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最後の手紙

 ( 初心者のための小説投稿城 )
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寝子 ★oguLGyeW3v2




今日、君と別れた。


今日、君に別れを告げられた。




何も気づかなかったんだ。



もっと、君といる時間を大切にしてきたら良かったね。



君と逢えて、君と話せて、君の彼女でいられて。







本当に、本当に、幸せだった……。




*最後の手紙/寝子*

2010/02/19 22:46 No.0
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寝子@remio ★oguLGyeW3v2_gp

*第二部 最後の手紙*

第一話 あの日から†


あの日から、二年と少しが経った。

もう私は、大学受験に向けて必死だった。


私が目指す大学、それは……○○大学。

ハルカ達5人と私で、同じ大学に行くって決めたんだ。

だから私は、東京で一人暮らしをすることになる。

まあ、受かればの話だけどね。

どうか、どうか、受かりますように。

受かったら、東京でハルカ達も大騒ぎできるもん。

もしかしたら、6人でアパートに住めるかもしれない。


だから、頑張るの。


十二時を過ぎるまで、私は毎日勉強をしていた。

このぐらいするのが、普通だよね?

大学受験に落ちて、浪人だなんて嫌。

おまけに、来週は学力テストがある。


ガリガリと筆圧が濃くなっていくのが、机の音で分かった。

絶対絶対、受かって東京に行ってみせる。



……って、誰かに恨みを晴らすみたいじゃん、私。



<♪♪ー♪♪ー>


ケータイが鳴り、私はケータイを開くと、夏樹から一件のメールが来ていた。

夏樹とは、北海道に来て初めて出来た友達だ。

今じゃ、北海道人の中では、一番の親友と言っても過言ではない。

でも、本当の親友はハルカ達5人だけどね。


【差出人:谷崎 夏樹
 件名:明日

あのさあ、明日七時半ぐらいに学校来てくれない?

ちょっと悩み事があって、どうしても会って言いたいの。

最近じゃあ昼休みや放課後は皆忙しいから、朝にしたんだけど……。

無理だったら無理って言って良いからね】



私は、このメールに返信した。



【宛先:谷崎 夏樹
 件名:明日

大丈夫だよー。

じゃあ、明日七時半頃行くね。

また明日ねっ!】





次の日、私は早めに起きて、学校に登校した。

一月を過ぎた北海道はとても寒くて、朝は起きるのが辛い。

約二年ちょっと前のあの頃は、大変だったな……。



――――……祐一、何処にいるのかな……。

会いたいよ。

お墓参りは、必ず命日には行ってるし、それ以外の日も、祐一に会いに行ってる。

でも、それだけじゃ満足できないよ……。


少し寂しい気分になってしまった。

頬をパチンと叩いて、一人で笑顔を作り、三年E組の教室への階段を上っていった。



教室には、夏樹が窓の外の景色をボーッと眺めている。


「……おはよう、夏樹」


「杏奈! おはよう! 良かった、来てくれて……」



夏樹は、少し悩みがあるような表情だった。

いつもは、ハルカみたいに元気の塊みたいな子なのに。



「どうしたの? 悩みって……」



「うん……あたしね……、

好きな人が出来たんだ」



少し恥ずかしげに言う夏樹は、私の目をしっかりと掴んで言った。

私は、驚いて声が出ない。



「……うっ……そ……」


「嘘じゃないよー。

その人はね……、三年A組の本郷 瞬って子なんだけど……知ってる?」


「し、知ってるけど……。

バスケ部で、E組の彼女の今野 京香さんと最近別れたって噂の子でしょ?」



今野京香という人は、結構美人だが、性格が少し悪い子。

自分から、告白して、自分から振ったという噂だ。

でも、自分から振ったのに、まだ未練が残ってるらしいという噂もある。



「うん……。

んで、いつか告白したいんだよね。

いつ、何処で、どんな風にやったらいいかなあ?」


「うーん……。

いつってのは……やっぱり2人きりになった時が良いと思うんだよね。

何処でってのも、2人きりになった場所で、あまり人が来ないような所。

どんな風にってのは、やっぱりシンプルに『好きです』って言うだけの方が、気持ちは伝わると思うんだよね。

あまり長文になりすぎないようにした方が良いかも」



「……さすが杏奈! やっぱり杏奈に相談して良かった!

じゃあ、今日にでも2人きりになったら告白するねっ」





その時、


<ガラッ!>



教室のドアが開く音がして、夏樹と私はドアの方を見つめた。

2010/08/29 14:10 No.101

寝子@remio ★oguLGyeW3v2_gp


ドアを開けたのは、なんと、今野京香だった。


「あら、柚子河さんと谷崎さんじゃない。

こんな朝早くからどうしたの?」


「ちょっと早めに杏奈と話したかったの。

今野さんは?」



夏樹が言った。

同じ年なのに、さん付けで話し合う私達って、何なの?


今野さんが口を開いた。



「あたし? あたしは、日直よ」


「そ、そっか」



私達は、そっけなく返した。



「何よ、何なのよ。

そっちがあたしに興味あるような感じだったから、あたしが話しかけてあげたのに」


「……はっ?」



夏樹は、意味わかんないと言わんばかりだ。

私は、夏樹が爆発しそうなのを抑える。



「はっ? とは何よ。

貴方達って、意味分からない。

じゃ、職員室でも行って来るわ」



<ガランッ!>


今野さんは、そう言い捨てると、ドアを乱暴に閉めて、職員室に行った。

今野さんの足音が聞こえなくなると、夏樹は我慢できなくなったのか、呟いた。



「……てめえの方が意味分からねえよ!

本郷君と付き合ってたからって、調子乗るんじゃねえぞ今野京香っ!!」


「な、夏樹っ。聞こえるって!」


「でも、杏奈もあいつの事意味分からないと思うでしょ!?」


「そりゃわたしも思うけど、ああいう人間なんだよ、仕方ないよ!」


「……あー苛々する」



夏樹は制服のポケットから鏡を取り出して、表情をチェックした。

ついでに、メイクも直している。

やっぱ、ハルカに似ているな。

ギャルの夏樹と、オネエ系(?)の今野さん。

正反対の2人だ。

これから、なんかすごい事になりそう。


夏樹には、私以外にもう2人、親友がいる。

山野由紀乃(ゆきの)って子と、小石亜里沙(ありさ)って子。

ほら、お葬式で夏樹と一緒に来てた2人。私は、この2人とはどうも話が合わない。

ぶっちゃけ、私はジャニーズが嫌い。

夏樹とこの2人は、ジャニーズが大好き。ファンクラブにも入ってる。

まあ、一緒に居てって言われたら居るけど、あまり話題が合わない。

だから由紀乃ちゃん&亜季と私の間には、いつも夏樹がいるから、やってこれた。


……あ、話がずれた。

私が言いたかったのは、夏樹は、由紀乃ちゃんと亜里沙ちゃんにも、本郷君が好きだって事を教えているらしいって事。

まあ、私にとってはあまり関係ないんだけどさ。

夏樹にとっては、この2人も大親友だって事。



――――この2人と夏樹の絆は、切れるはずが無いって事……。





昼休みになって、夏樹と私は教室で昼食を食べていた。


「ねーねー! 今日さぁ、最近出来た新しいお店行かない!?

●●って居うんだけどぉー」



夏樹は、ギャルだけあって情報通。

こういう事には、目がないんだから。



「あー知ってる! 女の子向けのお店でしょ?

カフェとかもあるよねっ」


「そーそー! 今日学校終わったら、真っ直ぐ行こうっ」


「わかった! 楽しみだねっ」



そんな話で盛り上がっている時、違うクラスの男子達数名が、こっちにやってきた。


「なあ、谷崎夏樹ってお前だよな?」


「……そーだけど?」



夏樹は、警戒というか、威嚇の目をしている。



「お前、瞬の事好きなんだろー!」


「は、はあ!? 意味分かんないんだけど」


「聞いたぞー!ある人物からなっ!!」


その男子達は、高らかに笑いあげながら夏樹のことを茶化す。



「ちょっと、いい加減にしてよ!!!」


夏樹は男子たちを追い払って、乱暴に席に着いた。



「……意味分かんない。

何で……なんであいつ等が知ってんの!?」



夏樹は机をドンドン叩く。

そして、私の目をじっと見て、言った。



「まさか……杏奈じゃないよね?」


「し、知らない! 私、あの人達と話したことないし……」


「あ……、そっか……」



夏樹は落ち着かない様子だ。

誰が……誰が言ったの……?



その時、夏樹が呟いた。





「まさか……由紀乃と亜里沙……!?」

2010/08/29 14:09 No.102

寝子@remio ★oguLGyeW3v2_gp


第二話 裏切り†


「ま、まさかっ! だって、あの2人は親友でしょ?」



「でも……あの男子達と同じクラスだよ? 由紀乃と亜里沙って。

最近、あたしとあまり話さなくなってたし。


もし……もし由紀乃と亜里沙が言ったんだとしたら……」



夏樹は両手で顔を覆った。

小刻みに体が揺れている。



「夏樹……」



私は席を立って、夏樹の隣に立つと、夏樹の肩を抱いた。

夏樹はしばらくの間、静かに泣いていた。



「ありがとう、杏奈。

だいぶ落ち着いた。


あのさあ、お願いなんだけど、今日の放課後に由紀乃と亜里沙と話をする。

だから、杏奈も一緒に居てくれない?

1人だと、不安だし……」



しばらくして、夏樹が口を開いた。



「もちろんいいよ。

私も、ちゃんと事実を知りたいし」



「ありがとう」



夏樹はニコッと微笑んだ。

いつもの夏樹の笑顔っていったら、口を大きく開けて、歯を見せるような笑顔なのに。

……こんな笑顔も出来るんだね。





少し笑いそうになったのを堪えていると、


<キーンコーンカーンコーン……>


とチャイム鳴り、夏樹と私は席に着いた。





最後の授業が終わり、私は夏樹と一緒に、由紀乃ちゃんと亜里沙ちゃんの所に行った。

由紀乃ちゃんと亜里沙ちゃんは、三年B組。

あまり良いメンバーは揃っていないクラス。

B組はちょうど、帰りのHRを終えた所で、すごく騒がしくなっていた。



「……由紀乃、亜里沙っ」



夏樹はB組の教室の前で、由紀乃ちゃんと亜里沙ちゃんを呼んだ。

人ごみだし、夏樹は緊張して声があまり出ていなかったけど、2人はすぐ気付いた。


「夏樹、どうしたの?」


「……ちょっと、聞きたい事があって」



私達4人は、もう誰もいない私の教室、三年E組に入った。

4人の靴の音がよく響く。



「あ……久しぶりだよねっ!」


夏樹は無理矢理明るく振る舞っている。


「……うん……」


2人はそっけない。

本当に、夏樹の事バラしたのかな……?



「あのさあ、話なんだけど……、


――――……あたしの好きな人の事、バラした……?」



夏樹は、声を震わせながら聞いた。

私も思わず緊張する。


でも、人の緊張をよそに、由紀乃ちゃんと亜里沙ちゃんは言った。



「……言ったけど?」

「バラしたけど、どうかしたの?」


「えっ……!?」

「う、嘘……」


私も思わず、口を開いていた。

なつきは動揺した様子で、由紀乃ちゃんと亜里沙ちゃんを見つめる。


「な、何でよ由紀乃! 亜里沙!」



「夏樹が嫌いだったから」



2人はしゃあしゃあと言ってのける。

夏樹は由紀乃ちゃんと亜里沙ちゃんの肩を揺さぶった。



「何で嫌いなのさ!?

嫌いなら、あたしから離れたらいいじゃん!」


「離れないのは夏樹でしょ!!」


「……えっ?」



「一人が怖いから、あたし達に無理矢理入ってくるんでしょう!?

夏樹が小学生、中学生だった時の事、よーく覚えてる。


夏樹はずっといじめられて、もういじめられたくないからって、あまりいじめに関わらなかったあたし達の中に入ってきた。

あたし達は、本当は夏樹の事なんか好きじゃなかった!

仲良くもしたくなかった!


でも、あのままじゃあ可哀想だから、仲良くしてあげてたの!

だけど、もうたくさん!!

あたし達の悪口言ってたんでしょう!?

“地味”、“根暗”、“さえない”って杏奈ちゃんに言ってたんでしょう!?


そうでしょ!? 杏奈ちゃん!!」



私は何も言えずに、その場に立ち尽くした。

夏樹も、2人の肩を揺さぶるのを止めて、肩から手を離した。





「だからあたし達は、仕返ししてあげたの!

陰口言う方が、絶対悪いんだからねっ!!」



2人は夏樹の肩をドン!と押した。

夏樹はその場に倒れこむ。


















「もうあたし達に、関わらないで!!!」



そういい捨てて、2人は教室を出て行った。

強く閉められたドアの音が、教室に大きく響き渡った。

2010/09/04 10:45 No.103

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「ね……ねえ、夏樹?

いじめられてたって、本当?」



さっきまで響いていたドアの音も、すっかり聞こえなくなった頃、私は聞いてみた。



「……うん。


最初は、先輩達からいじめが始まった。

あたし、小学校の頃から結構ませてて、お洒落とかネイルとか色々やっちゃってたんだよね。

なんか調子乗ってるって先輩方に言われて、靴とか私物やら、色々盗まれた。

それで、クラスからも浮いてきちゃって、いじめられただけ。


あたしが悪いだけ」



夏樹は俯いていた。

私は、そんな夏樹の表情を見ていられなかった。


夏樹が、いじめられていたなんて。

まあ、目立つからっていじめる人、いるもんな……。

私は、うざかったからいじめられたんだっけ。

夏樹にも、打ち明けよう。



「……私も、前の学校でいじめられてたんだよっ」



「……えっ!?」



「本当だよ。

前の高校で、私テニス部だったんだけど、部活をサボる人がいてね、

それで私が注意したら、ウザいって感じで避けられて、先輩方ともちょっとしたトラブルがあって、

先輩方にも同級生にもいじめられた。ちょっと真面目すぎたのかな……」



口から出る言葉が震えている。

あの頃の事は、もう思い出さないつもりだったのにね。

夏樹は、興味津々で聞いている。

夏樹が口を開いた。



「ちょっとしたトラブルって?」



「うーん……それは言えな――――」



私の言葉を遮って、夏樹はなおも粘った。



「杏奈、教えて! 軽く教えてよっ!」



私は溜め息を出して、“軽く”話した。

祐一の名前を出す時は、涙が滲んじゃった。

夏樹は、沙姫先輩やミクに対して、ものすごく怒ったり、失礼なことを口走ったりした。

でも、おかげで夏樹も私も元気になった。



「杏奈も、辛かったんだね……。

これからは、2人だけでも良いから、頑張ろうね!」



「Ok! 絶対離れないよっ」





そう言って、指きりげんまんをした。


















“2人だけでも、頑張ろう”って……――――。

2010/09/07 18:01 No.104

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第三話 2人だけ†


翌日から、夏樹と私は毎日待ち合わせをして、遅めに学校に行っていた。


私達E組の教室までクルト、騒いでいる声が廊下にまで響いてる。

ガラッとドアを開けると、皆は途端に静まり返った。



「おは……よ……」


夏樹と私は、少し小さめに挨拶をした。

男子も女子も、また視線を逸らすと、話し出した。


「――――……でね、○○が……」

「うっそぉマジ!?」





私達は、無視されているというわけではない。

ただ、浮いているだけなんだと思う。

だって、話しかけたらちゃんと答えてくれるし……。


ってか、夏樹と私は、由紀乃ちゃんと亜里沙ちゃんの悪口なんて言ってない。

いや、夏樹は私以外の人に言ったのかもしれないけど、私は夏樹がそう言ってるのを見たことが無い。


……何で私まで巻き込まれなきゃいけないのかな……。





「杏奈?」


少し、夏樹に八つ当たりしそうになっていた時に、夏樹に呼ばれて我に返った。

いけない、そんな事を言ったら、夏樹との関係も終わりだ。



「あっ、ごめん。何?」


「いや……、トイレ行かない?」



夏樹は、教室にいる皆を、嫌そうな目で合図した。



「あ、分かった。トイレ行こっ?」


「うんっ」





「……クスッ」

私達は、トイレに行こうと教室を出た時、誰かが鼻で笑う声が聞こえた。

私は、きっと教室の誰かだと思ったから、あまり気にしなかった。



「――――……?」

でも、夏樹は、立ち止まって後ろを見つめている。



「どうしたの、夏樹?」


「……なんか、誰かが鼻で笑うような声が聞こえた……」


「……私も聞こえたけど……気にしない方がいいよ。きっと教室の奴等でしょ」


「でも……」



夏樹の手を引いても、夏樹はなかなか歩き出そうとはしない。

夏樹がじっと見つめている方向、笑い声が聞こえた方向……


そこには、今野京香が、下を向いて、小さく微笑を浮かべている。





「……今野京香……」



夏樹は、今野京香の名前を呟いた。

今野京香を睨んでいる。



「……何よ? 谷崎さん」


今野京香は、顔に掛かった長くて綺麗な髪を後ろにまわすと、鋭い目つきで夏樹と私を見た。



「……今、貴方……笑ったでしょう」


「何のことかしら」


「とぼけんなや!!!」



教室は、静まり返った。

皆の視線が集まる。

私は、何も言えずに硬直していた。



「……笑ったわよ。それがどうかしたの?」


「何で笑ったんだよ」


「……貴方、同じことしか聞けないのね」


「答えろよ!!」




静まり返っている教室には、大きく響き渡る夏樹の声、

そして、静かに冷たく言い放つ、今野京香の声が響いている。


















「フフフ……あっははははは!!!」



今野京香は、いきなり高らかに笑い出した。



「何が……何がおかしいんだよ!!!」


















「誰かさんが流した嘘の噂せいで、貴方達の歪んだ顔を見てるのが楽しいの!!

あははははっっ!!!」






狂ったように笑い続ける今野京香の顔を、皆は引きながら見つめていた。

夏樹は、静かに聞いた。




「じゃ……じゃあ、その噂のせいであたし達は由紀乃と亜里沙に勘違いされてるんでしょ!?

その噂を流した奴、誰よ!!」



今野京香は口を開いた。


















「――――……柚子河さん。貴方でしょう?」

2010/09/18 14:19 No.105

寝子@remio ★oguLGyeW3v2_gp


……えっ?

私?

――――……私が、濡れ衣を着せられたの……?



夏樹が私を見つめてる。

教室の皆も、私だけを見つめてる。



「……あ……杏奈が言ったの……?」



夏樹の声が震えてる。

私も、声が震えて出ない。



「ち……違う……私は知らない……」



小さな声で私は囁いた。

夏樹は何も言わない。

私はもう何も言えない。


今野京香がわざとらしい澄ました顔で言う。



「そんな嘘、谷崎さんに通用するのかしら。

周りの皆には、通用しないわ!!


きっと谷崎さんも、柚子河さんを信じないのでしょう?」



「信じるよ」



「!」

「えっ……」



夏樹は、強い目で今野京香を見つめながら言った。

信じる、と。


私は驚きを隠せないまま、固まってしまった。

今野京香も、硬直している。



「な、何を言うの。

何で柚子河さんは信じて、あたしは信じないわけ!?

あたしを信じれないとでも!?

あたしが嘘を言っているとでも!!??」



「そうだよ」



夏樹は自分よりも背の高い今野京香を見下すような目で見た。

今野京香が、どんどん小さく見えてくる。

また夏樹が口を開いた。



「あたしは、あんたなんか信じない。

あたしを友達として、親友として見てくれる杏奈を信じる。


あんたの嘘になんか、惑わされないから」



「……チッ」



今野京香は小さく舌打ちをして、私に強くぶつかって教室を出た。

周りの皆も、またヒソヒソと話し始めた。



「夏樹……」



私はそっと呟いた。

夏樹はニッ、と笑うと、私を抱きしめた。



「……夏樹、信じてくれてありがとう」


「あたし、あいつなんか信じないよ。

杏奈は、転校してきてからあたしと友達でいてくれてるし。

あいつを信じるよりは、杏奈を信じた方が後悔しないっしょ。


たとえ杏奈の方が嘘つきだったとしてもね!」



「やだ、ひどーい!」



私達は久しぶりに、思いっきり笑えたような気がした。

2010/09/24 16:56 No.106

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第四話 消えない嘘†


あの日から私達は、今までより無視されることが少なくなった。

ちゃんと、話しかけたら返してくれるし。


それに対して、あの日からさらに今野さんが嫌われていってる。

……自業自得だな。

だって、あんな嘘を大胆にみんなの前で言うから逆にお見通しされるんだよ。

私は夏樹を信じている。

夏樹も私を信じてくれている。


ああ、これが相思相愛?

……なんちって。





「ねえ杏奈ーっ! 次はどの店行く?」



「じゃあ、▲▲行こう!」



私達は、夏樹と買い物をしていた。

何かここ最近、ずーっと休日が無かった感じがする。

精神的に焦ってたから?

何に私は焦ってた??

ていうか、今まで焦ってたの???


……??



