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夜の街が僕にもたらしたたった一つの真実の話

 ( SS投稿城 )
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光心 @kousinn ★jrmvKxEjwb_mgE

 深夜の街をゆっくりと歩いている時に僕はその真実に気づいた。

 街灯は仄かな明かりを僕の頭上から飛び石のように提供してくれる。
 歩いているのが車が通るような通りから一本外れている為、全てを見通せる程明るくはないがさりとて暗すぎるというわけでもない。
 左右はコンクリートの壁で仕切られ、コンクリートの先にある家では今日も家族が良い夢を見ながら眠っているのだろう。
 時折大きな大気が動く音がする。
 おそらく車が発する音なのだろうが、僕は街が寝息を立てていると昔からずっと信じて疑っていない。

「つまり、僕は特別になりたんだ」

 そう言葉にしてみて、僕は改めてそれに納得した。
 僕が夜に外を、しかも深夜とも言える時間に、歩くのはなんというか癖のようなものだった。
 ついつい3人で歩く時に2人の後ろに付くように歩く。
 誰もがそんな癖があるように、僕は深夜の街を何処へ行くともなく歩くのが癖だった。
 中学や高校の時は警ら中の警官に補導されそうになったこともあるが、大学生となった今ではむしろ警官に声をかけられることがなくなってしまった。
 それは僕が街を歩く権利を手にした、という歓びよりも、どこか寂しさを風と共に運んできた。
 不思議なことだと僕は思う。
 だけれど、そうなのだ。
 歓びよりもどこか寂しさが渦巻くこの胸中の感覚は今では薄れているけれど相変わらず居座っている。
 別に警官と仲良くなったとか、敵同士だから張り合いがない、とかそんなものではないのだ。

「だから、少数であることを望んでしまうんだ」

 僕にとって夜の街は1つの聖域だ。
 誰もが家から出ず、普段は人通りが激しく狭い通りも深夜ともなれば静かなものだ。
 僕はそういう多くの人がいる場所が嫌いだった。
 昔からそうだったわけではない。
 小学生の時はみんなといる方が確かに幸せを感じていたはずだ。
 みんなと遊んで、みんなと笑う。
 そういう、共有している感覚は確かに僕に幸福感を感じさせてくれた。
 だけど、今はそうではない。
 僕は僕だけの街を見ている。
 そのことにどこか歓びを感じているのだ。
 入ってはいけない深夜の校舎に侵入した時のような。
 そんな高揚感がある。
 そして、それは僕のカラーを示すものだと思うのだ。

「少ないということは知っている人が少ないから」

 僕はたぶん、特別、であることを無意識のうちに望んでしまっているのだと思う。
 だから、マイナーなものを求めてしまう。
 人が少なければ少ないほど、楽しい。
 それは何処か歪んだものだと思う。
 楽しさという感情は共有して初めて感じるものだ。
 僕が楽しいというものを誰かが感じて、同時にその人も楽しいと思う。
 そうやって共有できる楽しいは、だけど人が増える程に薄くなっていく。
 僕は誰かが僕と同じ楽しいを感じていることに我慢ならないのだ。

ぶるり。

 寒風に身を震わせた。
 コートは前をぴっちりと閉めて、冷気を弾いてるのだが、如何せん顔や手から感じる寒さは消せない。
 またどこかで街が大きな寝息を立てた。
 ふと、自分がどの辺りにいるか気になって周囲を見回した。
 しかし、コンクリートの道は別段楽園へ導いてくれるわけでもないどころか、ここがどこかも教えてくれない。
 辛うじて、ある程度進めば十字路があることが分かる。
 信号は点滅し、その役目を中途半端に果たしていた。
 あそこまで行こう、と僕は思った。

「特別、になりたいんだ」

 だから僕は大衆から目を背けた。
 きっと、特別、は少数だから。
 僕は大数から外れていることで、結果的に特別になるのだと思っていた。
 マイナーなものを求め、誰かと共有したいわけではない。
 そういう秘密基地のような楽しみを求めていれば僕は特別になれるのだと思っていた。

 だけど、特別はきっと違うのだ。

 特別はむしろ大数の中でしか発揮されない。
 なぜなら、特別とは多くの中から勝ち残った結果孤独となったものだからだ。
 僕は特別の条件を履き違えていたのだ。
 結果は同じでも、僕と特別では過程が大きく違ったのだ。
 それは、今更気づいてしまった残酷な真実であった。

