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パラサイト・ワールド  side.S

 ( 小説投稿城 )
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MK マッチー @11777 ★i04XIsqV4q_iBP

___これは、私の物語。

「ふぅ、危機一髪だったな」

助手席の男が、安堵した表情で呟いた。

「そうね。でも何とか乗り越えられたのは、あんたのおかげよ」

私の言葉に分かりやすく口を緩ませ、ニヤける。ちょろい男だ。

「それで、これからどうする?」

私はハンドルをさらに握り、アクセルを強く踏む。

「決まってるでしょ、探し出すわ。例え地の果てまで行こうとも」

そう、これは私の物語。

兄を捜す物語___




『どうも皆さん、初めましての方もそうじゃない方もクリック陳謝!
察しのいい方、お分かりでしょう、そう!また続編です!
いや〜楽しくなってしまいました〜。小説作り。まだまだまだ粗が目立つかもしれませんが、どうぞご容赦を(笑)
初めての方にストーリーを説明しますと「寄生虫研究の第一人者となった近未来の日本」という設定です。
一作目の裏側の話になります。もう一つの物語、と言っても過言じゃないかもしれません。
そういうことでグロ系サスペンスな小説になります。苦手な方はお勧めしません。

記事メモにはキャラ紹介と話数を、サブ記事には感想、質問、アドバイスや提案等がありましたら
お載せますのでよろしくお願いします。
後モンスターやクリーチャー等の分かりづらい描写は絵を載せたいと思ってるんですが、
全然機能を使いこなせない状況です。
何とか頑張って文章で分かりづらくならないように勤めていきたいと思います!
では最後にまたコレを言って終わりましょう。
※この作品はフィクションです。実在の人物、団体、事件などには関係ありません。』

メモ2019/06/16 00:39 : MK マッチー @11777★i04XIsqV4q_iBP

第1話『もう一人の山田』(>>1-10) 第2話『酒場に集いし生存者』(>>11-28


・登場人物

主人公:山田 桃花(やまだ ももか)身長163cm 18歳 肩まで伸びた黒髪の美少女。

 強気で勝ち気、高飛車な性格だが喧嘩っ早い面も見受けられる。白Yシャツに黒のライダースジャケット、ブリックカラーのパンツというスタイル。

 山田太郎の実の妹。


準主役:ディーン 及川(おいかわ)身長178cm 28歳 前髪を中分けにした中肉中背、切れ長な目を持った銀髪のイケメン。

 政府により編成された交通封鎖部隊の、特殊部隊員で副隊長。上下迷彩服のスタイルのいい男性。

 冷静沈着な性格で、冷淡なリアリストのため言動が冷めている。


酒井 飲安(さかい のみやす)身長174cm 43歳 オールバックの黒髪、グレーのチョッキ、ちょびヒゲを生やしたダンディーな男性。 

 バー『エデン』のマスター。


秀善 浩二(しゅうぜん こうじ)身長175cm 55歳 汚れた工事の作業着を着た恰幅のいい、熊のような体型をした男性。

 工事現場の監督。


白須 翁息(しらす おうや)身長173cm 52歳 くたびれたスーツを着こみ、無精髭を生やし、脂気味な顔で小太りなサラリーマン風な男性。

 桃花の中学時代の教師。


虎管 雲伝(とらくだ うんでん)身長171cm 48歳 薄汚れたグレーのタンクトップを着た、小麦色の肌をした男性。

 工事現場のトラック運転手、秀善の同僚。終始酔っぱらい常に軽薄な言動で、誰かに絡んでいる。


祭木 蓮(さいこ れん)身長168cm 19歳 顔色が悪く痩せこけていて、七三に分けた髪を少し乱した細身の青年。

 大学浪人生。常におどおどしていて挙動不審。


沢村 エリー(さわむら)身長165cm 21歳 軽いカールの掛かった茶色い髪、ツリ目、容姿端麗な美少女。

 狩矢崎市出身のモデル、女優としても売れ始めてるが高圧的で、人を見下し自分勝手で我が儘。とても傲慢な性格。


谷村 一樹(たにむら かずき)身長170cm 42歳 黒髪で中肉中背の普通の男性。

…続きを読む(18行)

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MK マッチー @11777 ★i04XIsqV4q_iBP

序章 __あの日のプロローグ__

携帯が鳴っている。

ベッドの傍にあるナイトテーブルに手を伸ばし、目覚まし時計を持ち上げて時刻を確認。午前四時を少し過ぎていた。
こんな真夜中に、いや早朝と言うべきだろうか。とにかくこんな中途半端な時間に電話をして来る、非常識な愚か者は一体誰かしら。
セールスではない事は明らかね。クレイジーな商法で電話勧誘をしているのではない限り。もしそんな会社があるなら逆に褒めてあげたい所よ。

取りあえず私は文句の一つでも言う為、即座に起きて携帯を無造作に掴む。
即起きられたのは私の脳髄が、既に冴え渡っていたからだ。
それというのも昨日の九時にはベットに入っていたから、充分な睡眠はあらかたとれている。

いつからかは分からないがテレビ番組が、等しく退屈だと感じるようになった。内容がではない。
打算と媚びが入り交じった、こすっからい根性が透けて見える笑顔を、見るのが耐えられないのだ。
その場限りで一時的な偽りの笑顔の仮面。目の奥に光が無いにも関わらず、相反する笑い声を上げるタレント達が不気味で仕方ない。

笑い声は雑音にしか聞こえない。雑音など耳障りなだけだ。耳を塞ぎたくなる衝動に駆られる。
人々の歓笑(かんしょう)に嫌悪感を抱くと、私は寝ることにしている。寝る事でしか私の心は癒されない。
そんな至福な時間を邪魔をするのは誰か、携帯のディスプレイを見る。

見てギョッとする。

表示されているのは、半年前に別れた彼氏の名。
今更なんなのかしら、まだ未練があるというの? どこまでも女々しい男ね。
しかし、女々しくはあったけれど、非常識な男ではなかった事だけは知っている。

彼のいいところを上げるとしたら、常識的な人間であるという点だけ。そこだけは褒めてあげてもいい。
ただし、枠にハマった常識的な男で面白みも欠片もない、退屈な男だった。
そんな彼からの電話。余程の事が起きたのかしら? 胸に一抹の不安がよぎる。

通話ボタンを押し耳に当てる。

「・・・何?」

心配しているのを悟られないよう、不機嫌なふりをする。天邪鬼な心。
二律背反な言動をする私は、テレビの向こうの嫌いなタレント達と大差ないわね。
自虐気味に口元を歪ませる。

「た、助けて!」

予期出来た筈の唐突な第一声に、面を食らう。
間抜けにも声がうわずる。

「え? きゅ、急にどうしたのよ?」

焦りと恐怖が混ざった様な口調が、電話口から聞こえて来る。

「お、俺・・・ぁぁあ、もう駄目だ。死ぬかもしれない」

『死』という言葉が鼓膜を揺らす。さすがにこれはただ事ではない。
うっすらとだが、電話の向こうからかすかに、サイレンに混ざり悲鳴の様な雑音が聞こえる。
一体何が起きているのか。

「ねぇ、落ち着いて。ゆっくりと説明して、何事なの?」

相手に見える筈のない、制止を促す手のジェスチャー。

「最後に・・・君と話せてよかった。ごめんね、さよなら」

「ちょ、待ってよ!」

ブツンッと切れる着信。

一体全体なんなのよ! 勝手に電話してきて言いたい事言うだけ言って、勝手に切るなんて。そんな男らしさはいらないわよ。
通話の終わった携帯を睨み付ける。もし可能なら電話越しで殴ってやりたい気分に駆られている。
腹立たしいから二度寝してしまおうかしら。

「・・・・・・目が覚めちゃったじゃない」

ベットから重い腰を上げ、パジャマ代わりの黒のネグリジェを脱ぎ捨て、クローゼットにあるYシャツに手を伸ばす。
気がかりだからあの街に戻る訳じゃないわ。久しぶりに兄に会いに行くだけなんだからね。
私は誰に言い訳をしているんだろう・・・ 寝ぼけているに違いない。

バカバカしくなった私はため息をつきながら、ブリックカラーのパンツを履く。
大きなあくびをしながら、部屋を出て行く。

___この時ののんきな私は、これから起こる運命を知る由もなかった___

10ヶ月前 No.1

MK マッチー @11777 ★i04XIsqV4q_iBP

第1話

・狩矢崎市 超高層マンションビル(駐車場)

ラジオ:『先月から相次いで狩矢崎市内で起こっている、女性連続失踪事件についてですが、
     昨日未明また新たに女性が失踪したとの事です。これで被害は12人に上る模様です。』

この街も物騒になったものね。

『続いては芸能ニュースです。なんと、今話題のあの女優に元カレ発覚です! そのことについて徹底討論・・・』

騒がれるのは一時的な期間だけ。犯人が捕まったというニュースが流れれば、次のニュースで話題がうつる。
そうして数日もすれば起きた事件など、誰もが忘れさる。そういうものだ。
当事者でない他人の集まりである世間は、一時的に同情こそすれど、その憐れみは永続的には続かない。

その場しのぎの同情なんぞに意味はない。ラジオを消す。
ため息をつきながら、私は兄の住む高層マンションを見上げる。

「いつ見ても摩天楼みたいな高さね・・・」

そしていつみても首が痛くなる。
黒のライダースジャケットをひるがえしながら、バイクから降りる。
兄はこのマンションの上階に住んでいる。我が兄ながら優雅なものだわ。

兄は直情的で少し子供じみていて、理想を語る青くささがあり、それでいて正義感が強く融通が利かない堅物。
そして極めつきがお人好しである事。この世の中じゃお人好しという印象が、プラスになるとは限らない。
困ったことに、兄にはそれが理解出来ないようだ。ほとほと呆れるしかない。

それでもなぜか兄には、女をたらしこむ話術があるようで、それなりに女達からの印象はいい。
そして恐ろしいことに、兄は無自覚なのである。モテているのかいないのかよく分からない。
ただの優男にしか見えないから余計に、不思議でならない。妹の私は複雑な心境だ。

腕時計を確認する。午前七時を過ぎている。この時間兄は、まだ寝ている頃ね。
兄の寝顔を見てもいいが、寝起きが悪い時があるため、うかつに起こす事も出来ない。
子供のように不機嫌になる兄は、いささか面倒だ。少し可愛いけど・・・

「時間を潰すしかないか」

この街には何の思入れもないが、帰省がてら散策でもしよう。
駐車場から出て、狭い裏路地を歩き、大通りへと向かう。

10ヶ月前 No.2

MK マッチー @11777 ★i04XIsqV4q_iBP

・大通り

丁寧に舗装された道路へと出る。
この時間は交通量が少ないため、東京の歩行者天国のように歩くことも可能だ。
もちろん、そんな事はしないわ。いつ暴走車が現れ、事故の被害者になりえるのか分からないのだから。

そう言ったそばから黒塗りの数台のワゴン車が、ぼ〜っとしてた私の横をすごい速度で走り抜いた。

「あっぶないわねぇ、何キロで走ってんのよ・・・事故るわよ」

案の定、事故が起きた。
最後尾に並んで走っていたワゴン車が、横からトラックに追突され横転した。
言わんこっちゃない。信号無視をすればどうなるかくらい分かるでしょうに。

なぜすごいスピードで走り、信号無視をしたのか、その答えがすぐに分かった。
横転したワゴン車の側面にKS社のロゴマークがある。
救急車のように他の車が、避けてくれるとでも思ったのかしら。大企業としての過信だわ。

一般男性:「おいおい、一体何事だ?」
一般女性:「事故よ! 誰か救急車を呼んで」
一般男性2:「警察にも連絡した方がいいんじゃねぇか?」
一般女性2:「すっごい事故・・・写真撮らないと。事故なう」

