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 ( 小説投稿城 )
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@itxmm☆OxYUdDLLJjM ★iPhone=uSyqKf7JNY

 「伝説なんか作られた以上荷が重いのは分かるけど……今年は僕達が伝説になるよ!! いい? やると決めたからには僕も本気でやるつもりだから。今日から僕たち、“True True Boys”だ!!」

 ──青春。そんなもの、やろうと思えばどこでもできるけど、僕はここで、この場所で出会った仲間と青春をするために生きてきたようなもので。
 “伝説”とか言われるレベルのとんでもない先輩が卒業してから、後輩だった僕達に重荷のバトンが回ってきた。まあつまり、先輩が余計なことを……じゃなくて、すごい事をしてくれたおかげで僕達が伝説を語り継がないといけなくなってしまった。先輩達は「伝説なんて周りが勝手に作るんだから気にするな」なんて言ってたんだけど、やっぱそうも言ってられないよ。作られた伝説は、守っていきたいものだから。
 でもきっと大丈夫。だって、今の僕の仲間は凄い奴らばっかりだから。まぁ、確かに県だけで止まらず全国とか世界とか言い出し始めたらキリがないけど……でも、僕達だって下手ってわけじゃないし、伝説になれるくらいの実力はある。……と、思う。……と、いうか、思いたい。

 「とぅるとぅる……」
 「だ、ダセェ……」
 「語感がゼリーっぽい……」
 「なっ、なんだよう!! 君たちがまともな意見出してくれないから……!! こっ、国民の総意ってやつだからね!!」
 「い、いや、口に出すと思ってたよりダサかったっていうか……」
 「略してとぅぼって感じか? キリッ」
 「……いやスベってんだよつまんねーな何がキリッだよわざわざ口に出すなお前のベース叩き割るぞ」
 「相変わらずこーちゃんはノンブレスでよくそんなに喋れるなぁ。いいな、俺もかちゅ、カ、ツ、ゼ、ツ良くなりたい」

 前言撤回。やっぱり凄くなんかないかも。ちょーっとしたことですぐにくだらない話始めちゃったりしてさ。僕達が伝説なんてやっぱ無理! 先輩達に帰ってきて欲しいってやつだよ!
 たった4人のバンドメンバーなのに、なんで先輩達みたいに上手く話し合いが出来ないんだろう。ま、まさかとは思うけど、部長の僕のせい、だったりしないよね……?

 あぁ、そうそう、言い忘れてたけど。
 どうせ青春をするなら、空は青いほうがいいよね。暗いバックでの青春なんて青くないし。ていうかなんで青春って青なの?
 まあ、そんなことは置いておいて、天気が悪くて青春なんて到底できない! なんてそんな時は、おまじないをするんだ。
 「今すぐ良い天気になりますように」って、空に向かってデスボイスで。

メモ2018/08/16 19:57 : 溺☆OxYUdDLLJjM @itxmm★iPhone-uSyqKf7JNY

【 第1小節:Rainyとか言っときゃ良いんじゃね? 】

>>1-5

【 第2小節:集客 コツ 検索 】

→>>6-

ページ: 1


 
 

@itxmm☆OxYUdDLLJjM ★iPhone=uSyqKf7JNY

【 第1小節:
  Rainyとか言っときゃ良いんじゃね? 】

 明日には明日の風が吹くように、今日の風は今日に吹く。それは絶対に何があっても、どんな天変地異が起こっても覆る事がないもので、今日に明日の風が吹くことも、明日に今日の風が吹くこともない。
 言って仕舞えば、昨日に一昨日の風が吹くわけはないし、今日に昨日の風が吹くこともない。風がたった一度だけの風を吹かすように、人生どころか1日1日がたった一度だけ。後悔する事がないように生きる為には、どうすればいいか? それを手探りで生きていく。
 それが、僕達人間って生き物だから。
 上手く生きようなんて思わなくてもいいと思う。後悔してもいいと思う。一度しかない人生だから。沢山下手くそで泥まみれになって、後悔だらけで生きればいいと思う。
 それを責める権利なんて誰にもないし、その生き方が間違ってたとか正しいとか、決めるのは自分自身だし。死ぬその時まであの時の選択が一々正しかったかなんて覚えてるわけでもない。
 だから、いっぱい後悔しようよ。


  ♪ ≒ 1

 「──以上、これが僕の考えたオリジナルの曲の歌詞になります」

 恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら小さなメモ帳に書いてある文章を読み上げてから顔を上げた。
 それをじっとりと見つめる3人のそれぞれ同じ制服を着ているはずなのに全く違う格好をしている男子高校生はお互いの顔を見合わせるようにした。
 1人立ってメモ帳を読み上げた男子生徒の方はといえば、恥ずかしそうにぷるぷると震え始めていて、何も言わない3人をジッと見つめ返した。

 「くどい」
 「ふふっ……そ、それどこにデスボ入れんの?」
 「ポエトリーリーディングですか?」
 「ちっ、ちがうよ! ロック! 皆がロック系がいいって言ったからそれ系に考えてきたじゃん!」
 「弦、もう一回言ってあげようか? くどい」

 似た顔立ちの男子高校生にあまりにも優しい口調でそんな事を言われ、1人立っていた弦(げん)と呼ばれた男子高校生は自分とよく似た顔立ちの男子高校生を見て頬を膨らませた。
 今にも破裂しそうな程に膨らまされた頬を見て「あざといわー」なんて声があがり、すぐに膨らませていた頬をすぼめた。

