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明日のあかり

 ( 詩集つむぎ城 )
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山人 ★tuOnN6TpU5_OR0

夜明け前、そこは無垢で、滑空する飛行物体のようだ
未知なる朝への渇望、そこにはおだやかな時間が眠っている
私はその時間に触れる、夜の肌は寝返りを打つように私の頬を擦っていく
やがて夜は明ける
天文学的な数の生き物たちが、瞼をあける時がくる

遠い砂丘の向こう、乾いた爬虫類たちの瞼もかさりと目覚めたことだろう
また、夏が来る
するりと日替わりの皮を取り替える

6年前 No.0
メモ2018/08/18 04:54 : 山人 @ookumo13★bDJoqEzcCB_6Og

若干の性的な表現、露骨な言い回し等の作品もあります。

>>1一番星  >>2影を貪る >>3あしあと  >>4闇の獣(リメイク) >>5燃える島   >>6行方 >>7木 >>8秋風 >>9枯れた夢の子供 >>10蕎麦っ食い >>11あれから >>12漂っている >>13石・草・虫など、その概念と考察 >>14親戚のひと >>15スキーリゾート >>16ツララ  >>17野紺菊の咲く頃 >>18春になれば >>19ダム湖 >>20やがて山は >>21巨人  >>22雨の朝  >>23魚になりたい  >>24木の葉  >>25エノコログサの思い出 >>26包丁を研ぐ >>27カエルちゃん >>28蟹に食われたんだよ  >>29乾かそう >>30乾いた少女たち  >>31狐火の夜 >>32ひらひら >>33「3/15詩作」 >>34月光 >>35ほたる >>36校舎 >>37落ち葉かき >>39半月 >>40おもいの粒 >>41どしゃ降りの雨の中で  >>42詩人 >>43 緑が燃える  >>44あなたがいなくなってから >>45者共は森へ帰っていった >>46・・・ゆく >>47夜の山道  >>48バーミアン >>49温泉場のスキー場  >>50春になったら詩を書こう >>51男と冬 >>52村の種屋 >>53二月で文学極道の投稿やめましたww >>54木工場にて>>55海底  >>56沼  >>57峠 >>58発作 >>59確かなもの >>60amaoto  >>61誰も知らない枯葉の下で >>62自虐の歌(どうやら春のようですが・・・) >>63ジニア >>64老人 >>65記憶 >>66ヒラメ >>68モンシロチョウ>>69夏の横断歩道 >>70ふたり>>71帰郷 >>72秋の街>>74暇人でぃ、脳屁BOO>>75朝子>>77>>78オレンジ色のスキー靴>>79稜線のラクダ>>80白湯>>81種よ>>82家族>>83時が終わりまた生まれる>>84 旅人>>85培養室>>86>>87あたらしいひと>>88集会 >>89火と水>>90>>91朝(二篇)>>92山林に残された風>>93夏休み >>94>>95夏とJK >>96夢想〜朝へ >>97発芽 >>98晩夏>>99詩を書く人>>100金木犀の香るころ>>101一日(いちじつ)>>102十年 >>103青の眠り

>>104一日の終わりに>>105午前四時>>106初雪 >>107名もない朝>>108詩人四態>>109流木>>110味噌ラーメンを食べ終えて>>111沈黙>>112真実>>113冬の境目で>>114山林の昼休憩>>115三月>>116 棒 >>117 haru>>118静かな視界>>119農場>>120>>121>>122山林の詩五篇>>123雨の朝>>124>>125>>126この血の向こうに>>127秋それぞれ >>128月と犬と >>129空洞 >>130出稼ぎ人夫 >>131ラーメン道>>132>>133>>134田代平>>135 朝の棘 二篇>>136超、朝>>137秋のお品書き>>138 眠りから覚めるころ >>139mudai>>141shima

>>142 5/2 >>143 少女>>144蜘蛛>>145集会>>146秋の詩篇>>147あな 二篇>>148 峠の山道>>149無機質な詩 三篇 >>150作業日詩 >>151>>152三話>>153>>154六月

>>155〜157丸腰@〜B>>158七月>>159三つの失意>>160八月>>161 僕の船>>162>>九月>>163十月>>164シーサイドライン>>165十一月の山道>>166十二月>>167五月

>>168  20世紀少年 >>169同解説 >>170同解説 >>171同解説 >>172同解説 >>173同解説 >>174同解説 >>175一月>>176二月二日>>177野火>>178厨房>>179石・洗濯物・風・部屋>>180滑稽な日に>>181開拓村(実録) >>182五月の雨>>183>>184ふるえる外灯>>185>>186 蝉>>187さりげない朝>>188 8月1日>>189夏のどこかで

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山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_iye


「私は魚」

私は気弱な動物にさえなれず
眠ることも許されない魚だ
潮の重さに鱗をはがれながら
私は泳ぐ
瞼は閉じられることなく見開き
形はいつも同一の流線形
立ち止まって考えることもなく
私は泳ぐ
海水の中にも比喩はある
でもこの鱗を擦る海水と
時折さす海面のまなざし
口から肛門へと流される思考
私は魚だ
魚以外に生きていられなかっただろう

2年前 No.140

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_iye

shima


とある島があった
波は泡とともに、幾何学的に浸食された岸に打ちつけている
海水特有の生臭い香りが岸に漂っていた

かつて子らの声や、はしゃぎまわる喧噪も見られたが
今では数十人残るのみである
朽ち果てた小さな公園には錆臭い遊具がわずかに残り、寂寥を演じている
夕暮れの残照の中をカラスが蚯蚓を捕りに降りてくる
島民の吐いた溜息が鬱陶しく土に張り付いている


荒れた天候が幾日か続き、島そのものが何かにおびえるように彷徨し
島民たちは乾いた皮膚を震わせながら、長い悪天をやり過ごした
嵐はやがて緩み始め、息をひそめていた多くの生き物たちは
少しづつ手探りをするかのように這い出してきていた
島はふたたび、生き物たちの活動が始まった

島に十年ぶりに新しい島民が来るらしい
そう島主が伝えた日は、薄曇りの続く、秋の日だった
わずかな世帯の寄り集まりのなかに、一人の大きな体躯をした青年があらわれた
少しだけひげを蓄え、大きな荷物を背中に背負いこみ
それをおろすでもなく、奇妙な挨拶をし始めた
何を言っているのか、島民は呆然と死んだような目でそれを眺めていた
島民の顔は皺で、本来どのような顔をしていたのかわからぬほど憔悴し、老化していた
すでに、表情を変える筋肉さえも退化し
ひたすら重力に身を任せ、弛んだ皮膚が皺のひとすじを微かに動かしていた

不思議な光景だった
論じ、説得するでもなく、青年はまるで独り言のように
ただ大きい声を出すでもなく、とつとつとわかりやすく話をしている
もちろん、身振り手振りを加えることなく、手を前に組み、少し腹部に持ち上げている

病に限らず、あらゆる負の状態
これらの現象は一つの負の生命体を形成し、それぞれが社会性を保つようになる
呪詛のような負の言葉を摂取し、さらにコロニーを拡大させてゆく
そしてこれら負の生命体は空間をつたい、あらゆる無機物をも侵し
やがてこの島全体がそれに侵されることになってしまう
今後、負の言葉を発してはならない
すでに各各に営巣し始めた負の生命体は栄養となる負の言葉を求めている
それに少なくとも栄養を与えてはならない
青年は手を前に組み、島民たちの前で語った

やがて集落のはずれの木立に煙が上がり始めた
湾曲した根曲がりの木を六本立て棟とし
その間に筋交いを加えただけの炭焼き小屋のような建物であった
中には薪ストーブが置かれ、突き出たブリキ製の煙突から白い煙が出ている
入口らしい場所に、手書きで書かれた「ご自由にお入りください」との文字

青年の所作はひたすら淡々としたものだった
早朝に起床し、岬に出ては遠い海を前に祈りをささげることから始まる
一心不乱というわけでもなく、むしろ事務的な呟きのようでもあった
一旦岸辺に下り、波の押し寄せる高い場所から排便を済ませ
その近くの海水に浸かり体や歯を磨く
排便に寄ってくる魚たちを釣り上げて小屋に持ち帰り火をおこす
大きな木を縦割にした粗末なまな板で魚を三枚に下ろし、網の上であぶる
となりには鍋が置かれ、生米と水を混ぜたものが沸騰しはじめている
起床から二時間、ようやく青年はあふあふと粥と炙った魚で朝飯を食うことができるのだ
青年は思考しなかった、思考よりも行動した、言葉を発した
ただただ時間のために生き、時間を消化するために行動し
そして疲れては眠る、その生活をひたすら継続した

島民たちは青年の所作を不思議なまなざしで見るようになり、次第に指を差すようになった
青年は起きると大地にキスをした
ありがとう大地よ
そういうと唇に付いた土を舌で舐め取り飲み込んだ
歩きながら足もとに伸びた雑草に言葉を投げかける
やぁ、おはよう、昨日はよく眠れたかい
大木に手のひらをあて、頬ずりをする

青年が昼休みをし、まどろんでいると島でたった一人の少年が訪ねてきた
おにいさんはとても不思議がられているよ
そういうと体育座りをしながらうつむいてしまった
青年は言った
ぼくは全然不思議なんかじゃないんだ
ただ、思ったことを口にし、思ったことをしているだけなんだよ
君もこんどそうしてごらん

少年は少年でありながらすでに老いていた
薄日が差すといっそう少年の髪は白く目立ち、頸の皮は重力に逆らうことなく垂れていた
瞳は濁り、ぼんやりと遠くを見つめるようであった
風はどこから吹いてくるの
しわがれてはいるが、まだ変声していない幼い声で尋ねる
青年は、少年の視点のそのまた向こうを見つめつぶやくように言った
風はすべてを一掃する、風の根源はあらゆる滞りが蓄積し、次第に熱を帯びてくる
でも、うつむきの中から風は生まれない
なにかをし、言葉にする
そこから気流が発生し、風が生まれる
それが風だ、風は吹くべくして吹いているし、風の命を感ずればいい
そのことばを聞いた時、少年の瞳の奥から一筋のひかりが煌めくのを青年は見た

少年はその後、青年の家を一日に一度は訪問し、一緒に食料を求めて海に行ったり
森に入り木の実や果実を採ったりした
喜々とした感情は次第に少年の老いた細胞を死滅させ、新しい細胞が体を満たし始めた
しわがれた少年の声は、野鳥のさえずりとハーモニーを奏で
朝露のようなみずみずしさを花々に与えた
青年の小屋からは紫色のたおやかな煙が上がり、香ばしい食事のにおいが漂った

青年は、島の人々を集め提案した
それぞれの墓を作ろうという
声にもならない、奇怪な罵声が飛び交う中、青年は穏やかに言った
人の死は、すべてが失われ、意思も失われ、やがて別世界へと旅立って行く
私たちは今生きている、がしかし、魂はしなだれ、生を豊かに感じることがない
すべて負という巨大な悪夢に支配されている
それを静かに、決別できるように埋葬しようではありませんか

夕刻、島のはずれの平地に泣きそうな曇り空があった
島民たちは、それぞれにシャベルを持ち、穴を掘り始めた
ぽっかりと開いたその穴に、様々の負を落とし込むよう、念じている
それは石塊となって、橙色に発光しはじめた
熱く、熱し始めたその石に土をかぶせ、ギシギシと踏みつけ、銘々が墓碑銘を打ち立てる
同時に空は雷鳴を轟かせ、激しい雨が降り始めた
しかし、土の中の石は熱く、さらに橙色を強め
やがて闇のような雨の中、激しくそれぞれの墓から炎が上がり始めた
島民は、立ちすくんでいた、重くくすんだものが今燃えている
激しく降る雨は、島民を濡らした
頭の頭皮を雨脚がなぞり、やがて指先や股をとおり、足の袂から落下していく
どれだけの雨にも石は光り、燃え続け、やがて雨はあがった
激しい雨によって、墓はかすかに隆起するのみで、平坦な土に戻っていた

雨が上がったと同時に、海鳥は回遊をはじめ
島民たちは互いの目を見ていた

2年前 No.141

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_iye

5/2


どこか
骨の
奥底に
黙って居座る
黒い眠りのような
小雨の朝

歯ぎしりする歯が
もうないのです
そう伝えたいけれど
そこには誰もいなく
部屋の中には
少年のまま
老いた私がひとり

狂った季節に
体節をもがれ
丸い目を見開いた生き物
だったら
蛞蝓のように這わせてください
湿気た空間を好み
枯れた木の液を舐めこそぎ
脳は
どこかに忘れました
とつぶやきたい

