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思考ラインタクトに歌。

 ( SS投稿城 )
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激流朱雀 @suzaku1☆92ueQETlAOJB ★2M7ZdkpPQx_4TG

Title「思考ラインタクトに歌。」

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記録: 2214.03.11<caseF3型燕_3.2E>

 夕凪に砂埃を上げていくのは、黄金期を終えてしまったからだろう。終わりなんて簡単にやってくるもんだから、ヒトもおちおち生きてられない。流離う事を嫌ったものだけがここに根を張っている。けれどそれも空気抵抗と同じ。幾ばくもない生命線、化学の問題文みたいに、それは考えないものとする。
 終末と言えば聞こえがいい、結局のところ滅亡というカタチで終止符を打つ。ひとえにこれが定めだと言ってしまえば、因果応報、あたりまえの結末だったかもしれないね。

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記録:2215.02.05 <caseF3型燕_3.2cF>

 鉄橋を越えた街。捨てられた地上に残っているのは幾ばくかの人が生きていた名残≠セけ。
 高い塔、真っ赤な電波塔の上。か細い喉から奏でるメロディ。彼女は唇に歌を乗せていた。

「ずっと歌っているだけでは退屈だろう」

 彼女に向かって声を掛けるが、依然として彼女の歌は止まない。荒廃した街は、既に機能していない。わずかに残った人間は、みんな、その日を生きることで精いっぱいだった。
街を眺めるにはこの塔が一番都合いい。死にゆく街へ、子守唄を届ける彼女は、終生の悲願を口遊む。

「なぁ、俺と一緒に、」

俺は、結局、告げる勇気が足りなかった。
 彼女の歌は止まない。まるで風のように、日差しのように、雨のように。いつまでも、いつまでも、俺の言葉を遮る壁となっていた。

 *

 温かい地域ではない。むしろ雪が降り続ける時期だってある。それなのに、この街の名前がガジュマル≠ニいう二つ名がついているのは、ひとえにその樹からの由来ではない事がよくわかる。あまねく血管のように張り巡らされた鉄パイプと、その上に建つ鉄塔が、まるでガジュマルとよく似ているからだろう。増改築という、育ちやすくて、太い血管みたいなパイプが建物を締め上げる。まさに絞殺しの木みたいな街。お似合いだ。

「サンタマリアは答えたかい?」

 赤き電波塔から降りると、FコードモデルV型、軍事転用機。登記個体名、元国軍燕部隊三班(赤髪の同型/同期/同機)・2E(ツィ)≠ェ、俺に話かけてきた。

 電波塔のゲート担当であるツィは俺がサンタマリアと呼ばれる彼女に心を寄せている事を知っている。元来、この電波塔は叛旗(はんき)≠ェ立ち入ってはいけない場所だった。叛旗と機械とヒトとを区別するのは機械差別だと言われているにも関わらず、実際のところは革命軍が拠点にしたこともある曰く付の場所。だからヒトが規制したくなるのもわかる。歴史的な話を理解している叛旗は門番を設け、元国軍機が代表として立ち入りを判断するというプログラムを入れる事を前提とした。つまり機械規制をしているクセにそれを判断するのは結局のところ機械によるもの。ロボットがロボットを統制する。間抜けな話だ。

 現在は同機であるシィ、一機のみが許可判定しているのが実情だった。環境変化によって文明が半壊した今でも、機械は組まれたプログラムに抗えない、しかし脆弱性は新たなセキュリティホールを生んでいる。ヒトが地下へ逃げ往く今となっては改修することもないプログラムだった。

「別に。お前に話すことは何もない」

「そう言わさんな。俺と2cF(シィ)≠ニは、残った中で唯一の同機じゃないか」

「言ってろキャッシュ(ゴミクズ)*郎」

 自動運転車(手動運転/ガソリンカー)≠ニいう文化が無くなった地域で、歩行者用の信号機をバカ真面目に守るのと同じ。必要のなくなったルールだった。ゲートを守るシィだって俺には融通を利かせている。特に、こいつはエリア(この街の)∞機械規制(ルール)≠守るタイプじゃない。第一優先である軍法というプロテクトを無くした今となっては自由度の高い計算機だった。

「サンタマリアは心(ココロ)≠開かない。なぜなら心(乱数感情発生システム)≠ネんて無いからだ」

 強い口調でツィは俺の肩を掴んだ。いつもの説教。テンプレート化された内容。

「俺達とは違うんだよ」

 諭すような声色でとうの昔から知っている事柄を述べる。知っているが、理解はしていない。もちろんツィも、俺がこんな態度である理由は知っている。ただ、理解はしていないだろう。

