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上限突破!

 ( プロ小説投稿城 )
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かえる @rueka ★nc6YF6uLpD_BwN

 初めましての作者かえるです。

 タイトルが長過ぎますと弾かれたので、ここに全部を記載です。

作品名:【上限突破! ゲームのような異世界でレベル99の向こう側を目指す冒険が始まるようです】


 ファンタジー、冒険モノです。
 レイティングをしばし考えてみたのですが、R15くらいのものでもないような気もする作者判断です。
 がしかし、残酷描写はないものの読者さまによっては卑猥に感じる部分もあるかもしれません。

 ご意見等ございましたら参考にさせて頂きます。

 楽しく読んで頂けましたら幸いです。

メモ2016/02/14 00:56 : かえる @rueka★auX3ZOaYYj_BwN


――起承の項


 【 イッサ、ユア、ノブエ、カレン、サーシャ 】


 ザイル荒地ーテレル山 >>1-4


 【 ドラゴン戦線 】


 ウーゴ街ーロニ森林園 >>5-8


 【 ガーマ 】


 水辺の街 >>9-11


――転結の項


 【 ルーヴァ、アッキー、ミロク、キョウカ 】


 ガーマーベネクトリア周辺 >>12-14


 【 アリーゼ、デカルト、ベルニ、ライアス、マサ 】


 ベネクトリア 最強の無職 >>15-18

        ジェミコル >>19-20


 【 未完 】


 バル高地ー黒き城 >>21-30

…続きを読む(62行)

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かえる @rueka ★nc6YF6uLpD_BwN





 レベル99。
 次のレベルまでに必要な経験値は『0』ポイント。
 何度見ても変わり映えしない、手元に浮かぶステータス画面。

「こら、何ボケッとしてんのよっ。アリアントそっち行ったよ!」

「はがっ」

 俺はユアからの忠告を無駄にする。
 デカい蟻ん子のモンスターに体当りされ、ふっ飛んでしまった俺。
 ギュイ〜ンとライフゲージが減り、緑から黄色、そして赤色へ。
 どうやら痛恨の一撃をくらったようだが、さすがは職業魔法使い。
 物理耐性ペラッペラの紙だ。
 たかだかレベル50ごときの敵にこれだからな。

 バシュバシュ。
 荒れた大地の上で転がっていると、俺を襲ったアリアントにダガーの双剣による連撃。
 目の前ではアクロバティックに回転して、スタっと着地した褐色の肌がきらめく職業盗
賊の娘。
 上半身は胸を抑え隠す上着というよりチチバンド。
 下半身はホットパンツ、とこの上ない身軽な格好だ。
 加えて、ショートカットが似合う活発な美少女と言うことで、眺める分には何も文句は
ないのであるが。

「ちょっと、勝手に死なないでよね。教会に迎えに行くのメンドーなんだからさ」

「へい。すみません」

「ほっんとイッサってば、レベル99のくせに役に立たないね」

 本来なら格下であるレベル40台の奴から、こんなことを言われる筋合いもない訳なの
だが、俺の”運”の悪さがこの惨めな関係性を成り立たせていた。

 学生生活を送っていた俺がある日、なんの前触れもなく飛ばされたこの世界はいわゆる
異世界というのか……。
 モンスターに、冒険者ギルドに、ファンタジー系のゲームの要素満載の世界だった。
 更には、ゲームのようにレベルやら能力ステータスやら、数値化されたパラメータが存
在しており、その影響がもろに反映されるのだ。

 数値を上げるのに基本となるのは、やはりレベルアップ。
 レベル上げはモンスターを倒して得る経験値によって可能なので、まず、倒しまくって
必要量の経験値を貯める。
 次に常時よく使うコンソール画面を呼び出し、『レベルUP』を選択すれば良い。

 誰でもできる簡単ななんとやらだ。

 今俺のステータス画面には、《次のレベルまでに必要な経験値は『0』ポイント》とあ
るが、これは経験値無料で次のレベル上げができるという意味ではなく、もう幾ら経験値
を積もうとも”上がらない”、頭打ちという意味。

 つまり俺、最高レベルの冒険者。
 なのにユアから馬鹿にされるのは、そのステータスのパラメータに原因がある。

 この世界に於いて、一つレベルが上がると、まず各基本能力値へ振り分ける用の『ポイ
ント』の抽選が行われる。
 それは【1ポイント〜5ポイント】の範囲のいずれか。
 そして、選ばれたのが仮に【3ポイント】だったとすれば、この【3ポイント】が、
ゲームで馴染みのある体力とか攻撃力、魔力、素早さなどへランダムに振り分けられる。

 初めはそう、気にしなかった。
 経験値が貯まりレベルを上げた時、引き当てたポイントが【1ポイント】でも『まあ、
そんな時もあるさ』と笑っていた。
 しかしそれが、5回連続、果ては10回連続を記録し、【2ポイント】を引き当てた回
数も数える程度、【4や5ポイント】なんてまだ見ぬ世界状態。

 チリも積もればなんとやらと言うか、チリしか積もらなかったが正しいのか。
 上限の99に達した頃には、他の冒険者のレベル30〜40の平均的な基礎数値と大し
て変わらない値にしかなっていなかった。

「初めて会った時は、うわあ、レベル99の人がパーティーに加わるなんてラッキー☆
とか喜んだものだったなー。あの時のウチの喜び、利子つけて返してくんない?」

「ユアも俺を見捨てるのか」

「さあ、どうでしょうか」

 悪戯っぽく笑ってみせたユア。
 そのつもりはないようだが、冗談でも凹むところであるからして、もっと優しくして欲
しいものだ。
 今までいろんなパーティーに加わっては、ユアのように『レベル99なのにねえ……』
と嘆きと哀れみを貰い、ぼっち化していった俺なのだから。

「ふう、片付いた。もうアリアントったら、すっごく固いから苦労しちゃったわ〜」

 この声、気持ち悪いとか思っても我慢するしかない。
 俺はもう慣れた、太い喉を無理やりすぼめて、頑張って”女性の声”らしく発せられる
声音。
 角刈りのガッチリした図体のノブヒロ――もとい、源氏名ノブエさんは、
ライフゲージやスキルゲージの回復手段が少ないこの世界では、貴重なヒーラー職の方で
ある。
 中年のおっさんと思われるのを荒れ狂うようにして嫌うので、乙女として接するのがベター
なノブエさんが、メイスを担ぎ内股でどしどし小走って来る。

 もう一度言いたくなったから、言うが、俺はもういろいろ慣れていたので平気です。

「相変わらず、ノブっちの打撃すごいね。後衛職の僧侶のモノじゃないよ」

「あら、そんなことないわよお。ただ私のステータス『攻撃』にポイントが偏ってて、気づい
たらその辺りの戦士より、ちょっとだけ力強くなってただけよ。ほんとちょっとだけ、ちょっとだけよ〜」

 ちょっとだけッスか……。
 俺の前いたパーティーの戦士が、レベル70くらいで、確か81だったか。
 パーティー契約を結んでいると、相手のステータスも確認できる――


【レベル58 ノブヒロ――僧侶】

 体力値……53

 攻撃力……81

 防御力……32(△42)

 魔法力……48

 素早さ……23

 器用さ……15

・特性スキル/魅惑のウインク<+3>

・追加スキル/打撃効果25%UP<+4>/防御力ブースト<*>/SP消費軽減−2p<+2>


「レベル70の戦士と一緒の攻撃力81に、打撃25%が加わるのか……うほ、火力十分
なことで。俺ときたらこれだからなあ」


【レベル99 イッサ――魔法使い】

 体力値……37

 攻撃力……32

 防御力……26

 魔法力……35(△46)

 素早さ……38

 器用さ……32

・特性スキル/子供の成長期<*>

・追加スキル/魔法力ブースト<*>/SP消費軽減−5p<*>


 どこの世界でも人生の軌跡を後戻りはできないようで、もうこのステータスが変わるこ
とはない。

「レベル99の魔法使いが30%のブースト掛けたものよりも、ノブエさんの魔法力の方
が上って……何この、胸の中で木枯らしが舞う感じ」

 はあ、と溜息をつく俺の側では、一仕事終えた褐色乙女と乙女もどきがキャイキャイ騒
いでいる。

「次のレベルまで、あと1000くらいかあ。悩むなー。追加スキルの五段回の方を早く
上げたいんだけど、なんかウチ、次で新しい技スキル覚えそうなんだよねー」

「あら、ならそうかもね。ユアの勘は良く当たるから、どんなスキルか楽しみね〜」

 楽しみ……ね。
 随分と、そのわくわくな期待感とは縁遠いな俺。
 さりとて、とりあえず――、

「なあ、腹も減ったし。街に戻ろうぜ」

「はい、はーい。今日ウチ、汁モノがいい」

「あ〜ん、ユアのそれ。なんか、いやらしい響き〜」

 こうして、魔法使いイッサこと俺、盗賊職ユア、そして、オネエ職兼僧侶職ノブエさん
3人のいつもの一幕が終わる。





       ◇ ◇ ◇




 青々した広い空と、広大な大地。
 今日はアリアント討伐をテキパキと午前中に終えた。
 昼飯は何を食べようかと街へ足を運ぶ途中だった。

 にょ〜んにょ〜んと伸び縮みしながら、大きな緑の液体状の塊が蠢く。
 そして、そのモンスターと鋼の鎧に身を包み戦う者あり。
 鎧が覆わない可動部を見るにスタイル良し。
 ついでに、風に長い髪を流すその容姿から紛うことなき美少女の可能性高し、なのだが。

「あの人、苦戦してんね」

 どこから取り出したのか、自作のキャンディー棒をペロペロなめながらユアは言う。

「ユア、助けるぞ」

「えー、要らないお節介にならないかなあ。相手プルルンスライムでしょ。あの程度を倒
せないようなら、この辺のモンスターキツイだろうし、ここで助けてもあの人の為にならないよ」

 確かにプルルンスライムの推奨討伐レベルは20程度、この辺で良く出遭うアリアント
のなんかのそれは50くらい。
 だからユアは、それらしいことを言っている、が。

「お前、スライムが嫌なだけだろ」

 俺の図星に、むっとした顔が返ってくる。

「だって、ネトネトのキショキショじゃん。斬撃、突撃、両方効果薄いし」

「『ドラゴニール』っ」

 愚痴るユアをシカトで、叫ぶ言葉とともに魔法スキルを発動させる。
 上空で炎のランスが構築される。
 視界の端にセットしているSPのゲージが、ギュイ〜ンと減っていく。

「うわっ、この人、雑魚相手に炎系の最上級魔法使っちゃったよ。次戦闘あったらどうす
んのさ」

 隣からの文句に構うことなく手をかざせば、メラメラと揺らめく巨大な赤い槍がぐごおお、
とモンスターを襲い貫く。
 一瞬にして蒸発したスライム。
 一瞬にして赤色に変わった俺のSPゲージ。

 魔法、つまり魔法使いの俺で言うところの技スキルはSPを消費して使用する。
 おおよそ器用さの値と同じになるSPの容量。
 俺の最大SP値は32ポイント。
 『ドラゴニール』の発動には、30から追加スキル効果でマイナス5の、25ポイント
を消費する。

「仕方ないわ〜。男って女の前では、カッコつけたくなる生き物なのよん」

「いくらカッコつけても元が元だし、中身が中身だし意味ないのにねー。無駄な努力、乙
ですイッサ先輩」

「なんとでも言ってくれ。俺は一人で勇ましく戦う彼女を放っておけなかった。ただそれ
だけさ」

 そうして俺の台詞は、ユアの顔を汚物を見たようなしかめっ面にするのであった。







 彼女は名をカレン・マクガレイといった。

『うわ、外国の人だった』とのユアの一声に、彼女は微笑み『いえ、折角こんなところへ
来たのですから』と言って、改めて幕之内可憐の名を教えてくれた。
 名に恥じない、可憐な大和撫子の騎士である。


【レベル99 カレン――騎士】

 体力値……124(△162)

 攻撃力……105(△137)

 防御力……117(△153)

 魔法力……63(△82)

 素早さ……76(△99)

 器用さ……98

・特性スキル/獅子の咆吼<*>

・追加スキル/スロットふえーる極/身体ブースト極<*>/ダメージ増加極<*>/雷・水撃耐性極/SP最大値増加+100p


 俺がアナライズ《情報取得》して見たカレンのステータス画面。

「なんじゃこれ」

 数値に3桁のものがあるでやんす。

「うわ、すごっ。追加スキル極み仕様じゃん」

「さすが、最大レベルの騎士のステータス。壮観だわね〜」

 ユアの丸い顔とノブエさんの縦長い顔が寄る。
 ノブエさんのアゴからは剃り残しのヒゲが一本、にょきっと生える。

「近い、近いっ」

「何照れてんのよ、君はドーテーくんか」

「いやいや、そうじゃなくて、ノブエさんのが、ちょっと」

「ねえ、なんでカレンってこんなに強いのに、スライム倒せないの?」

 俺越しにユアが問う。
 それは、適当な岩場のある場所で集まる俺達全員の疑問でもあった。

「このロングソードのスキル効果を見て頂ければ」

 カレンは苦笑しながらに、すらりと抜いた剣を見せた。

「ああ、パーティ契約しているわけじゃないから、アナライズじゃそこまで見れないんだ
よね……」

「ケチケチしないで、ハイ・アナライズ使えばいいじゃん」

「まあ、そうだけどさ……」

 ユアに促さるまま、ハイ・アナライズ《詳しい情報取得》を使用。
 俺のパーティへのさりげない勧誘は、気の利かないユアによって阻止される。


【匠の蒼剣】

 スキル効果……竜系、ダメージ3倍/骨系・獣系、ダメージ2倍/液系、ダメージ0.01倍


「なになに、匠のソウケン、なんつー攻撃特化武器……あっ、落とし穴発見」

「あらあ、スライムにはダメージ100分の1になるのね〜」

 指を咥えながらにノブエさん。
 そっと俺は離れる。

「ええ。技スキルで対応すれば良かったのですけれども、私面倒くさがりなタチなもので、
横着してガンガン切り裂いていました。そこへ皆さんが」

「アハハ、そいうのわかるわかる。ウチもさあ、よくメンドーで足で物とか取ろうとかして、
つったりして後悔すんだよね」

「いや、わかんねーよ。どういう状況だよ」

 ケイタイとかリモコン、とユアから懐かしい響きを聞いて、俺達の興味は次にカレンそのものへ移る。

 この地域はレベル30〜60くらいの冒険者の狩場。
 基礎値が低い俺は例外的存在であるが、まっとうなレベル99の騎士であるカレンには
相応しくない場所である。

 更に、一人というのも珍しい。
 どの職業をリーダーにするかによって、一つのパーティが契約できる枠は変わってくるが、
アイテムを共有できたり、個人が得た経験値を契約する仲間も得ることができたり、恩恵が
あるので大方の冒険者は最大枠まで仲間を集う。

 そうして、しばし時は流れ。

11ヶ月前 No.1

かえる @rueka ★nc6YF6uLpD_BwN

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11ヶ月前 No.2

かえる @rueka ★nc6YF6uLpD_BwN

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11ヶ月前 No.3

かえる @rueka ★EM2SAzg5FU_BwN

「ゴールドのほとんどは、皆さんがコツコツクエストこなし貯められたお金。私よりイッサ
が筋でしょう」

「うおお、カレンありがとうっ」

「こら、ありがとうじゃないわよっ。ねえカレン、そういうのはナシ。ウチらパーティ組ん
でるんだからさ、パーティのお金はみんなのもの。他人行儀っぽいことはしない」

「そうユアから言われてしまうと……弱りましたね」

「盛り上がってるところごめんね〜、ちょっと私の話を聞いてもらえるかしらん」

 手帳へあれこれ書き込む姿を見せていたノブエさんが俺、ユア、カレンの会話へ参入してきた。

「仮にどちらかをあのサーシャって子にお願いしたとして、残りは2万ゴールド。ううん〜、
切り詰めればやり繰りできない金額ではないけれど、ちょおおっと、知らない土地へ来て
これは心許ない感じ〜」

 ノブエさんは言う。
 宿泊費、食費、旅費、エトセトラ。
 日々お金は使う。
 お金は減るものだ。
 だから出費があれば、クエストで稼げば良いのだが、一番近くの街の冒険者ギルドにど
んなクエストがあるのかも分からないし、いつものクエストとは勝手が違うかも知れない。
 つまり、10万ゴールドを浪費した後、露頭に迷う――とまではいかないせよ、財布係
としては遠慮して欲しいようだった。

「だから、ここはぐっとガマンして、必要な分のゴールドを貯めてまた来るの。どお?
これが一番健全だと思うのお〜、イッサとカレンどちらか選ぶよりも、2人で一緒に
ヤっちゃうってほうが、気持ち良いでしょ〜」

「ねー、どうすんよのイッサ」

「どうするって、ノブエさんが言うんだったら……今回は諦めるさ」

 そう、それが正しい。
 どちらかなんて選択は、二択しかない時にすればいい。
 他に選択肢があって、無理にするもんじゃない。
 もしカレンがレベルの上限を超えたとして、俺はやっぱり羨ましがるだろうし、カレン
のことだ、そんな俺に感じなくていい負い目を感じるだろう。
 逆に俺がレベルの上限を超えたとして、魔王討伐への想いが強いカレンの前では喜びづらい。
 そもそも、この話と巫女の所在を知り得ることができたのはカレンのお陰だしな。
 ……今更だが、さっきの駄々こねた俺を無かったものにできんかね。
 すげえ……人としての株が下落したような気がする。

「ゴメンね〜イッサ。でもお、私のお願い聞いてくれて、あ、り、が、と。なんだったら、
今夜だけは私を好きにしていいわよん」

「明日の朝まで考えさせて下さい」

「それで、カレンはどうする〜」

「私もノブエさんがそうおっしゃるのでしたら、異存はありません。実際に巫女がいる。
そして、噂は真実のようである。それらが確認できただけでも大きな収穫でした」

「ほんと、カレンって前向きだよね〜。イッサに爪の垢しゃぶられないように気をつけてよん」

 そんな言葉で、俺達の話し合いは締められた。
 そうして俺達は、神殿にいたメイド服のお姉さんにまた来ますと伝え、テレル山を下山
するのであった。




       ◇ ◇ ◇



 テレル山から一番近い街ウーゴ。
 その宿にある一室にて俺達、ユア、カレン、ノブエさんは会議を開く。
 お題は、効率の良いゴールドの稼ぎ方だ。
 適当にギルドのクエストを地道にやっていくのが一番なのであるが、早くレベルの上限
を越えたい俺、そしてカレンはこの会議にノリノリである。
 というか、カレンが良い方法があると、みんなを集めたのだ。

「パジャマですか。どこに売っていたのですか」

「ああこれ? これノブっちのお手製」

「そうなの〜、ユアと私の着ているパジャマは私がちょちょいと裁縫して作ったのよお。
カレンのも暇をみて作ってあげるわね。今度、お風呂で採寸しましょうね〜」

 ノブエさんが風呂をどうしているのか謎だが、お願いしますね、と会釈したカレンは、
本気でこのおっさんと一緒に風呂に入ってもいいと思っているのだろうか。
 うむ……俺、オネエになろうかな。
 と、それはそれとして、カレンの鎧を脱ぐ格好は長袖長ズボン。
 これが、パジャマに――とそうじゃない、これも置いといて。

「それでカレン。良い案って何?」

「あ、はい。では……そうですね、見て頂いた方が分かりやすいですね。皆さんモンスター
図鑑を開いて下さい。そこからジュエルドラゴンを――」

 言われるがままに。
 虚空で小さく円を描く。
 浮かぶ四角い画面。
 ピッ、ピッ、とタッチ。
 今まで出会って情報取得した、モンスターの一覧が表示される。

「ジュエルドラゴンか……」

 なんか金稼ぎに良いとか、聞いたことはあったが、今んとこ戦う機会には恵まれなかった
モンスターだな。

「ああ、そっか、カレンが加わったから、図鑑のモンスターが増えてるんだ。うわ何、こい
つ、こんなのもいるんだ。ウネウネでキショー」

 ユア、他のモンスターのことはいいから、早く言われたジュエルドラゴンのページを開けよ。

「触手系のやつね。こういうの好きな人って多いわよん」

「ウソ!? これ好きなヤツとかいんの。うげえ、ウチ、悪いけどそんな人と友達になれ
そうにないわー」

 その好きなヤツが同じパーティにいるんだがな……と、いかんいかん、ノブエさんに同
調してしまった。

「ノブエさん、それ別の意味での触手でしょ」

「何? 別の意味? どういうこと?」

「あ、いや。い、いいから、お前は早くジュエルドラゴンのページを開けよ」

 問うてきたユアに、誤魔化すようにして急かす。

「ジュエルドラゴンはギルドの討伐クエストの対象ではありませんけれども、倒すと必ず
『竜の卵』か『輝く赤石』どちらか1つを落とします」

 カレンの声が場の空気を正す。

「確かにドロップアイテムの欄には、そう載ってるわね〜。輝く赤石だなんて、私にぴっ
たりの宝石のような気がするわあ」

「市場ではどちらとも高値で取引きされる物で、どこの道具屋でも『竜の卵』が1万ゴー
ルド、『輝く赤石』は8万ゴールドで引き取ってくれます」

「うわ、8万。今ウチら12万持っているからそれで20万じゃん」

「でもそれ全部は使えないわよん。そうね〜最低でも12万の半分。6,7万ゴールドは
残さないと生活が苦しくなるかしら」

「順調にいけば2回。このジュエルドラゴンの落とす『輝く赤石』を2つ売れば事足りるっ
て話か」

 だが。

「そうそう『輝く赤石』のほうは落ちたりするのか。確率はどれくらいとか分かるか」

「私の感覚では、2回倒して1回は拾える感じですね」

「あれ、結構高確率じゃん。ウチもっとキビしいって思ってた。10回に1回とか」

 うーん。俺は明るい雰囲気の中唸る。
 こう確率的なものに抵抗というか、恐れがある。
 話だと50%で当たりのようだが、俺にはその数字でもまったく引ける気がしない。
 なぜなら、であるが。
 すごい身近な確率との勝負に、レベルUP時のポイント振り分けがある。
 1ポイント〜5ポイントのヤツだ。
 はっきりとした解析ではないが、アンケートを取ってそのポイントの振り分け確率なん
てものを作った人がいて、俺はそれを見て驚愕したものだった。

 5ポイント……20%
 4ポイント……25%
 3ポイント……40%
 2ポイント……10%
 1ポイント……5%

 らしい。
 ある意味引きが強いのだろう、俺ことマイノリティ・イッサは、5%を引き当て続ける
ことができる男である。
 最低ポイントである1ポイントの最高連続記録は12回。
 計算するのが怖くて控えているが、凄まじい確率だと、大海のような大きな自信を持っ
て言える。

 あと、最高値の5ポイントだった場合に限り、一定の確率でボーナスポイントとして10
ポイントのおまけがついてくるようだ。
 その確率を今調査中とか添え書きがあったが、俺には関係ない世界の話で、逆に仮に5ポ
イント引いてまた抽選かよっ、とイラついたのを覚えている。
 あと、おまけのほうがなぜにポイントが高いっ、てな。

