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Dear . 大切な君へ 。

 ( 小説投稿城 )
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ねる . @puf ★Android=X8m5OgBZWA



1 * 僕たちは、もう



 ある夏の午後。
 静かな場所。
 遠くから車の走る音。
 近くから誰かの息を飲む音。
 綺麗に掃除されている窓。
 その窓から冷たい風が入り、僕の頬を冷やす。

 僕は紗の冷たい手をぎゅっと握った。かすかな温もりは、もうどこかへ消えてしまったんだろう。もうその温もりを感じることはない。二度と感じることはない。
 そう考えたら不意に背筋がぞわっとして、僕の顔はこわばった。考えたくなかった。
 そんな恐ろしいことと、起きるんじゃないかという馬鹿でかすかな期待を抱えている僕は、手の先にいる彼女に目をやった。
 あのまんまるの瞳を閉じた、色白で華奢な女の子。側で支えてくれていた、弱気だけど自分の意見をちゃんと持っている女の子。そのすぐ側にいる彼女はもう口を開くことはないのだ。なぜなら、もう君は僕の近くにいるようで、いないから。
 僕は彼女の手を握り直した。手汗で、ぬるぬるしているけど、そんなこと気にしてられない。
 ああ。これが白雪姫のお話だったら。どんなにいいのだろう。僕がキスしたら、目を開いたのに。
 また、口を開くのに。
 また、あの笑顔を見られたのに、なのに…
 僕は、もう取り戻すことのできない命に後悔している。今更、後悔している。
 そして、また目を開くのではないかという変な期待までして。きっと、まだこれを信じていない、いや、信じたくない僕がいるんだ。頭では、もう無理だって分かっているはずなのに。
 そんな僕は、この僕は。
 こんな馬鹿な僕は、どうしたら。
 ぼやけていく視界は、しだいに彼女の姿を消していった。肌色のなにかがあるってことしか分からなくなるくらい、ぼやけている。つうんとする目頭は、必死に耐えようとしているが、もう無理だ。
 そう、その溜まりに溜まったその涙。いつもよりも大量に生産された、その涙。透明で、美しく透き通ったその涙。
 いよいよ発射する…


 「わああああぁぁぁああああぁぁぁあああああああああぁあああぁぁぁああ!!」

 僕の溢れ出した海の内の一粒が、彼女の鼻のてっぺん_つまり鼻尖に落ちて__


 何かが、動いた気がした。




 ───



 こんにちは、ねると申します。誰かさんの裏垢です、本垢はひみつです...笑 そのうち晒すかもしれませんが。それはさておき、初めからえぐい文章量でごめんなさい。読みにくいかもしれませんが、それでも読んで頂けると嬉しいです。また、感想などあればサブ記事の方でお願い致します。えっと更新は早かったり遅かったりで不安定かと思いますが、一生懸命頑張りますので応援よろしくお願い致します。
 登場人物については記事メモに載せる予定です。出てくる人物を把握した上で読み進めるといいんじゃないかと思います。




 、

メモ2018/04/30 08:54 : ねる . @puf★Android-X8m5OgBZWA

・目次 __.

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1 * 僕たちは、もう / >>0

2 * 過去のミライ。 / >>1-3

3 * 君との出会い時計の針

【1】忘れられない記憶 / >>4-6

【2】光の余韻 / >>7-9

【3】小さな日々を / >>10-13

-

-

・登場人物__.

-

・相川紗(あいかわすず)

主人公/1-A/美術部/冷めた感情をもっている。考えることが少しまわりと違っている。

・星村優真(ほしむらゆうま)

1-D/吹奏楽部/ピアノと勉強が得意。男女共に人気だが、少しネガティブなところがある。

・雪城萌(ゆきしろもえ)

1-D/テニス部/いつも明るく元気で、友達が多い。運動神経抜群で、話し上手。

切替: メイン記事(21) サブ記事 (1) ページ: 1


 
 

ねる . @puf ★Android=X8m5OgBZWA




2 * 過去のミライ



 「きれー…」

 美しく咲き誇っていた桜の木は、もう散っていく時になった。舞い上がるたくさんの桜たち。淡いぴんく色の桜は、まるで花火のように輝いている。
 そして真っ白なキャンパスに描かれた空は、春を吸い込むんじゃないかというほど青く澄んでいて綺麗。その澄んだ水色のペイントは、明日は雫となって私達のところへ垂れてくる予報だったが、今日は美しく光っていた。塗り残した白の部分は、雲となって空を支えている。そんな最高の景色の下にいる私達は、本当に最高の気分だ__


 時は12年前。
 当時、幼稚園年少だった私は人見知りだった。
 そのため誰かに話しかける勇気がなく、ひとりぼっちだった。また、泣き虫のためよく泣いていた。
 本当によわっちい子。すぐに風邪も引いて、親にさんざん迷惑をかけた。
 たまに話しかけられるけれど、やはり「あ、うん」とかしか言えない子で、話しかけたり遊びに誘ったりなんて絶対にできなかった。
 そんなひとりぼっちの幼稚園生活の中。
 ある男の子が現れた。
 いわゆる、転校生というもの。
 目がくりっとしているさらさらな黒髪の男の子は、年中の春「空組」の一員になった。
 ちなみに空組というのは、クラスの名前である。他にも月組、太陽組などがあるのだが、私はこの空組が好きだった。明るく輝く水色の空を見るのが好きだから。
 そうしてその転校生がやってきた時、私は気付けばその子に話しかけていた。
 「__ねぇねぇ」
 その男の子は、とても優しくて話がはずんだ。
 本当にいつもの自分じゃないように思えた。
 その子の前だとまるで、ずっとしぼんでいた花の芽が、いきなり咲いたようなくらいの明るさなのだ。



