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ソラノカケラ

 ( プロ小説投稿城 )
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下記スレッドを元にした、不定期更新の短編でございます。
詳細は下記を参照願います。
http://mb2.jp/_nro/14193.html

それでは、以下ごゆるりとご観覧下さいませ。

一、曇天あるいは降雪

 皇暦一八九六年ーーブリストル領北方戦域、シィリアツェルヴェ上空に火が灯る。
後に続く轟音が連合国機の撃墜を知らせた。大地を覆う鉄隗の群れには雪が降り積もり、
兵は虚ろな眼差しで曇天を仰ぐ。

 彼が見たものは鉛の雨、頬を伝うは紅い涙。その肢体は崩れ落ち、雪の白を朱に染め上げる。
降雪は硝煙と焦土を飲み、音もなく屍を埋葬する。

『目標的の沈黙を確認、これより帰投する』

 飛び交う無線に雑音が混じる。沈黙に包まれた空域において、その微かな音は不気味な余韻を残した。
抗う何者かの爪痕か、先立つ者の嘆きか。有りもしない幻想を振り払い、航空機は宙を返る。

 戦局の転換より一年、航空戦闘機の台頭によりかつての均衡は破られた。
頭上より防衛網を突破し指揮系統に直接打撃を加える彼の兵器に対し、
遅れを取ったブリストル王国連合は成す術もなく敗走を続ける。

 連日前線での勝利宣言を報じる国内報道に、バイエルン皇国の民衆は湧き上がる。
誰もが勝利を確信し、戦争の終結は日に日にその色を濃くしていく。

 故に、この戦争は一方的な殺戮へと変わりつつあった。虐げられた者、殺された者、奪われた者、
彼等の憎悪、殺意を体現するかのように、戦術・戦略はより暴力的に立案されて行く。
国家の意図的煽動によって醸成された国民意識は、今や敵諸外国を殲滅せんとする勢いである。

 標的は前線、後方基地、軍需工場、野戦病棟に広がり、今や市街地すら爆撃の標的に成り得る。
悪魔の子等に滅びを、皇国に繁栄を。祖国の勝利を前にして、国民は盲目であった。

「馬鹿を仰るな。何れその子等が、我等の首を捌きに掛かると何故判らぬか」

 作戦指示書を投げ捨て、士官は言葉に怒気を込める。

「口を慎め、レオノール少佐。……気持ちは判るがな」

 棄てられた指示書を拾い上げ、睨む士官に将校は首を振る。
書記官には席を外すように指示したため、司令室には彼等二人以外の姿はない。
指示書には”絨毯爆撃”の文字、標的は連合国有数の商工都市トライアンフ。

 これは彼等に対する示威運動である。皇国は再三に渡り降伏勧告を繰り返したが、
連合国は以前として徹底抗戦の構えを取り続けている。

 在住民五万の命により百万の両国軍兵士が救われるのであれば、
その犠牲も必要である。故に出された作戦指示、故に押された皇王の許諾印。
前線に立つ一兵卒に、異を唱える権限はない。

「アルヴェルト・フォン・レオノール少佐、この一撃が大戦を変える。
賽は投げられた、戻ることはない」

 憤りに肩を振るわせ、士官レオノールは尋ねる。

「一つ、フェルディナンド・ノイマン少将個人にお伺いしても宜しいでしょうか」

その問いかけに目を向け、将校ノイマンは先を促す。

「この犠牲の先に和平の締結、延いては皇国の繁栄をお約束頂けますか」

 士官は請う、自らが従事する作戦の正当性を。支払い得る犠牲への責任の所在を。

「愚問だ、少佐。本作戦は私の名に於いて行使し、和平締結への礎と成す事を約束しよう。
私は作戦に従事する兵士諸君と、犠牲を強いる人民への責任を担う」

 少将は士官の顔を見据え応えを返す。
その眼光を前にして、レオノールは暫し立ち竦む。
僅かに顔を強ばらせる彼を笑い、ノイマンは口を開いた。

「貴官のような部下を持てた事を、私は誇りに思う。少佐、我が部隊を宜しく頼む」

 そう言って差し出された手を握り、士官は一言感謝の意を述べる。
将校は彼の肩を叩き、執務机に置いた制帽を目深に被り窓の外を見やる。

「忙しい中呼び出してすまない、気が落ち着いたら作戦に当たってくれ」

 彼の言葉に敬礼で応え、レオノールは踵を返す。
彼がドアノブに手を掛けたその間際、ノイマンは「少佐」と彼を呼び止めた。
振り返る彼の額目掛け、手に収まる程の紙箱が放られた。
レオノールはそれを片手で受け止め、その先に目を向ける。

「餞別だ。健闘を祈る」

 将校はそう伝え、彼に敬礼を送る。士官レオノールは背筋を伸ばし、上官に返礼を返す。
彼等の間に時だけが流れ、彼は部屋を後にした。

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