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明日のあかり

 ( 詩集つむぎ城 )
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山人 ★tuOnN6TpU5_OR0

夜明け前、そこは無垢で、滑空する飛行物体のようだ
未知なる朝への渇望、そこにはおだやかな時間が眠っている
私はその時間に触れる、夜の肌は寝返りを打つように私の頬を擦っていく
やがて夜は明ける
天文学的な数の生き物たちが、瞼をあける時がくる

遠い砂丘の向こう、乾いた爬虫類たちの瞼もかさりと目覚めたことだろう
また、夏が来る
するりと日替わりの皮を取り替える

4年前 No.0
メモ2017/01/12 06:21 : 山人 @ookumo13★bDJoqEzcCB_Xrr

若干の性的な表現、露骨な言い回し等の作品もあります。

>>1一番星  >>2影を貪る >>3あしあと  >>4闇の獣(リメイク) >>5燃える島   >>6行方 >>7木 >>8秋風 >>9枯れた夢の子供 >>10蕎麦っ食い >>11あれから >>12漂っている >>13石・草・虫など、その概念と考察 >>14親戚のひと >>15スキーリゾート >>16ツララ  >>17野紺菊の咲く頃 >>18春になれば >>19ダム湖 >>20やがて山は >>21巨人  >>22雨の朝  >>23魚になりたい  >>24木の葉  >>25エノコログサの思い出 >>26包丁を研ぐ >>27カエルちゃん >>28蟹に食われたんだよ  >>29乾かそう >>30乾いた少女たち  >>31狐火の夜 >>32ひらひら >>33「3/15詩作」 >>34月光 >>35ほたる >>36校舎 >>37落ち葉かき >>39半月 >>40おもいの粒 >>41どしゃ降りの雨の中で  >>42詩人 >>43 緑が燃える  >>44あなたがいなくなってから >>45者共は森へ帰っていった >>46・・・ゆく >>47夜の山道  >>48バーミアン >>49温泉場のスキー場  >>50春になったら詩を書こう >>51男と冬 >>52村の種屋 >>53二月で文学極道の投稿やめましたww >>54木工場にて>>55海底  >>56沼  >>57峠 >>58発作 >>59確かなもの >>60amaoto  >>61誰も知らない枯葉の下で >>62自虐の歌(どうやら春のようですが・・・) >>63ジニア >>64老人 >>65記憶 >>66ヒラメ >>68モンシロチョウ>>69夏の横断歩道 >>70ふたり>>71帰郷 >>72秋の街>>74暇人でぃ、脳屁BOO>>75朝子>>77>>78オレンジ色のスキー靴>>79稜線のラクダ>>80白湯>>81種よ>>82家族>>83時が終わりまた生まれる>>84 旅人>>85培養室>>86>>87あたらしいひと>>88集会 >>89火と水>>90>>91朝(二篇)>>92山林に残された風>>93夏休み >>94>>95夏とJK >>96夢想〜朝へ >>97発芽 >>98晩夏>>99詩を書く人>>100金木犀の香るころ>>101一日(いちじつ)>>102十年 >>103青の眠り

>>104一日の終わりに>>105午前四時>>106初雪 >>107名もない朝>>108詩人四態>>109流木>>110味噌ラーメンを食べ終えて>>111沈黙>>112真実>>113冬の境目で>>114山林の昼休憩>>115三月>>116 棒 >>117 haru>>118静かな視界>>119農場>>120>>121>>122山林の詩五篇>>123雨の朝>>124>>125>>126この血の向こうに>>127秋それぞれ >>128月と犬と >>129空洞 >>130出稼ぎ人夫 >>131ラーメン道>>132>>133>>134田代平>>135 朝の棘 二篇>>136超、朝>>137秋のお品書き>>138 眠りから覚めるころ >>139mudai>>141shima

>>142 5/2 >>143 少女>>144蜘蛛>>145集会>>146秋の詩篇>>147あな 二篇>>148 峠の山道>>149無機質な詩 三篇

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asitanoakari @ookumo1310 ★z80q9lxKhR_jwI

きんもくせいの香る頃


何かに怯むでもなく、すべるように過ぎ去る時間の刻々を様々な車達が疾走していく。
それぞれが無数の生活の一面を晒しながら、県庁へと向かう一号線を走っている。
土手に築かれた車道から傍らをながめれば、すでに刈り取られた田が秋空にまばゆく
どこかに旅立つようにたたずんでいる。

パワーウインドウを開ければ、どこからともなく稲藁の香ばしいにおいが入りこみ
午後の日差しは一年を急かすようにまぶしい。
住宅の庭から、対向車の車の煽り風によって流れ込んでくるのは、なつかしい金木犀の香りだった。
記憶の片隅にある、未熟な果実の酸味のように
とめどなく押しよせる、抑えきれない切なさが、あたり一面に記憶の片隅を押し広げていく。

あきらかに、夢は儚く遠いものだと僕たちは知りながら
コーヒーカップに注ぎこまれた苦い味をすすりこみながら語った。
夜は車の排気音とまじりあい、犬の理由のない遠吠えを耳に感じながら僕たちはノアの方舟を論じた。
秋もたけなわになるころ、小都市の縁側にたくさんの金木犀が実り
それは僕たちの夢の導火線にひとつづつ点火するように香っていた。

思えば、僕は、あれから
あの香りから旅立ちを誓ったのかもしれない。
戻れるものなら、戻りたいのだと切なくなげく、忌まわしい香り。

僕はあれからずっと生きている。たぶんこれからも。

2年前 No.100

asitanoakari @ookumo1310 ★z80q9lxKhR_jwI

一日(いちじつ)




夏は湿度をともない、やるせない欲望のあとの残り香が、各所に居座り続けた
血の中からおびただしい汗が噴きだし、あえぎ疲れた皮膚をつたう
舌先に触れる塩気に嫌悪した夜、ふと虫の声がさみしく聞こえた

葉は暑いまどろみを抜け、達観した大気に誘われて、ひとつずつ覚醒してゆく
そのさざめきを縫うように、風は揺れ、蒸れた空気を浄化している
坩堝と傷がふさがれ、回復は静かに訪れようとしていた

時間の経過をまばたきで感じる
動きながらひとつずつ何かが生まれては出来上がる
繰り返しの日々の中で
すこしずつすこしずつ他愛もない治癒が繰り返された

季節は静かに動き始め、あらゆるものから飛翔しようとしている
芳しい実りの匂いが立ちあがる日
秋の一日(いちじつ)
物語はあの時に終わり、そこからまたはじまった

2年前 No.101

asitanoakari @ookumo1310 ★z80q9lxKhR_jwI

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2年前 No.102

体内都市 @ookumo1310 ★z80q9lxKhR_jwI

青の眠り


目を閉じると浮かんでくる
夏の日 ゆるんだ瞳と影が音もなくさまよっていた
あの日私の時間が揺れた

蝉しぐれのカーテンを開ければ
幼子の手を引いた私が歩いている
名もない道を
あてのない夕暮れを

ふと頬に触れるものがある
とどまった重い温度はいなくなり
あきらめと安堵の間にうまれた
淡い風のようなもの

まだ行くべき道の雑踏は消えることがない
幾度も幾度も顔を凍らせ
胸を支配する恐怖の坩堝は消えることがないだろう

頑なに身を固まらせ
直線的なまなざしを向けるでもなく
ただ 淡々と
思考し 動かしてゆく

瞬きをする
その湿っ気を含んだ重い瞼で
脳裏に中に潜む
ブルー
その濃淡の闇と安らぎが
わたしを少し眠らせる

2年前 No.103

体内都市 @ookumo1310 ★z80q9lxKhR_jwI

一日の終わりに


かつて、むごたらしい苛立ちを
鋭く刃物を突き立て抉っていた
だが今は違う
頬紅をさすように
時さえ愚弄し
キレはじめた男との会話を楽しむように
こうして私は中性的な人となり
突拍子もない独り言を放つ
洗剤に身を浴びる食器をながめ
それを手でこすり
祈るようにまばたきを繰り返し
作業という名の儀式をとりおこなっている
とつとつと流れる時間を食べ
おもむろに動き
踊るように働く
一日の終末を静かに瞼はとらえて
疲労という充足を
あらためて知り
眠りの入り口を
くぐろうとしている

2年前 No.104

体内都市 @ookumo1310 ★z80q9lxKhR_jwI

午前四時



苦いコーヒーをすすりこむ、まだ夜明け前のひと時。
大切であり、もっとも真摯になれる。
ヒーターのよどみのないファンのまわる音、そして柔らかく冷蔵庫のうなり音が聞こえている。
古びた家屋の中で私は自我が目覚めるのを待つ。

