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狭間の屋敷

 ( 小説投稿城 )
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猫月 ルア @nekotuki ★yI9QHMxixf_jG9

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 ― 此の屋敷は“キミ”の為に ―

 狭間の屋敷の門はいつでも開いている。
 拒むモノは無い。
 屋敷の主は常にまっている。
 其れは甘い誘い。

+++

猫月ルアと言います。
不定期更新ながら小説を書いて行こうと思います。
感想などありましたらじゃんじゃんよろしくです。
脱字誤字あるかと思いますがあしからず。

切替: メイン記事(20) サブ記事 (11) ページ: 1


 
 

猫月 ルア @nekotuki ★yI9QHMxixf_jG9

+ 1 +


 其れはとある少女の話。

 名は日埜 ルア(ひの るあ)、上記のとおり16歳の女子高生だ。そんな彼女は普通の日本人、とは言えなかった。母がアメリカ人、父が日本人のハーフで、髪は黒いロングヘアーだが肌は白く瞳は深い青い色をしていた。
 そんな彼女には悩みがあった。ハーフ独特の外見から学校では奇異の目で見られていたのだ。彼女自身は普通に過ごしているつもりだがあまり人は寄りつかない。元々おとなしい性格もあり自分から人に話しかけられない為でもあった。そして彼女の悩みの一つはよくある“いじめ”に合わないかだ。半ば無視されている様な状況だがそれはいいのだ。本を読んでればいいのだから、だが暴力とかに移らないかと内心ひやひやしている。

「(今日も何もなかった)」

 毎日が恐怖の日々だった。気にし過ぎなのかもしれないが彼女は怖いのだ。自身の外見にコンプレックスがあるからだろう。別に此の肌や瞳の色が嫌いなわけではない。人と違う事が気になって仕方が無いのだ。

「買い物、何頼まれてたっけかな」

 学校にもあまり居たくないが彼女は家にも問題があった。両親の喧嘩だ。いつからだろうか、きっかけはわからないが小さなことからぶつかる様になっていた。喧嘩の最中は彼女は部屋に引きこもり音楽を聞いている。
そんな彼女の毎日は辛い事ばかりであまり楽しい事が無かった。

「あ、黒にゃんこ」

 塀の上に金目の猫が欠伸をして香箱座りをしている。そしてスッと猫の視線がルアに向かった。彼女は一瞬驚くものの手を伸ばして触っていいかの確認する様に猫の前で手を止める。逃げる様な様子もないので顎の下などを撫でる。

「君みたいにのんびり自由に過せたらいいのにね」

 何にもとらわれない生活ができたら。なんてことを考えつつ彼女は猫にお別れを言ってその場を去る。猫は金色の瞳を彼女の背に向け、もう一つ欠伸を漏らす。

2ヶ月前 No.1

猫月 ルア @nekotuki ★yI9QHMxixf_jG9

+ 2 +


 また、喧嘩の絶えない夜はやってくる。

 一階ではルアの両親が飽きずに喧嘩をしている。罵倒や物が壊れる音、それらを聞くごとに彼女の心が張り裂けそうだった。必死にイヤホンで大きな音を出してその場をしのぐ。

「もう嫌だ……」

 こんなことならいっそ別れてしまえばいいんだ、なんて彼女は思ってしまう。だが両親ともども世間体を気にする性格らしく、中々そうはなってくれない。いっそ家出してしまおうかと考えるも行くあてなどなく、きっとすぐ連れ戻されて喧嘩の種になるだけだ。

「中途半端、だなぁ」

 学校でも居場所を見つけられず、家も居場所にはなっていなかった。安らぐ場所は無く、只日々が過ぎるのを待っている。

《カリカリ》

 その時だ。窓の外からカリカリとひっかく音が聞こえた。まるで猫や犬がひっかくように。ルアはイヤホンを外し、カーテンを開ける。其処には昼間見た金色の瞳が綺麗な黒猫がどうやってきたのか窓の外で彼女を見ていた。

