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ロンリー・ブーケ・イストリア

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きしも ★Android=a6Ah1THQCA

人はよく花に例えられます。
皆様も、一度はご経験がございますことでしょう。
時には凛とした高嶺の花に、時には何気ないかわいらしさのある野花に、時には美しく豪奢に咲き誇る春の花に。
他人や自分を例えてみたことが。
まぁ私は無いのですけれど。
自分たちを花などという美しくも可愛らしい物に自分を例えるところも、人間の愚かで図々しく、そして憎めないところでもあるのです。
しかし人間という生物は、とても花などという1つの言葉に収まる生き物では到底ございません。
言うなればそう、花束、といったところでしょうか。
人間はそれぞれ、出会いがあり別れがあり、それはそれは多大な他人との関わりによって構成されるものです。誰が言ったのかは存じ上げませんが、人は1人じゃ生きられないとはよく言ったものです。
花束。それは沢山の花が出会い、寄り添い、時には別れるもの。
まさに人間でございましょう。
これはそんな「孤独な花束達の物語」でございます。

メモ2017/05/28 18:57 : かぼす★Android-a6Ah1THQCA

オリジナルの童話、民話の様なものを投稿して行きます。

※たまに投稿者の名前が「かぼす」となることがございますが、「かぼす」と「きしも」は同一人物です。ご了承下さい。

目次

十五年の鎮魂歌>>1


涙の名前>>2


鏡の前では>>3


海の底のまた深く>>4


龍の森の人柱>>5


プラネタリウムは夏の夢に>>7


かみさまのすむところ>>8


秘密のおともだち>>9


生まれ変わった来年で>>10


とある少女の懺悔>>11

ページ: 1


 
 

きしも ★Android=a6Ah1THQCA

『十五年の鎮魂歌』

とある百年続く戦争の国に、幼い兄妹がいた。
その兄妹は、戦争の影響で、粗末な窖でみすぼらしい生活を強いられていたが、仲がとても良く、幸せに暮らしていたという。
ある日、兄は妹に歌を教えた。兄も妹もろくな教育を受けておらず、難しい言葉も、勉強も歌も知らなかったが、その歌だけは知っていた。歌詞の意味は兄も知らなかったが、兄妹は毎日それを歌い、そして笑いあった。
それから少しして、兄に赤紙が届いた。届いたのは昼のことだが、兄は妹に悟られぬよう、赤紙を隠して、夜、妹が寝静まると、住んでいた窖を抜け出した。寝ている妹の側に、一輪の小さな野花を添えて。
数年後、百年続いた戦争は、終戦を迎えた。
戦火の無い野原。戦闘機の飛ばない青い空。灰の混ざらない綺麗な水。
それら全てが妹にとって初めて見るもので、こんな綺麗な景色があるものかと感動を覚えた。
妹は成長し、少しはましな暮らしが出来るようになった。しかし、未だにあの窖で暮らしている。ある日を境にいなくなった、兄を待つためだ。ここは、兄の帰る場所だ、と。
妹が窖で内職をしていると、外で何かが倒れる音がした。
どうしたものかと外に出てみると、青年が倒れていた。
それが兄だと分かるまで、1秒もかからなかっただろう。
妹は蹴躓きながらも駆け寄り、兄を抱き起こした。見紛うこともない。体は大きくなった。顔は真っ黒だ。髭も伸びた。しかし、それは間違いなく兄だった。ずっとずっと待っていた、兄だった。
窖の前まで来て力尽きたのか、兄は息を引き取っていた。
それを悟った妹は、兄の亡骸を抱き抱え、
「お帰りなさい、お兄ちゃん」
と、涙を流した。
そしてぽつり、ぽつりと歌を歌い出す。あの日、兄から教わったあの歌を。
それは皮肉にも、戦争を推奨する、所謂軍歌だった。
しかし、歌詞の意味の知らない妹にはそれが分かる筈もなく、ただただ、兄への鎮魂歌が静かな青空に消えて行った。

4ヶ月前 No.1

きしも ★Android=a6Ah1THQCA

『涙の名前』

ゆっくり、ゆっくりと、水槽の中でその人形は目を覚ました。透き通った薄水色に広がる視界。その向こうには車椅子に座った少年がきらきらとした瞳でこちらを見つめていた。
その少年の名はハドリー、と自動的にそう認識した。それは自分の中に「その少年の名はハドリー」とプログラムされていたからに他ならない。自分の薄水色の視界が段々クリアになっていく。自分を保管していた溶液が抜けていっているのだろう。溶液が完全に抜けきると、自分の入れられていた水槽が開く。水槽の外に裸足を一歩踏み出すと、車椅子の少年、ハドリーは無邪気に笑った。
「ヴァイオレット!」