ちょっと今までの事を振り返ってみよう。


事の起こりは、夏樹が本郷君の事が好きって事が噂になった。

その噂を流したのは、由紀乃ちゃんと亜里沙ちゃんだった。

あの2人は、夏樹があの2人の悪口を言っているらしいという噂から、本郷君の事を噂にした。

でも、夏樹はあの2人の悪口なんか言ってない。

悪口を言っているらしいという噂を流したのは、……きっと今野京香。


悪口を行っていた犯人だと、クラス中の皆から嫌われていた。



きっと、焦っていたことは……――――。





「……んなっ、……杏奈っ!」


「えっ? あっ、ごめん」


「何さっきからボーッとしてんのさ?」


夏樹は怒ったような、困ったような顔をしている。

私は夏樹のそんな顔を、面白いなーと見つめていた。



「……いや、何かここ最近……休日が無いような感じだったよね」


「……そ?」



私はガクッとした。

何で夏樹は、過去の事を気にしないんだろう?

私は俯いてた顔を上げ、口を開いた。



「だって、学校で色々あって、やっと一段落だー的な?」


「そーかい?」


「何かに焦ってた気がする」


「何に?」


「多分ね、焦ってた事は……」





「あ! あれ可愛くない!?」



私の言葉を遮って、夏樹はその品物の所に飛んでいった。

私は軽い駆け足で、夏樹の後を追った。


















――――……きっと私は、


またいじめに遭い

夏樹を失って

自分も見失って



孤独になる事を焦っていたのでしょう。

2010/10/05 16:12 No.107

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翌日の朝、夏樹と私はいつものように一緒に登校していた。


月曜日の朝って、いつもテンション下がる。

頭回らないし、眠たいし、学校では嫌なことばかりだし。

夏樹も、いつもテンションが高いって事はない。絶対にない。


……これからまた五日間、私達は苦しむのかな。



「杏奈ー、あたしだってテンション低いんだからさ、溜め息なんかつくなって」


「えっ? 私溜め息ついた?」


「うん、めっさ大きい溜め息。

昨日の買い物で疲れたのかもね!」


「うん……」


「大丈夫だよ、きっと今日からは今野京香が嫌われ者だと思うしー」


「そっか……そうだね!」



今、まだ寝ていた私の脳みそが、やっとこさ起動し始めた。

よし、これから五日間頑張ろう!





「おはよー」

「おはよう」

「はよっす」


眠そうなトーンの挨拶が、教室の中で飛び回っている。

私達はドアを開けた。



「杏奈、夏樹、おはよ!」

「はよー2人とも!」


「おはよう」



ほんの少し前までは考えられなかった。

皆が挨拶してくれることが。

中学生だった頃は、これが当たり前だったんだけどね。


当たり前に、感謝。



……今野京香が、まだ来ていなかった。

いつも、この時間には来てるのに。


……きっと、学校に来るのが怖いんだろうな。

また無視されて、陰口言われて。


そんなことをされるような事を、自分がやるからいけないんだよ。



その時、なつきに声を掛けられた。



「ねえ杏奈、A組行こっ!

……本郷君と話したいの。今までのことを全て話したいし」



夏樹が、最後の方の言葉は声を潜めて言った。



「OK、行こう」


2人でA組まで行って、本郷君を呼んだ。

本郷君は教室の隅で、本を読んでいた。

本にしおりを挟んで、こっちに歩いてくる。


……本郷君って、夏樹の事をどう思っているんだろう。

夏樹が本郷君の事を隙だって噂は、本人も聞いてると思うけど……。



「……本郷君、ごめんね。

あたしのせいで、変な噂広まっちゃって」



夏樹、声が震えてるし、1オクターブ上がってるよー?

それに構わず本郷君は言った。



「ああ、あれ? 気にしてないから大丈夫だよ」



そう言って、夏樹にニッコリ笑いかけた。

夏樹は、もう蕩けそう。

でも、ちょっと引っかかるところがあるらしい。



「気にしてない、というのは……?」


「噂だよ、何だと思ったんだよ」



本郷君は笑いながら言う。



「あたしのことなんか、気にしてないって事だと思った」


夏樹も笑って言った。

私も、笑って言った。



「それは違うよ。

じゃあ聞くけど、谷崎さんは俺の事どう思ってるの?」



夏樹の顔から笑顔が抜けた。

夏樹の輪郭に汗が流れてる。


どうするつもりなんだろう。夏樹は。





「――――……好き」



「!!」


私は驚いた。

本郷君も、少し驚いている。


でも、夏樹は顔を赤くしながらも、ちゃんと本郷君の目を見て言った。



夏樹がまた口を開いた。


「……付き合ってくれ……る?」





少しの間、沈黙が置かれた。

その沈黙を破ったのは、本郷君だった。



「いいよ」



すると、さっきまで消えていた夏樹の顔に、笑顔が戻ってきた。



「……ありがとう! これから、杏奈と本郷君とあたしで一緒に登下校しよっ」



夏樹は、すごく嬉しそうだった。

私も、もちろん嬉しかった。


……でも、心の奥底で、少し嫉妬もしていた。





こんな時、祐一がいてくれたら、こんな感情持たないだろう。


















一時間目が始まるチャイムが鳴って、私達は教室に戻った。

教室に戻る途中、すれ違ったある一人の子が私達を引き止めた。



「あっ、柚子河さんと谷崎さん……。

ねえ、谷崎さんって、昨日今野さんの脚を怪我させたの……?

今入院してるって、本当??」


「……へっ!?」





噂は、どんどん増えていく。

――――嘘は消えない。

2010/10/09 16:21 No.108

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第五話 狂い†


「え……それ、誰から聞いたの!?」



夏樹はその子を問い詰めた。

その子は一瞬考えたような顔をしてから答えた。



「えっと……、友達から……」



「じゃあ、後で教えて!!」



「わ、分かった……」



夏樹はそう言うと、すごい勢いで階段を駆け上がった。

私も急いで追いかける。

何とか、先生が教室に入る前に間に合った。


授業が始まって、私はずっとさっきの事を考えてた。

どうして……どうして夏樹がこんな目に遭わなきゃいけないの?

今野さんは、そこまで私達の事が嫌いなの?

嫌われるのは、自業自得なのに。

もし本当に怪我してたとしても、夏樹のせいじゃない。

だって、昨日は夏樹と私で買い物に出かけてた。

帰りは、9時過ぎだったし……。


――――放課後、夏樹と一緒に今野さんの家に行こう。

確かめよう。



……ってか、あのさっきの子見かけない子だったな。

転校生が、今年来たってのは聞いてたけど、話してなかった。

何故あの子も、今野さんが怪我した事を知っているのだろう。





――――……ああ、頭痛くなってきた。



授業に集中しなくちゃ。





授業が終わり、夏樹と私はさっきの子に話を聞きに言った。

さっきの子の名前は藍澤花歩(あいざわかほ)という名前で、やっぱり転校生だった。

どうやら、転校してきてすぐに今野京香に付きまとわれて、色々脅されていたらしい。



「『あの子には近づくな』とか、『あたしの本性バラしたらもう仲良くしてあげない』とか、

色々言われてたんだよね……」



「じゃあ、今野京香の怪我は? 今野京香が自分でやったの?」



「昨日、京香ちゃんと私の二人で学校で補習受け終わって、

帰る準備してたら、『谷崎と柚子河が許せない。花歩もそう思うでしょ!?』って言われて、

『う、うん……』って曖昧に答えたら、『だったら今階段から飛び降りるから、あいつ等のせいにして』

って言って、本当に階段から飛び降りて……。


私、すごい怖くて、補習受けてた子達に『谷崎さんと柚子河さんが京香ちゃんのこと突き飛ばした』って

嘘言っちゃったんだ……ごめんね……。


京香ちゃんの脚は、捻っただけだから、今は家に居ると思う」



「人騒がせな奴だね、ホント」



夏樹は冷たく言った。

夏樹の目は、傷ついたような目をしていた。



「本当に、ごめんなさい」



「あっ、気にしないで。

藍澤さんのせいじゃないし」



そうは言いつつも、夏樹は元気が無い。





夏樹と私は、放課後に今野さんの家に訪ねることにした。

2010/10/16 17:10 No.109

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8年前 No.110

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第六話 夏樹の別れ†


「え……何で?」


やけに冷静な夏樹が問う。

私は今野さんの剣幕にうろたえて、何も言えない。



「私はまだ瞬を愛してるの!!」


「はあ!? あたしの方が愛してるし!!」


「何処にそんな証拠があるのよ!? 見せてみなさいよ!」


「やだね! 人に見せるものじゃねぇよっ!!」



なんて低レベルな口喧嘩だろう。

顔が真剣だけど中身は滅茶苦茶。

小学生の方がもうちょっとちゃんとした口喧嘩できるよ。

てか、ちゃんとした口喧嘩ってなんだ?

自分の考えていたことがなんだか面白くなってきて、プッと吹き出してしまった。


「何笑ってんのよ!!」

「ちっとも面白くねぇよ!!」


「ご、ごめんごめん」


私は2人に背を向けて、笑いを堪えていた。

2人の口喧嘩はまだまだ続く。


「未練なんか残してんじゃねぇよ! 振ったのはお前だろ?」


「瞬は他校にに好きな人がいるって言ってたわ!

だから振ったのよ!!」


「!!」



夏樹が黙る。

今野さんも黙る。

私も何だかフリーズしてしまった。



「……う、嘘でしょ? だって瞬はあたしと付き合ってるし……」


震える声で夏樹は言った。

今野さんは冷静な口調で言う。


「いいえ、本当よ。

私、瞬のケータイの送信ボックスに『愛してる』とか『もう一回付き合わない?』

っていうメール、見たもの」


「何でお前は彼氏のケータイ見るんだよ!

知らない方が幸せでいれたじゃんか!」


「私は恋人のケータイをチェックしないと気が済まないのよ!

瞬に聞いてみたら?

『他校に好きな子、いるの?』って」



夏樹は黙り込んだ。

すると、制服のポケットからケータイを取り出し、誰かに電話を掛けた。



「……もしもし、瞬?

あたし、夏樹だけど」


《あぁ、夏樹? どうしたの》



ケータイから本郷君の声が聞こえて来る。

今野さんと私は、夏樹が立って電話する格好を見つめていた。



「他校に好きな子いるんでしょ」



唐突すぎるよ夏樹!

本郷君もびっくりだ。



《……えっ?》


「あたし、知ってるよ。瞬の好きな子が他校にいるってこと」


《ま、待てよ。何で知ってるんだ?》


「ほら。やっぱり居るんじゃん」


《い、いや居ないよ》


「嘘つけ! あたし今野京香から聞いた!!

だからあんたは振られたの!!

あたしと別れてさっさと他校の子と付き合えよ!!


もうあんたとなんか別れる。じゃね」


《ちょっと待っ……》



<プチッ ツー ツー ツー>





「……あの馬鹿野郎……」



夏樹は電話を切った瞬間、ケータイが壊れそうなほど強く握り締め、そう言い放った。

今野さんと私は、夏樹を驚いた目で見つめていた。

8年前 No.111

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「どう? 瞬と別れたよ?

これで仲良くできるっしょ」


夏樹は平然と言う。

今野さんは戸惑いながら言った。


「な、何て身勝手なの!? 瞬の気持ちも考えたら!?

瞬は貴方の我が儘に付き合ってくれてたのに……」


「じゃあ何なんだよ!!

どうしたらあんたと仲良くなれんの!?」


「……っ!!」



今野さんが黙りこくって俯いた。

私も何だか俯いた。



「……どうして私なんかと仲良くしたいのよ」


今野さんがぶっきらぼうに言う。

夏樹は落ち着いた口調で言った。



「嫌われる辛さは、あたしが一番よく知ってる。

救われる嬉しさも、あたしが一番よく知ってる。


杏奈に救われたんだよ。あたし。

杏奈も、嫌われる辛さを知ってるから救われる嬉しさってのを知ってる。

それに杏奈は、救う嬉しさも知ってる。


……あたしは、救われる嬉しさも救う嬉しさも感じたい!!

だからこんなにしつこいんだよ!

何であんたは分かんないの?

分かろうとしないの?


あんたは嫌われることに悲しい親しみを覚え始めてる。

嫌われるのが嫌でも、怖くても、そう仕向けてることもあるんじゃないの……?」



夏樹がしゃがみこんで泣く。

私は傍に駆け寄って、肩を抱いた。

今野さんは固まったまま、顔を上げずに俯いている。

今野さんの俯き加減の顔から、涙が零れていた。



「……私は、嫌われる方が楽だと思っていたんだもの。

一人のほうが楽だって知ってるもの。

人間関係で悩んでる人達を見てると、不思議でたまらなかった。

何で悩んでまで友達を欲しがるの? 裏切られるのが最後なのにって。


でも、人間関係が上手くいってる人達は、憎くて仕方なかった。

怨んで怨んで、その仲を壊してやりたかった。

貴方達の仲もね……」



今野さんは、また黙る。

夏樹は今野さんを見て、涙を拭い、口を開いた。



「じゃ、人間関係が上手くいってる人になればいいじゃん。

あたし等三人で、上手くいけばいいんじゃないの?」


「……そうね。そうなりたいわね」



夏樹は今野さんの近くに歩み寄る。




「なりたいじゃなくて、“なる”んでしょ?

……京香っ」



京香という名前で呼んだのは、今日が始めてだろう。

今野さんはその場で泣き崩れてしまった。


これが今までの分の涙だったのだろう。



私達は今野さんが泣き止んだときに、今野さんの家を後にした。

7年前 No.112

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第七話 怒り†


「おはよー杏奈! 京香!」

「おはよー」

「おはよう」


夏樹と今野さんと私は一緒に登下校をすることにした。

昨日泣いた夏樹と今野さんは、少し目が腫れていた。

夏樹はメイクしてるから、あんまり分からないけど。

今野さんも、少し薄化粧をして目を誤魔化してる。

気付いてほしくなさそうだから、気付かないフリするけどさ。



「……ねえ、今野さんってさ……」


少し沈黙が置かれていたのを、私が切り出した。

今野さんは目は合わさないけど微笑んで、「京香で良いわよ」と言う。


「……きょ、京香ってさ……

数学の宿題やった?」



うわっ、何て下手くそな会話だろう。

京香も夏樹も、同じ事を思ったのか、プッと吹きだした。


「やったわよ」


「そ、そっか……私、やってないんだよね。見せてくれる?」


「あたしもやってない! 京香見せてっ」


「杏奈は良いけど、夏樹は嫌よ。

これからもずっと、夏樹の宿題係なんてごめんだわ」


「ひでぇ!!」



アハハハッと笑いながら学校の玄関で靴を履き替えていると、偶然本郷君達の男子グループが登校してきた。


「……あ」


夏樹は本郷君の方を一瞬見て、目を逸らした。

「教室行こっ、杏奈、京香」



「夏樹っ!!」


本郷君がなつきの名前を呼ぶ。

夏樹はそれを無視しようとしたけど、本郷君は夏樹の肩を□んだ。


「何なんだよあの電話! いきなり電話で別れを切り出されてもこっちが困るだけだろ!

俺を心配させんな!!」


「だって、瞬は他校に元カノがいるんでしょ?

忘れられないんでしょ?

まだその子の事を好きなら、あたしの事を見つめてくれるわけないじゃん。

一緒にいても、苦しいし」


「そんなことない! 俺は夏樹が一番好きだ!」


「そんなこと言うくらいだったら、他校の子とあたしのどっちかに決めてよ!

玄関でこんな事を怒鳴るなんて恥ずかしいったらないから!!

この未練たらたら野郎!!」



本郷君は一瞬傷ついた目をしてから言った。



「じゃあ決める! 一週間以内には決めるから!!」


「何でそんなに時間が必要なのさ? 今決めればいいじゃんよ今!!」


「お前もあっちの子も大切だからだよ!」


「嫌だ!! 今決めて!

あたしはいつまでも3人で恋愛ごっこなんかしていたくないの!!


…………今日の放課後、あんたの教室前で待ってるから」



夏樹はすごい剣幕で、京香と私の腕を引いて教室へ駆け上がったのだった。

周りの玄関にいた子達は、全員こちらを見つめていた。

7年前 No.113

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放課後になり、私と京香は夏樹の元へ駆け寄った。


「夏樹……一緒にA組行く?」

「私達も一緒に行くわよ」


私と京香がそう言うのに対して、夏樹は真剣な眼差しで言った。


「いや、いい。

あたしの問題で、瞬とあたしの2人の問題だし。

先に帰ってて良いよ。誰かと帰るから」


「……でも……」


私の声を遮って夏樹は続ける。


「いいから! 心配すんなって」



夏樹はそう言って親指を立てて、ニカッと笑い、A組へ歩いていった。

その場に残った京香と私は、お互いの顔を見た。


「どうする? 待ってる?」


私がそう言うと、京香は首を振った。


「いいえ、やめておくのが良いと思うわ。

……夏樹も、ああ言ってたし」


「……そっか」



私は少し元気なく答えた。

京香はクスッと笑って歩きはじめた。

私も置いていかれまいと、京香の隣に走っていく。



……何故私よりも、京香が夏樹の事を分かっているの?

私の方が仲良いのに。

仲の良い時間も、私のほうが長いのに。

何で、京香が……。



「杏奈、聞いてる?」


ハッと我に返る。

京香が心配そうな顔で私の顔を覗きこんでいた。



「あ、ごめん。何て言ってたの?」


「杏奈は、これからの将来どうするの? って」


「あ、えっと……前の学校の親友と、同じ東京の○○大学で勉強する。

東京では一人暮らしか、親友と何処かの家を借りる。

将来は歌手になりたいの」


「歌手? 良いかもね、杏奈って歌上手だし」


京香が澄ました顔で微笑む。

私の何を詩ってそう言えるのだろう。


……私、さっきから京香に対して何考えているの?



「そ、そう?」


「だって、この前の音楽の歌のテストで、先生の高評価をもらってたじゃない。

その親友達も、歌手を目指しているの?」


「あ、ううん。全員なりたいものはバラバラだと思う」


「……じゃあ何で、同じ大学に入りたいの? 東京で一人暮らしするまで、親友と同じ大学入りたいの?」


「え……?」


「だって、歌手になりたいなら近くの音楽専門学校があるじゃない。

まあ、東京の方が沢山道はあって楽しいと思うけどね」


「う、うん……」



何だろう。今日の私。

京香に対して、すごく苛々してる。

そんな自分が、嫌だと思った……――――。





翌日、夏樹はいつもの待ち合わせ場所にはいなかった。

だから、京香と私の2人で登校する。

京香といると、昨日みたいにまた苛々してしまいそう。

夏樹、学校に来てくれてるかな……。


夏樹は、学校には来ていた。

教室で友達と話してた。


「あ、おはよう杏奈、京香」



「おはよう……夏樹」


「夏樹、今朝はどうしたの?」



「いつもの時間だと、瞬に会うかもしれないから、早めに来てたの。

連絡無しでごめん」



夏樹は顔の前で手を合わせる。

いつもと変わらない夏樹だ。


「夏樹……昨日は本郷君とどうなったの?」


「ああ、あいつ?

きれいさっぱり別れてやったさ!

『決めた?』ってあたしが聞いたら、『もう少し時間をくれ』って言われて、

『決められないの?』って聞いたら、『急いで決めることじゃない』だとさ。

『あたしの“いつまでも恋愛ごっこはしていたくない”って言葉の意味、分かってる?』って言ったら、

『元カノもお前みたいなタイプだから、あっちからも似たようなことを最近言われてるんだよ』って。

二人の女から同じこと言われるなんて馬鹿みたいだと思った。

『いつまでも他校の子のせいにすんな、決められないならはっきり言え』ってあたし言ったのに、

あいつったら悲しそうな顔しちゃってさ。

もう好きになれないと思った。

『もうあんたには用は無くなった。さよならしよう』って言って、あいつを置いてその場から離れたんだ。


何であんな奴に惚れてたんだろ。自分でも意味不ー」



と言って夏樹は笑った。

私も京香も、少し苦笑いも入っていたけど、笑った。

本郷君と別れたと聞いて、私はなんだかホッとした。


……最近の私は、なつきに何の感情を抱いているの?