2年前 No.142

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_iye


少女


外はひさびさの晴れ
でも、私の頭の中では雨が降っていた
アスファルトは湿地となり
堆積された高層湿原がどこまでも広がり
そこに少女がたたずんでいる
偶然傘を余分に持っていた私は
少女に渡す
見ると少女はずいぶん大人に見えた
高層湿原にはワタスゲが咲き
木道を少女と歩いた
あそこの光る場所まで行くのです
少女は静かに私に言う
ところで私はどこに行けばいいのかな
何とはなしに少女に聞いてみる
少女は静かにうなずいて笑うだけ
霧雨は次第にあがり
私はその少女だった女を
思い出していた
少女はもう光る場所に行き
もう少女ではなくなっているのだろうと。
私はもう、かなり
遠くまで歩いていたことを知るのだった

2年前 No.143

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_iye


蜘蛛


古いたそがれが落ちている
窓の桟、ガラスの汚れ、あなたの後ろ姿
アリが、本能のまま、きちがいのように動き回っている
坩堝のような酷暑の中、アリは動き回ることしか許されていない
私たちはそのように、温度さえ失われた世界の初めから今日まで
そのように、きちがいじみた日々を
呪文のように生きていた
手枕で横たわるあなたという置物が居る
セミの声すら失われた夕刻
家屋の中には数えきれない溜息が滞り
か細い体躯の蜘蛛がそれを齧っている

1年前 No.144

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_iye

集会


巨木に棲むのは武骨な大男だった
髪はゴワゴワとして肩まで伸びている
髭の真ん中に口があり、いつも少しだけ笑っている
深夜になると、男は洞を抜け出して森の中に分け入るのだった
たいていは、月の出た明るい夜だ
梟の声に招かれるように、男は大きな錫杖を持ち外に出る
丸い大きな月がいかにも白々と闇夜に立ち上がり
黒い海に浮かんでいるかのようだった
下腹を突くように夜鷹が鳴けば、呼応するようにホホウと鳴くのは梟だった
草むらにはおびただしい虫が翅をすり合わせ、夜風を楽しんでいる
夜の粒が虫たちの翅に吸い付いて接吻しているのだ
木々の葉がさざなみ、風を生む
男の髪がふわりとし、汗臭い獣のようなにおいがした
なにかに急かされるでもなく、男は錫杖で蜘蛛の巣を払いながら峰を目指した
男の皮膚に葉が触れる
サリッ

峰筋の多くは岩稜で、腐葉土は少なくツツジ類が蔓延っている
藪は失われ、多くの獣たちの通り道となっており、歩きやすい
相変わらず月は丸く、天空から吊っているように浮かんでいる
峰の一角は広くなり、そこに巨大なヒメコマツが立ち
各峰々から十人ほどの大男が集まり始めた
互いに声を発するでもなく、視線すらも合わせることが無い
かといって不自然さもなく、それぞれが他の存在を意識していないのだ
巨大な月のまわりをひしめく星たちは、その峰に向けて光を輝かせている
アーーオーームーー
と、一人の大男が唱え始めると、釣られてそれぞれが声を発する
歌でもなく、呪文のようでもなく
静かな大地のうねりのように重低音が峰から生まれ出る
ちかちかと光る星々のきらめきから閃光が走り出す
男たちの呻く重低音が峰を下り、四方八方に鋭くさがりはじめ
やがて山岳の裾野を伝い人家のある街々まで光とともに覆っていった

1年前 No.145

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_Xrr

秋の詩篇





ふと 空を見上げると
蒼かったのだと気づく
鼓動も、息も、体温も
みなすべて、海鳥たちの舞う、上方へと回遊している

ふりかえると二つの痕がずっと続いている
一歩づつおもいを埋め込むように
砂のひとつぶひとつぶに
希望を植えつけるように

海は、あたらしい季節のために
つぶやきを開始した
海鳥の尾にしがみつく秋を黙ってみている
そう、海はいつも遠く広い

僕の口から
いくつかの濾過された言葉が生み出されてゆく
君の組織に伝染するように、と

いくらか感じられる
潮のにおい
君の髪のにおいとともに
新しい息をむねに充満させる



     *



あらゆる場所にとどまり続けた水気のようなもの
そのちいさなひとつぶひとつぶが
時間とともに蒸散されて
街はおだやかに乾いている

アスファルトからのびあがる高層ビルは
真っ直ぐ天にむかい
万遍のない残照をうけとり
豊かにきらめいている

静かな、
視界、
が私たちの前に広がっている

つかみとりたい感情
忘れてはいけないもの
体の奥の一部を探していたい
その、ふと空虚な
どこか足りない感情が
歩道の街路樹の木の葉を舞い上げる

体のなかを流れる
水の音に耳をすます
数々の小枝や砂粒を通り抜けてきた水が
やがて秋の風に吹かれて
飛び込んできた木の葉一枚
日めくりの上方へと流れてゆく


*

アスファルトの熱がまだ暖かい夜、あたりを散歩する
月は消え、闇が濃く、しかし空には数え切れない星がある
そっと寝転ぶと犬も近寄り、鼻梁を真っ直ぐに向けて夜を楽しんでいる
吐息を幾度と繰り返し、私と犬は少しづつ闇に溶けていく
この夜の、ここ、私と犬だけだ
仰向けに寝転ぶと背中が温かい
太陽と地球の関係
照らした太陽と受けとめた地球
その熱が闇に奪われようとしていた
少しづつ少しづつ闇の中に入っていけるようになる
例えば寝転ぶと夜空は前になる
この夥しい光のしずくが私と犬だけの為にあり、瞬きが繰り広げられている
時折吹く、秋風
その静寂と、闇と星の奏でが、風に乗って、鮮やかな夜を作り上げている
闇は無限に広がり、空間がとてつもなく広い
地球の上に寝そべって、無限の夥しい天体を眺めている
このときこの瞬間、私のあらゆる全てを許すことが出来たのだった

   *


何かに怯むでもなく
すべるように過ぎ去る時間の刻々を様々な車達が疾走していく
それぞれが無数の生活の一面を晒しながら、県庁へと向かう一号線を走っている
土手に築かれた車道から傍らをながめれば
すでに刈り取られた田が秋空にまばゆく
どこかに旅立つようにたたずんでいる

パワーウインドウを開ければ、どこからともなく稲藁の香ばしいにおいが入りこみ
午後の日差しは一年を急かすようにまぶしい
住宅の庭から、対向車の車の煽り風によって流れ込んでくるのは
なつかしい金木犀の香りだった
記憶の片隅にある、未熟な果実の酸味のように
とめどなく押しよせる、抑えきれない切なさが
あたり一面に記憶の片隅を押し広げていく

あきらかに、夢は儚く遠いものだと僕たちは知りながら
コーヒーカップに注ぎこまれた苦い味をすすりこみながら語った
夜は車の排気音とまじりあい、犬の理由のない遠吠えを耳に感じながら
僕たちはノアの方舟を論じた
秋もたけなわになるころ、小都市の縁側にたくさんの金木犀が実り
それは僕たちの夢の導火線にひとつづつ点火するように香っていた

思えば、僕は、あれから
あの香りから旅立ちを誓ったのかもしれない

僕はあれからずっと生きている
たぶんこれからも

1年前 No.146

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_Xrr

「あな  二篇」


貴方の声が
虫のように耳もとにささやき
私の皮膚を穿孔して
血管の中に染み込むと
私の血流はさざめき
体の奥に蝋燭を灯すのです
貴方のだらしのない頬杖も
まとわりつく体臭も
すべてが私の奥に
石仏のように染み込んでいたのです

明るすぎる店内は光っていて
ひとりで持つ手が重たいのです
ふと買い物の手が
貴方の好きな惣菜を求めていて
ショーケースの冷気で顔を洗うのです

閉じられた束縛の中で
私は蛇のようにじっと
湿度の高い空間で
安寧を感じていたのかもしれません

道路脇のカラスがなにかを啄ばんでいます
私の汗腺を塞いでいた あなたの脂
それでもつついているのでしょうか

*


夜のさなかというわけでもなく
朝のさなかというわけでもない
いつも中途半端な時間に覚醒するのだ

安い珈琲を胃に落とし込めば
やがて外界の黒はうすくなり
いくぶん白んでくる

陳腐な私という置物の胴体に
ぽっかりと誰かが開けた穴の中を
数えきれない叫びがこだまして
私の首をくるくる回す

この大きな空洞の中を
ときおり小鳥が囀り
名も無い花が咲くこともあった

今はこの空洞に何があるのだろう
暗黒は苔むして微細な菌類がはびこり
私のかすかな意思がこびりついているだけだ

また大きくせり出した極寒の風が
いそいそとやってくる
私とともにある
この
巨大な穴

外をみる
いくぶんかすかに白んできたようだ
空洞の上に厚手の上着を着込み
私は私に話しかけるために
外に出ようと思った
老いた犬を連れて

1年前 No.147

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_Xrr

峠の山道







峰と峰とのつなぎ目に鞍部があり、南北の分水嶺となっている
古い大葉菩提樹の木がさわさわと風を漂わせる
峠には旅人が茶化して作った神木と、一合入れの酒の殻が置いてある
岩窟があり、苔や羊歯が入り口に生い茂っている
そこは湯飲み岩窟と呼ばれていた
旅人がそこでありあわせの石でかまどを作り、火をたき、近くの清水で湯を作った
嗜好品としての茶ではなく、白湯を飲む
しげしげと旅人がかまどを作り、一杯の白湯のために火をおこし、それを飲む
硬く純粋な清水のとげがこそげ落ち、におい立つ水の甘さがふくれあがる
湯飲みに注がれた、湯気の噴いた白湯をいただく
ふうふうと息を吹きかけ、口中でころがして喉を滑らせる
胃腑に穏やかな沈静がしみこんで、解毒するように息を吐き出す
嗚呼、涼やかな大葉菩提樹の風が初夏の光線を引き立たせ、ふるえている
大木は歴史を旅した旅人だ
そして私もまだ

   *

峠の山道に
一本の棒が立っている
木質の中に
すでに水気もなく
粉がふくような外皮をそなえ
その他愛もない空間に
ひっそりと立っている
徘徊途中のハエが
てっぺんで羽を休め
手をすり合わせる
しばし左右に向きを変え
行き先のない
向こう側へと飛翔した
棒には一片の脳すらなく
あるのは
ひとつのぼんやりとした意志である
それは一途とか
かたくなとかでもなく
不器用な詩人のようで
ただそこに
立っていたいとだけ
思っているのだった

1年前 No.148

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_Xrr

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1年前 No.149

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_Xrr

作業日詩



八月二十日
土を舐める、ミミズの肌に頬を寄せる
現実とは、そういうものだ、そう言いたげにその日はやってきた
希望は確かにある
廃道の、石ころの隙間にひっそりと生をはぐくむ草たちのそよぎ
ゴールの見えない迷宮の入り口で、これから作業をするのだと山に言う
カビ臭く、廃れた空間に現実のあかりが煌々と灯り始める
作業は発育を繰り返し、やがて鋼鉄となり、やがて皮膚をつたうものが流れる
雨。くぐもった気が結露し、水を降らす
赤く爛れた鉄は水によって冷やされ、やがてしぼんでいく
その日、わたしは踵を返した

八月二十一日
物語づくりは開始された
翌日、空は青く澄み
夏はまだ照りつける光を存分にさらしていた
吐く息と吸う息がわたしをつつみ、一個の不完全な生命体が生を主張する
作業のための準備に勤しんでいるわたしは、作業に従うただの下僕のようだった
作業は再び開始された
脳内には小人の群れが、走り回ったり忙しい
作業の合間の休息が、苔むすまで私は静かに呼吸を整える
午後二時、作業は頂きを最後に終わった
眼下に人造湖が横たわり、微風だが風もある、静かな初秋だ
確かに頂きは私のためだけにあった

九月三日
作業を行うための用具は重い
さらに作業を行うべく、人体に注入すべく液体とその食物
何よりも作業はすべてわたしという生き物が行うのだ
人体の中を巨大な道が走り、大きく迫り出した建造物や、下水
その中をすべて体液が流れ
あらゆる場所に充填されている
わたしの中の体内都市は密かに、確実に動き出していたのだ
時折吹く風は確かに新しい季節のものである、そう岩はつぶやく
鼓動は狂い、息はあらゆる空気を吸い込もうとあえぐ
初秋の頂きには誰もいない
二つ目の頂きに着き、穏やかな鎮静がわたしを、仕事を包む

