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ユナちゃんとピーちゃん

 ( SS投稿城 )
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Ayaka ★lOVzGF7UIS_mgE

中学生、二人の女の子のお話です。

( * 乱暴な言葉が幾つか出てきます)

ユナちゃんとピーちゃんは正反対の性格です。
文字数が多いので、読みにくかったらごめんなさい。
でも、ぜひ最後まで読んで頂けたら嬉しいです。


<ユナちゃん>



「マサコはタカアキで、タカアキはユウコで、ユウコはダイスケが好きなんだよ!」

ね?と小首を傾げるピーちゃんは好奇心まるだしの浮かれた声で言った。
時刻は午後十六時。
寂れた駄菓子屋のおんぼろベンチに腰かけている私たちを、腰の曲がったおばぁちゃんが疎ましそうにしている。
早く店仕舞いしたいのに、いつまでも居座る私たちが鬱陶しいのだ。
たった五十円で購入したグミの袋を二人で分けた。
随分派手な着色に人工的な味がする。

マサコはタカアキで、タカアキはユウコで、ユウコはダイスケが好きだとしても私には関係ないし、興味もなかった。
そもそもピーちゃんの言うことにどれだけの信憑性があるのだろうか。
噂好きの彼女は今日も二つ結びにしたトレードマークのツインテールに、
高木恵子という本名にも関わらずピーちゃんというポップなあだ名を引っ提げて、にわかパパラッチに徹している。
中学二年生にしては、ずいぶん幼いほうだろう。
幼馴染という繋がりが私たちの関係すべてで、
街に出掛けていく友達やお揃いのキーホルダーを持つような親友に発展することもなく今までを過ごしてきた。
家が近所だから、それだけの理由でこうして暇な時間を潰す相手には最適なのだ。
その代りといえるかどうか、幼馴染だからこそ互いの家庭環境は大よそ把握しているため、
何も話すことがなくなった夕暮れには少しだけ秘密を打ち明けたりする。
ピーちゃんは隣で今日仕入れたばかりのゴシップを披露しては一人で楽しんでいる。
私は曖昧に頷いてから、ローファの先で地面を掘るように砂を蹴ると子気味良い音がする。
ザッザッ。ザッザッ。

「ところで、ユナちゃんは誰が好きなの?」

声を潜めて覗き込んでくるピーちゃんの瞳には、私の姿が歪んでうつる。
好きな人はいない、と先週答えたばかりだ。
あからさまに呆れた顔で溜息をつくと、ピーちゃんは

「ゴメンネ」

と言った。
それから好奇心を失ったピーちゃんは元気を奪われた病人のように萎れてしまった。
ゴシップ披露を諦めて今度はスマホを片手にアプリで乙女ゲームを始める。
シャラララァーン、とバカみたいな音が鳴っている。
しかし眉間に皺をよせるピーちゃんはいつになく悩まし気でちっとも楽しそうではない。
どうやら画面の向こうにいる王子様たちに翻弄されているようだ。

そんなピーちゃんを横目に、本当は全部教えてあげてもいいのだけれど、と少しばかりの優越感を抱いて思う。
マサコが好きなタカアキとも、ユウコが好きなダイスケとも、私はセックスをした。
タカアキとは先週し、ダイスケとは三ヶ月ほど前に一回ずつ。
他にも、がり勉のマサヤやバスケ部のユウトや隣のクラスのトモアキともした。
人より発育が早いおかげか、肉付きの良い体は十分にしなやかで男受けするのだった。
だがしかし、この年頃の男子ならば顔や体に素晴らしい価値を見出せなくても、圧倒的な性欲に後押しされ、それでどうこうなれる生き物なのだ。
節操なく下心を剥き出しに近寄ってくる男どもの小汚い笑顔が大嫌いだ。
それなのに私は呼ばれれば行ってしまう。
行ってしまえばセックスをする。
その繰り返しはあまりにも単純で、しかし単純だからといって断ち切るのが簡単かといえばそれは別問題である。
汗臭い部屋で、薄汚い部室で、人の家の匂いが充満するリビングで、男が手を引けば簡単についてくる女、それが私だ。
こんなことを暴露されたら、きっとピーちゃんは目をひん剥いて驚くだろう。

「ねぇ、そろそろ帰る?」

いつの間にかスマホを閉まっていたピーちゃんは立ち上がった。
時刻は午後十六時半。
すぐに返事をしなかった。
その様子を渋っていると受け取ったのか、ピーちゃんはもう一度ベンチに腰掛ける。

「…帰りたくないの?」

遠慮がちに尋ねてくるその質問に苛立ちを覚えた。
それはピーちゃんにこそむけられるべき問いではないのか。

「それはピーちゃんでしょう」

意地悪な声がまるでピーちゃんを責めているようだ。

「ピーちゃんが帰りたくないのは、またあのオッサンが遊びに来ているからでしょう」

苛立ちに任せて言い放ったその言葉を引き金に無害なピーちゃんを傷つけてしまう。
ピーちゃんの一番触れられたくない部分を強引にこじ開けそこに爪を立てる私。
しかしピーちゃんは顔色一つ変えずに言った。

