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雨知葉家の複雑な事務所探偵団

 ( 初心者のための小説投稿城 )
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あすわど @ashufia336☆mykg9AZKZ6kq ★Android=sGhw2c90Mc

3月も終わりに近づいたある日の夜のこと…

「お父さん、お母さん。私、家出ていくことにしました」

浅黄色の長い髪をした女の子、氷雨は両親に告げる。

「そうか…いつか来るとは思っていたがまさか今日とはな…」

父はフーッとタバコをふかして氷雨を一瞥する。

「氷雨といられるのも、今日が最後ね…」

母は悲しそうな顔をしながら氷雨を見ていた。

「夜は不審者が多い。…気を付けてな…、たまには連絡よこせよな」

父の言葉を聞いた氷雨はコクりと頷き

「わかった、それじゃ…」

氷雨は両親に別れを告げ、実家をあとにした。

「姉さん…、必ず貴女の元に行きます。絶対に…、必ず…」

氷雨は小さな声で言う。

そして静まり返った道を荷物を持ちながら歩いていくのだった…。

1年前 No.0
メモ2015/07/30 21:20 : あすわど☆mykg9AZKZ6kq @ashufia336★Android-sGhw2c90Mc

登場人物等

http://sns.mb2.jp/ashufia336/d-27

恋と地獄の学園生活の続編みたいな感じです。


のほほんと更新していきますのでよろしくお願いしますー。


※キャラごとのストーリーを取り消しにしました※

ページ: 1

 
 

あすわど @ashufia336☆mykg9AZKZ6kq ★Android=sGhw2c90Mc

【1章】 ー再会と出逢いー

暗い夜道をただ歩いている氷雨は途中にある公園で一休みをしようと考えた。

公園に向かい、ベンチに腰を掛けて空を見上げる。

「姉さん…早く会いたいです…」

氷雨は悲しげな声を出してため息をつく。

ーーー今から5年前のこと、氷雨は美知子というもっとも大好きな姉がいた。その姉が高校を卒業したあと、両親の反対を押し切って家を出ていったのだ。

そのとき氷雨にいった言葉は…【氷雨が高校を卒業したら必ず迎えにいくから待っててね?】という言葉だった。

氷雨はぼんやりと空を見上げながら美知子のあの言葉を思い出す。

「必ず迎えにいく…か…」

氷雨は小さな言葉で繰り返していた。

そのときだった。

「ひ…氷雨ちゃん!」

声のする方向を見るとそこには1人の男が立っていた。

「…何?」

氷雨は警戒体制に入り、男を睨む。

「ぼ、ぼぼぼ、僕と、つ、つき…付き合ってくだひゃい!」

突然の告白に氷雨は驚くが、表情を一切変えることなく

「何度も言うようだけど、あんたとは付き合わない。まずあんたのこと嫌いだし」

氷雨は冷たい言葉を男に放つ。

「……」

流石の男も傷付いた。

…だが、男は懐からナイフを取り出して氷雨に向ける。

「ならば、今すぐ君を殺して僕も死ぬ!」

そういった直後、男は氷雨に向かって走り出す。

「…!?」

氷雨は男の唐突な行動に足が動かなかった。

(こんなところで、終わっちゃうのかな…。 姉さん…会いたかった…)

氷雨は涙を流して目を瞑った…

……………。

…?

(おかしいな…刺されてない…?何でだろ…たったいま死を覚悟したのに…)

氷雨はゆっくり目を開けるとそこには脛まである黒いコートに身を包んだ女性が立っていた。

笠を被っているため、顔が見えなかったが長い髪に少々香水の匂いがしたので氷雨は直感で女性であると確定した。

「か弱い女に向かって刃物を向け、更には殺して自分も死ぬ? 馬鹿馬鹿しいこと言うじゃねえか、お前」

重く冷たい言葉は男の殺意さえも凍りつかせた。

「そんなに死にてえなら今すぐこの場でこの私が逝かせてやるぞ?」

女性はそういうと男はナイフを落とし、一目散に逃げていった。

「大丈夫か?怪我は?」

女性は氷雨に安否の確認をとる。氷雨は大丈夫だと応えた。

「ならよかった。…それじゃ、気を付けてな」

女性はその場を去ろうとした。が、

「待ってください!」

氷雨は女性を呼び止めた。

「お礼に、近くの喫茶店で何か温かいもの奢ります…いえ、奢らせてください」

氷雨は女性にそういうと

「…なら、お言葉に甘えようかな?」

と返ってきた。

氷雨は女性と喫茶店に向かって歩き出した。

ーーーだが氷雨は知るよしもない。この女性が氷雨の運命を大きく変えることになることをーーー

1年前 No.1

あすわど @ashufia336☆mykg9AZKZ6kq ★Android=sGhw2c90Mc

近くの喫茶店に入った二人はコーヒーを注文して向かい合うように椅子に腰を掛ける。

「先程は危ないところを助けてくださり、ありがとうございます」

氷雨は深々と頭を下げながら言う。

「いいよ、もうそんなこと忘れろって。で、何でこの夜中に荷物なんか持って歩いてたんだ?どっかお出掛けか?」

女性は氷雨に問いかける。

「はい、実は私、王立学院へ進学することになったのでそれに先駆けてアパートを借りようとしていたのです」

王立学院…それは平均偏差値75以上、全国内の高校で受験する生徒が200人中僅か5人しか受からないともされる超有名なエリート大学である。また、受験をする条件も無遅刻無欠席且つ成績も常に学年1位を取るほどでないと受けられないとも…

王立学院への進学を聞いた女性は顔は見えないが非常に驚いた顔をしていた。

「そうか…あの王立学院に進学するのか…」

女性は何も言葉にできないほど驚いていた。

「はい、ある方との約束なのです。私はその方にこの報告をしたいのです」

女性はふふっと笑い、おめでとうっと言ってくれた。

氷雨は早く姉に会いたくて仕方がなく、

「ではそろそろ行きましょうか、あまり長居していたら遅くなってしまいますし…」

そういうと女性も立ち上がって氷雨と一緒に喫茶店をあとにした。

店を出たと同時に女性は、

「ここの喫茶店のコーヒー、5年前と変わってないな、実に美味しいとこだよここは」

と口にした。

「5年前って…ここにいらしたのですか?」

氷雨は女性に問いかける。

「まあな、つっても…18歳のときにここを出てるからな。私も迎えに行く人がいるからさ」

女性はふふっと笑い、氷雨の顔をみる、そして…

「氷雨、王立学院への進学おめでとう。よくやったな」

と氷雨の頭を優しく撫でながら言った。

氷雨はこの頭を優しく撫でられる感覚が姉に似ているのに気が付く。

「…どうして私の名前を知っているのですか?初対面で、まだ名前は教えてないはずですけど…」

氷雨は女性にそう言うと女性は被っていた笠を外した。

そこには凛としたきれいな顔立ち、長い髪に両耳にピアス…そして見覚えのあるヘアピン。

「これで分かるか?氷雨」

優しく微笑む女性のその顔は、5年前の最後に見た姉の微笑む顔と同じだった。

「姉…さん…?」

氷雨は涙が止まらなかった。自分の目の前に会いたくて会いたくて仕方なかった大好きな姉がそこにいるにだから。

「そうだよ、美知子だよ。ほら、おいで?」

両手を優しく広げて氷雨を迎え入れる準備をした。

氷雨は何も躊躇うことなく美知子に抱き付いた。

「姉さん…会いたかった…!」

氷雨は涙を流して自分がどれだけ会いたかったか、美知子に抱き締められながらいい続ける。

「もう大丈夫、これからはずーっと一緒だからな」

美知子は氷雨の頭を優しく撫でながら微笑む。

「さあ、行こうか。遅くなるといけないからな」

美知子は氷雨の手を引いて歩き出す。

しばらくしたところに1台の車がおいてあった。

「乗りな、私の家に行くよ」

美知子は運転席に座り、氷雨は助手席に座った。

そして車を走らせて美知子の家へと向かっていった…

1年前 No.2

あすわど @ashufia336☆mykg9AZKZ6kq ★Android=sGhw2c90Mc

「しっかしほんとに王立学院にいっちゃうとはなあ…凄い驚いたよ」

美知子は運転しながら氷雨に言う。

「姉さんとの約束ですし、それに、私の中にどうしてもそこじゃないとダメっていう思いがありましたから」

氷雨は前を見ながらそう言った。

「そっか、でも嬉しいよ。私も行きたかったけど理由が理由で行けなかったからな…」

氷雨は思い出した。美知子はその時、妊娠していたのだ。

だから高校も中退してバイトで頑張っていたのだということを。

「旦那さんは、いらっしゃいますか?」

聞いていいのか分からなかったが聞いてみた。

「ああ、勿論いるよ。いないと面倒とか大変だからな」

美知子は微笑みながら言った。

ヴ〜、ヴ〜と誰かの携帯が鳴る。

「雫か…」

美知子ははぁ…とため息をついて携帯を耳に当てる。

「雫か。もう寝ろと言ったはずだぞ。何で起きてるんだ。雅はもう寝てるだろ」

氷雨の頭の中では姉さんの娘だと言う認識しかなかった。

『だってえ〜、お母さん遅いんだもん!心配するじゃん!』

「毎朝毎朝お前を起こす私の身になったらどうだ。お前は寝るとなかなか起きないから困るんだよ」

『だってだって!朝は眠いじゃん!』

「はいはい、分かったからもう寝ろ。朝早いんだから。んじゃ」

といって美知子は電話を切った。

「ったく…高校生なのに親に起こしてもらうってどういう神経してんだか…」

氷雨は耳を疑った。高校生なのに…?

「姉さん、さっきの電話の相手って娘さんですよね?高校生って…」

氷雨は凄く疑問だった。

「ん?娘なのは確かだが、どっちかっていうと養子としてって感じだな〜…」

養子として…?あれ、娘は?

「姉さん、娘さんは…?」

妊娠していたのは確実なので娘はいるはず。氷雨は美知子に聞く。

「娘はいるぞ。今は…小学校1年生だな。愛娘だよ」

氷雨はほっと一息ついた。

「さて、家に着いたぞ」

車を出るとそこには大きな敷地…屋敷と疑うほど立派な家…

車もそこに10台も止まっていた。

「凄い…」

氷雨は思わず声が出た。この圧倒的な家に敷地に車の数…、想像とは全くかけ離れたものであった。

「さ、中に入りな。お茶ぐらい出してやるよ?」

氷雨はこくっと頷いて美知子のあとに続くように家へと入っていった…

1年前 No.3

あすわど @ashufia336☆mykg9AZKZ6kq ★Android=sGhw2c90Mc

家の中へ入るとドタドタと走ってくる音が聞こえてきた。

「お母さん!お帰りーーー!!」

と言うと同時に美知子に飛び付く。美知子は彼女を受け止めて頭を撫でる。

「寝ろと言ったはずだろ雫。何で起きてるんだ」

きつい目で雫を見やる美知子に雫は

「だってー、お母さん遅いんだもん!心配するじゃん!」

と大きな声で答える。

まったく…と言わんばかりの顔をしている美知子の横から氷雨を見た雫は美知子に対して

「あの人誰?」

と美知子の顔を見ながら聞く。

「ああ、私の妹だよ。ほら、自己紹介しな」

美知子に促されて氷雨は

「初めまして、氷雨です。宜しくお願いします」

と挨拶をする。

「あたしは雫、よろしく」

と素っ気ない返事をする。

「言っとくが、お前より歳上だし王立学院に通うエリートだぞ」

と美知子は付け加える。すると雫は血相を変えて

「ま、マジすか!いや、なんか無礼なことしてしまったような…!」

と慌てふためていた。

「良いよ、大丈夫」

と氷雨はクスッと笑いながら言う。

「ま、ともかくリビング行くぞ。立つの疲れるだろうから」

美知子に促されて雫と氷雨はリビングに行く。

リビングに入るとノートパソコンを弄ってる女の子がいた。

「ん?お客さん?」

眼鏡をくいっとあげて氷雨を見る。氷雨は自己紹介しようとすると

「ああ、貴方が母さんの言ってた妹の氷雨さんですか。初めまして、私は雅です。以後お見知りおきを」

と自己紹介までしてくれた。

「雅は素っ気ない態度とるけど、ああ見えて氷雨さんに会うの楽しみにしてたんだよ!」

雫はニコニコ笑いながら言った。

「雫、余計な口出しは無用」

雅は雫を睨み付けながら言う。

「お茶淹れてきたぞ…なんだ、雅も起きていたか」

美知子は意外そうな顔をしながらリビングに入ってきた。

「さて、氷雨。お前とこれから此処で生活していく事になるが、それにさしあたって説明しておこうと思う」

いつになく真剣な顔をして氷雨を見る。

ふーっと息をついて口を開いた……

1年前 No.4

あすわど @ashufia336☆mykg9AZKZ6kq ★Android=sGhw2c90Mc

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1年前 No.5

あすわど @ashufia336☆mykg9AZKZ6kq ★Android=sGhw2c90Mc

【傷だらけの少女と童顔男子と】

お仕置き(という名の性的虐待)が済んで寝てしまった父親を千春は殺意のこもった目で睨んでいた。

(いつの日か必ず殺してやる…)

千春は下着と服を手に持って部屋を出る。

「…いたっ」

出てから数秒後に股間部位に痛みが走る。トイレに入って確認をすると僅かながら出血していた。

「最悪…どんだけ下手な挿入したのよ…」

千春はハァ…と溜め息をつく。

千春がまだ中学1年生の時に両親が離婚、親権は母親が勝ち取り、今の父親と再婚。
性的虐待は中学2年生になったと同時に始まった。
抵抗しても抵抗しても力の差は歴然、勝てるはずがなく、今回も無理やりやられたのだった。