九月四日
三つめの頂きに向けて、まだ明けない朝を歩く
作業場は遠い
用具は執拗に重く、それを受け止めるべく私の人体は悲鳴を上げていた
わたしは穏やかに話しかけ、まるでカタツムリのように足を動かす
希望や夢、期待、あらゆる明るい要素は皆無だ
自らを暗黒に向けて歩を進めているかのように、ありあわせの生を貪る
おびただしい汗と、渇いた疲労の後、ようやく作業場に到達
湿気た森の空間を、機械のエンジン音が薄青い煙を吐く
ここは迷宮、昔から得体のしれないもののためにわたしは生きてきたのだろうか

九月一〇日
峠のトンネルは橙色の明かりをともし、広場は漆黒の闇だ
闇と霧が山道にあふれ、荒ぶる作業場へとわたしは向かう
入念に歩を進め、やがて闇は徐々に薄くなり
遠くに人造湖が霧の薄い膜とともに眼下に現れる
日が昇り始めるとともに、作業は開始された
果たしてこの作業に、終わりはあるのだろうか
頂きはまだ遠く見える
このまま終わることにない作業が続いたとしても、それがどうだというのだ
その日、わたしは作業そのものになっていた
作業が雇い主であり、わたしは一介の作業を行う生体にすぎなかった
激しい一日は終わりを迎え、夕暮れ近くなった鞍部の山道に腰を下ろす
作業用具を藪に仕舞い、やり遂げた作業の道筋を背負い、作業場を後にした

九月十一日
一夜を明かした機械類は朝露をかぶり、起動に備えていた
数万年前の爆裂口は霧を生み、山岳作業の最終日の狼煙を上げているかのようであった
頂きへの作業は終わりを迎え、やがて最後のエンジン音とともに見晴らしの良い峰に着く
作業機械の心臓を撫でてやる、その熱い魂は何を思ったのだろう
分岐道の山道にはイワショウブが揺れていた




九月十七日
関節の中に、血液の中に、重いものがいくつも蓄積されている。
荷を背負い、機械を背負い、別な古道への作業へと向かう
作業場まで延々二時間半歩くことに徹する
そういえばどのくらい歩いてきたのだろう
いつもいつも、昔からわたしはひたすら歩くことしかしていなかった
たとえば何百年も前の私も歩いていたのだろうと、思うしかなかった
幾千の小人たちが頭蓋の空間を遊び、動き回る
独りよがりな小人たちを止めることなどできやしない
わたしが来ることを期待していたかのように、作業するべく仕事量は膨大だった
機械を左右に振り分け、空間を選り分けながら作業を進める
そんな時、作業とわたしはいつしか交わっていることを感じてしまう
一つ目の沢を越えた頃、あたりはにわかに曇り始めて夕刻となった
作業機械を藪に仕舞い野を後にした


九月十八日
時間が流れるとき、いつも雨はその区切りをつけにやってくる
むしろ雨はやさしいのではないだろうか?
あらゆるものを濡らし、平易に事柄をなじませて
また新たなる渇きに向けて一滴を与えるのだ
雨の古道を作業する
作業は私の前に忽然と現れ、どんどんそれは成長し、わたしを引くように導いていく
大きく掘り割れた、峠の石標は苔をたくわえ、雨に濡れていた
脳内の小人たちは、もうすっかり眠りについていた
九日間の安堵を、蛞蝓の歩いた足跡をのみ込み、わたしは山を
山並みを一瞥した

1年前 No.150

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_Xrr







わたしはもう
石になってしまいました
かつてわたしにも
水だった時代があり
白濁した粘質の水となり
やがて泥となり
固まっていったのです
土として長年を過ごし
生き物をすまわせもし
ぷくりぷくりと
空隙をもたくわえました
そして今はもう
手も足も
脳さえも渇き
わたしはこのように
みちばたの
石になっているのです
このあいだカラスが
ついさきほどはひよどりが
わたしのてっぺんに留まり
糞をこいて飛び立っていきました
とにかく石の生活も
意外にくたびれるのです
でも石なので
頑ななんです

1年前 No.151

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_Xrr

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1年前 No.152

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_Xrr

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1年前 No.153

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_Xrr

六月


六月の雨音が聞こえる
今は空のうえで
六月の雨が育ち
きっともう
豊かに実りはじめているのだろう

誰もが六月の雨をまっている
やさしく皮膚に染み入り、
あらゆるものを平坦に均し
雨は果実のように地面に注ぐ

やさしさや安らぎは
雨から生まれ
やがて血液の中に混じり込んで
やわらかなあきらめともに
人ができてゆく

生へ ひたはしる
生き物たちが雨を浴びるとき
ふと静かに虫たちのつぶやきが聞こえる
六月はもうすぐ

1年前 No.154

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_KxC

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1年前 No.155

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_KxC

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1年前 No.156

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_KxC

丸腰B


浅田が直接銃を止めるきっかけになった事件があった。二〇〇六年の事である。
その年、浅田はウサギ狩りに何度か出猟し、まずまずの成果を収めていた。熊狩りの時期になったら、今年こそ参加しようと思っていたのである。
 熊狩りは、冬眠明けの熊に限って害獣駆除という名目で、数等の捕獲が許されていた。浅田のすむ地域では狩猟を行う人が減少し、それに伴い熊の数は増えていた。熊狩りを行う人は勤め人が多く、平日に熊狩りに出られる人は少ない。複数人でなければ熊の捕獲は出来ない。熊は他の獣と較べると著しく警戒心が強く嗅覚・聴覚が敏感だからである。強靭な骨格や硬い脂肪の皮脂があり、岩場から転がり落ちても怪我を負う事はない。まさにゴム鞠のような体なのだ。しかしながら、薮の中を猛進することができるよう目は小さく設計されており、視力は良くない。当地では熊のことを「シシ」と言った。参考に、ニホンカモシカは岩場に多く棲息しているので「クラシシ」と呼んだ。 熊狩りイコール「シシ山」である。このシシ山は、狩猟人の集大成とも言える猟だ。チームワーク、勇気、あらゆる力が試される場であった。
 浅田の住む小黒沢地区では、最長老の板屋修三氏の自宅がシシ山の本部であった。現場のリーダーは最近選任された村杉義男氏。板屋氏は既に八十を越えており、村杉氏も七十近い。村杉氏の補佐や助言役として、浅田の父や元森林官など五名ほどが取り巻くと言う図であった。
 熊の捕獲には、指示役・勢子・鉄砲場の三種類の役目がある。指示役が熊の位置を把握し、鉄砲場に熊が向かって行くよう勢子に効率よく熊を追わせる。熊が追われて逃げる地形はおおかた決まっていて、鞍部(稜線中の凹んだ場所)やヒド(沢状となった窪み地形)目掛けて移動する。全く障害物のない白い雪の台地を逃げることはなく、薮や木の多い所を逃げる。ウサギなども同じである。上手くいけば台本どおりだが、なにしろ大物猟だから、関わる人の意識は高揚しており、単純なミスも結構ある。人の立つ位置で大きく熊の進路が変わることもあり、慎重に作戦を立てる必要があるのだ。
 熊狩りと他の獣猟と決定的に違う点は弾の違いである。通常、熊以外で扱う弾は散弾(ショットガンに用いるバラ玉)であり、細かい弾が一斉に薬莢から獲物目掛けて放たれる。狙点は1点なのだが、散弾の場合は動く標的を対象にしている。射手はじっとして獲物を狙うのではなく、動く獲物と同じように運動しながら引き金を引く必要がある。ウサギや鳥は体が小さいことから、散弾でなければならない理由でもある。一方、熊などの大物猟ではスラグ弾と呼ばれる一発単体弾を用いる。ライフル銃を持つ者も居る。ライフル銃の方が当然威力は強く、大物猟専用銃である。浅田の銃は散弾銃であり、構造そのものがライフル銃と異なる。威力は半分と言ってもよかった。
 その日は浅田だは父から「熊が居る」と聞き、本隊から少し遅れて家を出た。ホテル天然館の除雪終了地点に車を止めると隅安久隆が居た。三十代後半で猟友会では一番若い。いつもニコニコしている気さくな独身青年で、地元の建設会社で現場監督をしていた。最近は猟のほうも腕を上げ、ウサギや鴨では一番の獲り頭となっていた。「熊を撃て」と言うが、「いや、俺は勢子が良い」と、自分の持ち場を決めていた。
 浅田と隅安は遅れて本隊に合流した。熊のおよその居場所は掴めているようだ。大門山塊に白姫(一三六八メートル)というピークがあるが、その一〇〇〇メートル付近に居るとのことだった。隊は十一名、鉄砲場(射手)三名、目当て(指示役)二名、本勢子三名、受け勢子三名という人員配置であった。浅田達は受け勢子で、最も熊との遭遇が考え難い配置にあった。
 本隊は上白姫沢左岸尾根一〇〇〇メートル付近の熊を囲むように配置された。浅田ら受け勢子は、上白姫沢左岸尾根の左手にある黒禿沢左岸尾根に取り付いた。一番若い隅安は上白姫沢左岸尾根に向かう途中の中腹に待機していた。元森林官の間島洋二と浅田は、黒禿沢左岸尾根で様子を窺っていた。
 全員が配置につき、勢子の活動が開始された。真山(熊の居場所付近の配置)からなるべく遠いところから勢子を始めなくてはならないので、最初に間島が「鳴り」を入れた。残雪がたっぷり残る山々に、一見のどかな「おーい、おーい」の勢子が響き渡った。続いて勢子鉄砲を数発浅田が放つ。これものどかに「ポーン、ポーン」と雪山に響いた。やがてイヤホンの無線から慌ただしく「シシ(熊)が動き出した」との無線が入った。それと同時に、今度は真山の下部にいた本勢子たちが「鳴り」に入る。村杉の無線によれば、熊は計画通り射手の方へ向かって進路をとっているとのことだった。浅田と間島は、熊の捕獲を確信し喜んだ。
 一閃、鉄砲が響いた。仕留めたのか・・・・。まるでスローモーションを見るように、熊は上白姫沢左岸尾根から隅安のいる斜面に向かって走り出てきた。隅安の近くをかすめるように熊は転げ、浅田たちの方へ下ってくる。隅安の銃は連続三発熊目掛けて射るが、殆ど当たりはないようだ。熊は浅田と間島の近く百メートルほどまで近づいてきた。「浅田、撃てっ!」。必死に銃を溜め、熊に射る。これは、隅安が再び熊を射止める為の勢子鉄砲であると共に、真山への勢子鉄砲でもあった。一種の威嚇射撃である。熊は七十メートルまで接近してきた。今度は本格的に射止める射撃に入る。しかし、最近熊を射止めたことがなく(九年前に三十メートル近射で熊を射止めたことはあった)、遠すぎてどこを狙って良いか戸惑いながらの発砲であった。数発撃ち、徐々に当たりを確信した。しかし、酷にも弾切れに。
「間島さん、弾が絶えた・・・・」
「散弾でも何でも良いからぶてや!」
浅田は必死に散弾を込めて放った。
 熊は沢に入ることなく、再び隅安のほうへ向かって逃げ始めた。熊は隅安を見たのか、彼の三十メートル下の雪と薮の間を進んで行った。間島はしきりに無線を入れて、隅安に熊の位置を教えていた。浅田からは熊の位置は丸見えだが、隅安からは薮に隠れて見えない状態だ。熊は薮を上へ上へと移動しているので、先回りして熊の真ん前に出て撃てと言う内容の無線だ。隅安も熊を確認したらしく、銃を構えながら薮の中の熊に接近し始めた。あまりにも近くなので、我慢し切れず隅安は数発撃った。何秒もしないうちに、雪の上に熊が現れた。意外に早かったが、あとは隅安が仕留めてくれるだろうと願った。ところが隅安は逃げ始めた。弾切れになり、弾の入れ替えが間にあわなかったようだ。十メートルほど逃げた。しかし熊の野生には敵わない。最後の抵抗で、銃床部分で熊の鼻先を叩いたようだが、彼らの背後には沢の岩肌が迫っていた。
 隅安と熊は、互いに絡みつくように沢の窪みに落下した。同時に大きな雪塊が彼らのいる場所に落ちた。数秒後に熊は浅田らの間を横切り、途中の沢筋の穴に隠れて姿を消した。
 彼は独身だった・・・故に子供は居ない。それだけが救いであったのか。無線で事故の事を能天気で話している猟友もいる。まだ事故の重大さを皆が解っていないようだ。実際にこの修羅を目撃していたのは浅田と間島だけだった。
 空は澄みきり青空だ。無線は相変わらずやかましい。浅田は祈るしかなかった。万に一つの可能性があるとすれば、生きていて欲しいということだけだった。間島は狂ったように、「たかー、たかーっ」と叫び続けながら、彼が落下したと思しき位置に向かって歩いていった。夏のような陽気で暑く、雪は重く粘った。
 「久隆は意識はあるし、自力で立てる」・・・・・。
全身の力が抜けてくるような、御来光のような無線だった。足場の悪い沢を上っていくと、隅安がいた。顔中が腫れあがり、いたるところに血が出ていた。耳は片方の三分の一ほど爪で打たれ欠損していた。皆が集合して、鉄砲場の長井と浅田が応急処置にあたった。どこが一番痛いかと聞くと、右手の上腕が酷く痛むという。衣服を切り裂いて患部を開けてみると、すっぽりと穴が開き、中の肉が抉られているようだった。頭と上腕に手当てを施し、浅田のほか二名と下山した。隅安は少し寒いといった。軽いショック症状が出ているのかもしれないと思い、ジョークを言い合ったり衣類を着せたりした。出血はあまりなくて、どれも急所を外れた傷であった。
 ホテル天然館に着くと、警察・救急車や関係者でごった返していた。目撃者ということでもあり、浅田が警察やマスコミの質問に答えた。小黒沢集落の熊狩りの歴史上で、これだけの事故は初めてだとのことだった。熊と正面で出くわしたが、転んだ弾みで熊が人を跨ぎ、傷ひとつ負わなかったという事はあったらしい。
 今日の事故の責任は誰にあるのか、いろいろと戦犯も上げられた。最初の射手が動いたため、浅田たちの所に熊が進路をとったとする説。浅田も戦犯の一人であると言われたのは言うまでもない。ただ、熊狩りで熊を撃つ場合は「なるべく近くで撃て」と言われていたはず。あの場面では、熊は黒い点の野球ボール程度にしか見えなかった。だが、当たらない距離ではない。結局、誰が悪かったのか・・・。あまり深い追求はしないにしようと相成った。
 しかし、熊と言う生き物の凄さを改めて皆が知ることになっただろう。隅安はあれから小1ヵ月も入院し、その後仕事に復帰した。彼を襲った熊は、事故後数時間で穴から出てきたところを捕獲された。