 、

1ヶ月前 No.1

ねる . @puf ★Android=X8m5OgBZWA




 そこから、私はその男の子といつも遊んだ。その男の子はジャングルジムが好きで、よくジャングルジムで鬼ごっこをしていた。先生が来ると、危ないからって怒られたけれど、それでもその遊びは楽しかったというのを覚えている。幼稚園内に咲いている桜だって一緒に見た。楽しかった。
 そういう風に仲が良いのは幼稚園の中だけでない。帰る時だって、一緒に幼稚園の空組でしか聴いたことのない歌を口ずさんでいた。空組の先生が毎日ピアノで弾いていた曲。きっと先生が作った曲だ。当時の私、いや私達にしては難しい曲だったが、大好きな曲であった。

 「君とつなぐ虹のかけら
 信じて上向いて駆け出していくんだ
 大切なのは君がいてくれること
 すぐ側で笑ってくれていること」

 今だから思うけど、きっと私はあの子が好きだったんだと思う。幼稚園の時だから恋のことはよく分からなかったけれど、ずっといたいって思っていた。そして同様に、あの子も私を好きだったはず。それほど仲が良い私達だった。あの子がいたら、大丈夫だって思ってた。



 、

1ヶ月前 No.2

ねる . @puf ★Android=X8m5OgBZWA





 そんな楽しい幼稚園生活を送る中。

 私は__突然、未来へ行った。
 は?と思うかもしれない。が、本当なのだ。
 本当に不思議な体験だ。
 布団の中に入って寝ようとしたところだった。
 夢なんかじゃない。
 体がふっと軽くなって、気付けば私は小学校への通学路を歩いていた。直線のため、かなり遠くまで道が見える。
 近くには誰もいなくて、遠くには小学校高学年らしき人が歩いている。中には顔を見たことがある人も。
 赤いランドセルを背負っている私。
 ぴかぴかの一年生っていうけど、私の顔はとても寂しそうな顔だった。
 沈んでいる顔。下を向いている。
 その瞳の奥にこらえている、ずっとずっと続く深海のような暗く暗く暗い気持ち。
 「私はなにをしているの? 」
 そう言おうとした瞬間だった。


 「ひゃ!」

 風が吹き、体がまたふっと軽くなって__


 気付けば布団の中へ入ろうとしている自分。
 暖かくほわほわとした布団。
 もとに…戻った?
 頬をつねってみる。じいんと痛みが伝わってくる。未来らしきものいった時もつねっておけば良かったと後悔。
 それにしても、なんだったのだろうか?
 全く理解できない。はてなマークだらけ。
 私はよく分からなかった。
 そして結局そのまま謎はとけなくて、気づけば眠りについたのだった。



 それからしばらくたったある日、仲良くしていたあの男の子が転校した。
 未来に行った時寂しそうにしていたのは、あの男の子が転校したからかもしれない。
 そして、あの男の子の名前を私は覚えていない。



 、

1ヶ月前 No.3

ねる . @puf ★Android=X8m5OgBZWA



3 * 君との出会い時計の針

 【1】忘れられない記憶



 人生って、脆いものだ。
 いつしか私は自分自身を隠して生きてきた。
 それでいいと思った。
 どうせ形のないものは、すぐに記憶から排除されてしまうのだから。
 どうせ、忘れてしまうんでしょ?
 知ってるから、分かってるから、辛いんだ。


 春。優しい風が吹き込んでくる。
 暖かい日差しが窓から入ってくる。
 柔らかく揺れる緑の葉。
 どこからか聞こえる小鳥の歌。
 美しい景色が夢の中に響く。
 高校1年生になったばかりの私...相川紗は15歳。読みはあいかわすず。美術部に入部している。
 別にそれがどうってことはない。ただ、事実を述べておこうというだけ。ただの毎日を送っている、ごくごく普通の人間である。
 そして、今のうちに言っておくけど...私は冷めている。何事にも対しても。人形みたいにね。
 いつも胸が痛くて、辛くて、震えてる。
 それは、怖いから。
 それは、不安だから。
 それは、辛いから。
 人生から逃げて逃げても人生に捕まってる、囲まれてる。私はそれが嫌だ。
 ただ、辛くなるんだ。
 一人でいる時も、誰かといる時も、心のどこかで寂しさを感じていた。
 ずっと物足りなさを抱えていた。
 ここしばらく、知り合いのおばさんとかにすれ違うと、きまって「大丈夫?元気ないの?」と聞かれている。周りから見ても、私は全てが冷めているように見えるんだろう。
 そうそれは、その全ては、あの出来事がきっかけ。__お母さんの、死。それからだ。
 誰も私の苦しみを分かってくれない。誰一人さえ、分かってくれない。お父さんだって、始めは泣いてたけど今は忘れてるんじゃないかってほど元気。人ってどんなに大切にしていても、なくなっちゃえば結局忘れてしまうものなんだなって痛く感じた。いや、今でも痛く感じている。人間ってすぐ冷めてるしまうんだね。本当に。
 お母さんの葬式には、たくさんの人が来た。みんな泣いて泣いて泣いていて、私ももちろん泣いた。心なんて捨てていた。帰ったあともただひらすら泣いた。日課というものをゴミ箱にいれて、ただ泣いた。なんだっていいと思った。今戦争が起こっても、今大地震が起こっても、今世界が消滅してもいいように感じた。だって、どうせいつかは命をおとしてしまうもの、どうせ存在なんて消えれば、すぐ忘れられてしまうもの。
 そう、それで私は毎日胸が痛くなるようになった。お母さんの写真の前で手を合わせても、もう何も感じられなくなってしまった。
 そして、私はたびたび思う。あれから_つまり3年前から、私には心がない気がする。いや、記憶や感情はある。が、何かがないんだ。足りないんだ。それが心なのかは、分からないけど。
 もうよく分からなくて、とにかく泣いて朝を迎える日だってある。その日はまぶたが腫れに腫れて、周りから変な目で見られた。
 そんな私は、本当におかしい。分かってる。分かってるけど、辛いんだよ。どうしようもできなくて、ただ苦しんでいる。私はそういう自分が嫌いだった。



