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しあわせの場所

 ( 短編集投稿城 )
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星沢愛美 ★MLo7mUgYRkE

 ずっと探しているんだ。
 幸せの居場所を。
 幸せになれる場所を。
 自分の居場所を。
 自分の居られる場所を。



 Where is happiness?
 
 

 ============================

 こんにちは、はじめまして。
 元あゆみ、または元莉野の「ほしざわあゆみ」です。
 日記投稿城にも小説1の方にも「星沢愛美」では投稿していないのですが、今回からはこのHNで行きたいと思っています。
 
 それでは、このあたりで。
 
 

2008/09/02 22:22 No.0
メモ2014/04/04 19:37 : 星沢愛美★NRp8dMh7VF_1Gj

 なぜだか履歴がなくなってしまい、新しいIDです。

 ID変わっても星沢です。

 あたりまえか。

 

 よくIDが変わってしまう星沢です。

 そしていいね!とか記事データの存在を今はじめて知りました。

 そんな真夜中。(2012/5/27)

 

 本当、なんでIDが変わってしまうんでしょう。

 毎回マイページ設定もしなきゃならなくて面倒極まりないです。

 ふぅ。

 まぁいいや。

 (2013/11/30)


 パソコンが変わり、キーボードの位置にまだなれません。

 そしてまた変わるID;

 (2014/04/04)

切替: メイン記事(95) サブ記事 (8) ページ: 1 2


 
 
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星沢愛美@coconut15 ★w83hmcpyiz_OtX


「月にはウサギがいるの」
「いる、らしいよ」
「キミには見えないの」
「うん、見えない」
「どうして」
「だって遠いもの」
「遠いと見えないの」
「見えないよ」

 本当は知っていた。
 僕は知っていた。
 いくら幼い頃だとしても。
 あの頃の僕は知っていた。
 月にウサギがいないことくらい。

「僕ね、ウサギが欲しかったの」
「今持ってるのは、違うの」
「違うよ。僕はほんものが欲しかったの」
「それはほんものじゃないの」
「ほんものは、ダメなんだって。見えないから」

 その子の持っているのは、ほんものじゃないウサギ。
 ぬいぐるみのウサギ。
 縁側で一緒に月を見たことを、ものすごく覚えてる。

 眼の見えない子だった。
 胡乱な眼は、子供心に怖かったことを覚えている。



 その子は本家の子で。
 僕は分家の子だった。
 その子は一人息子で。
 僕は次男だった。




6年前 No.46

星沢愛美@coconut15 ★w83hmcpyiz_OtX


 ねぇ、愛してるって言って。
 ねぇ、抱きしめてほしいの。

 姉さん、それは、間違ってる。

 あなたも、拒むのねあのひとみたいにあのひとみたいに。

 姉さん、お願いだ、聞いてくれ。
 姉さん、違うんだ、聞いてくれ。

 あなたも、あのひとと同じなの。
 あのひととおんなじよ父さんと。

 俺の顔は父さんと似ているそうだ。
 俺は出会ったことなどないけれど。
 俺は生まれたときから母さんしか。
 俺は生まれたときから父さんなど。

 俺の姉さんは狂ってる。
 俺の父さんは狂ってた。
 俺の家族は狂っている。

 ねぇ、愛してるって言って。
 ねぇ、抱きしめてほしいの。
 ねぇ、それだけ、なんだよ。

 姉さんは父さんを愛していて。
 父さんは姉さんを愛していた。

 父さんは母さんを愛していた。
 母さんは父さんを愛していた。

 姉さんはだから生まれてきた。
 俺はそれだから生まれてきた。

 狂ったのだけれどだからこそ。
 けれどだからこそ狂ったのだ。

 母さんと姉さんの顔が似ているから父さんは姉さんを。
 俺と父さんの顔が似ているから姉さんは俺を愛そうと。
 俺の父さんは姉さんは家族は、狂っているのだと思う。

6年前 No.47

星沢愛美@coconut15 ★w83hmcpyiz_OtX


 左手の薬指と。
 瞳に張り付く代替品。

 その価値は。
 果たして。

 僕は気づいていたんだろう。
 僕は風にはなれないことに。
 僕は蒼くはなれないことに。

 雪が降るから寒くなるのかな。
 寒くなるから雪が降るのかな。
 桜が舞うから暖かくなるのかな。
 暖かくなるから桜が舞うのかな。

 そうだね。

 とてもどうでもいいことだ。
 でもね。
 生きていく上で大事なことが、
 死んでからも大事かどうかわからないのとおんなじくらい、
 きっと僕らの価値は曖昧なのさ。

 きみがしんだらだれがかなしむ。
 ぼくがしんだらだれかかなしむ。

 わざわざ疑問形にする意味は。
 果たして。

 真っ赤な花はきみ。
 真っ青な花は僕として。

 それじゃあ真っ白は誰だったか。



 ところで。
 神様はどうしてひとの形をしているのかな。
 きみは真っ赤な花だから。
 きっと真っ赤な林檎を食べたのだろう。
 僕は真っ青な花だとして。
 きっと真っ青になって死んだのだろう。

 僕らはぜんたいどこで出会って。
 ぜんたいどこで間違うのかな。
 神様は言ったよ。

 言いつけを守りなさいって。

 守らなかった人間の一番最初はまっぷたつにされちゃった。
 だって言いつけを破ったから。
 言いつけは守らなければならない。
 だって言いつけだから。
 理由は充分。
 刑は。



 咲き乱れる僕らは増え続ける。
 人間だけが咲き乱れる。
 狂い咲く。
 人間だけが増え続ける。

 それは果たして。
 神様が望んだことなのか。
 どうなのか。

 赤いきみと青い僕とが風に吹かれて。
 折れて。
 千切れて。
 やっと出会った。

 きっと何年前に出会っても。
 何年後に出会っても。
 きっときみと僕だった。
 きっと赤と青だった。

 いつか一緒に会いに行こう。
 神様に会いに行こう。
 左手の薬指の意味を訊きに。
 代替の瞳を貰いに。

 さあ神様に会いに行こう。



 しあわせの場所へ。


6年前 No.48

星沢愛美@coconut15 ★w83hmcpyiz_OtX




 Where is happiness?



 兄さんはどこかへ行ってしまった。
 いや、正確にはこの家に一緒に住んでいるのだけれど。

「おはよ」
「ん、おはよう」

 何年か前。
 兄さんは、死ねなくなったと言って帰ってきた。
 その頃の兄さんは本当、なんというかヤバくって。
 ヤバいなんて言葉はあまり使いたくないのだけれど、それでも兄さんに当てはまるさまざまな言葉の中で、一番しっくりくるのがこれだ。
 その頃からだ。
 僕が絵を描き始めたのは。

 兄さんが帰ってきてから暫く経って。
 漸く兄さんの状態も家の状態も、それから僕自身の状態も落ち着いてきた頃。

 あのウサギの子とそっくりだった。

 最初は怖いと思った。
 でもひどく懐かしかった。
 子どもの眼。
 大人の眼。
 全然違うのに同じだった。
 二人とも、僕の眼じゃないウサギの眼。

 ウサギの子のことはすっかり忘れていた。
 僕ら二人の両親は、兄さんが死ねなくなるよりずっと前に死んでしまった。
 ウサギの子には、結局三回くらいしか会っていない。
 月の話をしたときと。
 その次の正月と。
 両親の葬儀。

 ウサギを描き始めて何年になるだろう。
 ウサギに詩をつけ始めて何年になるだろう。
 ウサギの絵本はシリーズ化されることになった。

 兄さんがときどき入院するのに、金はほとんど持っていかれる。
 保険証って大事だなぁとか、日本ってすてきだとか、思う。
 ああ、年とったなぁと、同時に思う。



 そしてまた、描きはじめる。



 Where is happiness?