野次馬が集まってきた。

皆がスマホに手にしたりかかげる中、私は見た。
事故ったワゴン車の反対側から、子供が這いずって出て来た。
気付いたのは私だけなのか、誰も子供について言及しない。

そうこうしている内に、子供が走り去った。

「あ、ちょっと・・・・・・」

呼び止めようとするも、野次馬達が邪魔だ。
まともに人ごみの波をかき分ける事が出来ない。
そう思った直後。

ワゴン車が目の前で大爆発を起こした。

一般男性3:「た、大変だ! まだ中に運転手がいるんだろ!?」
一般女性3:「早く消化器を持って来て、火を消して!」
一般女性2:「リアル炎上なう」

野次馬達が消火活動を始めるけど、こうなった以上手遅れね。
子供だけでも助かっただけマシってものだわ。
まぁ、子供がいたという事実を知らない野次馬達には、気の毒だけど。

消火活動を野次馬達に任せて、私は事故現場を後にする。
行かなければならないところがあるからだ。
気が進まないけど・・・

元カレの職場へ

10ヶ月前 No.3

MK マッチー @11777 ★i04XIsqV4q_iBP

・KSコーポレーション 玄関前

歩いて30分ほどで、KS社の前に着いた。

その間、街を見渡してみてみたが、特段さほど変わった様子もなければ、目新しさも何もない。
進歩するでもく退化するでもなく、面白みも何もないただの街が存在するだけだ。
私が出ていったその日から、何の代わり映えのしない普通の日常がそこにはあった。

とにかく三本の大きな煙突の様な特徴を持った建物が、私を出迎える。
正式名称はKSコーポレーションで、寄生虫の研究で名を馳せ、世界中に支社を持つ大企業だ。
昔はさびれていたこの街も、この会社のおかげで飛躍的復興を遂げた。

だからなのだろう、その社長である黒田総一郎は、この街では神格化されつつある。
大恩ある恩人、偉業を成し遂げた研究者、成功の魔術師、街の救世主。
などのあだ名や異名を、この街ではよく聞く。もはや崇拝の域だ。

かくいう私の兄も、崇拝に近い感情を黒田に持ち合わせている。
このKS社に就職しようとするほどに、入れ込んでいて不安になる。
だが結局就職することは叶わず、兄は落ち込んでいたが、私は安堵した。

黒田は確かに礼儀正しく、とてもオシャレを気にする、渋い人だとは思う。
しかし、なぜかは分からないけど、目の奥に言い知れない狂気を孕んでいる気がする。
ただの杞憂であればそれでいいのだけども。

とにかく、兄が働こうとした会社の前にいて、この会社に勤めているのが私の元カレなのだ。

兄がKS社に就職しようとしていた時期、気まぐれに行ったバーでナンパをされた。
最初はシカトしていたけど、後でKS社の社員だと分かり、これは好都合だと思いナンパに引っかかってやった。

いつもなら常識的な彼とは思えない行動力だと思ったけど、その日だけたった一度だけの安易な男らしさ。
酔ってハメを外したのだろう。
酔いたい気分というのは誰にでもある。

私と付き合っていい思いをさせる代わりに、兄を会社に勤められるよう口添えをしてもらおうと、利害の一致で恋人関係になる。
兄を想って私なりの妹としてしたことだが、今思えばただの社員にそんな権限がないことくらい、考えればすぐ分かった筈だ。
たぶん、その時の私も酔っていた。だから短絡的な行動をしてしまったのね。

だからといって後悔はしていない。
それなりに貢がせ、それなりに潤ったから。損得勘定で判断するなら、メリットがあった。文字通り大儲けね。
世の中は金、とまでは言わないけど、無一文じゃ何も出来ない。

金が世界の一部よ。

10ヶ月前 No.4

MK マッチー @11777 ★i04XIsqV4q_iBP

「どうしてここにいるんだろ・・・」

冷静になってみると、どうして私はここに来ているのか。
私がここに来たからといって、何が出来るという訳でもないはずよ。
アポ無しでは上層部や、幹部クラスの人達とは会えなかったはずだが、社員はどうだったかしら。

受付けに行き、彼女ということで取り次いでもらう?
どんな顔して会えばいい? どんな言葉をかければいい?
心配したから来ちゃった?

現在進行形の彼女じゃあるまいし。
まるで私の方が未練があるみたいじゃない。
そんな恋する乙女みたいなセリフ、言える訳がない。

私のプライドが許さない。

そもそもあの電話は、酔った彼からのイタズラの可能性も捨てきれない。
よりを戻そうとした彼を周りがはやし立て、酒の力を借り電話してきた、とも考えられる。
そう考えると辻褄があう。

閑散としたKS社を見上げていると、それが真実なのではという、気持ちが強まる。
何かが起きていれば、警察や救急が来ているはずだ。
だが、どれだけ周囲を見渡してみても、それ関係の車は見当たらない。何かが起きた痕跡もない。

「みごと、釣られたってわけね」

自分に対する呆れのため息を吐く。
兄のマンションへ戻ろうと、踵を返し歩き始めた。

その直後、真後ろから爆発音がした。

振り返ると、KS社が黒煙を上げ燃えている。
そう思うのも束の間、次々とKS社の各所から爆発し、炎上する。
降り注ぐ細かい瓦礫から身を庇おうと、片手をかざす。

「な、何?・・・・・・一体何が」

10ヶ月前 No.5

MK マッチー @11777 ★i04XIsqV4q_iBP

その時、誰かが叫んだ。

一般男性4:「見ろ! 人が落ちて来るぞーー!」

野次馬が指差す方向に目をやる。

ガラスを割りながら、人が落ちてきた。
それも一人じゃない。
次々と燃え盛る室内から、何もない室内のガラスを割りながら、各所で人が落ちてくる。

2001年のアメリカ同時多発テロの時、火の熱さに耐えきれなくたなった人達が、ワールドトレードセンターから身を投げた。
そういう現象が起きていたと聞くが、今のコレもそういうことなのだろうか。
とにかく今、目の前で次々と人が落下していき、死んでいく。

いや、正確に言えば死んではいない。

まだ生きている。
すごい高さから落ちたはずなのに、すごい格好で地面に叩き付けられたはずなのに。
まるで痛覚を持ち合わせていないかのように、悠々と立ち上がり歩き出す。

一般男性5:「大丈夫ですか? 救急車を呼びましょうか? ・・・え」

心配した男性が落ちてきた人に近づいて声をかける。
しかし、その異様な姿に気付き凍りつく。

私も気付き、戦慄した。

ヒューミン:「・・・ぁ、ああ。ぉおお・・・・・・」

落ちてきたのは人ではなく、異形と化した何か。

目が大きく肥大化し赤色に光り、大きな鉤爪、折れ曲がった前脚、
蚊の注射器のような口に、口回りに生えた細かいヒゲの様なもの。
全身の体が灰色のまだら模様をした何か。

この世のものではない人外に、私は言葉を失う。

一般女性4:「え、何コレ。撮影かなんかなの?」

のんきなセリフが近くの野次馬からあがる。
一瞬だけ思考がブレる。撮影なのかもしれない、と。
もしそうならメイク技術がとても素晴らしい、と言わざるをえないが、何かが引っかかる。

一抹の胸騒ぎを感じたその瞬間。

一般男性5:「ぎゃぁああーーー!!」

異形のソレは男性に飛びかかり、地面に倒れさせ、注射器の様なものを首に突き刺し、男性を血塗れにした。
違う、コレは撮影なんかじゃないわ。
正真正銘本物の化け物!

一般女性4:「きゃぁぁあああーー!!」

落ちてきていた異形の化け物が、近くにいた女性を襲う。

一般男性4:「ち、近づくな! や、やめろ。来るなぁああー! ぐわぁああーー!!」

野次馬達が次々と襲われ、悲鳴がそこかしこから聞こえる。
私は走り出していた。この場から逃げなければ死ぬと、本能がそうさせるのだろう。
今回ばかりは私は本能に同調する。

見ると、私と同じように現場を目撃した野次馬達が、同じ方向に逃げている。
多数の人間が一方向に逃げれば、あの化け物達は追ってくるのではないだろうか?
そう思ったが、考えるのを止めた。考えている暇があったら足を動かした方が懸命だわ。

一分一秒でも早く、あの場から逃げなければ。
より遠くへ、もっと遠くへ逃げないと。

そして何より、この事態に気付かず今ものんきに寝ているに違いない、兄の元へ急がないと。
危機が迫っていることを、早く伝えないと!
兄のいるマンションへと、全速力へと向かう。

10ヶ月前 No.6

MK マッチー @11777 ★i04XIsqV4q_iBP

・大通り

兄のマンションの前の、事故現場へと戻ってきた。

「はぁはぁ、ぜぇぜぇ・・・ぅう、もう無理」

本来私はそんなに体は強い方じゃない。
走ればすぐに体がバテる。運動は嫌いだわ。ここまで来れば、すこし休んでもいいだろう。
肩で息をしながら、呼吸を整えるために立ち止まって、必死に酸素を貪り呼吸をする。

いくらか楽になってきた。

楽になってふと、思い出したことがある。
KS社から立ち去る際、三階辺りの窓際に私をジッと見つめる、人影を見た気がした。
ちゃんと確認したわけではないから、分からないがアレは一体なんだったのかしら?

考えにふけていると、後ろから肩を叩かれる。

「きゃぁ!」

驚いて勢い良く振り返って、肩に置かれた手を払いのける。

警官:「あ、驚かせて済まない」

目の前にいたのは恰幅の良い警官。ドーナッツが好きそうだなと勝手なイメージ。

「あ、いえ・・・・・・」

驚いた私に驚いたようで、少し申し訳なさそうに頭をかく。

警官:「しかしねお嬢さん、ここは立ち入り禁止なんだよ。事故処理が出来ないから、出て行ってくれないかね」

周りをよく見渡すと、事故現場には非常線が張られていて、数台のパトカーが停まっている。
数人の警官が事故車両に集まり、事故検分をしているようだ。燃えていたワゴン車は、すでに消火されている。
気付かなかったが、私の足下に非常線が落ちていた。

非常線を踏んでいるのもそうだが、事故現場に一般人の私がいては、仕事の邪魔なのだろう。
警官は威圧的こそではないものの、うむを言わさないような口調で、この場から立ち去るよう命令してくる。
普通ならこういう警官には、文句の一つや二つ言ってやるところだけど、そんな場合じゃない。

ぐっと堪えて、警官に向き直る。

「お、お巡りさん大変です! KS社が爆発して、化け物が襲って来たんです!」

自分で言って失敗した、と気付いた。
まだ私はパニクっているようね。
こんなトンチキな説明では信じてくれるはずがないわ。

警官:「分かった分かった、後で相手をしてやるから退いた退いた。」

案の定相手にされない。
訝しげな目で睨まれた後、邪魔な犬を払いのけるかのように、シッシと手を振られた。
もう一度落ち着いて説明をしようと、話しかけようとした。

その直後。

真横から突っ込んできた車に、警官が轢かれた。

「___!!__」

目の前で起きた衝撃的な出来事に、口を両手で押さえ、声にならない声で悲鳴を上げるしかなかった。
今、何が起こったの? どうして車が? 私も轢かれるところだったの?
警官を轢いた車が建物に突っ込んだ様を見て、疑問と恐怖が一気にこみ上げる。体が震える。

突如、別の車がパトカーに突っ込んだ。
そばで事故検分をしていた何人かの警官が、宙を舞った。
道路の地面に叩き付けられる瞬間を見る間もなく、パトカーもろとも突っ込んだ車が爆発炎上。

何が起きたのかを理解するための、脳が追いつかない。

さらに強烈な音がして我に返り、後ろを振り返る。
なんておかしな光景を見ているのかしら、車が空を飛んでいる。
まるで重力なんてなんのその。自分は鳥だと勘違いしているのかのように、自由に、そうとても自由に飛んでいる。

そう思ったのも束の間、空を飛んだ車近くの建物に突っ込み爆発した。

一般男性6:「誰か手を貸してくれ、人が車の下敷きになってるだ!」
一般女性5:「燃えてる車の中に、人がいるのよ助けて!」
一般男性7:「あああーーー!! 足が、俺の足がぁぁああ〜!」
一般女性6:「熱い、あつい・・・・・・たすけて・・・・・・」
一般男性8:「誰か、誰か妻を知りませんか? どこに、一体どこに・・・」
一般女性2:「世界の終わりなう」

次々と車同士が衝突しあい、人を轢き、建物に突っ込み破壊し、業火の炎を燃え上がらせる。
まさに地獄絵図。
いまこの瞬間、目の前にしている光景を表現するのに、これ以上の適した言葉が見当たらない。

間一髪爆破を逃れた車からは、例の化け物が這い出てくる。
近くにいた人を襲っていく。
迫り来る車から、化け物から、逃げ惑う人々。

「う、くッ! ちょ・・・・・・待って」

恐怖に駆られパニックに陥った人々の群れが押し迫り、私は人混みに流され始める。
集団の波に逆らおうと逆行を試みたけど、どんどん兄のマンションから遠ざっていく。
兄にこの事態を伝えないといけないのに! 会わないといけないのに!
進めない! 進むことが出来ない! 何も出来ないの?