近くに、遠くに、海がある。
切り取られた日々は、流氷のように流れていき、またこうして私は新しい陸へと足を踏み出した。
頭上をかすめてゆく海鳥、一声鳴いたかと思うと、また海風を利用して海の上空へと舞い上がる。
はるか離島を顧みれば、切り裂かれた建造物と迫り出した突起物がひしめき合い廃墟となっている。
あれが私の過去だとすればなんとむごたらしい様ではないか。
少し熱いほどの手のひらを開いて、目を瞬かせ、顔面を揉みしだく。
海鳥の放物線が廃墟の離島を目掛けまた一声鳴いた。

風のない朝である。
いっとき離れた私は再び苦いだけのコーヒーを口に含み、その温度を確かめる。
わずかな時間だったが、きっと多くの抱きしめたものを離していたのだろう。
黒褐色の沈殿物が粘質となったその溶液、マグカップの底にわずかに残ったそれを喉に流し込む。
夢の尾を仕舞い込む朝がある。
苦みを胃腑に落とし込み、細かい畳の目を見る。

2年前 No.105

山人 @ookumo1310 ★z80q9lxKhR_jwI

初雪


朝方は雨に近いみぞれだったが、いつもまにか大粒の牡丹雪が降り出し、真冬のような降りとなっている
誰にけしかけられるでもなく、雪は味気なく空の蓋を開けて降り出したのだ


すべての平面が白く埋め尽くされる前のいっときの解放
空間が大木の樹皮に触れるとき、水気を失った葉がさざめく
観る人の感傷を骨にしみこませるように、晩秋の風は限りなく透明だ

山が彩りを始めると、人々はこぞって目を細め、その色合いを楽しみに山域へと繰り出す
さまざまな出来事を、はるか彼方の空に浄化させ、廃田に生える枯草のように佇む老夫婦がいる
車は寂れた国道の脇に停車され、すでに水気を失ったススキはかすかな風になびく
ただ二言三言のありあわせの言葉を交わしあう
やがて散りゆく様を美しいと形容するのは、最後にきらめこうとする光と色である
年月の隙間に湧き出したオアシスのような思いがひとつずつ膨らんで、感情を刺激する
刻んできた時間を、他愛もない好日に、老夫婦は車を繰り出して秋深まる此処に来たのだ
それは、微かに自らの終焉の黒い縁取りを飾る行為のようでもあり
膨大な重い歴史に身を縮まらせるでもなく
ふわふわと綿あめのようにそれを背中に背負い、浮遊しているかのようであった
国道のカーブの突端に記念碑がある
その眼下には放射冷却の湖面から浮き出した霧が覆い、蒼い湖面と峰岸のモザイクな彩が静かに交接していた


気がつくと薬缶の水が沸き、蓋を押し上げる湯気の音が厨房に響いている
朝からこのように、厨房仕事をしているのはいつ以来だろうかと、記憶をたどる
見えるものが、一様にすべて白く塗りつぶされていく
そこに何かがあった痕跡は突起としてわずかに感じられる
それは三つの季節を流れた時のひらきなおりとあきらめであり
どこかの土の一片の微粒子として存在し続けているであろうあの老夫婦の所作を思い出していた
むしろ、雪は終わりの季節ではなく、はじまりの季節なのかもしれない

2年前 No.106

山人 @ookumo1310 ★z80q9lxKhR_jwI

名もない朝




失意を助長させるように
朝は無造作に切りひらかれて
風とともに雪が舞っている
わたしの前で理想は裸に剥かれ
細く小さく哭いている
風の圧力があらゆる隙間に入り込む音
体の底から口までまっすぐ空いた管の中を
冷たい季節風が流れ込み
刃物のように音は鳴っている

差し迫る年末の気配に
急かされるように
日没は容赦がない
体内の、そのまた体内の、さらにその奥の
そこに潜り込むように夜を迎える
宇宙のひと粒の日常が黒く塗りつぶされる

記号のような日
背中を押される囚人のように
その扉を開ける

2年前 No.107

山人 @ookumo1310 ★z80q9lxKhR_jwI

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2年前 No.108

山人 @ookumo1310 ★z80q9lxKhR_jwI

流木


昨日から降り続いた雪は根雪となった
近くの川は冷たく骸のように流れている
どこかで枯れた木の枝が
石と石の間で水流にもまれ
とどまっている
流木の体の中までしみこんだ水気が
さらに流木を冷やし
もう、意識もなく
ただ、そこにとどまっているのだろうか

ひとつぶの意志が
たとえば団栗となって地上に落ち、とどまる
意識の隅をつつくように
促されるように何かが疼きはじめると
意識は上部へと押し上げられる
上へ上へと双子葉となって
日ざしを受容する

ふと気づくと風が吹いている
まだ芽吹いたばかりの若葉のからだを
いとしく愛撫する
体中の樹液がおびただしく水気にあふれ
勢いよく音を立てながらめぐってゆく

ねむりのとき
かさり
甲虫の羽音がするのを黙って聞いている
月の光の残片が甲虫に照らされ
抑揚のある刻み音が穿孔する
さまざまな毒や弊害から免れることはできない

立つ、という意義を忘れたことはない
それは使命にも似て
己はいつも上を見て立つことで
確かな命を定義づける

森の匂い
その空気に浮かれ
万遍の笑みを繰り広げた
笑みは他の生き物に和を与えた

天体の自転から繰り出される
様々な無機質な暴力が森を蹂躙した
その圧力に耐え
赤黒くその生きざまを刻む
年輪はただ生きてきたわけではない

ただ、立っている
その認識に老いを感じたころから
それを根城に病のコロニーが集る
病とともに謎解きが開始される
不変、とも言おうか
老いと病は新しい命へのジョイントかも知れない

嵐の前の静けさに酔い
満月は夜を装飾する
暴かれた真実は宇宙に凍り
ただ、その時を待つ

意識は直立し
まだ上昇している
しかし、ゆらりと揺らめいたかと思うと
空気は揺れ川面に炸裂
ぼんやりと木はかつて居た位置をながめ
その天空にはおびただしい星が
拍手するように笑った


紐をほどくように
流木は何かを思考した
根雪となった寒空を
カワガラスがびびっと鳴き
一片の流木を気散らし

流木のすでに壊れかかった体の中に
一粒の団栗がくい込んでいた

2年前 No.109

山人 @ookumo1310 ★z80q9lxKhR_jwI

味噌ラーメンを食べ終えて



今まで幾度となく訪れたラーメン店は、少し早い時間帯にもかかわらず「営業中」の看板を掲げていた。
細長い体躯の店主と中年の女が、静かに決まりきった作業を行い、開店準備をしていた。
いくぶん早い客の来訪にあわてるでもなく、自分の所用を足しつつ、頼んだ味噌ラーメンの準備をしている。
店主の中華鍋に無造作にモヤシが放たれ、絶妙な鍋さばきでモヤシは宙を舞う。
いたって淡々とまるで普通に息を吸うかのごとく、店主は当たり前に作業を進める。
中年の女と店主は無言で互いの作業を熟知し、互いのタイミングで一杯の味噌ラーメンが出来上がった。
わずかにひき肉がスープの隙間に漂い、どんぶりの中央にはもっさりとモヤシが頂きを形成している。
「麺がおいしくなりました」、と宣伝ポスターが貼ってある。
割箸で麺を掬うと、その光沢に富んだ麺はしなやかにしなだれ、黄金色に口中に解き放たれるのを心待ちしているかのようだ。
広い店内には、まだ忙しくならないうちにと、店主は別な用事を足している。
中年の女は手持無沙汰のようで、することもない作業に手を動かしていた。

ぞぞっ。
美味い麺というよりも、主張をしない、つつましくもねっとりと絡みつく情感のある舌触り。
スープの香りが、化粧した女のように麺体に絡みつき、それを静かに抱きしめるように歯は咀嚼していく。
麺は、果てては胃腑に眠りに落ちるように落ちてゆく。
気がつくとどんぶりの中の麺はいなくなり、去った女の衣服のようにモヤシとひき肉が漂っている。
蓮華で一口ずつ口に運ぶ。
やがて感情が押し寄せて髭面の大口を開けてどんぶりに唇を寄せ、無造作な所作でつくられた愛を胃腑に注ぎ込んだ。

その日、食欲は無かった。
美味いラーメン屋は多々あり、タレントのような笑顔で接する悲しい接客から作り出された食い物の顔を見たくなかった。
数えきれないラーメンを作るために淡々と作業を行う店主は、すでにモヤシ状に細まりまるでそれらは店主の血管ですらあった。
店を出ると相変わらず忙しそうに年末の道路は混んでいた。
何かに怯え、目的のない方向へ向かって車は走っているかのようだった。
気がつくと、私の額には汗がにじんでいた。

