Google
    
<< TOPページ 掲示板TOP 記事データ お知らせメール ▼レス(5) >>

中毒

 ( SS投稿城 )
- アクセス(201) - いいね!(4)

ばでほり @17854 ★Android=V2XtkxYYcb

言うまでもないことだが、私たちギルドにとって冒険者とは貴重な労働力であり、同時に財産でもあるため、志願者を断ろうとすることはほぼ無いのだが、しかし例外も無いことは無い。
ハイン=シガレットの場合がまさにそうだ。

最初、ハインを迎えた私は、彼が仕事の依頼に来たのだと思った。受付の場所を間違えていることを指摘しようと考えていたら、席につくなり彼は息巻きながらいつものドラ声で話しかける。

「よう、俺だ。冒険者ギルドへの再登録を頼みたいんだが、ここで大丈夫か?」

私は頷いた。内心、わるい冗談はやめてくれと叫びたい気持ちを抑えながら。


*******************


若き日のハイン=シガレットは何者でも無かった。
小さい漁村で生まれ育った彼は、少年特有の情熱に身を任せ、剣一本を頼りにこの世界に飛び込んだ。
力も知恵ももちろんあったのだろうが、やはりツイていたと言わざるをえない。彼と同じような境遇で身を起こした人間なんてごく一握りだけだった。

この頃のハインの冒険譚は今でも語り草となっている。
ぱっと思いつく限りでも赤竜の棲む洞窟から財宝を持って帰ったり、三百匹からなる半魚人の大群(実際は海賊だったとする人もいるが)を一人で退治したり、はたまたエルフの国の王女を悪魔から救い出したりと、真偽のほどはともかく枚挙には暇が無い。

そうして若さゆえの冒険心を大いに満足させた彼は、ある日都に一軒の酒場を建てる。
この時まだ彼は現役の冒険者であり、仲間の怪我の回復を待つ間にする仕事が欲しかったらしい。とはいえ、その気になれば働かずとも2、3年はゆうに暮らせるだけの蓄えはあったはずなので、おそらく彼にとっての夢でもあったのだろう。

とにかく、この頃から彼の人生は大きく舵を切ることになる。

最初の3年ほどはうまくいっていたようだ。冒険の合間に酒場を経営し、どちらも評判は上々だった。
しかしある日、半年ほどかかるのが確実な仕事の依頼が来たとき、彼はそのために店を閉めるのが惜しくなり、客のうち実力のあるものを代わりに紹介した。

そうして仲介料をとるうまみを知ってしまうと、大して時間もかからず、彼は冒険者ではなく冒険の仲介業も営む酒場の親父になった。四十三歳という年齢から考えても妥当な判断と言えるし、理想的な転身ともいえた。
当然のことだが冒険者という仕事はいつまでも続けられない。彼のように五体満足のまま身を引くというのはなかなか難しいもので、だからこそ我々ギルド側の人間としては彼のキャリアを良い前例として扱っていた。

そんな彼が冒険者に復帰するというのは、正直に言うと嬉しくないどころか、迷惑な話でさえあった。
通常冒険者への登録というのはごくあっさりとしたものだが、今回ばかりは理由を尋ねた。

「一言で言うと、血がうずくってやつだな。」

どんな事情があるのかと身構えていた私に返ってきた答えは、意外なほど平凡なものだった。

「納得できないって顔してるな。無理もねぇが、まぁ聞いてくれよ。時間ならたっぷりあるんだろう?」

そう前置きして、彼は語りだした。

関連リンク: エモい。 
ページ: 1


 
 

ばでほり @17854 ★Android=V2XtkxYYcb

これはつい三日前のことなんだけどよ。

俺の店でやたら騒いでるテーブルがあったもんで、気になって覗いてみたのさ。そしたら2つのパーティが冒険の成果を競いあっていて、小競り合いになってたんだな。最近は大人しい冒険者ばっか増えちまって、今どきそんな鼻っ柱の強いやつは珍しいもんだから、俺はなんか嬉しくなっちまって、少し話を聞いてみることにしたんだ。

そしたらよ、こいつら威勢は良いくせに肝心の冒険の中身がスッカスカなんだ。やれ、どこでどれだけ薬草を摘んできただの、魔物の牙を傷付けずに手に入れただの、細けぇことばっか言いやがる。