ヴァイオレット、とは自分の名前だと教えられた。少年が名前をつけるためなのか、自分の名前はプログラムされてはいなかった。だからその瞬間、自分の名前はヴァイオレットになった。
ハドリーは生まれつき足が不自由で、立つことや歩くことが困難なのだそうだ。ヴァイオレットはそのハドリーを支える為に、ハドリーの父親、カーライル博士に作られ、そして今日目覚めた訳だ。
ヴァイオレットはプログラム通り、ハドリー専属の召し使いとなった。主に彼の身の回りの世話をしたり、車椅子を押したりといったことを行っていた。
ハドリーは活発な少年で、足が不自由にも関わらず、色々な所に行きたがった。川、花園、街、それらは自分が行きたかったからというより、ヴァイオレットにその景色を見せたかったから、という気持ちがあったように思えた。
しかし、どれだけ活気に溢れた街々を見ても、どんなに美しい花園を見ても、感情の無いオートマタのヴァイオレットはぴくりとも表情を動かすことは無かった。
彼女には自我はあるが感情は無い。目の前の風景が街や花園とは認識出来るが、それが綺麗だとか、それを見て嬉しいだとか悲しいだとか思うことは出来ないのだ。
ハドリーもそれに気づいたのか、少し悲しそうな顔をして、ヴァイオレットにこう言った。
「あのねヴァイオレット。今から僕が言う場所へ連れて行って欲しいんだ」
ハドリーに案内されながらヴァイオレットが車椅子を押して行くと、小高い丘に出た。
背の低い草がそよそよと風に揺れ、夕焼けが辺りを橙色に包む。それはとても幻想的な風景で、見るものに溜め息をつかせる程だった。
その丘のてっぺんに、小さなお墓がぽつんと鎮座していた。墓石にはカーライルと書かれている。ハドリーの父であり、ヴァイオレットを造った人間、カーライル博士の物だった。
ハドリーは墓石の前にここへ来る途中に買った花を手向け、手を合わせた。そしてぽつり、ぽつりと話し出す。
「僕のお父さんね、死んじゃったんだ。事故に巻き込まれて」
ハドリーの声が次第に震えていく。泣いているのだろうとヴァイオレットは認識した。
「この丘は僕のお父さんがよく連れて行ってくれた場所なんだよ」
ハドリーはしゃくりあげながら、それでもヴァイオレットに聞かせるように話し続ける。
「でも死んじゃったの。また連れて行ってくれるって約束したのに。死んじゃった…」
その先を遮るように、ヴァイオレットはハドリーの手に自分の手を重ねた。何故そうしたかはヴァイオレット自身にも解らない。ハドリーも驚いたような顔をした。そして涙でぐちゃぐちゃになった顔で無理矢理笑い、
「ね、綺麗でしょ?」
と、そう言った。しかし、感情の無いオートマタにそれが分かる筈もなく、ヴァイオレットはただ無感情に無表情にハンカチでハドリーの涙を拭った。
ハドリーは時が経つに連れて容姿が変わっていった。人間の時を過ごすハドリーは年を取る。しかし、2人の関係は時が流れても何も変わらなかった。やがて、また時は流れ、ハドリーは寝たきりとなってしまった。前ほど活気に溢れなくなったし、一度はヴァイオレットを追い越した身長も、再びヴァイオレットより小さくなってしまった。
ある日、ハドリーは掠れた声でヴァイオレットにあの丘に連れていくように頼んだ。
その丘は長い年月が経っているのに関わらず、その美しさはひとつも変わらなかった。年老いたハドリーはあの日と何も変わらない瞳でこう言った。
「…綺麗でしょ?」
その夕焼けを浴びた姿は、まさにいつかの少年だったハドリーと同じで。ヴァイオレットは訳の解らない衝動に駆られ、ハドリーを抱きしめた。ハドリーはそのまま、ヴァイオレットの腕の中で、幸せそうに眠りについた。もう覚めない、永い眠りに。
ヴァイオレットはハドリーを抱きしめたまま丘の上の景色を眺めた。
その時、つ、と流れる筈のない液体がヴァイオレットのアナクロの頬を伝った。それが涙という名前を持つことを、ヴァイオレットは知らない。
ヴァイオレットはその時初めて、ハドリーが自分に伝えたかった「綺麗」という言葉の意味を知った。
「ハドリー…」
もう返事をしない亡骸にヴァイオレットは語りかける。
「あなたが伝えたかった綺麗という感情は…こうまでも…」
それ以上は言葉にならなかった。それを忠実に言葉で表現するには、プログラムされた語彙が足りなすぎたのだ。
「…綺麗、です。とても…」