2年前 No.110

山人 @ookumo1310 ★z80q9lxKhR_jwI

沈黙




突然のアクシデントは希望の一つを終らせる
神は無機質に現実の風呂敷を広げた
いつも現実はこのようなものなのだと
吐き捨てた言葉は雪の上ですでに死亡している

思えば一年中
私はひたすら溜息を増産し
どこかへ出荷するでもなく
身の回りに溜め込んだ
それらは負の生命体となり
仔虫を生み続け
巨大なコロニーを構築させていた
その仔虫に寄生する多くの菌類が各各に伝染し
アクシデントを生み出している

おそらく
神には領域があり
そこに棲めない人種がいるのかもしれない
人の顔を持っただけの人種
ひとでなし

私の奇術はすでに八方ふさがりで
観客なしの老館の周りを作業していたのだった
ひそひそと不幸の会話は大きくなり
私はその波の上に漂っていた

大きくせり出した雪庇の上に私は居た
静かにそこに座ろう
そこに20年の重みを乗せて
黙っていよう
どうか仔虫よ、生み続けるがいい
どうか神よ、私を無視するがいい

今年最後の日
私の血のそれぞれが集う
見たことのない光景がそこにあった
それは慎ましいながらも
神がくれたひと時だった

朝、目覚める
膨大な仔虫は再び声を荒げ叫んでいる
この詩を書きあげると私は
静かにそれを除けに行くのだ

1年前 No.111

山人 @ookumo1310 ★z80q9lxKhR_jwI

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1年前 No.112

山人 @ookumo1310 ★z80q9lxKhR_jwI

冬の境い目で
山人

冬の境目の穏やかなる日
体中の神経を眠らせて
どこかに笑える部分を残して
ひとつずつ石になってみる
石であった時の遠い記憶を脳のどこかにたたずませ
何もない思考の海で
名もない命の起源の生き物のように
ゆらゆらと出来立ての海水に身をまかせ
少しだけ頬を緩ませて
しばらくこうしてたたずんで居ようではないか
けたたましい冬に
また たたき起こされるまで

1年前 No.113

山人 @ookumo1310 ★z80q9lxKhR_jwI

山林の昼休憩


圧縮された飯粒の上に焼き魚が乗り
それを掘削するように口中に放り込む
鯖の脂がいっとき舌をやわらかくするが
噛み締めるのは苦味だけだった
頭蓋の内壁にはからからと空き缶が転がり
虫に食われた枯葉がひらひらと舞っている
硬い金属臭のする胃壁に落ちてゆく飯粒
咀嚼しなければならない咀嚼しなければならないと
私の中の誰かが呟くのだ

いくつかの物語を静かに語るように鳴く蟋蟀の音
もの思いにふける枯れ草
かつて田であったであろう荒廃地
下草や小藪をはべらせて
大きく手を広げる鬼ぐるみの樹


生きるとはこのようなものなのだよ
カラスはゆさゆさと羽音を揺らし
杉の天辺から天辺へとわたり行く

山は流血している
汚らしい内臓を曝け出し
そして。
いつ戦いは終わるのだろうか
私は大きな田へと続く農道を
意味もなく歩いていた

1年前 No.114

山人 @ookumo1310 ★z80q9lxKhR_jwI


三月



夕暮れ時
人は、ばらまいた小人たちの手綱をたぐりよせ
自分の家へと戻す
にこやかな小人たちの頭を撫で
人は、夕暮れに
まぶしそうに目を細める

いかつい船のような年月を
ため息が凍るような
果てしない大海原を
人は、無限大の小人たちをばらまき
その生死さえも把握することもなく
すばやく日々を終える

人の一日を
終わらせるために日は落ち
夢見るために夜はある
とおり雨、夜は誰もが眠れない

あきらめと言うカテゴリーがあるのなら
三月は
それはいつもむず痒く時を奏でる
生き残った小人たちをたずさえて
人は、新しい海へと
向かおうとする

1年前 No.115

山人 @ookumo1310 ★z80q9lxKhR_jwI





土埃のあがる小道に
黙って立っている
木質の中に
すでに水気もなく
粉がふくような外皮をそなえ
その他愛もない空間に
ひっそりと立っている
徘徊途中のハエが
てっぺんで羽を休め
手をすり合わせる
しばし左右に向きを変え
行き先のない
向こう側へと飛翔した
棒には一片の脳すらなく
あるのは
ひとつのぼんやりとした意志である
それは一途とか
かたくなとかでもなく
たとえば詩人のようで
ただそこに
立っていたいとだけ
思っているのだった

1年前 No.116

静かな視界 @ookumo1310 ★z80q9lxKhR_jwI

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1年前 No.117

山人 @ookumo1310 ★z80q9lxKhR_jwI

静かな視界


夕立のあと
静かに時は均されて
心地よい沈黙と涼やかな空気が広がる
入念に繰り広げられるささやかなエッジが
少しだけ風を呼ぶような気がして
人々は一斉に立ち上がる

窓を開ける
外は一面に終末のあとの鎮静のようで
物語の新しいかたりを期待しているようだ

促されるまま過去は陳列され
少し滑稽な風景となり
穏やかにそこにさらされている
楚々とした壁に軽くピンでとめられて
ふわふわと掲示されている

声にならない声は
あらかじめそこにあった空間に溶けあい
ざらついた頬を武骨な手で撫でつける

夕立のあと
気がつくとまた蝉が手さぐりで鳴きはじめた
何かのために
きっと目的があるのだ
蝉も、あらゆるものも

1年前 No.118

山人 @ookumo1310 ★z80q9lxKhR_jwI

農場


農場は今日も静かだった
土の畝が形どられ
わずかな小雨が土を濡らしている

休眠した種子たちを
刺激する気配すらも感じられない
すでに、どうだ
私が農民であったことさえも自覚できず
こうして一日の終わりを
狂いのひと時に浸ろうとしている

どんよりとした
ビニールハウスの湿度の中で
点々と茎を太らせた
菜たちのよどみが揺れる
吐いた息を
そのまま吸うような不潔な気体の中
脳さえも失われた
その菜たちの目はひたすら濁っている

虹をかんむりに
シャイな霧を瞼に乗せて
夕日に頬を赤らませ
星を瞼に閉じ込めて

少し寒い農場の脇に立つ
まだ待てばいい
ずっと待っている
動き出した土の一つの意思
きっと新しい言葉たちは芽吹いてくるはず

1年前 No.119

山人 @ookumo1310 ★z80q9lxKhR_jwI

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1年前 No.120

山人 @ookumo1310 ★z80q9lxKhR_jwI

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1年前 No.121

山人 @ookumo1310 ★z80q9lxKhR_jwI

山林の詩五篇



「山林へ」
いつものように山仕事の準備をし山に入る
ふしだらに刈られた草が山道に寝そべり
そこをあわてて蟷螂がのそのそと逃げてゆく
鎌があるからすばしこくない蟷螂は
俺たちと同じだ
三K仕事に文句も言わず
ガタピシときしむ骨におもいの鉄線を補強して
なけなしの体をつれて山林へ入る
蟷螂のような巨大な刃の付いたカッターを背負い
俺たちは木を刈る草を刈る
山の肌は俺たちにはだけられ
少しだけ身じろいだが
この久々の日光に少し心地よげだ
親方の合図で一服だ
煮えた腹に水をくれてやれ
体中の口が水を浴びている
どれおまいらにも
青く澄んだ混合油をおまいの口に流し込んでやる
打ちのめされた糞のような現実を叩き切る刃も研いでやろう
たまには涼風も体を脇を通ってゆく



「夏」
開かずの扉があるという。日照が熱い、暗いもがきと汗が内臓から湧き出し、無造作に衣服を濡らす。すでに自らが獣となって草を刈り分け、怒涛の進撃を続けている。名もない歌がふと流れる、何の歌だ?知る由もない、歌などどこからやってきたのだ。風は佇んでいて何も動いていない。見ず知らずの感情が脳内に浮遊し、まるで荒唐無稽の羽をつけながら舞っている。
古代から開けることのなかったかのような陰鬱としたその暗闇を少しづつ抉じ開ける。ふと照らされた光に暴露された青の暗闇は、現実にさらされ始めた。突然、暗闇はすでに暗闇などではなくなり、現実のものとして現れはじめた。いささかも微動だにせず渾身の夏の陽光に照らされている。「すべて、その暗闇に差し出せば良いのだよ」、と声がする。手のひらの臓物を掲げて静かに目を閉じて、自らをささげて、暗黒の中に魑魅魍魎としたその内奥へ、入り込んでしまおう。魔界からの伝達が来ないうちに。それにしても今年は暑いな。



「山林に残された風」
山林は祭りの後のように、しなだれた風景をさらしている。
命をおどらせた、たくましい汗と鼓動が、かすかな風を生み、どこか静かにたたずんでいるようだ。
おもいの仔虫を黙らせて、思考を凝固させ、俺たちの汗と暑さが体を引きずり、どこか知らないところまで連れて行ってくれた。

