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恐音リラ ストーリー 2

 ( 小説投稿城 )
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ととりんご @totoringo ★lyQKXcyuqq_gaI

書捨ての所にメモのまま投稿してたら消されちゃったやつです。

同じ内容のまま完成したやつを載せていきます。

〈作品の解説〉みたいなもの
オリジナルのファンタジー小説です。

占ツクにも同じ内容を投稿してます。

関連リンク: ボカロしりとり! 
ページ: 1


 
 

ととりんご @totoringo ★lyQKXcyuqq_gaI

1.森の奥の素敵な家
「どこだろう……ここ。どうしよう。ねえ、ネジェ」
アンナは森の中を歩いていた。周りは一面雪の銀世界で、目が眩みそうだった。
アラスカン・マラミュートのネージュは聞こえなかったかのように前へ前へと歩いて行く。
「ちょっと待ってよ!ストップ、ネージュ!」
ネージュはピタッと足を止める。これでいいの、とでも言いたげな目でこっちを見る。
「全く、ネジェったら勝手なんだから。そもそもこの森に連れ込んだのもネジェでしょう。だったら出口ぐらい見つけてよ。」
すると、ネージュは鼻でくいっと前を指し示した。アンナは示された藪を眺める。向こうから、微かに雪の反射が見える。
訝しがりながらアンナは藪をかき分けた。すると、そこには家があった。
「え、こんな所に素敵な家」
灰色のレンガの壁に緑のタイル屋根。顔のように配置されている赤い窓枠とドア。階段まで続く、丸い敷石。家の周りに植えられた、刈り込まれた小さい木。
古めかしいけれど、まるで童話に出てくるような綺麗な家が、そこにはあった。
「道を教えてもらえないかしら。ネジェ、ダメだったらまたどこかに案内してよね。」
ドアには呼び鈴は無く、木のノッカーが付いていた。それを掴み、コンコンとノックする。中から息をのむ音が聞こえてきた。
都合が悪い時に来ちゃったのかな、とアンナは思った。ゆっくりとドアが開いていく。若い女性がそっと顔を出した。アンナを見るとその人の顔が固まった。
「あの、迷ってしまって。道を教えてもらえませんか。」
「ああ……あら、まあ……可哀想に。こんなに若いのに。遊びたい盛りでしょう。ねえ、あなた、おいくつ?」
「えっと、14歳、です。え、どうしてですか?可哀想って?」
アンナは戸惑いながら答えた。その人はまるでもう森から出られないというような言い方をしていた。
「……いいから。中にお入りなさい。」
その人は声を喉から絞りだすような変な話し方をした。家の中は暖かく、お茶の準備が2人分してあった。
「あ、誰か来るんですか。だったら早く帰りますから、道、教えてください。」
「いいえ、このお茶はあなたの分なの。ずっと待ってたの。だから遠慮しなくてもいいわ。それに、もう、帰れないもの……」
その人はどこか遠いところを見ているような声で言った。こちらに話しかけられているということが分かりにくい声だった。
「えっ、帰れないって?どこか、雪で埋まってしまったんですか?」
「いいえ、埋まってしまったものは何も無いわ」
それは独り言を呟いているような言い方だった。
「え?じゃあどうしてですか?それに、待ってたって?」
アンナの高い声に目が覚めたようにその人はこちらを見た。
「あら、ごめんなさい。人と会うのは久しぶりで。少し待ってもらっていいかしら?お茶でも飲んでいて」
今までの話し方と違い、はっきりした声で、でもどこか迷っているところがある話し方だった。
その人は台所へ入っていき、すぐに戻ってきた。手にはノートを抱えていた。
「あの、お茶まで頂いてしまって申し訳ないんですが、早く帰らないと家の人が心配するので、道を教えてほしいんです。」
アンナは、これを言うのは何回目だろうと思った。すると、今度はしっかりした声で返事が返ってきた。しかし、内容はこれまでと変わらず、信じ難い突飛なものだった。
「いいえ、あなたは帰れない。だってそれは運命だから。親御さんには悪いけれど、私はずっと待っていたの。あなたは聞かなければならない。この忌まわしい「奇跡」の話を」

2ヶ月前 No.1

ととりんご @totoringo ★lyQKXcyuqq_gaI

2.アヴァと奇跡
昔々、いたる所に妖精がいたころの話。妖精の中でも一番に気高く、綺麗で、そして嫉妬深かったのが、アヴァという妖精でした。
アヴァにはルーカスという夫がいました。その2人は森の中に家を建てて住んでいました。ところが、ルーカスは、街の女と恋をしていました。
アヴァはルーカスに罰を与えるため、かつて2人の住いだった家に男を閉じ込めました。
人に会えないように、森から出られないように雪の呪いをかけたのです。
そして、そのまま苦しめばいいと、食料も育てられないように土地を荒らし、飢餓で苦しみながら生きながらえるように永遠の命を与えようとしました。
ところが、彼女の姉が男に同情し、それは可哀想だから助けてやってくれと頼み込んだのです。
それを渋々聞き入れたアヴァは、食料は自分で育てられるような環境にし、100年に一度、あるチャンスを与えました。
チャンスには、人が1人、家の所に迷い込んできます。その人が永遠の命を譲り受けることを納得すれば、ルーカスは逃げられます。
納得をしなければ、家へ迷い込んだ人は森から出ていき、ルーカスは100年後の次のチャンスを待ちます。
そうアヴァは呪いをかけて、男は閉じ込められました。
その呪いは「奇跡」と名付けられました。