GLとかじゃないけど……依存したいの? 私って。

京香にも私は、何の感情を抱いているんだろう。


わかんないよ……――――。

7年前 No.114

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第八話 2人への思い†


ぶるっ。

「寒……」


寒さで目が覚めた。

まだ5時じゃん。

……ってか、頭痛い……。


おでこに手を当てると、ものすごく熱い。

1月の冬の寒さに負けて、熱が出た。

やばいじゃん。もう少しで大学受験なのに……。

早く治さなきゃ。


布団の中で丸まって、私は必死で寝ようとしたけど、駄目だった。

まるまる2時間起きっぱなし。

眠いしだるいし、さっきよりさらに具合が悪くなってる。

今日は学校を休もう。


そう決心し、目を閉じるとお母さんの声がした。



「杏奈ー、起きなさーい」


「……んー」



二階を上がる足音が聞こえる。

お母さんの足取りだ。


「どうしたの? あら、熱あるんじゃない。顔が熱いわ」


「うん……寒くて熱い」


「そりゃ熱の症状ね。今日は学校休みなさい」


「うん……」



熱出すのなんて、久しぶりだ。

久しぶりすぎて、ダルさも二倍以上に感じられる。

今思えば「寒くて熱い」って、言ってることの筋通ってないよね。

まあいいや……今日は寝よう。





パッと目を覚ますと、もう17時。

10時間ぐらい眠っちゃった。

パジャマのままだったから、一応寝やすい私服に着替えた。


さっきに比べると、少しは体調が良くなった気がする。

少し本でも読もうかな、と立ち上がったとき、インターホンが鳴った。


<ピンポーン……>

「はーい?」


お母さんが玄関まで向かう音がする。

しばらくすると、母さんが階段を上がってきた。


「杏奈? 谷崎さんと今野さん? が来ているわよ」


「えっ」



驚いて一階に降りると、制服姿の夏樹と京香が立っていた。


「体調大丈夫? 杏奈」


「夏樹、京香……」


「お見舞いに来たのよ。顔赤いわね」


京香が笑って言う。


「うん……。わざわざ来てくれてありがとう。上がってく?」


「わー嬉しい! 久しぶりにトークしよしよ」


夏樹が笑って言う。

夏樹の笑顔を見ると嬉しいけど、夏樹の隣で笑ってる京香を見ると複雑な気持ちになる。


「杏奈、2人に風邪うつしちゃうわよ」


「あっ平気です! あたし、バリバリ元気ですから」


夏樹が笑って言う。

私は、2人を自分の部屋に連れて行った。



2人分の座布団を引いて、2人を座らせた。



「もしかして、邪魔だった? 違う意味でお邪魔しますだね」


プッと私と京香は吹き出した。

夏樹の笑顔は、いつもと少しも違わない。



「ちょっと待っててね、お菓子持ってくる」


「あ、構わないで。少し話すだけだから」

「そうだって。杏奈は具合悪いんだからさ」


「……そっか……ごめんね」


「何で謝るのよ」


京香が笑って言う。

京香の笑顔って、私の顔を歪ませる……。

何でだろう。


「今日貰ったプリント。このプリントね、明後日締め切りだってさ」


今日私が休んだ分のプリントを持って来てくれた。

学校でするような話を少ししているとき、私が切り出した。


「ねえ、2人は将来どうするの? 夏樹?」


この前京香と話したときには、私だけが喋って、京香のは聞けなかった。

夏樹のを私は聞いたことがない。

だから、聞きたかった。


「あたし? あたしは美術の専門学校行く」


「美術……か」


「なに? がっかりしたの?」



夏樹はいたずらっぽい笑顔で問いかける。

私は少し恥ずかしげに「うん」と言ってみせた。


「美術だったら、隣の町の●●美術専門学校?」


京香が夏樹に聞いた。


「そう! よくわかったね、京香!」


「私も其処を目指してるのよ! 一緒に頑張りましょう」



……何だか居心地が悪い。

二人で話すなら、学校で話してよ……。

何で私の家に来たの?

なんか京香が、夏樹を独り占めしてるみたいで嫌……――――。



「今……私と話してたんだから、京香は入ってこないでよ!」



私、いつの間にか叫んでた。

なんてことを言ってしまったんだろう。

2人とも驚いた表情で私を見てる。





何に怯えているの?

何を守ろうとして怒っているの?

7年前 No.115

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「え……杏奈、どうしたのよ」

「杏奈、大丈夫? 顔色悪いよ」


2人が驚いている。

私は急いで取り繕った。


「あ、ごめんっ。

体調悪くて、苛々してたの……」



「……私がいると、邪魔?」

京香が悲しげな目で俯く。



「そんなことないっ」


「杏奈、落ち着きなって。

京香も、被害妄想はやめなよ。杏奈が京香のこと嫌いになるわけないじゃん」


「でも……」

「私は……」


私と京香はそう呟きかけて、止めた。

夏樹が少し考えてから、口を開いた。


「今日は帰る。

杏奈は、明日具合が良ければ学校に来なよ?

いつもの場所で、8時5分頃待ってる。

10分になったら先に行くから、早く起きれよー」



そう言って笑いながら、夏樹は鞄を肩に掛けた。



「帰ろ、京香」


「……ええ、そうね。

杏奈、お大事に」


「あ……送るよ」


私は元気の無い声で言った。

玄関まで私はよろよろしながらついていく。


「何言ってんの! 具合悪いんだし、その格好じゃさらに悪化するぞ」


夏樹がケラケラと笑って、私のお母さんに「お邪魔しました」と言って、家を出て行った。

京香もお母さんに頭を下げて、私に手を振りながら夏樹と歩いていった。



私は自分の部屋に戻り、ベッドに腰掛けて頭を抱えた。

どうしよう。これからどうやって京香と接したら良いんだろう。

この何とも言えない感情。





なんだか、京香に夏樹を取られるような不安。

私が一人になりそうな不安。





自分の心が安定しない……――――。

7年前 No.116

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第九話 新しい自分†


翌日、私はいつも通りの待ち合わせ場所へ向かった。

だいたい8時5分だったけど、2人はもう来ていた。


「おはよう夏樹、京香」


「おはよー杏奈!」

「杏奈、おはよう」



私達は学校へ歩き始めた。

まだ具合が悪いのか、少し眩暈がする。

でも、今日学校へ行かないと、夏樹と京香の2人がさらに仲良くなるような気がして、休まずにはいられなかった。



「……杏奈、大丈夫?」


「……えっ」



京香が心配そうな顔で私を見つめている。


「顔色が悪いわよ。まだ本調子じゃないのに無理して来たの?」



「あっ、ほんとだ。杏奈、大丈夫?」


夏樹も心配そうな顔で私を見つめる。



「え? う、ううん。大丈夫!

昨日は昼に寝すぎたから、少し寝不足なの」


「そっか」

「無理しないでね」


寝不足なのは本当。

だって、昨日は昼に10時間も寝ちゃって、夜中の2時頃にやっと眠れたから、5時間しか寝ていない。

眠気と眩暈に格闘しながら、私達は登校した。


「おはよう!」

「おはよう杏奈、夏樹、京香!」

「杏奈、体調大丈夫なの?」


教室に入ると、クラスの女子達が私たちの元に集った。

私は「うん、大丈夫」とか言いながら、自分の席に着いた。





数学の授業が始まり、眠い目を擦りながら板書をしていると、前の席に座っている夏樹からメモが届いた。


【杏奈ぇ

うわぁあああ数学めんどくてタヒぬ((
眠すぎてたまらん←
返事くれないと寝るー←

By.夏樹】



ギャル文字で短文の手紙だった。

私も眠かったので、返事を書いた。



【夏樹へ

わたしも死ぬー(
眠いのはお互い様だね。

杏奈】



隣の席の男子が迷惑そうな、嫌そうな目で私達を見ていた。

でも、よく騒ぐのは男子だし、いつもこっちは我慢してるから、無視することにした。

夏樹はあくびをしながら手早くメモを返す。



【杏奈ぇ

杏奈が死ぬって言うなんて、珍しい!
ねねね、昨日から気になってたんだけどさぁ、杏奈って京香のこと嫌いなの?

By.夏樹】



ドキッと心臓が脈を打つ。

夏樹は私の本心に気付いているの?

隠しているつもりだったのに。


夏樹には……お見通し!?


震える手で、また返事を書く。


【夏樹へ

え……何でそう思うの?
夏樹も京香もどっちも好きだよ?

杏奈】


夏樹の席にメモを投げて、顔を覆った。

どうしよう。夏樹が私のことを避けるようになったら……。

私はまた独り。

高校一年生のときの、あのときみたいに。


夏樹から、また返事が来た。


【杏奈ぇ

杏奈、嘘ついてるでしょ?
杏奈は嘘を吐くとき、吐いているときには、自分の好きな人を優先してる。
上手く言えないけど、今までの杏奈だったら自分にとって大切な人を後に回してるよね?
だから、今まで“京香と夏樹”だったのに“夏樹と京香”になっている。
自分で“杏奈の大切な人”だと思い込んでるのは自重するわ←
何で嫌いなのさ?

夏樹】


もう駄目だ。

夏樹には全てお見通し。

たった二年間ちょっと一緒にいただけで、こんなにも私の事を知られていたんだ。

ハルカ達も、私のこういうところに気がついているのかな……。

私は正直に、本当のことをメモに書いた。


【夏樹へ

うん。今は少し、京香が嫌なの。
何でだろうね。
ごめんね、こんなこと言って。
ずっと仲良くいたかったのに。

杏奈】



夏樹は、私の感情を受け止めてくれるだろうか。

少し経って、夏樹からの返事が来た。





【杏奈ぇ

今日の放課後、この教室で話し合おう。

夏樹】

7年前 No.117

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「京香、杏奈が話あるんだって」

「えっ? 話って何?」


夕焼けの色に染まり始める教室で、夏樹と京香と私は話し始めた。

私は上手く口が開けず、少し黙り込んでしまった。

夏樹がそれを見て、代わりに話してくれた。


「杏奈がね、京香のことが少し嫌なんだって」


京香はびっくりした表情で、私の事を見つめた。


「なんで? 私、何か嫌なことしたかしら?」


私は首を横に振る。それなのに、言葉は出ない。

夏樹が口を開いた。


「なんで嫌いなのさ? あたしも分かんないよ。

京香に嫌う要素、無いじゃん。今は」



京香の顔が少し引きつった。

夏樹が慌てて取り直した。


「あっごめん。言い方悪かったね」

「大丈夫」


京香は少し微笑んで、私を澄んだ目で見つめなおした。

「どうしてなの? 杏奈。言って?」


私はボソボソと小さな声で言った。



「京香に……夏樹を取られちゃうような気がした」





しばらく沈黙が置かれた。

沈黙を破ったのは夏樹だった。



「……あたしは物じゃないしっ」


3人が少し笑ったけど、京香はすぐ真剣な顔になる。



「何故そんな風に考えるの? 私は杏奈も夏樹も好きよ?

何かそんな風に不安にさせること、私した?」


「してないけど……何か、不安なの。

転校してきて、いつも傍に居てくれてきた夏樹が、誰かと話してると不安なの……。

京香以外でも、いつも不安だった……!

また、独りになっちゃうのが怖かった!

独りは怖いってことを、共感してくれる人が夏樹だったから、離れたくなかったの!!」



「また、独りになっちゃうのが怖かった、って?」


私は、はっとして口を塞いだ。

京香が吃驚した顔で私の目を見つめてる。

夏樹も、私の剣幕に驚いている。

私は、もう心の奥に閉じ込めていたものを、また開けてしまった。

過去のことなんか、もう思い出したくなかったのに。

私は俯いて、黙りこくった。

夏樹が京香に教えてくれた。



「杏奈は、前の学校でいじめに遭ってたの」


「えっ……!?」


「あたしもそう。小学生、中学生のときにいじめられてた。

いじめのおかげで杏奈と仲良くなったんじゃないけど……。

何か感じるものがあったっつーか……」



夏樹が照れ笑いしながら言う。

京香が笑う。

私も気付いてたら笑ってた。

7年前 No.118

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第十話 光†


「あたしは杏奈のおかげで今の自分になれた。

杏奈もあたしのおかげで、元の杏奈に戻れた、と思う。

あたしも不安なんだ。いつ杏奈が離れるかが怖くて」



夏樹が悲しげな目で見つめる。

京香も息をのんで、夏樹の言葉を聞いていた。

夏樹がまた口を開く。


「でも……杏奈と京香は、信じてもいいよね?

由紀乃と亜里沙みたいに……裏切らないよね?」



夏樹の訴える目に涙が滲む。


「裏切らないよ」

「裏切らないわよ。私も」



少ししんみりした所で、教室のドアがガラッと開いた。


「なつ……きっ!

……あ、お取り込み中?」


ドアを開けたのは、由紀乃ちゃんと亜里沙ちゃんだった。

京香を見つめる2人が、目を見開く。



「あっ、あたしっ、夏樹のこと裏切って……

信じなくて、ごめん!!」

「あたしも、夏樹のこと信じなくてごめんね!!

何であたし達、今野さんのこと信じてたんだろ……あっ、言ってごめん。今野さん」


「由紀乃、亜里沙……」


京香の顔が歪んだ。

夏樹が困惑の表情を浮かべて、言った。


「なっ……何で、あたしに謝るのさ?」



亜里沙ちゃんが言う。


「今日玄関で、藍澤花歩ちゃんに会ったんだ。

花歩ちゃんがが教えてくれたの。

『京香ちゃんと夏樹ちゃん……仲良いみたいだよ』って。

それで吃驚して……急いでここまで来て、謝りに来たの。

あたし達から裏切ったのに、今更遅いかもしれないけど、また仲良くしてくれる……?」



夏樹が満面の笑みになった。



「もちろん!

あたしも……ごめんね。これからも仲良くしよっ」



「私も……ごめんなさい。

私が流した嘘のせいで、貴方達の仲を引き裂いて……」


「いいんだよ、京香」



京香が涙を少しずつ流しながら言う。

夏樹は微笑んで、京香を抱きしめた。


夏樹が本当に嬉しそうな顔で、由紀乃ちゃんと亜里沙ちゃんと笑っている光景を、京香と私は少し離れて見つめていた。

夏樹が本当に仲良くしたかったのは……由紀乃ちゃんと亜里沙ちゃんだったのかもしれない。

京香と私は、夏樹の友達では二位なんだなって分かった。

でも、僻むことはしなかったんだ。

どこか心の奥底で、私は夏樹よりもハルカ達の方が大切だったことに気が付いた。

全ての人と、一番の親友になれるはずがない。

それでも、全ての人の大切な人であれたらいいんだ。

やっと、そう思えたよ。



「京香、帰ろう」

私は静かに、でも明るい声で言った。

京香は涙を拭って、微笑した。


「そうね。夏樹、今日は杏奈と2人で帰るわ」


「えっ……いいの?」


「いいのよ! それじゃ」

「また明日ね! 夏樹、由紀乃ちゃん、亜里沙ちゃん」


「……ありがとう」





玄関で靴を履き替えて、外に出ると雪が積もっていた。

校門の近くの木の下で、1人の小柄な女の子が立っていた。


「柚子河さん、京香ちゃん……、上手くいった?」


「藍澤さん……! うん、上手くいったよ!」

「ええ。花歩……ありがとう。今まで、我が儘言って迷惑掛けたわよね。ごめんなさい」


「ううんっ、……京香ちゃんとはこれからも仲良くしていきたいの」


「ありがとう……花歩、一緒に帰らない?」


「うんっ! 一緒に帰りたかったの! 柚子河さん、一緒に帰ってもいい?」


「いいよっ、一緒に帰ろう!」





何だか今日で、これからのすべての事が上手くいくような気さえした。

7年前 No.119

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あの日から、二ヶ月が経ち、今日は卒業式。

その間に私は東京の○○大学の一次試験、二次試験を受け、合格できた。

ハルカ達5人も、無事合格できたらしい。

そして、大学では小さなペンションで暮らすことになった。

すごく楽しみ。

夏樹も、由紀乃ちゃんと亜里沙ちゃんと同じ大学に進むそうで、京香と藍澤さんは、2人で遠くの大学に通うらしい。

でも、仲のいい人と同じ大学に行けるなんて、幸せだよね。

受験も終わり、皆も安定した気持ちで卒業できる。


この制服を着るのも、今日が最後なんだ……。



「なしたの? 杏奈」


「えっ」


夏樹と京香が、私の顔を覗きこんでいた。


「暗いよ? 卒業して、皆と離れるのが寂しいの?」


「うん、まあね。転校してきて……大変なこともあったけど、色々楽しかったかもなって」


「ふふっ、そうね」



場所は教室。

皆がやがやと騒がしい。

由紀乃ちゃん、亜里沙ちゃん、そして花歩ちゃんは、違うクラスだから今は一緒にいない。

卒業式が終わったら、この6人で買い物に出かける予定。

もちろん、この制服で。プリも撮る。

今日は大騒ぎするんだ。


卒業生が呼ばれ、体育館に入場した。

1人1人の卒業証書授与が行われる。

私は出席番号が最後のほうだから、自分の番まで考え事をしていた。



色々あったなあ……。

東京から北海道に転校してきて、夏樹と仲良くなれた。

ハルカ達との文通も楽しくて……。

でも、辛いこともあった。杉森君のこと。

京香に、色々嫌なことされたこと。

夏樹が本郷君と付き合って、別れたこと。

本当に色々あったけど、どれも大切な経験。

今ならありがとうって言えるよ。

ありがとう……――――。



校長に名前を呼ばれて、卒業証書を受け取る。

その時、小さな声で「ありがとう」と呟いたので、校長が少し驚いた顔になった。

少し微笑んで、ステージからの階段を降りた。







「卒業おめでとう」

「元気でな」



卒業式が終わって、そんな声が飛び交う中、夏樹は私に飛びついた。

「杏奈っ、早く行こっ! 騒ごっ!!」


「うんっ、行こう行こう」



夏樹と私が走り出そうとした瞬間、京香が口を開いた。



「ねえ杏奈? 卒業証書授与のとき、何か呟いたの? 何て呟いたの?」


京香が不思議そうに私を見つめる。

私は笑って言った。


「……『ありがとう』って」


「……そっか」


京香も笑った。


「早く行こうよっ! 何してんのー?」


夏樹、由紀乃ちゃん、亜里沙ちゃん、藍澤さんがどうしたのと言うように、こちらを見つめている。



「……何でもないっ」



「そ? じゃー今日1日、楽しもー!!」


≪おーっ!!≫





周りが不思議そうに見てくる中、私達6人は外に走り出た。

7年前 No.120

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第十一話 大学†


卒業式の後、買い物をして沢山の思い出を作った私達は、最後にギュッと抱きあった。


「元気でねっ」

「手紙書くわ」

「メールもするからね」

「会いたくなったら、また北海道に来なよ?」

「私達も、東京に遊びに行くからね」


「……皆、大好きだよ!」



5人に色々な言葉を送ってもらい、私達は解散した。





《東京》


夏樹達5人に北海道の空港まで見送ってもらい、目を腫らした杏奈は1人、東京に着いて、電車に乗っていた。

ものすごく久しぶりの東京。

とても嬉しい。

東京という故郷に帰れること、ハルカ達と会えること、沢山の思い出が詰まっている場所に行けること。

そして、祐一と出会った場所に戻れること。

杏奈は胸を躍らせながら、電車に揺られていた。


電車を降りると、春の始まりを告げる、温かい風に吹かれた。

東京は北海道と違って、雪は溶けてきていて、桜の蕾がついている。昼の白い月が、薄く浮かんでいる。

小走りになりながら、ハルカ達の元へ向かう。

ハルカ達は、先にペンションの中で待っているらしい。

早く行きたい!

小走りする道の先に、白い小さな家が建っている。

ハルカ達の気配。ハルカ達の声。

私はその家の、インターホンを鳴らした。



<ピンポーン……>



中から、騒がしい音や声が近づいてくる。


「あっ! 杏奈だ!!」

「早くドア開けて!」

「痛っ! 誰か私押した!?」

「ちょっと、転ぶなやっ」

「早く行きませんこと?」


ダダダダダッと走って来る音に、私は少し後ずさりして待っていた。


<ガチャッ>



「杏奈ーっ!!!」

「会いたかったよ!!」

「おかえり!」


ハルカ達が、私に抱きついてきた。

私はすごく幸せな気持ちになる。



「ハルカ達……ただいま。会いたかった……!!」





中に入って、私は荷物を片付け始める。

ハルカ達はもう片付け終わったらしく、ハルカは私の手伝いをしてくれて、カナとサナは家具を組み立てたりし、

マナとツバキは、昼食の準備をしていた。



「北海道の高校はどうだったの?」


ハルカが私に聞く。


「んー、最初は方言とかがあって、分からなかった。

でも、皆すごくフレンドリーな感じで、ほのぼのしていて、親しみやすかった。

色々あったけどね」


「そ、か……」



ハルカは、杉森君のことには触れないでくれた。

教えたのは私なのに、また話されたら嫌だって思うなんて、私、矛盾してる。



「でも……仲のいいダチは出来たんだろ?」


ハルカが心配そうな顔で言う。



「……うんっ」


「なら良かった!

でも……ウチらのほうが大切だよな?」



「当ったり前でしょ!!」


私はそう言って、ハルカの肩を叩いた。



「ってえ! 何すんだよっ!」


ハルカは私の肩を叩き返した。

私達はふざけながら、2人で騒いでいた。





「アンー、ハルカー、お昼ご飯が出来ましたわよー」

「早くおいでよっ」


ツバキとマナが私達を呼んできた。



「今行くーっ」



懐かしい声や顔に囲まれて、私達は昼食を食べ始めた。

その日は、6人で徹夜をして語り合っていた。

7年前 No.121

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《東京○○大学》


「何……これ」



私は思わず呟いていた。

一年生の人数、多すぎじゃない!?