俺たちのつけた風の名、それはまだそこにいた。

一匹の幼虫が静かに尺をとる。
すべて思考はまだ閉ざされて、残された山林に、風とともに漂っていた。




「山林の昼休憩」
圧縮された飯粒の上に焼き魚が乗り
それを掘削するように口中に放り込む
鯖の脂がいっとき舌をやわらかくするが
噛み締めるのは苦味だけだった
頭蓋の内壁にはからからと空き缶が転がり
虫に食われた枯葉がひらひらと舞っている
硬い金属臭のする胃壁に落ちてゆく飯粒
咀嚼しなければならない咀嚼しなければならないと
私の中の誰かが呟くのだ

いくつかの物語を静かに語るように鳴く蟋蟀の音
もの思いにふける枯れ草
かつて田であったであろう荒廃地
下草や小藪をはべらせて
大きく手を広げる鬼ぐるみの樹


生きるとはこのようなものなのだよ
カラスはゆさゆさと羽音を揺らし
杉の天辺から天辺へとわたり行く

山は流血している
汚らしい内臓を曝け出し
そして。
いつ戦いは終わるのだろうか
私は大きな田へと続く農道を
意味もなく歩いていた



「枝打ち」
ぽつねんと離れた高台にある林道の脇に車を止める
さびれた初冬の枯れススキが山腹を覆い
はじき出された男たちのけだるい溜息がアスファルトに這う
自虐で身を衣にして新しい現場に向かう
男たちの嬌声に雑木は何も言わない

刈り倒された雑木の群れを泳ぐ
夢を肴に酒を飲んだ日もあった
はじき出された抑うつを抱え込んではまた
そうして男たちの今がある

油びかりするチェーンソーに給油する
打ちひしがれた心の貝の蓋を抉じ開けてエンジン音が鳴る
ひとつふたつ、男たちはジョークを散らし山林へと散ってゆく

1年前 No.122

山人 @ookumo1310 ★z80q9lxKhR_jwI

雨の朝


久しぶりに雨が
そう日記に書きはじめてからふと外を眺める
激しく季節はずれの陽光に照らされ、疲弊した草たちは
むせぶように雨に濡れている
雨粒の音が、幾重にも重なった何処かに針のように入り込む
その奥で、カエルのつぶやきが聞こえている

季節は時をすべり
一つまみの夢を冬鳥がさらい
いくつかの諦めの氷片が砕けて冬となる
かすかに踏み跡をたどれば
そこにまた春があった
ずっと止まることなどなかった、あらゆる事柄は
終わることのない物語のように
幾冊ものノートに記帳されている

外の作業所の向こうは霧に包まれている
雨になりきれなかった微細な雨粒が
すべての物物に湿気を与えている
あらかじめ知っていたかのように
大杉はそれを受け止めている

葉の裏で雨をやり過ごす蜘蛛が居るのだろう
少しばかりの湿気をとりこみ
頷くように外を眺める
生き物たちは、ただ黙って
雨とともにたたずんで居る

物語はまだおわらない
人は物語をつくるため生まれ
ずっと物語をつくり続ける

雨の日曜日はどことなく
生きる香りが漂い
乾いた何かを湿らせてくれる

1年前 No.123

山人 @ookumo1310 ★z80q9lxKhR_jwI



ふと私は見たこともない森の中にいた。
山ふくろうの鳴き声と、おぼろ月夜がおびただしい夜をつくっている。
私は来たこともない森の中にいる、このことだけは拭い去れない事実だ。
さしあたり気候は悪くない季節とみえ、そして夜もふけつつある。
記憶を辿るが、なぜだか脳が反応を示さない、記憶の構造が気体のようにふわふわと漂っている。
この場を離れ、私の拠りどころへと帰る必要がある。
さいわいその昔、私は山野を歩く趣味を持ち、さまざまな知識がある。
窪地の風が通らないやわらかい腐葉土の上で、横になり少し目を瞑る。
流れる霧のその先から明かりが徐々に差し込み、朝が来る、季節は初夏である。
そばに渓流があるのか、ミソサザイの突き刺すような声が聞こえる。
標高はさほど高くないだろう、まだありふれた雑木があり、一度は人の手が入ったところだ。
藪を行くとチシマザサの群落があり、根から斜めに突き出た筍が生えている。
小沢を通り、少し登るとコルリの陽気なさえずりが聞こえてくる。
多くの野鳥は、森で棲み分けを行い、ひらけた光り溢れる地に居るのがコルリだ。
コルリに導かれ、改良されたブナ林に出る。
ふと見るとチゴユリの群落があたりを覆い尽くしている。
きっと道筋は近い、やがて近くに鉈目を見ることになる。
あらゆる生き物達の群れの中で、それぞれを見極め、さまざまな仕掛けを解読し、山道にたどり着いた。

1年前 No.124

山人 @ookumo1310 ★z80q9lxKhR_jwI




あらゆるものを
すべて攪拌した液体は
その白濁を
ただうけいれて
夜、静かに沈殿する
朝、液体は分離し
沈殿物は排泄され
透明な液体が生成される
それを、朝と言う

1年前 No.125

山人 @ookumo1310 ★z80q9lxKhR_jwI

この血のむこうに
山人

開拓村には鶏のおびただしい糞があった。すべての日々が敗戦の跡のように、打ちひしがれていた。父はただただ力を鼓舞し、母は鬱積の言葉を濾過するでもなく呪文のようにいたるところにぶちまけ、そこから芽吹いたアレチノギクは重々しく繁殖した。
学校帰りの薄暗くなった杉林の鬱蒼と茂る首吊りの木、きちがい鳥が夜をけたたましく泣き飛ぶ。

オイルの臭いから生まれたリョウは月の光に青白く頬をそめ薄ら笑いをしている、白く浮く肌、実母の肢体を蔑むでもなく冷たく笑う。
リョウは婆サァん方へ行った・・・、いつもリョウは忽然と消え、ふいに冷淡な含み笑いをして現れる、頑なだったリョウ、そしてリョウは死んだ。
夢と希望の排泄物がいたるところに散乱し、その鬱積を埋めるように男たちはただ刻印するしかなかった。
そう、私たちは枯れた夢の子供。

一夜の雨が多くの雪量を減らし、ムクドリが穏やかな春を舞う。
空間はそこに普通にあり、新しい季節が来るのだと微動する。
普通であること、それは日常の波がひとつひとつ静かにうねること。
そのうねりに乗ってほしいと願う。
血は切られなければならない、私達の滅びが、新しい血の道へ向けてのおくりものとなる。

1年前 No.126

山人 @ookumo1310 ★z80q9lxKhR_jwI

「秋 それぞれ」





ふと 空を見上げると
蒼かったのだと気づく
鼓動も、息も、体温も
みなすべて、海鳥たちの舞う、上方へと回遊している

ふりかえると二つの痕がずっと続いている
一歩づつおもいを埋め込むように
砂のひとつぶひとつぶに
希望を植えつけるように

海は、あたらしい季節のために
つぶやきを開始した
海鳥の緒にしがみつく秋を黙ってみている
そう、海はいつも遠く広い

僕の口から
いくつかの濾過された言葉が生み出されてゆく
君の組織に伝染するように、と

いくらか感じられる
潮のにおい
君の髪のにおいとともに
新しい息をむねに充満させる



     *



あらゆる場所にとどまり続けた水気のようなもの
そのちいさなひとつぶひとつぶが
時間とともに蒸散されて
街はおだやかに乾いている

アスファルトからのびあがる高層ビルは
真っ直ぐ天にむかい
万遍のない残照をうけとり
豊かにきらめいている

静かな、
視界、
が私たちの前に広がっている

つかみとりたい感情
忘れてはいけないもの
体の奥の一部を探していたい
その、ふと空虚な
どこか足りない感情が
歩道の街路樹の木の葉を舞い上げる

体のなかを流れる
水の音に耳をすます
数々の小枝や砂粒を通り抜けてきた水が
やがて秋の風に吹かれて
飛び込んできた木の葉一枚
小川となって静かに
日めくりの上方へと流れてゆく


*


何かに怯むでもなく、すべるように過ぎ去る時間の刻々を様々な車達が疾走していく。
それぞれが無数の生活の一面を晒しながら、県庁へと向かう一号線を走っている。
土手に築かれた車道から傍らをながめれば
すでに刈り取られた田が秋空にまばゆく
どこかに旅立つようにたたずんでいる。

パワーウインドウを開ければ、どこからともなく稲藁の香ばしいにおいが入りこみ
午後の日差しは一年を急かすようにまぶしい。
住宅の庭から、対向車の車の煽り風によって流れ込んでくるのは、なつかしい金木犀の香りだった。
記憶の片隅にある、未熟な果実の酸味のように
とめどなく押しよせる、抑えきれない切なさが
あたり一面に記憶の片隅を押し広げていく。