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1ヶ月前 No.4

ねる . @puf ★Android=X8m5OgBZWA




 「学校に行く準備しておけよ」
 お父さんは、ずっと布団にもぐり込んでいる私を見てそう言った。これからお父さんは仕事に向かうようだ。
 私は何も反応しなかった。したくなかった。
 だって、お父さんが嫌いだから。
 お母さんがこの世を去るまで、お父さんのことは「ぱぱ」と呼んでいた。
 もちろん、お母さんは「まま」。
 でも去ってから_いつしか「お父さん」に変え、それと共にだんだん距離が遠くなっていった。
 むしろ、最近は呼んだりさえしていない。
 別にどうでもいい、私の人生は私の人生なんだから、どうしたっていい。
 やっぱり考えが冷めてるけど、それもどうでも良かった。
 しばらくし、「ガチャ」という音とともにお父さんは家を出た。帰ってくるのかな、なんて変なことを思った。お母さんは私と喧嘩してそこから家を出、交通事故にあって帰って来なくなったから。
 今の思いを言葉にするならば、「不安」という感じではないのだけど。
 なんともいえない、もう分からない、不思議な感覚だ。
 「...準備するか」
 ようやく、私は立ち上がる。



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1ヶ月前 No.5

ねる . @puf ★Android=X8m5OgBZWA




 「朝ご飯は、ぬいていいや」
 準備をしながら、私はそんなことを呟く。
 いや、普段ならこんなに早く準備をしない。
 まだ朝の5時半である。さすがに、いくらなんでも早い。早すぎる。こんな時間に準備だなんてありえない。
 じゃあ何故こんな早くに準備するかって?
 ...それは、大量の宿題があるからだ。
 あそこにある山積みの冊子を見てみるがよい。ほら、あれ。え?どこって?ええ、分からない?
 ...って、そこの君には見えないか。んまあ、文章でお楽しみくださいってね。
 とにかく、入学してそんなたったわけでもないのに、いきなり大量の宿題を出されたのだ。
 あの冊子をみて、お父さんは私に学校の準備をもうしておくように言ったんだろう。優しい。
 まあ、まだ提出期限は先である。が、私はこういうのは早く終わらせたいタイプなのだ。
 だから、ちゃっちゃと準備を終わらせて、宿題を進めた。昨日配られ、昨日も少しやったので、続きから。といっても、中学の復習ばかり。
 この宿題を出した国語の先生曰く、「皆さんの実力をある程度知りたい」とのこと。
 別に知らなくてもいいだろうよ。そう思うが、やるしか選択肢はないので、とりあえず進めた。



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1ヶ月前 No.6

ねる . @puf ★Android=X8m5OgBZWA




 【2】光の余韻


 「ありがとうございました」
 小さな声が、美術室で鳴った。

 ここは、私が通っている学校である。
 家から10分歩き、電車に乗って6つ目の駅でおりる。そして、また10分ほど歩いたところにこの高校はある。
 ちなみに、この高校に中学校の時の仲のいい子はいない。何故なら、私は中学校を卒業した後引っ越したからである。
 おかげさまで、友達はゼロだ。
 とはいえ、美術部の人とはたまに話す。
 そんな美術部の活動が、今終わった。でも、まだ入部して少ししかたっていないとはいえ、雰囲気は慣れなかった。
 先輩や先生は嫌ではない。むしろいい人だと思う。が、何かが違った。
 「先輩にとって美術はなんですか」
 入部したての頃、一年が部長に質問する...というのがあり、私はそう聞いた。
 「僕にとって美術はなにか...か、難しいね。...そうだなあ。月、かな」
 この人は何を言ってるのだろう。月なんて答える人なんか、この人くらいではないだろうか。
 きっと、見ている世界が違うんだと思う。
 きっと、見ている方向が違うんだと思う。
 人間が違っている...というと分かりづらいが、でも、やっぱり違う感じだった。
 _それはともかく、私には用事があった。いや、用事というよりただの日課のようなものだが。
 階段をくだり、左に曲がる。そこから少し先に行った所_第2音楽室へ。そう、此処に用事という名の日課がある。ちなみに第2音楽室は、普段の授業でも吹奏楽部でもなかなか使わず、ただピアノが置いてある部屋のような感じになっている。何故そこに行くのかって?そのうち分かる。
 部屋に向かって歩いていくと、だんだんときこえてきた。それは奏でられた音楽。優しい音の感触。
 今日も、いるみたいだ。
 どこか懐かしい感じがするその音楽は、彼女の心に優しく触れる。そして何故か速まる鼓動は彼女を不思議な気分にさせるのだった。
 そんなおかしな気分に浸っている彼女は、やがて音楽室についた。
 ちらり。窓から少しだけ覗いてみる。
 やっぱり、あの人だ。
 私はどんどん鼓動が速まるのが分かった。
 本当に、あの人の演奏は心に響く...。メロディーの一つ一つが、私の頭の中で時計の針のように刻々と揺れる。美しく強弱のついたその音色は、大切に大切に奏でられている。その奏でられた音色は、やがてじんじんと体中に広がり、伝わり、溢れ溶け出して。
 もう、引き込まれるようだった。
 唾をのんでも、まばたきしても、その音はやはり鮮明に光っている。...気付けば本当に浸っていた。
 _そう、私はこの音楽を聴くために来たのだ。何故か頭から離れなくて、懐かしい感じがして、初めて聴いてからというもの、毎日のように此処に訪れるようになった。
 まだ、引いている本人と会話したことはないのだけど。
 というか、話かける勇気なんてないし、ストーカーっぽい感じになったら困る。
 だから、聴くだけだった。
 それでも、冷たい私の胸の内を少し和らげてくれるのだった。



