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魔法使い

 ( SS投稿城 )
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激流朱雀 @suzaku1☆92ueQETlAOJB ★nbkWjzid98_WcJ

 持病で死ぬ直前に時間を戻す魔法を使った。

 彼女の誕生日にあたるクリスマス当日。それなのに、死んでしまう自分が情けなかった。
 自分の魔力を最大限に使って戻せたのは五年前。彼女に告白する少し前。本当は彼女と出会う前に戻れたらよかったのに。なんて、それはさすがに高望み過ぎた。
 戻れたのは束の間。魔力は全て失った。五年も前にさかのぼったのだ。代償としては等価であろう。魔力を失った事実を受け止めることは容易にできた。
 もともと魔力なんて、非科学的なエネルギー。持っている方がおかしな話。今まで余計な魔法を使わずに生活していてよかった。もしも過去へ戻るための魔力が足りなかったら、悲惨だったに違いない。最初で最後に近い魔法。自分が特別な人間である事に、初めて感謝した。
 着いた先はよく歩いた裏通り。日没までには少しあってまだ街灯はついていない。しかし分厚い雲が空に覆いをしているから、まるで夕暮れのような薄暗さだった。

「この日は確かに雨だった」

 滴る雨は涙の様。俺の代わりに泣いている、なんてそんな臭いセリフは言えた年じゃない。

「どうしたの、神無月」

 すでに体は濡れている。それなのに駆け付けた親愛なる彼女は俺に赤い傘を傾けた。

「俺は雨に好かれているからね」

 五年後の結末を知っているから、自分がこの後取る行動と真逆の事をすればいい。そうすればきっと未来は変わるだろう。俺の知らない、けれど俺が望んだ未来。

「それを言うなら、私はあなたに降る雨になりたい」

 記憶にあるセリフと重なった。あの時、俺は彼女に好きと告げた。彼女の体を抱き寄せて、彼女がその赤い傘を取り落す。二人で雨に濡れて、そのまま何度も好きだと告げた。

「悪いが、俺は君を好きになれない」

 未来という結末を知っていれば、ここで好きと告げることがどんなに残酷か、俺は知っている。

「どうして」

 彼女は傷ついたように訊ねる。それはそうだ。彼女とは幼馴染で友達以上恋人未満。そしてこの気持ちは告げなくても両思いだとお互い自覚できる程。

「君を好きになれない理由を告げるのは酷だから聞かないで貰いたい」

「あなたは優しい人だって知っているわ」

 傘の柄を強く掴んで彼女は少し背を丸めた。肩を落とした彼女に俺は決定的な別れを告げなればならない。

「ごめん、だから会うのは今日を最後にしよう」

 元々、会う時間を無理やり作り出していたようなものだった。学生とは違い、社会に出て三年目。生活リズムも違うし、住んでる地域も違う。彼女も彼女の生活があって、仕事がある。好きだから無理をしてでも会う時間を作り出していたようなもの。

「聞き分けが無い女でごめんね」

「え、」

「私はあなたが好き」

 そう言って、彼女は傘を放り投げた。水たまりの中に真っ赤な傘が転がり入る。雨がそぼ降る中、彼女は俺に抱き着いた。

「好き、好き、好き」

 なんども、彼女は好きと重ねる。彼女は自分が濡れるのもお構いなし。俺の肩に顔を押し付けて、ずっと耳元で好きと呟いた。

「俺は、君の気持ちに応えられない」

 過去の自分と重なる告白。カミサマに嫌われているのか、過去は変えられないと現実を押し付けられていた。

「応えなくていいよ。それでも私はずっとあなたのそばに居る。だって神無月も私の事が好きだから」

 彼女の言葉に全身が熱くなる。唾をのみ込んで、彼女を引き離そうとすると自分の手が震えていた。
 俺は言わねばならない。ここは彼女にダメだと示さなければいけない。じゃないと未来が変わらない。

「それは困る。俺は君が、」

 嫌い、だと。嘘を吐かねばならないのに。

「好きだから、困るんでしょ」

 彼女は俺の言葉を代わりに続けた。

「ちが、」

 すぐさま否定しようとしたら、彼女は俺の言葉を遮るようにキスをする。柔らかい、リップの乗った甘い唇が触れた。

「あなたとだったら、不幸にだってなってもいいの」

 目先で微笑む彼女はまるで聖女のようだった。

 雨は降り注いだまま、雲の切れ間から夕陽が射しこんだ。濡れた髪の毛に滴が乗って、オレンジ色の光が彼女を照らす。まるでヤコブの柱の真ん中に彼女が立っているかのような錯覚に陥った。

 記憶にない、空が晴れるという事象に俺は目を丸くした。

「君も、」

 言いかけた言葉は奥歯で噛みしめた。女性に対してこの言葉はずいぶん無粋で滑稽だからだ。

 そんな俺を察したようで彼女は自分の唇に人差し指を当てて、にっこりとした。
 雨が静かに上がる。俺の記憶では次の日までずっと雨が降っていた。
 改竄される未来に、一縷の希望を抱いてしまう。

「好きになって、ごめん」

 今度は俺が彼女を抱き寄せた。それからずっと彼女に好きと囁いた。
 本当に申し訳ないと思った。愛すると言う事ができない人間だったらどんなにいいか。自分という生き物を心から呪った。

「謝らないで。私は幸せだから」

 救われたのは俺の方かもしれない。本当は、彼女の事を救うために過去に戻ってきたのに。
 彼女がツラくないように、俺と結ばれないルート分岐を選択するはずだったのに。
 情けない話だ。……それでも俺は、彼女の事を愛さずにはいられない。

 魔法なんて使えても意味がなかった。誰よりも彼女を愛おしいと自覚していたから、使えたところで運命は変わらない。
 俺が彼女を好きである時点で詰んでるルート。

 そうして俺は魔法使いだった愚かな男に成り下った。


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激流朱雀 @suzaku1☆92ueQETlAOJB ★nbkWjzid98_WcJ

あとがき

魔女の誕生日は12/25っていうのを聞いて、俺があと2日はやく産まれていたら魔女だったのではないか説が浮上して書いた。
脳味噌使わないで書くとこうなることが判明したので、次はちゃんと落ちがあっておいしい話が書きたいです。
がんばろ。

18日前 No.1

☆fv4evQ2JzDA ★iPhone=KlDM4eZ2T6

変に小上手くやらない、いい掌編だと思います。
強いていうなら、「晴れるという記憶にない事象」「過去の変革」が、ラストにあるといいなと思います。これは好みですが。

例えば、記憶では告白して結ばれた次の日まで雨が降っていて、ずっと部屋で手を繋いでいたとか、そういう「記憶」を前に記しておく。

完結部で晴れたことだけを示せば、気づく読者は気づきます。
過去の改変をそのまま言葉にしてしまったことが、少し勿体無い要因でした。笑 ただこれは繰り返しますが好みです。
未来はそのままかもしれないという哀愁もまたこの作品の良さに一役買っているので、なんとも言えませんね。

鋭意創作、応援しています。

13時間前 No.2
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