「…………」

 見上げれば、そこに信号機があった。
 十字路まで来ていた。
 道は前後左右に続き、僕は選択を迫られていた。
 だが、ふと右手に曲がってすぐのところに周囲の地形が分かる地図があった。
 金属でできた板のようなそれを僕は覗き込む。
 どうやら、僕の家に近い駅から大きく離れている。
 むしろ、次の駅の方が近いかもしれない。
 もちろん、終電など終わっているので駅まで言っても無駄なのだが。

「こっち、かな」

 僕はくるりと体を反転させ、十字路を横切った。
 信号はそんな僕を見ながら、信号無視すんなよー、とどうでも良さそうな声で言うかのように光っていた。
 最初の道から見れば、左折したそちらに僕は足を向ける。
 程なくして、線路が見えてきた。
 これにそって帰ることで駅まで迷わずに帰れるという戦法だ。

「もう、迷子になるのは嫌だからな……」

 深夜の街は生き物である。
 だから、まっすぐ進んでいるつもりでもいつの間にか曲がっている。
 そうして家に帰れないことが何度かあった。
 経験から得た知恵により、僕は線路にそって歩くという方法を編み出したのだ。
 これで迷子にはならない。
 だが、思ってしまうのだ。
 これはきっと安全で確実で、そして普通のやり方なのだと。
 特別ではないのだと。
 そう思ってしまうのだった。

 たった一つの真実は残酷なものだった。

 あらゆる大数と手を切ってきた僕には特別になるにはもう手遅れなのだと思う。
 そして、無意識のうちにそれを求めていた僕にとってそれは悲しい事実だった。
 では、僕はどうすればいいのだろう?
 特別ではなく普通以下の僕は、どうすればいいのだろう?
 普通であることを目指すべきなのだろうか。
 そう思うと、自分の進行方向から見て右を走る線路が妙にその存在を主張している気がする。
 僕は一度目をつむり、考えた。
 普通と特別。
 その間には何もないのだろうか?

 目を開ける。
 暗闇に慣れた瞳は足元の空き缶を綺麗に避ける。
 見えている。
 僕はどうにか道が見えていた。

 程なくして、僕は僕の家の近くの駅の前に着いた。
 駅にはまだ明かりが灯っており、夜の街から夜を奪う外敵に思えた。
 そんな駅の明かりを一瞥だけして、僕は自分の家に向かった。
 アパートの一室。
 駅から5分程度のそのアパートはボロボロで、大きな地震でもあればまず跡形も残らないと思う。
 僕はそこの2階に住んでいて、2階に上がる階段を踏む音は深夜の街によく響いた。
 コートのポケットから鍵を取り出して、鍵穴に入れる。

がちゃり。

 という音でノブを回して、僕は部屋に戻った。
 明かりはつけずに屈んで靴を脱ぎ、一歩家に踏み込む。
 キッチンとは名ばかりの流しとコンロが一つだけの台所を通り過ぎて、万年床になりつつある布団の上にダイブ。
 だからを投げ出すようにして横になる。
 深夜の街を歩いたことで、程良い疲れが生じて、僕を眠りに誘う。
 眠りに落ちる直前思う。
 残酷な真実だろうが、悲しい事実だろうが。
 眠ってしまえば同じだと。
 窓の隙間から覗く空には星はない。
 僕は暗闇の部屋の中で眠りに落ちた。







完。

ページ: 1


 
 

ゴン @gorurugonn ★DjNTU7Srs9_mwG

どうもお久しぶりですゴン・ザ・ナイトウォーカーです。
真夜中の散歩っていいですよね。私はたまに近くの自販機までコーヒーを買いに行きたい衝動に駆られる夜があるんですが、なぜだか満月の夜だったりします。月に魅せられたゴン。バッハの旋律が聞こえてきそうです。
ところで実は真夜中に遠く前歩くというのは実際のところ非常に勇気のいることだったり。
私大学時代に何度か15キロほど離れた実家とアパートを真夜中に歩いて移動するとかっていうかなりラリっていた時期があったんですけれども、本当に命の危険を感じるんです、何にかっていうと爆音鳴らしてる暴走族の音に!
光心様の住んでいるところにそういうのいないかもしれないんですけど、私の地元ちょうどいい峠になっているからか、いるんですよそういうのが。
本当に怖い! 近くに来るんじゃないかって思ってつい隠れたくなります。
それからコンビニの存在非常にありがたいですね。歩くとなると2,3時間かかりますからトイレが非常に問題だったり。
そんなこんなで暗闇散歩もよしあしです。