「パパ…何処にいるの?助けて…」

思わず泣き言が出てくる。元父親である男性に会いたくて会いたくて涙が出てしまう。

トイレから出て自室に入るとそこには妹の秋奈がいた。

「姉ちゃん、大丈夫?」

とても心配で仕方なかったと言わんばかりに泣きそうな顔をしていた。

「大丈夫、心配しないで」

そういう千春の目は輝きがなかった。例えるなら機械のようなそんな目をしていた。

「もう寝よっか、明日から早いよ」

千春はそういうと布団に入り、目を閉じる。秋奈も布団に入る。

千春にとって長い夜は終わりに近づいていた。二人はぐっすりと眠っていた。

ーーーー次の日の朝ーーーー

千春は制服に着替えるために服を脱ぐ。 大量の傷と痣が全体に広がっており、見た者が恐怖で逃げ出しそうなほど傷と痣がそこにはあった。

「昨日の分もいれて痣は18ヶ所…傷は36ヶ所か…」

千春はハァ…と溜め息をつく。 傷が新たに増えてしまったことに関する溜め息であった。

「あ、姉ちゃんもう起きたんだ…、また傷が増えてる…」

秋奈も溜め息をついてしまう。

「早く元のパパに会いたいな〜…」

千春はそう呟く。 秋奈も同じことを思っていた。

そそくさと制服に着替えた二人は家を出る。

「外は良い天気だけど…あたしの心は曇り空だなあ〜」

千春は空を見上げながら言う。秋奈も同じこと思っているに違いない。

「あ、あれって…」

秋奈の指差す方向を見ると、王立学院のスーツを着た浅黄色の髪をした女性が歩いていた。

「あの王立学院の生徒…しかも今日って入学式だよね…?」

「凄い、何というか…覇気を感じるというか何て言うか…」

二人は唖然としていた。この地域に住み始めて王立学院のスーツを着た人物を目の当たりにしたからだ。

「……何か用?」

浅黄色の髪をした女性は視線に気付いたようで二人に話しかける。

「あ、いえ、その…この地域で初めて王立学院のスーツを着ている人を見たものですからつい…」

秋奈はかなり動揺していた。それは千春も同じであった。

「あ、そう。それじゃ」

その女性は二人の横を歩いていった。

「ああーーヤバイ!すっごいオーラ纏ってるよあの人!」

秋奈は興奮していた。それは無理もない。王立学院の生徒(になる)に話し掛けられたのだから。

「あたしも感じたよ〜、進学するなら王立学院に行きたいな〜」

千春と秋奈は歩きながら話していた。

ーーーーだがこの二人は気付いていない。まさかあの女性がこの後の人生を大きく変えることになることをーーーー

1年前 No.6

あすわど @ashufia336☆mykg9AZKZ6kq ★Android=sGhw2c90Mc

高校は二人とも同じ場所であったので行きと帰りはいつも一緒に帰っている。今回もまた一緒に帰る予定だ。

「じゃあ秋奈、またあとでね〜」

千春は上履きに履き替えて階段をダッシュで駆け抜ける。
体を動かすのが好きな千春は毎朝毎朝こういうことをして軽い運動のようにしていた。

3階まで上がり終えるあたりの踊り場で千春は一旦立ち止まる。

「よーし、今日は何秒で駆け抜けられるかな〜…」

ここの階段だけ段数がやや多く、2年生の生徒からすれば朝の地獄でもある。

だが千春は違った。 この階段をダッシュで駆け抜けて何秒掛かるかというお遊び要素にしていた。

「よーい…GO!」

自分で声をかけて一気に駆け上がる。

「今日は調子が良い!あとちょっとだ!」

千春の顔は明るくなっていく。

…だが、一気に駆け上がったためか、廊下から出てきた女子生徒に勢い余ってぶつかってしまった。

「あ、ご、ごめんなさい!大丈夫ですか?」

千春はぶつかってしまった女子生徒に声をかける。

「私は大丈夫。貴女は?そんな一気に駆け上がるようなことあった?」

女子生徒はズバッと千春に質問をする。

「あ、え、えーと…」

千春は答えに迷ったが女子生徒はフフっと鼻で笑いながら

「今日は調子が良いから自己ベスト出せるかもって思って駆け上がったんでしょう、宮本千春さん」

と千春に告げる。

一瞬で千春は固まってしまった。なぜ自分の名前を知っているのか。なぜ自分のこのお遊びを知っているのか。

「固まったってしょうがないと思う。あ、紹介遅れたね。私は雨知葉雅。よろしく」

雅は眼鏡をくいっと上げて手を差し伸べる。千春は戸惑ったが、ゆっくりと手を伸ばす。

「よ、よろしくね、雅さん」

千春は少し笑いながら冷や汗を垂らす。

「それじゃ、私はこれで」

雅はそういうとその場から去っていった。

「びっくりした〜…」

ほっと胸を撫で下ろしてふぅ〜…と長いため息を吹いた。

1年前 No.7

あすわど @ashufia336☆mykg9AZKZ6kq ★Android=sGhw2c90Mc

その後は普通に校長先生の長い話を聞いてHRを済ませて下校時間になった。

「千春〜!」

駆け寄ってきたのは千春の幼馴染みの美佳子であった。

「美佳子ー!」

千春も乗り気で両手を広げる。

「どうしたのー美佳子〜」

千春は笑顔のまま美佳子に聞く。

「ほら、あそこの男子が千春に用があるって言ってたから呼びに来たのよ〜」

美佳子の指を指す方向には女の子のような見た目である男子生徒が立っていた。

「ああ〜、あたしらの学年で有名な子でしょ〜。女の子っぽいってことですごい有名だしね」

千春は何かを思い出したかのように言う。

「じゃあ行ってこようかな〜」

千春は席から立ち上がり、男子生徒の元へ歩いていく。

「えっと、あたしに何の用かな?」

千春は顔を覗き込むようにして男子生徒の顔を見る。

「あ!あと、えと…」

男子生徒はキョドってしまい、用件を言い出すことができない。

「うーん、裏庭に行こっか」

千春は男子生徒の手を引いて裏庭まで歩いていく。

しばらくして裏庭に着いた二人はもう一度向かい合う。

「で、あたしに何の用かな?」

千春は微笑みながら男子生徒に聞く。

「あの、宮本さんっ。僕と…僕とつ…つつつ…」

完全にテンパってしまっていて用件が言い出せない。

千春はハアッとため息をついて

「1回深呼吸しなよ、落ち着くと思うよ?」

優しく微笑みながら男子生徒に言う。

「あ、う、うん。」

男子生徒は大きく息を吸って思いっきり吐く。

「よし…宮本さん!」

男子生徒の真剣な眼差しを見て千春は息を飲む。

「ぼ、僕と…つ、付き合ってください…!」

深く頭を下げる男子生徒。

「うん、いいよ」

あっさりと許可する千春。

男子生徒はあっさりとしすぎたのか、固まってしまった。

「だけど名前知らないし、連絡先も分かんないから教えて?」

千春はニコニコしながら男子生徒に言う。

「ぼ、僕は栗山進一、あと、これが僕の連絡先…」

と恐る恐る紙を渡す。

「ありがとう、あたしは宮本千春、これからよろしく!」

と言ったあとで栗山に抱きつく。

「わ、わわ!宮本さん、いきなりすぎるよ〜…」

困った表情をする栗山だがその顔は嬉しさに満ち溢れようともしていた。

「じゃあ、今日はこれで帰るから、またね、進一!」

千春はその場から駆け足で去っていった。

「宮本千春か…何て素敵な女性なのだろう…」

栗山はぽーっとしていた。

ーーーーだが栗山は知らない。彼女の本当の姿をーーーー

1年前 No.8

あすわど @ashufia336☆mykg9AZKZ6kq ★Android=sGhw2c90Mc

こうして栗山と千春はカップルになった。

「進一って可愛い顔してて女の子みたい」

千春はクスクス笑いながら栗山に言う。

「ちょっ、変なこと言わないでよ…」

栗山は少し顔を赤くしてモジモジしていた。

「おっと、私はこの辺でドロンします!ではまた明日〜!」

駆け足で去っていく千春を栗山は見守るように見ていた。

ーーー自宅に戻った千春はさっきまでの笑顔は無くなり、無表情になっていた。

(さーて、ぼちぼち更新しますか)

自室にあるパソコンを起動し、千春が更新しているネット小説を開く。

【傷だらけの少女】という題名はまさに自分自身を指すかのようであった。

「ん?何かメールきてる…」

メールボックスを開くと閲覧者ではない誰かからのメールであった。

「いつも見てくれてる人たちじゃない…誰だろう…?」

メールを開くと【貴女の小説は大変興味深いものです。1度会って話をしてみたいです。連絡はこのメールにお願いします】と書いてあった。

「見ず知らずの人にこういう風に誘われるとかありえないっつーの」

そう口を開くが、少し迷っていた。

「でもまあ、少しだけならいいよね…」

千春はメール送信者にメールを送った。

ーーーーーーーーピロン

「ん?メールかな」

浅黄色をした女性はメールを開くと【少しだけなら大丈夫ですので、日時と集合場所をお願いします】と書いてあった。

「きたきた…」

女性は表情を変えずに返信する。

「楽しみね…どういう子が書いてるのか…」

ふふっと笑いながらパソコンを閉じた。

ーーーー明くる日の朝10時ーーーー

「えーっと確かこの辺にいるってメール見たんだけど…」

千春は辺りをキョロキョロ見回す。

いるとすればベンチで本を読んでいる女性がいるくらいで後は親子連れが数人といったところだ。

「やっぱり嘘か…帰ろ…」

公園の出口に向かおうとしたそのとき、携帯が鳴った。

名前がなく、誰だかわからない。

「…もしもし」

念のため電話に出てみる。

「貴女って傷だらけの少女っていうネット小説を書いてる人だよね?」

「え…はい、そうですけど…」

「よかった〜来てくれたんだ〜。ベンチで本を読んでいるのがそうだからね〜」

それだけいうとプッと電話を切った。

(えっと、あの人か)

浅黄色をした長い髪の女性のもとに歩みより、

「すみません、このメールを送った方ですか?」

とメール画面を見せる。

するとにっこり笑って

「そうよ、私が送ったの」

とニコニコしながら答えた。

「まあ、座って?疲れたでしょ?」

女性の横に腰を下ろしてふうっと息をつく。

「はじめまして、雨知葉氷雨と言います。王立学院に通う生徒です」

頭を軽く下げる。

「え…えええええ!!お、おおおおお、王立学院!!?」

千春ははっと思い出した。始業式の時に見かけた王立学院の生徒、浅黄色をした髪で、髪は長くて、綺麗な顔立ちで…

「あー、えと、始業式の日に見かけましたよね…?」

千春は冷や汗を垂らす。

「あら、覚えててくれたんだ。そうよ、あのときのスーツを着てたのは私よ」

「ひょえぇ… あ、私は宮本千春っていいます」

深々と頭を下げる。

「まあ遠慮はしないで良いからね?それで、聞きたいことあるんだけどさ」

「はい、どうぞ」

王立学院の生徒を目の前に固まってしまう千春に氷雨は

「あの小説のモデルって貴女でしょ」

と言ったのだ。

「ひょえ?!え、えと、それは…」

完全にモゴモゴしていた。

「ごめん、唐突すぎた」

氷雨は困り顔をしていた。

「す、すみません…でも、何でわかったんですか?」

千春はそこが不思議で仕方なかった。

「やっぱりね〜…。どうしてわかったかって聞きたいの?」

氷雨は真剣な顔をしていた。

「聞かせてください」

千春は唾を飲んだ。

「貴女の体、傷と痣が凄い量だし、何よりも自宅にいるときの顔は無表情そのもの。そしてその傷と痣をつけたのは父親、しかも再婚相手の。違う?」

氷雨は真剣な顔をしていた。眉一つすら動いていなかった。

「…ドンピシャです……」

千春はなにも言えなかった。ここまで的確に当ててくれる人物は誰もいなかったからだ。

「そんなあなたに救いの手を差しのべようと思ってね」

氷雨はバッグの中から名刺のようなものを取り出して千春に渡す。

「それは私たち、雨知葉一家が営んでる事務所の名刺。そこにある番号にかけて用件さえ言えば良いの。大概のなら何でも受け付けるから利用してね?」

千春は唾を飲んだ。何でも受け付ける…その言葉に揺れ動かされた。

「じゃあ私はそろそろ行くね。いい返事、待ってるよ」

氷雨はその場から歩いて行ってしまった。

ベンチでただ一人、名刺を見つめている千春。

「何でも受け付ける……」

千春はそれをバッグにしまい、家へと向かっていった。

ーーーー千春は誰もが予想だに出来ない事を依頼を頼もうとしていたーーーー

1年前 No.9

あすわど @ashufia336☆mykg9AZKZ6kq ★Android=sGhw2c90Mc

名刺をずっと眺めている千春。 大概の依頼なら何でも受け付けると言われたので内心とても困惑していた。

「何でも受け付ける…。どんなものでも…」

千春は携帯を取り出そうとするが手を止めて考えるのは

(今依頼しても仕方ないかもしれない。なら持ってるだけで本当に依頼したいときに使えばいいじゃない)

千春はゆっくり立ち上がり、自宅へ戻っていった。

ーーーーその頃ーーーー

「名刺は渡したのは良いけど、しばらく考える時間があるだろう…。暇だな〜…」

自室の椅子にもたれ掛かりながら氷雨は呟く。

「あの子、千春って言ったっけ。可愛くて素直な子なのに…可愛そうだな…」

更に口が進む。

「傷と痣が凄い量だし…目は死んでたし…相当堪えてるんだろうな〜…。早く何とかしたいな〜…」

もはや独り言になっていた。

「ま、連絡来るまでしばし待機しておくかな。さて勉強勉強」

ペンを手に取り、ノートを開く。

静かな時間が刻々と流れていった。

ーーーー千春の家ーーーー

「何でも受け付けるって本当なの?」

秋奈は興味津々に聞いてくる。

「そうみたい。あの人が言ってたんだから多分本当だと思う」

名刺を二人で見ながら話す。

「もし本当だとすれば…私は両親を殺してもらう」

千春は殺意のこもった口調で言う。

「姉ちゃん…」

秋奈は不安を隠しきれない顔をしていた。

「大丈夫…秋奈は私が守ってあげるから」

千春の目は笑っていなかった。寧ろ今すぐにでも殺したいという感情が伝わってくるような気がした。

ーーーそれからというもの、段々と酷くなる父親の性的虐待。千春はもうそろそろ耐えきれなくなっていた。

「千春…大丈夫?なんかこう…元気がないよ…」

流石の栗山も心配になっていた。以前の元気が嘘のようになかったからだ。

「大丈夫だよ進一。私は大丈夫」

千春は無理やり笑っていた。

「何か…僕に隠してない?」

栗山の唐突な発言に千春は驚いた。

「何も隠してないよ…何も…」

千春の目には涙が浮かんでいた。

「その目は嘘ついてる。正直に話して。誰にも言わないから」

栗山の目は真剣だった。

千春はありのままのことを全て話した。性的虐待、身体中の傷や痣、救いの手が何もない事を全て。

「酷い…何で警察に行かないの…?」

栗山は震えていた。哀しみではなく怒りに。

「何度も行った。全部話した。でも相手にすらしてくれなかった」

千春は俯いたまま言う。

「だけどね、救いの手が来たんだよ。やっと…」

千春は名刺のようなものを栗山に見せる。

「雨知葉事務所?……何か聞いたことある」

栗山は名刺を手にとって眺める。

「今度そこに電話するつもり。今度っていうか…今日中に」

千春は名刺を見ながら言う。

「救いの手が来たならそれでいいと思うよ。僕も心配になっちゃうから」

栗山は優しく微笑んだ。

「じゃあ、また月曜日に…」

そういって二人は自宅へと戻っていった。

千春は携帯を取り出して名刺にある番号にかける。

「お電話ありがとうございます、雨知葉事務所です」

千春はふぅーっと息を吐いて心を落ち着かせえる。

「あの、宮本千春と申しますけども…1つ依頼したいことがありましてお電話させてもらいました」

「はいー、どのような依頼で御座いましょうか?」

千春は唾を飲んだ。

そして…

「私の両親を殺害してほしいという依頼です」

千春の目は殺意剥き出しになっていたーーーーー

1年前 No.10

あすわど @ashufia336☆mykg9AZKZ6kq ★Android=sGhw2c90Mc

両親の殺害…普通に考えればまずあり得ない話であろう。だが、千春は違った。

これまで受けてきた暴行が千春に殺意を抱かせたのだ。

「宮本千春さんの御両親の殺害…ですか?」

「はい、そうです」

千春はもう迷わなかった。ここで終止符を打ちたかったから。

「分かりました〜…すみませんがこのまま少々お待ちください」

そう言うとよく流れる曲が流れてきた。恐らく担当者に変わるのだろう。

「もしもし、お待たせしました」

声の雰囲気が変わった。担当者に変わったのだろうか、千春はそう思った。

「えーと、宮本千春さんの御両親の殺害でしたか。今って御時間空いてます?」

「今ですか?大丈夫ですけど…」

千春は少し困惑していた。

「御両親の殺害を依頼したいと思った経緯を直接会ってお話できないかと思っておりまして、そちらは大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫です」

「かしこまりました。ではすみませんが駅の方まで来ていただいてもらえませんか?担当者2名がこれから向かいますのでお願いします」

「分かりました。では駅に向かいます」

「はい、すみませんがよろしくお願いします。失礼します」

そういって電話は終了した。

そして千春は待ち合わせをしている駅に向かった。

大勢の人たちで溢れかえっている中で見つけろなんて無理な話だ。千春はそう思いながら歩いていた。

すると肩をトントンと叩かれる。

「貴女が宮本千春さんですかね?」

「はい、そうですけど…」

千春は不審者ではないかと少し疑った。

「はじめまして、雨知葉事務所社長の雨知葉美知子です。此方が今回私の協力者の雅です」


社長自らこの依頼を引き受けたのだろう。それにしても何とも言えないほどの美女で千春は目を疑ってしまう。

「あ、千春ちゃんじゃん」

雅はそう言った瞬間に千春は我に返った。

「雅ちゃん?!」

千春は驚きを隠せなかった。

「何だ、二人は知り合いか。なら話は早い。では宮本千春さん、此方へ」

美知子に促されて後ろを付いて歩く千春。はたから見れば千春が不審者に見えてしまいそうである。

「此処で話をしましょう」

立ち止まったのは喫茶店。3人は中へ入る。

「では初めに依頼の確認を行いましょう。今回宮本千春さんが依頼されたのは此方で宜しかったでしょうか?」

そう言いながら美知子は紙を千春に見せる。確かに口では言えない内容である。

「はい、問題ありません」

千春は真面目な顔をして答える。

「分かりました。それでは本題に入ります」

そう言うと美知子は鞄の中から資料のような紙を千春に手渡す。

「今渡した資料は我々雨知葉事務所の利用規約みたいなものです。帰ってからでもいいので目を通しておいて下さい」

するとまた資料のような紙を千春に手渡す。

「それでこの紙は同意書になります。先ほど渡しました利用規約みたいな資料を読んでからサインをお願いします。これも帰ってからでも構いません」

千春は真剣な顔で頷く。

「あと資料には書いてないので直接口頭で言わせてもらいます。我々は依頼者からの依頼を遂行し、内容に応じた報酬を貰っております。ですので貴女様の依頼を無事に遂行できましたら我々に報酬を出していただくことになります。尚、報酬の内容は我々が指示しますのでこれに従ってください。何かここまでで質問などは御座いますか?」

「大丈夫です」

千春は両親さえいなくなればもうどうなってもいい、そういう考えであった。

「はい、では次に進みます。貴女様が依頼しました此方の内容ですが、これはどういった経緯で依頼されましたか?具体的にお話してもらえますか?」

千春は拳を握りながら口を開く。

「私が中学校2年生の頃、再婚した男性の方が私に対して性的虐待をしたんです。それからというもの、段々とエスカレートしていって私の身体に傷と痣がたくさんつけられてしまい、母親の方は止めてはくれますけど…その…私が部屋から連れ出されたあとは平然としていて…それで…」

千春は泣くのを堪えていた。思い出すだけで怒りと殺意が入り雑じり、もう会いたくもない等と思わせてしまう。

「それは、本当の話でしょうか?」

美知子は真剣な顔で千春に聞く。

「はい、偽りは一切ありません…」

涙がポロポロ落ちていく千春を見て美知子は哀しい表情になっていた。

「そうでしたか、それでこのような依頼をされたのですね…。分かりました。辛い過去を話させてしまい、申し訳ありません」

美知子は頭を下げる。

「良いんです、依頼を遂行できましたらもう大丈夫ですので…」

「左様ですか…分かりました。では貴女様に1つお願いしたいことがあります」

美知子は真剣な顔に戻す。

「依頼実行日時を決めていただけませんか?これに関しては我々で決めるわけにはいきませんので」

美知子はペンを手に持って書く用意をしていた。

「実行日時は…明後日の午後8時でお願いします…」

明後日は金曜日、都合が良いと思った千春はその時間に指定する。

「かしこまりました。それではこれにて話を終わりにします。質問などはありますか?」

「大丈夫です」

「はい、では終わりにしましょう。家の前までお送りしますので外で待っててもらえますか?」

「分かりました」

千春は席をたち、外へ出る。時間は7時丁度であった。

「お待たせしました。では此方に乗ってください」

そういうと美知子の指が示す所にハイエースが止まっていた。

「ハイエース…」

千春はかなり不安で仕方なかった。

「ではすみませんが案内をしてもらえますか?」

美知子はゆっくりと車を走らせる。

千春は自宅までの道を美知子に教えながら少し足が震えていた。

「あ、この家です」

千春がそういうと同時に車を止める。

「それでは明後日の午後8時に依頼を遂行させていただきます。途中での変更は致し兼ねますので御容赦下さいませ。では」

そう伝えたあと美知子は車を走らせていった。

(明後日の午後8時に両親がいなくなる。私からすればさいっこうに嬉しい)

千春はニヤリと笑う。

ーーーーそして迎えた金曜日。美知子達による依頼遂行が始まるーーーー

1年前 No.11

あすわど @ashufia336☆mykg9AZKZ6kq ★Android=sGhw2c90Mc

【新たなる生活】

金曜日の午後8時、これが千春の両親の最期となる時間。千春はウキウキしているようなそんな目をしていた。

(遂に今日で終止符を打てると思うと笑いが止まらない。早く20時になってほしいなあ)

千春は胸の高鳴りを抑えるのに精一杯であった。

ーーーその頃、雨知葉事務所では…

「ほお〜…、なるほどね〜…」

美知子はパソコンの画面を見ながらメモを取る。

「よし、報酬の内容は決まった。あとは…そうだな…寝るか」

パソコンの電源を落として美知子はソファの上で横になった。少しして美知子は熟睡したのであった。

ーーー午後6時ーーー

(あと2時間…ドキドキするな〜…)