浅田にとって、この熊の件が頭にいつまでもこびりついていたのだった。
あの時、あの遠距離の熊を仕留めていたとすれば・・・、もっと違う人生を歩んでいたのではあるまいか?
確かにそうかもしれない。ただ、この三十年間、ろくなことが無かった。
猟銃という、凶器と断定されるその物体を体から排除したい、これは呪縛だったのだ、そう思いたかった。
 帰りに、なじみのラーメン屋に立ち寄った。今までのラーメンとは少し違う感じだったが、幾分味も違っていたように感じた。
もしかしたら、何かに解き放たれ、舌の感覚も違うのだろうか?
先客が居たと思っていたら、何やら改装の事を話しているようだった。
このラーメン屋もまた、新しく改装するのだろうか。
話しに夢中になっている店員にわざとらしく、大きな声で「ごちそうさま!」と言い、店を背にした

1年前 No.157

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_KxC

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1年前 No.158

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_KxC

三つの失意


残酷なほど秋は空を遠くし、まぶしい日差しを照らしていた
走り出した夢は、転がるように
外された制動は音もなく日々を食い殺してゆく
君の幼さと希望を私は殺した

世界中のためいきが空に浮かんでいるような夕刻
宇宙の端々の関節がはずれるように何かが変わろうとしていた
ふたたび、空はにわかに広がり
空間の一つ一つに、何かの理由があるかのように
景色は黄昏ることなく静かさを維持している

腫物の赤みが少しおだやんだかと思った矢先
静かな朝、何気なく言われた言葉にうろたえ、沈んだ
あたりを見た
まるで枯れつくされた・私の群れ
救いようのない朝
私はかろうじて、自らの落した溜息につかまるのが精いっぱいだった

11ヶ月前 No.159

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_KxC

八月


深い霧がうっすらと見える
まだ明けきれない朝
ニイニイゼミの海が広がり
その上をヒグラシがカナ・カナカナ、と。
万遍ない怠惰が体を支配し
私はその中をぷかりぷかりと泳いでいる

上空には巨大なウミウが舞い
血だるまの現実がホバリングしているが
私の心は心細いマッチ棒のようで
ぶすりぶすりと煙い火をかすかに灯している

私は
またこのように道を失い
いつ来るともしれない
風を待っている

八月はまたやってくる
夏の痛々しく残酷な暑さは
あらゆるものを溶かし崩してゆく

釈然とするものが何一つない真夏の炎
それはすべてを燃え上がらせ
骨も髄も溶かし
念じたものをも溶かしてゆく

また新たな物語の為に
八月は坩堝のように
卵を産み続ける

10ヶ月前 No.160

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_KxC

僕の船


いくつかのブラックホールを超えて
僕の船は宇宙を漂っている
星はきらっと輝いたかと思えば
それは一瞬のきらめきであり
あとは黄銅色の鉱石が漂う空間だった
宇宙に風はないというが
少しだけ風はあって
それはこの宇宙の端の
滝のしぶきから生まれるものだと思った
太陽や土星は激しく鈍い音で自転し
それがいろいろな天体に影響を及ぼしていた
僕の船は少しだけ流線型で
寂れた宇宙の片隅にいつも存在した
宇宙人の交信も途絶えた頃
僕はついに老いていた
何処に行くのだろう?
結局どこにも行けず、僕は
宇宙の闇の中で
静かに言うだろう
闇は深いな、と。

9ヶ月前 No.161

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_KxC

九月


あらゆる裸を晒し続けた真夏だった
饒舌にまくしたてる命の渦
夏はすべてをあらわにし
やがて鎮火した

隔絶された山岳の一角で
口も利かず
私は一人で作業をしていた
何も無いその佇まいの中で
私は何と戦っていたのだろう
でも確かに戦っていたのだった

少なくとも日没は一時間は早まった
夕暮れ近い山道を登り返す時
うすい靄がオレンジ色に差している

ホシガラスが滑空し叫ぶ
断崖を蹴るように降下し
再び上昇した
いくつか濁った声を出し
私の上を飛んだ

額に灯火されたランプのもとには
蛾や羽虫が擦り寄り
光源に酔っている
ヒキガエルのこどもが
のそりと動く

わたしも彼らも
きっとどこかに帰るのだ
ねぐらへ棲み処へと

ザリッ
スパイク長靴が石とこすれあう音が
九月の夜の山道に
孤独に響いた

7ヶ月前 No.162

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_KxC

十月

空が重く垂れさがっている
泣きそうな重い空気が
地面に着陸しそうになっていた
野鳥は口をつむぎ
葉は雨に怯えている
狂騒にまみれたTVの音源だけが
白々しく仕事場にひびく

悪臭を放つ越冬害虫が空を切る
その憎悪にあふれた重い羽音が
気だるく内臓に湿潤するのだ
不快な長い季節の到来を
喜々として表現している

こうして、悪は新しい産卵をし
悪の命を生み続ける
不快な空間はあらゆる場面でも
途切れることがなく存在してゆく


十月はあきらめの序曲
乾いた皮膚をわずかに流れるねばい汗
かすかな望みを打ち消す冷たい風音

風景はさらに固まり続けるだろう
思考は気温と共に鬱屈し乾いてゆく
ひとつふたつと声にならない声を発し
ねじを巻くのだ

7ヶ月前 No.163

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_gUY

シーサイドライン


海に行きたいと思った
また、冬に身を投じ、雪まみれにならなければならない
その前に、できるだけ平坦で、広大な場所に行きたかった
もともと、すべての生き物は海からはじまった


コンビニで食料を買い、シーサイドラインに入った
やはり、水平線はごくわずかに曲がり、この星が球体であるという事を示してくれている
清流の涼やかな流れではなく、わずかに濁った冬の海は言葉が見つからないほど巨大だ
波はうねうねと遠くまで続き、細かく刻まれた岩礁が奇怪な形をしている

登山道は参道の延長から入り、標高六〇〇余りの信仰の山へと向かう山道が続いている
行きかう人たちの挨拶が鬱陶しくもありながら、その言葉が身に染みる
老若男女が自由に山頂を目指し、下山していた

大量の汗に山頂の風は冷たく、枯れたススキがなびいている
山頂にも鳥居が設けられ、そこでにこやかに参拝する若いカップルが居た
背中に汗がへばりつき、その不快さを合掌することで和らげようと銀硬貨を投げ入れる
食べるでもなく、飲むでもなく、もう一つ向こう側の峰まで歩きだす

山とはいっても、無雪期は山頂近くまでスカイラインが通り、たくさんの往来があったのだろう
今は通行止めとなり、冬枯れの曇り空と、治癒の希望がない、暗澹たる病巣のような日本海が広がっている
離れた峰まで行く人は稀で、歩くのを楽しむというより
そこに至らなければならないとする義務感のような意思を感じる
峰の中央に、大きな木製の道標がたてられ、その文字は消えかかっていた

登山口に戻ると、再び人のうねりがあった
参道に沿って歩くと、本殿があり、多くの家族・高齢者などが目を閉じ、合掌している
賽銭箱のやや横で、一心不乱に手を合わせ、何かを祈願しているのだろうか、老人はじっと動かずに立っていた

神はきっといるのだろう
大勢の信仰登山者に遭い、挨拶を交わし、神に祈った
しかし、もうそんなに、良いことは無いのかもしれない

車を走らせ、菓子を放り込む
舌にころがる甘さが、瞼の隙間にしみてくる
もう一度、シーサイドラインに立ち寄り、海を見たいと思った

6ヶ月前 No.164

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_gUY

十一月の山道



男に足はなかった
有ったのは、たった一つの脳と心臓だけだ
脳と心臓からやがて手が生え、足が伸び
それらが男に足され、人になる
十一月の肌寒い雨の日
男はのっぺりとした顔をして歩き出す
友もなく、鉛筆の芯のような思いだけで
歩いているのだった
雨降りの山道は
一人姥捨て山への階段のようで
目的地に行こうとする
あきらめに似た感情だけだった
息が上がり心臓は早鐘を打ち続けるが
かまわず男は登り続けた
やはり、頂きには誰も居なかった
霧に浮かんだ道標と祠が男を迎えた
たしかに男は何かを捨てた
いや、捨てなければならないのだと悟った
汗まみれの帽子を脱ぎ、合掌した

5ヶ月前 No.165

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_gUY

十二月


首を失った得体のしれない生物のように、残忍に打たれ
転がっているのは私だった
十一月の刃物が寒さとともに研がれ、この加齢した首を削いだ
十二月、失った首を探す私の頭上にあるのは球体
□がれた顔がその中に入り込み、浮かんでいる
右回りの季節の中で平衡を保つその球体は真実そのものだ
失われた季節、失われた私の体
水に名が無いように、私の名も失われ
このように、丸い球体となって、殺がれた私を見ている

葉が感情を失い、木は失意し、空は失速する
名は枯れ、血液は凍り、思考は遺跡となる
時間は歴史となり、動きはひたすら空隙化し
眼球は軽石となる

十二月はいとも無造作に私を葬る
影を作ることも忘れた冬が
名もない私を狩る

雑念を埋葬する
失われた神に点滴を施す
冬が来る
頭上にある、この首に手を伸ばさなければならない

5ヶ月前 No.166

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_gUY

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4ヶ月前 No.167

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_gUY

20世紀少年

何もない原っぱの上に
広い草原はあって
その長い草を棟に見立て
小さな小さな
子供たちだけの秘密基地

     ※
ともだちになってくれない?
一緒に遊べばみんな友達だよ!

