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銅鑼

 ( SS投稿城 )
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立川寿限無 ★n5nvjwNlfC_MXH

 銅鑼をもらった。というより、持って帰った。
 亡くなった祖父の家は空き家になっていて、掃除をしにくことがあるのだが、その時に庭の倉庫から見つけた。銅鑼を鳴らすバチも付いていた。私は「銅鑼がある自宅なんて面白くない?」という発想から、持ち帰ったのだった。その銅鑼はベランダに置いた。
 さっそくSNSにでも投稿して、この奇抜で斬新な発想に「いいね」を荒稼ぎしようとしていたが、かなり根気を入れて掃除し、自宅から遠く離れた祖父宅へ行ったこともあって、帰ってきたら疲れてしまっていた。明日も早いし、などと明日の予定も把握しないまま眠りについた。

バァアアアアンンッッ!

 突然の轟音。毎朝、私から無駄な時間を奪っていく睡魔を一瞬にして吹き飛ばした。すばらしい目覚めに感激しながらも、なにが起きたのだろうと不思議に思った。窓に足を向けて私は寝ていた。その先にはベランダ。そしてそこには銅鑼。あの音はまさにコイツの音だ。
 しかし、なぜ鳴ったのだろう。そしてあの轟音だ。きっと他の住人も起こしてしまったに違いない。私は一人、某マンションの4階に部屋を借りていた。
 いつか来るであろう隣人からのクレームにビクビクしながら、私は出勤した。

 そして次の日の朝。またもや、あの轟音で目覚めた。そこで私は気づいたのだ。この銅鑼は、私にとってベストな朝を迎えられる時間帯に起こしてくれる。私はすこぶる感動した。ありがとじいちゃん。なんであなたがこんな珍妙なものを、まるで封印でもするかのように倉庫にしまっていたのかは知らないが、素晴らしい仕事をしてくれます。
 だが、その日の朝を境に異変が起こっていった。

バァアアアアンンッッ!

 目が覚める。しかし、それは昨日よりか数分早い目覚めだった。

バァアアアアンンッッ!

 目が覚める。昨日より三十分早い目覚めだ。もう少し寝たいところだ。

バァアアアアンンッッ!

 目が覚めると、外はまだ暗かった。もう一度寝ようとしても、銅鑼の音が耳について寝ることなんて出来ない。そうして私は徐々に寝不足になっていった。
 それは、私が経験したことのないものだった。若いころはよく深夜まだ起きていても何ら問題がなかったが、サラリーマンとして10年近く働いてきた私の体は、そのような寝不足は命とりであった。集中力は散漫になり、仕事の能率は落ちる。そしてとんでもないミスをやらかし、上司に怒られてしまう。とんでもないミスをやらかした自分と、そんな自分を頭ごなしに怒鳴り散らす上司に、イライラがつのった。
 正直、かなり過敏になっていたのかもしれない。
 銅鑼の猛攻が続き、しかし、それでも休むことなく出勤していたある日のこと。またもやミスをしでかした私に、上司はこう言い捨てたのだった。

「ったく、使えねえなぁ」

 普段の私なら、その一言は聞き流してしまうものだ。しかし、その日ばかりは違った。

「おい」
「ん?なんだよ。ちょっとまて、今、お前、『おい』って言った?」
「お前」
「おい、ちょっと…」
「殺されてぇのかよ」

 真夏のオフィスが凍り付くのが判った。すぐに、怒りの熱も冷めてしまったのだが、自分の言ったことを撤回するのは何だか格好悪い気がした。そんなしょうもない威信から、私は上司を睨みつけていた。
 そんな、私の間に入ったのが、同僚の「玉置」という男だ。そいつのお陰で何とかその場をやりすごすことができた。

「どうしたんだよお前」

 さぞ、心から心配しているような顔をしながら、昼休憩中に尋ねてきた。この男のことだ。本当に心から心配してくれているのだろう。私はそう思って、ことのあらましを話した。すると、玉置は銅鑼に強く興味を示した。なんと、それを見たいがために、私のマンションにお邪魔するという。
 心配してくれるのはありがたいところではあるが、さすがにお邪魔である。だが、彼の懇願を断り切れなかった私は、彼を玄関に上げることとなった。

「銅鑼ってどれだ?……あぁ!これか!へえぇ…マジなやつじゃん!」

 随分なテンションの上がりようである。あまり人を上げたくない私からすれば、銅鑼を見たら早々と帰ってほしかったが、玉置の右手にはコンビニのビニール袋。その中に数本のアルコール飲料。

「ちょっと叩いていいか?」
「いいわけないだろ。何時だと思ってる」

 私の言葉など馬耳東風か。ガラガラと窓を開けてベランダに侵入する。バチを手に取り、大きく振り被った。こいつマジか。やめろ!という声が喉を通る前に、バチが銅鑼のど真ん中に振り抜かれた。

バンッ

 固定された薄い鉄板に強く衝撃を加えたような音。ただ、それだけの音が響いた。

「なんだ、イメージと違うなぁ……」

 まったくその通りである。
 私が銅鑼の音を聞いたのは早朝、もしくは深夜。しかし、いま目の前で鳴らされた音は、あの時聞いた音ではない。まったく違う。耳ごと吹き飛ばすのではないのかというほどの、脳みそを激しく揺り起こされるような感覚を覚えるほどの、あの衝撃的な轟音ではない。
 となると、私が聞いていたのはなんだったのだろうか。

 それからは、もう銅鑼の音に悩まされることはなくなった。きっちり目覚まし時計で、定刻に起床する。
 銅鑼はリサイクルショップに出した。1万円で売れた。

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ゴン @gorurugonn ★ANOBAXQECN_jmr

着想が飛躍しているというその一点においても特筆に値すべきSSだと思いました。
立川寿限無様らしいシュールな展開。
とにかく冒頭がものすごいインパクトでしたね。
とても面白かったです。

18日前 No.1

激流朱雀 @suzaku1☆92ueQETlAOJB ★nbkWjzid98_Qks

どういうことなの(困惑)
バァアアアアンンッッ!
おもしろかったです!(寝起き)

17日前 No.2
ページ: 1

 
 
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