千春は食卓でご飯を食べていた。これが最後の晩餐と思うと少し寂しくもあった。

食事も終わり、部屋に戻る千春。

「秋奈、そろそろ荷物準備した方がいいよ」

秋奈に小声で伝える千春。当人は荷支度を終えていた。

「えーと、あれとこれと…あとこれも…」

秋奈は頭を悩ませながら荷物を用意していた。

すると千春の携帯に着信が入る。相手は雨知葉事務所だった。

千春は咄嗟に携帯を手に取る。

「もしもし、雨知葉事務所でございますが、宮本千春さんで御座いますか?」

「はいそうです」

「あ、良かったです〜…えー、もうすぐ遂行予定時刻になりますので荷支度を終わらせておいて下さいませ。あと…ん〜…終わりましたらまた改めてお電話しますので、その時お話しします」

「分かりました。ではお願いします、失礼します」

千春の心臓はバクバクしていた。この上ない程の緊張であった。

「あと5分…ヤバイ、緊張してきた…」

秋奈も同じく緊張していた。

ーーーー千春の自宅前、黒いコートを着た女性二人が立っていた。

「もうすぐ予定時刻になる。そろそろ侵入した方が良いかと」

「そうだな、では侵入開始をしよう」

そういうと二人は姿を消す能力を使い、インターホンを押す。

「はーい」

玄関を開ける母。だがそこには誰もいなかった。

「ったく、今時ピンポンダッシュはしないでしょうに…」

そう言いながら玄関のドアを閉めて鍵をかける。

「侵入成功。あとは対象者の排除です」

1人の女性は無線を使い、もう一人に伝える。

「残り30秒で執行を開始をする。準備をせよ」

「了解」

そういうと1人はロープを、もう1人は液体を取り出す。

「残り10秒。3秒で透明【ステルス】を解除する」

カウントダウンが始まった。

9…8…7…6…5…4…

「ステルス解除」

二人はそういうと姿を現す。

3…2…1…

「0。これより執行を開始をする。時間計測を怠るなよ」

そういうと同時に父親の首にロープを巻き付けて締め上げ始めた。

「ぐっ!げほっがはっ…」

手を首元まで持っていってロープをほどこうとするが、きつく絞められていて緩まない。

「がはっがはっ…」

悶えているが次第に抵抗力が無くなっていき、最後は力なく腕が垂れ下がった。

「1人執行完了。時間は4分36秒」

1人の女性はそう言う。

「さて、もう一人だ。別々の部屋で助かるが見つけるのが大変だな…」

するとドアが開き、母親は驚いた表情で見ていた。

「だ、誰なのあんたたち!警察、警察呼ばないと!」

駆け足で去っていく母親。だが先回りされたのか、そこに1人の女性が立っていた。

「甘いよ、考えが。悪いけど、此処で終わりにしますか」

そう言うと背後から歩いてきた女性にホールドされ、口を大きく開かせる。

そこに取り出した液体口の中に注ぐ。

母親は溢しながらも飲んでしまっていた。

「ボタボタ溢しやがって…まあこれで終わりか」

不適に笑う女性。母親は次第に苦しみ始めた。

「さっき呑ませたのはテトロドトキシンと呼ばれる毒薬を100倍以上凝縮させたものだ。あと数秒くらいで楽になるさ…」

女性は不適に笑いながらリビングへと向かっていった。

母親は立つ力も失った。

「千春、秋奈。ごめんね、本当に…」

最後まで言い切れず、横たわって二度と起きることはなかった。

ーーー依頼遂行が完了した二人、残された二人、これから対面することとなったのであったーーー

1年前 No.12

あすわど @ashufia336☆mykg9AZKZ6kq ★Android=sGhw2c90Mc

千春の携帯に着信が入る。千春は携帯を手にとって電話に出る。

「もしもし、雨知葉事務所です。依頼が無事に遂行出来ましたので申し訳ありませんが荷物などを持ってリビングまで来てください。大事な話があります」

「分かりました。すぐ向かいます」

そう言って電話を切る。

二人は荷物を持ってリビングへ向かう。リビングには黒いコートを着た女性二人が座って待っていた。

「来ましたか。では此方に座ってください」

言われた通りに千春と秋奈は座る。

二人の女性は笠を外す。

「どうも、雨知葉事務所社長、雨知葉美知子です」

「はじめまして、雨知葉事務所専務、雨知葉胡桃美です」

二人は軽く頭を下げる。

「あの、大事な話って…」

千春はそのことが気がかりで仕方なかった。

「ああ、報酬のことでな」

美知子はお茶を飲みながら言う。

「君たち二人は私の養子として来てもらおうと思ってな」

「な…えっ!?」

千春と秋奈は驚いていた。

「勝手ながら親戚などを調べさせてもらいました。どれも県外のため、今通っている学校に行けなくなってしまわれるのは宜しくないと判断させてもらいました」

胡桃美は眉を動かさずに言う。

「ですけど、さすがに迷惑なのでは…」

千春は困り果てた声を出す。

「何を言うと思ったら…。私が良いと言ったら良いんだよ。何も迷うことではないだろう」

美知子は腕を組ながら言う。

「分かりました。では、住ませてください」

千春は頭を下げる。

「そうこなくっちゃな。君はどうする?一緒に住むか?」

美知子は秋奈に聞く。

「はい、私も…お願いします」

見事にはフフっと笑う。

「よっしゃ決まったな。そんじゃ早速家へと向かおうか。荷物はそんだけか?」

美知子は立ち上がりながら言う。

「はい、これだけです」

千春も立ち上がりながら言う。

「よーし、準備も終わってたようだな。胡桃美、先に車に行っててくれ。私は後から行く」

「分かりました。ではお二人さん、行きましょ」

胡桃美に連れられて二人は車に向かう。

「どう思う?姉さんのこと」

胡桃美は歩きながら問いかける。

「どうって言われましても…まだ分からないです…」

千春は俯いて答える。

「ま、それが普通の答えね。でもこれから一緒に住むんだからこういうこと聞かれたときにちゃんと答えられるようにしときなよ?」

胡桃美は歩きながら言う。

「さて、と。これから一緒に住む以上は最低限のことしないとダメだからね?詳しくは姉さんから説明あるだろうから今は言わないけど」

胡桃美は二人を見ながら言う。

暫くして美知子が歩いてきた。

「お待たせ。じゃあ向かうぞ」

美知子は車に乗り、3人も車に乗る。

「全員揃ったか?…いやまだか」

美知子はエンジンをかける。

千春の家の向こう側から誰かが走ってくるのが見えた。

「理奈か。まったく、歩いて帰れば良いでしょうに…」

胡桃美は呆れた顔をしながら言う。

「ふい〜…ギリセーフ!」

理奈はハアハアと息を切らしながら車に乗る。

「これで全員か。じゃあ行くぞー」

美知子は車を走らせる。

「おや?見ない顔が二人。ねえねえ、この子達ってなにー?」

理奈は興味津々であった。

「私らの新しい家族だ。ほらお二人さん、自己紹介しな」

千春と秋奈は理奈に自己紹介をする。

「へえ〜…あたしは理奈!車の運転手とそこにいる人の妹!よろしくね!」

「宜しくお願いします」

二人は頭を下げる。

「もお、律儀だな〜…」

「まあどっかの誰かさんみたいに脳筋馬鹿系女子になんないようにしなさいね?」

「胡桃美姉ちゃん、それあたしのこと言ってんでしょ?!」

「当然でしょ?脳筋馬鹿」

「な、何を〜…。妖怪ひょろがり女!」

「な!?私の一番嫌いな名前で言ったわね!」

「べぇーだ!脳筋馬鹿って言ったお返しだよ〜だ!」

「この糞脳筋野郎!」

「言ったな!糞ひょろがり女〜」

「ほんっとむかつくわね糞脳筋馬鹿女!」

千春と秋奈はオロオロしていた。止めた方が良いのかほっとけばいいのか、分からないからだ。

「いつまでそんな幼稚園児みてぇなことしてんだよボケカスが。耳障りだ、黙ってろよ」

美知子の放つ言葉から異常ともとれる圧迫感を感じた。

それを聞いた胡桃美と理奈は互いにアカンベーをしながらプイッとそっぽを向く。

「悪いな、千春と秋奈。この二人は大概こんな感じなんだ」

美知子は呆れた声で言う。

「いえ、賑やかな方が私たちも気楽で良いんですよ」

千春は笑顔で答えた。

「そうか、ならいいんだがな」

美知子はフフっと笑う。

「さて、もうじき家につくから降りる準備しておけよ」

そう言うと美知子は少しスピードをあげた。

ーーー新しく始まろうとしている生活。千春と秋奈はどんな生活になるのか、楽しみであったーーー

1年前 No.13

あすわど @ashufia336☆mykg9AZKZ6kq ★Android=sGhw2c90Mc

まもなくして美知子の家に着いた。

「ほら、これが私らの家…そして雨知葉事務所本部だ」

千春と秋奈は驚きを隠せなかった。

広い敷地に大きな屋敷、車もそこには10台以上止まっているうえにどれも高級車ばかり。

「こ、これが美知子さんの家…ですか…」

「驚くにはまだ早いと思うがな。昼間とかになったらもう一度見てみな?面白いのがあるから」

美知子はニヤニヤしながら言う。

「さ、中に入りな。今後の事で話がある」

二人は家の中に入る。玄関からでも分かってしまうほど広い部屋が見える。

「こっちだこっち。リビングで座って待っててくれ」

千春と秋奈はリビングに入るなり辺りを見回す。

綺麗な装飾に高そうなソファー、これが金持ちの家なのかと思い込んでしまう。

「お待たせ。じゃあ話を始めようか」

ティーセットを片手に持ってリビングに来た美知子はテーブルの上に置いてソファーに腰を下ろす。

「今回君たち二人は私の養子として迎えることになった。そこでこれからの生活について色々説明しておこうと思う」

美知子は分厚い資料に目を通しながら続ける。

「分かる通り、この家にメイドだの執事だのそういうのはいない。よって家族全員で役割を決めて毎日それを行っている。私は炊事洗濯とかの家事全般。理奈は買い出し。胡桃美は裏庭のガーデニングと草むしり。他にもあるが追々分かるだろうから省略する」

次のページを開いて美知子は更に続ける。

「で、君たち二人の分担は私の方で決めさせてもらった。千春は胡桃美と一緒にガーデニングと草むしり、秋奈は私に付いて家事全般をやってもらう」

分厚い資料をテーブルに置いて紅茶を飲む。

「まあ、分かんないことあれば言ってくれ。誰も怒ったりしないからな」

美知子はニコッと笑う。

「さて、ひとまずこんな感じだ。あとは君たち二人の部屋を用意したから案内しよう、おい雅。二人の部屋まで案内しろ」

そう言うと奥から雅が出てきた。

「一緒に住むことになったんだ。よろしくね」

千春は手を差し出す。

「うん、よろしく」

雅は差し出された手を優しく握る。

「じゃあ案内するね。こっちだよ」

雅は二人の部屋まで案内をする。

「ここが今日から二人の部屋だよ。必要最低限のものは全部お母さんが用意してくれたから後でお礼だけ言っておいてね。わかんないことあったら聞いていいから。あと、明日は8時までに起きてね。色々やることあるから、じゃ」

言うだけ言って雅は部屋から出ていった。

「ひろーい…これがあたしたちの部屋なんて夢みたいだよ〜」

秋奈は驚いた感じの声で言う。

「確かに…てかもう23時じゃん!!早く寝よ〜っと」

千春はパジャマに着替えて布団に入った。

温かくて心地よい掛け布団のなかで千春と秋奈は安らかに寝息をたてて寝た。

ーーー翌日ーーー

アラームが部屋中に鳴り響く。

「んん〜…」

千春は手を伸ばしてアラームを止める。そしてすぐに寝始めた。

「ん〜…今何時〜…?」

秋奈は布団から出てアラームを手に取る。

「えーっと…7時30分か……てか7時半!?」

その声で千春が飛び起きた。

「やばい!完全に寝過ごした!急がないと!」

二人は急いでパジャマを脱いで私服に着替える。

着替え終わってすぐにリビングまで走っていった。

「おう起きたか。朝飯ならまだだぞ」

美知子は資料に目を通しながら言う。

「あー、えーっと」

何を言えばいいのか分からずにいる千春をみて美知子はニコッと笑う。

「千春は胡桃美と一緒にガーデニングだ。裏庭に胡桃美がいるはずだから行ってみな」

「わかりました、ありがとうございます!」

千春は頭を下げて裏庭まで走り去っていった。

「さて、秋奈。私と一緒に皆の朝飯を作ろうか」

美知子は秋奈を連れてキッチンへ向かった。

ーーー裏庭ではーーー

「あら、千春ね。おはよう」

胡桃美はニコニコしながら言う。

「お、おはようございます…ハァハァ…」

朝から走ってばっかだったのでさすがに息切れしていた。

「少し落ち着いたらで良いから、今は休んでなさい?」

胡桃美は笑顔で言う。千春はその言葉に甘えて少し休憩を取る。

千春は辺りを見回す。一面には綺麗な花が咲き誇っており、裏庭というよりは花園とか花畑といった感じであった。

「すごいですね…花の数…」

千春は胡桃美に言う。

「そうでしょ?これはね、私がぜーんぶ種から大切に育ててきたのよ」

胡桃美はニコニコしながら言う。

「え!?これ全部ですか?!」

千春は驚いた。

「そうよ、この広さだと、この家があと4軒くらい建っちゃうんじゃない?下手すれば野球場が出来るかもね」

胡桃美は遠くを見ながら言う。

「ひょええぇ〜…」

千春は驚きすぎて声がでなかった。

「さてっと、じゃあ花に水をあげましょうか」

胡桃美はじょうろを持ってきて千春に差し出す。

「あ、ありがとうございます。ええーっと水…水…」

「水道ならそこの通りを真っ直ぐに行けばあるわ」

胡桃美はじょうろを持って早速水をあげていた。

「わかりました、行ってきます!」

千春は小走りで水道まで走る。

「これか」

千春は蛇口を捻って水をじょうろの中にいれる。

ふと水道の奥の方に洞窟みたいなのが見えた。

「洞窟?何があるんだろう…」

千春は好奇心を感じたが流石に今行ってしまうと怒られるのではないかと思い留まった。

「水を入れてきたのね、そしたらあそこの方から水をあげてきて?あそこら辺は良く土が乾きやすいから水をたっぷりあげてね」

胡桃美はニコニコしながら言う。

「はーい」

千春はそそくさとその場所に向かい水をあげ始める。

あげては水を入れ、あげては水を入れ…かれこれ1時間以上掛かった。

「ひぃ〜…腰が疲れた…」

千春は大の字になって転がる。

「おつかれさん、はいジュース」

胡桃美は飲み物を差し出す。

「ありがとうございます…」

千春は手にとって早速飲み始める。

「これすごい美味しい!」

あまりの美味しさに思わず大きい声が出る。

「気に入ってくれて良かった〜。それはね、私の特製飲料なんだ」

胡桃美はニコニコしていた。

「すごいですよこれ!疲れが一気に飛んじゃいました!」

千春は凄く興奮していた。

「それは良かった♪」

胡桃美も嬉しそうに答える。

ふと千春は思った。胡桃美の左目だけ包帯が巻いてあることに疑問を感じた。

(なんで左目だけ包帯巻いてるんだろう…何かあったのかな…)

千春は不思議そうに胡桃美の左目を見ていた。

「…包帯の下、気になる?」

胡桃美は千春の顔を覗くようにして見る。

「え、いや、なんかこう、何かあったのかなって…」

「なーんにもないわよ?いたって普通よ?」

胡桃美は不思議そうに答える。

「見たいんでしょ?」

胡桃美はニヤニヤしながら言う。

「…はい」

千春は唾を飲んだ。

「しょうがないな〜…」

呆れた…というよりも明らか見せてあげようとした感じに言いながら包帯を外し始めた。

少しして包帯が取り終わる。

「さて、千春」

胡桃美は千春を呼ぶ。

「はい」

返事をする千春。

「これが包帯の下でーす」

と言いながら左目を覆っていた手を放す。

「…!?!」

千春は愕然とした。左目だけ蛇のような鋭い眼光、目の周りは茶色く腐りかけたような皮膚、何よりも右目と左目とで動きが全く違う。

「どう?」

胡桃美はニコニコしていた。左目はギョロギョロ動いていた。

「どうって言われても…なんか…凄く怖い…です…」

千春は脚がガクガクしていた。

蛇に睨まれたようなそんな感じがしていた。

「やっぱり?」

胡桃美はニヤニヤしていた。

「まあ、包帯の下はこうなってるんだ。滅多なことじゃとらないだけでさ」

胡桃美はそう言いながら包帯を巻き始める。

「でもね、千春と秋奈もいいとこまでいったら…やっぱ言うの止めた。」

包帯を巻き終えた胡桃美は千春の手を握る。

「そろそろ朝ごはんできてる頃だと思うから一緒に戻ろっか?お腹すいてるでしょ?」

千春のお腹がタイミング良く鳴った。

胡桃美はクスクス笑いながらリビングまで千春と一緒に戻っていった。

1年前 No.14

あすわど @ashufia336☆mykg9AZKZ6kq ★Android=sGhw2c90Mc

未だに千春は脚がガクガクしていた。

千春から見ればとても美しく咲き誇る一輪の花とも言える胡桃美だったが左目を見てからはどう言っていいか分からなかった。

(胡桃美さん、実は怖い人なんじゃ…)

千春は蛇に睨まれた蛙のようになっていた。

「飯食い終わったら自由だから好きにしてな。私は寝るけど」

美知子は本を読みながら言う。

「あ、そうだ千春と秋奈〜。あとで見せてあげたいものがあるけど見たい〜?」

胡桃美は何か思い出したかのように言った。

「はい!ぜひ見たいです!」

秋奈はテンション高かったが千春は左目を見た影響か、びくびくしていた。

「こっちよこっち〜」

胡桃美はのんびりと歩きながら裏庭へと向かう。

(まさかまた左目じゃないよね?ホントにあれだけは勘弁してほしい)