僕はただ
ともだちが欲しかった

犯人は僕じゃなかったのに
僕はみんなから犯人にされた
僕は死刑にされ
僕の机の上には花が添えられていたんだ

僕は消された
ともだちから抹殺されて
何処にも居場所はなくなり
名前すらも消えた

熱源は復讐だった
すべてのモノに復讐しなければならない
世界征服
人類滅亡

多くの人が死んだ
みんな血を吹き出し
数秒で細菌は組織を破壊し
皮ふを血が吹き抜けて飛沫した

人類滅亡はもうすぐだ
いよいよ僕は神になれる

その狂いの中で
僕は僕に破壊された

やはりね
まだ、おわらないよね?
おわった
終わったんだ

僕たちは戻った
学校の屋上で
もう一度君に会った

僕にもやっと
ともだちができた

4ヶ月前 No.168

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_gUY


20世紀少年解説

1.はじめに

 20世紀少年という映画をご存知だろうか。3シリーズあり、トモダチが世界征服をたくらみ、それをケンジ達有志が立ち上がり阻止しようとする冒険活劇である。
 この映画は、どこにでもあった古き良き時代がストーリー展開の中でその都度盛り込められ、深いセピア色の風情が楽しめる作品である。また、俳優もいろんなキャラクターを有する俳優が固めており、それだけでも見る価値は大きい。名画というジャンルではないだろうが、3部作をトータル化して考えれば決してB級映画とはいえない味わいがあると感じた。
 この映画を何度が見るうちに、昔の甘酸っぱいようなやるせないような少年期の感覚が呼び戻され、何度も何度も見たくなってしまっていた。
 映画評論家の批評ではほとんど評価されることがなかった作品であるが、出演者達の個性やキャラクターが非常にうまく配置され独特の味わいを感じさせる作品となっている。




2.あらすじ

1970年ごろ新宿区立第三小学校の5年生であるケンジ(唐沢寿明演じる遠藤健児)少年をとりまく、オッチョ(豊川悦司演じる落合長治)・マルオ(石塚英彦演じる丸尾道浩)・ユキジ(常盤貴子演じる瀬戸口雪路)・ヨシツネ(香川照之演じる皆本剛)・ドンキー(生瀬勝久演じる木戸三郎)・モンチャン(宇梶剛士演じる子門真明)・ケロヨン(宮迫博之演じる福田啓太郎)・フクベエ(佐々木蔵之介演じる服部哲也)らは、古き良き時代の中、少年の楽しみを見出し、日々を謳歌していた。
 野原に草で作った秘密基地を作り、そこで流行のGSソングやボブディラン、クリーデンスクリアウオーターリバイバルなどをこっそり聴き、来たるべき万博への憧れを語り合っていた。
 秘密基地の中に居ると、何かを生み出したい感情に駆られるものである。彼らはそこで「よげんの書」を作成した。実に他愛のない、子供心満載の漫画ストーリーの創作である。30年後の西暦2000年に細菌がばら撒かれ、人類は滅亡の危機を迎えるというのである。その危機を救おうとケンジたちは彼ら独自のマークを作り旗も作った。
 彼らと敵対する傍若無人な双子ヤンボウ、マーボウ(一人二役佐野史郎演じる山田清貴)の極悪兄弟との抗争など、計り知れない正義感に満ち溢れていた少年期であった。「この旗を掘り起こすときは、西暦2000年に俺たちが悪の組織と戦うときだ」そう言ってケンジたちは土の中にそれを埋めた。

 199○年、ケンジはロックバンドを組み、活躍していたが、陽の目を見ることはなく、姉キリコ(黒木瞳演じる遠藤貴理子)の子供を母親と育てながら、キングマートというコンビニを経営していた。元は酒屋だったのだが、流行のコンビニ形態にしたのである。だらしない格好でおよそ客商売とは無縁の風体のケンジ、さらに背中には姉の残していったカンナという赤ん坊。コンビニの親会社から叱責を受けるところから物語は始まる。1997年である。
 ある日、ケンジのコンビニに五十嵐刑事(竜雷太演じる五十嵐長介)が現れ、ビールの配達先である敷島教授(北村総一朗演じる敷島鉄男)の所在を知らないかと来訪する。一家全員失踪したのだと言う。ビールのつけが残っていたケンジは断腸の思いで空瓶を回収に行く。そのとき、教授宅の壁に描かれた懐かしいマークを発見する。
 何日か後、新宿第三小学校の同窓会があり、ケンジも出席する。あの当時のマルオ・ケロヨン・モンチャン・ヨシツネ・フクベエなども出席しており、近況などを語り合う。同級生の一人がケンジのそばに来て話を始めた。なにやら自分は離婚したという話で、その原因が妻の宗教団体への加入だというのである。そしてその教団のシンボルマークが、ケンジたちが掲げたあの矢印と瞳のマークなのである。その教祖はトモダチと呼ばれ、あの当時の遊び仲間の誰かではないかという結論に達した。それとともに、その不穏な教団の被害者の会なども立ち上げられていた。
 唯一の女の子ユキジは、税関職員となっており、麻薬取締官として空港勤務。マルオはファンシーショップ経営。ケロヨンは蕎麦屋。ヨシツネはコピー機の営業など、それぞれ社会人として責任ある30代後半世代となっていた。
 ある時、新聞を見ると、その当時の仲間、木戸(ドンキー)の事故死が掲載されていた。マルオらと共に、ドンキーの葬儀に出席し、死の原因を話し合い、昔埋めたとされる「よげんの書」を探す。しかし、「よげんの書」は見つからず彼らのシンボルの旗だけが土の中から見つかった。
 ケンジはドンキーの死の真相を探ろうと彼の妻を訪問する。高校教師をしていたドンキーは教え子の田村という青年が教団にかかわっている事に頭を悩ませていたという。引き続きケンジは田村宅を訪問し田村青年と会う。しかし、田村青年は奇怪な言葉を叫び、立ち去る。
 ある日、ケンジのコンビニに万引き集団が現れ、ケンジは万引き軍団のホームレスのカミサマ(中村嘉葎雄演じるカミサマ)に誘導され、彼らのアジトに連れて行かれる。カミサマのアジトの一角に血を流した男が横たわり、ケンジを待っていた。数日前にサンフランシスコに細菌兵器がばら撒かれ、次のターゲットも「よげんの書」どおりにばら撒かれるのだと男は言う。ケンジとオッチョがおもに考え出した「よげんの書」の事をケンジはとっさに思い出した。ケンジ達の住む町の一角にサンフランシスコという喫茶があり、その隣にロンドンというスナックがあったのである。それを知ったケンジは愕然とする。瀕死の男はケンジにレーザー銃の試作品を渡し、姉の子供に気をつけろ、と言い残し死ぬ。そして、トモダチの悪に最初から気づいていたドンキーを殺害した事実もそこで知る。
 その事実をマルオとヨシツネに伝え、戦いを挑もうと喚起する。しかし、彼らは今の現実が大事だと否められる。その時、「よげんの書」を思い出したケンジは、今日が空港爆破の日だと知る。羽田空港で麻薬取締官をしてるユキジの危険を感じ、ケンジはただ一人羽田空港へ向かう。そこにはトモダチの腹心、万条目(石橋蓮司演じる万丈目胤舟)が居た。ケンジの少年時代、羽田空港はなかったはずだと嘲笑する。それよりもカンナを心配したほうが良いと捨て台詞を吐く。
 キングマートはトモダチ信者の若者たちに埋め尽くされ、カンナを抱かせろ、神の子を抱かせろと歓声が上がった。間に合ったケンジはユキジと共にカンナを救い出すが、信者の若者同士が責任を擦り付け合い、信者の一人に灯油をかけ殺してしまう。それにより、ケンジのコンビニは火災で消滅する。
 ケンジはその怒りをぶつけるべく、トモダチコンサートに侵入する。ステージで、トモダチの悪や真実を観客に訴えるが、観客はトモダチに心酔しており、ケンジの訴えに聞く耳を持たない。そこにトモダチが現れ、ケンジと対面する。すでにトモダチはケンジをテロリストに仕立て上げようとしていたのだ。そして、トモダチは姉の子カンナは自分の子供だという。あっけにとられたケンジは呆然とする。その隙に武器を取り上げられ、外へと放り出された。 傷心のケンジはカンナを背負い、焼けたコンビニあとを見つめる。そのときカンナが土を指差し土を除けてみると、中からケンジたちの書いた「よげんの書」が現れた。
 3年経ち、ケンジはトモダチの手によって空港爆破などのテロリストとしてでっち上げられ、地下に潜伏する。その間、オッチョがタイから戻りケンジに会う。

 2000年12月31日、首都を巨大ロボットが襲い、細菌兵器をばら撒くだろう、「よげんの書」どおり事が進めば大変な事態となる。ケンジを筆頭にオッチョ・ユキジ・マルオ・ヨシツネ・フクベエ・モンチャンが集まり、戦いを挑む。巨大ロボットは、あらゆるものを踏み潰し、細菌を撒き散らしながら進んでいく。そのとき、どこかで遠隔操作をしているとの連絡が入り、フクベエとオッチョがビルの屋上へと向かう。しかし、フクベエはその操作する人間と共に屋上から落下してしまう。
 ケンジは必死にロボットに駆け上がるが、運転席にはダミーがあるだけだった。そのとき「ケンジ君、遊びましょー」とトモダチの声が。トモダチはスクリーンに映し出され、そのお面を取ると「よげんの書」どおり、あたりは大爆発を起こした。そして世界中に細菌が撒かれ、多くの人が死ぬ。「血の大晦日」、である。ここで第一章が終わる。

4ヶ月前 No.169

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 2015年、トモダチの支配下に置かれた日本は国民の多くがトモダチを心酔し、世界的にも多くの信者を確保し、政治的なリーダーとしても崇められる存在となっていた。
 2000年、血の大晦日以来ケンジの消息はわからず、ほぼ死亡したものとして考えられ、フクベエもビルから落下し、死んだと考えられていた。
 一方、カンナ(平愛梨演じる遠藤カンナ)は高校生となり中華料理店でアルバイトの日々を過ごしていた。その中華街ではタイマフイアと中国マフィアの抗争が激化し、カンナの勤める店もかなりの影響を受けていた。その抗争を沈静化するべく警察は躍起になっていたが、その一人にかつてキングマートを訪問した伝説の刑事五十嵐の孫の蝶野刑事(藤木直人演じる蝶野将平)が居た。伝説の五十嵐刑事は部下の山本という刑事に細菌兵器で殺されていたのだった。その警察庁長官に五十嵐刑事を殺した山本が君臨していた。そのことを蝶野刑事は後で知ることになる。
 蝶野刑事は警察がトモダチに支配されている旨を長官に報告するが、それを知った長官は蝶野刑事を抹殺しようとたくらむ。蝶野刑事は狙われたが、代わりにニューハーフのホステスが身代わりになり殺される。
 カンナの通う学校では、ケンジたちを史上最大のテロリストとして授業の教材にさえなっていた。それに反発をしていたカンナは問題児として教師に目をつけられていた。カンナと共に、遅刻など要領の悪い小泉響子(木南晴夏)が更生施設トモダチランドにいくことになった。
 トモダチランドの教育係は女の高須幹事長(小池栄子)だった。トモダチランドで、ケンジたちをテロリストとして作られたシュミレーションゲームで高得点を出すとボーナスステージに入ることができた。しかし、そのボーナスステージというのは、廃人になる可能性を秘めた恐ろしいステージでもあった。
 小泉響子は恐怖のあまりトモダチランドを脱走するが、ヨシツネが誘導し、カンナと共にヨシツネ率いる源氏一派のアジトに身を隠す。真実を知るべきと再び二人はトモダチランドへ戻り、最終ボーナスステージへ到達し、トモダチの謎に迫るべく過去へとタイムとラベルする。小泉響子はそこでお面をかぶったサダキヨ(ユースケ・サンタマリア演じる佐田清志)と会い、カンナは理科室で新よげんの書を持ったヤマネとトモダチの首吊りを見る。そこに現在のトモダチが現れ、カンナに娘であると告げる。

 血の大晦日以来、テロリストとして刑務所に入れられていたオッチョと漫画家の角田は脱走し、カミサマに会う。カミサマの話によるとヤマネ(小日向文世演じる山根昭夫)は製薬会社の社長となり、ケンジの姉キリコと細菌を研究していたと伝える。

 モンチャンは不治の病に侵され、ユキジと共に病院に居た。「新よげんの書」の一部をユキジに渡し、その2日後にモンチャンは姿を消す。

 学校に英語の新しい教師が来た、サダキヨである。具合の悪くなった小泉響子を車に乗せ、送ると言ってトモダチ博物館へ連れて行く。そこでモンチャンを殺害した事実を告白し、モンチャンメモを小泉響子に渡し、トモダチ博物館で焼身自殺する。モンチャンメモにはカンナの母でありケンジの姉のキリコの秘密が書かれていた。