『迷ってるんだね? 迷うなら屋敷においで、主もお待ちかねだよぅ』

 彼女は息をのんだ。猫が喋ったのだ。勘違いじゃないだろうかとあたりを見るが其処は日埜家の敷地、それに彼女の部屋は二階にある。そして考えられないが猫しかいない。

「き、君が喋ったの?」

『おいで、何も持たず、窓を開けて出ておいでぃ』

 何かわからないが心が躍る様な気分。彼女は自分が狂ったのかもしれない。そう思ったがパーカーに短パンと言うラフな格好のまま窓の鍵を開けた。

2ヶ月前 No.2

猫月 ルア @nekotuki ★yI9QHMxixf_jG9

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 其れは心赴くままに。

 窓の鍵を開け、窓を開ける。猫は少し屋根の上を自由に歩く。彼女は出る一瞬、両親のいる部屋に視線をやる。なんとなく、もう会えないんじゃないかと言う直感の様なモノが彼女の脳裏によぎったのだ。別に両親が嫌いなわけではないのだ。だが彼女の心は好奇心が勝った。喋る猫がおいでと言うままについて行ってみよう、そう思ったのだ。
 そして一瞬だった、その一瞬。窓をくぐった瞬間空気が変わった。

 寒い様な心地良い様な風、青空、夕暮れの空、夜空がすべてそろった空。地面は四季折々の花々が所構わず咲いている。そんな丘の向こうに大きな西洋風の屋敷が佇んでいる。この光景自体異様なのに、屋敷だけがぽつりとあるのがとても不思議だった。

「……」

 言葉がでなかった。そしてふと気づけば彼女は開きっぱなしの屋敷の門前に立っていたのだ。足元を見れば色とりどりの石畳が屋敷の入口まで続いている。ハッと我に帰り後ろを振り向くと先ほどまで居たはずの場所、家が無い。其処には闇が広がっていた。真っ黒で、どこか怖いという感情を引きだす様な闇。

「外は見ない方がいい、心を病むよぅ」

 開かれた門の上に先ほどの黒猫が香箱座りでニンマリと笑っているように見えた。彼女は口をパクパクさせながら猫を見て頭の中でごちゃごちゃする思考を整えやっと言葉を放った。

「君、何? 此処、何処?」

 彼女は色々聞きたいことはたくさんあるが一応絞って二つ質問する。すると猫は尻尾をゆらゆら揺らしながらゆっくりとした動作で立ち上がり答える。

「ワタシはノォラ、あ、発音が面倒なら簡単にノラ、でいいよぅ」

 そう言いピョンと門の上から中の石畳の上に飛び降りまるで案内するかのように尻尾を揺らしながら少し進んでルアを待つ。

「此処は狭間の屋敷と呼ばれる空間、ワタシは案内人ならぬ案内猫ぉ」

2ヶ月前 No.3

猫月 ルア @nekotuki ★yI9QHMxixf_jG9

+ 4 +

 其れは最初の警告

 そう言うノォラはおいでと言わんばかりに尻尾で招く。ルアはこの先は全く違う世界に感じ躊躇うも後ろに行く気もしなくて門の中に入る。すると花の香りがふわりと香り何処か安堵する。

「ノラって呼ばせてもらうね、ねぇノラは此の屋敷の猫なの?」
「ワタシは此の屋敷の野良猫さぁ」

 掴みどころのない返事にルアはちょっと肩をすくめる。ゆっくり石造りの道を進む。此処まで来たら屋敷に住んでいる人に挨拶しなければ失礼だろうなんて考える。内心屋敷には何があるのかちょっとワクワクしている。不思議な事が起こってるのに何となく受け入れている自分にも驚いてはいる。此れが夢ならば面白い夢だ。

「屋敷に住んでる人って、どんな人? 挨拶したいし」
「どんな人、そうさねぇ、掴みどころは無いね、怖くはない、優しいし、なにしろ心が広いぃ」

 イマイチ想像できなかったが優しいと聞いて彼女は安心した。怖い人だったらどうしようとちょっと不安だったのだ。勝手に敷地に入って怒っていないかと、謝れば許してくれるかなと考える。そして今度はノォラに質問をする。

「何で此処は狭間の屋敷って呼ばれてるの?」
「そりゃぁ世界の、心の、どこかの狭間にあるからだよぅ」

 これまたいまいち分からない説明だったが彼女は不思議な場所にあるからと勝手に納得する。まるで物語の世界にやって来たように感じワクワクが強くなる。現実の喧騒なんて今は頭から抜け出ていた。
 そうこうしているうちに扉の前まで来ていた。綺麗に細工の施された扉だ。ドアノッカーも犬の顔の形になっていて面白い。