個人的には部屋に入るときに空き缶で足の踏み場がないことが描写されていたことが非常にリアルかつ丁寧な観察だと思いました。
ゴミ出しに行かないor行く人がいないorそもそも出し方を知らないとか、コミュニケーションに偏りのある『僕』の感じを垣間見させる描写だと思います。
そして避け方を知っているあたりそれが当然になっている感とか。
その人にとっての当たり前を当たり前として書くってなかなかに大変ですよね。
ssだと思考のトレースはその場限りなのですが長編になってくるとその都度キャラクターの思考に同調して描写していくのが難しくて最近は疲れます(老化)。
そんなこんなで素敵な物語をありがとうございました。
ではまたどこか別の小説で。

5ヶ月前 No.1

光心 @kousinn ★jrmvKxEjwb_mgE

ゴンさん>

どうもお久しぶりです、そして、こんばんわ。
感想へのお返事がすごく遅くなってしまいましたが、書かせていただきます。

そうですね。
自分の住んでいる辺りは暴走族なんて見たこともないところなので、わりと都会なんだと思います。
その代わりと言うのも変ですが、モール的な場所の1階のガラスの窓を鏡代わりにして踊っている若人が沢山いたように思います。
世が世なら邪教への崇拝の踊りのように思いますけど、彼らもきっとどこか特別な場所を探して流浪している人々なのかも?

コンビニの有り難さについては、ホントにそう思います。
24時間営業なのが、コンビニと自販機の2つが主なものとなりますけど、コンビニは特に温かい光を感じます。
その存在感たるや、普段の生活での100倍の有り難さを感じますね。
深夜だけ営業するコンビニがあっても面白いしありがたいのに、とか思ったりしますw

最近、夜がどうしてこうも人を大胆にさせるのかを考えたりしているのですがなかなか答えが出ません。
人が少ないことが理由なのかなぁ、とか思ったりもするのですが、じゃあ山奥で大胆なことできるかと言えばそうでもないのかも、とか思ったりします。
人がいない=世界の視線の外にいる、からこそ自分の欲望のまま動くことができるとも考えますがなんかそれだけじゃないような気がするんですよねぇ。

闇ゆえに先が見えないこと、がリアルに感じられるのが夜だと思っていて、このまま永遠と明けることないんじゃないかと思うような感じがします。
だからこそ、歩くしかないと思って歩くのですが、ある程度して疲れてきて家に帰りたいと思うんですよね。
そうなると、家の中がどれだけ真っ暗でも、今たしかに自分が寝ることができる安全な場所があるんだ、と思える瞬間が来てすごく安心します。
随分と倒錯してますけど、この不安ってやっぱ夜の散歩だからこそなのかなぁとか思います。
物理的にもですけど、心理的にも相当危ないよーな気がしますねww

最近は夜散歩に行くことも少なくなって、なかなかそんな風に贅沢に時間を使えない日々が続いてしまっています。
大学生の時は好き放題歩いていましたけど、あれも相当危険ながら良い経験だったと思います。
街が生きてる、とか思えるのもあの散歩の日々のおかげだったり?

というわけで、感想へのお返しでした。
最近人に言葉を伝える際に脈絡ない話ばっかしてるような気がします。反省、反省。
あと、長編については本当に俺も書き方が分からんくて悩んでます。
「こいつの思考回路の細かい部分わかんねー! だって、書き始めた時はノリだから!」という感じです。
きっと自分の思考を切り売りしてこいつがここにいるはずなんですけどね……その自分の思考すら日々変化していくので困りものです。
だからこそ、ラノベや漫画では、一部の特徴を極大化したものが多いのだと思います。
そうすれば悩まないのかなぁ、とか思うには思うんですがそれはそれで人間味がががが。

ということで、この辺で終わります!
こちらこそゴンさんにはいつも素敵な物語を読ませていただいていますので、何かしらのお返しになればと思います。
ではではー。

4ヶ月前 No.2
ページ: 1

 
 
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