを読めたこと大変嬉しかったです。
 あと麻美と書いてアサヨシと読ませるのも果てしなく好きです。品田さんのつける名前が私を殺しにやって来る。あ、こないだ日記にお邪魔させていただいた者なのですが。

 品田さんのすごいところはスレッドを覗くたびに何かひとつは素敵な手土産ができることで、例えば >>86 の「脈打つ数が決められているのだとしたら〜」とか >>99 の「この世にあるすべての明るい色を織り交ぜた景色」とかがそれにあたります。えらくピンポイントでごめんなさい。一度でいいのでこういう言葉を産み出してみたいものです。
 こちらもあちらも更新を楽しみにしております。 あっ日記の最新記事も読みました! 変な話題に乗って下さってありがとうございますそしてすみません!!!

2年前 No.107

品田 @addict ★P9Tna9yJFi_PhE

 詠琉さん

 お返事が遅くなってすみません。こちらにもお越しいただきありがとうございます。
 名前はありきたりなものになるか、反対にまったく読めないようにしてしまいます、多分癖です。なるべく響きの良い、口にしやすいものをつけているつもりですが、どうなんでしょう。名前をつける際、その名前をつけた意味を考えるのが好きです。

 ここ数年めっきり本を読まなくなって語彙力がどこかの時点でストップしてますから、言葉を褒めていただけるのは大変恐縮です。あんまり難しい言葉を使ってもわかりにくいと思っているので、無理にかっこつけなくても良いのかなあと文章を書くうちに思うようになりました。もっといろいろインプットしなければいけない感じは否めませんが……。

 コメントありがとうございます。私もそのうちお邪魔したいと思っております。迷惑じゃなければうれしいです。
 またぜひ気軽にいらしてください。お待ちしております。

2年前 No.108

かささぎ @september9☆l2RtaxPLX0X6 ★OpP46wYYJh_m9i


 品田さん、お久しぶりです。かささぎです。
 受験終わって復帰して、ふらりと書き捨て覗いてみたら品田さんのスレが更新されててよっっしゃ!!! ってなってます。
 更新されるごとにわくわくしながらいつも読ませていただいています。もう何度目だよって感じなのですが品田さんの流れるような文章が本当に大好きです……語彙が乏しいので同じ感想の繰り返しになってしまうのがとても悲しい……
 溝呂木さんの話が気になっていたので、たくさん読めてほくほくしてます。ありがとうございます。
 それではまたお邪魔させていただくかもしれません……( これからも陰ながら応援してます!



2年前 No.109

品田 @addict ★P9Tna9yJFi_PhE

 かささぎさん

 お返事が遅くなってすみません。お久し振りです。お元気ですか?
 受験生だったのですね! お疲れ様です。そしておめでとうございます。春からきっとまた忙しなくなるとは思いますが、頑張ってください。応援しています。

 私も語彙力と発想力が乏しいので毎度毎度似たような話になってしまうのですが、かささぎさんからそのように言っていただけてうれしいです。語彙力と発想力を磨いて出直してきます。
 本当に書いて捨てるだけの場所となっていますが、またぜひ遊びにいらしてください。陰ながらと言わずもっと近寄ってくれたら良いと思います、噛んだりしないので!(?)

 追伸
 Twitter始められたのですね。そのうちフォローしにゆきますが、無理〜って感じでしたらブロックなさってください。

2年前 No.110

品田 @addict ★P9Tna9yJFi_PhE

「escape from」 >>104-105 / >>106 続き


 思い返してみれば大体ニコルソンと同じだな、と思いました。もう何年前に書いたんだよって感じなので失念していました。ただ私の中ではニコルソンはハッピーエンドで、エスケープ・フロムはバッドエンドです。ニコルソンは救いがあったけど、エスケープ・フロムには救いがない。そう思っているのは私だけなような気もします。全然読者にやさしくない。

 もう二度と書く気がないので、情報開示します。入れる気力のなかった設定とか。


溝呂木絢乃(みぞろぎあやの)28歳になる男。
 ホスト。ナンバー2に留めている。ひとを立てるのが上手い。酒豪。金持ち。
 4歳で親が離婚。母子家庭。父親のクズっぷりには薄々気づいていたが、幼かったので再会するまであまりよくわかっていなかった。再会してクズっぷりを知る。殺したい。
 志弦のことが生まれてから死ぬまでおそらくずっと好き。ラブ。大事にしすぎて触れることさえできなかった。ジェントル。たいそうおモテになるが、女の子は苦手だった。仕事を始めてから扱いだけは上手い。そしていまだにたいそうおモテになる。
 初恋をこじらせすぎているためよくよく考えれば結構怖い。