千春は脚がガクガクしながらそう思った。

「さて、ここよ」

着いたところは千春の気になっていた洞窟であった。

「へぇ〜…洞窟なんかあったんだ〜…」

秋奈は感心しているような口調で言う。

「さ、入って入って」

胡桃美は二人の背中を押して洞窟へ入る。

「意外と明るいんですね」

秋奈はそう口にした。確かに洞窟の中ではあるが結構明るい。

見渡せば水晶のようなものがあちらこちらに生えている。

「あそこ、なんか凄く明るい」

秋奈が指差す方向に小さな部屋があった。

「行ってみな?」

胡桃美はニコニコしながら言う。

二人はその部屋に入った。

そこにはガラスのように透き通った花を咲かす一輪の薔薇があった。

「なにこれ…すごく綺麗…」

二人は驚きのあまり声が出せなかった。

「すごいでしょ?この一本の取引金額はおよそ1000億円とも言える幻の薔薇なのよ」

「いっ1000億円!?え!?待ってなにそれヤバイ」

秋奈は目が点になってしまっていた。

「まあまあそう興奮しないの。これは1000年に1本しか咲くことのない幻の薔薇、クリスタルローズ。その希少さ故に全国各地を旅して回って手にしたいと思ってる人が大勢いる。風水にも絶大な効果を発揮するし売ってしまえば巨万の富をももたらす至高の薔薇。悪しき心の穢れを浄化させる力もあると言われてるわ」

胡桃美は二人にその薔薇のことを説明する。

「すごい薔薇なんだ!きれーい」

秋奈はうっとりしていた。

「さ、行きましょうか。私もまだ仕事残ってるから」

胡桃美は二人を連れて洞窟を後にした。

「いや〜…すっごく綺麗だった♪」

秋奈はかなり興奮していた。

「あんなに綺麗な花、見たことなかったよ―」

千春も興奮していた。

「じゃあ私は仕事に戻るからあとはゆっくりしててね」

胡桃美は自室に入っていった。

「何をすればいいんだろう…」

千春は考え込んでいた。普段であればゆっくり昼寝など出来るのだが、さすがに住ませてもらっている立場上で昼寝なんてあり得ない。

「美知子さんとこに行こう、何かあるかも」

千春は美知子のいるリビングへ向かう。

だが、美知子は本で顔を隠しているかのように安らかな寝息をたてて寝ていた。

「ダメだったか…」

千春は仕方なく自室に戻っていった。

やることのない退屈な土曜日、明日も同じような日になると千春はそう思いながらボーッとしていた。

1年前 No.15

あすわど @ashufia336☆mykg9AZKZ6kq ★Android=sGhw2c90Mc

しかしなんというか、暇である。

あまりにも平和すぎて暇になってしまう。

「ん〜…暇」

千春はベッドの上で胡座をかいて項垂れる。

「ねえねえ、この小説すっごい面白いよ〜」

秋奈は持っていた小説を千春に手渡す。

「【幾千万の夢語り】?」

千春はよくわからないまま小説を読み始める。

しばらくして、千春の目は潤んでいた。

「ヤバイ、なにこれ。超ヤバイ」

何て言っていいか、そんな感じであった。

「作者は〜…【さゆりん】か」

千春は美知子の元へ向かうことにした。

「美知子さん、この小説の作者に会ってみたいんですけど〜…」

千春はいきなりすぎてダメだろうと思っていた。

「ああ〜、別にいいぞ。着いてきな」

美知子は立ち上がって千春を連れて部屋の前にいく。

(え〜…ホントにいるんだ…)

美知子はドアをノックなしで開ける。

そこには布団の中で涎を垂らしながら気持ち良さそうに寝ている女性がいた。

(だらしないな〜…)

千春は辺りを見回すが、作家らしい部屋ではなさそうに見える。

「おいこら起きろ」

美知子は女性に言うが、全く反応がない。

すると美知子はシンバルを持って思いっきり音を鳴らした。

「ひぃ!」

千春はビックリして耳を塞ぐ。

「んん〜…おはよ〜…」

女性はゆっくり起き上がる。

「いつまで寝てんだよ、早く書いたらどうだ」

美知子は女性に怒りを露にする。

「ええ〜…だって〜ネタが思い浮かばないから書けないんだよ〜…、助けてよ〜」

女性は甘えた声で美知子に訴える。

「それなら前回もそうだったろ?私に助けを求めるな」

「ええ〜……ん?ところでそこの子は?」

女性は千春に気が付いたようで美知子はため息混じりに答える。

「この子は千春。私らの新しい家族だ」

千春は小さく頭を下げる。

「あら〜可愛い子ね〜、あたしは雨知葉家の次女の小百合って言うの〜。よろしくね〜」

小百合は小さく手を振っていた。

「千春ちゃんは何が得意なの〜?」

小百合は千春に質問を投げ掛ける。

「運動です!体を動かすのが好きなので!」

千春は元気に答える。

「運動か〜、あたしは茶道とか生け花とかそういうのが得意なの。今度教えてあげるわ」

小百合はニコニコしながら言う。

「さ、早く書け。〆切に間に合わなくなるぞ」

そこで千春は疑問に持ったことを美知子に聞く。

「ところで、この小説の作者って…」

美知子は分かっているように

「アイツだよ」

と小百合を指差す。

「え…」

千春は驚いた顔をする。

「そうには見えませんけど…」

千春は不思議そうな顔をする。

「だろうな。趣味の一環として小説書いていたのだが誰かが編集部に出したら即採用、瞬く間にベストセラーになったんだからな。まあ…こんな感じでマイペースだからなあ〜」

美知子はやれやれといった感じで言う。

「そうだ、長女にも会わせてやるよ。来な。」

美知子は部屋をあとにして別の部屋の前にたつ。

「入るぞ」

美知子はそういうと同時にドアを開ける。

「美知子か、おや?その子は家の新しい家族だっけか?」

髪の長い、綺麗な顔立ちの女性がいた。 左目は髪で覆われていた。

「どうも、千春と言います、よろしくお願いします」

千春は小さく頭を下げる。

「ふむ、礼儀正しい子だ。私は雨知葉家の長女、桔梗と言う。宜しくな、千春」

優しく微笑みながら言う。

「私は剣道を得意とする。段位は10段。興味があるなら教えてやるよ」

「桔梗は剣道の腕は並大抵の師範代じゃ全く歯が立たないほどだ。小百合よりこっちの方を教わった方がいい」

美知子は付け加えるように言った。

「悪いな、邪魔をして」

「なーに、私も退屈だったものでな。いい暇潰しが出来た」

桔梗はニコニコしながら言う。

「じゃあ行こうか」

美知子は千春を連れて部屋を出る。

「まあ、剣道はいいかもしれないけど、小百合は柔道やってるから、護身術習うなら柔道やってる小百合だな」

美知子は歩きながら千春に言う。

「さて、明日から学校だろう。早めに準備しておけよ」

美知子は千春に言ってリビングに戻る。

「さーて、準備準備…」

千春は学校の準備を始めることにしたのだったーーーーー

1年前 No.16

あすわど @ashufia336☆mykg9AZKZ6kq ★Android=sGhw2c90Mc

【第2章】ーー伝説の片腕狼ーー

深夜0時を過ぎたとある廃れた町…、左腕のない人物は笠を少し深めに被ってその町を歩いていた。

「今宵も月が綺麗だな…」

その人物は小さな声で呟く。

人物は町を歩きながら辺りを見渡していた。

「恩師はどうやらこの町にはいないようだな…」

恩師…それはこの人物に格闘技術を教えてくれた人であり、この人物は恩師に認められるように旅をしていた。

「恩師に認められるように旅を始めて早3年…、私も大分成長したと思う。恩師に会うのが楽しみだな」

その人物は月が照らす静かな町をただただ真っ直ぐ歩いていった…

ーーーー朝6時30分

部屋中に目覚ましが鳴り響く。

「んん〜…」

布団から手を伸ばしてアラームを止める。

「6時30分、そっか…今日から学校か」

千春は背伸びをしてパジャマを脱いで制服に着替え始める。

「あ、起きたの?なんだつまんない」

部屋にノックもしないで入ってきた雅はつまらなそうに口をこぼす。

「いやいや、つまるとかつまんないとか関係ないでしょ…」

千春は苦笑いしながら答える。

「あ、そうそう。苗字は宮本で通してていいよ。雨知葉って言うと後々めんどいから」

雅は千春と秋奈に言う。

二人はコクりと頷いてリビングへ向かう。

「おはよう、飯ならそこに出来てるから食べてから行ってきな」

美知子は資料に目を通しながら言う。

(いつも忙しいのかな?)

と千春は思ったが口には出さなかった。

食事を終えて少ししてから4人は家を出る。

「取り敢えず道は案内するけど私らと一緒にいると怪しまれるかもしれないから少し離れてついてきた方が自然に見えると思う。悪いけどそうしてもらっていい?」

雅は玄関を出てすぐに二人に言う。

「分かった!」

千春は笑顔で答えた。

二人から少し距離をおいて歩く千春と秋奈、次第に同じ制服の子達でいっぱいになり、すぐ学校に着いた。

「じゃあまたあとで」

二人はそう言って教室に入っていった。

「じゃあ秋奈、またね」

千春と秋奈もそれぞれの教室に入っていった。

「まじ?それって本当かよ」

「マジマジ!すっげー強いらしい」

クラスに入ると何やら1つの話題で持ちきりであった。

「美佳子〜、なんの話してるの〜?」

千春は幼馴染みの美佳子に問いかける。

「ん?伝説の片腕狼よ。ここの地域ではすっごく有名ですっごく強いって話」

美佳子はニコニコしながら言う。

「片腕狼…聞いたことある!何でも100人もの暴走族を瞬く間に片付けてしまったって言う話もあったよ!」

「うそーー?!あたしが聞いた話だと超一流のプロレスラー2人と闘って無傷でKOしたって話もあるわよ!」

片腕狼…それはこの地域で伝説として語られる史上最強の格闘家。如何なる手法を持って挑んでも決して狼には勝つことができないとも…。

「まさに一騎当千っていう四字熟語が当てはまるよね!」

「うんうん、それ以外ないかもね!」

千春と美佳子はニコニコしながら話し合っていた。

ーーーー此処はとある町の一角…

「恩師の気配を感じる…この町に住んでいらっしゃるのね」

片腕の人物はニヤリと笑い、町を歩く。

「やっと恩師に会えるときが来たのか…何とも喜ばしい」

歩きながら辺りを見回す人物。すると男5人に対して女1人のグループらしきものを見つける。

「ほおーう…女1人に対して男5人で暴力か…。ならこの私が奴等に制裁を下してやろうかしら…」

そう言いながらその集団のもとへ歩み寄る。

「おい、なんかこっちにくんぞ」

1人の男がその存在に気付く。

「お、なんだあいつ、片腕しかねえじゃん!」

ヘラヘラと笑う男。しかし、他の3人は震えていた。

「そこの男たちに問う。貴様らはそこの女にいったい何をしていた」

片腕の人物は男たちに問いかける。

「かあー!こいつおもしれえこと言うなあ!見てわかんねーのかよバーカ!あっはははは!」

男は大笑いしていた。

「笑っていてはこちらも困る。が、見てわからないのかと言うその答えは罪を犯していたという捉え方も出来る。よって、そこの3人と女を除く貴様ら2人に天誅を下す」

そういうと同時に右の拳が1人の男の顔にめり込んだ。

「っっっっっっ!!?」

あまりにも唐突すぎて言葉も出せず、ただ非常に鈍い痛みが顔中に走っていた。

「てんめぇ…」

大笑いしていた男は片腕の人物を睨み付け、ナイフを取り出して斬りかかる。

だが、右足のキックでいとも簡単にナイフを蹴飛ばされ、そのまま回し蹴りをもろ顔面に放たれる。

「他愛もない…」

片腕の人物はため息をついて4人見る。

「貴君らには手は出さない。そのまま帰ると良い」

そう言って人物はゆっくりとその場から歩き去っていった。

ーーーーーーーーーーーーーー

「なんだかんだでもう15時か〜…」

千春は退屈そうにあくびをする。

「片腕狼か〜…、会ってみたいな〜…」

千春小さな声で呟く。

ーーーー千春は知らない。自分が片腕狼と会うことになるということにーーーー

1年前 No.17

あすわど @ashufia336☆mykg9AZKZ6kq ★Android=sGhw2c90Mc

ーーーある公園まで歩いてきた片腕の人物。

「昨日と今日で大分歩いてきたものだ。少し休息を取らねば」

その人物は軽い身のこなしで木の上まで登り、誰にも見えないであろう場所に座り込んだ。

「此処なら誰の目にも留まらないだろう。さて…暫く眠るとしようか…」

その人物は木に身を委ねるようにして眠り始めた。

ーーー千春はボケーっとしながら帰り道を歩く。

「千春〜…」

進一の声で我に返った千春は何か思い出したかのように進一の顔を見つめる。

「そういえば、片腕狼って知ってる?」

進一はふと考えてから口を開く。

「うん知ってるよ。何でも格闘技術ではその人の右に出る者はいないってくらい強いらしいね」

「やっぱりー?一度でいいから会ってみたいな〜…」

「無理だよ、片腕狼は己の力を徐々に高めていって史上最強の格闘家にならなきゃいけないみたいだし…」

千春は分かりやすくガックリしていた。

「でも、もし会えたらサインくらいもらいたいな〜…」

そう呟く千春を見て進一はクスッと笑った。

ーーー午後19時、片腕の人物はゆっくり目を開ける。

「少々寝過ぎたか…でも疲れもかなり癒えたみたいだし良しとするか」

そう言いながら木から飛び降りる。

「さて、何処にいるのやら…」

辺りを見回しながら再び歩き始める。

(恩師、必ずや貴殿に会いに行きます。この片腕狼こと轟美優が貴殿のために…)

固く誓った決意を胸に、夜の町をただただ真っ直ぐ歩いていった。

ーーー午後21時過ぎた頃、

「コンビニに行ってくるね」

と千春は秋奈に伝えて夜の町を歩き始める。

「大分暖かくなってきたな〜…」

そう言いながら近くのコンビニに入る。

会計を済ませてコンビニを出ると片腕しかない人物が目の前に立っていた。

「少し聞きたいことがある。このお方をご存じないか?」

とその人物は1枚の写真を千春に見せる。

(あれ、美知子さんの写真?それにこの人…)

千春は答えに迷っていた。

「知らないなら知らないで良い。私はただ、このお方に会いたいだけでな」

(怪しい人じゃないかもしれないから、一応…賭けに出るか)

「知ってます」

千春がそう口を開く。

「左様か、ならばこのお方の所まで案内していただきたい」

「良いですよ」

千春は片腕の人物と一緒に家へと足を進める。

「ここです、そのお方がいるのは」

「ありがとう、助かった。自力ではなかなか見付けられないものだからな…」

そう言う片腕の人物は少しだけにこやかな顔をしていた。

「お、千春。何処にいってた…」

美知子がタイミングよく家に帰ってきた。

「お前、美優じゃねえか?」

美知子は片腕の人物に名前を聞く。

「覚えてて下さったのですか、恩師…」

涙がポロポロと溢れる片腕の人物。

「お帰り、良く帰ってきてくれた。もう旅はしなくてもいいぞ」

美知子は優しく頭を撫でる。片腕の人物は嬉しそうに涙を流していた。

「あの〜…この方は一体…」

千春は美知子に聞く。

「おっと、紹介してなかったな。伝説の片腕狼、轟美優。私の一番弟子の娘だよ」

と片腕狼の頭を撫でながら答える。

「え……えええええええええええええ!?!」

千春の頭の中はかなり混乱していた。

伝説の片腕狼が今目の前にいて、その片腕狼の師匠が美知子で…

千春は頭を抱えて今現状の状況を整理していた。

1年前 No.18

あすわど @ashufia336☆mykg9AZKZ6kq ★Android=sGhw2c90Mc

「ええーっと、つまり?片腕狼さんの恩師は美知子さんで美知子さんは片腕狼さんの師匠で…?」

まだ状況を把握できないでいる千春を見て美知子はため息をつく。

「あまり深く考えることじゃない。ただ純粋に師匠と弟子と言う関係だ」

と美知子は言う。

「ええとそこの娘さん、自己紹介が遅れてしまったね。私は轟美優、伝説の片腕狼と呼ばれている」

「あ、えーっと、宮元千春と言います…」

千春はギクシャクしながら自己紹介する。

「今日からまた此処に住むことになったから仲良くしなよ」

美知子は腕を組みながら言った。

「分かりました…」

まだ千春はギクシャクしていた。

(あの伝説の片腕狼が今私の目の前にいる…これって夢?現実?)