6年前 No.49

星沢愛美@coconut15 ★w83hmcpyiz_OtX


 また夏が来るんでしょう?
 また、夏が来るんでしょう?

 僕はいつになったら卒業できる。
 いつになったら逃げ出せる。
 違う。
 自立しなくちゃ意味がない。
 でも。
 僕がいなくなったら。



「日沙子」

 父は。
 僕を日沙子と呼ぶ。

「なぁに、お父さん」

 父と。
 日沙子が笑う。



 そろそろ夢を見る季節。
 小さくて。
 真っ赤な金魚が泳いでる。
 向こうの方にちっぽけに。
 だんだんだんだんだん近づいて。
 最後は僕に張り付くように。
 監視するように。
 そばで大きくなっている。

 赤色はもっと濃い、深い赤に。
 水中でもないはずなのに、ヒレを使ってこちらへ向かう。

 りぃん。

 ガラスとガラスが。
 ぶつかる。
 音がする。


6年前 No.50

星沢愛美@coconut15 ★w83hmcpyiz_OtX


 神様が私たちに課した試練は。
 きっと神様が寂しかったから課したものなんじゃないかしら。

 彼女はそう、言った。
 おこがましいかも知れないけれどと添えて。

 人生に起伏が無ければ、
 いいえ、何も無ければ、
 人生がとても平坦だったとしたら、
 誰が神様を思い出すのかしら。
 しあわせだと感じるためにふしあわせを感じ、
 ふしあわせを感じるためにしあわせを感じる。
 その度人間は神様を思い出すのよ。

 彼女はそう、言った。
 神様なんて信じないけれどと矛盾して。

 神様は、
 きっととても繊細で。
 そう思われるのがとても嫌いで。
 天の邪鬼で。
 寂しがりやで。
 そう思われるのがとても嫌で。
 と、思っていると自分で思い込んでる赤ん坊みたいなひとなのね。

 きっと。

 そうして想像するのはいけないことかしら。
 とても、失礼なことね。



 彼女の眼は虚ろで。
 小屋の中の小動物のように白い眼を濁らせてそう、言った。



5年前 No.51

星沢愛美@coconut15 ★w83hmcpyiz_OtX


 新しいものを描けと。
 ひとが言う。

 電話と玄関の呼び鈴が鳴る。
 交互に。

 明日を生きるために。
 明日を生かすために。

 描けと、ひとは言う。
 でも荒波さんは違う。

 荒波さんは、
 このままで良いと、言う。

 担当の編集者さんだ。
 ウサギを見て、僕を見に来た。
 まるで動物園のふれあい広場だ。
 ここにはウサギと僕と、兄さんしかいない。

 荒波さんは、ウサギと僕を見にやってくる。

「兄さん、兄さんはどうすれば良いと思う?」

 兄さんのいない部屋でひとり、訊く。
 答えるひとのいない部屋で、訊く。

「ねぇ、キミはどうすれば良いと思う?」

 ウサギしかいない部屋でひとり、訊く。
 応えるひとのいない部屋で、訊く。

 時折思い出すあの月明り。
 いつから僕は月にウサギなどいないと思ったのだろう。
 そもそも月にウサギがいるなんて、ぜんたいいつ思ったのだろうか。
 忘れて、しまった。

 こうして不思議に歳をとってゆくのだろうか。
 それを怖いと思うのは、果たして愚かなことなのだろうか。



5年前 No.52

星沢愛美@coconut15 ★w83hmcpyiz_OtX

 *うたう少女のものがたり*

 その少女は喋ることが出来ませんでした。
 うたうことしか出来ませんでした。
 おかしな話ですが本当のお話。
 少女は感情も無感情も、すべて歌と空白で表すのでした。

 少女がうたうのは、いつも町のはじっこの噴水広場。
 少女にとって、そこはいちばんのお気に入りの場所でした。

 楽しい少女は楽しくうたい、楽しいうたは町の人々を楽しくさせました。
 少女はその町のひとびとに上手ね、上手だと褒められたので、ほんとうに嬉しく思っていました。
 嬉しいという気持ちは楽しいという気持ちに加算されるように、少女のうたとなりました。
 少女のうたは、町の人々のこころでした。



 ある日、町に旅人が現れました。

 その旅人は、不思議でした。
 町を行く人々が皆しあわせそうだったのです。
 旅人は一夜を過ごした宿屋で人々に、どうしてこんなに町の人々がみなしあわせそうなのかと問いました。
 人々はくちぐちに、うたのおかげです、あの子のおかげですと答えました。
 町はそう広くありませんが、町のはじっこの噴水広場から少女のうたごえが聴こえる家は数少なく、旅人が泊まった宿屋では少女の歌声は聴こえないのでした。



 その日の夕刻。
 旅人は散歩がてらに噴水広場へ行きました。
 少女のうたごえがもし、本当の本物ならば、自分の国につれて帰ろうとすら思っていました。



 少女のこえは本当の本物でした。

 旅人はとても驚き、自分の国に来ないかと少女に言いました。
 少女は断りました。
 旅人はしつこく粘りましたが、少女はけっして、首を縦には振りませんでした。
 その日から2日か3日くらい経った、いつもより風の冷たい日。
 旅人はその町を出てゆきました。

 少女は旅人が発った日も、その次の日も。
 やはり今までどおり、すばらしいうたごえでうたうのでした。



 しかし、それから幾日か経って、旅人は町に戻ってきました。
 今度は旅人服などではなく、上品な仕立ての洋服を着ています。
 そして後ろには6、7人の強面の男たちを従えています。
 旅人は自分の国の王さまに、うたう少女のことを話したのでした。
 話を聞いた王さまは、さっそく少女の歌声を聞きたいと思い、旅人と数人の家来を町へ向かわせたのでした。
 町のひとびとは反対しました。
 少女は言葉もなく、ただただ哀しげな表情でうたうだけでした。
 そのうたごえは小さく、それでも美しくすばらしかったので、旅人と家来たちはやはり連れて帰るべきだと、無理矢理に少女をつれてゆきました。



 旅人の国に着いた少女は、王さまの前でうたいます。

 しろを 焼きつくすよりも 畏れるべきは
 やみに紛れる獅子達よりも 恐れるべきは
 ぜんたい なにか わかるでしょうか
 あなたがおそれるべきことは
 いったい なにか わかるでしょうか

 しらゆりが ゆれ
 やみいろに そまり
 ゆうぐれが おわり
 たいようは しずみ
 あなたの おそれるものが やってくる

 かんたんに わかる
 それなのに わからない

 あなたがおそれるべきものが
 あなたには なにも わからない

 王さまは怒りました。
 どうして折角つれて帰ったこの少女が、こんな歌をうたうのでしょう。
 旅人も家来も頭を抱えて考えましたがさっぱり理由がわかりません。
 そうして次の日、王さまは旅人と家来を死刑にしてしまいました。



 ああ、どうしてつれていってしまわれたのか、旅人さん。
 少女がここにいるだけで、われらの心は救われた。
 少女がここにいるだけで、われらの心は解かされた。
 少女がここから去るだけで、われらの心は涸れてしまう。

 少女の去った町のひとびとは、みな哀しい顔をしていました。



 ところがその数週間後、違う国からの旅人がやってきて、天使のような歌声を持つ少年を置いていったのでした。



 少女はまだ、きっとうたっているでしょう。


5年前 No.53

星沢愛美@coconut15 ★w83hmcpyiz_OtX


 どうしてまた夏が来たのに、僕の時計は止まったままなの?

