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天が歌いし鎮魂歌

 ( 小説投稿城 )
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白兎 紡 ★Android=nAzaus8m3z

──あら、こんにちは。貴方がこの図書館に来るなんて珍しい事もある物ですね。
──この前渡した本はもう読み終わったのですか?
──そうでしたか。では、新しい本が入ったんです。
──どんな話かって?とある双子の話ですよ。
──運命を彷徨う天と海の娘。
──二人は、どうなって行くのでしょうか?

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白兎 紡 ★Android=nAzaus8m3z

叔母さま主催のパーティーは13時から始まるらしい。
因みに今は10時……うん、大分早く来てしまった様だ。
「今日はゆっくりしてってちょうだいね」
「あの、叔母さま」
海香がおずおずといった体で声を掛ける。
「どうしたのかしら?」
「少し、森の方を見に行ってもいいですか?」
「ええ、いいわよ。どうせなら天音ちゃんも見に行かない?」
「あ、いいんですか?」
さっきから森を気にしている海香も気になるが、あっさり許す叔母さまも叔母さまである。
「大丈夫よ。かなり時間もあるし」
「んー、分かりました。海香、行こうか」
「! 分かった」
…………本当に、海香はどうしたのだろうか?

3ヶ月前 No.4

白兎 紡 ★Android=nAzaus8m3z

「綺麗…………」
思わずそんな声が出てしまった。
目の前にあるのは、神聖と言っても過言ではない程美しい森だった。
少しばかり背の低い木々が立ち並ぶ森の奥、なぜだか霧に包まれている所には泉があった。

「……やっぱり、か」
不意に、そんな声が聞こえる。海香でも、勿論私でもない第三者の声が。
「…誰なの「海香!」──え?」
ほぼ直感で海香の体を突き飛ばす。
それと同時に大地が揺れる──地震か!
そう思った時には、既に私の体は水の中だった。

3ヶ月前 No.5

白兎 紡 ★Android=nAzaus8m3z

「──ま」
ああ、誰かの声がする。
───ごめんなさい。ごめんなさい、■■。

「──様」
さっきのは、夢?
───様子が変なの、気付けば良かったのに。

「──セア」
もしかして──
───ごめんね、■■。

「マルセア!」
「ぅみ、か……ごめんね…」
これが、【わたくし】の目覚めだった。

3ヶ月前 No.6

白兎 紡 ★Android=nAzaus8m3z

第一章 青薔薇姫の胎動

「マルセアお嬢様!ああ、良かった……」
「………ふぇ?」
思わずといった体で抱きしめてくるメイド服の少女に戸惑い、変な声が出てしまった。
「4日もうなされていたのですよ?私共がどれだけ心配したか……!」
「……そう、なの?……ターニャ」
ターニャに問いかける。──そういえば、あれは?
「……ウミカって誰?」
「お嬢様?」
いやまて。思い出せ私。私の名前はマルセア・ペリド・アルローズ。10歳の双子の姉。…………ん?違う。
篠乃芽天音、15歳の公爵令嬢……うん?
「お体に召されましたか?もう一度お眠りになっては?」
「……そうするわ」
一回寝て整理しよう。そう思い、私は再びベッドに入った。

3ヶ月前 No.7

白兎 紡 ★Android=nAzaus8m3z

「…………はぁ………」
ベッドから半身を起こして20秒後。
混乱した状態から何とか抜け出した。…ものの、それと同じくらい分からない事が出てきた。
整理しよう。
今の「わたくし」の名前はマルセア・ペリド・アルローズ。10歳の公爵令嬢だ。
で、前の「私」──前世では篠乃芽天音という名前。15歳の双子の姉だった。
海香を庇い泉に落ちて溺死というのが死因。
……それにしても享年15歳って中々にヤバくないか?栃木県一早く死んだと思う。
「……とまあ冗談はおいといて、やることは…」
身体確認である。
そう、前世Aカップだった私は思ったのだった──。

3ヶ月前 No.8

白兎 紡 ★Android=nAzaus8m3z

身体確認して分かった事がひとつ。
「CよりのB……かな……」
自分で言ってて悲しくなってきた。
ま、まあ?前世よりかは育ってるし?
…………………………………自分で言ってて悲しくなってきた。
「……うん、それよりもこの髪と眼だよね」
蒼い髪と金色の眼。前世ではこんな色あり得ない。
つまり……
「ここは間違いなく異世界、それも漫画みたいなファンタジー世界なのかな?」
否、断定している。窓の向こうに見える世界がそもそも異常なのだ。
広大な農地とそれなりの住宅街、市場。少し目を凝らせばそこに見えるのは御伽噺の中の様な城。
西側には海があり、その向こうには大陸の影。
間違いない。わたくしがいるこの世界は全体に、前世やっていた乙女ゲーム『翡翠色に恋して』の世界なのだ。

3ヶ月前 No.9

白兎 紡 ★Android=nAzaus8m3z

乙女ゲーム『翡翠色に恋して』。
主人公である子爵令嬢エルメラはとある事件から伯爵の養子になり、パーティーに出席する。
そこで出会った3人の貴族令息、第二王子と恋を繰り広げる──という、内容自体はよくあるゲーム、なのだが。
翡翠色に恋して──略してエル恋──の中にも悪役ポジションの人物はいる。
それが第二王子の婚約者、マルセア・ペリド・アルローズ。愛称マリー。蒼薔薇姫と迄呼ばれる彼女は自身の婚約者を取られた嫉妬心からエルメラをいじめ、挙げ句の果てに卒業パーティーで王子アルバントにその事を叫弾され王族不敬罪で処刑、というルートを辿る。
まあつまり、私は俗に言う悪役令嬢に転生したのです。
(確かマリーがアル様と婚約するのが12歳……)
だとすれば後2年。……かなりギリギリだな。
「……うし、頑張れ私!」
後の未来にかけて、処刑ルートは回避しないと!