夕焼けに包まれた幻想的な丘。そのてっぺんに並んで鎮座する2つの墓石と、蔦に絡まれた車椅子。それを柔らかな表情で見つめるオートマタは、ノイズの混じった声で言った。
「ハドリー…カーライル博士…今日もこの景色は、とても綺麗です」
そよ風がオートマタの髪を撫でる。
「私は…綺麗…で…したか…?」
錆びれた車椅子が肯定するように笑った気がした。
それを見届けたのを最後に、オートマタは涙を流し、硝子玉の瞳を閉じた。
そしてそのまま、永遠に動き出すことは無かった。

4ヶ月前 No.2

きしも ★Android=a6Ah1THQCA

とある長閑な村。その村に今日も少年の声がよく通る。
 「おじさん!今から津波がくるんだ!逃げなきゃ!」
 少年はあたふたとした様子で迫真に迫っていた。しかし話しかけられた魚屋の主人はにこやかな表情で、
 「や、ルーカスじゃねぇか!今日も法螺吹いてんなぁ!」
 「法螺じゃないさ!アガピトも言ってたんだよ!」
 アガピト、というのはこの少年、ルーカスの双子の弟である。アガピトは兄とは違い、とても正直者だった。
 しかし、魚屋の主人はなおも笑い飛ばして、
 「んな訳ねぇだろ?地震も来てねぇのに津波なんか起こるかよ」
 ルーカスはぶぅ、と頬を膨れ、そのまま魚を買って帰って言った。
 「今度こそは騙してやる!」
 そう意気揚々と言って。
 家に帰ると、母とアガピトが出迎えてくれた。
 「お帰りなさいルーカス。今日は誰に嘘をつきに行ったの?」
 にこにこと母は笑っていて、この困った息子のことを楽しんでいるように見える。
 「魚屋さん!全然引っ掛かんなかった!」
 「どうせまた有り得ない嘘でもついたんでしょ?」
 ルーカスに呆れたような声で言ったのはアガピトだ。ルーカスは唇を不機嫌に尖らせ
 「だって嘘は大胆に、だろ!」
 「その前に嘘はついたらダメだよルーカス」
 母は困ったように笑って、ルーカスから買ってきて貰った魚を受けとると、キッチンへ消えていった。
 その日の夕飯時、ルーカスは母に聞いた。
 「お母さん…お父さんは?」
 父がいなくて不安なのか、ルーカスは目を伏せながら聞く。ルーカスの父は狩人で、今は日を跨いで仕事に駆り出されている。そんな息子を安心させるように優しく言った。
 「明日帰ってこれるって言ってたわ。明日は家族揃ってパーティーにしましょうね」

 その父がそのまま帰らぬ人となったのは翌日のことだった。休憩中、不意に熊に襲われて死んだそうだ。幸い、仲間が熊を撃ち殺したため被害はそれ以上広がらず済んだらしい。
 翌日、父の葬儀が上げられた。母は棺桶にすがり付いて泣いていた。ルーカスもアガピトにすがり付いて泣いた。アガピトは泣いてはいなかった。
 父が死んでから、母は変わってしまった。
 部屋に籠りきりになり、呼び掛けても気の無い返事が返ってくればいい方で、大半は無視されてしまうようになった。
 ルーカスは母の事をアガピトに相談した。どうすれば母を部屋から出せるのだろう。アガピトも真剣に聞いてくれた。そしてアガピトはある案を提案する。
 ルーカスは母の部屋に突然飛び込み、そして叫んだ。
 「お母さん!今日はね、宝石がなる木を見たんだ!」
 母は驚いてなのか、こちらを振り向いた。その顔にかつての面影はなく、頬は痩せこけ、髪はぼさぼさで、昔話に出てくる山姥のようだった。
 しかし、ルーカスは、母が振り向いてくれていたことが嬉しくて、それから毎日、大げさな、素敵な嘘をつきに行った。
 そんなある日のことである。ルーカスはいつも通り母に嘘をつきに行っていた。
 「…でね、僕らはその鯨をやっつけたんだ!ね、アガピト!」
 アガピト、とその名前を聞いた途端、母は乱暴に立ち上がり、ヒステリックに叫んだ。ルーカスはびくり、と縮こまる。
 「何!?何なの!?何なのよいつも!アガピト、アガピトって!アガピトって誰なのよ!」
 ルーカスは目を見開いた。母の剣幕に気圧され、泣きそうになりながら母に話す。
 「何言ってるの?アガピトだよ?僕の弟の…」
 「あんたは一人っ子でしょう!!」
 母は髪を振り乱してルーカスに平手打ちを食らわせた。そして胸倉を掴み上げ、何度も何度も平手打ちを食らわせる。
 「もう嫌よ!何で!何でうちの人ばかりこんなことになるの!あの人は熊に食われてしまうし、あんたは見えない弟を見てる!何なの、貴方には何が見えているの…」
 母が平手打ちを止め、ルーカスが辺りを見回しても一緒に来たはずのアガピトはいなかった。どれだけ大声で呼んでも、どれだけ隅々まで探しても、アガピトは何処にもいなかった。