兄のマンションの方向に手を伸ばす。

「に、兄さん・・・・・・兄さーーーーーん!!!」

私の叫びと思いは届かない。

10ヶ月前 No.7

MK マッチー @11777 ★i04XIsqV4q_iBP

・街の境目(狩矢崎市封鎖線現場)

この街は赤城山山脈の森林に囲まれた街だ。

この街へ入るには山脈の獣道、とまでは言わないが舗装されていない砂利道を、通らなければならない。
他の道を使って入ろうとするなら、一日以上の時間を費やすだけでなく、熊や山犬などの野生動物たちと出くわすリスクを負うことになる。

狩矢崎市へと続く街道はこの一本だけだ。
舗装道路と砂利道の境目のこの場所は、通称、街境と呼ばれる。
この街と外とを結ぶ唯一のライフラインだ。

私はこの街への始まりと終わりの果てまで流され、大勢の人波の中に私はいる。
とてもじゃないけど、人波をわけて逆戻りはできそうにないわね。

アナウンス:「こちら市役所です、非常事態が発生。非常事態宣言を発令中。市民の皆さんはお近くの、自治体、警察、KS社の指示に従ってください」

事の重大さを把握したのか、耳をつんざかん程のけたたましいサイレンが鳴り響き、繰り返しアナウンスが流される。

警官2:「皆さんゆっくりと移動してください。慌てずに指示に従ってください」
自治体:「ほらソコ、列を乱さない! ちゃんと並んで、避難訓練通りにやりなさい!」

避難指示を的確にこなす警察と市の自治体。
そしていつのまにやら巨大なバリケードが設けられている。出入り口を塞ぐ形でまるで検問のよう。
バリケードの壁の周りには金網の足場が設置され、銃などの武器を持った兵士の様な人達が見張っている。

「ん・・・・・・?」

迷彩柄のボディアーマーを着た兵士達の中に、場違いなスーツの男がいた。
注視すると、その顔には見覚えがある。テレビとかでよく見かける顔だわ。
防衛省の鬼塚大臣。ぴっちりとスーツを着こなし、白髪混じりの髪をオールバックにし、一本分の髪の束をおでこに出している。政界きってのオシャレ番長。

現役の閣僚がどうしてこんなところにいるの? 事故を聞きつけ駆けつけた? さっき起きたばかりなのに?
疑問が尽きず疑問符ばかりを頭の上に乗せていると、鬼塚は見られていることに気付いたのか、私と目が合い見下ろす。

どうにも彼を好きにはなれないのよね。
別段政治家に対して好き嫌いで判断している訳ではなければ、好感を持っている訳でもないけど。
だが鬼塚はとくに他の政治家とは一線を画して、信用が出来ない。あえて理由を述べるなら、目だ。

常日頃から感じていたことだけど、鬼塚が人を見る目は、まるでモルモットを見るのかような、蔑視の念を感じる。

一瞬の間を置いて、私から目を逸らした鬼塚は、近くにいた兵士に何かの指示を出す。
私も辺りを見渡す。この群衆から出なければならない。

10ヶ月前 No.8

MK マッチー @11777 ★i04XIsqV4q_iBP


どうにか出られないかと、四苦八苦していると、近くの男性が苦しみ出した。

青年:「た、助けてください! 父には心臓の持病が!!」

心臓の持病? 息子らしき青年が助けを求めているが、うめきを発する男性が抑えているのは、胸ではなく首よね。
心臓の発作なら押さえるのは胸であるはず。青年と父親との言動が一致しないことに、私は違和感を覚える。
そうこうしているうちにうずくまって苦しむ男性に、警官が駆け寄ってきた。

警官3:「大丈夫ですか? ゆっくりと息を・・・え?」

男性の肩に手を触れた警官が青ざめる。
顔を上げた男性は異形の化け物と化していた。

ヒューミン2:「ぉぉ、あああ〜」
警官3:「うわぁあああーー!!」

成す術もなく、警官はそのまま化け物に襲われる。

青年:「何をしているんだ! 父さん、やめてく・・・うぎゃぁああーー!!」

警官から引き離そうと男性を羽交い締めにした青年は、振り返り様に化け物の餌食になった。

一般女性7:「いや、いやよ! やめてぇー!」

襲われた警官は起き上がり、傍にいた女性を襲い始める。
警官は錯乱しているの? 目が血走っている。
いや、違う。赤色(せきしょく)に光っている。つまり警官も化け物になったのよ!

戦慄していると、襲われた青年は父親と同じ化け物になり、近くの人を襲い始めた。
青年の父親だった化け物も傍にいた人達を次々と襲っていく。

呆然としていると、突如近くから悲鳴が上がる。

一般女性8:「な、何よコレッ! いやぁああーー!!」

化け物に襲われたわけでもないのに、悲鳴を上げながらのたうちまわる。
何事かと女性の安否を気にした周りの人が、助けようと近づいた。
刹那、女性も化け物に変わり、人々を襲う。

私は見た。
化け物になった女性は、排水溝から出てきた手の平サイズの、ノミみたいな生物にくっ付かれた場面を。
その生物にくっ付かれた途端、女性は悲鳴を上げ変異した。つまりあのノミみたいなのが元凶?

ノーミン:「ギキー!」

考えていると、排水溝から次々と灰色模様の、ノミみたいな生物が這い出てきて近くにいた人々にくっ付つ。
案の定くっ付かれた人達は、悲鳴を上げた後化け物に変異。周囲の人々を襲う。
確定! あのちっこい生物がこの騒動の発端。そうとわかれば退治すれば何とかなる。

と思ったけど、衝撃的な跳躍力をみて断念。
悲鳴を上げ、逃げ惑う人々の群れからの脱出に、行動をシフトする。
しようとした直後、目の前の化け物と目が合う。

「ぇ・・・ぁ、ああ・・・」

あまりの恐怖に体が震え、足がすくむ。金縛りにあったかのように、一歩も動けない。
化け物が近づいて来る。恐怖におののく私は、成す術もなく殺されるのかな。
悲鳴を上げようと口を開きかけたその時、頭部を中心に化け物が蜂の巣にされた。

化け物は小さな悲鳴を上げた後、なさけない格好で倒れる。

何が起こったのか理解するのに数秒要したけど、銃撃されたのね。
金網の足場にいる兵士の方を向く。何人かの兵士が市民を守るべく、化け物達に銃弾を浴びせている。
助かったのね。安堵してホッと胸を撫で下ろす。

直後、足下の地面に銃弾がめり込んだ。

え? 何で? 化け物じゃないのに私が撃たれた?
銃が暴発したのだと考え、私を撃った兵士に顔を向ける。兵士は真っすぐ銃口を私に向け、引き金を指にかけている。
銃の動作は正常、ただ私を見る目だけが異常だった。となりにいた兵士が制止する。

兵士:「おい、何をしている! 一般人に当たるだろ!」
兵士2:「ううるさい、撃たないと撃たないと。怪物を殺さないと・・・・・・」

勘弁してよ! こんな時に錯乱なんて冗談じゃないわ。20歳にもならずに死ぬのは、さすがにごめんよ。
どうにかこの場から立ち去ろうと、言い争う兵士達とは反対側へ、体を傾けた。
そのとき、銃弾が頭をかすめ近くの壁に被弾する。銃弾が飛び込んだコンクリの穴はめくれ返っていた。

兵士:「いい加減にしろ、正気に戻れ! 一般人は怪物じゃない!」
兵士2:「放せ、放せぇええーー!! おま、お前も怪物の仲間か、敵かぁぁああ!!」

激しく掴み合いの取っ組み合いをする兵士達。
そのせいで兵士達は足場から足を滑らせ落下。錯乱した兵士はパトカーの、パトライトを壊す。
もう一人の兵士はボンネットにバウンドして、地面に叩き付けられる。その際拳銃が私の足下に滑って来た。

兵士:「ぅ、うう・・・」

安否確認をするまでもなく、幸いなことに兵士は生きている。私を助けようとした手前、見捨てるわけにはいかない。
倒れている彼のところまで駆け寄り、体を揺さぶる。そして私はすこし驚く。
切れ長な目、透き通った肌、立派な鼻筋、整った銀髪。俳優かモデルかと見紛うような、端正な美貌をもった男が目の前にいる。

えらいイケメンが空から降ってきた。

10ヶ月前 No.9

MK マッチー @11777 ★i04XIsqV4q_iBP

親方! 空からイケメンが!

なんて馬鹿なボケを、脳内に留めて、倒れた兵士に向き直る。
見たところ目立った外傷はない。ホッとして胸をなで下ろす。

いや、安心している場合じゃない。
三体の化け物が私達に気付き、近づいて来る。彼はまだ目覚めそうにない。
足下に落ちていた拳銃を握り、化け物に銃口を向ける。

彼は私を助けようとしてくれた。一応恩人ってことになるのなら、死なせるわけにはいかないわ。
目覚めるまで守らなくちゃ。
でも銃なんて、ゲーセンのシューティングゲームでしか触ったことがない。撃ち方なんて分からないわ。

映画やドラマとかで、狙って撃つだけだって言われてるけど、そういう事なのかしら?
でもどこを狙って撃てばいいの?
化け物はどんどん、私との距離を詰めて来る。

ふと、倒れたまま動かなくなった化け物に視線を移す。
さっき兵士が頭を撃ち、そのまま動かなくなった化け物だ。
つまり、そういうことなのね。もう考えている余裕はない。撃つしかない!