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1ヶ月前 No.7

ねる . @puf ★Android=X8m5OgBZWA



 やがて、曲は終わった。
 さて、帰ろうか。と、思った瞬間だった。
 「...うわあっ」
 突然、私は声をもらした。
 音楽室の中にいる彼と目が合ったのだ。
 慌てて逃げようとする。が、今度はごつっと鈍い音が鳴って_私は廊下に倒れていた。
 ここで勘違いしてほしくないのは、私は何もないところで一人こけたわけではないということ。私はドジっ娘ではない。
 つまり、何かに私は当たったのだ。
 しかし私は何があったのか分からず、ただただ体に痛みが走るだけ。なんだろう...、すると。
 「あ、え、大丈夫です?」
 そんな声が聞こえてきて、見ると、そこには一人の女子が立っていた。そう、私はこの人とぶつかって足を崩したのだ。
 この女子、その女子、などと言うのはややこしいので、仮に敬語女子と呼ぶことにする。
 ということで、敬語女子に私はぶつかった。
 それはつまり、音楽室覗いてるのバレた、ということでもあり...。
 人生オワッタ...なんて思った。馬鹿だ。
 「ちょっといいですか?」
 それに対して、私は慌てて言った。
 「...と、とりあえずどこか外で」
 あのピアノを引いていた少年(仮にピアノ少年としよう)がこっちにくる前に逃げたいと思ったのでそうお願いし、すぐに中庭に行った。
 敬語女子は察してくれたのか、素直に頷いてくれて助かった。


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1ヶ月前 No.8

ねる . @puf ★Android=X8m5OgBZWA




 「で、どうしたの?」
 というわけで、美しく桜が咲き誇っている中庭で、私達は足を止めた。何を言われるのか不安でおどおどしていると、敬語女子はそう言った。
 ちなみに、私が中1だということを聞くと、敬語女子はすぐタメ口女子に変わった。どうやら相手も中1らしい。でも蛇足だったのが、「まあ身長的に中1かー」という言葉。いきなり怒るわけにもいかないので、私は黙ってタメ口女子を睨んだ。
 「え、いや用事とかはないけど」
 「そっかあ、そうだったね。質問あるのはあたしだった。ねぇ、もしかしてあんた、勇真くんのこと好きなの?」
 おい唐突だな、てか誰?そう思う。
 「...ゆうまって誰?」
 「え?さっき見てたじゃない。うっと〜りした目でね。あたし、あんたの姿見てたよ?」
 ああ、例のピアノ少年のことか。ようやく分かり、こう返事した。
 「ううん、私は音色が気になって見てただけ」
 「なんだ、つまらない」
 といいつつ、彼女はにこっと笑った。つまらないのか嬉しいのかどっちなのだろうか。恐らく本人は自分自身が笑っていることに気づいていないようなので、嬉しいのだろう。...ってことは...、なんて。これ以上は考えないでおこう。とりあえず少し笑い返しておいた。
 「ね、良かったら一緒に帰らない?」
 これで会話が終わった...かと思えば、彼女は突然そう言った。
 「...え、...でも」
 「でも?」
 「他に帰る人いるんじゃないの」
 「ああ、心配しないで。いないいないっ!最近あたしの友達休んでてさぁ、一人なのよ。さ、帰ろ」
 「あー...うん」
 いいのやら悪いのやら。のちのち1-Cの雪城萌だよ、と名乗った彼女はお気楽な性格の模様。別に悪いわけではない、むしろこういうのが人気になるコツなのかもしれない。ただ、自分とはあまりに違いすぎる。何かに例えるとしたら...って、言おうと思ったが思いつかなかったので言わないでおく。
 それにしても、こんな地味な私に馴れ馴れしく話すなんて珍しい...。
 ちなみに、萌という人はとりあえず何かしら話題を出してくれたので、話すのはわりと楽だった。



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1ヶ月前 No.9

ねる . @puf ★Android=X8m5OgBZWA




 【3】小さな日々を


 それからというもの、萌という人はやけに話しかけてくるようになった。友達たくさんいるはずなのに。
 別に私は来ても来なくてもどっちでもよかった。一人は気楽だったから。周りに「ぼっちだ」ってコソコソ言われても、気にしなかった。
 地球上の人間が一人でいるだけ。ただ、教室で本を読んでいるだけ。それだけのことじゃん。それのどこがいけないことなんだろう。私には理解できない。
 私はそう思ってるから、だから一人でもよかった。むしろ気が楽といえば、楽だ。それでも...萌という人が話しかけてくれるなら、ちゃんと対応する。
 まあ、それが常識なのだと思うけど。
 「おはよう、すー」
 萌と初めて話した次の日、私が学校につくとすぐ、彼女はこちらに来た。友達は休みなのだろうか。
 「...す、酢?」
 そう言うと、萌はぷっと吹き出す。
 「違う違う、紗ちゃんは臭くないよ」
 「じゃあ何?」
 「すー、だよ。す、に伸ばし棒」
 「それが、どうしたの?」
 全然話が噛み合ってないんですけど。
 「紗ちゃんのあだ名だよ。あだ名つけた方が、親しい感じがするじゃん」
 ああ、あだ名のことか。どうやら勝手に決められたらしい。
 ...というか、親しいとかまずそこまで関係がないけど。出会って二日目だし、私にとってはまだ「なんかよく話しかけてくれる人」の以上でも以下でもない。彼女にとっては、もうそこまでの関係だと思っているのだろうか。
 「...えっと、だめ?」
 「別にいいけど」
 「やったっ」
 彼女は、くくくと笑った。アニメに出てくる誰かに似てると思ったのはさておき。そんなに嬉しいことなのか、と私は軽く笑い返した。嫌な気は、しないけど。