「それは……本当のことなんですか?」
少し戸惑いながらアンナは訪ねた。その人は迷いなく頷いた。
「ええ、現に私が体験している。その前の人も、その前の人も。あなたはどうする?奇跡を、譲り受ける?」
アンナは迷っていた。譲り受ければ、確実に孤独で後悔をする。しかし、この人が可哀想な気もした。そこで、この人の名前を知らないことに気が付いた。
「あの……あなたの名前は何ですか?私はアンナって言います。」
すると、その人は急にハッとした顔をになった。
「名前……名前……そういえば、そんなものがあったような…」
その人はいきなり混乱したような素振りを見せ始めた。
「名前を忘れてしまったんですか?まさか、そんな」
「人と長い間会わないと、いろいろなことを忘れてしまうの。名前ね……」
アンナは戸惑っていた。まさか、名前まで忘れるほど長い間ここにいるなんて。
そう思えばそう思うほど、この人が可哀想に思えてくる。
名前も忘れるほど長い間、ここに閉じ込められていて、私が決断すればここから助け出すことができるかもしれない……。
迷っているアンナを見て、その人は言った。
「期限は、特にない。だけど、明後日の正午までに、譲り受けてくれるかどうか決めてほしいな。それまでは、ここに泊まっていて。」
その言葉でアンナは母親のことを思い出した。
(そうだ、お母さん。私が戻らなかったら、心配するかもしれない。心配させちゃいけないよね。譲り受けるのは、断ったほうがいいよね。)
そこまで考えたとき、さらに思い浮かぶことがあった。
(でもこの人は、100年か、それよりももっと長くここにいるんだ。その間、この人の家族はずっと心配していて……。その人達のためにも、譲り受けてあげた方が良いのかな?)
アンナは譲り受けたほうがいいという考えと受けないほうがいいという考えの間を揺れていた。親のこと、この人のこと、譲り受けたときのこと、100年の間のこと。
いろいろなことを考えた。
ずっと考えていて、気付いたら空が夕焼け色に染まっていた。あの人が夕飯はどうだと声を掛ける。
そこでアンナは少し考えていたことを話した。
「名前が分からないっていうのも不便なので、ファタリテ(運命)っていう名前はどうですか?」
その人はとても喜んだ。無くなっていた自分の一部が埋まっていくようだとその人は話した。
名前がないとそんなふうに感じるのか、とアンナの決まりかけていた決意はぐらついた。
夕飯は、その人が作ったという野菜のスープだった。
いつも食べている野菜とは少し違う、何の種類なのか分からない野菜だった。
「ここに来る、アヴァの妖精が野菜の種を運んでくれるの。何の種類かは私にも分からない」
ファタリテはそんなふうに言っていたので、アンナは少し怖くなった。
食べ終わった後、何かおかしなことにアンナは気付いた。
(ここ、夜なのに明かりがついてる。夜は明かりを消さなくちゃいけないのに。)
そしてアンナは思い出した。どうして忘れていたんだろう。自分の家の周りで、戦争が起こっていることに。その戦争から逃げるために、この森に逃げ込んだことに。
あの戦争から逃げられるなら、ここに100年いることぐらい。
アンナは決意を決めた。決心が揺らがないうちに、早く。テーブルでノートを綴っているその人のところへかけていく。
「私、決めました。奇跡を、譲り受けます」
その人は驚いたような顔をした。
「本当に?こんなにすぐ決めてしまっていいの?後で、後悔するかもしれないのよ?」
「いいんです。私たちの村では、戦争が起こっているんです。それから逃げられるなら、奇跡を譲り受けたいって」
その人はさらに驚いた顔をした。
「戦争……ああ、だからなのね。きっと、私がいたころでは予想もつかないような武器があるんでしょうね。なんだか怖いわ」
それでも奇跡を続ける気配は全く見せず、上へ行き、なにかの包みを抱えて持ってきた。
その人はアンナに今綴っていたノートを渡した。
「ここには、今まで奇跡を譲り受けた人たちの日記が書かれているの。これを読めば、ここで暮らしていけるわ」
そう言うと、その人はアンナと手を合わせた。
「これから、奇跡の譲り渡しを行います」
どこか格式ばった言い方でその人は言った。
その人は目を瞑り、一心に何かを考えているようだった。
その時、アンナは合わせている手からなにか熱いものが流れ込んできたのが分かった。
その熱いものは血管を通り、アンナの全身を焦がしていくような感覚に襲われる。
ふっと、その熱いものが流れ込んでくるのが止まった。
体の中にある熱いものは全身を巡り、体に染みこんでいくようだった。
力が抜けて、でも力が漲っていくような、不思議な感覚を覚えた。
その人は手を離した。心なしかその顔は少しやつれたように見えた。
「これで、奇跡はあなたのものになった。私は、ここから出ていくわ。私から一つ教えてあげる。1人ができる奇跡の譲り渡しは1回まで。また、譲り渡しは100年経たないとできない。こ のことを覚えていてね」
そう言うとその人は包みを抱えて出て行ってしまった。
「ちょ、ちょっと、まだ夜ですよ?」
ドアを開けても、もう誰もいなかった。もしかしたら悪戯だったんじゃないか、という微かな希望が消えていった。
北風が部屋に吹き込み、暖炉で温かくなった空気を冷やす。自分は1人になったんだ、ということを改めて認識させられた。
と、何かが降ろしていた手をなめた。見るとネージュが心配そうな顔をしてそこにいた。
「そっか、あなたがいたんだよね、ネジェ。一人じゃないよね」
そうは言ってみたものの、寂しさはぬぐえない。
「さあ、さっそくここでの暮らしについて勉強しなくちゃ。」
ソファに座り、あの人が置いていったノートを開く。
最初のページにはなにか古い紙にマス目と文字の書かれたものが挟んであった。
書いてあった文章を見ると、誰かが作った、自分で数えられる暦らしいということが分かった。日記にはそれをもとにした日付が書いてあった。
日記は飛び飛びで、4、5年に1ページ書くようなペースだった。それでもこの世界はそんなに変化がないのか、1ページで年間の出来事を全て書いてあった。
野菜の作り方、永遠の時の過ごし方、小さく狭い世界での生き方。
中には長い間を生きるうち、自分と他人の区別がつかなくなった人や、奇跡を譲り受けさせることだけを頼りに毎日をただぼんやりと過ごす人もいた。
この人たちのようになってはいけない。ちゃんと100年間生きて、次の人に譲り渡さなければ。
アンナにそれだけの決意を植え付けるには十分な内容だった。
「明日から、頑張らなきゃ」
もう夜も遅くなっていた。
アンナはソファに転がると、疲れた頭を癒やすかのように、すぐに眠気が襲ってきた。