「えっと、まずはノックかな」
『おや、お嬢さんは常識がある』

 ルアはいきなりドアノッカーが口を開き吃驚して固まる。

『おやおや、今からこれだったら此の先大変ですよ?』

2ヶ月前 No.4

猫月 ルア @nekotuki ★yI9QHMxixf_jG9

+ 5 +

 其れは迷宮の入口かもしれない。

 ルアは其れを聞き此の先に何があるんだろうと考える。変わった人達がいるのか、それとも怖い事があるのか、考えるが答えは出ない。けれど好奇心がチクチクと彼女の心をうきだたせる。

「……でも、挨拶しなきゃ」

 ルアはそう言い犬の銜える輪に手を伸ばす。其れはまるで何かに後押しされるかのように。

《カンカンカン》

 ノックオンが響くと《ガチャリ》と鍵が開く音がする。するとノォラが足元を歩き話しかける。

「主は許可された、君は招かれた客、思う存分楽しんでねぃ」
「……入って良いんだよね?」
『鍵は開かれた、開いたドアはくぐるのが常識じゃないのかい?』

 そう言われルアはドアノブに出を伸ばす。そしてふとドアノッカーに「君の名前は?」と聞く。なんとなく、聞いておきたかったのだ。

『俺はノッカー、そのままさ、さぁ、迷子にならないようにお気をつけ』

 ノッカーはそう言うとまたドアノッカーとしての形にスッと戻っていく。そして彼女はゆっくりドアを開ける。中をそっと覗いてみると中はとても広く、奥には二階へ続く階段があり途中で二股に分かれ二階へと繋がっていた。彫刻や綺麗な花々で飾られていてとても綺麗にされた屋敷だと印象に残る。

「……おじゃましまーす」

 そう言って中に入る。玄関にももれなく引かれたモノクロタイルの絨毯を素足で踏む。柔らかくさわり心地のいい感触だ。そして彼女はノォラが入るのを待ち少し隙間を開けている。

「此処からはキミの思うままに、お気をつけ、また飲み込まれぬよぅ」

 そう言って扉はゆっくりと、かつ力強く閉められた。

2ヶ月前 No.5

猫月 ルア @nekotuki ★yI9QHMxixf_jG9

+ 6 +

其処から先は未知の領域。

閉められた扉を見て彼女は息をのんだ。そして慌ててドアノブを回すも何故か開かない。

《ガチャガチャガチャガチャ》

「案内人じゃないの?! 私1人は嫌だよ!」

 どうしてもまるで鍵でも閉められているかのように開かない。彼女はドアノブを回すのを諦めしばし呆然とする。綺麗に彫刻された壁や階段の手すりなどを見る。此の屋敷の主はセンスがいいのかとても綺麗な造りをしている。

「そうだ……入っちゃったんだから挨拶しなきゃ」

 半ば惰性で行動に移す。一歩、中に入りキョロキョロと辺りを見渡し人がいないか探す。もしかしたら人じゃないかもしれない、そう思いつつ彼女は深呼吸して声を出す。

「すみませーん、誰かいませんかぁ」

 そう大きめの声で問いかけるが返ってくるのは沈黙ばかり。彼女はそれに困ったなぁと思いつつ仕方が無いので地道に探すしかないだろうとまずは一階を探索することにした。
 一回のフロアは広く取られ、右の奥には大きな扉がある。なんとなく其処はダンスフロアかな、と憶測を立てまず左手に在る中ぐらいの大きさの扉に手をかける。

「……開かない」

 まるでまだ入ってはいけないと言いたげに扉は開かなかった。彼女は他に扉は無いので二階に行くしかないか、と思い階段の方に足を向ける。

「外から見たより広いんだね」

 何となく、そう呟くと彼女は素足で階段を上っていく。

― みずぼらしいのが来たよ ―
   ― 綺麗にしたげなきゃ ―

1ヶ月前 No.6

猫月 ルア @nekotuki ★yI9QHMxixf_jG9

+ 7 +

 その世界に染まる。

 彼女は階段を上りきった瞬間《キィ》という扉が開く音に反応しそちらを向く。階段を上った右手の奥の部屋がゆっくり開いた。覗き見えるに衣裳部屋の様に見える。色とりどりの男女問わない服の数々が丁寧に飾られている。彼女は好奇心の赴くまま不審にも思ったがそちらに足を向けた。

