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プラスチックサワーの味

 ( SS投稿城 )
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激流朱雀 @suzaku1☆92ueQETlAOJB ★Rbu1Z9GduZ_m9i

プラスチックサワーの味

 ヘイ、ガール。ワタシと一緒にお茶しない? 少し遠くで奇抜な頭の看板娘が声をかける。特定の誰かに向けたセリフではない。トリップ気味の白黒させた瞳にこの世の穢れが現れる。いたるところにある薄型テレビのディスプレイには病的に白い肌と派手な装飾を施した髪を売り物にした流行りのアイドルが歌って踊っていた。
 ここは違法孕んだ裏通り。警察すら尻尾巻いて逃げるほど暗く汚い通り道。奇天烈なものを売る店の看板がずらずらと並び、発信機盗聴器スタンガンなんて怪しい電子機器も手に入る街。
 絶賛指名手配中の俺はフードを深くかぶり、ヒトの波に乗る。ある意味サーファー。流れに任せて歩くのは得意中の得意だった。

「ちょっと君」

 強い力で肩を掴まれる。反射的に舌打ちがこぼれる。こんな場所で呼び止められるのは以外だった。

「もしかして真木野ちゃん?」

 俺の肩を掴んだ男を凝視する。へんてこりんな鉢巻とダサいハッピを着た汚らしい小太りのおっさんは、フード下を覗き込みつつ俺の顔をなめる様に見定める。時々、俺は知らない名前で呼び止められる。しかしいつも知らない苗字と女の名前で呼ばれる事がほとんどだった。今回も例外ではない。本日三度目だった。

「は? 知りませんけど」

 振り払って足蹴りをひとつくれてやった。ゴミ捨て場で拾ったくたくたになった鞄を持ち直す。いい加減にしてくれ、と毒ついた。俺は誰と間違われているのだろうか。できるだけ早足で男から離れる。大分離れたところで建物の隙間で形成された道に逃げ込んだ。
 薄暗くじめじめとした裏路地にぼんやり街灯が光る。そろそろ夕闇。目の痛くなるようなネオンがギラギラ光りだす時間の始まりだった。

「なんなんだよまったく」

 最悪だった。そもそも事の発端はなんだったんだろう。目が覚めたら真っ白い部屋で手足には施錠されていた。怖くなって脱出を図ったのはよかったが、その後はずっと不幸続き。警察や変な連中に追いかけられるわ、知らないヒトからは呼び止められるわで、たまったもんじゃない。

「知りたいかい? ミズオチさん」

 怪しい声色。あたりを見回すと、いつのまにか近くのゴミ編みカゴの上に、ゴシックロリータ服に身を包んだヒトが座っていた。陶器の人形みたいな白い肌に、ナイロンのようにサラサラとした茶色い髪と瞳。あまり高くない身長に洋服がぴったりお似合いで、大きなドール人形という印象を受ける。さっきのテレビ画面に映っていたアイドルとよく似た顔をしていた。

「なぜ俺の名前を知っている。俺を捕まえに来たのか?」

 脊髄反射の勢いで声を上げる。確信はどこにもないが、こいつならこたえてくれる気がしていた。

「ご都合主義な物語にも筋道は大切な事よ?」

 彼女はクスクスと笑いながら荒唐無稽なセリフを並べる。俺はそういうサガなのか、わけのわからない事を言われるのが何よりも腹立たしく感じた。

「思わず迎えにきちゃったよ。どうして箱から逃げちゃったの?」

 箱? 少し悩んだが思い当たるのがあの白い部屋だろうと推定した。

「さぁね、手足縛られてたら誰だって本能的に逃げたくなるさ」

 肩を竦めて笑ってやったが、彼女の目線が高いため見下される。非常に不愉快な構図だった。

「本能ってなによ、新しい私ったらおっかし事言うね」
「新しい、わたし?」
「あら、知らなかった?」

 お互いぽかんとした表情で見合った。状況が呑み込めない俺に対して、彼女は少し納得気に、そっか、知らなかったから逃げ出しちゃったんだね。バグって恐ろしい。こうやってがん細胞ができるのね。なんて、彼女はまたひとりごちた。会話にならない様子に、この女は電波か統失を疑った。

「地下街アイドル発祥の真木野 愛理ちゃんは今じゃトップアイドル。街のテレビにも映ってたでしょう? 彼女はすごくすごく忙しいから、クローンを作っちゃったの」
「そんなバカな話あるわけねぇだろ。頭イカれてるんじゃねぇのか」

 信じられない話は蹴散らす勢いで否定する。クローンなんてB級のSF小説でも使い古されたて、蓼食う連中も食べ飽きたとほざくだろう。

「じゃあ質問を変えるね」

 緑色の網掛けフェンスから足を外し、彼女が纏う重そうなレースがぶわりと空気を含む。フェンスのカシャンという音と、彼女が飛び降りて着地した質量のある音が路地に反響する。
 にやりと微笑んだ作り物のような笑顔に寒気がした。人ではないものが人のように振舞うとき、ある錯覚をする。不気味の谷と呼ばれる効果が彼女に起っていた。
 あれ、まってどうして俺はそう思う。そんな知識、俺は知らない。