3ヶ月前 No.10

白兎 紡 ★Android=nAzaus8m3z

処刑ルートを回避するために、まずは周りから固める事にした。このアルローズ領内の視察である。
現領主──私のお父様、ドルトムント・ペリド・アルローズ公爵が経営する領は王都の近くという事もあいまってか比較的平和だ。だがそれは私の主観の話。
何か諍いが起きているかもしれない。それを解決してしまえば処刑の可能性も少し減る………かも。
だが……
「……現実はそう甘くないんだよね………」
よく言えば果敢に、悪く言えば何も考えずに行きかけた所で我に返った。
それはそうである。10歳の小娘がだだっ広い公爵領内を視察した所で何が出来ようか。
元から打算と下心たっぷりの案だったが更に駄目な気がしてきた。
「はぁ……ターニャ!紅茶を持って来てくれない?」
「かしこまりました」
その時私は考えもしなかった。実の父が宰相の仕事のせいで私を見るだけで「何でも言って」というのを──

3ヶ月前 No.11

白兎 紡 ★Android=nAzaus8m3z

わたくし──マリーには、2人の兄がいる。
長兄は近衛騎士。このペリドット王国の中でも5本……否、2本の指に入る強さを誇る。
次兄は魔法師団の副団長。池の水を一瞬で蒸発させる火力の魔法から自動戦闘人形(オートマタ)を創造する魔法等、何でもありとしか言えない人。まあ極大魔法をぶっぱなす方が好きらしいけど。
そしてお母様──クロニカ・ルシア・アルローズは『北東の壁』と迄呼ばれるアルケミス侯爵家の令嬢である。因みに北東は『北東』ではなく『北(と)東』という意味だ。
で、お父様は宰相。何が言いたいかというと………
(………権力ありすぎじゃないっすか、うち)
ターニャが淹れてくれたレモンティーを飲みつつ考える。美味しい。
現在宰相仕事中のお父様をお待ちしてますマリーです。
お父様は毎日帰っては来るものの、いつも帰りが遅い。前世でいうならようやく単身赴任から帰って来る父親を待つ娘、という感じだろう。
「…!お嬢様、旦那様がお帰りに」
「あら本当に?ありがとう」
そして私はお父様を迎えに行った──。

3ヶ月前 No.12

白兎 紡 ★Android=nAzaus8m3z

「お帰りなさいませ、お父様」
「………ああ、マルセアか。ただいま」
お父様は前言ったように宰相の職に就いている。
大陸で2番目の国土を誇るこの国、ペリドット王国の宰相なので当然忙しい。
だがお父様も公爵位。いい意味で時間と御給金に見合わぬ仕事をしているそうな。
「お疲れでしょう?最近ハーブが取れたのでハーブティーでも淹れますよ」

因みにハーブティーは記憶が戻る前からマリーが淹れている。レモンティーとかフルーツ系は苦手だけど。
「………」
「…お父様?」
「そういえば、マルセアはもう少しで誕生日だったな」
「へ?あ、はい」
確かにマリーは後一週間程度で誕生日だ。暦の上で言えばまだ9歳なのだが、ずっと10歳と言っていたのもこのためだった。
「クロニカとも話し合ったのだがいいものが見つからなくてな。何でも言っていいんだぞ」
「ま、……!?」
危ない危ない。思わず「マジで!?」と言いかけた。
……ん?これはもしかすると………
「……お父様、何でもいいんですね?」
「ああ、何かあったか?」
「では、」

「わたくしと遠乗り(デート)に行ってください」
…………おかしいな?今変な注釈が……?

3ヶ月前 No.13

白兎 紡 ★Android=nAzaus8m3z

「…………そんな事でいいのか?」
お父様の第一声がそれだった。幸いにも注釈は聞こえなかったらしい。
「ええ。わたくしの上にお兄様がいるとしても自分の住む領地です。領民が不満を持つ、とまではいいませんが見ておきたい物なのです」
そしてあわよくば諍いの解決を…!
と思いながら(多分)曇りなき眼でお父様を見る。
もともと大して主張する事のなき娘からの上目遣い!これで落ちない父親がいるものか!
「……それに、お父様が遠乗りで少しでも疲れを癒してくれればと………」
やったーー!やりましたマリー選手!懸命に父親を気遣う娘アピールです!
「……わかった、行こう」
「!本当ですか!ありがとうございますお父様!」
案の定お父様は許してくれた。やったね!

3ヶ月前 No.14

白兎 紡 ★Android=nAzaus8m3z

さて。
いくらお父様がチョロインだとしても遠乗りに行くのは5日後。それまでに色々と準備をしなくてはならない。
夕食を食べ終えて自室に戻った私は、日記……代わりのノートを持ってきた。因みにこの世界にも普通に紙はある。だが結構高い。
「んえーと、タイトルどうしよ?『蒼薔薇の』……」


◆□◆□◆

結局タイトルは『蒼薔薇の蕾について』になった。これなら見つかっても趣味の研究ノート程度にしか思えないだろう。
私はそこに前世の記憶、エル恋についての内容等を書き記した。
エル恋が始まるのが貴族学園3年生──マルセアが17歳の頃。7年間で前世の記憶がくっきりと残っているはずがない。
もしかするとエルメラが転生者、という可能性もあるかもしれない。だがそれはごく僅かの可能性。
「………とりあえずその事を念頭に置くか?」
──その後、日記に書いていた文字だけは、「私」の心に入れておこう。