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1ヶ月前 No.10

ねる . @puf ★Android=X8m5OgBZWA



 「じゃあさ、すーもあたしにつけてよ」
 「え。なんでもいいの?」
 「どんとこいっ」
 ...一応言っておくが、どんどこいっていうのは、Don't こい(Don't come)という意味ではなく、こちらに向かって来るものを確実に受け止めるという心意気を表すほうである。
 「じゃあ闇鍋」
 「い、いや、もえであだ名つけてよ!?というかあだ名のセンス!!」
 センスあるんですね分かります。
 「そう言われても」
 まず、あだ名なんてつけたことない。それに、そんなのにこだわってどうするのだろう。もえ、であだ名、ねえ...。萌、燃え、萌えるゴミ...?
 「絶対変なこと考えてるでしょ」
 「いや、いい名前だと思うけど」
 反射的に、私はそう言った。口が勝手に動いたような感じである。
 「なんで?」
 「萌、って草木の芽が出るって意味だから」
 「...余計なんでって感じなんだけど」
 は、それのどこがいいの?そういう目で萌は私を見た。
 「いい名前だよ」
 「どういうこと?」
 「...草木の芽が出ること、つまり新しい命が誕生するわけ。人間でいうと?」
 「何がいいたいの...?えっと、赤ちゃんがうまれること...じゃないの?」
 「そう。赤ちゃんがうまれるには、母と子の強さが必要でしょ。そして、うまれた時の周りの明るさ、いっぱいの笑顔」
 そこまで言うと、萌は私の目をただ見つめた。何故か、訳も分からず私は語っている。何してるのか分からなくなった。けど、続けた。
 「だから、萌って漢字には強さとか明るさとか、笑顔って意味もあるって。私はそう思ってる」
 「...すーは、よく知ってるんだね」
 萌は斜め下に目線を移すと、静かにそう言った。何かを思っているような表情である。その何かを読み取れるほど、私は才能ないけれど。
 「お母さんの名前、萌だったから」
 ポツリ、言葉を発する。そう、私の大好きだったお母さんの名前も、萌だったのだ。萌。もえ。相川萌。
 ...だから、なのかもしれない。
 私がこの人に心を開きそうになっているのは。


 結局、あだ名は決まらなかった。



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1ヶ月前 No.11

ねる . @puf ★Android=X8m5OgBZWA





 そんな休み時間を過ごす日々だった。
 変化してきているなと思う。今まで私の感情が無色だったのなら、今は少しずつ色がついてきたような気がする。
 それは、明るい色かもしれない。
 それは、暗い色かもしれない。
 という風に、その色は何色かまでは感じとれないけど、でも、確実に色は変わっている。
 裏の私では、それでも胸が痛いけれど。
 いつまでたっても引きずっているけど。
 過去ばかり引きずる私は馬鹿だ。
 でも、そう簡単に立ち直ることはできない。
 「あっ...もう時間だ、じゃーね」
 萌と私はクラスが違う。私が1-Aで、萌が1-C。私は休み時間になると本を取り出すのだが、わざわざ萌がこっちの教室に来て、無理やり本をとられる。
 他の人と話せばいいのに。
 萌のことだから、きっと1-Cにも友達はいるはずだ。いや、実際に親しげに話しているのを見たことがある。その時、萌は気づいていなかったけど。
 でも、なんでこちらばかりに来るのだろうか...と思いつつも、私は嬉しいのか嬉しくないのか、よく分からない気持ちになっている。
 まあ、これがいい方向に進めばいいのだが。

 それから、まだ変化してきていることがある。
 それは、ピアノ少年が毎日のようにピアノを引くようになったこと。前までは週2.3だったのだけど。
 私にとっては嬉しいことだ。音色が私の脳裏に刻まれ、いつまでたっても動きたくない。
 そう感じさせられるほど、素晴らしい音楽だったから。
 だから私は、きまって第2音楽室に向かう。
 毎日毎日、部活が終わった後。
 もちろん、気づかれないように。
 あのピアノ少年は、いつもピアノに夢中になっているから、バレてはいないと思う。
 ...あの目が合った時以外ね。




 、

1ヶ月前 No.12

ねる . @puf ★Android=X8m5OgBZWA



 ...まだまだ、それだけではない。
 もう一つ、変化したことがある。
 いや、変化というか、発見したものと言った方が何倍も正しいだろう。
 お母さんの机の引き出しを久しぶりに覗くと、奥の方に、綺麗に折りたたまれた紙があったのだ。
 何やら大量に文を書いているようなのが透けて見えた。
 もしかして...誰かへの手紙なのだろうか。
 いや、絶対そうである。
 丁寧に書かれているようだ。
 しかも、文章は結構ぎっしり。
 誰に向けて書いたのだろう。
 そして、渡したかった相手はこの手紙を見たのだろうか...?
 私が見てみようか。そう思った。
 ...が、まだ見るべき時じゃない。
 脳がそう反応しているのを、私は感じとった。まだ、だめだ。もう少し待つべきだ、と。
 そう直感的に思ったので、私はそれを読まずにもとの場所に戻しておいた。
 元から少し折れ曲がったり指紋がついているところがあったが、私が今触ったので新たな指紋がついていた。
 それで、いいのだ。
 いつか、見る時がくる。
 見るべき時がくる。
 きっとそうだろう、確かに今読んではいけないような気がしたのだ。
 だから私はそのまま、その手紙らしき物から立ち去った。
 これが、最近変わった出来事である。



