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原理的挫折を夢みる愛のたわむれ(第四稿)

 ( 詩投稿城(感想版) )
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くら @goburin ★SavZ0HjCRh_keJ



極東戦争が起きてから三年目の夏、
僕らは網越しの充溢をようやく完遂した。

歯車の欠落した国家と熱量を持たない彼は、
種子を拡散することも膨張することもできない。
植物人間が喋るなら、きっと言うだろう、
「私は平衡している」と。

鋼鉄を頭蓋に埋葬したまま、僕は細く白い手をとり、
己のエゴイスティックを穏やかに押し付ける。
数米の勢力均衡ラインを、
止むことなく電子虫が食い荒らしていくように。



爆風がDMZを押し流して、
うるわしき中立が言葉だけの紙切れとなり下がった夜、
僕らは爆心地からはるか遠い異国の街で耽っていた。

その頃には既に、誘導爆弾は鉄橋を溶かし、
高空支配隊が母国に熱炎をオペラのように叩きこんでいた。
MADに穢された破砕弾頭が近海から放たれて、
節操のない爆轟波が鉄骨をみるみるうちにジェラートに変えた。
国連が動きだすまでに極東は破滅的な自壊を始めており、
そのアポトーシスめいた殺戮は、国籍を問わなかった。

鏡花と僕が明け方にシーツから転げだしたときには、
僕らを規定するあらゆる認証が、すっかり融解していて、
肉片の一つたりとも、レコード、されなくなっていた。
溶けたガラスがゆっくりと混じりあうように、
僕たちの存在も記録上は死者と区別がつかなくなり、
そんな非現実と実在の狭間で、鏡花は、自死した。

灰いろに接取されつつある桃源郷で、
僕と暮らすことのなにかが、死を引き寄せたのだ。



「たぶん僕にとって、
 母国の混沌は苦であるべきだった。
 身寄りが少ないわけでもなく、
 かつての社会基盤に、間違いなく属していた、
 客観的な僕にとっては。

 だが、焼夷弾のリボンがひらひらと火を帯びて、
 故郷の街をひとつまるごと異郷にかえてしまっても、
 親爆弾の開裂から無数の子魚が降りそそいでも、
 その鮮やかさが落涙につながることはなく、
 僕はレティナの滑らかさから、音だけを聴いていた

 そういうとき鏡花は決まって、
 この予防戦争を取り仕切った人々を列挙して、
 誰がその責を負わなければならないか、の話をしたが、
 僕には、こうした他愛のない話を通じて、
 彼が自分自身を傷つけたがっているように見えた。
 戦時下でも戦後でもない遠方で、
 収束しつつある破裂の残骸を撫で続けるのは、
 秘裂に指を這わせて背徳に耽るのと変わらない。

 僕が見るかぎり、鏡花と僕は、幸福だった。
 母国の偏見としがらみから解かれ、
 敵がみな焼き尽くされた墓標のような街を想って、
 互いの醜さと美しさに耽溺していられたのだから」



戦後処理が瞬く間に終わって、
責任を取るべき戦犯たちが形ばかりの謝罪を残し、
断頭台かあるいは電気椅子に腰を下ろしたあとも、
一部の抵抗地域では、曳光弾が夜を粍単位で刻んで、
バウンシングベティが毎日のように踊っていた。
ベティは、中空で炸裂し、人体を容易く水袋にする。
下手くそなクラッカーのように、静寂を一発の震動が満たして、
それがゆっくりと皮膚の奥底に浸みわたっていった。

避難さえも逃亡と見做される住人たちが、
人形の瞳で、憎しみさえない疲労を口にする諦念。
それらの現実的な光景はやはりどこか遠くで響く鐘のようで、
僕の安らかな心境をますます助長した。

この先、ひとまずの落着が訪れて、
放たれた哨戒機が僕たちを見つけ出すことになったとき、
鏡花と僕は、誰に処理されることになるかというのが問題だった。
デジタルな情報はまだどこかに残存しており、
統制機関が復旧するにつれて、再び個人の肉体とリンクする。
そうして母国が二人を絡めとるように迎えるとき、
かつての識別装置が正常に作動していれば、
鏡花かあるいは僕の柔らかな肉はくつわをはめられて、
形なき牢獄でつまらない裸体を晒す刑罰を受ける。
僕たちは投降しないまま、凍死するまで別々に捨て置かれる。