 息子または娘に訊かれている気がする。
 私の時計は止まらない。
 止めたくとも止め方を知らない。
 電池がなくとも動くのだ。
 針を直接触っても、壊れず壊せず連れて行かれる。

 どうして夏になると、弟妹が生まれるの?

 息子または娘に訊かれている気がする。
 ごめんね、私の身勝手さがそうさせる。
 手が止まらない、足は微動だにしないのに。
 それでもここにいさせてほしいと馬鹿げた願いに切望と名をつけた。
 文章というのは、不思議なものだ。



 ずっと探しているんだ。
 幸せの居場所を。
 幸せになれる場所を。
 自分の居場所を。
 自分の居られる場所を。



 Where is happiness?



5年前 No.54

星沢愛美@coconut15 ★w83hmcpyiz_OtX


「ゼラニウム」

 あなたがそこにいてはじめて。
 幸福がここにある。

 赤い色はあなたの色。

 でも、赤は復讐の色でもあるのね。

 それでもあなたの赤で染めて欲しい。
 あなたがそこにいてはじめて。
 幸福というものを知れる。

 幸福とは、
 あなたの色に染まること。

 わたしは今まで幸福というものの、
 ほんのすこしも知らなかったの。
 幸福を知らないということさえ、
 わたしは知らなかったのよ。

 だからあなたに染まりたい。

 幸福に。
 なるために。


5年前 No.55

星沢愛美@coconut15 ★w83hmcpyiz_OtX


「ミニヒマワリ」

 上を見る。
 上を向く。

 光を求めて。

 名前を呼ぶことさえ憚れるそのひとの名。
 いろいろな名称があって誰にも崇拝されるひと。

 決して敗けることなどない。
 下からの目線を受けるだけ。
 決して敗けることなどないひと。

 私は上を見る。
 私は上を向く。

 光を求めて。

 やりすごす?
 黙ってやりすごす?
 そんなことをあのひとは望んではいないのよ。
 だから私は上を見るわ。
 だから私は上を向くの。

 光を求めて。

 あなたにすべてを。
 あなたにすべてを。
 あなたのすべては望まない。
 あなたにすべてを。
 あなたに、すべてを。


5年前 No.56

星沢愛美@coconut15 ★w83hmcpyiz_8Is


 もしかすると。
 今年は最後の夏かもしれない。
 と、ふと思った。

 夏の空はもう見えなくて。
 かわりに冬の乾いた空に星がきれいに光っていた。

 そろそろ風鈴は仕舞わなくてはならない。
 なぜだか金魚の泳ぐ風鈴は。
 飾るときも仕舞うときも。
 同じように胸が痛む。



「おはよう、夾悟!」
「わ、おはよ、純太」

 純太は相変わらず屈託の無い笑顔をくれる。


5年前 No.57

星沢愛美@coconut15 ★56oKpd2ofY_8Is


「みーちゃん」

 うるさいな。
 呼ぶなってば。

「なぁに」

 可愛い子みたいになでようとする。
 あたしは猫じゃないわ。

「ほら、こっちおいで」

 あなたみたいな人間にどうして。
 こちらから近づかなくちゃならないの。

「うん」

 そう思って真っ白い、
 血管の浮いた細い腕に近づく。

「かわいいねぇ、みーちゃんはかわいいねぇ」

 うるさいな。
 うるさいな。

「えへへ」


5年前 No.58

星沢愛美 ★56oKpd2ofY_g1P


 ひとつの物語が終わるとき。
 それは誰にとってのしあわせか。
 誰にとってのかなしみか。
 あなたにとってのしあわせは。
 あなたにとってのかなしみは。
 わたしにとっての何なのか。

 ひとが親しみと愛と慈しみを知るとき。
 それはきっと冬だろうと思っていて。
 何故かというとだってそれは。
 とても寒い寒い季節だから。
 たくさんのかなしい曲と。
 たくさんのつめたい曲と。
 たくさんのあなたの曲と
 その倍以上のあたたかな曲が。
 流れて耳に届くから。



「みーちゃん」
 多くの人があたしをそう呼ぶ。
 やめてくれって叫びたくなる。
 やめろって叫んでみる。
 それでもあたしの心は届かない。

 笑顔を向けられるのが本当に嫌だった。
 憎らしいと思った。
 そんな風に感情をさらけ出すなんて馬鹿みたいだと思わないの。
 笑顔を向けられるのが一番嫌いだと思っていた。

「みーちゃん、あのね」
 ああ、笑顔を向けられるなんてどうしてどうして。
 相談を持ちかけられることに比べたら。
 いいえ比べられるわけない。
 馬鹿みたい。
 馬鹿みたい馬鹿みたい。
 どうして。
 どうしてそんな顔で、そんな声で話すの。
 話しかけてこないで。
 知らないのよ。
 あなたの恋愛もあなたの家族もあなたのことも。
 全部全部知らないの。
 いい加減に気づきなさい。
 馬鹿みたいよ。



5年前 No.59

星沢愛美 ★56oKpd2ofY_g1P


 ずっと探しているんだ。
 幸せの居場所を。
 幸せになれる場所を。
 自分の居場所を。
 自分の居られる場所を。

 Where is happiness?



 どうしたらいいと思う?
 そう訊いたって誰も応えてくれるはずはなく。
 何をすればいいかわからないのだと甘えても。
 彼女ら彼らは知らぬ振りをする。

 目盛りのない場所まで振り切れてしまえば良いのにと思うけれど。
 それはまた安易過ぎる考えで。
 ここが底ではないということは明白だ。
 いつしか自分はサービスをしながら生きていくことが出来なくなっていた。
 あのサービス精神旺盛な自分は何処へ行ったのか。
 自分の深奥にいるのであれば。
 いますぐ出て来て助けてくれれば良いものを。
 何が悪かったのか。
 何か食べた?
 何か悪いものを?
 何か読んだ?
 何か悪いものを?
 何かした?
 何か悪いことを。


 ああ。
 やめてくれ。
 否。


5年前 No.60

星沢愛美 ★56oKpd2ofY_g1P


 彼は繰り返していた。
 反復していた。
 仕方のないことだといつも最初に思うのだが、必ず最後には忘れていた。
 それも仕方のないことなのだ。

 夕陽が丘は雨の日も晴の日も夕陽色をしている。
 なまあたたかな羊水の色だ。
 温度は不確かだが確実なのはここへ来る前にも彼は彼だったということだった。
 いつの日か彼は彼女だったのかもしれないが、自分だったのだ。
 彼は彼女で彼女は彼で、昔の彼女はその昔、彼自身と彼女だったのだ。

 彼は今人間になりつつあるが。
 虫でもあったし魚でもあった。
 鳥でもあったし蛇でもあった。
 卵の中で何者になるともいえない時期に脆い卵殻が崩壊したこともあった。
 不思議なことに、彼はいつも記憶を持っていた。

 生まれる。
 過ごす。
 時が過ぎる。
 時は止まらない。
 彼の心臓は脈打つのを止める。

 生まれる。
 過ごす。
 時が過ぎる。
 時は止まらない。
 彼の心臓は脈打つのを止める。

 生まれる。
 過ごす。
 時が過ぎる。
 時は止まらない。
 彼の心臓は脈打つのを止める。

 生まれる。
 育つ。
 出会う。
 先立たれる。
 残る。
 迷う。
 死に急ぐ。
 死ねない。
 止まらない時を嘆く。
 大量の人間と接する。
 大量の薬を服用する。
 入水する。
 失敗の上に失敗を重ねる。
 彼女と出会う。
 彼女と過ごす。
 またも残る。
 迷う。
 心臓は、脈打つのを止める。