両手で拳銃を支え、引き金を絞る。
撃った反動で肩に衝撃が走り、体が一瞬仰け反る。倒れそうになりながら、体を立て直す。
そのわりにはあっけないような、乾いた音が鼓膜を揺らした。

銃を撃つって行為は、こんなに簡単なものなの? こんな安易でいいものなの? もっと衝撃がくるものじゃないの?
引き金を引くことで誰かの人生を、決定的に変えるかもしれないのに。花火が軽く弾けたような、こんな軽い音が銃声だなんて。
もし相手が生身の人間だったなら、私は罪悪感に苛まれていただろう。だが相手は化け物、悠長なことはしてられない。

撃った化け物に視線を戻す。

胸に穴が空いた化け物は、一瞬たじろいだ。
しかしもう一度化け物は、私に向かって来る。
しっかりと銃を握り、頭を狙いを定め、もう一度引き金を引く。

ヒューミン:「ぉ、ぁぁ・・・・・・」

思いっきり頭を仰け反らした化け物は、地面に倒れ、そのまま動かなくなった。
やった、倒した! これでいいのね。この方法で残り二匹を倒していけばいいんだわ。
体の向きを変え、向かって来る化け物達の頭を狙い、どんどん撃っていく。

数発当たってやっと倒せてる実力しかないけど、これは順調と言えるだろう。
そう思っていると、隣りで倒れていた兵士がうめき声を上げ、片手で頭を抑えながら上体を起こす。

「あ、大丈夫ですか? 起き上がれます? どこか痛いところはないですか?」

兵士:「う〜ん・・・俺は、生きてんのか? いや、可愛い子がいるから、天国か?」

何コイツ、チャラい。
兵士の割には軽薄そうで、浅はかな印象を受けた。
こういう軽佻浮薄(けいちょうふはく)な輩には、それ相応の言動で対応していいだろう。

「馬鹿言ってないでさっさと起きなさいよ、可愛い子どころかブス以下の化け物に囲まれてんのよ。ホントのあの世へいくつもり?」

兵士:「強烈なモーニングコールだな・・・あんた、どっかで会ったか?」

「生憎ね、その手のナンパには慣れてるの。答えを言うなら、はじめましてよ」

兵士:「だよな? いや、結構。初対面でこの返しなら、よっぽど肝が座ってる女のようだ。助けたかいがあるってもんだぜ」

「それに関しては感謝するわ、ありがとう。え〜と・・・・・・」

兵士:「ディーン・及川(おいかわ)だ。よろしく」

ハーフなのかしら。そういう独特な色気を醸し出しているわね。
彼は立ち上がり際に、私に手を差し出す。
私も立ち上がるが、手は握らない。まっすぐ彼を見上げる。

「ごめんなさい。私ちょっと潔癖なの、悪く思わないでね」

及川:
「そうか、なら仕方ない。だがずっとお嬢さんって呼び続けるのも、どうかとも思うけどな」

私の自己紹介を待っているんだと、察した。
右手で胸を押さえ、すこし首を傾げる。コレが私なりの自己紹介の仕方よ。

「私? 私は桃花(ももか)、山田 桃花よ。よろしく」

一応愛嬌を振りまいてやろう。
口角の端を上げ、私は微笑んだ。                     ___1終___

9ヶ月前 No.10

MK マッチー @11777 ★i04XIsqV4q_iBP

第2話

鬼塚:
「・・・封鎖しろ」

兵士3:「え? しかし、救助がまだ・・・」

鬼塚:
「いいから封鎖だ! これ以上の汚染拡大は防げねばならん!」

物音がして後ろを振り返る。
鉄製のシャッターが閉まり、狩矢崎市から出られる唯一の道が塞がれる。
まだ生きていた人達は、閉まったシャッターに群がった。

一般男性9:「開けろ! 開けてくれーー!」
一般女性9:「まだ私達が中にいるのよ! 助けてーー!」
一般男性10:「嫌だぁああーー! まだ死にたくない、ここから出してくれぇええーーー!!」
一般女性10:「お願いよ、見殺しにしないで。実家の家族に会いたいの!」

どれだけ懇願し、慈悲を乞うてもシャッターが開く様子はない。
救助は阻まれた。私達は見捨てられたとみていいだろう。

及川:
「っと、悠長に自己紹介している場合じゃないな・・・・・・どこか安全な場所へ避難だ」

桃花:
「ええ、賛成よ」

兵士2:「待て・・・・・・」

走ろうとして呼び止められ振り返る。
パトカーの天井にいた兵士が、目覚めたのか、銃口を私達に向けている。
一体なんなのよ、まだ錯乱しているの? それとも頭を打ってさらに悪化した?

及川:
「よせッ!!」

私と兵士との間に割って入る。
楯のようにして、まるで私を守るかのように。

兵士2:「にが、逃がさない。か、かかか怪物は殺すッ!」

及川:
「駄目だな、完全にイッちまってる。・・・あんただけでも逃げろ」

桃花:
「そういうわけにもいかないのよ」

最低な大人達のように、見捨てる事はしない。そんな人達に、私はなりたくない。
その場から立ち去ろうとせず、頑として動こうとしない私に、及川から小さな舌打ちが聞こえた。
それでも構わない。恩を仇で返すのは、私の信念に反する。

兵士2:「死ね。ここで死ね、・・・・・・うわぁあああーーー!!」

マジで銃殺される五秒前。
パトカーの影から二体の化け物が現れ、兵士を引きづり下ろし、襲った。
「やめろーー!! 放せーーー!!」と泣き叫んだが、化け物達が従うはずもなく。そのまま兵士はミンチになった。

及川:
「今のうちに逃げるぞ」

桃花:
「でも、囲まれたわ・・・・・・!」

私達を取り囲むようにして、気付けば化け物達が迫って来る。
こうなったら逃げ場所なんて、どこにもない。私は、ここで死ぬの? 兄にも会えずに? そんなの、嫌よ。
気付けば私は、及川の服の裾を掴んでいた。恐怖と悔しさで無意識にやったのかしら。

この情けない行為とは裏腹に、私の気持ちを知ってか知らずか及川は、大げさな銃を取り出す。
コレは・・・何ていうだったっけ。こういう種類の銃は、機関銃って言うんだったかしら。
そう思っていると、空間を引き裂く様なすさまじい機関銃声が鳴った。豪雨と錯覚する程の音を余所に、前方にいた化け物達が次々とドミノ倒しに倒れた。

及川:
「前を開ける、そのまま走れッ!!」

何かを考えるまでもなく、私はダッと駆け出していた。
隣りに及川も、走りながら銃を放つ。おかげで道が出来た。歩みを止めれば即、死に繋がる。安全なところまで走り続けなくちゃ。
・・・今日、私は走ってばかりだわ。

9ヶ月前 No.11

MK マッチー @11777 ★i04XIsqV4q_iBP

・大通り

大通りへと戻った私は、走り疲れて立ち止まって膝を曲げ、両手をついて肩で息をする。
私の前を走っていた及川が、振り返って怒鳴った。

及川:
「何してる、奴らに追い付かれるぞ!」

桃花:
「はぁはぁ、ぜぇぜぇ・・・・・・待ってよ。す、少し休ませてよ・・・」

及川:
「体力がないのか?」

呆れる様な目で私を見てくる。
上目遣いで言い返す。

桃花:
「朝から、走りっぱなしなのよ・・・陸上選手になって、オリンピック目指すつもりなかったし」

及川:
「それにしたって体力無さ過ぎだろ。若いように見えるが、もしかして見た目以上の年齢なのか?」

女に年の話を持ち出すなんて、いい度胸だわ。
疲れていてなおかつ、助けてくれた恩がなければ殴ってるところよ。
失礼な男を殴るのはずいぶん久々だけど、殴りたい気持ちをぐっと堪える。

桃花:
「ギリギリJKよ。」

及川:
「ギリギリ? どういうこった」

訝しげな顔で眉根をひそめる。

桃花:
「あと数日で大学生になるのよ」

及川:
「そう言う事か」

深々とため息を吐き出す。
そのため息はどういう意味よ。

桃花:
「・・・三分だけ待って、そしたら走れるようになるから。それぐらいの慈悲はくれてもいいでしょ・・・・・・?」

及川:
「あの大佐以上の非情にはなりたくはねぇが、あんたにその猶予を与えたら確実に死ぬな」

どういう意味かと思い、顔を上げて気付いた。
及川が見つめる遥か前方、大群の化け物がこっちに向かって来ている。
このままでは三分後には挟み撃ちにされ、即刻お陀仏。この状況では確かに休んではいられない。

桃花:
「に、逃げ場が無くなる前にどこかに隠れられない? あのマンホールなんかどう?」

近くのマンホールを指差す。
蓋を外して下へ下りれば、化け物の大群をやり過ごせるかもしれない。
ネックになるのは下水道である事。臭いは女の敵だが、背に腹はかえられない。

及川:
「男一人でマンホールの蓋は開けられねぇな。あんたが怪力なら話は別だが」

どこまでも失礼な男ね。
引きつった笑顔で答える。

桃花:
「・・・男を殴って気絶させられる程度よ」

及川:
「上等な腕力だがまだ足りねぇ、一発殴って複雑骨折させられるレベルじゃなきゃ駄目だな」

それは、女と言えるのかしら。

桃花:
「ごめんなさいね、非力で」

及川:
「そんなに自分を卑下するな。あんたの腕力は、ゴリラレベルだから安心しろ」

その突き立てた親指へし折ってやろうか。
それともマジで殴ってやろうか。
どうしようかと頭を悩ませていると、どこからか声が聞こえた。私達を呼び止める声が。

男性:
「お〜い君達、こっちだこっち。避難するならここだ」

見覚えがあるような顔の男性が、扉を開け屈み込みながら私達を手招きする。
私と及川はお互いを見合う。
怪物達をやり過ごす為の避難場所が決まった。

私達は辺りを気にしながら、手招きをする男性の元へ駆け寄った。

8ヶ月前 No.12

MK マッチー @11777 ★i04XIsqV4q_iBP

・バー(エデン)

駆け込んだ先は、見覚えのある佇まいの酒場。
私がときどき飲みに来ていたバーだ。
バーカウンターに手をつき、屈み込む形で荒い息を整えながら、避難場所を提供してくれた事に感謝する。

桃花:
「あ、ありがとうマスター。助かりました」

やっとの思いで顔を上げると、バーのマスターはきょとんとした表情で私をみる。

マスター:
「よく、私がここの支配人だと分かりましたね? 常連さんでしたか」

常連と言えば常連。そうでないにしても服装で分かる。
高級店でしか扱わなそうなグレーのチョッキ、整えられたオールバックの頭髪、渋いちょびヒゲ。いかにもな風貌をした酒場のマスター。

バーへ来てこの格好をみて、誰がマスターなのか分からない人間は、文字通り目が節穴だろう。

私は年上の男性が好きだ。ダンディーなおじさんが。
どんな大きなトラブルでも動揺しない落ち着きのある態度に、余裕で全てを包み込む様な包容力。独特な哀愁を漂わせる背中。
流行などに流されない、ちゃんとした自分を持ち合わせるダンディズム。私はいわゆる枯れ専というやつね。

だから顔を覚えられていない事に、ほんの僅かばかりだがショックだった。結構頻繁に飲みに来ていたはずなんだけどな・・・。
まぁ仕方ないと言えば仕方ない、酒場には色々な人がやって来る。様々な人生を背負いながら。

酔った勢いで愚痴を言う人もいるだろう。客相手の商売なのだからその愚痴に付き合う事もあるかもしれない。
それが毎日の出来事なら私なら身が持たない。だがこのマスターである酒井さんは何年も適応出来ている。
なら彼なりの処世術を持ち合わせていると、考えるしかない。それが話を聞くだけで顔を見ない事なのなら、納得がいく。

未成年であるにもかかわらず、私を追い出さなかったのはそういうことなのかもしれない。

桃花:
「ええ、そのようなものです」

体勢を整えマスターに向き直る。

及川:
「い〜けないんだ、いけないんだ、せ〜んせいに言っちゃおう」

ニヤけたツラで私にしか聞こえないひそひそ声で耳打ちしてくる。横目で彼を睨む。
まるで子供のよう。男が見せる幼稚な態度に私は飽き飽きしていたのよ。
コミュニケーションを見誤った今時の若者には、心底うんざりさせられる。

まぁ、私も今時の若者の部類に入るけど。

客の顔を忘れた事に対してなのか、すまなそうな顔をしたマスターが口を開きかけたその直後。
店の奥から野暮ったい口調で、男性の声が聞こえてきた。

男性客:
「ほっとけばいいものを、助ける為にわざわざ扉を開けるなんて・・・化け物共が入って来てたら一巻の終わりだったんだぞ。」

ヨレヨレのYシャツ、乱れた髪、朝剃るはずだったであろう無精髭、すこし脂気味な顔。
くたびれたスーツを着た小太りのサラリーマンが、訝しげな表情で私達を睨んでいた。

7ヶ月前 No.13

MK マッチー @11777 ★i04XIsqV4q_iBP

このサラリーマンには見覚えがある。
白須(しらす)と言って私の学校の教師で生活指導部の先生だった男だ。
専門科目が違ったため直接授業は受けなかったが、生活指導の注意は何度も受けていた。