「あの、誰かいます?」

 部屋に入った瞬間、《バタン》と扉がひとりでにしまる。ルアは心臓がとび跳ねた。吃驚しすぎて硬直している。ちらりと日向くと扉は閉じられていた。そして彼女は部屋を見渡す。広い衣裳部屋で奥の方は大きめの姿見の綺麗な鏡が置かれている。彼女は心を決め中のほうに歩くと鏡に目がいく。鏡の縁には精霊の様な妖精の様な人が二人鏡を包むように掘られてある。

「綺麗な鏡」

 彼女はそう言い鏡を見る。鏡に自身の姿は此の屋敷にはにつかわないパーカーに短パン、足は素足でみずぼらしかった。だがこの姿でいるしかない以上考える余地もない。此処には色々な魅力的な服がある。だが其れに手を出すのは泥棒と一緒である。

『みずぼらしいったらありゃしないわね』
『じゃあ綺麗にしてあげればいいじゃない』

 何処からともなく声が聞こえルアはあたりをきょろきょろと見渡すが声の主は見えない。もう一度鏡を見た時だ。縁にあった二人の妖精の彫刻が無くなっている。まるで抜け出たかのようにいなくなっていた。そして鏡に映るルアの後ろに綺麗な手の平サイズの妖精が二人フワフワと飛んでいるのが見え振り向く。

『どんなのがいいかしら、ラピスラズリの瞳に合った濃い青が似合うわね』
『髪は編み込みにして青い星のバレッタね、靴は黒いレースアップブーツがいいわ』

 ルアの周りをくるくると回る「え」とか「へ?」とか戸惑ってる彼女を余所に妖精等は部屋の至る所から靴やらアクセサリー等を出したり、ルアの髪を持ち上げで髪型を試したりいろいろしている。

『服は決まってラピスラズリのエプロンドレスね』
『さぁ目を瞑って、すぐに染めてあげる』

1ヶ月前 No.7

猫月 ルア @nekotuki ★yI9QHMxixf_jG9

+ 8 +

 其れは魔法の様に。

 『『さぁ目を開けて』』

 静かに耳元でささやかれルアは目を開ける。鏡に映る自分を見て息をのんだ。髪は綺麗に一部だけ編み込みにして青い星のバレッタで留められ先ほどよりつやが出てさらりと腰まで伸びている。そしてパーカー短パンだったはずの服が青いエプロンドレスを着用していて白と黒のニーハイに黒のレースアップブーツを履いている。首には青い水滴の形の綺麗な石の付いたチョーカー。よくよく見ると薄いが化粧もされている。

「いつの間に」
『此れで見れた形になったわね』
『此れで失礼のない姿になったわ』

 2人の妖精はくすくす笑いながらそう言う。ルアは「見れた形か……」と落胆する。確かにパーカー短パンは此の綺麗な屋敷には似合わなかったかもしれないが結構気に入っていた楽な格好だったのだ。確かにこの格好はとても可愛らしく自分にも似合っているとは思う。でも着慣れないせいかちょっと落ち付かない。

「此の服貰っちゃって良かったの?」
『安心して、此処は衣裳部屋よ?』
『安心して、此処は綺麗にするために在るの』

 イマイチ問いに答えられてるのか分からないがいいのだという事にしてルアは二人の妖精に礼を言う。すると2人は顔を見合わせくすくす笑う。

『どういたしまして、貴女は大事な大事なお客様』
『来客が喜ぶなら何でも致しましょう』

 クスクスと笑いつつ二人は鏡に戻っていく。

『この部屋の扉は開かれた』
『この部屋の役目はもう終わったわ』

1ヶ月前 No.8

猫月 ルア @nekotuki ★yI9QHMxixf_jG9

+ 9 +

 空腹は我を忘れる。

 彼女は衣裳部屋を出ると徐に小腹がすいたな、なんて思った。そう言えば晩御飯を食べていない事を思い出す。空腹を自覚すると何か食べたいということしか頭が回らない。彼女はちょっと何か食べさせてもらおう、なんて思いつつ食堂を探す。食堂と言えば一階だよね、と階段を下りる。

「はぁ……何してんだろ、私」
「何を迷ってるんだいぃ?」

 急に声をかけてきたのはノォラだった。階段の手すりに座って彼女を待っていた。ルアはノォラに近づき文句を言う。

「何でさっき扉閉めたの? 吃驚したし心細かった」
「其れは君のためさぁ」

 そう言ってノォラは最初に入ろうとした部屋の方に足を向ける。鍵が、と言おうとした瞬間扉が自動で開く。トテトテとノォラは扉の向こうに。ふわり、美味しそうな匂いがする。