 そしてまた生まれるのだろうと、
 なまあたたかい体温のなかで彼は思う。

5年前 No.61

星沢愛美 ★56oKpd2ofY_84O


 あの子はいつも、お月さんの近くにいるのね。

 ほたるは呟いた。
 学校指定のマフラーから顎も出してしまっている。
 最近、ひとりの帰り道。
 気づけば空を見上げている。
 空にはまばゆい光が瞬いているのだ。

 (……いいなぁ)

 ほたるはなぜか、夜空に浮かぶ小さな光を羨ましく思っていた。



 篠川ほたる。

 自分の名前はすきじゃない。
 ほたるがそう思うのは、
 かわいいとか、珍しいとかいうものは、
 自分を表す名前として、必要なものではないと思うからだった。

 (それに……)

 死の川の蛍、なんて。
 なんて儚く脆いものだろう。

 蛍の声は、蛍にしか聴こえない。
 どれだけ叫んでも聴こえないものには聴こえないのだ。



5年前 No.62

星沢愛美 ★56oKpd2ofY_0vc


 ときどき思い出さなくちゃやってられない。
 兄さんは、確かにいたのだと。

 いや、正確にはこの家に一緒に住んでいるのだけれど。

「おはよ」
「ああ、おはよう」

 挨拶は、ある。
 おはよう、
 いただきます、
 ごちそうさま、
 おやすみ。

 すべてとてもやさしく、
 ぶっきらぼうに兄さんは言う。

「おはよう」
「おはようございます」

 荒波さんは、ウサギと僕を見にやってくるだけだ。
 ウサギと僕に餌が足りなければ、
 荒波さんはいくらでも自分を犠牲にしてここにいる。

 このウサギは、
 彼の探していたウサギだろうか。
 彼の探していたウサギは、
 どんなウサギだったろうか。
 そんなことを考えていると、
 自然と手はウサギの物語を描いていた。
 長すぎることが多いので、
 その場合は荒波さんが削る箇所を見つけてくれるか、
 厚めの本にする許可をとってくれる。

 荒波さんは、とてもやさしい。
 兄さんは、とても、やさしかった。
 そして今だってとてもやさしい。

 やさしくないひとなんてこの世にはいないのではないだろうか。
 ウサギはどうして、しあわせなんて求めたのだろう。
 ウサギは、どうしてしあわせになりたいと願ったのか。

 僕は自分の愚かさと考えのなさに脱帽さえしてしまいそうになる。
 きっと今のままではいけないのだ。

5年前 No.63

星沢愛美 ★56oKpd2ofY_ZMH


 どうしたのだろう。
 彼はどこへ、
 行ってしまったのだろう。

 僕の書く物語が昔々、ひとに知れた。
 そのときひとは、僕を見た。
 作家になれると言い、作家になるべきだと言った。
 僕はその出来事にひどく動揺した。
 彼はそれを、ただ見ていた。

 悲劇のヒロインには、
 助けにあらわれる正義のヒーローがつきものだ。
 僕の物語は、まさにそうだった。

 哀しさもない。
 狂気もない。
 今思えば、どうしてひとが褒めてくれたのか。
 僕にはわからない。

 そうして僕は、書けなくなった。

 誰かに勝つことは嬉しいことだ。
 けれどそれが、もし叶うなら。
 願っても良いとされるなら。
 誰かと、勝ちたいと願うのだ。
 自分が負けるのは確かに嫌だ。
 それでも誰かと勝ちをとりに行きたかった。
 その誰かはそれでも、
 誰でも良いというわけではなくて。
 難しい、問題だ。

 しあわせを、彼はまだ知らない。
 彼は、僕だからだ。


5年前 No.64

星沢愛美 ★Zd8cvCDKu8_ZMH


 なぜだろう、と声に出せなかった。
 なぜだろうとそれはどうでもよいことで。
 どうでもよいことは口に出さずともよいことで。

 あのひとは言った。
 夏はこの青さからくると。
 ああ、またあのひとは、僕のずっと先を歩いていたことを。
 僕は知るのだ。

 風が吹いていることを知らなかった僕は。
 風が吹いていることをあのひとから。
 教わったのだ。

 だからこの夏はよい夏だ。
 知った。
 知ることを。



 だけど嘘吐きは嘘をつかなきゃならないんだよな。
 だから僕は嘘をつき続けているわけだけれども。
 それはまたどうでもよいことなので口には出さないでおく。


4年前 No.65

星沢愛美 ★Zd8cvCDKu8_ALK


 みんなの「みーちゃん」と呼ぶ女の子は私のことだ。
 馬鹿みたい馬鹿みたい。
 呼ばないでよと何度も何度も心の中で反復するけれど。
 それはみんなのもとには届かない。
 あたりまえだ。
 馬鹿みたい馬鹿みたい。

 うるさいのよ。
 いつもいつもいつもいつも。
 甘ったるい声で。

「みーちゃん」

 あなたのつけたこの名前を。
 あなたが呼ぶの。
 甘ったるい声が。
 私にはどろりと擬音が聞こえそうなほどに、
 ぞくりと鳥肌が立ちそうなほどに、
 耳につくの。

「ほら、これみーちゃんすきでしょう」

 手作りのお菓子を持って私の名前を呼ぶ。
 あなたがつけた、あなたの、あなたの、所有物の名前よ。
 かわいいかわいい、あなたの所有物である私よ。

 馬鹿みたい馬鹿みたい。
 どうして私はここにいるの。
 ああそんなことを考えてしまう自分が一番馬鹿なのよ。
 そんなことは生まれたときから百も承知よ。
 馬鹿なの。
 そうね、うまれたときから馬鹿なのよ。


4年前 No.66

星沢愛美 ★Zd8cvCDKu8_ALK


 私のそれがなくなった。
 私のそれがなくなった。
 もうどうしようもなくなったって、
 それは新しく作ることなんて出来ない。
 どうすればいいのかなんて。
 今の私には何も思い浮かばない。

 信じられない、というのが一番しっくりくるのかもしれない。
 だって、
 だって。



 ああ、もうわかったから、
 はやく眠ってしまいなさい。
 どこかへ行って仕舞えばいいんだわ。
 夢の世界にでも何にでも。
 行って仕舞えばいいんだわ。

 そのほうがきっと、
 あなたはきっと、
 しあわせなのよ。



 だから、さようなら。



4年前 No.67

星沢愛美 ★Zd8cvCDKu8_ALK


 君がいないのに君がいないのに君がいるはずの場所に行くの。




 どうしてっていわれたってだって、
 理由なんていらないっていってくれると思ってるから。
 いつまでもそうしていたかったけれど、
 それじゃ前には進めないっていうことかなぁ。
 だけれど前も後ろもわかんないんだよ。
 前後不覚ってこのことなんだと思うのね。

 道の途中だけれど、
 スタートラインかどうかまでは私、
 わからないんだ。

 しあわせを見つける旅にでたウサギはひとりぽっちだったけれど、
 それでも進んでいたということに私は泣いたんだよ。
 私は泣けたんだよ。
 進めたということかな。
 やっぱりよくわからないな。

 それでも私は私じゃないひとになりきって、
 私を表現してみる。
 だってだって、
 そんなことしか出来ないんだもん。
 止めてくれるひともいないんだもん。
 迷惑かけちゃいけないひとばかりなんだもん。

 あなたのしあわせって、何?