千春は自分の頬をつねってみる。

(痛い…てことはこれ現実!?やっば〜…超緊張する〜…)

千春は胸の高鳴りを押さえきれなかった。

「じゃあ美優、部屋は前と同じところで分担も前と同じで良いか?」

「良いですよ」

二人の会話は明日に向けての会話をしているようであったが、千春には何も聞こえていなかった。

「…?」

「千春?」

千春はボーッと突っ立っていた。

「おい!千春!」

その声と同時にビックリして辺りを見渡す千春。

「全く、何ボーッと突っ立ってるんだ。明日も学校だろう、早く寝たらどうだ」

「す、すみません…」

やれやれっといった感じで美知子はため息をつく。

ーー次の日

「ええええ?!あの伝説の片腕狼に会ったの?!」

美佳子は大きな声をあげる。

「美佳子、声が大きいよ…」

「ご、ごめんごめん。でもそれ本当なの?」

美佳子は興味津々であった。

「本当だよ、私が嘘ついたことあった?」

千春はニヤニヤしながら言う。

「う〜…、羨ましい…。あ、そうだ。今度千春の引っ越したところに遊びに行って良い?」

千春はドキッとしてしまう。こんなこと美知子さんが許してくれるのかと思うとぞーっとしてしまう。

「うーん、聞いてみないとわかんないなあ〜…」

苦笑いしながら千春は明後日の方向を見る。

「わかった〜!じゃあ、遊べたら教えてね!」

美佳子はルンルンと楽しげであったが、千春は心臓が張り裂けそうなほどバクバクしていたのであった。

1年前 No.19

あすわど @ashufia336☆mykg9AZKZ6kq ★Android=sGhw2c90Mc

【不思議な黒猫】

「友達?呼べば良いじゃないか」

家に帰って早々と美知子に聞いてみるがあっさりと答えられた千春。

「いや、迷惑かと思いまして…」

「そんなことないぞ。それに、もうお前は此処の家族だろ?何も遠慮することない」

本を読みながら美知子は千春に言う。

「わ、分かりました」

千春は私服に着替えるために自室に戻ろうとしたその時であった。

「待ちにゃさい!あんた、一体何者にゃ!」

千春ははっと振り向くとそこには頬を膨らませて腕を腰に当てている可愛らしい女の子が立っていた。

「え?えーっと、どちら様で…?」

千春はやや困惑気味に聞いてみる。

「あんたににゃのる名前はにゃい!」

ときっぱり答えられた。

「あんたがどっから来たか知らにゃいけど、ご主人様ににゃにかしでかそうとしたらウチがゆるさにゃいからにゃ!」

指を指しながら大声をあげる。

「待ってよ!いくらなんでも唐突にそんなこと言われても困るでしょ!」

千春は少し怒り口調で女の子に言う。

「うるさい!にゃにがにゃんでもご主人様に手を出すにゃよ!ウチがゆるさにゃいからにゃ!」

そう言うとプイッと後ろを向いて歩いていった。

「なんなのよあの子、憎たらしい〜!」

千春はまた美知子の元に向かう。

「どうしたそんな不機嫌そうな顔して?」

美知子は千春に言う。

「どうもこうもないです!語尾に『にゃ』とかつける女の子にボロクソ言われたんですよ!」

千春は怒り気味に言う。

(まーた黒音の癖が出てきたか…)

「千春。すまない」

美知子は顔をそらしながら謝罪する。

「え?いや、美知子さんが謝ることじゃないですよ〜…」

千春は予想外の反応に戸惑ってしまった。

「その子なんだが…」

美知子は顔をそらしたまま続ける。

「黒音って言う名前でな、性格は明るくて活発的な………猫なんだ」

その言葉に千春は驚いた。

「いつからか知らないんだが、人間の姿になれる能力を身に付けたみたいでな、今なんかは普通に学校に行かせてるんだよ。黒音の要望でな。だけど、黒音の悪い癖ってのがな…嫉妬深い上に今回みたいにとばっちりを飛ばすんだ。飽くまでも私に手を出すなとかその辺だろうけど」

確かにご主人様に手を出すなとは言っていたが、まさか美知子であったのは驚きである。

「だが黒音を激昂させてはいけない。あいつは並大抵の能力者が10人以上いようがいとも簡単に蹴散らすほどの能力を持っている。元が猫ってのもあるからかなり俊敏出し、狙いも確実だ」

美知子は千春の顔を見ながら言う。

そこにまさかのご本人が登場した。

「にゃにゃ!あんた、ご主人様に一体にゃにを…」

と言いかけたところで美知子に

「黒音!!」

と怒号を放った。

いきなりのことで目を丸くしてキョトンとする黒音。

「お前に話がある。座れ」

完全にキレている美知子を目の前に黒音は足が震えていた。

「早く座れって言ってんだよ」

美知子の低くドスの聞いた声はこの明るくて心地よい空間を一瞬にして無に還した。

「ご、ごめんにゃさい…ウチ、そんにゃつもりはにゃくて…」

あまりにも恐ろしく禍々しいオーラを放つ美知子の顔を涙目で何とか見ていた。

「それは私に言うべきなのか?違うだろ?」

「そ…それは…」

ビクビクしながら黒音は美知子を見る。

「この子に謝れよ。おめえのその口から謝れよ」

美知子は黒音を睨み付けるように見る。

「ご、ごめんにゃさい…ウチ、そんにゃつもりはにゃかったんです…」

「もういいですよ…可哀想ですよ」

千春は美知子を宥める。

「まあ良いだろう、黒音。次やったらどうなるか分かってるだろうな?」

美知子は黒音を睨み付けるよう。

「は…はいですにゃ…」

「じゃあもう行ってよし」

そういうと頭を深く下げてそそくさとリビングを出ていった。

「まあ今回は多目にみてくれ、黒音もわざとじゃないだろう」

「もちろんですよ」

千春はにこやかに答える。

ーーーほのぼのとした日が毎日のようにいつまでも続くことを願う千春であった。

1年前 No.20

あすわど @ashufia336☆mykg9AZKZ6kq ★Android=sGhw2c90Mc

しかしなんとも不思議なものだ。人間に化ける猫がいたり、伝説の片腕狼が一緒に住んでいるし、何よりも今までの生活からだと全くあり得ないほど平和なのだ。

そのおかげもあるのか、千春についていた傷や痣がほとんど無くなっていた。

「今日も今日とて平和だな〜」

千春は背伸びをしながら言う。

「こんだけ平和だとさすがのあたしでも眠くなってきた…ふあぁぁ〜…」

大きな欠伸をしながらベッドに横たわる。

「ああ〜…良いきもち〜…」

千春はそのまま眠りついた。

ーーーーある街の一角ーーーー

「ふーむ…ここにもいない…」

黒いコートを羽織った女性は辺りを見回す。

「旅に出て新しく生まれ変わったこの私を早く見て欲しいのに…」

はあっとため息をついて再び歩き始める。

彼女の片目は燃え上がる炎のように赤く、片目は深海の底のように澄み渡る青い目をしていた。

「師匠…オッドアイウルフこと、上杉美琴が必ずや会いに行きましょう。片腕狼なんかよりも先に…」

彼女はそう呟き、真っ直ぐと歩いていった。

ーーーー黒音はというとーーーー

「にゃっはははは!ウチの手にかかればこんにゃの一発KOにゃ!!」

高らかな笑いをあげていた。

「こんのやろう…てめえ…何者だ…」

ボコボコにされたのであろう男性は黒音に問いかける。

「あんたみたいにゃアホに名乗るにゃまえはにゃーい!にゃっはははは!」

腕を腰にあてて高らかな笑いをあげ続けていた。

「さーてと、ウチは帰るかにゃ。んじゃ、しーゆーあげいんにゃ!」

黒音はその場から軽い足取りで家へと帰っていった。

「にゃっはー!ただいまなのにゃー!」

黒音は元気よく玄関を開けると同時に大きな声をあげた。

「お帰り、飯ならそこにある。あと帰ってきたついでにみんなを呼んできてくれ」

美知子は配膳をしながら黒音に言う。

「はいにゃ!」

黒音は耳と尻尾を出した状態でまずは千春の部屋に向かう。

「ご飯だにゃ〜♪降りてくるにゃ〜♪」

楽しげな歌を歌いながらドアをとんとんと叩く。

「いっけない…ぐっすり寝てた…」

千春は目を擦りながらドアを開ける。

そこには耳と尻尾を出した状態の黒音がいた。

「………えええ?!」

急激なことだったので思わず大きな声が出てしまう。

「知っていると思うけどウチは猫にゃ!こーやって人の姿に化けれるのにゃ!」

自慢気に黒音は言う。

(そう言えば美知子さん、そんなこと言ってたっけかな)

「へ、へえ〜…」

何て言ったら良いか分からないので適当な返事だけしておいた。

1年前 No.21

あすわど @ashufia336☆mykg9AZKZ6kq ★Android=sGhw2c90Mc

【オッドアイウルフ】

千春はいつものように学校へ歩いていく。

すると黒いコートを着た女性が千春の目の前に立っていた。

(あの子から師匠と同じ臭いを感じる…間違いないわね)

「ねえそこの君、ちょーっと聞きたいんだけど」

千春は何だか面倒事に巻き込まれそうな気がして仕方ない状態であった

「この人知ってるでしょ?知らないとは言わせないわよ」

(なんだろう、この威圧的な態度…片腕狼さんのときとまるで違う…)

「知ってますけど…」

千春は困惑気味に答える。

「ならよかった、知らないなんて言ったら殺しちゃうとこだったわ」

ホッと胸を撫で下ろす彼女の発言に千春は恐怖を覚えた。

「で、何処にいるの?」

「何処って…自宅にいますが…」

彼女は腕を組んで考え始めた。

「よし、案内してもらおうか!嫌とは言わせないわ!」

半ば強引に千春は家へと引き返される。

「此処か〜…」

(あーあ、こりゃ走っても遅刻確定だわ〜…参ったな〜)

千春の頭の中は学校のことでいっぱいであった。

「なんだ千春、忘れ物か?」

そう声かけたのは美知子…ではなく桔梗であった。

「忘れ物と言うか…なんかこの人に案内しろと言われまして…」

苦笑いしながら彼女を紹介する。

「なるほど、帰ってきたんだな【紅碧眼狼】こと上杉美琴」

「え…」

千春は目を丸くして話を聞く。

「まあね、片腕狼なんかよりも先に戻ろうと思ってね、で?師匠は?」

(片腕狼さんを知ってる?なんでだろう…先に戻ろうと…?)

千春は状況を整理していた。

「ああ、美知子ならリビングで寝てる。今は起こさない方が無難だ」

「左様か、分かった」

女性は千春のもとに歩み寄る。

「ありがとう、私は上杉美琴。君は?」

「私は宮元千春、って言います…」

「そうか、千春、ありがとう」

そう言って美琴は歩いていった。

「おい千春、お前、学校どうすんだ?」

桔梗のその言葉で我に帰った千春。結果的に猛ダッシュをするも、1時間目の授業が始まっていて担任にこっぴどく怒られたのであった。

「千春が遅刻だなんて珍しいね!」

美佳子はプププと笑いながら言う。

「もー、笑うことないでしょ〜…」

千春はまだ息があがっていた。

「まあお疲れちゃんって言うことで〜…それよりも、遊びにいくって言ったけど家の人何て言ってた?」

「ああ〜…良いよって言ってたよ」

「ホンとに□やったー!何持ってけば良い?!御菓子?ジュース?」

やれやれと言わんばかりな顔をする千春であった。

昼休み、千春は携帯を手にとって美知子に電話を掛ける。

「もしもし」

なんと僅か2秒で電話に出た。

「あの、前に話したその、友達を今日連れてきたいんですけど…」

「なんだそんなことか、構わん。迎え入れる用意はしておく」

「お願いします」

「はいよ、それじゃ」

プッとすぐに電話が切れた。

(業務以外だとこんな短時間になるのかな〜…なんだか寂しいなあ〜…)

普段であればもう少し長く話していたであろう母親はもういない。

「ええーい、あんな両親いなくなって正解、私は超がつくほど幸福者だ!」

そうは言ってみるが何か何処と無く悲しい気分になった。

(美知子さんのところに住み始めてからまだ1ヶ月も経ってないような気がする…なんだか私だけが除け者にされてるような感覚もある。ホントは私なんか、死んじゃえば良かったのかな…)

一人涙を流す千春、その様子を雅は陰で黙って見守っていた。

(なぜ泣いているんだ?両親のこと?それとも生活面でのこと?)

雅は考えながら千春を見る。

(そうだ、私は邪魔な存在なんだ。じゃあもう死ねば良いや)

千春はフェンスに手を掛ける。

(フェンスに手を…? ん…?まさか…千春ちゃん!?)

雅はダッシュをする。

「千春ちゃん!だめ!」

そう言いながら雅は千春を押さえ込む。

「えっ?!ちょっと、やめて!」

千春は唐突な出来事に驚いていた。

(なんで邪魔するのよ…)

「もう何なのよ〜…雅ちゃん〜…」

ハア…ハア…と息を切らしながら千春は問い掛ける。

「だって千春ちゃん、自殺しようとしてた」

雅の目には涙が浮かんでいた。

「雅ちゃん…?」

千春は雅の顔を見つめる。

「私は、正直千春ちゃんが羨ましかった。両親がいて。私と雫には、両親なんかいなかったから…」

雅は涙を流しながら続ける。

「私が中学生の頃、母さんに会った。路地裏で雫と一緒に居たところに母さんが来た。母さんは私と雫を連れて家に行ったんだ。母さんがいつも言ってくれた言葉は【貴女達はもう私たちの家族だよ】って。私は嬉しかったな」

雅は千春を見ながら続ける。

「千春ちゃん、除け者にされてるような感覚もあるかもしれない、でも、母さんは顔に出さない人なんだよ。心の中ではみんな大切な家族だよ。死なれたら、母さん、ショックで寝込むと思う。だから、自殺なんかやめて」

雅は涙を流しながら千春に訴える。

千春はニコッと笑いながら

「だいじょーぶ、もうしないから…」

と言った。

1年前 No.22

あすわど @ashufia336☆mykg9AZKZ6kq ★Android=sGhw2c90Mc

時間が流れて放課後になった。

(私は本当にいらない人だったらまず引き取りもしないんだよね…なんだか馬鹿馬鹿しい)

千春は少々不機嫌そうな顔をしていた。

「千春〜?」

美佳子の声ではっとなる千春。

「え…ん〜」

「も〜どうしたの〜?今日の千春はなーんかおかしいぞ〜?」

ニヤニヤしながら美佳子は言う。

「ごめんごめん。さ、行こっか」

美佳子を連れて千春は家へと向かっていった。

ーーーその一方、雅はというとーーー

「今のとこは問題無さそう、あとは…」

ノートパソコンを弄りながら呟く。

「…これでよし。さて、千春ちゃんの後を追わないと」

雅は立ち上がってその場から駆け足で向かっていった。

ーーーーー

「はい、着いたよ」

美佳子は口にすることすら出来ないほどに驚いていた。

「…まあ驚くのも無理はないよ、ほら、行こ」

千春は美佳子の手を引っ張り、中に入っていった。

「ただいま」

「お、お邪魔します〜…」

「お帰り、その子が友達か。ゆっくりしていってな」

美知子は普段と変わらない表情で出迎える。

「…じゃあ行こうか」

「そ、そうだね」

千春は美佳子を連れて自室に入っていった。

「ひゃあ〜…広いな〜…」

美佳子は辺りを見回しながら口を開く。

「まあまあ、座って座って。いま、お菓子とか持ってくるから」

千春はそういうと部屋から出る。

(美知子さんの笑顔、未だに見たことないなあ〜…)

そう思いながら美知子のもとに向かう。

「ん〜…」

美知子は何やら頭を抱えて悩んでいた。それもキッチンで。

(美知子さんがキッチンで悩んでる。珍しいなあ〜)

「この菓子とこの菓子だと…ダメだな〜…バランスが悪い。この菓子もダメだな。う〜む…」

どうやらお菓子の盛り付けで悩んでいたようだ。

「ん〜…待てよ…そういやアレがあったな」

そういうと戸棚から高級そうなお菓子が出てきた。

「この菓子とこの菓子で…うむ。バッチリだ。これならあの二人もそう易々と太らないな。あとは紅茶を淹れないとな」

(何もそこまでしなくても良いのに…)

千春はそう思っていた。

「よし、完璧だ。あとは…ん?」

美知子は千春の存在に気付いた。

「どうかしたのか?」

美知子は不思議そうに聞く。

「いえ、どうもしませんけど…」

思わず目をそらしてしまう。

「茶菓子なら私が運んでいくから千春は先に戻って遊んでな」

「わかりました…」

千春はそそくさと自室に戻っていった。

(何か私、千春に嫌われてる?)

美知子はそう思いながら茶菓子を手にもって千春の部屋に向かう。

「持ってきたぞ〜」

美知子はドアの前で言う。

ドアを空けて出てきたのは千春だった。

「あ、ありがとう…御座います」

「千春、あとで話がある。夕飯食べ終わってからリビングにおいで」

美知子は美佳子に顔を向ける。

「ゆっくりしていってな、おかわりもあるからな」

と伝えて優しくドアを閉めた。

「千春!このお菓子ちょーウマイよ!」

美佳子はお菓子の美味しさに興奮していた。

(話って何だろ…)

千春はそっちの方に気がいっていた。

午後17時45分

「あー、そろそろ帰らなきゃ」

美佳子は部屋の時計を見ながら言う。

「あ、そこまで送っていくよ」

「ううん、大丈夫だよ!一人でも帰れる!」

美佳子は嬉しそうな顔をしていた。

「美知子さん、そこまで送っていきます」

「分かった。また遊びにおいでね」

「はい、お邪魔しました!」

玄関のドアを開けて道路側まで歩いていった。

「この辺で大丈夫だよ」

「分かった。じゃあまた遊ぼうね!」

「うん!バイバーイ!」

二人はその場で別れて千春は家に戻っていった。

夕飯をすぐに済ませてリビングに向かう。そこには美知子がいた。

「来たか、そこのソファに座りな」

千春は黙ってソファに腰を下ろす。

「さて、千春。単刀直入に聞こう」

千春は唾を飲んだ。

「私のことが嫌いか?」

(え)

千春は心の中で口にした。

「前から気にはなっていたが、私は千春に避けられてるような気がしてならない。嫌いなら嫌いって言ってくれた方が気持ち的に楽になると思ってな…で、どうなんだ千春」

いつもより真剣な顔をしている美知子に嘘はつけない、そう感じた千春は重い口を開く。

「私は…」

(だめ、恐い。後がどうなることか分からないのに口に出来ない…!)

