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ハッピーホワイトデー

 ( SS投稿城 )
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ひとつき @tutunuke ★iPhone=fP3Ri4xnN5



 どうもハルヤの様子がおかしい。
 バレンタインデーのお返しがしたいと夜にLINEがあったのは一週間ほど前。何回かやり取りをして言いたいことがあるというハルヤの家で会うことになった。
 日時は土曜日の昼。何でもいいから泣けるDVDを借りて来てとハルヤは言う。なんで? と返信してみたけど、とにかく借りて来ての一点張り。仕方なく分かったと返すと、ありがとうのスタンプが送られてきた。
 その約束を交わしたきり、ハルヤは学校で出会ってもなんだか素っ気なかった。登校はいつも通り一緒だけど、ハルヤからは何も話さないし、私から話してもどこか上の空。

 話したいことって何だろう。

 私の頭の中はそれでいっぱいになった。ひょっとして、別れ話だろうか。私がバレンタインをあげたから、最後にお返しだけでもしようなどと思っているのかもしれない。ハルヤは優しいし、十分ありえる。けれど別れなければならない程、不仲になった覚えはない。ケンカだってしたことなかった。でもそれはハルヤが、私のわがままを聞いてくれていたからだ。私にはうまくいっているように思えるだけで、ハルヤは私に愛想をつかしている可能性もある。悩めば、悩むほど堂々巡りするだけ。やめやめ、と自分に言い聞かす。それなのにまた考えてしまう。
 私までおかしくなりそうだった。


 **


 気分が晴れないまま迎えた約束の日。通されたハルヤの部屋は相変わらず綺麗に片付いていた。久しぶりに来たからか、ちょっと大人っぽくなった気がする。けれど世界地図だらけの壁も、星型の蓄光シールが貼られた天井も前と変わらない。変わったことと言えば、ローテーブルの下に真新しいラグが敷いてあることぐらいだ。少し前に来たときは、いかにも子ども部屋という感じのクマさん柄だった。それがネイビーの無地に変わっている。ただそれだけなのにとてもシックでかっこよかった。ちょっとしたことでも変わるんだなと関心しつつ、どうぞと言われたふかふかのラグに座る。

「なんか雰囲気変わったね」
「そうかな」

 ハルヤは一応返事をするけれど、目がキョロキョロと泳いでいる。自分の部屋のくせに落ち着かない様子で、一度座ってからまたすぐに立ち上がって直立した。まさに挙動不審だ。しまいには直立したまま準備してくると言って部屋を出て行ってしまう。
 残された私は改めてハルヤの部屋を見渡した。何度も来たことがあるのに居心地が悪い。それもこれもハルヤがおかしいからだ。本当に今日、別れようなんて言われたらどうしよう。じわっと涙が出そうになるのをなんとかせき止める。泣いたらだめ。泣いたら私も情緒不安定の挙動不審になってしまう。
 気を紛らわすのにラグをなでてみる。逆立たせては元に戻すのを何度も繰り返す。そうして落ち着いて来た頃だった。ハルヤがマシュマロやら、ポテトチップスやらのお菓子とペットボトルのミルクティーを抱えて戻ってきた。ハルヤの後に続いてハルヤママがひょっこり部屋に入ってくる。ハルヤママは私のママより若い。歳もだけど、着ている服が若々しいというか。明るい髪色がよく似合っていて素敵だ。ママの持つお盆には、コップが二つと苺のパックと竹串。ママはそれをテーブルに置いて、あとはごゆっくりと言って出て行った。

「あ!」

 お菓子やらを机に置いたハルヤが何かに気づいて声をあげる。

「母さん! 皿持ってきて!」

 ハルヤが廊下に出て叫ぶと、ハルヤママの元気な声がする。それからすぐに皿を持って来てくれた。ハルヤはママから皿を受け取って部屋のドアを閉めると、私の隣にやって来て正座した。私も正座してハルヤの方に向き直る。皿を机に置いて、深呼吸してからようやくハルヤが口を開いた。