「まあ、あれだな。たとえ『輝く赤石』を落とさなくても、20回倒せば『竜の卵』で20
万だし、無駄はないよな」

「うわー、どこからか卑屈な声が聞こえたー」

「あれよね〜フラグってやつう? 自分からそうなるように仕向けてるわよね〜」

 俺のことをよく知るパジャマ組が言ってくる。

「わーたよ。10回に1回は『輝く赤石』をゲットできる。そうに違いない。俺はやればで
きる子。ここに宣言しますっ」

「投げやりー。てか、10回で1回なら、最低でも2個はいるから結局20回戦うつもりじゃん」

 ユアがぶーぶーブタのようにである。

「わーたよ。じゃ、5回に1回くらいで、このジュエルドラゴ、ん? 平均レベル80? は、はちじゅう!?」

「ハチジュウ?」

「モンスターレベルだよっ。ユア、図鑑をよく見てみろ。このジュエルドラゴンってヤツ、
平均レベル80クラスのモンスターだ」

「げっ、マジじゃん。あーあ、宝石ドラゴンでホクホク大作戦オワタ。レベル20差くら
いならなんとかだけど、40近いとウチ即死だよ」

「大丈夫ですよ」

 落ち着いた声が言う。
 ユアの発言に俺、それにノブエさんも落胆ムードであるが、カレンは違った。

「ジュエルドラゴンのその行動、その性質をしっかり知れば、レベル45のユアでも十分
戦えます。戦いの勝敗はレベルの大きさだけで決まるものではありません」

「どっかの仮面さんが言った、モビルスーツの性能がうんたらを思い出すが……」

 ユアに向けられる柔らかい笑顔。
 俺はカレンのその顔に見惚れていたが、その言葉には目を背けたくなった。
 言っていることは分かるが、レベルの大きさ……それはこの世界で絶対的な影響力を持
つ要素だ。
 カレンの言葉は頑張り次第ではどうにかなるってものだ。
 でも俺は、その”頑張り次第ではどうにかなる”って時点で、負けてる自分を認識して
しまうんだよね。

 ……卑屈だよな。
 だから俺には、カレンの笑顔が向けられないんだろうな。






「ほんとにほんと?」

「はい、間違いありません。図鑑には載っていませんが、高レベル者から狙われます。な
ので、ユアが直接攻撃される可能性は極めて低いです」

 カレンの説明には、ジュエルドラゴンは高レベル者を優先的にその攻撃対象とするとあった。

「アナライズや図鑑など、この世界には文字や画像として情報を得ることができる機能が
ありますが、実際に経験しないと分かり得ない事も多くあります。その一つがこのジュエル
ドラゴンの習性ですね」

「ほっんんんんと、カレンってば、どこかのレベル99と違うよね。ウチ今、カレンに薄っ
すら感動してるからね」

「お前、言わなくてもいい一言をわざわざ言うなよな。こっちは毎回、地味にヘコんでんだぞ」

 口元を抑え笑うカレン。
 そうしてから、彼女は言う。

「そういう訳なので、前衛の私とイッサが倒れない限り、ユア、そしてこの討伐の要にな
る回復役のノブエさんが戦闘不能になることはないです」

「だよね。ウチが一番レベル低いし」

「その次は私だから、そうなるわよね〜」

「ちょ、ちょ、待った待ったっ」

 にこやかなところへ物申す。

「今、カレン、俺を前衛にって言った!?」

「はい」

「俺が前衛に行ったら駄目でしょ。俺、後衛職の魔法使いなんだぜ」

「イッサも私と同じレベル99です。もし後衛で戦えば、ドラゴンがイッサを標的にした
時、ユアやノブエさんが巻き添えをもらう可能性が出て来ます」

「囮の意味がなくなっちゃうってことよね〜」

「別にイイじゃん。魔法使いが前衛に行ったら駄目とか、そんな法律ないし、なんか問題
あんの?」

 ユアの言い分に首を振る。

「問題ありありだよっ。俺、カレンと違う。俺、防御紙。カレンダイジョブ、オレダイジョバナイ」

「なんで、カタコトちっくな言い方なのよ」

 それは俺も分からんが。

「それにあんま良いたくないが、俺こう見えても、中身レベル40未満だかんな」

「いや、もう嫌ってくらい知ってるし。でも、腐ってもレベル99なんだし、ダイジョブ
ダイジョブうー」

 お前は自分が安全だからってっよ。
 カレンの言ったレベルの大きさうんたらの話思い出せよ。
 俺のレベル99買いかぶり過ぎんなつーの。

「なあ、カレン」

 訴えるようにしてその名を呼んでみたが。

「大丈夫です。どうにかなりますよ」

 その根拠のない励ましを最後に、俺の意見は皆から相手にされなくなった。
 俺の発言力ってそんなに低いのか。俺ってそんなに邪険に扱われていい存在なのか。
 俺、一応このパーティのリーダーなんだぜ……。







「反対に集中的に狙われないようにするため、全員『隠れ蓑笠(みのかさ)』で挑んでいた
パーティもありましたね」

「『隠れ蓑笠』て〜、あの藁(わら)の装備品だったわよね。装備効果は確か、敵に見つかり
難いだったかしらん」

「はい。それで蓑笠にはノブエさんが言うものともう一つ、アナライズを無効化する隠し
効果があって、ジュエルドラゴンからの高レベル者を判断する目から逃れられるようです」

「あら、そうなのね〜。なんだか一つ賢くなったちゃったわね」

「でもさあ、ノブっち。蓑笠って効果もパッしないし、なんたってダサいからみんな着な
いんだよねー」

11ヶ月前 No.4

かえる @rueka ★nc6YF6uLpD_BwN

「後は、厄介な全体攻撃烈風が風属性なので、その耐性強化で対策したり、ジュエルドラ
ゴンは火属性が弱点なので、油の入った樽をぶつけてそこへ火を放つ。そのような戦い方
をしているパーティもありましたね」

 さすがと言えば、さすがのカレンである。
 俺よりもこっちの世界に長くいるらしいからな……。

「なあなあ、じゃあ俺達も『隠れ蓑笠』着て戦おうぜ」

「だからー、それじゃあ、壁役を立ててユアちゃん生還大作戦の意味なくなんじゃん。イッ
サの役目は私を守る壁なのカーベ。良かったじゃんこんな可愛い子を守れるんだからさあ。
ナイト気分味わって死ねるんだから本望でしょ」

「でもあれよ〜、今回はあんまり早くイっちゃダメよん。力尽きる前にありったけの炎系
の魔法をぶちまけて、ドラゴンのライフを削るのもイッサの役割なんだから〜」

「俺の死亡を前提にすんなっ」

 こんのう、見た目はパジャマ中身は鬼の薄情者どもめ。

「イッサの言う通りですよ。幾ら教会送りで済むとは言え、仲間の死を軽んじるのは不誠
実ですし、ユアもノブエさんも少し言い過ぎではないでしょうか」

「ああ、ごめんごめん。イッサってからかうと面白いからついね」

「そうね。私もついつい悪ノリしちゃったわ〜ごめんなさい〜」

 カレンに頭を下げるユアとノブエさん。
 で、それっきり。
 その謝罪、俺にはねーのかよ。
 あれだな。最近とくに感じているが、こういうのがカレンと俺との、人としての質の差
なんだろうな。
 と、カレンにとりあえずは尊敬の念を贈って――だが、である。
 俺を前衛に置く作戦を立てるカレンもどうかと思うぞ。

「イッサ、頑張って回避してくださいね。全員生き残って帰りましょう」

「お、おう。任せとけって、ははは」

 可愛い子って得だよな。
 反感抱いていても、はい、としか言えない俺。
 まあ、回避”率”ではなく、この世界は純粋な回避だからな。
 俺にも生き残れる望みはあるし、だからカレンもこの作戦なんだろうが。

 モンスターも俺達と一緒だろうこの世界の回避――つまり、『避ける』に俺は救われて
いる一面があった。
 確率で敵の攻撃を受けたかどうかではないので、極端に言ってしまえば、気合と根性と
センスでどうにかなる部分なのだ。
 もっとも、魔法やそれに類する攻撃は、避けたつもりでも完全ヒット扱いなので、どう
しようもない。
 だからこそ、魔法使いは必要とされるんだけどな。

 それで、この回避に影響しそうなのが『素早さ』の値である。

 この素早さであるが、体感としては数値が高いほど、イメージ通りに身体が動いたり、
相手の動きがよく観察できたりする。
 あと、やっぱり『素早さ』だけあって、元いた世界の時と比べると、足が早くなった気
はするかな。

 けど、高速と言えるほどでもなく、それこそマンガやアニメ、ゲームなんかような人間
離れした動きには遠い。
 技スキル発動時は別として、おそらくまっとうなレベル99のカレンのステータス値で
も、そんなに素早い動きはできないだろう。

 そんでもって 幸か不幸か、俺の低ステータスの中で最も値が高いのがこの素早さである。

「心配しなくてもいいわよん。もし宝石ちゃんから攻撃をもらっても、私がいつでも癒や
してあげるから〜」

「俺のライフゲージが耐えられればいいですけれどね」

 しつこいようだが、防御力紙ですから。
 それに、フルゲージの状態で一撃をもらうとは限らない。
 ジュエルドラゴンには、カレンも厄介と言っていた『烈風』がある。
 一定の時間で使ってくるらしいその攻撃は、風属性の全体攻撃で回避不可能のもの。
 威力はあまりないらしいが、確実にライフゲージは削られる。

「なんで、魔法使いの装備って防御力低いかな……」

 別に戦士用の装備を着用できないわけではないし、装備したら装備したらで実際に感じ
る痛みは減る。
 けど、きっと裸扱いなんだろうなあ。
 その場合、武具の能力やそれに付くスキルの効果は反映されないし、ダメージが恐ろし
いようにライフゲージを減らす。
 なので、やっぱり魔法使いは魔法使いの物を装備したほうが……裸同然よりは無難かあ。

「気が早いかも知れませんけれども、さっき説明した追加スキルのスキル珠を渡しておき
ますね。慣れも必要ですから」

 カレンが巾着袋を取り出し、中身を床へ広げた。
 出て来たのはビー玉くらいの珠。
 珠とは言っても、四角ものもあれば、ひし形、星形など形は様々で、色とりどりでもあった。

 このスキル珠は所持することで取得扱いになる。
 コンソールを開けばすぐに反映されており、画面操作をして追加スキルを入れ替えたり
できる。

 一生ものの特性スキルと違って、追加スキルはこうやって変更が可能であるばかりか、
枠=スロット分複数セットできて大変使い勝手がよろしい。

 ただ、物理的にスキル珠を仲間に渡すなどすれば取得欄からは除外され、追加スキルレ
ベルのあるものはレベル1へとリセットされる。
 つまり再取得後は、同じ物だったとしても初期化された状態からでの反映になる。

 ちなみにこのスキル珠は、たまに道具屋で買えもするが、入手手段は宝箱やドロップア
イテムが主になる。
 あと、範囲なのか時間なのか、珠を身近なところから放置していると、そのうち取得欄
から消失してしまう。
 落としたりしないことが大切で、もしそうなった場合は泣くハメになるということだ。

「これ極みでしょ。七色なんだ。綺麗だね」

「私の打撃効果の珠なんて、どどめ色よお、いいわね〜」

「では、ノブエさんにはSP+100を。これでより多くの回復サポートが可能になります」

「本当にいいの? カレンの方が技スキルを使う回数減っちゃうわよ〜」

「今回の相手はドラゴンなので、私の匠の蒼剣であれば普通の斬撃でも3倍のダメージ。
ここは私の技スキルより、ノブエさんの回復スキル回数を優先させた方が効果的だと判断
します」

「じゃ〜あ、遠慮なく使わせてもらうわ〜ん。ピンク色ってのが、気に入ったわ〜」

「イッサには余っていたSPの消費軽減とスロット増加を。本当は貴方にも、SPの最大
値を増やすスキル珠を渡したかったのですが」

「あ、カレン。SPの消費軽減なら俺装備済みだからいいよ」

「はい。なので、イッサには2つ装備して欲しいのです」

「2つ?」

「はい。消費軽減スキルは最大までレベルを上げれば−5。合わせれば消費が−10とな
り、『ドラゴニール』を20ポイントの使用で放てるようになります。10以下の魔法な
ら、SP消費は必要としないはずです」

 確かに30の魔法から10の値を引いたら、そうなるけどさ――ただ、

「同種の追加スキルって、装備しても効果ないんだけど」

 この場合、−10にはならず、−5のままってことだ。
 ブースト系なら、最大の30%を2つつけて、60%ってことにはならない。

「裏技、小技? とでも言えばいいんでしょうか。追加スキルは増加させたスロットへの
セットに限り、重複扱いにならないようです」

 珍しくカレンの得意気な顔を見た気がした。
 で、言われた通り追加スキルをセットしてみて試すことにする。

 まずは、カレンから渡された消費軽減のスキル珠を最大値まで上げる。
 レベルUPに必要なものと言えば、経験値。
 この点に関してはノープロブレムといいますか、俺の特性スキルの効果もあって経験値
は腐るほどに余っている。

 俺の特性スキルは『子供の成長』。
 今でもそのネームに恥かしさを覚えるこれの効果は、5段階あるスキルレベルを最大ま
で上げると、取得経験値が30倍になる。
 まだレベルUPできてた頃は、俺ってすんげえお得な特性スキル持ってるぜひゃっほー
い、だったが、今ではね……無用の長物と化してます。
 それと、この効果は俺にしか及ばないので、同じパーティを組むユアからはケチ呼ばわ
りされた。
 理不尽も甚だしい女子である。

 ピッ、ピッとコンソールを操作して、連打。
 はい、最大の−5がいっちょ出来上がり。

 んで、基本の追加スキルスロットに、枠を増加する『スロットふえーる極』とそのまま
俺の『SP消費軽減』。
 増えた3枠には『SP消費軽減』、『魔法力ブースト』。
 最後の空いてるところは、後で決めるとして。

・追加スキル/スロットふえーる極/SP消費軽減−5p<*>/SP消費軽減−5p<*>/魔法力ブースト<*>/ ――

 では。
 宿屋の窓から夜空へ向けて、消費ポイント10の火系中級クラスの魔法『ティラゴ』。
 手の平の先から、ゴバアアアと範囲魔法の火炎放射が噴き出る。
 普段は5ポイント消費。もし更に追加スキルの効果が働くのなら、0ポイントで――。
 SPゲージを確認すると、

「全く減ってない……だと」

 俺の驚き具合はカレンを喜ばせるに至るのであった。
 そうして後ほど、宿の店主からはお叱りを賜った。



       ◇ ◇ ◇



 ウーゴの街を出発して2日目の朝には森林地帯へ入り、昼前にはロニ森林園へ到着した。
 そして、見透かしの水晶にてアナライズされる俺。
 森林へ入るためには、道の入り口で待つ受付の人へ『入森料』なるものを支払わなけれ
ばならなかった。

 料金はレベル1つにつき10ゴールド。
 俺は99なので990ゴールド。

 ジュエルドラゴンの出没地が私有地なのだから、開放してくれるだけありがたく、仕方
がないと言えば仕方がないので、ゴールドを支払うことに異論はないのであるが……。
 俺はこういったこの世界の、レベルに応じた料金システムには不満だった。
 宿屋もそうであるが、高レベルってだけでなぜか利用料金が高くなる。
 なあーんか、損してる気がしてるして止まないんだよね俺。
 この世界。無駄な高レベルって、確実に損だよな。

「ロニ森林園って言うくらいだから、やっぱりロニさんって人が、ここら辺全部の地主な
んだろうね。絶対お金持ちだよね。間違いなくお金持ってるよね。男の人かな、女の人かな」

 『玉の輿しー玉の輿しー、人生一発逆転の玉の輿し〜』と自作の歌を口ずさむユアの後
をついて行く。
 すると木々がない開けた場所へ出る。
 んで、先客のパーティがいたので、

「ども」

 と会釈と挨拶を送る。

「ああ、どうもどうも。今日は良いドラゴン日和で良かったですね」

 つまりは、快晴の良い天気ってことね。
 職業忍者っぽい人から、脳天気に言われた俺達は歩みを止めることなく、次の”開けた場所”
へ向かう。
 それを繰り返すこと数回目、人影のないところにやっと出くわした。

「結構、他のパーティもいたなあ」

 どうやらここは大人気スポットのようである。
 まさに世界共通っていうか、儲け話は人を惹きつけるもののようだ。

「んじゃ、後はここでジュエルドラゴンがやってくるのを待つだけだな」

「ですね」

 と、カレン。
 そして、

「ドラゴンめ、とっとと来い。強く賢いウチが一撃で成敗してやろう。だはははは」

 ユアがなんか空へ吠えていた。
 変な物でも拾い食いしてたか……と、不審に思う目を向けていると、くるりと褐色少女
が振り返る。

「兄貴の持ってたマンガにさあ、ドラゴンと戦うヤツがあって、なんか折角だしその主人
公をマネてみた」

「へえ……あれだな。なんつーか、そのマンガ面白いの?」

「うーん、ズバリ、つまらない」

「そうか。あと……あれだな。なんつーか、あんま他所のところでは、そういうのやめて
おいた方がいいぞ」

「心配されなくても、ウチ、イッサと違うから。叫んだら気持ちイイかなーって思ってやっ
ただけだし」

「あらあ、気持ち良くてヤっただなんて、なんの話をしてるの〜、私も混ぜて混ぜて〜」

 とまあ、こんな感じでのんびり過ごしてピクニック気分を味わっていると、お目当ての
モンスターが上空からやって来た。

 竜系モンスター、ジュエルドラゴン。

 その姿はドラゴンじゃないって言ったら、炎上すること間違いなしのザ・ドラゴン。
 体長は15メートル〜20メートルクラスが一般的らしい。

 俺はあんな大きいモンスターを相手にする時、相手をクジラと思うようにしている。
 日本人は昔、デカいクジラを獲って食べていた。
 どういう方法でかは知らないが、先人達はレベルも魔法もない世界で戦い勝利した。
 だから……俺もやれるだろう、ってなもんだ。

「いや〜ん、ほらユア見て。イッサの目が漢の目になってるわ〜」

「なんだかんだ言って、うちの魔法使いはやる時はやる魔法使いだからね。期待してるよー」

「来ます」

 バサリバサリ。
 土煙を上げる大地へ、尖る爪を持つ獣の足が着く。
 広げていた翼を折り、ドラゴンはその突き出る口を開け吠えた。

 騎士は剣つるぎを抜く。
 盗賊は獲物を狙う。
 僧侶は身構える。
 魔法使いは手をかざす。

「いざ、カレン・マクガレイ推して参るっ」

「君のお宝、ユアちゃんがいただいちゃうよー」

「私の魅力に嫉妬しないでね」

「俺の魔法とくと味わって逝け」

 さあ、戦闘開始だ!



11ヶ月前 No.5

かえる @rueka ★EM2SAzg5FU_BwN

 ドラゴンの懐に潜り込んだユアが、コマのように回転して上空へ突き抜ける。
 そして、頭を逆さにきりもみ回転下降。
 ズシャア、と敵を背に地へと両脚を広げて着地。
 決めポーズが決まったところで、全速力ダッシュでこっちへ駆けて来る――が。

 右へふらり左へふらり、と蛇行する。

「うう、キモちわるー。あの技連撃数は多いんだけど、目が回るんだよね……なんか吐きそう」

「あんま無理すんなよ。ユアも俺と同じく一撃もらうとかなりピンチなんだからよ。ほら
早く俺の後ろ、後衛に戻れ」

「なんだかイッサが優しいこと言ってる……うう、キモちわるいよう……」

 何に対しての気持ち悪いなのか問いただしたいところであるが、ドラゴンはそんな余裕
を与えちゃくれない。

 カレンがドラゴンの足元へ切り込む。
 自分の足を傷めつける相手を、ジュエルドラゴンは頭部を使って振り払おうとした。
 刀を盾に受け止めたカレンが、後ろへ流れる。
 俺はSPゲージを確認。
 よし、やはり−10は大きい。二発目がいけそうだ。

「『ドラゴニール』っ」

 巨大な炎のランスが敵目掛けて飛んでいく。
 いつも相手にしているモンスターなら、紅蓮の槍が突き抜けた後には消滅しているが。
 ドラゴンは、残り火にその身を焦がしながら、どすん、どすんと大地を揺らしこっちへ向
かって来る。
 俺のSPゲージはカラッカラ。
 後はまた20ポイント貯まるまで、ひたすら『ティラゴ』で敵のライフを削っていくしかない。

「と、思ってはいるもののおおおお。だらっ」

 横っ飛び。
 ダイブ中の足先に風圧を感じる。
 どうやら頭突きは回避できた。
 ゴロゴロ。
 即座に起き上がり、駆ける。
 止まっていてはやられるからな。

 頭突き、噛みつき回避。
 爪でのひっかき攻撃回避。
 んで、頭突き。
 飛んでは転がり、はあはあ、飛んでは転がり。はあはあ。
 身体中が泥だらけになる。

 んで、文字通りの七転び八起きした時だった。
 正面にドラゴンの尻尾があった。
 尾による地を這うなぎ払い攻撃。

 ――左右後ろはダメ、穴を掘って地下とかはまず無理、となれば上方だが飛び越えられ
るような太さ、高さでもない。
 ちらり見たライフゲージは半分くらい。
 早くも、回避不能に陥ってしまった。

 丸太みたいな尻尾の腹が、俺を直撃する。

「はがああ」

 いともたやすく吹っ飛ぶ俺は、飛びながらに思う。
 車からぶつかられたことはないが、たぶんそのくらい、いやそれ以上の衝撃じゃないだ
ろうか。
 身体が木っ端微塵になっていないのは、ひとえにレベルのお陰。
 レベル1でこの攻撃受けていたら、きっと飯が不味くなるような自分の身体を目にして
いたかも知れない。

 それはそれとして、ともかく、

「痛てええええ――ぐががが」

 どっちが空なのか判断つかないようにして、地面を転がった。

「今ので……ライフ……吹っ飛んじまってる……」

 ノブエさんから防御力上昇効果の技スキル掛けてもらってるし、少しはと期待したが。
 さすがはレベル80以上のモンスターなのか、さすがは俺の防御力なのか。
 と、悠長に分析してる暇もないよな。俺攻撃対象になってるし。
 早く回復してもらわねーと、”本当に教会送り”になっちまう。

「イッサ、烈風です。ノブエさんの方へ戻って」

 カレンの声に痛む身体を起こして見渡せば、ジュエルドラゴンは上空へ。

「マジかよっ」

 現在俺のライフは1ポイント。
 追加スキル『ふんばーる』――戦闘中一度だけライフゲージポイントの完全消失を防ぐ、
つまり0ポイントなろうとした時点で、踏み留まってくれるの効果のお陰で、かろうじて
ここに生存している状態。
 俺は一処へ身を寄せる仲間達の元へ、一目散にダッシュ、ダッシュっ。

――たあ、走ってばっかだ。

 俺の身体に癒やしの光が灯る中、身動きが取れないくらいの強風が巻き起こる。

「うお。こりゃ台風だな」

 顔の前で両腕をクロスさせたそこからのぞけば、浮かぶジュエルドラゴンが翼をバサバ
サ動かしていた。
 痛みなどはないが、ノブエさんから回復してもらっていたライフゲージがジリジリと減
少していく。

 この世界のややこしいところに、痛み(実際に感じたダメージ)とライフゲージへのダ
メージ(敵の攻撃)がシンクロしない部分がある。
 へっちゃらだぜって顔が余裕でできる攻撃を受けたら、半分くらいライフを持っていか
れてました、とか、ライフは0に近いが体の調子は絶好調だぜ、などザラだ。
 なので、ゲージはこまめにチェックしないといけない。