 とある男の手記
 5月2日
 息子が生まれた。名前はルーカス。これからの成長が楽しみだ。
 …
 9月20日
 息子が何もない場所を見て笑ったり話したりしている。息子によればアガピトという弟がいるらしい。明日精神病院に連れていこう。
 9月21日
 息子は重度の精神病らしい。所謂イマジナリーフレンドが現実の存在として見えているらしい。治療は可能らしいが、これは息子にとって治すが吉か治さぬが吉か…

4ヶ月前 No.3

きしも ★Android=a6Ah1THQCA

『海の底のまた深く』

深い青の景色がきらきらとアドラの瞳を彩る。ゆらゆら、ゆらりと人魚のアドラは海中を舞う。
 アドラは南の温かい海で産まれた。物心ついた時には父も母も自分の周りにはいなく、親切なイルカや海の仲間に助けられて生きてきた。
 アドラの海は綺麗で神秘的だ。それはもう絶景と言って差し支えない程に。しかしアドラはきらきらと揺れる海面を見上げて、溜め息の気泡を口から溢した。
 「あの海の上はどうなっているのかしら。きっと光に道溢れた、とても美しい世界なのだわ」
 アドラは仲良しのイルカに聞いてみることにした。海面にジャンプするイルカならば、外の世界に詳しいと思ったからである。
 「ねぇイルカさん。あの海の上の世界はどうなっているの?」
 「やぁアドラ。海の上の世界かい?知らない方が幸せなこともあるものさ」
 イルカは愛らしい顔で困って見せた。他の外の世界を知っていそうな者に聞いても同じ答えしか返って来なかった。
 知らない方が幸せ。君には幸せな世界ではない、と。
 そしてある日、アドラはあることを思い付いた。
 「そうだわ。イルカさんみたいにジャンプしてみれば外の世界が見れるかもしれないわ」
 それを聞いたイルカは、大慌てでアドラを止めた。
 「よしてくれアドラ。僕らは君を失いたくないんだ」
 しかしアドラは笑って
 「大丈夫よ。私海の上でも呼吸が出来るもの。何故だか解らないけれど、そんな気がするのよ」
 皆が止めるのにも耳を貸さず、アドラの好奇心は彼女を海の外へと駆り立てた。
 アドラが海面の外へ高くジャンプし、外の空気に触れる…
 その時だった。
 パァン、と乾いた音が水面に跳ね返り、アドラは海へ墜落した。アドラが落ちた水面は、アドラの血で赤く染まって行く。
 アドラが太陽の煌めきや緑の美しさに感動の涙を流す前のことだった。
 アドラを撃ち落とした人間は、銃を構えたままにやにやと笑った。
 「やっと死にやがった、あの化け物め」
 その側にいた仲間が不思議そうに言った。
 「しかしヒトと魚類で子が成せるんですね」
 「馬鹿を言うな。あれは我が国が極秘に研究したスパイ用のキメラの失敗作だ。瀕死にしてから海へ放り出したがまさか生きていたとはな」
 この会話をアドラが聞いていたらどう思っただろうか。
 確かめようもない。彼女は愛した海を赤く染めながら暗く、冷たい海の底へ沈んで行ったのだから。

