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愛しき貴方は液晶画面二つ越し。

 ( 小説投稿城 )
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フレット ★JVQ7vGE3fQ_01r

両腕は、合計十本の指は黒に白の文字のキーボードの上でせわしなく動いている。
部屋の電気は最大より一つ暗く設定してある。
茶色のデスクについている電気は消してある。
多少暗いような気もするが、大学生の私にとっては電気代の節約は大切なのだ。
屹立する純黒の塔を夢に見た主人公は―
さて、どうしよう?
せわしなく動いていた腕を組んで、頭を椅子の背もたれに乗せる。
ブラックブルーのクッションの付いている椅子なので、頭を持たれかけさせても痛くはない。
そのまま目を瞑り数分間空想に浸る。
目を開けると白亜の天井が目に入る。
特にこれといったアイデアも思いつかずにほんの僅か顔を顰める。
いや、確かに脳内には大まかな道筋はあるのだ。
でも、それをいざ文字に起こそうとすると、読者に解り易く。尚自分の持っている出せるだけの技術を出したいという思いが心中で混ざり合う。
それが私のキーボードを叩く手を止める。
心中での葛藤を遠くへ追いやり、ギシッと音を立てて体を起こした。
輝く液晶画面に視線を戻した。
目を刺激するブルーライトには目もくれず、新しいリンクで開いていたタブを右手人差し指でタップした。
タブの内側に一瞬灰色の枠が現れ、私がタップしたページに飛ぶ。
同webサイトに投稿されているライバルの【彼】の小説を閲覧するために。
私のネームは『蓮』名前の漢字を変えただけの特に捻りもない名前だ。
比べ彼のネームは『月桂樹』やけに格好つけた名前だと思った。
別名、『ローリエ』と名乗っていたか。
タブに『軒先シンビジウム掲示板』と表示されたのを確認してから書き込み数を見る。
昨日と変わっていない。
彼、月桂樹は毎日更新しているので今日の何時かには更新するだろう。
特別な幼児やら、風やらで更新ができないときも、一言だが詫びの書き込みを残す。
いわゆる、気の利く良い奴である。
月桂樹が本当に男なのかは此方には判断する術が無いので疑いもなく彼で済ませている。
白いフレームに黄色のバックで茶色で数字が表記してあり真黒な針の時計が指す時刻は午後四時を僅かに過ぎたところだった。
西日は傾きつつあり、開け放った窓からはほんの僅かにまだ冬の余韻を残した春の風が舞い込んでくる。
その心地よい風が謳滝憐の肩に僅かに掛かるブラックグレーの髪を揺らす。
黒のようで茶にも見える典型的な髪色だ。
元の色は真黒だったが水泳をしているうちに少しずつ髪が茶を帯びるようになってきたのだ。
共に通っていた友人も少しずつ髪が茶に染まり二人して首を傾げたものだ。
月桂樹の更新が無かった事への僅かな、でも大きな悲しみを追いやるように随分と昔のことを思い出した。
小学生から中学生にかけて作った思い出など、もう大方忘れ去ってしまったはずなのに、こうして時折頭の片隅からはい出てきて私を笑わせるのだから不思議なものだ。
月桂樹の小説も私の小説も互いに恋愛物だった。
だからか、余計にライバル視をしてしまうのだ。
彼とのリアルでの面識は無いが、この架空に塗れた世界に置いてはそんなもの必要なかった。
彼を。月桂樹をライバル視するには、同じジャンルであり不動の同率一位の人気を誇る小説家としては事足りた。
時にはどちらかが首位となり、どちらかが二位になる事も珍しくなかった。
私の掲載する小説サイトには一か月に一度読者によるファン投票―と言うのは可笑しい気もするが、兎に角そう言った投票が行われるのだ。
決まって私は下位の方から見る。
性格が悪いといわれれば反論できないが、自分が面白いと思っている小説や新規だがこれから伸びるであろう小説が下位にあると多少なりと落ち込むものだ。
画面をスクロールして今月の人気投票の結果発表の欄に目をやる。
今月も、同率一位。
投票は月の初めの三日間に行われる。
期間が短いのかと言えば、私は逆に長い方だと思える。
好きな小説に投票するのにかかる時間は三十秒足らずだ。
幾ら閲覧者が多いと言えど、三日間は長いのでは?
そう疑念を抱くことも多々あった。
その間に掲載者はより展開を面白くしたりするのだけれども。
私と彼が同率にならなかったことは片手で事足りる程度にしかない。
それは、読者がどうしてか私と彼が同率になるように上手く投票しているように思えるのだ。
一時どちらかが上回っていると直ぐに同率になる。
必ず、低いほうに入るのだ。
同率にならなかった時は、恐らく暗黙の了解を知らない新規の人が多かった時だろう。
それが実は、不満でもあった。
それで私が二位に転落することがあっても、それが私の力であり、月桂樹に及ばなかったで済ませられるが。
こうも上手く同率にされては釈然としない。
私はパソコンの右をスクロールしメニューを出してスリープを押した。
画面が暗くなったことを確認してから一度閉じた。
彷彿しかけた頭を冷やすために氷を入れた麦茶を取りにリビングへ行った。