4年前 No.68

星沢愛美 ★Zd8cvCDKu8_ALK


 お願い、お願いだから。
 返して。



 蒼い風になりたいと願ったあの子を返して。

 自分のことを白いふりをした黒い羊だと言ったあの子を返して。

 一人称がばらばらな、不安定な未成熟のあの子を、返して。



 どこにもいなくなったわけじゃない。
 誰かに奪われたわけじゃない。
 消去ではないのに。
 おかしな話だということは重々承知の上なの。
 でも、やっぱり、返してって言いたい。
 返して欲しいの。

 消したいわけじゃない。
 むしろ更新したいだけなの。

 こんな人間になりたいって言ってたあの子。
 悲しめないって泣いてたあの子。
 世界じゅうすべてを醜いなんて思ってたあの子。

 返して。
 変えなくていい。
 変わっていることを認めさせて欲しい。
 あなた。
 貴方。
 彼方。
 貴女。
 ぼく。
 僕。
 わたし。
 あたし。
 私。
 君。
 キミ。
 きみ。
 俺。
 おれ。
 オレ。
 いろいろな人間たちを返してほしい。

 消えないで。
 お願い、消えないで。


 しあわせにしてあげる。
 一緒にしあわせになりたい。

 今の私は、しあわせになりたい。


4年前 No.69

星沢愛美 ★Zd8cvCDKu8_ALK


 やーめた。

 って言ってみたい。
 自分から逃げることなんて出来ない。
 知ってたけど、知ってるけど。
 うるさいなぁ。



 どうしても滅んじゃいけないの。
 どうしても、どうしても。

 どうして滅んじゃ、いけないの。
 どうして、どうして……。



 わからないとうなだれることもダメ。
 こうだと決め付けることもダメ。
 じゃあ一体、誰の言うことを聞いていればいいの。
 みんな?
 みんなってだぁれ。



 しあわせの在処を教えてくれるのは誰なのかな。
 しあわせのある場所は、ぜんたい何処にあるのかな。
 信じたくない。
 信じてみたい。
 むしろ信じてと言われたいだけ。
 嫌だって言うけど、
 嫌じゃないし、
 嫌だって思うけど、
 嫌じゃない。

 気持ち悪いなぁ。



 空白が気持ち悪い。
 空気が悪いのかもしれない。
 どうしたらリセットできるの。
 人生はリセットできない。
 何もかも経験することなんてできない。
 それならば余計どうしたらいいの。

 不幸せを経験しないと幸せになれないって本当?
 不幸せを経験したから幸せになれたって本当?

 そんなのあなたのいる位置が……。

 ああこうしてまた誰かの受け売りをして生きていることを思い知るの。

 どうしてこんなことになってしまったのかな。
 やっぱりやり直すなんてできないかな。
 今日はひとりで眠りたいよ。



4年前 No.70

星沢愛美 ★Zd8cvCDKu8_ALK

「ミムルス」

 あなたの声が聞きたい。



 けれどやっぱり、私は、弱虫だなぁ。

4年前 No.71

星沢愛美 ★Zd8cvCDKu8_ALK

「レースフラワー」

 静かに。

 ただなだらかに続く山間に流れる川のように。

 静かに。

 ここでさようなら、と言えたなら。

 私は幸せだと言えたでしょうか。

4年前 No.72

ほしざわあゆみ ★fMVy7IO2IR_ALK


しゃぼん玉。
浮いて。ふかれて。
弾けて見せて。
ときにどこまでも昇っていって。
見えなくなるまで昇っていって。
それからキミは。
どこゆくの。
虹色魅せて。
どこゆくの。
あたしの知らないところでしょうか。
あたしの知らないところでしょうね。

夏の葉よ。
風に吹かれて。枝離れて。
どこゆくの。
秋へ向かうのですか。
夏はまだまだ続くのかしら。
ふわり。ひらりと。
どこゆくの。
あたしの知らないところでしょうか。
あたしの知らないところでしょうね。

鈴虫よ。
りりりり鳴いて。
どこゆくの。
キミは泣いているのかい。
キミは啼いているのかい。
あたしに寂しさと秋をおいてって。
静かに。小さく。
どこゆくの。
あたしの知らないところでしょうか。
あたしの知らないところでしょうね。

雪の上。
溶けて。流れて。
どこゆくの。
春を運んできたキミは。
綺麗な空気にしたキミは。
どこへゆくの。
どこゆくの。
あたしの知らないところでしょうか。
あたしの知らないところでしょうね。





3年前 No.73

星沢愛美 ★AZGlAEWPq2_q2m




「ハシバミ」

 喧嘩した。

 だから。
 仲直りしてみる。

 ごめんなさい。
 だけじゃない。

 時には。
 ごめんなさいも、いらないのだ。


 知恵ちゃんと私には。
 何にも要らないことだって。
 あるのだ。

 知恵ちゃん。

 名前を呼んだら仲直り。
 しているのだ。



3年前 No.74

星沢愛美☆kCjhB4HYZPW2 ★AZGlAEWPq2_q2m


 どうしよう?
 もう10代の文章はかけなくなってしまった。
 これから、どうしたらいいのかな。


 だいすきも。
 だいきらいも。
 すきもきらいも。

 ごちゃまぜになって。
 結局全部だいきらいよ。


 こうやって無心になって打っているように見えるでしょ?
 でもね。
 とっても、熱いわ。
 熱くて熱くて仕方ない。
 この熱いものに、ベールをかけて。
 それでもあふれてきそうになるのが。
 とても心地いいのよ。

 あなたも試してみてはいかがかしら。
 なんて。



 どうしてこんなにあふれてくるのかはわからない。
 でも、キーを打つ手はなぜだか止まらないのです。
 ふわり。ふわり。
 浮かんでくるというよりは。
 今はバチバチとただ一文字一文字が染み出てくる。

 だからかしら。
 おかしなことばかり書くでしょう?

 ふわりと浮かぶのはおかしくはないかもね。
 バチバチと染み出てくるのは?
 おかしな話ね。

 オノマトペってやつよ。





 バカンスは楽しむべきだわ。

 ま、バカンスはもう、
 今日で終わりなのだけれどね。


 さすが大学生ってやつね。

 休みにまで学費を払うなんて。





 ではまた、しばらく後。




3年前 No.75

星沢愛美☆kCjhB4HYZPW2 ★AZGlAEWPq2_q2m


 僕は子どもの頃、こういうことが嫌だった。
 こういうことが、すきだった。
 それは今ではほとんど思い出すことがないことだけれど。
 それでもやっぱり覚えているのだ。

 ピンクのキリンはいません。
 キリンは黄色と決まっています。
 ピンクのキリンは個性でよろしい。
 黄色と決め付けてかかってはいけません。

 60年かけて彼が描いた作品は、
 今では60分もかからず読める作品となった。

 何が違うのだろう。
 何が変わっていくのだろう。
 何になっていくのだろう。

 僕は。




 世界中に散らばっている僕を、
 本当は探しにゆかなければならないような、
 そんな気がしている。

 だけれど僕にはそんな勇気はこれっぽっちも持ち合わせがない。

 どうしたら良いのかわからない。
 ここには何もない。


 それは嘘、だけれど。



 蒼い風になりたかった。
 だけどそれはかなわない気がする。
 だからあきらめた振りを、このところずっと。
 続けているのだ。



 知らない知らない知らない。
 知らない振りをしたい。
 知らないことがたくさんある。
 知っている振りはしたくない。
 どうして知っていなきゃならないのか。
 どうして知らなきゃならないのか。
 知らなくたってうまくいくかもしれないのに。
 知ったらうまくいくものでもないのに。
 知ったらうまくいかないかもしれないのに。


3年前 No.76

星沢愛美 ★Lt8hunAXTN_q2m




 本当は違うの。
 大事にしたいものが、たくさんあるの。

 弱い自分がいけないの。
 強くなろうとすらできない、自分がいけないの。

 大きくなるにつれて何もかもがうまくいくと思っていたわけじゃない。
 そうだった。
 けれど、月日を追うごとに負うごとに。
 荷物がこまごまして。

 本当は誰も悪くないの。
 だから責められなくて進まない。



 大きくなったのに。
 久々に怪我をした。
 階段からちょっところけて。
 すねを怪我した。

 電話をかけていたの、友達に。
 その日はなんでだか妙にテンションが高くて。
 言わなくても良いような。
 今までなら言っていなかったような。
 ことを、たくさん、言った。