 「大丈夫、弦先輩、俺は結構好きだよ」
 「せんぱっ……ふふっ……なんだっけ……くふっ……いっ、ふふふっ……いっぱい、ふふっ……後悔しよう……ぶふぉっ……」
 「こら、笑ってやるなよ響。これでも弦も頑張って書いたんだから。弦もさ、そんな気にしなくてもいいから。……あー、ほら、いっぱい後悔しよう?」
 「ばほぁっ!! ちょっ、ふふっ、ぶふっ……それは駄目だって、ふふっ、ふふふふっ」

 弦から目をそらしつつ、気まずそうにフォローを入れながら手に持っているドラムスティックを回してそう言った叩(こう)と、口元とお腹を押さえて一周回ってアホのような顔になりながら必死で笑いを堪える響(ひびき)、そして響を窘めたかと思えば最後の最後でニタリと嫌味のような笑みを浮かべた弦の双子の兄である弓弦(ゆづる)。
 弓弦が追い打ちをかけた後に最初こそは我慢していたものの、もう我慢を辞めたらしい響はゲラゲラと笑っている。

 「……」

 弦は一周回って冷静になってきたらしく、もはやなんの感情さえも芽生えてすらいなかった。ただひたすらに「無」。寧ろなんだこいつらくらいにしか思っていない。
 ゲラゲラと笑ったままの響を見て、響の横で冷めた瞳をしながら響を見つめつつパフォーマンス用のドラムスティックを回す練習をしている叩を見た後に小さく頷く。

 「こーくん、響のベースってロータムくらいにはならないかな?」
 「えっ、いいんすか!?」
 「許す」

 静かな声で弦が頷くと、所々話が耳の中に入っていたことにより、響は顔を青くしてから咄嗟に立ち上がってハードケースに入れたまま大きなベースアンプに寄りかかったままのベースに抱きついた。

 「良くねー!! 許さねー!! 俺の可愛いベースちゃんには指一本触らせねぇからな!! 可愛い俺のあっちゃんには触らせねぇ!! 触ったら指の骨反対に曲げるからな!!」
 「響、言うことが違うでしょ? 君ならもうわかるよね? なんて言うかわかるかな? 10文字以内で」
 「すみませんでした!!」

 にこにことしたまま淡々と喋る弦の様子に震え上がったように顔を青くさせたまま響が必死で謝罪の言葉を述べると、弦はにっこりと笑った後に「よくできました」と告げた。
 ドラムスティックを持ってジリジリと響に近付こうとしていた叩の姿には特に何も言わず、ベースに抱きついたまま響はゆっくりと叩から距離を離す。

 「弦先輩!! 叩どうにかしてください!! 俺のあっちゃんがロータムにされちまう!!」
 「え? 良いんじゃない?」
 「すみませんでしたって言ってんじゃん!!」

 叩と響の距離が縮まっていく様子をにこにことしたまま弦が見ていると、叩の両手からドラムスティックを奪い取る長い腕の登場に響は目を見開いた。
 長い腕の主、弓弦が叩と弦と響を一度見た後にゆっくりと口を開く。

 「響ちゃんは笑いすぎ。そんで弦は先輩なのに本気になりすぎ。こーちゃんも、響ちゃんと仲良くするのは構わないけど、弦に言われたからって人の大事なもの壊そうとしたら駄目」
 「ゆ、弓弦しぇんぱぁい……!」
 「弦、こーちゃん、響ちゃんに言うことは? 10文字以内で」
 「ご、ごめんね」
 「……めん」

 結局のところ、あんだけ騒がしかった状況もたった1人の大人の対応ができる人間によって無事収束された。
 ちなみに、弦のダサすぎる歌詞センスが問題でオリジナル曲を作るという話は白紙になったとかなってないとか。

2ヶ月前 No.1

@itxmm☆OxYUdDLLJjM ★iPhone=uSyqKf7JNY

 ♪ ≒ 2

 一度は弦の歌詞センス故に白紙になりかけたオリジナル曲作りだったが、春休み明けに待ち構えている「新入生歓迎会」とかいう恐ろしいイベントの為にオリジナル曲を作ることは断念が難しかった。
 勿論カバー曲も多くやるのだが、カバー曲はこのメンバー……一応“True True Boys”以外でもやる。より活発的に活動しているのが部長率いる“True True Boys”というだけであって、新入生歓迎会では他の部員達も活躍する。
 バンドメンバー内でしか浸透していないのだが、略称というか愛称は「とぅぼ」らしい。最初は響が冗談で言っていたものだったが、色々考えてみた結果一番マシだったらしい。

 「ていうかオリジナル曲もいいけどさー、カバーの方も練習しないとそろそろまずくない? 他の人たちだいぶ前から練習始めてる」
 「それ早く言ってくんない?」
 「てかそもそもカバーつったって何やんだよ」
 「やれと言われたものはなんでもやりますよ」

 この学校の軽音部では、部室は時間毎にバンドメンバーって入ることになっているので、今日は部室が取れなかった為にスタジオを借りてミーティングをしていた。
 弦からは取り敢えず持ってるスコアを持ってきてと言われてスコアを見せ合っているが、弦はゴリゴリのそのジャンルが好きな人にしかわからないようなデスメタルや可愛いものでもラウドロック、ハードロックばかりで、逆に弓弦は正統派クラシックや海外の洋楽のスコア、響からは基本的な邦楽からジャズなんかも出てきて、叩に関しては音楽一家の息子なだけあってスコアに頼る必要がないらしく何も持ってきていなかった。