2ヶ月前 No.2

ととりんご @totoringo ★lyQKXcyuqq_gaI

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2ヶ月前 No.3

ととりんご @totoringo ★lyQKXcyuqq_gaI

4.インク作り
それから何か月かが経った。冬はもう終わったが、雪はまだ溶けないでいる。これが雪の呪いなのだろうか。
保存してある食料は無くなりかけているので、畑で野菜を作ろうと思っていた。
野菜の作り方も、畑の耕し方も、全部あの日記に書いてあった。
(そろそろ私も、日記を書き始めようかな)
思い立ったのが吉日、すぐに部屋から日記をとってきて、新しいページを開いた。
ペンにインクをつけ、書き始める。
ネジェが藪の外に出られたこと、藪はいくら切っても生えてきたこと。
一週間ほど食べなくても、動くことはできなくなったけれど生きられたこと。
そこまで書いたとき、インクがもうないことに気が付いた。
「インク、無いけど、作るしかないよね。どうやったら作れるのかな」
そう思ってページを捲っていく。
しかし、どのページにも作り方は載っていない。
「え……?どうして?」
日記をよく読んでいくと、どうやら前の人たちはここで受け継ぐかどうかを決めているときに、最低限のことは前の人から教わっているらしい。
どうりで生活に最も必要な最低限のことが日記には書いていなかった。
「はあ〜。どうしようかな。書かないわけにはいかないし、かといって作り方も分からない」
机に向かって考え続ける。
「取り合えず、裏の小屋を見てみるかな」
考えていても始まらない、そう思ったアンナは行動を起こすことにした。
家の裏へ回り、小屋を覗き込む。
「えっと……ここかな?」
種のようなものが置いてある棚を見る。
「これは違う……これも違う、違う………あった!」
その種の袋には「インク」と書いてあった。
「これで作るんだ……あ、中に紙が入ってる。これも、小屋にあるのかな?」
その紙には鉢と棒のような絵が描かれていた。
それを探し出し、部屋へ持って行く。
「これからどうするんだろう……えっと、この間、見たような……」
ここへ来る前。
お母さんが、インクを作っているところを見た。
使っている種の形は違ったけれど、確か、こういう鉢で種をすりつぶしていたはず。
試しに少しだけやってみることにした。
種を入れて、棒ですりつぶしていく。
思ったより硬く、苦労したがなんとか潰せた。
だんだん柔らかくなっていく種をさらに潰していくと、黒い汁みたいなものが出てきた。
「これがインクかな?」
ペン先につけ、日記に文字を書いてみた。
「書ける!インクが出来たんだ」
アンナは残りの種をすりつぶし、できたインクを瓶に移し、ふたを閉める。
鉢と棒をもとあったところに戻して、種の袋もしまう。
そこで、また一つ気付く。
「種、全部使ったけど、次からどうしよう……」
当たり前だけど、植物は、種を植えないと生えてこない。
インクの素になる種は全部使ってしまった。
ということはもうその植物を育てることはできない。
つまり種が取れない。
種が取れないとインクが作れない。
次からインクを作るときはどうすればいいんだろう。
アンナが頭を抱えたとき、ドアの外からベルの音が聞こえたような気がした。
「え……?人?うそ、まさか?」
ドアに飛びつく。
急いでドアを開けるとそこには一つの屋台と、仮面をつけた全身マントの男が立っていた。
屋台には袋や瓶が少しずつだけ積まれていて、端にベルが結んであった。
『ここに来る、アヴァの妖精が種を運んでくれるの。』
前の人がそう言っていたことを思い出した。
この人が、その妖精?
「ドレガホシイ?」
その仮面の向こうから、とても人間とは思えないような声が響いた。
恐るおそる近づくと、袋や瓶には文字が書かれていて、野菜や果物の類いの種なんだろうと察しはついた。
ふとその袋の中に「インク」と書かれたものがあるのに気が付いた。
様子を伺いながら手に取ると、さっき目にした種が入っていた。
「ソレダケカ?」
また声が響く。
「は、はい」
アンナは震える声で返事をした。
アンナのその声を聞き届けると、その屋台はだんだんと薄くなり、ついに消えた。
「こ、これで、良かったのかな」
袋の中身をまた確認する。
確かにインクにした種だ。
「貰えたって、ことなんだ」
あの言葉を忘れていても、考えてみれば分かることだった。
植物から種を取ると言っても限界があるし、種を食べる植物もある。
ということはどこかから種を採取するしかない。
しかし、外に出ることはできない。
つまり、誰かに運んでもらうことになる。
こんな単純なことも考えられなかったとは、この永遠の時とも思えるほど代わり映えのない生活には、やはりどこか人間を狂わせるところがあるんだと思う。
前の人も、そんなことに気が付いて、早くここから出たいと思っていたんだろう。
インクの作り方や基本の生活を教えるのも忘れて出て行ってしまった気持ちが今なら分かると思った。
取り合えず、種は袋ごと小屋に置いた。
(次に来た時には、もっと貰わないと)
小屋に置いてある種だけではこれから一年間育てて食べられる量がない。
しかし、これもまた障害があって、どの種がどういう植物に育つかは日記に少ししか書いていないのだ。
これもまた、今まで日記ではなく口頭で伝えられることだったんだろう。
つまり、自分で育てて、研究するしかない。
これからやることが増えそうだと、嬉しくも悲しくもため息をついた。

あれからさらに何年かが経って。植物の研究はほとんどが済んでいた。
何回か季節を回し、全ての植物を育て終えた。
後はこれを日記にまとめれば研究は終わりだ。
まとめて書けば次の人たちに受け継ぎやすいし、なにより仕事が増えるのは暇な時間が少なくなって良い。
この数年間は植物の研究という課題があったので暇な時間が少なく済んだが、その後は何をすればいいんだろう。
日記にあったような、長い暇な時間を過ごすうちにおかしくなっていったような、そんな人にはなってはいけない。
その危機感だけは衰えることなく彼女の心に根付いていた。
「まあ、あなた達がいるおかげで、楽しくなったんだけどね」
新しく家族に加わったミレとレカナの頭を撫でる。
ネジェとネヴァ、その間にできたミレとレカナ。
この家族がいるので、彼女は寂しくなることはなかった。
「また家族が増えると、いいな」