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フレット ★JVQ7vGE3fQ_01r

白に下方に水色のラインが二本入ったマグカップを取り出した。
私の一番のお気に入りだ。
一番大切な友達から誕生日にもらった大切なマグカップ。
毎年のように送り合っている誕生日プレゼントはもう、終わっている。
遠い場所にいても、送り合っていたのに。
昨年は、高校に入ってから髪を伸ばし始めた彼女に似合うような薄緑色のヘアゴムとハンカチ、ノートの五冊セット、シャープペンを送った。
三月が誕生日の彼女と七月が誕生日の私の元には必ずプレゼントが送られていた。
雑貨だったり、お菓子だったり。
私はその大切なマグカップに氷を四つほど入れた。
カランと音を立てて氷が重なるそこに冷蔵庫に入れておいた麦茶を出す。
氷はいらなかったかもしれない。
しかし一度入れた氷を戻す気は起きなかったし、氷はどちらかと言えば好きな方だったのでこの際、氷については目を瞑ることにした。
それを再び絶対に割らないように両手で持ってから自室へ戻った。
昔から、彼女がくれたプレゼントは大事にとっておいた。
一度壊れてしまったシャープペンも、かのじゃからのプレゼントであったなら頑張って直して使ったものだ。
書きやすい、という物理的な理由も確かにあった。
某ブランドメーカーのシャープペンでないそれは、一件太くて書きにくそうだが書きやすい。
滑らかで、ちゃんと黒で私の好きな0.3で。
そのシャープペンはもう今度こそ使えなくなってしまった。
それも、納得がいくほど年季が入っているのだ。
小学生の5年生程だったか、ノートと共に貰ったそれを私はいたく気にいったもので、高校に入っても使い続けた。
もう捨ててもよかったのに、って言われてもいいの。
私には、これでいいの、って頑なに捨てようとしなかった私を見て彼女は嬉しそうに笑ったものだ。
私も、彼女の笑顔を見れば嬉しくなったし、彼女が泣けば私まで泣きたくなった。
私たちは二人で、一人だよね。
なんて、言いあって笑って、時には喧嘩してそれでも互いが互いを求めて仲直りして笑って。
昔のことを思い出して思わず泣きそうになってしまった。
いつしかマグカップを握る手の力も強くなっていた。
部屋に入っても椅子に座らずに二百冊近くか、それ以上並んでいる本の中からアルバムを取り出す。
自分の写真を見るのは好きじゃなかったけど、彼女が一緒なら見られた。
修学旅行とか、学園祭とか、体育大会とか。
ずっと隣にいた彼女の笑顔を見て満足した。
小さく写真に頷きかけて、そっと彼女の写真をなぞった。

