Google
    
<< TOPページ 掲示板TOP 記事データ お知らせメール ▼レス(2) >>

枇杷の尻

 ( SS投稿城 )
- アクセス(126) - いいね!(6)

Ayaka ★lOVzGF7UIS_mgE


枇杷がだらしなく尻をあげるので、何かの催促かと、おざなりに腕を伸ばした。
暗い部屋のなかは、恐ろしく寒い。
伸ばした先に枇杷の体はなくて、見当違いな場所をふら付いて、行き場を無くした腕をだらりと垂らす。
少しでも体温を奪われないように毛布を引き寄せて、体に巻きつけた。
隣には枇杷の体が剥き出しで転がっているはずだけれど、骨ばった女を抱き締めてもちっとも心地よくなくて、暖を取ることもできない。
役に立たない。
枇杷の栄養失調気味の体は、死体に似ているとも言えなくはない。
枕元に放ったはずの煙草も見あたらず、先ほどから腕は宙をさ迷う。
空腹なのか胃痛なのか、それと寒さのせいなのか、腰の辺りから腹の上まで冷水を押し付けられているような痛みが、じんわり、広がる。
「枇杷って、名前、変でしょ」
寝言かと聞き流すほどの小さな声が、枇杷の体の頭のあたりから鳴った。
肯定とも否定ともとれる生返事をすると、枇杷の体が微かに震えた。
ほっそりした腰も、萎れた尻も、棒みたいな太もももすべてが冷たそうに見えた。
さすがに可哀想になり毛布とかけてやると、小さな呼吸に合わせて寝返りを打った。
「枇杷、なんて、嫌」
痩せこけた頬や、カサカサの唇はみすぼらしくさえ見えるのに、瞳だけが艶めかしく動いていた。
瞳だけが、暖かくて、枇杷のなかで唯一生きている部分に思えた。
「高松の、名前は、いいな」
「俺の名前が?」
「高松、アスカ、いいな」
早く瞳を伏せてしまえばいいと思った。
そうすれば本物の死体にみたいに見えるだろうし、枇杷の声も聞こえない。
早く死ねばいい、なんて、そんな物騒なことを言いたいわけではない。
ただ、枇杷は、生き生き喋るより、冷たくなったままじっと黙っている方がお似合いだった。そんな女だった。
気まぐれに尻を叩いてみるも、愛想程度に声を上げることもしないで、薄気味悪く笑っている。
枇杷が左手の人差し指の爪を噛む。
生臭い魚に似た舌が、小さな石の歯の間から、煩く出しゃばる。
吐いた息を、吸うのさえ、なんだか億劫にみえた。
左足をおかしな方向にぐにゃりと曲げて、ピエロみたいなポーズをとると、それからは動く気配がなくなった。
「俺、オマエの笑顔きらい」
ずいぶん痛々しい台詞じゃないか。
裏腹に、自分の頬が熱を孕んでいくのを感じて、きつく唇を結ぶ。
もちろん枇杷だって、どこ吹く風の平たい表情をもっと薄く伸ばしたような、そんな顔で僕を見ていた。それでいて笑っていた。
「薄気味悪いんだよ、オマエって」
そんな単純な話ではない。だからといって複雑な何かが俺たちの間に落っこちているわけでもない。
自分の傷をえぐって、その痛みだけが懐かしい。
手持ち無沙汰で、手癖の悪いそれが、傷が膿んでいく暖かみを覚えてしまった果てには、暖かさを求めようとするだけ。
薄気味悪い笑顔で笑っている枇杷を痛めつけて、本当に傷ついているのは、たぶん俺で、そのことを枇杷もこっそり気づいている。
傷つきたいのに、傷つき方が分からない俺は、仕方なしに枇杷を扱う。
綺麗でも可愛らしくもない女。
傷つけたぶんだけ、取り返さなければいけない。
枇杷に触れるということは、枇杷につけた傷を愛するということ、つまりそれは俺を愛するという遠まわしなやり方でしか、傷がつけられない。
冷たくなった足を擦りつけながら、枇杷を見つめる。
薄気味悪く笑っている女の瞳。

果たしてかわいそうなのはどちらだろうか。
俺が笑うと、枇杷は黙って、思い出したように睨みつけてから、ずいぶん薄情な台詞を言った。
それに傷ついて、俺は黙るけれど、枇杷は笑う。
爪を噛みながら、生臭い舌で、爪を舐めながら。

3年前 No.0
ページ: 1

 
 

ゴン @gorurugonn ★yRn10TRCWH_uyQ

メリークリスマスです。覚えていらっしゃいますでしょうかゴンです。

なんか本当にもうどんどん書く内容が写実性をまして、言葉のひとつひとつがきっちりフィルターを通して紡がれているのを感じるお話でした。
Ayaka様のレンズ越しにしか見れない世界を垣間見せてくれるわけなんですけれども、いつも思うのは自分にはこんな文章は書けない、という感覚だったりします。このその人にしか感じられないものを感じさせてくれるのがひとつ巧拙の基準だと思うんですがAyaka様の小説はいつだってAyaka様にしか書く事ができない、をかなりはっきりと感じさせます。

内容は少し気だるくて頽廃的で、そんな中にあるねじれた愛情表現といいますか、この辺は書く人によってはすごく嫌な感じにしかならない題材なのに何ともなく美しさを感じさせる文章と相まって気持ちいいところに入っていくんですよね。

「薄気味悪いんだよ、オマエって」
そんな単純な話ではない。だからといって複雑な何かが俺たちの間に落っこちているわけでもない。
自分の傷をえぐって、その痛みだけが懐かしい。

この辺の一連とかすごいセンスを感じます。薄気味悪いんだよっていう言葉が出てくるAyaka様の語彙ポケットもそうなんですけれども、これが転じてi love you(というと語弊があるんですが)になっている、少なくとも何かしらの愛情の表現形の一つとして成立するっていうのが本当に腕の見せどころっていうか。
素敵な絵葉書を見た気分になります。小さくまとまっていて、それでいて心に残るものがあって美しい。
また素敵な絵を書いてください。本当にAyaka様にはこの言葉しかありません。
よいクリスマスを。

3年前 No.1

Ayaka ★lOVzGF7UIS_mgE

ゴンさん

ありがとうございます。
そして返信が遅くなり申し訳ありませんでした。

ゴンさんの言葉選びの上手さには嫉妬してしまうくらい羨ましいです。
私の拙い小説もどきに、こんなにも素敵な言葉を頂いていいのかと恐縮です。

ちょっとした事情が故に、期間限定でネット環境がない生活をしていますので、
なかなか顔を出せない状況ですが、どうかこれからもよろしくお願い致します。

3年前 No.2
ページ: 1

 
 
<< TOPページ 掲示板TOP 記事データ お知らせメール ▲ページ上 >>
★必ず ローカルルールメビウスリングのルール をご覧ください。
 ▼スタンプ▲スタンプ
※スタンプはいちどに 3個 まで使えます  ×閉じる