それから数か月。
日記に研究のことを書くのも終わってしまった彼女は、一つのアイデアと向き合っていた。
彼女の目の前には、1枚の紙。
その紙には奇跡を受けたあらましが書かれていた。
「ネージュ、あなただけが頼りなのよ。家の場所、覚えてるよね?」
そう言いながらその紙をネジェの手製の首輪に結び付ける。
「お願いだから、お母さんにこのことを伝えて。絶対に、心配してるよ」
絶対に千切れないように、強く、固く。
ネジェを連れて外へ出る。
相変わらず溶けない雪と、季節に合ってぎらぎらと輝く太陽が共存する風景はは何年ここで過ごしても慣れないであろう。
ネジェを藪の前まで連れて行くと、自分のやるべきことを理解したのか、藪に突っ込んでいった。
しかし、いつか見たように軽々と抜けてみせることはなく、前足で藪を□き分けては進む、□き分けては進むを繰り返していた。
なんとなく悪い予感が彼女の胸に広がる。
少し経つとネジェが戻ってきた。
すこし残念そうな表情を浮かべながら。
「え……!出られなかったの!?うそ、前は出られたのに。どうして?」
するとネジェは首を回して首輪に付いた手紙を噛み千切った。
すると今度はするりと藪を抜けてみせた。
「どうして!?どうして手紙がないと抜けられるの!?そうだ、だったらこれを……」
彼女は髪をまとめていた髪飾りをネジェにつけた。
するとネジェは体を振って髪飾りを落としてしまった。
「いいから付けて!じゃないとあなただけ帰っても……」
無理やりつけさせると、ネジェはそこで立ち止まってしまった。
「なんで?ゴー、ネージュ!」
しぶしぶというふうにネジェは歩き出した。
しかし、また藪の前で立ち止まる。
そしてまたゆっくりと歩きだすが、やはり藪の中でうろうろしてばかりで向こうに進もうとしない。
「そうか……もしかして、ここの中の物を持ってると、ダメなのかな?」
手を伸ばして試行錯誤しているネジェから髪飾りを外す。
するりと藪を抜けて向こうへ行ってしまった。


2ヶ月前 No.4

ととりんご @totoringo ★lyQKXcyuqq_gaI

5.お父さんの知恵
さらにまた何十年か後。
これまで野菜だけだった食事に、色取りが加わった。
ごくたまにだが、動物がここへやってくることが分かったのだ。
日記を見ても、その発見は初めてだった。
だから、仕留める為のナイフなどを自分で作らなければならない。
斧などはあるのでそこからナイフを作ることは難しくなさそうだが、罠の作り方が分からない。
ここへ来る前見たことを参考に作ってみたりもしたが、上手く捕まらない。それに、罠の材料になる縄はとても貴重だった。
縄は作り方が日記に書いてあるが、その作り方は力が必要で、彼女には難しそうだったのだ。
縄を使わない、罠。
思いついたが吉日、さっそく試してみた。
干し草を使って、紐にする。紐を木からぶら下げて、餌を置く。
すると次の日、小さな獲物がかかっていることに気が付いた。
大喜びしたのは少しだけ。
すぐにその獲物も見たことがないと分かった。
野菜だけではなくて、動物まで。このあたりの呪いを受けて、おかしくなってしまっているらしい。
どの動物は何に向いていて、何をどうするか。
これは、お父さんから聞いたことがあった。
必死に思い出す。見たこともない動物だから、足らない部分は想像で補って。
腱は紐に、胃腸は水袋に。
食べるだけではなくて、食べられない部位も活用する。そんな昔の知恵を好き好んでいたお父さんだからこそ、知っていたような知識。
一度獲物をとると、あとからは楽に捕れるようになった。
紐や餌を獲物から取れるから、無駄にすることがない。同族だけではなく、それを食べる動物も寄ってくるから大きい獲物をしとめられる。
どうやら呪いでおかしくなったとはいってもその中で生態系が成り立っているらしく、獲物をしとめることでそのことを実感できた。
この家の周りの森全体に呪いがかかっていて、動物も植物も長い間で呪いに対応して体を徐々に作り替えていったらしい。
アヴァの呪いの威力を感じられ、恐ろしく感じた。

そして、奇跡の期限、100年間が過ぎた。

2ヶ月前 No.5

ととりんご @totoringo ★lyQKXcyuqq_gaI

6.少年兵
何もすることがなく、忙しくない日々というのは長いようで短くて、それでいて100年という年月を感じさせるぐらいに長かった。
何回もホームシックになったし、ホームシックで済まないぐらいに落ち込んだことも何回かあった。
でも、それも今日で終わり。
そう思うと清々しくも、すこしだけ寂しくもあった。
手作りのテーブルや糸と針。材料から作った自作のドレス。
年中寒いここの気候に合わせて少し変わった作りの家。
思い返すと、懐かしくもあるのだった。
朝から、ここへ来た時の服に着替えて、帰る支度をいそいそと進める。
ここへ来た時の服が今も着られるあたり、たしかに成長が止まっているんだなと思う。
ここへ来てから自分のことなど気にすることがなかったので、これを着るまで気が付かなかった。
「こんなに増えちゃったけど、帰ってから飼えるかな」
8匹に増えた家族を見下ろす。
初めのころにいたネジェやネヴァ、ミレとレカナはすでに亡くなってしまって、小屋の傍に埋めてある。
それでも8匹というのは増えすぎな気もするが、まあ、日記にあったようなことにならなかったのはこの犬たちのお陰もあるので、帰ってからも全員飼えるようにしたい。
そんな風に外の世界のことについて想像を巡らせていると、ドアの外から物音が聞こえた。
息をのむ。
長年待ちに待った、この時がようやく。
しかし、いつになってもノックの音は聞こえない。
いくらなんでもおかしいとドアを開けると、そこには一人の、14歳ぐらいの少年が血塗れで倒れていた。
「え……!」
急いで駆け寄る。
声をかけても返事はない。
死んでしまっては奇跡を譲り受けさせることはできない。
ならば、すぐにでも介抱しなければ。
そう判断して、家にはこぶ。
ベッドに寝かせ、とりあえず傷を見る。
どうやら自然にできた傷の類いではないようだ。
ナイフのようなもので切られた跡、重いもので殴られた跡。
ここへ来る、遥か昔に見たことのあるような傷跡だった。
あれは……そう、あれは戦争から帰ってきたお父さんがつけていた。
喧嘩でついた傷とは違う、確実に倒すことを目的にした傷跡。
間違いない。外の世界では、また戦争が起こっているんだ。しかも、こんな幼い子も動員されるぐらい、酷いものが。
その瞬間、外へ出ることへの希望が一気に失せたような気がした。
忘れかけていたのにぶり返してくる、戦争によって体験した感情。
家が襲われるかもしれない不安、日々聞こえてくる怒号や不安を煽るような噂。外を出歩けないことへの不満に、十分に食べられない食事。
そんなことを思い出しながら、手当てを続ける。
やはり100年経っただけあって、自分の知らない武器のようなものでつけられた傷もあった。
出来る範囲で、薬を塗ったり、添え木を当てたり。
これらも全部自作の物なので効くのかどうかは不安なのだが、しないよりはマシだろうと慣れた手つきで包帯をまく。
なんとか全部の傷を手当てし終わると、もう外は暗くなっていた。
今日中に帰ることは無理そうだとため息をつく。
この人の意識が戻らないうちには説得もできないし、説得ができたとしてもこの幼い怪我人をここへひとり置いていくのはいくら外に出たいと願っていたとしても気分が悪い。
いずれにせよ早く回復してもらわないと相手もこちらも困る。
(早く目を覚ましてよ)
そんなふうに念じてみるものの、その少年は一向に目覚めないのだった。