「ミズオチさん。あなたは誰?」

 俺は、誰? 俺は、水落 壱。白い部屋のネームプレートにそう書いてあった。きっと俺の名前だろう。それがどうした。

「俺は、俺だ」

 頭のおかしいヤツと一緒にいるとこっちまでやられそうになる。きっとそこらへんの店で脱法の葉っぱの煙を吸って頭がパーになってしまったんだろう。かわいそうに、こんな可愛い女もこうなってしまえば区分はメンヘラだろう。

「私は真木野 愛理。もちろん彼女の三番目のミラー肉体。個体名は水落 参だよ」

 子供に諭すように言うから余計に腹が立った。だいたい証拠がない。馬鹿みたいな跳躍理論に付き合わされて、それを信じろという方が無理である。

「なにを根拠に、」

 怒っていたせいであまり彼女の手元を見ていなかった。彼女の手にはごってごてのラインストーンを乗っけた四角い鏡の蓋が見えた。キラリと光を集めたその反射面には、彼女と瓜二つの顔。そして街頭のテレビ画面にも映っていたアイドルの顔が写っていたのだ。

「これでも信じられない?」
「嘘だろ」

 鏡を締まった後、人差し指を立てて彼女は言葉を続ける。彼女が何か動作するたびにふりふりのレースが目障りだったけど、とにかく我慢した。

「整理するよ。あなたの本能に逃げたいという気持ちがありました。同時に、私も逃げたいという気持ちがあります。」

 思い返せばなぜ逃げたいと思っていたのかわからなかった。本能だったし、なにより捕まったらまずいとおもった。その間はずっと手じかにあった服で顔を隠し、街から街へ路地から路地へ逃げるように移動していたから、あまり自分の容姿を確認したこともない。

「さて、私たちのオリジナルは過労を重ねてアイドルを続けていますが、彼女は逃げたいと思った事はあるでしょうか、それとも無いでしょうか」
「知るかそんなの」

 やけっぱちで吐き捨てると、急にご機嫌を斜めにして彼女はぽつりとつぶやいた。

「もしも逃げたいなんて考えていなかったら私たちは生まれなかったかもしれないね」

 それは、俺も同感。もしもこいつと同じ遺伝子と思考回路であったなら、遅かれ早かれ逃げ出していたに違いない。なんて、メンタルがクソほど弱いのはオリジナル由来でありたいという願いもあった。

「逃げたかったし、これからも逃げるんだろ? 逃げ続ける俺と留まるお前とをチェンジ、とかって考えているんじゃないか」
「さすが私。話が早いね」

 あきれるほどに思考回路が読めるから、通り越して笑いすら起きる。あながち、こいつが自分と同一だと聞いてやっと納得できる。

「しょうがねぇヤツだぜ。俺ってやつは」

 彼女は俺の唇にキスをした。自分と同じ顔の女にキスされるのはなんか不思議な気分だった。でもまぁ、悪い気はしない。目を閉じて彼女の背に手を伸ばそうとすると、不意に視界が暗転した。

「真木野 愛理さん二時間後に読み合わせですよ」

 鼓膜に響くは年の取った監督になれずにくすぶっている年長ADの声。

「えっ、俺は一体、」

 あたりを見回すと、狭い部屋に鏡の並んだ化粧台。上からは白い蛍光灯の光と、下からはオレンジ色の間接照明。活けた大量の花と、真木野 愛理宛ての菓子の差し入れが机に並んでいた。

「また例のお酒で役作りですか? まったく、旧来のヒロポンを思い出していい気がしないんですがね」

 自分は椅子に力なく横たわっていた事を認識する。立つことは叶わず、半身を起こすだけで精一杯だった。

「あの、なんで俺、さっきまで」
「はいはい完璧な役作りどうもね、トップアイドルさん」

 台本をそこらへんにぱたぱたと叩きながらADは退散してしまった。部屋を見渡すと自分の後ろでマネージャーがタブレット端末をいじっている。視線を向けるとマネージャーは口を開いた。

「ふむ。闇の組織から逃げる記憶喪失のオレオレ系女子って凝った難しい役だから、カスタマイズの精度は通し練習はさんでみないとわからないけど、まぁ今回も大丈夫そうね」

 残機は物理じゃなくて精神的な話であったと理解する。オリジナルの彼女はこうやって様々な事から逃げていたんだろう。

「よろしくね、今回の真木野 愛理さん」

 マネージャーはそれだけ言って席を立った。きっと監督と打ち合わせがあるのだろう。
化粧台の上にはグラスに注がれたプラスチック色のアルコールがてらりと光をそり返す。液体にはキラキラの半透明のプラスチックにコーティングされたナノマシンが泳いでいた。
 これがなんであるか、俺はわかっている。それは真木野 愛理が知っているからだろう。
グラスを掴み液体すべてを煽り飲んだ。スゥッとするアルコールの揮発する感覚と、石油のようにな鉄苦い酸味を感じる。