 「うーん、まぁ僕のラウドロックと響の邦楽何曲かが無難かなぁ。あんまり知らない曲やっても新入生つまんないでしょ」
 「メタルやんないの?」
 「いやー、流石にキツくない? しかもメタルって言ってもゴシックとかスラッシュとかメロディックとかシンフォニックブラックとか、それこそ言い出したらキリがないくらいいろんな種類があるし、僕が好きなのはグルーヴメタルだからドン引きされる……。もちろんオールドスクールもニュースクールも好きなんだけど、グルーヴのスラッシュよりも骨太な低音と硬派な歌詞が好きなんだよねー。もちろんスラッシュの頭切り裂かれそうな感じもメタル聴いてるー! って感じがすごく好きなんだけどさ。あ、そうそう、知ってるかはわかんないけどラウドロックも分類ではメタルだったりします。ていうか実はハードロックもメタルに分類されたりもするんだよね。洋楽とかだったらブリティッシュとかアメリカンって言い方もされたりするよ。まぁ僕の個人的な意見だとピュアブラックメタルはこーくんにやってほしいなぁって思ったりもする」
 「は? 何語? ピュアブラック? ぷいきゅあ?」
 「響ちゃんの口からぷいきゅあが出てくるとは思ってなかったよ……」

 メタルの話になった瞬間にいきなり饒舌になった弦の姿に、弓弦は慣れたように完全スルーできていたものの、響はちんぷんかんぷんなようで日本語とすら思っていないらしく、アホっぽい表情とアホっぽい声でまさかの女児アニメの名前が出てきた。
 叩に至っては理解ができないどころかする努力もしていないようで途中から眠くなっていたらしく頑張って起きようとしていた努力の結果か、目が半分白目を剥いていた。高校一年の文化祭の時にミスターコンテストだかなんだかを優勝した男には思えない醜態である。仮に学校の生徒や文化祭に来ていた女性が見たら発狂ものだろう。
 とはいえ、彼らの通う高校は公立の男子高校ということもありミスターコンと言えども男子高校生のノリなのでけん玉が得意ですなんて言ってステージに上がってアピールタイムの10分間永遠にけん玉をやり続けていた人間が優勝したりもした事がある。ただまあ、女性客が集まる唯一のイベントと言っても間違いはないので、それなりの顔面は要される訳だが。

 「うっわ叩むっちゃブスじゃん」
 「誰がブスだよこの顔面万年工事中野郎が。お前よりは250倍マシだわ」
 「ひでぇ!! お前は私立のお坊ちゃんだったから知らねーかもしんねぇけどこれでも俺中学の時モテてましたけど!?」
 「お前の顔じゃなくてお前の後ろにいる悪霊に惚れてただけだ自惚れんなスコア燃やすぞボケ」
 「うっそ俺の後ろまた居る!?」
 「居る居るーあーこれ無理だわーもう手遅れってやつ? 軽く1000人は居るわ」
 「ちょっと待って“また”ってどういうこと」
 「え? また?」

 顔を突き合わせればすぐに響が余計なことを言って喧嘩を始めるこの2人にまたかと呆れていると、冗談で言ったであろう叩とそれに対して聞き捨てならない言葉を返した響の姿に弦も弓弦も全く同じ表情と反応をした。
 マジか〜と様子でがっくりと項垂れている響が叩を見ていない隙に、叩は弦と弓弦の方を見てジェスチャーと口パクで「もちろん嘘!」と言って見せた。
 安心したように弦と弓弦が顔を見合わせていると、早いものであっという間にスタジオを借りることができる残り時間が2時間を切っていた。3時間借りていたはずなのにも関わらずこのザマである。

 「ま、まぁ、曲決めよっか! 取り敢えずはオリジナル1曲、ラウドロック1曲、邦楽2曲の4曲くらいでどう? 他のバンドが1、2曲で僕部長だからちょっと多めに出ないといけないからさ」
 「あと1ヶ月くらいだっけ。4曲いけそう?」
 「あっ、俺は全然! あっちゃんと俺なら何が来ても大丈夫!」
 「俺も。4曲くらいなら」
 「本当頼りになる後輩だなあ」

2ヶ月前 No.2

@itxmm☆OxYUdDLLJjM ★iPhone=uSyqKf7JNY

 ♪ ≒ 3

 「じゃあー……取り敢えずこの曲練習ね! 響はもう邦楽の方は大体弾けるのかな?」
 「まー、流し程度には。細かいところはちゃんとやってないけどすぐ出来るようになると思う」
 「おっ、じゃあサポートとか宜しく頼むよ!」
 「はーい」

 やると決まった曲はラウドロックからはアニメの主題歌をやるような名前は聞いたことがある、もしくは名前は聞いたことがなくとも曲は聞いたことがある、と言った人が多そうなシャウトとベーシストのスラップ技術が激しいバンドが一つ。
 邦楽からはアニメだったり映画の主題歌になっている定番中の定番から出てきた2曲なだけに耳馴染みもあるためにそこまで練習は難しくなさそうだ。
 邦楽の方に関しては響が多少練習をしていただけにこの「とぅぼ」の中では今の所一番できるところであろう。まぁ、今回響の問題はラウドロックの方な訳だが。

 「スラップなぁ……嫌いじゃないけどゴーストノートがなぁ……」
 「ゴーストノートは最悪無くても誤魔化せるんじゃない? それにこの曲ギターの音強いからあんまり無理そうだったら俺がカバーしてあげる」
 「弓弦先輩ほんとに頼りになるっす……」

 弦から渡されたラウドロックのスコアを見ながら響が唇を尖らせていると、練習を始めていた弓弦が肩に掛けていたレスポールに触りながら横から響の見ているスコアを覗き込む。
 おそらくスコアの開いてあるページと「ゴーストノート」という単語からこの辺の事を言ってるんだろうな、と思いながらフォローを入れると、響からは尊敬の眼差しで見つめられて弓弦も悪い気はしないようで小さく微笑んだ。