《ぐー》

 不覚にもお腹が鳴ってちょっと恥ずかしくなる。そしてそそくさとノォラの後を追う。扉をくぐると其処には長いテーブルに1人分の食事が用意されてある。ルアは戸惑いつつその席に着き手を合わせる。

「これって私の分……で良いんだよね」
「そぉーさ、客人をもてなすのがワタシ達の役目でもあるからねぃ」

 そう言われいただきます、と素直に食事を始める。ホワイトシチューにサラダ、パン、デザートが置いてある。スプーンを手に取り口に運ぶ。

「んー、美味しい」
「ゆっくりお食べぃ」

 目的も、何も忘れ、空腹を満たす。

― 魅入られた ―

1ヶ月前 No.9

猫月 ルア @nekotuki ★yI9QHMxixf_jG9

+ 10 +

 其れは深い、深い眠りの底に。

 彼女は食事を終えナプキンで口を拭きふぅといきをつく。空腹は満たされた。

「なんだか眠くなっちゃった」
「じゃあ客室に案内しよう、ワタシは案内猫だからねぃ」

 うつらうつらしながら猫について行く。今にも立ったまま寝そうな彼女、意識は呆然といつの間にか目の前に黒い髪に猫耳を生やし、金色の目をした黒尻尾を生やした執事服を着た青年が彼女の手を引いているのに気がつく。だが誰なのかと言うとなんとなくノォラだと確信めいたモノがあった。其れを問う以上に眠たくて、早くベッドに入って寝てしまいたかった。

「ほら、此処はキミの部屋だよ、ゆっくりお休みぃ」

 開かれた扉、白を基調とされた整った部屋が目に映る。彼女はたどたどしい歩調でベッドに歩いて行き倒れ込むようにベッドに沈む。

「それでは、よい夢を、全てを忘れて深い眠りをねぃ」

 寝てはいけない、そう思うのだが瞼が重い。今が一体何時なのか、それすら分からない。此処に何しに来たんだっけ、と考えるも思考が回らない。

「かえら、なきゃ」

 此処は彼女の家じゃない。きっと家族が心配している。また喧嘩の種を増やしてはいけない。家出と思われたらどう思われるか。今更になってそんなことを考えるが彼女の意識は深い深い眠りの底へと誘われる。

― 彼女は選ばれた −

 ― 我が屋敷に魅入られた −

― お休み、ゆっくり深い眠りに落ちなさい ―

 静かに、誰かが囁くように微笑んだ。

1ヶ月前 No.10

猫月 ルア @nekotuki ★yI9QHMxixf_jG9

+ 11 +

 深い眠りの底の夢。

 其処はルアの家の庭先。真っ暗な光の届かない場所、幼い少女が泣いている。

「どうしたの?」

 彼女は少女を慰める様に手を伸ばす。何で庭で泣いているのか、この少女はいったい誰か。彼女は手を伸ばし少女の頭を撫でようとした瞬間だった。

『あなたのせい』

 ピクリと伸ばした手を止めた。少女が顔をあげルアを真っ直ぐ見詰めた。見たことのある顔だった。幼い頃のルア其のモノ。母に着せられた青いエプロンドレス。ルアが来ているエプロンドレスとよく似ていた。