「私、頑張るね。」

写真の中から、頑張れと聞こえた気がした。
若くしてこの世から去ってしまった彼女の笑顔はいつも、いつも私を励ましてくれた。
友人を代表して葬式であいさつをさせてもらえた時、高校の友人でなくてよいのか、と尋ねた時、彼女の家族は笑顔で、かぶりを振った。

『朔良はね、貴方にやってもらいたがっていたのよ。』
『どうして』
『あの子、自分は誕生日に死にたいって言ってたでしょう?でも、もしそれが叶わなかったらせめて友人代表の別れの言葉は蓮にして欲しい、って言ってたの』
『・・・っ。私で、いいんですか。』
『当り前でしょう。それに、朔良が望んでいるのだから、私たちは何も言えない。朔良に、最高の最後の言葉を送ってあげて。』
『・・・っ。はい。有難う、御座います』

溢れる涙を抑えきれずに、朔良の家族の前で泣いてしまった。
それでも、朔良の家族は自分たちも涙ぐみながらも私を励ましてくれた。
朔良によく似た笑顔で。
難病で死んでしまった彼女の顔は、最後まで綺麗だった。綺麗な中に、純粋な中に憐憫だと思ってしまう自分が恨めしかった。
そして今も、色褪せぬ思い出として私をずっと励まして勇気をくれる。

「有難う。大丈夫。私今年は朔良の大好きな苺を手折って持って行った。
自分で摘み取った苺を朔良にあげたかった。
私が育てたわけじゃないけど、せめてどこかに私を感じてほしくて。
私はずっと、朔良の友達だよ―親友だよ、と。
写真を見つめて悲しみに浸った。
悲しみをどう表現したらいい?
悲痛―否。 朔良への悲憤慷慨?―否。 朔良の居ないことへの悵然?―否。
簡単だ。悲痛―いや、やっぱり否か。

「哀悼の意―。そうだ。それだよ。簡単じゃん。」

零れる涙を拭うことなく流れるままにしていた。
写真に落涙が落ちて、弾かれる。
フィルムで写真は濡れなかったが慌てて白の袖口で涙をふく。
アルバムを閉じてデスクの椅子に座る。
置いていた麦茶を半分ほど飲み干した。

「ふっ・・・。朔良、有難う。朔良のお蔭でいい案が思いついたよ。」

私は朔良に礼を伝えてスリープモードを解除した。
キーボード上空に十本の指を滞空させそれぞれの中指、人差し指でキーボードを叩く。
他の指はいつも遊ばせている。

主人公の姉の婚約者と対立することになった主人公は―雅は世を治すため戦うことを決めるが、それは同時に姉の結胡を敵に回すこととなる。
姉と対立するか、自分の最後の騎士としての任務を捨てるか。
この剣は、人を、世を正すためにある。
そこには、僅かな犠牲だって必要だ。
騎士として、最後の一秒まで生まれ持って日々増える命の最後の一滴が消えるまで。
この世界から自分が完全な消滅を遂げるまで。
人々は進化しすぎたのだ。
他人へのリスペクトなんて、何百年も前で消え失せ今は、金と、地位と、肩書だけがものを言う世界。
雅も、また地位も肩書も上だし一般庶民に比べれば金だってあるだろう。
でも雅は、そんな世界が。
現状が嫌いで、変えたくて。
男に生まれなかった自分を怨む篠塚家の関係者全てに、この世界の間違いを、理を理解してほしくて。
最初で最後の有力家女騎士として何を敵に回しても、騎士としてだけ生きることを選んだ。
そのために、安全な篠塚本家を飛び出し、辺境へ行き虐げられている人々の環境を知った。
自分の身分を隠し、人々と同じ虐げを受け、剣だけを奮い戦い続け。
何度自分は神聖なる名家の剣士、篠塚雅であると叫びそうになっただろう。
鋭利な刃を高々と掲げ、今だこの場所では見せていない雅の真なる剣技を見せたかっただろう。
名前をシェルファーと名乗り、この世界には数少ない漢字での名を封印し、そして上流家が一般市民に法律を犯す所を発見したその瞬間。
シェルファーは、篠塚雅となった。
そうして、世界の中心コア・アースへ行くにあたり、姉の結胡の婚約者であるシェーブ・ウェイト・ウァールと対立することになるのだ。
もしここでシェーブを倒したとして、次は攻略不可能とされている絶門を越えなければいけない。
絶門には、もう一つの呼称があった。
クアルディア・フィラカス。
その名の通り、膨大な命と強い剣技、魔術を持つ門番たる人型の魔獣が気たる剣士を、術者を迎え撃つ。