 「まあね。これでも弦のお兄ちゃんだから」

 実を言うと、弦の子供っぽさは響の子供っぽさと少し似通っているところがあり、先輩である以前に兄心としてどうしても響を気にかけてしまうところはあった。
 逆に、弦は弦で大人びた響限定に口の悪い叩に対して兄のように、というと些か語弊はあるにしても、やはり弓弦と近い何かを感じるのか叩の事を気にかけているようだった。

 「はー。俺も弓弦先輩みたいな兄貴欲しかったな」
 「あれ、響ちゃんは一人っ子?」
 「あ、いや、俺が長男で。下に4人」
 「うわっ、大変だねそれ」
 「叩も手伝いにはっていうか下の子と遊びに来てくれんだけど……あいつの家ちょっとおかしかったからたまに危なっかしい事するから任せらんないっていうか……」

 なんとなく気まずそうに響が話す目線の先には弦と何かを話しながらドラムを叩く叩の姿があって、その気まずそうな顔から感謝はしているんだろうな、というところまで汲み取る。
 (確かこーちゃんの家ってめちゃくちゃ凄い音楽一家なんだっけ。さっき響ちゃんに私立のお坊ちゃんとか言われてたし……なんでこんな所来たんだろう?)
 別に今通っている高校がそこまでバカな学校という訳でもないが、去年の1年間テストの話になったりした時は叩が殆どは学年1位を総取りしていたなんて事を響から聞いていたし、あの言い草だと私立の中でも相当頭が良くないと入れないような所に居たんじゃないかと思うと益々こんな所にいる意味が分からない。
 まあ、それに赤の他人が首を突っ込める話では無いのだが、一度気になり始めると気になって仕方がないというか。そのうち聞けるんだろうか。

 「弓弦先輩大変じゃないっすか? あ、でも同い年だしそんな事ねぇのかな」
 「いやー、結構大変だよ? アイツすっごいわがままだからさ。それに自分の可愛さ分かってて物言ってるから、毎回俺が悪いみたいにされちゃう。ほんと立場が下ってタチ悪い生き物だよ」
 「あー、分かる」
 「可愛いけどね」
 「それも分かる」

 意外なところで響と弓弦が共鳴してしまい、それを見て「何やってんだろうねあそこ」と弦と叩が話をしていることなんて知るよしもない。
 再度喋ってばかりいたのを止めてスコアを見ながら練習を進めていると、やはり今までの音楽経験のおかげでいくらか覚えは早くなっていた。というか1年まともに軽音部に入るだけでここまで上達が早くなるとは。
 邦楽2曲は大体形になったところで、あとはラウドロックを形にしようとしたところで5分前だということでスタジオのスタッフが入ってきて掃除を始めた。

 「やっば、もうそんな時間か」
 「早く行けよ。お前のベース持って帰っておいてやるから」
 「うわっ……叩キモ……。え、お前誰……?」
 「割れたドラムスティックで殴るぞ」
 「それは地味に痛いからやめろ。……あっちゃんに何もすんなよな!」
 「はいはい」

 そう言うと響は「お疲れっした!」と弦と弓弦に声をかければそのままベースをその場に残してスタジオを飛び出して行った。
 呆れたように叩は肩を竦めると、響が自分で持ってきていたチューナーやシールドをケースの中に片付けてベースの入ったハードケースを肩に背負った。

 「帰りましょっか」
 「え? あ、ああ、うん……」

 普段叩がなんの文句も言わずに、それも暴言一つ吐かずに素直に響のベースを背負ったことに信じられないとでも言いたげに弦は言葉を返し、弓弦も目を丸くさせた。
 弦と弓弦の少し先を歩く響のベースを背負う叩の背中がどこか寂しげで、弦と弓弦は似た顔を見合わせて首を傾げた。

2ヶ月前 No.3

@itxmm☆OxYUdDLLJjM ★iPhone=uSyqKf7JNY

 ♪ ≒ 4

 「今日のこーくんどうしたんだろうね」
 「んー、なんだろう……」

 帰宅後、少し早い夕飯と風呂を済ませてから自室で2人でギターの練習をしている最中、弦が一度手を止めて弓弦に尋ねる。
 弓弦も不思議そうに首を傾げながら分からない、という旨を伝えるようにした後に、ふと今日響が話していた「下に4人いる」という話を思い出す。それが関係あるのかは分からないが、叩の家は厳しい家だと言っていたし、確か叩は末弟だというのも去年に聞いたことがある気がする。
 ただ、それが今日の大人しく響の物を持ち帰るという事に繋がるのかどうか……。
 今まで、というよりは去年の1年間は弦と弓弦も先輩達とバンドを組んでいたこともあり、実のところ響や叩達とセッションをするようになったのは先輩が引退した後の話だった。
 その上、ちゃんとバンドを組んだのは修業式前後だっただけにまだとぅぼとしての経験は浅く、今までのスタジオ練習でも殆ど叩と響は顔を付き合わせる度に揉めていた。それも彼らは幼馴染みだし、くだらない事が殆どなので気にするような事ではないが、それでも素直に叩が響のフォローを入れるというのはかなり珍しい事だった。
 とはいえ、あまりそれを気にしても叩に失礼だろうという結論にもなった為に弓弦と弦も口を噤む。

 「……そういえば、響ちゃんって途中から軽音部入ってなかったっけ」
 「そうだっけ? あ、でも確かにこーくんは最初から居たけど、部室が響とこーくんの揉める声で騒がしくなるようになったの結構最近かもね」