「家電に、心(感情)≠ェ無いとでも言いたいのか」

 つい、否定するような事を口走ってしまった。

「それを言ってしまったら、俺達みたいな家電(オート/ドール)≠ェ演算している感情数値は心ではないという事かい?」

 面白くなかった。なにもかも、どうしても。

「知らないよ。俺達のこれ≠ヘひとつの演算だ。それに対してなんと呼べるかなんて、哲学だよ」

「あんたみたいな機械こそ、壊れてしまえばいいんだ」

「相変わらずシィはトゲトゲしているねぇ」

「ツィは俺と違ってガラクタで最低だ」

 言うまでもない事だったが、反論で重ねる。ツィは変わらず「仕事をしないことに、命を掛けているからね」なんておかしなことを言う。

「命なんて、残機なんか腐るほどあるのに」

「文脈の意図をくみ取れないのはわざとなのか?」

 俺と同じ顔して笑うから、腹が立ってしょうがない。

「お前と居ると時間の無駄だ」

 そう言うとツィは「同感」と吐き捨てる。わかり合えないのだ、わかり合うつもりもないから。

「どのみち、サンタマリアに会うためには、このゲートを潜るしかない。俺はお前だから、ゲートを通してやっているんだぞ」

 ツィが毒づく声は聞こえていた。あえて言う事は何もない。話半分にして、俺はゲートから去った。砂埃が舞うのが足元で見えるから、余計なノイズを記録する。別に俺はツィの事なんて、これっぽっちも分かり合えるとは思っていなかった。演算した感情が記録装置に圧縮データとして保存する。無益な感情データにほとほと嫌気がさしていた。

 *

 裏路地を通り、四つ角を曲がる。相変わらず灰色の街はウンともスンとも言わない。このまま朽ち果てていくことも受け入れる。意思を持たない機械の塊と等しく、静かにその生涯を終えるのだろう。
 伸びる電気コードが覆うコンクリートジャングルを幾メートルも進んでいると、がらんどうのオープンカフェから声を掛けられた。

「またツィのところへ? ホント、お前らって仲がいいんだな」

 煤綿(アスベスト)≠ェ剥がれ落ちて、マグカップに白い靄が浮いている。それを気にすることもなくすすり飲むもんだから、彼が機械人形である事は言われなくても分かるだろう。

「別にツィに会いに行ったわけじゃない。俺はあの電波塔に用があったんだ」

「高いところが好きなのは馬鹿と煙となんちゃららってやつか」

「遠まわしに俺の事を馬鹿と言うのはやめてくれないか」

「いやいやシィの事を馬鹿だと言うつもりはないさ」

 この街らしいチャイニーズグレィのグラスアイがきらりと電気信号を走らせる。シリコンボディも油が浮いている機械人形は、俺とは違う型ではあるはずなのに、他人とは思えなかった。くたびれた洋服は、汚れを気にする客もいない。接待すべきヒトはもう地下へ埋葬されているか、どこか別の街へと引っ越してしまっていた。

「とうとう叛旗(俺達)≠煌ワめて、この街の人口が一桁になった」

 オイル珈琲から安っぽい油の匂いを感知する。機械人形の表情はどこか寂しげを演算していた。

「ヒトは、あと何人いる」

「この店裏のじぃさん一人だけだ」

「残った叛旗も四万三千十二分後にはここを離れ、地下帝都へ移動するそうだ。お前たち赤髪はどうする」

 お前たちと括られるが、この街に残っている赤髪は俺とツィしかいない。思わず「ツィは何て、」と訊ねると「シィに任せるって言っていた」なんて、いい加減な答えを受信した。中央処理装置の中でツィの悪口と気に入らないところを箇条書きすると、割と早い段階で俺に判断を委ねるという項目へチェックが入った。

「俺は、彼女≠ェこの街に残るならこのままここに居ようと思う」

 とっくの昔に決めていた答えを口にする。機械人形は「彼女?」と聞き返すから「赤い電波塔のサンタマリア」と素直に答えてしまった。思えば、こう言う事をペラペラと話してしまうのはどうかと問われる事柄だろう。

「お前、彼女がなんなのかわかっているのか?」

 やはり、どのヒトも機械も同じような態度を示す。わかっている、自分でも。

「わかっているよ。彼女が思考をしない物≠セって」

「じゃあ、」

「それでも俺は彼女と居たいんだ」

 彼女は蓄音機。そして、拡声器。そんな事、初めからわかっていた。そして、俺達と違って肢体と自我が無い事だって理解していた。気持ちだけを優先するなら、ずっとこのまま彼女のために街を維持する事を願うのが一番だろう。なぜなら彼女はこの街の平和を願って作られた置物(オブジェ)≠ネんだから。