 それが多分普通だったと思うんだけれど。
 面倒だから普通になるというのは。
 今までになく不自然というか。
 違和感があった。

 今日もなんだかおかしな気分で。
 ああこれは体調のことがある体とか。
 いろいろ思っては見たんだけれど。

 ああ。
 ああ。

 ダメね。
 何かを始めないと。

 そう思って。
 1年前にも何かを始めてみたわ。
 いいえ、1年前からずっと。
 いいえ、それよりも前から。



 だけれどダメなのよ。

 どうにも、ならない。











 むしろそのせいで。
 そのせいで私はここから動けない。



3年前 No.77

星沢愛美 ★Lt8hunAXTN_q2m




 はぁ。
 お待たせ。
 待ってはいないかもしれないけれど。
 お待ちかねということではないかもしれないけれど。



 ああそうだなぁ。
 もうこの白いノートパソコンも。
 限界、かなぁ。



 もう何年使ったかなぁ。
 幸せを探し始めたのは、たしかこのパソコンとともにだ。
 いや、もう少し前だったかもしれない。

 もうこの白いノートパソコンは。
 僕が諦めてしまったのではないかと思ってしまったのではないだろうか。
 なにも、なにも、なにも。
 動かなかった期間のなんと多かったことか。

 ごめん。すまない。申し訳ない。

 一番使いやすい、というよりまぁ。
 この白いノートパソコン以外自分のパソコンとして使ったことはないのだけれど。
 この白いノートパソコンがいたからこそ。
 いろいろなテキストでいろいろな人物を書くことができたと思う。

 余談だけれど。
 僕は、僕は描くということと書くということとは区別している。
 余談終わり。





 僕は僕ではないけれど僕である。
 ああ違うな。
 僕は、僕であるけれど僕ではない。
 僕は、彼でありキミであり君であり彼女であり。
    貴方であり私でありあたしであり何でもある。

 つまり何でもありだ。

 生み出すというより。
 にじみ出てきたとかあふれ出てきたとかのほうが近しいと思う。
 自分で故意に生み出してきた人物たちは。
 実はあまりいない。
 いないから、だ。





3年前 No.78

星沢愛美 ★S2lIvislid_q2m


 ずっと探しているんだ。
 幸せの居場所を。
 幸せになれる場所を。
 自分の居場所を。
 自分の居られる場所を。



 Where is happiness?




 白い少女はバラを持ち。
 歩き回って言うのです。

 このバラをあなたに。
 このバラをあなたに。
 このバラを、あなたに。

 咲き誇る白いバラは枯れることはなく。
 もっともっと広がり続ける。
 白い少女は負けずに歩く。

 白いバラをチョキリチョキリと絶ってゆく。
 そしてひとへひとへと繋げてゆく。

 このバラをあなたに。
 このバラをあなたに。
 このバラを、あなたに。


 どうしてこんなことを続けているのか。
 白い少女は知りません。

 螺旋が巻かれて動くのです。



3年前 No.79

星沢愛美 ★NRp8dMh7VF_1Gj


 さて。
 黒いノートパソコンは自分で買った。
 君に慣れていきたいと思うし、
 君に慣れて欲しいとも思っているから、
 どうぞよろしく。


 でもやっぱりなんだか、少し勝手が違うね。
 君とはお話をしている気分だけれど。
 あの子とは、なんていうんだろう。
 あの子になりきっていたような感覚があったんだ。


 今思えば、だけれどね。




 何も思わなくてもどんどん湧き出てきたのは、
 一体何のためだったんだろう。
 今までの思いがくるくる湧き出ていた感覚。
 でももしかしたらそれは、
 ただの改編。
 今まで読んできた文章を、私が噛み砕いて、
 自分にわかりやすく書き換えてきただけだったのかもしれない。
 打つ音すら違う。
 いろんな物事が違う。

 ああ、でも同じなのは。

 自分がいつだって、何を書きたいと思うでもないのに。
 あらわれてくるこの文章かもしれないね。

 書けといわれているわけじゃあないというのに。
 強制された言葉遣いではないというのに。
 時々誤字をはさんで君たちはあらわれる。






 君たちをだいすきだと言ってみたい。



3年前 No.80

星沢愛美 ★S2lIvislid_q2m


 ごめんね。
 やっぱり僕は、僕でしかないみたいだ。


 白い羊の振りした黒い羊の話を覚えているかな。
 いつの日かお話したんだけれど。



 何がすきだとか
 何がほしいだとか

 不意に訊かれるとわからないな。


 君のすきなものを教えて
 君のほしいものを教えて

 いろんなものを訊くけれど、
 僕はというと何も返せていないのかもしれない。

 まだ始まっていないってのも、
 あるけれどね。



2年前 No.81

星沢愛美 ★CCSM3fXYWl_4rx


どうしてどうしてそんなことに

なったのでしたっけ





ずるいずるいと
馬鹿みたいに叫ぶ私の心
哀しみの気持ちを羨む心

やめてしまえばいいのに
この生きるという行為を

そうすればきっと
何も考えずによくなる
私たちは死後の世界を信じたり
幽霊だ妖怪だと創作したり
いろんなことを考えてはみるけれど
きっとちっともそんなもの
あるわけはないのだから

いっそあきらめてしまえばいい
哀しみは
私はもうきっと味わうことはないだろうから

ひとりぽっちの自分を
哀しい哀しいと
妄想にうずくめて

私は生きていたはずだったのに

私ったらほら ごらんなさいよ

何を腑抜けた顔で
鏡の前に立っているの

気持ちが悪くて仕方がないわ

やめてやめて
幸せだというのは

しあわせはなにかと聞いたあのウサギのことを忘れたの

やめてやめて
忘れないで
ウサギだけじゃない
その絵本作家もその兄も
金魚のあの子もその友達も
みんなみんな忘れないで

忘れてなんかないわ
やめてよ
いいがかりだわ

うそよ うそうそ
きっといつの間にだか忘れてしまって
今みたいにふと気づくのよ
そんな
それだけの存在になったのよ
だから何も浮かばないのよ
何も見えないの

セミの声を聴いてもほら
思い出さなかったでしょう
青いキュウリの味が夏のはじまりだなんて
思い出さなかったでしょう


楽しくて楽しくてしょうがないなら
忘れたって構わないわ

だけどあなたは何もしない
だらだらと時が経ち
自分が老いていくことがいやだと思いながらも
ずっとそのまま生きるのよ


気持ち悪い




死んでしまえば いいのよ



2年前 No.82

星沢愛美 ★S2lIvislid_q2m




 赤い金魚の風鈴は。
 もうしまわれてしまった。

 また夏が終わった。
 また、冬が来るのか。







 夕陽坂を上りきる前に見えてくる古本屋。

 せり。
 すみれ。
 あんず。
 もみじ。
 さくら。
 そう。
 いちはつ。
 ふじ。
 さつき。
 あい。
 うめ。
 みやこ。
 えりか。
 しおん。
 ひいらぎ。
 かすみ。

 神の子どもたちが出会う場所。





2年前 No.83

星沢愛美 ★zveTzdbp9A_4rx




 高いところから落ちる夢。

 失敗だってさ。




 髪の長い女の人。
 髪色は、黒。


 僕は何も悪くない!



 僕は何も悪くないんだ。



 だから、この後も生きていていいだろ?