「今日は、チョコレートフォンデュをしようと思います」
「いぇーい! ん?」

 チョコレートフォンデュ? 確かに机の上のお菓子や苺は言われてみればチョコレートフォンデュの材料だけど……。

 肝心のチョコレートがない。

「チョコレートは?」
「まずはDVDを観ながら食材の準備をします」

 ハルヤは私の話をスルーして料理番組さながらの調理説明に取りかかる。いや、だからチョコレートは? 再度聞いても「まずは竹串にマシュマロを……」と聞く耳持たずで説明を続ける。妙なテンションだ。何もかもが振り切れてしまったみたい。
 もしママがチョコレートを準備中だとしたら、何も手伝わずに美味しいとこだけ楽しむようでちょっと申し訳ない気もする。けれどハルヤ先生によって調理アシスタント役に任命されてしまったので、今日はママに甘えようと思う。後でちゃんとお礼を言わないとな。そう思いながら、調理アシスタント任命の証に渡されたマシュマロの封を切る。

「じゃあDVD観よう」

 ハルヤがそう言って手を出してくるので、借りてきたDVDを袋ごと渡す。受け取ったハルヤは何のDVDかを確かめることもなく、三枚借りてきた内の一番上にあったやつをデッキにセットする。
 誰もが知ってる定番のアニメだ。まず初めに選ばれたのは友達が未来に帰ってしまう話。泣けるDVDと言われても正直よく分からなかったので、子どもの頃から大好きなこのアニメの特に泣けた話を選んできたのだ。マシュマロを二つくらい竹串に刺したところで本編の再生がはじまる。ちょうどその頃を待っていたようにハルヤが私の名前を呼んだ。そして、一言。

「チョコレートフォンデュは俺が泣けたら始めるね」

 全く意味が分からなかった。なんでハルヤが泣けたらなの? と聞き返してみたけど、すでにDVDに集中していて答えてくれない。私は邪魔しないように黙々と準備をするしかなかった。


 **


 それからしばらく竹串にマシュマロを刺しながらDVDを観ていた。ハルヤが泣く気配は微塵もない。それどころか、私の方が泣いてしまいそうだった。定番のアニメなので、この話の結末もほとんどの人が知っているのだけど、私は何度観てもだめだ。だから途中からは見ないようにひたすら手を動かしていた。一本目から先に泣いてしまうのはハルヤに悪い気がする。後はどうでもいいけど、最初くらいは泣かずにやり過ごしたい。マシュマロの串がたくさん出来たので、鈴カステラの串も作りかける。とにかく何かしていないと泣いてしまいそうだ。しかしそうやって私が泣かないように苦心している間も、ハルヤは泣きそうにない。

 結局、最後まで観てもハルヤは泣かなかった。

 ひとつ息を吐いてハルヤが項垂れるように机へ突っ伏す。そのせいで机が揺れて皿の上に出来上がったマシュマロと鈴カステラの滅多刺しタワーが崩れた。立て直すついでにマシュマロを一つ頬張ってみる。これだけでも十分甘い。これにチョコレートなんかつけたら甘すぎるくらいだと思う。だけど何だか楽しみだった。もしチョコレートフォンデュの後にハルヤが別れ話をして来るとしても、それまでは楽しんでもいいと開き直る方がいつもの私でいれる気がした。

「どんどん行こうよ」

 私がそう言うとハルヤがDVDを入れ替える。次は結婚式前夜の話。男の子のハルヤには効かないかもしれないと思いながら選んだやつだ。何故、よりによってそれを……。心の中で恨めしく思いながら、厚切りポテトチップスを開けた。塩辛いものを挟まないとチョコレートフォンデュが始まるまでに胸やけしてしまいそうだ。隣に座るハルヤもポテトチップスに手を伸ばしてくる。さっきは緊張している感じだったけど、今はちょっと余裕がある。だけどやっぱり泣く気配がない。
 男の子が泣ける話ってどんな話なんだろう。そんなことを思いながらDVDを観る。せっかく借りて来たんだから私も観ないと損だ。それにマシュマロと鈴カステラだけで十分チョコレートフォンデュをできる量があった。これなら手を止めても大丈夫だろう。何もしないで観ていたら、多分泣いてしまうけど。もう二本目だしそれでもいいや。コップにミルクティーを二人分注いで、一つをハルヤの前に置く。ハルヤが何も言わない代わりに軽く会釈をしたのを見ながら、自分のコップに口をつけた。なんだかいつも通りだ。ここ何日かハルヤがおかしくて、私もおかしくなりそうだったのに今のやりとりは自然で嬉しかった。ちょっと満足した気分で続きを観る。それからしばらく、二人で黙ってDVDに集中していた。