スカートが短いだの髪留めに色がついてるだとか、とにかく口やかましい先生だった為、私を含め生徒からは嫌われていた。
それだけじゃなく生徒の間では、彼はある噂で有名だった。

白須の息子はニートであると。

偉そうに生徒を指導しておいて、自分の息子は指導出来ていない、失敗している。と陰で噂になり嘲笑われていた。
噂が真実かは分からなかったけど、学校内での指導活動は事実なので、私は外見を含め白須を嫌っていた。
脂ぎった顔で小太りの年上は、流石に私の趣味の範囲外だわ。

そんな白須は私をみても、とくに反応を示さない。
それもそのはずで、中学卒業からすでに三年も経っているのだから私の外見も変わる。髪型も違えば着てる服も違う。
女の成長は目を見張る物があるから、気付かなくても無理はない。逆に白須の変わらなさに私がびっくりしている。

とくに反応を示さない白須だが、私をずっと凝視している。うっすらとだが、私を思い出しているのかもしれない。
そう思ったとき白須の肩に手が置かれた。

男性客2:
「まぁまぁ、そういいなさんな。同じ生存者同士仲良く助け合おうや」

薄汚れた工事の作業着を着て、熊の様な恰幅のいい体型をした男が白須を戒める。
その熊の様な男性にも見覚えがあった。
外見の通り工事現場を指揮する監督で、確か名前は秀善(しゅうぜん)と言ったはずだ。

私が使っていた通学路のそばの工事現場で、いつも顔を合わせ挨拶を交わしていた。
安全確認の為だったのか、昼頃は分からないけど朝と夕方はいつも同じ場所に立ち、通り過ぎる人に声をかける。
外見は薄汚くぶっきらぼうな職人気質のように見えるけど、好感が持てる人だ。

7ヶ月前 No.14

MK マッチー @11777 ★i04XIsqV4q_iBP

白須:
「ふん、善人ぶりやがって・・・お前みたいな人種が一番吐き気を覚えるわ」

そう吐き捨てて白須は、肩越しに秀善さんを睨みながら、奥の方に引っ込んでいく。

秀善:
「申し訳ないねお嬢ちゃん、彼は悪い人じゃないんだ。ただ、彼の息子さんと連絡とれなくて・・・」

なるほど。と、大体の事を理解出来た。
自分の息子の安否確認がとれず、焦りを覚え、イライラしているという訳ね。
大切な人への不安からくる言動はトゲを増す。大切であればある程、他への気遣いは余裕をなくしていき、鞭として周りに振るわれる。

私もその経験があるから、白須の言動とその対応には多少なりとも、理解出来る。
それどころか共感すらしそうになる。けど白須への嫌悪感が増しただけで、理解した事すら否定したくなる心情に駆られている。
これが同族嫌悪ってやつなのかしらね。白須の人となりを理解しつつも、関わらない方向で行動をすることに私の中で決定した。

男性客3:
「それよりも、ここからどうやって抜け出すんですか? 救助する為に来たんですよね? そうなんでしょ兵士さん!」

秀善さんの背後からひょっこりと、細身の男が顔を出す。この男にもほんの少しだけど見覚えがあった。
よくマスターに愚痴やらをこぼしていて、何でも、何度も大学を留年していて今年卒業できなければ、色々とヤバいらしい。
頬は痩せこけていて肌色も悪く、無精髭が目立ち、七三に分けた髪はすこし乱れている。

ヨレヨレのワイシャツを着た、いかにも受験に失敗していますとアピールするような風貌ね。
確か、名前は祭木(さいこ)と言ったかしら。
祭木は何かに怯えるように体を震わせ、声をうわずらせながら、おっかなびっくりにそして何かにすがるように私の隣りを見つめる。

及川:
「申し訳ねぇがか弱い市民を助ける為に、来た訳じゃねぇんだ。上司に見捨てられてな、俺も避難しに来ただけだ。」

秀善:
「だが、その銃でなんとかモンスターを倒せないのかい?」

及川:
「銃弾が無限に湧いて出るなら喜んで救出するけどな、生憎マシンガンの残弾が残り少なくて・・・・・・」

「逆に、怪物共の方が無限に湧いて出て来るから困ってんのさ」と飽きれた顔をして、及川は両肩をすくめる。

祭木:
「なんだよ・・・役立たずな兵士かよ。あぁ〜、今日僕は死ぬんだ、短い人生だったなぁ。」

フラフラとした足取りで祭木は店の奥に引っ込んでいく。

及川:
「この街の奴らは人に悪態をつかなきゃ気が済まねぇのか? それともそういう風習でもあんのか?」

苦虫を噛んだ様な表情で祭木を睨みながら、私に聞いてくる。
ジト目になり、ため息をつきながら応えてやる。

桃花:
「この街の伝統よ・・・」

及川:
「そうか、雅なこって。」

5ヶ月前 No.15

MK マッチー @11777 ★i04XIsqV4q_iBP

男性客4:
「お〜い兄ちゃん、あんたもこっち来て飲もうぜ〜。どうせ死ぬんだ、飲んでぱ〜っと楽しもうや」

バーの中央にある円状のカフェテーブルに寄りかかって、薄汚れたグレーのタンクトップを着た男が話しかけてきた。
小麦色の肌をしたその男は、酒瓶をかかげながら上機嫌に鼻歌を歌っている。

秀善:
「おい虎(とら)ちゃん、飲み過ぎだって・・・・・・」

虎:
「いいんだよ飲ませろよ〜、世界の終わりなんだから好きにやろうぜ。なぁ兄ちゃん、どうだい?」

及川:
「いや遠慮しとくよ、一応仕事中だしな。飲んだら職務怠慢だ」

「真面目だね〜」と茶化す虎と呼ばれた男を尻目に、祭木は尚も「今日が命日なんだ・・・」と血色の悪い唇を動かし、ネガ発言を連発する。
虎と祭木が隣同士なのに、言動が真逆な事に私は一瞬吹き出しそうになった。
及川は店の中央にやってきてそばの壁に寄りかかる。その彼の隣りに私も場所を確保する。

割と大きなカフェテーブルを男性達が取り囲み、飲んだり何かのつまみを食べていて、それぞれ思い思いに過ごしていた。
バーのマスターはというと、バーカウンターに戻りコップを拭いたり、食器を片付けている。仕事に忠実な男性は素敵だ。
マスターに見とれ、ポッケに手を入れた瞬間。何か固いモノがあたった。

確認すると銃だ。
及川が落ちてきた時に、私の方へ滑ってきた時ので間違いない。
この銃が手になかったら確実に死んでいただろう。

桃花:
「そうだ、これ返しておくわ。とても助かったわありがと」

ポッケから取り出した銃を、及川に返す。持ち物は持ち主に返すのが道理というものよ。

及川:
「・・・それか、やるよ。その銃は【SIG P224 SAS】、女でも扱える代物だ」

「そう」と返事して再びポッケに仕舞う。
銃なんてものは私には必要ない。そう思ったけど、今の状況ではそうは言ってられないのは確かね。
銃を使うなんていうのは私の人生において、無縁だったのにこんなことになるなんて・・・。

人生何が起こるかは分からないとはまさにこのことだわ。
私の吐いたため息が、空中の酸素と混ざりあった気がした。

5ヶ月前 No.16

MK マッチー @11777 ★i04XIsqV4q_iBP

及川:
「俺のダチから貰った物だったんだけどな、そのダチも死んじまったし持ってても仕方ねぇのさ。」

この銃のためのものであろう銃弾を手渡され、ポケットに仕舞い込みながら話を聞き続ける。
彼と一緒に落ちてきた兵士のことを思い出す。銃を向けられ、現に撃たれその果てに狂い、化け物の餌食になったあの兵士。
たった数秒の邂逅(かいこう)だが、いい思い出がない。ヒステリックな男というマイナスなイメージしか頭に残っていない。

しかしあの兵士にも人生があったんだと、彼の言葉で思い改めた。
普通に人生を歩んでいた。両親に愛され幸せな子供時代だったかもしれない。
彼女がいたのかもしれないし、結婚をして家庭を築いていたのかも。気の置けない友人に恵まれた仕事に忠実な男性だったのだろう。

まぁ仕事の内容が普通ではない可能性の方が大きいけれど・・・

桃花:
「・・・さっきの兵士さん、残念ね。あなたの友人だったんでしょ?」

一応お悔やみを申し上げる。

及川:
「別に、慣れてるよ。こういう仕事をしてりゃ隣りにいた奴が、次の瞬間には屍(しかばね)になってるのはザラだ。」

「今更驚かねぇぜ」と遠くの方を見つめる及川。

桃花:
「そう・・・」

としか言葉が続かず、私は閉口してしまう。
冷たい人間だと思ったけれど、彼を批難する資格は私にはなかったわ。
私も自分のことを棚に上げて人のことを言えるような身の上ではないのだから。

4ヶ月前 No.17

MK マッチー @11777 ★i04XIsqV4q_iBP

及川:
「そういえば、あんたの名前はももかって言ったよな? どういう漢字なんだ」

気まずい沈黙に耐えきれなかったのか、及川はさらりと話題を変える。
私はべつに気まずいのは嫌いじゃない。
しかし、話題をもどす理由もないのも確かだわ。

桃花:
「文字通り桃の花よ」

及川:
「誕生日は4月12日?」

兵士だから体ばかり使っているのかと思ったけど、頭も使うようね。それなりの知識はあるみたい。
誕生花からきているということは、及川の推測通りだ。「ええ」と答える。

桃花:
「昔、桃が女への敬いの象徴だったことから縁起のいい花として、女を象徴する花言葉がたくさんつけられたの。
 チャーミングな女の子に育つようにって、そう聞かされたわ。」

女性らしくおしとやかに、という両親の想いとは裏腹に、今の私はそれとは程遠い性格になってしまった。
小さい頃からおてんばで、アザや生傷が絶えなかったけど、変わらずに愛情深く育ててくれた両親。
二人の愛には感謝はするけど、その想いには添い遂げられそうにない。こういう性格でこれが私。これが私の人生だから。

多少の罪悪感とともに、脳裏に母が浮かび自虐的に口角が上がる。
その直後、及川が言葉を続けた。

及川:
「なるほど、だから桃花か。うん、いい名前だ」

私の方を向き微笑む。彼から即座に顔をそらす。

この感覚はなんだろう? 胸をしめつける様な、むずがゆいようなこそばゆい感覚は。
確かに私は家族以外に名前を褒められたことはない。友人を含め私に関わった人達は、私の名前の由来には気にもとめなかった。
だから私も気にしたことがなければ、意識したこともなかった。けど、初めて由来を知ったうえで、いい名前だと・・・

褒められた。

4ヶ月前 No.18

MK マッチー @11777 ★i04XIsqV4q_iBP

別に嬉しいって訳じゃない。
そのはずなのに、すこし体温が高いと感じるのはなぜだろう。まともに彼の顔を見れないのは、なぜだろう。
何か喋らなければ、無言でスルーするような話題でもない。ただ黙っているのも居心地が悪いし、礼儀を知らない女だと思われるのも心外だ。

桃花:
「あ、あなたはどうして軍人になったの? 国を、守ろうと?」

ちがう、聞きたかったのはこれじゃない。
頭で考えている想いとは裏腹に、口からは誤魔化すような言葉を口走ってしまう。
私は何を焦っているの。気がせいているのを悟られないように、そう振る舞うのがやっと。

及川:
「・・・最初はそうだった、眩しい程の正義で国を守れば、ちったぁマシな人間になれるんじゃねぇかと思ったんだ。
 だが現実はそう甘くなかった。」

微笑んでいた及川は私から顔を逸らし、笑顔が消え目が据わる。

「この世の中には自分じゃどうする事も出来ねぇ闇があって、仲間の死臭と国の腐敗臭を嗅ぎすぎて、もうどうでもよくなった。
 この国に守る価値などないと分かったから。・・・なのにまだ軍に属しているのは、今更出ても仕方ないから。つまり、惰性だな」