千春は俯いて拳を握りしめる。

「…何も悩むことはないだろう。正直に言えば良いんだ」

美知子のその言葉で千春は決意を決めた。

「私は…美知子さんが…嫌いです」

美知子の顔に変化はない。 千春は続ける。

「私は、貴方の笑顔とかを見たくて必死に仕事だって何だってしてます。でも、胡桃美さんや理奈さん、氷雨さんとは違って貴方はいつも無表情…貴方には感情が無いんですか…!それに、今日だって電話の時も通話時間が僅か30秒程度!用件だけ聞いて終わりってないですよ!少しくらい話だってしたいんですよこっちは!なのに貴方は…貴方は…!」

積もり積もった感情を美知子にぶつける。

「……」

美知子はただ黙っていた。

「私は貴方のことが本当に嫌いです、その無表情しかできないところが、だいっきらいです!!」

千春はハァハァと息を切らす。目には涙も浮かんでいた。

「……」

美知子はただ黙っていた。

千春が口を開こうとした瞬間、美知子が口を開いた。

「今まで吐いたその言葉、全て私に対する不満…そういうことか…」

小さく呟いて美知子は顔をあげる。

「すまなかったな、千春」

美知子はただ俯いていた。

「私だって話だってしたいさ、笑顔だって見せてやりたい。でも、今の私には出来ない」

美知子は俯きながら続ける。

「私は千春や秋奈の感情や性格、趣味に特技…全てを把握しているわけではない。それに、今の私は感情はあるがそれを顔に出来ない謂わばロックが掛けられている。最も本来の私ならばこういうことはしなかったさ。でも、さっきの千春の言葉でやっと分かった」

美知子は顔をあげる。その顔はとても綺麗でどこか母親に似たとても優しく暖かい笑顔だった。

「千春や秋奈の求めていた人物像は、優しく暖かい…親の笑顔だったのだろう?」

千春は今にも泣きそうな声で

「はい…」

と答えた。

千春はこのときようやく気付いた。自分は除け者なんかではないのだと。自分は彼女たちの愛する家族の一員であることを。

「今まですまなかったな、千春」

そういうと同時に美知子は立ち上がり、腕を広げた。

「美知子さん…」

千春はその胸に飛び付き、大きな声で泣いた。

「わああああん!ごめんなさい〜!わあああ!」

美知子はただ何も言わず、背中を優しく叩いた。

(やっと千春の不満が聞けた。辛かったんだろうな。誰も相手にしてくれなかったから…)

美知子は優しく微笑みながら千春を抱き締めた。

千春は夜まで泣き続けた。自分の声が枯れようと、ひたすら泣いて謝った。

その様子を見ていた人物がいた。

「う、羨ましい…私も師匠に抱き付きたいのに…」

それはオッドアイウルフこと、上杉美琴であった。

「クソ!片腕狼には先を越されるし、千春には師匠をとられるし…ほんっと最悪!」

ぶつぶつ呟くオッドアイウルフ。

「いいわ…このオッドアイウルフの恐ろしさ、たーっぷり見せつけてやる…ふふふ」

美琴は不適な笑みを浮かべながら自室に戻っていった。

1年前 No.23

あすわど @ashufia336☆mykg9AZKZ6kq ★Android=sGhw2c90Mc

次の日

「おはよーございます」

千春はリビングにいる美知子に声をかける。

「おう、おはよ。飯ならもうできてる、早く食べて家でないと遅刻するぞ」

美知子は分厚い書類を見ながら言う。

(やっぱり忙しいんだ、私ってワガママ言って自己満足を得ようとしただけなのかもしれない)

千春はそう思いながら食卓に座り、用意されているご飯を食べ始める。

すると美知子が来て彼女は自分の特等席に座る。

「美味しいか?」

美知子の顔は何処と無く優しげな顔をしていた。

「お、美味しい…ですけど…?」

千春は眼を丸くして答える。

「ははは!なーにそんな固くなってるんだよ!まったく、お前は可愛いやつだな〜!」

美知子は今まで千春には見せていなかった満面の笑みを浮かべながら笑った。

「まあいい、ほら、早く食いな」

美知子は再び優しく微笑み、千春の頭を優しく撫でる。

「……恥ずかしいですよ〜…」

千春は顔を赤くしていた。母親のように優しく温かい感じが美知子から滲み出ていた。

「なーに照れてんだよまったく。家族なんだから良いだろ?な?」

美知子は優しく頭を撫で続けた。

千春は我慢できず、

「やめてください!もう…学校行ってきます!」

と玄関まで走っていった。

(まったく、千春は照れ屋さんだな〜)

美知子は優しく微笑みながら千春の背中を見送っていた。

「師匠…」

襖から顔を覗かせる美琴。

「師匠はどうして私のことを見てくれないの?どうして千春ばかり構うの?私のことが嫌いなの?」

美琴は1人でぶつぶつ呟いていた。

「そういう性格だから恩師も見てくれないんじゃないの?オッドアイウルフ」

その部屋の片隅に片腕狼こと轟美優がいた。

「っち、またあんたかよ。いい加減私に付きまとわないでくれる?はっきり言って迷惑なのよ!め・い・わ・く!」

美琴は睨みながら言う。

「やはり貴女の性格は歪んでいる。恩師もそんな貴女の性格を知っているから近づきたくないんじゃないかしら?」

美優は不適に笑う。

「てめえ…私にケンカ売ってるみたいね…?」

美琴は先程よりも鋭く睨み付ける。

「無意味な争いは避けたいのだけど、こればっかは避けられないみたいね。良いわ、あの時の決着、今日決めましょう」

美優は静かに笑う。美琴は依然として睨んでいた。

「さ、外に行きましょう。そしてケリをつけましょう」

美優は美琴と共に外へ出ていった。その様子を胡桃美は見ていた。

(珍しいわね、二人揃って外に出るなんて…)

胡桃美は様子を見に後をつけていった。

ーーー学校ーーー

「そういえば今日さ、新しい社会の先生が2人来るんだって!」

美佳子は目を輝かせながら言う。

「へえ〜…今ごろ来るなんて珍しいよね?」

「でもね、噂で聞いたんだけど、前の社会の先生が女子生徒に手を出しちゃってクビにされたらしいよ」

「へえ〜…」

美佳子と千春は社会の先生のことで盛り上がっていた。

「で、今日来るのは男の先生1人と女の先生1人らしい」

美佳子がそういった瞬間、ガラッと教室の戸が開き、男性と女性が入ってきた。

静まり返る教室。男性はゴホンと咳払いをして

「今日からこの教室の社会科担当になった芝野大介だ」

と言い、女性もそれに続くように

「同じく社会科担当の黒川凛です。よろしくお願いします!」

と言った。

1年前 No.24

あすわど @ashufia336☆mykg9AZKZ6kq ★Android=sGhw2c90Mc

【第3章】ーー因縁と恋愛と伝説とーー

予想だにしない唐突すぎる出来事に千春は驚きを隠せない。

明らかにガタイがよく、背も高く、頭も良さそうな男性と胸元まであるだろう長い髪、何処と無く優しげな雰囲気、そして京風美人を連想させるほど美しい顔立ちの女性がこのクラスの社会科担当なのだからだ。

「えーと、まあ取り合えずこの時間は…そうだな…自己紹介とかに使うか」

芝野は頭を掻きながら欠伸をする。

「じゃあ出席番号1番から順番にお願いします♪」

黒川はにっこりと笑顔を見せながら言う。男子はその笑顔に完全に釘付けになっていた。

1番から2番…と順番に自己紹介をしていく生徒たち、千春の番が来た。

千春は席を立ち、息を吸う。

「出席番号24番、宮本千春と言います。よろしくお願いします!」

深々と頭を下げ、席に座る。

ふと顔をあげると黒川が千春のことを見ていた。

(なんかまずいことやっちゃったかな…?)

千春は少し困惑していた。

生徒全員の自己紹介が終わり、授業が始まった。

「えー、つまり、織田信長は明智光秀にやられたってのが本能寺の変っていうやつだ。んで、そのあとに豊臣秀吉が天下をとった…というわけだ」

黒板に書きながら授業を進めていく芝野。

ふと千春の耳元に黒川の顔が近くにあるのに気付いた。

「この授業が終わったら私のとこに来て欲しいの。良い
?」

黒川は耳元で囁く。

千春は軽く頷くと彼女は優しく微笑み、後ろに戻っていった。

授業が終わり、荷物をまとめる芝野。

「じゃあ今日はここまでにしよう。んじゃ」

それだけ言って芝野は教室から出ていき、黒川もそれに続くように出ていった。

千春は彼女たちの後を追い掛けるように付いていった。

「ごめんね、急に呼び出して」

黒川は申し訳なさそうに謝る。

「良いんですよそんな…」

千春は少々困惑していた。

(近くで見ると、やっぱりスゴく美人な人だな…。胸も大きいし…)

千春は彼女を見つめていた。

「それで話なんだけど…」

黒川は千春の目をまっすぐ見る。その目は真剣な顔をしていた。

「はい…」

千春は少し緊張して唾を飲む。

「私ね…」

黒川の口がゆっくり開いていく。

ーーーー空き地ーーーー

「ここなら存分に楽しめそうね」

美優は余裕な表情を浮かべていた。

「へ!何度も言うけど今までの私とはぜーんぜん違うわ!」

美琴は腕を回しながら唾を吐く。

(ああ〜、あの時の決着ね。面白そうだから見てよーっと)

後をついてきた胡桃美はそう思いながらただ二人を見ていた。

「じゃ、そろそろ始めようぜ、その甘ったれた性格をねじ曲げてやるよ」

美琴は美優を睨みながら言う。

「出来るものならやってみなさい、貴女はどのみち私には勝てないのだから」

美優は挑発気味に言う。

美琴はその言葉にピクッと反応する。

「そういってられるのも今のうち、このオッドアイウルフの底力、見せてやるわ!」

そう言うと彼女は禍々しいオーラを放つ。

「面白いわね、ならこの片腕狼の本気を見せてあげなきゃね…」

言い終わると同時に彼女の周りから歪で恐怖を感じさせるオーラを放つ。

「いくぞおおおおおおおお!!」

美琴の掛け声と同時に決戦が始まった…!

ーーーー美知子の家ーーーー

「おい、それは本当なのか?」

美知子は怪訝な表情を浮かべていた。

「ほ、本当もなにも、この目で見たんですよ!」

客人と思われる男性が恐怖で満ちた顔をしながら美知子に訴えかける。

「私は見ちゃったんです…あの忌まわしきかの存在を…!あの伝説の…!」

この地ではいくつかの伝説がある。それは片腕狼であったりオッドアイウルフだったりなど。

しかし、この男性が言うには古くから混沌と災厄を司ると語られる伝説の生き物を見たと言うのだ。

「仮に実在してるのであれば、あっという間にこの街は終わる。早い話がこの伝説に終止符を打てば良いことだ」

美知子は不適に笑う。

「終止符って…!仮にも相手は伝説に語られる破滅と混沌の黒龍ですよ!?」

…この地では古くから伝わるある伝承があると言う。それはこの地を焦土と化する程の大規模なエネルギーを持つとされる龍だと言う。
かつて人間がこの龍を打ち倒したと言う事例は無く、ただ撃退するのが普通だった…のだが今は龍の存在すらないと言う若者が増えてきてるんだそうだ。

「どうか、撃退だけでもお願いします…お礼はなんだって致します」

男性は深々と頭を下げた。

「とは言うが、これじゃまだ情報が足りない。時間はかかるが、何とかしてみるよ」

美知子はメモ用紙にスラスラと書きながら言う。

「ああ、ありがとうございます…!」

男性は何度も頭を下げた。

(混沌と災厄を司る龍…か)

もしこれが実話であるなら早く手を打たなければならない。

美知子はノートパソコンを開き、龍についての情報を収集することにした。

1年前 No.25

あすわど @ashufia336☆mykg9AZKZ6kq ★Android=sGhw2c90Mc

ーーー空き地ーーー

「ハァハァ…」

美琴は息を切らしていたが美優は平然としていた。

「ほら言ったでしょ?貴方に勝ち目はないって」

「くそったれが…!」

美琴はただ立つので精一杯であった。

「まだあのときの方がやりがいあったかな〜。今の貴方は何でもすぐに感情出して周囲を見なくなる。これじゃあ相手にもならないわ」

美優はため息混じりに言う。

「ハァ…ハァ…言いたいこと…ハァ…言ってくれるじゃねえか…片腕狼…!」

美琴の目は両方とも紅く燃え盛る焔のような色をしていた。

「やっぱり貴方じゃ私の相手にもならないわよ。もう一度旅でもしてきたら?5年でも10年でもね」

美優は呆れたような顔をしていた。

「くそ…くそおおおおおおお!!」

美琴はただ叫ぶことしかできなかった…

ーーー美知子宅ーーー

「んん〜…」

美知子は頭を抱えていた。

「普通に考えても我々能力者が何人集まろうともさすがに撃退すら怪しいなあ…参ったな〜…」

この地に語られる伝説の邪龍。多いときは何百万という犠牲者を出してしまったときもあるほど強大な力を持つとされている。

「…やっぱり対となる聖龍を呼び起こすしかないのかもしれないな…」

美知子の言う聖龍は邪龍と対となる存在で創造と恵みをもたらす龍として語られる。
聖龍の持つ力は万物の穢れを浄化させ、荒野と化した大地に恵みをもたらし、果てには人々に生命の重さを思い知らせるとも言われている。

今回の場合、邪龍が現存しているのであれば聖龍の眠りを起こさなければならない…と美知子は考えたのだ。

「ま、恐らく被害はそう簡単には出ないだろうし、ひとまず昼寝するかな…」

大きな欠伸をして美知子は横になり、安らかに寝息を立てて眠り始めた。

ーーー学校ーーー

「え?!マジですか!?」

千春は驚きを隠せなかった。

「うん、なんていうのかな、こう、好きっていう感じ?」

凛はモジモジしながら言う。

「ですけど、芝野先生っていまいくつなんですか?」

「えーっと確か…38歳だったかな?」

「え」

千春は意外な年齢に驚いていた。目の前にいる凛がまさか美知子の同級生とも思えなかった。

「じゃあ、黒川先生は…25歳…ですか?」

「そうよ!よくわかったわね!」

凛は眩しい笑顔を見せる。それは大多数の男なら一発でハートを撃ち抜かれるであろう笑顔だった。

「でもなんでまたそんな年上の人を?」

「それはね、私って結構年上の人と付き合いたいって思っててね、たまたま私のハートを撃ち抜いたのが芝野先生だってことよ」

あたかも普通な感じで話を進める。

「何よりも笑顔、ガタイの良さ、頭の良さ!そしてそして!性格はスゴく優しい!あんな男性今までで1度も会ったことすらなかったの!」

どうやらマシンガントークになってしまいそうになるのに察しがついた千春は

「気持ちはよくわかったので一旦話を戻しましょうか…」

と言った。

1年前 No.26

あすわど @ashufia336☆mykg9AZKZ6kq ★Android=sGhw2c90Mc

「で、黒川先生は芝野先生と結婚までいきたいと言うことですね?」

その言葉に凛は顔を真っ赤にして

「け…けけけけ結婚までって…えええええええええ!嘘〜!」

と激しく動揺してしまった。

「ま、まあ、確かに?結婚はしたいけどさ?でもさ、あたしのこと見てくれないし…ねえ〜…」

(一応願望はあるんだ…)

千春は少々頭を悩ませる。

「あ、そろそろ時間だから戻ろっか。あー、あとこれ、あたしの連絡先。登録しておいてね!」

凛はそれだけ言うとそそくさとその場を去っていった。

(年の差恋愛か…考えたこともないや)

千春はそう思いながら教室に戻っていった。

ーーーー

「いっけね、寝すぎた」

美知子は大きく欠伸をしながら背伸びをする。

「今日の夕飯何にすっかな〜…。いいや、買い物行こ〜っと」

美知子はコートを羽織り、鞄をもって家を出た。

もうじき春が終わり、初夏を迎える時期の空は雲1つない綺麗な青空が広がっていて、太陽も徐々にだが西へ傾いていっていた。

「もうじき夏が来るのか……。というより何だこの胸騒ぎは…」

美知子は自身に迫る嫌な予感を感じ取っていた。

そう、その嫌な予感は美知子の予想通りのものであった。

「美知子〜!」

そう呼ぶのは同級生であった黒川凛であった。

「すみません…急すぎて…」

千春は申し訳なさそうな顔をしていた。

「い、いや別に良いんだが…。凛、一体何の用だ」

美知子は険しい顔をする。

凛はそれに全く動じもせずに笑顔で

「恋愛相談だよ!」

と答えた。

その瞬間、美知子は盛大なため息をついた。

「お前なぁ〜…」

美知子は相当呆れているのか、目を合わせようともしなかった。

「ねえ良いじゃ〜ん。あたしと美知子の仲でしょ〜ねぇ〜」

凛は美知子の両手を掴んでブンブンと振っていた。

「はいはいわかったわかった、じゃあ先に家に行っててくれ。私は買い物いかなきゃなんだよ」

「了解です〜」

凛は笑顔で千春をつれて美知子の家まで歩いていった。

「…はぁ〜。何でよりによって凛なんだよ〜…」

美知子はどっと疲れたような顔をして歩いていった。

1年前 No.27

あすわど @ashufia336☆mykg9AZKZ6kq ★Android=sGhw2c90Mc

「で、何だよ恋愛相談ってのは」

美知子は帰ってくるなり凛に険しい顔をして聞く。

「も〜…美知子はわかってるでしょ〜?私の恋愛事情をさ〜」

凛はニコニコしながら答えた。

「はぁ〜…。で、何?結婚までいきたいってことか?」

美知子は呆れ気味に言うと

「けけけけ、結婚までとは言ってないじゃん!」

顔を真っ赤にして凛は慌てふためていた。

「まあどうでもいいが、相談事はなんだ?」

美知子は自分の椅子に腰をおろす。

「だからさ、芝野先生とさ、こう…付き合いたい…っていうの?それでサポートしてほしいなぁって思って?」

凛はモジモジしていた。

「まったく…いい年こいたおばさんが何モジモジしてんだよ」

美知子はつまんなさそうにそう口をする。

「だってさ…恥ずかしいじゃない…」

凛は顔を赤くして俯いていた。

(おばさんってのは否定しないんだ…)

千春はそう思った。

「まあ、何となく分かった。要は凛の補助を私らがやればいいんだな?」

「そういうこと…かな?」

凛はモジモジしながら答える。

「分かった。じゃあ来週から実行するが…千春。お前も凛の補助をしてくれ」

美知子は千春の顔を見ながら言う。

「え…あ、はい。分かりました…」

千春は少しだけ嫌そうな顔をしていた。

「じゃあこの話は終わりだな。あと何か用あるのか?」

「ううん、それだけ。ありがとう美知子」

凛は少しだけにっこりして頭を下げる。

「そうか、じゃあ遅くならないうちに帰りな。あと痴漢とかストーカーには気を付けてな」

美知子は玄関まで凛を送るとそれだけ伝えた。

「うん、ありがとう!来週からお願いね!」

凛は嬉しそうな顔をして家へと帰っていった。

「はぁ〜…何かもう疲れた…夕飯テキトー食べてくれ、私は風呂入ってもう寝るから」

美知子はそういうと洗面所に入っていった。

「テキトーにって…」

千春はキッチンを見渡す。

「どうしろって言うのよ…」

はぁ…とため息をついた。

「おや?夕飯は出来上がってないのか?」

眼鏡をかけた男性が何処からか現れた。

「え!あ、はい…」

千春はまごまごしていた。いきなり見知らぬ男性が何処からか現れたのだから。

「あ、悪い悪い。俺は木枯進という者だ。君は確か宮本千春…だったかな?」

千春は何も答えられなかった。見知らぬ男性が自分の名前を知っていたから。

「美知子とかから話は聞いてる。良く働いてくれるって誉めてたし、寝坊の1つもしたことないって言っていたぞ」

進はペラペラと話を進めていく。

千春の話や自分が学生であった頃の話…色々と話をしてくれた。

「あれ…進」

風呂から上がってきた美知子。だがその格好はバスタオル1枚だけのあまりにも無防備な姿であった。

「あ、あわわわわ!み、美知子さん!さすがにその格好は…」

千春は動揺して言葉がうまく紡げない。だが進は平然としていた。

「なんだ、この時間に風呂ってことは大分疲れていたのか?」

「そうだよ、悪いけど夕飯はテキトーに済ませてくれ。私は寝る」

美知子はそう言うと部屋に入っていった。

「進さんは美知子さんの同級生ですよね?」

千春は進の顔を見ながら言う。

「ああ、そうだ。そして美知子は俺の妻だ」

進はそう口にした。

「え…えええええええええ!?」

1年前 No.28

あすわど @ashufia336☆mykg9AZKZ6kq ★Android=sGhw2c90Mc

「つ、妻って…」

千春は顔を赤らめてモジモジしながら

「もちろん、夜の営みは…あるんですよね…?」

と聞く。

「ああ、勿論。だけど娘も2人いるし、美知子も疲れてるからそれどころじゃないだろうけどな」

進は平然と答えた。

(何で平然と答えられるんだろう…恥ずかしくないのかな?)