 けれど結局、ハルヤに結婚式前夜は効かなかった。

 そしてやっぱり私にはよく効いた。ヒロインの結婚相手はちょっと頼りないし、何をやってもだめだけど、一途で心の底から優しい人。そしてその人を選んで正解だと背中を押してくれるパパ。もし自分が結婚する時こんなだったらと思うと、いつも感動して泣いてしまう。涙が止まらない私を見かねた様子のハルヤにティッシュとゴミ箱を差し出される。差し出した本人はなんだか暗い顔で先に泣かれると泣けないの法則だ、と言って膝を抱えた。それからため息を吐いて膝に顔を埋めてしまう。

「ともちゃんのバカ……」

 そう呟く声はくぐもっている。一向に顔を上げないハルヤの背中を軽く叩いてから、私はDVDを入れ替えた。次は主人公の生まれた日の話。私にもハルヤにもそんな日があったはずだし、これなら泣けるだろう。

「ハルヤ、DVD始まるよ!」

 もう一度背中を叩くと、のそっと顔をあげる。それからじっとテレビを見る。横顔がさっきより真剣だ。私は苺のパックを開ける。今度は先に泣かないようにヘタをむしる手元に集中した。
 けれど全部むしっても、話はまだ中盤。仕方なく苺も竹串に刺していく。テレビの方は見ない。見たらだめだ。私が先に泣いたら、ハルヤが泣けない。泣いたらだめ、泣いたらだめ……。頭の中で呪文のように繰り返す。

 結局、私が堪えてもハルヤは泣かなかった。

 泣かないようにするためにずいぶん神経をすり減らしたような気がする。糖分補給をかねて苺をひとつ味見してみた。甘酸っぱくておいしい。チョコレートにもよく合いそうだ。しばらく苺を堪能していると、隣のハルヤが膝に顔を埋めたまま呻いた。泣こうと思って泣くのは確かに難しいかもしれない。ただでさえハルヤは普段絶対に泣かないから、泣いているところが想像できなかった。それにDVDも今観たので終わりだ。
 苺の果汁で赤く染まった竹串で、ハルヤの頭をつっつく。男の子が簡単に泣いたら嫌だ。だけど今は違う。ハルヤが泣かないことには、チョコレートフォンデュが始まらない。でも無理に泣く必要はない気がする。そもそもチョコレートフォンデュをするのに、何故ハルヤが泣かなければならないのか。全く分からなかった。

「……何で泣けないんだろ」

 消え入りそうな声だ。

「別に無理に泣かなくてもいいじゃん」
「だめなんだって!」

 ハルヤが急に声を荒げる。本人も驚いたみたいで、続く言葉はまた消えかけの小さい声になる。泣かないとだめなんだ、そう言ってまた膝に顔を埋めてしまう。泣くことにどうしてここまで必死になるのだろう。もはや何と話しかければいいのかも分からず、唇を噛んでハルヤを見つめてみる。それからしばらく、二人して黙りこくってうつむいていた。

「ともちゃんに、言わなくちゃいけないことがあるんだ」

 口火を切ったのはハルヤだった。私はハルヤの言葉にドキリとする。何? と聞き返した声が震えてしまった。崩していた足を正座に戻して、膝の上で手をぎゅっと握って、続く言葉を待つ。聞きたくないけどひと思いに早く言って欲しい。待てば待つほど緊張して心臓の脈打つ音が聞こえて来そうだった。それなのにハルヤはなかなか話し出してくれないのである。抱えた膝を見つめてうつむいているせいで、表情もよく見えない。