いつの間に眠ってしまっていたのか、気付いたら朝だった。
冬らしい陽射しが窓から差し込んでいた。
(そうだ、あの人……)
はっと目をやると、ちょうどその少年は目を覚まそうとしているところだった。
「う、ううん……」
目を覚ましたその少年は自分の体を見下ろして、手当てがされていることに驚いているようだった。
「おはよう」
声をかけるとその少年はこちらを向いた。
「あの……これ、誰が……君が……?いや、そんな」
その少年は混乱しているようだった。
まあ、私の姿は14歳の幼い少女なのだから当たり前だろう。
「その怪我、どうしたの?」
すこし厳しい声が出てしまった。
「え、えっと、その、僕、親の代わりに戦争に行かされて……そこで怪我をして、森に逃げ込んで。お、追っ手がやってくる……」
「戦争?やっぱりね。ここは、その森の中にある家よ。追っ手はやってこない」
「で、でも、怪我が治ったらまた戦争に行かされるから……」
「あなたは戦争に行けない。ここでずっと暮らすの」
少年は戸惑っているようだった。
都合がいい。そう思った。
見たところ、この少年は戦争を嫌がっているようだった。
それなら、以前の私ように勢いで譲り受けてくれるかもしれない。
「少し、長い話をしてもいい?信じられないことかもしれないんだけど」
そう前置きをして、話し出した。

ずっとこの家で語られてきた、奇跡の話を。

2ヶ月前 No.6

ととりんご @totoringo ★lyQKXcyuqq_gaI

7.彼と奇跡
「それは……本当のこと?だったら、君はここで一人で……?」
「一人じゃないけどね」
傍で寝ころんでいた家族の頭を撫でる。
「でも……信じがたいというか……なら、君は僕よりも年上なの?」
「過ごした時間で言うとね。でも、自分としてはあまり成長した実感がないの」
「……本当に?」
ずいぶんと疑り深い。
100年経つと、人はこうにも変わるものか。
「証拠を見せてあげようか」
そう言うと、下へ降りていく。
上がってきたとき、証拠として手に持っていたものは、いつも食べている保存食だった。
「この食べ物、見たことがある?ラタっていう果物を干したものなんだけど。これはね、アヴァの使いの妖精が運んでくれるものなの。外の世界にはないのよ」
食べていいよ。そう言って差し出すと、その少年は訝しがりながらちぎって口にした。
「食べたこと、ない。けど、味付けとか……でなんとかなるような」
「じゃあさ、ちょっと立てる?下へ行ってみようか」
少年はベッドから立ち上がろうとしたが、途端に座り込んでしまった。
「立ち上がれない、な。足がまだ痛い」
「じゃあ、この話は信じなくてもいい。だけど、怪我が治るまではここにいるよね」
少年は仕方なさそうに頷いた。

少年が来てから、数日が経った。
怪我もほとんど治って、下へ降りてこられるようになった。
独り暮らしであることや手作りの家具や外にはない食べ物を見ても少年は半信半疑だったが、少年は藪を通り抜けられるのにどうしても藪の中に取り残されてしまう彼女を見て、ようやく話を信じたようだった。
「そうか、本当なんだ。これまで疑ってごめん」
そう言って自分の身になって考えてくれるその少年はとてもいい人なんだと思う。
でも、それでも、外に出たいという気持ちは消えることがなかった。
「譲り受けてくれるの、くれないの?」
そう問うたび、少年ははっきりしない返事を返す。
「君が辛いんだったら譲り受けてあげたいし、外には戦争があるから出たくない。でも……」
そう思い悩む少年はずいぶん辛そうで、いらない情報まで与えてしまうのだった。
食事をする気力さえも起きないホームシックに何度もなったこと。全てを一から作る生活の大変さ。
こんなことを言えば受け継いでもらえないかもしれないのに、少年の悩んでいる顔を見ると、つい言ってしまうのだ。
この少年が来てから、そんな気持ちと行動の行き違いが生まれるようになった。
やはり、長い間自分以外の人間と関わらなかったからか。
外に出たときのために、少しこの生活で慣らしておくのもいいかな。そんなふうに思ったりもした。

彼がここに来てから、2か月の時が過ぎた。
彼はずいぶんと長くここにいるが、怪我は全快したらしく家事を手伝ってくれる。
ここにいる時間が長すぎる気もするが、よく考えれば一晩もたたないうちに決めてしまった方がおかしかったのかもしれない。
それでも2か月という数字は日記にはなかったはず。
そんなことを思いながら野菜をかごに取っていると、つい気がとられて、かごが腕から零れ落ちた。
中に入っている、野菜の身が地面に落ちそうになる。
「あっ、危ない」
庭の狭い畑で育った野菜は、量が少なく2人で食べる分だけを確保するのも難しいのだ。
これがなくなってしまったら、食べるものに困ってしまう。
冬用にとっておいた食べ物を出すしかない。
そんなことばかりが頭に浮かび、身体が一向に動かない。
が、さっと差し出された手に支えられて落下は防がれた。
「大丈夫?これ落とすと食べ物が少なくなるよ。考え事でもしていたの?」
そう優しく聞いてくる彼。
本当に彼は優しいな。そんなことを思う。
「ああ、うん。ありがとう、落としてしまうところだった」
そう言えばありがとうを言うのも久しぶりだった。
人と会うと常に変化が訪れる。
そんな気がしたのだった。