3ヶ月前 No.15

白兎 紡 @tumugi17 ★Android=nAzaus8m3z

「んー、ふえらっしょ……」
背筋を伸ばしたら変な声が出た。周囲に人が居なくて良かった。
こんにちは。午後2時(因みにこの世界では2時間周期で鐘が鳴り、それで時間を計る)にハーブを取りに来ていますマルセアです。
まあ取りに来たと言っても公爵邸の裏にある薬草園に、なんだけどね。
公爵邸から少し離れてはいるが近くに村があるので大して心配はない。お父様はかなり心配していたが。
「お父様も心配症が過ぎるよねー、と。ローズマリーローズマリー」
薬草園には様々な種類の薬草がある。これ自身はお母様の趣味だ。
ローズマリー、レモングラス、ジャーマンカモミール。
今日はこの3種類を使ってポプリを作ろうと思う。
それぞれわかるように布の色分けをして、ジャーマンカモミールは余ったらお風呂に入れる。
「えーと、作り方は覚えてるよね?これも蕾に書いとこ」
3つ並べたら可愛いかも、と思いながら薬草園を後にした。

3ヶ月前 No.16

白兎 紡 @tumugi17 ★Android=nAzaus8m3z

「ふー……おっしゃやるか!」
作り方をおさらいしながらやっていきます。
その1、乾燥させる。これは風魔法で時短する。
「つーかこの世界にも魔法あるのか……ウェントゥス!」
因みに今使った魔法は風の初級魔法。貴族学園ではここら辺も学んで行く。
閑話休題。乾ききったな!
その2。瓶や袋に材料とエッセンシャルオイルを入れる。
今回はお裁縫の勉強で習った小袋に刺繍した物を使う。そしてエッセンシャルオイルは……
「………んー、ハッカ水で代用しよ」
ハッカ水はハッカから出た水分の事。今回はそれを代用しよ。
その3。密閉して熟成。これは本来4週間かかるが、熱魔法で時短。壺の中に入れて熱する。
で、
「完成〜!」
なんということでしょう。1ヶ月以上かかるポプリ作りが僅か3時間でできてしまいました!

3ヶ月前 No.17

白兎 紡 @tumugi17 ★Android=nAzaus8m3z

作ったのは4種類5個。
ローズマリーのポプリ、レモングラスのポプリ、ジャーマンカモミールのポプリ。あと香りの相性がいいローズマリーとレモングラスのポプリを作ってみた。
で、だ。
「作ったのはいいけど……飾るだけはもったいないよなー」
可愛いけどもったいない気がする。
(でもだからといってお兄様にわたすのも……あ、)
「リシーにわたすのも手、かな」

◆□◆□◆
リシェラ・ウィーン・ライブラリアン。
先祖代々王宮司書の役目を果たし、【神を視る眼】を持つと迄言われるライブラリアン侯爵家の令嬢である。
私の親友でありその白銀の髪から『白百合姫』と呼ばれている。まあ知り合い以外には冷たいので『ゼンマイ仕掛けの銀百合姫』とも呼ばれるが。
そんな彼女はかわいらしい物を大層気にいっている。このポプリがリシーのお眼鏡にかなうかが問題だが、まあ大丈夫だろう。
「ターニャ。明日リシーの家に行くわ。準備してくれる?」
「かしこまりました、お嬢様」

2ヶ月前 No.18

白兎 紡 @tumugi17 ★Android=nAzaus8m3z

と、言うわけで時は過ぎ。
「久しぶり、リシー」
「…………………はぁ……」
リシーの家に行けば盛大なため息をつかれた。解せぬ。
「どうしたのリシー。北の山より高いため息なんか出して」
「…………そこで海じゃなく山に行く貴女のセンス、私は好きよ」
「そんなに誉めないでよ照れる〜!」
「お世辞って言葉を学びなさい」
大体いつもこんなノリだ。R-1ならぬ令嬢-1グランプリ行けるだろう。
「……で?用件は?」
「あ、忘れてた。実はね!」
忘れて、の辺りで目からハイライトが消えてたが、根気強く事情を説明した。
「──で!これがそのポプリなんですが」
「ふーん……ん、いい香り。ローズマリー?」
「ローズマリーとレモングラス!」
そこまで言うとリシェラはふっ、と頬を緩ませた。
「………ま、いいんじゃない?……可愛くて」
「………ふふ、ありがとう」

2ヶ月前 No.19

白兎 紡 @tumugi17 ★Android=nAzaus8m3z

リシーの家を尋ねてから早数日。
今日は遠乗りの日です!
「わざわざありがとうございます、お兄様」
「なーに!大切な妹の頼みだからな!」
…………そう、お兄様、なんだよね。遠乗りするの。
お父様は急な仕事が入ったそうな。すんごく申し訳なさそうだった。
今回同行してくれるのは次兄のウルタリアお兄様。魔法師団の副団長であり、かなり色々ぶっ飛んでる人。この前池の水全部抜く(物理)ができると言った方だ。
極大魔法を打っ放す方が好きな男子だけど信頼はできる。信頼は。
「でも魔法師団の仕事は……」
「ん?今日は休みだったからな」
「……そう………ですか………」
なら何故長兄は仕事なのか。
「……ふぅ。では行きましょう、お兄様」
「ああ、私のマリー」

2ヶ月前 No.20

白兎 紡 @tumugi17 ★Android=nAzaus8m3z

まず向かった先はアルローズ領内にある小さな村、通称クルエラ村。田園地帯が多く、領の食糧庫の様な役割を果たしている。……所の郊外だ。
「一度ここに来てみたかったのです!」
「そうか?まあここには森や泉があるからな」
「ええ。特にその泉はとても綺麗、だ、と……」