4ヶ月前 No.4

かぼす ★Android=a6Ah1THQCA

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4ヶ月前 No.5

きしも ★Android=a6Ah1THQCA

投稿内容に訂正がございます。
>>5 のハンドルネームに誤りがありました。
ただしくは「きしも」です。
別人ではございませんのでご了承ください。
訂正してお詫び申し上げます

4ヶ月前 No.6

きしも ★Android=a6Ah1THQCA

『プラネタリウムは夏の夢に』

夏の青空というものは、どうしてこんなに眩しいのだろう。
 手で庇を作りながら、真っ白な入道雲の映える、底の無い真っ青なキャンパスを見て思った。もしかしたら春でも秋でも冬でも変わらないのかも知れない。しかし夏の青空というものはそれだけでどこか特別に、眩しく輝かしげに映る。まるで短い夏を少しでも明るく照らしてくれるかのように。
 夏が来る度に、思い出すことがある。もう何年も前に体験した、不思議なこと。何でもきらきらして見えた、小学生の夏休みのことだ。

 私には、ゆいちゃんという女の子の友達がいた。私とゆいちゃんは親友と言ってもいい仲で、夏休みには毎日、近くの山で野兎のように走り回って遊んでいた。遊び疲れたときは、山の奥の、二人のとっておきの場所で休憩する。大きな木を中央において、開けた所があるのだ。さわさわとした夏の小風が気持ちよかったし、木漏れ日が幻想的で、まるでファンタジーの世界に迷い混んだみたいだった。
 ある日、ゆいちゃんは私に行った。
 「今度ね、村の夏祭りがあるんだって。わたし、さきちゃんと一緒に行きたい。」
 さきちゃん。私のことだ。私はゆいちゃんと一緒にいられるだけで嬉しかったし、私はもちろん承諾した。その日は、集合場所や時間を決めて、指切りげんまをした。ゆーびきーりげーんまーんうーそつーいたらはーりせんぼんのーます、って。
 夏祭りの日、私達がお祭りに行くと、人が沢山いた。砂利道を縁取るように屋台が並んでいて、その上には暖かい光を灯す提灯が提げてある。何処からか尺八や太鼓で奏でられる祭囃子が聞こえてくる。
 その雰囲気に呑まれて、私達はお祭りを心から楽しんだ。
 ゆいちゃんは、射的でビーズのブレスレットを取った。すごいと横で手を叩く私に、ゆいちゃんは照れ臭そうに、でも得意気にブレスレットを手首に填めて見せた。今思えば、手作りのただのビーズブレスレットだ。だけど、当時の私達には、ダイヤのネックレスよりも素敵で、高価なものに思えた。
 楽しい時間はあっという間に過ぎる。帰らなければいけない時間になって、ゆいちゃんはぼろぼろ泣いた。
 「帰りたくないよ」って。
 それに釣られて私も泣いた。私も、帰りたく無かったから。このままずっと、ゆいちゃんといられたらいいのにって思ったから。でもそれはただの子供の我が儘で。私達は最後まで手を繋いでいた。
 その後、事件が起きた。
 昨日の夜から、ゆいちゃんが家に帰っていないそうだ。昨日の夜は私がずっとゆいちゃんと一緒にいたから、ゆいちゃんのお母さんが私を尋ねて来たのだ。
 でも私も何も知らない。ゆいちゃんは泣きながらゆいちゃんの家に向かって、それきりだ。
 私は子供ながらに、嫌な予感がした。ゆいちゃん、ゆいちゃんと叫びながら村中を駆け回った。ゆいちゃんがいなくなっちゃう、それだけが怖くて怖くて。泣きそうだった。
 二人で遊んだ山を探したのは、もう日が暮れてからだった。臆病な私は、暗くなってから山に入るなんて有り得ない。でも、ゆいちゃんがいない方がずっとずっと怖かったのだ。
 無我夢中で走って、気がつくと山の奥の開けた場所にいた。私とゆいちゃんの、とっておきの休憩所だ。
 そこには、水場が無いにも関わらず、無数の蛍が飛び交っていた。それはお祭りの景色よりずっと綺麗で。私は呼吸を忘れた。それだけじゃない。その蛍の中心に、ゆいちゃんがいたのだ。
 「ゆいちゃん!」
 私が叫ぶとゆいちゃんは驚いてこちらを振り返った。
 「どうしたの?夜にこんなとこいたら危ないよ」
 「ゆいちゃんも危ないよ!帰ろう!皆ゆいちゃんがいなくて心配してるんだよ?」
 ゆいちゃんは少し悲しそうな顔をした。そして私に近づき、私の手をぎゅっ、と握った。
 「さきちゃん。私、さきちゃん大好き。だから忘れないで。さきちゃんに忘れられたら、私、本当に死んじゃう」
 私はゆいちゃんの言葉の意味が分からなかった。けれど、強い意思を秘めて、
 「忘れないよ!私もゆいちゃん大好きだから!」
 ゆいちゃんはあの時みたいにぼろぼろ泣いて、でも笑った。泣いてるのに笑ってる変な表情になって、私にブレスレットを渡した。お祭りで取ったビーズのブレスレットだ。
 「それ、あげる。ありがとうさきちゃん。」
 そう言って、ゆいちゃんは蛍の光に包まれ、そして消えた。
 私は気がつくと家の前にいた。おばあちゃんが慌てて外へ出て来て、中に入れた。ゆいちゃんは見つかったかい?って、優しい声で聞いた。私は何も答えることが出来なかった。
 翌朝、ゆいちゃんの遺体が川の下流で見つかった。溺死だったそうだ。
 私はおばあちゃんに、昨日見たことを話した。おばあちゃんは茶化さず真剣に聞いてくれた。全てを聞いた後、おばあちゃんは言った。
 「蛍にはね、死者の魂を安らかに幸せにあの世に連れていく役目があるんだよ」
 ゆいちゃんは蛍に連れられて、幸せに天国に行ったんだろうか。それを聞いて、私は安心した。ゆいちゃんが苦しくないって分かったから。