私はニヤけていた。
白須とは違ったベクトルの同族的シンパシーを感じたから。頭痛を覚える程の私によく似た自分自身ではない他人。
同族嫌悪どころか嫌悪感すらおぼえない、清々しい程の存在のある人物に会えた事に対する喜び。

そう、むしろ私は興奮すらしている。
心理学でいうところのミラー現象、心理の同調でここまで似ている人間に会った事はない。
世の中には自分じゃどうにもできない事があって、人に失望しすぎて、もうどうでもよくなった。この街に居る価値などないと分かったあの日から。
私は私を探していたのかもしれない。

自然と彼に対する呼び方が変わる。

桃花:
「あんたも病んでるのね」

チラッと私を見る。
一瞬だけ見えたその瞳の奥に宿っていたのは、同族をやっと見つけたといわんばかりの、昏い輝きだった。

及川:
「『あんたも』と言う事は、お前もそうか」

男から『お前』と呼ばれたら、拳で応える。
いつもならそうしたわね。でも今日の私は同類を見つけ上機嫌。それくらいの無礼は許してあげる。

桃花:
「ええ、お互い大変ね」

及川はそんな事はないというように、目を瞑り頭を振った後、ニヤけた。

及川:
「『重要なのは病から癒える事ではなく、病みつつどう生きるか』だ」

桃花:
「小説家、カミュの言葉ね」

及川:
「俺達はさながら、小説の『ペスト』に出て来る登場人物達だな」

桃花:
「そうね。でもこの状況はどちらかと言えば、ゾンビ映画のまっただ中って感じだけど」

気怠そうに肩を落として、白々しく私は両肩をすくめる。

4ヶ月前 No.19

MK マッチー @11777 ★i04XIsqV4q_iBP

白須:
「ゾンビだ、ゾンビ! ゾンビに決まってるだろ!!」

白須の叫び声で二人だけの世界から引き戻される。
何事かと思い、カフェテーブルを囲む男性達に意識を戻した。
何やら揉めているようね。

秀善:
「う〜ん・・・しかしね、ゾンビとは程遠いフォルムの化け物だったぞ? ゾンビじゃないんじゃないかな・・・」

白須:
「じゃあアレは一体なんなんだ?!」

例の怪物達について議論をしているようだわ。

虎:
「ピョンピョン飛び跳ねてたから、キョンシーじゃね? ヒック・・・」

白須:
「それこそおかしいだろ! 札が貼られてないだろ。そして中国の怪物がなんで日本にいるんだ!」

祭木:
「怪物じゃなくて妖怪だし、外のだってゾンビじゃない別の化け物だし。ゾンビとの見分けもつけられないのかよおっさん・・・ボケでも始まったか?」

白須:
「何だと、この生意気なクソガキめ!」

白須はカフェテーブルを力強く叩き付ける。祭木は自暴自棄なのか、白須に対しての毒舌が止まらない。

秀善:
「まぁまぁ落ち着いて、仲間同士争ってもいい事ないよ・・・」

秀善さんが間に入り二人をなだめようと躍起になる。
でもこうなったら秀善さんには悪いけど、手遅れだと思う。

白須:
「目上の人間に対する礼儀を知らないようだな! そこに居直れクソガキめ、俺が躾(しつ)けてやる!!」

祭木:
「『居直れ』とか言葉古すぎ・・・時代遅れにも程があるよ。あ〜あ息子さんの気持ち、ちょ〜分かるわ〜。そりゃ逃げ出したくもなるわ〜。連絡手段とか全部捨ててこの親父から解放されたいわ〜。」

白須:
「こ、この・・・きさ、貴様ぁああーーー!!」

秀善:
「い、いけない! 暴力だけは駄目だ!」

虎:
「お、異種格闘戦勃発か? こりゃ面白くなってきた〜。マスターおつまみおかわり」

マスター:
「はい、ただ今お持ち致します」

秀善:
「お持ちしないで! 煽らないで! 見てないで止めて!!」

ブチ切れた白須は祭木の胸ぐらを掴み、秀善さんは白須を羽交い締めにして止め、傍で見ている酔っぱらいは酒瓶をかかげながら焚き付け、マスターは注文を取り繕う。
なんたるカオス。
正直私は修羅場が大好きだ。他人の不幸が何よりも蜜の味。ケンカともなればヒートアップしていく様を見るのはとても面白い。
私自身が当事者にさえならなければ、それでいいのよ。私の正直な気持ちは、いいぞもっとやりなさい。

面白おかしく眺めていると、飽きれたようなため息が隣りから聞こえた。
次いで言葉が紡がれた。

及川:
「・・・・・・ゾンビでもキョンシーでもない。名はヒューミンだ」

4ヶ月前 No.20

MK マッチー @11777 ★i04XIsqV4q_iBP

場が一瞬にして凍った。

え? 今何て言ったの? ヒューミン? 何それ?
ネーミングセンスについてはさておいて、あの化け物の呼称を断言した事に私は、いやこの場にいる全員の誰もが驚いている。
絶句している。誰も口から言葉を発さない。

白須:
「・・・貴様、何を知っている?」

誰もが押し黙る中、先に白須が口火を切る。さすが、空気を読まない嫌われ者のだけはある。
いつもなら舌打ちする程だけど、今日は有り難い。さすがの私も不用意な事は言えず、様子見を決め込む。

及川:
「俺が所属する部署は機密事項を扱う部署でな、世間一般的に公表出来ない情報を色々知ってる」

秀善:
「じゃあ、あの化け物の正体を知っているのかい?」

知は力なりと言うように、情報は力だ。無知なままではこの世は生きてはいけない、情報を持つものこそが世の中を渡り歩ける。
秀善さんもそれを知っているからか、何か情報でも得ようとしているのかもしれない。
ほんの僅かでもいい、手がかりを私も探る為に話に集中する。

及川:
「人工的に造られた寄生生物に、寄生された人間の成れの果てだ」

『寄生生物に寄生』その言葉に私はハッとした。
この街が封鎖されたときの事を思い出す。排水溝から出てきたノミのような生物に女性が襲われた事を。

桃花:
「私、変なノミみたいなのが人にくっ付くのを見たんだけど」

及川:
「元凶はそれだな。ノーミンという寄生虫で、ダニとノミを合成した生物だ」

秀善:
「ちょっと待ってくれ、人工的に造られたと言ったね。誰が一体そんな生物を造ったんだね?」

私を含めみんな、固唾をのんだ。及川が次に発せられるであろう言葉を、緊張して待つ。

及川:
「黒田総一郎だ」

誰もが自分の耳を疑った。
何ですって? 黒田が寄生虫を造った? そしてこの事態を引き起こした張本人だというの?

虎:
「うぃ〜、傑作だ。この街の救世主様が実はペテン師様だったってよ〜、こりゃ最高の酒の肴だぜ〜」

秀善:
「し、信じられん・・・」

酒を飲んで頬を赤らめつまみを食べる酔っぱらいをよそに、秀善さんは青ざめている。

白須:
「ああそうだ! 信じられるかそんな話、よそ者の作り話だ! 彼はこの街を復興させてくれた人なんだぞ、よくそんなでまかせが言えるな?!」

飽きれてものがいえないわ。会った事もないであろう一人の人間に、よくそこまで信じられるものね。
疑う事もせず盲目的に誰かを信じることは、思考停止に他ならないという事を私は知っている。
でも哀れかな、大多数の人間は信頼などという目に見えない、不確かなものを心のよりどころとする。兄を含め。

及川:
「・・・信じる信じないはそっちの勝手だが、これが事実だ」

秀善:
「その情報が間違っているか、嘘である可能性はないのかね?」

白須:
「ああそうだ! 嘘に決まってる。妄想か妄言の類いだ、そうなんだろ? その話が本当だという証拠を示してみせろ!」

及川:
「どうしろと・・・」

及川の口調には呆れるような、それでいて諦めたかのような温度が混ざっている。

桃花:
「仕方ないのよ、この街の連中は黒田を盲信してるの。絶対神のような信仰心で崇(あが)め奉(たてまつ)っているわ」

白須:
「よそ者の小娘が分かったようなことを言うな!! この街の住人でもない貴様に彼の侮辱は許さんぞ! 無礼を詫びろ!!」

白須が何を言おうと私は無視を決め込んでシカトするつもりだった。
でも「よそ者」と「この街の住人じゃない」という言葉に、我慢ならず私も切れた。

桃花:
「よそ者だなんて言わせないわ!! 私もこの街に住んでたわよ! でも、この街に嫌気がさして出てっただけで、よそ者じゃないわ!」

白須:
「この街を見捨てた裏切り者風情がほざくな!! よくものうのうと帰って来れたな、ホームシックにでもなったか?!」

桃花:
「ホームシックになんかなるわけないでしょ! こんなクソみたいな街、出てって清々してるわよ!」

白須:
「恩人に感謝しない、年長者に対して敬意もない、口も悪い。どういう風に育てればこんな出来損ないが出来上がるのか・・・親の顔が見てみたいもんだ」

3ヶ月前 No.21

MK マッチー @11777 ★i04XIsqV4q_iBP

気がつけば、私は白須をビンタしていた。
動転しているのかしら。ビンタじゃなくてグーで殴れば良かったと、今更ながら後悔しているわ。
平手打ちというとっさに出る女としての反応が、さらに私を不機嫌にさせる。

白須:
「この・・・・・・クソガキがぁぁあああーーー!!!」

案の定の反応ね。顔を真っ赤にして激高した白須は拳を振り上げながら、私に向かってきた。
が、秀善さんに羽交い締めにされる。

秀善:
「暴力はやめよう! お互い落ち着いて!!」

白須:
「教育を放棄した馬鹿な親の代わりに、俺が躾けてやるんだよ!! 邪魔するな!」

羽交い締めにされても尚暴れ、吼える白須。
親への侮辱は絶対に許さない。感情を抑えきれなくなった私は、テーブルの上にあった酒瓶を無造作に掴む。
そのまま白須に振り下ろして、顔面でも叩き割ってやろうと酒瓶を持ち上げた。

けど、するりと酒瓶が私の手から滑り落ちた。

横を向くと「俺の酒だ!」と不機嫌そうな声で、酒瓶を抱きかかえた酔っぱらいが私を睨んでいた。私は舌打ちをした。
その直後、何を思ったのか祭木が私の目の前に立ちはだかる。

祭木:
「まぁまぁ、そんなに怒らないで。ここの人達が狂信的だなって僕も思うし、君と同意見だよ」

桃花:
「あなたの同意なんていらないわよ! 引っ込んでてッ!!」

祭木:
「あ、はい。ごめんなさい・・・」

しずしずと自分の席に戻る祭木から、視線を白須に戻し、再度睨み付ける。
負けじと白須も私を睨み付け、一触即発の緊迫したこの場。
秀善さんからの羽交い締めを振り払い、私に手を伸ばしてきた。

その直後、勢い良く後ろの扉が開け放たれた。

男性客5:
「いえ〜い、皆盛り上がってるぅ〜? 二階の倉庫からもっと酒を持ってきたから飲も〜う!」

場違いな程のテンションと話題で、皆が動くのをやめその男の方を向く。
「あれ〜? 何かギスギスしてない?」と自分がイレギュラーだと気付いたようね。
空気を読まない奴がさらに増えた事で、怒りを超えて呆れに変わったわ。

及川:
「・・・あんたは?」

呆れるような口調で聞く。

男性客5:
「池上 慎吾、フリーのジャーナリストさ☆」

そう名乗った男は私に向けてウィンクした。背筋に言い知れない不快感を感じ体がこわばる。
この手の男はやっぱり苦手だわ。

3ヶ月前 No.22

MK マッチー @11777 ★i04XIsqV4q_iBP

及川:
「・・・話を元に戻していいか?」

当てつけのように大きくため息をついて、片手で頭を抱える。いちいち大げさな男ね。

秀善:
「そうだね、生存者同士でケンカしても意味がない。信じる信じないは一旦置くとして、情報を教えてくれるのは有り難い。
聞かせてくれ、KS社もとい黒田社長はなぜ寄生虫なんかを造ったんだい?」