千春はそう思った。

「まあそんなことより…飯だ。仕方無いから俺がつくるk」

と言いかけてるところに

「あら、進兄さん。姉さんはどうしたのですか?」

と氷雨が出てきた。

「ああ、美知子なら疲れて寝てる。飯どうする?」

氷雨は少し考えてから口を開く。

「なら私が作りましょう。進兄さんと千春は出来るまで待っててください」

と氷雨はエプロンを着けながら言う。

「じゃあ頼む。千春、あっちの部屋で少し話そう」

進は千春を連れて隣の部屋へ入っていった。

「ていうか、氷雨さんに任せて大丈夫なんですか?結構不安なんですけど…」

千春は落ち着かない様子であった。

「その点は心配要らない。氷雨はああ見えて料理上手でな、味は美知子より劣るが、それでも胡桃美以外の他の奴が作るよりまだマシな部類だ」

そこで胡桃美の名前が挙がった。

「胡桃美さんも料理上手なんですか?」

千春は興味津々に聞く。

「ああ、氷雨と良い勝負が出来るくらい料理上手だ。それに、胡桃美は自分でジュースとかお菓子作ったりしてお前たちに渡していただろう?」

そういえば結構な頻度でお菓子やジュースを持ってきてくれていたなと千春は思い出す。

「あの2人は良い嫁さんになれるよ、俺が思うにな」

進はうんうんと頷いていた。

「あ、理奈さんはどうなんですか?」

千春は聞いてみる。

「あー…あいつは最悪だな…」

と答えた。

「掃除とかその辺は抜群なんだが、料理となると壊滅的に最悪なんだよ…美知子が何度も指導したけど諦めたくらいだし…」

進ははぁ〜とため息をついた。

「進兄さん〜、千春〜。ごはんできたよ〜」

氷雨の声がドア越しに聞こえる。

「じゃあ行くか」

千春と進は立ち上がり、先程の場所へ戻ると、何とも豪勢な料理がテーブル一面に並んでいた。

「ほお〜、結構振る舞ったな」

進は感心しながら言う。

「味の方は何とも言えないけど、お腹一杯食べてください。千春もいっぱい食べてね?」

氷雨はニコッと笑顔を見せながらご飯を渡す。

「さあ、召し上がれ♪」

氷雨は眩しい笑顔を見せながら言う。

「あ、美味しい!」

千春は感動した。氷雨の料理がこんなにも美味しいなんて思ってもいなかった。

「おかわりもあるよ♪」

氷雨は美味しいと言われたのが嬉しかったのか、物凄く眩しい笑顔になっていた。

ーーーー

食後2時間後…千春はトイレから出れなくなるほど腹を壊したのは言うまでもなかった。

ーーーー

1年前 No.29

あすわど @ashufia336☆mykg9AZKZ6kq ★Android=sGhw2c90Mc

一週間が過ぎたある日のこと…

「じゃあ私は用事があるから出掛けてくる。留守番をしっかり頼むぞ」

美知子は千春にそう言う。

「分かりました、気を付けて行ってらっしゃいませ!」

笑顔で返す千春に美知子は優しく微笑み、家を後にした。

「さて、と…」

千春はリビングに向かい、手当たり次第に物色を始めた。

「これは依頼者リストでこれが依頼内容のリスト…これが周辺地図で…?」

色々と綺麗に置かれている書類を見てみるが、何が何だか千春には分からなかった。

「はああぁぁ〜…書類多すぎ…よく管理できるなあの人…」

千春はため息をついた。ふと棚の下に何やらアルバムのようなものがあった。

「これは…アルバムかな?」

早速手にとって中を見てみる。

そこにはとても綿密に色が塗ってある絵画がところせましと綴じてあった。

「すっごーーい、こんなきれいな絵…誰が書いてるんだろう?」

ふと誰かが後ろにいるのに気付いた。

「あら、そのアルバム…」

後ろにいたのは胡桃美であった。

「あー、懐かしいわあ〜。まだ下手くそだったときのやつだわ〜…姉さんったら取っておかなくて良いって言ったのに…」

千春は思わず

「これ、胡桃美さんが書いたやつなんですか?」

と聞いた。

「そうよ、これは中学生の時のやつね。たぶん高校生の時のやつも綴じてあるわ」

胡桃美はアルバムをぺらぺら捲っていく。

「ほらあった」

胡桃美は千春に渡す。

先程の絵とは比べられないほど綺麗な絵が綴じてあった。

「スゴすぎますよこれ…」

もはや言葉を失ってしまう千春。その様子を胡桃美はクスクス笑っていた。

「まあ私の部屋の方に飾ってある絵の方がもっとすごいと思う…あ、そうだ!千春、被写体になってくれない?」

突然のことに千春はたじろく。

「え、えと、裸になるんですか?」

千春は唾を飲んだ。

「出来ればその方がいいけど、無理ならそのままでもいいわ」

胡桃美は微笑みながら言う。

「わ、わかりました。とりあえず…脱ぎましょう」

千春は私服を脱ぎ始める。胡桃美は鉛筆と持参してるスケッチブックを準備していた。

「ぬ、脱ぎました」

全裸になった千春を胡桃美はまじまじと見つめる。

「よし、じゃあそこの椅子に座ってポーズはそうね…」

胡桃美は全裸の千春にポーズをとらせる。

「まあこんな感じでいいか、じゃあ描くから動かないでね」

スケッチブックを開き、千春の顔をしっかりと見て集中力を高めていく胡桃美。

(なんか恥ずかしいなあ〜…こんなとこ、進一には見せられないよ…)

千春はそう考えていた。

ーーーー1時間が経過した。

胡桃美は鼻歌を歌いながらまだ絵を描いていた。

(と、トイレ行きたいけどこれじゃあ行けない…!)

千春の我慢は限界を迎えていた。

「……よしっと」

胡桃美は鉛筆をおいてふぅ〜と息を吐く。

「トイレ行っておいで」

胡桃美は千春にそう言うと即座にダッシュしてトイレに駆け込んでいった。

「戻りました〜」

千春は用を済ませて戻ると服を着始める。

「ひとまずこんな感じかな」

胡桃美は書いた絵を千春に見せる。

「おお〜…スゴいです…」

繊細かつ丁寧に書かれている千春。髪の質感から肌のきめ細かさ、背景のクオリティから全て細かく描かれていた。

「ほんとは胸も股間部も隠さないで描いてみたかったけどさすがに可哀想だったからこれにしたのよ」

胡桃美は描いた絵を見ながら言う。

「まあ、それはキツいですね、はい」

千春は顔を赤くして答える。

「でもありがと、これで家族の被写体がまた1枚増えたわ!」

胡桃美はニッコリしていた。

(まあ胡桃美さんが喜んでるからまあいいか)

千春も釣られて笑顔になった。

1年前 No.30

あすわど @ashufia336☆mykg9AZKZ6kq ★Android=sGhw2c90Mc

【吸血鬼の来訪者】

留守番を引き受けた千春であったが、やることがないと暇で暇で仕方ない。リビングで美知子の仕事場の書類などを物色してみたりキッチンを物色してみたりと家中を物色してはみるが、千春には何が何だか分からないものが多かった。

「はぁ〜あ〜。暇だな〜」

千春は退屈そうに大きなあくびをする。

「……」

千春はとりあえず何か考えることにした。

ふと、リビングの方から何やら音が聞こえるのがわかった。

「誰?」

千春は恐る恐るリビングに向かい、覗いてみる。

そこには黒い服を着た怪しげな女性がいた。

「ここでもないか、せっかく久々に会いに来たと言うのに…」

女性はぶつくさ言いながらにんにくをかじっていた。

(なぜにんにくをかじるんだろうか…)

千春はそう思いながら様子を見ていた。

よく見ると女性の口に2本の鋭い牙のようなものが見えた。

(付け牙かな?)

千春はそう思っていたがにんにくをかじってるあたり、付け牙ではないと確信した。

「ふんふん…ん?何やら別の匂いがするな…。こっちの方だな」

女性は千春が覗いている場所を見ると歩き始めた。

(やば、見つかった!)

千春はそう感づいて逃げようとしたが…遅かった。

「君、ここの住人かい?」

女性は千春に問いかける。

千春は声が出せず、ただ頷くだけであった。

「ふ〜ん、何か見慣れない顔だから誰かと思っちゃった。まあ別に危害とか加えたりしないから安心しな」

女性はそういうと歩いていった。

(何だろう…変に恐い…)

千春はすぐさま立ち上がり、胡桃美の元へ向かった。

ーーーーー

「え?不審者がいる?この家に?」

千春にそう言われて胡桃美は意外そうな顔をする。

「本当ですよ!黒い服を着た不審者が…!」

千春は胡桃美に訴え続けるとやれやれといった感じで立ち上がり、

「じゃあその不審者を探しますか」

と言って千春と一緒に部屋を出る。

ーーーー部屋を出て右の部屋から音がするのがわかった。

「あそこにいます!」

千春はその部屋を指差して胡桃美に言う。

「不審者ねえ〜…ま、見てみる価値はあるか」

胡桃美はそう言って部屋のドアを開ける。

そこには先ほど千春が目撃した女性がいた。

「あ、あの人です!」

千春は胡桃美に言う。

「ん?」

女性は此方に気付くと顔を傾げる。

「あら?」

胡桃美も同様に首を傾げる。

1分くらいの沈黙が続いた。

「貴女、もしかして吸血鬼の優希?」

胡桃美は女性に聞く。

「そうだけど、あんたはまさか胡桃美?」

女性は胡桃美に聞く。

「………」

再び沈黙が続いた。

「キャーーー!久しぶりじゃない胡桃美ーーーー!」

女性は突然大きな声で胡桃美の両手を掴んでブンブンと振り回す。

「元気にしてたー?優希ーー!」

胡桃美も同じようなテンションで受け答える。

(何だろう、このめんどくさいテンション…)

千春はただボーッと突っ立っているだけだった。

1年前 No.31

あすわど @ashufia336☆mykg9AZKZ6kq ★Android=3gSRKlbOZ8

「あ、紹介するわね。この子は西條優希。私の同級生よ」

胡桃美が丁寧に説明してくれた。だが、なんで入ってきたのかが知りたい千春。

「あー、その件だけど〜、美知子さんに会いたくてな〜。だけどこんだけ探していないってことは留守かな〜って。この部屋探していなかったら帰ろうと思ってたところよ!」

ぱちりとウインクを決める優希。…全然かっこよくない。

「まあともかくいないんじゃ仕方ない、私はぼちぼち帰りますよっと〜」

優希は背伸びしながら部屋から出ていき、ふっと姿を消した。

「何だったんですかあの人…」

千春はボソッと呟く。

「まあ昔からああいう子だから」

胡桃美は苦笑いしながら千春に言った。

ふと思い出したかのように、

「そういえば吸血鬼って言ってましたよね?何であの人ニンニクかじれるんですか?」

と胡桃美に聞く。

「ああ、あの子は吸血鬼の血を引いてるけど、かなり特殊体質だからね〜。日光も平気だしニンニクに至っては大好物なのよ。十字架のアクセサリーも趣味で集めてるくらいだし」

胡桃美はニコニコしながら答えてくれた。

世の中には色んな人がいるんだと改めて実感する千春であった。

ーーーーーーーーーー

「…それで?」

薄暗い部屋に蝋燭だけ灯している小さな部屋の中で小さな声で女性が相談者と思われる男性に問いかける。

「それで、この女を抹殺してほしい」

男性は一枚の写真を女性に渡す。

女性はその写真を見て驚きを隠せなかった。

「この人って…まさか…」

「そうだ。人類最強と謳われる【雨知葉美知子】。こいつさえこの世から消えれば我々も思う存分活動できる」

男性はタバコをくわえながら言う。

「だが、彼女を殺すにしても返り討ちに遭うのが定石。そんな彼女を殺すのにどうしろと?」

女性は男性に問いかける。

「その辺はおたくらに任せますわ。これから別のとこで商談があるんでね」

男性は蹄を返してその部屋から出ていった。

「雨知葉…美知子…」

女性は写真を見ながら名前を繰り返す。

「……」

そして黙り込んでしまった。少し経って

「この人を…殺せるわけないじゃない…」

と涙ぐんだ声で呟いた。

9ヶ月前 No.32

あすわど @ashufia336☆mykg9AZKZ6kq ★Android=3gSRKlbOZ8

【覚醒の刻〜千春〜】

「殺せって言ったってこの人を…殺すなんて…いくらんんでも…無理だよ…」

女性は泣きながらポツリポツリ呟いていた。

「でも…仕事だから…やんなきゃなのかな…?どうすればいいのかな…」

涙声になりながら呟く女性。

「少し…考えておこう…」

女性は部屋をでて鍵を閉め、夜の街へと消えていった。

ーーーーーーーー

「で、質問なんですけど」

千春は帰って来た美知子に聞く。

「なんだ千春、言ってみろ」

美知子は小説(?)を読みながら受け答える。

「【能力】と【覚醒能力】って何ですか?よく分からないんですけど」

美知子は本を閉じて千春の顔を見ながら話始めた。

「【能力】というのは、この世界において知らない人はほぼいないとされる特殊な力だ。要は炎、水、雷、風…我々人間が生きていくうえに必要なものであったり、災害をもたらすような自然現象だったりを操ることが出来る、それが【能力】と呼ばれるやつだ」

千春はメモを取りながら話を聞いている。

「それで【覚醒能力】のついてだ」

美知子は再び本を開いて話を続ける。

「【覚醒能力】というのはさっき言った【能力】とは違い、極めて特異質な力だ。それもかなり多岐にわたる。
現状把握しているものを挙げれば…骨、鉄、氷(雪)、植物、材質変化、蟲、金剛…だな。
何れも私たちが関係してるものばかりだが、他にも存在すると言っても良い」

千春はふと気になることがあった。

「なるほど。じゃあ、【能力】と【覚醒能力】が発動って言うのかな?そういうタイミング的なのってあります?」

美知子は静かに答える。

「これは人によって違いはあるが、【能力】の場合は産まれたときから、若しくは成長してる際に目覚めるかのどっちかだ。どっちに転んでも【能力者】と呼べる」

千春はうんうん頷きながらメモを取る。

「だが、【覚醒能力】についてはかなりあやふやで明確な情報が少ない。しかし、唯一可能性が高いとされているのは《特殊な家庭環境で育ってきた人》が【覚醒能力】に目覚めると言われている」

千春はその言葉を聞いてペンを落としてしまった。

だが美知子は気にもせずに続ける。

「まあ具体的に言えばだな…《両親から暴行や虐待等を受けて育った人》とか、《離婚して片親で育てられた人》とか、《引きこもりで何年も過ごしてきた人》…とか様々だな。あと非常に確率が高いとされているのが、『両親が離婚して、再婚相手に暴行や虐待、更に学校などでの陰湿な苛め等を受けて育ってきた人』らしい」

最後の言葉を聞いた千春はもう何も言えない状態になっていた。

「その顔はもう何も言えませんって感じだな〜」

美知子は欠伸をしながら言う。

「だが、これが現状なんだ千春。特に最後に言った人は【覚醒能力】の力が非常に高いとされている。だが、いつ目覚めるかは定かではない」

美知子は美知子は再び本を開く。

「もっとも多い報告は《大切な何かを守るときに目覚める》と発表されていた。まあ真相は謎のままだがな」

千春は俯いたまま何も言わなかった。

「でも珍しいな。千春からこういう話題を出してくるなんてな」

美知子は不思議そうにしていた。

「いえ、ちょっとした興味本位です。気にしないで下さい」

千春は元気ではない声で言った。

「ん、まあいいだろう。また何か知りたかったらいつでも聞きにおいで」

美知子は優しく微笑んだ。

8ヶ月前 No.33

あすわど @ashufia336☆mykg9AZKZ6kq ★Android=3gSRKlbOZ8

美知子に聞いた【能力】と【覚醒能力】のことで頭がいっぱいになっている千春。

「宮本?おーい宮本」

ハッと我に返ると芝野先生が目の前にいた。

「あ、えっと…」

千春は何を言おうか迷っていると、

「あとで職員室来いよ」

と言っても教卓へ戻っていった。

「千春、何か元気ないね〜?どうかした〜?」

美佳子が寂しそうな声で言ってきた。

「ううん、大丈夫大丈夫〜」

と答える千春。

しかし、何故だか知らない胸がかなりざわついていた。

ーーーーーーー

(何だか嫌な予感がする)

