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兄妹

 ( SS投稿城 )
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ばでほり @17854 ★Android=V2XtkxYYcb

冒険者ギルドに勤めていて何よりつらいのは、依頼人の期待に応えられないときだ。

たとえばギルドに登録している冒険者と一般人の間で揉め事が起こり、一般人の側から依頼があったとしても、我々は冒険者を守らなければならない。どちらに非があるかは関係無く。

他にも、依頼の内容が法に触れるときも、我々は協力できない。たとえば殺人、たとえば裏取引、たとえばそう、カラとヘレンの依頼のような密出国も、これにあたるだろう。


カラとヘレンの二人は兄妹で、裏路地のある貧しい家に生まれ、育った。
物心つく前に母親は家を出ていき、父親は一日中酒を飲んで暮らした。

一家の稼ぎは、もっぱらカラのひったくりや空き巣でまかなっていた。
父親はカラの稼ぎが悪いと「自分の懐に入れたものを出せ」とカラを殴った。

効果が薄いと分かると、今度はヘレンを殴った。

カラは自分はともかく、ヘレンが殴られることに耐えきれず、次第に危険だが実入りの良い仕事を選ぶようになった。


しかしある日、カラはヘマをやらかした。

その日カラが忍び込んだ屋敷は、ある貴族の屋敷で、この屋敷は今までカラが仕事場としていた家と違い本物のセキュリティを備えていた。

最新式の魔法トラップが作動し、苦もなく捕らえられたカラは一晩を牢屋で過ごし、翌朝になって解放された。

カラはヘレンのことが心配で気が狂いそうになりながら、家へと走った。


家に帰ると、父親は裸で寝ていた。
ヘレンは父親から一番遠い場所で床に座り込み、焦点の定まらない目で壁を見つめ続けていた。服はビリビリに破られ、顔は腫れ上がり、小さく震え続けていた。

カラはそれを見て、何が起こったのかを瞬時に悟った。

カラとヘレンはすぐにありったけの小銭をかき集めると、父親が目を覚ます前に家を出た。

どこでもいい。ここじゃないどこか遠く、父親の手の届かないような新天地を求めて。

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ばでほり @17854 ★Android=V2XtkxYYcb

そして今、私の目の前でこれまでのすべてを話し終えると、崩れ落ちるようにヘレンは泣き出してしまい、私は少し休憩を挟むことにした。

席を立ち、三人分のお茶を淹れながら、私はなんとかしてあの哀れな兄妹の依頼を受けられないか思案してみたが、結果は火を見るより明らかだと思われた。

父親が生きていて、そして彼が望む限り、誰もあの兄妹を父親から引き離すことはできない。妹が暴力を受けたというのは多少同情的な面があるといえ、それでも国の法を曲げるほどのことにはとてもならない。

私は陰鬱な気持ちのまま、お茶が出来上がるのを待った。この作業が終わったら、私はあの兄妹に酷な返答をしなければならない。それは私個人の意見とは異なるが、私がギルドの一員である以上、絶対に曲げられないことだった。

せめてあの兄妹に菓子でも渡してやろうと思い、職員用の休憩室を練り歩く。そんなとき、ある張り紙が目に入り、ふとした閃きが私の頭に生まれる。

その閃きが形になったとき、私は思わず笑い出してしまった。なんてことはない、私は本来の職務を忠実にこなせばそれでよかったのだ。

私は自分が淹れたお茶のことも忘れ、大急ぎで兄妹のもとに戻ると、開口一番こう言った。

「お客様。残念ながら当ギルドではその依頼はお引き受けできません。」



もちろん、兄妹の依頼を断ったのは理由あってのことだ。

私は二人に依頼を破棄し、冒険者としてギルドに登録することを勧めた。

そうすれば二人の身元保証人はギルドになり、彼らが国外に行こうと法的になんの問題もなくなる。

兄妹が最後まで心配していた通り、後日彼らの父親がギルドに乗り込んできたが、そのための用意は万全で負けるはずがなかった。

私は二人のサインが入った申請書を見せ、彼らが自らの意思で冒険者になったことを証明してみせた。

それさえできれば、ギルドには所属する冒険者を守る責任と権利がある。父親の訴えはあっさりと棄却された。

まあ、実際はもう少し面倒な話になったが、概ね想定通りことは済んだ。


カラとヘレンの二人には、アルバリアートという異国の町を紹介した。2年ほど前に開拓を始めたばかりの植民地で、ちょうど二回目の移民受け入れを始めたタイミングだった。

あまり知られていないが、冒険者から希望者を募り移民として送りだすのは、れっきとしたギルドの仕事である。私が休憩室で見つけた張り紙というのは、この移民募集のことだった。


今でも、二人は時折手紙をくれる。

開拓地ということもあり仕事は易しくないはずだが、彼らは文句も言わずよくやってくれているようだ。

そして私が立て替えた船賃を、手紙と一緒に少しずつ送ってくれる。

その返済が終わったとき、私はアルバリアートへ二人を訪ねに行こうと密かに計画している。

そして笑顔の二人と再会し、ゆっくり話をするのだ。新しい住まいや、暮らしや、友人や、将来のことを。

そんな日がくることを、私は心待ちにしている。

7ヶ月前 No.1

ばでほり @17854 ★Android=V2XtkxYYcb

あほがき

キャラを書くのが苦手なので、ストーリーだけを書いてみたらこうなりました。

あと、いつもは最後の一文にけっこう長い時間悩むのですが、今回は珍しく「最後はこうしたい」という形をはっきり持ったまま書ききることができました。
(良かったかどうかは別として。)

タイトルはもともと仮としてつけていたものだったんですが、他に良いのが思いつかなかったため、そのまま本タイトルに昇格しました。ちょっとシンプルすぎだったかもというのが反省点ですね。

最後に、どなたか分かりませんが、いいね押してくださった方々、ありがとうございます。励みになります。

7ヶ月前 No.2

ゴン @gorurugonn ★ANOBAXQECN_c1Z

0番記事をみてばでほり様らしいブラックダークな作品と思いきや、その後1で痛快で気持ちの良いオチがついていてとても面白かったです。
こういう物語の枠内でもその世界観を利用して逆転するみたいな構図はいいですね。読んでいてとてもすっきりするし読後感も爽快でした。
とても面白かったです。ありがとうございました。

7ヶ月前 No.3

ばでほり @17854 ★Android=V2XtkxYYcb

ゴンさん

コメントありがとうございます!
ブラックダークに寄ってしまうのは、なんとなくその方がオチとして分かりやすい気がしてしまうからなんですよね。

その点、今回は自分の作風を広げられたような気がして、ちょっぴりお得な感じです。

読後感が爽快というのは多分初めて言われたので、とても嬉しいです。
どうもありがとうございましたm(__)m

7ヶ月前 No.4
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