あきらかに、夢は儚く遠いものだと僕たちは知りながら
コーヒーカップに注ぎこまれた苦い味をすすりこみながら語った。
夜は車の排気音とまじりあい、犬の理由のない遠吠えを耳に感じながら僕たちはノアの方舟を論じた。
秋もたけなわになるころ、小都市の縁側にたくさんの金木犀が実り
それは僕たちの夢の導火線にひとつづつ点火するように香っていた。

思えば、僕は、あれから
あの香りから旅立ちを誓ったのかもしれない。

僕はあれからずっと生きている。
たぶんこれからも。

1年前 No.127

山人 @ookumo1310 ★z80q9lxKhR_jwI


月と犬と




満月の夜、月はやさしく犬を見ていた
犬は不思議そうに眼をあけ、すっくと立ち
濡れた鼻をしながらあたりを一瞥した
犬は初秋の虫の音を
一心不乱に聞いていたのだが
ふと月明かりに、自らの何かが微動するのを感じたのだ
そうしてわたしは
こうして犬のそばで夜を過ごしている
獣臭のする老犬はにじりともせず
夜を友として座り続けている
それはまるで奇妙な光景で
二人は特に別の生き物と言う風でもなく
仲の良い同士のように
コンクリの上で並んで池の音を聞きながら
夜を過ごしていた
特別なことではない
自然のなりゆきでしかない
あらゆることがそう思えてくる
月は異様に丸かった
その縁が少し滲んでいる

1年前 No.128

山人 @ookumo1310 ★z80q9lxKhR_jwI

空洞


頭重が鈍い朝を連れてくる
夜のさなかというわけでもなく
朝のさなかというわけでもない
いつも中途半端な時間に覚醒するのだ

安い珈琲を胃に落とし込めば
やがて外界の黒はうすくなり
いくぶん白んでくる

陳腐な私という置物の胴体に
ぽっかりと誰かが開けた穴の中を
数えきれない叫びがこだまして
私の首をくるくる回す

この大きな空洞の中を
ときおり小鳥が囀り
名も無い花が咲くこともあった

今はこの空洞に何があるのだろう
暗黒は苔むして微細な菌類がはびこり
私のかすかな意思がこびりついているだけだ

また大きくせり出した極寒の風が
いそいそとやってくる
私とともにある
この
巨大な穴

外をみる
いくぶんかすかに白んできたようだ
空洞の上に厚手の上着を着込み
私は私に話しかけるために
外に出ようと思った
老いた犬を連れて

1年前 No.129

山人 @ookumo1310 ★z80q9lxKhR_jwI

出稼ぎ人夫



飯場に着くと、俺たちは襤褸雑巾のようにへたり込んだ。ねばい汗が皮膚に不快に絡みつき、作業着は雑菌と機械油の混合された臭いを放っていた。風呂は順番待ちだし、俺たち人夫は泥のような湯船に浸かるしかない。なんとか汗を流せば飯の時間だ。寝泊りする作業小屋から少し歩くと飯炊き女が居てそこで飯を食う。塩ビで出来たどんぶりにまったく光沢のない飯粒を盛る。葱だけの味噌汁、たくわんと鯖の缶詰をおかずに食うのだ。それぞれが安い焼酎ビンをかかげて、生目で飲りながら飯をかっ込む。あとは、酔いつぶれて寝るだけだ。雑魚寝の飯場は花札をやる者、ひたすら不貞寝を決め込む者の二通りしかいない。夜中に酒が醒めるとうるさい薮蚊が徘徊し眠れない。
 隧道のなかで俺たちはひたすら一輪車を押したり、剣スコップで土をほじくったりする。十時と三時に短い一服があって、ずっきりを出して刻みタバコを吸うのだ。刻みタバコを一塊吹かして、火の塊を手の平にぽんと投げつけまた葉をねじ込む。皆が鬼畜の作業から開放される一時だった。それを二回やるともう作業のサイレンが鳴る。サイレンの後には澱んだ重い吐息と溜息が地の底を這う。
昼飯にはメンツ弁当にびっしり隙間なく飯粒がねじ込まれていて、隅っこにしょっぱいだけの昆布の佃煮と、真ん中には真っ赤な血のような梅干が置かれていた。
 俺たちは出稼ぎ人夫。かかぁの股を風に吹かせても、銭を稼ぎにやってきた道具だ。かかぁの股を掘ることもできず土をほじくっている。夜中には、板張りのからっ風の吹き通る糞山の便所で棒を擦る。腐った泪が糞に纏わりつき、そのまま死んでゆく。このまま俺たちは、かかぁの穴の寂しさを埋めることも出来ず、腹の突き出たじじぃの札束を増やすために死んでいくんだろう。

1年前 No.130

山人 @ookumo1310 ★z80q9lxKhR_jwI

「ラーメン道」


人が何かを決めるとき、そして、何か変化を求めるとき、その臓腑を充足させる食べ物があるとすれば、それはラーメンである。
近代、中華そばと命名され、しなちくとかん水の芳香が界隈を漂い暖簾に染み付いている。
笑顔のない、高圧的な店主の声は、互いのこれからの戦いの前の効果的な精神戦である。
洋食がテーマパークなら、ラーメンは自分で作り上げる私小説である。
スープの表面に適度が脂液が漂い、トッピングはその沼を彩る食欲の蓮である。
麺は小麦臭を残し、歯の圧力を俄かに跳ね返す弾力ではなく、ほどよく包み込む肉布団のような性格を保っている。
スープをすすり、麺を噛み締め、胃に落とし込んだとき、頭の切っ先に一つの光りのようなものが浮かび上がり、その瞬間、店主は教祖となり、あなたは信者となる。

*

秘密の食材を混沌と混ぜ合わせ、火力との逢瀬を繰り返し、光るスープが出来上がったのか。
胡散臭そうな紳士達が食券を買い、店員に渡す。
ここのラーメンが食いたいのだ、一心不乱にそう思い込んでいる客、そう、その中の一人でもある、私は。
新しい具材が鍋の中で出会い、互いの良さを引き出しながら別の味に変る。
店主の混沌とした思考と吐息のから編み出された味。
それは店主の主張である。
かん水がほどよく香り、ねっとりと絡んだ麺は自らの存在を鼓舞するわけではない。
シナチクも焼き豚も、それらそのものが独立して物事を主張していない。
とてつもない、奈落を彷彿とさせる、やるせなく切ない食い物、それがラーメンだ。
客は誰でもラーメン炎を燃やしている。
めらめらと立ち上がる炎は、備え付けの雑誌やコミックで誤魔化すのだ。
誰にも悟られたくないこの熱きラーメン炎は人には見られたくない。
だから、目で追うことしかしないコミックを見るふりをして、喉が嗚咽する。
ラーメンが臓腑の収まるべき所に収まるその安定と密着、その達成感に血流は落ち着くのだ。
ティッシュで洟水を拭き、ゴミ箱に捨て外に出ると心地よい、風を感じる。

1年前 No.131

山人 @ookumo1310 ★z80q9lxKhR_jwI

静かな日曜日だった
私は雨を見つめ対話した
雨は何一つ語ることなく、地面に降り注ぎ
そして何も主張することなどなかった
私と雨は窓を挟み、内と外に居た
それぞれが語るわけでなく心と心を通わせ対話した
雨は私を按じていた
私が私を痛めつけることを見ていた雨だった
だから日曜日
雨は私の目の前に現れ雫を落とし続けたのだ
その日雨は、私の心も濡らし
あらゆる私の臓腑にまで降り注いだ
雨はしんなりとした空間を提供し
私をずっと停滞させていた
雨だから・・・
私は雨をむしろ歓迎していたのかもしれない
暗鬱に降る雨だったが
私はそれをどこかで望んでいたのだろう
雨とカエルは同化していた
雨の湿度を感じたカエルは鳴き
それに呼応するように
しっとりと雨はカエルの皮膚を濡らし
悦びを与え続けていたのだ
カエルは言った
「ころころ」
雨に濡れた半開きの目をしたカエル
恍惚の表情で天を眺めるカエル
静かな日曜日だった
なにもしてはいけない
何にもしなくていいんだ
私はそうして静かにシュラフにくるまり
静かな日曜日の
静かな音をずっと聴いていた

1年前 No.132

山人 @ookumo1310 ★z80q9lxKhR_jwI




地球と言う惑星に豊満にあふれる水
その水は塩辛く、潮くさい風に揺れている
かすかに島が見えるのはまれだが、今日はぼんやりと見えている
島は左右対称ではなく、複雑な凹凸をそなえ、夜には短い光を発していた
黄昏るとき、ふくよかな夕凪があたりを包み
その穏やかな空気を楽しむように海鳥たちは不規則に飛び交う
誰にでも見えるわけではないこの島も、また夜をむかえた
闇が打って一丸となって波と融合してゆく
微動だにしないこの天体の隅々をめぐる体液だけが
執拗に活動を繰り返しているのだ
ちか、ちか、
波による微動なのか、光は点滅するように島に近づき
数々のひかりは島で打ち消えた