いや、基準が高校の人数だから、これが普通なのかもしれないけど、多い。



「人多い……暑いし」


カナがタオルで額を拭いた。

サナも、カナと色違いのタオルで頬を拭いている。



「何処に行けばいいのかな?」


マナがきょろきょろしながら尋ねる。



「とりあえず、人が多い所に行きましょう」


ツバキが人ごみの方を指差して、歩き始めた。

私達は、ツバキについて行く。


人ごみの方をどんどん歩いていくと、名簿が貼ってあった。

とりあえず、行く場所が書かれていて、玄関の方に流れるように人が進んでいく。

名簿には何百人という人の名前が書かれていた。



「○○に行くそうですわ。私達も急ぎましょう」



席は自由らしく、私達6人は並んで座った。

皆見覚えの無いような顔。

そりゃ、少しはいたけど、ほんの極わずかだ。



「ねえ、△△高校から、此処には何人くらい来てるの?」


「んー、分かんない、ごめん」



隣に座っているハルカに聞いてみたが、薄い反応。

緊張してるようだった。

ハルカはこう見えても極度の人見知りで、見た目は派手だけど、中身は案外こうだったりする。

此処に来てから、ほんの一言二言しか話さないハルカは新鮮だった。



「あれ? 杏奈達?」


聞き覚えのある声に顔を上げると、私達6人は声を上げた。


「蒼!?」


私達の目の前には、懐かしい蒼の姿があった。蒼の隣にいる人は、多分高校での同級生だろう。

わりとイケメンかもしれない。でも、好みじゃない。

だって、明らかに不良だもの。

蒼は、こういう不良系とはつるまなかったのに。


中学校は同じだったけど、高校は違う所に進んだ蒼。

ちなみに言えば、私の元彼でもあったりする。

ま、別れちゃったけどね。

そんで、ツバキに恋をしたりした蒼。

ま、今では友達感覚だから、気まずくも何とも無い。

男子に見覚えのある顔がいて、少しほっとした。

ハルカの緊張も解けたみたいで、蒼とペチャクチャ話している。



「アオっち、背ぇ伸びたねー」


マナが感心したように言う。

そういえば以前の蒼は、ぶっちゃけ言うと背は低かった。

私より1cmくらい高かっただけで、卒業する時に5cmくらい高くなっていただけで……。

それが、今じゃあグンと高い。180cm近いんじゃないかな。



「ああ、高校ではバスケ部だったから、それで背が伸びたんだと思う。

中学の時は、めっちゃ小さかったけどな」



皆が笑うと、蒼が隣の男子を紹介した。



「こいつ、龍途っていうんだ。ノリがよくて、話しやすい奴だから仲良くしてな」


「俺、葦北龍途(あしきた りゅうと)! 蒼と同じバスケ部だったんだ。

蒼、俺たちも席に座ろうぜ」


「そうだな、それじゃ」



蒼と龍途君は、少し離れた空いてる席に座った。



「蒼かっこよくなったね!」


ハルカが吃驚して言う。

確かに、今の蒼はかっこよくなった。

見た目も、性格も、話し方も。

でも、だからと言って、また蒼と付き合うだなんて、無いだろう。

そんな事を考えていると、マナが突然すごいことを言った。





「マナ、龍途君好きになった!!」

7年前 No.122

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第十二話 マナの恋†


「えぇえええええっ!?」

「ちょ、マナ、いきなり一目惚れ?」

「あんた、不良も真面目も異性として見ていなかったでしょ」


「だって、カッコよくない? 名前も、容姿も、サバサバした性格も!!」



私達は、何故かマナの発言に返しきれなくて、無言になってしまった。



「つまり……恋と言うのかしらね」


ツバキが冷淡とした声で言う。

マナはそれから、ずっと龍途君の良さについて語っていた。



《家》


「あーびっくりした」


ハルカが、床に寝そべって言う。


「18年生きてきて、一度も“恋”というものをしたことが無いお嬢様が、あんな不良に……」


「だ・か・ら! 今してるのっ!

あーもー龍途君カッコいいっっ!!」



マナは自分で、“恋”というものを分かっていなくて、ただ無理矢理“恋”と名付けたようなものなのかもしれない。

しばらくは放っておこう。





私はツバキと一緒に、夕飯の準備をしていた。


「ねえツバキ、“恋”って何?」


「なっ、いきなりなんですのっ!? わ、私に聞いても意味の無いことですわ。

“恋”というものを一番知っているのは、アンじゃなくて?」


「いや、『ただ好き』っていうのじゃ、恋も未熟な感じがしちゃって」


「ほら、やっぱりアンが分かっていらっしゃる」


「ツバキにとっての“恋”って何?」



ツバキは一瞬赤面してから答えた。



「……私は、ただ心惹かれるだけの感情を“恋”と解釈していますの。

でも私、“恋”より、“愛”の方が分かりやすいですわ。

“愛”は、傍に居て欲しいと思ったときに、その人を愛してるってことだと思いますの。

ですから、私は“恋”を分かりきってはいませんわ」


「……なんか、凄いね」


「もう、恥ずかしくなっちゃいましたわ! もう、こういうことは私に聞かないで下さる?」


ツバキはそう言って、野菜を凄い速さで切り刻み始めた。

私は少し微笑して、夕食の準備を進めた。





「ねえサナ?」

「何? カナ」



この頃、双子の2人も話をしていた。

カナが聞く。


「マナの恋、どう思う?」


「カナ、どうして私に聞くの?」


「だって、サナも恋してたときあったじゃん」



サナは少し暗い顔になって言う。

「あれは……ただ、好きだっただけ。

カナの方が、今恋愛してるじゃん。相手も、龍途君みたいな感じだし」


「あたしは、ただ友達以上恋人未満ってトコだよ。

サナ……もう、あの人1人だけを見つめてばかりじゃ駄目だよ」


「いいの、私はもうあの人以外好きになれないから……」





カナもサナも、秘密が沢山あった。

私達はまだ、知らなかったんだ。





「皆ー、ご飯出来たよー」


「はーい」



6人は、それぞれに色んな感情を抱いていた。

7年前 No.123

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「おはよっ、アン!」


私が微かに目を開けると、にこやかに笑って顔を覗きこんでいるマナがいた。


「おはよ……えっ、マナ、もう行く準備してんの!?」


マナは、もう私服に着替えていた。

服も、いつもよりお洒落になっている。


「だって、龍途君に早く会いたいんだもん! ほらっ、アン達も早く準備してっ」


「お早う。マナ、まだ誰も登校して来ないと思いますわよ。

今、6時ですもの。今起きてきていると思いますわ」


ツバキが眠そうに目を擦りながら、起きてきた。



「いいのっ、龍途君待ち伏せて、早く話したりしたーい!」


「恋は盲目だねえ、マナ」


カナとサナも起きてきて、言う。



「うんっ」


マナは頬を赤らめて、スカートを揺らしながらクルクル回っている。

私達もしょうがなく、朝の準備を始めた。

ハルカは、想像してはいたけど、まったくもって起きてこない。

何とか叩き起こして、ハルカにも朝食を用意したりした。



「おはよ……マナ、どしたのその格好」

ハルカは朝だから低血圧なのか、冷めた口調でマナを見た。


「どしたのって……私服だよ、いつもの」


「いやいや、そーじゃなくて、いつもよりさらにお洒落じゃないかい? って聞いてるの!」

マナの変わらない天然ぶりにハルカは目が覚めたのか、笑った。


「うんっ、龍途君に会いたいんだあ! ハルカ、早く食べてよっ、龍途君と話す時間無くなっちゃう!!」


「わーったわーった、今食べるから」


ハルカは渋々朝食を食べて、ハルカも何気なく、お洒落な格好に着替えていた。

ハルカも龍途君狙ってんのかな、でも、もしそうならハッキリ言う筈だけど……。










《東京○○大学》


学校に行くと、玄関で蒼と龍途君を見つけたマナが、走って挨拶をしに行った。

「おはよっ、龍途君! アオっち!」


「あっ、おはよう幸宮」

「おはよう、……“幸宮さん”て言うの?」


「うん、“マナ”で良いよっ!」


「もしかして、あの幸宮●●会社の娘さん?」


「そうだけど、それがどうしたの?」


「えっ!? “あの”社長令嬢!? そんなお嬢さんに“マナ”って呼んでいいのかね」


龍途君が笑って言う。

そう、マナは幸宮●●会社の一人娘。

資産も外見も性格も良いし。最高だよね。

大抵、マナに惚れない男はいない。蒼を除いて。

何でかは分かるだろうけど。


「そんなの良いよ! アン達も普通にそう呼んでるし!」


「じゃ、そう呼ぶわ。マナ、よろしくな」


「うんっ、よろしくねー」



マナはそう言って、龍途君に手を振った。

マナの頬は、すっかり赤く染まっていた。



「マナ、積極的だね」


「だって、そうじゃないと何も出来ないもん! これからもどんどん話しかけるんだあっ!」


そう言って、マナはガッツポーズをする。

こんな華奢なお嬢様が、ガッツポーズをすると何だか締まらない。

でも、楽しそうで、幸せそうなマナが愛しく思えた。

7年前 No.124

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第十三話 危険な恋†


6時限目を終えて、帰る準備をしていた時、マナが言った。

「マナ、龍途君に告っちゃおうかなぁ?」


「えぇえええっ!? ちょマナ、本気?」


「本気!」


マナを除いた5人は、一斉に声を上げた。

最近マナには、驚かされてばかりだ。

龍途君に出会ってからだろうか、マナがこんなに積極的になるのは……。



「ねーハルカ、どういう告白が、男子にとってOKしてくれるの?」


「ど、どういう告白って」


「だって、ハルカって小学生の頃から、告白しまくってほぼ全てOKだったじゃん」



マナの説得力のある発言に、ハルカは対抗できなくなったらしい。

ハルカの告白なんて、ただカッコいいと思えば、悪戯告白でもしちゃうんだよね。

それに気付かない男子もどうかと思うけど。



「……んー、告白はやっぱり、直接の方がよくね? 直接だと、断りにくいらしいし」


「そうなのっ?」


「ま、ウチの過去の経験だけどね……」


「分かったぁ! じゃ早速、龍途君に告白しにいくっ」


「えぇえええええっ」



私達が止めようとする前に、マナは龍途君を探しに行った。

唐突過ぎやしないか、マナ。


私達は、暫くその場に立ち尽くしていた。

ツバキが口を開いた。


「見つけて、告白したのでしょうかね」


「さあ……」


マナは、今まで男子との関わりは未経験だもんね。

これも経験ってことで、OKされたら祝福してあげて、振られたら慰めてあげよう。

マナの告白に、断る男なんているのかな。

私がそんな事を考えていると、カナが言った。



「とりあえず、アルコープ(廊下にベンチが置いてある所)で座ってようよ。

マナはきっと、此処に帰ってくると思うし」


サナも言った。

「OKされたからって、龍途君と帰るなんてことも無いと思うし」


「そうだね」



私達はアルコープで、30分くらい語っていた。

だけど、マナは30分経っても、帰ってこなかった。


「まさか、本当に一緒に帰ってるんじゃ……」

話が途切れた所で、私が言った。


「それは無いでしょ、杏奈さんよ」

ハルカが、私の肩を軽く叩いて言う。


「それにしても、もう待ちくたびれましたわ。もう帰りませんこと?」

ツバキが退屈そうな目で言う。


「あたしも、もう待つの疲れたー。マナ、行く時に何か言ってくれれば良かったのに」

カナが口を尖らせる。


「じゃ、もう帰ろうか」

サナの言葉で、私達は学校を去った。





その“まさか”が、本当に起きた。



《翌日》


「あっ、杏奈達ーっ、おっはよう」


マナが、大学の玄関で手を振りながら走ってきた。

マナの隣には、龍途君がいる。蒼はどうしたのかな。

今朝、マナは家にもいなくて、マナのケータイにメールを送りつけても、一通も帰ってこなかった。


「マナッ!? 昨日はどうしてたの!? 心配したんだよ?」


「あっごめんねっ、昨日は龍途君の家に泊まってたのー」



「何──っ!?」

「お泊りぃ!?」

「ちょ、マナ、それはウチでもやったことないよ」


「ケータイの電源切っちゃっててさー、メール気付かなかったんだ、ごめんね?」


「すごく心配した……」


私達が声を漏らすと、龍途君が、けろっとした表情で言った。



「大丈夫だよ、ただ公園で語りつくして、真夜中に俺の家に来て、睡眠とっただけだぜ?

嫌らしいことなんか、何にもやってねぇよ。

なっ、マナ?」


マナは龍途君と目を合わせて、ニコッと笑った。

真夜中にお邪魔するなんて、すごい迷惑じゃないの……マナよ。

そしてマナは、満面の笑みで口を開いた。



「それでねっ? マナ、昨日龍途君に告白したんだけど、これから、付き合うことになりましたぁ!」


「いえーい!!」



盛り上がってるのは、マナと龍途君だけで、私達は「おめでとう」とも「良かったね」とも言えず、そのまま突っ立っていた。


「龍途君も杏奈達も、早く中入ろう? 授業に遅れるー!」


「マナ、“君”は付けなくていいぜ?」


「分かった、龍途、早く授業行こっ」



そして2人は、べったりとくっ付いたまま学校の中に入っていった。

私達も、しぶしぶとその後に付いていった。

7年前 No.125

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マナは授業でも、龍途君の隣に座っていた。

気付いたら蒼も来ていて、龍途君を挟んで座っている。

おかげで、マナは最近私達と絡まなくなった。

それが少し寂しい。

私が祐一と付き合っていたときも、こんな感じで、ハルカ達は寂しかったのかな。

でも、マナの方がすごいと思う。

まあ、初めての恋だし、“普通”というものを通り越しているから、呆れているだけかもしれないけど。

授業も、今日は速く感じた。



お昼になって、マナがこちらへ駆け寄ってきた。


「ねーねー、お昼皆で食べようよっ」

「おう、いいぜ」


皆とか言っといて、2人だけの会話じゃん、と突っ込むこともできない。

まあ、嫌じゃないけどね。ハルカ達もそう思ってる感じだ。


天気も良いので、近くの木陰で食べることにした。

春の風が心地好い程度に吹いている。


マナが口を開いた。

「今度ね、遊園地行くの! 龍途君と行くんだよっ」


「へ〜え、デートらしい初デートだな」

ハルカが感心したように言った。


「間違っても、真夜中まで公園で語るデートなんて、もうしないでくださいね」

ツバキが心配そうな表情で言う。


マナ、いつかは一緒に暮らしたい、とか言いそうだな……。

別に構わないけど、私達のペンションには連れ込まないでほしい。



「どうした? アン」

「……え?」


蒼が、不思議そうにこちらを見ている。

私ったら、ぽけ〜っとしてたから、蒼が心配してるんじゃん。


「魂抜けてる」

「やだ、魂抜けてるだなんて」

「幸宮のこと、心配してるんだろ」


蒼は顔を近づけて、小声で言った。

何で私が考えてることを、分かってるの?


「まあ……少し心配だけどね」

私は苦笑した。

蒼は真剣な表情になって、言った。


「龍途、幸宮の他に彼女いるんだぜ」

「えっ!?」


蒼は口に人差し指を持っていって、静かにして、というジェスチャーをする。

さっきからハルカや、カナやサナ、ツバキにまで見られている。

マナと龍途君は、もう二人だけの世界だから、気にもしてないけど。


「本当本当。

2年生の人で、背が高くて真っ黒い髪を巻いてて……あっ、ほら、玄関の方の女子グループの真ん中の人」


私は、蒼が指差した方を見つめた。

そこには、漆黒の髪を揺らした美人っぽい人が、楽しそうに昼食を食べていた。

背がかなり高くて、可愛いというより“綺麗”な人。マナと正反対だ。


「うっそ……」

私は声を漏らした。


「嘘じゃねえって。嘘だったら、こんな嫌なこと言わないよ」





今、一番幸せなマナの笑顔が、かなり苦痛に感じた。

7年前 No.126

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第十四話 サナの寂しさ†


「ま、今は幸宮の方が好きらしいぜ」

蒼はそう言って、少し笑った。

私は何も言えなくて、蒼の笑顔を見つめるしかできなかった。





「ねえ、さっき何話してたのさ」

昼ごはんを食べ終わって、皆でぶらぶらしていると、ハルカが私に問う。


「そうですわ、それ、私も気になっていたんですの」

ツバキも、私の方を見つめる。

マナは、龍途君と何処かに行ったみたいで、私はハルカ達に言う事にした。


「えっとね、マナには内緒にしてほしいんだけど……」

私がそう切り出した瞬間、サナがゆっくりとした口調で言った。


「龍途君、他に誰かいそう」



私とハルカとカナとツバキは、まじまじとサナを見つめた。

「えっ?」


「だって……見たんだもん。龍途君と、2年生の女の人が、話してるところ」


「……容姿は、どんな感じだった?」

私はサナに聞いた。

容姿が似ていたら、その人が龍途君の彼女だろう。


「真っ黒な髪に、長身。で、女子のグループの中心にいる人」


「……その人だよ。蒼が言っていた、龍途君の彼女」


私は唖然とした。

サナが、うすうす気付いていたなんて。



「誰ですの!? その方の名前は!」

「サナ、分かる?」

ツバキ、ハルカが言った。


「確か、白波真利(しらなみ まり)って人。

白波さんと親しい先輩から聞いたけど、いつも告白される人だけど、振るときもあるらしいよ。

だから、そんなにチャラチャラしてないんだって」



「詳しいですわね」

ツバキが感心している。


「だったら、その白波って人に、別れてもらえばいいんだ!」

ハルカが閃いたように言う。


「後輩からのそんなくだらないお願いなんて、聞いてくれると思ってんの?」

私が口を開いた。


「大丈夫だよ、そんなチャラくない人なら」


「チャラくないから駄目なんだってば!!」


「???」


ハルカは理解してないようだけど、そこはどうにもならないので、スルーにした。



「サナ、どうしてそんなに詳しいの?」

私は、興味深いという口調で聞いてみた。


サナは、何も言わずに俯いた。

私は、嫌ことを聞いてしまったかのように、後悔した表情になる。


「あ、べ、別に言わなくてもいいよ?」

私がそう取り直した。

カナが、何か言いたそうに、うずうずしてる。カナが、サナに何か耳打ちして、口を開いた。



「アンは知らなかったと思うけど、サナは、龍途君みたいな彼氏がいるの」


「えっ!?」



何だか、最近は驚かされてばかりだ。

私は、それからカナに質問を浴びせた。

その時、サナの目に淡い紫が浮かんでいたのに気がついた。

7年前 No.127

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「サナにはね、白鹿涼(はくしか りょう)って彼氏がいるの。

家もお隣同士で、幼稚園に入園する前から、あたしとサナと涼君は仲が良くて、いつも遊んでた。

でも、入園直前になって、その心房中核欠損症っていう心臓の病気で倒れたの。

一回、アンが転校したときに手術をやって退院したんだけど、また倒れちゃって。

それから、今も涼君は療養中。

サナは、あたしの知らない間に涼君を好きだったらしくて、涼君も、サナが好きだったんだって。

んで、告白とかはしてないらしいけど両思いってことで、サナはお見舞いに行ってるんだよ」


「その、心房中核欠損症って病気は、何なの? 治らないの?」

私はつい、興味深くなって聞いてしまう。



「心臓に、いらない穴が開いていて、そのせいで酸素と二酸化炭素が混ざった血が体を巡って、酷い酸欠になるの。

だから、遊びに行くことも、走ることもできないんだって。

でも、あと四週間くらいで手術があるんだってさ」


「良かったじゃん! サナ!!」

私がそう言っても、サナは「うん……」と、心配そうな顔になる。


「サナ、大丈夫だよ。お医者さんも、難しくない手術だって言ってたでしょ」

カナが、サナの肩を軽く叩いて、励ますように言った。



私は閃いた。

「ねえ、私達皆で、お見舞いに行ってもいい?」

「そうだよ! ウチ等も、花買うからさ!!」

「そうですわね。サナ、行ってもよろしいかしら」


ハルカ、ツバキもそれに続いて言う。

その瞬間、サナの表情が強張って、「いい。来ないで」と冷たく言い捨てた。



「何でさ? 涼君と話してみたいし」

ハルカは、不思議そうにサナの顔を覗きこむ。



「やめて!!」


サナのいきなりの剣幕に、ハルカがうろたえた。


「涼は、他人をすごく嫌うの!

涼は病気のせいで、すごく痩せちゃって『誰にも見られたくない』って言ってるんだよ!?

涼を傷つけたくないから、それだけは本当にやめて!!

……もし手術が成功して、体も元の姿に戻ったら、ちゃんと紹介するから……」


サナは、涙を流しながら言った。

さすがにハルカも、これ以上口を開かなかった。



そのあとの授業は、サナのことで気が回らなかった。

龍途君には、別の彼女がいるし、サナには、療養中の彼氏がいる。

頭が痛くなってきた……。










その日の夕方、サナは久しぶりに病院へ行った。

サナは、涼の病室のドアをノックする。


「誰ですか」

涼が、緊張したような声で、ドアの中から言う。


「サナだよ。入るよ?」


ガラガラッとドアを開けると、夕焼けの色に染まった病室に、眩しい涼の姿があった。


「サナか……。久しぶりだな」

涼が、微笑を浮かべて言う。


「うん。最近、来れてなくてごめんね」

私は、ベッドに横たわっている涼の側の、椅子に腰掛けた。


「大学、楽しい?」


「うん、ぼちぼちね」


「そっか……俺も行きたいな」


「あと四週間で、手術して退院できるでしょ。早く来てよ?」


「――――……手術……成功するかなあ」


涼が悲しげな目で言う言葉に、サナはドキッとした。

涼のこの目は、前の手術の後、また倒れたときの目と同じだったから。


「や、やだ。何言ってるの? 涼は治るよ」


「サナも親も、前の手術のときにその言葉を言い続けたよな。俺は、また入院生活に戻ったんだぞ。

もう、待てないよ」



サナは、もう何も言えなかった。

そして、お見舞いのお花と果物を置いて、病院から去った。

7年前 No.128

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第十五話 実り†


休日を挟んだ月曜日、マナは相変わらず龍途君といちゃいちゃしている。


「あのねぇ、日曜日に遊園地行ってきたんだあ! 楽しかったよっ!

