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猫と幸せの花束

 ( SS投稿城 )
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美桜 @hoep ★EzWHmNBCCi_yoD

 胸に大きな花束を抱えて石畳を駆ける。はやる気持ちを抑えられず、近道をしたくなって細い路地に入り込んだ。食べ物に洋服や本、ありとあらゆる物があふれた賑やかな通りの裏側。そこには表とは一味違う不思議な空気が漂っている。人々の楽しそうなお喋りを背景音楽に狭い道をずんずんと進んでいく。ピンク、オレンジ、白、黄色――色とりどりの春を詰め込んだ花束は、揺れるたびに甘い匂いを振りまいた。あたたかな日差しを浴びてきらめく花びらを見つめては、自然と笑みが浮かぶ。早くあの人に届けたい。

「ちょっと、そこの――」
 誰かに呼ばれた気がして足を止めた。それにしては人の気配がしない。気のせいかと思い歩を進めると、靴音に交じってもう一声。
「そこの、花束を持ったお姉さん!」
 塀の上から私の足元へ、一匹の猫が跳ねた。クリーム色の毛並みをした猫をまじまじと見ると、猫は「そうです、あなたです」と少年のような声で喋った。ここは猫が多い街で、歩いているだけでも何匹か見かける。だからといって人間の言葉を喋るだなんて。けれど、この不思議な空間でならありえるかもしれない。思ったよりは驚かないものだ。

「それで、何の用かしら?」
 花束の形を崩さないようにしてしゃがみ、澄んだ緑色の瞳と目線を合わせる。
「大変不躾なお願いではありますが、花を一輪、分けていただけませんか。今日は大切なあの子の特別な日ですので……。僕もあなたのように花を贈りたいのです」
 なるほど。お金は持っていないだろうし、例え言葉が通じてもお花屋さんでは買えないか。どうして贈られた物でなく贈る物だと分かったのだろう。お花屋さんからつけてきたか、それとも私の態度で判断した? けれどそんなことはどうでも良くなるほど嬉しい。この子も私と一緒で、大切な人の笑顔を見たいというのだから。どの花がいいのかと尋ねる私に、分けてもらう身で選ぶなんてできないと深々と頭を下げる猫。あげるのだったらより喜んでもらえる一輪がいい。もちろんどの花もとっておきの一輪なのだけれど。

「その子はどんな子なの?」
「彼女は……そうですね。お日様のような子です。明るく活動的で、いつもあの子は僕を新しい場所へ連れて行ってくれます。ああでも、泥遊びをした日にはおばあさまにお叱りを受けていましたが……」
「おばあさま?」
「あの子は由緒正しい家の一匹猫なのです」
「話を聞いているとおてんば娘って感じがするわね」
「けれど家柄に相応しい気品や知性も兼ね備えていますよ。真っ白な毛並みはいつでも整っていて――」
 少しばかり「あの子」の自慢話が続く。太陽のように明るく無邪気でありながら、しっかりとお嬢様らしさも持っている、そんな白猫のようだ。「新しい場所へ連れていってくれる」ところはあの人に似ているなと思い、くすりと笑った。
さて、どの花を選ぼう。可愛らしいピンクのガーベラ、鮮やかなオレンジのバラ、天使の羽根のようなマーガレット、陽だまりの色をしたフリージア。……決めた。綺麗な包みからフリージアを一輪抜いて、猫に差し出す。

「これなんてどう? きっと彼女に似合うと思うわ」
「ありがとうございます! 美しくも純朴な花……。あの子にぴったりです」
 目を輝かせ、ぴょんぴょんと跳ねて喜ぶ猫を見ているとこちらまで嬉しくなる。フリージアをひとしきり見つめて満足したのか、今度は真面目な顔をして一礼した。
「お礼に、この花束に魔法をかけさせてください」
「魔法?」
 魔法。猫に魔法が使えるの? いや、喋ることができるのだから魔法を使えてもおかしくないか。
「そうです。ささやかなものではありますが」
「じゃあ、せっかくだからお願い」
 すると猫は花束を自分の方へ向けるように促し、柔らかそうな肉球を花束全体を包むように押し当てた。その瞬間、ふわふわとした何かが舞った。小さなシャボン玉のような形で、色は……黄金だろうか。きらきらと光るそれは、瞬く間に花びらへと吸い込まれていく。思わず息を飲んだ。
「受け取った方の幸せを願う魔法です」
 具体的にどんな効果があるのか猫は話さなかったし、私も聞かなかった。聞かなくても、きっと私の考えていることが正解だ。

 猫はもう一度お礼を言って、私も素敵な魔法をありがとうと言った。しばらくお礼の言い合いが続いたのち、猫は大切そうにフリージアを咥え、器用に塀を伝って行った。その姿を追うように日差しが猫を照らす。もしかしたらどこかですれ違っているかもしれない白猫の、花を受け取った様子を想像してくすりと笑った。やがて路地を抜け人々のなかに紛れた。あのパン屋さんの角を曲がったら、もうすぐそこだ。とびっきりの春の色と匂い、それから猫の魔法。今にもあふれだしそうな幸せを抱いて、私も猫のように駆けていく。

関連リンク: 錯詩、咲く。 
ページ: 1

 
 

美桜 @hoep ★EzWHmNBCCi_yoD

あとがき

ゲームなどでよくあるヨーロッパ風の街並みをイメージして書いています。
上手く表現できなかったので脳内補完でお願いします。
花はなんとなく春っぽいものを集めました。(バラは旬とはちょっとズレている気がしますが)
ここまで読んでくれた方が、花束をもらったような、または一輪の花をもらったような気持ちになれたらいいなと思います。
最後に、縦読みに挑戦しようとしてできなかったので。
お誕生日おめでとう!

6ヶ月前 No.1

激流朱雀 @suzaku1☆92ueQETlAOJB ★Android=tIZ7g4hNIH

なにこれかわいい!!!!
すごく好き!!!!!!!
春っぽい!かわいい文体!

6ヶ月前 No.2

美桜 @hoep ★EzWHmNBCCi_yoD

>>2
そう言っていただけて嬉しいです。特に春っぽさは目指していたものでもあるので。
ありがとうございます!

6ヶ月前 No.3
ページ: 1

 
 
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