志弦(しづる)26歳女。実は年下。
 AV女優。表には出てこない。囲われて生活している。ボブカット。
 すべて溝呂木の父親のせい。初めこそ恨んでいたが、いまとなってはもう仕方がなかったと割り切っている。しかし大嫌い。
 両親揃ってクズ。共働きの家庭で、父親も母親も別に恋人がいたため家に寄りつかなかった。そしてお互いにそれを知っている。ギャンブラー。
 両親が借金まみれになり、志弦に責任を押し付けたので、溝呂木の父親に目をつけられた。両親がこれで幸運にも子どもがまともに育ったというのにこの結果である。
 なににも期待していない。溝呂木のことが好きだったけれど、こうなってしまってはもう駄目だと思ってしまっている。

溝呂木の父親(みぞろぎのちちおや)当時36歳男。
 18歳のときに父親になった。年下のパパ。溝呂木の母親のことが大好き。当時から頭はおかしかったが、まだ普通のクソガキだった。
 どこかで道を踏み外して暴力団かなんかと関係を持ったため、22歳で溝呂木の母親と別れることになる。号泣した。あまりにも好きすぎて慰謝料などはいらないと言われたのにお金を家に入れ続けた。まあ使われることはなかったわけだが、母親がぶっ倒れてから管理ができなくなり医療費として消えた。
 溝呂木のことは欠片も興味がないが、嫌がらせには精を出す。溝呂木の母親に憧れていた志弦に、溝呂木の母親の影を感じて大興奮する。心底気持ち悪いクズ。
 中退のわりに頭が良いのとめちゃめちゃ幸運なため、わりかしなんでも思い通りにできる権力を持っている。ただいまって言われたい寂しがり屋。


 展開は似てるけど、ここまで救いのない話を書いたのは初めてです。どこかしらに救いのある話を書くようにしているのだけれど、これだけはどうしようもないやつを書こうと思って書きました。

 個人的に好きなフレーズは「この時覚えたものを、私はどのように表現するのかわからない」と「不幸は長く続いた」と「そんなのが似合いの言葉だ」です。なにを書いても個人的に好きなフレーズがあります。例えばニコルソンだったら「復讐なら日が昇るまでに頼むよ」とか。こういうのを考えるのが楽しいです。語彙力が乏しいので頻出単語は救われたいとかしあわせだとかですね。本を読めってな……切実に。
 長く文章を考えるのは楽しいので、またなにかしら書いたら捨てに来ます。

2年前 No.111

品田 @addict ★b4VpEHlqzY_cT3

 枕元でなにかもぐもぐと蠢くものだから目を開けた。眠い、と思ったことを言葉にしかけて、喉の渇いていることに気づく。酷く飢えていた。
 起き上がると手のそばに犬がいて、これが動いていたのだなァと、ぼんやり考えた。右手に寄り添い、まばたきをした犬の名前を呼ぶ。レト。声は出ていない。
 布団を抜け出して昨夜煮出した紅茶をピッチャーからマグへ移す。俺はストレートで飲めないから、冷蔵庫を開けて牛乳を足す。橙色のほのかな明かりは目に痛かった。

「……レト、おはよう。俺はまた眠るよ」

 真夜中だのに一緒に起きてきたレトが足下をうろつく。稀有な、青い犬だった。本来の大きさよりもふた周りほど小さなまま成長が止まってしまって、体重は2キログラムしかない。小さな犬だ。
 そして、俺のたったひとりの家族だった。





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 犬はメインじゃない。

 いいね30個目から31個、32個、33個、34個と増やしていただきありがとうございます。前々から気づいていたのですがいつも投稿したあとに「しまった……またお礼を言い忘れた……」となっておりました。励みになります。また来ます。