その耐えがたい苦痛を想うたびに、
僕は、永遠をこの街に凍結させたく思い、
鏡花という人間を、呪いつくしたいと思う。

それは今も。
この瞬間でさえも。



あの、朝は、PKFが母国を制圧した翌日だった。

ひとしきり暴れた軍事勢力との、最後の総力戦は、
鏡花の故郷にさえ、特段の影響を与えなかったのだが、
その頃にはすでに細菌兵器は極東一帯に出回っていて、
地球のその、巨大な一面が、監獄と化していた。
隔てた海の向こうから大国が振り回した指揮棒が、
そうした潜在的危険地域をデータ上で焼き殺し、
挙句の果てには、SLBMが現実の肉ある人間たちまで浄化した。

レティナでは曖昧で具体性を欠いた、
ニュースもどきがネオンのように点滅し続けていて、
子守歌のように周期的な安らぎが訪れていた。
靄がかった画面内の世界の喧騒は、
あくまでも僕らと切り離されていて、
与えられた余暇の無音性をむしろ強調していた。

しかし僕が穏やかさを育んでいくのと歩調を合わせて、
鏡花はいつからか、故郷に、彼の母国に、
つまりあの隣国に帰りたいと漏らすようになっていた。



僕は、すかさず帰郷を提案した。当然僕にとって
も鏡花にとっても、帰郷が意味しているのは無意
味な自死だった。廃墟にたどり着く前に、機関銃
かベティ、あるいは装甲車の鋼鉄が、僕たちの頭
蓋か内臓、あるいは精神を撃ち貫くだろう。それ
でも、彼の望郷の念を否定することはできず、旅
支度を終えた僕が、マーケットから戻ったとき、
玩具のような破裂音が響いて、年代物の25口径
から溢れた豆粒のような弾丸が、生かすでも殺す
でもない熱的平衡に、鏡花を誘って、煙が匂い、



「僕にとって。

 つまり鏡花を失って、
 すべての束縛を失った私にとって、
 ビーグル犬の老いた瞳の男を失った一人の逃亡者にとって、
 極東戦争の一連の出来事は夢と変わらなかった。

 爆轟が未だ止まない街が次々に増えていき、
 局地紛争は大陸の半分を巻き込んだ大戦の様相を呈している。
 火ははるか海の彼方まで飛び散り、
 破損した製造物がその海を覆いつくしていた。

 母国は三年目に突入した極東戦争において、
 もはや隣国と非生産的な感傷で対立し続けることを避け、
 一時的な休戦協定を結ぶことに同意した。
 国家にとっての敵とは、常に仮想でしかない、
 本当の敵を持つには、人類の機構はあまりにも未熟すぎた。

 私は、今ならば、
 帰郷することさえできるだろうが、
 もはやこの街をただ一人で、
 出立する意思は、持てなかった。

 私が、(あの寒い朝を出掛けたとき、
 私が、(鏡花とともに凄絶な死を遂げてみたいと願望したとき、
 私が、(破ることのできない両国間の金網の前で銃殺されることを、望んだとき、
 私が、(頭骨を貫く螺旋状の飛翔体がふたつの脳漿を飛び散らかして、
 私が、(そのぬくもりのなかに横たわることを、夢想したとき、
 私が、(溶けたガラスが混じりあうように自死しようと、

 微笑んだとき、「帰ろう」。パン。
 鏡花は弾けたのだ。



歯を剥き出しにして鏡の前で笑う僕が、

なにか恐ろしい怪物に見える瞬間がある。

二度目の銃殺を夢想するにあたって、

僕は、鏡花の平衡を取り除くことを決めた。

彼の白く細くなった手を彼自身の頸に押しつけて、

完遂できなかった自死の続きをする。

鏡花が選んだ旅立ちを、僕はなぞらなければならない。

そして僕の呪いを終わらせなければならない。

天空をラッパのような重低音が奔り、

はるか遠い異国の街にも子魚が降り注ぐ、

その強制的な結末を僕たちは嫌った。

母国の敵たちを睨み続けて、出奔した命だった、

その信念を完遂しなければならない。

うなずいた鏡花の息が、

スタッカートになったとき僕は考えていた。

誰が責任を負わなければならないのか。

僕たちの死について。



「形ばかりの収束が数瞬後に膨張して、
 極東全体に拡散したあのときから、
 罪や罰が、なんだったのか分からなくなった。
 紙きれ、レコード、ID、認識番号、
 僕たちを規定するまったく空想のパラフレーズたち。
 光を当てない宝石が輝かないように、
 生来の刻印たちの、その本質は外部にあった。