「良い感じで戦えていますね。この感じなら、ノブエさんのSPが完全に尽きてしまうま
でには倒せそうですっ」

 先に、俺の素の体力のほうが尽きそうなんすけどね。

「どうですイッサ。この調子で凌げそうですかっ」

「どうだろうな。もう『ふんばーる』使っちゃったしな。けど、凌げそうっていうか……
ここは凌ぐしかないだろっ」

 俺は唸る風に負けじと声を張る。

「おお、やる気〜。ならウチ、効くかどうかだけど、麻痺攻撃仕掛けてみよっか。成功し
たら少しは楽っしょ」

「おう。助かるっ。けどあんま無理すんなよ。ドラゴンだってただの木偶じゃない。近く
に俺やカレンがいなかったら攻撃してくるからなっ」

「はいはーい。分かってますってっ。最悪ウチには英雄の帰還もあるし、ダイジョブっしょ」

 特性スキル『英雄の帰還』は、『ふんばーる』と同じくライフ0ポイント時に効果があ
るもので、教会送りにはならずにライフとSPをフル回復させる。
 大層な名前に見合う効果だ。
 が、しかしそれは発動したらの話。
 この世界の英雄とやらは、稀にしかご帰還しない仕様である。

「は〜い、全体回復するわよ〜ん」

 風が弱まる中 ノブエさんの『癒やしの灯火』が発動する。
 ブンと広がる地面に描かれた魔法陣。
 そこから揺らめく淡い光に、俺達は包まれる。
 効果範囲内のパーティのライフゲージが、最大値の50%回復した。

 身体は相も変わらずではあるが。
 俺は息をすうっと、吸い込む。

 それはどこか高揚を抑えるためのものであった。
 しかし――。
 瞳が爛々とするカレン。落ち着きのないユア。鼻息を荒くするノブエさん。
 俺と同じく興奮状態のみんなを見てしまっては、全く意味を為さない深呼吸だった。

「よし、みんなっ。気合入れてジュエルドラゴンを倒すぞおお」

「承知」

「まっかせなさあい」

「私、頑張っちゃうわよん」

 再び大地へ足を降ろしたジュエルドラゴンへ向かって、俺達は駆け出す。








「うだあっ」

 俺は雑草の生える大地に寝転がる。
 とにかく疲れた。

「なんとかなりましたね」

「そうね。ギリギリだったけれど、なんとか倒せたわね」

 頭の方では、カレンとノブエさんの声。

「うお、デカ。ねえねえ、この赤いのが『輝く赤石』?」

 足元の方では弾むユアの声。

「はい。それが『輝く赤石』です」

 そうか、当たりだったか。
 ジュエルドラゴンとの戦いに夢中になり過ぎて忘れるところだったが、これが本来の目
的だったっけ。

「イッサも教会送りにならずに済んだことだし、幸先いいわね〜」

 空を見上げる俺の目に、角刈りのおっさ――乙女が。
 俺を見下ろすノブエさん。
 その反対側に対象的な小さく綺麗な顔があった。

「神がかり、そう言っていいような回避術でしたね。イッサは何か、そういった特訓でも
積んでいたんですか」

「いいや別になんも。運動系の習い事とかもやってないし。つか、避けるなんて、人間誰
しもが持ってる本能だろ。恐竜から襲われているようなもんだし、そりゃ俺の体も、緊急
事態信号発動でリミッター解除の動きにもなるさ」

「そうよね。人間誰しも、一つくらいは取り柄があるものだわ〜」

「ノブエさん、それだと俺が逃げる以外、他にないみたいに聞こえるすけど、ぐわ」

 どんと腹の上に、跨がり乗ってくる馬鹿がいた。

「ほらほら、見てみ、見てみ。これが『輝く赤石』だよー」

 俺に馬乗するユアが、野球ボールくらいの大きさの赤い宝石を見せつけてくる。

「わーたから、降りろよ。重てえだろ」

「女の子に重たいとか、失礼しちゃう男の子だねイッサは。だからモテないんだよ」

「はいはい、左様でございますか」

 ユアを退かすようにして起き上がる。

「しかし、ノブエさんが完全に回復役に徹した分、火力不足な感はあったよなあ。カレン
の獅子の咆吼がなければ、結構キビしかったような……」

 『獅子の咆吼』は、カレンのライフゲージが30%以下になると発動し続けるブースト
系の特性スキルだ。
 効果対象はパーティ全員で、敵に与えるダメージが3割増しになる。

 ちなみに、ノブエさんの『魅惑のウインク』は商売人が対象で、たまに値引きを誘発し
てくれる効果を持っている。
 念の為に補足しておくと、所有者の見た目は発動率に影響していない模様のようである。

「私としてはポコポコ敵を叩くより、みんなを癒やすことのほうが楽しいから、大変満足
した戦いだったけれど、その点は感じるわよね〜」

 ノブエさんの場合ポコポコってより、ドカドカだけどな。

「俺がもう少し『ティラゴ』を連発できたら良かったんだろうなあ。けど、避けるのに精
一杯でさあ……」

「何しおらしくなっちゃって〜。イッサはよく頑張ったし、役目はきっちり果たしてるわ。
あの避けっぷり。うふ、今からでも忍者に転職できるんじゃないかしらん」

「そうそう、ガンバたー、ガンバたー。ここ最近じゃ一番役に立ってたんじゃないの」

「正直言うと、私もここまでイッサが期待に応えてくれるとは思っていませんでした。本
当に頑張りましたね」

 うーん。
 あんまそう褒められても――素直に照れるぜ。

「あれだな。やっぱこう強敵にみんなで戦って勝利するって良いよな。アツいつーか。青
春してるつーか」

「だね。ウチも結構燃えたよお。今までで一番レベル差ある敵だったしね」

「ですね。生き物を倒すことを楽しんでしまう事に、少しながら不謹慎な思いはあるもの
の、私もギリギリの戦いに身を置けることを楽しんでいました」

 カレンらしいのか、不謹慎と言えば不謹慎なの……かな。
 加えて、人に害のあるモンスターならまだしも、ジュエルドラゴンは高価な宝石を落と
す、その理由から倒されるからなあ。
 あいつらに同情しなくもない。

 まあ、このモワっとした気持ちの拠り所として、倒したモンスターが俺達が教会送りに
なるように、魔界送り(正確には魔監獄という名の場所のようだ)になるらしいのが救いだな。
 ドラゴンも本当に死んでしまうってことじゃない。
 そういや、カレンの目的である魔王の場合はどうなるんだろ。

「あとあと〜、こういった反省会も楽しいものね〜。事後のトークって大切よん」

 なぜノブエさんは俺を凝視する。

「ねえねえ、イッサ。ウチさっきの戦いでレベルUPできるんだけど、『とっておき回復』
どうしようか?」

 『とっておき回復』は勝手につけた呼び名で、レベルUP時による全回復を指す。
 ユアのどうしようかは、ライフやSP手段が限られているので、戦闘中ピンチの時にレ
ベルUPしたほうが良いだろうかの意。
 ただ、ピンチを通り越して教会送りになった場合は経験値が半分、レベルUPできてた
のにっ、と後悔することになる。
 結構このパターン多いんだよね。
 みんな、勿体ない根性が強いと言うか。

 ユアに『英雄の帰還』があったとしても、保険としては弱い。
 『ふんばーる』は一つしかないしなあ……ここはやっぱり、

「うーん。相手が相手だからな。とっておき回復に使うのは危ないかもな」

「うんうん、だよね。分かった」

 それだけ言って、ユアはコンソールを操作してピッ、ピッ。
 ユアの小柄な身体のラインを縁取るように光が走る。

「ちゃらら〜ん。ユアちゃんはレベルが上った。美貌が3上がった。ユアちゃんはますます
可愛くなった」

「3か、おめっとさん。んじゃま、ユアのステータスも上がったし、次の戦いに備えて動き
ますか」

 ドラゴン日和の空の下、和やかな一時。
 どこかの少年マンガではないが、一つ辛い戦いを乗り越えると仲間の絆は強くなる。
 そしてその体感は、とても心地よくずっと浸り続けていたいくらいだ。
 ただ、このままこの心地良さに呆けている訳にはいかない。

 今『輝く赤石』は一つ。
 俺達の戦いは、始まったばかりだ。





 『俺達の戦いは、始まったばかりだ!』、と意気込んだ俺の戦いは3回目にして終わり
を迎えていた。

 六芒星が描かれた石の床に立つ俺。
 さしあたっては、場所の確認だろうから、いつもの宙に浮かぶ四角い画面を操作して地
図を見る。

 ウーゴの街で点滅する点があるので、俺はウーゴの教会に教会送りになったようだ。
 教会送りも近くに、聖なる祠ほこらがあればそっちを優先されたりするので、この送ら
れた先の確認は必須事項である。

「頑張って戦っていますか。こちらはウーゴの教会です。落ち着いたら返事下さい。送信、と」

 言いながら、俺は画面に言葉通りの文面を作成しそれを送る。

 俺はパーティメールと呼んでいるが、パーティを組んでいるとコンソールを通じて仲間
へ文章を送れる。
 ケイタイや無線のような音声を送れるアイテムはあるが、所持していないので俺達の連
絡手段はこれになる。

11ヶ月前 No.6

かえる @rueka ★EM2SAzg5FU_BwN

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11ヶ月前 No.7

かえる @rueka ★EM2SAzg5FU_BwN

「私はアケミさんの危惧は理解できます。アケミさんの言葉を借りるなら、サーシャの特
性スキルはこの世界の理を超えるものです。彼女と同じく私にも具体的な説明はできませ
んが、その事が世間に広まることは、危険性を孕むもののような気はします」

「だから、なるべくサーシャには目立つようなことは避けて欲しい、とアケミさんは本人
にも言ったんだろうが、あのサーシャの様子だと聞く耳を持ちません。そんな感じだな」

「ええ。きっとそうなのでしょうね。サーシャとしてはどうやらもっと、レベル上限者を
募りたいみたいですし」

「あいつからすれば俺達は、ネギを10万ゴールドに代えてせっせと運んでくる鴨だから
な……で、どうする?」

「私はアケミさんの申し出を尊重しようと思います。イッサはどうします」

「俺? 俺もカレンと同じだけど、ただ俺のは自分から言いふらかしたりはしないように
しようかなー程度」

「私もその程度ですよ。特に墓場まで持っていくようなつもりでは言ってはいないです」

 お互い笑った。
 ふと、こうして笑い合うことが自然になったことに気づき、なんかほっこりした。

「同じ、あ、いや、もう100だから違うか。レベル99の他の冒険者には後ろめたい気
持ちがなくもないけど、さしあたってはユアだな」

「ええ、ですね。ユアの口を重くしないといけません」

 この日の山道は、カレンの笑顔が絶えなかった。

 それで、宿に戻ってこのアケミさんの思いを尊重することが、この世界ではやや難しい
ことを知る。
 料金が発生するところには、必ずと言っていいほどある見透かしの水晶。
 アナライズされることで、簡単に俺達のレベル100はバレてしまう。
 さてさて、『故障ですかね』の笑顔で誤魔化せるだろうかね。




       ◇ ◇ ◇




 200万ゴールド。
 それが俺達の掲げた目標金額であった。

 この金額は、俺とカレンのレベルの上限を上げるために最低限必要としたもの。
 カレンの、10前後のレベルUPさえ出来れば思い描く足りない力の分には届きそうだ、
との発言から設定した。

 何かとサーシャに不満なユアとしても、ちまちまテレル山に通うより良いからと賛成し
てくれた。
 まあ、『大金を叩きつけて、あの巫女の鼻の穴をウリウリ開けてやるっ』と言っていた
こっちが本音だろう。
 正しくは、鼻を明かすだけどな。

 ノブエさんさんから特に異論はなく、一度に運べるゴールドとして妥当じゃないかしら
とのことであった。

 そんなこんなで、買値が崩れることもなく(道具屋さんからまだまだ売りに来いとさえ
言われた)目標金額目指して俺達のジュエルドラゴン狩りは始まり、ウーゴの街を拠点に
するようになって一ヶ月程の頃に、その目標は達成されることになる。

 だから、さあ、いざテレル山へ! と言いたいところだが、そうもいかないのであった。

 晩飯も済ませた宿の一室。

「イッサはイイけど、カレンは大変だよねそれ。カレンの可愛さ台無しだからね」

「私としては、以前見た映画の武士のような気分を味わえるので割りと好んで着用してい
ますが、宿のご主人を謀ることになるので、少々心が痛いですね」

 カレンは隠れ蓑笠(みのかさ)を部屋の壁に掛けると、しかめた顔をユアに向ける。
 うーむ。
 謀る――と言えば、確かに謀っているよな。
 レベル99の料金で利用しているんだから。

 俺やカレンは、隠れ蓑笠の隠し効果(隠れ蓑笠だけに、とかついつい言ってしまいそうになるが)
アナライズキャンセルを利用し、なるべくレベル100を知られないようにしている。

 知られてしまえば、どうしてもそのことに触れられるだろうから、余計な詮索などを避
けるためだ。
 特に、冒険者ギルドと提携している宿は情報交流の場所でもあるので、噂になるのは遠
慮したいところである。

 それで、宿の主人の反応で自覚してしまったが、レベル100というのは俺の思ってた
以上に『ありえないもの』のようだ。
 見透かしの水晶の故障だとの進言を、簡単に信じてしまうくらいには、だな。

 けれどだからと言って、しょっちゅう宿の水晶を不良品にする訳にもいかす、日の支払
い時に、蓑笠を脱ぐのを面倒そうにして隠し効果を伝え、
(ここの主人は隠し効果を知っていたようなので、話が早かった)
 有無も言わせずレベル99の最高利用料金をぽんと支払えば、万事OKであった。
 今では一ヶ月も通う宿なので、もう顔馴染みの顔パスだけどな。

 あとは宿の主人以外にも、たまにこっそりアナライズしてくる奴らの対策でもある。

 俺はそんなことはないのだが、カレン曰く『どうしてだか、たまにどこからかアナライ
ズされることがあるんですよね』から、移動中も装備している。
 カレンがこっそりアナライズされる理由に察しはつく。
 可愛い子のステータスは、なんかのぞきたくなるものだからだ。
 などと、カレンには言わなかった。
 なぜなら、俺はアナライズを使えるので、あらぬ誤解を招かれてしまうからな。
 俺はそんなストーカー紛いなことはやらないよう……たぶん、心掛けている。

「ふふ〜ん。一攫千金〜十攫万金〜、そこは夢とロマンの街ガーマだぜいえ〜い」

「その様子だとお、今夜、ユアは夜更かしになりそうだわね〜」

 と、ご機嫌なユアの未来を予言したノブエさんは、硬貨を10万ゴールドで小分けして
革袋に詰める作業をしている。
 手伝いましょうかと言えば、いいのよん、私この数えている時も楽しいんだからん、と
やんわり断られた。
 そこへ、凛と正座する大和撫子がいたりする。

「本当にユア、そしてノブエさんありがとうございました」

「またそれかあ。だからー、パーティのお金はみんなのものだから気にしなくていいんだってばー」

「そうそう。イッサやカレンがレベルの上限を上げることはパーティの目標だったんだか
ら。それは私やユアの目標だったってことよん」

「はい、けれども感謝はさせて下さい。1人ではこんな大金は難しかったでしょうし、1人
では途中で挫けていたかも知れません」

「カレンってば、そういうとこあるよね。意外と頑固っていうか。レベル40台のウチと
しても、ジュドラは経験値ウマウマドラゴンだったから別にいいんだって。お陰でもうす
ぐ50に届きそうだし」

 ジュドラとはジュエルドラゴンの略である。
 と、それはそれとして、俺としてもカレンと同じ気持ちだ。

 同じパーティとは言え、なんだかんだで、ユアやノブエさんには俺達の都合に付き合わ
せてしまっている。
 けれども、この二人こそお人好しなんだろう。文句も言わず、二つ返事で了承し、こう
して現に付き合ってくれた。
 カレンのように口に出すのは恥かしいから控えているが、感謝してるよ、ほんと。

 ありがとうな。
 んで――、

「まあ、カレン。俺達がレベル上限を上げる代わりに、ユアはユアでカジノに行くんだか
ら、お互い様ってことだろうさ」

 そう、俺達は明日、巫女に会いに行く前にカジノがある街ガーマへ向かう。
 ここからだと2日かな。
 その日数があればサーシャのいるテレル山へ行けるが、これがパーティの予定であり、
ユアとの約束だったのだから仕方がない。

「ねえねえ、もし1億ゴールド手に入ったら何買うおっか。個人馬車とか買っちゃう?
それとも思い切って家建てちゃう?」

 それはそれは、楽しそうに尋ねてきやがった。




       ◇ ◇ ◇




 カジノ街として有名なガーマ。
 湖畔をすぐ近くで望めるその街の規模は、他のそれらに比べると小さい。
 だが、名前から想像できるように、他の街にはないカジノが営われる。
 また教会がない街としても珍しい。

 ただ、この部分は街の成り立ちから、自然なことだろう。
 『地元の人』の話じゃ、街があって教会が建ったのではなく、教会が建つところに街が
できたらしい。

 元になる教会は誰が建てたのか頭を傾げるところではあるが、モンスターに襲われた結
果、教会送りになるのは『地元の人』も一緒で、教会には嫌でも人が集まり、大きくなる
集落はそのうち街へと発展した。
 道理だな。

 それで、ガーマの街は教会とは関係なくしてできた街だ。
 だから、比較的歴史の浅い街ということになる。

 まあ、成り立ちうんぬんはともかく、教会としては、そのイメージに賭博とは無縁であっ
て欲しいだろうし、この街には教会がないことのほうが健全なのかもしれない。

 もしあったらあったらで、パーティの所持金を持って教会送りになったヤツがそのまま
カジノへ直行――と、冗談はいいとして。
 この街、人がいっぱいである。
 その内訳は、ほとんどが一環千金を求めてやって来た旅行者で占められる。
 俺達もその中の、儚い夢をみる一行だ。

「ふふーん。どれにしようかな。カレンどれがいいと思う?」

「ユアにはどれも似合いそうですが、艶やかな色の物も良いのではないでしょうか。私に
は着れそうにないですけれど、この赤のドレスなんて、ユアに似合いそうです」

 洋服屋、いいや冒険用の服など一切見当たらない、金庫まで備える高級洋服店に俺達は
いた。
 そこでのユアとカレンの会話である。
 タキシードっぽいような、貴族が着てるような服っていうか、きっちりかっちりした衣
装に身を包む俺は、

――どれでも大して変わんねーから早く決めろよ。

 と、思ってはいるものの、それを口に出すのは憚られるのを知っているくらいには大人
の男である。

 それで、俺達がこの店で服を借りるのは、カジノが行われる遊技場へ入るためだ。
 いつもの格好じゃ、ドレスコードに引っ掛かるんだよね。

「ねえ〜ユア、カレン聞いてよ〜、ほんと嫌になっちゃうっ。
このお店、私のサイズに合うドレス置いてないって言うのよ。私そんなに大柄じゃないの
に、失礼しちゃうわ」

 珍しく腹を立てる模様のノブエさんの隣では、若い店員さんが困り顔であった。
 俺も貴方の立場だったら、その顔になるな。

「ノブエさん。なんつーか、あれだよ、サイズが合わないってノブエさんのスタイルが特
別だから合わないってだけじゃないの? ノブエさんって胸板――ぶるぶる、豊満な胸囲
からすれば、信じられないくらいきゅっと締まったウエストだし、たぶんそういうことな
んじゃない」

「あら〜、やっぱり私ってそうなのかしらん。う〜ん、仕方ないわね〜」

 どうやら、少しは機嫌が戻ったようだ。
 そうこうして、各々服を選び終えた仲間達のお披露目が行われた。

「どうよ、イッサ。ユアちゃんに惚れ直したっしょ」

 ユアがくるりと回り、その赤いドレスのスカート膨らます。

「まず俺が惚れてる前提になってんのがおかしいぞ」

 だが。
 くそ、可愛いじゃねーか。
 女は化けるから、とか耳にするけど、ほんとに化けやがった。
 ユアから女性らしさを感じてしまう。
 そこへ、す、と胸元で両手を抱くカレンが登場する。

 薄い紫色のグラデーション。
 紫陽花を彷彿させるドレスに飾られるカレンは、はやり可愛く……、

「綺麗だな……」

 ぽろりと、こぼした感想に、

「ありがとう。ふふ、イッサのそれもとても似合っていますよ」

「マゴにも衣装ってヤツだよねー」

 相変わらず一言が多いユアのそれが耳に届いた時である。
 後ろに何か大きな気配を感じた。

「二人ともとても似合っているな。普段もステキだが、今日は一段と輝いて見えるよ」

 明らかに男性の野太い声だった。
 でも、これ俺じゃねーから。
 振り返れば、どこぞの渋い俳優のような正装するダンディがいた。

「おお、ノブっち、なんかキリっとして漢って感じだね」

「本当はユアやカレンのように可愛いドレスを着たかった。しかしそれは叶わず男装する
しかなかった。だが一度(ひとたび)男装すると決めたのなら、女の意地にかけて、男と
して振る舞わらないとな」

 聞きようによっては、ただの変態の発言としか思えないばかりか、ちぐはぐなことも言っ
ているようなそれ。
 普段の濃いアイラインとかチークとかを落とし、メイクダウンしたノブエさんであって
ノブエさんではない、ノブヒロさん。

 そして、ノブエを改めたノブヒロさんは、

「じゃあイッサ。この綺麗なお嬢さん方を遊技場へとお連れしよう」

 ぽかんと口を開けたままの俺に、カッコよく言い放つのだった。






 カジノといえば、きらびやかなネオンに夜景と夜の匂いが漂うものだが、今は空が赤く
染まる夕方である。
 さっきの洋服店で仕入れた話だと、時間的には問題ない。
 ただ、気分的にはやっぱりカジノは夜だよな。

 しかし、建物自体はゴージャス感満載でいい感じだ。
 遠目で見れば、中央にドーム状の屋根を持つカジノ。
 広さはは教会くらいありそうだ。
 そして、明らかに一般的な家とは違う門構え。
 城とまでは言わないそこには、左右に分かれて門番が立つ。

 俺達が近寄れば会釈をされ扉が開く。
 そこはロビーのような雰囲気で、まだ先にここからが本番ですと言わんばかりのテカ
テカした扉があった。

「アナライズされるかと思ったけど、大丈夫だったな」

「ここには貴族や富豪も訪れるような話でしたし、その配慮からではないのかと思います。
代わりに入り口にいた者達からのあの視線。只者ではない鋭さがありました」

「だな」

11ヶ月前 No.8

かえる @rueka ★EM2SAzg5FU_BwN

 身体検査とまったく同じ意味を為すかは別として、アナライズされることに喜びを感じ
る人間よりは嫌う人間のほうが多いからな。
 カレンとこっそりそんな会話をしていたら、もちろんなのか、テカテカ扉にもドア開け
係がいて、さっと開いてくれた。

 初めは暗いの意で、

「くら……」

 そうして目が慣れると、クラクラするような世界がそこに待っていた。
 まさしく華やか、派手やか。
 行ったことはないが、俺の思うカジノの原型になっているザ・ラスベガス。

 まあ、ぱっと見回した感じ、スロットマシンとかそういったのは無さそうだが、ルーレッ
トにカード、お酒に葉巻、そして、バニーちゃんがいた。
 やっぱりなのか、必然なのか。