ついたとたんに言葉を失った。
陽光が入り煌めく足元の草花。
絶妙なバランスで針葉樹と広葉樹が共存し、さぁ……と時々散りゆく──桜や梅の様な──花が美しい。
その桜吹雪の中に、泉はあった。
見事なエメラルドグリーンの水の中、底になにか光るモノがあった。
「あれは……」
「水の中でしか出来ない鉱物だ。見てみるか?」
「──………いえ、大丈夫です」
美しい、と思う気持ちはあれど、見てみる気にはなれなかった。
そう思うのは多分───

『私』と海香の【運命】のその日に、そっくりだったから。

2ヶ月前 No.21

白兎 紡 @tumugi17 ★Android=nAzaus8m3z

『くす……』
『クスクス………』
『クスクスクスクス……』
──ふいに、そんな声が聞こえた。少女の様に無邪気なのに、どこか残酷さを感じる、そんな笑い声が。
「──誰?」
私は思わず、声を出してしまった。
『ここにヒトの子が来るなんて』
『珍しい事もある物ね』
『しかも魂が混ざってる!霊力たっくさん!』
「っ!」
魂が混ざってる。
その一言から連想してしまった。『私(天音)』を。
「お兄様、──え?」
周りを見渡す。が、辺りにはお兄様どころか人影すらなかった。
(いつの間にっ……!)
『まあまあ』
『そんな警戒しないでよ』
『取って食べたりしないからぁ!』
声の数からするに、三人いるらしい。
「誰なの、と聞いています。姿を表してください」
声のする方を睨み付ける。すると、三人の少女が──少女?
『呼ばれて来ました!』
『あら、間抜けな顔』
『どーだ!驚いたか!?』

next:聖別なる第三の地平線

2ヶ月前 No.22

白兎 紡 @tumugi17 ★Android=nAzaus8m3z

第二章 聖別なる第三の地平線

そこにいたのは、三人の少女だった。……蜻蛉の様な羽を生やした。
「………………は?」
『ふふ、驚いてるよ、モーデ!』
『間抜けな顔だと思わない?イアル』
『あっはは!綺麗な子だね、プライ』

上から順に、朱色の髪をお団子にまとめた緑色の羽の少女、群青色の髪をポニーテールにした藤色の羽の少女、金髪をおさげにした栗色の羽の少女だ。
「…………あの、あなた達は?」
『あ、ごめんなさい!私はプライ!で』
『私がモーデよ』
『イアルでーっす!妖精さんだよ〜!』
「妖精…!」
一応エル恋にも【妖精】という種族の事は描写されていた。
神聖な【精霊】と違い、森や泉、鉱山などにいる、いわば付喪神の様な存在。
ある者には永遠の富を与え、しかしある者には不滅な災厄を呼び覚ませる──気紛れな『なにか』。
どうやらこの──朱髪がプライ、ポニテ少女がモーデ、おさげがイアル──三人の妖精は、そんな舌先三寸な者達らしい。

2ヶ月前 No.23

白兎 紡 @tumugi17 ★Android=nAzaus8m3z

「──………とりあえず!お兄様の所へ返してください」
我に返り願う。だが三人はそれを許可しなかった。
『え、無理』
『私達も妖精だし』
『女王(めおう)の命には逆らえないのー』
「………女王?」

*◆*◆*
(主にモーデから)話を聞くに、女王とはこの世界にいる全ての妖精の長らしい。
『……で、女王に目を付けられたのがあなた』
「ええ……」
…………いや、そもそもなんでだよ。

2ヶ月前 No.24

白兎 紡 @tumugi17 ★Android=nAzaus8m3z

『まあ、そういう事で』
いやどういう事だよ。
『貴女は霊力が多すぎるのよ。目を付けられて当然だわ』
「ええ………」
そういえばさっきイアルも魂がうんたら言っていた様な……?
『それよそれ。貴女は魂が混ざっている状況。ヒトの2倍の霊力があると考えてちょうだい』
なるほど。コップに水を継ぎ足す様な物か。

2ヶ月前 No.25

白兎 紡 @tumugi17 ★Android=nAzaus8m3z

…………って、ん?
「貴女達もしかして……私の心読んでますの?」
『妖精はヒトの思いに敏感だからねー』
『そうでもなければやってられないわよ』
『だから貴女の事は全部お見通しなのー』
絶妙に答えになっていない答えに私は思った。
………………まーじかよー。

*◆*◆*

『──で!本題入っていいかしら?』
そういえば。教えてモーデ!
『貴女はさっき言った通り魂が混ざっている──つまり転生者なの。何故私達がこの言葉を知っているかは後で聞いて。で、』
『転生者は基本的に厄介な存在として私達妖精に伝わっているの。だから女王は貴女に目を付け、』
「プライ達に監視役を任せた──と」
なるほど。つまり私は、
「女王に会わなければならない訳ね?」
next:司りし刻との邂逅

2ヶ月前 No.26

白兎 紡 @tumugi17 ★Android=nAzaus8m3z

閑章 ■■■の過去

彼女は元は東方のとある国に棲む妖(あやかし)だった。満月の夜に異形になる、黄月(おうげつ)という妖。彼女はその中でも特殊な存在だった。
『さすが■■■様。我等の倍の力を持つだけに有らず、三日月の刻にも変化するとは』
『貴女様がいれば我等の村も安泰でございます』
「……ええ、ありがとう」
どれだけ褒め称えられようとも、彼女は虚しさに包まれていた。そして、そんな自身にすら嫌気が差していた。
今日もまた、祭殿で祀られるのみ。誰も来ない時に、彼女は一人うずくまっていた。
「………姉さん………」
ヒトに嫁いだ姉を思い、今日もむなしく日々を終える。