 不意に思い出したことを弓弦がなんとなく口に出してみると、弦もテレキャスターを開放弦で弾いてから考える素振りを見せる。
 弓弦もまた目の前にあるスコアに少し苦戦しながらピックを動かしている。去年の事を今更どうという訳でもないが、去年は誰ともバンドを組んでいなかった叩はソロドラムだった事をじわじわと思い出し始めていた。
 (頼まれれば1年のバンドメンバー達と一緒に合わせていたような気もするけど、初心者が殆どだったり経験者でもこーちゃんとはレベルが違いすぎてすぐに弾かれて他のドラマーが入れられてたような……。ドラムに関してはド素人の俺でもこーちゃんのドラムがやばいってのは分かったし……先輩も……)
 そんな事を考えていてもなんとかなる訳でもなく、頭と同時にスコアを見ながら指を動かす。ただ、余計な事を考えながら練習していたせいか、なかなかスコアが頭の中に入ってこない。

 「はー、オリジナルも作んないとねぇ。普通のバンドだとベーシストが作ってることが多いみたいなんだけど、響はどうかな」
 「うーん、まあでも、響ちゃんは今のメンバーの中では一番邦楽とか定番ロックに詳しいし、頼りになるかも。明日部室使える日だし頼んでみる?」
 「ぜぇったい『弦先輩そんな事もわかんねぇの!? ぎゃはは!!』みたいな事言われそうだけど、確かに一番知識はありそうだもんねぇ」
 「お前の中での響ちゃん性格悪すぎない……?」

 わざわざ顔つきと声のトーンを響に近付けながら物真似を交えて話す弦の姿に思わず弓弦も眉を顰める。
 確かに響は敬語は使わなかったりとかそういうのはあるが、最初はきちんと敬語は使っていたし、使わなくなっていったのも弦が「気遣わなくていいよー」と言っていたが為に素直にそれに従っていただけで。
 一応先輩とは呼んでくれているし。
 「そう?」なんていう弦に苦笑を浮かべながら、弓弦はレスポールとスコアに向き直った。

   #

 「え、俺がやっていいの?」
 「……え」
 「うん。やっぱ弦だけだときついみたいでさ。それに定番の邦楽とかだったら響ちゃんがこの中では一番詳しいかなって」
 「やりたい! つっても、俺国語の成績悪りぃから歌詞とかは書けねぇし、弦先輩とか弓弦先輩とか叩がやってくれれば……メロディとかなら。あ、でも叩の方が音楽の素養はあるし……」
 「大丈夫。響ちゃんに任せてみたい。1人じゃ難しかったら弦とか俺とか、こーちゃんとかに助け借りてもいいからさ」
 「っす……」

 「じゃあ」ということで弦の性格が悪いという予想を3000倍近く裏切って素直に受け入れた響の態度に弦は信じられないとでも言いたげに目をぱちくりとさせており、弓弦はそんな弦の様子を見て呆れたように再度肩をすくめる。
 だから言ったじゃん、とでも言いたげに。
 どこか楽しそうな響の姿に、もしかしたら響は作曲とか好きなのかもしれない、なんて事も考える。
 すぐに叩にも声をかけているのを見る感じだと、楽器なんかはもしかしたら叩から借りているのかも。
 とはいえ、今回響が素直に依頼を受けたのはきちんとお願いをしたのが弓弦だから、というのは少なからずともあるだろう。案外、弦だけで頼んでいたら弦の予想通りの結果になっていたかもしれない。

 「じゃあ、弦は歌詞作り頑張ろっか」
 「ええー! 僕の歌詞センスはやばいってもうわかってんじゃん! 弓弦がやってよ!!」
 「俺が聞く曲のジャンル聞いてから言ってくれる? 昨日俺が何聞いてたか分かるよね?」
 「夜の女王のアリア……」

 弓弦が小さく頷くと、弦は「はぁ」と大きなため息を吐いた後に「やってみるけど」と唇を尖らせながら言って素直にオリジナル曲作りに意識を向けてくれる様子だった。
 響は響で叩とテンポの話をしているようで色々合わせているらしく、弦は弦で「うーん」と唸りながらポツポツと言葉を漏らした。
 そして唯一手の空いた弓弦はその様子を見て小さく笑みを浮かべた。

2ヶ月前 No.4

@itxmm☆OxYUdDLLJjM ★iPhone=uSyqKf7JNY

 昨日壊れたカムパネルラ
 僕等の音を奏でて Rainy


 ♪ ≒ 5

 春休みが4月を跨いだ日、本来集まる予定が無かったものの、スタジオを借りてほしいという響からの願いで急遽スタジオに集まることになった。
 弦と弓弦がスタジオに着いた頃には既に響は叩とベースに触れながら何かを話しているようで、叩もベースアンプに腰をかけながらドラムスティックを回しながら時折カカカンッ、とベースアンプにリズムを刻むような音を立てていた。

 「ごめんね〜! ちょっと遅くなっちゃった!」
 「あ、弦先輩、弓弦先輩、メロディ出来たからちょっと聞いてくんね? 叩の家からパソコン借りて音作ったんで」
 「思ってたより早いねぇ。イヤホン借りていい?」
 「どうぞ」

 叩から差し出されたイヤホンを弦と弓弦が片耳づつ付けたのを確認した後に、響が手元にあるプレーヤーの再生ボタンを押す。
 プロ顔負けの16ビートを刻むドラムから入り、その次に聞こえるのは滑らかなベースライン。そして最後に入り込むツインギターの音。
 (ありがちなメロディの作り方のはずなのに何がこんなに違うんだ……?)
 弦が眉をひそめながら音に集中して聞いていると、常に絶え間なく動いている裏を支えるベースラインと完璧なリズムを保ち続けるドラムの音。ロック特有の簡単な4つ打ちが音の裏から聞こえない事がきっと大きいのだろう。おそらく、その役目はリズムギターが担っているのだろう。
 このレベルの音を弾ける、叩けるベーシストとドラマーなんてものはそれこそプロもプロ、演奏技術が特に高いベーシストやドラマーで無いと素人には難しすぎる音とリズムだった。
 サビ前らしきところで聞こえるスネアドラムのミュート音と、それが終わった後に聞こえる耳に残る激しいロック調。
 4分ほどの音が終わった後、弦と弓弦は顔を見合わせた後にゆっくりと響を見る。