「・・・面白いじゃん。」

朔良のお蔭で一通り書き終えた今日の投稿とこれから先雅へ降りかかる困難の大まかだがしっかりした道筋。
朔良はやっぱり、私の大切な友人だ。
こうして今日も、私を救ってくれる。
朔良となら、私はどんな奴にも負けない。
それが、月桂樹でも、絶対に勝てる。
そう意気込んで投稿を押し、そのまま月桂樹の小説へと再び飛ぶ。

「お、更新されてる。」

今日もまた、嘘に、架空に塗れた世界に浸りゆく。

20日前 No.1

フレット ★JVQ7vGE3fQ_01r

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16日前 No.2

フレット ★JVQ7vGE3fQ_01r

架空の世界に浸って、それからはもう通常通りの生活だった。
ご飯食べて、お風呂に入って歯を磨いて、本を読んで十一時に就寝。
大学生としては早めの就寝になるのかもしれないが、明日は苦手―というより嫌い―な理数系の講義が多く入っている。
講義中に寝ないためにも、早く就寝することにしている。
明日も、小説投稿のために頭をフル回転させなきゃいけなくなることだし。
何より、明日も篠宮くんにちゃんとした対応したいしね。
私が篠宮君が好きだって悟られないように、でも友達以上になりたいって気持ちを少し、ほんの少し出しながら。
篠宮君が、最初に話しかけてきてくれたのは、いつだっただろう。
明るくて前向きで、でも真面目で、変な所で拘りがあって。
格好良くて、でも肝心なところで抜けてて目が離せないような存在。
暗くなる瞼の裏に篠宮君の笑顔を浮かべながら週間となって私に襲い掛かってくる十一時の悪魔―睡魔―に抗うことなく瞳を閉じた。
最後に見た小さなランプの臙脂色の暖かな光が、初めて篠宮君を見た時に垣間見えた暖かな光を思わせた。
そのまま私を、睡魔の中に眠る小さな思い出の中へと誘っていく。
伸ばされた手を、そっと掴むと同時に、私の思考は完全に断たれた。

リリリ―リリッ、リ、リリッ。
不規則になるアラームに叩き起こされ、まどろんでいる思考を頬を叩いて目覚めさせた。
私が起きたことを知らないまま延々と鳴り続けるアラームを止めてから若干の寒さの残る部屋に右足を出した。
冷たく冷えたフローリングの床に素足が触れた瞬間、寒さと自分の体温の暖かさで保たれる微妙な温度に再び布団の中に潜り込みたくなる衝動を抑え左足も床につけた。
最後まで布団の中に入っていた左手が特に何を考えるでもなく白い掛け布団を名残惜しそうに掴むが、心を鬼にして布団からずぼっと抜き出す。
今日も、布団との戦闘に見事勝ってのけた。

「ふはぁ・・・。」

気の抜けた言葉を発しながら背伸びをしてリビングへ繋がる茶色のドアのドアノブを真下に回した。
カチャッと気持ちのいい音がした後、ブーと今度は機械的な音がメッセージの着信を告げる。
面倒臭いな、と思いつつも講義の遅延などの連絡だったりしてそれを無視して講義に行って恥を書きたくないから、数歩戻ってスマホを見る。
着信したメッセージを二回タップして開く。