俺はとにかく我慢できないくらい腹が立ったもんで、その連中に掴みかかるくらいの勢いで言ってやったのさ。テメーらのやってるのは冒険じゃねぇ。ただのおつかいだ!ってな。そんで俺の過去の冒険をちっとばかし教えてやったんだ。そしたら連中、腰を抜かすくらい驚いてよ、みんな静かになっちまった。
お前らもデカい口はデカいことやってから言えよって最後に言ってやって俺もテーブルを離れたのさ。

この話はこれだけのことなんだけどよ。それ以来、どうしても忘れられねぇんだ。なにが忘れられねぇのかって、冒険よ。それもあいつらに語ってやったような本物の冒険だ。

どんな危険が潜んでいるか分からないような未開の地に乗り込んで、知恵と勇気で乗り切る。そんな血が熱くたぎるような冒険がもう一度したい!
店で仕事してても、夜ベッドに入っても考えるのは、ただただそれだけ。

だから頼む、もう一度冒険者の登録をさせてくれ。ブランクはあるが、まだまだ若いやつには遅れをとらないつもりだ!!

2ヶ月前 No.1

ばでほり @17854 ★Android=V2XtkxYYcb

結論から言うと、ハンスの冒険者登録願いは受理された。というか、私のところに話が来た時点で全ては手遅れだったのだ。


「店は手放したさ。装備やら旅費やら、どれだけ金が掛かるのか検討もつかねーからな。」

「家族?ああ、女房と子供は言っても聞かなかったから実家に帰したぜ。やはり男のロマンってやつは女には理解されないな。」


と、こんな調子でもう後戻りできないところまで来てしまった以上、私にできることは早々に彼の冒険者登録を済ませ、せめて一日でも彼が若く力があるうちに、彼を冒険に送り出すことだけだった。


********************


これから仲間を募るという彼を見送ったあと、私は定時まで仕事をこなし、家路についた。
仕方ないことと割りきりたかったが、道中どうしても思うのは彼のことだった。

彼の話には一点、嘘ではないだろうが気になる点があるということに、私は気付いていた。店内に騒がしいテーブルがあったから気になって覗いてみたと、彼は言った。
しかし普通、多少盛り上がってるくらいで店主が仕事を放り出してまで見物に行くだろうか。
私には、彼が『若いパーティに触発されたから』というもっともらしい(少なくとも彼にとっては)理由を作る機会をずっと待っていたのだとしか思えない。

そうでないと思っていたのは私たちだけで、結局は彼も立派な冒険中毒者だったのだろうか。

そんなことを考えているうちに、気付けば彼の店の前に着いていた。夕方の掻き入れ時だというのに、店内は暗く、おそろしく静かだった。開店を示す看板は地面に落ちたまま放置されている。

私は看板を拾い上げると、誰の目にも分かるよう扉に掛け直してやった。

『CLOSE』

2ヶ月前 No.2

ばでほり @17854 ★Android=V2XtkxYYcb

SSが好きなんです。

ジャンルとしてのSSではなく、メビウスリングのSS投稿城が大好きで、正直ここ無くなったらメビやめるかもしれないってくらいのレベルなんですが、最近新規投稿が少ないからか、見出しからも隠れちゃってて危機感を持ったので早速一品投稿させてもらいました。


で、ここからが作品の話ですが、最近流行りだということもあり、西洋ファンタジーを書きたかったのです。でも剣や魔法の話より、人を書きたいなぁと思ってこんな感じの話になりました。

もしも面白いと思ってもらえれば幸いです。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

2ヶ月前 No.3

激流朱雀 @suzaku1☆92ueQETlAOJB ★nbkWjzid98_o1k

面白かったです! んんん、イイ!こいうの好き!

2ヶ月前 No.4

ばでほり @17854 ★Android=V2XtkxYYcb

朱雀さん、コメントありがとうございます!

けっこう毎回のことなんですけど、書き終わって投稿してみてから、これを面白いと感じる人間が自分以外いるのだろうか?と悩むことが多いです。なので、面白いとか好きとか言ってもらえると、本当に嬉しくて、やっぱり書いてよかったなと思えます。
おそらくいいね!のうち1つは朱雀さんからもらえたんだと思うので、そちらも合わせて、どうもありがとうございました。


また、どなたか分かりませんがいいね!くださった方、ありがとうございます!

2ヶ月前 No.5
ページ: 1

 
 
<< TOPページ 掲示板TOP 記事データ お知らせメール ▲ページ上 >>
★必ず ローカルルールメビウスリングのルール をご覧ください。
 ▼スタンプ▲スタンプ
※スタンプはいちどに 3個 まで使えます  ×閉じる