「そうだね。今日は金曜日だからね」

ぽん、と空白が一つ訪れてから

「あのエロクソジジィハゲ」

と言って、笑った。
ピーちゃん曰くエロクソジジィハゲとはピーちゃんのお母さんの恋人だ。
お父さんと四年前に離婚したお母さんはまもなくして恋人を作った。
ピーちゃん家に出入りする男たちは日々目まぐるしいほど変化をみせ、今の彼氏が歴代何番目の恋人か数える気も更々ないようだ。
子どもっぽく見えて意外とクールなピーちゃん。
クラスの子たちが噂をしている私の男遊びの荒さは、もしかしたらピーちゃんも知っているのかもしれない。
そんな私にお母さんを重ねて、苛立ったりすることもあるのだろうか。
ピーちゃんが画面のなかの彼にうつつを抜かしているあいだ、お母さんや私は生身の男に抱かれている。
その事実を汚らしく思うのだろうか。
ピーちゃんが頭を動かすたびに二つに結われた髪の先がヒラヒラ揺れる。
木のベンチは雨風に晒されて木目がささくれ立っている。
おばぁちゃんはとっくに店仕舞いを諦めてテレビの前で居眠りをする。
沈みかけの夕日をピーちゃんが眺めている。
私はその横顔をぼんやり見つめる。

「帰ろうか」

ピーちゃんは夕日にむかって

「うん」

と頷くと立ち上げってスカートを払った。

「また明日ね、ユナちゃん」

私もスカートを払って、ピーちゃんに小さく手を振ってから、歩き出す。
背中の後ろで小さな足音は遠ざかり、そして消えていく。

でもね、ピーちゃん。
夕日に照らされて背高のっぽになった一つの影を見て、想う。

でもね、ピーちゃん、わたしたちは大人になるよ。
大人になったら好きな道を選べるよ。
あとは投げ捨てていいんだよ。
ピーちゃんの好きなものだけを、大切なものだけを抱き締めて生きていけばいいんだよ。
ピーちゃんは優しくて強い。
男を引っ掴んでそれを食らうように生きていく私やお母さんを蔑もうとしない。
どんなに男のいやらしい性を目の当たりにしても、
ピーちゃんの恋心は生まれたての雛のように、柔らかい産毛に包まれて小さく鼓動を刻む。
影の輪郭は不恰好に歪んで、全然私に似ていない。

「私の方がベッピンだもん」

大きく息を吸うと、ちょっとだけ泣きそうになる。



<ピーちゃん>


時刻は午後十六時半。

「ねぇ、そろそろ帰る?」

夕日の傾きに夜の気配を感じてあたしは聞いた。
ユナちゃんは、少し淋しそうな顔をした。
あたしは、しまった、と思いながらも髪の毛の先を指に巻きつけてクルクル弄る。
ユナちゃんは、淋しさが苦手だ。
伏せた瞼が少し震えるとき、ユナちゃんは淋しさと戦っている。
そして、大抵は負けてしまうんだと思う。
両親を早くに亡くしてから、おばあちゃんと二人で団地に住んでいる。
環境がそうさせたのか、ユナちゃんの心が脆いのかは、あたしには分からないし余計な詮索もしない。
行き場をなくした淋しさは心の壁を突き破り、怒りや嫉妬のパワフルな衝動に姿を変えて誰かを攻撃したくなる。
でも大人になったユナちゃんが安易に攻撃しなくなったのは、
そうすることによって面倒くさい敵を作ってしまうことを学んだからだ。
その代り、たくさんの男の人と遊んでいるみたい。
噂ではずいぶん悪い女に仕立て上げられているけれど、きっとユナちゃんはそんな子ではない。
どうしようもなく弱いけど、生きぬく術をちゃんと心得ている。
大人になりかけの体を武器に、持て余す感情の処理に追われているだけの可哀想な女の子。

「帰ろうか」

と呟くユナちゃんに、あたしは何も出来ないでいる。
だけどユナちゃんだって、あたしに下手な励ましをされるより、
こうやって気づかないふりをしていた方が気楽なんじゃないかって思う。
だからせめて別れ際には

「また明日ね、ユナちゃん」

と大きな声で言う。
そしたらユナちゃんは鬱陶しそうに軽く手を振るけど、本当は照れているだけど知っている。

別れ際、余っていたグミの袋を押し付けてきたので、素直に受け取り口に放り込む。
夕日にむかって歩くと、ちょっとだけいい気分だ。
しばらく舌で転がしていたグミが次第に溶けだし、ブニブニした触感が増していくとふいに気持ち悪くなって、ぺっと道端に吐き出した。
唾液で濡れた赤黒い固体は、そのへんの石ころにまぎれようとしたけれど、明らかに人工的で一際目立っていた。
なに味だっけ…ああ、ザクロだ。
そう思い、グミを踏む。
このグミをぺしゃんこにしてやる、と半ば自棄になりながら頭の片隅で思う。
家に帰ったらエロクソジジィハゲが居るんだなぁ。
あたしはお母さんのエロクソジジィハゲが代わるごとに次に来た男がどんなものかをユナちゃんに報告する。
イケメンとかお金持ちとかそういう男はごく稀で、お母さんが三十路半ばに突入してからは、
大抵エロかクソかハゲの額を脂ぎらせた嘘くさい大人しか来なくなった。
それでもありのままに、暗くなりすぎないことを心がけて、木目がささくれ立ったあのベンチで打ち明ける。
するとユナちゃんは大抵の場合