で、帰りにオソロで買ったの!」

マナは私達の目の前に、綺麗なネックレスを見せびらかせた。


「わっ、綺麗だね」

私達は、とりあえずそのような反応を示した。

でも、わりと綺麗な、安っぽくは見えないネックレスだった。


「でしょでしょ? これ、何円したと思う?」

マナは嬉しそうに私達に尋ねる。



「千円」

「ハルカはもう何も言わないでっ!!」

マナは怒って、ハルカの頭を叩いた。


「五千円くらい?」

「はい、カナも黙ってー」


「八千円?」

「サナ、ぶー」


「まさかの、一万?」

「アン、惜しいっ」


「……一万五千円くらいかしら」

「ツバキ、大正解ー! やっぱりツバキは分かってくれてる!!」



ハルカ、カナ、サナ、私、ツバキは、唖然とマナを見つめた。

マナにとっちゃ、一万円を超えるくらいのお金なんて、はした金でしかないんだろうけど。

そりゃ、交通費や、食品とか雑貨で一万を超えたときは、私にもあったけど……。

ネックレスだけで、一万を超えるなんて。

龍途君も、随分甘やかしてるんだな。



「そんな高額のネックレス、学校で壊したらどうすんのさ」

ハルカが、不機嫌そうな顔で聞く。


「大丈夫! 龍途との愛の証だもんっ。ちょっとやそっとじゃ壊れないよ」


マナは満面の笑みで、恥ずかしげもなく言ってのける。

聞いてるこっちが恥ずかしくなってきた。



「そのネックレス、良いだろ?」


龍途君が、マナの隣に出てきて、私達に聞いた。

龍途君はもう、首に付けている。

オソロってことは、2人分だよね? つまり、二つ合わせて三万円じゃん……。

龍途君って、そんなにお金持ちなのかな。


「愛美、早く着けろよ」

「うんっ」

マナはそう言って、細い首にネックレスを着けた。


「これ、結構高かったんだぞ?」


「今、その話をしてたんだよね」

カナがそう言って笑った。


「一万五千円って、すごいですわね」

ツバキが、感心したように言う。

龍途君は「愛美のためだからな」とか、冗談ぽく言った。

ツバキは、龍途君にも、龍途君の言葉で照れているマナにも呆れた様子だ。



その時、龍途君のケータイが鳴った。

「すまん、ちょっと行ってくる! 蒼が呼んでるから!」



そう言って、一目散に走っていった。

マナは、「ばいばーい」と手を振って、授業の準備を始めた。










お昼休みになり、いつものように皆で昼食を食べていた。

でも、蒼が来ていない。


「私、ちょっと探してきますわ」

ツバキがそう言って、庭の外へ探しに行った。



散々探しても、蒼の姿は見えなかった。

ツバキはもう諦めて、アン達の元へ戻ろうとした時、上級生とぶつかった。


「あっ、ごめんなさい。お怪我はありませんか?」

ツバキは反射的にそう言って、目の前を見つめると、ぶつかったのは白波真利だった。


「私は大丈夫。……あら」

白波真利は、ツバキのことをじっと見つめた。


「? 何かご存知ですか?」


「貴女、幸宮愛美って子と一緒にいる人?」


「ええ。そうですわ」


「あの子、葦北龍途って子と付き合ってるのかしら」


「……? そうみたいですけど。……あっ」


ツバキは、ぶつかった人が誰だか、ようやく分かった。

なんと、白波真利の長い首には、マナと龍途君が着けていた、同じネックレスがあった。

白波真利は、何か気付いたようにツバキの顔を覗きこむ。


「何、あたしのこと知ってるの?」


「え、えぇ……」


「あら、だったら話が早いわ。あたしが龍途と付き合っていること、知っているのでしょう。

このことは、近いうちに2人で話し合うわ。

だから、幸宮さんには、このことは言わないでくれる?」


「はあ……」

ツバキは、何も言えずに、間抜けた声しか出せなかった。



その時、白波真利といつも一緒にいる人達が、白波真利を呼んだ。

「あっ真利! 早くしないとお昼休み終わるよー!」


「はーい。

じゃ、よろしくね」

白波真利は小さくウインクをして、その場を去った。





「ツバキ! 何やってたのさ!?」

アン達の元へ行くと、みんなが駆け寄ってきた。

アン達の側に蒼も居た。

「ごめんな、日向。俺のせいで、昼飯もロクに食えなくて」


「本当ですわよ。おかげで骨が折れましたわ」

ツバキは溜め息を吐いて言う。


「何やってたの? ずっと探してたの?」

ハルカがツバキに聞く。

マナと龍途君は、ちょうどよくこの場に居なくて、ツバキはさっきのことをアン達に説明した。

7年前 No.129

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私達は、ツバキから全部のことを聞いた。

知らないのはマナだけ。

近いうちって、いつだろう。

できるだけ、長く引き延ばしてくれた方が、マナにとっての幸せな時間は長いのだけど、

長いと、私達にとっては心苦しい時間が長引くことになるし、マナの心の傷も、もっと深くなると思う。

だから、どっちがいいのか分からない……。


全ての授業が終わり、私達は帰り道を歩いていた。

今日は珍しく、マナが一緒にいる。龍途君も蒼もいるんだけどさ。

家のギリギリまで送ってやるらしい。二股掛けてるくせに、まめな奴。

ハルカは、龍途君をぶん殴りたいらしい。

カナ達は、一生懸命ハルカを宥めていた。



「ねぇ! 今度、皆で何処か行こうよ! この8人で!」

マナが提案する。

この後、何が待ち受けているかも知らないで……。

私達は心苦しくて、「うん」とか「ああ」としか言えない。


マナは、私達の薄い反応に拗ねて「もう、皆テンション低ーい」私達に背を向けた。



その時、


「幸宮愛美さん」


と、澄んだ声で後ろから声を掛けられた。

皆一斉に振り向くと、そこには白波真利の姿があった。

近いうちにとは言ったけど、こんなに早く来るなんて。


「真利」

「誰ですか?」


龍途君とマナの声が重なる。

白波真利は、龍途君から声が漏れたのを気にしていないようだった。


「あたし、2年の白波真利っていうの。知ってる?」


「知りません」


「そう。悪いんだけど、貴女と龍途以外の人は、外してもらえないかしら」


私達は無言で軽い解釈をして、近くの建物の陰に隠れた。

マナは不思議そうに首を傾げて、私達を見つめる。

そして前を向いて、白波さんと龍途君とマナの話し合いが始まった。

微かに聞こえる声に、私達は耳を澄ます。


「あたしはね、龍途と付き合っているの」


「えっ?」


「でも、貴女も龍途と付き合っているでしょう」


「まあ……はい」


「どういうことか分かるかしら」


「……三角関係ってとこですね」

マナはそれなりに真面目に答えている。

表情は見えないけど。


「ええそうよ。昼ドラ的ね。龍途、あたしも気付かないフリしてあげてたけど、もう隠さないで。

ちゃんと説明してちょうだい」



「……最初は、遊び感覚で愛美とは付き合っていた。

どうせすぐ、別れると思っていたから。

でも、愛美は俺に惚れていて、どうしようもできなかった。

傷つけたくなかったから、余計言えなかった」


「もうこの時点で、龍途は2人の女性を傷つけたのよ」


「分かってる」


「分かってないから、こんなことが起きるんでしょう」


龍途君は黙りこくる。

マナも、何も言えないような状態のようだ。


「ねえ幸宮さん。こんな人、許せるの?」


「いえ……」


「あたしも許せないわよ。どちらかが遊びだったなら、最後はやっぱり軽く終わるのよ。

龍途、どっちが好きなの?」


「前は、真利の方が好きだった」


「過去なんて聞いてないわ。今どうなのよ」


暫くの沈黙のうち、龍途君はごく僅かな声で

「真利」

と答えた。


愛美は、かなりショックを受けたようだ。

その言葉に、白波真利は、喜ぶこともなく、無くこともなく、無表情だった。



「龍途、本当にあたしを好きなの?」


「うん」


「じゃあ、幸宮さんのことはどうするのよ」


「……謝る。ごめんな、愛美。傷つけて」


愛美は消えそうな声で「別に……」としか言わなかった。


「……ごめんなさい、あたしも龍途が好き。

幸宮さんには悪いけど、諦めてもらえるかしら」



「……はい」



マナは、意外とあっさり諦めた様子だ。

私達は、沈んだ様子のマナの後姿を見つめるだけしかできなかった。


「ごめんな、愛美……」


龍途君はマナに近づこうとして一歩前に出る。

マナは同時に、一歩下がって、近づかれるのを拒否していた。


「幸宮さんの分まで、龍途を幸せにするから。

幸宮さんに、素敵な人が現れるのを祈ってるわ」


白波真利はそう言って、マナの頭にキスをした。

そして、白波真利と龍途は頭を下げて、薄暗い道を歩いていった。



マナは暫く立ったまま、ぼーっとしていた。

長い沈黙の中、マナは家に帰ろうと後ろを向いて歩き出す。


「マナッ」

「ごめん、言い出せなくて」

「辛いでしょ、家で沢山泣こう」

「あんな奴、もう関わらなくていいんだからね」

「マナは幸せでしたわ」

「幸宮なら、龍途よりいい男が現れるから、それまでの辛抱だよ」


私、ハルカ、カナ、サナ、ツバキ、蒼は、マナのことを一生懸命励ました。

マナは、何も言わずに泣いている。

静かに流れる涙を拭いてあげても、どんどん溢れて来る。よっぽど辛いのだろう。

もう一人彼女がいたこと、遊びで付きあわされていたこと。

好きだったのに。好きでいてくれていると信じていたのに。


私達はマナを囲んで、家に帰った。

蒼は家まで私達を送ってくれた。

その日、マナは一言も話さず、何も食べず、一人で部屋に篭っていた。

7年前 No.130

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第十六話 失恋†


「……マナ?」

「あれ、杏奈。おはよう」


朝の5時。

私はトイレに行こうと目が覚めて、起き出してきたのだった。

窓の外を見ながら、マナがミルクティーを飲んでいる。


「こんな朝早くに、どうしたの?」

マナが、腫れた目で私を見る。


「トイレに行こうとして……」

私の答えをよく聞かずに、マナは口を開いた。


「……トイレから帰ってきたら、少し起きててくれる?」





トイレから帰って来ると、マナは私の分のミルクティーを用意してくれていた。

皆が寝ている静寂の中、私が一口飲むのを見て「失恋しちゃった」とマナが切り出した。


「あぁ……。ごめんね、私、少し前から知っていたのに、言えなくて」


「もういいよ。過ぎ去ったことだし、今からぶちぶち言っても、どうにもならないことだし」


「まだ……好き?」


「ううん」


「でも、辛くない?」


「うん」


「……そっか」



沈黙が置かれた。

言葉が見つからない。何て言ってあげたらいいのか、どうやって励ましてあげたらいいのか。





「……私ね」

「えっ?」


マナの突然の言葉に、私は少しびっくりした。



「私にとっては、18歳で初恋で、初めての失恋でしょ。

だから、どうやって悲しめばいいのか、どうやって立ち直ったらいいのか、分からない。

今後も、誰を好きになったらいいか分からないし。

……初めて男の人を好きになって、それがすごくドキドキして、幸せだった。

だから、私が幸せだった間に失恋して、怒ったり、泣いたりする女の子を見てたら、すごく不思議だった。

その人に少しでも幸せを分けてくれてたんだから、怒るより泣くより、まず感謝するべきだと思ってた。

今自分がその立場に置かれたら、やっぱり悲しいし、少し怒りもあるんだけど、最終的には『ありがとう』の気持ちだよ。

……また、誰かを好きになれるかな。……好きになっていいのかな……」



マナは、涙一つ零さず、そう話した。

私は「いいんだよ」と答えて、マナを抱きしめた。



「ねぇ杏奈。私、今日、学校休みたい。一人で買い物とかして、失恋を癒してくる」


「いいよ」



気付いたらもう6時になっていて、ハルカ達が起きてきていた。


「今日、学校休むの?」

ハルカがマナに聞く。


「うん」


「じゃ、すっきりしておいで」


「分かった」



そして、皆で朝の準備を始めたのだった。

マナは、もう泣いてはいなく、笑っていた。

7年前 No.131

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《三週間後》


学校が休みの日、私達は庭でバーベキューの準備をしていた。

私とマナとツバキは食材の準備、ハルカ、カナ、サナはテーブルセッティングをしている時のこと。

ハルカが、配達人の人から一通の手紙を受け取った。

「ねぇツバキー! ツバキ宛てに手紙来てるよー!!」


「あら、何かしら」


ツバキは、ハルカからその手紙を受け取り、折りたたまれた便箋を見た。

文面を読み進めていくうちに、ツバキの顔が険しくなっていく。どうしたんだろう。


「誰から?」

マナがそう聞くと、ツバキは「お母様からでした」と答えた。


「お母様から、何て?」

カナが聞く。


「一日、家に来てくれませんかとの事でした」


サナは不思議そうに「何で?」と言う。


「用件は分かりませんの。東京都内ですから、私、行ってきますわ。

帰りは、夜になるかもしれませんけど」


すると、ハルカが「えーっ!? だったら、バーベキュー食べれないじゃーん」と残念がった。


「ごめんなさいね、また今度一緒にやりましょうよ。じゃ、行ってきますわね」

そう言って、ツバキは東京都内に住む、お母さんの家に行った。










電車に揺られ、お母さんの元に着いたツバキは、家の戸を開けた。


「ただいま帰りました」


すると、お手伝いの香代(かよ)が椿を出迎えてくれた。


「おかえりなさいませ、椿様。急に呼び出して申し訳ございません。

さ、早く上がってください。お母様が、大事なお話があるとのことですよ」


ツバキは、香代に寝室まで連れてこられる間、少しの会話を交わした。

「ねぇ香代、お母様はどうなされたの?」


「……花織様は、少し前に体調不良で寝込んでいるんです。

病院にも行ったのですが、容態は良くならなくて……」


ツバキはショックを受けて、少し小走りで寝室に向かった。

寝室には、青白い顔の母、花織が寝ていた。


「お母様っ!?」


ツバキが駆け寄ると、母は小さく微笑んで、「おかえりなさい、椿さん」と言った。


「大丈夫ですの!? 何処か悪いのでしたら、わたしも看病いたしますわ!!」


「椿、大丈夫ですわよ。それより、大事な話がありますの」


ツバキは落ち着いて、母の次の言葉を待った。



「急なお話で申し訳ないんですけれど、結婚して下さらないかしら」


「えっ」


「お父様と離婚してから、この家は私と椿さんのお二人です。

私の華道家元を、継いでほしいのですよ。

お見合い結婚になってしまうのですけど……引き受けて下さるかしら」



ツバキは黙り込んだ。

急なお見合いのお話。高校生の時から、色んな方の写真を香代に持ってこられたけれど、高校生で結婚する気にはなれなかった。

今はもう、母の容態が危ない。


香代が言う。

「椿様っ、もう、お母様の容態は危ないんですよ! 私としても、この家を継いでもらいたい一心でございます!!」





ツバキはしばらく考えて、口を開いた。










「分かりました。お母様の決めた方と、結婚いたします」

7年前 No.132

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第十七話 カナの彼氏†


「まあ! 嬉しいわ、やっとこれで安心できます」

「花織様、良かったですわねえ」

母と香代は、ものすごく喜んだ。母の笑顔に、椿は嬉しくなる。


「香代、お見合いのお相手を探してちょうだい。華道家元にお似合いのお方をよ」

「了解いたしました。ただちに探して参ります」


「あっ! ……ちょっと待ってください」

椿は、香代が歩き始ようとするのを止めた。

花織が、不思議そうな顔で椿を見つめる。


「椿さん、どうかなされたの?」



「あの……お願いがあるんですの。

ご結婚は、夏休みに入ってからでもよろしいかしら。お友達と、何処かに行くかもしれませんし。

お相手は誰でもいいですから、これだけはお願いします」



「……花織様、どうなされます?」


「構いませんわ。お友達と一緒の学校を辞めることになるんですもの。

私の体が悪いために、椿さんを巻き込むことになってしまったんですから」


「ありがとう、お母様」

椿はそう言って笑った。



「……私のせいで、無理矢理なご結婚をさせることになって、本当にごめんなさい」


「そんな……いいんですのよ」



そして椿は、また杏奈達の元へ帰るために、駅へ向かった。










「セッティング出来たよー!!」

「んぎゃっ、虫がいたっ」


杏奈達は、賑やかにバーベキューの準備を終えようとしていた。


「ねーねー、蒼とかも呼ばない!?」

ハルカが提案する。


「あっ、それいい! 他にも、誰か呼びたいなっ」

マナも大賛成だ。

その時、カナが何か思いついたように言った。


「……あたしの彼氏も、連れてこようか?」



「えっ!?」

「そいえば、カナの彼氏って、聞いたことあるだけで見てない!」

「きゃー早く誘って!」


カナは即ケータイで彼氏を呼び、来ることになった。





20分くらいして、食べる準備が出来た頃、カナの彼氏がやってきた。

「こんちは、池畠純(いけはた じゅん)です」


「こんちはーっ」


純君は龍途君ほど背は高くはなく、でも蒼よりは高い……くらいの身長。

目が大きいんだけど、目元以外はキリッとした顔立ち。

カナに彼氏が出来たのって、純君が初めてなのかな。秋原家って、純粋だなー。


そんなこんなで蒼も来て、7人でバーベキューが始まった。


「純さん、カナとは何処で知り合ったんですか?」

ハルカが焼いた肉を口に入れながら、興味深そうに聞く。


「ダンスで知り合ったんだよね、カナの教室と俺の教室の合同の発表会があって、それまでの練習でよく話してたんだよな。

それで、発表会が終わった後にカナから告白してきて、付き合ってるんだ」


「えっ!? カナ、自分から告ったの!?」

ハルカがびっくりした表情で叫ぶ。


「ハルカと同じじゃん」

「マナ、お黙り!」


皆が笑う。

カナが口を開いた。


「好きだったから告白したんでしょ。同じだよ」


カナが言うと、説得力がありすぎる。

カナは、あっけらかんとしながら、ジュースを飲んでいた。


「好きだから傍にいたい、傍にいるから好きになる。サナも同じだよね?」


サナの顔が一瞬強張ったが、小さく頷いた。

純君が尋ねる。

「サナさんも、恋人がいるのか?」


サナは少し躊躇ってから、言った。

「彼氏じゃないです。ただ、好きなだけです」


「でも、2人とも両思いでしょ。

サナの彼氏は幼馴染で、病院で入院してるの。明後日に手術なんだ」

カナが、サナの言葉に付け足した。


「もう、二回目なんです。手術するのは。早く治してもらって、告白しちゃいたいんですけどね。

明後日の手術が終わるまで、落ち着きませんよ」


「サナも告白すんのっ!?」

私は驚いて聞いた。秋原家は純粋であり、積極的でもあった。


サナは私の言葉に頷いて、また暗い表情になる。私は場を明るくしようと、口を開いた。

「サナ、暗い表情しないでよー。

夏休みにでも、何処かに旅行しない? 女だけで、失恋を癒したりしようよ!」


「行くならアメリカ」

「イタリアとか行きたい」


私は呆れた。

「ハルカとマナ、外国は無理でしょ。お金はどうするのさ? 私も行きたいけど」


2人は一緒に「皆のお年玉とかの貯金から!!」と言った。


「却下」


「酷い!」



2人は置いといて、私はカナとサナに行きたい場所を聞いた。

「カナとサナは?」


「サナ、何処か行きたい所ある?」

カナはサナの顔を覗きこむ。サナは暫く考えて、「……南西諸島」と言った。


「南西諸島? 何それ」

マナが不思議そうに聞く。


「そこで、星の形をした砂とかがあるの。テレビで見て、一回行ってみたいなあって」

サナは、少し恥じらうような表情を見せて、「あっ、皆の好きなところでいいよ」と付け足した。


「あたし、それ見てみたい!」

「ウチも!」

「私もっ」


「じゃ、南西諸島に決定ー!!」



男2人がつまらなそうな顔をしている中、私達5人は旅行の計画を立て進めていった。

7年前 No.133

寝子@remio ★9SXzXdST4z_lV7

その日の6時過ぎに、ツバキが帰ってきた。

「……ただいま」


「わあーっ、ツバキお帰り!」

「お母さん、何かあったの?」


「大丈夫ですわ。具合が悪くなっただけですから。今は元気そうですので、心配ないです」


「そっかあ、よかったー」

「また何かあったら、あたし等のことなんかどうでもいいから、お母さんの所に行ってあげてね」


「あっそうだ! ツバキ、7月の末から8月の上旬のどこかで、南西諸島に旅行しようって話してたんだ!