及川:
「さぁな、俺の任務は護衛対象を守護しながら、目的地へ送迎をする事だ。雇い主が何してようが俺には関係ない。
それに、護衛対象は黒田じゃなかったしあんまり関わりがなかったよ」

虎:
「動機が分からないって言うなら〜それじゃぁ〜、情報はこれ以上は〜持ってないって事か〜い?」

及川:
「言える事があるとすれば、化け物共の名前とその能力くらいだな。そいつらのリスト表みたいなのを横から見てたからな。」

秀善:
「リスト表・・・ってことはつまり、外にいたとは別に他にもいるというのかい?」

及川:
「様々な実験で色々な化け物が生み出されていた。まぁそいつらが解き放たれているかどうかは知ねぇな。」

他にも化け物がいる。その事実が絶望に変わってこの場に重い雰囲気を下ろす。

池上:
「あの〜、さっきから一体何の話しをしてるの? 寄生虫だとか実験とか護衛とか、色々物騒なフレーズばかりなんだけど」

空気を読まない事情を知らない部外者が、おずおずと片手を上げた。
話の腰をこれ以上折られるわけにはいかないわね。私に出来る簡単な説明をチャラ男にしてやった。

桃花:
「・・・というわけで黒田が黒幕なの、分かった?」

池上:
「なるほどね〜、分かりやすく教えてくれてありがとう。ところでお嬢さん、お名前を教えてくれますか」

なにが「ところで」だよ。それが目的でしょう。
とは思ったものの、名乗らないのも礼儀がなってない。礼儀作法は弁えているから、一応名乗っておこう。
気がとても引けるけど・・・

桃花:
「山田 桃花よ。漢字は果物の桃と普通の花よ」

右手で胸を押さえ、すこし首を傾げる。及川にしたような自己紹介の仕方をする。
するとなにを思ったのか池上が、唐突に私の手を握って片膝立ちをした。
上目遣いで私を見つめる。

池上:
「可愛くて素晴らしい名前だ。これから色々な困難が俺達に待ち受けるけど、一緒に乗り越えよう。よろしくももちゃん」

そつなくこなした言動と私に触れた手慣れた手つきで、女の扱いがとてもうまい男だと瞬時に理解した。
お姫様になったような気分で悪くない感情だわ。世間知らずで箱入りなお嬢様のような子なら、落とせるタイプね。
でも、名前を馴れ馴れしく略された事への不満が募った私は、握られた手を荒々しく振りほどいた。

桃花:
「私に気安く触れないでくれる? あなたに触れられるためにこの手はあるんじゃないの」

あっけにとられ呆けた顔をした池上をよそに、私の後ろにいる及川が盛大に吹いたのがわかる。

虎:
「うぃ〜、強烈な女がいたもんだな〜。こんな振られ方見た事ねぇ〜、池ちゃん一本取られたね」

池上:
「いや〜手厳しいねぇ、俺みたいなのはタイプじゃないみたいだ。でも俺は出会いを大事にするタイプだからね、お近づきの印にこの花を受け取って」

どこから出したのか、おもむろにカトレアの花を渡してきた。花言葉は確か「あなたは美しい」
知識のある女はもちろんのこと、花言葉を知らない女でも落とせるって寸法ね。
花をもらって喜ばない女はいない。さすが、少し脱帽する。

殺伐とした世界を生きるには、少しばかりの癒しが必要になる。

仕方がないからチャラ男からカトレアを受け取った。
鼻に近づけ香りを堪能する。血なまぐさい現実から少し解き放たれた気がして、気が緩んで口角が上がる。
私の顔を見て満足げに笑みを浮かべる池上。しゃくだけど、今この瞬間だけは褒めてあげてもいいわね。褒めないけど。

2ヶ月前 No.23

MK マッチー @11777 ★i04XIsqV4q_iBP

マスター:
「あの、横から割って入って誠に申し訳ないんですが・・・私も質問よろしいでしょうか?」

カウンターの中にいる酒井さんが、グラスを拭くのをやめて片手を上げる。
予想外な人物が話に割って入った事に、私は意外なほど驚いた。

及川:
「何だ」

気怠そうに顎をしゃくって、質問をしてもいいという合図を送る。

マスター:
「話を聞いていたのですが、あなたは兵士ですよね。情報提供は誠に有り難いのですが、守秘義務というものがおありなのでは?」

及川:
「まぁ本来ならそうだが・・・上司に見捨てられたんでな、守秘義務もクソもねぇぜ」

マスター:
「なるほど」

そう一言言ったかと思えば、酒井さんは再びグラスを拭き始めた。
え? それでもう納得しちゃうの? もう少し疑問に思う事が他にはないのかしら?
本当に何もないようで酒井さんは、顔を上げる事もなく声を発する事もなく、自分の仕事にいそしんでいる。

酒井さんが閉口したことによって、もう誰も口を開かず沈黙が続くかと思った矢先。
またしても空気を読まない嫌われ者が、口を開き及川の方に指を指した。

白須:
「ほらみろ! 忠誠心も何も無いような、そんなよそ者の言葉信用出来るか! 皆も聞いたな? この男の言葉を」

桃花:
「まだ言ってるの? この状況で嘘を言って何になるって言うのよ。混乱のまっただ中にいるんだから、状況が整理出来るのはありがたいと思わないわけ?」

祭木:
「僕は有り難いと思うよ、情報はないよりマシで多い事に越した事はないもんね。その分どうやって動けばいいのか分かるからさ」

すこしニヤけたツラで、諭させるような身振りをしながら私達の間に割って入る。

桃花:
「あなたの意見は聞いてない、口を閉じて黙ってて!」

祭木:
「ご、ごめんなさい・・・」

縮こまりながら壁の隅へと引っ込む。

桃花:
「とにかく! 私は彼が持ってる情報を見定めたいのよ」

白須:
「随分とその男の肩を持つじゃないか、惚れているのか?」

桃花:
「そういうあなたこそ黒田にご執心のようね、男色(だんしょく)のきらいがあるんじゃないの?」

おもしろいようにみるみる顔が赤くなっていく白須。プライドを傷つけられた男が、醜態を晒す様は実におもしろい。
女だから恋愛脳に陥っていると、考えたその浅はかな脳味噌を持った事を後悔するのね。

白須:
「貴様ぁ・・・大人を馬鹿にするのも、いい加減にしろーー!!」

両手を広げて獲物を見つけた熊のように、襲いかかって来る。

秀善:
「だから、暴力は駄目だって!」

再び秀善さんに羽交い締めにされる白須。

池上:
「相手は女の子っすよ? 大人げないですって、少し落ち着いて・・・」

私と白須の間に立ち、白須をなだめる女たらし。私の役に立ってくれそうな、使える盾が見つかった気がするわね。

白須:
「女だからって甘やかすんじゃない! 放せ! 女にヘコヘコする情けない奴らめ!!」

二人の制止を振り切ろうと尚も暴れる。すると店のさらに奥から女の怒鳴り声が聞こえた。

?:
「もう〜、うっさいわね〜! 折角寝てたのに、休めないじゃない!」

仕切りとして使われていたカーテンを乱暴に引き、片目をこするその女に視線がそそがれる。

池上:
「・・・あれ、君は」

先に発言したのは女好き。さすが、反応が早い。手を出そうともう考えているのかしら。

?:
「何よ、この私に名乗れって言うの? 名乗らなくても分かってると思うけど、いいわ自己紹介して上げる。沢村 エリーよ、芸能人のね」

1ヶ月前 No.24

MK マッチー @11777 ★i04XIsqV4q_iBP

芸能人だと自称したその女には見覚えがあった。

自称通り女優としてテレビに引っ張りだこで、この街出身のモデル崩れの女だ。
容姿端麗である事を鼻にかけ高圧的で高飛車、男を奴隷のように扱う我が儘な性格で有名。
「女の敵は女」を地で行くように自らを体現している。なので男女共に敵に回し人望がないようにみえる。

でもその実、一部の物好きな男共には人気が高いらしく、今まで消えずに芸能界に居座り続けていられるのが現状だ。
こんな女の何がいいのか、男共にプライドがないのか性癖の問題か、はたまたその両方か。女として理解に苦しむ。
そしてもっとも驚くべき事に、この女は兄の元カノにあたるのだ。妹として兄を理解出来ない。

何を血迷ってこんな女と付き合ったのか、ハニートラップに引っかかるにしても、ほだされるにしてももっとマシな女がいた筈だ。
兄にプライドがなかったのか、はたまた性癖か、もしくはその両方だったのかしら。
疑問を聞く事が怖かった当時の私は聞けず、未だ尚兄が分からない。

おっさんを崇拝し、女の趣味が悪い。兄との関係を改めるべきなのかしら?

池上:
「エリー様、俺は君のファンの一人なんだけど、他のとは差別化を図るためにこの花を受け取ってくれ」

瞬時に沢村に近寄った池上は、片膝立ちをし、私に渡したようにカトレアの花を手渡した。
やっぱりか。あの男、女を落とすための常套手段はアレのようね。カトレアに泣いた女達がどれほどいるのか、想像するに難くない。

沢村:
「なぁに? 花如きで特別視しろとでも? 男なら、たとえファンであったとしても例外なく、私の下僕よ!」

カトレアを床にたたき落し、足で踏みつける。
その行為で私の中の沢村に対する、最初からなかった好感度がマイナスまで下がった。花に罪はない。
言動、行動、性格、その全てに嫌悪感を覚えた私は怒りに近い感情が芽生え、あの女から目を逸らす。

怒りのあまり、嫌悪感の矛先を兄にまで向けかねない。

本当に兄との関係を改めるべき? それともあんな女と付き合った事を哀れむべき?
どちらにせよ、兄には相応しくなかった女である事は確かだ。兄にどんな女がタイプか聞いて来なかったにしても、アレはない。
それとも兄には兄なりの考えがあっての恋愛だったのかしら? 兄に会い脱出の片手間で聞く事にしよう。

池上:
「厳しぃ〜、でもそんな君がいい〜!!」

頬を朱に染め、親指を立てる。この男もそう言う手の奴だったか。

白須:
「何だその態度! 罪のない花を踏みつけて、風情を重んじる心がないのか貴様!!」

鬼のような形相で沢村に詰寄る白須を見て、私の中の白須に対する好感度が、0から1にほんのちょっとだけ上がった。
感性が似てるのはちょっとイヤだけど・・・。

祭木:
「まぁまぁそんなに怒らないでください。彼女はまだ若いんですから、間違いだって起きますよ。」

気持ち悪いキメ顔で沢村の肩を持つ祭木。
女好きじゃなさそうだけど、あっちへフラフラこっちへフラフラ、何がしたいんだこの男。
遊び慣れている印象はないが、女に話しかけ慣れているところを見ると、ナンパ師なのかもしれない。万年浪人のくせに。

秀善:
「何度も言うようだけど、穏便にいこう。暴力はやめて、大人の対応を・・・」

虎:
「うぃ〜ヒック・・・いや〜それにしてもべっぴんだねぇ〜、可愛い子ちゃんがいっぱいいた方が花があるよねぇ〜」

気がつけば沢村の周りには男共が群がっていた。
かがり火に集う蛾のように寄っていく男達をみて、なるほどこうやって引きつけ取り込んでいるのかと、社会の縮図をみた気がした。
軽いカールの掛かった茶色い髪をクルクル回す沢村は、この状況に慣れていると言わんばかりに、余裕の佇まいだ。