 吸い込まれるような夏空を見上げて、あの子のことを思い出す。
 忘れてないよって。大好きだよって。
 カバンにつけたビーズのブレスレットがきらりと光った気がした。

3ヶ月前 No.7

かぼす ★Android=a6Ah1THQCA

『かみさまのすむところ』

「兄様の病気が良くなりますように」
 そして少年は、祠の前で手を合わせた。笹の葉で包んだお握りをお供えし、祠をすがるような瞳で見る。それから、ぼろぼろの草履で、石段を降りていくのだ。
 その後ろ姿を見ながら、溜め息をつき、申し訳なさそうな顔をしているのは祠に宿る土地神である。地元の人間には、てて神様と呼ばれる、今では信仰も薄まった神だ。
 昔は信仰する者も多く、そこそこの力を持っていたが、今では信仰といえば毎日握り飯や木の実を持ってくるあの少年くらいの物で、すっかり力は衰えてしまった。
 少年の名は奏という。病気の兄を持つ、働き者だが貧乏な少年だ。いつもてて神様に兄の回復を願う。
 しかし、一介の寂れた土地神にそんな力など到底無かった。
 それを知って、てて神様はいつもつぶやくのだ。
 「すまない。奏」
 と。
 自分にもっと力があれば、お前を幸せにしてやれたのに、と。
 ある日、てて神様は少しでも奏に何かしてやれないかと考えた。今日も自分のところに詣でた奏を見て、少しでも喜ばせてやりたいと思ったのだ。
 「てて神様…兄様の病気はようなりますか…」
 奏が少し沈んだ表情をした。てて神様は木になる果物を落とした。
 奏は驚いたような顔で落ちた果物を見た。そして表情を明るくし、果物を拾う。
 「てて神様…?」
 奏は微笑んだ。
 「兄様に、食べさせますね」
 そう言って、今日は帰っていった。
 てて神様は、なんだか心が温かくなるような気がした。口元が自然に緩んでいる。それを指摘するような者など、誰もいないのだが。
 その日来た奏は、いつもと様子が違った。いつになく焦燥に急かされているような、余裕の無いような。見たこともないような顔をしている。
 「てて神様!」
 自分を呼ぶ声もいつになく激しい。何事かと祠から出てみると、奏は息をきらして、汗を流していた。
 「助けてください!兄様が…!兄様が…」
 言葉にならないのか奏はそのまま項垂れてしまった。
 てて神様は、奏を置いて、奏の兄の元へ向かった。
 奏の兄は、今にも死にそうで、危篤の状態と言えた。てて神様は、神の勘でこれは助からない、とそう思った。
 人間は神様に見放された時に死ぬ。てて神様もそれを知っていた。
 てて神様が奏の兄を見放そうとしたその時、奏のことを思い出した。
 奏はずっと昔から兄の回復だけを祈っていた。無力な自分は何も出来なかった。しかし奏はそれでも自分を信じて…。
 てて神様は奏のことを思うと、奏の兄を見捨てることなどどうしても出来なかった。
 そしててて神様は彼の額に掌を当てる。
 奏の兄は目を薄く開いた。生と死をさ迷っている人間には、自分の姿が見えることがある。彼はきっと見えているのだろう。
 「…神様…?」
 「…弟に感謝しろ。そして大切にしろ。お前はいい弟を持った。弟がお前の命を救ったんだ」
 奏の兄には聞き取れたのかそうでないのか分からない。が、少なくとも言いたいことは伝えた。土地神の力を根こそぎ使いきってしまい、存在していることすら辛いのだ。
 てて神様は、奏の兄に言った。
 「弟に伝えてほしい。握り飯の礼だ、とな」
 それ最後に、土地神は消滅した。

