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夕暮れの追憶

 ( 短編集投稿城 )
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妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=NO9hTgQzLk



「未来が見えないの」

彼女はとても苦しそうにそう呟いた。自分の未来が真っ暗だと。目標は確かにあるはずなのに、自分が正しい道を走れているのか分からないのだと。何となく人生を送ってきた僕が彼女に何かを言うにはあまりにも無責任な気がして。僕はただ、彼女に寄り添うことしか出来なかった。それを、今ではとても後悔している。夕焼け色に染まった世界で、踏切の前に立ち尽くす僕を通行人は不思議そうな視線をよこす。普段の僕なら恥ずかしくて直ぐにその場を去っただろうけれど、今日はそんなことを気にする余裕は僕にはなかった。踏切の脇に置かれた不自然な大量の花の山。色とりどりのそれはまだ瑞々しく、僕が来る前に沢山の人がここを訪れただろうことは想像に難くない。だって、彼女は愛されていた。花の山に近づいた僕は、そこに手にしていた百合の花束を加える。彼女が好きだった白い百合の花。込み上げてくる何かを堪えようとして、僕はぐっと奥歯を噛み締める。数日前。僕は彼女に会った。けれどそれっきり彼女が学校に来ることはなく、3日前、彼女の母親と交流のあった母から彼女が死んだという話を聞かされた。曰く、彼女は僕とあったあの日から行方知れずになっていたらしい。やっと連絡が来たのは3日前。彼女が死んだ日に、「ありがとう」という言葉だけが送られきたのだとか。話を聞くと、どうやらそれは彼女の母親だけではなく、友人にも送られていたそうだ。そしてその夜。彼女はここで、自らの命を絶った。遺書はなく、彼女がどうして自殺を図ったのかは誰にもわからない。けれど、もしかしたら……。彼女の言葉を思い出し、僕は耐えきれずに地面に膝をつく。僕は、彼女のSOSに気づけなかった。どうしてあの時僕は、大丈夫だの一言も言ってやれなかったのだろう。何か声をかけてさえいれば、今日は変わったかもしれないのに。彼女はまだ、生きていたかもしれないのに。ぽたり、とアスファルトに出来たシミは僕の後悔と同じ数だけ増えていく。

「ごめんなさい……」

僕が、君を殺してしまった。



【こんにちは。初めまして。長編が無理なら短編はどうだということで手を出しました。生ぬるい目で見守って頂けたらと思います】

関連リンク: 泡沫のイリュジオン 
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妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=NO9hTgQzLk

【 Vol.1 】


 今日は息子の誕生日なの、ととても嬉しそうに女性は笑う。ジャズと珈琲の香りが満ちる店内で、カップを磨いていた店主は、彼女の話にマメに相槌を打ちながら、何か言いたそうにこちらを見やるバイトにさり気なく合図を送る。
 女性が去った後。カランっと残されたアイスコーヒーの氷が溶ける音が響く。後片付けをしていたバイトは、表情一つ変えない店主に複雑そうな視線を投げかけた。

「オーナー。あの人……」
「さぁ。私は何も知らないよ」

彼女は、同じ夏を繰り返す。


2ヶ月前 No.1

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=NO9hTgQzLk

【 Vol.2 】


 噎せるような暑さの中、ゲリラ豪雨の如く振り続ける蝉時雨に苛立ちが募る。冷凍庫に一つだけあったカップのアイスを食べながら、夏真っ盛りに壊れたエアコンを睨んだ。実家に帰ろうかとも思ったけれど、半ば強引に家を出た手前エアコンの故障ごときで帰るのは私のプライドがNOと言っている。行儀悪くだらりとベッドに上半身を預け、既に溶けかけているアイスを口に運んでいると、不意にテーブルの上に置いていたケータイが振動した。画面に表示される登録されていない電話番号に首を傾げつつ、とりあえず電話に出た私は次の瞬間にぼとりと手にしていたスプーンを床に落とした。