2年前 No.112

品田 @addict ★MRJxgH6tVK_cT3

 あなた、眠りに落ちているとき、あたし、ギター弾いて、ねえ。

 あなたの指が産んだ言葉だけ、あたし覚えてる。




 いってきます。


 あなたの言葉を追って玄関のドアはバタンと閉じる。あたしはそれを布団の中で聞いて、そこから3時間後に起きるのだった。

「おはよう」

 ワンルームに響くのはあたしの声で、返ってくる言葉なんてないけど、毎朝起きるたびに声をあげた。ひとりでもたくさん喋った。今日はパンが上手く焼けたよ、お掃除するよ、卵買って来なきゃ、お夕飯はなにがいいかなあ?
 携帯の電源は一度落ちると3日ぐらいずっとつかなくて、ご近所づきあいも全然なくて、あたしの世界は隔離されていた。ワンルームの孤城。不思議と寂しくはなかった。あなたが帰ってくるのを待っているだけで毎日楽しい。


 ただいま。


 綺麗に片づけをして、美味しいご飯をつくって、お風呂を沸かして待っていると、ドアが開く。ご飯を食べたらギターを弾いて、うたを歌って。

「おやすみ」

 あなた、眠りに落ちたら、あたし、ギターを抱えて、ねえ。
 弾けないギターを片手にあなたの音をなぞる。




 あなたの指が産んだ言葉しか、あたし覚えていられない。





 「movie」吉澤嘉代子

2年前 No.113

品田 @addict ★MRJxgH6tVK_MDn

 制服は学校の象徴だから、うつくしく在りなさい。偉い先生の言葉が圧し掛かる。電車で舐めるように見られるのは制服を着ているからだった。どうして、こんな目に?
 セーラー服というだけで視線を貰った。それを良いと思ったことは一度もない。男の人は大嫌いだった。



「おい。気持ち悪いんだよ、ぶっ殺すぞ」

 低い声が後ろでした。私に向けられたものかと思って委縮したが、どうもそうではないようだった。私の体を撫でていた手が離れて、ち、ちがいます……という消え入りそうな声との会話が後ろで続いている。

「田嶋」

 同じ低い声が今度こそ私の名前を呼ぶ。その小声に覚えがなくて左側を横目で見ると首元から下がったネクタイが目に入った。ようやく思い出す。私の担任だ。

「警察には」
「いいです。面倒なので……」

 長い時間を取られることは知っていた。ひとによっては警察からも嫌な言葉を言われる。我慢すれば良いのだと学んできた。だから先生の言葉を断る。
 先生の目は少し怒っていたようだった。





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 「地獄先生」相対性理論

 音楽からイメージで話を書く試みです。この曲良いよってやつがあったらどこでも良いんで教えてください。書きます。多分?
 この後、先生好き。でも言えないの。って鬱々とします。女の子は気が強いです。イメージ。


 関係ありませんがオリジナルなりきりにてスレッド建設致しました。良かったら遊びに来てね。 → http://mb2.jp/_nro/15292.html

2年前 No.114

品田 @addict ★oyRvbirZZA_0F2

 息絶えるまで長く、こころを裏切ろうと思った。
 もうかなしいのはいやだ。






 日が落ちるフローリングの影から雲を数える。暑さで気分が悪かった。それでも冷房をつけずに床へ寝そべって溶けたふり。熱で頭が痛くなってきて、鎮痛剤を飲んだ。空っぽの胃に薬をいれたから余計気分が悪いのかもしれない。幾何学模様の雲をいくつもいくつも流し見る。
 ディスプレイに名前が浮かぶのが嫌で、携帯はいつも伏せて置いていた。遠くへ放り投げておくことが出来ないのは、相反するこころがあるからだ。なにひとつ呟くこともできずに言葉を飲む。春からずっと胃のあたりで言葉がつかえている。いつになったら消えてくれるんだろう。



「イトウハナエと言います」

 バンドの練習に人が来ないというのはままあって、それというのもうちのバンドには社会人が多いからだった。大学生は私ともうひとり女の子、それ以外の人たちはみんな社会人やら少しのフリーター。知り合いの知り合い、またその知り合い、という形で繋がってできたバンドだから、世代も雰囲気もバラバラだ。それでもなんとなく続いてゆく場所だった。
 その日は確か日曜日の夜で、誰が連れてきたのかは忘れたけれど、伊藤花重という男が出張でこの場にいない先輩の代わりに演奏をした。とてもやさしい声で名乗ったことばかりが印象に残って、プレイは記憶にほとんどない。笑うと目の横にネコのヒゲのような皺が刻まれる。良い人だろうと思っていたけれど、なんとなく、嫌だった。入ってきて欲しくなかった。