「うさぎちゃんは、まさしく世界共通なんだな……」

「うさぎが何? それより、ぼーとしないでよ。まったくさっきから気が利かないよねイッサは」

「あい?」

「ほら、ノブっちみたく、ちゃんと女子をエスコートしなさいよ。こうゆの男の嗜みでしょ、タ、シ、ナ、ミ」

 俺の前では、大きな背中の紳士の腕につかまる赤いドレスの少女がいた。

「ええと」

「イッサ……。よろしくお願いします」

 腕に人の温もりを感じた。
 俺の腕に手を通すカレンのさらさらとした長い髪。それからいい匂い。
 で、周りの重厚な騒がしさの中に混じるその声も、これだけ近ければ聞こえるわけで。

「あのカレン」

「男の人に恥を掻かせるわけには……だから……そう、だから恥ずかしいことじゃない、
恥ずかしくなんてない……」

 ボソボソ言って、俯き歩くその顔は薄暗さもありよく見えなかったが、なんだか赤いよ
うにも思えた。
 そしてそれは。
 鼓動の高鳴りからして俺も似たようなものか。

 やはりカジノとは、予想通り興奮渦巻く場所であった。





「じゃあ、いっちょ稼いてくるぜい。行くよっ。ノブっち」

「俺達を待つ間、イッサとカレンはそこのバーカウンターでくつろぐといいだろう」

 ユアと、(変な言い方だが)男装するノブエさんは俺達を残し、武器をチップに代え
ギャンブルという勝負に挑んでゆく。

「ノブエさん、もはや別人だよな……。んじゃ、俺達は言われた通り、あっちで待つとし
ますか」

「はい。二人とも良い結果になるといいですね」

「まあな。ユアはレベル100分くらいは、ここで稼いでくれるらしい」

「うふふ。それは楽しみですね」

 そうなれば、ウハウハである。
 でも、世の中そんなに都合良くできていない。
 十中八九、『あははは、負けちった……』とションボリ顔で戻ってくるのがオチだろう。

「しかし、ユアは余程ここへ来たかったのですね。活き活きとしています」

「カジノで活き活きって聞こえ悪いけど、楽しみにしてたからなあ……あいつ。これのご
褒美があったから、ジュドラ狩りもテンション高かったし」

 元々、カジノへ行こうと言い出したのはユアだった。
 前から一度は遊んでみたいね、と言っていたが、その時は金策としての意見だった。

 確かに、勝てればジュエルドラゴンよりは効率よく稼げる。
 一晩で1億を手にしたとかの話を聞くからな。
 けどまあ、言わずもがな、この案は3対1で反対数が多い結果になった。

 しかし、俺のパーティは多数決が絶対の正義ではない。
 200万ゴールドを達成したあかつきには、カジノで遊ぶことを決めた。
 仮に勝てれば資金が増えるし、負けてもユアとノブエさん各々へ渡してある10万ゴー
ルドが泡になるだけだ。

 俺やカレンのために頑張ってもらった額としては全然足らないくらいだが、彼女と彼に
は思う存分楽しんで欲しい。

「それでイッサ……その、少々改まった話になるのですけれども、私の話を聞いてくれま
すか。その、こういう場所では、とも思ったのですが、宿へ帰ればユアもノブエさんもい
ますし……」

 カウンターテーブルへと席につけば、何やらカレンが思いつめた声で言ってくる。
 目が合えば、さっと逸らすようにして下を向く。
 それは俺を見たくないからとかの類ではない感じだ。

 ならば、と俺は思う。
 そんなはずはないよな、と繰り返し思う。
 更に思い込みも度外視して思う。

 結果、俺に思いも寄らなかった春が来た。
 大学の合格発表より早く、サクラサクが来たようだ。

 今の今まで気づけなかった。
 カレンが俺のことを好きだったなんて。

 確かに最近よく笑顔を見せてくれるし、さっきは顔を赤くしてた。
 そんでもって、二人っきりなこの状況で、あいつらがいたら困ると言う。
 乙女が、恥じらうようにしてその潤む目を逸らしたんだ。
 どお――――――――考えても。

 間違いない。

 俺もそこまで男女関係に疎くはない。
 この感じ。告白の雰囲気だ。
 今のカレンは、俺の観ていたアニメのヒロインとそっくりだからだ。

「なあカレン。場所とか、そんなもの関係ないさ。ムードとかは大切だけどさ、一番はタ
イミングだろ、そうタイミング。言える時に言う。それが大事」

 多少作った声になり過ぎてしまった……が、問題ない。
 この後、『私、イッサのことが好きでした』で俺は即答でイエス。
 シミュレーションは既に脳内で済ませた。
 さあ、俺のほうは準備万端だ。
 さあ、こいっカレン。

 今、その柔らかそうな唇が開く。





 オシャレなカウンターテーブルにはドリンクが2つ。
 そのうちの1つはアルコールが入っており、普段から飲みもしないのに注文してしまった。
 注文した以上は口を着けるのがマナー。
 くいっと青い液体を喉へ通す。

 カレンの俺への告白。

 告白に違いないそれは、俺の思っていたのと違っていた。
 結果、思いも寄らない果ての思いも寄らない結果だった。
 いやはや、ややこしいな。

 『私はテレル山でレベル上限を上げたら、このパーティを抜けます』。

 俺が期待して待ったカレンの口から出た言葉はこれだった。
 そして、俺だけに話したかった理由であるが、俺がこのパーティのリーダーであるから、
脱退に際して代表者への事前の断りだそうだ。
 こういうのがカレンの中にある筋らしく、どうしてもテレル山へ向かう前には伝えない
といけなかったそうな。
 なんかそれが、最低限の礼節らしい。

 自分の勘違いによる、穴があったら入りたい恥かしさに、いつかはと心の片隅に置いて
いたカレンが抜けてしまう現実を、再確認させられた俺。
 まともな返答はできず、とりあえず何か飲もうかと俺はお茶を濁すのだった。

「カレンはもっと、不真面目にならないとな」

 粗方落ち着いた思考で出した答えである。

「不真面目ですか。……私は十分に不真面目です。みなさんに伝える覚悟がないばかりに、
ずるずると引き伸ばしてしまいました。身から出た錆ですけれども、だから今、ユアやノ
ブエさんへ伝える機会を逃してしまっています」

 言って、しゅんとなるカレン。
 だから、そういう物の考え方をだね、と言いたいのだけれど。

 面倒な性格と言えば、それまでだが――。

 カレンとしては、ユアやノブエさんにも脱退することはちゃんと伝えたい。
 けれども、今回の冒険『カジノ』の主役であるユアやノブエさんの楽しい一時に水を差
したくない。
 じゃあ、明日にでも伝えればと思うのだが、テレル山へ向かう前に自分の脱退をユアや
ノブエさんへ話さないのは不誠実だ、的なことで駄目らしい。

 俺の解釈だと、明日になればパーティの目的が『カジノで楽しもう』から『テレル山で
レベル上限上げ』に変わる。
 この変わった時点で、旅の目的の意味するところが、レベル上限を上げた後=カレン脱
退としないことが仲間への偽りになる。
 たぶんこんなところで、無駄に悩んでいるんじゃないのかな。

「結局私は、自分が誠実でありたいためだけなんです。こんな風に、自分が悩んでるって
それをイッサに分かってもらって、それで私は自分を、正当化しようとしている意地汚い
女なんですっ」

 強い語気に驚きながらに、カレンってこんな感じだっけと違和感を覚えた俺の目が、い
つの間にかカラになっていたグラスを捉える。
 そうして、ある推測に至る。

「カレンの飲んだほうが、酒だった……のか」

「お酒。はい。私お酒飲みました。大丈夫れす、大丈夫です。私こっちで成人むかれてますから」

 それから、カレンがテーブルへ打っ伏すのに、ものの数分と掛からなかった。
 可愛い子は寝顔も可愛いくて、見てる分には良いのだけれど、

「なんだかなあ……」

 である。



 予想を裏切らなかった結果に、けろりとしていたユア。
 チップをすべて使い切ってしまったその手には、2枚のチケットを持つ。

「はいこれ。なんか10万ゴールド分のチップ買ったら1枚貰えるみたい」

 ぴらっと渡された1枚の券はクジ引き券。

「なんで俺? 2枚あるんなら、お前とノブエさんとで使えよ」

「ノブっちはイイって。カレンはあんなだし」

 ユアに釣られて傍らへ目を配る。
 大きな紳士の背中には可憐な紫陽花が一輪。
 一杯の酒にて眠りへと落ちていたあんなカレンは、ノブエさんからおぶられる。

「……じゃあ、引いてみっかな。最近はなんかクジ運も普通のような感じだし」

 俺はキョロキョロとしてウサ耳を探し、発見した赤いウサギちゃん(赤色のバニ―ガール)
に券を使用する場所を尋ねた。
 夢を乗せカラカラと白い玉が回るルーレットに、めくられる度に歓喜と溜息を鳴らすカード。
 俺達は静かな騒がしさ、冷ややかな熱気の音を残して、別室へと移動する。

 ロビーを通り案内されたそこには、俺と同じクジ引き券を手にする幾らかの客。
 受付けらしき台があり、ネクタイをする男性とバニーちゃん。
 こちらは黒いウサギちゃんだった。
 で、その女性がテーブルに置く物体のハンドルを客に回すよう促していた。

「あー、ガチャポンだ」

「確かに、ガチャガチャだな」

 ガチャリガチャリと回して、中からカプセルが出てる抽選機。
 まさか、こんな場所で見るとは思わなかったが。
 前に並ぶ客を見るに、取り出し口からころんっと出てくるプラスチック容器が、硝子玉
に代わる以外はまさにガチャガチャで、その中にある番号に照らし合わせた物がもらえる
ようであった。

「それではお嬢様、どうぞお回しになって下さい」

 ユアがガチャリガチャリ。
 ころん。

「こちら、当カジノのマスコットでもあり街の人気者ガーマくんです。おめでとうございます」

 ユアの手にカエルのぬいぐるみが渡される。
 7対3でリアルな造形の方が勝っている緑の人形。

「ねえ、イッサ。ウチは、きゃー何これ、ゲロカワいいんですけど☆ とか言った方がイイのかな」

「言葉にしない気遣いもあると俺は思うぞ」

 『ウサギでカエル推しされてもね』とハズレを引いたユアはボソリ言って俺に順番を譲った。
 ガチャリガチャリ。
 珍しく期待を込めて俺はハンドルを回す。

 クジ運が良い、は言えない俺。
 けれど、今日このごろは”悪くはない”とは言えそうだ。

 レベル100の時のステータスポイントもよくよく考えれば、『5』は真ん中であり普通。
 損得で考えれば+10のボーナスがある俺はカレンよりも勝っている。
 そして、散々戦ったジュエルドラゴンからは、2分の1程度で難なく『輝く赤石』を手にできた。
 なんだか近頃の俺、やっと当たり前の運になっている。そう、実感できているのだ。

 だから、ハズレのカエルなんて引かねーかんな。

 ころん。

 カランカラン、とベルが鳴った。

「おめでとうございます。大当たりです]

 鐘の音と祝福の声が鳴り止む頃になって、ようやくその意味を理解し胸が高鳴った。
 驚愕といった顔を向けてくるユアを放ったらかしに、黒ウサのお姉さんからの話に耳を
傾けた。
 どうやら、冒険者の俺には都合の良い、『高級装備品』を引き当てたようである。

 客が冒険者ではない場合の配慮か、同じの価値のある高級家具にも変更できると言われた。
 高級家具――タンスとかが一瞬過ぎったが、たぶん違うだろうなあ、などと思いつつ、
俺はここで高級装備品の方の内容を問う。
 案の定、決められてからのお楽しみです的なことで教えてもらえなかったが、職業に
合わせたものであると説明を受けた。
 だったら、迷うことなく。

「変更なしでお願いします」

 職業魔法使いを伝えて間もなく、蝶ネクタイの男性が横に長いケースを抱えて持って来た。
 小柄なユアなら、押し込めればどうにか詰め込めそうな大きさ。
 さっきから、俺よりそわそわしているからウザくていかん。落ち着けっての。
 そうして、ケースが開かれる時がきた。
 期待感がピークに達すると同時に俺の目に飛び込んできた物は――1本の杖だった。

「う……ん」

 喜びを一気に冷ます自分が、嫌なくらいに分かる。
 ローブを纏えし魔法使いが、いかにも使いそうな木の幹から削りとった大きなコブのある杖。

――確実に邪魔くさいな。

 俺、軽装第一、手には何も持たない派なんだよね。
 もちろん武器は持っていた方がお得なので装備しているけど、
 普段は指揮棒のようなコンパクトな杖を、ナイフのように腰のベルトに掛け収納している。

「こちら古代魔道士の杖は、SPドレインが備わる大変優れた高級装備品です。おめでとうございました」

 その言葉にますます顔をしかめてしまったが、とりあえずは笑顔を貼り付け、ケースは
いらないと中身の杖だけを手にしてその場から身を引いた。

11ヶ月前 No.9

かえる @rueka ★EM2SAzg5FU_BwN

「良かったじゃん、大当たりなんだから、当たりなんでしょそれ」

「まあな……」

 その点は素直に嬉しいけどさあ。
 俺は浮かない顔でユアを見ていた。

 下手に貴重なSP関連の効果が付いているから、たぶん俺はこの場所を取る長さと無駄
に頑丈そうな太さを持つ棒を、捨てることも売ることもできないだろう。
 この世界ってほんとSPにキビしいっていうか、よく出来ているっていうのか……SP
関連のアイテム、装備、スキルは貴重なので疎かにできない。

 それで、古代魔道士の杖はSPドレイン。

 この世界に於いて、ライフとSPはセットである。
 よってSPを持たないモンスターはいないだろうから、相手を殴れば確実にダメージ割
合で自分のSPを回復できることになる(そう効果の説明があった)。

 一見とんでもない武器を手に入れたようにも思えるが、魔道士たるもの後衛職である。
 モンスターを殴る行為が、まず難易度高いつーの。
 こいつを作った奴は、その辺りのことをまったく分かってない。

「どうせなら、増加とか軽減系が良かったよな……」

 邪魔にならない小物は前提として、もしSPの容量が増加するのだったら、強力な魔法
を使えてたかも知れない。
 今俺の最大SPは40だから、あと10以上増えれば『ドラゴニール』の更に上の『フ
レイヤ』や、無属性の『プレアデス』を使用できるんだよな。
 (追加スキルの−5があるから、増加ポイントは最低5以上であればなんでもいいのだ
が、増加系は50ポイントからスタートする物がほとんどだった気がする)

 軽減なら、ポイント次第では中級クラスの魔法がSP消費なしで使える。
 強敵でないモンスターとの連戦であれば、増加よりこっちの方がかなり利点があったりもする。

 うーん。
 どうしよう、この古代魔道士の杖……。






 俺達が衣装を借りた洋服店の一角、

「のぞいちゃ、ダメだかんね」

 とのユアの言葉で大きな布が閉められる。
 着替え室の中には、盗賊娘の衣装のユア、(変な言い方であるが)ノブエさんになった
ノブエさん。そして現実の世界と夢の世界を行き来しているカレンが入っている。

 漏れてくる声から、いろんな想像を掻き立てられるが、ノブエさんの声がいちいち俺を
妄想の世界から連れ戻す。
 いや、それはそれで自制心を保つ手助けになったのだから、ありがたかったけど。

 ばっと、布が開き『終わったよー』とユア。
 等身大の着せ替え人形カレンが、いつもの騎士へと戻っていた――が、その様に凛々し
さはなく、床へとへたり込んでいた。

「それじゃあ、あとはイッサよろしくねん」

 ノブエさんが言う。

「よろしく?」

「女の私に、カレンをおぶらせる気? 宿までは男のイッサがおぶるのが当然でしょう〜」




 もうすっかりと暗くなった、街の通り。
 並ぶ家から溢れる明かりと街灯を頼りに、宿を目指す俺は、その背に眠れる美女ことう
ら若き乙女カレンを背負う。
 密着する体。
 だから、俺は背中を通して、柔らかな膨らみ感じる。
 と、俺の観ていたアニメのならこういうシチュエーションなら確実にそんなシーンなの
だが、現実は世知辛い。
 背中にて感じるのは、鉄の硬さとその重み。
 教訓、鎧女子をおんぶすることは避けた方が無難のようだ。

「お、重い……いてっ」

「だからー、女子に重いとか言わない」

 俺の頭を叩きユアが言う。
 魔道士の杖をカレンのお尻を支える棒(別の用途としてはさっそく役には立った)とし
て使う俺は、両手が塞がっているので叩かれ放題である。

「なあ、ユア。カレンからパーティ抜けるって言われたらどうする?」

「何、突然。……別にー、どうもしないけど」

「ぐえ」

 俺の喉が、首へ回される腕からきゅっと締め付けられた。

「何?」

「ああ、なんも。でもしかしあれだな、なんかお前のそれ、薄情な言い方だな」

 ユアが口元で人差し指を振る。

「チっ、チっ、チっ。分かってないなー、チミは。もうウチとカレンは――、
ええーカレンがパーティから居なくなっちゃうの!? ウチ寂しー、泣いちゃう、とかそ
の程度の関係じゃないの。薄情とか失礼だよチミは」

「そうそう、私もカレンがもしそうなら、黙って草鞋(わらじ)を用意するだけよん。旅
立つ夫をそっと見送るのが良き妻の務めね」

「ノブエさんの夫婦の話はともかく、いつでも気持ちの準備はできているってことだよな。
そうかあ。そんな感じなんだな」

「なんかしたり顔が、ムカつくんですけどー。大体なんで、そんな話を今更聞くんですかー」

 バシリ、バシリ、俺のヘヤースタイルを変えようとするユア。

「そうよね〜。カレンがいつかはこのパーティを抜けて魔王退治に行くのは分かりきって
いるのに、変よね〜」

「あ、いや。なんつう……か、そうそう、だからその抜ける時にカレンの性格だと俺達に
言いづらいだろうなあ、てついこの間思ったわけよ。で、パーティリーダーである俺とし
てはだな。そういったことがないような環境を作るのも仕事なわけで、仲間同士の意見を円滑にだな」

「ああ、はいはい。もうイイから。イッサにはそういうの向かないから慣れないことはや
んないやんない。リーダー的なことはカレンの役割なんだから、人のポジションは取らない」

 俺のリーダーの肩書って、ほんとなんなのよ。
 ユアの物言いにふてくされて俺は、スタスタと前を歩――きたいが、カレンを背負う俺に
それは無理なので、ユアとノブエさんの後ろへ。
 後をとぼとぼついて行く。
 それで、やっぱり起きていたカレンから耳元でこうつぶやかれた。

「……ありがとうございます」





 今晩泊まる宿の前で、俺はカレンを背から降ろす。

「どう、調子は?」

「お陰さまで。みなさんにはご迷惑おかけしました」

 夜風にあたったのが、良かったのか。一人で立てるようにまでは回復した様子のカレン。
 身軽になった俺はユアから『隠れ蓑笠みのかさ』を受け取り装備する。
 いつものスタンバイを済ませ、宿へ。

「ただいまー」

 とユアがの受付けのおばちゃんへ元気よく挨拶。
 それに連れられるようにしてぞろぞろとノブエさん、俺、カレン。

「ああ、ちょっといいかい。そこの蓑笠のお二人さん」

 おばちゃんから呼び止められた。

「あんたらは確か、レベル99の冒険者って言ってたよね」

「ええ、おっしゃるように……そうですけれども」

 なんだろ、おばちゃんが人生のいろんなことを知るようなその目で、俺とカレンを凝視する。
 俺達不審がられているよな、と思っている最中、おばちゃんはごそごそ受付け台の下を漁る。
 そこから出てきたのは、羊皮紙。

「はい、これ。ギルドからの『ジェミコル』。レベル99の冒険者に渡すようにってことだからさ」

 台の上へばんっと置かれた羊皮紙を受け取り、目を通した。
 赤いラインに囲まれた中に、文字が並ぶ。

「『ジェミコル』って冒険者ギルドからの緊急要請のことですよね」

 と言って、隣からのぞき込んでくるカレン。
 『ジェミコル』はこの世界の古語で、どういう経緯で日本語が通じる今になったのか、
と俺に思わせるのだが、今は置いといて。
 冒険者になる時にあった説明会を思い出すと、確か三段階に分かれたギルドからの呼び
出し書だったか。
 それで、赤はとっても重要なので、それだけでも覚えておいて下さい、と講師の人が言っ
ていたような気がする。

「おばあにはよく分からないけれどさ。その『ジェミコル』ってヤツは大変な時に出回る物だろ」

「ええ、そのような物のようですね。過去にはモンスターが大量発生したり、変異種が出
現した時などに発行した例があると私は説明を受けています」

「あれかね。モンスターどもが躍起になって人狩りでも始めたんかね」

「何かあったのですか?」

「いやね、最近この宿を贔屓(ひいき)にしてくれてた小さなお嬢さんが、どうやらモンス
ターに襲われたらしくてね。別に珍しいことでもないけどさ、この話を聞いてからお嬢ちゃ
んからは音沙汰なし。それで『ジェミコル』のお触れだから、ちょいと勘ぐってみたのさ」

 カレンの尋ねにおばちゃんはそう言う。
 ガーマには教会がないから、被害にあったらしいお得意さんがモンスターから逃げられた
のか教会送りにされたのか、知る由もないんだろうが、単にカジノで遊ぶ資金がないから、
音沙汰がないだけなのでは? と俺は思う。
 『ジェミコル』とは関係ないだろ。
 たまにいるよな、こういうなんでもかんでも話題を繋げたがるような人。

「たまたま忙しいだけで、きっとその内、お得意さんもここへ顔を出しますよ」

 俺はそれだけおばちゃんに言って会釈。
 はやく行こうぜと、みんなを部屋へと連れて行った。
 そうして。


【緊急招集】

 冒険者ギルドに所属するレベル99以上の者は、10日後の来月初めまでに本会館があ
るベネクトリアまで来られたし。

 尚、今回のジェミコルは最高重要度のものである。
 応じられない者は、規約にある条項に該当する者以外、その職を契約に則り剥奪する。


 再度羊皮紙の内容を確認する俺は、うんざりするのである。






 ここでの冒険者とは、冒険者ギルドに登録した者。
 登録者には職業が与えられ、その恩恵として職業に適した技スキルなどを覚える。
 そして、仕事内容は主にモンスター退治。
 この仕事内容もあって、冒険者は『地元の人』が少ない。

 どういう理由からかと言えば、この世界の教え、宗教的な部分でもあるんだろうな。
 教会送りがある世の中であるが、死の概念は存在する。
 だから、死後の世界とかも考えられている。
 天国とか地獄とかの話だ。

 ざっくりした話だと、生涯でどれだけ生き物を手に掛けたかで、その死後の行き先が決
まる。
 この辺は徳を積むと天国、悪いことをすると地獄に落ちますよ、の感覚だな。
 それで、みんなの憧れ天国行きのチケットを手に入れるには、できるだけ無殺生でその
時までを送ることがとても大切らしい。

 しかしながら、この世界の神様は寛容なのか、生き物の中にモンスターも含まれるとし
ている。

 モンスターの大半は人に害する存在であるからして、駆逐したい人間側であるがそうな
れば天国行きが遠のく。

 なので、人々は冒険者ギルドを作った。
 そしてそこに、神の意志を介在させた――と、これまた簡単に言えば、ギルドに登録し
た者は、神様に選ばれた特別な人間ってこと。
 俺達の職業って女神像からのお告げで決まるのだが、たぶんこれが神様から選ばれたっ
てことの意味になるんだろうな。

 モンスターと言えども殺生は良くない。しかし、神様がモンスターをそうしてしまうこ
とには問題ない。
 つまりは、神が選んだ冒険者がモンスターを倒す分には教えに背くことはない。
 都合の悪いことは神の名の元にチャラってヤツだ。