 カンナはキリコが以前居たとされる町を訪問する。岸壁の上に病院があり、そこでキリコはヤマネと細菌の研究をし、殺人ウイルスの培養に成功したと報告書に書かれていた。

 ヤマネから連絡をもらったオッチョは理科室で会う。血の大晦日以降、ヤマネはさらに強力な殺人ウイルスを開発した。その細菌を使い、トモダチは人類を滅亡させる計画を立てていた。それを阻止してもらうためにヤマネはオッチョにトモダチの暗殺を依頼する。
 「新よげんの書」では、《2015年、新宿の教会で救世主は暗殺されるだろう・・・》、こう書かれてあった。しかし、救世主はトモダチのことではなく、カンナのことであり、カンナに銃口が向けられたがオッチョに助けられる。一方、新宿視察中のトモダチはヤマネに撃たれ死亡する。ヤマネも、刑務所から出てきた田村マサオに射殺される。
 トモダチの葬式が執り行われるが、トモダチは動き出し生き返る。死んだものが生き返ることによってトモダチは神となった。

 「新よげんの書」は、最後のページを迎える。《あくまのせーるすまんがせかいをほろぼす》そう書かれていた。世界中にさらに強力な殺人ウイルスが撒かれた。
 ここで、第二章が終了する。
 ラストシーンにケンジが登場する。

4ヶ月前 No.170

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_gUY


 2017年(トモダチ暦3年)、ケンジはバイクにまたがり、生きていた。東京はトモダチの手によって1970年代の町並みに再現されていた。
 オッチョと漫画家はウイルスが蔓延する壁の向こうから、トモダチによって1970年代に復元された東京へと侵入することができた。
 東京では、反トモダチ組織としてヨシツネ率いる源氏一派と氷の女王と呼ばれるカンナ率いる組織があった。
 オッチョは氷の女王カンナ率いる組織と会い、ラジオから流れるケンジの新しいフレーズの歌を聞き、ケンジは生きていると確信する。
 トモダチは「2017年8月20日、宇宙人の襲来と未知のウイルスにより、人類は滅亡します。私を信じ、私とあるものだけが救われます」こう訴えた。

 国民的歌手、春波夫はトモダチの組織に属しており、ケンジたちの幼なじみマルオは春波夫のマネージャーをしていた。春波夫こそケンジたちの元ロックバンドのドラマーであり、焼き鳥屋のオヤジ(元YMO高橋)はベース担当であった。
 マルオはかつての仲間ケロヨンと会う。ケロヨンとマルオはキリコに会い、キリコの開発したワクチンの自己人体実験に立ち会う。そこでキリコは今までのいきさつを彼らに話す。
 【1994年、キリコはトモダチと出会い、1997年にカンナを出産する。それと同時にトモダチが悪の組織のリーダーだと知り、カンナをケンジに預ける。
 2003年、キリコは自分の開発した殺人ウイルスのワクチン製作をアメリカで行っていたが、トモダチに邪魔をされた。それを助け出したのが、アメリカでそば修行をやっていたケロヨンであった】

 ケンジは、東京の街へ行く関所に着く。関所の建物にはかつて友和党の党首であった万条目が関所代官として成り下がっていた。
 ----万条目の述懐----
 【1971年、露天商だった万条目はケンジたちの町に行き、露店を開いていた。そこにトモダチが現れ、首をつっても締まらないロープはないかとたずねる。
 1981年、万条目の事務所にトモダチが現れ、宗教団体のようなものを設立したのだが、パフォーマンスが必要で、万条目に力を貸してほしいと来訪した。1983年には、空中浮遊などのパフォーマンスで、さらに大多数の信者を抱えていた。
 1994年、トモダチは細菌科学者キリコを必要とし、当時キリコが交際していた、モロボシダンを殺害。その後、お茶の水工科大学の敷島教授を拉致し血の大晦日の巨大ロボットを作らせた。
 血の大晦日は未曾有の大爆発だったが、ケンジが乗り込んだロボットは操縦室が頑丈なシェルター状のつくりになっており、ケンジは一命を取り留めた。
 もう、トモダチはやることがなくなってしまい、後は世界を滅亡するしかないと思っている】
 万条目はケンジに友達を殺してくれと懇願する。
 ------ケンジの述懐-----
 【2000年、血の大晦日から命からがら逃げ出すが、記憶をなくし、ひたすら逃げる。15年後、突如ニュースを聞き、記憶が戻る。ふたたび狂ったように北へ北へと逃げ、死ぬ間際で猟師に助けられる。そこで、「現実から逃げない、目をそらさない・・」と心に誓う】

 地球防衛軍がオッチョとカンナを襲撃し、2人とも投降する。カンナはトモダチと会いトモダチに銃を向ける。実の娘に銃を向けられたトモダチはカンナを絶交するという。
 オッチョは、トモダチ側の科学技術庁長官となっていたヤンボウ・マーボウに地下を案内させる。地下室には宇宙人襲来に見立てた円盤2基と二足歩行ロボットが格納されていた。
 敷島製作所に行くと、敷島教授が開発したミサイル追撃ランチャーが開発されており、それをオッチョが操作することになった。

 トモダチの心の中で何かが崩れ始め、ついに人類を滅亡させようと最終決断に近づいていった。そして国民を前に、【2000年血の大晦日・2015年世界殺人ウイルス、すべて自分が計画し、やったこと】だと国民に公表。

 トモダチと会ったカンナは、トモダチが「万博会場だけは残したい」そういったのを思い出し、できるだけ多くの人を万博会場に集結させようと、かつての仲間たちとチラシを捲きコンサートを実施する計画を立てた。波春夫やケンジのオリジナル曲「グータラスーダラ」を聴くコンサートである。
 8月20日当日、多くの観客が朝からコンサート会場に集まった。春波夫の曲からコンサートの幕が開いた。
 一方、トモダチは幹部の前で円盤を発進し、不安げな幹部たちの前で「私を信ずるものだけが救われる」と言う。
 春波夫が歌いだすと同時に円盤から殺人ウイルスが散布され、多くの人が突然血を撒き散らし死んでいった。
 オッチョはミサイルランチャーで1基撃墜する。1台のヘリが現れ、そこにはかつて信者であり、スナイパーであり、囚人でもあった田村マサオが乗っていた。田村マサオのヘリは円盤に激突し、自爆した。

 トモダチは太陽の塔の上でリモコンを動かし、最後の中性子爆弾を積んだ二足歩行ロボットを起動させる。
 ユキジらは、残ったトモダチの残党をすべて制圧する。
 ケンジはロボットの足から内部に侵入すると、中にトモダチが居た。しかし、大きな振動でトモダチは失神する。早くロボットを止めなければならない。ケンジはロボットの足のバランスを悪くして転倒させた。
 ロボットが倒れると中からトモダチが現れる。オッチョが覆面をとると中の顔はヨシツネだった。ヨシツネはトモダチのダミーで、薬で眠らされて覆面をかぶせられていたのだという。
 外から、本物のトモダチが現れ、「ケンジ君遊びましょ」という。そして、トモダチは「僕だよ、僕がトモダチだよ」と覆面を脱ぐ。トモダチの正体はフクベエだった。ケンジは真実を理解し始めていた。「もうフクベエのふりをするな、ごめんな、俺が悪かった」と土下座する。 狼狽したトモダチは「やめろ、謝るな、終わっちゃうじゃないか」と訴える。背後から万条目に銃で撃たれ、トモダチは死ぬ。 結局はっきりとしたトモダチの正体はわからない。

 コンサートのとりにケンジがステージに上がり、グータラスーダラを歌い、カンナと再開する。ここで一応第三章(最終章)終了となる。
  -----エピローグ-----
 コンサート終了後、ケンジはトモダチランドに行き、過去に遡り、トモダチの正体を突き止めることとした。

 1970年ある日、理科の実験大好きカツマタ君は、夏休み中家族と万博へ行く予定だった。教室でも、ケンジを中心に万博の話題が持ちきりだった。いろんなことに詳しいカツマタ君はみんなの前で万博の概要を話し、みんなから尊敬のまなざしを向けられる。そして家族で夏休み中万博に行くことを宣言し、さらに羨ましがられる。
 しかし、現実的にカツマタ君は万博へ行くことができなくなってしまった。その恥ずかしさを隠そうとサダキヨのお面を奪い、夏休み中お面をかぶってやり過ごすことを考える。
 ある日、お面をかぶったままのカツマタ君は菓子の当たり券と地球防衛軍バッヂを交換してもらおうと雑貨屋を訪れる。しかし、店主が居らず、当たり券を置き、バッヂを持ち帰る。それを見ていたケンジはこっそりバッヂだけ万引きしてしまう。すぐ店主が戻り、バッヂが数分ないのを確認し、傍に居たカツマタ君が犯人だという。言わせたフクベエとイケガミはカツマタ君をいじめ、お前はもう死にました、とののしる。
 カツマタ君の万博行きの嘘も暴露され、バッヂ泥棒の烙印を押され、夏休み後のカツマタ君の机に花が飾られ、死んだことにされてしまった。以降、カツマタ君は不登校しみんなの記憶から消えていった。
 心の傷が消えないまま、中学生になったカツマタ君は、学校の屋上から飛び降りることにした。その一歩を踏み出そうとしたときに20世紀、センチュリーボーイ(T ・レックス)が流れる。カツマタ君は死を逃れ、友達になってくれない?とケンジに言う。お面をとったケンジとカツマタ君は屋上でグータラスーダラの歌を作った。

 ケンジは過去に潜入し、それぞれの自分の不当な行いを悔い、陳謝する。また、その都度のカツマタ君の消極的な行動を指摘し、お面を取れという。
 そして、ラストは「僕に初めて友達ができた」とカツマタ君のナレーションで終わる。

4ヶ月前 No.171

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3.映画20世紀少年を考える

 未来へ向けての期待。日本が戦後復興し、高度成長期を迎え、その未来の象徴とも言える国際的なイベントの万国博覧会。国民的歌手の三波春夫によって「世界の国からこんにちは」という曲が生まれた。
 当時、私もケンジたちと同年代だった。小学校の高学年であり、流行の歌はGS真っ盛りで、タイガースやテンプターズ、スパイダースなどが活躍していた頃である。世界的ロックアイドル、ビートルズの来日後、多くのミュージシャン達がビートルズを模倣し空前のGSブームが巻き起こっていた。
 おやつを買うと【あたり】があり、アイスがもう1本もらえたり、何かの景品がもらえたりした。私の少年期、景品付きというのはなかったが、アイスをなめ終えると棒の中に当たりが印刷してあるものがあったり、5円のフーセンガムには当たりとはずれの紙が付いているものもあった。グリコのおまけとか、ただ食べるだけというおやつではなく、色んな夢があったものである。
 作品中に出てくる【秘密基地】の扱いも興味深い。作業場から持ち出した鉈やのこぎりで、山野の雑木を勝手に切り倒し、縄で雑木を縛りつけ小屋を良く建てた。作品中の子供達のように、そこで何かをするわけではなかったが、油味噌の弁当を持ち込んで食べたものである。家ではない、まさに子供達だけで苦心して作ったまさに基地であった。
 大切なものを埋めるという行為も実に共感できる。私達は当時休火山を源流とする沢に入り、黒曜石拾いを良く行った。拾った黒曜石を透明な瓶などに入れ、土中に埋めるという行為も似ている。
 これらの遊びに絶対的に必要だったものは何か、それは仲間であろう。現代は、携帯やスマートフォンでゲームをしたり出来、ひとりで遊べる環境も整っているが、昔は相手がいなければ遊びにはならなかった。楽しく遊ぶためには仲間が必要で友達が必要だった。友達とけんかをし、遊べなくなった時は何よりも早く仲直りをしなければならない。そんな時代だったのである。
 その時代、いじめなどごくありふれたものだった。子供のいじめに親が入ることもなく、先生さえ介入することもない時代だった。子供達には子供達の社会があり、そこに自分の立ち位置を決めて学校生活を送るのである。学校とはモノを習う場所ではなく、子供達の秩序の中で営まれる社会生活だったのである。
 子供のグループには必ずリーダーがいて、サブリーダーも居た。色んな特技を持つ子供がいて、それぞれに得手不得手があった。作品ではケンジがリーダーであり、オッチョがサブという設定だろう。ケンジは仕切るタイプではあったが、さほどこれといった特技はない。むしろ、頭の良いオッチョと柔道が強いユキジや、足の早いドンキーなどのほうがそれぞれに特技を持っていたと言えよう。ケンジに唯一あったのは、くそ度胸と単純さであろうか。傍若無人な天敵のヤンボウ・マーボウによって秘密基地を破壊され、マルオが泣き崩れるシーンがあるのだが、それに怒ったケンジは「ヤンボウ・マーボウを殺す!」と息巻き、彼らと対峙し「男には無謀と解っていても、やらなきゃならないときがあるんだ!」と威嚇するシーンはまさにこの作品の骨ではないかと思う。
 しかし、一方では当たりくじの景品が欲しくて我慢できず、カツマタ君が無人の店で当たりくじと景品を取り替えたのをいいことに万引きしてしまった事実である。景品泥棒がカツマタ君となり、ケンジは事実を隠し続けた。ケンジのほんの少しの出来心と謝るタイミングを逸したことがさらにカツマタ君を追い詰め、いじめはエスカレートし、机に花まで置かれるようになってしまった。以来、カツマタ君はずっと学校を休み、みんなの記憶から消えていったのだった。
 負のエネルギーを蓄積させ、すべてを恨みという力に替え、カツマタ君はトモダチとして生まれ変わった。
 作品ではトモダチを悪、ケンジ達を善(いいもん、わりぃもん)という区分けをしていたが、結局のところ、どちらも悪であり、どちらも善であったのではないだろうか。罪の重さだけを悪とする考えに対する警鐘とでも言おうか、当たり前のことが、普通のことが悪とはされない理不尽な世の中でもある。そういうメッセージでもあったのではないかと私は考える。