「ねえ、ここのパッセージって……」

 あれから時折、その頻度は非常に低いものだったけれどハナエはやって来て、一緒に演奏をした。初めてここへ来たときは仲良くなるもんかと避けていたけれど、そうも言っていられなくて、いつの間にか気後れせずに名前を呼ぶような仲になっていた。それどころか、気づけばどこかで必要としている。
 ハナエとは同じ年で、それ以外もうなにもかもが違ったけれど、ひとつだけ音楽で繋がっていた。特に私には音楽しかなかったから、その繋がりさえあれば他になにも必要としない。たまには一緒にご飯を食べた。ふたりきりだったことはほとんどない。
 ハナエの来る日は必ずスタジオに焼いたような良い匂いがした。それがパンによると知ったのは、ハナエから教えられてだ。

「俺ね、春からパン屋で働いてるの」
「職人?」
「そうだよ。そういう学校に行ってて。だから一応社会人なの」
「大変?」
「うん。多分、好きじゃなきゃ……」

 練習が終わってご飯に行こうとなって、先輩たちと連れ立ってカレー屋に来た。6人だったものだから、テーブルの都合上4対2にわけられて、私とハナエがその2になった。
 ハナエはカツカレーとサラダを頼んで、私は野菜カレーを頼んだ。パン職人と言うぐらいだからパンにだけうるさいのかと思っていたら、ハナエは食全般にうるさい。私の不摂生を踏まえた上で野菜を取る必要性を語られたので、あさりカレーを諦めて野菜カレーにしたのであった。こんなことがプラスに働くとも思えないが、ハナエが満足そうにするから良しとした。





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 お久し振りです。どうにか生きてます。
 いいね35個目ありがとうございます。遊びに来てくださるととってもうれしいです。

2年前 No.115

品田 @addict ★Hk7UxHZLOV_z2m

 鷺沼はあたしの部屋にやって来るとき、必ず花束を抱えている。なんにもない平日に、喪服みたいな格好で、両手いっぱいの花を持って来る。
 だからあたしの部屋は花の匂いに満ちていた。もうなんの花がどんな匂いかわかるほどだ。鷺沼はあたしのことを花の匂いのする女だと言うけれど、そうさせているのが自分だと言うことには本当の本当に本気でまったく気づいていない。

 鷺沼が来る日は決まって雨が降っている。帰る頃には止んでいることが多く、あたしの家の傘立てには鷺沼の傘が何本もある。鷺沼は雨男なのだった。






「食パン焦がした?」

 鷺沼のために玄関はいつも空けてあった。それを知っていながらチャイムを鳴らして、あたしが出る前に入って来るのだから、鷺沼は変な男だ。花束をあたしに預けながらトースターを開けて、やっぱり、と小さな声をあげて笑う。

「洗濯物を取り込んでいたら焦げたんだ」
「あー。トースト作るの下手なんだから見てなきゃって、俺こないだも言ったじゃん」
「今日は大丈夫かなって」
「その根拠のない自信どこから来てるの」

 鷺沼が笑うと、空気がやわらかく歪む。あたしはその様子を春に似ているな、とたびたび思う。誰に言っても伝わらないだろうけれど、鷺沼は春に似ていた。
 あたしは雨の匂いが少しずつ薄れていくのを感じながら、花束の中身を確認する。チューリップ、スイートピー、フリージア。新しい花瓶に移そうと立ち上がると、横から鷺沼に取られた。だからあたしはまた庭の側の揺り椅子に座る。

「……これは? エニシダ?」

 水が花瓶に注がれる音を背中で聞く。
 問いかけると鷺沼が、おおと声をあげて微笑んだ。よく気づいたね、と近寄って、花瓶に挿した花にあたしの指を誘う。

「似てるけどね。ラナンキュラスって言うんだ」

 丸い花形をしていた。以前持ってきたイングリッシュローズに似ているような気がしたけれど、カップのようになっていないのだなと思う。
 しばらく触ってみて、花びらのやわらかさに触れていた。へえ、と覚えたことを短く伝えれば、鷺沼は花瓶をテーブルへ持ち去る。そうしてしみじみと言うのだった。

「お前は鼻が利くのに、どうしてパンはすぐに焦がすのかねえ」






 夕立が止んで、新聞を読んだり傷んだ花の手入れをしていた鷺沼が、そろそろ帰ろうかと席を立つ。
 こんな風に、定期的にあたしの様子を見に来ては、なにをするでもなく帰るのだった。実際は片手間にあたしと話して、花の様子を見に来ているのかも知れない。