ツバキも、お母さんの体調が悪くならんかったら、一緒に行こうね!」


ハルカが、思い出したようにツバキに言った。



「えっ? ああ、いいですわよ」

ツバキは、結婚がいつになるか分からなかったが、夏休みに遊ぶことは推定してたから、とりあえずそう答えた。



「じゃ、晩御飯の準備しよっか」


そう言って、アン達は晩御飯の準備を始める。

ツバキは、お見合い結婚のことは言えなかった。

アン達といる時間が限られたときに、改めて友達が大切に感じて。



「このアン達の優しさから離れて、結婚する覚悟は、私は本当に出来ているのかしら」


ツバキはそんなことを小さく呟いた。

アン達は、ツバキの暗い表情に気が付いていなかった。










《二日後》


「おはよう、涼」

「あ、サナじゃん。おはよう」


サナは、涼の家族さえも来ていない早朝に、涼の病院へと足を運んでいた。


「気分はどう?」

椅子に腰掛けながら、サナが訊ねる。


「大丈夫だよ。今日は手術なんだから、体調が良くなくてどうするんだよ」

涼は、笑いながら言った。

サナは、心配そうな顔から、笑顔にならない。


「俺より不安な表情になるなよ。絶対、今回の手術で治してみせるからさ。

前回みたいなことには、ならないことを願おう」


「……そうだね」

サナはそう言って、微笑を浮かべた。



「白鹿さん、おはようございまーす。気分はどうですか?」

その時、若い看護士がカーテンを開けて入ってきた。


「おはようございます。体調はいいです」


「あら、顔色もいいですね! 恋人の力って、すごいわあ」

そう言って笑う看護士に、涼もサナも苦笑した。



涼は、手術前の検査などをして、手術の時間まで病室にいることになった。

その時、涼の両親が病室へやってきた。


「おはよう。まあサナちゃん! いつも涼のお見舞いに来てくれてありがとうねえ」

涼のお母さんが、サナに感謝した。


「いえいえ、特に何もしてあげてませんが、よく来させてもらっています」

サナはそう言って、小さく頭を下げる。


「サナちゃんが来てくれてるから、涼の体調も良くなってきてるのよ。カナちゃんは来てないの?」


「はい。もう少しで来ると思います。友達が4人ほど来るので、騒がしくなっちゃうと思いますが……」


「そんなこといいのよ。沢山居る方が、涼にとっても心強いわ。涼、体調はいいの?」


「大丈夫だよ。手術の日、何年も待っていたんだから、延期になんかさせない」


「早く治って、大学に行けたらいいな」

涼のお父さんも、優しい口調で言う。



それから、いくらか会話を交わして、アン達も病室にやってきた。


「おはよう涼君。今日は手術当日だね」


「来てくれてありがとう。今日で治してみせるから」


「あっやだ、花とか果物とか、そういうもの一切持ってきてない!

ツバキがいると、お見舞いに良い花の種類とか知ってそうだから、一緒に買いに行こう!」

マナが気付いて、ツバキを誘った。


「あら、そうですわね! じゃ、2人で買ってきますわ。

アン、ハルカ、カナ、サナは、此処に残ってくださるかしら」


「花なんていいのよ、どうせすぐ退院しちゃうんだから」

涼のお母さんが遠慮したが、マナが「退院祝いってことで、買ってきまーすっ」と言って、病院を出て行った。





幾らか時間が経ち、病室で会話が弾んでいた時、2人ほどの看護士が病室に入ってきた。


「まあ、ここはお客さんの多いこと!

白鹿さん、手術のお時間ですよ。手術室に行きますから、ここに寝てください」


涼はベッドから起き出して、担架のようなベッドに寝て、手術室まで運ばれた。

サナに向けて涼がピースをして、サナもやり返したかと思えば、手術室に入って行ってしまった。





手術室のランプが点き、私達4人と涼の両親は、待合室のベンチに座った。

サナが、不安そうな表情で俯いている。


「大丈夫だよ。サナはやれるだけのことはやったんだから、ちゃんと治るよ」

私はそう言って、サナを励ました。


「アンの言うとおりだよ。あとは祈るしかないんだから」

「サナ、今回は大丈夫だって」


ハルカとカナも、サナを励ます。

サナは細かく頷いて、涼の両親に肩を抱かれていた。





30分くらい、時間が経ったときだった。


「あっふ……眠い」

ハルカが欠伸をして、小さく呟く。


「あたしも……」

カナもそう言って、瞼が重そうだ。

私も少し眠たかったが、我慢して目を開けていようとした。



だが、睡魔には勝てず、サナや、涼の両親にも申し訳ないが、少しの時間眠りについてしまった。

7年前 No.134

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第十八話 お見合い†


何分ほど寝ただろうか。

ふっと目が覚めて、壁に掛けてある時計を見ると、11時を回っていた。

日も高くなっていて、5月下旬の外の景色が眩しい。

どうやら、1時間近く寝てしまったようだ。昨日、寝たのが遅かったかな。


周りを見ると、皆寝ている。

ハルカも、カナも、涼君のお父さんお母さんも。

あれ、サナは……? サナは、涼君の両親の間に居たはずなのに……。

私は、静かに席を立って、サナがいそうな場所を捜した。





「見っけた」


「アン……」


サナは、手術室の前に居た。小さなお守りを握りしめて。


「サナ、大丈夫だよ。涼君は、今回できっと元気になる」

「うん……」



その時、いきなり手術室のランプが消えた。

お医者さんが出てきて、私達の前に立ち止まった。


「白鹿さんのお友達かな?」


「は、はい」

私は、お医者さんを目の前に話すのは初めてだった。妙に緊張する。

でも、サナは結果の方が気になるみたいで、落ち着きなく医者に尋ねた。


「涼は……涼は、大丈夫なんですか!?」



お医者さんは小さな笑みを浮かべた。

「もう大丈夫ですよ。これで元気になります。

これから、普通の大学生として暮らせますから、一緒に付いてあげて下さいね」


サナは涙が溢れ出してきて、「ありがとうございます……!!」と言って、その場に座り込んで泣き出した。

私は、お医者さんに頭を下げて、サナの傍に座って肩を抱いた。

涼君の両親も、いつの間にか起きていて、お医者さんに何度も何度もお礼を言っていた。

ハルカとカナを起こして、涼君が眠る病室に向かった。





病室に、マナとツバキが先に居た。

どうやら、私達を捜したそうだが、分からなくて、お花を飾って2人で話していたのだそうだ。


「涼君、手術成功したんだってねー!」

「マナ、静かにして、涼君が寝てるんだから」


マナが、自分のことみたいに嬉しそうにはしゃぎ回るのを、カナが止めた。

サナは、静かに涼君の顔を見つめている。


「その勢いでキスすんなよ?」

ハルカが、真顔でジョークを言うと、サナが真っ赤になって怒り、「ハルカの馬鹿馬鹿馬鹿」と叫んだところで、涼君が起きてしまった。


「あら、サナが起こしちゃいましたね」

ツバキが笑って言う。


「あぁっ、涼ごめんっ」


「サナ……手術、成功したのか?」

涼君は虚ろな目で尋ねる。


「うん、成功したんだよ、これから普通に暮らせるんだよ」

サナが元気付けるように言って、「そっか……よかった」と涼君が言葉を漏らした。

サナは、涼君に告白するんだっけ。しなくても、もう恋人同然だと思うけど。


「……あのね涼、実は私、涼のことが……」


サナは真っ赤になりながらも、勇気を振り絞って最後の一言を言おうとしてる。

なのに涼君は体を起こして、それを遮って、「気付いてたと思うけど、俺、サナのこと好きだ」と告げた。

周りに、両親も、私達もいるのに。こっちも恥ずかしくなる。サナは、私達以上に赤くなっていた。


「これから、普通に生きていく。だから、サナともちゃんと付き合いたい」


サナがまた涙を零す。

「うん」とサナは頷いたので、私達は、こっそりと病室を出た。





涼君は、退院まで二ヶ月くらいかかるけど、これから元気になることを祈ろう。

今日は、サナは病院に泊まるとメールが来て、私達は、5人で夜を過ごした。

7年前 No.135

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「ねえ皆、私、今日は用事があって、家に帰らなくちゃいけませんの」

涼君の手術から三週間経った日曜の朝、ツバキがいきなり切り出した。


「へっ? 何で? あ、お母さんの具合見てくるとか?」

ハルカが、目玉焼きを口に入れながら、間抜けた声で聞く。


「えっと……、まあ、そんなところですの。行ってもよろしいかしら」

ツバキは言葉を濁したが、私達は全く気付かずに、「いいよ」と告げてツバキを見送った。



「最近、ツバキって一人で出かけるの多いよね」

マナが口を開いた。


「と言っても、まだ三回目でしょ」と、私はマナにつっこむ。

そう、この三週間の間に、また一回自宅へ帰ったのだ。


「きっと、お母さんが心配なんだよ」

カナがトーストを頬張りながら、答えた。

サナやマナも、「そうだね」と言って、私達は今日の休日をのんびり過ごすことにした。










<次は、○○駅です>


椿は、電車に乗って自宅に向かっていた。

今日は、お見合いの日で、お見合いは椿の自宅でやる。

普通は、男性側の自宅や、紹介人の自宅でやるのだが、椿は容姿に来てもらう側だから、椿の家でやることになった。

少し前に、また自宅へ戻って、紹介人の富美(ふみ)さんが、お見合い相手の写真を送ってきてくれていた。

30代後半くらいの人で、その割には爽やかな男性であった。

少し不安を抱きながらも、椿は自宅に着いた。



「ただいま帰りました」


椿はそう言うと、慌しく香代が飛び出してきた。

「まあまあまあ椿様、お待ちしておりました。お母様がお待ちかねですよ」


居間に行くと、花織が着物を来て座っていた。


「おかえりなさい、椿さん」


「ただいま、お母様。具合は大丈夫ですの?」


「大丈夫ですよ。こんな大事な日に、寝てなんかいられませんわ」

花織は、顔色も良く笑っていた。

そんな母を見て、椿は結婚を決めてよかったと思う。

そのとき、杏奈達の顔が思い浮かんで、それを振り切ろうとした。

お昼ご飯を食べた後、着物に着替えて、お見合いの相手を待った。





約束の時間である1時になり、インターホンが鳴った。

香代が素早く出迎えをし、居間に連れて来る。

お見合い写真で見た誠実そうな男性と、その母、そして世話人が、頭を下げて、香代が教えた位置に座った。

この時、椿の胸は小さく鼓動を打っていた。


「日向家の世話人である香代が、進行させていただきます。

では、お見合いをする2人をご紹介します。まず、女性側、日向椿さんです」


香代が小さく合図を出して、椿は口を開いた。

「はじめまして。日向椿と申します。どうぞよろしくお願いします」

椿は、そう言ってお辞儀をした。


「そして男性側、二階堂昌史(にかいどう まさし)さんです」


「はじめまして。二階堂昌史と申します。どうぞよろしくお願いします」

二階堂昌史も、向かいに座る花織と、椿に頭を下げた。



花織も、二階堂昌史の母と世話人も紹介を済ませ、見合いの話が始まった。


「まず、両方の出身地などを申しましょうか。日向さん、どうぞ」

世話人である香代が、話題を作る。


「出身地は、京都です。中学三年の夏、東京へ越してきました。二階堂さんは?」


「僕は、出身地も育ちも東京です。京都は風情があって、素敵な所ですよね」


「いえいえ、そんなことはありませんよ。東京に比べたら、地方ですから」


その言葉に、二階堂昌史が少し笑った。

そして、少し沈黙になりかけたのを察知した香代が、「二階堂さん、職業は何ですか?」と聞いた。

「私も聞きたいですわ」と椿も言う。


「職業は医者で、二階堂病院の院長を務めています」


「まあ、二階堂病院の?」と花織が感激する。

二階堂昌史は、「はい。父親の跡を継いで、院長になりました」と言った。


「日向さんは、華道家元ですよね。椿さんも、跡を継がれると聞きましたわ」と、二階堂昌史の母、弥生が言う。


「ええ、将来は、母の跡を継いで、華道家元になります」

椿は固く決めた表情で、そう言った。その表情は、揺るがない心を示していた。


「じゃあ、やはり趣味はお花の工芸ですか?」

二階堂昌史が、新たに話題を作る。


「はい。また、お琴や踊りも好きです。二階堂さんは、何が趣味ですか?」


「僕は、テニスなどのスポーツが好きです。仕事が休みのときは、友達とよくやるんですよ。

良かったら、今度ご一緒できませんか」


「私、運動は得意ではありませんの」


椿の正直な言葉に、その場が少し明るくなった。

それから、いくらか会話を交わして、二階堂昌史が切り出した。



「日向さんのお母様、よければ、日向さんと2人で近くを歩いてきてもいいでしょうか」


「ええ、いいですよ。椿、しっかりなさって下さいね」


「お、お母様……」


椿は、頼りない声を漏らしたが、仕方なく、二階堂昌史の後について行った。

7年前 No.136

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第十九話 皆の南西諸島†


「日向さんのお庭は、とても綺麗ですね」


「そうですか?」


「はい。やっぱり、華道家元の咲かせる花は、一段と美しいです。この花は、全て生け花にするんですよね?」


「そうです」


「日向さんも、これからお母様の後を継ぎ、華道家元になられるんですよね」


「はい……」



二階堂昌史は、何気ない会話を入れながら、椿と話していた。

椿は緊張しながらも、なんとか言葉を返せている。

話が少し途切れたとき、二階堂昌史がそっと聞いた。


「失礼ですが、日向さんは、誰か好きな方はおられるんですか?」


「えっ?」


「……私達は、結婚がほぼ確定しています。

もし、日向さんに大切な方がいるのに、無理な結婚をさせてしまうことになってしまったら、と思ったのです」


「そんな方、いませんわ」


「でも、お友達と一緒の学校に通えなくなるのは、さぞ辛いことでしょう」



椿はその言葉に黙りこくる。

杏奈や、遥歌、愛美、嘉那、紗那のことを思い出して、胸が苦しくなった。


「……確かに、大切なお友達はいるので、辛いのもあります。

しかし、お母様のことを思ったら、多少辛くても、決心しなくてはなりませんわ。

それに……会いに来てくれますもの。きっと」


椿は、固く決心した瞳で、二階堂昌史を見つめた。

二階堂昌史は、その瞳に微笑んで、言った。


「日向さんのお家は、二人家族ですよね。お父様はもう、近くにいないのでしょう?

私は、日向さんのお家で、この家を守りたいと思います。結婚のお返事は、いくらでも待ちますから」


椿は、もう何も言えなかった。


「……では、そろそろお暇します。今日は、どうもありがとうございました」


二階堂昌史は、そう言って頭を下げた。

椿も、深くお辞儀をして、二階堂昌史と家に戻る。





「まあ、二階堂さんと椿さん。お疲れ様でした」


家に戻ると、香代が慌しく出迎えた。

椿は「ただいま」と言い、花織や、二階堂昌史の母親や世話人がいる方へと向かった。


「おかえりなさい、二階堂さん、椿さん。お疲れ様でした」

花織がそう言って、二人を迎えた。


「そろそろお暇しましょうかって話していたんです」

二階堂昌史が、母親に言う。


「あ、そうですね。日向さん、今日はどうもありがとうございました」

と、二階堂昌史の母は、花織、香代、そして椿に頭を下げた。

花織、香代、椿も頭を下げ、二階堂昌史達を外まで送った。



家に残った花織と香代が、「お見合いはどうでしたか?」と椿に尋ねた。


「緊張しましたけど……優しそうな方で、安心しました」


「そうですか。……ご結婚できますか?」

花織の言葉に、椿は少し間を置いて、「ええ」と答えた。


「それじゃあ来週にでも、またこの家に椿さんと二階堂さんは来てもらって、お返事してください」

香代は嬉しそうに、椿に告げる。





「……はい」

椿の心に、迷いは無かった。

7年前 No.137

寝子@remio ★9SXzXdST4z_lV7


《二ヶ月後》


「――――……やっとこの日が来たーっ!! 今日から三泊四日、南西諸島の旅だぜーっ!!」


朝から、ハルカは大盛り上がりだ。いや、私達もすごく楽しみにしてるけど。

今日から、南西諸島に三泊四日の旅行をする。私達6人だけで!

これ以上、心待ちにした出来事はない。

朝早くから荷物をまとめて、電車に乗って、成田空港まで行った。





《成田空港》


成田空港に着いて、色々と手続きをやり終え、飛行機の席に着いた。


「やっぱり、人多いね」

マナが、周りをきょろきょろと見ながら言う。


「8月ですもの。やっぱり、沖縄に旅行しに行く人は多いですわ」

ツバキが、冷静な口調で言った。


「カナ、那覇空港に着いたらどうするんだっけ?」とサナが聞く。


「那覇空港に着いたら、石垣島への飛行機に乗り換えるの。だいたい、これで一時間かな。

そして、石垣島から、星の砂がある西表島にレッツゴーだよ。これは45分くらい。

石垣島からの船で、色んな島が見えるんだってよ。そして降りて、皆が見たがってる星の砂を見る!

あ、砂浜にある星の砂は、持ち帰っちゃ駄目だからね? 違法らしいし」


「えぇえええっ!? それなら、行って見つめるだけなの!?」

ハルカが大きな声を出したので、私はハルカの口を塞いだ。

また、「何も、見つめるだけでも楽しいと思うよ?」と私は付け足した。


「アンは十分かもしれないけど、ウチは十分じゃねー」

ハルカは少し不満顔だ。


「ねえカナ、星の砂って、お店で売ってたりしないの?」

マナが尋ねる。


「それが、売ってるんだよね。少量だけだけど」

カナが、マナの質問に答えた。


「マジ!? うぇーい!!」



ツバキは、「単純……」というような表情。私も、その顔に近いかもしれない。

その時、ハルカのケータイが鳴った。メールが来たらしい。


「あ、兄貴からだ」


ハルカには、結構年上のお兄さん、竜也(りゅうや)がいる。

ハルカはケータイを開き、文面を見て、ムッとした表情になった。


「お兄さん、何だって?」

私がそう聞くと、ハルカは「……『星の砂って、持ち帰れるんだろ? 拾って来いよー』だって……」

その言葉に、私達全員が笑った。やっぱり、ハルカとお兄さんは、血が繋がっていた。

7年前 No.138

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第二十話 西表島†


沖縄空港に着き、石垣島への飛行機に乗ってから、かなりの時間が経った。

私達は、旅行全ての日を西表島で過ごす。でも、ホテルは沖縄のホテルに泊まる。

沖縄の海とかも、見たいからだ。

てか、耳痛いなあ。飛行機が降りてるからなんだけど。

ああ、早く着かないかな。ハルカ達も楽しみそう。


「ねえねえ! 石垣島から西表島までの船で、お昼ご飯食べよーよ!」

マナがこう提案した。


「いいね! 色んな島見ながら昼食なんて、最高だね」

サナが言う。


ハルカとカナも、「よっしゃ、何食べよっかな」なんて話している。この2人は大食いだから、お金が心配……。

一応、今日の分のお弁当は作ったんだけど、足りなくなりそう。

で、今回はかなりの額がお財布に入ってる。落としたらもう終わり。

私物管理には、ちゃんと気をつけなくちゃ。





《石垣島》


「石垣島だーいっ!!」

ハルカが、子供みたいな声を出して喜ぶ。


「海がすごく綺麗ですわね。東京の周りにも、海があったらよろしいのに」

ツバキも、感激したように言う。

西表島の周りは、大きな海が広がっていて、他の島が点々とある。

その大きな海に浮かぶこの船には、私達6人と、何組かの家族連れだけが乗っていた。


「お昼食べよーぜ」

ハルカとカナが、ランチマットを敷いて、椅子に座っていた。

私達は少し呆れたけど、私達も準備をして、昼食を食べ始めた。


「ねえサナ、涼君は、いつから復帰するの?」

私は聞いてみた。


「来週から。病院で試験は受けてたから、普通に入れるの」

サナは嬉しそうに答える。カナとかマナに冷やかされてるけど。


「あーあーウチも恋したいなあ」

ハルカが呟いた。ハルカが言うと、何か変な感じ。


「どのような恋愛をしたいんですの?」


「本当に愛し合える人と、燃えるような恋がしたい!!

今までの軽い恋愛ごっこじゃなくて、深く愛したいの!

お遊びとか、好奇心で付き合うんじゃなくて、『この人!』っていう人に会いたいの!!

2人で、未来を行きたいの!!!!」


ツバキの問いに、ハルカは恥ずかしげもなくそう答えた。

周りの家族連れとかが、笑っている気がする。

ツバキは、自分のことのように顔を赤くして、「恥知らずですこと……」と囁いていた。

マナ、カナ、サナも笑っていた。



私も笑っていた。でも、少し具合が悪くなっていた。

船酔いかな。少し気持ち悪くなってきた。

体だるいし……。すぐ治ったらいいけど。

7年前 No.139

寝子@remio ★9SXzXdST4z_lV7


船に乗ること45分。

私達はとうとう、目的地の西表島に着いた。

私はまだ具合が悪かったけど、西表島はすごく綺麗で感動した。


「海が綺麗!」

私が言う。


「本当。海の地平線が丸くて、地球の丸さが実感できますわね」

ツバキがそう言った。

その時、マナが私達を呼んだ。


「ねえねえ! サナが言っていた星の砂だよ!」

私達はマナ、サナがしゃがんでいる所へ駆け寄り、その砂を見た。

本当に、星の形をしている。ウニを小さくしたようなものも。


「これは、アメーバのような小さな生き物ですわ。それの抜け殻のようなものですの。

それにしても、可愛らしい砂ですわね」


ハルカとカナも寄って来て、この砂を見るなり、「おっ○っと」みたいと言ってのけた。

マナが怒ってハルカとカナを追い払う。

叱られたハルカとカナは反省の素振りは見せず、波打ち際に行って、私達に向かって叫んだ。


「そろそろ泳ごうよ! せっかく水着着てきたんだからさ!」


「そうだった! マナも泳ぐー!!」

マナは、きゃーきゃー言いながら水着姿になって、ハルカとカナと泳ぎだす。


「じゃ、私達も泳ごっか」

私はサナとツバキに言って、私達も海に入って行った。


暑い夏に泳ぐ西表島の海は、ものすごく気持ちが良かった。具合が悪いのも忘れてしまうほど。

海には、私達6人しかいなくて、ほとんど貸切状態。最高だね。

水泳が一番得意なサナが、ハルカとカナとマナを追いかけて、鬼ごっこをしていた。

私も一応泳げるけど、浮き輪に□まっていないと泳げないツバキに付き添っている。


「海に浮かぶ島って、本当に綺麗ですわね」

ツバキが切り出した。


「うん」


「こういう島に住んでみたいですわ。沖縄とかでもいいですし」


「じゃあ、大学卒業したら、このメンバーで住んでみようよ!