 なんつーご都合主義な信仰だよって話だが、案外世の中そういうものだと俺は思っている。

 それで、やっぱり俺以外にも祭り上げた神様は胡散臭いと思う者は多いようで、『地元
の人』はギルドの神様を認めながらも、いざ自分が冒険者になるのは嫌らしい。
 故に、この世界の神への信仰心がない『外の人』が冒険者には多い。

 この成り立ちがあるからなのか、結構俺達冒険者への待遇は良かったりする。
 『地元の人』からすれば、なんだかんだで冒険者ギルドや冒険者の存在はありがたいか
らだろう。

 だがしかし、『野良』には手厳しい。

 基本自ら登録を抹消する者はいないので、野良とはギルドから職を奪われた者と言っていい。
 この野良=無職になってしまうと様々なデメリットがある。

 当然、ギルドから発注されたクエストは受けられず、ゴールドも稼げなくなるわけで生
活苦に陥る。
 なら、別の仕事をして稼げば良いのだろうが、神様に選ばれたる冒険者なるものが無職
ともなれば、普通の人に戻るどころか多くの殺生を行ったただの罪深き人になる。

 世間からの風当たりは恐ろしい程に強くなり、仕事なんて果たしてもらえるだろうか、
という有り様になるだろうなきっと。

 要は死んでも野良にはなるな、てことだ。

 てか、教会送りなる分はいいけど、俺達『外の人』でも餓死や病死では普通に亡くなる
らしいから、野良はそっちの死に片足突っ込むことになる。

 だから。

 そう、だからこのギルドからの要請には死んでも応じなくてはならない。

「くそ、自分の高レベルが悔やまれるっ。畜生98だったらな……行かなくて済んだのにっ」

 どんと床を踏みつける。
 踏みつけてから宿の一室であったことを思い出す。
 一階の人、すまん。

「イッサは何故そんなにも嫌がるのですか? ジェミコルの要請に応じることは褒められる
ことです。そして、私やイッサは今回のそれに応えられます。皆が羨む誇らしいことですよ」

「カレン。イッサに誇らしいとか、そゆ高尚的なものはないから。たぶん集まるレベル99
の中に、自分が混ざりたくないだけじゃないのこのなんちゃって99は。あー、今は100
だったっけ」

 ユアの言葉は図星だった。
 そ、他の99の中に混ざって自分のステータスの低さに惨めさを感じたくないだけです。
 カレンのような気持ちは一切ございません

「なあ、風邪引きましたとかで、どうにかこうにか、なりませんかねユアさん」

「試しにギルドに風邪の診断書送ってみたら。ウチがギルドの偉いさんなら、その場で
『はい、こいつクビ』って言うね」

11ヶ月前 No.10

かえる @rueka ★EM2SAzg5FU_BwN

「……だよな」

 俺でもそうする。

「もう覚悟を決めて行くしかないっしょ。言っとくけど、ウチら野良とはパーティ組む気
はないよ。だよね」

「そうね〜、野良冒険者がパーティにいると私達も宿に泊まれなくなったりするから。こ
こは非情かも知れないけれど、サヨナラするしかないわよね〜」

 ノブエさんが胸の前で手を合わせ、ごめんなさいと付け加える。
 なんかフラれた気分を味わって、溜息。
 んで、この溜息は違う意味だから。
 分かっていますとも。
 もう行くしか選択肢がないってのも分かっていますとも。
 ただ、気持ちの整理にちょっと愚痴らないとやってらんなかっただけなんすよ。
 それに――、

「なあ、カレン。テレル山に行けなくなったのがさあ、なんか、嫌になるよな」

「……そうですね。そこは、私も残念な気持ちです」

 ここから巫女サーシャのいるテレル山へは4日は必要とする。
 そこからギルドのあるベネクトリアまで6日足らずではキビしい。

「俺としては焼け石に水だとしても、ステータス値を少しでも上げてからこの緊急要請に
臨みたかったんだよなあ」

「イッサの気持ちよく分かります。一体どんな内容の要請か分からない以上、万全を尽く
して臨みたいところです」

 いや俺としては。

「あー違う違う。イッサは少しでもステ値上げて、周りからバカにされないようにしたい
だけだって」

 と、俺の心をアナライズしたかのようなユアである。
 んで、カレンが返答に困った顔で俺を見る。

「どちらにしろ。テレル山へは行けません。強行すれば可能にも思えますが、もし期限ま
でにベネクトリアへ着けなかった場合は、職の剥奪『野良』が待っています。ここは諦め
るしかないでしょうね」

 カレンの決定に、異を唱える者はいない。
 そうして、俺達は話し合うことになる。
 招集されるのは、俺とカレン。
 ユアとノブエさんがこのままベネクトリアまで同行しても問題はなさそうだが、俺達は
一時二手に別れることにした。
 理由はそちらが無難だろうというもの。

 俺はまだ訪れたことのないベネクトリアは、数あるこの世界の街の中でもいわいる都会。
 だから、お財布係のノブエさん曰く、都会は犯罪が多いからあまり大金を持って行きた
くないわ〜。

 で。
 ベネクトリア地域には手強いモンスターが多いと聞く。
 だから、レベル50未満のユア曰く、ウチ知らない土地で教会送りとか嫌だなー。
 などから、二人はベネクトリア行きに気乗りしないようだった。

 加えて、ベネクトリアでどれくらい滞在するのかもまったく予想が立たない。

 他にも思うことがあるが……以上のことなどから、俺はギルドから招集のかかるベネク
トリア組と勝手を知る土地で待つザイル組へ別れる決断をした。

「本当にいいの?」

「問題なく。ずっと俺達の用事に付き合わせてるし、折角だから、ノブエさんにはこれを
機に羽を伸ばして欲しいなあって」

「気にしなくてもいいのに〜。でも、単純に戦力が半分になるってことよん? 私とユア
は二人でもザイル辺りなら余裕だけど、あなた達はその逆なのよ。特にイッサはその理由
からあっち方面には行ったことないんじゃなかったかしらん」

「その心配なら、たぶん大丈夫。この10日にあちこちからレベル99のいるパーティが
集まるわけだから、幾らでも助けてくれる冒険者がいると思うから」

「うわ、自信たっぷりで他力本願だよ、この人」

 絵に描いたような呆れたって顔のユア、であるが。

「他力本願とは少し違うな。これは己を知り他者を知るってヤツだ。俺は頭脳で活躍する
魔法使いだから、作戦みたいなものなのさ」

「そう言えば、イッサって魔法使いだったね。ウチ、てっきり忍者って思ってた」

「ここ最近のジュドラとの戦いでは、魔法使いらしいことはしていませんでしたからね」

 キシシとフフフの笑いがあった。

「でも、安心して下さい。イッサの案は理に適っていますし、ベネクトリアは私の良く知
る土地です」

「そう、なら大丈夫ね。イッサをよろしく頼むわん、カレン」

「足を引っ張るようだったら、イッサなんて遠慮なく置いてっていいから」

 ユアの俺イジリが終われば、ザイル組は最後に『二人が戻ってくるを待ってるから』との言葉。
 話し合いはカレンの元気が良い返事で締められた。
 その傍らで、俺は羊皮紙を見る目を細めていた。

「しかし、レベル99以上か……」

 この上限突破者を含めるような文言に、俺は胸騒ぎを覚えた。






 早起きしたガーマでの朝。
 二手に別れることで旅に必要なものも幾らかあり、それらを準備するためだ。

 近くではカレンとノブエさんが地図を広げて話す道具屋の軒先で、べたんと座る俺は購
入したばかりの荷物箱に細工を施す。
 屈むユアはそれを見ている。

 俺は平べったいランドセルのような箱の横に、輪っかを取り付けた。
 そうすることで、この邪魔な古代魔導師の杖が収納できるって寸法だ。
 どっこらせと立ち、よいしょと背負う。

「どうだこれ、おかしくないか?」

 杖を備え付けた道具箱をユアに確認してもらう。

「イイんじゃない」

 と、てっきりダサいとか言うと思ったが、そんなことを言われた。
 うーん。

「何よ。じーと人の顔を見て。またウチにコクる気?」

「だあ、ちょ、あの時はあれは告白とかじゃねーし――その話はもういいだろ。あれだよ。
ユアがパーティ分けることによく納得したよなーって思ってさ。それで」

「言ったじゃん。ウチ知らないところで教会送りとかヤだし、勝てないモンスターのとこ
ろにいても暇だし、何もしなくてもお金は減るんだから、そしたら折角貯めたゴールドも減るし」

「まあ、そうだけどさ……」

「はいはい、皆まで言うな、イッサ君。分かってるよー。イッサがユアちゃんと別れるの
が寂しいってことは。だから、はいこれ。これをユアちゃんだと思って大切にするんだぞ、えへ」

 ユアからカエルのぬいぐるみを渡された。
 イッサはこれで、寂しい夜を迎えずに済むだろう、ってことなんだろうが。

「プレゼントのフリして、ていよく景品のカエル処分すんなよ」

「だってさーこのゲロ吉、全然可愛くないからさー、イッサにお似合いかなーって」

 返却はお断りですとユアは腕を後ろで組む。
 よって、俺の道具箱は圧迫されることになった。
 そこへ、カレンとノブエさん。
 話しながら俺達は街の出入り口へ。

「それでは、ユア、私達は行きます」

「うん。気をつけてね」

「ユアも」

「じゃあ、行ってきます」

「気をつけるのよ〜、イッサって私のような女から見れば意外と好みの顔なんだからん」

「あんまり遅いと、別の魔法使い探すかんね。あとちゃんと、カレンを支えてやってよね」

 怖いこと言うノブエさんは脇を締めて小さく、支えられるのは俺のほうだけどなと返答
したユアは頭上で大きく手を振る。

「いってらっしゃーい」

「いってきまーす」

 再会のある別れの言葉で手を振り返し、俺とカレンはベネクトリアへ向け旅立つ。






11ヶ月前 No.11

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11ヶ月前 No.12

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11ヶ月前 No.13

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11ヶ月前 No.14

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11ヶ月前 No.15

かえる @rueka ★QWl96gXn5z_BwN

 ミロクがどういう経緯で、ギルド本会館の地下室なんぞに収監されているのかは知らない、
 ただ、お陰で今いる俺達の中の誰かが、こいつとパーティを組まなくちゃならなくなった。

 誰も望んでいない。
 が、仕方がないとしか言いようがない。

 ギルドは魔王討伐作戦時に、俺達冒険者を一人の兵士として駒にするのではなく、一つ
のパーティ単位で編成を行うようである。
 そうする理由としては、狭い視野だとスキル効果がパーティに限定されるものがあった
りするから、や小隊での連絡が安易であるなどだが、恐らく、俺達を配備した時に職業が
偏らないようにしたいのだろうと思う。

 主に技スキルだが、職業にはそれなりの特性がある。
 戦士は近接戦闘に強いとか、魔法使いは遠距離戦に向いているとかだな。

 極端に言えば、1の軍が全員戦士、2の軍が魔法使いに割り振られたら、得手不得手が
はっきりとし過ぎてバランスが悪いってことだ。
 ギルドとしては、いろいろと対応が可能な柔軟な部隊が望ましい。

 本当ならギルドが招集した各冒険者を選別して編成するのが最もバランスが良いのだろ
うけれど。
 怠慢なのか、俺達の自主性を考慮してのことなのか。
 なるべくパーティの人員が多くなるようなパーティ編成にするようにとのお達し以外、
特に注文はない。
 (一例だが、盗賊をパーティリーダーにした場合だと、最大で3人までしか同じパーティ
として契約できない。また職がないとパーティリーダーにもなれないなど、職業に付属す
る権限が多少異なる)

 まあ、ミロクの方がレベル上限突破者としか組む気がないらしいし、デカルトさんもこ
の厄介者を上限突破者に押し付ける気でいるようだから、どんだけ俺が嫌そうな顔をしよ
うともその対象からは逃れられないわけだ。

「ほんとこいつ、なんでこんなことろに居やがるんだって話だよ……」

 ここを早く開けなよとミロクが言えば、デカルトさんがおかしな行動をするつもりなら
今回の話は反故にするからなっと念を押す。
 そんなやり取りをただただ静観する俺達。
 ちらっとカレンを見たら目が合ったので、『なんだかなあ』と大げさに肩を竦すくめて
見せてやった。

「しかし、ミロクをその檻から出して大丈夫なのかよ……」

 俺の不安を他所に、デカルトさんから鉄の檻を解錠するようにと部下らしき重装備の男
へ指示が飛んだ。
 部屋の壁際で何かカチャリカチャリ音を鳴らす男。
 するとさっきまでなかった取っ手が壁からから生えていた。取っ手がガコン、と引き下
ろされる。
 カリカリとどこからともなく異音が聞こえ、ミロクを囲う鉄の棒が交互に上の天井へ下
の石床へと飲み込まれていた。

 鉄柵が綺麗さっぱりその姿を隠してしまえば、ゆらりと身を起こし立ち上がるミクロが、
うんん、と吐息を漏らし艶かしく伸びをする。

 きっと何も知らない男なら胸を踊らせ思わず見惚れてしまう仕草だったろう。
 けど、ここにいる男共は警戒の色を強めるだけだ。

 ミロクの本性と数々の暴虐――。

 迷惑行為は数知れず、悪質なものだと強盗に窃盗、教会や聖なる祠の破壊、そして、俺
達が一番恐れ嫌う冒険者狩り。
 ゲームで言うなら、プレイヤーキラーと呼ばれるそれをこいつは喜々としてやりやがる。

 散々いびられ、いたぶられてから教会送りにされた連中は多い。俺もその一人。
 機嫌が良いと即送りしてくれるとか言っていたヤツもいたが、どっちにしろ理不尽な暴
力に晒されるわけだ。
 んで、ムカつくかな、この理不尽を可能にする凶悪なステータス値をこのミロクは持つ。

 被害に遭い、三日ほど外へ出歩くのが恐ろしくなった当時の俺にアナライズする根性も
隙もうかがえなかったが、聞くところによれば、レベル99のミロクには200の数値を
超えるステータス値がいくつもあるらしい。

 しかもこれ、”素”でそれだ。
 200ってよ……俺は箸にも棒にもかからないが、身体ブーストを使うカレンでさえ、
一番高い数値が170を超えていない。

 元々あった基礎値は分からない。けど仮に1レベル最大の5ポイントだったとしたら、
レベル99でざっと500ポイントの獲得になる。
 それを6つの体力値、攻撃力、防御力、魔法力、素早さ、器用さの項目へ振り分ける形
になるわけだが……。
 これでも余程の偏りがない限り、200超えなんてあり得ないから、ボーナスの+10
ががっぽがっぽのウハウハだったんだろうな、きっとよ。

 とにかく断言する。この中にはレベル110前後の上限突破者がいるようだが、それで
もこの世界でこいつにタイマン張って勝てる人間など存在しない。

 だから、ミロクが人間の皮を被っただけのバケモノであっても、ギルド史上及び人類最
強の冒険者であるのは違いない――いいや、訂正。
 何度目か知らんがギルドからまた職を剥奪されているようなので、世界最強の無職(ノラ)で間違いない。

 その最女(この世界のシステムから最も愛された最強女子の略)が、何やら品定めをす
るが如く目を細め俺達を見回す。

「さてさて、坊や達って本当に強いのかしら、クククッ」

 まったく、舌舐めずりでもしそうな勢いである。




「さあ、約束通りこっちは連れて来やった。しかも代表補佐である私自ら出向いてな。つ
まらぬ事をしでかすようなら」

「あーはいはい。分かってるよ。単にアタイが他のヤツにあれこれ話さないか心配しての
ことだろうにさ、恩着せがましいハゲだね。アタイはこの坊や達と魔王をぶち殺す。そし
たらあんたがアタイに職を返す。あんたとはそういう取り決めだ。そうだろ?」

 冷ややかな目でデカルトさんをいなし、ミロクは徐(おもむ)ろにこっちへと歩いてくる。
 俺達が作る強張った空間の中に、臆することなく入り込めばその素足を止めた。
 自然と半円を描くようにして俺達はミロクを囲む。

「そうだね……、そこの髭面の戦士のあんた、レベルはいくつだい?」

 ミロクからすらりと寄られ、自分の顎先を指先で撫でられる体格の良い男。
 そこにある指を振り払うかと思えば、

「……俺は110、レベル110だ」

 飲まれてやがる。
 そして男の飲まれた感情は周りに伝染する。
 ミロクはへえ、と感心したような笑みを浮かべた後、次の男に次の女にと同じことを繰り返す。
 何人目かの問いは騎士装束の少女へ。
 ミロクに気圧されないようになのか、カレンは一歩前へ出る。

「そう、綺麗な目のお嬢さんは教えてくれないんだね」

「いえ、そういうわけでは。ただ貴方にレベルを教えることにどのような意味があるのかと……」

「そうねえ、意味なんてないわよ。気分。じゃあアタイその気分で、貴方に決めようかしら」

 ミクロの腕がゆっくりとカレンに向かう。
 よく見えていた。カレンもそのはず。
 しかし――目の前ではカレンが抱かれ、その唇にはミクロの唇が重なる光景があった。

「うくう、何をっ。貴方はいきなり何を、ぐ……」

 相手を突き飛ばしたと思ったカレンが、いきなりドサリと床へ崩れ落ちた!?

「カレンっ」

「はいはい、慌てない慌てない。後でちゃんと相手してやるから、アタイの話を聞きな。
特にそこの魔道士、アタイの話の邪魔をするなら、この嬢ちゃんの綺麗な目ん玉エグるか
らそのつもりでいな」

 カレンを胸元まで引き上げたミロクからの脅しに、踏み込んだ足の行き先を奪われる。
 蒼白のカレン。
 首を締め上げられているわけでもないが、苦しそうなその口元からは唾液が泡のように
して滴り、痺れでもしているのか、両腕はだらりと下がる。

「ミロクっ、なんのつもりだっ」

 この怒鳴りは俺達の囲いの外からだった。
 俺は構うことなく、大急ぎで蓑笠を脱ぎ捨て背中に背負う道具箱を下ろし引っ繰り返す。
 確かめたカレンの状態は毒だっ。だから――、

「あったはずだ、毒消しの薬があったはずっ」

 毒はただライフゲージを減らしていくだけじゃない。そこに何かしらの症状や苦痛を伴う。
 あの苦しみ方は尋常じゃない。早く、早く薬を。

「なんのつもりだと聞いているっ。冒険者への危害は許さないと言った筈だっ。早く彼女
を離さないかっ」

「そう目くじらを立てなさんな、クククッ、髪に悪いよ。ちょっとした余興(ゲーム)さ。
アタイが仲間になってやろうってんだ。アタイがこの坊や達のことを知ろうとして何が悪い」

「言っていることが分からんっ。いいかっ、お前は」

「ほんとうるせーハゲだね、少しは黙ってそこで大人しくハゲてろっ――つーの」

 毒消しの薬を握りしめ顔を上げた時だった。
 カレンが宙を舞っていた。
 人形が落ちたかのようになんの抵抗もなく堅い床へどさり。

「今あの騎士のお嬢ちゃんが転がっているところは特別でね。ライフゲージが常に全回復
するような仕掛けがしてある」

 その言葉に、カレンが鉄の檻があった場所に放られていたこと。
 あの幾何学模様にライフの回復効果があること。
 それはミロクが自分でライフを削り、教会送りにならない対策のものであったこと。
 そして今、毒でライフゲージが幾ら削られてもカレンが教会送りにならない――つまり
毒で苦しみ続けるように仕向けられたこと。
 これらをすべて把握する。

「鬼畜が」

 強く強く奥歯を噛みしめる俺は、後ろの冒険者から肩を掴まれていた。

「落ち着け。下手にミロクの機嫌を損ねたら更に彼女がいたぶられるぞ。それにこの位置。
ここから彼女へ薬を使うにはミロクの間合いを擦り抜ける必要がある。ミロクが指を咥え
て呆けるなどありえん。これから起こる状況をしっかりと見極め行動する。それが君が取るべき最善だ」

 煙管男の助言に、俺は前のめりになる体を渋々退らせることで返事とした。
 派手な衣装が俺の視界へ入る。

「拙者がハイ・アナライズした結果、ミロク殿の特性スキル『毒の花道』には毒性の無効
化の効果があった。それを踏まえれば先程の接吻時、毒薬を口移しで飲ませていた可能性が高い」

 張る声は目の前のミロクではなく もっと離れたデカルトさんへ向いた。
 煙管の人はこう言いたいのだろう。
 ここは毒薬を手にすることが可能な場所なのか、と。
 実際に”隠して”持っていたのなら、デカルトさんへ聞いたところで答えようがない。

 ただ、この発言の真の狙いはギルドの管理体制へのクレームではなく、遠回しに俺達へ、
ミロクが毒以外の薬や武器を隠し持っている可能性があるから警戒しろ、と伝えるものだ。

 見た目からまったく予想していなかったが、アナライズの言葉から彼は俺と同じ頭脳で
戦うタイプの魔法使いだったと判明する。

「そこのカブキ役者。あんたアタイの話の腰を折るなんて、いい度胸だね、ええ?」

 俺の視界から派手なものが、すーと後方へフェードアウト。
 残念だ。

「おい、君達勘違いはするなよ。ここは女狐が毒薬など持ち込めるような、甘いところではない」

「クククッ、そうだねえ、あんたは余程アタイの体を気に入ったのか、事あるごとにねっ
とりじっくり隅々まで調べる仕事熱心な変態野郎だからねえ。今じゃアタイよりアタイの
体にあるホクロの数を知っているんじゃないかい?」

 ぐぬ、と喉を詰まらせる好色家。

「と、とにかく、そいつが毒薬を使うなど不可能だ。ありえんっ」

 断言された言葉の傍らで、受けた辱めを辱めとも思っていないような女狐はほくそ笑む。

「でも実際にアタイの後ろでは、お嬢ちゃんが息をするのもやっとの猛毒に侵されている。
クククッ、さあーて、どういう仕掛けだろうねえ」

――ハイ・アナライズ《詳しい情報取得》。


【毒の花道】

 効力:毒による影響を受けない


「影響を受けない……つまり無力化、無効化……」

 と、思うよな普通は。でもなら、なぜ毒耐性や毒無効となっていない。

 俺の知っている冒険者に、条件付きだが毒を無効にする特性スキルのヤツがいた。
 そいつのは毒の無効と、はっきり記されていた。
 そして、確認するのはミロクの『状態ステータス』。

 毒を始め、麻痺、石化、眠りなどの状態異常を起こした場合には、それを表す記号が状
態ステータス欄に点灯する。
 状況からの先入観か、煙管の人は見落としていたのだろう。
 ミロクには毒の印があった。
 カレンに毒を盛った時に、とも考えられなくはないが――違う。

「ミロクはずっと毒状態なんだ。こいつの特性スキルは完全な無効化なんかじゃない。ただ
毒によるライフの減少と症状がないだけで毒には侵されたままなんだ。だから、あいつの唾
液が毒だったんだ。それでカレンは……」

 毒状態だからそいつの体液が毒になるなんて笑える発想だが、ミロクの嬉しそうな顔がこ
のとんでも解答が正解だったと教えてくれる。

「コブ杖の魔法使いの言うとおりなら、噛みつかれたらアウトだな」

 誰かが言う。まったくその通りだ、増々人間離れしていやがる。
 無職故、技スキルもなく見るからに布一枚の装備であるが、そこに毒攻撃はあることになる。

 それで俺達は、もう薄々どころか、はっきりくっきり気づいている。

「こいつ……」

 俺と――俺達20人の上限突破者と殺(や)り合う気でいる。
 俺はそっと、足元で転がっていた古代魔道士の杖を拾う。

11ヶ月前 No.16

かえる @rueka ★QWl96gXn5z_BwN

「はいはい、せっかちになるんじゃないよ坊や達。アタイの話はまだ終わっちゃいない。
ルール説明だ。アイテムに僧侶の治癒に、なんでもいい誰でもいい。坊や達が後ろのお嬢
ちゃんの毒をどうにかできたらそっちの勝ちだ。ああそうそう、お嬢ちゃんを教会送りに
して楽にしてやるっていうもの別に構わない。つまり、あの模様の中から連れ出すのもありだ」