 奏の兄はすっかり良くなり、病気をしなくなった。奏はそれを喜び、てて神様のご加護だ、と一層信仰深くなったという。
 そして奏は今日も祠に祈るのだ。握り飯を持っていって。
 もうその祈りを聞く者も、握り飯を食らう者もいないと知らずに。

3ヶ月前 No.8

きしも ★Android=a6Ah1THQCA

『秘密のおともだち』

私はシャロン=レアード。きっと他の皆より厳しいお家に産まれたわ。
 ママは他の皆と遊んじゃいけないって言うの。他の皆と遊ぶと、余計な事を知ってしまって悪い子になるんだって。パパはあまり家に帰らないの。でも帰って来たときはとても優しくしてくれるわ。
 怒られるときもいっぱいあるけど、私はこの家族が好きよ。
 私にはお友達がいるの。ノーラという名前の、私よりちょっとお姉さんな女の子。
 でもママはノーラなんて子はいないって言うの。ママとパパはこの土地の偉い人なんだって。だからノーラなんて子は聞かないっていうのよ。
 そんな筈はないわ。だってノーラは私と遊んでくれるもの。昨日はおままごと。一昨日はかくれんぼ。また前の日は____。
 ママは言うわ。そんなにいうならそのノーラって子を連れてきてみなさい、って。でもそれは出来ないの。ノーラのお家も厳しくて、誰かのお家に行ったらいけないんだって。
 ノーラと遊んだ日はとっても楽しくて、ママやパパにもお話ししたいの。でもね、そしたらママは「2度とその名前を出さないで!」なんて怒るの。だからお話し出来ないのよ。
 パパとママがお話しするのをこっそり聞いたことがあるわ。パパのお友達の子供に、いもしない弟をいるって言い張る男の子がいるみたい。その男の子は、もう今は弟は見えなくなっちゃったんだって。
 ねぇノーラ。私の大好きな自慢のお友達のノーラ。あなたは違うわよね?だって、手を繋いだもの。おんぶだってしてくれたもの。ねぇ、ノーラ。
 パパとママがいなくなっちゃったの。私たち、家族でドライブに行ったら、上から突然大きな岩が落ちてきたの。私たちは下敷きになってしまったけど、私は生きてるわ。でも、パパとママは潰れちゃった。
 向こうにノーラがいるのが見えて、私叫んだわ。「助けて!ノーラ!」って。でもノーラは私を抱き締めただけだったわ。
 「シャロン。かわいいシャロン」
 ノーラは私の髪を撫でてくれた。そして私の目をまっすぐ見たの。
 「よく聞いてシャロン。私のかわいい妹」
 ノーラは私を妹なんだって言った。ノーラは私が産まれる前に私のパパとママに殺されてしまったんだって。この辺りの子は皆髪が金色だから、ノーラの黒髪が気味悪いって思ったんだって。
 ノーラは私を助けるのに精一杯で、パパとママは助けてくれなかった。
 「私はあなたさえ生きていてくれればそれで幸せなの」
 って。でも私、一人は嫌だわ。 パパもママもいないの。ノーラだって、きっとずっと一緒にはいられないわ。
 だから言ったの。私も連れて行って、って。
 ノーラは困った顔をしていたわ。
 「だめよ。あなたには生きていて欲しいの。殺された私の分まで。いっぱい幸せになって欲しいから」
 ノーラはそういった。でも私、パパもママもノーラもいない世界で幸せな訳ないわ。私は食い下がった。
 そしたらノーラも頷いてくれて、私の手を引いてくれた。そしたら空を飛べたの。
 これで私は幸せかしら?