「え……?」

蝉時雨が遠く。視界が明滅する。溶けてぬるくなっているはずの口の中のアイスが酷く冷たく感じた。


2ヶ月前 No.2

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=NO9hTgQzLk

【 Vol.3 】



 丁度こんな雨の日だった。アレが自分を買ったのは。ボロボロの傘をさしていたのでもあるまいに、何故か着物がずぶ濡れになったアレは私達の前に立つとその着物が乾くまで、とても真剣に私たちを吟味していた。やがて決心したように私の腕をとってくれたこと。少し嬉しかったよ。白状しよう。アレはどこに行く時も私を連れていってくれたけれど、たまに見知らぬ土地に置いていかれたときは、このまま捨てられるのではないかと気が気ではなかった。もしアレが私を迎えに来てくれなかったなら、私はアレをきっと呪っていたよ。一応物書きのくせに。くさいセリフばかり並べた恋文を見た時は正直腹がよじれるかと思った。あの恋文でアレが嫁を貰えたことは今でも奇跡だと思っている。残念ながら、アレは花と散っていったけれど、私はアレの代わりにアレの家族の行く末を見守ってきた。お前は、私が質屋にいた事を可哀想だと思うかい? だったら、その考えはやめた方がいい。私は幸せだよ。私が質屋に入ったことで、アレの息子は無事に天寿を全うできたのだから。
昔話をしすぎたようだ。最後にこれだけは言わせておくれ。私は、アレと共にアレの作る世界を書けたこと。それが一番の思い出であり、最高の幸福だったよ。
 窓辺に腰掛けた着物姿の彼は、目元に哀愁を滲ませて微笑んだ。

2ヶ月前 No.3

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=zb493Xkjzc

【 Vol.4 】


 祖母が亡くなってからもうすぐ2月が経つ。半年ぶりに祖母が帰ってきたあの日は今年1番の猛暑だったのに、時が経つのも早いもので、今では朝晩は何か羽織るものがないと肌寒い気候へと変化した。嗚呼。季節が巡ってきたのだと、柄にもないことを思ってしまう。
 学校からの帰り道。私はいつも祖母の家の前を通る。冷たい風に乗ってふと鼻腔をくすぐる華やかな匂いに、私は思わず足を止めるとぱっと顔を上げた。祖母が大事にしていた花壇の真ん中。父が生まれた時に祖母が植えたという金木犀は、今年も可愛らしい花を咲かせていた。昔。私がまだ幼かった頃。金木犀の香りが好きだと祖母に話した光景が思い浮かぶ。歳を重ねた私は、大好きな金木犀の香りにさえ気づかず、ただ淡々とめぐる季節の中を過ごしていた。

「おばあちゃん……」

無意識にこぼれ落ちた呟きは、情けないほどに震えていた。会いたいよ、と続いた言葉は祖母をこの世に引き留めてしまう鎖になることを知っている。だから、私は――。

「幸せになってね」

ゴシゴシと乱暴に目を擦り、私は無理やり笑顔を作る。嘘じゃない。この言葉は本心だ。祖母には、あの世でも、そして来世でも幸せになって欲しい。私は、もう大丈夫だから。
家路へ一本踏み出した私の視界に、真っ赤な彼岸花が掠める。
金木犀の香りと彼岸花。どこかあの世を彷彿とするその組み合わせはどことなく現実離れしていて、やけに感傷的になってしまったのはきっとこのせいだと私は苦笑をこぼした。

1ヶ月前 No.4

妃翠 @azalea☆dszkmgEaqwdD ★iPhone=PNG3D61lZR

【 Vol.5 】


 パパがお空へ長い長い旅に出た。ママが言うには、パパはもう帰ってこないらしい。
パパが煙になった日。まるでママを慰めるように優しい雨が降った。
雨上がりの虹があまりにも綺麗だったから、私は空を指さしてママを振り返った。


「ねぇ。ママ。あの虹は誰が作ってるの?」

「そうねぇ。きっとパパが作ってくれたのよ。あなたとママのことが心配になったのね」


虹を見ると、あの頃と変わらない父の笑顔がそこにある

15日前 No.5
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