 にい、と口の端が上がる。

「さてさてしかし、その為にはアタイをどうにかするしかない。アタイがあのお嬢ちゃん
のところへ坊や達を近づけさせないからだ。ククッ、ドゥーユーアンダースタン?」

「ミロクっ、いい加減にしろっ。貴様の相手は魔王だっ。あまり私を舐めるなよ。今回の
話を白紙に戻すこともできるんだぞっ。それに冒険者の君らもミロクと戦うなどとんでも
ない。こいつを教会送りにするようなことが許されるわけがなかろうがっ。こいつのこと
だ。教会への転移を利用してここからの逃亡を企てているに違いないっ」

 地下室にデカルトさんの怒号が響く。
 この人、いろいろと分かっていない。
 もう、後戻りできないように仕向けられてんだよ。
 俺の仲間がいいように苦しめられてんだよ。
 20人の腕に覚えのある奴らが、たった1人の冒険者(しかも無職)に喧嘩売られてんだよ。
引けるわけがねえ。

 そして、最も分かってないのが、俺達がミロクを教会送りにできるなんて買い被り過ぎだ。
 それか、あんたこそがミロクを舐めている。

「こうして二年も大人しくここに居てあげてるのに、酷い言い草だねえ。信用しなよデカル
ト。心配しなくても魔王討伐はやってやるさ。まったくこのハゲには、少しくらいは幼気な
女の我がままに付き合う度量ってもんがないのかね。あんたさあ、アタイを捕らえた功績で
出世できたんだろ? ジェミコルの前に下手打ちたくないなら、黙ることを覚えなっ」

 俺からすれば右側。
 たじろぐようにして小太りの男は壁際へと消えていった。

「さあーて、そこのハゲは何かほざいていたが、どうするんだい坊や達。好きなだけ考え相
談してもいいが、あのお嬢ちゃん無駄に気が強いんだろうねえ、意識を手放してしまえば楽
なのに、必死になって足掻いてる。クククッ、キャハハ、いじらしねえ」

「挑発なんて意味ねーよ」

 低く押し殺して言う俺の頭上には、メラメラ揺らめく巨大な炎の槍が浮かぶ。
 俺が『ドラゴニール』をミクロへ撃ち放つことで、戦闘開始の鐘が打ち鳴らされる。







 前衛職の三人が各々の獲物で切り込む。
 上から振り下ろされた大斧は石床を破壊。
 持ち手はひらりと身を躱した女の細腕に殴られ吹っ飛ぶ。

 横から薙ぎ払う太刀は空を切る。
 女はこれまた紙一重で見切った相手を殴り飛ばす。

 背後からの槍が迫る。
 難なく蹴り払われ、回転蹴りによって――同じくである。

「くそ、なんつー鬼回避」

 魔法を唱えながらに、ぱっとしない光景へ愚痴をこぼす。
 別に仕掛けている前衛職の奴らの腕が悪いわけじゃない。
 ミロクが尋常じゃないってだけだ。

「魔法使いっ、狙われてるぞっ」

 だらっ――。
 誰かが教えてくれた忠告とともに、とにかく横っ飛び。
 瞬きすら許してくれない飛び込みの速さを相手は持っているのだ。確認していては間に
合わないっ。
 ブンと蹴りが掠める。
 ミロクはそのまま踊るような回転を繰り返し、近くにいる者を手当たり次第に襲う。

 そして、皆の頭上にあったライフとSPゲージの表示が消える。
 すかさず、賢者職のおっちゃんが『ティビジョン』と叫ぶ。
 一定範囲にいる者のゲージを視覚化する魔法で、また俺達やミロクの頭上にゲージが浮かぶ。
 それを見て、僧侶職の二人が回復を行う――が、ち、一人やられた。
 パンと発光して消える。

「ヒーラーは下がれ下がれっ、魔道士は前衛を巻き込んでもいいから魔法を撃て撃てっ」

 分かっちゃいる。
 回避され通常攻撃がヒットしない以上、回避不可能な魔法が有効ってことはな。
 だが、巻き込んでもいいって言っているように、それはミロクも同じだ。
 対人だと、恐ろしくライフを削れねえ。
 SPの時間回復を確認――目まぐるしい。カレンの状態をうかがう暇もないっ。

「『ドラゴニール』っ」

 くそ、くそくそくそ、なんて不公平だ。
 こっちの気合入った魔法はちょっとしかライフを減らせねえのに、向こうのただ殴る蹴
るの方はもらうとアホみたいにライフが減る。
 通常攻撃は軽減対象になってねえからそうなんだろうけれど、この世界の恩恵が邪魔で
仕方がない。
 対人だと魔法使い、すんげえ役に立たない。
 加えて、俺、いいや周りもそうだろ。対人戦なんて経験不足ってる素人。
 対照的に、ミロクは百戦錬磨の対人玄人。

「ヴァーミリオンドライブっ」

「ヤツカミの大槌!」

「青龍雷鳴」

 轟音と振動と閃光。
 各職業最高のスキル技が交差し乱れ飛ぶ。
 圧巻されるほどに凄まじい光景。
 そして晴れる土煙のそこには、ある意味多少の亀裂程度で保たれているこの部屋もすげー
なと戯れ現実から逃げたくなるような結果が残る。

 首をこきこき。全然だなと言わんばかりで狂気の笑顔へと変貌しつつあるミロク。
 ライフゲージは減っていたが、まだまだ気が抜けない残量のそれを頭上に浮かばせる。

「女魔道士、あと洒落た盗賊、状態異常系の攻撃は駄目なのかっ」

「やってはいるわ。けど、効果が出ない」

「こっちも一緒だ。てか、魔法性攻撃じゃない盗賊技は当たらにゃ意味ねーから、そもそ
もが効くのか効かねーかも分からねー」

 女性魔法使いと男性盗賊の狙いは、ミロクの状態異常。
 敵に毒が通じない以上、選択は眠りと麻痺、石化。
 魔法使いは眠りと石化を試みて、盗賊は技スキルの麻痺攻撃。

「たぶん、無理なんじゃねーかっ」

 俺は叫ぶ。
 魔法使いも盗賊も、だろうな、との顔で応える。
 熟練の冒険者なら人に対し状態異常が効かないのは経験で知るところだ。
 理由ははっきりしないが、効果の結果である”眠る”を仮に10とする。
 人相手だと、今それらは軽減されてしまう。つまり10未満。
 10にならない限り”眠る”にならないのなら、幾ら放っても意味がない。
 疲労みたく蓄積されるわけでもないからな、技スキルなんて。

 それでももしかしたら……。そう、すがる程の相手ってことだよな。気持ちは重々承知
している。
 けどさ、人が簡単に眠ったり麻痺するようなら、結構危ない世の中になるだろからって
ことで潔く諦めようぜ――と思ったそこへ。

「はっはっはっ、待たせたな同胞たちよ。この薬士の僕に後は任せてもらおうか」

 俺と魔法使い&盗賊の線上にメガネをキランと光らせ男が登場してきた。
 サッ、と交差させた両腕。その先には数本の細い透明の瓶に、緑の液体。俗にいう試験
官を指の間に挟む。

「藥士の技スキル調合と生成で作り出した物は、アイテム扱いになる。つまりこの痺れ薬
の入る投げ瓶は、魔法や技スキルとは見なされない」

「そうかっ、アイテムなら効くかも知れない」

「魔法使いのレイディ。効くかも知れないじゃない、確実に効く。人への効果は実証済み
だ。安心してくれ」

 何を目的に、で安心どころか不安になるが、この際追求しない。
 確かに、このメガネ薬士のアイテムならミロクの動きをどうにかできるかも知れない。

「てか薬士、痺れ薬持ってんなら早々に使えってんだよっ。麻痺系の技スキル使いまくっ
て俺のSPカラになったぞ」

「ソウリ―盗賊君。薬士が作るアイテムには使用期限があってね、普段は作り置きしてな
いんだよ。だから今まで」

「どうでもいいから、とっととやれよっ。ミロクに気づかれたら真っ先に教会送りにされんぞっ」

 俺はイラつきながらに言う。

「では」

 スタタタタ、と駆け出すメガネ薬士。
 両腕が開らかれれば、ビュッとミロク目掛けて試験官が飛んで行く――んで、あっさり避けられる。

「オー、ジーザス」

「メガネ、使えねー」

 魔法使い&盗賊の分も言ってやった。

「待ってくれボーイ。本当なら僕の放った投げ瓶を彼女が払い、その衝撃で割れ――」

「だああ、もういいっ、お前は回復薬作りまくってヒーラー(回復役)に徹してろよっ。
なんかリズムが狂うんだよっ」

「待ちなさい、そこのボサ頭の魔法使い。私のダーリンの力を甘く見ないでくれるかしら」

 振り向けば、テンガロンハットを被り手に長い銃を携える女銃士がいた。

「さあダーリン、私達の力を今こそ見せる時よ。この魔法使いどもに思い知らせてあげましょう」

「そうだよ僕は一人じゃないんだ。僕の傍にはいつだってハニーがいるんだ。そうハニー
さえいてくれれば僕は英雄にだってなれる」

「ええ、ダーリン、ダーリンは英雄にだってなれる人。だってダーリンはもうすでに私の英――」

 放置。
 気持ちを切り替え、ミロクを目で追う。
 すると、そこへ飛来する物体。数本の試験官。

「だからっ、無駄だって言ってんだろっ」

 それより他の連中に当たったらどうすんだよ、このトンチキメガネ。
 ミロクは予想通りに難なく襲ってくる試験管を――、

「エリアルスナイプ」

 掛け声と同時に、試験管が次々に破裂した。
 女銃士がその武器と技『空気の弾丸』を使い、薬士の投げた瓶を撃ち抜いたのだ。
 つまりは、コンビネーションアタック。
 露ほども期待していなかったので、衝撃がすごい。
 その衝撃の中、痺れ薬を浴びたミロクが床へと崩れる。

「やったねハニー。最高だよハーニー」

「ダーリンが私に愛の力を――」

 膝をつくミロクを見て、状況を再度確認する。
 カレンまでは遠い。
 ライフゲージが回復する模様から、なるべくミロクを遠ざけるようにして戦っていたからな。
 折角削ったライフを回復されては困るから、戦い方としては合っている。
 そして、

「半分かよ……」

 見渡せば、10人は教会送りにされていた。
 ……と、動けないミロクは前衛職の奴らに任せて、俺はカレンに毒消しの薬を。
 駆けながら横目に見た。
 膝を付いたままうなだれ動けないミロク。
 そこへここぞとばかりに、武器を振り上げ襲いかかる戦士達。
 目視する標的のライフゲージは、黄色は黄色でも程なく赤色に変わりそうな残量。
 恐らく、この攻撃でケリがつく。
 そう勝利を確信しようとした時に、見てしまった。

 女狐の笑う口元。

「待て皆っ、なんか――」

 ミロクが舞った。
 それは乱舞であった。
 技スキルでも使ったようなスピード。けれどそれは間違いなく”素”の動き。

 俺はハイアナライズしていた。変わらず技スキルなんて存在しない無職だった。
 だが、一度見た時と違う箇所がある。

「なんでだ、なんで動け――」

 すべての文句を吐き出せず、戦士は光とともに消えた。
 それに続き、ぱーんぱーんと二つ光が弾ける。
 ゆらり。
 フラつきでもなくゆらり。
 刹那の動きから緩やかなものへとなるミロクに、残る皆は後退る。
 俺もカレンを諦め距離を置く。

「ヒ……ヒヒヒッ、上げて落とす快感ってのは最高だねえ、一度覚えると癖になる。アタ
イを襲う時ときたら。ヒヒヒッ。その勝ち誇った顔が一瞬に間抜け面になりやがった」

「そうそう、そういやこんな感じだったな、こいつって……」

 二重人格とまでは言わないにしても、戦い始めると荒々しくなる口調と性格。

「お前ら、アタイが麻痺ったとでも思ったんだろ、ええ? そうだろ。キャハハ、馬鹿だ
よな、馬鹿、馬鹿」

 乱舞の難を逃れた騎士が、不思議そうな顔と悔しそうな顔のどっちつかずの顔。

「ミロクは『状態異常耐性』のスキル珠を隠し持ってたんだよっ。毒、眠り、麻痺、石化、すべて無効化する」

 吐き捨てるように、騎士へ告げた。

 誰かが言う。
 すべての状態異常を無効化するスキル珠なんて聞いたことがないと。
 あるんだよ。俺は持っている子を知っている。

 誰かが言う。
 どこにスキル珠を隠し持っているんだと。
 胃の中とか、女だしいろいろ隠せる場所はある。

 そしてこんな事実の検証なんて後回しだ。

 要は、このミロクがやっぱり性悪女だったことを俺からは心から叫びたい。

 始めのあの毒騒ぎ。
 結局あれで、毒薬ではなかった=デカルトさんの認識が正しかったとなり、何かを所持
していると疑うことをどこかしら疎かにさせられていた。
 たまたま念の為とアナライズしなければ、俺も今だに困惑の中にいただろう。
 こいつ相手にそれは命取りになる……のだが、ミロクにとって俺達の隙なんて大した問
題じゃないはずだ。
 強引にでもねじ伏せる力を持っているんだからな。

 だからこそ性根が意地汚い。
 自分が楽しむ為だけに俺達を笑う為だけに、リスクを承知で芝居を打ったんだ。
 攻撃が当たらない、毒が効かないなら、俺達は他の状態異常攻撃を考える。

 戦闘開始からしばらくは『状態異常耐性』をセットしていなかったはずだ。
 一度目のアナライズでは確認できなかったからな。
 もうアナライズされることもないと判断した頃合いに、ひっそりとスキルをセットしたんだろう。


【レベル99 ミロク――無職】

 体力値……202

 攻撃力……241

 防御力……218

 魔法力……205

 素早さ……233

 器用さ……180

・特性スキル/毒の花道<*>

・追加スキル/状態異常耐性


 追加スキルの影響か、『状態ステータス』から毒の印はなくなっていた。

11ヶ月前 No.17

かえる @rueka ★UcqbezVV2U_BwN

 そうして、ますます最悪としか思えない感情の中、まったく理解できないことが一つあった。

「……どうして、無職のお前が追加スキルをセットできる。職があるからこそ追加スキル
は使えるんだぞ」

 戦士は3枠、魔法使いは2枠など職によって設定される追加スキルの枠スロットは、当
然、無職になんてない。
 (そもそも無職に枠があってたまるか。2枠で頑張っている有職の俺が馬鹿らしくなる)
 俺の尋ねに嬉しそうな、それでいて背筋が凍るような笑顔が返ってきた。

「さあーて、どうしてだろうねえ」

 纏わせる雰囲気を狂気から妖気へ変えるミロク。
 次に、

「キヒヒッ、聞かれてほいほい教えるわけねーだろ、馬鹿か?」

 荒々しい口調で言って俺を嘲笑う。
 至極まっとうな言い草だけに反論もないので、『器が小せいのな、あんた』とだけ返した。

 あからさまな俺の挑発。
 そして、メリット小、デメリット大のそれである。

「クククッ、あんたアタイにいい根性だねえ」

 俺と向き合うミロクは顎に手を添え微笑むばかり。
 どうやら、即殺しの結果は迎えずに済んだ。
 デメリット中へ下方修正。

「俺達冒険者はギルドへの登録時、ギルドから職についての説明を受ける。内容は職を得
ることで各職業固有の技スキルが使えるようになることと、職業で得ることで使える追加
スキルのスロット数が各職業で決まっていること、あとスキル珠の話なんかも聞かされた
かなあ。まあ、手短いものだったから苦痛になるようなものでもなかったけど、これらは
冒険者の特典だよな」

 早口になる自分を抑えつつ、素早く息継ぎ。

「それで、俺は思っていた。無職になればこの冒険者の利点を失うってね。実際無職にな
れば技スキルを使えなくなる。だから、追加スキルも使えなくなる。そんな風に思い込み
で誤解していた。恐らく、無職でも追加スキルにスキル珠は装備できる……だよな?」

「そういやあんた。アタイの特性スキルの時もケチをつけた魔道士だったね」

 ミロクの突き刺さるような視線は、俺を覚えようとしているように思えた。
 あはは……すげー勘弁してもらいたい。

 けど、反応からして無職でもスキル珠装備できるようだな……あとは幾つ装備できるか
で、戦いの結末が変わりそうだよな。
 『ふんばーる』とか持ってなきゃいいけど。

「待て待て、そんな話私は聞いておらんぞ。勝手な憶測でギルドが作り上げたシステムを
貶めるような発言はやめないか。追加スキルはギルドへ登録する冒険者のみへ与えている。
職を剥奪した者なんぞに使わせたりするものかっ」

 予想外にデカルトさんが話に加わってきた。
 貶めようなんて気はなかったが、時間稼ぎには持って来いだ。
 俺がこうしてミロクと嫌々話しているのも、さっきの騙されたことからくる動揺を失く
す為だからな。

 カレンを思うと焦燥感に駆られるが、あのままミロクのペースにハマてやられてお終いっ
てわけにはいかない。
 虚を突かれた前衛職の連中には気持ちを切り替える時間、ヒーラーには仲間への回復を
行う隙が必要だ。

「ハゲは黙って見てるはずじゃなかったのか、ええ?」

 デカルトさんは言い返すこともなく、定位置の壁際へ引っ込む。

「アタイくらい職を繰り返し剥奪されたら、なのかもねえ。それとも誰も試そうとする野
良がいなかったのか。職を失えば追加スキルの枠はなくなるよ。ただね、クククッ、どう
してだが一つだけ装備できちまうんだよ」

「それはセット枠がないが、コンソールで通常操作をやったらセットできたってことなのか」

「さあ、どうだろうね。この世界はそこまで精巧にできていないのだろうさ。それよりも、
時間稼ぎなんて小細工にはもう飽きたね。他に面白いことができないなら、坊やと話すこ
となんてないよ」

 きっと俺は瞬きをしたんだろう。
 目の前に、ミロクの嬉々とした顔があった。
 考えるよりも先に屈む俺の体は縮地攻撃を交わす。
 ジュエルドラゴンと戦いまくった成果だなと、230の素早さを凌いだ数値じゃない自
分の素早さに感心した――刹那、吹っ飛んでいた。

 連撃だったんだろうとかの考察が即座に消えるくらい、ガチで痛え。
 声が出ないほどに痛え。
 頭蓋骨、イってんじゃないだろうか。
 ステータスの数値がある分、車から衝突されても耐えられるくらいの身体の強度がある
と思っていたが、相手の数値が上回り過ぎていると関係ないようだ。

「ぐだっはっ――」

 ゴロゴロと転がりながら、ライフゲージを確認。
 気分はとっくに天に召されていたが、セーフ。

 ポタポタと鼻から滴る血を拭う先では、既にミロクが他の冒険者達との戦闘を再開していた。
 どうやら俺の自慢の顔は、再開のゴングとして打ち叩かれたらしい。

「ブサイクになったら、どうしてくれんだよ」

 戯れて、痛みと恐怖を振り払う。





 ぐるりと広い部屋――今は闘技場と化した地下室を見回す。
 奥に、増々遠く位置になったカレン。
 左方にミロク。右方の壁際には、重装備の2人から警護されるデカルトさん。

「仕方がないか」

 少し前、気の利く警護の奴がカレンのいる幾何学模様のところへと向かったようだった
たが、あえなく瞬殺された。
 そしてその行為がミロクの怒りを買うことになる。
 カレンの状況はそのまま、怒りの矛先はこっちへと芳しくない結果となった。

 現状は――。
 ミロクを遠巻きに俺達後衛職が4人。
 攻撃に参加できるのは、俺と同じ魔法使いの煙管の人、そして女銃士。
 銃士の攻撃は魔法の射程より範囲は広いが、魔法性の攻撃ではないので実質、手の打ち
ようがない状態。
 回復役は、薬士のメガネだけ。

 俺達後衛職を守る役目もあった、前衛職は残り2人か。
 この2人が送られたら、あとは総崩れだろ。
 だから、早くケリを着けたい。

「ヒャルト、ヒャルト、ヒャルトっ」

 単体の中級氷結系魔法、連射っ。
 軽減スキル−5があるとはいえ、1発につき2ポイントは消費するので、3発で打ち止め。
 気は焦るが、SPはすぐには回復しない。

「くそ、あと少しですべて削り取れそうなのに、減らねえっ」

 ここに来て、ミロクのライフゲージ減りが悪い。
 他も一緒でSPが底を尽き、大技が放てない状態だ。
 だから、小技の連発で少しずつ攻撃していくしかないのだが。

「一人やられたっ」

 騎士が叫ぶ。
 もう後がないとの報告だ。

 ステータス面ではすべて俺達の上。
 脅威の回避感覚持ちで、通常攻撃はほぼ当たらない。
 唯一とも思える攻めどころであった状態異常も効かない。

――なろ、なろ、こんにゃろっ。

 だからと言って、このままヤラれるわけにはいかねんだよ。
 ミロクのことだ、奴の気が済むまで何度でもこの馬鹿げた戦闘を繰り返すのは目に見え
ている。
 カレンが、その間ずっと苦しむことになる。
 この1回で勝つしかねえんだよ。とっととミロクを送ってその間にカレンを救出するしかっ。

 ぎゅっと懐へしまう毒消しの薬を握る。
 そしたら、何か別の物があった。
 取り出して手の平を見れば、毒消しの薬と数個のスキル珠。
 そういや拾ったままだったな、とハート型の赤い玉を見てすぐ、パバッとコンソールを操作する。


【追加スキル欄】

・追加スキル /スロットふえーる /SP消費軽減−5p<*> /SP消費軽減−5p<*> /魔法力ブースト<*>


「残り枠は、ライフ1ポイントを残し教会送りを回避する『ふんばーる』とも思うが、連
撃だと意味ないしな。ここは魔法を強化だろう」

 『ふえーる』で増加したスロットに、カレンから貰った軽減を。
 こうすることで、魔法のSP消費量が裏ワザの−10軽減になる。
 俺の最大SPが40。
 50から−10できれば、対象が単体だが最高威力であるはずの技スキル『プレアデス』
が使用可能になる。
 あとは、まったく足りていないSPをどうするかってことだが。

「腹をくくれ頭脳で活躍する魔法使いこと俺」

 てか、順調に行けば、体張ることになるんだけどな。
 それはさて置き、あまり気乗りがしない”賭け”でもあるばかりか”騙し”も必要になる。

 ”賭け”の部分は、SPの確保。
 俺が今握る、古代魔導士の杖の固有スキルはSPドレイン。
 殴った対象からSPをダメージの割合い分吸収する効果がある。
 反則的使用かもしれないが、恐らく対象がモンスターでなくても、つまり人間でも殴れ
ばSPを吸収できるはず。

