夢幻想夜 @mugenn☆frDdTR0D3gqW ★R8SLsoUuJt_UHY プロローグ 6ヶ月前 No.0
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第1ゲーム 尾行でマジック!
二週間前の話。
夢を見ていた。
心地の良い、夢を見ていた。
……………………授業中に。
パコーンと気持ちの良い音が教室に響く。
「…………痛い……」
教室で机に突っ伏していた少年が少しウェーブのかかった水色の頭を押さえ、いつも眠そうにしている目を軽く涙で濡らしながら小さく跳ねた。
「なにすんだよこんにゃろう……」
「いやあ、俺の貴重な授業中に眠りこけている馬鹿がいたからな? ああ、コイツは大好きすぎる俺の声に魅入られて思わず眠ってしまったんだなあ、と。だからお望み通り俺の愛情というものを与えてやったんだ」
手に丸めた教科書を持っている中肉中背の男は、少し眉のつりあがったその表情を崩すことなく、その少年を見ていた。周囲に小さな笑いが起こる。
「う、っぐ……ね、寝てなんかいませんよ!」
「ほおう、じゃあ何をしていたんだ?」
「…………夢を見ていました」
「…………それはイコールで繋がらねえか?」
「はい、繋がりますが」
パコーンパコーンスパコーン
気持ちの良い音三連続。
「いてえ!」
「認めてんじゃねえか!!」
やっと中肉中背の表情が怒りに変化した。叫んで口が大きく開いているのにくわえた煙草が落ちないのが不思議でたまらない。
この男。今は学校、授業中。普通に考えて、教師である。短くはない黒髪に細いという範囲の筋肉質。名前を加藤佐久真(かとう さくま)という。
名前、濃い黒髪、その性格、優しそうとは言えないキリッとした(良く言えばクール、悪く言えばチンピラ)その容姿から、生徒達の間では「悪魔」と呼ばれている。
「寝たらいかんことくらい常識で考えれば分かるだろうが。もういい、座れ。授業を再開するぞ」
そう言って、佐久真は真っ黒な後ろ髪で隠れている首を少年に向け、教壇に戻った。
が、少年は懲りることのない様子で、彼を呼んで再び対峙する。
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「はい先生〜」
「どうした居眠りクソ坊主」
酷い。
「教師が授業中に煙草は、常識的に考えてアウトではないでしょうかあ〜」
少年の口調は嫌味百パーセントである。
「いいんだ俺は」
「何でですかあ〜」
「校長から許可がおりたからな」
「出来るわけありませ〜ん」
「本当だ」
「じゃあどうやってですか〜」
「強いて言うなら、まあ懇願?」
懇願、だと?
そんなバカな! あの悪魔がそんなこと出来るわけがない! 毎日生徒にパシリをさせたり他の教師にかつあげをしていると専らの噂なのに!
大半の生徒の思考が一致した。ただひたすらに「出来るはずがない」と。
「またの名を恐喝とも言う」
ですよねーーー!!
教室内の全生徒の思考がシンクロした。皆なぜか永遠の疑問が解けたかのような、サッパリとした清々しい表情だ。
……そんな教師だった。
「うし、授業再開するぞ〜」
生徒の教師に対する常識を華麗にねじ曲げ、授業を続ける教師が今の日本に存在しているのだ。
「ほら瑛ちゃん、授業終わったよ。起きて起きて」
「ふ、ふぬうぅ……」
耳に響く少女の声に、先ほどの少年が身体を机から起こした。
少年の名は御木原 瑛登(みきはら えいと)。高校に入学して1ヶ月だがまだ15歳である。日頃の悩みは身長146センチ。
「ヘイヘイ瑛どん、もう授業は終わりましたでござんす。お起きになさいませ」
「……なんで口調変えたの?」
「瑛ちゃんが起きないから変えてみた。そしたら起きたから成功だね!」
無邪気すぎる笑顔を惜しげもなく少年――瑛登に放っている少女。
彼女は瑛登の幼馴染、城戸 奈々(きど なな)。肩甲骨辺りまで伸びた茶色のストレートと、その中にはめた赤いカチューシャが彼女の元気さを際立たせている。瑛登より少し大きいところを見ると、多分身長は150センチくらい。