「夕飯、食べて行かないの? もうじき出来てしまうのに」
「悪いからその前に帰ろうと思ったんだけど」
「なに、いまさら」

 こんなことはしょっちゅうあるのに、どうしてそんな気遣いを。
 笑えば、鷺沼も釣られて笑う。支度をしているのを手伝いに台所へ来た鷺沼へ、お皿を渡してオーブンの設定を教える。

「……お前はなんでもひとりで出来てしまうね」

 呟いた言葉は返事を必要としていないようだった。
 あたしはテーブルを拭いて、スプーンとフォークを用意する。昨日つくったコーンスープを温めて食卓へ出してあげた。コーンスープは鷺沼の好物だ。

「鷺沼。グラタンが焼けたら、そこのミトンを使って出してね」

 エプロンのポケットから18時を知らせるアラームが鳴る。鷺沼は律義にオーブンの前に立って見ているようだった。あたしと違って焦がすようなことはないはずなのに。





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 花に詳しいひとならわかると思うんですけど、エニシダとラナンキュラスって見た目がもう圧倒的に違うんですよね。匂いは多少似てる。
  >>77-78 の続きを書きたい書きたいと思って2年が経ちました。随分長いこと張りついているんだって気付いて我ながら笑いますね。

 ヘルクライとフラッシュとクラタブルーと、あと鳩の話はいつか続きを書きたいです。この話も続きを書けたら良いなあ。

1年前 No.116

品田 @addict ★omBR1527TV_z2m

「逃げ出したい」

 初めて声にした音の羅列を聴いて、ぞっとした。冷や汗が玉のように拭き出る。シノノメがこちらを見ている。逃げ出したかった。





 普通になりたい、と思うことがあるか。

 神様のようだと言われて20年育った男が唐突に訊く。車に轢かれても階段から転げ落ちても怪我ひとつしない、ジャンケンやくじ引きの運は尋常じゃなく良い、夕立に一度だって降られたことがない。そういう男だった。特別勉強をしたわけでもないのに成績は良く、運動神経だって飛び抜けてすごいわけではないのにリレーの選手に何度か選ばれた。大学では美術を専攻している。目に映った景色をほとんどそのままに再現することが出来たからだ。

「いきなりどうしたの」
「いや」
「なんですか」
「誰かが普通だと思っても誰かにとっては特別なことってあるよね。だから」
「だから?」
「お前は、どうなのかなって」

 この人にとって出来ることなんていうのはなんでも普通なんだろう。
 僕は正面しか見ていないこの人の横顔を一度見て、半笑いのままに答える。「わからないなあ」

「普通ってなに? なにをもって普通だと思うの?」
「さあ……」
「ほうら」

 わからないでしょう?
 見ればいつの間にかこっちを向いていた。丸い目に映った僕を、この人はどんな風に再現するのだろう。忠実に外から見た僕は、鏡で見るような姿をしていないんじゃないか。魔物のような黒い影を想像する。
 さあ、と男は濁したけれど、もしかしたら、本当はなにか思い当たる節があるのかも知れない。なにを考えているのか見えない目だ。覗き込まれると不思議と逸らすことが出来なかった。

「それでも俺は、普通だと思うんだよ」
「……え?」

 いやに真面目な顔をして言うものだから、それ以上の言葉を繋げない。前後の文脈が読めなかった。
 青だと言って足を出した瞬間に信号が変わる。いつもその足につまづきかけながら着いてゆくことしか出来ない。

「じゃあ」

 また明日、という言葉を省略して、男は渡った角を曲がった。僕はいつも置いてゆかれてばかりだ。





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 いいね37個目ありがとうございます。

1年前 No.117

品田 @addict ★v6TUidP7FX_NJh

 真夜中に咳が出て、こほ、の辺りで起き上がる。恋人がその些細な動作で起きてきて、ペットボトルを差し出しながら背中をさする。この世の終わりだ、と思う。



 風邪をひいて1週間が経つ。熱は下がった。喉の痛みもひいて、大分話すのも楽になった。ただ、咳だけが一度出るとなかなかひかない。ここ数年、風邪をひくとやたらと長引くようになってしまった。
 眠りにつくまでが長くて、眠っても途中で起きてしまう。その回数が日に日に増えてゆくのに薄々気づきながら、まだ大丈夫だと、まるで言い聞かせるように唱えていた。