 ”騙し”の部分は今からスタートさせる。

 気合入れろよ俺。
 周りを見回し、状況を把握。
 そして、大きく息を吸う。

「ハニーさんっ。後は頼みますっ」

 女銃士に叫んで、俺は左手に持つ古代魔導士の杖をミロクの方へ向ける。
 そして『ティラゴ』を連発しながら駆ける。

 SP消費を必要としなくなった中級火炎魔法は、ミロクのライフを削るためのものじゃない。
 煙幕ならぬ炎幕。
 炎を壁にして正確な位置を誤魔化す。

「まだだ、まだこっちに来るんじゃねえぞ」

 言った側から炎の壁を突き破り、真後ろへミロクが登場。
 だよな。カレンの方へ走る俺を放っておくわけがない。
 しかし、飛び蹴りが当たらなかったのでよし。
 もう拾えたしな。

 傍には俺が放り捨てていた道具箱が転がる。

「カレンっ、毒消しの薬だっ」

 迫る後ろからの気配より早く、叫んで右手に持つ物を全力投球。
 人影が俺を越え――投げたカエルの人形ガーマくんを攻撃する。

 よくゼロ距離で蹴り落とせたものだ、と感心なんてしない。
 ミロクならやってのけるし、薬士と銃士のコンビネーションを見ていたお前なら、絶対
にそうするしかないないもんな。
 俺があの痺れ薬と同じ方法で、カレンに毒消しの薬を使うと思っただろ。
 残念。
 大切な毒消しを確実性もないここから、そうそう投げたりするものかよ。

 んじゃ、行くぜ。

「『ティラゴ』」

 宙が赤く染まる。
 その赤色の中にミロクの姿はない。
 くそ、なんで空中で躱せる!? ――と汚い言葉を吐いてしまったが、相手の体勢は崩
れた。結果的には問題ない。
 ”こっち”が本命だしなっ。

 左腕を目一杯振る。
 魔導士の杖の先のコブがミロクの背中目掛けて加速する。

 どうだ、魔法使いが物理攻撃だなんて思わねえよな。
 完全に不意と意表を突いた。
 直接攻撃によるダメージ&SP吸収で追い打ちも掛けられる。

 ぱし、とコブが足裏で受け止められる。
 んな――っ、

 魔導士の杖を足場にミロクがくるり、回転蹴りを俺へ食らわす。

「ぐふっ」

 吹っ飛ぶ俺。
 決まれば最高だったが、@の案は失敗。
 だからAの案へ期待。

 Aは、このままカレンの方へ吹っ飛ぶ。
 上手く行けば、どさくさに紛れてカレンの毒だけはどうにかできる。
 そう思っていたが。やはりそんな都合よい結果にはならないようで、飛ばされながらに
ミロクとカレンの姿が離れていっているのが分かる。

 Aの案、失敗。
 ならばBに期待――というか、もう打ち止めだから頼む。

 ゴロゴロドン、と壁に激突。

「だ、大丈夫かね君」

 重装備の男が言う。
 その言葉はデカルトさんに取って置いた方が良い。

 俺はごろごろ前転して移動。
 すたっと立ち上がった前には『な、なんだね君は?』といった顔のギルドの代表補佐役の男。

「すんません。ダメージ割合いなんで」

 言って、バットの如く握り締めた杖をフルスイング。
 膨れる腹を凹ませたデカルトさんが弾け飛ぶ。
 自分の行動に思うところはいろいろあるが、今はSPゲージ。

「来いっ来いっ」

 ギュイーンと上昇するゲージは赤色から黄色、そして緑の満タンへ。
 ぎり、と視線をゲージから戦闘の場へ戻せば、俺に追い打ちを掛けようした後が残るミ
ロクが棒立ちであった。
 なんでだろ、とか一切考えることなく唱える。

「『プレアデス』っ」

 俺の声に反応したミロクが襲い掛かって来ていたが、遅いっ。
 ミロクの体の重心に黒い球体が発生。すぐさまの球体が肥大化。大きな黒球となってミ
ロクを封じ込めた。

 黒球の中に点々とした光が灯る。
 そして、球の中心へ向かって帯を引く。無数の光の矢がミロクを貫き通す。
 光の矢は黒球の中で反射を繰り返しその残像を強めていく。
 黒球がだんだんと眩い白球へと変わる。
 これ以上直視できない発光球体になって直後、球体は弾け光は霧散した。

 プレアデス。
 俺の使える最大魔法が予想以上の威力をもって炸裂した。







 ほのかに輝く六芒星の中に俺はいる。
 周りは構える重装備の男達。
 中にポニーテールの女性が混ざるのは見た。

「あとほんの少し……ダメージが足らなかった」

 ベネクトリアの教会で俺は待つことにする。
 もしかしたら、俺の次にここへ転移してくるのはミロクかも知れない。
 フー、と息を吐き、俺は重装備の男達に混ざる。
 そして、待つ。

 すると六芒星が発光。
 そこに男が一人転送されて来た。
 加えて真っ裸だったと言っておこう。

「大丈夫。拙者達の勝ちだ」

 大丈夫そうには見えない、裸の人こと元煙管の人は俺達にそう告げるのだった。






 ユアが何か文句でも言いそうだな、とパーティを契約を解約して俺はギルド本館地下へ
急ぎ戻った。
 ミロクと戦った部屋には、教会送りにされていた冒険者の姿もあった。
 呼吸を整える俺はその中にカレンの姿を見つける。

11ヶ月前 No.18

かえる @rueka ★UcqbezVV2U_BwN

 血色の良いものへと戻っていた顔。
 ただそこに浮かぶ表情は、苦々しいものであった。
 それでも。

「無事で良かった」

「はい。お陰さまで。私の毒の方はすっかり回復しました。けれどイッサ、その言い辛い
のですが」

「分かってる分かってる。なんとなく周りの雰囲気でそうなのかな……てね」

 はあ、なんつーか、全然嬉しくない勝利だよな。

「やっと来たね。あんまりアタイを待たせるんじゃないよ」

 カレンから道具箱を受け取ろうとして、声を掛けられる。
 自然と周りが距離を置くから、すぐに見つけてしまう。
 煙管を片手に、煙を漂わすミロク。
 着る物を派手な民族衣装へと変えたその様は、より艶やかになっていた。
 元が男物だからか、胸元が大きく開いている。

「……その服、返してやんねーのかよ」

「こういうのは、似合う奴が着るもんさ。魔導士の坊やはアタイには似合わない、そう言
いたいのかい」

 凄まじい追い剥ぎの理屈だな。
 煙管――いや、今は真っ裸の人であるが、彼の話だと、俺がミロクを相手にしている隙
に、カレンへ毒消しの薬を与えたようである。
 俺と同じく、前衛の騎士がやられてはもう後がないと思い、一か八かの行動に出たようだ。
 それで、一か八かには二つの思いがあり、一つはミロクの目を盗んでカレンの元へ駆け
寄れるか。
 これは成功。
 もう一つは、ルール通りカレンを助けることができたとして、果たしてミロクが納得するか。
 正直、真っ裸の人はそれで戦いが終わるとは思っていなかったと言っていた。
 しかし、実際には俺達の勝利として終わりを迎える。

 恐らくミロクという人間のルールでは、己の決めたルールには従うんだろう。
 デカルトさんとの会話を聞く限り、約束を守る神経は何かしら持っているような節はある。

 けど、『お前のお陰でアタイが負けになったじゃねえか』との鬼のよう形相で言われ、思
い出したくないような仕打ちを受けて教会送りにされました、と真っ裸の人は語っていた。
 ミロクのルールの定義は難しい。

「で……どうして、俺なんだよ」

「そうだね。理由なんてないさ。気分。でもあのハゲをぶっ叩く様は見ていて気持ち良かっ
たね。さすがにアタイが直接手出すと、ギルドの連中も可愛げがなくなるからねえ」

 そう言って、にっこり微笑みかけてくるミロク。
 なんとも背筋が寒いのであるが、どうやら俺は、最強の無職ミロクとパーティを組まない
といけないようである。
 加えて、俺はこれから、この妖美の乙女の関心を引いた行動の責任を取らないといけない
わけで……。

「まったくもって、なんだかなあ」

 俺はとてつもなく大きな溜息を一つ吐いた。






「ユアの奴、なんて言ってた?」

「なんの知らせもなく、パーティ抜けられるとこっちは心配するんだけどー、だそうです」

 パーティメールを読むカレンが、褐色少女に似せて俺に言う。
 うぐぐ、画面の向こうからユアの舌打ちが聞こえてきそうだ。

「教会から戻る時、連絡する暇なんてなかったんだよ。カレン、ちゃんとその辺メールで
伝えてくれた?」

 『はい』と笑顔が返ってくる。
 うーん、伝えてた割には手厳しいユアだよな。少しくらい大丈夫だったとかの労いはな
いのかよ。
 それでカレンの少し離れたところでは、壁に寄りかかるミロクがすぱーと煙を吐いていた。

 ここ禁煙じゃなかったっけ? と思うここは、ギルド本館の廊下。
 俺が出てきた部屋は、代表補佐役デカルトさんの私室になり、このフロアはギルド関係
者しか立ち入れない区画である。

 そんなところでカレンを待たせ俺が何をしていたか、いいや何をされていたかと言えば、
お説教。
 職を剥奪されないだけでも感謝し給えよ、とデカルト氏に幾度となく言われ、散々愚痴
られた。
 んで、締めくくりは『ミロクの管理』を確約させられて終わる。
 ミロクが姿を暗ましたら、俺の責任。ミロクが何か問題を起こしても俺の責任……らしい。

「はあ……ちょっと前までは結構、魔王討伐にやる気感じてたんだけどな……」

「イッサ……話してみると、意外にも普通に会話ができます」

 ひそひそとカレン。
 清廉潔白の人であるカレンと佞悪収賄(ねいあくしゅうわい)のミロクがどんな化学反応を
起こすか気が気でなかったが、どうやら俺の杞憂だったようだ。
 まあ、だからと言って油断は出来ないけどな。
 んで俺は、そのカレン曰く、普通に会話ができるらしい妖女(妖美妖艶な大人の女性、
もしくはそのまま人間じゃない女性の略)に聞く。

「その、ミロクはどうすんだよ?」

「どうする? アタイは魔王をぶっ殺すんだろ。あのハゲから言われなかったかい」

「いや、それは知っているんだけど。そうじゃなくて、討伐作戦まで三日あるからさ。そ
の間どうするんだよって聞いたんだけど」

「クククッ、デカルトからアタイを監視するように言われてんだね」

 そう言って、近寄るミロクが俺の腕を取る。

「坊や達の宿で適当するさ。けどそうだねえ、久しぶりの外だし、ちょいとばかり物見遊
山と洒落込みたいね」

 柔らかい塊。
 胸の谷間に俺の腕が挟まる。
 そんなに見惚れていたわけじゃないと思うが、はっと我に返えば、カレンの背中が遠い。

「ちょ、ちょカレンどこ行くんだよ」

「ルーヴァ達が待っていますから、宿へ戻るのです。イッサも三日後の討伐作戦開始日ま
でには、戻ってきてください」

 スタスタ去ってゆく騎士の後ろ姿。
 なんだろう。こっち向いてくれなかった仕草に怒っているようにも感じたのだが。
 てか、俺も今すぐ宿に戻るつもりだから。

「さあ、どこに連れてってくれるのか楽しみだね」

 うーん。戻るつもりなんだが……。





       ◇ ◇ ◇





 三日間、酒浸りだった。
 陽射しがいやに目に染みる朝。ふらふらと向かった先はギルド本館前。

「当日まで朝帰りとは、イササは駄目駄目亭主まっしぐらにゃね」

 ルーヴァが俺の背中をバシリ。
 うう、止めて下さい、頭に響くから。

 そんな気分優れぬ俺の側には、ミロクから身を隠すようなアッキーが服の袖を掴む。
 引っ張られると辛いので、これも遠慮したい。

 カレンは浮かぶ場面に文字を入力中。
 本日をもってカレンも、ユアやノブエさんとのパーティを解除する流れとなる。

「イッサから伝えることはありますか?」

「う……ん、特には……それより胃薬的なもの持ってない?」

「自業自得です。ユアとノブエさんからは一ヶ月以内に戻ってこないと永久追放だかんね、
だそうです」

 ほぼほぼユアの発言だな。
 一ヶ月かあ。まあ、そんくらいだろうな……。

「うっす了解、と返事お願いします」

「ではでは、イササにカレレ。ルーヴァの魔王討伐パーティに入るよろし」

 今回のパーティリーダーになるルーヴァと、俺並びにカレンが契約を交わす。
 承認をもらい、パーティ欄に獣人ルーヴァ、騎士カレン、魔法使いイッサ、僧侶アキラ
の名が並ぶ。
 んで、獣人は最大で5人のパーティを組めるから、

「おーい、ミロクも早くルーヴァにパーティ申請しろよ」

 俺と違って、浴びるように酒をかっ食らってもケロッとしている酒豪に催促した。

「アタイは魔法使いの坊やと組むとは言ったけど、そこの獣人と組むつもりなんてないよ」

「いや、俺がパーティリーダーになると4人までしか組めないから」

 などと、道理を説いたところでこいつが納得するだろうか……。
 飲んだ酒場でも、アタイはこの世界のすべてが嫌いだだから酒代なんて払わないうんぬん
と、ムチャクチャないちゃもんをつけて無銭飲食を繰り返す始末。
 俺の中には、行く先々でギルドに請求してくださいと頭を下げまくっていた記憶が僅か
ながらに残る。
 既に頭痛いのに、出だしから些細な事で頭を悩ますことになるとは。

「ミロクさん。パーティは数が多いことの方が利点も多いです。イッサが所属するパーティ
に加わることは、イッサと行動を伴にすることと変わりないはずです」

 促す口調のカレンへ、色香を撒く女はゆっくり歩み寄る。

「アタイに指図するんじゃないよ。アタイが嫌だと言うんだ。だったらそれが正しいのさ」

 そう告げて、ミロクは足を留めることなく一人ギルド本館へ入館して行った。

「んー。やっぱりミロロは噂通りの曲者にゃね」

「ええ……。すみません。どうやら私の発言が彼女の機嫌を損ねてしまったようですね」

「ああーと、別に怒ってるって感じじゃないぜあれ。たぶん元からパーティ契約自体はす
るつもりなかったんじゃないのか?」

「おにゃ、さすが亭主にゃね。嫁の気持ちはよく分かるのにゃ」

「ルーヴァ、それマジで止めてくんない。俺が好き好んであいつの酒の相手してたと思う
のかよ。強制だつーの、拷問だったつーの」

 まあ、その甲斐あって、女王様のご機嫌バロメーターを測れるようにはなったけどさ。
 気を取り直して、ミロクの後を追う俺達。
 右に『様子を見に行った時は、デレデレイッサがお酒を楽しんでいるように見えました
けれど』とカレン。
 左に『ミロロに抱きつかれて、ウハウハしてたにゃね』とルーヴァ。
 そんなとこは決してないと物申す俺の後ろでは……立ち止まるアッキー。

「どうかしたか、アッキー?」

「あの、ボク……どうにもあの人苦手って言いますか。本当に大丈夫なんでしょうかあの人。
殺人鬼なんですよねあの人。ボク、あの人が近くにいると、食べられそうな気がして怖いんです」

「大丈夫だ」

 俺は力強く一言。
 この励ましに、アッキー顔から曇りが取れた。

「食べられそうになったら、俺も一緒に食われてやるから」

 自信たっぷりに親指を立て言ってやった。





      ◇ ◇ ◇





 冒険者やギルドのエージェント約150名でまとまる集団三つで、この魔王討伐作戦は
始まる。
 三つに分かれる討伐隊には、それぞれ名前が与えられていた。

 ギルドのお偉いさんから名前をとった、アリーゼ隊、デカルト隊、ベルニ隊となる。
 俺達はデカルト隊所属となった。
 このデカルト隊の頭は、レベル110の戦士のおっさんが務める。

 それで第一作戦である教会や聖なる祠の奪還は、予定では五箇所。
 その内三箇所を、各討伐隊で攻め落とす。

 初の大規模集団戦に戸惑いはあったが、さすがはレベル99以上の集団である。
 モンスターとの戦いは臨機応変お手の物。
 レベル110の骸骨モンスター、スケルトンロイドが今までにないスキル攻撃なんかを
仕掛けてきたが、なんなく対応、すべての敵の駆逐に成功する。

 戦いが終わる頃には、隊の中でのパーティ同士の連携や役割が自然と構築されていた。
 こうなるともう負ける気なんて微塵もなく、士気も高まり――いざ、次の戦地へっ、て
な感じなんだけど、俺達は奪還した教会のある街で足止めを食らっていた。

 壊れた建物の柱を利用して、大きな布を張る簡易な陽射し除け。今はザアザアと雨が降
るので雨除け。
 急ごしらえ、質素な駐屯所で晩の飯にありつく俺達。

「まったく、なんでとっとと進軍しねーんだって、やっかまれちまったよ。血の気が多い
連中ばかりと言うか、頭張る以上、そういう小言は避けて通れねえと言うか」

 デカルト隊指揮官、マサさんが愚痴りながらに骨付き肉へむしゃりとかぶり付く。
 マサさんのパーティと俺のパーティは今後の予定について、上限突破者同士の会議も兼
ねた食事をしていた。

「結果として、悪天候の中進むことにならずに済んだものの、折角高まった士気には水を
差された形にはなりましたね」

 雨と掛けましてその心は、かどうかは分からないがカレンが言う。
 俺達がここに留まる理由は、天候でもなくギルドから三日ほど滞在するようにと通達が
あったからだ。
 魔王が教会を奪い返しに来る可能性を考慮し、様子を見るらしい。

「どうなんでしょう。ギルドの読み通りに魔王は教会を奪い返しに来るでしょうか」

 とアッキー。

「どうだろうな。根拠はないが、魔王たる者居城でどーんと構えとくもんじゃねえのか?
と俺は思う。勇者が攻め入ったけど魔王留守でしたって話聞かねーし」

「あんちゃんの言うようにゲームだとそうだな。ま、俺も戦争を経験した世代じゃねえか
ら、よく分からんが、大将ってのは最後の砦に居るってのが世の常だよな」

 がはは、と笑うマサさんも俺と同じく魔王が奪い返しに来るとは思っていなさそうだ。

「私達が徒党を組み反撃に出ることは魔王も考えていたことでしょうから、仮に奪い返し
に来ないとなると余計に不気味には思えますね」

「カレンちゃんの言い分は最もだ。だからこそ城に篭もるんじゃねえかとおっちゃんは思
うぜ。おめえらも戦い慣れた狩場とそうでない狩場だと全然勝手が違うだろ?」

 マサさんの言わんとすることは分かる。
 よく知る土地での戦いは地形を利用した戦闘が可能になるし、いざという時の待避所な
んかもある。
 戦闘の有利さがある分、倍とまで言わないが、戦闘力がトータル的には向上する。
 逆に不慣れなバトルフィールドでは、トラップやら思わぬ状況に陥るなどして、普段の
能力を発揮できないまま戦闘が終わることも多い。

「魔王としては下手に奪い返しに出向くより、今の状況になれば元から籠城の構えだったっ
てことだろうな」

 とデカルト隊指揮官が言うので、魔王は来ないとの結論で話し合いは終わる。
 それで、雑談があれこれあちこちで行われるのであったが。

11ヶ月前 No.19

かえる @rueka ★auX3ZOaYYj_BwN

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11ヶ月前 No.20

かえる @rueka ★ctDx5zRURD_BwN

「魔王城だと教会送りにならずに、どこかへ飛ばされる。その現象がベルニ隊で起きてるっ
てことか。なんか……いろいろ痛いなそれ」

 冒険者達のほとんどは今回のジェミコルに燃えてたから、どこかへ転移させられた奴ら
もいずれは合流してくるだろうけれど、いつになるかは分からない。

 あと、魔王自身が直接攻撃を仕掛けてきた事実もそうだが、その攻撃が戦闘後にも影響
する痛手を被こうむるものとなれば、今以上に警戒を高める必要性が出てくる。
 より慎重な行動と移動が求められる結果は、攻める俺達側からすれば負担以外の何者でもない。

「クククッ、どうせバレちまうのにねえ。デカルトのハゲは隠し通すつもりでいるのかい。
どうなんだい? そこの盗賊女」

 皆が注視するテントの端。
 半身にして佇む艶やかな衣装に身を包むミロク。煙管を吹かす様(さま)は見慣れたもの。
 しかしながらその見慣れた妖女の艶姿が、この作戦会議の場で見れたのは珍しいことである。

「なんの話してんだよ?」

「今の話にあった連中、この世界のどこを探しても見つからない。そう、アタイがそこの
女の代わりに間抜けな坊や達へ教えてやったのさ」

 問いには答えてもらえた模様のそれであったが、よく分からんぞミロク。

「そんなシケた面をアタイに向けんじゃないよ。カビ臭くなっちまうだろう。さっきの話
は魔王からの挨拶、見せしめって言ってんだよ。これ以上ちょっかい掛けてくんなら、て
めえらをあの世に送ってやるってな」

「……ミロクさん。隠しているつもりはないのです。ただ貴方の仰るような教会送りにな
らない死を、魔王が本当に行えるか確証がない以上、むやみに不安を煽るような発言を」

「あー、ウゼーウゼー。確証だ? あの世に逝っちまったもんが口きけるわけねーだろ。
お前馬鹿か?」

「ミロク、分かった分かったから、頼む落ち着いてくれ、いや下さい。キョウカさんもな
んかすんません。その、あれだな――」

 つまりあれだよな、

「魔王は俺達が教会送りにならないような攻撃をできるって話だよな。いやー魔王すげー
な、教会に送られないとなれば俺達復活できないし、本当に死んだも同……然」

 ん、だと!?