「キミもずいぶん酔狂な個体だな」

 記録に新しいセリフが上書きされる。酷い言いぐさで機械人形が呟くもんだから、俺はまた面白くない感情を計上した。鼻で笑って店を後にする。あの機械人形とはまた会う事なんてあるのだろうか、いや、きっと無い。彼の機械もこの街を去る一つの個体に過ぎないだろうと仮定した。

 *

 午後の放送が鳴り響く。電波塔からとりわけ美しい音色を届けてくるのは決まって愛しのサンタマリアだ。

「君にも、ココロがあればよかったのに」

 蓄音機には心が無い。形を保っていられるのも、自分にそのツールとしての存在意義を持っているから。彼女が蓄音機をやめた時、きっと彼女は彼女でなくなってしまう。彼女が彼女として存在するためには場所が大切なのだ。いくら大事なものでもゴミ箱にあればゴミとイコールで、掃き溜めにあるガラクタを宝箱にはいってあれば、だれかにとっての宝とイコールなのだろう。

「お前の思考、ダダ漏れしてんぞ」

 叛旗の家庭用家事代行機(生産終了)・金髪モデル機械人形(イエロー00369番)≠ェ声を掛ける。首からさげたバッテリーパック(簡易/原子力発電機)≠見る限り、九百十六分以内にこの街を出ていこうとしていることは明白だった。

「俺は一度も思考にプロテクトを掛けた事がないからな」

「公共の電波に自分の思考を乗せるのはどうかと思うけど」

「産業ロボット(産廃)≠ノはわからん気持ちだろう」

「退役軍事転用機(元軍機)≠ェなんか言ってるよ」

 イエローはやれやれと大げさな手振りであきれ返る。プライバシーなんて機械同士に意味などあるのだろうか。所詮、グローバルフィールド(公共の場)≠ノ演算結果や生データを散らかしてやり取りしているんだから、ナノマシンにも筒抜けだ。今更、気にしようがないほどに個性や誤差が存在している。小数点以下を四捨五入している時点でパーセンテージは約(だいたいソレ)≠ニいう大雑把な括りで処理しているのだから、クローズドソース(ココロの声、頭の中)≠ノしたところで完全なる把握・理解≠ヘ難しい話だった。

「赤髪はどうするんだ」

「俺は、この街に残るよ」

 俺は学習≠オたからさっきと同じミスは犯さない。特に叛旗とは揉めてもロクな事にならないことを知っていた。機械人権独立戦争(第三次機械大戦)で共に戦った同志と言い合いになると俺の体裁も悪かった。

「ここで、この街を看取ろう」

「別に止めやしないけど、」

 イエローは言いよどんだ。正しい答えを聞いたころで、俺の気が変わることは無い。勝ち取った未来が滅んでいく事実を受け入れていないわけでもないし、イエローが言いたい事柄のほとんどは、俺達機械も故障確率の低い選択を選ぶことができるという、権利の話に違いない。――ならば、必然的に、

「そしたらきっと、ツィも残るんだろうね」

 ツィの話をするんだと思ったら案の定、俺の予測演算は正しかった。

「あいつは関係ない、あんたが一緒に引き摺って連れてけばいい」

「それは出来ない話だよ、俺達が赤髪に勝てるはずがない」

 赤髪は軍用機。一般的に売っていた機械人形の数倍の強度と、演算処理能力。勝算は博打であり確率的には低いと演算されるのは常識だった。……そして、同胞からも忌み嫌われているのは、軍用機。一般家庭用の機械とは国産印で作りが異なる。より、思考回路が捻じれている。赤髪のことを理解できるのは、赤髪の同胞だけだろう。

「ツィは心配しているんだよ。きっと」

 冗談みたいなことをイエローが言うもんだから「まさか」と眉をひそめて否定した。いくらなんでもツィに限って、心配じみた感情を俺に寄せるとは考えられなかった。

**** [続く]

メモ2020/03/29 20:30 : 激流朱雀☆92ueQETlAOJB @suzaku1★2M7ZdkpPQx_4TG

か、書き終わらない…!来週中(あるいは4月上旬)には完結!させたいです!


ばでほり様>>@17854からお題交換企画いただきました、

お題「ロボット」を題材に執筆中です!

宜しくお願い致します!!!

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