そんな日々が終わりを迎えたのは、唐突だった。
『■■■様!お逃げください!』
「……え……?」
村が、燃えていた。
紅い焔が祭殿を、彼女の居場所を奪ってゆく。
彼女以外の同胞が灰になるのは、それからすぐの事だった。

2ヶ月前 No.27

白兎 紡 @tumugi17 ★Android=nAzaus8m3z


身寄りのなくなった彼女を拾ったのはヒトだった。否、妖精である。
美しく靡く紫の髪。その金眼は自身を見ている。
「………?」
『美しい黄月ね。……うん。貴女、妾の物になりなさい』
身勝手だと思うと同時、あの人の物になりたいという気にもなった。彼女は問うた。
「あな、たは?」
『ああ、ごめんなさい。妾は……そうね、トライアと呼びなさいな。貴女は?』
「…………■■■……」
『ふーん。…いい名前ねえ』
【いい名前】。
そのたった四文字に、彼女は救われたのだ。
next:司りし刻との邂逅

2ヶ月前 No.28

白兎 紡 @tumugi17 ★Android=nAzaus8m3z

第三章 司りし刻との邂逅

「───……!」
目を覚ましたらお兄様の手が目の前にあった。
「マリー?大丈夫かい?」
「………お兄様?ええ、大丈夫です」
どうやら私が目を閉じていたのは2秒程らしい。あっちの体感は10分なんだが?
「そう?ならいいんだ。少し休憩してから行こうか」
「はい」
そういいながらちらり、と空を見る。
(──4日後、だね。三人共)

*◆*◆*
『結論から言うと、4日後よ』
「4日後?に、女王に会いに行くの?」
『うんー。あ、これ』
そう言ったイアルにぽーんと何かを投げられる。
手の中に収まったのは、一つのブレスレット。
「………これは?」
『通行証みたいな物だよ。準備しといて』
「そうは言われても……どこに行くの?」
『あ、言ってなかったか』
そう言うとプライはすっと上を指す。
………………まさか?
『空』

2ヶ月前 No.29

白兎 紡 @tumugi17 ★Android=nAzaus8m3z

『空』
…………………………………はああぁぁあ!?!!!!!
「そ、そそ空って……」
上を見上げる。だがそこにあるのは白い雲、まぶしい太陽。以上。
『やだなあマリー。ペリドット王国にある訳ないでしょ?』
「…………それはもしや……」

『他国に行くに決まってるじゃないか!』

…………………ですよねーーー!!!!!

*◆*◆*
「あーー…………」
マイホームに帰ってきた私は全力でだらけた。そりゃもう、公爵令嬢としてどうかと思う程に。
(うん、一回整理しよう。そうしよう。このままでは私の脳味噌とか脳味噌とか脳味噌とかがやられる)
よし、整理開始。
まず私は遠乗りに行き、そこで森に入った。
まあここまではいいよね。
で、次。その森に入ったら謎の空間に飛ばされ、三人の妖精に出会った。
………まあまあ、まだいいだろう。
そして妖精に女王に会うよう促されて、現在に至る。
………………は???????

2ヶ月前 No.30

白兎 紡 @tumugi17 ★Android=nAzaus8m3z

いやもう本当になんなの?なんなの???
「…………………寝よ」
人、これを現実逃避という。

*◆*◆*

「パーティー……ですか?」
「ええ。マリーももう10歳でしょう?少し遅いけど誕生日パーティーをしようと思って」
絶世の美女──もといお母様にそう言われた私は、つい首を傾げてしまった。
煌めく蒼銀の髪に色素の薄い緑色の瞳。王国一の美貌を持つとまで呼ばれる憧れのお母様───なんだけど、
(少し、ほんの少しだけ…発想に難があるんだよね……)
次兄の誕生日にダイナマイトを爆破しようとしたり(一族総出で止めた)、4歳の私に平然と小説を渡したりした(6年後にしろ byお父様)人である。

……まあそれらに比べたらはるかにましだな。
「まあわたくしはいいですけ「なら決まりね!」えっ」
誰を招待しようかしら、とルンルン気分で歩いていったお母様を見て頭を抱えた私は悪くないはずだ。

2ヶ月前 No.31

白兎 紡 @tumugi17 ★Android=nAzaus8m3z

コンコン。
扉が叩かれる。けれど私は音に耳を澄ませるだけで返事はしなかった。
コンコン、ココン。
「………ターニャ?どうぞ」
ここでようやく返事をする。口から出たのは付き侍女の名。
「はい、お嬢様。見知らぬ者から手紙が」
「へえ。もしかしてラディア?」
「お知り合いでしたか」
入って来た緑髪の侍女はそう言った。
「ええ、視察中に出会ってね。ありがとう」
ラディアは言わずもがなあの三人だ。何とか三人の名前をくっ付けたくて私が考えた。

「えーと……」
*◆*◆*
拝啓、なんて言葉は省略させてもらうよ。
貴女がこの手紙を見ている時、私達は妖精女王に会っている。呼ばれているんだよ。
でも一つだけ問題があってね。
最近、天使の玩具が逃げ出したんだ。
貴女も『天使』という存在は知ってるよね?
天使が戯れに創り出したヒト型の玩具が消えたらしくて。めったに来る事は無いと思うけど一応言っておくよ。
じゃあ、また今度。
*◆*◆*
手紙を読み終えた瞬間、私は隠し棚の存在を思い出した。
「………うん、そこに入れよう」

2ヶ月前 No.32

白兎 紡 @tumugi17 ★Android=nAzaus8m3z

採寸やら何やらを行い、パーティー当日。
(招待客の名前も覚えたし………うん、いける!)
こうなれば、あのお母様に振り回されるのみ──!