 いまや、この僕が、装飾品を失った神々のように、
 ただ裸の肉体と自分自身への強権しか有していないのなら、
 この虚無的な殺人もエゴイズムの成れ果てでしかない。
 自らが鏡花のなんであったかということさえ、
 あの銃声の虚しい反響音にすぎない。

 あの朝、
 故郷がまったく無作為に焼失して、
 憎苦さえさっぱり消えてしまっても、
 鏡花の生死に僕は寄り添うべきだったのだろうか。

 脱皮を終えた彼の肉に、
 刻み込まれた望郷の念に、
 その眼差しの先に、

 同じ夢を見なければならなかったのだろうか。
 二人で甘美な死を探すことではなく。
 生でも死でもない妄念に身をゆだねる夢を。

 僕はそれを、ナンセンスな自慰にすぎない、と断じた。
 だから鏡花は、自らをこめかみから離陸させたし、
 僕は、ベティのように踊ることに落ち着いた。

 あの、隠された跳躍地雷の少女たちは、
 人間たちを感知して、情熱的に打ち爆ぜる。
 この、僕の秘匿された生の、一部分が、
 鏡花という人間を見出して、炸裂した、ように」


 せんれつに。

 あとかたもなく。



下顎骨に圧てたクラ
ッカーを引けば、フレシェ
ット弾にも似た風切り音が響き、
頭蓋の内側に脳が焼き付いていく。

極彩色の曳光弾が眼球をぶるぶると
震動させながら大地に突き刺さって
は高空に伸び、その開裂からほとば
しる小さな鯨が血中の酸素濃度を低
下させて、極小の電磁パルスが幾度
も幾度も視床下部で炸裂した。この
火花が、僕の、僕自身への強権をい
よいよ奪い取って、そうして肉体が
ようやく散逸を受け入れた。この短
い周期のなかで。骨肉に刻まれたレ
コードたちから。僕も弾けるのだ。



そこから、



その、



ほんの短いインターミッションで、



僕はどうやら、



とおい故郷の場所が、分かった、



と、思った、おもった、



鏡花が、葬られるであろう、



故郷の、とおい場所が。




あの、さむい朝、私が、

凄絶な死を願望したとき、

金網の前で銃殺を望んだとき、

頭骨が脳漿のぬくもりを夢想したとき、

ガラスのように微笑んだとき、

「帰ろう」、パン、とはじけた、

下顎骨に圧てたクラッカーを引けば、

フレシェット弾にも似た風切り音が響き、

頭蓋の内側に脳が焼き付いていく。

極彩色の曳光弾が眼球をぶるぶると

震動させながら大地に突き刺さって

は高空に伸び、その開裂からほとば

しる小さな鯨が血中の酸素濃度を低

下させて、極小の電磁パルスが幾度

も幾度も視床下部で炸裂した。この

火花が、僕の、僕自身への強権をい

よいよ奪い取って、そうして肉体が

ようやく散逸を受け入れた。この短

い周期のなかで。骨肉に刻まれたレ

コードたちから。帰郷に着く私は、

弾丸とともにこの地に埋葬された、

思いを失くし、枯れた日々を送る、

死んだ私を、帰郷して。



極彩色の曳光弾が眼球をぶ*るぶると
震動させ*ながら大地に突き刺さって
は高空に伸び、その開裂か*らほとば
しる小さな鯨が血*中の酸素濃度を低
下させて、極小の電磁パル*スが幾度
も幾*度も視床下部で炸裂した。この
火花が、僕の、僕自身への強権を*い
よいよ奪い取って、そ*うして肉体が
ようやく散逸を受*け入れた。この短
い周期のなかで。骨肉に刻ま*れたレ
コー*ドたちか*ら********。


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