 「これ……本当に響が作ったの?」
 「……っす。……やっぱ無理かー! 叩に手伝って貰えりゃよかった!」
 「まぁお前にしては頑張ってたと思うよ。ドラムの音が俺殺しに来てるような気がしたけど」
 「叩ならいけるって思ったんだよ」

 ゲラゲラと響がふざけるように笑うと、それに対して叩は露骨にイラついたように「はぁ?」と声を上げた。
 目の前で繰り広げられそうないつも通りの喧嘩が始まる前に、と弦はゴクリと固唾を飲んだ後に慌てて口を開く。

 「違う違う! そうじゃなくて! めっちゃかっこいいじゃん、これ! Cメロ、だよね、多分、あそこのベースソロとか鳥肌立ったもん! ねっ、弓弦!」
 「本当にすごいよ、響ちゃん。やっぱ普段から聞いてるの? 邦楽ロックの良いところだけ全部上手く取り入れたみたいっていうか……俺はクラシックとかの方が聞くこと多いからあんまり上手く言えないんだけど……プロみたい、だと思った。エフェクターもあるよね? これ」

 弦は興奮したように、弓弦は冷静に分析するように響に声をかけると、響は「えと」と少し恥ずかしそうに耳を赤くしていた。
 それをベースアンプに腰をかけながら見ていた叩はトン、と肘で響の背中を小突いた後、小さく笑って「よかったな」と声をかけた。
 響も満更でもなさそうでひひっ、と声を漏らしながら笑っていて、メロディはこれで決まりということになった。

 「こいつバカだから適当にギターの音入れてたんで弾きやすいようにタブ譜は俺書いてきたんで、良かったら先輩方で使ってください」
 「うるせー! 適当に音入れて大丈夫つったのお前だろ!」
 「こーくんってタブ譜書く才能まであったの?」
 「ありがとう、こーちゃん。響ちゃんも、ありがとね」

 お店でもなかなか見ない6線譜の薄いノートを叩から預かり、表紙を捲ると、そこには丁寧な数字が書き込まれていて、それを見ながら指をなんとなく動かしてみれば聞いていた時ほどの難しさを感じさせない指の動きに「おぉ……」と思わず声が漏れる。
 珍しく仲良さげに話す叩と響の様子を見て、弦と弓弦はコソコソとしながらも「案外、任せて良かったかもね」なんて話をする。
 勿論、弓弦は弦の頬をつねってやりながら「ポンコツのお前が悪い」という旨もしっかり伝えた。

 「じゃあ後は歌詞か……ところで弦、進捗は?」
 「ギクゥ!!」
 「口で言う馬鹿がいるか。ごめんね、響ちゃん、折角急いで作ってくれたのに」
 「あ、いや、楽しかったんで」

 響がそう言って笑うと、弦も「ごめんね」と小さな声で謝罪を述べた。普段はわがまま大魔王な自称プリンスの弦も珍しく健気な後輩の様子に負けたらしい。

 「でもこれ聞いたらなんか浮かび上がってきそうな気がする!」
 「お、それはいい」

 弦は顔を明るくさせてそう言った。とは言え、明るくさせた顔もすぐに「うーん」と唸り声に変わってしまい、見ている様子だと本気で行き詰まっているようだった。
 そんな弦の姿を見たからか、叩は「えーと……」と頭の後ろを掻きながら控えめに口を開く。

 「俺らのバンド名の由来ってなんでしたっけ?」
 「てるてる坊主! あーした天気になーれって感じ! あとバンド名付けやすそうだと思ったんだよね!」

 叩の質問に対してあからさまに嬉しそうに弦が答えると、響は「あっ」と言った後に手を鳴らした。
 それを疎ましそうに叩が見たのをスルーして、響が口を開く。

 「Rainyとか言っときゃ良いんじゃね?」
 「適当かよ」
 「あっ、いいねぇそれ! 確かにハイハットかな? ハイハットの音が雨っぽいところあったかも!」
 「マジッすか……」

 最初は鼻で笑っていた叩だったが、賛同した弦に目を丸くさせて信じられないとでも言いたげに声を出した。

 「いいねぇ、響! 最近冴えてるよ!」
 「っしゃあ!」

 弦が背伸びをしながら、そして響が屈んでやりながら響の頭が弦の手によってぐしゃぐしゃと乱された。
 それを不服そうに叩が唇を尖らせた後に、少し寂しそうに目を伏せた。

2ヶ月前 No.5

@itxmm☆OxYUdDLLJjM ★iPhone=uSyqKf7JNY

【 第2小節:集客 コツ 検索 】

 ずっと昔に壊れてたカムパネルラ
 それなら僕等の音を聴いて Rainy
 真実はひとつじゃなくても良いからさ
 僕等の音を奏でて Rainy
 首なんて無くても 空に歌うよ

 ♪ ≒ 1

 「ふあ、ぁ」
 「朝からでかいあくびすんなよ。伝染るだろ」
 「んー……」

 学校へ向かう道中、気候の事もあってか既に散り始めて居る桜の木が咲き誇る大きな運動公園の中を歩いていた。
 駅を使って学校に行く人は皆運動公園の中を突っ切らなければ学校に辿り着くことができない故に、朝から公園のブランコだの滑り台だのではしゃいで遊ぶ男子高校生も多い。
 まだ寝ぼけ眼の様子の響は大きな欠伸ばかりしていて、時折叩が話しかけてもなんともはっきりしない有耶無耶な声ばかりが返ってくる。
 呆れたように叩が眠そうな響の頬をつねってやりながら、周りを歩く同級生や先輩、そして新しくなるであろう後輩等の同じ制服に身を包んだ人間の声に耳を澄ませる。