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1ヶ月前 No.13

ねる . @puf ★Android=X8m5OgBZWA




 【4】音色が運ぶ歌


 その次の日。
 また、次の日。
 そのまた、次の日。
 私はやっぱり、第2音楽室を訪れた。
 もちろん、訪れたといってもドアの外から見ているだけなのだが。
 あのピアノ少年が引くピアノは、他の人とは違っていた。具体的な違いといえば思いつかないけれど...なんだろう。
 隠し味が違う、というべきなのだろうか。
 でも、いつもいつもピアノ少年が引く曲は同じだったけど、その日によって感じ方は違った。
 楽しそうに引いている時や、少し切なそうに引いている時などあったからだ。
 だから、何がいいことあったのかなとか、悲しいことがあったのかなとか、いろんなことを思った。考えた。想像した。
 まあ、どんな引き方でも、隠し味は他の人とは違っていたんだけど。あのピアノ少年だけの隠し味が、あった。
 それで、よくピアノ少年のことを考えることが多くなっていった。
 話したこともないのに馬鹿みたいだって思ったけど、でも、考えてしまうのだ。自然と考えているのだから、仕方ない。
 だから一度だけ、萌に聞いたことがあった。
 「あの人の名前ってなんだっけ」
 「あの人って誰?」
 「ほら、ゆうと?だっけ。ピアノ引いてる人」
 「あぁ、違う違う!ゆうまだよ。星村優真」
 そうだ、ゆうまって人だった。
 「星村優真...へえ。どんな人なの?」
 「お、もしや興味示してる?」
 萌はケラケラ笑って、そう言った。ちなみに、萌と優真という人は、中学が同じだったらしい。
 「まあね。ピアノ上手いから」
 「なんだ、恋愛方向って訳じゃないんだね。優真は、わりと落ち着いた性格かな」
 「へえ、確かにそうっぽい」
 元気ではっちゃっけるような人が、ああやって静かにピアノを引いていたら、えってなる。でも落ち着いているっていうのは、あのピアノ少年っぽい感じがする。
 「なんであんなにピアノ引いてるの?」
 「それは、あたしも分からないや。聞いても、教えてくれなくて」
 「そーなんだ」
 どうやら不思議な人らしい。んー、いまいち分からない。が、ちょっとでも知れたことを嬉しく思った。
 それでも、やっぱり気になるものだ。毎日毎日引くようになったのも、何か理由があるのだろうか。
 誰かに聴いてもらうために練習してる、とか。何かのイベントで引くから練習してる、とか。
 想像ならいくらでもできるが、実際の理由はいくらもあるわけではないだろう。結局、こうやって考えたって、聞かない限り無意味である。聞くどころか、話したことすらないのに。
 __勇気出してみようか。
 その時私は、そんな考えが少し頭をよぎった。


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1ヶ月前 No.14

ねる . @puf ★Android=X8m5OgBZWA



 ***


 「ただいま」
 そう呟いて、私は家に入る。
 家に誰もいないのはとっくに分かっている。が、小学生の時に、誰もいなくても「ただいま」と言った方が不審者が来にくいですよ。そう言われた時から今まで、何気にただいまと言うようになったのだ。
 もう、癖のような感じ。別に不審者予防のつもりはもうない。
 それはともかく。
 家についた私が真っ先に向かうのは、自分の部屋。もともとは、私とお母さんの部屋であったが、もう今は私だけの部屋になっている。お母さんの机や物は未だに整理していなくて、ずっと変わらぬままなのだけど。
 「__んー...はあ」
 鞄をおき、伸びをして訳の分からない声を出す。そして、手を洗ったり着替えたり済ませ、その後リビングへ。
 ソファに寝転がり、ただボーッとする。
 ひとり。家には誰もいない。私は、朝にしかお父さんを見ないから。
 お父さんが家を出るのは朝6時半、そして帰ってくるのは夜の11時頃。私は夜寝るのが早い方のため、夜はほとんど見ない。だから、自分の朝ご飯や晩ご飯は私が一人で用意する。といっても、コンビニで買ってきたものを食べる、というのが多いのだけど。
 私はパン好きだから、パンが多い。ちゃんとバランス良く食べるべきだと思うが、面倒くさいし、どうでもいいと思ってしまう。
 __お母さんがいたら。
 やっぱりたまに、そう考えてしまう。
 はあ、もうこんな生活嫌だな。やめてしまいたいな。ふと、そう思う。ふと...といってもほぼ毎日のようになんだけど。
 だってどうせ、みんな悲しまないでしょ?お父さんだって、初めだけ落ち込んで、その後はすぐ元気になるんでしょ?
 悲しまれることを求めてる訳ではないけれど、胸に引っかかるものがある。
 それは痛くて、刺さって、ぬけない。
 顔面に硬いボールが当たる時の衝撃よりも、コンクリートのある場所でこける時の衝撃よりも、ずっと痛いんだ。
 落ち込まれたい、とは言わない。が、なんだか曖昧な気分になる。...でも、それでも、もういいんだよ。どうせ...
 __ってだめだ、こんなこと考えたら。
 そうやっていつも、暗い気分になってしまう。
 「考えないで」、そう自分に言い聞かせながら、私は忘れるためなのか、近くにあるとある本を手にとった。


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1ヶ月前 No.15

ねる . @puf ★Android=X8m5OgBZWA



 丁寧にカバーで身を包んだその本は、私が少し前にハマっていた小説だ。この小説は、病気になった女の子に恋をするいじめられっこの男の子のお話。結局、女の子は命の火を消してしまうのだが、話の内容はよく、号泣した。
 何回読んでも飽きなかった。まあ、その理由の一つに、お母さんが読んでいたから、というのもあるのだろうけど。
 しかし、手に取るのは久しぶりだ_ソファに寝転がりつつ、ぱらぱらめくる。ところどころめくる手を止めた。好きなシーンとかはじっくり読む。
 懐かしいなあ、そういえばこんな話だったな。
 そんな軽い気持ちで読んでいた。
 そんな軽い気持ちで思い出していた。
 だが、私が完全に手を止めたページがあった。それは__196ページの最後から3行目の文。
 ただただその文章を見て、眉間にしわをよせる。いや、話の内容がどうたらってことではない。ただ、言葉の意味がよく分からないのだ。
 それは、こんな言葉である。
 「目で見えないものは、見つけにくいんだよ。でも、それは何よりも大切なことで、何よりも大切にしなくちゃだめなんだよ」
 病気になった女の子が最後に放った言葉だった。私には、これが分からなかった。
 目で見えないものは、見つけにくい。...幽霊?
 でもそれは何よりも大切で大切にしなくちゃいけない...っていや絶対幽霊ではないか。そもそも、なくなる直前に幽霊のことなんて言わないでしょ。
 じゃあ、何?
 見えないものって?
 でも何よりも大切なものって?
 この女の子が一番言いたかったことって?
 作者がどうしても伝えたかったことって?
 ...今日も、やっぱり分からないままだった。