「ハルヤ、なんなの?」

 さっき泣いたせいか目が熱い。すぐにでもまた涙が出そうだ。でも堪えてハルヤが何か言うのを待つ。
 ハルヤは意を決した様子で「あのね」と言って私の方に向き直り、正座をする。それから小声でぽつりぽつりと話し出した。

「ともちゃんにいつか言わないといけないとは思ってたんだけど、なかなか言い出せなくて……。ずっと内緒にしてたことがあるんだ。信じられないかも知れないけど、とりあえず聞いて欲しい」

 不安そうな顔のハルヤと目が合う。なんだか今にも泣きそうだ。


「実は、俺ね、涙が……チョコレート、なの」
「は?」


 予想してたのと全然違うハルヤの話に思わずそう言ってしまう。そんなに怖い言い方をしたつもりはないのにそれを聞いたハルヤは肩を飛び上がらせた。ひっ、と短く悲鳴をあげてわなわなする。そして落ち着かない様子でうつむいて、聞き取れないほど小声で何かぶつぶつ言っている。明らかな動揺が見て取れた。

「ごめん、ごめん! 落ちついて、ハルヤ」

 正座で向かい合っているハルヤの膝に手を置いてなだめる。こう取り乱されるとなんだか私がいじめたみたいだ。表情はうつむいてるからよく分からない。けれどうかがいたくて、仕方なくハルヤの顔を下から覗き込もうとした時だった。

 ハルヤが私の動きを察して顔を背ける。
 その拍子にぽたり、と私の手に雫が落ちた。

「え、嘘でしょ」


 私の手に落ちてきたのはチョコレートだった。


 ハルヤが顔をあげるとその頬に涙ではなく、チョコレートが伝っていった。ぐずっと鼻をすすって「ホントだよ」と弱々しく言う。そして時折言葉につまりながら話し出した。


 **


 ハルヤの話はまず中学生時代から始まった。

「ある日、突然こうなったんだ。部屋でテレビを見てる時に感動して泣いちゃって、涙が流れて来るのを手で拭いたらチョコレートだった。それが中一の時。本当、びっくりしてどうしていいか分からなかった。しばらくは誰にも言えずにそのままにしてた。別に泣かなければ問題ないし、誰にもバレなかったよ。でも心に引っかかってたというか、なんでチョコレートなのか分からなかったし、明らかにおかしいし、ずっと不安だった。でも父さんも、母さんも、兄ちゃんも、俺が悩んでるのには気づかなかった。それくらい自然にしていたつもりだったんだけど、その時仲良くしてた友だちに気づかれたんだ。なんかあるなら言えって言ってくれて、いいやつだったし、正直に何もかも話した。でも涙がチョコレートなんて話、聞いただけで信じてくれる訳なくてさ。どんだけ俺が本当だって言ってもだめで、最終的にからかうなって怒りだしちゃって。それから喧嘩になったんだ。結局言い合いしてるうちに、俺が泣いたから信じてはくれたんだけど……。よっぽど気持ち悪かったみたいで、それから避けられてろくに口も聞いてくれなかった。他に言いふらすようなやつじゃなかったからよかったよ」

 それから家族に打ち明けたのはつい最近で、みんなびっくりしたけど笑って受け入れてくれたこと。私がこれを知ったら友だちのように離れてしまいそうで、怖くて言えなかったということ。今日のチョコレートフォンデュはハルヤママがちょうどいいと言ってノリノリで準備してくれたことなど、次から次へと話してくれた。