 そんなことは聞かなくていい。
 だって、君は悪くないんだから。
 というよりね。

 この後も生きていいかなんて聞かなくたって。
 誰かに認められなくたって。
 あんたは今後も悪いことしかせずに生きていくんだから。

 生きろと言われたって死ねと言われたって。
 あんたは生きていくんだろ?
 だってあんたは意気地のない男だ。


 何度も何度も夢に見て。
 それでも。








 忘れられないということはそういうことだ。







2年前 No.84

星沢愛美 ★YqDWQHwlQs_4rx




 金魚の泳ぐ風鈴は。
 もう鳴らないのかもしれない。

 はじめてそう思った初夏。



「日沙子、日沙子」


 今年の夏は、来るだろうか。




 きっと来る。
 夏はいつもすぐそこにあるのだから。
 遠くなって。
 近づいて。
 また遠ざかって。
 僕のいない夏を思い出すことしかできなくなるのだと思う。











 どうしてどうしてそんなことに

 なったのでしたっけ





 ずるいずるいと
 馬鹿みたいに叫ぶ私の心
 哀しみの気持ちを羨む心

 やめてしまえばいいのに
 この生きるという行為を

 そうすればきっと
 何も考えずによくなる
 私たちは死後の世界を信じたり
 幽霊だ妖怪だと創作したり
 いろんなことを考えてはみるけれど
 きっとちっともそんなもの
 あるわけはないのだから

 いっそあきらめてしまえばいい
 哀しみは
 私はもうきっと味わうことはないだろうから

 ひとりぽっちの自分を
 哀しい哀しいと
 妄想にうずくめて

 私は生きていたはずだったのに

 私ったらほら ごらんなさいよ

 何を腑抜けた顔で
 鏡の前に立っているの

 気持ちが悪くて仕方がないわ

 やめてやめて
 幸せだというのは

 しあわせはなにかと聞いたあのウサギのことを忘れたの

 やめてやめて
 忘れないで
 ウサギだけじゃない
 その絵本作家もその兄も
 金魚のあの子もその友達も
 みんなみんな忘れないで

 忘れてなんかないわ
 やめてよ
 いいがかりだわ

 うそよ うそうそ
 きっといつの間にだか忘れてしまって
 今みたいにふと気づくのよ
 そんな
 それだけの存在になったのよ
 だから何も浮かばないのよ
 何も見えないの

 セミの声を聴いてもほら
 思い出さなかったでしょう
 青いキュウリの味が夏のはじまりだなんて
 思い出さなかったでしょう


 楽しくて楽しくてしょうがないなら
 忘れたって構わないわ

 だけどあなたは何もしない
 だらだらと時が経ち
 自分が老いていくことがいやだと思いながらも
 ずっとそのまま生きるのよ


 気持ち悪い

2年前 No.85

星沢愛美 ★ZBuXFYXuFp_4rx


 もう夏だ。

 夏が来て、夏が終わって。
 また夏が来るのでしょう。



 みつあみの彼女は。
 髪の色を変えて。
 夢を見る。

 あの時私は何を思った。
 あの時私は何を思った。

 夢を見るとき。



 笑っているあの子は。
 本当に嬉しい?
 本当に楽しい?

 知らない。

 僕はあの子ではないし。



 放っておこう。
 僕は夢には入れない。
 夢の中まで入れない。







 ああ、あの人だ。
 あの髪の色、瞳の色、肌の色。
 全部そう。
 あの人を形作るそれら。

 夢の中にまで出てきてしまった。
 なんて。
 なんて。
 なんて。




 さようなら。
 今日の夢。





1年前 No.86

星沢愛美 ★yzIDWzlFvQ_4rx




 短く折り曲げた格子柄のスカート。
 私と同じ、白いカッターシャツ。
 親戚のおさがりだという、少し色の薄いリボン。

 あなたがすき。

 ごめんね。

 いろんなことを一緒にした。
 朝、待ち合わせして一緒の車両に乗った。
 クラスは3年間、ずーっと一緒だった。
 小学校は全然別の場所。
 これまで会ったことがなかったはずなのに。
 入学式の日から一緒にいたね。
 あと半年で卒業。
 やだよ。
 もっと一緒にいたい。

 お弁当一緒に食べよう。
 トイレにも着いていくよ。
 移動教室にも一緒に行く。
 テスト勉強も一緒にしよう。
 ノートだって見せるよ。
 カラオケも行こう。
 あなたのすきな曲、一緒に歌えるようにするよ。
 帰りにカフェにも寄って帰ろう。
 ケーキセットを半分こしよ。
 コンビニでアイスでもいいよ。
 なんでもいいよ。
 なんでもいいの。



 だいすき。







1年前 No.87

星沢愛美 ★sJzaAeGYKV_4rx


 ごめんなさい。
 ごめんなさい。
 ごめんなさい。



 ぼろぼろと崩れてゆく世界。


 しあわせとはきらめく青春か。
 しあわせとはほがらかな朝焼けか。
 しあわせとは塩辛い海の青色か。
 しあわせとは甘くほどける桃色か。
 しあわせとは何か。
 しあわせとは。
 何か。
 しあわせとは。
 しあわせとは何処にあるか。
 しあわせの居場所は。
 しあわせの生まれる場所は。
 ほわほわと生まれたしあわせは。
 どこにゆくのか。
 ここに留まるのか。
 しあわせとは。



 かんな、私の名前。
 かんな、私の名前が呼ばれる。
 かんな、私の名前が呼ばれるのは嫌い。

 うるさいうるさいうるさい!
 うるさい!
 黙っていて!

 どこからあふれているのかわからない熱いもの。
 熱い、感情?
 これは感情?
 私みたいな存在が、どうして感情なんか持っているのか。
 そこから私は理解できない。
 まずこんな思考があることすら、信じられないのだ。

 先生は私をかんなと呼ぶ。

 かんなと呼ばないで。

 先生は言う。
 私が感じているコレは、怒りだと。
 寒さ以外の7つを、私は感じられるのだと。
 作った本人、先生がいうのだから、きっと本当のことだろう。

 コレは、怒り。





 しあわせという言葉すら知らない寒七ちゃん。
 かあいそーう。
 寒七ちゃんが感じられるのは、寒さ以外の7つなんだって。
 感情なんて8つじゃないのにね。
 でもそれでいい。
 それでこそ、有衣先生の作ったものだよ。
 しあわせを知らない、しあわせを知れない寒七ちゃん。

 ふふ、かあいそーだねぇ。
 かあいそうかあいそう。
 でも、同情なんかしてあげないんだから。


 矛盾かなぁ矛盾かなぁ。
 こっから落ちたらしあわせに近づけるかもしれないんだもんねぇ。
 それって矛盾だよねぇ。

 落ちたらしあわせっ!

 ふは、性行為とおんなじなのかもねー。
 したことないけど、てか出来ないけど。
 世界ってのは面白いねぇ。

 ってことで。
 逝けたら教えてね。






 しあわせってなんなのか。





 その答えを。







 ばいばい。


















 うそ。
 ばいばいしないよ。











 またね。



1年前 No.88

星沢愛美 ★MvJA2tN8by_nHx



 ねぇ。
 新しい世界を知るのは、もうやめたの?

 あんなに楽しかったのに。
 あんなに面白かったのに。
 あんなに魅力的だったのに。

 もう、忘れることにしたの?



 諦めて、見捨てて。
 それで大人になったつもり?
 大人になったから仕方ない?