またしばらくして、まだ少年は譲り受けるのかどうか、はっきりしないでいた。
いくらなんでもおかしいと急かすこともあるが、急かせば急かすほどその少年は悩む。
だったら前の人のように期限を設定すればいいのか。
そう思ったりもしたが、これは一生を決めると言ってもいいほど大切なこと。だったらこんなに悩むのも分かる。
そう思い、止めにしたのだ。
ここに一人でいることの辛さはよく分かっている。
譲り受けるかどうか、悩むのはいいことだ。
でも、とたまに思う。
(悩みすぎな気もする。なにか、企んで……?)
例えば、戦争が嫌いというのは演技で、ここにある種や自給自足の方法を持ち帰って戦争の役に立てる、とか。
(いや、考え過ぎかな?彼がそんなことするはずないし)
しかし、気になるものは気になる。
自分の中での疑いを晴らすためにも聞いたほうがいい。
外で道具を磨いていた少年に、声をかける。
いくらなんでも悩みすぎな気もする。なにか企んでいるのか。
その旨を伝えると、少年は慌てだした。
「いや、企んでいるわけではないけど、その」
「分かった。でも、長引くのは止めてほしい」
そう告げると、少年は深呼吸をした。
「分かったよ。僕も、君に迷惑をかけないようにするよ。できるだけ、早く結論を出す」
その答えを聞けて良かったと胸をなでおろした。

(どうしてあんなにむきになったんだろう)
100年の独り暮らしに慣れてしまったせいでよくよく考えてから行動するという癖がついていたはずなのに、外に出るとなると焦ってしまうのか。
そういえば前の人も夜も深いというのに出て行ったな。
そういうことか。答えを出してようやく眠りにつけた。

その次の日。
できるだけ早く結論を出すと告げられたせいでやけに少年の行動が気になる。
少年の表情一つひとつで気持ちが揺さぶられる。
いつも通り一緒に野菜を収穫したりしていても、いつもと何かが違うと思ってしまう。
これは何の気持ちなんだろう。
早く結論を出してほしいという気持ちが大きくなるほどに、別の何かもやもやした気持ちが大きくなる。
もやもやした気持ちは重苦しくて胸の中にズンと溜まる。
「あっ」
少年が、置いてあった斧に躓いて転んだ。
ところが、起き上がることもせずに地面に突っ伏したまま。
「どうしたの?」
近づいてみると、なんと少年は気絶しているのだった。
こんな小さなことで?
不思議に思い声を掛ける。
「大丈夫?」
肩をゆすると、少年は呻いた。
ただ事ではないと思い少年の額に手を当ててみる。
なんと、思わず離してしまうほどの熱があった。よく見れば顔も赤くなっている。
急いで家に運び込み、応急処置を施す。
額に濡れた布を置き、熱さましの薬を飲ませる。
(なんで急に倒れたり……まさか熱があることを隠していたの?どうして?心配するじゃない)
顔を覗き込む。さっきとは違い安らかな表情で眠っている。ほっと息をつく。
「……心配するじゃない」
聞いているはずがないのに小さく呟く。
そこで自分の気持ちに気が付いて驚く。
(私はこの人のことを心配しているんだ。奇跡を譲り受けてくれる人としてだけじゃなくて、この目の前にいる少年を)
当たり前のことかもしれない。人を思いやるのは。
でも長いことそれを体験していなかった彼女にはとても新鮮な感情に思えた。

「どうして熱があることを言わなかったの」
目を覚ました少年に詰め寄る。
「……心配かけたらいけないと思って」
目を逸らしながら気まずそうに答える少年。
「大したことないと思ったんだ」
「気絶してたじゃない」
恨みがましそうに睨み付ける。
「心配したのよ」
「いや、ごめん」
そこで、ふと疑問が浮かぶ。
「気絶するぐらいの熱で、どうして動けたの?」
「ええっと」
また気まずそうに苦笑いをする。
「僕、昔から体が弱かったんだ。だから大したことないと思って」
「ここはとても環境が厳しい。無理なんてしていたらすぐに限界が来る。無理する癖はつけないように」
経験上の忠告として釘を刺す。
「そっか。心配してくれてありがとう。君は優しいんだね」
少年ははにかむ。
なんだか見ていられなくて顔を背ける。
「……長いこと人に会わなかったからこういう感情は久し振りだった」
また余計なことを言ってしまった。
顔に熱が集まってくる感覚がする。
(私も熱がうつったのかな?)
今日は早く寝よう。そう思った。