「連絡ー!今日の三限目の数学の講義、琴重来るってー!」
「マジ?」
「最悪、今日休みたい。」

正直、あの子と関わる事は何もないからどうだっていい。
琴重怜那、何が得意で苦手なのか、何が好きで嫌いなのか全く読めない子というだけの印象だった。
琴重さんに近づくと、冷気が襲ってきて体調崩す、とか告白現場を見られたら絶対に上手く行かないとか、不穏な噂が流されている。
更に、例えその話が嘘だったとしても噂は独り歩きしているがため、完全に噂が広まるのを防ぐことはもう不可能と思える。
かといって、彼女が何か苦しんでいるわけでも、その話をされて何か表情を変えることもない。
だから特に気にも留めていなかったし、今こうしてどうでもいいと思ってしまっている。
でも、たとえ彼女がいるからって行かないって事は無くてもいいんじゃないかな、と思うけど。

「いじめるの、よくないよー。」
「えー?いじめじゃないよ、本当の事言ってるだけだよ。」
「日常的会話。」

そう言われれば、そうかもしれない。
いじめがよくない、と言った人も軽い感じだし、ちょっとしたからかいなのだろう。
会話内容があまりにも馬鹿らしいので、私はスマホの電源を落とし、今度こそリビングへ向かった。
右手にまだ五月蝿いスマホを持って。

「まぁ、いい小説材料とでも思っとこ。」

学校は、小説の材料を、特に恋愛小説を書く私にとってはネタの宝庫だった。
まぁ、図書司書の免許を取るという立派の目的があるのだけれども。
篠宮君に会えるのだし、私にとって学校は第三の天国だ。
一つはネット、二つは家、三つは大学。
何とも普通ではない順位だと自分でも思うが、これ以上のつけようがないのもまた事実だ。
数時間後の講義に出るべく、朝食を取った。

10日前 No.3

フレット ★JVQ7vGE3fQ_01r

四分ほど焼いた食パンにマーガリンを塗り、それにソーセージと目玉焼きを付け加えた典型的な朝食をものの十分ほどで済ませて朔良からの贈り物のマグカップに残っていた少量のウーロン茶を一口に啜った。
皿を重ねて新区へもっていきそのまま流れ作業で皿を洗った。
食器乾燥機にまとめて入れてから黄土色の机に向かった。
同色の椅子を一つ引いてから青色の小さな時計を一瞥して家を出るまで四時間ほど時間があることを確認してスマホを再び開いた。
先程までメールの通知を休むことなく伝えていた携帯も今やもう一切の音を放たず静かに月桂樹の小説を開いている。
小説の更新状態は昨夜と何ら変わりはないが、コメント欄には多くの通知が来ていることを赤文字で知らせている。
私の小説にも負けず劣らずのコメントが寄せられているのだろうがあえて覗かないでおくことにした。
小説を読んでくれている人には、先に早朝、昼、夜中にはコメント返信は出来ないと伝えてあるために、私が無理をしてコメントを返す義務はない。
勿論、そのことを全員が承諾してくれているわけではない。中にはしつこくなぜか聞いてくる変質者もいたものだが、そのコメントが十を超す前に通報させてもらった。
以来、そういった迷惑行為と見做されたコメントを片っ端から通報していく部隊『フィラカス』が編成された。勿論、私が編成したわけではない。いつしかそう言ったコメントをあまり見なくなっていたものだから最近見かけなくなってよかった、とコメントしたところそう言った部隊が編成されていることを知らされたのだ。
こういった編成部隊を作ることは禁じられていなかったし、正直助かっていた。
編成部隊フィラカスの名称は文中にも出てくる魔獣からとってある。
クアルディア・フィラカスこの名前はどちらも門番という意味を持っているため、この編成部隊に名前を付けるとしてはいい名前だろうと思う。
更に、このフィラカス部隊は月桂樹のコメント欄も常時防犯している。
何人で構成されているのかは知る由もないが、二つの小説を常時防犯できるほどの人数が揃っていると思えば自然と私の思考がそれ以上考えることを強制シャットアウトするのだ。
月桂樹の小説を閉じながら胸の内でお疲れ様です、と一言だけ労いの言葉をかけスマホの電源を落とした。
スマホの画面には新たな通知の受信が知らされることはなく再び虚無の闇となる。