『あなたがいるから、かあさんもとうさんもけんかしてる』
「え……な、に」

 静かに、少女は言う。光のない青い瞳で少女はルアを見つめる。

『ぜんぶあなたのせい』
「違う……母さんも父さんも喧嘩してるのは二人の所為よ」

 ルアは頭を抱え聞きたくないとしゃがみこむ。すると少女はルアを抱きしめ『でも、だいじょうぶ』と優しく言う。

『あなたをむしする“がっこう”も、あなたをきずつける“りょうしん”も』

 少女がルアの耳元で囁く。

『すべてゆめ』
「……学校も、両親も、夢?」

 涙が彼女の頬を伝う。全ては辛い夢だったら、目を覚まさなきゃ。

『そう、はざまのやしきこそ、あなたのげんじつ』

1ヶ月前 No.11

猫月 ルア @nekotuki ★yI9QHMxixf_jG9

+ 12 +

 夢か現か、現が夢か。

「私を見てくれない学校も、喧嘩ばかりの両親も、夢だったら」
『ゆめなのよ』

 少女はニコリと微笑む。

『あなたがのぞむように、あなたがおもうままに』

― 夢は、覚める ―

 ゆっくりと彼女は目を覚ます。アロマの匂いがとても心地よい。あぁ此処は狭間の屋敷、と頭で考える。ベッドがフカフカで心地良い。思考は取りとめなく回っていく。

「ゆっくり休めたかぃ?」
「おはよう、こんばんは? ノラ、私どれだけ寝てた?」

 窓の外は朝でも夜でもある。時計が無い為朝なのか夜なのか分からなかった。人の姿をしたノォラはベッド脇の椅子に座り金の瞳をルアに向け優しげに頭を撫でてくる。

「其れはキミが必要な分だけ寝ていたさぁ」
「そう……ノラは人の姿にもなれるんだね」

 彼女がそう言うと「猫の手じゃ撫でてあげられないさぁ」とコロコロと笑う。

「此の屋敷の主に会わせて」
「主は書斎にいるさぁ」

 ノォラはそう言うとトンッと猫の姿に一瞬で変わり床をテコテコ歩き扉の向こうに消えてしまう。

「ちょっと待って、一緒に行こうよ」

 彼女はベッドから起き上がり慌てて追いかける。

1ヶ月前 No.12

猫月 ルア @nekotuki ★yI9QHMxixf_jG9

+ 13 +

 探し人は見つからず。

 彼女は部屋の扉をくぐると廊下をキョロキョロと見渡しノォラを探す。だがその姿はない。耳触りのいい音楽が反対側の扉の向こうから聞こえてくる。誰かが音楽を聞いている、もしくは弾いている。誰かいるのだろうか、彼女はゆっくりそちらに足を向ける。もしかしたら此の屋敷の主が音楽を聞いているのかもしれない。
 反対側に来て、扉がゆっくり開かれる。彼女はそっと顔をのぞかせる。其処には楽器が宙に浮き音楽が奏でられている。見ているだけで幻想的な風景だった。まるで透明人間が演奏しているかのようだ。

「……」

 一曲演奏が終わると彼女は無意識に拍手をしていた。すると浮いていた楽器が静かに近くのテーブルに移動し、置かれる。ルアはどうしただろう、と見ていると静かに耳元で声がした。

「お聞きいただき嬉しく思います」
「我らの演奏、喜んでいただけましたか?」
「うん、とても上手だった」

 内心本当に透明人間、なのかな、と考えつつ彼女は思い出したように質問する。

「書斎って、何処にある?」
「あっちだよ」
「こらこら見えないんだから」
「此の階の一番奥の鏡廊下を抜けた先」

 素直に教えてくれたことに少々驚きながら彼女は頷き礼を言う。

「けどお気をつけ」
「主はお優しい方だが」
「遊び好き」

 ルアは其れを聞いて何を気をつけるんだろう、そう思いつつ扉に手をかける。

「心を奪われないように」

1ヶ月前 No.13

猫月 ルア @nekotuki ★yI9QHMxixf_jG9

+ 14 +

 お気をつけ、鏡の世界は奪って行くよ。

彼女は言われた通り二階にある奥の廊下の前に立った。確かに両サイドと天井に一面鏡張りになった廊下だった。彼女は一歩足を進めるのがちょっと躊躇われた。これだけ鏡があると少し躊躇してしまう。まるで遊園地に在るミラーは薄の入口のようだった。

「行くしか、無いしね」

 そう思い一歩前に進める。奥の方にはシンプルな扉が見える。きっと其処が書斎の入口。彼女が足を踏み込んだ瞬間鏡に彼女が映り込む。

「落ち付かないな」

 赤い絨毯の上を静かに歩く彼女はチラチラと鏡を見ながら一歩ずつ歩く。すると一瞬、鏡の自分が泣いている様な気がした。「え?」と立ち止まる。頬を触れても涙は流れていない。泣いていないのに、鏡の自分は泣いている。

「どういう、事?」

 ふと振り向くと反対側の鏡は怒っている自分が映っている。まるで自分の喜怒哀楽の感情が鏡に映し出されているかのようだった。それなのに何だか彼女自身は楽しい気分になっていた。不思議で不安なはずなのに、微笑んでいる自分がいる。