 ふぅん。



 それで、いいんだ。




 それで、良くなっちゃったんだ。








 このままではいけないと。
 向上心を忘れずに精進しますと息巻いて。
 まだまだ子どもと言い続けたあの日々から。
 何も成長していないくせに。
 何にも変わっていないくせに。
 それでどうして。
 忘れてしまうの。
 変わってしまうの。
 おかしな話。

 夢を見なくなった。
 夢を見なくなった。

 浴びるように聞いた知識たちは私の中に降り積もり。
 そのまま地層のようにかたくなって。
 ときどき崩れて交わっていく。

 もう大人になったから。
 だからこれからは自分から学びに行かなくてはならない。

 学び方を学んでいたのだから。
 そのために学んでいたのだから。

 答えがないのに学ぶことに意味があるかなんて愚問だわ。
 どうしてあなたはそんなことを問うの。
 答えがないから学ぶのよ。
 学び続けるとはそういうことなの。

 終わりがなくて。
 果てがなくて。
 答えがいくつあるかなんてわからない。
 答えがないことが答えであるという人もいるわ。

 そうして大人になっていくと。
 そう言うのよ。
 大人はね。



1年前 No.89

星沢愛美 ★MvJA2tN8by_nHx



 本当はあかくもない太陽を
 どうして赤い色で画かなくてはならないのだろう

 本当はないかもしれない宇宙(そら)を
 どうして想像してまで画かなくてはならないのだろう

 本当は名前も無いはずのこの惑星(ほし)を
 どうして青く美しく画かなくてはならないのだろう


 本当は美しくなんて無いにんげんを
 本当は醜くなんて無いにんげんを
 本当は憎しみしか知らないにんげんを
 本当は愛すべきにんげんを
 ぜんたいどうして
 美しく醜く憎しみを持って 愛を灌いでまで
 画かなくてはならないのだろう








 いつの日か
 あの花のようにまっすぐに
 誰かに見つめられる日が来るかしらと
 煌びやかな金銀の家具に囲まれて想っていた

 その娘は

 そう
 心が紅よりももっと濃く
 もっと深く燃えている
 ああ
 どうして叶わないのだろうか
 だから燃えているのだろうか
 いいえ
 きっとそんなことはない
 きっとその娘は
 いいえ彼女は
 きっとそのひとだからこそ
 御身を捧げても良いと思えるのだ


 ああそうだ
 あの紅く紅い花のように

 棘のあるしなやかな茎を
 愛するひとへと伸ばし
 太陽にも劣らぬ燃え盛るその紅で
 そのひとを染めるのだ




 えがくということと薔薇の花


10ヶ月前 No.90

星沢愛美 ★MvJA2tN8by_nHx

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10ヶ月前 No.91

星沢愛美 ★MvJA2tN8by_nHx


「誰も」

 いないのです
 誰も

 ここには
 誰も

 彼はいなくなったのです
 ここから
 彼はここが嫌いでしたから
 いつかはこうなるであろうとわたしは思っていました
 彼はなにかあるたびに
 それこそ世界が終わってしまうというようなことまで言いました
 とても消極的で
 それなのにとても情熱的で
 嫌われ者の彼でした

 わたしは彼がだいすきになりました
 彼を愛したのです

 いいえ 嘘

 ほんとうは
 彼を放っておけなかっただけ
 だいすきでなんかなかったのです
 愛してさえもいなかったのです
 ただ惹かれて焦がれて
 離れていられないだけなのです

 それが恋ですって?
 それが愛の始まり?

 嘘つき

 わたしは彼を愛してなどいなかったのです
 彼がわたしを必要としたときを
 何度想像したでしょう
 きっと助けてあげようと何度思ったことでしょう
 でもそれは結局のところ
 嘘っぱちの道化の思いだったのです

 彼がもしわたしを必要としたならば
 わたしは彼のことなど放って
 どこかへ行ってしまったでしょう

 彼は
 そんな彼は
 彼ではないのです

 彼は
 ほんとうの彼は
 そんなひとではないのです



 ああ わたしっていうひと
 ぜんたいどうしてこんな人間なのかしら
 黒くもなく
 白でさえなく
 まるで存在の無い零
 せめてきらめく雫のような心があれば
 わたしもこの空の色に染まることが出来るのに


10ヶ月前 No.92

星沢愛美 ★MvJA2tN8by_nHx

「思考について」

 思考を展開するときに
 最も重要なことは
 自分をどこにおくかである

 自分をどこにおくかさえ
 決めていれば
 君は迷うことなく
 思考を進められるのである

 尤も
 思考というのは
 迷うことであり
 悩むことであり
 発見までの過程すべてを言うのであるからして

 君が迷うことが無いのは
 思考を進めるという行為に至るまでである

 思考展開をはじめれば
 そこからはすべて
 迷いであり
 悩みであり
 発見までの過程なのである

 たとい発見に至らない場合でも
 そうなのである



 べんがく というものについて
 たべもの というものについて
 ぎじゅつ というものについて
 どうぶつ というものについて
 ぶんがく というものについて
 びじゅつ というものについて
 せんそう というものについて



 思考を展開するときに
 最も重要なことは
 自分をどこにおくかなのだ





「鳥とわたし」

 はらはらり

 なにか落ちてきた
 羽根だった
 真っ白で赤かった
 不思議だった

 どしゃり

 なにか落ちてきた
 鳥だった
 ちょうど細い首の根を撃たれていた
 即死だった

 すぎぎぎぎ

 皮を剥いだ
 赤く染まった白がなくなった
 鳥の肉が露になった
 もう生き物でもなくなった

 ずだん

 わたしが包丁を振り下ろした
 赤はあまり吹き出なかった
 けれど2つに割れた
 頭とそれ以外になった

 それからわたしはいくつかに鳥を解体して
 もう肉の塊でしかない鳥を鍋に入れて
 調味料で味を調えて
 皿に載せて
 銀のフォークで戴いた

 もう
 鳥はわたしの一部だった


10ヶ月前 No.93

星沢愛美 ★MvJA2tN8by_nHx


 夢の中だと思っていた場所が
 夢の外側だったと知ったとき

 たしか一度きりではなかったと思う

 夢の中は心地が良くて
 誰もいなくて
 誰もが僕を認めてくれて
 暗く冷たく
 朗らかで

 良いと悪いと
 ないまぜになって

 今この瞬間の居場所がどこにもなくて

 それが心地よかった



 夢の中だと思っていた場所が
 夢の外側だったと知ったとき

 ひっくり返って
 夢を見て
 起き上がって
 また夢を見た

 一人になってつまらなくなって
 夢を見て
 大勢になってつまらなくなって
 また夢を見た



 ちょうちょ結びの上手なキミが
 急に現れて靴を履かせてくれたんだ

 そしてそれは夢だったんだ



10ヶ月前 No.94

星沢愛美 ★MvJA2tN8by_nHx


 大事なことは何年経っても大事なことだというのは。
 それはもう真っ赤な嘘なのだ。

 ほら。
 ほら。
 大きな車輪を回して進む。

 時間は進む。



 やわらかなクッションの上に座って。
 君は画面を見ている。
 もう暑い夏だというのに。
 季節の生き物たちは必死に生きて。
 必死に死んでいるというのに。
 涼しげな風の吹く中に君は生きている。
 何も知らずに生きている。

 何も知らずに死なずにいる。



 のどが渇くことが生きているということで。
 ピカソも風に揺れるスカートも。
 どこかで戦争が起きていることも。
 ぜんぶぜんぶ。
 生きていること。

 生きているということ。

 そう言ったのは誰かなんて。
 本当はどうでもいいのでしょう。
 いいえ。
 本当はそこが大事なだけなのでしょう。

 言葉に力があるというのは。
 言葉を発する人に力があるということだ。
 認められた人。
 崇められる人。
 称えられる人。
 畏れられる人。




 軽快な音楽にのせてすべてを忘れることができたなら。
 それは一番良いことに違いない。



10ヶ月前 No.95
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