「準備しよ。」

誰に届くでもない言葉を特に意味もなく発してから黄土色の椅子から立ち上がり自室へ戻った。
大学へ行くために寝間着から真面な服へと着替えてから昨夜の間に準備しておいたダークグレーのナップサックを手に取った。
それでもまだ時間は三時間弱の猶予を残している。
リビングと違い黒い淵に白の台紙、茶の文字に再び黒の時を刻む三種の針。シックな色合いで構成された時計を見て、この時計もまた彼女と共に買いに行ったものだった。
部屋の端々に朔良の存在を感じるのは、やはり家具のせい。いや、家具のお蔭であるのだ。
リビングよりもわずかに冷気のこもる部屋の涼やかな空気を思いっきり吸い込んで閉じていた目を開けた。
先程よりも僅かにクリアになった視界で再びシックな時計を捉える。
先程より五分ほど時が進んでいるのを確認して部屋を出た。
電気の消えた部屋は、より一層固く涼やかな雰囲気を醸し出しているように見えた。

2日前 No.4

フレット ★JVQ7vGE3fQ_01r

リビングへ戻って机に置いたままになっていたスマホを覗くと、虚無の闇が広がっているはずのそこには、明るく一つの通知が知らせてあった。
また琴重さんの話だったら無視しようと思ったが、送信者の名前が『萩原 雪架』であることを確認して無視するわけにもいかずメッセージをタップした。
ほんの僅かに見えていたメッセージの内容からして最近できた彼氏についての話だろうと推測したためにそれ以上を読むのを少し躊躇ったがおとなしく読むことにした。
そこには沢山の絵文字付きで『今度デートに行くの!洋服、一緒に選んでよ〜!』と、何とも楽しそうなメッセージがあった。
更に、最後には可愛らしいパンダのスタンプ付き。
相当浮かれてるな、これは。雪架の浮かれぶりに少しげんなりしつつも、雪架の幸せそうなメッセージに少し頬が緩んでしまう。
こうして私が人の幸せを本当に心から願えるようになったのは、朔良のお蔭だった。
彼女にもまた、約五年間恋慕を抱いている者がいた。
結局朔良は何も伝えずにこの世から去ってしまったのだが、その代わりに私はこの世界に生きる人々に幸せになってほしいのだ。
朔良が叶えられなかった小さく細やかで、でもとても大切で大きな想いを叶えて笑顔でいてほしいと思うのはやはり、朔良のお蔭であることに間違いようもない。