島には幾人かの人々がいて、私も居た
風のうねりともいうべきなのか、そういうものからはじき出され
声を奪われ、思考さえも奪われていく
そういう人々が働かされていた
島には田園があった
主食の穀物が平らな地にならされて、いっせいに刈取りの作業の季節を迎えていた
眼鏡をかけた青年と錨肩の初老の男の息が田園を大きく支配した
ゆらゆらとした気持ち悪い風の中を、滲み出る濃い汗と脂を舐めとると
あきらかに囚人の私がいたのである


島は冬になろうとしていた
田園作業が終わると私たちは森へと作業の場を移された
島の森は豊かだった
木の梢を渡るリスの動きや、男根のような菌類が枯れた大木に所狭しと現れ
なかまたちは喜んで休憩時間を過ごした
すっかり葉が落ちた森は、私たちの声が木々を素通りし、良くとおった
あらためて見る樹冠の上の青空と
洋々と動く雲は今までの苦しみを押しのける気がした
なかまたちは嬉々として冬になる現実を受け止めている
冬になると解放されるのだ
柴木を切り捨て、さらに大木を切り倒すころ、やがて確実に島は白く覆われる
なかまたちには離島が許されるのだ

なかまたちが離島する前に、木の実でこしらえた果実酒を飲んだ
作業の合間、少しづつ溜めた木の実を発酵させ木の洞に仕舞い込んでいたのだ
私たちは、たがいにその時々の労働の辛さを語り合った
饒舌に笑い飛ばすことで苦しみは翅をもち、異国へと飛び立っていく

島には初雪が降り、やがて根雪となった
いま島には、島主とその補佐と私だけが残されている
島はあきらかに冬になっていた
波は狂い、いたるところに寒さが占領している
剥がれかけた私の頬の皮膚を容赦もなく横殴りの吹雪が打ちつける
飛沫は水際におびただしい泡を生み
何かを目論むように揺れている
海鳥は強い風を尾羽で制御している
少しだけ風は凪いだ気がした。

1年前 No.133

山人 @ookumo1310 ★z80q9lxKhR_jwI

田代平




なにかを期待するわけでもなく
木は真っ白な思いで空を見上げていた
野鳥の尖った飛翔が
空間を切り裂くのを楽しんだり
みずかららが浄化した清廉な空気を謳歌している

人がまだいない頃
木はみな足を持ち、好きなところへ移住した
しかしとてつもない罪でも犯したのか
木は今、足さえ持たず突ったっている

その寂しい木をなぐさめようと
得体のしれない地衣類やら苔やらが肌をつつみ
皮膚にささやいたり
野鳥が脳片の隅をつついたりして刺激してくれる
風は、少し動きが固くなった関節をゆさぶり
体液をうながしたりしている

冬になるからといって寂しいわけではない
雪が降るからといって目をつぶっているわけではない
あきらかに言えるのは
冬は新しいはじまりなのだ

11ヶ月前 No.134

山人 @ookumo1310 ★z80q9lxKhR_jwI

朝の棘 二篇


骨を背負った男たちの群れが道を通る
鼻腔をふくらませ皮膚に脂をにじませながら朝の棘を疾走していく
私のまばらな意思と羨望が目の前でやわらかく踊り、瞬間的に凍結しばらばら落ちてゆく
はがされていく私。うろこたちはいつぞやの震えに剥がれ、あのときの決断に□がれた
私を照らす鈍い朝日、怠惰なベールが体をつつむ
ひとひらの可能性は舞い降りてこない。しかしまだ終わらない旅を続ける
長い坂道だ、そしてその先にあるものは頂きでもなく、ゴールでもない
果てしなく続く苦しみのメビウスが続いている
だから、私は
そこに身を投じて、くるしみそのものとなって
生きる液体となりたい





夜少し眠れないので、濃い焼酎を飲んだ。
朝起きたら胃が気持ち悪く胃液を戻した。
この時間なのに、まだ何にも食べれない。

今日もいろいろやらなきゃいけない
でも、まだ
調子悪い。

さっきからぼんやりと詩を読んだり
連ドラを見たりした。
いくつかの無益ではあるけれども、
そういった現実味が血液に溶け込んでいくような気もする。

内臓が少しだけ楽になってきたようで、
外はヒヨドリが鳴きだした。
開き直ることは難しい。
あらゆることを帳消しにし、存在を無視しなければならない。
鳥や虫になりたい。
空は曇っているけれど、
少しだけ何か食べれる気がしてきた。
味のない卵焼きを焼いてケチャップで食べてみよう。
それから、今日のことを少し考えてみる。

11ヶ月前 No.135

山人 @ookumo1310 ★z80q9lxKhR_jwI

超、朝


朝起きて、小屋から出ると放尿する。
朝日が未だ登らない森の小高い場所に立ち、大きく背伸びする。
おはよう小鳥たちよ!
私があいさつするのは日課で、小鳥のみならず、木や草、虫にまで言葉を投げかける。
するとその生き物たちは喜んで一層素敵な声で鳴いたり、きらびやかな光を振りまいてくれるのだ。
小屋に戻り囲炉裏に薪をくべ、湯を沸かす。
湯が沸くまでのあいだ私は森でメロンパンをもぎに行く。
いつ行っても森にはたくさんのメロンパンが生っている。
その日食べる分だけもぎ取り小屋に持ち帰る。
藤の豆を煎じて、自家製の珈琲を入れる。
香ばしい匂いが小屋の中を充満すると、カモシカが訪ねてくる。
カモシカにメロンパンを一つ与え、おおきな椀を乳にあてがい乳を分けてもらうのだ。
カモシカの乳液をごくんと飲み干し、メロンパンを食べる。
素敵だ、とても素敵だ、いつも朝は素敵に思える。
食べ終えると私には強烈な便意がやってくる。
私はこらえながら岩場を登り
大きくせり出した断崖の上から
ビッグ便をする。
頭の中に大きな鐘が鳴る。

10ヶ月前 No.136

asitanoakari @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_iye

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9ヶ月前 No.137

asitanoakari @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_iye

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※警告に同意して書きこまれました (性的な表現)
9ヶ月前 No.138

asitanoakari @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_iye

mudai



脳が崩れるまでアルコールを飲み沈殿した
夜明けまえに覚醒し
苦いインスタントコーヒーを飲めば
俺のあらゆる穴ぼこからひらひらと
翅をはやした小人たちが舞立つ
小人たちはそれぞれに
額縁のほこりで遊んだり
焼酎のビンに寄りかかったりしている

誰がねじ込んだのだ
俺のはらわたには鉄球が入れられ錆びている
その錆び臭が口腔を満たし
その息が伸ばしっぱなしの鬚にあたる

二日続いた持続的な好天はしおれ
しっとりと明け切らない闇に雨音がする
やはりこうして
いつまでもいつまでも
俺の中の失意は続くのだ

失意は鉄球を育て 多くの苦しみで太り
俺はいつか臨月をむかえる
週末 俺は小人を連れて
巨大な腹とともに
誰もいない最果てへ行く
多くの小人たちに子守唄をうたいながら
巨大な鉄球を産みに行く

8ヶ月前 No.139

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_iye


「私は魚」

私は気弱な動物にさえなれず
眠ることも許されない魚だ
潮の重さに鱗をはがれながら
私は泳ぐ
瞼は閉じられることなく見開き
形はいつも同一の流線形
立ち止まって考えることもなく
私は泳ぐ
海水の中にも比喩はある
でもこの鱗を擦る海水と
時折さす海面のまなざし
口から肛門へと流される思考
私は魚だ
魚以外に生きていられなかっただろう

8ヶ月前 No.140

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_iye

shima


とある島があった
波は泡とともに、幾何学的に浸食された岸に打ちつけている
海水特有の生臭い香りが岸に漂っていた

かつて子らの声や、はしゃぎまわる喧噪も見られたが
今では数十人残るのみである
朽ち果てた小さな公園には錆臭い遊具がわずかに残り、寂寥を演じている
夕暮れの残照の中をカラスが蚯蚓を捕りに降りてくる
島民の吐いた溜息が鬱陶しく土に張り付いている


荒れた天候が幾日か続き、島そのものが何かにおびえるように彷徨し
島民たちは乾いた皮膚を震わせながら、長い悪天をやり過ごした
嵐はやがて緩み始め、息をひそめていた多くの生き物たちは
少しづつ手探りをするかのように這い出してきていた
島はふたたび、生き物たちの活動が始まった