「はは……ハハハ、やめ、て……ハハ、取らないで」

 まるで自分の一部が取られたかのような気分、けれど心は浮き立つ。彼女はその場にしゃがみこみ、まるで壊れた人形の様に微笑む。

『たのしいでしょう?』

「ハハハ、うん、楽しいけど……其れだけが私じゃない」

『なんで? たのしいほうが、おもしろいほうがいいじゃない』

 頭上の鏡に映るのは、幼いルアだった。

1ヶ月前 No.14

猫月 ルア @nekotuki ★yI9QHMxixf_jG9

+ 15 +

 其れは彼女の心。

「私が、私じゃなくなるのは嫌」
『あら、あなただって“あなた”じゃない』

 幼いルアは彼女に囁くように、諭す様に話しかける。

『きっとあなたもきにいるわ、このやしきはもっとおもしろいことがあるわ』

 その言葉は甘い誘惑。

『ぶとうかいはとてもたのしいよ? ていえんのはなたちだってあなたをむかえるわ』
「不思議は、確かに楽しいよ」

 ルアがそう言うと幼いルアは『じゃあ』と言いだそうとするので彼女はそれを遮って言う。

「さっきまで、なら此の屋敷にいたいと思ってた、此れが現実なんだと、そう思ったよ」

 ルアは「でもね」と続ける。

「私は“私”のまま、心が全てそろったまま、その方が楽しいよ」
『かんじょうがあるからつらいの』

 幼いルアの声色が変わる。低く、怒りにも似た、怖い声になる。

『だからもらってあげるって、いってるのよ?』
「……貴女、誰?」

 《ピキッ》

 鏡にひびが入り、砕ける。降りかかってくる鏡の欠片。ルアは慌てて扉の方が近かったので走った。

「入りなさい、“彼女”は屋敷の虚構」

1ヶ月前 No.15

猫月 ルア @nekotuki ★yI9QHMxixf_jG9

+ 16 +

 屋敷の主の誘惑。

「さぁおいで」

 扉が開き差し出された手を彼女はとる。引き込まれた部屋はとても静かで、落ち着いた雰囲気の部屋だった。まさに書斎、といった部屋。特別おかしなものは無い。部屋の主だって渋い男性だ。茶色いベストに黒いズボン、杖をついた紳士的な男性だ。

「さぁ掛けなさい、ハーブティだ、飲んで落ち付きたまえ」
「あ、ありがとう……ございます」

 ルアはソファーに座り置いてあるハーブティーを一口飲む。花の香りがとてもいい匂いだった。そして男性はルアの前のソファーにかけ杖を前にして問う。

「君は此の屋敷が嫌いかい? それとも、怖いかい?」
「……不思議なことは楽しいし、面白いです、ずっといたいと、思いますけど、此処は、私の現実じゃない」

 彼女がそう言うと「ほぅ」と主は面白そうに視線をルアに向ける。その瞳はなんだか吸い込まれそうな気にもなる。

「両親が喧嘩してても、学校で無視されても、どんなに辛いとこでも其れが現実……だと思う、だからこの屋敷は私にとっては夢なんだって、そう思う」
「勇気がある、流石私が見込んだ少女だ」