 けれど私には一つ気になる事があった。話がそれだけなら、私はハルヤの涙がチョコレートでも構わないからそれでいいのだけど、他にも話があるなら別だ。

「話はそれだけ?」

 恐る恐る聞いてみる。ハルヤは目をぱちくりさせて言う。

「それだけ、だけど」
「あー良かったぁ!」

 別れ話はない! それが分かれば一安心。正座を崩してピンと伸ばしていた背中を丸める。なんだか疲れた。

「え、なんで? なんで良かった、なんだよ!」

 私の考えていたことなんて何も知らないハルヤがなんで、なんでと繰り返す。

「話したいことがあるなんて言うから別れ話でもするのかと思ってたの!」

 正座したままのハルヤの膝を叩いてやった。痛いと言うけど知らない。私に隠し事をして、無駄に不安にさせた罰だ。もう一発叩いてやる。

「思い知れ」
「ちょっと、ともちゃん。痛いってば」
「ハルヤがなんかおかしいし、この一週間ほんとに不安だったんだから」

 言いたいことが言えて安心したら、泣けてきた。それもこれも、いっそ全部ハルヤのせいだ。私は泣いたら情緒不安定の挙動不審になるんだぞ! ハルヤの何倍も面倒だし、恋人を困らせるし、私が泣いていいことなんて一つもない。ハルヤは泣いたってチョコレートフォンデュが出来て恋人は、少なくとも私は嬉しいし、いいじゃないか。言葉には出さないけど、そういう思いを込めてハルヤの膝をぺちぺち叩いた。

「なんかごめん。許してよ」
「ちょっと涙がチョコレートなくらいで、私がハルヤを嫌いになる訳ないじゃん。ハルヤのばか……!」

 それからしばらくハルヤに八つ当たりした。私が何を言ってもハルヤはうんうん、と聞いてくれる。泣けば泣くほど面倒な女になってしまうのは分かっているのだけど、涙が止まらない。こんなに好きなのが伝わりきっていなかったことが悔しい。中学生の時の友だちと一緒かもしれないと思われていたことも。しかしそんなのはハルヤが私を信じていたって、過去にそういう苦い経験があればそう思って当然だ。頭では分かっていても、ハルヤを不安にさせた自分が情けなくて許せない。

「これからは何でも言ってよ。ハルヤが実はチョコレート星から来た宇宙人でも、私はハルヤを好きでいれるんだから」

 うん、と返事をするハルヤの声が震えている。そっと顔を見上げると、チョコレートが頬を伝っていた。私は滅多刺しタワーからマシュマロを取って、竹串から引き抜く。そしてそれでハルヤの頬を伝うチョコレートを拭って食べてみる。

「あまい。チョコレートだ」
「だからそうだって!」

 不思議だ。本当においしい普通のチョコレートだった。もう少し食べてみたくなって、今度は伝ってくるチョコレートを、ぺろっと舐めて頬に軽くキスをしてみる。すぐに離れたけれど、それでもハルヤはびっくりしたようだ。顔を真っ赤にして口をパクパクさせている。その姿はなんだかおもしろいけど、驚いたせいでチョコレートはぴたりと止まってしまった。

「とっ、ともちゃんのハレンチ!」

 ようやく制御を取り戻したハルヤが、両手で顔を覆ってそう言う。よく見ると耳まで赤くなっている。この上なく恥ずかしそうだ。けれど、私はどうしても目を見てごちそうさまが言いたくて手をこじ開けた。

「ごちそうさまでした」
「うぅ……お粗末さま、でした」

 ハルヤは堪忍したのか、手の力を緩めてくれた。私はあったかい手を握ったまま、ハルヤの顔を見つめてみる。見られるとやっぱり照れるみたいで、私の方をちらっと見たきり目を伏してしまう。その反応がいじらしくて、胸がキュンとした。

「かわいいなぁ! もう!」

 不安だったし、たくさん泣いたけど幸せな気分だった。ガトーショコラに散々失敗して、結局チョコレートを溶かして型に流したいつものやつをあげたバレンタインデーが申し訳なく思えてくる。来年は何回失敗しても絶対ガトーショコラにすると決めた。それくらい今日は嬉しいというか、ハルヤが愛しかった。

「本当にありがとね」
「どういたしまして、ハッピーホワイトデー」
「なにそれ! 誕生日みたい!」

 私が笑うと、ハルヤが「笑うなよ」とむくれて見せた。ハルヤの言い方が変だったから笑ってしまったけど、今日はハルヤが私に秘密を打ち明けてくれた特別な日。まさにハッピーホワイトデーだ。


 完

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