パーティーは公爵邸の離れで行う。
「………いけるか、マリー?」
「ええ、大丈夫ですわ。ウルタリアお兄様」
本日のエスコート相手はウルタリアお兄様。燕尾服が似合っていらっしゃる。
私のドレスはといえば、爽やかな翡翠色のエンパイアドレスにクリーム色のローヒール。
いつもの下げみずらの様なハーフアップは高い位置でまとめられている。
「──参りましょう」

2ヶ月前 No.33

白兎 紡 @tumugi17 ★Android=nAzaus8m3z

*◆*◆*

きらびやかに飾られた公爵邸の離れで、一人の男が逡巡していた。
男の名はクリモニア・ウィーン・ライブラリアン。マルセアの誕生日パーティーに招待された内の一人であり、侯爵家の当主である。
クリモニアの悩みは大きく二つ。
一つは、クリモニアの昔馴染みであるクロニカ・ルシア・アルローズ。
もう一つは、この場にいる招待客『達』の事だ。
(………この場に彼が──王太子がいる事を、クロニカは知っているのか?)

*◆*◆*

2ヶ月前 No.34

白兎 紡 @tumugi17 ★Android=nAzaus8m3z

「お誕生日おめでとうございます、マルセア様」
「そのお召し物も素敵でございますね」

「ええ、ありがとうございます。ドレスはお母様とイチから作ったんですよ」
下手したら私より着飾った婦人達ににこやかな笑顔を向けながら考える。
…………これで何人だよ。さっきからずっとこの応酬の繰り返しだぞ?
だんだんと疲労が溜まっている気もしなくもないが、まだあの人達──第二王子とその取り巻き──がいない分マシ……なはず。
「………お嬢様、あの方で最後ですよ」
いつの間にか気配も無く背後に来ていたターニャが言う。私の心臓を止める気か。そう思いながら最後の招待客を見る。
「────」
靡く銀髪に少しタレ気味の赤い瞳。こちらを見て少し微笑むその顔。
「………え、」
間違いない、あの方は。

───王太子エルメス・アルゲントゥム・ペリドットその人だ。

2ヶ月前 No.35

白兎 紡 @tumugi17 ★Android=nAzaus8m3z

…………………はい?
いやまて、ちょっとまて。私は確かに第二王子以外は──というよりは第二王子は来んなと言った。が、王太子は来ていいぞ等とは言っていない。
つーかせめて変装くらいしろ?
「お誕生日おめでとうございます、マルセア」
「………お初にお目にかかります、王太子殿下。招待に応じて下さり光栄でございます」
「ええ、アルローズ公爵夫人から招待状が来た時は驚きました」
……どの口が言うか。

1ヶ月前 No.36

白兎 紡 @tumugi17 ★Android=nAzaus8m3z

まず原則として王族に招待状を送るという事はできない。
貴族は基本上の階級の人にも招待状を送れるが、王族の場合は「これこれこういう内容のパーティーを行います」という報告書を送る。そしてその報告書をもらった王族が主宰に許可を貰いパーティーに行く、という物だ。だがお母様は報告書を送ってない。ついでにいえば許可をもらったという事も言っていない。
つまり、
(王太子殿下が独自にこのパーティーの事を掴み権限を使って来た………?)
もしそうだとするならば私にとっても最悪の形だ。
でも……現在の時点で12歳頃の殿下が10歳の私にも分かる見え見えの嘘を吐く意味がわからない。
(………何か意味があるのかしら?)

1ヶ月前 No.37

白兎 紡 @tumugi17 ★Android=nAzaus8m3z


パーティーが終わった後も、私は考え続けていた。
どこに何の目的があるのか。
けれども考える度、ちらつくのは殿下の薄ら笑いのみ。
「……考えても仕方ない、とは思いたくないのだけど…」
後回しにしてしまうのは私の悪い癖だ。
あの艶やかな銀髪は、夢の中まで余韻を残していた──。
*◆*◆*

「──………少し、侮り過ぎましたかね?」
そう独り言を呟きながら、一人の男が王宮を歩いていた。
彼の名はエルメス・アルゲントゥム・ペリドット。
この王国の第一王子であり、王位継承権第二(・)位の男だ。
「ふふ。……ようやく見つけましたよ、マルセア」

1ヶ月前 No.39

白兎 紡 @tumugi17 ★Android=nAzaus8m3z

*◆*◆*
『……、』
──誰かの声がする。
『……ね、』
──誰?貴方は何処にいるの?
『……ねぇ、』

『───起きて、■■』


「──………!」
急に目が覚めた。心臓が嫌な脈を打っている。

「あ、マリー起きた?」
ひょっこりと現れたのは、朱色の髪の小さな女の子。
「…………プライ?」
プライは私が森で出会った三人の妖精の一人だ。……ん?
「そういえばモーデとイアルは?というか何しにここ来たの?」
「モーデとイアルは後で合流するよ。ここに来た理由は……忘れちゃった?」
えーと、妖精……あ。
「妖精女王に会う日……だっけ」
プライは満足げに首肯する。
「そ。だから準備して」
「──空に行く準備」

1ヶ月前 No.40

白兎 紡 @tumugi17 ★Android=nAzaus8m3z

「──と言われてもなぁ…………」
空に行く準備と言われてもなにをどうすればいいのか。
…………お父様に話したら凄い事になりそうだし……。
「んー……とりあえずおみや的なのはいるよね?」
だとすればいつぞや作ったポプリでも持っていくか。
どうでもいいが私はおみやげの事をおみやと言っている。某グルメ番組の影響だろう。
それと色々詰め合わせる。あとは…………
*◆*◆*

