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叶わない夢を君とみる

 ( SS投稿城 )
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光心 @kousinn ★2ygXqa1xRm_mgE

「頑張れば夢は叶うらしいよ」

 微塵も思っていないような言葉を、彼女はぽつりとこぼした。
 音は波紋となって僕の耳へと届いたけれど、僕は肩をすくめる以外に返答のしようがなかった。

「ならさ、頑張らなかったら夢は叶わないのかな?」

 彼女の言葉は不思議な色彩を帯びて僕の意識へするりと入り込んだ。
 逆説的に考えればそうなんだろう。
 けれど、そう言われるとどこか否定したい気分になってしまうのは僕があまのじゃくだからなのか。

「君は、どう思う?」

「そうだね……たぶん、頑張って叶えたいことを夢って呼ぶんじゃない?」

「ふーん……」

 彼女は実につまらなさそうな顔で僕を見つめる。
 いつだって、彼女はそうだ。
 当たり前の返答に対して興味がない。
 彼女が欲するのは、たぶん、狂気とか偏屈とかそういうズレて戻れなくなってしまったものなんだと思う。
 けれど、僕が返せる言葉の中には普通というタグのついたものしかない。

「じゃあ、頑張っても叶わない場合は?」

「頑張ろうと意志を持つことが大事なんじゃない?」

「けっ」

 露骨な舌打ちを甘んじて受ける僕を見て、彼女はさらにつまらなさそうな顔をした。
 こんな理不尽な仕打ちを受け続けることはないと思うけれど、いわゆる惚れた弱みというやつなんだろう。

「でも」

「ん?」

「頑張ろうと思わなくても、夢は叶ってしまうことはあると思うんだ」

 前言撤回するような僕の言葉に彼女は形の良い眉を動かす。
 好奇心が刺激されているのが傍目でも分かった。
 こういうわかりやすいところが、きっと、彼女を好きになったところなんだと思う。

「へぇ、例えば?」

 にやにや、と嬉しさ煽りの中間の声色で彼女は僕に問う。
 その声色には期待の色合いが重なり、僕は暗闇の中で手を伸ばすように、慎重に言葉を続ける。

「例えば……夢が変わってしまう場合とか」

「夢が変わってしまう?」

「うん。夢だったものが夢じゃなくなった場合、今の自分こそが夢の自分だったんだ、って言い訳する時とか」

「……私が君を彼氏にしたこととか?」

「っ……なら、夢なんて叶わない方が、僕にとっては幸せだったってことだ」

 あははは、と笑う彼女に僕も笑うしかない。
 ずるいことをした、と思う。
 傷心の心につけ込んだと言われれば、そうなんだろうけど。
 それでも、僕は彼女の悲しむ顔は嫌だった。
 きっと、こんな醜いエゴを僕は抱えて生きていくしかないんだろう。
 そう思うと、とても怖い。
 ここから先に続く、地獄が怖い。

「じゃあ、さ」

 ひとしきり笑い終えると彼女はボールを放るように言葉を投げた。

「私も、そう思えるようにしてね?」

「……頑張ります」

 どうにか絞り出したような僕の返事に、彼女はまた声を上げて笑った。
 叶わない夢を君とみれるように。
 僕は今日も生きていく。
 君と一緒に生きていく。

関連リンク: 愚者の選択、賢人の選択 
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光心 @kousinn ★2ygXqa1xRm_mgE

<あとがき>
 どうもです。
 最近やる気の放出が止まらず、電気だったら間違いなく漏電騒ぎの光心です。

 今回は、掌編を書こうと思っていましたが、
 書いているうちに「1111文字まで書いたら面白んじゃね?」と思い、そのまま書ききってしまった感じです。
 掌編を書く時はいつもだいたい800文字オーバーで、それをどう収めていくのかっていう作業になるんですけど、
 久々だったのもあって、ついつい手の赴くままに書いてしまいました。

 いつだったか、次は長いのを書きます、みたいなことを書いたと思いますが、
 書く時間や余裕があっても、頭がそれを拒否しやがりますので、
 錆びつく腕にオイルをさして、今回リハビリ的な感じで書いたのですがいかがでしょうか?

 こういうたわいのない会話というか、どうしようもない失敗をどう幸せに転化するのか、って話が好きなので、
 わりと気に入っている文章にはなりました。
 読み終えて、何かしら感じ入るものがあれば幸いです。

 つわけで、そのうちまただらだらと書くとは思いますので、
 またそのときに。
 ではでは。

6ヶ月前 No.1
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