「ほらほら、早く覚醒しなさいな〜」
肩をぽんぽん叩きながら、彼女はまったりした声色で言う。眠くて仕方ない瑛登だったが、奈々の言うことは聞いたほうがいい。だって、
「お〜い低血圧な瑛ちゃんの脳みそ〜、起きなさ〜い。じゃないと抱きつき攻撃をかましますよ〜ぅ」
「だあぁぁああッ! 言いながら抱きつくなぁあああッ!!」
なにかにつけて接触してくるのだ。昔からこう。奈々はなにかあるとすぐ瑛登にくっつく。彼女にとっては普通なようだが、瑛登にそれはキツかった。どんなにバカでも彼は高校一年生の男子。慣れてしまったら逆にいけない気がする。
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「今日も相変わらず仲ええなあ、お二人さん」
うりゃーと言っている奈々とは反対の方向から、短い銀色の髪をツンツンに立てヘッドホンを首にかけた、背の高い少年が近づいてきた。
「うるせえデカ野郎! でかいからって偉そうにしてんなよ」
「いつ俺が偉そうにした……」
若干うんざりした表情だ。
「へへーんだ、ちっちゃい方が色々と便利なんだぞー。未だに電車とか子供料金で乗れるんだからなー! はん、羨ましいだろー!」
「瑛ちゃん、なんで泣いてるの?」
「う……うるさいやい……別に「高校生にもなって子供料金なのを自慢してていいのかな……」とか思って泣いてなんか、ないやい…………ぐす」
「……嘘がつけないお前が大好きだよ、俺は」
この少年は琴宮 九龍(ことみや くりゅう)。高校に入って瑛登が一番親しくなった人物。一八七という高身長の持ち主で、その上頭の回転が速く、テストではいつも上位にいるため、瑛登とは正反対な人間である。
「……まあいいや……とにかく帰ろう奈々。早く帰って寝てえ」
奈々と瑛登は家が近いので、昔から毎日一緒に帰っている。友人は冷やかしてきたりするが、本人達にとってはそれが日常、普通。別に変だと思ってはいない。
「ああそれなんだけど〜」
抱きつくのを瑛登に制されながら、奈々は言う。
「今日も用事があるから、一緒に帰れないんだよね〜」
笑顔だ。めちゃくちゃ無邪気だ。
「またか。なんか知らんけど大変だな〜」
「なんか知らんけど大変なんだよ〜。ごめんね〜」
「しゃあないな。九龍、一緒にかえr「無理」
被せられた。笑顔だ。めちゃくちゃ計算的だった。
「……ハッキリスッパリ言いすぎ」
「いやマジで無理なんよ。俺もちょいーと野暮用があってな、学校終えたらすぐ向わなあかんねん」
「ちぇ、お前もかよ」
最近この二人は頻繁になんらかの用事があるらしく、瑛登と別々に帰路につくことの方が少し多い。
「じゃ、そゆことで!」
「んああ、また明日な」
生徒達が教室を出てゆく中、二人は手を振って教室を出て行った。
「……う〜ん……誰と帰ろうか」
一人で帰ればいい。それに彼が気付いたのは5分後だったという。
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翌日。
「おーい、早くしろー」
城戸家の前で叫ぶ瑛登がいた。昨日の帰り道のことはすっかりさっぱり忘れているようだ。
瑛登が叫んでいた家から、一人の少女が出てくる。パンをくわえながら出てくる時のような慌てぶりで、
「おっ待たせ〜! ゴメンね〜。寝坊しちゃった!」
「『寝坊しちゃった!』じゃねえよ。はあ〜、眠いなあホントに」
瑛登は常に眠そうにしている目をこすり、大きくあくびを一つした。
「最近眠いもんね〜。特に低血圧の瑛ちゃんは大変そうだね」
「はあ〜、困ったもんだよ〜」
瑛登はあくびに負けないほど大きなため息をつく。そこで奈々が、思い出したように左腕につけている時計を見た。
「大変だ瑛ちゃん! 遅刻しちゃうよ!」
瑛登は相変わらず眠たそうな顔のまま
「それは大変だな〜」
まるで他人事のように。
「急がないと! ほら、瑛ちゃんも走って走って!」
「あいあい……」
走り出す奈々についていくように、瑛登もだるそうに走っていった。
いつもの朝。