「──黎明に出でし月を呼び覚ませ──」

「──滅ぼされしは陽光か──」

「──我が名は黄月 妖しき群雨──」

その日の夜、一人の少女が歌っていた。
彼女はその翡翠の髪を揺らし、ただひたすらに朧月に向かって声を上げていた。

「──名をば カグヤと云いけりに」

1ヶ月前 No.41

白兎 紡 @tumugi17 ★Android=nAzaus8m3z

*◆*◆*
「───マルセア」
プライの声がする。
「……どうしたの?」
「少しぼーっとしてたようだけど大丈夫?」
うん……と答えながら窓の方を見やる。
(──夜の内に何か………)
聞こえた気がする。おそらく、とても美しい歌声が。
聞いた事のない歌だった。けれど、とても懐かしい歌声だった。
…………まあ、考えても仕方ない事だろう。
「……ところでプライ………」
「んー?」
「どうやって女王に会いに行くの?結局お父様には言ってないけど」
「ああ、それなら大丈夫。時間止めるから」
ああ、それならよかっ…………
……………ん?
「……今、なんて?」
「え?時間止めるからって」
──は、
はあああ!?!?

1ヶ月前 No.42

白兎 紡 @tumugi17 ★Android=nAzaus8m3z

「…………いやいやどういう事!?時間止めるとか出来るのそんな事!?」
「出来るから言ってるんだけどなぁ」
くあぁ、と欠伸をしながら私の問いに答えるプライはあまりにも自然だった。
「いい?そもそも妖精っていうのは付喪神みたいな存在なの。その気になれば神隠しの真似事でもタイムリープも出来る。だからこのくらいなんて事ないよ」
「………そっ……かぁ………」
ならば安心か。私とプライ以外はこの事を知らないという事になるのだし。
「そゆこと。じゃ、やるよー」

ピキ。
ペキ、パキピキ、ミシ。
それは、何かが割れる音。
プライが時を止めた事により、堪えられなくなった空中の虫や花が割れる音だ。
その音を聞きながら、一人の少女が歩いていた。
──その事を、未だ二人は知らない。

1ヶ月前 No.43

白兎 紡 @tumugi17 ★Android=nAzaus8m3z

「──────」
その姿に、私は声が出なかった。
白魚の如く美しい鱗に薄い膜の様な翼。
その蒼い瞳はゆっくりと細められ、フルル、とため息をこぼす。
この相貌はまさに──
龍の、それだった。
*◆*◆*
時は数分ほど遡る。
「んー、荷物あるならセフィーロ呼んだ方がいいかな」
唐突に、そうプライが言い出したのだ。
「セフィー、ロ?」
聞き覚えのない名詞に首を傾げる。
「ん、私の友達」
そう言ってプライは歌い始めた。
──白玉楼に 住みし者達よ 私の祈りを聞きたもう
──蒼龍の翼はためかせ 原初の精の 願いを今へ──
ハラリ、とプライの朱い髪がほどける。
瞬間、風が巻き起こった。

1ヶ月前 No.44

白兎 紡 @tumugi17 ★Android=nAzaus8m3z

「──紹介するね、マリー。この子が私の友達で龍のお姫様、セフィーロ。セフィ、こっちはマルセア。公爵令嬢で今から女王に会いにいくの」
ほどけた長い髪をそのままに紹介してくれてるプライにとりあえず言いたい。
突っ込み所が多すぎる、と。

『宜しくなマリー。妾はセフィーロ。天龍王の第三子であるに』
「あ、マルセア・ペリド・アルローズと申しますわ。どうぞよろしくお願いいたします」
一応カーテシーをしながら失礼にならない程度にガン見する。白い鱗、蒼い瞳。アルビノ……とはまた違うのだろう。
「うん、じゃ早速行くよー!セフィお願い」
『相分かった』
フォォ、と風が吹く。若干目が乾き瞼を落とした、ら。
ポフン、という音と共に、セフィーロの背に落とされていた。
『では、行くぞ!』
少々の罪悪感とかなりの期待を胸に、私たちは飛び立った。
「──お嬢様?」
──その声が聞こえるまでは、そう思っていたのだ。

30日前 No.45

白兎 紡 @tumugi17 ★Android=nAzaus8m3z

─────…………は?
信じたくない。
この声は、
あの髪は、
その服は、
否、ある訳ない。そんな事無いんだ、絶対にあってたまるか!
「………──ター、ニャ?」

けど、けれど、私は言ってしまった。認めてしまったのだ、彼女の存在を。
この止まった刻の世界──時空世界にいてはならない、私のメイドの存在を!
「お嬢様、そこにいては危ないですよ?」
私の確認には応えず、ターニャは問い掛ける。

【──マリー、マリー。聞こえる?】
ふ、とそんな聲が聞こえた。
脳内に直接響くようなこの感覚、これは。
(……テレパシー?)
【そ。単刀直入に言うけど、このメイドさん──ターニャって言った?この子、違うよ】
(…………違う?)