島に十年ぶりに新しい島民が来るらしい
そう島主が伝えた日は、薄曇りの続く、秋の日だった
わずかな世帯の寄り集まりのなかに、一人の大きな体躯をした青年があらわれた
少しだけひげを蓄え、大きな荷物を背中に背負いこみ
それをおろすでもなく、奇妙な挨拶をし始めた
何を言っているのか、島民は呆然と死んだような目でそれを眺めていた
島民の顔は皺で、本来どのような顔をしていたのかわからぬほど憔悴し、老化していた
すでに、表情を変える筋肉さえも退化し
ひたすら重力に身を任せ、弛んだ皮膚が皺のひとすじを微かに動かしていた

不思議な光景だった
論じ、説得するでもなく、青年はまるで独り言のように
ただ大きい声を出すでもなく、とつとつとわかりやすく話をしている
もちろん、身振り手振りを加えることなく、手を前に組み、少し腹部に持ち上げている

病に限らず、あらゆる負の状態
これらの現象は一つの負の生命体を形成し、それぞれが社会性を保つようになる
呪詛のような負の言葉を摂取し、さらにコロニーを拡大させてゆく
そしてこれら負の生命体は空間をつたい、あらゆる無機物をも侵し
やがてこの島全体がそれに侵されることになってしまう
今後、負の言葉を発してはならない
すでに各各に営巣し始めた負の生命体は栄養となる負の言葉を求めている
それに少なくとも栄養を与えてはならない
青年は手を前に組み、島民たちの前で語った

やがて集落のはずれの木立に煙が上がり始めた
湾曲した根曲がりの木を六本立て棟とし
その間に筋交いを加えただけの炭焼き小屋のような建物であった
中には薪ストーブが置かれ、突き出たブリキ製の煙突から白い煙が出ている
入口らしい場所に、手書きで書かれた「ご自由にお入りください」との文字

青年の所作はひたすら淡々としたものだった
早朝に起床し、岬に出ては遠い海を前に祈りをささげることから始まる
一心不乱というわけでもなく、むしろ事務的な呟きのようでもあった
一旦岸辺に下り、波の押し寄せる高い場所から排便を済ませ
その近くの海水に浸かり体や歯を磨く
排便に寄ってくる魚たちを釣り上げて小屋に持ち帰り火をおこす
大きな木を縦割にした粗末なまな板で魚を三枚に下ろし、網の上であぶる
となりには鍋が置かれ、生米と水を混ぜたものが沸騰しはじめている
起床から二時間、ようやく青年はあふあふと粥と炙った魚で朝飯を食うことができるのだ
青年は思考しなかった、思考よりも行動した、言葉を発した
ただただ時間のために生き、時間を消化するために行動し
そして疲れては眠る、その生活をひたすら継続した

島民たちは青年の所作を不思議なまなざしで見るようになり、次第に指を差すようになった
青年は起きると大地にキスをした
ありがとう大地よ
そういうと唇に付いた土を舌で舐め取り飲み込んだ
歩きながら足もとに伸びた雑草に言葉を投げかける
やぁ、おはよう、昨日はよく眠れたかい
大木に手のひらをあて、頬ずりをする

青年が昼休みをし、まどろんでいると島でたった一人の少年が訪ねてきた
おにいさんはとても不思議がられているよ
そういうと体育座りをしながらうつむいてしまった
青年は言った
ぼくは全然不思議なんかじゃないんだ
ただ、思ったことを口にし、思ったことをしているだけなんだよ
君もこんどそうしてごらん

少年は少年でありながらすでに老いていた
薄日が差すといっそう少年の髪は白く目立ち、頸の皮は重力に逆らうことなく垂れていた
瞳は濁り、ぼんやりと遠くを見つめるようであった
風はどこから吹いてくるの
しわがれてはいるが、まだ変声していない幼い声で尋ねる
青年は、少年の視点のそのまた向こうを見つめつぶやくように言った
風はすべてを一掃する、風の根源はあらゆる滞りが蓄積し、次第に熱を帯びてくる
でも、うつむきの中から風は生まれない
なにかをし、言葉にする
そこから気流が発生し、風が生まれる
それが風だ、風は吹くべくして吹いているし、風の命を感ずればいい
そのことばを聞いた時、少年の瞳の奥から一筋のひかりが煌めくのを青年は見た

少年はその後、青年の家を一日に一度は訪問し、一緒に食料を求めて海に行ったり
森に入り木の実や果実を採ったりした
喜々とした感情は次第に少年の老いた細胞を死滅させ、新しい細胞が体を満たし始めた
しわがれた少年の声は、野鳥のさえずりとハーモニーを奏で
朝露のようなみずみずしさを花々に与えた
青年の小屋からは紫色のたおやかな煙が上がり、香ばしい食事のにおいが漂った

青年は、島の人々を集め提案した
それぞれの墓を作ろうという
声にもならない、奇怪な罵声が飛び交う中、青年は穏やかに言った
人の死は、すべてが失われ、意思も失われ、やがて別世界へと旅立って行く
私たちは今生きている、がしかし、魂はしなだれ、生を豊かに感じることがない
すべて負という巨大な悪夢に支配されている
それを静かに、決別できるように埋葬しようではありませんか

夕刻、島のはずれの平地に泣きそうな曇り空があった
島民たちは、それぞれにシャベルを持ち、穴を掘り始めた
ぽっかりと開いたその穴に、様々の負を落とし込むよう、念じている
それは石塊となって、橙色に発光しはじめた
熱く、熱し始めたその石に土をかぶせ、ギシギシと踏みつけ、銘々が墓碑銘を打ち立てる
同時に空は雷鳴を轟かせ、激しい雨が降り始めた
しかし、土の中の石は熱く、さらに橙色を強め
やがて闇のような雨の中、激しくそれぞれの墓から炎が上がり始めた
島民は、立ちすくんでいた、重くくすんだものが今燃えている
激しく降る雨は、島民を濡らした
頭の頭皮を雨脚がなぞり、やがて指先や股をとおり、足の袂から落下していく
どれだけの雨にも石は光り、燃え続け、やがて雨はあがった
激しい雨によって、墓はかすかに隆起するのみで、平坦な土に戻っていた

雨が上がったと同時に、海鳥は回遊をはじめ
島民たちは互いの目を見ていた

7ヶ月前 No.141

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_iye

5/2


どこか
骨の
奥底に
黙って居座る
黒い眠りのような
小雨の朝

歯ぎしりする歯が
もうないのです
そう伝えたいけれど
そこには誰もいなく
部屋の中には
少年のまま
老いた私がひとり

狂った季節に
体節をもがれ
丸い目を見開いた生き物
だったら
蛞蝓のように這わせてください
湿気た空間を好み
枯れた木の液を舐めこそぎ
脳は
どこかに忘れました
とつぶやきたい

6ヶ月前 No.142

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_iye


少女


外はひさびさの晴れ
でも、私の頭の中では雨が降っていた
アスファルトは湿地となり
堆積された高層湿原がどこまでも広がり
そこに少女がたたずんでいる
偶然傘を余分に持っていた私は
少女に渡す
見ると少女はずいぶん大人に見えた
高層湿原にはワタスゲが咲き
木道を少女と歩いた
あそこの光る場所まで行くのです
少女は静かに私に言う
ところで私はどこに行けばいいのかな
何とはなしに少女に聞いてみる
少女は静かにうなずいて笑うだけ
霧雨は次第にあがり
私はその少女だった女を
思い出していた
少女はもう光る場所に行き
もう少女ではなくなっているのだろうと。
私はもう、かなり
遠くまで歩いていたことを知るのだった

5ヶ月前 No.143

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_iye


蜘蛛


古いたそがれが落ちている
窓の桟、ガラスの汚れ、あなたの後ろ姿
アリが、本能のまま、きちがいのように動き回っている
坩堝のような酷暑の中、アリは動き回ることしか許されていない
私たちはそのように、温度さえ失われた世界の初めから今日まで
そのように、きちがいじみた日々を
呪文のように生きていた
手枕で横たわるあなたという置物が居る
セミの声すら失われた夕刻
家屋の中には数えきれない溜息が滞り
か細い体躯の蜘蛛がそれを齧っている

4ヶ月前 No.144

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_iye

集会


巨木に棲むのは武骨な大男だった
髪はゴワゴワとして肩まで伸びている
髭の真ん中に口があり、いつも少しだけ笑っている
深夜になると、男は洞を抜け出して森の中に分け入るのだった
たいていは、月の出た明るい夜だ
梟の声に招かれるように、男は大きな錫杖を持ち外に出る
丸い大きな月がいかにも白々と闇夜に立ち上がり
黒い海に浮かんでいるかのようだった
下腹を突くように夜鷹が鳴けば、呼応するようにホホウと鳴くのは梟だった
草むらにはおびただしい虫が翅をすり合わせ、夜風を楽しんでいる
夜の粒が虫たちの翅に吸い付いて接吻しているのだ
木々の葉がさざなみ、風を生む
男の髪がふわりとし、汗臭い獣のようなにおいがした
なにかに急かされるでもなく、男は錫杖で蜘蛛の巣を払いながら峰を目指した
男の皮膚に葉が触れる
サリッ

