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仮装世界行き転送装置

 ( 初心者のための小説投稿城 )
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@siromi ★M4WUxX33bd_yO9

俺はいつものように眼を覚まし、いつものように朝食を取り、いつものように身支度を済ませる。不変なこの日常に目を伏せながら欠伸を零して。窓の外でちゅんちゅんと喚くすずめや、枕元でじりじりと甲高い音を立たせる目覚し時計に「早く起きろ」と怒鳴られながら朝を迎える。今度は拳一つ分の欠伸を喉から零すと微かに視界が潤み、片手はTシャツの中で背を乱雑に掻いた。いつも通りの朝、いつも通りのオレンジ味の歯磨き粉、いつも通りの無精ひげを生やした寝癖の酷い俺、歯磨木太郎5歳、なんつってな…。清潔な歯と剃り残しのない顎をまんべんなく確認すればすぐに朝食を取るとしよう。香ばしいパンの微かに焦げた匂いと、甘ったるく、カーテン越しの光に反射して煌めく真っ赤なイチゴジャム。これぞ最高のコンビネーション。見た目、匂い、そして味を喉を唸らせながら堪能する俺は、いつも通りのチャンネルで、いつも通りのニュースバラエティを見る。最近はソレに出てくる女性キャスターが目当てとなっていた。
パンくずを零しながら頬張る最中、1つの話題が流れた。デビューしたてのアイドルが担当したやつか。この子嫌いじゃないけどあんま好きでもねぇんだよなぁ…。そんな愚痴まみれの思想を

「ソレ」はいとも簡単に覆したのだ。



《今最も話題になっている「ドリームワールド」の開発者、御手洗東吾(みたらい とうご)さんにお話を聞きたいと思いまーっす!ずばり!「ドリームワールド」ってぇ、どんな装置なんでしょう?!》

《はい、仮想世界行き転送装置。通称「ドリームワールド」は、老若男女関係なく、強いて言えば夢を持ち続ける人達に向けて作成しました。転送装置と言っても、あくまでそれは眠っている間の、我々の意識が「ドリームワールド」に転送されます。このドリームワールドはVRのような形状をしていますが、VRのもっとずっと先の段階のものと言っても良いでしょう。この「ドリームワールド」は頭部に装着し耳と目を覆います。そして脳波を読み取り、意識だけを転送するのですが、味覚、嗅覚等の五感で世界を感じたり、想像通りの言動を取る事が可能なんです。そして貴方の望むままの世界を作り上げる事が出来ます。1から世界を作って行きたいと言う人も居れば、一気にドンっと自分だけの世界を作りたい人、なりたい自分になりたい人、あの作品の中の登場人物になりたい人等、好みは人に寄りますがね》

《すごーい!》

《なんなら、今此処でお試しになりますか?》

《え?!良いんですか?!にゃはー!ではお言葉に甘えて…!》

見知った顔、見知った声。そして何より、既視感のある装置と聞き覚えのある説明内容に目を見開かせた。久々に見た彼の顔色は病的に白く、やつれているようにも見える。その道の職に就いたとは聞いていた、しかしまさかテレビに…否、問題はそこではない。俺はテレビ画面を呆然と見るうちに咀嚼を止めていた。一見VRに見える装置をアイドルに差し出すアイツの髪は、最後に見た頃は健康的に黒々としていたのに今では色素は抜けきって、生命力をあまり感じられなかった。

《じゃあ、今行きたい世界、見たい景色などを想像してみてください》

《はーい!…………》

椅子に座り、装置を取り付けられたアイドル。装置が起動した途端、期待に跳ねていた肩はすとんっと落っこち、頭はだらしなく傾けられた。ぐだりと力の抜けたその姿はまるで肉体から魂がすっと抜けてしまったようで。俺の顔は自然と歪んだ。

【にゃわ?!すごーい!武道館だー!!ペンライトがいっぱぁーい!】

《では、今〇〇さんがいったい何を見ているか。此方のモニターで確認してみましょう。…これは、ライブ会場のようですね。では此方の通信機を通して現場の〇〇さんに感想をお伺いしましょう。現場の〇〇さーん?》

【んむ?あっ!はーい!こちらは武道館会場でーっす!今私たちの目の前には、いっぱいのファンが応援してくれていまーっす!ねーっ?みんなー!】

《因みにですがこの「ドリームワールド」は、ネットを通じて「ドリームワールド」内やテレビ、パソコン、スマホから他者の架空世界を見たり入室する事も出来るんです。見られる側は自身が今どんな世界で何をしているか、動画や画像としてアップする事も可能とされています。皆さんも充実したドリームライフを送ってはみませんか?現場からは以上です》

彼女の問いに応じアイドルの名を叫ぶ架空の観客たち、此方から見れば一周回って宗教的なそれにも見えてくる。マイクを代わりに持った御手洗は、清々しい営業スマイルを浮かべて最後を仕切った。声の強弱や表情の細かな変化から、まだあのアイドルより御手洗がキャスターだったらと思ってしまう程にアイツはカメラ慣れしていた。御手洗が画面から姿を消すと同時に、俺の視線は現実へと帰り時計へと逸らされる。時刻はいつもの出勤時間の6分後がお知らせされており、急いでパンを口いっぱいに入れ、牛乳で奥へと流し込む。

そして俺は、誰も居ないその場所に「行って来ます」と言い放ち、自宅を出る。やはり返事は来ない





因みにこれは、その日から1年以上後のお話だ

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