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砂糖菓子のありか

 ( SS投稿城 )
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美桜 @hoep ★Y2Ap7TBJxP_yoD

 この世界は魔法で溢れています。小さな幸運は、見えない誰かのかけた魔法だったのかもしれません。ですがまれに、その存在を認識できる人間もいるのです。これはそんな少女と、天使のお話。

 少女は好奇心の強い人間でした。どんな小さなものも捉えるその瞳が、天使をじっと見つめます。天使はひどく慌てました。天使は少年の姿をしていますが、背中に生えた翼は隠しようもありません。「もしかして、あなたは天使なの?」と目を輝かせる少女に、驚きと喜びを抱く天使。二人はすぐに仲良くなりました。こうして、少女は未知の世界の扉を開いたのです。少女は天使や妖精、魔法使いたちと触れ合い、この世に溢れる多くの魔法を知りました。

 ある日は天使と手を繋いで空を飛び、迷える人々を導く天使を見守りました。ある日は妖精と共に冒険をし、またある日は魔法使いに魔法を教わりました。黒猫の使い魔を召喚した日には、大喜びで天使に知らせたのでした。ところが、あるときから能力が衰えはじめます。ついには空を飛ぶこともできなくなってしまいました。そこで天使は気づきます。出会った頃は小さかった少女が、いつの間にか自分の背丈を越していることに。人間は成長し、やがて老いていくことを知識としては知っていましたが、実感するのは初めてでした。

(あの子に僕たちの姿が見えたのは、子供だったから)
 いくつかの偶然と生まれついての素質、そして、無垢で無知な子供の心が少女を魔法の世界へ導いたのです。
(このままでは、いつか――)

 困った天使は、物知りの魔女に相談します。
「今なら間に合う。彼女の成長を止めてしまえばいい」
 ささやいて、魔女は天使に小瓶を渡しました。少女の瞳と同じ澄んだ青色の液体が入っています。
「これを飲めば彼女はこれ以上成長しないよ。そして、これには人間としての存在を消滅させる効果もあるんだ。人間でなくなれば、魔法使いとして生きていく道もある」
「そんなこと……」
 できない、と言いかけて天使は黙り込んでしまいました。握りしめた小瓶がわずかに熱を持ちます。

 ある春の日のことです。暖かな午後、木漏れ日の注ぐ木の下で、少女は読みかけの本を閉じました。間もなく十六歳を迎える少女の瞳は、普通の人間と同じ状態になりかけていました。

「ねえ、そこにいるの?」
 少女はぼんやりと見える天使に声をかけます。天使は短く返事をしました。
「あのね、幸せだったの。まるで砂糖菓子みたいに甘い日々だったわ。私はなにひとつ忘れない。全部持っていく。魔法が使えなくなっても、魔法を通して学んだことは絶対に消えないのだから」

 語る少女の横顔は天使が初めて見るものでした。明るく無邪気に笑い、悲しいときには声を上げて泣いた少女が、今ではとても強く凛々しい表情をしています。切なさを含んだ、気高く美しいその姿に、天使は息を飲みました。

(ああ、そうか……。君は前に進もうとしているんだね)
 少女を人間の世界から攫ってしまえば、永遠と引き換えに可能性を失います。有限の命だから生み出せる無限の可能性を、その輝かしい未来を見てみたいと天使は思いました。これまで共に過ごした日々も、少女の未来のどこかで生き続けるのでしょう。

(引き留めるなんて、できるわけがない)
 永遠の少女。今までと変わらない日々。時間の止まった甘い世界。けれどそこには、望んだ未来などありはしないのです。

「ありがとう。僕も幸せだったよ」

 天使が笑い、少女も微笑み、それを合図に黄金の光の粒が舞いはじめました。青く柔らかな空に、少女の魔力が溶けて吸い込まれていきます。花びらのように踊るそれは、旅立ちを祝福しているようにも見えました。最後の粒を見送って、天使は飛び立ちます。少女の目には一瞬だけはっきりと天使が映り、そしてゆっくりと消えていきました。少女の手のひらに、一枚の白い羽根を残して。

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美桜 @hoep ★Y2Ap7TBJxP_yoD

あとがき

以前書いたSSの作中小説の一部として書いたつもりです。
今読み返したら「大人の女性が子供時代を回想する形で」となっていて、少々ズレはありますが、まあそれはさて置き。

・一読して「悲しい話だ」と思うけれど、よく読むと「悲しくない。成長を描いた話だ」と思える。
・児童文学作家がいつもより対象年齢を上げて書いた作品(中学生向け)

……こんな設定でしたが、実際に書くとこれじゃない感が半端ないですね。
とりあえず悲しい話として書いたつもりはないです。
魔法魔法というわりにろくな魔法の描写がありませんが、ファンタジーが苦手な人間にはこれが限界でした。なのに定期的にファンタジーを書きたくなります。
こういう文体で書くのもメビでは初で、いつも以上に淡々とした文章になりましたが、書いていて楽しかったので良しとします(笑)

8ヶ月前 No.1
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