峰筋の多くは岩稜で、腐葉土は少なくツツジ類が蔓延っている
藪は失われ、多くの獣たちの通り道となっており、歩きやすい
相変わらず月は丸く、天空から吊っているように浮かんでいる
峰の一角は広くなり、そこに巨大なヒメコマツが立ち
各峰々から十人ほどの大男が集まり始めた
互いに声を発するでもなく、視線すらも合わせることが無い
かといって不自然さもなく、それぞれが他の存在を意識していないのだ
巨大な月のまわりをひしめく星たちは、その峰に向けて光を輝かせている
アーーオーームーー
と、一人の大男が唱え始めると、釣られてそれぞれが声を発する
歌でもなく、呪文のようでもなく
静かな大地のうねりのように重低音が峰から生まれ出る
ちかちかと光る星々のきらめきから閃光が走り出す
男たちの呻く重低音が峰を下り、四方八方に鋭くさがりはじめ
やがて山岳の裾野を伝い人家のある街々まで光とともに覆っていった

3ヶ月前 No.145

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_Xrr

秋の詩篇





ふと 空を見上げると
蒼かったのだと気づく
鼓動も、息も、体温も
みなすべて、海鳥たちの舞う、上方へと回遊している

ふりかえると二つの痕がずっと続いている
一歩づつおもいを埋め込むように
砂のひとつぶひとつぶに
希望を植えつけるように

海は、あたらしい季節のために
つぶやきを開始した
海鳥の尾にしがみつく秋を黙ってみている
そう、海はいつも遠く広い

僕の口から
いくつかの濾過された言葉が生み出されてゆく
君の組織に伝染するように、と

いくらか感じられる
潮のにおい
君の髪のにおいとともに
新しい息をむねに充満させる



     *



あらゆる場所にとどまり続けた水気のようなもの
そのちいさなひとつぶひとつぶが
時間とともに蒸散されて
街はおだやかに乾いている

アスファルトからのびあがる高層ビルは
真っ直ぐ天にむかい
万遍のない残照をうけとり
豊かにきらめいている

静かな、
視界、
が私たちの前に広がっている

つかみとりたい感情
忘れてはいけないもの
体の奥の一部を探していたい
その、ふと空虚な
どこか足りない感情が
歩道の街路樹の木の葉を舞い上げる

体のなかを流れる
水の音に耳をすます
数々の小枝や砂粒を通り抜けてきた水が
やがて秋の風に吹かれて
飛び込んできた木の葉一枚
日めくりの上方へと流れてゆく


*

アスファルトの熱がまだ暖かい夜、あたりを散歩する
月は消え、闇が濃く、しかし空には数え切れない星がある
そっと寝転ぶと犬も近寄り、鼻梁を真っ直ぐに向けて夜を楽しんでいる
吐息を幾度と繰り返し、私と犬は少しづつ闇に溶けていく
この夜の、ここ、私と犬だけだ
仰向けに寝転ぶと背中が温かい
太陽と地球の関係
照らした太陽と受けとめた地球
その熱が闇に奪われようとしていた
少しづつ少しづつ闇の中に入っていけるようになる
例えば寝転ぶと夜空は前になる
この夥しい光のしずくが私と犬だけの為にあり、瞬きが繰り広げられている
時折吹く、秋風
その静寂と、闇と星の奏でが、風に乗って、鮮やかな夜を作り上げている
闇は無限に広がり、空間がとてつもなく広い
地球の上に寝そべって、無限の夥しい天体を眺めている
このときこの瞬間、私のあらゆる全てを許すことが出来たのだった

   *


何かに怯むでもなく
すべるように過ぎ去る時間の刻々を様々な車達が疾走していく
それぞれが無数の生活の一面を晒しながら、県庁へと向かう一号線を走っている
土手に築かれた車道から傍らをながめれば
すでに刈り取られた田が秋空にまばゆく
どこかに旅立つようにたたずんでいる

パワーウインドウを開ければ、どこからともなく稲藁の香ばしいにおいが入りこみ
午後の日差しは一年を急かすようにまぶしい
住宅の庭から、対向車の車の煽り風によって流れ込んでくるのは
なつかしい金木犀の香りだった
記憶の片隅にある、未熟な果実の酸味のように
とめどなく押しよせる、抑えきれない切なさが
あたり一面に記憶の片隅を押し広げていく

あきらかに、夢は儚く遠いものだと僕たちは知りながら
コーヒーカップに注ぎこまれた苦い味をすすりこみながら語った
夜は車の排気音とまじりあい、犬の理由のない遠吠えを耳に感じながら
僕たちはノアの方舟を論じた
秋もたけなわになるころ、小都市の縁側にたくさんの金木犀が実り
それは僕たちの夢の導火線にひとつづつ点火するように香っていた

思えば、僕は、あれから
あの香りから旅立ちを誓ったのかもしれない

僕はあれからずっと生きている
たぶんこれからも

2ヶ月前 No.146

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_Xrr

「あな  二篇」


貴方の声が
虫のように耳もとにささやき
私の皮膚を穿孔して
血管の中に染み込むと
私の血流はさざめき
体の奥に蝋燭を灯すのです
貴方のだらしのない頬杖も
まとわりつく体臭も
すべてが私の奥に
石仏のように染み込んでいたのです

明るすぎる店内は光っていて
ひとりで持つ手が重たいのです
ふと買い物の手が
貴方の好きな惣菜を求めていて
ショーケースの冷気で顔を洗うのです

閉じられた束縛の中で
私は蛇のようにじっと
湿度の高い空間で
安寧を感じていたのかもしれません

道路脇のカラスがなにかを啄ばんでいます
私の汗腺を塞いでいた あなたの脂
それでもつついているのでしょうか

*


夜のさなかというわけでもなく
朝のさなかというわけでもない
いつも中途半端な時間に覚醒するのだ

安い珈琲を胃に落とし込めば
やがて外界の黒はうすくなり
いくぶん白んでくる

陳腐な私という置物の胴体に
ぽっかりと誰かが開けた穴の中を
数えきれない叫びがこだまして
私の首をくるくる回す

この大きな空洞の中を
ときおり小鳥が囀り
名も無い花が咲くこともあった

今はこの空洞に何があるのだろう
暗黒は苔むして微細な菌類がはびこり
私のかすかな意思がこびりついているだけだ

また大きくせり出した極寒の風が
いそいそとやってくる
私とともにある
この
巨大な穴

外をみる
いくぶんかすかに白んできたようだ
空洞の上に厚手の上着を着込み
私は私に話しかけるために
外に出ようと思った
老いた犬を連れて

1ヶ月前 No.147

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_Xrr

峠の山道







峰と峰とのつなぎ目に鞍部があり、南北の分水嶺となっている
古い大葉菩提樹の木がさわさわと風を漂わせる
峠には旅人が茶化して作った神木と、一合入れの酒の殻が置いてある
岩窟があり、苔や羊歯が入り口に生い茂っている
そこは湯飲み岩窟と呼ばれていた
旅人がそこでありあわせの石でかまどを作り、火をたき、近くの清水で湯を作った
嗜好品としての茶ではなく、白湯を飲む
しげしげと旅人がかまどを作り、一杯の白湯のために火をおこし、それを飲む
硬く純粋な清水のとげがこそげ落ち、におい立つ水の甘さがふくれあがる
湯飲みに注がれた、湯気の噴いた白湯をいただく
ふうふうと息を吹きかけ、口中でころがして喉を滑らせる
胃腑に穏やかな沈静がしみこんで、解毒するように息を吐き出す
嗚呼、涼やかな大葉菩提樹の風が初夏の光線を引き立たせ、ふるえている
大木は歴史を旅した旅人だ
そして私もまだ

   *

峠の山道に
一本の棒が立っている
木質の中に
すでに水気もなく
粉がふくような外皮をそなえ
その他愛もない空間に
ひっそりと立っている
徘徊途中のハエが
てっぺんで羽を休め
手をすり合わせる
しばし左右に向きを変え
行き先のない
向こう側へと飛翔した
棒には一片の脳すらなく
あるのは
ひとつのぼんやりとした意志である
それは一途とか
かたくなとかでもなく
不器用な詩人のようで
ただそこに
立っていたいとだけ
思っているのだった

1ヶ月前 No.148

山人 @ookumo13 ★bDJoqEzcCB_Xrr

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10日前 No.149
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