  事務的な声がニュースを読み上げる。
 「ドライブ中の家族に不幸がありました………ブラッドリー氏とリオノーラ夫人は落石の……一緒にいたと思われる娘のシャロンちゃん5歳は崖から転落したと見られ……______」

3ヶ月前 No.9

かぼす @kabosu8110 ★Android=a6Ah1THQCA

『生まれ変わった来年で』

教室に入ると、誰もいなかった。当たり前なことね。だってまだ春休み。入学式は明日。明日になれば緊張しながら、でもどこか嬉しげな子供達の顔が見られるのに、私はそれを待てなかった。
 教室に並んだ机を見て、私は思い出す。確か、前にもこんなことがあったなぁって。入学式の季節なんて、一年ごとにあるものだから当たり前なのだけれど。
 でも入学式なんて今も昔も変わらない。先生がいて、子供がいて、どちらも新しい環境に不安を抱くと同時に期待もする。私は、そんな皆の顔を見るのが好きだ。いい学校生活になりますように、いっぱいお友達が出来ますように、って祈ってる。
 私はずっとはいられらない。春が終わるといなくなってしまうから。入学式を祝福して、私の命は終わってしまう。あぁ今年の私は入学式ですら祝福出来なかったのだけれど。
 私は桜の花びら。本当は皆をずっと見守っていたいのに。けれど残念ね。私はまた、こうして命を終えてしまうみたい。
 春に舞い散る花一枚。来年も待ってるわ。儚いものだと知っていても、私はこの季節が好きだから。

2ヶ月前 No.10

かぼす ★Android=a6Ah1THQCA

『とある少女の懺悔』

私は罪を犯した。法律では裁けぬ、私を責める者すらいない。しかし大罪だ。一生涯かけても到底償い切れぬ、深い深い罪を犯した。
 私は懺悔する。許しを請う。誰にだ。自分に、そして君に。許してくれと。何度も何度も慟哭する。しかしその罪許すことのできる人間は、もうこの世にいはしない。何故なら君はもう。私達に何も相談せず、自ら命を絶ってしまったのだから。
 彼は言った。彼女が死を望んだと。彼女の幸せが自分達の幸せだと。私は否定した。それは違う。いくら彼女が死を望んだって、それは幸せとは決してイコールではない。仮に彼女が死ぬことが幸せだったとして、私達は幸せなんかじゃなかった。彼女の幸せは彼の幸せ。だけど私達の幸せは?私達の不幸せは?君は、私達がどうやったら悲しむか、分からない人間では無いだろう。君がいくら捨ててもいい命だって、死んだら悲しむ人間が必ずいるだろう。私は許さない。自分を、そして君を。私達を残して勝手に逝ってしまったことを。私達に一生消えない深い傷を残していったことを。許さない。
 だから謝りに来い。生まれ変わって、またいつかの未来で必ず。私は待っている。私達は待っている。まだ君に言い足りないこと。君とやりたいこと。沢山残っているんだ。そして一発殴らせろ。
 こんなことを言っても君が戻ってくる訳じゃない。今すぐにでも私の家のドアを叩く訳じゃない。だからせめて伝えさせてくれ。私は君が大好きだった。君と話しているときが1番素でいられた。14年、連れ添った腐れ縁だろう。君が死ぬなんて、夢にも思わなかった。人はいつかは死ぬ。しかし早すぎるだろう。友よ。私の人生の親友よ。君が死んで何人の人間が泣くと思う。君は、君が思っているよりずっと愛されていたんだ。
 大好きだったんだ。みんな君のことが。君は馬鹿だ。人より頭が良かった癖に、本当に馬鹿だ。生きていれば幸せなんてごまんとあったのに。私達が君を幸せにしたのに。どうして君が命を絶つ必要があろうか。
 すまない。本当にすまない。許してくれ。きっと君は私を許すだろう。私のせいじゃないと許すだろう。しかし私は許さない。私の中の感情は、私を赦すことはない。私にできるのは償いだけだ。君を忘れず、一生罪の意識に苛まれて生きること。生きることが償いだ。
 私は忘れない。君という、最高の親友がいたことを。そして私が犯した大罪のことを。君の思いに気づけなかった、この私を赦してくれ。

 これはこの物語できっと唯一になるであろうノンフィクション。ただの少女の懺悔である。

1ヶ月前 No.11
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