皆で稼いだお金でさ、一年くらい住むの! こういう島で暮らすのも、きっと楽しいよね」


私の言葉に、ツバキは少し固まった。小さな沈黙が置かれる。


「どうしたの? ツバキ」


「……む、無理ですわよ。

今借りているペンションだって、皆のアルバイトのお金や、マナのお家から借りているお金で過ごせているんですもの。

まず、マナのお宅から借りているお金を返して、職に就いてからでないと」


「じゃ、それからでもいいからさ、皆で南西諸島で暮らそうよ!」


「……ええ、出来たらいいですわね」


ツバキはそう言って笑うが、表情が少し暗い。何かあるのだろうか。

その時、ハルカ達が私達に寄って来た。


「ねえ! 皆でバレーボールしよーよ! ボール膨らませたから!」


「いいですわね! ほら、アンもしましょうよ」

ツバキは明るく言った。私は軽く答えて、バレーボールに参加した。

今のツバキは笑っているけど、さっきの暗い表情は、何だったんだろう。何が嫌だったんだろう。

色んな疑問が渦巻いていながらも、私達はバレーボールを続けた。





夕日が傾いてきた頃、私達は沖縄に戻って、予約していたホテルにチェックインした。

自分達の部屋にあるシャワーで海水を流し、夕食のバイキングに全員で行く。

バイキングでは、西表島とは比べ物にならないほどの人数がいて、少し暑かった。

いや、私の体温が高いのかな。無償に暑い。

食欲もあまりなくて、サラダしか取らなかった。


「あれ、アンったらダイエット中?」

ハルカが、大量の肉を取ってきて、私に聞く。


「いや、なんか食欲なくて」


「本当だ。どっか具合悪いの?」

「あら、少し顔色が悪いですわよ」


マナとツバキも、私の顔を覗きこんでくる。

やだ、顔色悪いとまで言われるほどなの?

「まあ、少しだけ頭痛いだけ。大丈夫だよ、明日には治ってると思うから」

私はそう答えて、ハルカ達は「そっかあ」と安心したように言った。

カナとサナもご飯を運んできて、私達は夕食を食べ始めた。



その後、私達は大きな温泉に浸かって、部屋でゴロゴロしながら、遅くまで話していた。

それが悪かったのかもしれない。

7年前 No.140

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第二十一話 二日目の夏†


「アン!! どうしたのその顔!」

「真っ青だよ!!」


昨日、予想はしていたが、私は熱を出した。

38度7分。普段35度近い私にとっては、かなり高い。


「うん……熱くて寒い……」

ガタガタと震えながら、私は布団に包まった。


「それは風邪の症状ですわ。今日は無理しないで、ホテルで休んでいた方が良いですわね。私が付き添っていますわ」

ツバキが言う。


「いやっ、ウチが付き添ってる!」

「マナだって、看病得意だしっ」

「あたしも付き添ってる」

「私も」


ハルカ、マナ、カナ、サナがそう申し出る。

進み出て、私の看病をするだなんて……優しすぎる。


「いや、1人で寝てれば大丈夫だから、ツバキも行ってきていい……」


私の言葉を遮って、ツバキが口を開く。

「皆さんでホテルにいるのは、アンも疲れると思いますわ。

ハルカ達は、お土産を買ったり、他の島も見てくるのはどうかしら。

昨日は西表島にしかいなかったから、他の島も見たいでしょう?

私は、小さな頃に家族と来ましたから、皆さんでごゆっくりどうぞ」


ツバキの言葉で、ハルカ達は「分かった」と言い、出かける準備を始めた。

私は、だらしなく布団に包まったまま、そっと目を瞑っていた。

20分くらい経っただろうか。


「ツバキ、アンをよろしくね。アン、明日には治っててね」

ハルカ達はそう告げて、部屋を出て行った。


「皆ごめんね……」

私はそう言って、4人を見送った。





「ツバキ、私なんかの看病で残ってくれてありがとう。

せっかく皆の旅行で、楽しみにしてたのに……本当にごめん」

静かになった部屋で、私が切り出した。


「そんな、いいんですのよ。私も、少し疲れていましたから、休憩にもなりますわ」

ツバキはそう言って笑う。


「ツバキ、小さい頃に南西諸島に来たの?」


「えっと、小学生の頃だったかしら。お母様とお父様と私で、南西諸島に来ましたのよ。

でも、西表島とかに行ったこととかは、あまり覚えていませんわ」


「ツバキのお父さんに、私、会ったことないよね?」


「そりゃあそうですわよ。……私の両親は、私が中三の夏に離婚しましたもの。

だから私は、転校してきましたのよ」


その言葉に、杏奈は目を見開いた。

「えぇっ!? な、何で……離婚なんかしたの?」


「私のお母様は、お父様とお見合い結婚でしたの。お父様は、すぐにお母様にご結婚を迫りましたわ。

でもお母様は、他に気になる方がいましたの。

しかし、お母様のご両親は体が悪くて……結婚せざるを得ませんでしたわ。

だからお母様は、お父様と無理なご結婚をし、仲違いも少なくはなかったんですのよ。

いずれお父様は、離婚届を出し、お母様と離婚しましたの」


淡々と話す椿に、杏奈は何も言えなかった。


「でも、私のお誕生日には会えますのよ。だから、今冬の私の結婚式にも……」

ツバキは、言葉を続けるのを止めて、口を塞いだ。


「け……結婚式?」

私は、体を起こして、疑うようにツバキを見つめた。

ツバキはまだ、黙っている。


「……ねえ、全て受け止めるから、教えて……?」

私の言葉に、ツバキは口を開いた。



「――――……私は、今冬にお見合い結婚をしますの」

その言葉が、いやに大きく感じた。

7年前 No.141

寝子@remio ★rTnOYIngSa_lV7


「……えっ!?」

私は、脳内が一瞬リセットされた。

ツバキが!? お見合い結婚!?


「どっどどどどうして!?」


「アン、落ち着いて。今から説明いたしますわ」

ツバキは、一つ深呼吸を吐いてから、口を開いた。


「五月上旬から、私はお母様が体調を崩されたと聞いて、一回家に帰りましたよね?

お母様は、顔色がとても悪く、とても痩せていましたわ。

あの日に、お見合いのお話が出たんですの。

お母様と、お手伝いの香代に、結婚をして華道家元を継いでほしいと頼まれ、『はい』と言うしかありませんでしたわ。

もう、お見合いは六月頃に済ませていて、結婚の手続きなどをしている所ですわ。

お母様のためを思って、決めたことですの。アン達にも、結婚式には来てくださ……」


「ちょっ、ちょっと待って! ツバキ、もう結婚は決定しているの!?

じゃあ、この旅行でツバキとはもう遊べないの!?」

ツバキの言葉を遮って、アンが言った。

大きな声を上げたものだから、少し胸が苦しくなる。


「アン、あまり驚かないで。今日か明日に、話そうと思っていたところですの。

今まで、黙っていてごめんなさいね。今日、ハルカ達にも言いますわ。

……きっと、皆との旅行は、これで最後ですわね」


「そんな……」

私は、もう何も言えなかった。

そして、いつの間にか眠りについていた。










……何か、声がする。誰の声だろう……?

……あ、この声は……――――。


「ハルカ、マナ、カナ、サナ!?」

私は目を開けて飛び起きると、ツバキを含めた5人が、部屋でゴロゴロしているのが見えた。


「ピンポン! ついさっき帰ってきたんだぜ!」

ハルカが、そう言って親指を立て、私に向ける。


「熱は下がったの?」

サナが心配そうに、ツバキに聞いた。


「10時からずっと寝てらしたから、下がったかもしれませんわね。アン、測って下さる?」

ツバキから体温計を渡されて、おでこに当てて少し立つと、ピピッと音が鳴る。

体温計を見ると、37度2分。


「わっ、かなり下がってる! 37度2分だって!」

私はそう叫んで、ツバキを抱きしめた。


「ツバキ、ありがとう! ツバキのおかげだよ」


「そんなことありませんわよ。ハルカ達のおかげでもありますわ」


「あ……うん、そうだよね! ハルカ、マナ、カナ、サナ、本当にありがとう!

でも……、今日は本当に、ごめんね」


「全然いいよ! 今日一日安静にしてたら、きっと治ると思うし! 明日には治しててね」

カナがそう言って笑った。


「そうだ、お土産買ってきたよお」

そう言って、マナは私にお土産の入った袋を差し出した。中身は何だろう?

袋から中身を取り出すと、星の砂が入ってる小さな瓶が出てきた。

「わあっ、すごく可愛い!」

私は、気付いたらそう叫んでいて、小さな瓶を、色んな角度から見つめた。


「ありがとう、ハルカ、マナ、カナ、サナ。いくらでした? 自分の分は払いますわ」


「一つ380円だったよ。少ないくせに、ちょっと高いよね」

カナがレシートを睨みながら言う。


「でも、いい思い出になるでしょ」

サナも、自分の瓶を手にとって、砂を見つめている。


私とツバキは、自分の分を払い、夕食の準備を始めた。

「あっ! アン、今日はまだ安静にしてなきゃ駄目だから、皆この部屋で食べることにしたからね!」


「えっ、ハルカ達はバイキング行って来ていいよ! 私はここに持ってきてもらうから」


「残念でした、もう持ってきてくれるよう頼んでるよー」

ちょうど、ホテルの人が食事を運んできてくれて、私達は夕食を食べた。

この時、ハルカ達が友達で本当に良かったと私は感じていた。





夕食を食べ終わって、私以外の子達は温泉に入りに行った。

その間に、私はみんなの分の食器等を片付けておく。今日、皆に迷惑かけちゃったしね。


「お風呂いただいてきましたわ。露天風呂からの眺めが、とても美しくてよ。明日は、アンも入りましょうね」

ツバキが、髪をタオルで吹きながら部屋に入ってきた。

相変わらず、ツバキは浴衣がよく似合う。


「うん。ハルカ達は、まだ温泉に入ってるの?」


「ええ。楽しそうに浸かっていましたわ。のぼせないか心配ですわね」

ツバキはそう言って、私達は笑った。


「……これで、最後の旅行になってしまうなんて、寂しいですわ」

ツバキの声が胸に刺さる。

そうだ、もう、ツバキとは旅行できないんだ。

一緒に学校に行くことも。同じ家で暮らすことも。


「ね、ねえツバキ。やっぱり、結婚は取り消しに出来ないの?

出来ないなら、早くハルカ達に言わないと……――――」



「はあーっ、良い湯だった!」

私の言葉は、ハルカ達がドアを開ける音と、声にかき消された。


「あら、おかえりなさい、ハルカ、マナ、カナ、サナ」

ツバキはハルカ達の方へ歩くとき、私にすれ違う際に「ハルカ達には、明日話しますわ」と言って、通り過ぎて行った。

私はその言葉を飲み込んで、皆が座り始めた一つのベッドに、私も腰掛けた。

一つのベッドで、私達は明日どうするかという計画を立て始めた。


「明日だけどさあ、やっぱ違う島行こうよ」

「やだっ、西表島で三泊四日過ごす予定じゃん!」

「少し落ち着いて話しませんこと?」


私達は、残りの一泊二日をどう過ごすかで、話し合っていた。

私的には、体調が良ければ沖縄で遊びたいんだけどなあ。


その時、私のケータイが鳴った。

「あれ、蒼からメールだ」

ケータイを開くと、私は驚いて声を漏らしてた。



「『明日の昼頃、俺と、池畠純と、白鹿涼で、沖縄に行くから、そのホテルで待ってて』だって……」

私達は一気に、大騒ぎになった。

よって、私達は予定を変更し、沖縄で過ごすことにした。

7年前 No.142

寝子@remio ★rTnOYIngSa_lV7

第二十二話 みんなで†


三日目の朝、私は体調がすっかり良くなっていた。

こんなに早く治っちゃうなんて、びっくり。ツバキ達のおかげだね。


昨日のメールの通り、ホテルの入り口前で、私達は蒼達を待っていた。

12時過ぎ、蒼達は本当にやってきた。今日は同じホテルで泊まるらしい。もちろん、別室だけど。

本当に来たねー、と、カナが感心したように言う。


「あったりきよ! カナ達がいないと、つまらないし」

純君が、眩しいくらいに笑顔を見せて言った。


「それにしても、あんた達、いつ何処で仲良くなったのさ?」

ハルカが、自分には彼氏がいないからつまらん、とでも言うような表情で言う。


「純とは、この前のバーベキューで知り合って、仲良くなって、涼は、入院してるときに純が紹介してくれたんだ。

涼と純は、恋人が双子の姉妹だから、名前だけは知ってたってこと」

蒼が、詳しく説明してくれる。

それなのにハルカは、面白くなさそうな顔で脹れていた。

そういえばハルカって、中三の頃にナオと遊びで付き合ってから、彼氏がいないと思う。

マナは、「ハルカは好きじゃなくても、かっこいい人なら告白しまくるから、

男子は『お遊びで付き合うのはごめんだ』って振られまくったんだよ」って言ってたけど。

私は、高校生だった三分の二は北海道の高校だったから、よく分からない。

ハルカって、本気で誰かを好きになったことがあるんだろうか。いつか出来るといいな。


「涼さん、体は、もうすっかり良くなられたんですのね」

ツバキが、涼君に向かって話しかけていた。


「ああ、おかげ様で。手術から二ヶ月経つから、楽に歩けるようにはなったんだ」

涼が、清々しい笑顔で答える。本当に顔色も良くなって、サナは嬉しいだろうな。


「海には入れるの?」

思わず、私は聞いてみた。


「うーん、大事をとって、今日は入らないと思う。今日は絶好の夏日だから、入れないのはもったいないけど。

でも、波に足を浸けるくらいなら出来るぜ」


「おお! じゃあサナ、ドラマみたいに波打ち際で、涼と手を繋いで歩きなよ!」

「そうそう、水を掛け合ったりして、青春してこいよー」

カナとハルカがニヤニヤしながらサナに言う。


「……じ、じゃあカナは、純さんと手を繋いで泳ぐんだね! ハルカは、指をしゃぶってその光景を見つめてるといいよ!」

サナが、カナとハルカに言い返したもんだから、3人はきゃーきゃー言いながら追いかけっこを始めた。


「そんなことより、早く海行こうぜ! 水着は着てきたから!」

純君が、服を脱いで水着姿になる。

そして、3人で追いかけっこをしていたカナの手を引いて、ホテルから見える近くの海に走って行った。

私達は2人を冷やかして、私達も下に着ていた水着姿になり、全員で海に飛び込んだ。

7年前 No.143

寝子@remio ★rTnOYIngSa_lV7

私達は、沖縄の綺麗な海で、何時間も泳ぎまくった。

病み上がりのくせに、こんなに海に入ってたら、明日また熱を出しそう。

しばらく浜辺で、日光浴でもしてこようかな。

私は、ハルカ達に「少し浜辺にいる」と告げて、砂浜に座った。

少し離れた所で、サナと涼君が浜辺を歩いて、遊んでいた。

カナは純君と海で遊んでいるけど、ハルカ、マナ、ツバキとも一緒に泳いでいる。

あれ、蒼は……――――?


「よっ、アン。休憩?」


「わあっ」

ちょうど蒼を目で探し始めたとき、視界に蒼の顔がドアップで映った。

「やだなーびっくりさせないでよ」


「そっちこそ、俺に驚くなんて失礼じゃね? てか、アン、病み上がりなんだって?」

蒼が私の隣に座りながら言う。


「うん。昨日熱出たけど、今日治った。明日また熱を出したら嫌だから、少し休んでるの」


「だけど、タオルとか体に巻いてないと意味ないぜ? ほら、貸してやるから」

蒼はそう言って、自分のタオルを私に差し出した。


「あ……ありがとう」

それを受け取って、自分の体に巻く。懐かしい蒼の匂いがする。

付き合ってたときと、変わらない匂い。

そういえば、付き合ってるときなんて、蒼はこんなに逞しくなかったな。

背も、私と変わらなかったけど、今は10cm以上高いと思う。

バスケって、そんなに伸びるんだなー。


「何でタオルに顔埋めて黙ってるんだよ。恥ずかしいじゃん」

蒼が、少し顔を赤くして言う。


「なんか……海の目の前に居たら、おセンチになっちゃうよね」


「いきなりどうしたんだよ」

蒼が笑った。私も少し笑ってから、口を開いた。


「蒼のタオルから、蒼の懐かしい匂いがしたから、付き合ってたときのこと思い出してた」


「ああ……そっか」


「中一の頃に蒼から告白されて、付き合って、中二は特に何もないまま付き合い続けて、

クリスマス・イヴの時に、蒼に好きな人が出来て、私は振られて……。

どれもこれもみんな、今となっては大切な思い出なんだなーって」


「あの時……俺、本当にアンのこと傷つけたよな。

自分勝手に振る舞ってただけのような気がする。

付き合ってもらって、俺に好きな人が出来たから、好きだったはずの杏奈を振った。

性格も男らしくない俺に、付き合っててくれたのに。ごめん……」


蒼は俯いていて、さっきのような笑顔は無かった。

私も思わず、無表情になってしまう。


「高校に入ってから、俺は2人の女子と付き合ったけど、どちらも一年持たなかった。

アンとの付き合いが、一番長かった気がする。だから……」


その時、蒼の言葉を遮る、ハルカの声が聞こえた。

「やっほうお二人さん! そろそろ海とはおさらばして、違うトコ行こうよー!!」


「あ、そーだね! ほら蒼っ、行こう!」


「あっ……、うん」


蒼が何か言おうとしてたけど、何だろうか。

後で、忘れてなければ聞こうかな。

海から離れて、私達は色々なところを歩き回って、観光地巡りをした。

病み上がりには少し辛かったけど、本当に楽しい思い出になったと思う。

男子の参加もあって、私達は、今までに無いくらい盛り上がった。

7年前 No.144

寝子@remio ★rTnOYIngSa_lV7


第二十三話 決断†


日が暮れて、私達はホテルに戻った。

沖縄に泊まるのは、今日が最後。何だか寂しい。まだまだ居たいのに。

ツバキと居る時間も、本当に残り僅か。

行ってほしくない、まだ結婚なんてしないでほしいというのが本音。

でも、こんなこと言ったら、ツバキがまた迷っちゃうと思うから、言えないけど。

何も知らないハルカ達に、ツバキは今日告白する。

ツバキが決めたことを。ツバキ一人で決めたことを。


夕食を食べて、皆で温泉に入った。私も露天風呂に入って、体の疲れをほぐした。

温泉から部屋に戻ってきて、昨夜のように、皆が一つのベッドに集結する。

私とツバキ以外は皆、今日のことでわいわいと騒いでいる。

私の横にいるツバキは、一つ深呼吸して、口を開いた。

「――――皆さん、お話がありますの。聞いて下さる?」


ツバキの声一つで、ハルカ達がツバキの方に顔を向けた。

「どうしたんだよツバキ。畏まっちゃって」

ハルカが笑いながら言う。


「……ハルカ、これから大事なお話をします。驚きすぎないで、聞いて下さるかしら。

あっマナ。殿方達を、呼んできて下さらないかしら。殿方達にも、聞いてもらいたいんですの」


「分かった」

マナがそう言って、小走りで男子達の部屋に向かった。

近くの部屋だったから、すぐに男子達が集まってきた。


「どうしたんだよ、ツバキ」

蒼が不思議そうな顔で言う。


「今から話しますわ。とりあえず、このベッドへ座って下さいな」

男子達は渋々と、私達と同じベッドに集まる。

一つの部屋に、9人が集まった。


「あまり驚かないで聞いてくださいね。

――――……実は…………私、お見合い結婚が決まりましたの」


その言葉に、誰もが硬直した。

そりゃそうだよね。皆で三泊四日の旅行して、今日は男子までもが集まって大騒ぎした最後の晩に、こんなこと言われるなんて。


「……へっ? ツバキ、今なんつった? マジ意味分かんないんだけど」

「マナも分かんない。どうして?」

「あたしも」

「私も」

ハルカ、マナ、カナ、サナは口々に、ツバキに詰め寄った。

男子達は、何も言わずに次の言葉を待っている。


「今から詳しく言いますわ。

私の家は、母1人、娘1人の家ですわよね。お父様とお母様は、私が中学三年生の時に、離婚されしましたから。

そして、お母様と私は京都から東京に移り、アン達の中学校へ転校して来ました。

今まで私の家は、お母様と、お手伝いの香代と、私1人で過ごしてきましたが、

二ヶ月ほど前に、お母様が体調を崩され、私は一度実家へ戻りました。

その日、お見合いの話が勧められましたの。お母様の容態は悪く、いつまた悪くなるか分かりません。

結婚して華道家元を継いでほしいと香代にも言われ、私は結婚を承諾しましたわ。

お母様のためを思って、決めたことですの。ですから、止めないでくださいな」

ツバキは、極力笑顔を見せているが、ハルカ達、男子達は無表情でいる。


「結婚式は、いつなんだよ」


「純っ!!」

純君の問いに、カナが怒った。カナは涙目になっていて、純君は「すまん」と言い、カナの肩を抱き寄せた。


「結婚式は、今冬にやりますわ。でも実家に帰るのは、旅行から帰って、三日くらいしてから行きますの。

結婚式は、年が明ける前かもしれませんし、年が明けてからかもしれませんし。良かったら、来てくださいね」


「――――……いきなりこんなこと言われても……分かんないよ」

ハルカが小さく呟いた。

皆が、ハルカの方を見つめる。


「だって、ツバキが転校してきてから今までずっとずっと一緒にいて、誰かが辛い目に遭ったら皆で励まして、

今回の旅行だって、めっちゃ思い出出来たのに、こんなことになるなんて、あんまりじゃん!!