 そうして俺は、次は私として俺を探しに行った。
 目が覚めるとゴテゴテのレースが装飾されたゴシックロリータ服を身に纏っていた。わかりやすい真木野 愛理のカタチをして、あわよくばオリジナル、私は俺を探しに行く。

 舌に残ったプラスチック製の味を忘れないうちに。



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激流朱雀 @suzaku1☆92ueQETlAOJB ★Rbu1Z9GduZ_m9i

*/あとがき

ヘイそこのガール俺とお茶しない???

さて冗談さておき、生存確認のためにぽろっと好きなSS書いちゃった。
最近はまってるジャンルの影響をぐわぁウッ目が、目がぁあって受けてるので、
ノワールジャンルとサイエンスフィクション寄り寄り。
いやぁいいね、口悪い子書きやすい。自分がめっちゃ口悪いのでね(遠い目)
こんどは胡散臭い紳士とか出てくる話とか書いてみたいけど、
テイストが合わなかったら白目案件だから有言実行できない希ガスでハロゲン。
連日、同じ世界観の短編話ばっかり煮詰めててあたまパンクしそうだったからいい息抜きになりました。

誤字脱字チェックしてないのでもしも変なところあったらマジごめん。
楽しく読んでいただけたのならば幸いです。
ここまで読んで頂きありがとうございます。

4ヶ月前 No.1

ゴン @gorurugonn ★DjNTU7Srs9_G29

なんだこの着想はぁ! みたいな感じで見てました。
朱雀様は幻想的で観念的なふんわりぼんやりした作品と割と明確なストーリーを持つ小話的な作品とで傾向が二つに分かれると思うんですけど、なんか今回はその二つの路線が融合して世にも奇妙な物語的なテイストになった感じだなぁと思いました(小学生並みの感想)。あの、ここでいうことじゃないんですけど、朱雀様はお仕事をきちんとなされていて、しかもどうやら結構激務らしくて、その上でかつ創作にエネルギーを回せるって言うの、本当に、嘘偽りなくすごいと思うし尊敬しています。

私は仕事で追い詰められているとそれを言い訳に創作の方をおろそかにしがちなんですが、そこをストイックに常に作品に向かっていくところは、真似しようと思ってもなかなか真似できない部分で、一体なぜそんなにエネルギッシュでいられるのか、なにか秘訣があったら教えていただきたいくらいなんですけれどもども。あとイラストと小説っていう同じ創作のジャンルでも別々の領域を使うことを並行して処理できる部分とか。私は一度このモードと決まってしまうとなかなかほかの領域を並行して動かすということができなくてですね。

作品の内容とは関わりのない話なんですけど、創作者としての激流朱雀様はそういう意味で非常に前進的な存在で指標の一つだったりします。
これからもエネルギッシュに私には見えないトリップを見せてくれよ。
なんのこっちゃって感じですが、とにかくお仕事お疲れ様です。
素敵な物語をありがとうございました。

4ヶ月前 No.2

激流朱雀 @suzaku1☆92ueQETlAOJB ★xUk9TgrSTY_9BK

ゴンさんお久しぶりです!ご無沙汰してました!!!!

いつも!感想!いただきまして!本当に!ありがたき幸せで!
キャスター椅子の上で体育座りして「はぁんんんん」って言いながらぐるぐるしてバッタンキュー(ちーん)ってなります。(土下座姿勢)
過大評価気味でございますよ!毎日がらがらがっしゃーんなりつつお祭り騒ぎで火事と喧嘩は江戸の花な状態なだけです!←(荒唐無稽)

俺にとってゴンさんは憧れの境地でございます。
お恥ずかしい話、六年前から小説城:中級者でゴンさんの小説お見かけしてからずっとずっと気になっていて、書く小説も読みやすく憧れでしたのでこうやって感想レスいただくだけでもキャスター椅子の上で体育座りして(以下略)でございます。(土下座)

拙僧なんて書きたい事も描きたい事も「隣の芝が青過ぎるっっっ(怒)」なんてキレ芸が行動指針みたいなものなので、息抜きつつキレ気味なんて心の不健康で本来ヒトとしてよろしくないんですよ……きっと。(遠い目)
仕事の方も業務の中で空想馳せるだけサボローと大親友過ぎて真の社畜からは刺される方向性なので「はわわわわ///っヴッ……貴様、よくも吾輩の背後にッ」でございます。(土下座)

引き続き今まで通り一人チキンレースで迷走し続けるかと思われますが、これからも仲良くしていただければ本当にうれしき感無量でございます。

このたびはコメントいただきありがとうございました。
楽しんでいただけたのなら幸いです。

4ヶ月前 No.3
ページ: 1

 
 
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