4ヶ月前 No.172

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_gUY

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4ヶ月前 No.173

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?キャストについて
 一応ケンジが主人公になるのだろう。ケンジ演じる唐沢は実力派の俳優である。シリアスな【白い巨塔】のような役柄から三枚目まで広くこなす。ごく印象に残ったシーンはコンビニ本社からの営業マンから指導を受ける際の「キングマートへ、ようこそー」という、壊れかけの笑顔が印象的なくらいで演技としては印象が薄い。また、オッチョ役の豊川・ヨシツネ役の香川・ユキジ役の常盤・フクベイ役の佐々木・モンチャン役の宇梶らの有名どころの演技はあまり印象が薄い。ミスキャストではないのだろうが、それぞれに主役級か準主役級の俳優達がこぞって出演しているがための、一種ハレーションを生じているからなのだと感じた。【点の記】で山の案内人宇治長次郎を演じた香川照之だとはまったく思えない地味な存在だった。
 これら同級生人の中で比較的良い味を出していたのが、ケロヨンこと宮迫とマルオこと石塚であろうか。共にお笑い芸人であるが、芸人としての言い回しみたいなものが、実にわざとらしくて見ている側としては楽しめた。
 先に述べたが、なんと言ってもカンナの友人役の小泉響子を演じた木南春香は秀逸だった。ああいうのを演技力というのかどうか専門家ではないので解らないが、とにかく言葉の抑揚と間のとり方が天才的だし、表情も実に豊かである。まさに動くゴム人間のようなおもちゃ的キャラクターなのだ。一方の準主役的なカンナは風貌こそマッチ感はあるが、演技は棒読みだし、可愛いのだが魅力は感じられない。ただ、設定的に演技力で勝負する立ち位置ではないので仕方ないのかもしれないが。
 とにかく三章とも、脇役が本当に旨い味を出していて、それだけでも大いに楽しめる作品だといえよう。新宿歌舞伎町教会の仁田見神父役の六平の演技は臭すぎるほどの演技なのだが、それを超えたところにオーラが発生していて、壮絶な芸という感じがしてしまう。カンナと神のことについて話す場面は、まさに赤子と大人程の演技幅があると感じた。
 どういうつながりがあるのか解らないが、お笑い芸人が数多く主演していることが不思議だった。マルオ役の石塚英彦・ケロヨン役の宮迫博之・第一章血の大晦日で原付に乗るちゃらい若者役のオリエンタルラジオ・地球防衛軍兵士役のロンブー田村・TVCMのタレント役の山田花子と藤井・お茶の水工科大学生役のタカ&トシ・物まね芸人の原口あきまさなどであるが、ほぼシリアスな演技であるというのも面白い。
 理解に苦しむキャスティングだったのは、かつて「ホテル」で主役だった高島政信の地球防衛軍兵士役である。もしかすると友情出演的な要素なのかもしれないが、ヘルメットを開けられて一言二言しゃべる俳優ではあるまい。

 第一章から三章にかけて絶対に必要だった役柄は、子供達のキャラクターであろう。大人たちだけの演技ではこの映画の味わいは出なかったといってよい。こと、ケンジを含め、彼を取り囲む子役達の演技は見ごたえがあった。むしろ大人達の演技を食ってしまっている子役もあった。
 なにはともあれ、よく本人と似ている子役を選んだものだと感心する。顔だけが似ている子供を選ぶのは出来るかもしれないが、演技が出来なければ始まらない。ケンジの少年時代の役を演じる西山潤君など、雰囲気が唐沢と似ている。ドンキー役やヨシツネ役の子役もかなり雰囲気が似ている。
 子役の中ではケンジ役の西山潤君が顔・演技とも良かったが、なんといっても個人的にはカツマタ君役の黒羽洸成君の存在感が群を抜いていたように思う。第三章まで、ほぼ彼の目いっぱい低音で作りこんだ声のナレーションが頭に残り、エピローグでのBGMと彼のお面を脱いだ滑らかな顔の印象が際立っている。
 個人的に最優秀女優賞に木南春香、助演男優に黒羽洸成君に差し上げたい。

?補足
 第二章で、カンナの住むアパートの火元責任者が【常盤たかこ】・・と、確か書かれてあった気がする。
 第三章で、トモダチがカンナと対峙しラーメンを食べようと椅子に座っているのだが、マスクを取るのだろうか?どうやって食うのか?
 上手い演技があるかと思えば、元K戦士の武蔵のド素人演技は公害以外の何者でもない。こういうシーンがあると、所詮お遊び作品なのかと勘ぐりたくなる。・・ということで、水を差す部分もそこそこあるのが現状でもある。
 お遊び作品と書いたが、ほぼ三章にわたって色んなパロディーやパクリがみられる。漫画家のウジコウジオ(不二子藤雄)・漫画家角田(たぶんつのだじろう)・遠藤健児(遠藤賢治)・小泉響子(小泉今日子)・波春夫(三波春夫)・・など。




5.おわりに

 結局、カツマタ君の負のエネルギーを増幅させた原因はケンジを含め同級生一同ではなかったと思われる。同窓会の時もカツマタ君のことをすでに死んでしまったフクベエだと言い、完全に一人として覚えているものが居なかった。無視され続け、その結果として記憶にさえ残らなくなってしまった自分の存在に落胆し、さらに負のエネルギー高めていったのではあるまいか。もし、あの同窓会でフクベエをカツマタ君だと誰かが言っていれば、その後の彼の暴走を止めることが出来たのかもしれない。
 現代の犯罪は、すべて法律によって裁かれている。人を殺せば悪であり、人殺し意外でも悪いことをすれば悪である。では、悪い事って一体何なんだろうか。いい事とは何なんだろうか。イイモン・ワリイモンっていったいどんな基準で定められているのであろうか。非常にもそれらはすべて警察が仕切り、裁判で悪のグレードが査定される。人を殺すことが悪だが、殺された人は悪ではなかったのか?
 昔なら、あだ討ちがあり、ある程度合法的に裁ける時代があったと聞く。しかし、現代はない。悪は(真の悪は)如何様にしても滅びることはなく、現世を生き続けるのだろう。










4ヶ月前 No.174

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_gUY

一月

排気ガスの臭気が降る雪に混合され、あたりは冬が造作されている。
冬という定義を、これでもかというほど見せつけているのが、まぎれもない一月だ。
潰えそうで潰えない、名もない虫のように、必死に言葉にすがりながら除雪をするのは私という生き物だ。
種もなく、属することもなく、一篇の老害詩人の書く詩のようで、それはただそこに生息し生命を維持しているだけだ。
菌床から這い出た、干からびた菌類の叫びが、一月のただなかの未だ明けない朝に漂う。
平坦な朝など何処にもない、改行すら許されない糞のような散文詩のように、雪は降り乱れている。
一つ一つ私の中の羽虫は飛び交っている。
多くの夢や希望が逸脱し事切れる前の儚い生命のように、そのつぶらな羽をまといながら明けない夜の闇へと旅立っていく。
残ったものはコトコトコトと刻まれる怪しい鼓動と、あきらめた血液が意思もなく流れていくだけだ。
誰かこの私を銃殺しろ!ショットガンで臓腑を至近距離で打ち抜け!
胴体の真ん中に煙とともに穴が開き、臓物はまだ明けない朝のために数メートルにわたり飛び散るだろう。
私の体液と糞尿と血と髄液と骨片がいたるところにヘモグロビン色に埋まるだろう。
きちがいのように降る雪と私はそんな風に交接していた、一月のことだ。

4ヶ月前 No.175

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_gUY

二月二日


平易な朝と言えばいいのだろうか
ひさびさに雪除け作業もなく道路は凍っている
遠い稜線には水色の空がのぞいている

声を枯らし、鬱陶しい汗が肌着を濡らし
昨日の日雇いはきつかった
だだをこねていた中国人の子供が
にこやかに礼を言ってくれたのが唯一の救いだった

気持ちはいつも
揺らいでは落ち、昇り、また降下していく中で
私は今日、遠出のための準備を終え
こうして一篇の詩を残そうとしている

遠方まで出向き、私は私の存在意義のために動こうとしている
この先どんなふうに未来は動くのだろう
豊穣の未来のために
私は利口な農夫になれるのだろうか

新しい種を求めて
私は遠出する

4ヶ月前 No.176

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_gUY

野火

死んでいないから生きている
ただ、それだけのこと
密林の中で腐れかけた芋を食い
足には化膿した傷があり
そこに蛆が這っている
くぼんだ眼の奥底に光るのは野火
放たれた火が
ところどころに夜の闇に発光している
病原菌の温床の熱い水
マラリアに侵された兵士の目が
宙を泳ぎ
トウモロコシ畑の向こうの
死線のような光
野火を見詰めている

4ヶ月前 No.177

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_gUY

厨房


室内は昨日のなごりのあとと
うっすらとこぼした調味料のにおいが漂っている
少し染みのついた前掛を締め
ぼんやりと雑用から始める

グリルに魚を並べ遠火で焼き始めれば
冷え切った厨房は少し暖かくなる

雑用をその都度こなしながら
次の新しい調理を開始する

特に目安もなく
大まかな目分量だけの調味料を投下し
味に見切りをつけ完成させる

盆に並べ
納豆をつければ
一人前の朝食が出来上がる

このようなことを
微々たる労働を
1994から始めた

技術も比喩もなく
そのままを描き切る詩人のように
不器用で凡庸な日々を送り
生きてきたことに
後悔などしない

ふと
なんとなくだが
そう思おうと
感じた朝だった

このあいだまで暖かった朝は
少し寒い
そういえば衣服が一枚少ないのだった

3ヶ月前 No.178

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_gUY

石・風・洗濯物・部屋


道端の石に夢があるのなら
もっと明るくひかるだろう
考えに考えた挙句
石はあんな風に黙り込んでいるのだ

風はいつも姿を見せない
あなたの心のように
風圧を押し付けては
ここにいるよと示すだけ

洗濯物は物憂げに
上空の曇り空を眺め
ついでに部屋の流れている
誰も見ていない
テレビを一瞥する

部屋は四角く区切られていて
そこに人が丸く住んでいる
隅には置き去りにされた思考が
埃となっている

3ヶ月前 No.179

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_gUY

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3ヶ月前 No.180

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_gUY

開拓村(実録)