26日前 No.46

白兎 紡 @tumugi17 ★Android=nAzaus8m3z

【この時空世界には私が承認した人間以外入れないのは分かるよね?】
(うん………ならなんでターニャがここに?)
【……もう一度言うよ。ここには私が承認した『人間』以外入れないの。逆をいえば人間以外の何かしらは入れる。そうしないと酸素なくなるからね。つまり…】
瞬間、ふと理解した。
理解、してしまった。
だとすれば彼女は、私のメイドは、ターニャは───
【あくまで、あくまで憶測の話だけど】

【───ターニャ、人間じゃないのかも】
*◆*◆*
(……………)
マルセア達の読みは当たっていた。
話の渦中にいるメイド──ターニャは、結論からいえば人間ではない。
人ではないからこの穴だらけの時空世界でも歩けるし、マルセアも──もちろんプライの姿も視認できる。
ただひとつ、彼女には見えていない者があった。
それはセフィーロでもプライでもなく……

すぐそこに差し迫った、もう二人の妖精の姿である。

23日前 No.47

白兎 紡 @tumugi17 ★Android=nAzaus8m3z

*◆*◆*
…………どうする、どうすればいい?
最善策を考えればこのままセフィーロに乗っていち早く女王の元へ行くのが正解なのだろうが……。
私の場合、このアルローズ公爵邸こそが帰る場所。またターニャを口止めする訳にもいかない。
考えろ私。まだなにか───
【──………くすっ、ふふふ】
(………?)
ちらと隣、プライを見れば。
瞳こそ笑っていないものの、その口元はとても可笑しそうに上げられていた。
………まるで、なにか『来る』かの様に。

《廻れ廻れ銀朱の魂 躍れ躍れ時空の元で》
《刻を駈ける光の栄光 そこに何があるのだろうか》
《今宵見えるは少女の世界》
《枯れ堕ちる茨は 凛とそこに在れ》
《──妖精術 星屑の乙女》

その声が聞こえた瞬間、ターニャの【刻】が消えた。

22日前 No.48

白兎 紡 @tumugi17 ★Android=nAzaus8m3z

(────────は?)
あの声が聞こえた瞬間、ターニャが消えた。
刻だけではない。その姿までもが、消え失せたのだ。
あまりにも唐突に、───まるで、神隠しの様に。
「大丈夫、マルセア?」
「ごーりゅー!」
「その声………もしかして…………」
「ええ、私よ。モーデと」
「プライだよー!」
*◆*◆*
とまあそんな事があってから早二時間。
「んっはー、やっぱりお空は気持ちいいよー」
………なんて事を言いながら人の気持ちも知らず空を飛び続けるプライが私の目の前に。
(………これはやっぱり、聞いた方がいい、のかな?)

17日前 No.49

白兎 紡 @tumugi17 ★Android=nAzaus8m3z

*◆*◆*
「──」
嗚呼、優しい聲がする。
「───」
これは、誰の聲?
「────」
もしかしたら、あの娘の────

「マルセア、起きて」
──容赦ないモーデの声が、夢見心地の私の鼓膜に響いた。
*◆*◆*
「……ちょっとくらい寝かせてよ………」
「龍の背中で寝てる暇あるなら妖精について事前準備しなさいよ」
ごもっともです。
しかしまぁそう言われてもな……
「そう言われてもな、とか思ってるだろう貴女に耳寄り情報があるわ」
なんだただのエスパーか。
「耳寄り情報って?」
「ヒント1、ここには妖精が三人いるわ」
それヒントではなく答えですな。
「じゃ、モーデ先生による特別講座始めるわよ」
…………うん………。

9日前 No.50

白兎 紡 @tumugi17 ★Android=nAzaus8m3z

「まず妖精ってなんだと思う?」
「うーん……?言われてみれば」
改めて言われると気になる。
「妖精っていうのは、言うなれば付喪神みたいな存在なの。まあこれは前にも言ったけど」
………どうしよう忘れてたとか言えない。
「付喪神って……物に宿る神様の事だよね?」
「そ。うーん、じゃあまずは【原初の妖精】について話しましょうか」
*◆*◆*

6日前 No.51

白兎 紡 @tumugi17 ★Android=nAzaus8m3z

───その昔、この世界は崩れかけていた。
森を護る精霊とその女王は突如現れた魔物により滅び、魔物を統べる魔王が猛威を振るった。
そんな折現れたのが『異世界から来た』という黒髪の少女である。
その少女は三人の生き残りの精霊を従え、魔王【mendacium】を見事倒した。
そしてその後彼女は一つの歌を歌った。
『これはあの娘が歌う鎮魂歌じゃないわ。あの娘に捧げる、鎮魂歌』
それが、元の世界へと帰った彼女の遺した言葉だという。
*◆*◆*
「──そして、彼女が従えた三人の精霊が妖精を作ったからその少女は《原初の妖精》と言われているの」
「…………」
なんというか……複雑な気持ちだ。
異世界というのは多分、私が…<篠乃芽天音>がいた地球の事だろう。
でも転生ではなくこの世界に転移した?だとしたら何故彼女は帰れたのか………?
「………考えても仕方ないよマルセア。ほら」
ちらとモーデが彼方を見る。
「あれが妖精の森、ウィルヘルミナだよ」

2日前 No.52

白兎 紡 @tumugi17 ★Android=nAzaus8m3z

幻妖の森ウィルヘルミナ。その森を前にして私はひたすら驚いていた。
「…………浮いてる、の?」
「そうだけど」
そりゃそうだろう。プライがちゃんと空へ行くと言っていたのだから。だからといって……
「……なーんで天空の城みたく大陸ごと浮いてるのかなぁ
………」
そう。某バルス的映画の如く大陸自体が空に浮かんでいるのだ。
『そこな沿岸に往けばよいのか?』
「うん。御願いセフィーロ」
てきぱきとプライが指示を出している。
「………というかイアルは?」
「イアルならマルセアが私の話聞いてる間にどっか行ったわよ」
はてな、どこに行ったのか。
『御主等、話しとる場合ではないぞ』
「着いたよ、ウィルヘルミナ」

12時間前 No.53
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