「今日は我慢してないね?」
あれから毎朝聞くのが日課になってしまった。
でないとこの少年は平気で体調が悪いのを我慢する。
「大丈夫だよ」
そう言って笑顔で返してくるが油断も隙も無い。
少年が結論を出すと言って3日間。
まだここにいるが急かす気もなくなってしまった。
外に出たらまた一人で暮らすことになる。それなら、ここで二人でいるのもまあいいかな、なんて思ったりもした。
それでもわずかに残った気持ちが囁く。外に出たいと思わないか、と。
そのたびに、最近はよく出てくるようになったあのもやもやした気持ちが首をもたげる。
もやもやは胸に溜まって、気持ち悪いような気持ち良いような不思議な感覚をもたらす。
その気持ちがあるときに限って少年が笑ったりすると複雑な感情になるのだ。
本当になんなんだろう。
これが暫く人に会っていなかったせいならば、外に出たら人に会うたびにこの気持ちを持つのだろうか。
そうなら人と関わることはなんと難しいことなのだろうか。
(こんなとき、誰かほかの人がいたら)
姉だったら相談に乗って、この気持ちが何なのか教えてくれたのだろう。
そんなことがふと頭に浮かぶ。外の世界の誰かがいたら、なんて今まで一度も考えなかったことだった。
珍しく、外の世界のことを考えているのに外に出たいという気持ちがわいてこない。
それに、さっきから何かが胸の中で引っかかっている。
これは何なのだろう。引っかかっていて、すぐに分かるような、それでいて正体の分からない靄のような気持ち。
どこかで聞いたことがあるような。ここへ来る前、100年も前……
「恋」
一つの言葉が頭に浮かぶ。
(いや、それは違う)
すぐに否定するが、思い浮かんだその言葉は無くなるどころかどんどん存在感を増していく。
そう考えれば今までのどの行動も感情も、説明がつく。
表情1つひとつで気持ちが揺さぶられてしまうのも、2人で住むのもいいかな、なんて思ったりしたことも。
あのもやもやした気持ちは、少年と離れたくないから。
人を思いやる気持ちだと思ったあの気持ちは、少年を失う心配。
(まさか)
たった一言で、しかも思いもよらなかった言葉で今までの疑問がすべて片付いていくのは、晴れやかなような、不意を突かれたような感覚だった。
こんな思いを、無自覚ながら今まで抱いていた。
そう思うと何とも言えない感情が胸に広がる。
恥ずかしい?いや違う。
驚き?いやこれも違う。
(恋……あの少年に、恋……)
なんど思い返しても、違和感は感じない。
むしろ、しっくりくるような感じさえする。
「ねえ」
いない姉に向かって独り言をつぶやく。
(これって、本当に恋、なのかな?)
「なにかな?」
急に少年の声が聞こえた。
「え、あ、ああ、独り言だよ」
さっきの言葉を聞かれていた。
それだけなのにいつもより恥ずかしい。顔に熱が集まってくる。
少年を見られない。
一言で片づけられる、たった一つの想いに気付いただけなのに。
(人と関わることは、なんて難しい……)


2ヶ月前 No.7

ととりんご @totoringo ★lyQKXcyuqq_gaI

あの気持ちに気が付いてからというものの、その気持ちは日に日に肥大していくようだった。
少年のはにかむ顔。行動に現れる優しさ。それを見るたびに胸が高鳴り、顔を合わせられなくなる。
この気持ちが伝わっているのか、伝わっていないのか。
それさえも分からないというのに。
でも、一つだけ、分かったことがある。
奇跡を譲り受ける。そんな辛く寂しいことを彼にさせるわけにはいかない。
そう思っている自分がいるということだ。
確かに私は長い間譲り渡す時を100年間心待ちに待っていた。
でも、大事な人に笑っていてほしいと思うのは当たり前のことで、それからすると、奇跡を、酷く寂しい孤独と永遠の命を譲り渡すなんてことは二の次だ。
もしかしたら彼も日記にあった人のようにおかしくなってしまうかもしれない。
そう思うだけでどうしようもなく悲しくなるのだった。
(この気持ちを伝えて、出て行ってもらおう)
そう決意したこともある。
でも、彼が出て行ってしまったら、もう会えなくなる。
それに、彼は永遠の命を望んでいるかもしれない。
そう彼の気持ちを想像してみたら言えなくなってしまったのだ。
「あの」
頭の中でもう決まった同じ思考ルートをずっと回していると、ふいに声を掛けられた。
振り向くと少年が立っていた。
いつもより真剣な顔で。
(ああ、もしかして)
「僕、決めたんだ。奇跡を譲り受けるよ」
今なら間に合う。急いで伝えなければ。
「待って……」
「僕、君のことが好きなんだ」
いきなりの言葉に思考が真っ白になった。
「だから一緒に居たくて、答えるのを長引かせてたんだけど、君に早く決めてほしいといわれて心を決めたんだ。君はこの奇跡が辛いと言っていた。君ともう会えなくなるのは残念だけど、君の辛いことを引き受けてあげられるなら、出来る限りのことをしたいんだ」
恥ずかしそうにはにかみながら少年は言った。
(今、彼が言っていることは)
本当のことなの?
思わず無言になってしまう。
「……いいえ」
やっと出た言葉はそれだけだった。
「?どうしたの?」
「……私は、あなたに、奇跡を受け継がせない」
昂る思いを、一言ずつ、言葉に変えて紡ぎだす。
「奇跡は、孤独で、とても辛い。あなたに受け継がせるわけにはいかない」
「……どうして?」
少年の、不思議そうな声。
「私は、できればあなたにここに残ってほしい。傍にいたい。でも、きっとあなたも、この生活は嫌になる」
俯きながら、気持ちを伝える。
「……あなたに、奇跡という辛い経験をさせるわけには、いかない」
「どうして?辛い、んでしょ?」
混乱を極めた少年の声。言葉の奥にある想いに気付いているのか、いないのか。
胸に秘めたこの想い。
伝えてしまったら、彼がここに残ると言い出すのではないか。
けれどきっと彼もいつかこの生活から逃げ出したいほどの苦しみを味わうはずだ。
そうしたら彼は残りたいと言い出した手前そのことを言いだせなくて辛くなるのではないか。
今までそんな迷いもあった。だけど、今、この瞬間になって分かる。
伝えたい、この想い。
「……私も、あなたが、好き」
恐るおそる顔を上げると、彼は驚いた顔で自分を見ていた。
「……本当に?」
(ああ、この言い方)
身に覚えがある。私もさっき、体験していた。嬉しすぎて、気持ちが昂って、それを言葉にしているときの言い方。
「よかった……!」
身体が温かいもので包まれていく。
(抱きしめられている)
気付くのに時間がかかった。
恥ずかしくて、思わず身をよじらせる。
彼の顔を見ると、いつものようにはにかんでいた。
頬を少し赤く染めながら。
それを見てまた胸が高鳴るのを感じるのだった。