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1ヶ月前 No.16

ねる . @puf ★Android=X8m5OgBZWA




 だから、私は諦めて本を閉じた。
 きっといつか分かる気がするから。
 今無理に考えてもいけない気がするから。
 ということなので、本を元のあった位置に戻すと、再びソファに寝転がる。
 ...もう、訳が分からないや。
 今感じるべき感情が分からなくて、ただただ天井を眺めるだけだった。
 ...お母さん。
 お母さんは、あの小説を見て何を思ったのだろう。じいん、ときたのか。それとも今の私みたいに、「これってどういうこと?」と胸に引っかかるところがあったのだろうか。
 どう感じとったのだろうか。
 命を消し去る前日まで、あの小説を読んでいたお母さん。私が「おーい」と言っても夢中で聞こえてなかったお母さん。お母さん、お母さん。
 最後に話したのは、喧嘩の時だ。
 なんて最悪な別れだったのだろう。
 いくらなんでも、タイミングが悪すぎる。
 一日前だったり、一日後だったらまだ、こんな気持ちになっていなかったはずなのに。
 大好きだった。
 大切だった。
 優しかった。
 頼りになった。
 だから、喧嘩もした。
 だから、嫌いな時もあった。
 だから、反抗した。
 だから、だから...。
 だから、こんなに今辛いんだ...。
 気づけば、私は涙を零していた。
 それは暖かくも冷たくもない、ぬるい涙。
 透明なその液体は、みるみる溢れてきて、視界にモザイクをかけていく。
 どんどん見える景色は淡く、曖昧になっていく。
 どんどん私を濡らしていく。
 どんどん私を凍らせていく。
 すーっと頬を滑るのがくすぐったい。
 それでも涙は気にせず流れる。
 それでも涙は止まらない。
 どうして、思い出したくないのに、忘れたい過去なのに、こんなにもくっきりと覚えているのだろう。
 人っていつもそうだ。
 覚えておかなくちゃいけないことに限って忘れ、嫌なことや忘れたいことに限ってしっかりと覚えている。
 なんで逆じゃないのだろう。
 それが本当に辛い。
 苦しくて苦しくて苦しい。
 私は変わらず涙を流しながら思い出す。
 あの時のお母さんの表情。
 怒って怒って怒ってるのに、寂しそうで悲しそうで苦しそうだった。今の私と同じで、泣いていた。あの時、心の中で何を感じていたのだろう。どうしようとしていたのだろう。
 ...そもそも、なんであんな喧嘩をしたんだっけ。記憶を振り返ろうとするが、喧嘩し始めるところまでしか記憶が辿れない。
 なんで、それは忘れてるのだろう。
 なんで、それは覚えていないのだろう。
 辛い。辛い。辛い。
 馬鹿だ。私は世界一の馬鹿だ。
 また話したい、なんて思ってしまう私は、馬鹿すぎる。分かってる。分かってるんだ。
 もう叫んでも、もがいても、足掻いても、手を伸ばしてももう届かないことを。いくら探したって、小さな背中さえ見つけられないことを。まだ残っているのは、かすかな温もりと優しさ、たったそれだけということを。
 他にはもう、何もない。
 影すら見つからないんだ...
 いくら探しても...
 いくら迷っても...
 ...もう、なにも...__
 __そうやって考えていると、私は涙を流したまま、気づけば眠りについた。かなり長い時間である。
 その時、私は優真という人に話しかけている夢を見た。具体的な内容は覚えていなかったけれど、でも、それが何故か少しの勇気に変わった。
 だから目覚めた時、直感的に思った。
 今日話しかけよう、と。
 お母さんに私の勇気を、見せたいと思った。



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1ヶ月前 No.17

ねる . @puf ★Android=X8m5OgBZWA



 ということなので。
 私は訪れた。
 ここはどこか。大体分かるだろう。
 そう、第2音楽室のドアの前である。ここまではいつも通りのこと。だが、変わるのはこれからだ。
 つまり、話しかけるということ。
 すー、はー...訳も分からず緊張している。私は、なんと話したらいいのだろうか。
 「私ぃ、ファンなんです〜!」
 ...いや私らしくないし気持ち悪い。
 「来てあげただけよ」
 一体何様なのだろうか。
 「道に迷っちゃって...」
 明らかに怪しまれるだけだ。
 あああ、どうしよう。話そう!と思ったのはいいのだが、いざ話すとなると緊張がすごい。...そうだ、私は超人見知りなのだ。
 すっかり忘れていた。最近は萌が進んで話しかけてくれるおかげで、人見知りということが記憶になかったが、よくよく考えると私は人見知りだ。ああなんでこのことを忘れていたのだろうか。こういうとこ馬鹿だな、私。
 でも、頑張るしかない。前に進むしかない。
 曲が終わったら、すぐノックして入ろう。やっぱり、少しでも話してみたいから。その思いは変わらないから。
 すー、はー...
 もう一度深く深呼吸してみる。
 すーー、はーー...よし。
 準備はオッケー。あとは終わるのを待つだけ...
 「何してるんだ?」
 「う、わああああ!!」
 その瞬間、私は寒気がした。触れられた肩を押さえ、しりもちをつく。う、うそ...最悪の展開だ。も、ももも、もしかして...
 「だ、大丈夫か?」
 恐る恐る顔を上げると、...そこには二人の男子生徒がいた。明らかに変な目で私を見ている。ああ最悪だ。見られてしまった。今度こそ私の人生オワッタ...。もう、しりもちをついて痛いなんて思いは、一瞬にして弾け飛んだ。そんなどうでもいいことより、何倍もピンチなことが今起こっているからである。
 「優真に用があってきたんだけど...」
 一人の男子生徒が言う。
 「もしかしてお前、彼女なの?」
 すると、もう一人の男子生徒も言う。
 「へっ!?ち、違うよ、全然」
 「...彼女なのか」
 私の慌てた反応を見て、その二人は勘違いしてしまった。え、こういう時どう言えばいいのだろうか...どうしよう。
 「あ、え、いやだから違っ...」
 とにかく、ああ、ごめんなさい...
 勝手に彼女ということになってしまった。
 「じゃあ俺達は今度にしとくか」
 「んだな、じゃあ」
 私が返事をする間もなく、その二人の男子生徒は帰っていってしまった。が、私はしばらく呆然としていた。申し訳ない気持ちと少し恥ずかしい気持ちが混ざり合って、よく分からない感情ができた。本当に、ほんとに、ほんっっっとうに...
 さ、い、あ、く、で、あ、る。