 父は十代後半にO地に入植。昭和二十年前半だったと思われる。
三十三年に私が生まれ、開拓村で生まれたので隣人が拓也と名づけたと聞く。
妹は五年後、自宅で産婆のもと生まれたのを記憶している。
あまり幼いころは記憶に無いが、四歳くらいの頃私はマムシに噛まれたようだ。体が浮腫んでいる中、母の背中で祭りに連れて行ってもらった記憶がある。その後、その毒が原因なのかどうかわからないが半年の入院となった。病院は薄暗く、ただただ広く、いつまでも悪夢の中に出てきた負のイメージである。
小学校は開拓村から四`下方にあり、朝六時半に開拓村の子供たち数人で出発し一時間掛けて歩いて通った。文字通り、子供らばかりの通学は道草を食いながらであり、春にはスカンポ・ツツジの花・ウラジロウヨウラクの花弁などを食した。当然帰りも歩くわけで、少しでも歩きの負担を減らそうと砕石工場のダンプカーの後ろを追いかけ、つかまって飛び乗ったりした。当時はすべて砂利道で急坂が多く、走るとダンプに乗れた。
初夏には、おいしい果実が豊富だった。クワイチゴが一番糖度があったが、紫色の果汁で衣服を汚し、母に怒られていた。クワイチゴ>クマイチゴ>ナワシロイチゴ>イワナシと糖度が落ち、代わりに酸味が増した。
今では考えられないが、昔は土木工事も盛んに行われ、女性も働き背中に大きな石を背負い働いたものである。安全管理もずさんで、土木工事のみならず林業の伐採でも多くの人が事故死したり重傷をうけた人もいたのである。
ひとりで帰り道を歩いていると、突然河原から発破が鳴り響き、私に周辺にリンゴ大の岩石がバラバラと降ってきたことがあった。運良く当たることがなかったからこうして生きている。
良という三学年上の友達が居て、危険を栄養にするような子だった。橋の欄干わたり・砂防ダムの袖登り・急峻なゴルジュを登り八〇〇bの狭い水路トンネルを通ったこともあった。冬は屋根からバック中をしたりと、デンジャラスな少年期を過ごしていた。
冬はきちがいのように雪が降り、五〜六メートルはあたりまえに降った。そして今より寒かった。十二月初旬からすでに根雪となるため、私たち開拓部落の子供五人は小学校の近くの幼稚園と集会所と僻地診療所が兼用されている施設の二部屋を寮として提供されていた。そこに私達O地区とG地区の子供たちがそれぞれ一部屋づつに別れ入寮していた。
夜中の尿意が嫌だった。トイレは一階にあり、昔墓だったとされたところで、下はコンクリの冷ややかな場所だった。薄暗い白熱電球をそそくさと点け、パンツに残った尿を気にもせずダッシュで二階に駆け上がった。
土曜の午後になると開拓村の父たちが迎えに来る。父達の踏み跡は広く、カンジキの無い私たちはそこを踏み抜くと深い深雪に潜ってしまう。長靴の中には幾度となく雪が入り、泣きながら家にたどり着いたのである。
たらいに湯を入れたものを母が準備し、そこに足を入れるのだが軽い凍傷で足が痛んだ。痛みが引くと父の獲ってきた兎汁を食らう。特によく煮込んだ頭部は美味で、頬肉や歯茎の肉、最後に食べるのが脳みそであった。
一週間に一度だけ、家族で過ごし、日曜日の午後には再び寮に戻った。天気が悪くなければ子供たちだけで雪道のトレースを辿り下山するのである。私たちが見えなくなるまで母は外に立っていた。
クリスマスごろになると学校の先生がささやかなケーキなどを持ってきてくれた。初めてシュークリームを食べた時、こんなに美味いものがこの世にあったんだと思った。
開拓村は山地であり、孤立していたので子供の数は五人ほどだった。
父親がアル中で働けない家庭や、若くして一家の大黒柱が林業で大木の下敷きになった家庭もあった。
若かりし頃、夢を追い、頓挫し、まだその魂に熱を取り去ることもできなかった大人たちの夢の滓。それが私たちだった。
初雪が降ると、飼っていた家畜があたりまえに殺された。豚の頭をハンマーでかち割り、昏倒させ、頭を鉞で□ぐと血液が沸騰するように純白の雪の上にぶちまけられ、それを煮た。
寒い、凍るような雪の日に、山羊は断末魔の声を開拓村中響かせながら殺されていった。
傍若無人な荒ぶる父たちの悪魔のような所業、そして沸点を超え父たちは狂い水を飲んだ。
私は良という不思議な年上の少年に常に魅せられていた。
良は父を林業で亡くし、おそらくであろう、生保を受けていた家庭だったのかもしれない。
母が初老の男と交わる様を、冷酷な目で冷笑していた時があった。
まるで良は、感情を失い、冷徹な機械のようでもあり、いつも機械油のようなにおいをばらまいていた。
良の目は美しかった。遠くというよりも魔界を見つめるような獅子の目をしていた。彼は野生から生まれた生き物ではないか、とさえ思った。
良は、いつもいなかった。良の母が投げつけるように「婆サん方へ行ったろヤ!」そういうと、私は山道を駆け抜けるように進み、しかし、やはり良はいなかった。
今現在、良はこの世にはいない。それが当たり前すぎて笑えるほどの生き様ですらあった。


昭和47年にかつての開拓村はスキー場として生まれ変わった。
いくつかの経営者を経、一時は市営となり、今は再び得体のしれない民間業者が経営している。
寂れた、人影もまばらな山村奥のスキー場に、私は今日も従業員としてリフトの業務に出かける。
第二リフト乗り場付近に目をやると、杖を片手に持った父が、すでに物置と化した古い家屋に向かうところであった。

3ヶ月前 No.181

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_6Og

五月の雨


草や木の葉が雨に濡れている
五月の雨は麓の村を包んでいた
蛙はつぶやくように、りりりと鳴き
アスファルトはつやつやと光っていた
そうまでして生き物たちは
生きなけばならない生きなければならないと
季節をむさぼる

雨は、
その深部にしみこみたくて
どこか、
スイッチが入れられて
次第に空気が湿り
その細かい霧粒が固まり
落下したいと願ったのだった

雨は平坦な記憶をさらに水平に伸ばし
過去を一枚とびらにしてしまう
その一点に思考が集中するとき
ふとコーヒーの苦みが気になるように
記憶の中に鉄球を落とす

少し、遠くまで歩こう
そう思いかけた時、雨は強くなった
隣人の柿の木が枝打ちされている
のを見ていた
雨はそこにだけ降り積む
誰かが誰かのために
何かが実行されたのだった

雨は降るのをやめなかった
緑も濃くなることをやめなかった
すべては何かのために変わり
なにかを生んでいく

うすれていく光源は
不確かにともされている
無造作に伝達士は言うかもしれない
あたりまえに普通のことばで
その語彙を受けなければならない
一度は解読しなければならないだろう

集落の朝のチャイムが鳴り始めた
今日も食事を摂り、排泄し
歯も磨くだろう
食後の投薬をすませ
背伸びをするかもしれない

2ヶ月前 No.182

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_6Og





夜中に黒い虫が頭の中をはい回った
脳に熱を加え
すると私の額から汗が湧いた

虫の正体をうすうす知っていた
そういえば
ずっとずっとこの虫たちと生きてきた

時折、触角をゆるめ
くつろいでいるとと思えば
ふたたび針を突き刺しにやってくる

いつまで私を吸えばいいんだい
この、黒く汚れた体液が美味いのか
そう、問いただすと
汗は心なし引いている

夜が明け
虫は脳から離れ
心臓にいた

今日は彼らを
山に放牧しに行こう
薄桃色の雲が見えている

2ヶ月前 No.183

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_6Og

ふるえる外灯

一瞬、体の中に水が通る
冷たく寒いはるか未来の恐怖の水が
熱していたものが
冷めていく

肉汁を吸い尽くした後
肉をかみしめると
そこに歯が失われた様で
すべて軟体動物のようになってしまう

無言の闇に立つ外灯
小池が流れ水の音がする
小さな蛾や大きな蛾が
光に促されて
たがいに追突し合い
光を求めて乱舞する

憑き物がまだ落ちない人骨のうめきが
小池に落ちていく
寒い夜だ
外灯すら震えている

1ヶ月前 No.184

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_6Og



汗が出る、汗の起源を思う。どんなことも潜り抜けてきたその瞬間瞬間に汗は湧き、汗汗汗と濁音は止まらない。
夏は無言だ。夏の喧騒は喧騒の中に吸い込まれ、無色無音という形態を呈する。その中で汗だけが真実を伴い現実を描写する。
刈られた草は血だるまになり、在りし日の本体を思いながら強烈に草いきれを発する。
蝉は心を抜かれ、一つの固いコアとなって狂い鳴く。遠くの記憶の波紋の隙間に食い入るように、蝉は首を絞める。
老人は、汗をかくことにも疲れ、平穏な洗濯剤にあざとい香りに包まれている。
夏の吹き溜まりには嫌悪しかない。例えば一億個の重責があるとすればその粒子がのたうっているのだ。
怪物は排気音を奏で、熱波のような風を肛門から吐き出し、夏の田園で咆哮していた。

1ヶ月前 No.185

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_6Og



蝉になりたくないね
そう、あなたが言うのを黙って聞いていた
七年も土の中にいて
やっと出てきたかと思えば
日長鳴き続けて
ポトリとある日木から転げ落ち
ビビッと一声鳴いて羽ばたいて
そのままカラカラと死んでいく

あなたは朝仕事を終わらせて
ぽつねんと椅子に座り
pc画面を見つめながら
誰もいない空間に話しかけるように
蝉を話をしていたのだった

お決まりの画面の順序を追いながら
ふとまた空間に話しかける
でも、考えてみれば
俺たちだって蝉なのかもしれないね
こんなに苦労して
一日中稼いでみたって
報われることはないし

第一、相手を見つけるために鳴き続けても
巡り合えない場合もあるし
自分の子供を見ることもない
それでも蝉は鳴く
鳴くようにできている
俺たちもこんな風に生きるようにできているんだろう
蝉だよ、俺たちも
鳴いて済むんなら泣きたいよ

そんなことないよ
今日、雨降るかな


16日前 No.186

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_6Og

さりげない空間


目の中に入った汗を拭うタオルを忘れ
昨日の酷暑の作業は手袋で汗を拭った
夕方、近くの町のスーパーに行き、店内の涼風の中
目の炎症でなんだかとても疲労していた
行きかう車、その流れに沿った律動は何なんだろう
子の棲む棲み処へ、連れ合いの棲む根城へ
待つ者もない安アパートへ
それぞれが一日を脳内に保管し帰路に着く
そのメタリックに光る塗装の群れが、私を羨望させる
生暖かい風と、澄んだ夕闇が高い空に浮かび上がり
いったいこれ以上何を望むのだろうかと問う
眼球の炎症と、底知れぬ疲れからの眠気が帰宅後一気に押し寄せ
あまり何かを考えないようにしようとするが
ぼんやりとした脳のどこかで思考はしっかりと動いているのだな、と感じる
 床に入り、眠気を誘発させるためにテレビをつけ
つまらないと一言二言言ったと思ったら目が覚めていた
相変わらず、尿意で目が覚めたが、七時間近く寝たことになる

今日は多忙になる日だ
ただ、慌てる気配はまるでない
かつてのような、朝からの厳しい日差しはない
台風の影響か、時折強めの風が吹き、あたりは曇っている
各種、蝉たちは徒党を組み、事切れるまで希望を失うことはない
なにもかもだ
すべての生き物たちは、希望を失う術を持たない
解り切った終末を感じることもない、そこにあるのは、ただ、希望と生

朝、さりげない空間の中
不謹慎な飲み物を手に取り、私は酩酊する
蝉と虫が鳴いている
さりげない空間で、彼らには希望しか見えない

12日前 No.187

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_6Og

8/1


えらい詩人たちはレスを返すこともない
自分が優れていると認識している
彼ら彼女らにとって夕焼けなど
取るに足らないもので
皮膚の呼吸や
脳の中の雨水の具合とか
そんなものの中で暮らし
吐いた息を食べ
気体しか出ない脱糞をし
日々、いそいそとカーテンの隙間の様子を伺い
生活という生々しさもなく
ただ、固形物のように、いや
脳の中身だけがオアシスのようで
そこに
何かをいつも
すまわせているのだろうか
わたしのように
毒を食べることなどしない
今日も蝉は詩人のように
ただ夏に浮かんでいる

9日前 No.188

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_6Og

夏のどこかで

あおい希望の中で君の朝ははじまる
幾重にも重なったコンクリートの建物の一角の小路に
君が住む安いアパートがあって
眠くなるようなどうしようもない風が吹いて
君の頬を今日もかすめていくのだろうか

つまらない仕事をしながら僕は
君が幼かった頃口ずさんだ歌が
異様におかしくて
いつも仕事の途中で立ち止まってしまう

いくつもの数えきれない壁と言ってもいいくらいの
苦しみが君にやってくるだろう
ふわふわと泳ぎ疲れた青魚のように君は
硬いコンクリートの壁伝いに
どこに向かって歩いていくんだろう

僕は黙って立っている
いつか枯れるであろうこの体で
少しだけ雨よけのあるこの僕の体に
もたれかかるがいい

4日前 No.189
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