 「四ノ宮とだけは同じクラスになりたくねぇーわ」
 「それフラグじゃん? まぁ俺も四ノ宮と同じクラスには死んでもなりたくねぇけど」

 “四ノ宮”。その人物を避けるような声はもう何百回も聞いてしまったし、慣れて良いことでは無いけど慣れてしまった。
 叩が不意に隣に居る響に声をかけようとすると、今まで隣を歩いていた響の姿がなく、咄嗟に今四ノ宮のことを話していた同級生の方を見ると、その前にはポケットに手を突っ込んで不機嫌そうに同級生2人を見下ろす響の姿があった。

 「んじゃあー、俺と同じクラスになったら死んでもらうか。楽しみにしてるわ」
 「へ、え、あ……い、いや、本気にすんなって! 冗談に決まってんだろ、は、はは……」
 「ははは、そうだよな! 冗談だよなぁ! じゃ、今から冗談言うから黙って聞いといてくれよ」
 「お、おう! 四ノ宮が冗談とか珍しいなぁ!」
 「殺すぞ」

 冗談とは思えないそのトーンと表情に同級生達は微かに震え始め、それを見た叩は急いで響の元まで駆け寄ると、響の腕を引く。
 一瞬叩を見る響の冷たい瞳に怯みかけたが、叩は唾を飲んだ後に馬鹿にするような顔を作って笑う。

 「分かるわー。俺も響と同じクラスになるくらいならドラムスティック折った方がマシー」
 「そう言うなら折るぞコラ」
 「うん、そっちがそのつもりなら俺は響の張り替えたばっかの三弦を切る」
 「なんでよりによってそこなんだよ!?」

 叩が目線を同級生に向けると、同級生達は逃げるようにして駆け足で学校へと向かって行った。
 (あいつらも馬鹿だよなぁ)
 目の前に響居るじゃん、と思いながらふぅ、と叩が溜め息を吐くと、ようやく頭が回ってきた様子の響は欠伸の代わりにへらず口が増えた。
 響も響で叩の余計なお世話に関しては特に何も言わず、ただただいつものように減らず口を叩きながら学校までの道のりを歩いて行った。

 「今日放課後弦先輩のところ行かないとね」
 「あー、忘れてた……。何があんだっけ」
 「新入生歓迎会ライブ。掲示板と新入生歓迎会告知用のスピーチ的なの一緒に考えて〜って言ってたじゃん」
 「めんどー!」

 ええー! と声をあげながら響が言う姿を見て、叩は珍しく「確かに」なんて賛同してみた。響も今回ばかりは減らず口を叩くことはなく、「な?」と悪戯っ子のような笑みを浮かべて叩を見た。
 フケるか? なんて言い出しそうな響の姿に苦笑を浮かべながら、学校の門をくぐって昇降口に張り出されている教室を確認する。

 「ええと……ん、おい叩、同じクラスだぜ」
 「え、マジかー。これドラムスティック折らねぇとじゃん。はー、余計なこと言うんじゃなかった」
 「優しい俺様に免じて折らなくて良いぜ」
 「最初からそのつもりだ馬鹿野郎」

 昇降口に入る前に出席番号を確認してから数字の書いてあるロッカーに響はローファー、叩はスニーカーを入れながらスクールバッグから上履きを取り出しつつ教室まで向かう。
 響の行くところ行くところには同級生からの明確な拒絶の声に叩も響も何もしていないが気が滅入る。いや、響の場合は何もしてなくはない為に同級生からこんなにも遠巻きにされているわけだが。
 叩も叩で周りからは「なんで四ノ宮と一緒にいるんだろうな」なんて心配の声が上がっているが、叩はそんな事を気にしない。

 「あっ、四ノ宮くん、二葉くん、おはよう! 今年は同じクラスになれたねー!」
 「相変わらずテンションたけぇな……」
 「おはよ、高音」

 主に響を遠巻きに見る中、2人に話しかける猛者の高音(たかね)は女子顔負けの指先だけが出た萌え袖で2人に手を振った。
 響が苦笑を浮かべ、叩がいつも通りのテンションで特に特別なこともせず挨拶をすれば、「うん!」と嬉しそうに頷いた。
 この女子顔負けの可愛らしさには男子高校生の目に悪いらしく、本人曰く時折告白されることもある、らしいが、大体の先輩や同級生は高音の部活の姿を見てドン引きすることが多い。

 「あ、ねぇ、四ノ宮くん、俺新しいアレンジ考えたから今度部活の時聞いてくんない?」
 「おー。てか新しいアレンジ考える前に俺にもやり方教えてくれよ」
 「気が向いたらねぇ」

 どことなく弦を思わせる高音の姿に、この人は弦先輩の血筋なんじゃないかとすら思うが、弓弦という弦の兄の存在を知っているとその可能性も薄い。
 というか、実際弦と高音はまるで他人のごとく距離のある会話をするのだから、お互いの性格をそれなりに知っている響としてはなかなか面白い。
 高音は同じ部活の他バンドのベーシストで、なによりも独特なストラップの掛け方やMCの時のテンション、ライブ中にテンションが上がった後についてドン引きされることが多いのだ。
 逆にそれが好きなんていう人もいるものだから、十人十色とはよく言ったものだ。

1ヶ月前 No.6

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1ヶ月前 No.7

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1ヶ月前 No.8

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 ♪ ≒ 4

 「良かったな、可愛いってよ」
 「うるせー」

 あれから、結局ポスターは如何にもロック! と言った派手な見た目のやたら凝ったデザインの誰が描いたのか分からないものになったが、響の絵は響の絵で中々好評で、パンフレットの裏表紙で使われる事になった。
 響は少し俯いた後に叩の方に目線を投げるものの、やはり言うほどでもないか、と普段使う駅よりも少し早く電車から降りた。