「有難うね、朔良。」

黄土色の椅子に座りながら一人ごちた。
雪架に『解った、詳細も後で送って』と短く返信してから列車の発着時刻表を開いた。
今日はどうしてか、早く行こうと思った。どうしてかなんて解りもしないが、ここから出て街の喧騒と人と建物ばかりの景色を見たいと思ってしまった。
ホームシック染みた訳の解らない感情の赴くまま私は次の列車が来るのに約一時間ほど時間が開いていることを確認して席を立った。
ここから駅まで徒歩で約十分。残り五十分は駅の構内にある売店やらを回っていれば潰れるだろう。
スマホの電源を落としてスキニーパンツのポケットに捻じり込んだ。
家の電気を全て消して鍵を掛け灰色の階段を下りた。
建物から出た瞬間私のブラックグレーの髪が大きく揺れた。強風だ。出ていきなり強風。
行くのやめようかな、と先程までの外へ出たいという欲求はどこへやら。今はもう風強すぎ、最悪の言葉のみが私を侵略している。
このまま引き返すことも可能だったが、回れ右をして帰るのもなんだか癪に障るので真っ直ぐ歩くことにした。勿論、外へ。
歩みを進めるほど、人々の作り出す喧しい喧騒と春一番の風が私を迎えてくれた。
正直言ってこの迎えられ方は最悪にも等しかったが、どこか懐かしいような感慨にとらわれそれ以上の推算をやめた。
人の流れに入れば、後にはなかなか引き返せない。そのまま自分の目的地に着くまで真っ直ぐ歩くのみだ。
別に振り返ることができないくらいに人が多いわけでもないが、それでも人の大勢いる中回れ右をするのは多少なりと恥ずかしい。
ここにいる人の大半の目的地は私と同じく駅だろう。
駅まではもう五分くらいしか係らないだろう。
そう思い、前のおじさんの斜め後ろを歩くようにしながら右を眺めていた。
私の推測通り、右の方に大きく屹立する駅が望めた。
と、チヤリンという軽快な音が真後ろで音を立てた。思わず振り向くと、一人の少女が音を立てたそれを持っていた。
それは、私の掲載している小説サイトから人気投票一位を獲得した時に送られてきた品物だった。
小豆色の本を形取られたおよそ縦三センチ、横四センチ弱位の大きさのキーホルダーだった。本からは栞が飛び出していて見開き二ページと捲られた次のページが見えている。
同率一位の時はこれは送られてこない。つまり、私の家にはこれが二つしかないのだ。
一つは飾ってあり、もう一つはナップサックに付けていたのだ。
外そうと思ってたのに、失敗したなぁと心中で一人自己嫌悪に浸りながら、おおよそ高校二年生辺りと思えた。
小さな身長に一重だが大きな瞳小さな顔に鼻と小ぶりな口が付いていた。一言で言って、可愛らしい。
髪は私よりも茶色だったが染めていないようだった。風に揺れるモカブラウンの胸まである綺麗な髪を押さえつけて少女は無言でキーホルダーを差し出してきた。

「あ、有難う。」

どうして私がやけに緊張しているのか謎だったが、彼女の顔は、必然的に私を緊張の沼へ陥れた。
可愛らしい中に、どこか謎を孕んでいる不思議な子だった。顔は、確かに可愛らしいのだ。でも、彼女がまとっているクールで冷淡な雰囲気は大人っぽさを演出していた。
纏う雰囲気でこれ程までにも違うのか、と一人感心した。こういった子を出してみても面白いかもしれない。
そう思っていると、しばらく私を見ていた少女が声を発した。

「別に、いいです。更新、頑張って下さい。蓮さん。」
「ふぇっ?!あ、うん。有難う!」
「ふふ、それでは。」

少女は鈴のような声で笑い去っていった。
その後ろ姿はやはり、一目見れば狼に食べられてしまいそうだと思ってしまうほど華奢なのに、よく見ると近寄りがたい雰囲気を醸し出しているのだ。
一見して、強そうとファンタジー思考が発動しかけたが、彼女の蓮さんという言葉を思い返して思考が目覚めた。
つまり彼女は知っているのだ私の小説を。
キーホルダーの表紙に当たるところには受賞作の名前が入っているのだ。
私の場合は『月欠け時に世界の果てで』と押印されている。
月桂樹の場合は『軒先シンビジウム』となる。
彼女の発した蓮は間違いなくウェブ小説家のほうの蓮のはずだ。本名である憐は誰にも明かしていないのだから。
一つのエールをくれ、更に私の思考力の活性化を促してくれた彼女に礼を言いながら大きく一歩を踏み出した。

1日前 No.5
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