「おいおいおいおい、おいっ。それマジかよ。本当にそうなのかよ!? なんでお前そん
なこと知ってんだよっ、魔王ってマジでそんなことができるのかよ!?」

「さあーてね。けどさ、それができるから魔王なんじゃないのかい」

 そう答えたミロクは、冷たく笑う。




       ◇ ◇ ◇




 噂ってのはどこから湧いたなんて関係なく、広がるものである。

 ただ、あちこちで囁かれているのは、俺がどこか引っ掛かかったままの『魔王に殺され
ると完全に死ぬらしい』ではない。

 『魔王が本気を出せば、魔王城の不思議現象が城の外でも起こるらしい』。
 これがデカルト隊での今一番ホットなネタであった。

 まあ、この隊にはカレンや他にも魔王と戦って敗北した者がいて、その者達が存在して
いるのだから、完全な死の話が出まわっても信憑性には欠けるし、ベルニ隊が受けた被害
状況なら不思議送り(教会へ送られない転移)の方が、有り得そうだもんな。

 現状、噂の内容は魔王の脅威としての認識を高めたものの、キョウカ女史が懸念してい
た討伐隊の士気への影響も微々たるもののようで、特に問題視されることもなく隊の討伐
作戦は着々と進む。

 現在デカルト隊は、遠目に黒き魔王の城が見えるバル高地へその足を踏み入れていた。
 魔王討伐を掲げているので、幸いなのかそうでないのか悩むところだか、作戦が始まっ
て二週間ちょい、デカルト隊が魔王と直接刃を交わすこともなく、俺やその仲間達が教会
送りになることもなかった。

 んで、このバル高地まで攻め入ることができた俺達はこのまま留まり、ここでモンスター
との攻防を繰り返すのである。

 理由は他のアリーゼ隊とベルニ隊との足並みを揃えるためで、デカルト隊は予定の2日
遅れでこの地を抑えることできたが、他はもっと遅れているらしい。
 だから俺達は足並みが揃うまで、奪われた土地を奪い返そうとしてくるモンスターの群
れを、三つの班に分かれて代わる代わる迎え撃つ。


 魔王の城を三方から囲む第二作戦も佳境。
 気合を入れて眼前のモンスターに『フレイヤ』。
 火の鳥が縦横無尽に舞う。
 一度の使用でSPが空になるが、広範囲火炎系の最大魔法はかなり強烈だ。
 それに。

「うーん。やっぱ火炎ブーストの極みは違うわあ」

 嬉しい吐息を漏らす。
 今の俺の追加スキル――


【追加スキル欄】

・追加スキル /スロットふえーる /SP消費軽減−5p<*> /SP消費軽減−5p<*> /火炎ブースト極<*>


 にひひ。
 魔法力ブーストを外したので魔法力は下がったが、火炎系で与えるダメージが+200%だ。
 倍だ、倍。
 この前倒した、『噛みつきうさピーゴールデン』という、ウサギに似た大きな金色のレ
アモンスター(古代種)から頂戴した。

「おーい、そこのニヤけてる三班の魔法使い。薬士がポーション配るらしいから補充して
こい。あとはこっちでやるから」

「了解。ほんじゃ、よろしく。カレンっ、ルーヴァっ。二班が引き継ぐらしいから一旦下がれっ」

 二班の男からの申し出を受け、俺は先で剣と拳を振り回す騎士と獣人へ声を掛ける。
 一応、俺達のパーティ所属として周りから認知されているミロクにも声を掛けるべきな
のだろうが、戦っている最中の最女には何があっても話しかけるな、がこの隊の掟である
からして放置。
 この世界から愛されて止まない暴女も、この隊からは疎まれている。

「んじゃ、アッキー先に行っとこうぜ」

「はい、分かりました」

 元気ハツラツ可愛い笑顔が返ってくる。
 最近は戦闘中も側にいることが多いアッキー。
 ついつい中身が男だというのを忘れそうになる。気をつけねば。







 ゴツゴツした岩肌がそこら中あるバル高地。
 その風景の中、平らな場所にて大きな木箱が置かれている。
 木箱の上には薄い蒼色の液体を詰めた瓶が並び、側ではメガネをクイッと上げる細身の男。

「さあさあ、レディース&ジェントルメン。見てらっしゃい寄ってらっしゃい。稀代の薬
士によるエクスポーションの無料配布ですよ」

「メガネ、俺にもくれ。てか、いかにもお前がポーション配ってるみたいな感じになって
るけどさ、ギルドからの素材物資が届かなかったら、大したもの調合できないだろ」

「魔法使いのボーイはいつも僕に手厳しいな。僕にとてもステキなハニーがいて嫉妬する
気持ちはわかる。でも魔法使いボーイの隣にもキュートなガールがいるじゃないか」

「そういや、いつも側にいる銃士のハニーさんがいねえな」

 メガネ薬士の戯言にアッキーが反応を見せたので、すかさず思いついたことを口に出していた。

「やはりいつも輝くハニーがいないとすぐに気づかれてしまうのだな。マイハニーは先日
教会送りになってしまったんだ。僕も後を追って自殺しようと思ったのだけれど、メール
でこう言われたんだ。ダーリンは皆から必要とされるダーリンなんだから教会へ来ては駄
目だわ、とね。どうだい、このハニーのいじらしさ。ここへ戻る間僕とはメールもできな
い孤独が待っているというのに」

「メガネ。これ以上のたまわるってんなら、早速このポーション飲んで『ドラゴニール』で焼くぞ」

「あはは。イッサさんとメガネさんって本当に仲がいいですね。ボクなんだか羨ましいです」

 いやいや違うから。
 理由ははっきりしないけれど、このメガネ心底俺の神経を逆撫でするんですよ、とボクっ
娘アッキーに説明する。
 その折、ひょいとネコ耳が視界に入る。

「ガネガネこれ貰うにゃね」

 ルーヴァが木箱の上から小瓶を掠めれば、きゅぽ、と蓋を取って水と遜色ない中身を頭
からかぶる。
 ほわわ、とネコ娘の体が光る。

「ぬおお、何してんだよルーヴァっ。もったいねえっ」

「ふにゃ? 何がもったいないのにゃ。ルーヴァのSPカラカラ。次も戦闘があるかもだ
からSP全回復、これよろしいことにゃ」

「そのもったいないじゃなくて、なんで飲まないんだよ」

「ポーションは飲まなくても体に振り掛けるだけで効果があるのにゃ。イササは知らないのかにゃ」

「知ってるにゃっ――知ってるさ。でも飲んだ方がコーラの味が味わえてお得だろ?」

「こーら? んー、『こーら』はカミナリな親父さんのこーら、にゃ?」

 一緒になって首を傾げてあげた。
 なんで、雷親父のコラッ、は知っててコーラを知らないのか腑に落ちないが、ルーヴァ
は『地元の人』だから無理もないかあ……。

 ライフやSPを回復するアイテム、ポーション。

 中身は薄い蒼色で水のようにさらりとした液体だが、飲めば元いた世界を懐かしめる
ジュースの王様、コーラの味が堪能できる。
 あとは、炭酸さえどうにかできれば文句ないんだけどな。

「アッキーも飲む派にゃ? カレレも飲んでるにゃ!?」

「ボクもイッサさんと同じ飲む派ですよ。なるべく飲みたいかな」

「私はコーラが大好きというわけではないですけれども……ポーションは貴重だから、こ
ういう余裕がある時なら、飲んでおこうかと」

「にゃー、プレイアブルの民は変わっているにゃね。ポーションなんてそんなに美味しく
にゃいのに」

 ルーヴァは舌をれーと出し、空になる小瓶を逆さにフリフリ。
 うーん、確かに美味しいかと聞かれれば微妙なんだけどさ。

「ところで、魔法使いのボーイ。レディ・ミロクへ一言言っておいてくれないか」

 メガネが神妙なメガネを掛けて言ってきた。
 なんだろうと思う――が、

「悪いが、遠慮しとく」

 ミロクの名が出たのなら関わるべからず。

「幾ら僕が稀代の薬士でも、スプライトやファンタといった味にはできない。そのように
何度も説明するが、聞く耳を持たってくれないのだ。それに各冒険者へ配るポーションの
数は決まっているのに、根こそぎ持って行ってしまうんだよ。まったくじゃじゃ馬レイディ
は魅力的だが乗りこ――」

「へえ、ミロクがねえ……見かけによらず、可愛いとこあるんだな」

 そう漏らす俺は、俺と同じくあいつも元いた世界を思い出させてくれる味や香りを欲し
ていたんだな、と微笑んでしまう。
 この世界で最強を手にする最女であってさえ、懐かしき味の魅惑には抗えないってことだ。
 あのミロクが敗北してしまうのだから、俺は至極当然だろう願いを口にする。

「なあ、炭酸ポーションは無理っぽい?」

 メガネが左右へと振られるばかりだった。




       ◇ ◇ ◇




 バル高地で二日を過ごした晩のことである。
 食事兼会議の場にて、アリーゼ隊、ベルニ隊の近状報告がなされた。
 アリーゼ隊は明日の朝には、目標とする平原地帯へ到着できる見込みとのこと。
 ベルニ隊に至っては、あと五日ほどの日程を要するとのこと。

 なので、俺達デカルト隊は一週間足らず、このバル高地に留まることになりそうだ――
なんてことを俺は、盗賊装備を一新したキョウカ女史の顔を見ながら考えていたのだが。

「我々デカルト隊は明日の未明、魔王の居城、黒き城へ向け出発します」

 こじんまりしたテントの中は、数名の『は?』の空気で一杯になる。
 知らされていなかったのか、隊長の任を預かるマサさんまでもが、驚きの声を上げていた。
 立ち上がる大きな体躯。

「ちょっと待ってくれ参謀役。意味が分からねえ。何のために二日もここで俺の隊は戦線
を維持してきた。他の隊と連携して魔王の城へ攻め込む為だろうよ」

「はい、マサ隊長の仰る通りです。しかし現状大幅に遅れているベルニ隊を待つことは、
魔王の襲来に遭う危険性を孕みます。魔王討伐作戦本部としてはその脅威を考慮して、
アリーゼ、デカルトの二つの隊で予定である第三作戦へと移行することを決定しました」

「ベルニ隊の進行状況から、あっちの隊を切り捨てることにしたのは理解した。だがよ、
明日の朝ってのはどういうこった。アリーゼの連中はまだ予定の地点に届いていねえ」

「アリーゼ隊は予定地点を占拠することなく魔王の城へ強行します。ベルニ隊が城攻めに
間に合わない以上、アリーゼ隊が前線を確保する意味はありませんので、デカルト隊との
合流を作戦行動として第一とします。その旨は伝達済みであり、あちらからは可能である
と返事を頂いておりますので、支障等はありません」

「そりゃ、ギルド本部から言われりゃ、はいとしか言えねだろうさ……納得いかねえな。
どうにも納得いかねえ。早期決戦が最善みてえな言いようだが、焦燥感に駆られている
作戦変更に思えてならねえし、中身は……ベルニ隊を煙たがっているようにも思えるが?」

 マサさんの何かを探るような目。
 それを受ける相手は、伏し目になる。
 しばしの沈黙の間。
 煙たがるの意味に思い当たる周りは、黙って指揮官と参謀のやり取りを見守る。

「……出来ればギルド内部の羞恥の事ですので、話したくはありませんけれども、今ギル
ド内では次期代表の座をめぐり派閥争いが起きています」

 キョウカ女史はそう話し始めると、討伐隊の名前にもなっているアリーゼ氏、デカルト
氏、ベルニ氏の三者による権力争いがギルドの中で激化していると説明する。
 各隊、名前だけでなくその人達の責任者としての権威も反映されているらしい。

11ヶ月前 No.21

かえる @rueka ★auX3ZOaYYj_BwN

「今回のジェミコルは最重要度の赤。このクラスのものが発令されることなどは稀で、非
常に責任を問われる重大な案件となります。しかしそれゆえ、ジェミコルを成し得た後に
は、その功績とともにギルドや世間への影響力を得ることになります」

「裏を返せば、失敗できないってことだよな。重要ならこそ、反動として非難が殺到だろうし」

 重要ってことは期待値が高い。その期待が裏切られると憎悪になるんだよな。
 人ってのは我がまま生き物だ、とか悟った風な自分に酔いしれていると刺さる視線に気づく。
 キョウカ女史のそれは、俺のつぶやきが場の流れを阻害してる、と言わんばかりである。
 なんか、俺にだけキツくないっすかね参謀殿。

「このままいきゃ、ベルニ隊、つまりベルニ氏が管轄する隊の第三作戦への参加が行われ
ず不名誉な結果になる。平たく言やあ、それで失脚確定、他のアリーゼ、デカルトにとっ
ては敵が一人減るってわけだ」

「ええ、仰る通りです」

「デカルトの思惑に乗ったアリーゼは隊を強行させることに同意。デカルトとしちゃ俺達
デカルト隊が魔王を倒した。その功績が欲しい。だから、恐らく魔王城の前で合流の算段
にはなっているだろうが、デカルトそしてアリーゼも、腹ん中じゃ我先にと思ってるんだろうよ」

 けっ、と吐き捨てマサさんはドシンと重い体を椅子に預けた。

「ギルドの派閥争いに貴方方冒険者の善意と誇りを巻き込み心苦しく思います。しかし変
更になった作戦は既に決定事項です。デカルト隊は明日、魔王の黒き城へ進軍します」

 新調されていた装備が彼女の意気込みだったと知る頃には、同じギルドの身内の取り巻
きを連れてテントから去っていた。
 キョウカ参謀殿を淡々と見送って、冷めつつあるスープにスプーンを突っ込む。
 隣のカレンが、このスープ美味しいですね、と言って、長い髪が邪魔だと感じたのか、
取り出したシュシュで髪を縛る。
 その仕草に見惚れて、スープを味わうどころでなくなっていた時だった。

「魔法使いのあんちゃんはどう思うよ」

「うなじ、いいっすね……」

「聞き方が悪かったのか? さっきの参謀さんの話さ。あんちゃん見た目と違って目ざと
がられていたからよ。どう思うってな」

 マサさんに返すでもなく、そっちねと小さくつぶやいて、

「俺、あの人から目ざとがられているんすかあ……と、無難――どころか、上手いやり口
だったんじゃないんですか。今回の功績で、代表頂きだぜ的話自体は嘘じゃなさそうみた
いだし。理由があって隊を動かすことは明確にできたわけだし」

「ま、だから不明のところもはっきりと言ったようなもんだがな」

「やはり参謀殿の話の意図は、マサ隊長殿がおっしゃったベルニ隊との合流を恐れてのこ
とでしょうか」

 カレンが加わる。

「いつかのミロクのねえちゃんの言ってたことが信憑性を増したな。隊が一緒になりゃ魔
王からの死の真相に一番近い奴らの口から情報が入る。困るんだろうよ。本当に死ぬかも
知れねえ戦いだって、俺達が思うことがよ」

 マサさんはもちろん、俺とカレンもこの理由から今回の作戦変更が為されたと考えてる。
 つまりキョウカ女史が、本当にある派閥争いを表に出すことで真意を隠した。目を逸らさ
せようとした真意からそのように察して結論づけていたのだった。

 ”魔王による完全な死”。

 ベルニ隊が合流すれば、これが討伐隊全体に知れ渡る。
 士気の低下は無論、その事実を知りつつ隠していたことでギルドの権威も危ぶまれる。

 レベル上限を変更できるサーシャではないが、故意的に完全な死を与えれる存在などこ
の世界の理に反する。
 神の名をもって運営されるギルドがそのことを隠匿するなど、世界への背反ともとれる
行為でもあるが、何よりも人々の脅威となる存在を放置していたことが問題だ。
 もし世間がそのことを知ったのなら、その反感は大きいだろうと思う。
 ギルドとは人々の安念を願う理念の元、設立された組織なのだから。





 食事をすべて済ませ、ルーヴァ達が休む場所へ移動しようとテントの外へ出た時だった。
 俺――というか、カレンに声が掛かる。
 仕切る布が捲られ、ぬうっと大きな体躯のおっちゃんが登場する。
 レベル110の戦士。我が隊、隊長のマサさんだ。

「ちょっとばかし話したいことがあるんだがよ。いいかい?」

「ええ? 構いませんけれども」

「明日ここを発つ前に、俺の隊の連中には魔王討伐には本当の死があること伝えるつもりだ」

 マサさんのこの宣言……。
 もしかすると、共に戦う者へ対する嘘や騙すといった後ろめたさがあったのかもしれない。
 けれど、少し違うな。
 戦いに誠実であるべきとかのものでなく――カレンへ向けるおっちゃんの目が語っている
のだ、この可能性に向き合うことが今は何よりも必要なことだと。

 確たる証拠はない。
 しかし、疑い見る先は仲間の命に関わることだ。十分に伝えるべきだと俺は思う。
 だからマサさんの起こそうとする行動には全面的に賛成だ。
 そしてこれはカレンも同じだったろうが、小さく唸る態度を見せた意味も分かるところだ。
 マサさんのそれは、たぶんキョウカ女史に良い顔をされないものだからな。

「……隊長殿のお気持ちはよく理解しているつもりです。ですが、彼女の意向に背くこと
になるのでは?」

「参謀殿のことなら、構うことはねえさ。なぜなら今カレンちゃんも今言ったろ、俺はこ
の隊の隊長殿だからよ。ギルド本部からの特派だろうと所詮俺の部下だ」

 あっけらかんとした物言いだった。

「それでよ、実際に魔王と一戦交えたことのあるカレンちゃんの口からもこの事を話しちゃ
もらえねえだろうか。俺が話し下手ってのは置いといて、あんたの口添えがあった方が信憑
性があるってもんだ」

 ふーむ、なるほど……ね。
 どちらかと言えば、魔王からの完全な死を否定する存在になってしまうカレンが認めた
発言をすれば、自ずと疑念要素の一つがなくなるからな。

「ま、それ以外にもカレンちゃんの誠実な人柄を見込んで頼みたいんだがよ。あんたが嘘を
吐くなんて誰も思っちゃいねえし、なんたってカレンちゃんはこの隊のアイドルだからな。
カレンちゃんが黒を白と言や、この隊の野郎共は、翌日から魔王の城を白き城と呼ぶだろうさ」

 夜の高地に、がははと高笑いが響く。

「どうだい。頼めるか」

「真実はどうなのか分かりませんけれど、魔王の疑わしき隠された力については、私も十二
分に考慮すべきことだと思います。私自身も隊長殿の行動には賛同したい考えですから、謹ん
でお受け致します」

「堅いねえ。ま、品がねえ俺からすりゃそこがたまらねえけどな。おっと、こういう発言
がセクハラってのになんのかね。と、冗談はさて置き」

 豪快に開いていた口が閉じれば、お硬い騎士へ向く顔は精悍なものへ。

「俺が頭張る以上、この隊から無駄死になんてくだらねえことはさせねえからよ。頼んだぜ」

 がし、と熊のような手がカレンの細い肩に乗った。
 隊長殿これがセクハラです、と小さな囁きを耳にする俺は始終蚊帳の外だった。
 けど、そこにあった守る意志、そんな何か熱いものには存分に巻き込まれた。

「俺が頭を預かる以上は……か。見た目はあれだけど、カッコいいおっちゃんだな」

「なんか言ったか、魔法使いのあんちゃん?」

「なんも。……いいや、俺は死ないから。そう言っただけ」

「そうか。なら臆病になれよ。そしたら、俺の期待を裏切らねえで済む」

 がはは。
 夜空の星にマサさんは笑う。

 臆病――か。
 大人はいろんな言い回しで語るもんなんだな。




       ◇ ◇ ◇




 隊の皆が集う朝は少なからずランプの明かりを灯した朝だった。
 そして決起の朝にもなった――。

 『生きて戻りましょう』。

 カレンのこの言葉に、もしかしたら『私のために死なないで』と脳内で変換した奴がい
たのかなんてのは知る由もないが、マサ隊長の言う多くの野郎共は声を上げ奮起した。
 可憐な乙女がすごいのか、冒険者なるものがすごいのか……今までやってきた戦いと違
い死がチラつく戦いに隊を離れる者もいるかもと思っていたが、無用の心配に終わる。

 そんな士気も上々なデカルト隊は魔王の城に到着するや否や、アリーゼ隊を待たずして
城内へ突入した。

 予定と異なる指示であったが、功を焦るのはデカルト氏だけではなく俺達もそうである。
 早くケリを着けたいと、各々獅子奮迅にて道を切り開いていった。

 仮に巨人が住まうとしたら腰を曲げて暮らす城内も、人の背丈からすれば広く大きい黒き城。
 堅固な石壁、長い通路。
 煌々として燃える松明に誘われる――向こうからすれば羽虫の魔導士の俺、騎士カレン、
獣人ルーヴァ、僧侶アッキーがドタドタと駆ける。
 そんで、周りには現在モンスターもいなければ隊の仲間達の姿もない。

 城内には様々なトラップがある。
 その内の一つによって、俺達はパーティ単位で行動することを強いられていた。

 上空から攻め入れない限り通過するしかないフロア。
 そこに用意されていた転移の罠。

 本来なら全員バラバラになっていたかも知れないが、パーティというシステムがトラッ
プ効果に勝ったと考えられる。
 その理由から、一応俺達の所属扱いになってはいるものの、パーティ無契約のミロクと
はぐれることになった。
 今頃、敵城内を一人で彷徨うことになってしまっているはず……だが、まあミロクなの
で大丈夫だろう。

「まったく、肝心な時に居なくなりやがって。だから契約しろって言ったのに」

 この転移の罠は知り得ていたことなのである。

 俺達はカレンを始めとする魔王城内部を知る者達から、ある程度の情報を知ることがで
きていた。
 だから、俺達は走ってはいるが慌てず騒がず目指せ『狭間の広間』だ。
 『狭間の広間』はトラップなどもなく、以前カレンが言っていた秩序の乱れもないただ
の広い広間だそうだ。
 魔王の玉座までの道のりの中間にあたるらしいそこは、俺達にとってはかなり都合が良
く、一度バラけた隊の集合場所、確保できる安全地帯として目標に定めた。

 どうしてこのようなこちら側にとってありがたいフロアがあるかと言えば、アッキー解
説だと、トラップ効果などを含めた通常と違う力が働く空間を維持するためには、釣り合
いを取るために必要だからと考えられます、だそうだ。

 根本的な原理や理由は不明のままであるが、『狭間の広間』のような場所があるだけで
かなり助かるからそれで十分だ。

 先頭をゆくカレンがもうすぐです、と言うそこへ至るまで結構な苦労があった。
 待ち構える強力なモンスターとの戦闘は無論、トラップに苦汁を飲まされた。

 レベルが半分になる通路があった。
 99越えの敵もいる最中、これは痛いと嘆いた俺に敵も半分になるから大丈夫にゃ、と
外見に似合わず割りと冷静沈着なネコ娘。

 おおそうなのかと思い、ならこのトラップ意味なくね? ははは、魔王って意外とヌけ
てんなー、などと城主を馬鹿にしてたら、物知りボクっ娘からは、通路を抜けた後にはラ
イフとSPが半分になるから地味に馬鹿にできないトラップですね、だった。

 他には――、

 屋部るなにさ逆。
 すべてがあべこべってわけじゃなかったが、ややこしさに翻弄され戦闘に難を感じる結
果になった。

 音が霞む場所もあった。
 五感の一つである聴覚の大切さを思い知らされた。

 あとは二つの意味で、目が痛かった通路。
 なんでこんな場所があるんだろうと首を傾げたくなるそこは、装備や衣類が透明になった。
 ざっくり言えば、裸で通る道があったってこと。

 そんなわけで俺は目隠しをされることになったのだが、俺の手を引くカレンのお尻が丸見
えだったりした。
 カレンだけでなく、ルーヴァやアッキーも真っ裸だった――と裸に見えたが正しい。
 なんで、目隠ししてもそのような眩しい光景を目にできたかと言えば、目隠しもまた布で
あるからして透き通るのだ。

 そして、やはりなのか俺の覗き見は即バレる。
 イササのエロエロ眼が開いているにゃ、で、目つきをもらった。
 強制的に盲目にさせられたのであった。

「ほんと、なんであんな場所があったんだろう」

 しんがりを務める(足が遅いからとかではないぞ)俺は皆の駆ける背にそんな言葉と、あの
眩しい光景を重ねた。

「あそこです。あの扉の向こうが『狭間の広間』です」

 カレンの示すところ――既に重々しい扉が左右へ開き、大きな口を開けて俺達を待ち構える。
 目を凝らす先は、ここからでも分かる広い空間。
 ちらほら人影が見えるそこは、妄想でなくてもとても明るい。
 その明るさに気が緩む時、俺の目の前が暗転した。
 ぞわっと重力から開放される瞬間。
 ここまで来て、なんとも定番のトラップに足元をすくわれる――いいや、足場を失う。

 落とし穴だ。

 ズジャザササ――滑り落ちていく感触の中、誰も気づいてくれないだろうな、とパーティの
一番後ろであったことを後悔した。






 滑り落ちた先に、剣山なりモンスターの待ち伏せが無かったのは幸いだった。
 しかしそれでも、迷子という油断ならない状況下には陥っていた。

「隠れ蓑笠(みのかさ)手放さなきゃ良かった」

 討伐隊に加わってからはギルドへ預けている。
 邪魔だし、ダサいし、ステータスを知られることへの恥じらいとは決別するためだったし……
とはいえ、失敗した。

11ヶ月前 No.22

かえる @rueka ★auX3ZOaYYj_BwN

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11ヶ月前 No.23
切替: メイン記事(23) サブ記事 (14) ページ: 1

 
 
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