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青い瞳。

 ( SS投稿城 )
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@micomoco ★iPhone=9LTQ7sFLsr

ご主人様の朝は早い。
慌ただしく動き回るご主人様を、何もできない僕は見ているしかない。
ご主人様はどんなに忙しくても、僕にご飯をくれることを忘れない。僕が食べるのをご主人様は嬉しそうに見ては、頭を撫でてくれる。幸せだ。

日が出ている間は、することもなくて退屈だ。
屋敷の中にはご主人様の他にも人はいたけど、みんな僕をいないもののように扱う。
ときどきご主人様の妹らしい女の人が暇つぶしといって僕をいじめる日がある。僕が吠えるたびに、彼女は愉快そうに笑う。前に彼女に飛びかかったときは、後でご主人様にこっぴどく叱られた。
きっと彼女は、ご主人様に可愛がられる僕のことが、羨ましくてたまらないのだ。そう思うと、少しかわいそうにも思える。

夜になると、ご主人様が戻ってくる。遅くまで屋敷に戻らない日もあるけど、たいていはご飯の時間の前に帰ってきてくれる。ご飯を食べた後、寝るときまでご主人様は遊んでくれる。遊び疲れて床でうとうとしていると、ご主人様は優しい目をしておやすみと言ってくれる。ご主人様に頭を撫でられると、金色の長い髪に包まれて、なんだか気持ちが暖かくなる。


自分が生まれた場所を、僕は知らない。親の顔も、兄弟も、何も覚えていない。
物心ついた頃には、僕の居場所は路地裏にしかなかった。明日生きていられるかもわからない日々を、僕は泥水をすすって過ごしていた。何も食べれない日がほとんどだった。そこでは全てが灰色で、薄汚れていて、死んでいた。
僕を拾った人の顔は覚えていない。その頃の僕はご飯にありつけない日々が続いていて弱っていたから、抵抗することもできなかった。気づけば僕は檻の中にいて、道行く人々の目に晒されていた。僕は値札のついた、売り物となっていた。
そんな中で、僕はご主人様と会ったのだ。

ご主人様の瞳はとても綺麗な青色だ。
それはいつの日かに見た晴れの空の色に似ている。曇りひとつない、澄んだ青。
僕の目は灰色だ。濁っていて、綺麗じゃない。あの路地裏の日々で見た汚れたねずみ色とよく似ている。
でもご主人様は、僕の目を素敵な色だと褒めてくれる。だから僕は、灰色の目も嫌いじゃない。
それでも、いつかご主人様の目のように、僕の瞳も綺麗な青に変わるだろうか。

ご主人様は、いつも優しい。
忙しい中でも毎日世話をしてくれる。食事も、寝るところもくれて、シャワーはちょっと苦手だけど、綺麗になることは悪いことじゃない。
ご主人様の言葉は全部、僕の宝物だ。初めて優しさをくれた。幸せをくれた。汚れきった、この僕に。
ご主人様のことが大好きだ。許されることなら、ずっとずっと、ご主人様のそばにいたい。

嗚呼、それでも。
寿命の差というものは、あまりにも悲しくて。

遠くから僕の名前を呼ぶご主人様の声が聞こえる。
早く答えたいけれど、息が苦しい。
喉が締めつけられてるように痛い。呼吸ができない。
前には何も見えない。視界はどこまでも真っ暗だ。
ひとりぼっちの中、僕は死ぬのだろうか。
死ぬのは怖いことで、嫌だった。それでも。
それでもこうしてご主人様に会えたのだから。
きっとこの短い人生も悪くなかったのだろう。

ふいに、視界が開いた。
目の前にはご主人様の顔がある。心なしか目の下が少し赤い。ずっと泣いていたのだろうか。
青い瞳。綺麗な空の色。僕の大好きなブルー。
どうかその瞳が、これ以上悲しみに包まれませんように。
さよなら、と声には出せなかったけど。
貴女に会えて幸せでした。



薄暗い部屋の中、電話で誰かと話す女性の声が響く。
「半年で死ぬなんて、聞いてないわ」
抗議する彼女の声には不満が含まれていた。
その身なりや立ち振る舞いから、彼女の身分の高さが窺える。
電話の向こうでは、慌てたように弁解する男の声がぼそぼそと聞こえてくる。
「しかし、アレを拾ったところは、環境がほんとうに劣悪でしたからねぇ…きっと元々病気があったのでしょう」
「だとしたら、そのことを考えて安くするべきです。弱ってくあのこに私は何もできなかったのよ」
「それはほんとにすみませんねぇ…これから気をつけます」
ヘラヘラと笑う声には反省の意が全くなく、女性は大きく溜息をつき、死んでしまったのは仕方ないですわ、と観念したように首を振った。流れるような金髪が、彼女の動きに合わせて緩慢に揺らめいた。ところで、と男が切り出す。
「妹さん、最近どうですか」
「あの子は、私が飼うことをいつも反対するの」
「確かに常人には理解され難い趣味ですからね」
「しばらくは飼わないことにしますわ」
「まぁ、死んでしまったばかりですからね」
「悲しい思いはしたくないですもの」
「はぁ、そうですか…また買いたくなったら贔屓にしてくださいな」
商人の声に、女性は妖しく微笑んだ。

「もちろん。またヒトを飼いたくなったらお願いしますわ」

7日前 No.0
関連リンク: 残影 
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