美知子は携帯を取り出して雅に電話を掛ける。

「はい、どうしました?」

「悪いが千春の様子を見てくれ。不吉な予感がする」

「わかりました。では」

美知子は携帯をしまい、本を手にとって読み始める。

「何もなきゃいいがな…」

美知子は静かに答える呟いた。

8ヶ月前 No.34

あすわど @ashufia336☆mykg9AZKZ6kq ★Android=3gSRKlbOZ8

「宮本、お前どうしたんだ?元気ないぞ」

職員室に呼ばれ、芝野と対面する千春。

「いえ、何もないです」

千春はそう答える。

「いやいや、何もなけりゃあ普通呼ばれたら返事出来るだろ?」

芝野は困惑していた。

まあ確かに言われてみればそうかもしれないが、千春は答えない。

「宮本、これは俺の推測だが…」

芝野、真剣な顔をして千春を見る。

「お前、【能力】とか【覚醒能力】とかに関して何か聞いただろ?」

と聞く。

千春は唐突な言葉に動揺して、口が開かない。

「その感じだと図星ってことだな。誰から聞いた」

芝野は全てを見透かすような目をしていた。

「…さん」

千春は聞き取れないくらい小さな声で呟く。

「宮本、はっきり言え」

芝野は真剣な顔をして千春を見る。

「雨知葉美知子さん」

今度ははっきり言った。

「……」

芝野は黙っていた。

(能力と覚醒能力を知るのはアイツの姉妹と友達くらい、宮本は恐らく自分から美知子に聞いたのだろう。じゃなきゃ知ることなぞ出来ん)

「雨知葉美知子…か…」

芝野は頭を抱え込む。

「それは自分の興味本位でか?」

「そうです」

芝野の質問にすぐ答えた。

(なるほど、だがさっきから宮本から恐ろしいくらいの《殺気》を感じるな…)

芝野はこれ以上は危険だと判断して、千春を教室へ戻るように促した。

(宮本千春、恐らく彼女は【覚醒能力】をもつ者かもしれない。しばらく様子見だな)

芝野はパソコンに手をつけ始めた。

ーーーーーーーーー

「という感じですね」

雅は美知子に電話をかけて千春の状況を伝えていた。

「そうか、変わった点はないか?」

美知子がそう聞くと雅は思い出したかのように言う。

「そういえば…千春から恐ろしいくらいの《殺気》を感じましたね。本人はニコニコしてましたけど」

美知子はそれを聞くと

「…わかった。じゃあ引き続きよろしく」

と言って電話を切る。

「雲行きが怪しくなってきたな…」

と小さく呟いた。

7ヶ月前 No.35

あすわど @ashufia336☆mykg9AZKZ6kq ★Android=3gSRKlbOZ8

数日が経ったある昼の時間。

(うーん、気分が凄い悪い…帰りたい…)

千春は机に寝そべるような形で頭を抱えていた。

「千春〜?大丈夫〜?」

美佳子は心配そうに聞いてくる。

「まあなんとか…」

千春は元気のない声で言う。

「次は移動教室だよ。進一たちのクラスと合同だって!」

美佳子はニコニコしながら言った。

(進一たちと同じクラス…?雅ちゃんも一緒か)

「んん〜…頑張る〜…」

千春はゆっくりと席から立つ。

「じゃあ行こっか、荷物持ってあげるよ」

美佳子は千春の荷物と自分の荷物を持って千春と一緒に教室を出た。

ーーーーーー

(何だか物凄い胸騒ぎがするな)

美知子は本を読みながらそう思った。

(まさかとは思いたくないが…)

美知子はすくっと立ち上がり、家を出る。

空は曇っていて今にも雨が降りだしそうであった。

「……」

美知子はただ黙っていた。

これから起こるであろう災厄を見据えるように美知子は空をただ見上げていた。

ーーーーーー

「千春、ホントに大丈夫?」

美佳子は心配そうに聞いてくる。

「大丈夫だって…進一と一緒なら…大丈夫」

千春は苦しそうに答えた。だが、顔は青ざめていた。

「一旦保健室行こうよ?いくらなんでも無理しすぎだよ?」

美佳子は千春の体調を心配して言う。

「大丈夫だってバ…私は…大丈夫…」

段々と呼吸が荒くなっていく。

「おーーっと、そこにいんのは可愛らしい女の子二人じゃあねえか!」

目の前に現れたのは、校内で有名な不良3人組だった。

「いやあ今日はついてんなあ!なあなあ、今からいいことして遊ぼうぜ〜?」

不良3人組の下っ端と思わしき男子生徒が近づいてくる。

「来ないで!今から保健室行くんだから!」

美佳子は千春を庇うように少しずつ後ろへ下がっていく。

「んなこと言わねえでさ〜、なあ?」

それでもなお近づいてくる男子生徒。

そこに頭と思わしき男子生徒が後ろから

「言うこと聞かねえと、この俺様の【能力】ってやつでぼこぼこにするぞ?」

と低い声で言った。

その男子生徒の手からは炎が出ていた。

(嘘…【能力者】がこの学校に…!)

前後ともに挟み撃ちされてしまっていて美佳子はどうしようも出来なくなってしまった。

「さあ、俺らの言うことをちゃんと聞いて」

「いちいちうるせえんだよ」

男子生徒声を遮ったのは千春だった。

「ああん?てめえ今なんつった?」

男子生徒は千春を睨む。

「うるせえって言ったんだよ耳ついてんのお前?」

明らかに普通の千春ではなかった。

「千春!?」

美佳子は慌てて千春を宥めようとする。

「美佳子、私が美佳子を守る」

千春の言ったその言葉を美佳子は理解できなかった。

「なにヒーロー気取りしてんのお前?」

男子生徒は睨みながら言う。

「ヒーロー気取り?なんの事だか?」

千春はゆっくり顔をあげる。

「今この場所がお前らの墓場にナル…死にたくなケレバ、直ちにコノ場から逃げた方が良いよ?」

目の色は紅く染まり、違和感を覚えるような言葉になっていた。

「あ、兄貴!こいつまさか…」

下っ端(?)の男子生徒が怯えながら頭(?)に言う。

「構うこたぁねえ、一気にぶちのめすだけだ」

冷静な判断で下っ端(?)を先頭に出す。

「へ、女だから容赦しねえ…」

と言いかけて

「どけよ雑魚が」

と千春は男子生徒の腹に強烈なキックを繰り出して、廊下の向こう側まで吹っ飛ばしてしまった。

「…ちっ」

千春は舌打ちをして残った二人を見る。

(こいつ…!【覚醒能力者】か…!?)

頭と思わしき男子生徒は驚いた表情で千春を見る。

「【能力者】なら、能力で勝負しようカ…まあ、私が勝つと思うケド」

千春はそう言って、手をゆっくりあげる。

すると、周囲4ヶ所の空間が歪み始め、今すぐにでも攻撃出来るようにセッティングした。

「さあ、始めましょ?デスゲームを…」

千春の目はもう、完全に正気を失っていた…。

7ヶ月前 No.36

あすわど @ashufia336☆mykg9AZKZ6kq ★Android=3gSRKlbOZ8

【暴走】

千春が腕を振りかざすと同時に周囲の空間が歪み始め、ブラックホールのような空間が出来上がる。

「さあ、ドウスル?あなたに勝ち目はナイと思うケド?」

腕を固定して千春は男子生徒に問いかける。

「まだ、負けたって決まってねえ!!」

男子生徒は炎の球を連続で投げつける。

しかし…

「その程度の攻撃…私には効かない」

千春は片手で簡単に払い除けてしまう。

「なっ…!」

男子生徒はあまりにも大きすぎる格差に震えだした。

「じゃあ次は私の番ね」

千春が振りかざした腕を前方に振ると、歪んだ空間から無数の刃物が次々と男子生徒目掛けて飛んでいく!

「くそっ!」

男子生徒は交わすのに精一杯だった。

「甘いよ」

交わした先に千春が立っていた。そして

「あの世で仲間と遊んでな…」

そういうと同時に一段と強烈なキックが男子生徒の顔面に直撃!
そして、そのまま廊下の向こう側まで蹴り飛ばした。

「他愛もない…」

だが、千春の目は戻ることはなかった。

ーーーーーー

「くそ…」

美知子は舌打ちをして、バイクに乗り、家を後にする。

「どうもおかしい、千春の身に何かあったな…」

バイクを走らせながら美知子は呟く。

「どうか、間に合ってくれ…!」

美知子はただただ、祈りながらその場所へ向かっていった。

ーーーーーー

「ねえ、千春…だよね?」

美佳子は恐る恐る聞く。

「…そうだけど?」

千春は平然と答える。

今、美佳子の目の前にいるのは紛れもなく親友である千春。その千春は【覚醒能力】を持っていた。

(恐らく、あれは【覚醒能力】…。千春、貴方は特殊な家庭環境で育ってきた人に分類されていたのね…)

美佳子は目の前にある現実を受け入れる他なかった。

「やっぱり…」

反対側の方から声が聞こえる。

現れたのは雅と進一であった。

「何の用カシラ?」

千春は警戒をしながら問う。

「宮本千春。悪いけど、貴方を拘束させてもらう」

雅は全身に力を入れ始める。

(あの子も【覚醒能力者】!?)

美佳子は目を丸くして二人を見ていた。

「電磁拘束(パラライズトラップ)」

雅は千春の足元に特殊な電磁波を流し、全身を拘束させる。

「なに…?!」

「今貴方の足元に特殊な電磁波を流した。その電磁波で全身を縛ることによって、能力に制限を掛けることが出来ると同時に、その場から動くこともできなくなる」

雅は説明しながら千春のもとに歩み寄っていく。しかも、左手に力を込めながら。

「悪いけど千春、貴方を気絶させる。でないと被害が増えるからね」

そして

「磁界拳(マグネットパンチ)」

左手に力を込めた拳が千春の顔に炸裂…すると思った直前…

「…ナイ」

千春は何かを呟いた。その瞬間、

「私は…マダ…オワラナイ!」

千春の拳が雅の腹部を直撃した。

「んぐっ?!」

そしてそのまま進一の方へ飛ばされてしまう。

「だ、大丈夫?!」

「まあ、何とかね…」

雅は腹部を抑えながら千春を見据える。

(電磁拘束の効果が一瞬にして消されたと同時に威力の高いパンチを繰り出すなんて…。まさか…【制御崩壊(リミッターバースト)】を起こしてる?!)

雅は携帯を取り出して美知子に電話を掛ける。

「もしもし母さん?!千春の事だけど」

「なんだ?千春がどうかしたのか?!」

美知子も流石に不安なのか声に落ち着きがない。

「疑いをかけたけど確信したの。【制御崩壊(リミッターバースト)】を起こしてる」

その言葉を聞いた瞬間、美知子は黙ってしまった。

「…母さん?」

「雅、悪いがもうしばらく足止めしておいてくれ。もうすぐしたらそっちに着く」

「わかった、頑張るよ」

そう言って電話を切る。

「【制御崩壊(リミッターバースト)】を起こした【覚醒能力者】と戦うことになるなんてね、思いもしなかった」

雅は真剣な顔をして千春を見据える。

「これだけは避けたかったけど、そうも言ってられないな」

千春は何かを感じ取ったのか、すぐさま腕を振りかざし、空間を歪ませる。

「もう遅いよ」

雅はニヤリと笑い、

「電子世界(ポリゴン・ステージ)」

周囲一体がアナログのような空間に代わり、腕を振りかざした千春の周囲に歪んだ空間が消えてしまっていた。

「この世界の空間は歪ませられない、私が作り出した特殊な空間だからね」

雅はクスクス笑っていた。

「残念だけど、貴方は勝てないよ宮本千春」

雅は千春を指差して言う。

「この世界、いや空間の常識は、この私しか作ったり消したりすることができない。要は私の思うがまま」

千春はギリギリと歯ぎしりをした。

「この勝負…もう着いたも同然ね」

雅は不敵な笑みを浮かべていた。

7ヶ月前 No.37

あすわど @ashufia336☆mykg9AZKZ6kq ★Android=3gSRKlbOZ8

「さて、どうやって追い詰めようかな?」

雅が手を開くと、そこに電気が走っている剣が現れる。

「まずは、その厄介な腕を落とそうか」

雅が剣を振るうと同時に、千春は忍び込ませていたナイフを投げる。

「予想通り」

雅はナイフを軽くあしらうと、剣に電気を強く走らせる。

「考えが甘いよ」

雅は剣の先を千春の顔の前に突き出す。

そのまま雅は腕を目掛けて剣を振る。

「クソガ!」

千春は魔力の塊を一気に放出した。

「くっ…!」

雅は避けることができず、直撃してしまう。

「何が…勝ち目がナイって?マダマダ勝負はこれからデショ?」

千春の目の色が更に紅く染まる。

(【制御崩壊】が2段階目に入った…?!)

雅はすぐさま体制を建て直し、千春のもとへ向かう。

「私は…マダ負けない!」

千春の周囲から強烈な衝撃波が発生する。

雅は衝撃波をもろに食らってしまい、再び吹っ飛ばされてしまう。

「くそっ!」

雅はすぐさま体制を建て直し、千春を見据える。

(この能力が効いてる間は空間を歪ませる事は出来ない…けど、身体能力が大幅に向上してる。下手すると、私が負ける!)

雅は懐からナイフを取り出して、千春に狙いを定める。

(一か八かの賭け…ダメだったら私じゃ敵わない相手だったって事になる)

そして、ナイフを思いっきり投げると同時に全エネルギーをナイフに集中させる。

(届け…!)

雅は心から願っていた。

7ヶ月前 No.38

あすわど @ashufia336☆mykg9AZKZ6kq ★Android=3gSRKlbOZ8

雅の思いは…届くことはなかった。

「やれやれ…貴方って、ソウイウ小細工するの好きダよね?」

千春は指でナイフを受け止めていた。

(駄目だったか…やっぱり私程度じゃ相手にならなかったのか…)

雅は愕然としていた。

次第に雅の作り出した空間が捻れて元の空間に戻っていった。

「サテ、じゃあ君もあの世に送っちゃおうか♪」

千春は腕をあげて空間を周囲の歪ませる。

(駄目だ、力が入らない…終わりか…)

雅は静かに目を閉じて覚悟を決めた。

「サヨウナラ」

千春が腕を降り下ろすと同時に刃物が飛び出し、雅を狙う。

瞬間、ガラスが割れ、雅の前に女性が立ちはだかり、巨剣を盾にして攻撃を防いだ。

「ふう…間一髪、間に合ったな」

正体は美知子であった。

「母さん…私…」

美知子は言葉を遮る。

「なにも言うな。私がカタを付けてやる」

美知子は巨剣を振り回し、廊下に突き刺す。

(【制御崩壊】は二段階ってところだな。まだ大丈夫だな)

「さて、千春。今からお前と私とのバトルだ。楽しくやろうぜ」

美知子はニヤリと笑みを浮かべながら言う。

「望むトコロ!」

千春も戦闘の構えをとり、互いに睨み合う。

(先手をとれば苦しい戦いになるだろう。まずは出方を伺わないとだな)

(下手に動けば警戒サレテ私が苦しくナル。相手の様子を見るベキだろうね)

(千春も美知子さんも睨みあったまま動かない…出方を伺ってるんだ…)

両者は睨みあったまま動かず、静寂の時が流れていた。

5ヶ月前 No.39

あすわど @ashufia336☆mykg9AZKZ6kq ★Android=3gSRKlbOZ8

先手をとったのは、千春の方だった。

「ジットシテラレルカ!」

そう叫んで美知子に襲いかかる。

「やれやれ、せっかちなやつだ」

美知子は片手で軽くあしらい、腹部に蹴りを入れる。

「…グッ」

よろよろと後退し、美知子を睨む。

「クソガ!」

念力なのか何なのか分からないが、床に散らばっているガラスの破片が宙に浮き、美知子に目掛けて飛んでくる。

「予想済み」

美知子はそれすらも片手で軽くあしらう。

「どうした?その程度か?」

美知子はつまらなそうな顔をして言う。

「キサマニマケテタマルカ!!」

さらに殺気を纏い、もはや断末魔のような叫びにしか聞こえないレベルに達した。

「制御崩壊3段階ってとこか。なら…」

美知子は左腕を差し出す。

「…!母さん…まさか…!」

雅は止めようとしたが力が入らない。

美佳子には何をしているのか理解できなかった。

「千春。私のこの左腕を切り落とすがいい」

唐突な言葉に千春も躊躇う。

「キサマ…ショウキカ?」

「ああ、正気さ。お前なんぞ右腕でも倒せるって確信したからな」

美知子はニヤリと笑う。

「ナラ、ノゾミドオリキリオトシテヤル」

千春は刃物を振りかざし、美知子の左腕を…切り落とした。

血が流れ、左腕は地面に転がっているのを美知子は見ていた。

「なんてことを…!」

雅は愕然とした顔をしていた。

「ふっふふ…」

美知子は笑い出す。

「ナニガオカシイ」

千春は戦闘の構えをとる。

「これで、思う存分楽しめる…なあ?【ネガヴォルス】?」

その名を聞いた瞬間、美佳子は驚きを隠せなかった。

「まさか…最強で最悪の覚醒能力、【怨骨】!?」

雅は意外そうな顔をしていた。

「貴女、知っていたの?」

雅は美佳子に問いかける。

「ええ、ある一族の呪いを受けた人に、【怨骨】という最強で最悪の覚醒能力を持っている子供が産まれ、今も尚、何処かで生きているって、お父さんが言ってた」

最強で最悪の覚醒能力…雅はじっと美知子の無事を祈るしかなかった。

「私の挑発に引っ掛かったのはお前が初めてだ…さあ、見せてやろう。最強で最悪の、【怨骨龍】の力をな!」

美知子の切り落とされた左腕から骨が形成されていき、龍のような腕へと変形する。

「母さん…」

雅は心配だった。この闘いが終わった後も美知子はあのままの姿で我々を襲ってくるかもしれない。

次第にそれはこの世に存在してはならない、歪で何とも言えない風貌になっていた。

「さて、おふざけはここまでにして本気でやり合おう」

美知子はあくまでも淡々とした口調であった。

「怨骨龍の力、とくと味わうといい!」

美知子はその言葉と同時に地を蹴り、千春へ向かっていった。

1ヶ月前 No.40
ページ: 1

 
 
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