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1ヶ月前 No.18

ねる . @puf ★Android=X8m5OgBZWA




 ...そして薄々気づかないだろうか。
 結構大きめの声を出した。結構長い時間話した。ということは...
 「...どうした?」
 ...予感はもちろん的中。そう、ピアノ少年こと星村優真にも気づかれてしまったのだ。


 「えっと...とりあえず、入りな」
 「う、うん。ごめん」
 星村優真は、年齢は同じなのになんだが大人っぽい雰囲気を醸し出していた。声も優しい感じである。といっても、低く丁寧な感じというよりは、少し子供っぽい声であった。
 とにかく、第2音楽室に入った私は近くにあった椅子に座り、もたれる。彼はピアノの椅子に座った。彼は何故か優しくきらきら星を引きながら、口を開いた。
 「君って確か...相川紗、だよな」
 「え、知ってるの...!」
 ドドソソララソ、と超馴染みのある曲を奏でる彼。
 私はそんな彼にびっくりした。まず、「君」と呼んでくる人は珍しいから少し驚いたけれど、私の名前を知っていることにはもっともっともっと驚いた。それと同時に、嬉しさがこみ上げてくる。
 「あぁ、まあな」
 「えっと、星村優真くん、だよね。私さ、ずっと前から思ってたことがあるの」
 「そうだよ。...何?」
 「優真君がいつも引いてる曲、懐かしい感じがして、すごい胸に響いて、とっても好きなんだ」
 「そうなんだ、ありがとう」
 そう言って優真くんは何か言いたげな顔をした。が、すぐに軽く微笑んだ。それと同時に白い八重歯がちらりと見える。ドラキュラみたいだ、とかそんなことは全く思わない。むしろ優しそう、そう感じられた。
 いや、実際に彼は優しいらしい。前に萌が言っていた。まあ見るからにそんなイメージはある。
 「...なあ」
 少し沈黙が続いた後、優真くんは再び話し始める。また少し緊張が先走って、私の脈をどんどん早める。そしてそのじんじんした感じが、体中に響き渡っていく。私、今あんなにピアノが上手い人と、話しているんだ。嬉しくて嬉しくて、でもだからこそ、より緊張する。
 「前から俺が引いてるの、聴きにきてくれてたよな」
 また少し沈黙が走り...
 「...え!?ば、ばれてたの」
 「うん、毎回分かってた」
 「ま、毎回...」
 「結構嬉しいからいいけど」
 嘘だ。ま、毎回って。一度目が合ったことはあったものの、それ以外でも普通にバレていたとは。私は思わず口を大きく広げ、驚いたように彼を見た。
 「な、なんで分かったの?」
 「...なんとなくだよ」
 恐る恐る聞いた質問に対し、曖昧に答えられた。不思議である。なんとなく、で済まされるなんて。
 でもまあ、それがこの人のいいところであり、「魅力」にあたるのかもしれない。だから余計、興味をひかれる人もいるのだろう。気持ちは分からないでもない。まあ私は彼のことが好きではないけれど。だって、多分彼のことが好きな人を知っているからだ。本当かは分からないけれど、恐らくそうだと思う。誰かはまだ、言わないけれど。
 「変なの」
 それに対して、彼は返事をしなかった。が、別のことを口にした。私が少し恐れていた話題である。



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1ヶ月前 No.19

ねる . @puf ★Android=X8m5OgBZWA




 「...そういえばさ、さっき誰かと話してた?」
 「え、あ、うん」
 ...そう、例の彼女と勘違いされた事件である。一瞬で嫌な出来事になったやつだ。ああ、もう忘れていたかったのに。そう胸の内で思ったものの、表情は決してそんなこと思っていないような顔を作る。
 私は、よく感情が分からないと言われる。そのたびに、そりゃあそうだって思う。だって、感情をずーっと奥に隠しているから。
 誰にもバレたくない、バレるのが怖い。本当の気持ちを言って嫌われたりしたくない。いつからか、私は本当の気持ちを隠すようになっていった。そして、決してそう思っていなくても、周りの意見に共感する。「そうだね」、「確かに」、「あー」。こんな言葉ばかりが口癖になった。馬鹿みたいでしょ。
 だって、とりあえず共感しておいたら、嫌な出来事とかに紛れ込まずに済むから。何より、気楽だから。ややこしいことが嫌いな私には、ぴったりの作戦である。
 そんな風にして、私の「感情隠し」という技は見事に開花したのだ。全然いいことではないけど。
 「へえ、誰と?」
 「知らない人。二人の男子で、両方背が高くて黒髪で、なんか運動やってそうな感じかな...」
 あの時慌てていたから、正直あまり覚えていなかった。が、大体こんな感じだっただろう。
 というか、背が高くて黒髪で運動やってそうな男子なんてたくさんいるが...。分かるのだろうか。
 「あー...多分それ蓮と晴斗だ、ごめん。変なこと言ってた?」
 「え、いやー特に?」
 蓮と晴斗、ねえ。一応伝わったみたいで良かった...が。変なこと言ってた?って言われても...まさか「彼女と勘違いされちゃった」なんて言う訳がない。言える訳がない。私は目線をよく分からない方向にむけて、そう言った。一体どこを向いているのだろう。明らかに変人感が出ている...。が、彼はこのことについては触れなかった。安心。
 「そっか。なら良かった」
 ...どうやら会話は聞こえてなかったらしい。良かった...、心の中でほっと安心する。そこで私は、もうこの話題を変えたいと思い、こう言った。

 「ねえ、曲聴きたい」



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1ヶ月前 No.20

ねる . @puf ★Android=X8m5OgBZWA

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1ヶ月前 No.21
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