 からだは丈夫な方です。こころも、ひとよりはずっと。誰も救ってくれやしないのです。それなら、自分で助かるしかないでしょう。

 毎朝起きて家を出ることが憂鬱だった。中にはどうしたって家を出られない日もある。電車の中で吐き気が止まらない日もあった。それでも、丈夫な方なので、気丈に振舞うことは得意だった。

「っ、ひゅ」

 咳が出る。小さな音が口から漏れて、手をあてる。横で眠っていた恋人がそれを聞いて体を起こす。背中をさする手のあたたかさに、余計苦しくなった。酸素が少ない。ベッドの脇にあるペットボトルが私のために用意されていると気づいたのは、いつからだったろう。

「……つらいな」

 この世の終わりだ。

1年前 No.118

品田 @addict ★30NVjUlQoS_kAq

 書きだしがいつも同じだというのは些細なことですか。お前、そのことには気付いているでしょうか。いいえ、きっと忘れてしまったでしょうね。
 お前の話を聞くのが大好きですよ。

 今朝届いた手紙を読む。はじめまして、こんにちは。ニツカと言います。僕の名前です。





 仕事を終えて家に着くのは22時を過ぎる。集合ポストの一番端にある205号室のロックを解除すると、大量のチラシと封の閉じられていない一通の手紙が入っている。宛名はない。
 初めは、201号室に届けたかったのだと思った。ポストの配列がぐちゃぐちゃだから、間違えたのだと。それが違うと気づいたのは2通目から差出人の名前が書かれるようになったからだ。

 はじめまして、こんにちは。ニツカと言います。僕の名前です。

 最初はなかった文字だった。次から今日までずっと同じ書きだしで始まるようになった。
 ニツカは、私の生まれて初めて出来た友だちだ。





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 いいね38個目、39個目ありがとうございます。

1年前 No.119

來夢 @sky0570 ★XnexxuJTdj_kAq

初めまして。40個目のいいねを押させていただいた者です。
前々からこの書捨てを読んでいたのですが中々コメントを残す勇気(?)が出ず……しかし今回、遂に突撃させて頂きました。
上手く言うことが出来ないのですが、品田さんの作品の雰囲気がとても好きです。それと小説の中で好きなモチーフ、私も不動の第一位は食事です。美味しそうな描写が出来るようにしたいと思う今日この頃。

何だか文章に纏まりが無いですけども、この辺で失礼致します。これからも更新楽しみに待っています。それでは、

1年前 No.120

品田 @addict ★AyW9T1428s_mOc

 來夢さん

 お返事が遅くなってすみません! いいね40個目ありがとうございます。たいへん励みになります。
 雰囲気でばかりものを書いているのですが好きだと言って貰えてうれしいです。私自身は、少し寂しいようなあたたかいような仄暗い雰囲気を目指している……つもりです。ちょっと適当。
 食事描写良いですよね。最近食事をモチーフにしたものをよく目にするので最高かよと思いながら過ごしています。私の話はどこか布教じみたものがある。食事増えろと。

 ぜひまたいつでも遊びにいらしてください。お待ちしております。

1年前 No.121

品田 @addict ★AyW9T1428s_mOc

「雑踏の中いちばんにお前のことを見つけるなんて出来ないし、好きなアイスの種類もいまだによくわかんないし、身につけるもののこだわりもあんまりわかってないから、アクセサリーなんてプレゼントできないし」

 でも、それでも良ければ、毎日ご飯をつくってあげるので、結婚しませんか。なんて久藤は言う。





 久藤ハナとは高校で再会した。もともと同じ地区の小学校に通っていて、6年生の冬に、久藤はおとうさんの転勤で引っ越していった。卒業式のスピーチを任されていたのに、突然その話が私に降ってきたのを覚えている。きっと私がクラスでいちばん初めに、久藤がいなくなることを知った。「もう少しだけひみつにしてね」と言った久藤の顔をいまでも確かに覚えている。それほど仲が良かったわけではないのに、なぜかとてもさみしかった。

「クドウハナです。よろしくお願いします」

 それが高校2年の春に、都内の高校で、転入生として再び会うことになろうとは、いったい誰が考えただろう。
 私は電車とバスを乗り継いで、家から1時間かけて私立高校に通っていた。そんなところに、久藤が現れた。思わず声をかけそうになったのを抑えて、私はじっとしていた。