 「あれ? どっか寄んの?」
 「バイト」
 「あぁ……」

 いつもと変わらないムッとした表情と、少し嬉しそうな響の俯き顔を見て、思わず叩からはため息が溢れる。
 バイトへ行くと言って先に電車から降りた響の背中を見送ってやり、響の背中が階段を下って見えなくなってから丁度、叩の乗る電車のドアが閉まった。
 (……苦労性め。……ん?)
 珍しく自分でも驚くような響を労わるような気持ちになってしまったが、こんなのらしくない。響を少しでも労ってやろうと思った気持ちは掻き消して、帰り際は響の家に寄ろうと決めた。

 #

 バイトを終えて帰る途中、ふと駅までの道で鍵原が何か大きいもの……恐らくキーボードを背負って歩いている様子が目に入り、鍵原に近付いた。

 「何してんだよ、お前」
 「んー? ……んー、あー、ひびきだー。ばいと? おつかれさまー。……あ、えっとねー……おれはねーれんしゅーがえりー」
 「練習? カギーもう出来るじゃん。スタジオでも借りたんか?」
 「そー。おれちゅーとはんぱなえんそーしたくないんだー。たかねがいてー、だんがいてー、それでおれがいる。おれ、あのふたりだいすきだからさー、えんそーちゅーまでめーわくかけたくないんだー」
 「……お前、ちょっと変わったな」
 「んー、そうー? ひびきもやさしくなったなーっておもうよー。しょーがくせーのときのひびき、ずっとけんかしてたしー、まいにちせんせーにおこられてたしー、おれちょっとひびきこわかった」
 「ンだと?」
 「あ、わるいいみじゃないよー。……あのとき、ひびきすごくたいへんだったでしょ? だからー、ひびきはいっしょーけんめーじぶんをこのよにのこそーとして、それがかえってどっかにきえそーでこわかったんだよねー。……ひびきの、……ひびきのちかくに、こうがいてくれて、よかった」

 気の抜けたような間延びした喋り方と、ふにゃりと何か溶けたように笑ってみせた鍵原の姿を見て、思わず響は俯いてしまった。
 なんだか今日の響は、俯いてばかりなような気がする。部活の時に俯いたのは恥ずかしくて、駅から降りようとした時に俯いたのは部活でのことを思い出して恥ずかしいけど嬉しくて。そして今は、かつての同級生からの言葉が嬉しくて、ほんのちょっぴり、感動なんかしてしまって。
 そんな響の様子を知ってか知らずか、鍵原は小さく先程と同じように何かが溶けたように笑った後に「よーしよし」と響の頭を撫でてやる。
 何事かと響が顔を上げると、普段のどこかぼんやりしている鍵原の姿がやけに大人びて見えた。

 「おれもねー、これでもおにーちゃんだから」

 人懐っこく鍵原が笑ったのを見て、「何言ってんだよ」とグッとこみ上げてくる感情を押し殺して鍵原に軽く笑いかける。
 かつての同級生。ぼんやりしてて、何を考えているのか分からなくて、掴み所がなくて、常にどこかふわふわしてて。正直、響が少し苦手だった相手は、見ない間に頼りになる同級生になっていた。

 「いっしょにかえろー。えき、いっしょでしょー」
 「……おう」

 #

 駅で鍵原と分かれて家路に着くと、玄関を開けるや否や騒がしい声に思わず苦笑が零れる。
 今まで鍵原と話していたせいか、春の夜という事もあり落ち着いた空気の中ここまで帰ってきた為に、季節問わず騒がしい自分の家には思わず笑ってしまう。

 「今から飯作ってやるから待ってろー」
 「もう食べた!」

 玄関から声を上げると、弟のうちの一人、青葉(あおば)が駆けつけてきながら響に言った。普段は響がバイトから帰ってきた後に夕飯にしている為、響が不思議そうに首を傾げると、青葉は響の腕を引っ張ってリビングへと連れて行く。
 リビングに着いた時には本当に食べ終わったらしい形跡が残っており、他の弟や妹たちと楽しそうに遊んでやっている男の姿に目を見開いた。

 「……こ、叩?」
 「ん? 帰ってきてたのか」
 「なん、え?」
 「別に。お前のとこのガキと遊んでやりたいなーって思っただけだから。飯もついで。響帰ってくんの遅いんだから腹空かせて可哀想だろ」
 「否定はできねぇ……」

 叩が響の弟妹たちの相手をしながらどこかツンとした様子で言えば、苦虫を潰したような顔をしながら響も頷く。
 母親がいない訳ではないが、響の母は朝から晩まで働き詰めの人だということもあり、基本的な面倒は響が見ているのだ。母の収入だけでは生活と学生の両立も厳しい故に、自分の分の学費と食料費は自らバイトして稼ぐ言うところの貧乏学生だ。
 そこまで頭が良くない響がわざわざ公立高校という道を選んだのも、そこに至る。

 「悪いな、助かる」
 「うん」
 「そういやカギー居たぜ。スタジオ借りて一人で練習してたんだとよ」
 「鍵原って小学生の時から結構真面目だよな」
 「真面目な奴は学校抜け出したりムカついて教師ぶん殴ったりしないだろ……」
 「あれ、そんな事あったっけ? 超図太いな」

 こうして幼馴染みらしい会話をするのはなんとなく久しぶりのような気がして、何となくむず痒さはあったが、心のどこかで温かな気持ちになっていた。

1ヶ月前 No.9
ページ: 1

 
 
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