 主は今にも拍手し出しそうに怪しい笑みを浮かべ言う。ルアは「え?」と意味が分からないと言った風に見返す。

「此の屋敷に導かれ、此の屋敷を乗り越えたのは君が初めてだよ、だが君は一つ間違えている」
「間違え、てる?」

 ルアは話について行けず戸惑う。そして主は顔を近づけ、ゆっくり囁く。

「此の屋敷は夢ではないのだよ」

『答えを見つけなきゃね』

1ヶ月前 No.16

猫月 ルア @nekotuki ★yI9QHMxixf_jG9

+ 17 +

 其れは想いのままに。

― 此の屋敷は夢ではないのだよ ―

「!」

 彼女は自身の部屋のベッドで目を覚ました。ハタと彼女は辺りを見渡す。何処をどう見ても、元の彼女の家の部屋。なのに何処か焦燥感が彼女を襲う。

「まだ終わってない」

 彼女は自身の服装を見る。パーカーに短パン、いつものラフな格好。ベッドから降り時計を見る。午後7時、夕食の時間だ、と彼女は部屋を出て一階に下りる。

「あら、ルア、今日は起こさなくても起きてきたわね」
「偉いぞ、ルア」
「母さん……父さん」

 彼女は険悪ムードな両親じゃない事に驚きを隠せなかった。笑顔で笑いあっている両親が信じられなかった。けれど其れは、いつも望んでいた事。

「さぁ夕食にしましょ」
「母さんが作ったシチューは美味しいぞ」
「う、うん」

 彼女は言われるがままにいつもの席に座り、出されるシチューを見て美味しそうと言いスプーンで掬って口に運ぶ。

「野菜が甘くておいしいよ」

 彼女は心の底から笑顔でそう言う。

『やっぱりそれをのぞんでるんじゃない』

1ヶ月前 No.17

猫月 ルア @nekotuki ★yI9QHMxixf_jG9

+ 18 +

 其れは甘い夢。

「?」

 彼女は何か聞こえた気がしたがきっと空耳だろうと家族との談笑を優先する。今まで、こんな風に両親と話した事があっただろうか、と彼女は涙が出そうだった。

「ふわぁ」
「もうこんな時間、ルアもう寝なさい」
「そうだな、明日もあるし寝なさい」

 2人にそう言われ頷いて二階へと上がる。部屋に入ると彼女はベッドにもぐり目を閉じた。

―何か忘れてる―

  ―でも、思い出したらもうおしまいー

―これは……私の夢―

「あらルア、眠れないの?」
「寝ないと、明日学校だろう?」

―これは、夢―

  ―私は、答えを見つけなきゃ―

―私は最初から何か忘れている―



「君はこの狭間の屋敷を望み、導かれた」

1ヶ月前 No.18

猫月 ルア @nekotuki ★yI9QHMxixf_jG9

+ 19 +

 其れは夢で在り現実、現実で在り夢。

 其れはある日のことだった。私がまだ8歳の頃。喧嘩の多い両親は、それでも子供の私には優しかった。私の為だけに、車でピクニックに行く途中だった。その頃私は小学校でいじめにあっていた。小学生だから暴力的なことは殆どなかったけど、学校がある日は毎日辛かった。そんな私は喧嘩ばかりの両親だけど、ピクニックはとても楽しみにしていた。

「ルア、シートベルト、ちゃんとしてね?」
「そうだぞルア、車に乗ったらシートベルト、忘れるなよ?」
「うん!」

 その日は母が作ってくれた物語に出てくる少女の様な青いエプロンドレスにルアの大好きな星型のバレッタ等を身につけもう気分は最高だった。あの事故が起こるまでは。

《ビー ビー ビー》

 車の警報音が耳に着いた。なんだか頭に血がのぼった様に頭痛がする。私は目を開けるとさかさまの世界になっていた。シートベルトをしていたから落っこちずには済んだ。けれど私は目の前の光景に絶句した。

―喧嘩ばっかりでもいいから―
  ―学校で無視されたりしてもいいからー
―此れが夢だとー

―こんな現実は夢だと言って!!―

 黒猫が啼いた。

「主が君を気に入ったようさぁ」

 彼女の意識は深い深い闇の底に。

『だからわたしがなにもかも、もらってあげるっていったのに、たのしいやしきでおもしろおかしくすごせたのに』

 ピシリ、何かが壊れる音がした。

29日前 No.19

猫月 ルア @nekotuki ★yI9QHMxixf_IZy

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 其れは最終を飾る涙。

 ハッと我に返った彼女は目の前に屋敷の主がいる事に気が付く。全てを思い出した彼女は一筋の涙を頬に伝わせる。

「哀しいね、だが幾人の君が最後に選びだしたのは“現実”だった」
「わたしは、繰り返し、繰り返し……此処に来てたの?」

 主に問う。

「此の屋敷の主は私だが、此の屋敷は意識なくモノを選ぶ、選ばれた者は時間をループし“選択”を強いられる」
「?」

 主は言う。

「我々は此の屋敷に最後の選択を強いられ間違えたモノ達、だが君は正しい選択をした」

「君は君の時間を」

「君は君である為に、自身を強く生きなさい」

「これは夢ではないと、忘れないでいてほしい」

 目は、覚まされる。

《ピッ ピッ ピッ》

「……」

 白い部屋、まるで病院の病室の様な部屋で、彼女は目を覚ました。

「これが私の現実」

 頬に一滴の涙が流れる。


END

21日前 No.20
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