「……ソノダ?」

 ひとりひとりが短く自己紹介をして、ホームルームが再開される。先生がプリントを配布しているときに小さく漏れた声を私は聞き逃さなかった。

「ひさしぶり」

 そのときの、久藤の華やいだ顔といったら。

1年前 No.122

品田 @addict ★pp4IbMzGG0_XWi

 死んでくれなきゃ嫌だ。そうこぼした横顔の、なんて美しいこと。

1年前 No.123

品田 @addict ★VzuEF9a1BX_OzI

「愛している」と言われたのが夢だったのか現実だったのか正しく記憶していない。そんなことを言う人ではないので夢だったような気がするけれど、あの生暖かく粘膜の触れる痛みもまた想像だっただろうか。シーツの擦れる音や演出された声、私を掴む手の強さ、それらのすべての挙動はまるで本当のようだった。でも、例え夢であっても記憶から構成されているのだからそれは当然なのだろうか。□今日見た夢か、昨日の出来事か、いまや境目が見つからない。
 いつからこんな風だろう。昔はもっと正しく理解できていたはずなのに。現実どこからが身に起きたことなのか、わからなくなることが近頃多い。一体どうしたって言うんだろう。
 ねえ。



 昼過ぎにようやく布団を抜け出して、ヨレヨレのTシャツをめくり薄くゴムの跡がついた皮膚に爪を立てる。
 頭が痛い。寝過ぎた。いまさら気がついたけれど、布団で寝ていると足にだけ日が当たっている。遮光カーテンに変えなきゃダメかな。
 あくびをしながら米を研ぐ。2合炊いたら良いよね。水道を捻って目分量のまま早炊きでセットする。いつも目盛りの中間ぐらいに水を張っていて、それじゃあ少なすぎると母親から怒られていた。固めが好きだから良いんだ。カップラーメンも1分半で開けちゃうし。
 卵を割って砂糖に醤油。コンロにフライパンを乗せて、強火で熱する10秒で卵をかき混ぜる。カロリーオフの油、火を弱めて、白身と黄身が中途半端に分離したまま注ぎ入れる。均等に黄色い卵焼きより、白身が少し残った卵焼きが好きだった。甘い卵焼きより、しょっぱい卵焼きが好きだった。
 冷蔵庫を占領している昨日の残り物をレンジにかけて、それを待つ間に卵を丸める。少し焦げたけれど上手く焼けたな。火を止めて、昨日茹でたブロッコリーのタッパーを出す。ラックに置いて乾かしたままにしていたお弁当箱に、温めが終わったチーズと大葉の肉巻きから順に詰めていく。卵焼きは4等分にして、半分は朝ご飯として食べる。シリコンカップにマヨネーズを少し捻ってブロッコリーを置いた。ご飯が炊けたらおにぎりにしよう。じゃこのふりかけを混ぜて、残った大葉を巻いて。


 おはよう。


 残り8分。炊けるまでの間でようやく携帯をチェックする。メールが5件、広告や迷惑メールの通知なので件名だけで削除する。メッセージは1件。先週から無視しているのが2件。


「お、は、よ、う」


 毎朝、規則正しく挨拶が来るのだった。同じ文面を送り返して、「今週は暑くなるから、体調に」とまで打って消去する。





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 いいね41個目、42個目ありがとうございます。まだ記憶にございますか?

11ヶ月前 No.124

品田 @addict ★VzuEF9a1BX_OzI

 憧れていた。その背中に。その一筋の金に。手に持つ剣に。振り下ろす腕に。
 決して自分にはないものだった。うつくしいと思った。それが命を奪うことにためらいもない相手だとしても。

「健やかに生きろよ」

 肩を一束の金髪が撫で落ちる。それが鼻先をくすぐって、どうにもむず痒かった。

「もう会えないの」
「そうだよ。お前とはここでお別れだ」
「やだよ、おれも連れてって」
「ハ」

 一声だけ笑った。叶わないと知っていたからショックじゃなかった。馬鹿にしたんじゃないのも、なんとなくわかっていた。

「お前はここに残してゆくよ。私たちの希望だから」

 記憶が逆再生されて、そしてまた戻る。最後の言葉。頭を撫でてくれた手が、恭しくあの人の心臓を覆う。





「また会いましょう。燃えるような群青で」

11ヶ月前 No.125
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