無性な腹立たしさを覚えたので沢村達から視線を逸らす。
後ろを振り返ると壁に寄り掛かり、退屈そうな顔をした及川が目に入った。

桃花:
「あんたは声かけないの? 男なら目移りしそうなくらいだと思うけど」

最初にあった時、ナンパまがいのことを言われた事を思い出す。

及川:
「・・・女も男も一皮むけば肉の塊みたいなもんだろ」

その一言で彼が、人をどういう風に見ているのかが分かった気がする。

桃花:
「あんたにとって他人は、歩く肉塊ってわけ?」

及川:
「事実だろ、外だけ綺麗に取り繕った歩くズタ袋。それが人さ」

どんな人生を歩んできたんだろう。
他人に興味がないにせよ、彼のような境地には私は達していない。
つまるところ彼は私に似た人であって、私ではない他人である事に変わりなかった。

他人行儀でどこかよそよそしい一言に、私もそう見られているのかと思うと、すこし寂しい。

・・・・・・いや、なぜ寂しいと感じる必要があるの?
さっきからどうも彼の言動のせいで、私のペースが乱れている気がする。一体なんだと言うのだろう。
感じる必要がない寂しいという感情、彼にそう思われていたからって何? 問題はない筈よ。なのに心がざわついている。

感じ取った感情と何か訴えかけようとする心を振り払うように、冷静になろうと頭を左右に振った。
激しく頭を振ったわけでもないのに、激しい目眩に襲われた。頭を振ったせいだろう。
一体何をしているのか、自分が自分にイヤになる感情が芽生え、感情から目を瞑ろうとしたら別の感情が発生する悪循環の袋小路に陥ったようね。

本当に、私は一体何をしているのかしら。

1ヶ月前 No.25

MK マッチー @11777 ★i04XIsqV4q_iBP

沢村:
「ねぇ、私の話が聞こえなかったの?」

どういうわけだか沢村が私達に近寄ってきた。あらためて彼女を見やる。
不機嫌そうな顔で近づいて来なければ、なるほど確かに10人中10人の男が振り返りそうなくらいの美貌ね。認めたくはないけど
でもスタイルは私の方が勝ってるわね。私のが大きいし。すこし心の余裕が出てきた気がする。

及川:
「何の話しだって?」

沢村:
「私を守る盾になりなさい」

言うに事欠いてこの女、他力本願にも程があるわね。図々しさと厚かましさの塊で出来たような、女が腐ったような奴。

及川:
「嫌だね、他をあたりなお嬢ちゃん。わがままなじゃじゃ馬を乗りこなす程、乗馬に長けてねぇんだよ」

沢村:
「・・・それとも、先約がいるのかしら?」

私の方に視線を変え、じっとりと舐め回すように下から上へと私を見る。実に不愉快。
「まぁまぁね」と小さく呟いたのを、確かにこの耳で聞いた。この女・・・ここでキャットファイトを始めてやろうか。
幸い手元には銃がある。その上品な顔を吹っ飛ばして、性格通りの下品な顔にしてやろうかしら。

及川:
「任務内容が違うんだよ、誰かを守るんじゃなくて特定場所まで連れて行くのが仕事だ」

沢村:
「じゃあ光栄に思いなさい。この私を安全な場所まで連れて行って。金ならいくらでも払うわ、それでいいわよね? お馬さん」

及川:
「金積めりゃなんでもやると思うなよメス豚」

沢村:
「何ですってぇーー!!」

及川に飛びかかろうとしたその瞬間、沢村がいた奥の部屋から猛ダッシュで誰かが走ってきて、彼女を羽交い締めにして止めた。

谷村:
「エリーさんやめてください!」

沢村:
「放しなさい谷村!! この男は私を侮辱したのよッ!」

谷村と呼ばれたサラリーマン風の男は、余程急いで来たのか肩で息をし顔に脂汗を滲みながら、沢村を押しとどめている。

谷村:
「お願いですから事を荒立てないでください! あなたは芸能人で、ただでさえ一般人に混じってアウェーなんですから!」

沢村:
「マネージャーのくせにその言い草は何なの?! 社長に報告して首にしてもらうわよッ!?」

なるほど、と私は理解した。谷村と呼ばれた男はこの女のマネージャで、力関係はよっぽど下とみえる。
奴隷のようにこき使われているのは想像に難くない。

谷村:
「芸能人である事をひけらかさないでください。有名人だと分かったら何するか分からない人達だっているんですから!」

まぁ指摘出来るところを見ると、意見が言えるだけまだマシだろう。
そしてなりよりも谷村とかいうマネージャーが、言った言葉は核心を突いている。何をするか分からない人達は、事実多い。
現に私も拳銃を抜きかけているし、後ろの方で顔を真っ赤にした白須が、鬼の形相で沢村を睨んでいる。

何を言われたのか分からないが、手に酒瓶を持っているところを見ると、相当な事を言われたのだろう。
案の定秀善さん達に羽交い締めにされ、哀れかな酒瓶をこの女の頭に叩き付けられるチャンスは、微塵も見受けられない。
まぁ、酔っぱらいのせいで酒瓶は奪われたようだけど。そのおかげでさらなる修羅場は期待出来そうにない。

16日前 No.26

MK マッチー @11777 ★i04XIsqV4q_iBP

そう思った直後、ガラスが割れる音が響き渡った。

ついに秀善さん達の制止を振り払い、白須が襲ってきたのかと思った。
けど白須達は動きを止め、素っ頓狂な顔でこっちを見ているだけ。なら、沢村が酒瓶でも割ったのかと彼女に視線を戻す。
しかし沢村の周りにはグラスの破片はない。かわりに笑いそうになる程のアホ面が目に入った。

笑いそうになるのを堪えながら思った。どうして皆私をみているのか。私の顔に何か付いてる?

だがよく見ると白須達も沢村も、私をみているのではない。私の、後ろの方?
後ろを振り返る。大方、マスターが手を滑らせて拭いていたグラスを割ったのだろう。彼も人間だ、ミスだってするだろう。完璧そうなマスターの小さな失敗。
慌てているのかな? そんな可愛いらしいマスターも見てみたい。なんて可愛いイメージを抱きながら、振り向いた私の目に飛び込んで来たのは。

絶望だった。

バーの出入り口のガラス戸を突き破り、今にも入って来ようとしているヒューミン達の姿。
狭い戸にひしめき合い我先に入らんとするその様は、実に不気味で気色悪い。
ガラス戸の前に引詰めていた、土のう代わりのイスの壁が崩れていく。

及川:
「まずいな、このままじゃ全滅だ! 全員武器を持てッ!」

白須:
「武器なんかあるわけないだろ! こちとら一般市民だぞ!!」

祭木:
「そうですよ、持ってるのせいぜいフォークくらいです!」

マスター:
「皆さん二階へ! そこから屋上へ上れます!!」

床にひっくり返っていたイスを持ち上げながら、酒井さんは的確な避難経路を示す。声色に焦りを滲ませながら。

池上:
「足下に気を付けて、掃除道具とか散らばってるから!」

叫びながら二階への扉を開けた池上を、払いのけるかのように我先にと、沢村が階段を駆け上がる。どこまでも意地汚い女。
その後にマネージャー、祭木、白須と続いた。

秀善:
「何してるんだい、早くこっちに!」

桃花:
「待って、マスターが・・・ッ!」

見ると、酒井さんは拾ったイスで入って来ようとする、ヒューミン達を押し返している。
崩れた防衛ラインをこれ以上守っても仕方ないのに!

マスター:
「この店でお客様を、死なせるわけにはいきません! わ、私に構わず・・・早く行ってくださいッ!!」

及川:
「行くぞ。店長が時間を稼いでくれてる、その時間を無駄にするな」

私の腕を掴む。

桃花:
「見殺しにしろって言うの?!」

及川:
「船長が自分の船と沈没するように、店長は自分の店で死ぬと言っているんだ。その覚悟を受け入れろ!」

桃花:
「でも・・・ッ!」

掴まれた腕を振り払おうとするも、強引に引っ張られ酒井さんとの距離が開いていく。
ついには階段を上り始めた。

マスター:
「またの、ご来店・・・お待ちしております」

桃花:
「酒井さんッ!!」

私の叫びと酒井さんの呻き声は、秀善さんがドアを閉めた事により、遮断された。

16日前 No.27

MK マッチー @11777 ★i04XIsqV4q_iBP

・バーの屋上

階段室の扉を荒々しく開けた及川は、私に続いて酔っぱらいを担いで来た秀善さんを確認すると、勢いよく扉を閉めた。
中腰のまま肩で息をしていた私は、生温い風が頬を撫でた事に気付き、顔を上げ周囲を見渡す。
見慣れた建物達から火の手が上がっている。それだけじゃなく車による事故が、そこかしこで起こっているのか黒煙が空に伸びていた。

沢村:
「屋上に行けって言われたから来たけど、どうすればいいのよ? 逃げ場なんてないじゃない!! あの店長は何考えてるのよ!?」

酒井さんが身を挺して私達の命を、繋いでくれたのに自分の事ばかり。この女に私は、堪忍袋の緒が切れた。
性懲りもなくヒステリックに叫ぶ馬鹿を殴るために、拳を握り一歩前に出た。

白須:
「次は何だ、ここで篭城でもしろって言うのか? あの化け物共が押し寄せてきたら一巻の終わりだぞ!」

池上:
「武器、武器ぃ〜・・・武器はどこだぁ〜!」

祭木:
「袋のネズミってやつだ、僕達は今度こそここで死ぬんだぁ〜〜!!」

虎:
「屋上で宴もいいやねぇ〜・・・ヒック」

沢村を殴ろうとして思いとどまった。
どいつもこいつも酒井さんの犠牲を忘れ、もう身の保身しか考えていない。全員を殴るには拳が足りない。
胸糞悪さと居心地の悪さを感じ、彼らから目を逸らそうと後ろを振り返った。

すると階段室の出入り口の扉に、及川は何か細工を施していた。

桃花:
「何をしてるの?」

及川:
「爆弾を仕掛けてんのさ、扉を開いたらポップコーンの出来上がりだ。」

桃花:
「待って、酒井さんが上がってきたらどうするつもり?! 巻き込まれるかもしれないわ!」

肩越しで飽きれたような目付きで私を睨む。

及川:
「・・・本気で生きてると思ってんのか? あいつらに囲まれて一般人が生存できるわけないだろ。死体を確認したいって言うなら話は別だがな。」

手を休める事なく作業を進める及川。徹底的なまでに冷徹で冷たい兵士である事を再確認したわ。彼に心を求めても時間の無駄だと、私の心が囁く。
爆弾を取り付ける作業を止め、下へ下りたとしても、私に出来る事はない。化け物達の餌食になるだけね。
四面楚歌の状況で、何も出来ない歯痒さを噛み締め、及川を睨み上げる。

すると秀善さんの声が、私を我に返らせる。

秀善:
「ドアの傍に緊急用の梯子があったぞ! これで降りよう」

何故かすこし嬉しそうに、声を弾ませる。

白須:
「降りるだと? 化け物がウジャウジャいる所に、わざわざ殺されに下りるって言うのか?!」

沢村:
「冗談じゃないわよ!! せっかく助かってるのに命を危険に晒すマネ、するわけないでしょ!? 馬鹿言うんじゃないわよッ・・・・・・!!」

谷村:
「エリーさん落ち着いてください、僕も降りる事に賛成です。ここままここにいても埒があきません、武器もありませんし」

池上:
「そうだよ武器! 武器が必要だ、どこかで武器を調達しよう!」

沢村:
「仕方ないわねぇ、ちゃんと私を守りなさいよ!」

そうこうしているうちに降りる事になり、梯子を立てかけ秀善さんが先に降りる。
そして沢村とマネージャーと続き、酔っぱらいに気をつけながら白須がブツブツ文句を言いながらも降りた。
私が降りる順番となる。

及川:
「さっさと降りろ、上から援護する。」

桃花:
「降りるしか、ないのよね・・・・・・?」

しぶしぶ私は下り始め、及川も下に化け物達が、いないかを目配せしながら下りて来る。
降りる最中に上の方から爆発音と、強烈な光を見たけど、降りる事に専念するために思考に蓋をした。
今の私には何も出来ない。考えても仕方のない事。後ろめたさを押し殺して気持ちを切り替える、生き残るために。
                                       ___2終___

3日前 No.28
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