2ヶ月前 No.8

ととりんご @totoringo ★lyQKXcyuqq_gaI

気持ちを伝えあった、あの日。
あの後、自分たちはどうすればいいのか、どうしたいのか。それが唯一の悩みだと気が付いた。
彼はずっとここで2人で暮らしたいと思っていた。
自分はここにいることが苦痛ではないし、なんなら外へ出て物を持ってきてもいい。
しかし彼女はそれを否定した。一度このあたりから離れれば、二度と帰ってこられなくなる。それが雪の呪い。
きっとここに留まるのが苦痛になり、ホームシックになってしまう時がくる。
それでは彼が幸せになれない、と。
それに、と付け足した。
「私は永遠の命。これを持っている限り老いることがない。でもあなたは老いていってしまう。そしていつかは死んでしまう。私はそれに耐えられない」
たまっていた思いを吐き出すように、言葉を口にした。
それでもあなたの傍に居たい。
矛盾した思いを、全部伝えて。
「それなら、僕が受け継げば。それなら君は悲しまない」
「だけどあなたが思っているより、奇跡は辛い」
「君といれば100年なんてすぐだよ」
「そうすると私はあなたより先に老いてしまう」
一進一退の話し合い。
相手のことを想っているからこそ、進まない。
この話し合いは結局彼がここに住むということで決着がついた。
「僕はここに住みたい。大丈夫、君を幸せにして見せる」
そして決まった、もう一つの約束。
奇跡は、まだ受け継がせない。
君が嫌になったらいつでも受け継ぐ覚悟がある。彼はそう言っていたが、私はこの運命を絶対に受け継がせないと決めていた。
奇跡を譲り受けた者は、最初、外へ出られないことや予想以上のホームシックで混乱する。
それにもう慣れた私ならいいものの、彼が混乱したり悲しむところを見たくはない。
次の100年まで、私は彼とここで暮らす。
夢見ていたような幸せな恋。
全部が全部幸せというわけじゃないけれど、それでも十分満たされる。
こんな不思議な状況で実るとは思わなかったけれど、これはこれで、幸せに暮らせる。そんな気がした。

朝の挨拶から始まって、朝食、収穫、洗濯。2人で暮らすと、認めてから2週間目の日。
こんな生活がずっと続いたらいいな。そんなことを想う、幸せな昼下がり。
台所で、物音がした。
「どうしたの?」
見ると、少年が壁に寄りかかりながら肩で息をしていた。
「大丈夫!?」
駆け寄ると、少年はなんでもないと答えた。
「少し眩暈がしただけだよ、なんでもない」
それでも前のように倒れてしまっては大変と、2階で寝ているように促した。
「また熱が出たかもしれないから」
そう言って熱さましの薬草を飲ませた。
大袈裟だと言われたけれど、やはり彼は無理する癖があるんだと思った。
夕食のころには少年の容体は悪くなっていた。
「ほら、やっぱりね。無理してたんでしょ」
そう言いながら薬草をさらに用意する。
少年は申し訳なさそうに言った。
「無理してたわけじゃないんだ。午後になったら急に悪くなって」
ひと晩寝れば治るよね。そう言って早めにランプを消す。
「おやすみなさい、これからは無理しないでね」
ドアを閉め、薬草を元の場所に戻して、念のためと少し余分に枕元へ持って行った。

2ヶ月前 No.9

ととりんご @totoringo ★lyQKXcyuqq_gaI

「おはよう。熱はどう?」
朝、彼の部屋のドアを開ける。
「……おはよう。ちょっとまだ無理かな」
熱が酷いのか赤い顔で彼は言う。
「大丈夫?」
額に手を当ててみる。熱は下がるどころか増していた。
熱さましじゃない薬草のほうがいいかな。そう思って下へ行こうとすると、彼に止められた。
「大丈夫、ちょっと風邪が酷いだけだから。そんなに薬はいらないよ」
しかし、昼頃に来ると朝よりも熱が酷い。
やはりただの熱ではないと考え、今度は別の薬草を多く与える。
「酷くなってるじゃない、もう。無理してないで、明日も寝てるのよ」
少年はそんな軽口に答えずに肩で息をしている。
そんな少年に不安を覚えた。
(普通の風邪じゃない……?)
風邪では済まされないぐらいに症状が酷くなっている。そんな気がしたが、少年がニコッと笑って見せたので心配は消えていた。
(大丈夫、だよね)
そう部屋を出て行った。
部屋の中では出て行ったことを確認した少年が気絶するように眠りについた。

(絶対風邪じゃない)
また1日経ち、少年の症状はより悪くなっていた。
食べ物を用意しても食欲がないのか口にしない。水ならなんとか飲めるが、それだけではあまりにも心もとない。
風邪や熱ならここまで長引かないし、酷くならない。
なにか重い病に罹っていたとしたら、この家では治しようがない。
なにか参考になることが書いていないか、少しでいいから。そんな思いで日記を捲っていくと、何ページも前に記述を見つけた。
ノートの端、スペースを埋めるように小さい文字で書かれた数行のそれ。
(これで彼が回復する)
そう思い必死で読み込む。
そこには絶望的な内容が記されてあった。
『私はここへ来て30年目に熱病と思われる病気に罹った。長い間寝ていれば治るが、その間食べ物を口にすることができない。奇跡の永遠の命を持つ者ならば回復は簡単だろうが、そうではない者がここへきて罹ってしまった場合は回復は奇跡的な確率だろうと思われる。その場合は外へ出て治療を受けるしかないが酷くなったときは立ったり歩いたりも難しいことがある』
奇跡を譲り受けた人なら長い間食べなくてもずっと寝ていれば暮らせる。だから熱病も回復が望める。
しかし、奇跡を持たない人には長い間栄養をとれない状態で病気と闘うのは難しいだろう。それに、食べ物が食べられないのだから当然飢えてしまう。
そんな事実に直面して、胸の中に冷たい風が吹き込んだような気分になった。
(彼が……死んでしまう?)
胸がすうっと冷えて、目の前が真っ暗になる。
『回復は奇跡的な確率だろう』
『外へ出て治療を受けさせる』
『立ったり歩いたりも難しい』
日記の中の言葉が頭の中を駆け巡る。
(彼に出て行ってもらう)
つまりはそういうことなのだろう。
しかし、彼が森の中で倒れたりしてしまってはいけないし、なにより彼ともう会えなくなるのは辛い。
だったら奇跡を譲り渡すか。
しかし、彼がこの病気に罹ったかもわからないのだし、そうではない治し方が他にあるのかもしれない。
だとしたら一時の勢いで、老いることのなく死なない命を与えるのは危ないことかもしれない。
それなら、出来る限りのことをやってみよう。
奇跡を譲るのは、最終手段だ。
そう心に決めた。

2ヶ月前 No.10

ととりんご @totoringo ★lyQKXcyuqq_gaI

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2ヶ月前 No.11
ページ: 1

 
 
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