「あのオッサン最低だね。死ね」

と怒った顔で真面目に言うんだ。
あたしはそんな時に限って、そんなことないよ、とかなぜかいい子ぶるけれど、
本当は容赦なしに言い放つユナちゃんの言葉に救われている。
ユナちゃんは多分一度も見たことがないであろうお母さんの恋人たちをまとめて“あのオッサン”と呼ぶ。
あたしだってあのオッサンが嫌いだ。
素性の知れない男を、あたしにろくな紹介もせず家に入れるお母さん。
当たり前みたいな顔でリビングに座っているオッサン。
口が臭い人もいれば、あたしの存在なんか見えないみたいに振る舞う人もいる。
そんな男たちに限って性の欲動を抑えようともせず、ましてや見せつけんばかりにあたしのお母さんとセックスをする。
時に腐りきった思考回路は肉体の不純をより最悪なものにする。
帰宅したばかりのあたしに一万円札を握らせたまま布団に引き込もうとした男もいた。
無我夢中で振り払って逃げ出しても、あたしのことを守ってくれる大人なんていない。
お母さんの秘密を打ち明けるとき、ユナちゃんの顔が少しだけ強張る。
そんなとき、あたしは

「ユナちゃんとお母さんは違うよ」

と言おうと思えば言えるのだけど、あえて言わない。
言ったらその言葉だけが色濃く浮き彫りになり、肝心の真実は置き去りにされてしまうからだ。
要するに正しく伝える自信がないあたしは、そのことさえ気づかないふりをする。

大人になんかなりたくない。
セックスの臭いも大嫌いだ。
あたしの胸が膨らんで、手足がうんと伸びて、嫌でも体は淫らに成長してしまう。
中学二年生になった女子たちは、ブラジャーをどこのブランドで買うとか、
スカートの丈をわざと短くして太ももを剥き出し、男を誘う技に余念がない。
そんな集団を横目にとらえて、あたしはまだ子供でいいやって思う。
毎朝学校に行くとき、鏡の前で梳かし立ての髪をぐいっと引っ張って二つ結びを作る。
何年も続けた習慣のおかげで、結び目はいつも綺麗だ。

グミを踏みつけることに飽きたあたしはまた歩き出す。
スマホが微かに震えたのを感じ、画面をみるとゲームの中の男の子からメールが届いた。
質問に対して、あたしが選べる選択肢は三つ。
そのなかから男の子へむける言葉として相応しいものを選び抜けたら正解だ。
正解すればハートが増えるという解りやすいシステムである。
しかしあたしは上手く選び抜けたためしがなくて、男の子たちをイラつかせる。
それでいいのだ。
上手くいかない距離感とか、気持ちが分からなくてむしゃくしゃするとか、
デジタルの仮想空間でさえ恋愛が性欲まみれではないという基本的なことを教えてくれる。
シャラララァーン、とバカみたいな音がして、少しだけ鼻白む。
河川敷の向こうにほとんど沈みかけの夕日が赤く腫れぼったい色で霞んでいる。
部活帰りの男子高生とか、よぼよぼの犬を連れたしわしわのおじぃちゃんとか、
みんなあたしを追い越して、どんどん先に進んでいっちゃう。
あたしには帰る場所があるけれど、あるだけで幸福とはいえない。

ねえ、ユナちゃん。
ピーちゃんってあだ名は、あなたがつけたんだよ。
いつまでも子供っぽくてピーピー泣いているから、ピーちゃん。
四歳の頃から大人びて少し意地悪で、でもあたしを見守ってくれているユナちゃん。
あたしはね、大人になりたくないの。
ユナちゃんがつけてくれた名前とこの二つ結びは、あたしを何も知らない子どもでいさせてくれる。
頬を斬るように鋭い風が駆け抜ける。
よぼよぼの犬がぎゅっと目を閉じて、おじぃちゃんは白髪をおさえ空を仰ぐ。
二つの結び目に手をかけると、あたしは力任せに引っ張った。
まだ吹き上げる風に、解き放たれた黒髪がなびく。
行き場をなくした髪の毛は四方に散らばりながら、そして力なく背中に項垂れる。

「帰らなきゃ」

何も知らないままではいられない。
子どもでいたいあたしも、きっと急かされるように大人になってしまうのだろう。
それでもいいんだ、と思える日まであたしは綺麗な結び目を結い上げる。




3年前 No.0
関連リンク: まだらな生の裏切り 
ページ: 1

 
 

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なかなかいい。

3年前 No.1

Ayaka ★lOVzGF7UIS_mgE


「なかなか」という表現がもどかしくて、しかし無性に嬉しかったりします。

読んでくださって、有難うございました。

3年前 No.2
ページ: 1

 
 
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