皆は、寂しくないの!? 辛くないの!?

もう、一緒に旅行行ったり、遊んだり、今回みたいに旅行も出来なくなるのに!! ウチは…………っ!!!!」

ハルカが、布団に顔を埋めた。必死で、泣き声を押し殺している。

マナがハルカを励ますように頭を撫で、ツバキを大きな目で見つめ、口を開いた。


「マナも、ツバキと離れたくない!

何でよ? どうして、こんなに仲の良い友達と離れてまで結婚しなくちゃならないの!?

ハルカの言うとおりだよ!! これからもずっと、仲の良い友達でいるはずなのに!!

大人になっても、子供産んでお母さんになっても、おばあちゃんになっても、いつまでも仲良くいたかった……のに……」

マナも、ハルカに覆いかぶさるようにして、泣き崩れた。

カナとサナも、泣きながらツバキに抗議している。

そんな2人を、純君と涼君が止めていた。

ツバキは、ただ俯いていた。


「止めないで……あげようよ……」

私は、静かに口を開いた。みんなの視線が、私に集まる。

「だって……ツバキ一人で考えて、決めたことだよ。私達はもう、何も言えないじゃん。

ツバキは、すごくすごく悩んだと思うし、辛いと思う。私達だって悲しいけど、一番悲しいのはツバキじゃん?

それに、離れちゃっても、仲が悪くなる訳じゃあないし、きっと休日とかには会えると思うし。

今は、ツバキがお母さんに付いててあげるべきだと思う……。

それがツバキにとっても、ツバキのお母さんにとっても、一番の幸せだと思う。

1人の幸せは、皆の幸せでしょ? ツバキの幸せは、私達の幸せになる。私達の幸せが、ツバキを幸せにする。

そうでしょう?」

私の言葉に、皆は何も言わなくなった。ツバキが、俯いていた顔を上げ、涙目になっている。

「ツバキ、お母さんに付いててあげてね。結婚して、幸せになってね」


「アン……」

ツバキは、涙を流すのを我慢しながら、私に抱きついた。

ハルカ達、男子達は、ただ私とツバキを見つめていた。

そして、この日の夜は静かに、ゆっくりと過ぎていった。

7年前 No.145

寝子@remio ★rTnOYIngSa_lV7

日が昇り始めるとき、私は目が覚めた。ハルカ達はまだ熟睡中。

体を起こして外を見ると、海から太陽が顔を覗かせている。すごく綺麗。

現在5時前。二度寝しても、少ししか眠れない。かといって、1人で起きてるのもちょっとなー。

そのとき、物音がした。


「アン、目が冷めましたの?」

ツバキだった。寝ていると思ったのに。


「うん。何か、目が冴えちゃって。もしかして、私の物音で起きちゃったの?」


「いえ、私も少し前から、目が覚めていましたの。今日で最後ですのねって」

ツバキが、静かに目を伏せる。そしてまた、目を開いて言った。

「昨日は、ありがたかったですわ。アンが、庇ってくれて」


「いやいや、思ってたこと言っただけだよ。本当は、離れたくないけど……っ」

私は、はっとして口を塞いだ。

いけない。一番辛いのはツバキなのに。もう、ツバキは決めているのに。


「アン、そんなに気を遣わないで。私だって離れたくありませんけど、もう、この決意は曲がりませんわ。

ですから、どんなに言われても大丈夫ですのよ」

そう言って、ツバキは微笑む。


「うん……ごめんね」


「嫌ですわアン、謝らないで下さる?」


「う……うん」

私は笑ったが、同時に涙も出てきた。

「あ……ごめん……泣いちゃって」

私が泣いたから、ツバキが私を抱きしめる。

「だから、謝らないでくださいな」と言って、背中を軽く叩いた。


「ご……う、うん」

何だか自分の情けなさに笑えてきて、涙が涸れた。

ツバキも笑って、2人の小さな笑い声が、部屋に響いた。


「さあ、二度寝しても少ししか眠れないけど、もう一眠りしましょうか!」


「うん」

ツバキと私は、また布団に入って寝た。





7時になり、私達は起きて朝食を食べ、ホテルからチェックアウトした。

こんな大荷物だったけど、昨日遊んだ海を最後に見て、帰ることにした。


「本当に……綺麗だな」

男子達がそう言っている。

ハルカ達も、その言葉に相槌をうっていた。

この海を見るのは、今日で最後。ツバキと皆での旅行も、今日で最後なんだ……。

この景色を、胸に抱きしめておこう。この思い出を、一生心に残るものにしよう。

また……このメンバーで来れますように。


そう願い、私達は沖縄を後にした。

東京に着いたのは、お昼過ぎで、お昼なのに寝てしまった。

7年前 No.146

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第二十四話 ツバキの門出†


旅行から、三日が経った。

昼、ツバキは○○大学の退学手続きをし、夜は、家で荷物をまとめていた。

私達も一緒に手伝っていて、今やっと終わるところ。


「ふう、やっと終わらせることが出来ましたわ。ありがとう、みんな」

ツバキが額の汗を拭いながら、言った。


「いいよいいよ。ツバキは荷物が少なかったから、結構早く終わったね」

サナが笑顔で言う。

ツバキと別れることへの悲しみは、皆は隠すようにしていた。皆、辛いのは同じだから。


皆でお茶を飲んで、お風呂に入って、布団に入る。

今日でツバキは最後だから、いつも以上に皆でくっついて寝ることにした。


「ねぇねぇツバキ。あの……」


「なぁに? ハルカ」

ハルカが、何か恥ずかしそうにツバキに寄る。


「あの……結婚のこと、引き止めたりしてごめんね。ツバキが一番辛いのに、ウチが一番辛いようなこと言って」


「マナも……ごめんねっ」


「あたしも、酷いこと言ってごめんね」


「私も、ごめんね」


ハルカ、マナ、カナ、サナは、ツバキに謝った。


「そんな……いいですわよ。私も、もっと早く言えなくて、ごめんなさい」

ツバキもそう言って、頭を下げる。

私は……何を言ったらいいんだろう。


「最初から、アンみたいに冷静になって『結婚して、幸せになって』とか言えばよかったのに、あたしったら……」

カナが、自分に怒っている。

ツバキは、カナを宥めるように髪を撫でた。


「いや、私も最初はあんなこと言えずに、『私達より、結婚の方が大切なのかな』って思っちゃったから、同じだよ」

私は手を振って、カナが言ったことを否定した。


「え? 最初って、アンは先に聞いてたの?」

マナが、私とツバキを見つめて聞く。


「旅行二日目に、アンが熱を出して、私が付き添っていたときに、口を滑らせてしまったんですの。

本当は三日目に、全員に言おうと思ってたんですけどね」

ツバキがそう説明した。


「そうなんだぁ。ねえツバキ、話は変わるけど、お見合い相手の旦那さんってどんな人?」

マナが、興味津々でツバキに聞いた。ツバキは、頬を赤く染める。


「あっ、それウチも聞きたい!」

ハルカも、興味深そうに身を乗り出した。

カナも、サナも、私も、ツバキを見つめて、強請った。


「え、えっと……優しい方でしたわ。ちゃんと、私のことも考えてくださるお方で。

お見合い結婚ですけど、後悔をしないような人ですの。外見も、素敵な方だと思いますわ」


「わーいいなあ! マナも、そんな人に出会えないかなあ」

マナが、本当に羨ましそうに言う。

そうしてこの夜は、ガールズトークで盛り上がった。





「もう12時だね。明日眠かったら大変だから、もう寝る?」

私が、時計を見て皆に言った。布団に入ったのは10時なのに、もうこんなに時間が経っている。


「そうだね。……ねえツバキ、明日は何時の電車に乗るの?」

カナがツバキに聞く。


「特に決めてはいませんけど、夕方にはあちらに着いておきたいですわ。どうして?」

ツバキは、カナに聞き返す。


「最後に、皆でそこら辺を散歩しようよ! 最後の思い出に!」


「あっ、それいいね!」

「そうしよー!!」

私達は、すぐに賛成した。

ツバキは微笑を浮かべて、「そうですわね。ありがとう」と言った。


「おやすみなさい」

ツバキはそう言って、私達に背を向けて眠った。


「おやすみ」

皆そう言って、部屋の電気を消した。



もう、ツバキと過ごす夜は、これで最後だった。

そう思うと悲しいけど、これも運命。

明日は、ツバキの門出。しっかり見送ろう。

7年前 No.147

寝子@remio ★rTnOYIngSa_lV7


最後の思い出に、そこら辺を散策することになったので、私達は早めに起きた。

昨日は遅かったから少し辛いが、ツバキのためだもの。

まず私達は、初めてツバキに出会った、○○中学校に行った。


「……中三の二学期の初めの日に、ツバキは此処に来たんだよね」

私はしみじみと言ってみる。


「そうそう、帰り際にウチが引っ張ってきて、いくら話しかけても言葉返さないから、

『何とか言えよ!』って言ったら、ツバキったら『話しかけないで下さる?』って言って帰ったもんな」

ハルカが、笑いながら言う。


「いやだ、まだ覚えてらしたの?」

ツバキが、赤い顔を覆って、言った。


「忘れられないよ、あの日のショックは」

マナも、そう言って笑った。


「あの時、ものすごく緊張していましたの。

初めて此処に来て、受け入れてくれそうな人達がいて嬉しかったはずですのに、緊張が変な方へ行ってしまったんですわ。

あの後、家に着いてからものすごく反省しましたのよ。

あの時は……本当に、ごめんなさい。そして、こんな私に仲良くしてくれてありがとう」

そう言って、ツバキは恥ずかしそうに「つ、次は△△高校に行きません?」と背中を向けて走り出した。


△△高校に、私は転校のせいで1年も居ることができなかった。

そんな短い時間の中で、色んな辛いことに遭ったりもしたけど……今となっては良い思い出に過ぎない。

転校先の高校でも、色々なことがあって、私は高校生の間に、随分強くなれた気がする。


「何突っ立ってんの? アン」


「はっ」

カナが、心配そうに私の顔を覗きこんでいる。

私は、間抜けた声が出てしまった。どうやら私は、△△高校の校門前で、立ち尽くしていたようだ。

ハルカ、マナ、ツバキは、少し離れた所にいて、校舎を見物している。


「何か念じてたよね」

サナが、そう言って笑いながら歩いてきた。


「この高校に通ってた時のこと、思い出してたんだ。」


「あ……そっか」

私が何を思い出してたか、カナとサナは聞かないでくれた。


「ハルカ達のとこ行こっ」

私はそう言って、カナとサナの手を引いて、ハルカ達の元へ駆け寄った。


「今ねー、一年生のときのこと話してたんだよ」

マナが言う。


「一年生の頃は、6人がクラスバラバラになっちゃって、マナ、カナ、サナは泣いて、ウチは怒鳴り散らして、

アンとツバキは、ウチ等を必死に宥めてたよねって」

ハルカがそう言って、皆を見た。


「あー、懐かしいね。そんなこともあったね」

サナが、遠い目をして言う。


「ねえねえ、お腹空かない? 近くで何か食べてから、○○大学行こうよ」

カナは相変わらずだ。

そういえば、家を出たのは9時くらいで、もうすぐ12時。そんなに歩き回ってたんだ。

私達は、近くのファーストフード店で少し食べて、○○大学へ行った。


「よくハルカは……この大学に入れましたよね」

ツバキが、感心したように言う。


「酷いなーツバキ。ウチだって本気を出せば、ここまで来れるんだぞ!」

ハルカが、自慢するような口調で言う。


「あら、じゃあどうして、中学生の頃は本気じゃなかったのかしら?」

ツバキは、意地悪な目をしてハルカを見つめる。

ハルカは黙りこくって、俯いた。そんなハルカを、ツバキは慰めるように肩を軽く叩いた。


「――――本当に、短い時間でしたわ……」

いきなり小さな声で言うツバキを、私達は見つめた。

「出来ることなら、この大学をアン達と一緒に卒業したかったですけど……これも運命ですものね!

アン、ハルカ、マナ、カナ、サナ、今までありがとう」

ツバキはそう言って、私達に手を差し伸べる。


「私達こそ……ありがとうね」

私達は、その手を一気に握り締めた。


「そろそろ、駅へ行こうかしら。夕方までには着いておきたいですもの」

腕時計を見て、椿が言った。そして私達は、ツバキの荷物を取りに家へ戻る。


「さようなら、この家」

ツバキは、この家にそう言い残して家を出た。





駅に着いて、ちょうどツバキの乗る電車が来ていた。

出来れば、電車が来るまで別れを惜しんでいたかったのに。

「私、この電車に乗りますわ。次の電車だと、少し遅いんですもの」

ツバキは自分の荷物を持ち、電車に乗り込む。


「あと2分で出発ですわ」

ツバキは電車の席に座り、悲しげな目をした。

すると、電車越しの私達を見つめて、何かを閃いたような顔になる。


「最後に、1人ずつにエールを送りますわ!

アン、辛い時は私にメールするんですのよ。溜め込みすぎないで下さいね。

ハルカ、すぐにキレるのは止めてくださいね。喧嘩も、しすぎないように。

マナ、変な殿方に引っかからないように気をつけてくださいね。きっと、マナには良い人が現れますわ。

カナ、ダンスと恋愛、頑張るんですのよ。喧嘩しても、それは近づける証拠ですわよ。

サナ、白鹿さんとお幸せにね。2人で、強く生きて下さいな」


「……うん。ツバキは結婚して、旦那さんとお母さんとツバキで、上手くやっていってね!」

私達の返事に、ツバキは花のような笑顔を見せた。



<ピ――――ッ>

電車が出発する。

電車の扉が閉まり、少しずつ動き出した。

ツバキが、だんだん遠くなる。


「――――また逢おうね!!」

私達は、ツバキに向かって大きく手を振る。

ツバキも、徐々に速くなる電車から身を乗り出して、手を振り返していた。

この時、ツバキが一粒涙を零したのが分かった。

ツバキの涙を見たのは、初めてかもしれない。

私は、ツバキが見えなくなっても手を振り続けた。



いつでも優しく、励まし、慰め、傍に居てくれたツバキ。

ありがとう。

また逢おうね。ツバキ。

7年前 No.148

寝子@remio ★rTnOYIngSa_lV7


最終話 それぞれの道†


ツバキが実家に帰ってから一週間。

私達は夏休みが終わり、再び学校へと通い始める。

私は、ハルカ、マナ、カナ、サナと学校に行き、懐かしい友達に声をかけていた。


「アン、久しぶり。っていっても、だいたい二週間ぶりだけど」

蒼が、私に声をかけてきた。あの旅行から、肌が少し焼けている。

私も、日焼け止めは塗っていたけど、少し焼けたし。

後ろには龍途君がいて、小さく頭を下げた。今では、マナとも自然に話している。


「久しぶり。蒼、龍途君」

ハルカ達も、挨拶した。


「ツバキ、もう実家戻ったの?」

蒼が、私達を見て聞く。


「うん。旅行から3日後に。私達も蒼達も、結婚式には呼んでもらってるよ」

私は答えた。


「そっか……。お別れ言えなくて残念だわ」

龍途君はそう言って、少し残念そうな顔になった。

龍途君がそんなこと言うなんて、少しびっくり。


「そうだ、今日は速く帰れるだろ? 皆で一緒に帰ろうぜ。それじゃ後で」

と、蒼がそう言って、この場を離れた。


「蒼っちが一緒に帰ろうだなんて、珍しいね」

マナが、不思議そうに言う。


「マナ、龍途君もいるけど、大丈夫なの?」

サナは心配そうに、マナに聞く。

マナは、「大丈夫! もう気まずくないからっ」と親指を立てて、笑った。





講義が終わり、門の前に行くと、蒼と龍途君は待っていた。

真利さんはその場にいなくて、マナは少しほっとしたような表情になる。

さすがに、真利さんもいたら、同じ空気吸いたくないよな……。


「行こうぜ」

龍途君がそう言って、蒼と前を歩く。私達はその2人の後ろを歩き始めた。

一緒に帰る意味があるのだろうか。男女の会話も、少ないし……。

もうすぐで家に着いちゃうよ。男子達は、送りたかっただけなのだろうか。

すると、蒼がいきなり私の横に来た。急に胸がどきっとする。

「龍途とハルカ達は、先行っててくれないか。アンと、話したいことがあるから」

蒼が私の肩を掴んでそう言った。


「りょーかーい」

ハルカ達は、ニヤニヤしながら後ろを何度も振り返って、私は少し恥ずかしくなった。



「ごめん、アンだけ此処に残しちゃって」


「別にいいけど……話したいことって?」

私が聞くと、蒼が軽く下を向いた。


「あのさ……沖縄の浜辺で話したこと、覚えてる?」


「ああ……高校で付き合った女子とは、あまり長続きしなかったってこと?」


「そうそう。

俺、今までで一番続いたのはアンだけだった。

自分から告って、自分から振っちゃったけど、一番幸せだった気がする。

自分糧すぎるけど、あの幸せな時間を…………また、続けさせてくれないか?」

蒼は、俯いていた顔を上げて、私を見つめる。


「つまり……また、付き合ってってこと?」

私の問いに、蒼は小さく頷く。

どうしようか。別に、蒼は嫌いじゃない。

私の初めての彼氏で、その時は中学生だったから、そこまで恋人らしいことはしなかった。

だから……今度は、もっと上手くできるかもしれない。

祐一の分まで、幸せな恋愛ができるのかもしれない。でも、もしかしたら出来ないかもしれない。

――――……その半分の確率に、賭けてみようか?


「……そうだね。

――――……じゃあ、付き合おう。前の恋愛より、良い恋愛をしようよ。お互いが幸せでいれるようにね」


「ありがとう、アン」

そして蒼は、私の手を取り、歩き出す。





ハルカはハルカの道を。

マナはマナの道を。

カナはカナの道を。

サナはサナの道を。

ツバキはツバキの道を。


そして私は、私の道を歩く。

未来の皆が、幸せでいれることを願おう。

皆の幸せが、祐一にも届くように。

これからの幸せな日々を、皆で一緒に歩いていこう。










最後の手紙 第二部†   完

7年前 No.149

寝子@remio ★rTnOYIngSa_lV7


*あとがきっ*


昨日、「第二部 最後の手紙」を書き終えました。(`・ω・´)
はっきり言って、すごーく手抜きです。はい。←
第一部の時と同様に、その日に思いついたことを、つらつらと書いていきました(
南西諸島への旅行なんて、ただラストを149の投稿で終わらせたかったから、
だらだらと、アンが熱を出したり ツバキが結婚することになった話を長くしたりしたんです。すんません。

第二部は、友情を重視して書きました。ええ、そう書いたつもりです。
第一部のときよりは、文章が上手になったと思ったので、友情重視で書きました。
恋愛重視より、難しかったです。
でも、いくら文章が上達してきたとしても、誤字や脱字は数え切れないほど多くて、
気付いてるけどメイン記事に訂正を書きたくなかったので、サブ記事とかに書いてました。ごめんなさい。

その中で、一番読む人混乱させたと思われるのが、
>だから由紀乃ちゃん&亜季と私の間には、いつも夏樹がいるから、やってこれた。
の、亜季の部分だと思います。
「誰やねん」とか思った人もいるでしょうし、なんとなく分かってくれた人もいると思いますが、亜季とは、亜里沙のことです。
その時、「亜季」と「亜里沙」のどちらの名前にしようか迷ってたんですよ←
で、はっきりしないうちに投稿しちまったから、あれれー??ってことになりました。すみませんでした(


第二部でも、ずっと更新しなかったときとかありましたが、やっと完結することができて嬉しかったです←
南西諸島への旅行の話に入る前、「もうやめようか」と考えていました。
はい、めんどくさかっただけです(殴
でも、チマチマと更新していって、「これはもう完結するしかないでしょう!!」ってことになり、
なんとか完結させました(´-ω-)← 達成感はんぱなかったです((

しかし、中級者の方で「最後の手紙」のサイドストーリーを書いていたのですが、そっちはもう無理です(ぇ
続ける勇気と元気がありません。(
もし出来るなら、サイドストーリーも完結させたかったのですが、私は今年から受験生です。
これから入試が終わるまで、私はPCを一切触らないことを決意しました。
まあ、勉強で調べたいことがあるときは、触りますが...←
約、1年ちょっとの間、インターネットとの繋がりを切ります。
このままだと、本当にPCに依存しちゃってて、勉強できないし行きたい高校にも受からないからです。

少し辛いですが、頑張って合格します!!*
合格して、高校生になったら戻って来るかもしれませんが、アカとかは変えると思います(´・ω・`)
もし、1年後のメビの中で、新しくマイメビが出来たら、それは私かもしれませんよ(ワラ


ではでは……沢山のクリックと拍手、ありがとうございました!!*
小説書く人は、頑張って完結させてくださいねwww



/ 寝子

7年前 No.150
切替: メイン記事(150) サブ記事 (65) ページ: 1 2

 
 
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