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ワルシノアンと二人で地獄(162のお題より)

 ( SS投稿城 )
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金河南 @kinkanan☆.SsexIS0/ro ★e290A54w3J_0GX

気がつくと私は、男とふたりで乗り物に乗っていた。

霧のせいでよく見えないけれど、
時折前方に見える茶色の躯体……鳴り続ける蹄のような音…どうやら馬車のようで。
ここが馬車だとして、どうして私は知らない男とふたりで移動しているのか……、
思いだそうとしても、記憶すら霧の中へ溶け込んでしまったようだった。

男をちらりと見る。

茶色のスーツ。
茶色の帽子。
白と赤の、まだら模様のマフラーを首からさげている。
スッキリした顔立ちの青年だったけれど、
見覚えは……まるでない。

と、目が合う。男はふんわりと微笑んだ。


「――可愛いエプロンですね」


視線を下に移すと、たしかに私は白いエプロンをしていた。
けれど所々になにか、赤い、シミのようなものがー…、

「ヒッ?!」

思わず声が出る。

今、はじめて気が付いた。
私の右手は、
ずっと包丁を握っていたのだ。
そして
血が、
赤い血が、
右腕にかけてベットリとこびりついている。

同時に思いだす。私は。


私は
生肉の調理中に、この男に殺されたのだ、と――。


「あれっ、どうしましたか? 具合でも?」

男が問いかけてくる。
赤いマフラーが記憶と二重にゆらめいて、私は顔をそむけグッと身をよじった。

「あ、自己紹介まだでしたよね。オレの名前はワルシノアンです。奥さん、思いだしたんですね……」

男、ワルシノアンは
クツクツと笑ったあと、更に続けた。

「馬車の人に聞いたンですけど、ココ、地獄みたいですよ。もうすぐ裁判所に着くみたいなので、もうちょっとの辛抱ですから」
「じっ、地獄……?」

「あっ、なンか、ショーニンカンモンってヤツみたいですよ。殺した奴の、えーっと、ショーゲンのイッチ? みたいのを調べるとかって言ってました。あぁ、地獄の裁判所ってどんな所だろうなぁー…」

私は更に思いだす。

チャイムの音と、家に押し入ってきた男――ワルシノアン。
見開かれた目に、憎しみが宿る。
その形相。
おろされた拳。衝撃。
床の冷たさ。
手が。
首に、息が、あ、く、苦し……、

彼を…残して逝くわけには……。


――ガタン!


馬車が急に停まる。

ワルシノアンが降りたあと、黒いフードを被った御者が私に手を差し伸べてくれた。
包丁を持ったままの右手は使えないので、左手を出し、馬車から降りた。

一瞬キラリと光ったのは、
彼から貰った薬指のリング。


一緒に地獄に持ってきてしまったみたい。
あの、
新居の、
清潔なキッチンを思い出してすこし、涙ぐんだ。


私が死んでしまって……彼は今頃どうなってしまったのだろう……。


黒のフードをかぶった従者に案内されて数分、
ようやく裁判の会場に着いた。白い空間。
私は中央の台に立ち、ワルシノアンは横の席へ。
黒い服の男たちが、ひどく高い席から私を見下ろしていた。

カンッ、と、裁判長のハンマーが振り下ろされる。

証言、といっても、あまり記憶もないし……。
何を話そうか悩んでいると、横から
「皆さん!」

声が飛んできた。


「この女は極悪人です! 殺人という罪を犯した、しかもそれは! 彼女を愛していた善良な一市民に対し行われた、残虐な! 非道な! とんでもない犯罪だったのです!!」


「なッ……!?」

 声の主はワルシノアン。
 なぜ??
 私を殺した犯人が、私に罪を押しつけようというの?!

「何を言っているの? 殺してきたのはそっちでしょ?! わ、私は、ただ料理してただけー…」

「聞きましたか皆さん!!
 彼女には罪の意識というモノが全くありません、極刑を望みます!!」


ぞわぞわと不安が押し寄せてくる。
誤解なのに。
誤解されて、
私が犯罪者になりかねない。
高い位置にいる裁判官たちを見上げるも、
フードが邪魔で表情は窺えない。

「ちっ、違います!
 私じゃありません!!
 私は肉を切ってただけで、だから、包丁も違うんです!
 あの男のマフラーを見て下さい!
 きっと白のマフラーが、私を殺した時の血で赤くなったはずでー…」


 ワルシノアンの冷えた目が、私を射る。

「これはこういうブランドなんですよ、奥さん。それに、オレは首を絞めて殺したんだ。血なんて着くはずないんですよ。
 ……訊きかたを変えましょうか。
 その指輪。どこのブランドです?」


「――えっ?」


私は左手の薬指を見る。
彼から貰った結婚指輪。
幸せになろう、
二人で一緒に、
そう誓った指輪。これはー…。

「このマフラーのブランドと同じですよ、奥さん。
 オレがあいつに紹介してやったんだから。
 ……あいつは本当にイイ奴だった…幸せにしてやるんだって、言ってたのに!!
 ――ねぇ奥さん。あいつは奥さんが死んで、今頃どうしていると思います?
 泣いてる?
 それともー…」


「……腐ってるでしょうね。残念。……?!」


 自然と口をついて出てきた言葉に、私は自分で驚いた。

 腐…って……??


「ほらッ!! 聞きましたか陪審員の皆さん、この女は畜生以下の存在だ!
 善悪というモノがなんなのか、それすらわかっちゃいない!!」

「本当になんなの!! 私はただ料理をしていただけなの! 彼のために、彼と、二人でー……」

 幸せになるための料理を――
「生肉、を、」

 彼と一緒になるための――
「切って、」

 彼とひとつになれる――

「料理、を……」


ぐらぐら揺れていた記憶が、ようやく鮮明になる。


殺した彼の肉を切断していた私、
チャイムの音、
押し入ってきたワルシノアン、
驚きで見開かれた目、
憎悪の表情、
私が死んで

……彼は今頃どうなってしまったのだろう……

腐って、
鑑識にまわされ、
焼却されてしまったのだろうか。


「こ……、これだけは言わせて下さい私は! 彼を、愛してました……」

「嘘だね」


 ワルシノアンの言葉を最後に、裁判長のハンマーが、振り下ろされた。




 ――カンッ。

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